大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・『となりのアノコ・1』

2018-04-26 07:07:06 | 小説6


『となりのアノコ・1』
        

 アノコが越してきてから三週間になる。

 でも、一向に学校に行く気配が無い。

「まだ高校生なんで、ナリは一人前なんですけど、何も出来ない子なんです」
「お母さん、余計なことを」
「だって、ホントのことだもん」
「引っ越しのご挨拶で言うこと?」
 で、お袋がオバサン特有のお愛想笑いで済ませた。
「オホホホ、お隣長い間空き家でしたので、寂しかったんですのよ。これからもどうぞよろしく」

 しかし、4月になっても、学校に行く気配がない。

 お隣りのお父さんは、8時前には会社に出かける。お母さんも9時前に家のことを済ませて、どこかにパートに行ってるようだった。
 ただ、アノコだけが家を出る気配が無い。それどころか、お互い建て売りの安普請。ちょっとした音でも聞こえることがある。で、その音が聞こえるのだ。換気扇の回る音、テレビの微かな音、そして二階の部屋の電気が点いたり消えたり。あきらかに誰かが家の中で生活している。
 引っ越しの挨拶にきたときは、三人家族だと言ってたから、アノコが居るのには間違いないだろう。

 なんで、ボクがこんなに詳しいかというと、ボクも学校に行ってないからだ。正確には昼間の学校に行ってない。訳あって、通信制の高校にいっている。

 それは、突然だった。

 うちの二階の東の六畳は姉貴が使っていたけど、この春に就職して、家にはいない。
「時々空気入れ替えといてね」
 そう言われて、一度もやってなかったので、掃除機ぶら下げて、姉貴の部屋に入った。
 わずか三週間あまりだけど、人がいない部屋は、かすかに空気がよどんで、机やサッシにホコリが積もっている。で、カーテンと、サッシを同時に開けた。

 で、ボクは見てしまった。

 半開きになったアノコの部屋の窓から、裸のアノコの背中が!
 ギクっとしたあと、アノコは裸のまま、窓辺に来て、サッシを閉めカーテンを引いた。時間にして、ほんの2秒も無かった。いきなりで、ほとんど一瞬だったけど、アノコが素っ裸だったことはハッキリ目に焼き付いている。
 女の子のことはよく分からないけど、こういう場合、悲鳴を上げたり、とっさに身を隠したり、少なくとも見られて恥ずかしいところは、反射的に隠すだろう。
 アノコは、テスト中に職員室に生徒がドアを開けたのを締めに来た先生のような迷惑顔で、胸も隠さずにやった。突然で、やや異常な状況に、ボクは「ごめん」というヒマもなかった。

 裸だったということは除いて、アノコが昼間家に居ることをお袋に言った。
「そう……なんか事情があるんだろうね、明みたいにさ。ま、人のお家、あまり詮索は無し。ちょうどいいわ、回覧板、こんどから明のかかりね。同世代同士仲良くなれるといいね」
「え、ああ……」
 ボクは、あの時の異常さから、ちょっと気が引けたが「裸を見た」とは言えない。

 で、その緊急の回覧板が明くる日にやってきた。

「道路工事の関係で、明日のゴミ収集変更なの、明君至急回してくれる?」
 アノコの反対隣りのおばさんがやってきた。
「じゃ、お願いね……」
 ボクは重たさと興味半々で、アノコの家のピンポンを押した。
「あ、明君ね、ちょっと待って」
 意外に明るくクッタクのない声……回覧板を渡したらすぐに帰るつもりだった。

「あたしって、自分をモデルにヌードデッサンやってたの」

 玄関先ぐらいで済ますつもりが、アノコの部屋まで入ってしまった。なるほど、アノコの部屋は書きかけや仕上げた油絵、デッサンが所狭しと散らばっていた。
「キミ、高校生なんだろ?」
「そうよ。明君と同じ通信制」
 そう言われて、不登校、イジメなんて言葉が頭をよぎった。
「ハハ、そんなんじゃないわよ。絵の勉強したいから、最初から通信制。でもね、他のアートもそうだけど、絵って、ある程度社会のこと知ってないと、限界。それに、美大とか出とかないと、世の中相手にしてくれないのよね。だから、近々全日制の学校に編入するの……どこの学校かって? フフ、それは登校するときのあたしの制服姿楽しみにして。で、明君は、なんで通信制?」

 ボクは……

 ボクは、めったにしない身の上話をアノコにした。ボクは、元々は全日制の私学に通っていた。でも、あるクラスの子がイジメが原因で学校に来なくなった。学校は家庭訪問をくり返し、イジメが原因であると断定。イジメた何人かの中にボクの名前が入っていた。当然だけど、ボクたちにイジメた意識も事実も無かった。収まらないボクは、謝罪を前提に、その子の家に担任に連れていってもらった。
「こいつだ。こいつが辞めたら、ボクは学校にいける!」

 で、ボクは責任と、潔白を証明するために学校を辞めた。結局ボクが辞めても、その子は学校には来なかった。

 学校は、ボクに復学するように言ってきたが、断った。一方的な事情聴取で、イジメの主犯と断定し、退学届けを喜んで受け取った学校に戻る気にはなれなかった。

「そう……明君て、苦労した末の通信制なんだ」

 感受性が強いんだろう、アノコは頬を染め、涙を浮かべて話を聞いてくれた。
 そして、知った。アノコの名前が亜乃子ということを。だから、呼び方がアノコなんだ。苗字は小野。小野亜乃子。なんと雅やかな古典的な名前であることか。

 ほんの五分ほどのつもりが、一時間ほどになったころ、アノコが急に苦しみだした。最初は指先の震え、それが瞬くうちに全身に広がり、唇は紫に、顔色は青白くなっていった。
「しっかりしろ! いま救急車呼ぶから!」

 ボクは、救急車に同乗した。アノコは、なぜかスマホを手から離さなかった。治療の邪魔になるので、やっと手放せたのは、病院に着いてからだった。

 

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高校ライトノベル・泉希 ラプソディー・イン・ブルー・3〈泉希着々と〉

2018-03-09 06:36:31 | 小説6

泉希 ラプソディー・イン・ブルー・3
〈泉希着々と〉
        

 3を飛ばしていましたので、順序があいませんが掲載しました。

「泉希ちゃん、このお金……」佐江が、やっと口を開いた。

「はい、お父さんの遺産です」
 この言葉に我に返った亮太が続けた。
「こ、こんなにあるのなら、もう一度遺産分けの話しなきゃならないだろ、母さん!」
「あ、ああ、そうだよ。遺産は妻と子で折半。子供は人数で頭割りのはずだわよ」

 5000万円の現金を目の前に、泉をあっさり亮の実子であることを認めてしまうハメになってしまった。

「残念ですけど、これは全てあたしのお金です」
「だって、法律じゃ……」
「お父さんは、宝くじでこれをくれたんです。これが当選証書です。当選の日付は8月30日。お父さんが亡くなって二週間後です。だから、あたしのです。嘘だと思ったらネットで調べても、弁護士さんに聞いてもらってもいいです。

 亮太がパソコンで調べてみたが、当選番号にも間違いはなく、法的にも、それは泉希のものであった。

 この子を大卒まで面倒をみても半分以上は手元に残る。今日子は瞬間で計算をして、あっさり呑み込んでしまった。
 泉希は、亮太が結婚するまで使っていた三階の6畳を使うことにした。机やベッドは亮太のがそのまま残っていたのでそのまま使うことにした。足りないものは三日ほどで泉希が自分で揃えた。

