大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

かの世界この世界:164『瀕死のトール元帥』

2020-12-31 13:02:57 | 小説5

かの世界この世界:164

『瀕死のトール元帥』語り手:テル    

 

 

 ドオオオオオオオオオオオオオオオオン!

 

 少年巨人族のアドバイスで野営のテントを張り終えたとき、森の中央あたりでとんでもない音がした。

「え、なに?」

 ペグを打つ手が止まって、目を向けた時にはヒルデも少年巨人族も駆け出している。

「テル、行くよ!」

「うん!」

「わたし」

「ユーリアと少年は残れ!」

 ペグもハンマーも放り出し、テルと並んでカテンの森を奥に向かって掛け進む。

 ヒルデたちの姿は見えなくなっているけど、森の真ん中と思われるあたりから煙が立ち上っているので、それを目当てに奥を目指す。

 奥に近づくにしたがって、鉄と油と肉の焼ける臭いが濃くなって、すこし息苦しく、目もシカシカしてくる。

 うわあ…………(;'∀')

 言葉にならなかった。

 小学校の校庭ほどに木々がなぎ倒され、その木々を押しつぶしたり下敷きになったりして数十両の戦車が擱座している。煙や炎を噴き出しているもの、これでも戦車かと目を疑うようなひしゃげ方をしたものばかりで、まともなものは一両もないありさまだ。

 そして、その戦車のことごとくがトール元帥の部隊の所属を示すミョルニルハンマーのマークがついている。火や煙を噴いている車両からは肉の焼ける臭いがして、戦車の周囲には半ば焦げた戦車兵たちの骸が転がっている。

「あ、あそこに!」

 タングリスの声がして、わたしとテルも、そこを目指した。

 砲塔が吹き飛んだ五号戦車の横にトール元帥が横たわっている。

「元帥、しっかりしてください!」

 タングリスが駆け寄ってトール元帥を抱き起す。ヒルデは比較的無事な車両からAEDを取り出して、元帥の軍服の胸をはだけようとする。

「姫、そのようなものでは、もう間に合いません……」

「元帥!」

「わたしの手にも負えないところまで来ております、なんとかカテンの森まで撤退してきましたが……ここまでです……姫たちはお逃げなさい……別の次元に……異世界に……」

「じい、死ぬな!」

「間もなく、敵の追手が……」

「元帥!」

 ちょっと違和感……トール元帥が普通の人間の大きさになってしまっているのだ。

 そうか、デミゴッドの呪いめいたものが元帥にまで影響しているんだ。

 若返って消えてしまわないのは、トール元帥の神性によるものなのかもしれない。

「元帥、タングニョーストは?」

「激戦の中で行方がしれん……おそらくは、わしの退路を確保するために……」

「元帥、アルティメイトリカバリーを」

「タングリス!」

 ヒルデが目をむき、元帥が息をのんだ。

「このために、自分は存在しているのです」

 そう言うと、タングリスは軍服を脱ぎ始めた。

「タン……グリ……」

 数秒で美しい裸身を晒したタングリスはトール元帥の上に覆いかぶさっていく。

「お、おまえらは見るな!」

 わたしたちの存在に気付いたヒルデが小さな体を張って隠そうとする。

「あ、あわわわ……」

「すまない!」

 ショックを受けているケイトを引きずって焦げた木の陰に隠れる。

 

 ア! アッ! アア……アアアア……!

 

 苦痛とも喜悦ともとれるタングリスの声が森の中に木霊する。

 この声を聞いてはいけない! 聞かせてはいけない!

 テルの頭を抱えるようにして木陰に蹲った。

 

 

☆ ステータス

  •  HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
  •  持ち物:ポーション・300 マップ:13 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)
  •  装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
  •  技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
  •  白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
  •  オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)  思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  •   テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
  •  ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
  •  タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
  •  タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
  •  ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
  •  ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態

―― この世界 ――

  •  二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
  •   中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  •   志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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妹が憎たらしいのには訳がある・16『グノーシス・片鱗』

2020-12-31 06:13:25 | 小説3

たらしいのにはがある・16
『グノーシス・片鱗』
          

 

 


 大きな破片が目の前に迫ってきた!

 まともに食らったら死んじまう!

 思わず目をつぶる……直後に来るはずの衝撃やら痛みが来ない。
 薄目を開けると、破片が目の前二十センチほどのところで止まっている。
 ショックのあまりか、体を動かせず目だけを動かす。

 ……時間が止まっている。

 様々な破片が空中で静止し、逃げかけの生徒が、そのままの姿でフリ-ズしている。
 加藤先輩は、一年の真希という子の襟首を掴んで、中庭の石碑の陰に隠れようとしている。ドラムの謙三は、意外な早さで、向こうの校舎の柱に半身を隠す寸前。祐介は、途中で転んだ優奈を庇った背中に、プロペラの折れたのが巨大なナイフのように突き立つ寸前。まるで『ダイハード』の映画のポスターを3Dで見ているようだ。

 目の前の破片がゆっくりと横に移動した……破片は、黒い手袋に持たれ、俺の三十センチほど横で静止した。当然手だけが空中にあるわけではなく、手の先には腕と、当然なごとく体が付いていた。

 黒いジャケットと手袋という以外は、普通のオジサンだ。なんとなくジョニーデップに似ている。
「すまん、迷惑をかけたな」
 ジョニーデップが口をきいた。
「こ……これは?」
「ボクはハンスだ。ややこしい説明は、いずれさせてもらうことになるが、とりあえず、お詫びするよ」
「これ……あんたが、やったのか!?」
「いや、直接やったのはぼくじゃない。ただ仲間がやったことなんで、お詫びするんだよ……もう正体は分かってるぞ、ビシリ三姉妹!」

「……だって」
「……やっぱ」
「……ハンス」

 柱の陰から三人の女生徒が現れた。さっき俺がお尻に目を奪われ、優奈にポコンとされた三人だ。
「まだ評議会の結論も出ていないんだ。フライングはしないでもらいたいね」
「まどろっこしいのよ、危険なものは芽のうちに摘んでしまわなくっちゃ!」
 真ん中のカチューシャが叫んだ。
「あの勇ましいのがミー、右がミル、左がミデット。三人合わせてビシリ三姉妹」
「美尻……?」
「ハハ、いいところに目を付けたね。あの三姉妹は変装の名人だが、こだわりがあって、プロポーションはいつもいっしょだ。スーパー温泉、電車の中、そしてこの女生徒。みんな、この三人組だよ」
「おまえらがやったのか、こんなことを!?」
「まあ、熱くならないでくれるかい。あと四十分ほどは時間は止まったままだ。その間にキミにやったように、ここの全員の危険を取り除く。太一クン、キミはその間に妹のメンテナンスをしよう。今度はレベル8のダメージだろう。ほとんど自分で体を動かすこともできない。保健室が空いている。ほら、これで」
 ハンスは、小さなジュラルミンのトランクのようなものをくれた。
「要領は知っているな、急げ。ここは、わたしとビシリ三姉妹で片づける。さあ、ビシリ、おまえらのフライングだ。始末をつけてもらおうか!!」
「「「はい!」」」
 美尻……いや、ビシリ三姉妹がビクッとした。

「メンテナンス」

 そう耳元でささやくと、幸子の目から光がなくなった。だけどハンスが言ったようにダメージがひどく、幸子は自分で体が動かせない。しかたなく、持ち上げた。思いの外重い。思うように持ち上がらない。
「幸子の体重が重いんじゃない。死体同然だから、重心をあずけられないんだ。こうすればいい……」
 ハンスは、幸子を背負わせてくれた。
「せっかくなら、運んでくれれば」
「血縁者以外の者が触れると、それだけでダメージになるんだ。すまんが自分でやってくれ」

