大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

パペッティア・004『最強線に乗って首都へ』

2023-01-31 15:21:07 | トモコパラドクス

ペッティア    

004『最強線に乗って首都へ』晋三 

 

 

 ああ、腹減ったあ……

 

 ポツリと呟いた一言は、やっぱりたくましいんだろうけど、なんだかカックンだ。

 新埼玉に着くと、乗り継ぎの発車刻表を一睨みする夏子。

「よし、余裕だ!」

 ホームの階段を二段飛ばしで降りると、駅構内のファストフードに駆け込んだ。

「特盛一つ! つゆだくで! お茶じゃなくてお水!」

 出てきた牛丼に紅ショウガと七味をドッチャリかけると、100人いたら一番の可愛さをかなぐり捨ててかっ込み始めた。

「ゲフ……お代置いときますね!」

 グラスの水をグビグビ飲み干すと、夏子は首都方面行きのホームに駆けあがっていった。

 首都は、あの大戦の後に『新東京』としてつくられたが、あくまで日本の首都は東京であるという声が多く寄せられ、あくまで便宜上の仮のものであるという気持ちで、普通名詞の―― 首都 ――で呼ばれている。

 

 新埼玉から首都へはノンストップだ。

 

 首都は再攻撃にさらされるリスクを冒しながら廃都東京の近くに作られた。東京は江戸の昔からの霊力が宿っている。そのことから、その霊力を少しでも受信できるようにと作られたんだ。

 ただ、その霊力はヨミとの戦いにおいてのみ有効で……あ、ヨミって云うのは、理不尽戦争を仕掛けてきた相手なんだけど、正体は分かっていない。

 分かっていないから、当初は『エネミー』とか『ゴースト』とか『暗黒面』とか色々呼ばれたけど、いつのまにか『ヨミ』という呼び方が定着した。そのことは、またいずれ。

 霊力の実態もヨミ同様、完全には解明されてないんだけど、霊力をコアにした兵器だけがヨミに有効な攻撃を加えられる。その霊力を採集し濃縮させるのに最適なのが首都なんだ。

 だから、首都の建設のみが突出していて、それ以外の街は発展どころか、ろくに復旧に取り掛かれていない。

 住んでいた街もひどいありさまだけど、まだなんとか元の姿を偲べる。攻撃の痕は別として山や川、大きな道路などは、八割がたそのままに残っている。

 しかし、新埼玉から首都にかけての風景は凄まじい。

 浦和を過ぎると巨大な川口湾。川口市があったところはヨミの攻撃で地殻変動が起こり、沈降したところに荒川水系の水がなだれ込んで川口湖になった。河口湖と音が同じなので、一時は戦意高揚のため新名称が公募されたりしたが、さらなる攻撃のため海と繋がって自然に川口湾と呼ばれて定着してしまった。

 逆に赤羽のあたりは、鬱血したようにマグマが溜まって、標高600メートルの赤羽山ができてしまった。富士山を1/6に縮めたような姿は、赤羽富士という名前で世界的に有名になりつつある。

 首都と首都に置かれた特務旅団のエネルギーは、この赤羽富士の地熱によって賄われ、当面の噴火の恐れはないという話だ。

 自然物である大地がこんなありさまだから、人間が作った人工物などは、溶鉱炉に放り込まれたスクラップ同然で、ほとんど跡形もない。

 走っている路線は埼京線。

 一時は首都圏放棄も噂されたが、家康以来、江戸の後背地。明治からこの方は帝都東京を擁し、世界に冠たる首都圏を形成した誇りと心意気を示そうと、首都のそれには及ばないが復旧の最中だ。

 埼京線は、首都圏民の意地を反映して、ほとんど元のルートを通っている。

 令和の昔まで、埼京線というのは、品川から大宮までの運転系統をまとめた俗称だったが、理不尽戦争終結後は、正式路線名になっている。

 あらゆるものが、戦争の為に変貌を遂げざるを得ない中で、元の姿と名前を守っているところから、こう呼ばれることもある。

 最強線

 意地っ張りの洒落のようで、センスがいいとは思わないけど、首都圏民の大方は好きだ。むろん俺もな。

 

 首都駅の改札を出ると、スッと寄り添ってくる人がいた。

「舵夏子さんね……こちらを見なくてもいいわ、このままロータリーの車に乗ってちょうだい」

 夏子はホッとした。

 迎えの人間についてはパルスIDのパターンしか教えられていなかったので、きちんと分かるかどうか不安だったのだ。間違いない、この女性は特務旅団の高安みなみ大尉の正規のパルスIDを発している。

 二人は、ロータリーの端に停めてあったRV車に乗り込んだ。

 

 高安みなみ大尉は親父の片腕だ。

 

 外見はお茶っぴーなオネエサンだけど、陸軍特務旅団のエリートだ。

 なにごとも明るく前向きに取り組み、この人と組んでいたらきっと上手くいくと思わせるオーラがある。

 一を聞けば十を知るというような聡明さが本性だというのは俺が仏壇の住人だからだろうか。

 特務の大尉でありながら、ほとんど軍服を着ることも無く、いつも足腰の軽い女子大生のようなナリをしている。

 そんなみなみ大尉は呼吸をするようにお喋りをする……という触れ込み。

 でも、ハンドルを握るみなみ大尉は寡黙だ……。

 夏子が来ることは機密事項にはなるんだろうけど、ちょっと寡黙すぎやしないか?

 え…………みなみ大尉はまばたきをしてないんじゃないか?

 俺はみなみ大尉の鼓動に注目した。

 安定している…………しすぎている。対向車線をはみ出した同型のRVが衝突ギリギリですれ違っても毛ほどの変化もない。

 

 アクト地雷だ!

 

 気づいた瞬間、俺を胸ポケットに入れた夏子は車外にテレポートした!

 え!?

 まりあは歩道に尻餅をついて、たった今まで乗っていたRVが走り去っていくのを見送っている。

 ドッゴオオオオオオオオオオオン!!

 そのRVは百メートルほど走ったところで大爆発した。一秒でも遅れたら夏子の命は無かっただろう。

 

☆彡 主な登場人物

  • 舵  夏子       高校一年生 自他ともにナッツと呼ぶ。
  • 舵  晋三       夏子の兄
  • 井上 幸子       夏子のバイトともだち

   

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・101『撮影本番』

2023-01-31 07:01:09 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

101『撮影本番』 

 


 自衛隊に似ている。

 監督から声が掛かるまでは、キャストもスタッフもてんでバラバラな感じなんだけど、みんななにかしら打ち合わせや準備をしている。リラックスはしてるけど無駄話したり、ボーっとしてる者はいない。

 機材の調整や確認をする照明や音響さん。キャストのメイク手直しするメイクさん。寒いわけでは無いんだけど、軽くジャンプしたり揺すったりしているキャスト。タブレット見ながらストップウォッチ見てるのはタイムキーパーかな。

 

「開始」

 

 監督さんが一声発すると、それまでの各々の作業や準備を止めて、特にバミってあるわけでもないのに、それぞれのポジションにつく。変な力みも狎れた緩みも無い。

 そういう自然体でキビキビしてるとこが、印象として自衛隊。

 乃木坂の演劇部も似たような感じだったけど、ちょっと緊張が過剰だったような気がする。
 
 マリ先生に率いられて、キビキビ動くことに変わりはないんだけど、一年生は無駄に緊張しているし、二三年生は微妙な陶酔感があったような気がする。
 よその学校からは羨み畏れられて、そう言う目で見られることが、どこか心地よかった。

 なんだか、ちょっと宗教的だったのかもしれない。

 マリ先生がよく言ってた「台詞を歌っちゃダメ!」って。芝居の調子が良くなると、演じていることに陶酔してしまうことがある。気持ちいい(=⊙ꇴ⊙=)って瞬間。アクターズハイって言うのかなあ……。