「お母さん。あたし学校に行かなきゃ」
「今まで行っていた学校は?」
「遠いので辞めました。編入試験受けて別の学校にいかなきゃ!」

「申し分ありません。泉希さんは、これまでの編入試験で最高の点数でした。明後日で中間テストも終わるから、来週からでも来てください」
 都立谷町高校の教務主任はニコニコと言ってくれ、担任の御手洗先生に引き渡した。
「御手洗先生って、ひょっとして、元子爵家の御手洗さんじゃありませんか?」
 御手洗素子先生は驚いた。初対面で「みたらい」と正確に読めるものもめったにいないのに、元子爵家であることなど、自分でも忘れかけていた。
「よく、そんなこと知ってたわね!?」
「先生の歳で「子」のつく名前は珍しいです。元皇族や華族の方は、今でも「子」を付けられることが多いですから。それに、曾祖母が御手洗子爵家で女中をしていました。」
「まあ、そうだったの、奇遇ね!」
 付き添いの今日子は、自分でも知らない義祖母のことを知っているだけでも驚いたが、物おじせずに、すぐに人間関係をつくってしまう泉希に驚いた。

 泉希は一週間ほどで、4メートルの私道を挟んだ町内の大人たちの大半と親しくなった。6人ほどいる子供たちとは、少し時間がかかった。今の子は、たとえ隣同士でも高校生になって越してきた者を容易には受け入れない。で、6人の子供たちも、それぞれに孤立していた。

 町内で一番年かさで問題児だったのは、4件となりの稲田瑞穂だった。泉希は、平仮名にしたら一字違いで、歳も同じ瑞穂に親近感を持ったが、越してきたあくる朝にぶつかっていた。
 早朝の4時半ぐらいに、原チャの爆音で目が覚め、玄関の前に出てみると、この瑞穂と目が合った。

「なんだ、てめえは?」
「あたし、雫石泉希。ここの娘よ」
「ん、そんなのいたっけ?」
「別居してた。昨日ここに越してきた」
「じゃ、あの玉無し亮太の妹か。あんたに玉がないのはあたりまえだけどね」
「もうちょっと期待したんだけどな、名前も似てるし。原チャにフルフェイスのメットてダサくね?」
「なんだと!?」
「大声ださないの、ご近所は、まだ寝てらっしゃるんだから」
「るせえんだよ!」
 出したパンチは虚しく空を打ち、瑞穂はたたらを踏んで跪くようにしゃがみこんでしまった。
「初対面でその挨拶はないでしょ。それに今の格好って、瑞穂があたしに土下座してるみたいに見えるわよ」
 瑞穂は、気づいて立ち上がった。完全に手玉に取られている。
「てめえ……」
「女の子らしくしようよ。ても瑞穂は口で分かる相手じゃないみたいだから、腕でカタつけようよ。準備期間あげるわ。十日後、そこの三角公園で。玉無し同士だけどタイマンね、小細工はなし」
「なんで十日も先なのさ!?」
「だって、学校あるでしょ。それに、今のパンチじゃ、あたしには届かない。少しは稽古しとくことね」

 そこに新聞配達のオジサンが来た「おはようございます」と言ってるうちに瑞穂の姿は消えてしまった。

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高校ライトノベル・泉希 ラプソディー・イン・ブルー・7〈それは 桜の花の散った日〉

2018-03-09 06:27:39 | 小説6

泉希 ラプソディー・イン・ブルー・7
〈それは 桜の花の散った日〉
        


「お早う、泉希ちゃん!」

 玄関で大きな声がした。泉希と同じまっさらな制服を着た瑞穂が立っていた。
「ごめん、寝癖が直らなくって。おかしくないお母さん?」
「うん、大分まし。それぐらいカールしてるのも可愛いわよ」
 近頃ようやく「お母さん」という呼ばれ方に慣れた今日子が応えた。
「そう、じゃ、行ってきまーす……あ、お母さん今日はなにかいいことあるかもよ」
「どうして?」
「ほら、瑞穂がほっぺに桜の花びらくっつけてる。こりゃ花神さま」
「あ、やだ、あたしったら」
「あ、取っちゃだめ」
 泉希は、ほっぺに桜の花びら付けたままの瑞穂を写メった。そして、瑞穂の制服に付いていた花びらを一枚取ると、同じようにほっぺに付け、今日子に二人そろって撮ってもらった。

 瑞穂は、あれ以来、泉希にはなんでも話せるようになり、一念発起勉強しなおして、泉希と同じ谷町高校の一年生に入りなおした。

 近所の子供たちも、瑞穂の変わりように比例するように、仲良くなった。
「ケンちゃん。今日から転んでも、泣かずに自分で起きるんだよ」
 瑞穂が、電柱一本向こうでこけた小学一年のケンちゃんに言った。「わかってら!」ケンちゃんは強がって、鼻を鳴らして行ってしまった。
「態度悪ウ~!」
「去年の瑞穂なら、泣いて飛んでっただろうね」
「泉希ちゃん。あたし……ちゃんとやってけるかな?」
「大丈夫よ。今みたく、ちゃんとみんなに声がかけられれば。大丈夫、今の瑞穂なら大丈夫!」
 大丈夫を三回も重ねたので、瑞穂が笑った。
「寝癖おかしくない?」
「うん、大丈夫。最初会ったころはショートのボブだったのにね。もうセミロングだ」
「髪だけ伸びて、胸とかは、ちっとも発育しないよ。瑞穂ちゃん、少し大きくなったんじゃない?」
「やだ、そんなじろじろ見ないでよ!」

 じゃれあいながら駅まで行って改札を通ると、ホームの向こう側に満開の桜並木が見えた。この沿線ではちょっと有名な駅の桜並木だ。

「初登校には、相応しい咲き具合ね……」
 瑞穂が柄にもなく潤んだ声で言った。
「でも、帰るころには散り始めてるだろうね。そうだ、預かってもらいたいものがあるの」
 泉希は、内ポケットから貯金通帳を出した。
「なに、この通帳?」
「ちょっと、お楽しみ。始めたばっかで1000円しか入ってないけどね」
「これを?」
「今日クラスの用事で、A町に行くの。あそこの銀行無いから、代わりに駅前の銀行で記帳して、お母さんに渡してくれないかな」
「いいの、あたしで?」
「うん。頼むね」

 帰り、瑞穂は約束通り銀行で記帳した。なんと100万円の入金があった。

「100万……出版社からね……」
 瑞穂から受け取った通帳を見て、今日子は不思議がった。
「あ、これ親父が本出してた出版社だよ」
 昼にやってきた息子の亮太が覗きこんで言った。
「印税は、第二刷からしか出ないから……親父の本売れたんだよ!」
「そうなの……生きてるうちは印税なんか入ったためしなかったのに」
「ま、仏壇にでも」
「ああ、そうしようか。まあ、宝くじの5000万には及ばないけど……そういや、あのお金、運用任せてたよね?」
 亮太の顔色が変わった。
「ごめん、株に投資したら……」
「どうなったのよ!?」
「先月売り抜けときゃよかったんだけど……もう、ほとんど残ってない」
 亮太は、それが言いずらくて、夕方までぐずぐずしていたのだ。

 泉希は、その日帰ってこなかった。あくる日も、そのあくる日も……。

 警察に捜索願も出したが、見つからなかった。
 十日目に、亮太は、何気なしに父が残したUSBをパソコンで開いてみた。そこにはmizukiの文字しか入ってないはずなのに、人形が映っていた。忘れもしない、ゴミに出した父親の最後の一体が。谷町高校の制服を着て、なにかささやいた。

「さようなら」そう言ったような気がした。

 保存しなかったことが悔やまれた。あのUSBは、あれから見つからない。母の今日子には話だけはしたが、信じてもらえなかった。
 今日子は寂しくて仕方が無かったが、泉希が近所づきあいを復活していてくれたので、向かいの巽のオバチャンはじめ話し相手には事欠かなかった。今日子は、泉希がいつ帰ってきてもいいように、部屋はそのままにしておいた。

 亡夫の印税は二か月に一度、数万円ずつが振り込まれた。今日子は、それが泉希からの便りのように思えた。 

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高校ライトノベル・泉希 ラプソディー・イン・ブルー・6〈瑞穂との決着〉