 保健室のベッドに寝かせ、それからが困った。前のように、幸子は自分で服を脱ぐことができない……。

「ごめん、幸子」
 そう言ってから幸子を裸にした。背中の傷がひどく、肉が裂けて金属の肋骨や背骨が露出していた。
「こんなの直せんのかよ……」
 習ったとおり、ボンベのガスをスプレーしてやった。すると筋肉組織が動き出し、少しずつ傷口が閉じ始めた。脇の下が赤くなっていた。さっきハンスが背負わせてくれたとき触れた部分だ。そこを含め全身にスプレーした。やっぱ、他人が触れてはいけないのは事実のようだ。
「ウォッシング インサイド」
 幸子の体の中で、液体の環流音はしたが、足が開かない。すごく抵抗(俺の心の!)はあったが、膝を立てさせ、足を開いてやり、ドレーンを入れてやった。
「ディスチャージ」
 幸子の体からは、真っ黒になった洗浄液が出てきた。
「オーバー」

 幸子の目に光が戻ってきた。

「早く服を着ろよ」
「ダメージ大きいから、まだ五分は体……動かせない」
 仕方がないので、下着だけはつけさせたが、やはり抵抗がある。
「……オレ、保健室の前で待ってるから」

 五分すると、ゴソゴソ音がして、幸子が出てきた。なぜか、ボロボロになった制服はきれいになっていた。
「服は、自分で直した。中庭にもどろ」
 憎たらしい笑顔……どうも、これには慣れない。

「あなたたち、グノーシスね」

 中庭での作業を終えたハンスとビシリ三姉妹に、幸子が声をかけた。
「……ぼくたちの記憶は消去してあるはずだが」
「わたし、メタモロフォースし始めている。グノーシスのことも思い出しつつある」
「悪い兆候ね……」
 ビシリのミーが言った。
「どうメタモロフォースしていくかだ。結論は評議会が出す。くれぐれも勝手なことはしないでくれよビシリ三姉妹」
「評議会が、ちゃんと機能してくれればね」
「とりあえず、ぼくたちはフケるよ。二人は、あそこに居るといい」
 ハンスは、視聴覚教室の窓の真下を指した。
「あんな、危ないとこに?」
「行こう、あそこが安全なのは確かだから」
 幸子が言うので、その通りにした。
「もっと、体を丸めて。この真上を破片が飛んでくるから」
 幸子に頭を押さえつけられた。その勢いが強いので、尻餅をついた。
「では、三秒で時間が動く。じゃあね……」
 そういうと、ハンスとビシリ三姉妹が消え、三秒後……。

 グワッシャーン!!!!!!!

 バグっていたアクション映画が、急に再生に戻ったような衝撃がやってきた……。

 

 

※ 主な登場人物

  • 佐伯 太一      真田山高校二年軽音楽部 幸子の兄
  • 佐伯 幸子      真田山高校一年演劇部 
  • 大村 佳子      筋向いの真田山高校一年生
  • 大村 優子      佳子の妹(6歳)
  • 学校の人たち    倉持祐介(太一のクラスメート) 加藤先輩(軽音) 優奈(軽音)
  • グノーシスたち   ビシリ三姉妹(ミー ミル ミデット) ハンス

 

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やくもあやかし物語・45『虹色のヘアピン』

2020-12-31 05:52:22 | ライトノベルセレクト

物語・45

『虹色のヘアピン』      

 

 

 ペットショップが火事になるなんてめったにあることじゃない。

 

 でも、じっさい火事はおこってしまって、わたしのところに来るはずだった子ネコは焼け死んでしまった。

 だから、お父さんはアノマロカリスのお腹に入れたままになっていた手紙の事を言わなかったんだ。わたしは、アノマロカリスのお腹に俺妹女子キャラの縫いぐるみがあることさえ気づかない鈍感だ。鈍感はいいことじゃない。でも、鈍感だったから子ネコが焼け死んだことを知らずに済んだ。知ってしまったら、今よりもずっとナイーブだったわたしは耐えられなかっただろう。

 お父さんも忘れっぽかったんじゃない。

 知ってしまえば、わたしが傷つくことを分かって、あえてほっぽらかしにしたんだ。やさしい心遣いをしていたんだよね。

 でも、それだけ優しい心遣いができるのにさ、どうして離婚することになったんだろう……。

 いけないいけない、そのことを考えられるほど大人にはなっていないよ。

 

 ここで思考を停止して帰りの電車に乗る。

 

 なんだか簡単に見えるけど、そうじゃない。

 ペットショップの跡地の前で十分以上も呆然としていたし、それからもまっすぐ帰らずに街をうろついた。ウインドショッピングしてファンシーショップで少し買い物をした。女の気分転換にはショッピングが一番。以前は軽蔑したお母さんのモットーが正しいことを認識した。正しいと言っても中学生だから大人買いはできない、お小遣いと相談の上TPOを考えなければならないんだけどね。とりあえず、今日はいいんだ。

 電車に乗って気が付いた。

 いちばん可哀そうなのは焼け死んだ子ネコだ。

 かってもらえると(買うと飼うを兼ねてる)分かって、どんな家にかわれるんだろう? まさか、あのおじさんじゃないよね。しげちゃん(お店のスタッフ、とってもわたしらに愛情をもってくれている)との話でも「うちの娘が……」とか言ってたし、どんな娘さんなんだろ? 猫っ可愛がりしてくれるといいなあ♡ とか思ってたんだろうなあ。それが、あんな火事に遭ってしまって、あたし、まだ名前も付けてもらってなかったんだよ、名無しのニャンコ……生後三十日の命だったんだよ……。

 そんなこと思ってると、とても悲しくなって涙が止まらなくなった。

 オイオイ泣くもんだから他の乗客さんたちが変な目で見てる。前の座席のオバサンなんか――どうしたの?――という顔になってる。声を掛けられたら面倒だし恥ずかしいし……三つ目の駅で降りてしまった。

 駅のベンチに座っても涙が止まらない。

 三歳くらいの女の子が、しゃがみ込んで、わたしの顔を見ている。

 気配が無かったので正直びっくり。反射的に立ち上がってホームの階段を目指す。

「おねーちゃーん」

 あの子が呼んでる。

 みっともないので改札を出てしまう。ファンシーショップの袋が破れていて買ったばかりのアクセを一個落としてしまった。

 虹色のハートが付いたヘアピン。お気にだったけど仕方ない、いまさらもどれないよ。

 仕方ない、一駅歩いて電車に乗りなおそう。

 とぼとぼ歩くと背中をツンツンされた。

「落っことしたです、おねえちゃん」

 さっきの女の子が小袋をフリフリ捧げ持っている。

「え、あ、いいわよ。やさしく気遣ってくれたからお礼にあげる」

「あ、でも……」

「いいわよ、取っておいて」

「そう……ありがとうおねえちゃん!」

 もらうことに決心すると、小袋からヘアピンを取り出した。

「うわーー、とってもキレイ!」

「よし、髪につけたげよう」

 つけてやると、ピョンピョン跳ねて喜んでくれる。思わず写メを取る。

「あたし、えりか。おねえちゃんは?」

「やくも」

「やくもおねえちゃん。うん、いい名前だ。じゃ、まったね~」

 ピョンピョンとスキップして行ってしまった。

 ケリがついたんだから目の前の駅に戻ってもよかったんだけど、次の駅まで歩くわたしだった。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君       図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん      図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け
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まりあ戦記・050『三人姉妹』

2020-12-30 10:54:25 | ボクの妹

・050

『三人姉妹』   

 

 

 今日からは中原君といっしょに学校に行ってもらう。

 

 それだけ言うと金剛特務少佐は回れ右してエレベーターの方に歩き出した。

「え、ええ?」

 それだけ言うのが精いっぱい。ズカズカ進む後姿は『だまって俺に付いてこい』オーラが燦然と輝いていて、グイグイ引っ張って行かれる感じになる。

 ガチャリと音がしたかと思うと、中原少尉がドアを施錠。いつのまに入ったのか、手にはわたしの通学カバンとローファー。わたしは、ちょっと顔を出すぐらいのつもりだったからサンダルを履いているんだ。

