大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 28『剣術修業・1』

2021-09-01 13:48:54 | ノベル2

ら 信長転生記

28『剣術修業・1』  

 

 

 

 読者諸子、三白眼というのを知っているか?

 

 人の目というのは瞳と白目でできている。

 瞳と白目の割合は1:2で、真ん中に瞳があって、左右に白目というのが基本だ。

 簡略に描くと皿という字になる、中央が瞳、両脇が白目だ。

 しかし、中には瞳が小さく、小さな瞳の下にも白目が見える者がいる。

 こういう者の目を三白眼という。

 

 凄みのある目で、戦場で出くわした敵が、こういう目をしていると、それだけで半端ではない威圧感。気弱な足軽なら、それだけで腰を抜かす。

「……この子三白眼だ」

 アニメを観ていた市が呟いた。

『〇から始める異世界生活』という人気アニメで、手下の生徒たちに評判だと言うので献上させたDVDで観ているのだ。

 主役の少年が、異世界で活躍すると言う転生ものらしいが、よく分からん。

 よく分からんが、三白眼でとっつきが悪そうなことは、0・1秒見ただけで分かった。

「あんたのとは違って、この子の三白眼は、健気で真剣な三白眼だ」

「で、あるか」

「この不器用な一生懸命さは男らしいよ……」

 もう返事はしてやらない。

 

 俺も、たまに三白眼になる。

 

 猛烈に腹が立った時だ。

 荒木村重や浅井長政が裏切った時、叡山の坊主どもを焼き殺した時、弟の信行をぶち殺した時とかな。

 いわゆるキレた状況になると、三白眼になるらしい。

「ふーん、お兄ちゃんて、黒目が小さくなるんだ!」

 舅の斎藤道三が殺された時もキレた。

 俺は道三が好きだったからな、マジでぶちぎれた。

 重臣どもは息をつめ、お調子者のサルでさえ言葉を失いおった。

 それが、まだ幼かった市が、トコトコ寄ってきて、俺の顔をしげしげ見て感心しおった。

 初めて、自分の三白眼を意識したが。気に病むようなことは無かった。

 主役少年への市の共感は、俺への屈折した感情があるんだろうが、相手にはしない。

 

 屈折しているから、反応も屈折したものになり、ひどく物言いが面倒臭くなる。

 こういうことは敦子に任せて部活にいく。

―― え、あたし!? ――

 聞こえたような気がしたが、ムシムシ。

 

 天下布部

 

 近ごろの部活の場所は一定ではなく、必要に応じて使用する場所に看板を掛けておく。

 利休が茶華道部の枠を超えて気に掛けてくれているのだ。

 世話係りは、最近正体が分かった古田織部に引き受けさせ、事前の準備や設営に抜かりもない。

 

 今日の部活は玄関前集合だ。

 

「今日は、剣術をやります」

 織部は、そう言うと、看板を持ったままスタスタ歩き出す。

 校舎に入ることもせず、体育館に向かう気配も無い。

 並の生徒なら、剣道なら体育館か剣道場と思って織部を呼び止めるだろうが、俺も信信(信玄・謙信、きちんと言うとめんどくさいので縮めた)も黙って付いていく。

 織部は『剣道』ではなく『剣術』と言ったのだ。

 剣術は、人を切り殺すことを目的とした戦闘術で、竹刀を振り回して得点を競う柔なスポーツではない。

 そして、実戦での切り合いは99%屋外で行われる。

 

「ここでやります」

 

 織部が茶道の亭主のように折り目正しく礼をして立ち止まったのは、新旧の校舎や施設が入り混じったところで、整った学院の敷地の中では、少々複雑な構成になっている。

 市街戦や城内での戦闘を想定するにはピッタリの場所だ。

「儂なら、バックネットあたりに伏兵を配置して、グラウンドに誘導し、鶴翼の陣に誘い込んで殲滅戦をやるなあ」

「わたしなら、旧校舎の東西に敵を誘導して、分裂させてから各個撃破だ」

「お気持ちは分かりますが、今日は戦術ではなくて、個人の戦闘術を勉強いたしますのです(^_^;)」

「であるか」

 俺が納得すると、信信も鷹揚に頷いて、余裕の表情……いや、こんな勝負、勝っても負けても関係ねえという顔だ。

「あちらが、今日の講師を引き受けてくれた三年生の方です」

 織部が指示した先には旧校舎を半ば取り巻くようにして作られた池があり、旧校舎の向こうから一艘の船がしずしずとやってくる。

 船頭が櫂の先で池の縁をコツンと突いて行き足を殺す。同時に、櫂を削って作った木刀を両手に構えて、一人の女生徒が飛び降りてくる。

 名乗りを聞かなくても、その鳶色の三白眼で分かった。

 どこの部活にも加わらず、授業もろくに受けないで、ひとり、剣術修業に打ち込む孤高の剣術士。

「わたしが、宮本武蔵だ」

 美少女ばかりの転生学院でも、ひと際目立つ小兵の超美少女。

 