2018-03-08 06:49:33 | 小説6

泉希 ラプソディー・イン・ブルー・6
〈瑞穂との決着〉
       


 意外にも瑞穂は、ちゃんと公園にきていた。

 泉希の近所は6人ほどの子供ってか、未成年がいるが、互いの近所づきあいはほとんどない。
 泉希は、出会った子には必ず声を掛けるようにしたので、雫石の家に来てからは、一応町内の子とはあいさつ程度のことはできるようになっている。
 稲田瑞穂は例外だった。二学期になってほとんど通っていない高校は、出席不足でもうじき落第が決定する。親は、すぐに瑞穂が切れるのでロクに注意もせずにホッタラカシである。瑞穂は昼間は寝ていて、夕方になると原チャに乗って走り回っている。暴走族かというと、そうでもない……というか、そこまでいっていない。何度か族は見かけたし、一度は声もかけられたが、瑞穂はあいまいな笑顔で走り去った。そこまで墜ちる気にはなれなかった。だが自分を含め人間に敏感な瑞穂は、いつか自分が、そこまで墜ちてしまことを予感してはいた。

「お、約束通り着てるじゃん」

 泉希の言葉で、ドキッとした。瑞穂は10日前、ここで泉希に軽くいなされたことは忘れていた。その日に起こったことはその日のうちに忘れてしまう。むろん完全に記憶から消えてしまうわけではないが、夢のように思うことで意識の底に眠らせておくことはできる。その程度だから、泉希を見ると、とたんに思い出してしまった。

「女の子らしくしようよ。ても瑞穂は口で分かる相手じゃないみたいだから、腕でカタつけようか。準備期間あげるわ。十日後、そこの三角公園で。玉無し同士だけどタイマン、小細工はなし」

 泉希の言葉を思い出し、瑞穂は思わず及び腰になった。我ながら情けない。

「腕で勝負だから、まず腕の先の手からいこう。五本勝負。三本とったら勝ちね」
「手で三本?」
「ジャンケンに決まってるじゃん。指相撲もあるけど、瑞穂、肌が触れるのは嫌でしょう。じゃ、いくよ」

 最初はグー、ジャンケンポンで始めた。最初の4回は2対2、いよいよ最後の一本勝負。瑞穂は緊張した。

「気楽に。こんなの運と確率の問題だから」
 瑞穂は、この笑顔に騙された。気楽に出したパーであっけなく負けてしまった。
「落ち込むなって、単なるコツだから。最初はグーでしょ。だったら次に出すのはチョキかパーしかない。パーはあいこ。チョキは勝ち。この理屈知ってたら、まあ70%の確率で勝てる」
 なるほど……これなら3本より5本の方が確率的には勝てることになる。瑞穂は算数は好きだったので、この理屈はすぐに分かった。ただ算数は好きだったが、数学は嫌いだ。

「じゃ、じゃ、今度は腕でいこう。腕で決めるってことにしたんだから」
「でも、どつきあいは止めておこうよ。怪我したらつまんないから」
「アームレスリング。腕相撲よ!」

 泉希は一歩前進だと思った、アームレスリングならスキンシップだ。

 犬の散歩に来た近所のオジサンにレフリーになってもらった。オジサンは珍しがり、犬はワンワン喜んだ。
 で、これも五本勝負で、最後の一本で泉希の勝ちになった。
「ハハ、瑞穂もやるじゃん。なんとかあたしが勝ったけど」
「……負けは負けだよ。何すりゃいい?」
「瑞穂の原チャで近所案内してよ。あたし、まだ引っ越して間が無いから。コンビニとポストの場所ぐらいしか分からないから」

 で、原チャに乗って、町内を一周した。瑞穂は猫の通り道まで知っていた。泉希はもの喜びするたちで、「ホー! へー!」を連発した。

 二人乗りが終わって瑞穂の家の前に来るころには、二人は友達になっていた……。

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高校ライトノベル・泉希 ラプソディー・イン・ブルー・5〈谷町高校の秘密〉

2018-03-07 06:26:58 | 小説6

泉希 ラプソディー・イン・ブルー・5
〈谷町高校の秘密〉
        


 三日目で妙なことに気づいた。

 看板と中身の違う授業が多いのだ。
 総合学習の時間は、普通に国語をやっているし、ビジネス基礎では日本史をやっているという具合である。授業の中身は30年前からまるで変わっていないように思われた。

「ねえ、谷町高校って、ずっとこんなの?」

 泉希は隣の席の子に聞いてみた。
「うん、そうよ。よその学校みたいに変な選択授業がないから主要教科に集中できるの。うち、親子姉妹ずっと谷高だけど、看板はともかく中身は変わってないわ」

 その日、都教委の定例の査察が入った。簡単に言うと、学校が都教委に届け出たとおり学校を運営しているかどうかを調べに来るのだ。大方は今の時代なので電子化された資料の点検だけど、直接授業の査察もやる。
 泉希のクラスはビジネス基礎の看板で日本史をやっている。

――こんなの、すぐにバレちゃうよ――

 そう心配したが、査察の都教委の指導主事は感心したように首を振っている。泉希は、ちょこっとだけ指導主事のオッサンの心を覗いてみた。
 なんと、オッサンにはビジネス基礎の授業に見えている。室町幕府と守護大名の関係についての説明が、日本の物流の話に聞こえている。

 で、気づいた。他の人間には聞こえないように、阿倍野清美が呪文を唱えている
――臨兵闘者 皆陳列在前……――
 その呪文は、人知れず査察が終わるまで続いた。

 査察が終わると清美はぐったりと机に突っ伏した。取り巻きの二人も同様だった。チラリ、清美と目が合ったが、今までのような敵愾心は感じられなかった。訳は分からないが、ひたすらホッとした気持ちだけが通じてきた。

 昼休み、泉希は図書室に行ってみた。

 最初は、学校が10年ごとに出している記念誌を閲覧するつもりだったが、入ってみると閉架図書の中にある歴代の卒業アルバムが気になりだした。

「すみません、閉架の卒業アルバムが見たいんですけど」
「パソコンのここに、クラス氏名と閲覧目的書いてくれる。それからスマホとかは預かります」
 司書のオネエサンが事務的に言った。
「スマホですか?」
「ええ、古い奴は住所や電話番号とか個人情報がいっぱいだから。最近のでも肖像権とかうるさいからね」
 泉希は、スマホを預け、閉架図書室に入った。司書室からはガラス張りだけど、利用者が少ないせいだろう、古い本特有の匂いがした。

「これって……」

 インスピレーションを感じる十数冊を取り出して、パラパラとページをめくった。
 名前も顔も違うけど、明らかに同じ人物が映っていた。それも三年に一度……それは阿倍野清美だった。

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高校ライトノベル・泉希 ラプソディー・イン・ブルー・4〈泉希の初登校〉

2018-03-06 06:04:41 | 小説6

泉希 ラプソディー・イン・ブルー・4
〈泉希の初登校〉
        


 当たり前の自己紹介ではつまらないと思った。

「今日から、いっしょに勉強することになりました、雫石泉希です。何事も初心が大切だと思います。よろしくお願いします」
 この一言だけで、クラスがどよめいた。字面では分からないが、声と喋り方は渡辺麻友にそっくりだった。
「モットーは、『限られた人生、面白く生きよう!』です。ね、秋元先生!?」
 今度はタカミナの声色で、廊下に学年主任の秋元先生が立っていることにひっかけたのだ。
「では、だれがウナギイヌだよ!?」
 北原里英という、ちょっとマニアックなところで、袖口から万国旗をズラズラと引き出して喝采を浴びた。
「この水色に黄の丸と、緑に赤丸の国知ってるかなあ?」
 今度は、百田 夏菜子の声。で、答えが返ってこないので百田 夏菜子の声のまま続けた。
「これは、水色がパラオで、緑がバングラディシュなんだよ。日の丸をリスペクトしてんの。豆知識でした……えと、これが自分の声です。体重は内緒だけど、身長:158cm バスト:84cm ウエスト:63cm ヒップ:86cm 完全に日本女性の平均です。よろしく!」