 エレベーターの中では無言だったけど、エントランスから駐車場に行く間に少佐はガンガン説明……というよりは命じてくる。

「今日からは中原少尉ともいっしょに通ってもらう」

「え、どこに?」

「学校に決まってる。少尉、カバンを渡せ」

「はい!」

「あ、ども…中原さん、その姿!?」

 通学カバンを渡してくれた中原少尉は、いつの間にかトレンチコートを脱いでいて、あろうことか、わたしと同じ第二首都高の制服になっている。

「今日から同じクラスです、よろしくお願いします!」

「は、はあ……」

「高安大尉からくれぐれもと警護を頼まれている。いくらなんでも、わたしが高校生になるのは無理があるからなア」

「は、はあ……」

「同じ学校に通えば、おのずと気心も知れて万全の警護ができる。少尉、靴も履き替えさせろ」

「は!」

 ローファーを差し出され、その場で履き替える。

「人は足元を見る、まりあは少尉の足元を見過ぎたしな」

 ウウ……たしかに、中原少尉には迷惑かけた。

「今日は俺が学校まで送っていく、明日からはおまえたちだけで行くんだ」

 おまえたち……なんか違和感。

「さ、あれに乗れ」

 少佐は、駐車場の隅に停めたRV車を顎でしゃくった。

 ドアを開けて驚いた( ゚Д゚)!

 

「おはよう、おねえちゃん(^▽^)!」

 

 ビックリした! 後部座席にナユタが同じ首都高の制服を着てニコニコ笑っているしい!

「なんで、あんたが……」

 車に右足入れたまま固まってしまった。

「おまえたちって言ったろう、今日から、三人姉妹だ。はやく乗れ」

「三人姉妹?」

「さすがはまりあおねえちゃん!」

「な、なにが?」

「清純派の白パンだ」

「う(#'∀'#)」

 反射で左足も車内に突っ込んで、車に乗り込んでしまう。

「うお!」

 同時にRV車は急発進、反動でドアが閉まって、あっという間に駐車場を飛び出していく。

「さすがにアグレッシブ!」

「なにがあ!?」

「ふつう、ああ言われると、右足ひいて車から出ちゃうんだけど、まりあおねえちゃんは、とっさに乗り込んだ!」

「あ、ああ、たまたま、たまたまよ(^_^;)」

「グ、グフフフ」

 中原少尉が笑いをこらえている。今まで、あれこれやられたことをナユタが仕返ししているようでうれしいんだろうなあ……クソ!

 学校に着いて、さらに驚いた。

「なんで、着いてくるの!?」

 中原少尉とナユタがいっしょに階段を上がって来るのだ。

「同じクラスですから」

 少尉は緊張した笑顔で、ナユタは、その横でピースサインをしている。

 で、さらに驚いたのは階段を上がって角を曲がったところ。

「な、なんで……(;'∀')」

 教室の前に担任と並んで少佐が立っているのよ!?

「保護者として挨拶するんだ」

「え、ええ!?」

 保護者?

「じゃ、中に入ってください」

 担任がドアを開けると、クラスメートみんなの視線が集まる。

「今日から、安倍まりあが復帰します。それと、転入生が二人、このクラスに入ります。じゃ、お父さんから、お話を」

「特務旅団の金剛少佐だ、今日から娘三人が世話になる。向かって左から長女の阿部まりあは知ってるな、病気が治って復帰だからよろしく。その横が次女の中原光子、そのまた横が三女の冷泉なゆただ。三人とも苗字が違うのは養女だからだ。養父は、このわたし、金剛武。事情は察してくれ、じゃ、よろしくな」

 そこまで言うと、少佐はビシッと敬礼を決めて、さっさと教室を出て行った。

 教室のみんなは呆気にとられ、そのあと、三人それぞれ挨拶したんだけど、もう、なにがなんやら憶えていない。

 その中で、親友の釈迦堂さんだけが、興味津々と目を輝かせていたよ……。

 

 

 

 

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妹が憎たらしいのには訳がある・15『リアル墜落』

2020-12-30 06:59:41 | 小説3

たらしいのにはがある・15
『リアル墜落』
          

  


 幸子は、また路上ライブを始めるようになった。

 ただ、前回のように無意識な過剰適応でやっているわけではなく。しっかり自分の意思でやっている。
 また、演奏する曲目も「いきものがかり」にこだわることなく、そのときそのときの聴衆の好みにあわせているようで、流行のAKRやおもクロ、懐かしのニューミュージック、フォークや、どうかすると演歌まで歌っていることがある。
 そして、場所は地元の駅前では狭いので、あべのハルカスや、天王寺公園の前など、うまく使い分けている。パーッカッションを兼ねて佳子ちゃんが見張りに立ち、お巡りさんがやってくると場所替えをやる。
 過剰適応ではないので口出しはしない。幸子は、そうやって自分に刺激を与え、自分の中の何かを目覚めさせようとしているように思えるからだ。

「サッチャン、なかなええやんかあ(o^―^o)」

 加藤先輩が動画の幸子を見ながら頬杖をついた。
 加藤先輩は、ご機嫌がいいと頬杖になる。演奏中だったりすると、肩から掛けたアコステの上で腕組みしたりする。そういうマニッシュなとこと乙女チックなとこが共存しているのが、この先輩の魅力でもある。
「みんなも、よう観とき。このノリと観客の掴み方は勉強になるで」
 加藤先輩は、パソコンの動画を大型のプロジェクターに映した。
 視聴覚教室にいるみんながプロジェクターに見入った。
「かっこええなあ……」
「ノリノリや……」
「やっぱり、お客さんがおると、ちゃうなあ」
「ハハ、祐介は、お客さんがいててもいっしょやで」
「そうや、祐介はただの自己陶酔や」
 視聴覚教室に笑いが満ちた。

 当の本人はケイオンの活動日ではないので演劇部の練習をしている。

――あいつら、なんでトスバレーなんかやってんだ――
 窓から見える中庭で演劇部の三人がトスバレー……と思ったら、エアートスバレーだった。ボール無しでバレーをやっている。
――あれか、無対象演技の練習というのは――
「どれどれ」
 優奈たち女の子が興味を持って見始めた。それに気づいて幸子が手を振る。仕草が可愛く、ケイオンの外野が「カワユイ~」なんぞと言い出した。あれがプログラムされた可愛さであることを知っているのは俺だけだ。
「これからエアー大縄跳びやるんです。よかったら、いっしょにやりませんか?」
「面白そうやん!」
 加藤先輩が、窓辺で頬杖つきながら応えた。

「ああ、また山元クンで絡んでしもた!」

 不思議なもので、縄はエアーなのに、みんな、この見えない縄に集中している。で、さっきから、演劇部の山元が何度も絡んで失敗になる。このエアー縄跳びは幸子のマジックではない。ちゃんとした芝居の基礎練習なのだ。ケイオンのみんなが加わったので、場所もグラウンドに移し、四十人ほどのエアー大縄跳びになった。チームも二つに分けて競争した。連続十五回で幸子たちのチームが勝ってグラウンド中が拍手になった。
「ああ、もう息続かへんわ……」
 加藤先輩たちが陽気にヘタってしまった。

 そんな俺たちに注がれる視線に微妙な違和感を感じた。

 違和感の方角には三人の三年生女子がいた。他のみんなのようににこやかに、俺達をみていたが、ヘタったので、笑いながら、食堂の方に行った。
 その後ろ姿……正確にはお尻に目がいった。どうして、このごろ形の良いお尻に目がいってしまうんだろう。
「どこ見てんねん!」
 優奈に、頭をポコンとされる。
「よかったら、サッチャンのライブの動画見ない?」
 加藤先輩の気まぐれ……発案で、ケイオン、演劇部合同で幸子のライブ鑑賞会になった。
「ヤダー、恥ずかしいです」
 幸子は、新しくプログラムした可愛さで照れてみせた。ボクには優奈と六歳の優子ちゃんのそれを足して二で割ったリアクションであることが感じられた。知らないみんなはノドカに笑っている。空には、そのノドカさを際だたせるように、ゆったりと八尾飛行場に向かう軽飛行機の爆音がした。

 ……それは動画を再生しはじめて五分ほどして起こった。

 みんな逃げて!!