 そういうのが、目の前のロケ隊の人たちには無い。なんというか粛々とやってます的なね。

 監督さんから、いろいろと指示が出されている。そして何度かのカメラテストとリハーサルに一時間ほどかけて本番。

 女性はみんな女子高の制服。高橋さんは、いかにもありげな先生のかっこうで、自転車に乗って土手道をやってくる。

 土手の下では、堀西真希さんと上野百合さんが三年生の設定で、ポテチをかじりながら、二年間の高校生活を嘆いている。

 つまり設定は四月で、新学年の始まり。あちこちに造花のスミレやレンゲが何百本。美術さんが忙しそう。お気楽に見てるテレビだけど、頭が下がります。

 そこに本を読みながら、はるかちゃんが土手道を歩いてくる。前から自転車でやってきた高橋さんの先生が避けそこなって、自転車ごと土手を転げ落ちてしまう(もちろん、落ちるのは人形の吹き替え)。

「大丈夫ですかぁ!?」

 と、大阪弁で、はるかちゃんが駆け寄る。

「アイテテ……」

 と、うなる先生。

「ごめんなさい、ついボンヤリしてしもて」

「きみは……転校生の春野……お?」

 先生は、春野さんのバッグからはみ出しているポテチに気づく。同時に春野さんは、先生の自転車の前かごから飛び出したポテチに気づく。見交わす目と目、吹き出す二人。そして、その親密さに気づいて、草むらから立ち上がる堀西真希と上野百合。その二人の手にも同じポテチが……。


 で、二回目のテストのとき、監督さんがわたしたちに目をつけた……。


 わたしたちは同じ制服を着て、はるかちゃんの後ろを歩いてくる、文字通り通行人。で、先生が転げ落ちたあとは、土手から心配げに見ている背景の女学生。むろん顔なんかロングなんで分からないんだけど、思わぬテレビ初出演! 

 でも、病み上がりとはいえ、やっぱ、潤香先輩って映える。また、カメラ回っている間平然としている根性もやっぱ、潤香先輩ではありました。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • 乃木坂さん       談話室の幽霊
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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せやさかい・385『ちょっと寂しい日曜の夜』

2023-01-30 15:21:03 | ノベル

・385

『ちょっと寂しい日曜の夜』さくら   

 

 

 お風呂入りに部屋を出たばっかりの留美ちゃんが戻ってきた。

 

 またパンツ間違えた?

 同じ部屋で寝起きしてるうちらやけど、衣類は別々に仕舞ってる。

 制服とかは同じ真理愛学院のやし、別々の収納。

 それ以外は、一つのタンスを引き出しに『さくら』『留美』と書いて共用。

 入れる引き出しが別々やから、出し入れで間違うことはあれへん。

 せやけどね、取り込んだ洗濯物を分ける時に、時どき間違う。

 下着なんかには『S』と『R』とのイニシャル入れたあるねんけど、時どき間違う(^_^;)。

 うちは間違うてもかめへんねんけど、じっさい二度ほど間違うて「アハハ、留美ちゃんの穿いてたあ( ´艸`)」で済むねんけど、留美ちゃんは気にする。詩(ことは)ちゃんに言うと「留美ちゃんの方が普通だよ」とか「いつまでも小学生の感覚でいちゃダメだよ」とか意見される。

 せやさかい、お風呂場まで行って念のために確認したら間違ってた……で、戻ってきたんかと思た。

 

「少しいいかなあ」

 

 背中にかけられた声は詩ちゃんやった。

「アハハ、留美ちゃんかと思た(^_^;)、なに?」

「えと……」

 コタツに入って、ミカンの皮を剥こうとして、けっきょく止めてから切り出した。

「あたし、家を出る」

「え…………?」

「正確に言うと、日本を出る。二年間、とりあえずね」

「え、高跳びすんの!?」

「高跳び? なんで?」

「警察に追われて的な? みたいな? ぽい?」

「ぽくないわよ」

「流行ってるやん、フィリピンとかに」

「わたしはルフィーか!」

「イテ」

 空手チョップを食らわせられる。

「じつは、留学するんだ」

「落第!?」

「それは留年じゃ!」

「あはは( ´艸`)」

「コロナで延び延びになってたけど、やっとね」

「どこに留学するのん?」

「……ヤマセンブルグ」

「え、ヤマセンブルグ!?」

「去年、行ったでしょ、エディンバラとヤマセンブルグ……」

「うん、二キロ太って帰った」

「さくらは食べてばっかりだったよねえ」

「そんな、尊敬せんといて(^_^;)」

「してないから」

「さよか」

「妖精とか古代ゲルマン人とか、おとぎ話が、まだ現役で生きてるのよ」

「ああ、あったあった! 妖精の飛び出し注意の標識とか、笑ってしまっちゃいました!」

「旅行中に、三回ほど女王陛下と個人的にお話したの」

「ええ、せやったん?」

「資料や本には無いおとぎ話とか古代神話とか、妖精のお話とか」

「せや、最初に行った時は、ソフィーがリアル悪魔祓いしてた!(053『エディンバラ・9』)」

「『そんなに、フォークロアが好きなら、いっそ留学に来ない?』て勧めてくださって」

「な、なるへそ……よかったやんか!」

「あ、ありがとう」

「ほんなら、歓送会せならあかんやんか! 伯母ちゃんに言うてこなら……」

「さくらぁ」

 え……詩ちゃんが袖を掴む。

「明日には出るんだよ、日本を……」

「え……ええ!?」

「ごめん、つい言いそびれて」

「う、ううん、そんなん気にせんとって!」

「ありがとう」

「そや! ということは、向こうで二年間は頼子さんといっしょなんや!」

「え、ああ、まあね」

「ああ、ちょっとウラヤマやなあ……」

「あ、荷物とかは整理して片づけておいたから、使ってくれていいから、わたしの部屋」

「う、うん……」

 

 ちょっと寂しい日曜の夜になってしもた……。

 

 ☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん)
  •   

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・100『その日がやってきた!』

2023-01-30 11:08:40 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

100『その日がやってきた!』 

 

 


 いよいよロケの日がやってきた。

 ロケ現場は荒川の堤防と河川敷。

 自転車を連ねて堤防に登ったら、早咲きの菜の花の中にロケバスが来ていて、ADさんやスタッフの人たちが忙しそうに動き回っていた。


 梅の蕾も、まだ硬い二月の末日だけれど、まるで春の体験版のような暖かさだった。

 はるかちゃんは、まだロケバスの中なんだろう、姿が見えない。

 そのかわりロケバスや、撮影機材が珍しいのか、乃木坂さんがチョロチョロ。わたしたちに気づいても知らん顔。


 やがて、一段下の土手道を黒塗りのセダンが登ってきた。


「あ、あの運転手さん、西田さんだわよ!」

 夏鈴が手を振ると―― おお、戦友 ――って感じで、西田さんが手を振り返してくれる。

 五十メートルほど手前の土手道で車が停まると、運転席から西田さん。助手席からサングラスの男の人が出てきて伸びをして、西田さんが後ろのドアを開ける。

 伸びをしてサングラスをとった男の人は……ゲ、高橋誠司!?

 右のドアからは、キャピキャピの女の子が出てきて、目ざとくわたし達を見つけて駆け寄ってきた。

「お早う、乃木坂演劇部!」

「あ……ども」

 だれだろ……と、考えるヒマもなく、その子はロケバスの方へ。途中で気づいたように振り返って、戻ってきて挨拶した。

「NOZOMIプロの上野百合です。よろしくね!」

「上野百合って……?」

「まどかが言ってた新人さん……」

「たぶん……」

 似てる……と思いながら、三人とも口にはしなかった。

「おはよう、乃木坂の諸君」

「「「あ、お早うございます」」」

 上野百合に見惚れていたら、高橋誠司が、すぐそばに来ている!