 ほんの一分ほどだけど、そこらへんの芸人顔負けの自己紹介で一気にクラスの中に溶け込んだ……一部を除いて。

「雫石さん、あんたの自己紹介セクハラよ」
「え、どーして?」
 見上げた机の横には、揃いのポニーテールが三つ並んでいた。
「たとえ自分のでもスリーサイズまで言うのはだめよ。中には自分のプロポーション気にしてる子もいるんだから」
「そんなこと言ってたら、なんにも喋れなくなってしまいます~」
「新入りが、そんなに目立つなってこと。虫みたいに大人しくしてな」

 都立でも優秀な部類に入る谷町高校にも、こんなのがいるんだと、泉希はあっけにとられた。当然だけど、周りは見て見ぬふり。

 次の休み時間、泉希は復讐に出た。
「虫が言うのもなんだけど、三人とも背中に虫着いてるよ」
 そう言って、三人の背中にタッチしてブラのホックを外してやった。二人は慌てふためいたが、真ん中のがニヤリと振り返った。
「そんなガキの手品に引っかかる阿倍野清美じゃないのよ」
「なるほどね」
 突っかかるほどのことでもないと、泉希は階段を上って行った……ところが、13段しかない階段が、何段上っても踊り場にたどり着かない。後ろで三人のバカにした笑い声。
「こいつはタダモノじゃないな……」
 そう思った泉希は、階段を下りて阿倍野清美のそばに寄った。
「阿倍野さん。あなたって、陰陽師の家系なのね」
 清美の瞳がきらりと光ったが、あいかわらずの薄笑い。
 泉希はスマホを出して、画面にタッチした。画面には白い紙のヒトガタが出ている。
「やっぱ、式神か……」
 泉希は、式神を消去すると、当たり前のように階段を上って行った。

 初日からひと波乱の学校ではあった。

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高校ライトノベル・泉希 ラプソディー・イン・ブルー・2〈泉希って……!?〉

2018-03-05 06:27:14 | 小説6

泉希 ラプソディー・イン・ブルー・2
〈泉希って……!?〉
       


 泉希(みずき)は、よく似合ったボブカットで微笑みながら、とんでもないものを座卓の上に出した。

「戸籍謄本……なに、これ?」
 今日子は当惑げに、それを見るだけで手に取ろうとはしなかった。
「どうか、見てください」
 泉希は軽くそれを今日子の方に進めた。今日子は仕方なく、それを開いてみた。
「なに、これ!?」
 今日子は、同じ言葉を二度吐いたが、二度目の言葉は心臓が口から出てきそうだった。

 婚外子 雫石泉希

 亮の僅かな遺産を整理するときに戸籍謄本は取り寄せたが、子の欄は「子 雫石亮太」とだけあって、婚姻により除籍と斜線がひかれていただけだった。ところが、泉希の持ってきたそれには「婚外子 雫石泉希」とあるのである。
「これは、偽物よ!」
 今日子は、慌てて葬儀や相続に関わる書類をひっかきまわした。
「見てよ。あなたのことなんか、どこにも書いてないわ!」
 泉希は覗きこむように見て、うららかに言った。
「日付が違います、わたしのは昨日の日付です。備考も見ていただけます?」
 備考には、本人申し立てにより10月11日入籍。とあった。
「こんなの、あたし知らないわよ」
「でも事実なんだから仕方ありません。これ家庭裁判所の裁定と、担当弁護士の添え状です」

 今日子は、家裁と弁護士に電話したが、電話では相手にしてもらえず、身分を証明できる免許証とパスポートを持って出かけた。

 泉希は、白のワンピースに着替えて、向こう三軒両隣に挨拶しにまわった。

「わけあって、今日から雫石のお家のご厄介になる泉希と申します。不束者ですが、よろしくお付き合いくださいませ」
 お向かいの巽さんのオバチャンなど、泉希の面差しに亮に似たものを見て了解してくれた。
「うんうん。その顔見たら事情は分かるわよ。なんでも困ったことがあったら、オバチャンに相談しな!」
 そう言って、手を握ってくれた。その暖かさに、泉希は思わず涙ぐんでしまった。

 今日子が夕方戻ってみると、亮が死んでからほったらかしになっていた玄関の庇のトユが直されていた。庇下の自転車もピカピカになっている……だけじゃなく、カーポートの隅にはびこっていたゴミや雑草もきれいになくなっていた。
「奥さん、事情はいろいろあるんだろうけど、泉希ちゃん大事にしてあげてね」
 と、巽のオバチャンに小声で言われた。

「お兄さん、お初にお目にかかります。妹の泉希です。そちらがお義姉さんの佐江さんですね、どうぞよろしくお願いいたします」

 夜になってからやってきた亮太夫婦にも、緊張しながらも精一杯の親しみを込めて挨拶した。なんといっても父である亮がいない今、唯一血のつながった肉親である。亮太夫婦は不得要領な笑顔を返しただけであった。
 母から急に腹違いの妹が現れたと言われて、内心は母の今日子以上に不安である。僅かとはいえ父の遺産の半分をもらって、それは、とうにマンションの早期返済いにあてて一銭も残っていないのである。ここで半分よこせと言われても困る。
「あたしは、ここしか身寄りがないんです。お願いします、ここに置いてください。お金ならあります。お父さんが生前に残してくれました。とりあえず当座にお世話になる分……お母さん……そう呼んでいいですか?」

 今日子は無言で、泉希が差し出した通帳を見た。

 たまげた。

 通帳には5の下に0が7つも付いていた。5千万であることが分かるのに一分近くかかった。

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高校ライトノベル・泉希ラプソディー・イン・ブルー〈それが始まり〉

2018-03-04 06:23:36 | 小説6

泉希ラプソディー・イン・ブルー
〈それが始まり〉
        


 業者は123万円という分かりやすい値段でガラクタを引き取って行った。

「まあ、葬式代にはなったんじゃない」
 息子の亮太は気楽に言った。
「でも、なんだかガランとして寂しくもありますね……」
 嫁の佐江が、先回りして、取り持つように言った。

 亭主の亮は、終戦記念日の昼。一階の部屋でパソコンの前でこと切れていた。
 今日子は悔いていた。
「ご飯できましたよ」二階のリビングから呼んだとき「う~ん」という気のない返事が返ってきたような気がしていたから。

 一時半になって、伸び切った素麺に気づき、一階に降り、点けっぱなしのパソコンの前で突っ伏している亮に気づき救急車を呼んだが、救命隊員は死亡を確認。そのあと警察がやってきて、死亡推定時間を午前11時ぐらいであることを確認、今日子にいろいろと質問した。
 あまりにあっけない亮の死に感情が着いてこず、鑑識の質問に淡々と答えた。
「多分、心臓か、頭です。瞼の裏に鬱血点もありませんし、即死に近かったと思います。もし死因を確かめたいということでしたら病理解剖ということになりますが……」
「解剖するんですか?」
 亮太が言った。今日子の連絡で、嫁の佐江といっしょに飛んできたのだ。
「この上、お義父さんにメスをれるのは可愛そうな気がします。検死のお医者さんに診ていただくだけでいいんじゃないですか?」
 この佐江の一言で、亮は虚血性心不全ということで、その日のうちに葬儀会館に回された。葬儀は簡単な家族葬で行い、亮の意思は生前冗談半分に言っていた『蛍の光』で出棺することだけが叶えられた。

 そして、長い残暑も、ようやく収まった10月の頭に、亮の遺品を整理したのである。

 亮は三階建て一階の一室半を使っていた……今日子にすれば物置だった。ホコリまみれのプラモデルやフィギュア、レプリカのヨロイ、模擬刀や無可動実銃、未整理で変色した雑多な書籍、そして印税代わりに版元から送られてきていた300冊余りの亮の本。
 佐江は、初めてこの家に来た時、亮の部屋を見て「ワー、まるでハウルの部屋みたい!」と感激して見せた。同居する可能性などない他人だから、そんな能天気な乙女チックが言えるんだと、今日子は思った。
 そして、一人息子の亮太が佐江と結婚し家を出ていくと、亮と今日子は家庭内別居のようになった。