 演奏を中断して幸子が叫んだ。飛行機の爆音が微かにしていたが、幸子が暗幕ごと窓を開けると、軽飛行機が上空で鮮やかな捻りこみをやって、この学校、いや、視聴覚教室を目がけて突っこんでくるのが分かった。


 こういうとき、人間というのは急には動けないものであることを実感した。
「みんな、窓から飛び降りて!」
 幸子が反対側の窓を全部開けて叫んだ。視聴覚教室は一階にあるが、窓の位置が少し高く、女の子は躊躇してしまう。
「男子が先。で、下で女子を受け止めて!」
「よっしゃ!」
 男子たちが叫び、女子が飛び降りる。躊躇する女子は幸子が放りだす!

 爆音が、すぐそこまで迫ってきた!

「お兄ちゃんも早く」
 ニクソイ冷静さで言うと、幸子はボクを窓の外に放り出した。景色が一回転して中庭の植え込みに落ちた。目の端に窓辺に片脚をかけて飛び出そうとする幸子が見えた。パンツ丸見え……そう思ったとき、視聴覚教室に飛行機が突っこんだ。

 爆発!

 炎と破片と共に幸子は吹き飛ばされた。幸子は中庭の楠に背中から激突、逆さの「へ」の字のようになって落ちていった。

 人間なら命はないだろう……。

 

※ 主な登場人物

  • 佐伯 太一      真田山高校二年軽音楽部 幸子の兄
  • 佐伯 幸子      真田山高校一年演劇部 
  • 大村 佳子      筋向いの真田山高校一年生
  • 大村 優子      佳子の妹(6歳)
  • 学校の人たち    倉持祐介(太一のクラスメート) 加藤先輩(軽音)
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やくもあやかし物語・44『ペットショップの真相』

2020-12-30 06:40:22 | ライトノベルセレクト

物語・44

『ペットショップの真相』      

 

 

 

 久しぶりの駅なのでドアの上の路線図を確認……九つ目がペットショップのある駅だ。

 

 八つ目の駅を出たところで車内放送。

――三両目の前から二番目のドアからは出られません、駅のホームで落下物事故がありましたので三両目前から二番目の……――

 落下事故? ホームから人が落ちたのかなあ? だったら人身事故で到着が遅れるよね、遅れるって放送は無いし……。

 ホームに入って分かった。

 行き先案内表示板が落っこちている。はずみで自販機が倒れて三両目前から二番目のドアの前を塞いでいる。

 それが片づけられずにいるので、ドアが開いても出られないのだ。駅員さんがお詫びをしながら他のドアを使うように指示している。

 仕方なく三番目のドアから出る。

 落下した行き先案内板と自販機の方を見る……自販機の下から液体が流れ出た痕……ジュースかと思ったら血だった!

「準急が到着してすぐ」「ドアが開いたとたんでしょ」「やあねえ」「運かしらねえ」

 どうやら、ドアが開いて直ぐに事故が起こって、ちょうど下りたばかりの乗客が自販機の下敷きになったらしい。

 やだやだ、準急に間に合っていたら下敷きになったのはわたしだったかもしれないよ、運動神経鈍いしね。てことは、乗り遅れて幸いだったかもしれない。

 この駅は十年ぶりくらい。

 駅も駅前も十年くらいでは目立つ変化は無いんだけど、記憶にあるのよりも狭いロータリー、小さなお店たち……だよね、十年前は今の2/3くらいの背丈しかなかったしね。

 駅前では募金をやっていたりティッシュを配っていたりタクシー乗車案内のおじさんがお客さんをさばいていたり。

「どうぞ」

 言われて反射的にポケティッシュを受け取る。

 あれ?

 配っているのはポニテのメイドさんだ。近くにメイド喫茶が出来たようだ。やっぱ変化はあるんだ。

 記憶を頼りにペットショップを探す。

 たしか、二つ目の角に……あれ? ない?

 ペットショップが入っていたビルはそのままなんだけど、ペットショップはスマホのお店になっている。

 まあ十年近い時間がたってるんだ、メイド喫茶ができたりしてるんだ、これくらいの変化はあるだろう。

 確認が出来たらいいんだ。

 ちょっとブラついて帰ろうか……。

「ペットショップをお探しですか?」

 声の方に振り向くと、さっきのメイドさん。

「あ、ええ、でも無くなってしまったみたいで」

「確認してみますか」

 メイドさんはティッシュの入ったカゴを真上に放り上げた。

 するとティッシュではなくて、なんだか霧のようなのが立ち込めた。

 霧は数秒で薄くなっていく、すると、スマホのお店がペットショップに変わっていた。

 え? え?

 戸惑っていると、ペットショップの中から犬や猫たちの鳴き声、とても切羽詰まった鳴き声。

 キャンキャン! フギャーフギャ!

 ボン!

 鳴き声の中に爆ぜるような音がして、直後に店の奥から炎が上がった。

 火事だあ!

 声があがって、お店のマスターやスタッフがケージごと犬や猫たちを運び出した。

「これ以上は無理だ」

「でも、まだ残ってます!」

「助けなきゃ!」

「猫がまだ……」

「あきらめろ!」

「だって!」

 直後、火の勢いが強くなり、店の中には戻れなくなってしまった。

 何匹か残ってしまったようで、スタッフさんがエプロンを握りしめて泣いている。マスターが、その肩を抱いて、一緒に耐えている。

 

「お分かりになりましたか……」

 メイドさんがマスターと同じように肩を抱いてくれている。

「焼け死んじゃったんだね、お父さんが買ってくれた子ネコ」

「はい、けして忘れちゃったわけではないんですよ」

「……」

 涙で前が滲むと。ペットショップは元のスマホショップに変わっていた。

「確かめるって、このことだったんだ」

「事実を知っても耐えられるお歳になったんですよ、お嬢様」

 ふと顔をあげると、メイドさんはポニテではなくツインテールに変わっている。

「あ、あなたは!?」

 そいつは、ペコリお化けの代わりに現れるようになったメイドお化け!

「だいじょうぶ、今日はお守り石持ってるでしょ。交換手さんにも言われてるし。今日は良い子のメイドなんです」

 そういうと、肩に置いた手を下ろし、ゆっくりと後ずさっていく。

「でも、いつも良い子とは限りませんからね……いってらっしゃいませ、お嬢様」

 美しくお辞儀をするとメイドお化けは消えていった。

 

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君       図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん      図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け

 

 

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滅鬼の刃・2・『お祖父ちゃんをよろしく』

2020-12-29 11:03:07 | エッセー

 エッセーノベル    

2・『お祖父ちゃんをよろしく』   

 

 

 お祖父ちゃんが『滅鬼の刃』というブログエッセーを始めました。

 

 部活の同窓会をやって、いろいろ感じたのが動機なんだそうです。

 同窓会に集まったのは昭和30年前後生まれの人たちばかり。

 昭和30年というと、東京オリンピックはおろか、東京タワーもありません。有名な『三丁目の夕日』よりも古い時代です。

 お祖父ちゃんは昭和28年生まれなんで、ほかのみなさんとは、ちょびっと年上さんです。

 21世紀生まれのわたしから見ると、30年前後生まれの人たちは一括りに『ちょっと元気なお年寄り』になります。

 それでも、ちょっと元気なお年寄りにも微妙な違いがあって、それを面白がっているようなブログです。

『鉄腕アトム』は、わたしには古典のコミックでありアニメに過ぎません。

 知識としては知っていても、実際に見たことはありません。YouTubeで検索したらダイジェストで見られます。

 うーーん、古典ですね(*´∇`*)。

 同窓会でアトムが話題になって、主題歌を歌ってみると、お祖父ちゃんと後輩の皆さんとでは全然違ったというのが面白いんですよね。

 話してみると、お祖父ちゃんのアトムは実写版で子役の少年がアトムのコスを着てやっています。

 ま、そのギャップが面白かったんですね(o^―^o)。

 