「ほんとうは、姉妹揃って、うちの事務所に入れたかったんだけどね」

「え?」「じゃ?」「やっぱり!」

「お姉ちゃんの方は、アメリカに逃げられちまった」

「え?」「妹?」「アメリカ!?」

「河川敷のロケだっていうから、寒さ対策してきたんだけど、要らなかったなあ」

「はい、春の体験版です!」

「うまいこと言うねえ、さすがは個人演技賞! セーブデータは製品版でも使えますってね」

「「ハハハ」」

 わたしたちを煙に巻いて後ろ手でバイバイして行ってしまった。

 袖口から極暖が覗いていた。

 

 そうして、驚くことがもう一つ。

 

「あ、潤香先輩!」


 潤香先輩が、紀香さんに手をとられながらやってきた。

 さすがに立っているのは辛そうで、折りたたみの椅子が出された。

「ありがとう和子さん」

 それは、西田さんのお孫さんだった。

「お互いの、再出発の記念にしようって。お嬢の発案なんです」

「アメリカって聞きましたけど?」

 夏鈴が目を輝かせる。

「はい、九時半の飛行機です」

「向こうでも、演劇部の顧問やるのかなあ!」

「きっと海兵隊!」

「いえ、サキお嬢様と替わってニューヨーク支社でお勤めになられます」

 勤めるどころじゃない、たぶん支社長。TAKEYONAで聞いてしまった印象はそうだ。

「あ、たぶんあの飛行機」


 紀香さんが指差した空にはJALの後姿。手元のスマホを見ながらだからトレースしていたんだ。


「わたし、あなたたちに発表したいことがあるの。お姉ちゃん、ちょっと手をかして」

「大丈夫、潤香?」

「うん。この宣言は立ってやっときたいの」

 潤香先輩の真剣さに、わたし達は思わず気を付けしてしまった。


「わたし、この四月から、もう一度二年生をやりなおす」


「それって……」

「出席日数が足りなくて……つまり落第」

「学校は、補講をやって、進級させてやろうって言ってくださるんだけどね、潤香ったら……」

「そんなお情けにすがんのは、趣味じゃないの」

「一学期の欠席がなければ、いけたんだけどね……」

「怒るよ、お姉ちゃん。これは、全部わたしがしでかしたことなんだからね」

「先輩……」

 わたしも胸がつまってきた。

「ほらほら、まどかまで。わたし、この留年ラッキーだったと思ってんのよ。だってさ、あんたたちと、もう二年いっしょにクラブができるじゃない。いっしょにがんばろ! 今度は全国大会!」

「「「は、はい!!」」」

 元気に返事して、見上げた空には、もうJALの後姿は見えなかった。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • 乃木坂さん       談話室の幽霊
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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くノ一その一今のうち・38『甲斐善光寺・2・戒壇巡り』

2023-01-29 14:39:13 | 小説3

くノ一その一今のうち

38『甲斐善光寺・2・戒壇巡り』 

 

 

 あ、そうか。

 

 年配の人が多い香炉堂で、線香の煙にまみれて気が付いた。

 いつもの通りまあやの付き人のつもりでいたから、夕べはいつも通りシャンプーをしてきた。

 お寺では目立つ匂いだ。

 じっさい、香炉堂には十人近いお年寄りや観光客がお線香の煙を浴びたり刷り込んだりしている。

 自然な流れの中でニオイ消しをさせる課長代理、いや三村紘一はなかなかだ。

「やっぱり、頭にかけたら賢くなるかなあ……ここんとこ、スランプで筆が進まないからねえ」

「えい!」

「ワップ、顔にかけるとは嫌味な奴だ。トワ!」

「ああ、やめてくださいよぉ、髪がクシャクシャになるしぃ!」

 ほどよくじゃれると、香炉堂のお年寄りたちも――若い者はいいのう(^▽^)――と微笑んでいる。

 

「金堂の中に戒壇巡りがある」

「階段巡り?」

「その階段じゃない、戒める壇と書く戒壇だよ。観光客らしくググってごらん」

「あ、はい」

 ベンチに腰掛け、スマホを取り出す。

「便利なもんだねえ、スマホというのは……」

「ハハ、なんか、めちゃくちゃ年寄りみたいですよ(^_^;)」

「だって、たとえ国家機密にアクセスしていても怪しまれないじゃないか」

「あ、そうですね(°_°)」

「そんな真面目な顔になっちゃダメでしょ、高校生がミーハーな気持ちでググってるんだから」

「アハハ、ですよね(^o^;)」

 戒壇巡りとは、金堂の地下に『心』の字を一筆書きにしたような暗黒の通路があって、中ほどに鍵がぶら下げてあって、その鍵に触れるとご本尊の仏さまと結縁(けちえん)できるというお呪いのようなものらしい。

「これに、お宝の秘密が……」

「うん、なにかある」

「でも、ちょっとベタじゃありません?」

「じつは、去年、一人で探ってみた」

「あ、もう実行済みだったんですか?」

「戒壇に入ろうとしたら、火災報知器が鳴って果たせなかった」

「牽制されたんですね」

「本物の火事だ。入って直ぐの戸帳に火をつけた奴がいた」

「トチョウ?」

「現物を見に行こう」

「はい」

 

 拝観料を払って金堂に入る。

 課長代理の言う通り、入って右側に人がたかって、中には手を合わせているお婆ちゃんたちの姿も見える。

 戸帳とは、仏さまに関する絵が描かれたタペストリーのようなもので、去年の四月に焼失して別のものが掛けてあると説明がある。

 パ~~~~~~~ン

「わ!?」

 誰かが手を叩いたんだろいけど、すごいエコーにビックリする。

「鳴き竜だ」

 つられて見上げると天井に大きな竜が描いてある。

「日光東照宮のが有名だけどな、響きでは、ここの方が上だと言われてる。多重反響現象と言われているんだが、構造がな……」

 ハア~~~~

 お年寄りの残念そうな溜息、なんだろうと振り返るとお爺さんがお仲間が慰めている。

「秘仏だとは気いとったけど、お前立て様まで観られんとはなあ……」

「そこが、ありがたいとこじゃねえか」

「さ、御朱印押してもらうぞ」

 おそろいの御朱印帳を開いて仲良く列を作る。

「ラジオ体操のハンコを押してもらうみたい」

「ああいう善男善女ばかりなら、世の中平和なんだろうけどね」

「お前立てってなんですか?」

「元々は、信玄が信濃の善光寺の御本尊を避難させていたんだけどね、それが、元々秘仏だった。それで、ご本尊そっくりに作ったのをお厨子の前に安置した。それを前立て本尊と言うんだ」

「レプリカですか?」

「失礼だぞ、仮にも信仰の対象だぞ」

「あ、そうですね(^_^;)」

「その前立て本尊も七年に一度しか御開帳にならない、直近は去年の春だった」

「あ、その時期に合わせて探りに来たんですね」

「俺にだって尊崇の念はある。元の本尊を信濃善光寺にお戻しになったのは豊太閤殿下だ。なにか、おかしいか?」

「いえいえ、勉強になります」

 ほとんど三村紘一として喋っているせいなんだろうけど、なんだか、とても殊勝な物言いでおかしい。

「さ、戒壇巡りに行くぞ」

「はい」

 右側の奥まったところに入り口がある。

―― 風魔は夜目が利く。しっかり見ておいてくれ ――

―― 承知 ――

 最後は忍び語りを交わして、戒壇への階段を下りる。左手の壁を触りながら進めとあるので、それに倣う。

 

 ウ…………さすがの風魔忍者でも一メートルほどしか見通せないほどの闇だ。並の人間なら目の前にナイフを突きつけられても見えないだろう。

 ただ進む分には問題はないんだろうけど、探索の役目がある。密かに胸元の魔石に触れる。

 とたんに可視範囲が数倍に広がる。風魔の魔石って、ほんとうに効き目があるんだ。

 注意して進むんだけど、見える範囲には何もない。

 途中三カ所ほど、緩いのやら急なのやらの曲がり角。手を付いたところを中心に注意して見るけど、とくに変わった物は目につかない。

 四つ目の角を曲がると鍵が見えてきた。

 念入りに観察するが、当たり前の構造をした錠前だ。

―― 普通の錠前です ――

―― 錠前以外のところだ、しっかり見ろ ――

 開けてみたい衝動に駆られるが、信仰の対象、むやみなことはできない。

 やむなく先に進むと、小さくカチャリと音がした。

―― 開けたんですか!? ――

―― すぐに締め直した ――

―― なにかありました? ――

―― なにもない ――

―― 進みます ――

―― おお ――

 

 そのあと、一分ほどで外に出た。

 何も起こらず、何も発見できずに終わってしまった(-_-;)

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・99『よ! 乃木坂屋! 日本一!』

2023-01-29 07:27:27 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

99『よ! 乃木坂屋! 日本一!』 

 

 

 稽古は順調に進んでいったよ。なんたって、乃木坂さんが堂々と演出してくれている。

 それまでは、里沙や夏鈴の目を気にしたり、古文みたいなメモを読解しなくちゃならなくって、とっても不便だったんだもんね。
 平台は一日一個作ることに決めた。なぜかというと、ちょうど最後の一個を作った明くる日が、はるかちゃんのロケになってキリがいい。


 そう、みんなで見に行くことに決めたんだ(^▽^)!