 亮は、元々は高校の教師であったが、うつ病で早期退職したあと、ほとんど部屋に籠りっきりであった。退職後、自称作家になった。実際本も3冊、それ以前に共著で出したものも含めて10冊ほどの著作があるが、どれも印税が取れるほどには売れず。もっぱら著作はブログの形でネットに流す小説が主流であった。

 パソコンに最後に残っていたのは、mizukiと半角で打たれた6文字。佐江の進言で、その6文字はファイルに残っていた作品といっしょにUSBにコピーされ、パソコン自体は初期化して売られてしまった。
「あ、お母さん、人形が一つ残ってるよ」
 亮が仏壇の陰からSDと呼ばれる50センチばかりの人形を見つけた。
「あら、いやだ。全部処分したと思ったのに……」

 亮は、亡くなる三か月ほど前から、人形を集め始めた。1/6から1/3の人形で、コツコツカスタマイズして10体ほどになっていた。今日子は亮のガラクタにはなんの関心もなかったが、この人形は気持ちが悪かった。
 人形そのものが、どうこうという前に還暦を過ぎたオッサンが、そういうものに夢中になることが生理的に受け付けなかったのだ。
「人の趣味やから、どうこう……」
 そこまで言いかけた時の亮の寂しそうな顔に、それ以上は言わなかった。
 しかし、本人が亡くなってしまえばガラクタの一つに過ぎなかった。惜しげもなく捨て値で売った。

「佐江ちゃん。よかったら持ってってくれない?」
「いいえ、お義父さんの気持ちの籠った人形です。これくらい、置いてあげたほうがいいんじゃないですか」
 佐江は口がうまい。要は気持ちが悪いのだ。今度の複雑ゴミで出してやろうと思った。

 人形は清掃局の車が回収に来る前に無くなっていた。

「好きな人がいるもんだ」
 プランターの花に水をやりながら、今日子は思った。とにかく目の前から消えたんだから、結果オーライである。

 そのあくる日である、インタホンに出てみると17・8の女の子がモニターに映っていた。

「こんにちは。泉希っていいます、いいですか?」

 それが始まりであった。

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高校ライトノベル・音に聞く高師浜のあだ波は・28『高師浜の潮騒が聞こえたような気がした……』

2018-03-03 06:15:11 | 小説6

 音に聞く高師浜のあだ波は・28
『高師浜の潮騒が聞こえたような気がした……』
         高師浜駅


 ニコニコ運動が本来の目的を果たすことは無かった。

 姫乃は、挨拶されたり話しかけられたりすると分け隔てなく相手をする。
 相手はするけども、そこから先には進まない。
 姫乃にバリアーがあるわけやない。

「お、おはよう、阿田波さん」
「おはよう、〇〇君」
「え、えと、ええ天気やねえ」
「うん、今日の雪を『いい天気』と言える感性は素敵だと思うわ」
「え、あ、あ雪?」
 うろたえた男子は、あとが続かへん。

「おはよう姫乃さん!」
「うわー、男子から名前で挨拶されるの初めてよ!」
「お、おー、そうやったんか!」
「もう一回言ってもらえる」
 姫乃はサービスのつもりで、一歩前に出て、真っ直ぐ男子に向き合う。
「あ、えと……阿田波……姫乃さん……」
 まともに目の合った男子は、真っ赤な顔になるって、これも続かへん。

 二日目になると、挨拶する男子は半分に。三日目になると、いつものように目ぇそらして敬遠しよる。
 なんとも根性無しばっかし。

 そやけど、副産物があった。

 建て前は、クラス全員に向けての挨拶運動なんで、男子は、他の女子にもお義理で声を掛ける。
 声を掛けられた女子は、当たり前やけど、キチンと挨拶を返す。
 姫乃を相手の時とちがって、十回に一回くらいは会話が成立する。
 その会話が元になって、なんとカップルになりかけが三組もできた!

 念のため、あたしとすみれは外れてますねんけども……。

「ま、これでいいんでしょうね」
 姫乃は、なにやら悟った顔でニコニコしてる。

 四日目の今日も朝からの雪。

 古文の授業、カサカサと先生が黒板に字を書く音だけがしてる。
 窓は半分がた曇って、降りしきる雪だけが視界に入る。
「なんか、自分が空に昇っていくみたいやなあ~」
 視界一杯の雪、それが音もなく降り注いでくるので、そんな錯覚に陥る。
 大阪の雪は珍しいせいか、とってもふんわかした気分になる。
「ねえ、姫乃」
 一つ横の姫乃に声を掛ける。
 授業中になにしてんねんやろいう気持ちはあるねんけど、姫乃と、このふんわかを共有したくなった。
「そうね……ちょうどいい高さになってきたかな」
「高さ?」
 思わず窓から下を見た。
「あ、あれ?」
 いくら雪だと言っても、教室は、ただの四階。眼下ににはお気に入りの中庭が見えるはず……なんだけど。
 雪は、はるか下に向かって降って行くばかりで中庭はおろか、地上の気配がなにもない。

 え…………………………?

 不思議な気持ちいっぱいで横を向く。
 あたしの横には空いた席があるだけで、だれも座っていない。
 
 え、姫乃……ひめ……ひ……誰が座ってたんやろ?

 なにぼんやりしてんのん?

 もう一つ向こうのすみれが口の形だけで言う。

「畑中さん、34ページ読んで」
 先生に指名されて、おたおたと教科書を開く。

 高師浜の潮騒が聞こえたような気がした……。


 音に聞く高師浜のあだ波は・第一期 おしまい

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高校ライトノベル・音に聞く高師浜のあだ波は・27『二月五日はニコニコの日』

2018-03-02 06:32:49 | 小説6

高校ライトノベル
 音に聞く高師浜のあだ波は・27
『二月五日はニコニコの日』
         高師浜駅



 お医者さんに行こうと思ってた。

 トレーにラーメンとランチという女の子らしからぬ取り合わせを載せながら、姫乃が言う。
 姫乃は基本的には小食で、多い時でもランチ。たいていは麺類一つだけで、調子悪い時はサンドイッチに牛乳だけということもあった。
 それが、まるで男子の昼ご飯。

「今までは調子悪かったん?」
 テーブルに着きながらすみれが聞く。ちなみに、すみれは大盛りカツ丼。弓道部やからこんなもん。
「う~ん、やっぱ、ボリュ-ムあったほうが美味しいわね」
 姫乃らしからぬ大口で、ラーメンをかっ込み、目を幸せのカマボコ形にした。

 一昨日で三年生の授業が終わって、食堂はゆったりしている。

 あたしらは、いつも三人揃って座りたいので座席の確保には苦労するんやけど、一昨日からは楽に座れてる。
「ねえ、思うんやけど……」
「「なに?」」
「三年生は姫乃に注目してたんとちゃう?」
「「え……?」」
「昼の食堂の暑苦しさて、ただの混雑やと思てたけど、このゆったり感は、それだけやないと思うわ」

 確かに、食堂は劇的に空いたというわけやない。

 それまで食堂を利用してなかったり時間帯をずらしてた一二年生が来るようになったので、実際に減った利用者は二割程度だろう。
「その三年の男子が姫乃のこと意識してたんとちゃうかなあ、なんとなく感じる圧が違う」
「そ、そんなことないよ~」
 姫乃が赤くなる。赤くなりながらもランチをかっ込んでる。
「そやかて、その食欲……」
「で、でもさ、そうだったとしても、ホッチとすみれにかもしれないじゃん」
「「それはない」」
 二人の声が揃た。

 あたしもすみれもブスやないけど、姫乃みたいな華がないのは十分承知してる。

 その日のホームルームで、男子が妙な提案をした。
「二月五日はニコニコの日なんやねんけど」
「え、ニコ動の日?」
「ちゃう、笑顔のニコニコや」
「なんやねん」
「二月五日でニコニコや」
「なんや語呂合わせか」
「それでもニコニコや」
「ほんまや、検索したら出てきたで!」
「それで、一日笑顔を心がけて、挨拶とかもキチンとしたらと思うねんけど」
 この掛け合いは、壁際男子の木村と滝川。
「ということで、とりあえず笑顔でやっていこうぜ!」
 ま、悪いことではないので、男子の勢いで決まりかけた。
「そんでも、五日は日曜やけど」
 すみれがニヤニヤしながら指摘した。
「ほ、ほんなら雨天順延や!」
 わけのわからん提案やけども、アハハハとクラス中が笑いに包まれて決定した。

 で、今朝から気色悪い!

