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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・97『玉祖神社一の鳥居』

2021-09-03 13:01:40 | ライトノベルセレクト

やく物語・97

『玉祖神社一の鳥居』   

 

 

 改札機を抜けて出てくると、大きな石の鳥居が立っている。

 

 鳥居からは一本道が山に向かって伸びている。

「えと……」

 鳥居の扁額には『玉祖神社』とあって、見覚えはあるんだけど、とっさに出てこない。

 たまそじんじゃ……ではなかった。

 なんだったけ……?

「たまおやじんじゃよ」

 胸ポケットから顔だけ出してチカコが教えてくれる。

「あ、そうだった(^_^;)」

 こないだは、引きこもりの女の子を助けに来て、玉祖神社の巫女さんから『東窓』のお札を託されたんだ。

「ほら、あそこに巫女さん」

「あ」

 チカコに促されると、鳥居の陰から巫女さんが現れた。

「先日はありがとうございました」

 折り目正しくお辞儀をされるので、アタフタしながらもキチンと頭を下げる。

 可愛い巫女さんだけど、その本性は玉祖神命さまなのだ。礼は欠かせない。

「畏まらなくてもいいですよ、分身ですからね(^_^;)」

「はい、えと、俊徳丸さんは?」

「はい、神社の方でお待ちです」

「あ、あ、そうなんだ」

 てっきり俊徳丸さんが居ると思ったわたしは、アタフタする。

「ちょっと支度があって、お出迎えできないので、わたしが参りました」

「どうもありがとうございます」

「お出迎えしておいて申し訳ないのですが、わたしも、これから住吉神社の方に参りますので、ここでお別れいたします。申し訳ありません」

「あ、いえ、こちらこそアタフタしちゃって。鳥居の前だし、大丈夫ですよ!」

「ええ、これは一の鳥居ですので、真っ直ぐ東に向かわれましたら神社があります。よろしくお願いいたします」

「はい、こちらこそ!」

「では、ご無事で」

「はい!」

 頭を下げて気にかかった……いま、ご無事でって言ったよね?

 フフフ( *´艸`)

 ポケットの中でチカコが笑う。

「なによ?」

「ううん、なんでも。さ、行こうか」

「うん」

 

 鳥居を潜ると幅広のアスファルト道。

 

 30ゾーンとスクールゾーンと白文字があって、その向こうに、それより大きく通学路とオレンジ色で書かれている。

 見ると右側はフェンスを挟んで鉄筋の校舎が立っている。

 この佇まいは中学校。

 現役の中学生は瞬間で学校の種類を見極める。

「あれ?」

 掛かっている看板は『八尾市教育センター』だ。学校じゃない。

「元は学校でしょ、世の中、いろいろ紆余曲折があるのよ。さ、行こう」

「うん」

 

 元学校に沿って、二の鳥居を目指して、再び歩きはじめる。

 

 緩い坂道で、教育センターが果てるころには田んぼや畑が見え始め、山が次第に近くなってくる。

 チチチ ピピピ

 鳥のさえずりとかも聞こえてきて、とってもノドカ。

「遠足の雰囲気ねえ……」

 チカコも首だけ出してシミジミしている。

 

 そろそろ二の鳥居が…………見えてこない。

 

 普通の神社は一の鳥居から二の鳥居は見えている。鳥居どころか、普通はお社が見えてくるものだ。

 わたしが行った大きな神社は、東京にいたころに行った明治神宮とか靖国神社とか。

 それでも、こんなに遠くは無かったよ。

「道まちがえたかなあ……」

「巫女さんは、真っ直ぐって言ってたでしょ」

「なんだけども……」

 ちょうど田んぼから上がってきたオバサンが見えたので声をかけてみる。

「あの、ちょっとすみません……」

 オバサンは、ガン無視で、道を渡って行ってしまう。

「え…………」

「見えてないんだと思うよ」

「あ、そうか」

 お地蔵イコカで移動すると、普通の人には見えない?