 乃木坂さんは、浅草の軽演劇や歌舞伎なんかにくわしくって、型をつけてくれる。最初の口上のところなんか、大向こうから、かけ声をかけてもらうことになった。
 最初は顧問の柚木先生に頼んだだけど、乃木坂さんがイマイチな顔をしている。
 そして、なんとなんと、理事長先生が聞き及んで、理事長先生自身がやってくださることになった!

 よ、乃木坂屋! 日本一!

 てな感じで、二日に一度くらいのわりで来てくださって、声をかけてくださる。

「高山先生もあいかわらずだなあ」

 理事長先生が機嫌よく出て行ったドアに向かって、乃木坂さんが頭を掻いた。

「乃木坂さん、理事長先生知ってんの?」

「うん、国史の先生。敗戦の前の年に出征されたんだ」

「あの、乃木坂さん。コクシとシュッセイってなんのこと?」

 夏鈴がソボクな質問をする。

「えと、国史は日本史、出征は兵隊に行くこと。高山先生は沖縄戦の生き残りなんだよ」

「へえ、戦争にいってたんだ、理事長先生……」

「沖縄じゃ、ほとんどの兵隊が戦死した。で、より安全な銃後にいた僕たちも死んだ。その中で生き延びてきたことを重荷に感じていらっしゃるんだ」

「ジュウゴって……?」

「銃の後ろって書くんだ。それくらい辞書ひきなよ。さ、一本通すぞ!」

「……なるほど」

 スマホで「銃後」を検索して、納得してから稽古にかかるわたし達に、苦笑いの乃木坂さんでした。

 この『I WANT YOU』という、お芝居は、歌舞伎、狂言、新派、新劇、今時のコメディー、それに、はやりの女性ユニットのポップな歌とダンスまで入っている。

 最初は楽しそうだと思って、次には、読むのと演るのは大違いということに気づいたころに、自衛隊の体験入隊。がんばろうとリセットができて乃木坂さんの姿が見えるようになって、乃木坂さんの指導よろしく、平台が十枚できたころにはようやくカタチにはなってきた。

 がんばろうとすると、ただ台詞を張って声が大きくなるだけで、芝居そのものは硬くつまらないものになっていく。

 乃木坂さんは、型になるところは見本までやってくれて、らしく見えるようにはしてくれた。
 そこから、あとは台詞を忘れて自然に反応できるようにしろって言うんだ。
 はるかちゃんも、チャットで同じようなことを言う。芝居の中で、見るもの聞くものを探し、それに集中しなさいって。でも、それをやると芝居のテンションが下がってくる。

 どうすりゃいいのよさ(;`O´)!?

 と、ヤケにになりかけたころに平台は、十六枚全部できてしまった。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • 乃木坂さん       談話室の幽霊
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・98『ビデオチャット』

2023-01-28 09:52:19 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

98『ビデオチャット』 

 

 


 その夜、はるかちゃんとビデオチャット。

 主に自衛隊の体験入隊の話で、ウフフとアハハだったんだけど、話が一区切りついたとこで、はるかちゃんが切り出した。


「月末の土日に例のCMのロケに行くの。荒川でよく紙ヒコーキ飛ばしてたあたり。時間があったら、家の方にも寄るんだけど、こういうのって団体行動だから、よかったら現場に来てよ」

「行く行く。お仲間みんな連れてっちゃうから。で、どんな役者さんが来るのよ?」

「堀西真希さんとか……」

「え、いま売り出し中の!?」

「うん。彼女がメイン。で、高橋誠司……」

「ゲ、あのおじさん!?」

「知ってんの?」

 わたしは(思い出したくもない)コンクールのいきさつを説明した。はるかちゃんは大笑い。

「アハハハ……それから、上野百合……この人も新人さんみたい。同年配だからちょっと安心」

 はるかちゃんたら、すっかりリラックスしてポテチを食べ出した。

「あ、はるかちゃんズル~イ」

「スポンサーさんから山ほどもらっちゃったから。う~ん、うまいなあ!」

「こういうこともあるかなって……ア!」

 バサバサバサ!

 机の上のポテチに手を伸ばした拍子に机の上のアレコレを落としてしまった(^_^;)。


「相変わらず、整理整頓できないヒトなんだね、まどかちゃん」

「はるかちゃんに言われたかないわよ……」

 わたしは、ポテチをたぐり寄せ、あとのアレコレを足でベッドの方へけ飛ばそうとして、あれが足先に当たったのに気づいた。

「どうした、ゴキブリでも出た?」

「ううん、薮先生から預かった写真け飛ばしそうになっちゃって」

「ホホ、早手回しのお見合い写真ってか。困ったもんだわね、まどかちゃんには大久保クンが……ね」

「そんなんじゃないよ……」


 わたしは、写真のいきさつを話した。自然にというか、当然乃木坂さんの話しにもなっていく。はるかちゃんのことだから笑ったりはしないだろうけど信じてもらえるか少し心配だった。


「そうか……そういうことって、あるのよね……」

 案外、わがことのようにシンミリしてくれた。

「で、これが、その写真なんだけどね……」

 カメラの前に写真を広げて見せた。


「……あ、マサカドさん!?」


「え……はるかちゃん知ってんの?」

 はるかちゃんは、迷っていた……そして、ためらいながらマサカドさんについて涙を堪えながら話してくれた。

 長い話だったけど時間なんか気にならなかった。わたしの中で、乃木坂さんと、写真の三水偏の女学生、そしてマサカドさんのことが一つになった。

 

 

 念のため、パソコンの電源まで落としてから仰向けにひっくり返る。

 たまに動画配信して、スイッチ切り忘れてあられもない姿を世界中に晒してしまうバカが居る。ことここに及んで、そういうドジは晒したくないからね。

 体のあちこちが音を上げている。支社長代理は両手を上げて喜んでいたけどね。
 
 ビデオチャットって、鎖骨から上の大首絵になりがちでしょ。事実、たった今までのわたしがそうだった。ベッドの上から撮ってたから、寝室のあれこれ写り込むのいやだったしね。

 でも、支社長代理のは、体の動きに合わせてカメラのアングルやフォーカスが変わるってしろもの。
 AIだかプログラムなのか、そういう仕掛けになっていて、まるでテレビの放送みたいにオシャレで自然なカメラワーク。なんだけど写り込んじゃいけないところは設定してある。テレワークに意を用いた前支社長の置き土産であるそうな。

 西田さんと峰岸君のサポートもあってボロを出さずに済んだけど、体験入隊はきつかった。

 並みの自衛隊員には負けないだけのスキルと体力はあるつもりだった。まして高校生になんか負けやしない。事実どっちにも負けなかった。

 でもね、わたしって、横でゴチャゴチャ言われるのは嫌いなんだ。だから、要求される五割り増しぐらいでサッサとやってしまう。体験入隊のメニューぐらいは朝めし前。なんと言っても、この手の事は西田曹長に習ってたしね。それに、体験入隊は、たったの二泊三日だしね。見栄もあったし、ちょっと頑張り過ぎ。で、このありさま。

 妹のサキは、こういうのは嫌いだった。サキは、みんなで仲良くおままごと的な子で、じっさい人を楽しませ、自分も楽しむことが天才的に上手だった。

 サキは、そのノリで仕事に成功し、そして失敗した。

「足して二で割ったぐらいがいいんだろうねぇ」

 TAKEYONAでは、相変わらず微温的なことを言う奴だと思ったけどね。この体験入隊に行って、サキの言うことも一理あると思ったよ。
 我の強いわたしは自分でやってみるまで分からなかった。テレワークだとか協調性だけの支社長もダメなんだろうけどさ。