 ほんの瞬間だけど、身が震える。

 

 市には内緒な。

 

☆ 主な登場人物

  •  織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
  •  熱田敦子(熱田大神)  信長担当の尾張の神さま
  •  織田 市        信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)
  •  平手 美姫       信長のクラス担任
  •  武田 信玄       同級生
  •  上杉 謙信       同級生
  •  古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  •  パヴリィチェンコ    転生学園の狙撃手
  •  二宮忠八        紙飛行機の神さま

 

 

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ライトノベルベスト『しつこいんだよ先生・3』

2021-09-01 06:16:42 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『しつこいんだよ先生・3』    

 




 要は飽きたんだな。

 美紀は、ホテルの部屋に入ってたじろいだが、おれがベッドの方には寄らず、ソファーで話を聞き続けると、ホッとしたような顔になった。

 で、今の一言で、美紀の混乱は、半分がとこもどってきた。これも予定通り。

「飽きたっていうんじゃないよ」

「いろんな人とつきあってみたいっていうのは、おれには飽きたっていうふうにしか聞こえない」

「だから、亮介のことは好きだって。でも、好きだから、亮介一人としか付き合わないっていうのは飛躍を感じるの。お互いフリーな部分は残しておいた方がいいと思う。だって、あたしたち、まだ十七歳なんだから」

「おれは、まだ、自分自身の半分も美紀に見せていない。美紀もおれのこと半分も知らない。これで、お互い他の人とも付き合いましょうってのは、体のいい別れ話だと思う。古臭い言い方だけど、少しは、おれに愛を感じてくれてるのかな? むろん、おれは、美紀のこと愛してる」

「うん。その気がなきゃ、学校中抜けして、こんな場所に来たりしない」

「じゃ、こっちこいよ」

 おれは、ベッドの方に移って美紀を誘った。美紀はうつむいたままソファーを動かない。

「コミニケーションだけって言った」

「コミニケーションというのは話だけじゃない。おれたち、たった一回キスしただけじゃないか。おれは、もう少し美紀のことを知っておきたいんだ……」

 そう言うと、美紀をお姫様抱っこして、いっしょにベッドに倒れこんでやった。

「だめ、だめだよ、こんなの!」

「でも、愛してくれてるんだろ? 愛の手前には、どうしても通っておかなきゃならないところがあるんだ」

「な、なに、それ?」

「I(アイ)の一つ前はHだ!」

「ハハハ、なに、それ?」

 美紀は、一瞬警戒を解いて面白そうに笑った。おれは美紀の、こういうセンスが好きなんだ。

 それで、おれは美紀の右の胸をやさしく掴んだ。こんなにハリがあって柔らかいものに触ったのははじめてだ。

「だ、だめだって……」

 美紀は、そっとおれの腕を掴んで、自分の胸からどける。自分でも、とても切ない顔をしているのが分かった。美紀の目が済まなさそうに潤んでいる。

「いいよ。分かった。おれ、好きな女の子が嫌がることはしないよ。そういう征服するようなやり方は好きじゃないから」

「ごめん、亮介……」

「今なら、四時間目には間に合う。いこうか」

 美紀は、コックリうなづいた。

 ホテルの駐車場に戻ると、またメールが入ってきていた。

――亮介クン、いったいどこの病院に行ってるのかなあ?――

 また副担のネネちゃんだ。

――いま病院出たとこです。調子よかったら昼からでも学校いきます――

 ちょっと、今日のネネちゃんはしつこい。

 乱暴にスマホをしまうと美紀を後ろに乗せて鈴木オートにもどった。

「お、早かったじゃないか」

「うん、お互い理解力があるから」

「お、さっき亮介の副担任て先生がきたぞ。出張のついでだって言ってたけどな」

「え、ネネちゃんが?」

「若いが、凄腕みたいだな。亮介クン来ましたよね? っていきなりさ」

「え、で、鈴木さん、どう答えたの?」

「病院行く前に顔出してきましたって。おれ、ああいうとこは体使って心を癒す病院だと思ってっから」

 鈴木さんもなかなかだ。

「でもよ、ここアルバイトに女子高生使ってます? って聞かれたときはドキッてしたぜ、まるで事務所の……」

 事務所から、美紀が制服に着替えて戻ってきた。

 美紀をバイクの後ろに乗せてもどった。背中だけで感じる胸の感触は物足りなかった……なんてな。

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