「やあ、おはよう」「今日もええ天気」「オッス!」「メッス!」「今日も一日がんばろー!」
 とって付けたみたいな挨拶が飛び交う。壁際男子には似合わん笑顔。

 で、気ぃついた。

 男子の笑顔の半分は姫乃に向けられてるんやけど!

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高校ライトノベル・音に聞く高師浜のあだ波は・26『十七日? 震災? あれから二十年?』

2018-03-01 06:51:08 | 小説6

 音に聞く高師浜のあだ波は・26
『十七日? 震災? あれから二十年?』
         高師浜駅


 これで先代も成仏したことでしょう……。

 デヴィ夫人に似たおばさんは、浅く座ったソファーで背筋を伸ばしたまま話を閉じた。


 そのとたん、空気まで停まっていた時間が動き出したようにため息をついてしまった。すみれも姫乃もため息ついた感じで、普段ならコロコロと笑い出すシュチエーションやねんけど、三人ともかしこまったまま座っている。
 
 阿倍野ホテル最上階の部屋は、お祖母ちゃんと、そのおばさんが主役。

 あれからも、お祖母ちゃんのお迎えは続いている。あいかわらず南海特急のような乗り心地のワンボックスカー。
「お祖母ちゃんも懲りひんねえ……」
 今日からはもういいよ。そう言って家を出たので、もう来ないと思てた。
 白のワンボックスに絡まれて、三人ともビビってしもたんで、お祖母ちゃんには断った。
「え、あ、そうやったかいなあ」
 ボケたふりして、お祖母ちゃんは楽しそうに、あたしらを連れまわした。

 あれから四日。

 もうワンボックスに絡まれることもないので平和なドライブ、あたしらも、再び快適なドライブに慣れてきた。
 ホテルに着くまでは、いつものドライブやと思てた。

 阿倍野ホテルの最上階に着くと、エレベーター降りたとこから、あちこちにダークスーツのおじさんやらお兄さん。
 で、この部屋に案内されると、このおばさんがダークスーツ二人を従えて、ソファーに収まっていた。

「なるほど、あの子らによう似た雰囲気のお嬢さんたちですね……」
 あたしらについては、その一言があっただけ。あとは、先代と呼ばれるお爺さんの話が続く。
「あの子らの送り迎えが、唯一の楽しみやったんですわ」
 どうやら、先代と呼ばれるお爺さんは、孫らしい三人のお嬢さんの送り迎えを生き甲斐にしていたらしい。
「結果的には二人のお友だちを巻き添えに……」
 三人の内二人はお嬢さんのお友だち……あ、あたしらの関係といっしょや。
「あの日は、早朝練習の、そのまた準備のためにむちゃくちゃ早く出たんですわ……」
「その朝に限って、為三さんは運転できなかったんですねえ」
「ええ、家業ののっぴきならない事情でね……あの子たちも先代の車に乗るのを楽しみにしてましたからね……」
「送れないけど、迎えに行ってドライブする約束をしてらしたんですね……」
「俺が死なせたんやと、それは……」
「ま、これで、少しでも為三さんが浮かばれるんでしたら、このあたしも満足です」

 どうやら、為三さんという先代さんが、亡くなっているらしいけど、娘さんと、その友だちの送り迎えをしてあげるのが生き甲斐やったみたい。その車を、お祖母ちゃんが運転して、境遇の似たあたしらを乗せることで為三さんの供養にした。そんな感じ。

 でも、娘さんらは、なんで死んだ? 交通事故?

「震災から二十年、ちょうどいい区切りで往生したと思います。十七日に乙女さんに会えて、ほんまによかったです……」

 十七日? 震災? あれから二十年? それて阪神大震災? なんや、微妙に合わへん。

 お祖母ちゃんは、車のキーを返そうとしたが「どうぞ、供養だと思って、これからも乗り続けてくださいな」
 そう言われて……再びワンボックスに収まっている。

「お祖母ちゃん、阪神大震災やったら、なんやおかしいよ。このワンボックス、どう見ても新車やで」
「トヨタの最新型で、年末に発売されたばかりです」
「フル装備で350万円やと思います」
 親友二人が、いつ調べたんか、つっこんでくる。
「そらそや、年の初めに納車されたとこやからなあ」
「おかしいやろ、お祖母ちゃん」
「為三さんは、この半年ほどはボケちゃっててね、娘さん三人は、まだ高校生で生きてると思てたんやねえ。それで、ちょうど送り迎えに最適な、この車を知って、納車された日に亡くなってしもた」

「「そうなんですか」」

「最後の言葉が『はよ迎えに行ってやらなら』やったそうや」
「そうなんや」
 あたしらはしみじみとしてしもた。
「じつは、去年、高石まで来たんよ、為三」
「え、なんで?」
「為やんは、むかしから、あたしの……」
「あ、読者やったん?」
「ホホ、あたしはモテたからなあ……その時に高師浜高校の近所で、あんたらを見かけたんや『乙女さん、さっきかいらしい女学生見かけてなあ』嬉しそうに写メ見せてくれたら、あんたらや」
「そうやったん……」
「帰り際に、また同じ写メ見せよってな……『ほら、これが孫とそのお友だちや』て……」

 そこで話が途切れた。

 ルームミラとバックミラーを合わせ鏡にしてお祖母ちゃんの顔が見えた、お祖母ちゃんが泣いてるのを初めて見てしもた……。

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高校ライトノベル・音に聞く高師浜のあだ波は・25『あたしらは目を背けた』

2018-02-28 06:32:32 | 小説6

高校ライトノベル
 音に聞く高師浜のあだ波は・25
『あたしらは目を背けた』
         高師浜駅


 ワンルームがお屋敷になったみたいだ。

 お祖母ちゃんの新しい車は、そんな感じ。


 今までの軽自動車は四人乗りで、事実上は二人乗りやった。
 ま、うちがお祖母ちゃんとの二人暮らしやということもあるんやけど、四人乗るとすっごく窮屈。
 
 今度のワンボックスは、三列シートで、なんと九人まで乗れてしまう。
 もちろん、ゆったり乗るには六人くらいなんやけど、前の車の三倍の感じ。
 後ろの二列は対面式に出来て、感覚的には南海の特急電車。
 南海の特急は高石市にも羽衣にも停車せえへん。いっつも、ホームで電車待ちしてるあたしらを暴力的な速さでいたぶっていきよる。
 一瞬見える特急の乗客が「下がりおれ、下郎どもめ!」といういような目をしてるように思えてしまう。
 その特急感覚やから、もう、ザーマス言葉でオホホホてな感じで笑い出しそう。

「でも、毎日迎えに来ていただいて、なんだか申し訳ないです~」

 姫乃がヘタレ眉になって恐縮する。

 五日前、不慮の事故で三人揃ってジャージで帰らなくてはならなくなり、寒さに震えていると、ちょうど後ろにお祖母ちゃんがいて、乗っけてもらった。

 それからお祖母ちゃんは、下校時間になると、学校の角を一つ曲がった道路で待ってくれるようになった。
 この車のことは、何度も聞いたけど、ニコニコするばかりで、お祖母ちゃんは答えてはくれない。

「今日は、ちょっと高速にのるけど、ええかな」

 三人が頷くと、お祖母ちゃんは泉北高速への道へとハンドルをきった、
 お祖母ちゃんのお迎えは、寄り道をする。
 ほんのニ十分ほどやねんけど、高石の街中をゆったり走ってから、すみれと姫乃を送っていく。
 あたしらも乗り心地が特急電車なんで、放課後ひとときのドライブを楽しむってか、お喋りに興じる。
 もう少しで高速に乗ろうかという時に、シャコタンの白いボックスカーが並んできた。

「感じわる~」
 すみれが眉を顰める。
「スモークガラスで、中見えないね……」
 姫乃が気弱そうにつぶやく。

 お祖母ちゃんは、やり過ごそうと速度を落とした。
 すると、白は、スーッと前に出たかと思うと、あたしらの前に出て停めよった。
「年寄りと女子高生だけや思て舐めとるなあ、あんたら出たらあかんで……」
 そういうと、お祖母ちゃんはシートベルトを外してドアを開けた。

「お、お祖母ちゃん!」

 お祖母ちゃんは、ゆっくりと白に近寄って行く。白のドアが開いて人相の悪いニイチャンが二人出てきた。
 お祖母ちゃんは腕を組んで二人を睨みつけてる。二人組がカサにかかって喚いてるけど、車の遮音が効いてるので言葉の内容までは分からへん。しかし、かなりヤバイというのは見てるだけで分かる。

「こ、これヤバいよ……」
「つ、通報しようか……」

 すると、あたしらの車の後方からダークスーツの男の人が現れて、あっという間に二人組をノシテしまった!