 で、家に帰ると、このありさま(-_-;)。

 さて、めちゃくちゃ気は進まないけど、あいつに電話しなくっちゃ。

 転んでもただでは起きない、上から読んでもキサキサキ下から読んでもキサキサキ。

 お互い、やってみて、自分で結果を出すまでは納得しない。

 不器用で胸糞の悪い姉妹だ。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • 乃木坂さん       談話室の幽霊
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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鳴かぬなら 信長転生記 105『茶姫 信長のクラスに入る』

2023-01-27 11:41:17 | ノベル2

ら 信長転生記

105『茶姫 信長のクラスに入る』茶姫 

 

 

「みんな、お早う。今朝は、まず転校生を紹介するところからね。入ってちょうだい」

 

 先生の言葉はたった三秒で終わって、手招きされる。

 入り口を入って、教室のみんなに尻を向けないようにしてドアを閉め、前を向いて一礼。

 カクカクと音がしている、先生が見かけによらない力強い筆致で―― 曹 茶姫 ――と書いてくれた。

「じゃ、簡単に自己紹介してちょうだい」

 教壇に上がってさらに一礼、ほんの四寸あまりの教壇なのだが、新参者が高いところから挨拶すると言うのは面映ゆい。

 三国志では、新参者が壇と名のつく高みに登って挨拶するなどあり得ないことだ。

 七つの歳で、公的に初謁見する時、兄の曹操は三跪九拝の礼をわたしに強いた。

 ほんの昨日までは「兄上、負けたのだからお馬さんになりなさい!」と双六の罰ゲームを命じると「敵わねえなあ(^_^;)」と言いながら、でも喜んでわたしを乗せて子供部屋を走っていた。それが、十何段だかの壇の上から見下ろして「面を上げよ」って言われるまで顔を上げることもできなかった。

 次兄の曹素は、あまりに緊張しすぎて小便を漏らしていたぞ。

 扶桑と言うのは、なんと垣根の低いことか。

「学園との両属になりますが、今日からお世話になります。先生が書いてくださった名前でお分かりだと思いますが、わたしは、三国志は魏の曹操の妹です。もとより、三国志は扶桑の宿敵。様々な思いがあることでしょうが、しばらくの間、いっしょに机を並べることを許していただければ幸いです」

 少し深く60度の礼。三国志では同輩よりも微妙に上に対する礼だ。

 少し狎れすぎたか…………やはり礼は教壇から下りてすべきだったか?

 

 …………なんだ、この戸惑いの空気は?

 

「少し硬いよ、茶姫」

 窓側の列から声が上がる。チラ見すると、双ヶ岡で赤備えの軍団を引き連れて出迎えてくれた武田信玄だ。

 肉置き(ししおき)のいい健康女子は、甲冑を制服に着替えても押し出しがいい。

「制服着たら、同じ仲間なんだからさ、気楽にいこうよ。信長なんか「今日から世話になる、織田信長だ」だけだったぞ」

「ム、『よろしくな』も言ったぞ」

「ハハ、そうだったか。まあ、その程度でいいさ」

「そ、そうなのか、痛み入る(;'∀')」

「それよりも……」

 メゾソプラノのいい声は上杉謙信か。

「信玄は『サキ』と呼んでいるいるけど『チャキ』とも読めるし、まあ『チャヒメ』はないだろうけど、なんと読んだらいいのかしら?」

「国では『チャア ジェン』だったけど、扶桑の読み方でいいです」

「チャアジェン……なんだか、丹下チャジェンと言ってしまいそうだ」

「アハハ、信玄さん、丹下佐膳なんてレトロなギャグかましても分からないわよ( ´∀` )」

「もとはと言えば、先生がルビを振らないからだ」

「ごめんごめん、わたしは、ずっと『曹さん』て読んでたから。テヘペロ」

「あ、先生のテヘペロは……」

「ちょっと、苦しいぞ」

「ムゥ、先生、まだ二十代です!」

 アハハハハ(((((((´∀`)))))))

 学院への転入は、ほのぼのと笑いの内に進む。

「席は、そこ、松平元康さんと雑賀孫一さんの間ね」

「元康、茶姫さんに鍛えてもらえー」

「ぼ、ぼく……(#'∀';)」

 信玄にからかわれて赤い顔をするジミ子、元康って?

「元康イジメたら、撃つよ」

「フフ、孫市、わしは倅の勝頼とはちがうぞぉ」

「雑賀の鉄砲衆は千丁だわよぉ」

「俺の鉄砲隊は三千丁だぞぉ」

「フン、うちは射程距離も命中率も上だもん」

「一度、二人で勝負しろ(^▽^)」

 パチパチパチ

「なんか、盛り上がってきたわねえ!」

「あ、先生、もう座っていいですか(^_^;)」

「ああ、ごめんごめん」

 ノリの良さそうなクラスだ。

 ちょっと心配だったけど、愉快にやっていけそうだ。

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟

 

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・97『発覚!』

2023-01-27 07:08:48 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

97『発覚!』 

 


「……じつはね、何を隠そう、僕は幽霊なんだよ」

 乃木坂さんが、もったいつけて言っても二人はキョトンとしていた。


「いや……だからね(^_^;)」

 乃木坂さんが、壁をすり抜けても。

「「オオ~(゚O゚)!」」

 奥の手で、周りを一瞬で春にしちゃっても。

「「ウワア~(*'▽'*)!」」


 いちおう驚くんだけども、幽霊さんに対する礼を欠いているというか、完全にミーハー。なんだか、マジックショーのノリになってしまった。


「喜んでくれるのは嬉しいけども、なんかねぇ……(´-﹏-;)」

 乃木坂さんは、頭をかいた。

「カッワイ~(*^o^*)!」

 と、夏鈴。

「これで稽古中の、まどかの不信な言動のわけが分かった(T-T)」

 と、納得の里沙。

「そうだ、トラックから材木降ろさなきゃ。乃木坂さん手伝って!」

 わたしまで、あたりまえのように言う。

 材木運びじゃ乃木坂さんの取り合いになった。だって乃木坂さんが見えるのは、わたしたち三人だけ。材木屋のオニイチャンも手伝ってくれるかなあと期待したんだけど、次の配達があるんで荷下ろしだけ。
 三人で運ぶと何往復もしなくちゃならない。かといって、乃木坂さんが一人で運んじゃ、材木の空中浮遊になって大騒ぎになっちゃう。で、乃木坂さんは介添え役。で、乃木坂さんに介添えしてもらうとチョーラクチン。で、取り合いになるわけ。

 運び終わると制服のあちこちに木くず。

「やだあ、冬休みにクリ-ニングしたとこなのに」

「じゃ、これはサービス」

 パチン

 乃木坂さんが指を鳴らすと、ハラハラと木くずが落ちていく。

「わあー、きれいになった! コーヒーの染みまで落ちてる!」

 わたしは素直に喜んだんだけど、夏鈴がセコイことを言う。

「ねえ、こんなことができるんだったら、平台とかもチョイチョイと……」

「ばか、それじゃ訓練にならないでしょうが、訓練に」

「自衛隊でも習ったでしょうが、敢闘精神よ、敢闘!」

 三バカのやりとりをにこやかに聞いていた乃木坂さんは暖かく言った。

「普通には手伝うよ。木を切ったり、釘を打ったり」
 

 それから、タヨリナ三人組と幽霊さんとの共同作業が始まった。
 

 ジャージに着替えるときに、夏鈴が聞いた。

「ひょっとして、着替えるとこなんか見てなかったでしょうね?」

「ないない、最初のは事故だったけど」

「最初のって、なによ?」

 やっぱ見られていたんだ……もういいけどね。

 男手が入ると作業効率が違う。ためしに三六(さぶろく)の平台一枚だけ作るつもりだったけど、一時間で三枚もできた。

 その作業の間、わたし達はしゃべりっぱなし。女を三つくっつけたら姦しい(かしましい)だもんね。って、これは乃木坂さんの感想。さすが旧制中学。

 でも、こうやってしゃべっていると、里沙や夏鈴に乃木坂さんが見えるようになったのが、理屈抜きで分かってくる。

 わたし達も、乃木坂さんも同世代だし、同じ演劇部。それに自衛隊の体験入隊も新学期に入ってからの稽古もずっといっしょだった。同じ空気を吸い……これひゆ比喩だからね。乃木坂さんは空気は吸いません。解説がつまらない? スミマセン。つまり感動を共有して、お互いに近しくなってきたからなのよ。