 ブルグには書いていませんでしたが、お祖父ちゃんは孫娘の、つまり、わたしの自慢をしたんです。

 すると、後輩のみなさんが「先輩、お孫さんにも、なんか書いてもらってください(^▽^)/」ということで、一回交代でわたしが書くことになりました。

『滅鬼の刃』とは恐れ入りました。

 アニメ映画の興行収入ランキングで『千と千尋の神隠し』を追い抜いて堂々一位になった作品のタイトルをモジるとはビックリです。

 でも、お祖父ちゃんのやることですから、単に「あてこんだ」とか「あやかった」とかだけでは無いようです。

 お祖父ちゃんは、常々「人の心には鬼が居る」と言っています。

 人には妬みとか嫉みとか、あるいは優越感とか自尊心とか、そういう鬼のために人に悪いことをしてしまうことがあると、半ば自嘲気味に言ったりします。

 そういう鬼封じの意味があると思います。

 もう一つは、世渡りしていくうえで人が携えている『刃』です。才能と言い換えれば分かりやすいですね。

 勉強の才能 スポーツの才能 スピーチの才能 音楽の才能 お料理の才能 計算の才能……とかです。

 お祖父ちゃんは、そういう才能が自分にもあって、それを使って生きてきて、そのおかげで無事な年金生活ができていると自他ともに認めています。

 でも、自他の事を公平な目で見るお祖父ちゃんは、自分が持っていた才能という刃は、どこか不完全というか生かしきれなかったというか、象徴的に言うと「メッキの才能」だったんじゃないかという思いがあります。

 それが『滅鬼の刃』というタイトルになったんじゃないかと思います。

 含蓄があるというかシャイというか、そういうお祖父ちゃんのエッセーを応援……というよりは、稽古台にさせてもらって自分の表現力を磨いて行ければと思います。よろしくお願いいたします。

 自分でもブログをやっていますので、興味のある方は下のURLにアクセスしてみてください。

 

 http://wwc:sumire:shiori○○//do.com

 

 

 Sのドクロブログ!  

 

 よくたどり着いたわね。

 いちおうURLは貼り付けといたけど、ほんとうにアクセスして来るとは思わなかった(-_-;)。

 ここは本音だから、そのつもりで読んでね。

 クソジジイがブログを始めた。

『滅鬼の刃』だって!

 ゲロ出そう!

 完全、パーフェクトのパクリじゃん。

 年とると、恥も外聞も無くなるんだね。

 やってらんねえっちゅーーの!

 まあ、クソジジイはあたしの保護者だしい、じっさい、経済的にはよっかかってるわけだから、いちおう提灯記事的には書くけどさあ。

 本音ぶちまけとかないと、ほんっと! 悶絶して死ぬし!

 コロナでGOTOとかも廃止になったっしょ。

 それをノコノコ同窓会に行くって、どういう神経よヽ(`Д´)ノプンプン!!

 昨日も国会議員の人が死んだとこじゃん。

「暗殺かもしれないなあ」なんて、クソジジイは言う。

 アホか!

 コロナに決まってんじゃん。今朝のネットニュース見たら、そうゆってたし。

 なにかあったらどーすんだよ。

 クソジジイになんかあったら、あたし路頭に迷うんだからね!

 鉄腕アトムの主題歌で耳クソみたいなジェネーレーションギャップ感じたって、よくブログに書くね。

 恥ずかしいよ!

 ハズイじゃないよ、恥ずかしいだよ!

 昔だったら切腹もん! 腹切れ! クソジジイ!

 刃は才能のことで、自分のそれはメッキだったって!

 UUUU……目まいがするしい。

 そんな逆説めいた自慢なんかすんなよ!

 こう言い回しって、女子にいちばん嫌われる!

 事実、あたし嫌いだし、大っ嫌いだし!

 

 あたしって、本音で書くと、文節短い。短っか! みんな一行で済んでるし(^_^;)

 

 ああ、もうくたびれたあ。

 

 じゃね、もう書かないかもしんないけど、つでとかがあったら、また来いよ。

 

 

 

 

 

 

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妹が憎たらしいのには訳がある・14『ラジコン墜落』 

2020-12-29 07:02:32 | 小説3

たらしいのにはがある・14
『ラジコン墜落』
          

  


 
 土日二日を安静にして、幸子は学校に行くようになった。

 合間の土日は佳子ちゃんが入り浸っている。
佳子ちゃんは一見口数少なく大人しい子に見えるが、なかなか心と頭のアンテナの感度がいい子だ。
 幸子の事故では旺盛な好奇心を示すだけでなく、示談のやり方から弁護士の紹介までしてくれようとした。何より喜怒哀楽の表現がハッキリしていて、俺も佳子ちゃんのそういうところが好きだ……って、一般的な意味だから、念のため。
 日曜は、親父が幸子の部屋の防音工事……と言うほどじゃないけど、カーテンを遮音性の高いものにし、ドアに遮音の細工をした。別に二人の声が大きいためじゃなく、幸子が自分の部屋でも心おきなく歌が唄えるようにするためのものでなんだ。

 その間、俺やお袋も手伝ったり、合間に話しの輪に加わったりする。
 
 二つのことに気づいた。


 幸子は佳子ちゃんが良く喋るように巧みに話題をもっていく。
「演劇部の山埼先輩って、パッとしないんやけど、なんとなく和んでしまうんよね」
「そうそう、部員二人だけなのに、男と女の関係を感じさせないとこなんかね」
「ほんまやあ、あの二人の先輩、それは無いなあ……」
「どんなとこで感じる?」
 幸子は、佳子ちゃんの感じたことに、さりげなく具体的なイメージを喚起させたり、表現をさせる。その佳子ちゃんに、
「なるほど! やっぱりね!」
 などと感心してみせるので、佳子ちゃんはますますイメ-ジを膨らませて表現が豊かになっていく。
 そして、幸子の表情が一瞬佳子ちゃんのそれと被って見えてしまう。

 なるほど、そうやって自分の表情を豊かにしているようなのだ。

 幸子の表情や身のこなしは十分女子高生らしいが、慣れてくると、いくつかのパターンの使い分けであることに気づいていた。例えばアイドルが、パターン化したリアクションになってしまうように。俺は一瞬オシメンのアイドルサイボーグといわれるMWのことなんかが頭にうかんだが、MWは人間。幸子は、ほんとうにサイボーグなんだから、当然なエクササイズと言えば身もフタもないんだけどな。
 ときどき見せる熱心な眼差しに人間的な友情を感じるんだけど、これは幸子に「そうあって欲しい」と願う兄としての欲目かもしれない。

 日曜に宅配便がきた。

 親父は大工仕事。お袋はお昼の用意。幸子と佳子ちゃんは話に夢中。
 で、俺が出た。
 めずらしく、若い女の宅配さんだった。
「どうも、ありがとうございました!」
 元気よく出て行った宅配さんのお尻をマジマジと見てしまった。どうもスーパー温泉以来、俺は変なクセがついた。まあ、並の高校二年の男子として、健康っちゃ健康ではある(#^0^#)のだ。 オホン!