 白の車は、二人を残したまま急発進、二つ向こうの交差点を曲がり損ねた。

 ドッカーン!

 信号機のポールにぶつかってひっくり返った。

「「「うわーーー!」」」

 あたしらは目を背けた。
 目を開けると、お祖母ちゃんが戻ってくるとこで、ダークスーツも二人組の姿も無かった。
「ほんなら、いこか」
 そう言いながら、いつのまに買ったのか温かい缶コーヒーを配ってくれて、今までで一番長いドライブに発進したのでした。

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高校ライトノベル・音に聞く高師浜のあだ波は・24『視聴覚教室の掃除当番・2』

2018-02-27 06:33:08 | 小説6

高校ライトノベル
 音に聞く高師浜のあだ波は・24
『視聴覚教室の掃除当番・2』
         高師浜駅



 スカートが短いからや!

 こういう怒り方は理不尽やと思う。でも、あたしが地雷を踏んだからや。


 今日は、今学期二回目の視聴覚教室の掃除当番でした。
 で、今日は午後から使った授業も無くて、前回と違って冷蔵庫の中のように冷え切っておりました。
 で、こんな日に限って、視聴覚教室は汚れまくり。

「もー、なんで視聴覚教室にジュースのこぼれたあとがあるんよ!」

 すみれがむくれながらモップをかけてる。
 ジュースだけやない、視聴覚教室の床は紙屑やら花吹雪のカスやらクラッカーのカスやら花びらやらでゴミ箱をぶちまけたみたいになってた。
「これは三年生やなあ」
 あたしは推論を述べる。
「え、なんで三年生なんですか?」
 姫乃が丁寧な言葉で聞いてくる。姫乃が怒ったら言葉遣いが丁寧になるのを発見したけど、今の事態には関係ないのでスルー。
「三年生て、もうほとんど授業終わりやんか。授業によっては、もうお別れパーティーみたいになってるのもあるらしいよ」
「そうなんですか、でも、一応は授業なんだから、宴会グッズやら飲食物の持ち込みはいかがなものなんでしょうね……」

 ボキ!

 姫乃のモップの柄が折れた。御立腹マックスの様子。

「ジュース汚れは、コツがあるんよ」
 すみれは、モップをボトボトに濡らして駆けつけた。
「そんなに濡らして大丈夫?」
「こうやってね、とりあえずは汚れをビチャビチャにしとく」

 なんや見てると、すみれも頭にきてるように見える。汚れを拭いてるんやなくて、やけくそで水浸しにしてるだけに見えるねんもん。

「ほんなら、端の方から堅絞りのモップで拭いていって!」
 視聴覚教室の最前列で、すみれが叫ぶ。
「こんなんで……」
「あ、嘘みたい!」
 姫乃の声のトーンが変わった。コテコテやったジュース汚れが一拭きできれいになっていくではないか!
「ジュースは水溶性やから、水でふやかしてからやると楽にやれるんよ」
「なんで、こんな賢いこと知ってるんよさ!」
「弓道部やってると、いろんなことが身に付くんよ」

 すみれのお蔭で、なんとか十五分ほどで掃除は終わった。で、事件はここから。

 掃除を終えて、三人で下足室に向かった。
 下足室へは五十メートルほどの直線の廊下。
 ここは、隣のクラスが掃除の担当で、まだ掃除の真っ最中。四人の生徒がモップがけをしている。
 やっぱり汚れがひどいようで悪戦苦闘している。あたしらは、邪魔にならないように、そろりと歩く。

「「「キャー!」」」

 三人仲良く悲鳴を上げてひっくり返る。
 普通に歩いていた廊下が急にヌルヌルになって、スッテンコロリンになってしもた。
 悲劇はそれだけでは無かった。
「ウワーー!」
 すみれがバケツを蹴倒してしまい、あたしらが転んだところを中心に水浸しになってしまった。
「わーー、ごめんなさい!」
 掃除してた子らは謝ってくれたけど、あたしら三人はお尻を中心としてビッチャビチャ。
 普通やったら怒るんやけど、あたしらもジュース汚れで苦労してきたところなんで「ドンマイドンマイ」と引きつりながら下足室へ。

「ちょっと、これは風邪ひくでえ、クシュン!」

 校舎の中にいてもこの寒さ。濡れたままで帰ったら、確実に肺炎や。

「これは体操服にでも着替えて帰るしかないなあ」
「でも、それだと異装になるから怒られるんじゃない?」
 うちの学校、制服の着こなしには、あまりうるさいことは言わないけど、制服ではないものを着用していることにはうるさい。たとえ校門を無事に出ても、駅とかでは下校指導の先生がいたりする。あんな一般ピープルが大勢いてる中で怒られるのは願い下げや。
「事情言うて異装許可もらおか」
 
 で、三人揃って生活指導室へ向かった。

「スカートが短いからじゃ!」

 生活指導部長の真田先生に怒鳴られた。
 状況を的確に表現しよと思て「パンツまでビショビショなんです」と言うたことへのご返答。
 どうやら真田先生は、制服の乱れに思うところがあったようで、あたしは地雷を踏んでしもたみたいや。
「でも、ふざけたわけやなし、この子らも災難やったんですから……」
 居合わせた学年主任の畑中先生がとりなしてくれる。

「ジャージ一枚いうのは、スースーするなあ」

 とりあえず異装許可をもらって家路につく。
 ジャージ姿というのは目立つ上に寒い。いちおうマフラーやら手袋の装備は身に付けてるんやけど、この季節にはどうもね。
「ね、いっそランニングしよか」
 すみれが提案。
「ジャージ姿やねんから、元気に走った方が目立てへんで」
 さすがは弓道部、日ごろの部活から出たアイデアや。

 いち、いちに、そーれ!

 運動部共通の掛け声も勇ましく三人は走り出した。
 しかし、五百メートルほどは景気がええねんけど、運動部ではない姫乃とあたしはアゴが出てくる。
 へたりながら走ってると、これまた目立つ。
「ジャージにローファーいうのんもなあ……」
 足まで痛くなってきた。

 プップー

 横一列やったのが迷惑やったのか、後ろでクラクションを鳴らされた。
「「「すみなせーん」」」
 と、恭順の意を示すと「「「あ?」」」という声になった。

「お祖母ちゃん!?」

 なんと、見たこともないワンボックスカーの運転席でお祖母ちゃんがニコニコしてるやおまへんか!