 でも、これが思いもかけない結果になるとは……だれも想像できませんでした。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • 乃木坂さん       談話室の幽霊
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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せやさかい・384『あ、あれ……涙が溢れてきた』

2023-01-26 11:59:08 | ノベル

・384

『あ、あれ……涙が溢れてきた』頼子    

 

 

 もし、ヤマセンブルグの王位継承者になんか生まれなかったら。

 

 寒さが続くせいか、ジッとしていると、そんなことを考えてしまう。

 英語のテスト、十分で終わって五分で見直して、三十五分も余ってしまった。

 答案用紙を裏がえし、神妙にしていると、つい考えてしまう。

 最初は危うく思い出し笑いをしてしまうところだった。

 思い出したのは、さくらが送ってきた写真。

 

 春アニメのモデルに東京の江戸川アニメに呼ばれたさくら。

 宗武監督の春アニメ『犬が西向きゃ尾は東』の主人公がさくらのイメージにぴったりだから、真鈴が引っ張って行って見本にされた。

 画鋲を買いにいかされ「押しピンください」と大阪弁をかます。さくらは不器用な子で標準語では会話できないし、できないことを屁とも思っていない。そういうところが良いらしい。

「押しピン」を「虫ピン」と聞き違えた店主とのトンチンカンなやりとり。その隠し撮りしたのを、スタッフや声優の花園あやめで研究。半日おしゃべりしたのと合わせて、監督のイメージが固まって、キャラの設定変更。

 そのキャラ設定の絵が送られてきて、めちゃくちゃ面白い。

 つくづく宗武監督はすごいと思う。

 監督は、去年の春アニメ一番人気だった『恋するマネキン』も手掛けていた。

 何を隠そう、最終回に出てくる女神ノルンの声は、わたしがやっている。百武真鈴に熱烈に誘われたせいなんだけど、めちゃくちゃ楽しかった。真鈴は声優だけじゃなくてプロデューサーの才能があるのかもしれない。

 その百武真鈴が、新作『犬が西向きゃ尾は東』の企画を聞いて、こんな女の子としてさくらのイメージを語った。

 アンテナのいい宗武監督は、その線で絵コンテを書き進めたけど、やっぱり掴み切れないので実物を呼んだんだ。

 それが、とても生き生きしていて、一部のエピソードや演出はさくらのイメージに合わせて書き直されたと真鈴の話。

「どうよ、やってみたくなったぁ?」

 意地悪そうな目で真鈴は粉を振る。

 予感はする。

 真鈴とさくらといっしょに声優ができたら、人生楽しいだろうなあと、背中に電気が走るみたいに心が疼くよ。

 だから―― 日本一の三枚目! ――とかのメールを打ちたかった。

 でも、そのメール送ったら、あの愛すべきバカは、必ず返事を寄こす。

 返事が来たら、それに返事を書いて、また返事が返って来て、ついには如来寺にまで行ってしまう。

 如来寺のみなさんは、みんな暖かいから、つい長居をしてしまう。あの元文芸部の部室は居心地が良すぎる。

 試験が終わったら、その日のうちのヤマセンブルグに飛ばなきゃならない。

 だから、メールは送らなかった。

 楽しかったよ、さくらたちとの四年間。

 

 あ、あれ……涙が溢れてきた。

 

 ちょ、ヤバイよ。

 試験中、ハンカチ出すのも躊躇われる。

 仕方がないので、眠いふりして右の人差し指で涙を拭う。

 拭ったことが――泣いてるんだ――という気持ちを増幅してしまって、ますます涙があふれてくる。

 もう、制服の袖で拭う。

 ヤバイ、ソフィーがこっち見てる。監督の先生も見てる。

 仕方ないので、うつ伏せて寝たふりした。

 ウ、ウ、ウ……

 だめだ、なんだかこみ上げてきて嗚咽してしまいそう。

「先生、頼子さんを保健室に連れて行きます」

 ゲ、ソフィーのやつ!

 

 保健室どころか、そのまま帰ることになって、領事館に着いたら東京の大使館から専門のドクターまで来ていたよ。

 

 ☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん)
  •   

 

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銀河太平記・143『人事を尽くして……』

2023-01-26 09:27:00 | 小説4

・143

『人事を尽くして……』お岩  

 

 

 一度ならず二度までも!

 

 漢明は洛陽号を自爆させて西之島のせいにした。それに飽き足らず、こんどは輸送船を自爆させちまった!

 むろん、漢明艦隊は大慌てを装い、黒煙を吐く輸送船を囲みながら、はるか沖合まで避難した。

 漢明艦隊は一切の報復攻撃も挑発行動もしてこなかった。漢明艦隊はあくまでも洛陽号爆発の真相を探るために来た調査船と、その護衛であるという姿勢を崩さい。つまり、どこまでも被害者のポーズ。

 その代わり、その漢明艦隊の手ぬるさに業を煮やした第二軍区の即応師団が暴発したように見せかけて、主力の機動艦隊五隻を発向させた。

「ご丁寧に、即応師団の暴発という形をとってるよ」

「でしょうね、指鉄砲で輸送船が爆発するわけありませんから」

 それでも、及川市長はなだめるように右手をポケットに突っ込み、左手首のハンベに語り掛ける。

「直ぐに戻ります、おそらく空港に敵が強行着陸してくるでしょうが、抵抗はしないで。市民には、外に出ないように繰り返し広報してください。取りあえず、第一級防災体制を維持。都と国には繰り返し救援依頼を続けてください!」

 パシ!

 音を立ててハンベのカバーを閉めると、一礼して岩頭の社長のところに駆けていった。

 気持ちは分かるよ。市長一人で、この漢明の理不尽には立ち向かえないもんね。

 戦争状態になったら、実質的な指導者を立てなければならない。それには、能力的にも人望的にも血統的にも島のみんなが従えて、気持ちが一つになる人物を選ばなければならない。このお岩が考えても、あんたしかいないさ、社長。

 

「お岩さん」

 

 ゴミ収集の打合せをし終えたような気楽さで社長が寄って来る。

「すぐに動かなくっていいの?」

「もう、手は打ってあります。万全というわけにはいきませんけどね」

「で、どうすんの?」

「まずは、ロボットさんたちが頼りです。そのために並列化を解いてもらいました。漢明との折衝は主席にお願いしてあります。まあ、出番はちょっと先になりますけどね。島内の通信は酋長のマヌエリトがやってくれます。全てアナログでね、島のあちこちでナバホ語の囁きが聞けると思いますよ」

「ナバホ語……ハンベの翻訳機能には対応してないんじゃないのかい?」

「だからこそ、いいんです。漢明も理解できません。漢明は自国の少数民族も数段下に見ています。ましてナバホインディアンなどは眼中に有りませんからね。それから、島にはガラクタがいっぱいありますからね、デジタル、アナログの両面からゲリラ的な武器や戦法をメグミさんにお願いしています」

「それなら大丈夫……と言ってあげたいけど、みんな小手先だろ、大丈夫?」

「アハハ、容赦ないなあお岩さんは」

「それと」

「なんですか?」

「社長は、いつも丁寧な物言いするけど。ちょっと丁寧過ぎない? このお岩にまで敬語使ってるよ」

「実は……」

「実は?」

「めちゃくちゃ緊張してるんです(#`□´#)!」

「……じゃあ、神社もすぐそこだし、お参りして行こうか、一応社長のご先祖が御祭神なんだし」

「そ、そうですね、それがいい!」

 

 シゲジイの神主とハナの巫女さんじゃ効き目は怪しいけど、二礼二拍手一礼する。

 