 午後からは、優子ちゃんが加わった。そこで、三人揃って、河川敷の公園に遊びに行った。
 優子ちゃんのために、お花の冠なんぞを作るというので俺は遠慮した。

 そして、しばらくすると幸子一人が帰ってきた。
「なにか、あったのか?」
「ラジコンの飛行機が落ちてきた」
 と、慣れっこの歪んだ笑顔で言う。なぜか、手には『紅の豚』のポルコロッソの人形……。

 その晩、動画サイトを見て『ラジコン墜落』というのを発見した。

『紅の豚』のポルコの飛行艇が下手な曲芸飛行をやっている。
 ロングになったりアップになったり、いかにも素人カメラマン。ロングになったとき、対岸の土手で「あ、赤い飛行機!」と言っているように小さな女の子が指差している。
 アッと思ったら、ポルコの飛行艇はコントロールを失って失速。水面スレスレでコントロールがもどって急上昇。かなりの高みに至ると、非常に上手く捻りこんで急降下、そのまま真っ直ぐ全速で地上の一点めがけて突っこんでいく。
――コントロールが!――
――どうした!?――
 そんな声がかたわらでして、ポルコは神風特攻機のように対岸の土手に激突し、ラジコンとは思えない爆発と火柱が上がった。
 その瞬間が気になったので、コマ落としで再生しなおした。
 幸子とおぼしき女の子が無心に花冠を作っていて、墜落の寸前、花冠を風にさらわれて追いかける。間一髪で、幸子は直撃を免れている。墜落を予見した?

 明くる日学校に行くと、その話で持ちきりだった。

 俺は動画で見ただけだけど、テレビのニュースにもなったようで、みんなが「お前の妹、今度は運が良かったなあ!」と言ってくれた。
 警察も来たようで、事情聴取も行われ、ラジコンの持ち主は厳重注意されたようだ。
「これ、今朝のニュース」
 優奈がスマホで見せてくれた画面には、モザイクこそされていたが、見る者が見ればハッキリ分かる。

「ポルコロッソ、フライングゲット! キャハハハ」

 幸子がポルコの人形をぶら下げて笑っている……予見じゃなくて墜とした……のか?

 

 

※ 主な登場人物

  • 佐伯 太一      真田山高校二年軽音楽部 幸子の兄
  • 佐伯 幸子      真田山高校一年演劇部 
  • 大村 佳子      筋向いの真田山高校一年生
  • 大村 優子      佳子の妹(6歳)
  • 学校の人たち    倉持祐介(太一のクラスメート) 加藤先輩(軽音)
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やくもあやかし物語・43『お守り石をお忘れなく』

2020-12-29 06:45:42 | ライトノベルセレクト

物語・43

お守り石をお忘れなく』      

 

 

 お守り石をお忘れなく。

 

 その一言で電話が切れた。

 電話の主は交換手さんだ。

 お出かけの準備を整えて、百均の鏡で身だしなみをチェック、「よし」と確認したところで黒電話が鳴ったんだ。

 受話器を取ると、いつもの交換手さんが――お守り石をお忘れなく――と言って切れたところ。

 こないだ――早く寝た方がいいですよ――の忠告を無視したせいか、ちょっとご機嫌斜めのような気がした。

 機嫌が悪くとも、せっかくの忠告なのでお財布の中を確認。お守り石はお財布の小銭入れの所に……無かった。

 え? え? あれ?

 記憶の糸を手繰ってみる。そうだ、三日前にベッドに入ってから気になって取り出したんだ。そいで眺めてるうちに眠くなって、失くしちゃいけないと思って……しまったはず……?

 ベッドに寝っ転がって、動きを再現してみる。

 寝落ちしかけて……ガクっときて、枕もとに落としたんだ。でも、すぐに拾って………………思い出した🎵

 お財布は引き出しの中で、引き出しに仕舞うには、一度起き上がらなければならない。

 寒いし、めんどくさいし…………で…………で…………どうしたんだっけ(#゚Д゚#)…………思い出した! 手だけ延ばして枕もとに吊ってある制服のポケットに入れたんだった!

 探ってみると、やっぱポケットの中にあった。

 交換手さんは知っていたんだ。だから、出かける寸前に忠告してくれたんだ。

 

 でも、それなら最初から制服のポケットと言ってくれたらいいのに。

 いやいや、わたしが悪いんだよね。

「ありがとう、制服のポケットにあった」

 受話器に言うけど返事は無し。

 んもー

 ガチャンと受話器置いて部屋を出る。

 ガチャン!

 思いのほか強くドアを閉めてしまって、自分でドッキリしている。

「行ってきまーーす!」

 駅へ急ぐと、タッチの差で準急が出てしまった。交換手さんの祟りか……。

 次の電車は当駅止め。

 その次の普通電車に乗って、目的の駅に着いたのは予定のニ十分後だった。

 

 え、どこに行くのかって?

 ペットショップよ。お父さんが支払いを済ませて、引き取るだけになっていた子ネコの確認をするためにね。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君       図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん      図書委員仲間
  • 交換手さん     古い黒電話に住み着いている
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せやさかい・184『テイ兄ちゃんの部屋にいく』

2020-12-28 10:55:05 | ノベル

・184

『テイ兄ちゃんの部屋にいく』さくら   

 

 

 専念寺のゴエンサン(住職)さんのお見舞いに行った話はしたよね。

 

 お孫さんが二人居てて、女の子のお孫さんが祖父のゴエンサンから得度(坊さんの資格を取ること)を受けるように言われて、困って、祖父のゴエンサンやらお見舞いに来たうちにまで当たり散らしてた。

 せやけど、交通事故で母ネコに死なれた子ネコを引き取って飼うことにした話。

 病院でゴエンサンに当たり散らしてた時は――なんちゅう愛情のない子ぉや(*_*)!――と思たんやけど、ま、じっさい病院の待合で睨んできよった目ぇは終わってたしね。でも、子ネコに掛けた愛情は本物やと思う。

 たしか鸞ちゃんやった。

 うちもお寺の孫やから分かったんやと思う。お寺の跡を継ぐというのは、ちょっと大変。

 せやさかい、鸞ちゃんのいらだちも、よう分かる。

 やっぱり、この一年半でうちも成長したでしょ(^▽^)/

「また寝落ちしとおる」

 用事があってテイ兄ちゃんの部屋に行くと、ごっついアイマスクしたままひっくり返ってる従兄を発見。

 テイ兄ちゃんは、うちの副住職やりながら、専念寺さんの手伝いもやってる。二つの寺を掛け持ちして頑張ってるのは、まあ、尊敬したんねんけども、この姿はねえ。

 ごっついアイマスクいうのはスタンドアロン式のVRで、ガラスのない水中眼鏡みたいなもん。このごろは、暇さえあると、このVRで異世界にトリップしとおる。

「……え……ああ、さくらか」

「そんなもん掛けたまま寝たらアホになるで」

「アホにならなら坊主は務まらん」

「また、屁理屈を……」

 言いながらも深追いはせえへん。

 さっきも言うた通り、大学を出てすぐにお寺の跡継ぎを決心するのは大変やいうのん分かってるしね。

 そやけど、男のVRはイヤラシイ。

「また、スケベエなもん見てたんやろ」

「ちゃうちゃう、ゾンビをやっつけて世界平和に貢献してた」

 これは嘘や。VR技術が進歩したんは、ひとえに男のスケベエ根性。

 うちの好きなプレステでもVRがあって、コナミなんかは水着の女の子を間近に見られるコンテンツがある。うちは格ゲーの『デッドオアアライブ』が好きで、ネットでも検索したりするねんけど、ごひいきのかすみちゃんが悩殺水着でR指定のポーズとってるのにショックを受けた(-_-;)。で、テイ兄ちゃんがやってるのは、そんなR指定のポーズがお遊戯に見えてしまうくらいのH系コンテンツ。

「あのなあ、スタンドアロンはパソコンに繋げへんから、そっち系のゲームはでけへんねん。で、用事はなんやねん?」

 このエロ坊主、頼子先輩にはメッチャやらしい、いや、やさしいねんけど、三親等のうちには遠慮がない。お寺の跡継ぎが大変いう認識が無かったら、きっと張り倒してると思う。