「いやーー助かったわ!」
 いそいそと三人で三列シートに収まって安堵のため息。
「えと、そやけど、この車どないしたん?」
 いつもの軽ではないことの疑問をぶつける。

「アハハ、ちょっとワケありでなあ~」

 お祖母ちゃんは不敵に笑うのでありました……。

 
  

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高校ライトノベル・音に聞く高師浜のあだ波は・23『晩御飯はかす汁』

2018-02-26 06:22:45 | 小説6

高校ライトノベル
 音に聞く高師浜のあだ波は・23
『晩御飯はかす汁』
         高師浜駅


 きょうは一月十七日なんや。

 半分目覚めた頭で、そう思た。時計は見んでも分かってる、早朝の四時半や。

 以前は気になって問いただしたこともあった「なんで、毎年出かけんのん?」とか「あたしも行ったらあかんのん?」とか。
 そのつどお祖母ちゃんは「お祖母ちゃんの年中行事やからなあ」としか言わへん。
 静かな言い方やけど――これについては言われへん――そんなオーラがあって、いつの間にか聞かへんようになってしもた。

 せやけど納得してるわけやない。

 お祖母ちゃんは、小学一年のあたしを引き取って育ててくれた。お母さんのお母さんやから。
「聞きたいこといっぱいあるやろけど、大きなるまで待ちなさいね」
 最初に乗せられた車の中で、お祖母ちゃんは言うた。
「大きなるまでて、何歳まで?」
「うーーーん、美保がお嫁に行くときに教えたる」
 これは教える気ないなあと思た。そやかて、あたしは器量が悪い。小一あたしは一生独身やと思てたから。

 六年生までは、お祖母ちゃんが一月十七日の早朝に出かけてるのん知らんかった。
 あたしが起きる時間までには帰ってたから。

 六年生の時に阪神淡路大震災のことを習った。

「あの震災がなかったら、ぼくは学校の先生にはなってなかったやろなあ」
 担任の黒田先生が、そう言うた。
 黒田先生は、六年生の時に震災に遭うた。当時神戸に住んではったんや。
 あの震災で、黒田先生の担任の先生が亡くならはった。それで黒田少年は先生になる決心をしたんや。
 震災のことは、毎年朝礼やら集会で校長先生なんかが訓示みたいに話しするんで知識としては知ってた。
 せやけど心の痛みとして教えてくれたのは黒田先生だけやった。
「その先生は、どんな先生やったんですか?」
 掃除当番の時に聞いてみた。
「掃除終わったら職員室おいで」
 先生は卒業アルバムを見せてくれはった。
 集合写真と班別の写真に、その先生は写ってた。

 妻夫木綾

 めっちゃ若うて可愛い先生やった。
 あたしは思た……黒田先生は妻夫木綾先生を好きやったんや。
 たぶんクラスの男の子のほとんどが好きやったんとちゃうやろか。

 美人薄命……あたしは多分長生きやろなあ。

 アルバム見せただけで、先生はなんにも言わへんかった。
 ちょっと熱のこもった、ちょっと恥ずかしそう。
「ありがとうございました」
 そう言うてアルバムを返した時、先生は小さく頷いた。
 あたしは大きく頷いた。先生は可愛く狼狽えてた。
 その後先生は結婚して女の子が生まれた。
 年賀状に書かれてた赤ちゃんの名前は『綾子』やった。
 あたしは年賀状持ったまま二回前転のでんぐり返しをやった。
「ハハ、なんや林芙美子みたいやなあ」
 自分こそ林芙美子みたいに座卓で原稿書きながら、お祖母ちゃんが言うた。

 このクソ寒いのに、全校集会。

 校長先生が長々と震災の話をする。
 命の大切さと、国家的危機における日本人の秩序正しさとかの内容を気持ちよさそうに話す。
 途中気分の悪なった女子が保健室に連れられて行った。校長先生は、かすかに嫌な顔をした。

 家に帰ると、晩御飯はかす汁。

 かす汁は、あたしも好物で、お祖母ちゃんの冬のメニューの定番。
「お祖母ちゃん、一月十七日は、いっつもかす汁やなあ」
「え、そうか?」
「うん」
「せやかて、美保、好きやろ?」
「うん、大好物」
「そら良かった」
「ひょっとして、震災の日ぃもかす汁やったん?」

 お祖母ちゃん、眼鏡を外してセーターの袖口でこすった。
「湯気で眼鏡が曇ってしもた、目ェにも入ってしもた」

 うそ、眼鏡は曇ってなんかなかったよ、お祖母ちゃん……。
 

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高校ライトノベル・音に聞く高師浜のあだ波は・22『視聴覚教室の余熱が冷めるまで』

2018-02-25 06:26:32 | 小説6

高校ライトノベル
 音に聞く高師浜のあだ波は・22
『視聴覚教室の余熱が冷めるまで』
         高師浜駅



 アホって言っちゃダメだよ!

 姫乃がホットカフェオレのパックを三つ持って真剣な顔で割って入ってきた。


「え、あ、えと……そんな深い意味は無いから~」

 すみれがユル~ク返す、放課後の視聴覚教室。
 当番の掃除は終わったんだけど、六時間目の暖房の余熱が残っている視聴覚教室から出るのが惜しくて、一番後ろの席でダベッテいたんです。
 なんで一番後ろの席かと言うと、視聴覚教室は階段状になっているので、暖められた空気は最上段の後ろの席にわだかまっている。
 別に、その理屈を考えた上とはちゃうねんけど、ま、猫が自然に部屋の一番温いところで寝そべるのと同じ感覚。そういや、すみれはスレンダーな体つきで目が大きくて、なんや猫のイメージ。あたしは、どっちか言うと、ややタレ目のタヌキ顔やねんけど、だらしなくクターとしたとこは我ながら猫じみてる。

 あ、そーそー、なんであたしがアホと言われたか。

 そもそもは「きょうはメッチャ寒いねぇーー!」という話から。

 そもそも視聴覚教室に居続けしてるのは、他の教室も廊下もクソ寒いから。で、温かいもん飲みたいね~ということになって、三人でジャンケン。で、姫乃が三本勝負の果てに食堂の自販機までホットカフェオレを買いに行くことになった。
 で、姫乃が買い出しに行っている間に「大晦日でも、こんなに寒むなかったな~」という話になり、それから紅白歌合戦の話題になった。

「オオトリのスマップはメッチャ感激やったねーーー!!」と、あたしが言うと。
「え、紅白にスマップは出てへんよ」と、すみれが変なことを言う。
「なに言うてんのよ、NHK始まって以来のサプライズでNHKホールは興奮の渦やったやんか!」
「しっかりしいや、それ、どこのNHKやのん?」
「日本のNHK!」
「スマップは解散してからは、メンバー揃て露出することはあれへんねんで」
「せやさかいにサプライズやったんやんか!」
「紅白の時間帯、スマップは高級焼き肉店でメンバーだけでお別れ会やってたはずやで」
「せやかて、お祖母ちゃんも感激して二十歳は若返ったよ!」
「も、て、ホッチも若返ったんかいな」
「ハイな! 若返って剥きたてのゆで卵みたいやったわさ!」
「あんたがニ十歳若返ったら消滅してしまうでしょーが!」
「あ、いや、それは言葉の勢いで、ほんまにスマップの『世界に一つだけの花』は感激やってんさかい!」
「ちょ、ホッチ、あんたほんまにアホとちゃう!?」
「ア、アホとはなんやのん、アホとは!」
「せやかて、アホとしか言いようがない!」

 で、ここで姫乃が帰って来たというわけです。

「アホというのは、東京弁ではバカのことやし」
 と、回りまわって説明すると。
「なんだ、バカなんだ」と、なんでか納得しよる。
「ちょ、トドメのバカで納得せんとってくれる」
 大阪の人間に「バカ」は侮辱の言葉や。
「そういう意味じゃなくって」
 で、それから十分ほどかけて関東と関西における「バカ」と「アホ」との温度差を理解したのだった。

「だけど、紅白にスマップが出てたというのはありえないわよ」

 姫乃が異議を唱えて、あたしの分はいっぺんに悪くなった。
「ほんならネットで検索して確かめよう!」
 ということで、三人スマホで検索してみた。

 ほんまにビックリした。スマップは紅白には出てへんのです!

 ハックション!

 もうちょっと調べて論議しよと思たら、三人仲良くクシャミになりました。
 気が付くと、さすがの視聴覚教室の余熱もすっかり冷えてしもてました。

 しかし、なんで、うちとこのテレビだけ紅白にスマップが出てたんやろ……。

 

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