「そうだ!」

「お、なにかご託宣かい!?」

「落盤事故のときの御遺骨、まだ食堂でしょ?」

「うん、寂しくないようにね」

「避難させましょう、あ、ここの御神体も!」

「それはもう、用意してある」

 振り返るとシゲジイが白木の箱を捧げ持った。

 シゲジイの後ろ、鳥居のところには、島の住民百人余りが、寄り添って手を合わせていた。

 

 ☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王

 

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・96『昼から学校に行った』

2023-01-26 05:35:27 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

96『昼から学校に行った』 

 

 

 薮先生に話すと元気が出て、昼から学校に行った。

 生活指導室で入室許可書をもらうと、市民派の先生に嫌みを言われた。

「自衛隊の体験入隊なんかに行くからだ……な、なんだよ(; ゚゚)」

 わたしは、恐い顔で先生を睨みつけていることに気がついた。

 教室に行くと、さんざ冷やかされた。

 インフルエンザを除いて無遅刻無欠席のわたしが欠席の連絡。それが、午後から元気に登校したものだから、恋煩いが一転オトコの心をゲットしたとか、親が危篤だったのが一転良くなったとか、自衛隊で食べ過ぎてお腹痛になったのが出すモノ出したら元気になった(これは夏鈴がたてたウワサ)とかね。


「まどか、今日から道具作りやるよ!」


 里沙が、鼻を膨らませて言った。

「え……『I WANT YOU』に道具なんか無いでしょ?」

「予算よ、予算。来月中に執行しないと生徒会に没収されんの。だからさ、まだ公演まで余裕のあるうちに、平台とか箱馬とか作っちゃおうと思ったわけ」

「むろん、稽古もやるわよ。その前にテンション上げるのにいいと思ったのよ( •̀∀•́ )!」

 腹痛デマ宣伝の犯人が息巻く。

「自衛隊の五千メートル走とか壕掘りとか、今思うと、けっこう敢闘精神湧いてくんのよね。で、どうせやるなら将来の役にも立って、予算の消化にもなる道具作りが一番と思ったわけ!」

 放課後、里沙も夏鈴も掃除当番なんで、わたしは一足先に稽古場の談話室に行った。


「やあ、今日は早いんだね。まどか君一人?」

 バルコニー脇の椅子に座った乃木坂さんは、もう幽霊って感じがしない。

「あの二人は掃除当番。そろう前に見てもらいたいものがあるの」

 わたしは例の写真を見せた。乃木坂さんは面白そうに表紙と和紙の薄紙をめくった。

 乃木坂さんの顔が一瞬赤くなったような気がした……でも。

「……僕と同じ時代の子だね」

「ひょっとして……!?」

「……別人だよ。この子も可愛い子だけど、世の中いろんな可愛さがあるんだね。当たり前だけど」

「……そうだよね。あの爆撃じゃ十万人も亡くなったんだもんね。ごめん、変なの見せて」

「ううん、いいよ。同じ時代の子だもの、知らない子でも懐かしい……あ、里沙君と夏鈴君が来る」

「なにやってんのよ(*’へ’*)、道具つくるんだから材木運び。もう材木屋さんのトラック来てるからさ!」

 ドアを開けるなり、夏鈴が眉毛をつりあげた。

「さっき、言ったとこ……」

 里沙がフリーズした。夏鈴も視線が、わたしから外れている。


「その人……」「だれなのよ……」


 里沙と夏鈴に乃木坂さんが初めて見えた瞬間だった……。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • 乃木坂さん       談話室の幽霊
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・004『橋を渡る』

2023-01-25 16:03:28 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

004『橋を渡る』   

 

 

 一歩踏み込むと、周囲の景色が無くなって、今渡っている戻り橋と、左右に伸びている寿川の流れが見えるだけだ。

 VRゲームのチュートリアルみたい。R3のスティックを押し込むと、リングが現れて、そこにジャンプできるみたいな。

 でも、リングは現れないし、手にリモコン持ってるわけじゃないので、そのまま歩く。

 ゴーーーーーー

 すごい勢いで川が流れる。ちょっとビビる。

 全力で放流してるダムの、その真ん前を歩いてるみたいだ。

 それに、川の流れが逆だ。川下から川上に流れている…………そうか、これは時間が逆廻しになってるってエフェクトなんだ。

 エフェクトならビビることはない。

 渡り切ると橋は消えて、コンクリのところにGのしるしがあるのを確認して、川沿いを南に進む。

 

 道は令和のころと大きな違いはない。

 歩道の幅が狭くて黄色のブロックが無い。

 交差点に来ると、信号機がイカツイ。白地に緑の縞模様、でもって赤青黄の信号が暗い。信号と言うよりは、お化け屋敷のランプみたく毒々しい。

 ゲ!

 青に変わって踏み出したら、ガクンと体が沈み込んでカエルみたいな声が出てしまう。

 なんで、段差が!?

 交差点の歩道って、車道との段差なんか無いものでしょ! 段差なんかあったら、自転車とか車いすとか通れないじゃん!

 だれか笑った。

 わたしと同じ制服の生徒が、二人連れで笑いをこらえながら追い越していく。

 そうか、中学の制服は変わってないんだ。少しホッとする。

 コンビニが無かったり、ソフトバンクが見当たらなかったりするんだけど、街の様子は、そんなに変わっていない。

 っていうか、自分が利用する店とか以外は変わってても分からないのかもしれないけどね。

 

 駅が…………変わってるぅ……っていうか高架じゃないんですけど。

 

 いつもなら、エスカレーターで改札のフロアーまで上がるんだけど、入ってすぐのところが広くて、古い券売機が並んでて、なぜか黒板がある。

『伝言板』と書いてあって、反対側の端っこには『六時間経ったものは消します』とある。

―― 先に行く K ―― 

―― 明日も待ってる めぐみ ――

―― 喫茶ルイで10時まで待ってる T ――

―― 晩ご飯買って来て 裕子、母 ――

 リアル伝言板、興味深い。あ、読んでる場合じゃない。

 切符を買う。

 スイカで行ければいいんだけど、さすがに1970年では使えない。

 

 え、30円!

 

 ちょっと得した気分、さっきお祖母ちゃんと行った時は150円だった。それが、たったの30円!

 さっそく財布を開ける(例のガマグチ)。

 おお!

 ちゃんと昔のお金になってる。千円札はヒゲのオッサン。

 青くて顔色の悪いお札は五百円。五百円のくせにお札とは生意気な! で、この人相の悪いオヤジは岩倉……具視(グシ)?

 コインは令和と同じだから、ちょっと安心。

 チャリンチャリンチャリン。十円玉三つ投入。

 ンガーー!

 なんだ、この音!?

 微妙に遅い、でも出てきた。

 あ!?

 なんちゅうこと! インクが手に付くんですけど!

 見ると、後から買った女の人は、器用に切符の端を指で挟んで持ってった。

 ひょっとして、券売機の中で印刷してんの? ありえないんですけど!

 ティッシュで拭くのもムカつくので、切符の裏にこすりつける。

 あれ? 切符の裏が真っ白。ふつう、黒とかこげ茶色じゃない? なんか、こすり付けたインクが目立つし。

 

 カチャカチャ カチャカチャ

 

 改札に向かうと、制帽を目深にかぶった駅員のニイチャン、鋏をチャカチャカいわせて機嫌悪そう。

 切符でインク拭いたの見てたのかなあ……。

 プイ

 目にもとまらぬ早業で切符をふんだくると―― オレ見てたからなぁ ――的な不機嫌さで切り込み入れて、呆気に取られて閉じたままの指の隙間に切符を滑り込ませる。

 で、無言だよ。

 ふつう、この距離でお客さんに接したら「ありがとうございます」の一言ぐらいあるよね。せめて「はい」ぐらい言ってよね。

 

 プリプリしてホームに上がると、やっぱり黄色の点字ブロックは無い。で、ホームゲートも無い!

 乗客のみなさんは、ホームの際際のところに立って、怖くないんだろうか(^_^;)

 電車がやって来て着メロが無いのは、微妙に違和感。まあ、駅員さんが元気にホイッスル。すぐそばだったので、ちょっと耳に響く。

 電車は、令和とそんなに変わらない。シートが地味かなあと思ったぐらい。

『発車しま~す、ドア付近のお客さまはお気をつけくださ~い』

 車掌さんが生声で言ってくれるのは好感。

 でも、車掌さんて、なんで、女っぽい喋り方するんだろう。

 ガックン!