「大掃除してたら、いろいろ出てきてね」

「ああ、さくらの部屋は、元々は物置やったさかいなあ」

「お祖父ちゃんが若いころに書いてた原稿が、いっぱい出てきて」

 ズイっと、段ボール箱を押し出す。

「他にも、資料とかあって、どないしょうか思て……」

「ああ、けっこうあるなあ……お祖父ちゃん、若いころは作家志望やったらしいからな……お祖父ちゃんに渡したらええのんとちゃう?」

「渡したら見られへん」

「え、見たいんか?」

「うん、どの原稿も封印したあるやんか、読も思たら開けなあかんし」

「お祖父ちゃんに言うたら」

「ぜったい『あかん』て言うし」

「ああ……そうかも知れへんなあ。お祖父ちゃんは、俺と違て、坊主になるまでは紆余曲折のあった人やもんなあ。封印したあるもんを『読んでええ』とは言わへんやろなあ」

「これなんか、タイトルが『滅鬼の刃』やんか」

「あ、ほんまや。パクリか?」

「んなわけないやん、昭和52年の日付やしい」

「ううん……よし、まかしとき」

「どないすんのん?」

「それは……」

 そこまで言うたときに、テイ兄ちゃんのスマホが鳴った。

 廊下に出て、なにやら話してると『分かりました、ありがとうございました、いえいえ、こちらこそお。では、よいお年を……』

 そない締めくくって、テイ兄ちゃんは、首だけのぞかせて、こう言うた。

「今年の除夜の鐘ツアーは中止やて」

「あ、やっぱりコロナで?」

「うん、GO TOも中止やしなあ」

 予測はしてたから、そんなにショックはない。

「ほんなら、頼子先輩に電話するわ」

「あ、それは、俺がやる(^▽^)/」

 ああ、やっぱりスケベエ坊主や……。

 

 

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妹が憎たらしいのには訳がある・13『その明くる日』

2020-12-28 06:15:45 | 小説3

たらしいのにはがある・13
『その明くる日』
          

 

    


「よかったあ! 思ったより元気そうやんか!」

 佳子ちゃんは登校前に幸子の様子を見に来てくれた。

「切り傷だけだから、治りは早いと思うの。でも、昨日の今日だから用心しないとね」
「そうやあ、傷跡残ったら大変やもんね。ほんなら、連絡事項なんかあったら、聞いとくわ。サッチャンのクラスの未来(ミク)とは中学で同級やったさかい」
「じゃ、よかったらお兄ちゃんと行って。昨日のこといろいろ知ってるから」
「おお、それは、願ってもない!」
 好奇心むきだしで、佳子ちゃんは賛同した。

 で、俺は寝癖の頭を直す間もなく、佳子ちゃんといっしょに学校に行くハメになった。

「佳子ちゃんに、手出すんじゃないわよ」
 オチャメそうではあるが、プログラムされた俺への対応もカワイイとは言えない。
「大丈夫、サッチャンのお兄ちゃんは、そういうカテゴリーには入ってないから」
 佳子ちゃんも、デリカシーがない。
「今のところはね(^#0#^)!」
 行ってらっしゃいの声でドアを閉めた後、佳子ちゃんがウィンクしながらグサリと刺す。どうも女子高生というのは嗜虐的な生き物だ。
「わあ、お姉ちゃん、今朝はアベック!?」
「せや、ウラヤマシイやろ?」
「わーい、アベック、アベック!」
 妹の優ちゃんもなかなかの幼稚園児ではある。

「で、ほんまに傷跡とかは残らへんのん?」

 事故の責任が百パーセント相手の車にあることを説明したあとに、佳子ちゃんは真顔で聞いてきた。
 今朝の幸子は念入りだった。左脚に重心を載せないようにし、左手も庇うようにして、ほっぺにバンドエイドを二枚も貼るという念の入れようだった。まさか、スプレー一吹きでメンテナンスしたとは言えない。


「うん……あれでも、いちおう女の子だからね」
 と、兄らしく顔を曇らせておく。佳子ちゃんの顔がみるみる心配色に染まっていく。ちょっとやりすぎたか……。
「大丈夫、小学校の時の事故でも、傷跡ひとつ残らなかったから」
 そう言って、鼻の奥がツンとした。あの事故で、幸子は死んだも同然なんだ。今の幸子は、ほとんどプログラムされたアルゴリズムでしか反応できないサイボーグ……。
「ほんまに大丈夫?」
 佳子ちゃんは立ち止まってしまった。目には涙さえ浮かべている。俺はシマッタという気持ちと、素直な反応をする佳子ちゃんをカワイイと思う気持ちで、少し混乱した。
「ダイジョブダイジョブ(^_^;)。佳子ちゃんが真剣に心配してくれるんで、感動したんだよ。これからも、言い友だちでいてやってくれよ」
「うん、まかしといて! サッチャンは佳子の大親友や!」
 それからの話は、女子高生とは思えないシビアさだった。示談の仕方から、示談の相場、弁護士事務所まで紹介してくれる。なんで15歳の女子高生が示談のやり方知ってんだ(^_^;)?

 学校に着くと、祐介と優奈からも聞かれた。

「加藤先輩も、えらい心配してはったわ」
 で、俺は午前中いっぱいの休み時間と昼休みを使い、加藤先輩、顧問の蟹江先生。幸子の担任の前田先生、保健室の先生。演劇部の生徒と顧問、それから、噂を聞いてきた幸子のクラスメートへの説明に追われた。
 だれも、俺の心配はしてくれなかった。見た目ピンピンしてることもあるが、俺だって、救急車に載せられ、CTなんか撮ったりしたんだけどな!

 放課後は、幸子のクラスメートの未来から、ノートの写しなんかもらい、その後、はんなりとクラブが始まった。

 いつもの教室でバンドのメンバー。ベースの祐介、ドラムの謙三、ボーカルの優奈、そしてギターの俺。
 最初は、当面の課題曲である「いきものがかり」の曲を少しやったが、すぐに研究と称してダベってしまう。気に入っているアーティストの曲なんかかけて、あーだこーだと思いつきを喋る。練習しなきゃという気持ちが無いわけでは無い……でも、互いの気持ちを都合良く推し量り、ただの喋りになってしまう。まあ、収穫と言えば優奈が見つけてきたユニットがいけてることを発見したぐらい。

 帰りの電車は運良く座れた。

 今日はアコギを持ってかえるので、ありがたかった……気が付くと、俺の前に背を向けてつり革につかまっている女の人のお尻を見ていた。パンツの上からでも、夕べ露天風呂で(アクシデントとは言え)見てしまった女の人のお尻に似てるなあと思った。

――いかん、妄想だ!――

 自分を叱りつけて家路についた。
「これ、未来から預かったノートの写しやらなんやら」
「おう」
 予想はしていたけど、ニクソイ笑顔にはムカツク。
「あれ、あのギター、どうしたんだ!?」
 渡すモノを渡して、さっさと、幸子の部屋を出ようとしたら、ドアの横にギターラックと、そこに掛かっている新品のギターに目がいった。
「こ、これ、ギブソンの高級品じゃないか!」
「加害者の人から……これと治療費をもってもらうことで手を打った」
「触っていいか!?」
「ダメ。わたしの」
「じゃ、いっしょに練習しようぜ!」
「お兄ちゃんとじゃ、練習にならない」
 方頬で笑って、無機質に言うところがニクソ過ぎる!
「お兄ちゃん。言っとくけど……」
「この上、なんだよ!?」

「昨日の事故ね、お兄ちゃんが飛び込んでこなきゃ、わたし一人で避けられたのよ」

「な、なんだと(゚Д゚)!?」
「お兄ちゃんが助けたように見えるように……で、お兄ちゃんを怪我させないように……そして、わたしが義体だって気づかれないように計算したのよ」
「おまえなあ……」
「だから、そのギターは幸子の戦利品。ギタイギター……シャレのつもり。笑ってくれると嬉しいんだけど」
「は…………」
「まだ、道は長いわね……お兄ちゃん、これから、幸子が危ないと思っても手を出さないでね。かえって、ややこしくなるから」
「あ……ああ」
「世の中、だれが見ているか分からないから」
「だれが、見てるって言うんだよ」
「……一般論よ」
 幸子は、なにかを言いかけて一般論で逃げた。俺もころあいだと思って部屋を出た。