「でも、最初に来た時は、オバチャンたちには見えて、アメチャンもらったよ?」

「ふふ、あれ人間だと思ったの?」

「え、ちがうの!?」

「さ、どうだか……あのお爺さんなら通じるよ」

「ほんと?」

「うん、散歩中のお地蔵さんだから」

「そか……ちょっと、すみませ~ん」

「おやおや、なんでっしゃろ?」

「玉祖神社って、この道でいいんでしょうか?」

「ああ、ちょっとありまっせ……一の鳥居から来なはったんやなあ」

「はい」

「それやったら、まだ半分にならんなあ……道まっすぐ行って、ちょっと山に登ったとこにあるさかい、そうせかんと行き」

「は、はい。ありがとうございました」

 笑顔でお辞儀したけど、ひ弱なわたしには、ちょっときついかなあ。

「さ、元気出して行ってみよう!」

 わたしがしんどがっていると、チカコは、ちょっと元気になるような気がする。

 

 そして、えっちらおっちら歩いて、ようやく、玉祖神社二の鳥居にたどり着く。

 

「あ、俊徳丸」

 

 チカコが見つけて声をあげる。

「え?」

 鳥居の向こうから石段を下りてやってくるのは、わたしより、ちょっと上くらいの女子高生だったよ?

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸
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ライトノベルベスト『しつこいんだよ先生・5』

2021-09-03 06:58:16 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『しつこいんだよ先生・5』    

 




 ネネちゃん先生の輪郭がぼやけたと思ったら、二三秒で姿が変わった……その姿は、美紀そのものだ!

「ほうら、心拍数と脳波が変わったわ」

 姿かたちと声は美紀だったけど、喋り方はネネちゃん先生だった。悔しいけど、美紀の見た目に心中穏やかではない。

「このグラフを見て」

 美紀が、いやネネちゃん先生が空中で指を動かすと、公園の鉄棒と、その支持棒で区切られた空間にグラフが現れた。

「これが心拍。赤いのが亮介。緑が発情したサルの心拍。重なるでしょ」

「オ、オレってサル並?」

「そう。大そうなこと言っても、人間とサルって、変わらないのよね。それから……」

 グラフが切り替わった。

「これが脳波。亮介の線は赤。独占欲と好奇心が、こんなに強い。で、この点滅してる線が独占欲。この薄い色が今朝の、学校に電話してきたころのね。濃い色が今。ホテルで未遂に終わった後ね。で、この棒グラフが、心理的満足度。今は80だわ。亮介は、ちょっと複雑で、段階を経て目的を達することで満足度が上がるの。無意識でしょうけど、お父さんとお母さんの影響が出てる」

「なんで、オレが親の影響受けんだよ。おれ、親のマニュアル的な仕事っぷりって、大嫌いなんだぜ!」

「先生としての仕事ぶりには、そうなんだろうけど、色恋については完全に、親のやり方を踏襲してる。これで次回、美紀ちゃんとうまくいったら、自分のことを、とても人間的だと誤解するわ。マニュアル踏んで生徒を退学までもっていった時の教師の心情といっしょ。でも、それって破たんするのよ。生徒は退学させたら、それでしまいだけど、恋は、そこから始まるんだもん」

「オ、オレって、そんな下衆野郎なのか……?」

「亮介若いから、そこから悩んで改善する可能性はある。ただ、それは美紀ちゃんの二三人後に付き合う彼女だろうけど。でも、それじゃ美紀ちゃん可愛そうでしょ。あたし、今から完全に美紀ちゃんそのものになるから、もう一回ホテル行って試してみよう」

「ちょ、待って、なんでネネちゃん先生、こんなことができるんだよ。オレのあとを正確につけまわしたり、美紀そっくりに変身したりして!?」

「まだプロトタイプだけど、あたしは人間の代わりに教育をするガイノイド(女性型アンドロイド)教師。いま実用試験の最中なのよ。じゃ、美紀ちゃんの心にシンクロさせるわね……」

「ちょ、ちょっと……」

 顔を上げたネネちゃん先生は、目の輝きまで美紀といっしょになった。

「亮介、さっきはごめん。もう一度やり直そう……」

 混乱した。

 近寄ってくるのは完全に美紀だ。でも、中身は……そう思うと、オレは後ずさってバイクに跨って逃げ出した。美紀姿のネネちゃん先生も400のバイクに乗って後を付いてくる。

――これは間違ってる――

 パニクッて理論的には言えないけど、感覚が「間違っている」と叫んでる。

――亮介、待って!――

 美紀の想念が飛び込んでくる。いや、これは美紀じゃない。ネネちゃん先生だ。しつこいんだよ先生!

 50メートルほど先の交差点に大きなトレーラーが曲がりこんできた。スピードは80を超えている。間に合わない。

 しつこいんだよ、先生ええええええええ!

 

 

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