 のわ!

 いきなりONになりました的に発車して、こけそうになる。

 そのあとも、増速するたびにガクンガクン。

 ちょっと、ひどくない、この運転!?

 たった二駅だけど、新鮮な発見やら驚きやらあって、五分後には無事に宮之森駅に着いた。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女

 

 

 

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せやさかい・383『exactly(イグザクトリー)』

2023-01-25 10:07:50 | ノベル

・383

『exactly(イグザクトリー)』頼子    

 

 

 殿下、よいのですか?

 

 わたしと同じ制服のソフィーが、トーストに塗ろうとしたバターナイフの手を停めた。

 睨めっこしていたスマホをなにも操作することなく食卓に置いたからだ。

 ソフィーに隠し立ては出来ない。スマホを置くというささいな動作で、全てを知られてしまう。

「知ってしまったら、ただでは済まないでしょ、あの子たち」

 ガリ

 少々焦がし過ぎのトーストが、ちょっと大げさな音をさせる。

 クフフ

 そんなささいなことで、笑えそうになるのは、自分の中に、まだ中学以来の少女が棲んでいるからだろう。

 ガサツなさくらなら、パンくずを噴き出して爆笑していたかもしれない。

 それが、同じ制服着たソフィーはニコリともしないで、中断したバター塗りを再開する。

「今日の試験科目はなんですか?」

 了解したようで話題を変えてくる。

「数三と現文」

「抜かりはないですね?」

「もちろん、最後のテストだからね」

「exactly(イグザクトリー)」

 ウ、英語で返してきやがった。

 

 それからは、主従ともに、静かに朝食をいただく。

 

 今日から定期考査が始まる。

 大学に進む予定は無いから、おそらく人生最後の定期考査。

 そして、この学年末テストが終わったら、その足で日本を離れる。

 できれば、卒業式までは日本に居たかった。

 でも、新米王女のささやかなセンチメンタルを許さないほどにヨーロッパは揺れているんだ。

 むろん、原因は、あの諜報部あがりのオッサンが始めた戦争。

 ヤマセンブルグが公に戦争に加わっているわけじゃないけど、戦争のお蔭で電気やガスがめちゃくちゃ値上がり。

 ウクライナからの避難民やロシアからの亡命者。他のEUの国々と比べたら大した人数では無いけど、人口比率で言えばイギリスと同じくらいは引き受けているだろうね。僅かだけども志願してかの地に行った人たちに戦死者も出ている。そういう諸々の不安は国民にも影響を及ぼしている。

 それに、エリザベス女王が亡くなってからは、お祖母ちゃん、微妙に鬱状態。

 国と言うのは、日本人が思うほど強固なものじゃない。あの大英帝国でさえ、北アイルランドやスコットランドの分裂という火種を抱えているんだ。

 去年、日本国籍を捨てて正式な王女になった。

 三日間、国中がお祭り騒ぎして喜んでくれた。でも、日本にいちゃあダメなんだ。国に戻って同じ空気を吸っていないと王女としての務めが果たせない。

 さくら達に言ったら、きっと大騒ぎになる。

 如来寺とかで、ぜったいお別れの会とか壮行会とかやるに決まってる。

 そんなのに出ちゃったら、平静でいられるわけないよ。

 そんなアンビバレンツ分かってるから、ソフィーは一瞬だけバターナイフの手を停めたんだ。

 よくできたガードだよ。きっと、妹のソニー共々わたしの股肱の臣てのになるんだろうね。

 

「殿下、そろそろ車を出します」

 

 いつの間にか、ジョン・スミスがやってきて宣言する。

「え、もう?」

「はい、雪は降りませんでしたが、ちょっと交通渋滞しかけています」

「そうなの?」

 目が覚めたら、予報に反してお天気だったし大丈夫だと思っていた。

「他府県からの出入りがありますからね、大阪で雪が降らなくても影響は出ます」

「あ、そうね。わたしが迂闊でした。三分で食べるわ」

「いいえ、八分なら大丈夫です」

「いざとなったらヘリを飛ばします」

「ヘリコプター!?」

 方頬で笑って、懐から出したのはヘリコプターとかの操縦免許!

「バイク通学は禁止ですが、ヘリは禁止されていません」

「アハハハ……」

「冗談です。早く食べましょう」

「う、うん」

 

 そのあと、急いで玄関のアプローチにいくと、係りの人たちが小型ヘリをガレージに仕舞うところだった。

  

 ☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん)
  •   

 

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・95『思い切りブットイ注射をされた』

2023-01-25 06:38:26 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

95『思い切りブットイ注射をされた』 

 

 


 学校に欠席連絡を入れた。

 ひいじいちゃんの忌引きで休んで以来。

 あ、それと例のインフルエンザ。
 

 コンクールの明くる日だって、乃木坂をダッシュして間に合ったんだ。


 とりあえず、十一時ぐらいまで横になった。ようやく起きあがれるようになったので、薮医院に行った。いつもなら歩いても十分とかからないんだけど、二十分近くかかってしまった。

「さっき、忠友が来たとこだぜ」

「え、忠クンも……?」

「ああ、とりあえず点滴してやったら、少しは元気になって帰っていったけど、学校は休めと言っておいた」

「忠クンも、わたしみたいに……?」

「見かけはな。しかし、あれは精神的なもんだ。体験入隊で自分の想いと現実のギャップを思い知ったんだろうなあ……それに、不寝番やらされて何かあったみたいだな」

「あ……」

「まどか、なにか知ってんのか。忠の野郎、何も言いやがらねえ」

「あのぅ……」

「ん?」

「えと……」

「じれってえなあ、今時のガキは!」

「イテ……!」

 思い切りブットイ注射をされた(>_<;)。

 まさか、それに自白剤が入っていたわけではないだろうけど、気持ちが軽くなってきた。

 ガキンチョのころから、ここに来ると注射が仕上げで、それが終わると気が楽になり、たいていの病気は吹っ飛んでしまった。まあ、条件反射かもね。

「……なるほどな、乃木坂君てのから、そんな話しを聞かされたんだ」

「先生、素直に信じちゃうんですか?」

「ああ、昔はあったもんだよ。親父が体壊して、しばらく船を下りてるうちに、ミッドウェーで船が撃沈されっちまってさ。その晩、親父がここで何人かと話していたよ。むろん俺には親父の声しか聞こえなかったけどな……三月十日の大空襲もひどかったぁ。十万人が焼け死んじゃったけど、ほとんどは身元も分からないまま戦没者の霊で一括りさ。そりゃあ思いを残して残ってるやつも大勢いるだろうさ。幸か不幸か、俺は、そんなのが見えねえ体質なんだけどよ。信じるよ、そういうことは」

「先生はさ、その空襲の時はどうしていたんですか?」

「さあ……ただ逃げ回っていたことしか覚えてねえなぁ……人間てのはな、めっぽう怖ろしい目に遭っちまうと記憶がとんじまうものなんだ、そうしねえと神経がもたねえからな。で、いろいろ逃げ回って、てめえの家は焼け残っちまうんだもんな。皮肉なもんさ……そうだ、これを預かってくれねえか」

 先生はレントゲン写真を入れる黒い袋から表装された一枚の写真を取りだした。写真には早咲きの梅を前と後ろにして一人の女学生が写っていた。

「駅前で写真屋をやってた進ちゃんて同級生と逃げ回ってよ。そいつが最後まで後生大事にもってた写真なんだ。いっしょに手紙が入ってたんだけど、無くなっちまって、その写真の主がなあ……胸の名札がちょうど梅の花と重なって苗字の三水偏きゃ分かんねえ。制服は第十二高女ってことは分かるんだけどな。まあ、なんとかは藁をも掴むってことで、一度その乃木坂君に見てもらえないかい」

 先生は、もう休診にしてしまった。

 わたしのシンドサが伝ってしまったようだ。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • 乃木坂さん       談話室の幽霊
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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