 そのあと、幸子がギターを弾きながら歌うのが聞こえた。曲は、今日優奈から聞かされたユニットの曲だった……。

 

 

※ 主な登場人物

  • 佐伯 太一      真田山高校二年軽音楽部 幸子の兄
  • 佐伯 幸子      真田山高校一年演劇部 
  • 大村 佳子      筋向いの真田山高校一年生
  • 大村 優子      佳子の妹(6歳)
  • 学校の人たち     倉持祐介(太一のクラスメート) 加藤先輩(軽音)
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やくもあやかし物語・42『俺妹を読み返す』

2020-12-28 05:56:42 | ライトノベルセレクト

物語・42

『俺妹を読み返す』     

 

 

 ―― 今夜は早く寝た方がいいですよ ――

 

 俺妹の第一巻を手に取ったところで黒電話が鳴った。受話器を取ったら交換手さんが、そう言って切れてしまった。

 アノマロカリスのお腹から俺妹の女子キャラ縫いぐるみが出てきて、久々に俺妹の文庫を読んでみようと思ったのだ。

「せっかく読む気になってんのに」

 読む気満々で、ポテチの袋も開けてしまっていたので、交換手さんの忠告を無視して読むことにした。

 何度も読んだ俺妹なので、二時間もあれば最初の大団円まではいけるだろう。京介が妹の桐乃を庇ってお父さんにフルボッコにされる。そいで、桐乃が何年かぶりで「あ、ありがとう」ってお礼を言うんだ。

 ここ大好き。

 たとえ肉親でも、言葉にしないと気持ちなんて伝わらない。

 恥ずかしがりながらでも、むちゃくちゃ抵抗があっても、たとえ蚊の鳴くような声でも口にするのが大事なんだ。

 ここを読むと、とても気持ちが暖かくなる。

 集中して読んでいると、俺妹女子キャラの縫いぐるみたちが近づいてきている。

 最初は本立ての前に一列に並べていたのが、気が付いたら焚火を囲むように半円形になって、いっしょに文庫を読んでいる。「あ、ありがとう」のところでは、桐乃の縫いぐるみが真っ赤になって、他のキャラがニコニコしている……あれ? カナカナ(メルルのコスプレした加奈子)がいないぞ。

 ガチャリ

 ドアの開く音がした。振り返ると、等身大になったカナカナが立っている。むろんメルルのコスプレ。

「おめーな、文庫読んで追体験なんかしてんじゃねーよ」

「な、なによ」

「メモだよ、メモ」

 カナカナが星屑ウィッチのロッドを振ると、目の前にメモの文字が浮かんだ。

―― お金は払ってある、受け取りにいくといいよ ――

「ずっと子ネコは待ってんだ、行ってやれよ」

「だって、何年も前だよ」

「んなのかんけーねーよ、お金は払われってから、行ってやれえー!」

 音もなくジャンプすると、わたしの首を跨ぐようにして絡みついてきた。

「わ、わーっふぁ!わーっふぁ(;゚Д゚)!」

 カナカナのお股で口と鼻を塞がれたのでフガフガとしか言えないけど、なんとか意味は通じたようだ。

 プハーーー

 窒息しそうになったところで、カナカナが飛びのいた……と思ったら姿が消えた……と思ったら、机の上バジーナの横に縫いぐるみに戻って立っていた。

 ポテチを摘まんだまま突っ伏して寝てしまっていた。右の腕に涎の痕。わたしってば、自分の腕で窒息しかけていたんだ。

 ペットショップに行ってみよう……そう決心して歯を磨きに行った。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君       図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん      図書委員仲間

  

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オフステージ・149『ミリーの頼まれごと・5』

2020-12-27 10:44:10 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)149

『ミリーの頼まれごと・5』ミリー    

 

 

 大食いアニメキャラが好き!

 

 そんなにたくさんアニメを観ているわけじゃないけど、アニメの大食いは観ているだけで幸せになるよ。

 イチオシは『ガルパン』の五十鈴華。

 華道の家元の娘で、四号のあんこうチームの中では一番の正統派美少女。

 車内の配置は砲手。数々の戦いで大洗女子高校を勝利に導いた西住みほの指揮も彼女の射撃力あったればこそ。

 最初は気づかないんだけども、繰り返し観ているうちに、食事シーンでの、彼女の盛りのすごさにはビックリよ。丼物でも揚げ物でも定食のご飯の量でも、他のキャラの五倍はある。

 『けいおん』の天然キャラのムギちゃんもビックリするくらい多い。のほほんしたお嬢様キャラが大食いなのは、見ていて、とても癒される。

 アメリカ人はデブであることは非難もするし、自己嫌悪であったりもするんだけど、大食いコンテストは大好き。ホットドッグとかハンバーガーとかジャンキーなのをバカバカ食べているのは愉快になる。

 わたしがトランプさんを好きになったのも、ハンバーガーにケチャップをドバドバかけて食べるのを見たからで、彼が大統領として、どんな仕事をしたかというのは二の次だったよ。

 こないだ、コロナの重症者病棟で治療の指揮をとっているドクターのドキュメントをテレビでやっていた。

 防護服に身を包んだドクターが「日本のみなさん、わたしの力の元はこれですよ(^▽^)!」って出したランチがハンバーガー。直径が日本の1・5倍はある。直径が1・5倍ってことは質量は3倍くらい? 数学苦手だから、興味のある人は計算してみて!

 そのドクターは上背はあるけどデブじゃなかったし、チョー古いんだけど、ポパイがほうれん草の缶詰をバカバカと口の中に流し込んでる感じで頼もしい。

 他にもね、アニメの大食いキャラはいっぱいいるよ。

『艦これ』の赤城さん 『とある魔術の禁書目録』のインデックス 『ラブライブ』シリーズの小泉花陽・国木田花丸 『進撃の巨人』のサシャ・ブラウス 『フェイト』のセイバー 『政宗くんのリベンジ』の足立垣愛姫 『アイマス』の四条貴音……などなどね。

 

「それって、みんな女子じゃない!?」

 

 なんと、杉本先生がリアクション。

「え……あ、そうですね!」

 言ったわたしも驚いた。

 驚きの意味は二つだよ。

 一つは、文字通り女子ばっかりということ。

 もう一つは家庭科のボスである杉本先生がアニメにも詳しかったこと。

 そして、目の前でタッパーの三段重ねを開いたSさんは「そうなんですか(#^0^#)!」と頬を染めながら喜んでいる。

 Sさん自身が大食いなのかは分からないけど、三段重ねのタッパー一杯のお弁当はリアルでは、ちょっと引いてしまう。

 だからね、とっさに「大食いのアニメキャラって可愛いわよね(^▽^)/」ってカマしたのよ。

「しかし、二人ともお料理上手ねえ!」

 あやまたず、杉本先生は二の矢のフォロー。

 わたしのはホームステイ先の渡辺さんの指導が入ってるんだけどね。花が開くようにニコっとしたSさんは掛け値なしに自分で作ったようよ。

 どうやら、杉本先生はSさんの事情を知っていて、このお弁当会を利用して、なにごとかを仕掛けようとしているようとしている?

 そう思ったのは、大食いアニメキャラの話が尽きたら、本題のラブレターの話にならなきゃいけないもんね。

 なんとかしてあげなきゃという気持ちはあったんだけど、Sさんの並みはずれたお弁当を見て、生半可なアドバイスでは乗り切れないなあと思っていたところなのよ。

 でもね、この世の中には、やっぱりバタフライ効果というか風が吹けば桶屋が儲かる式の展開ってあるものなのよ。

「こりゃ、三人でも多いから人数を増やそう!」

 そう言って、杉本先生は校内電話の受話器をとった。

 

 

☆ 主な登場人物

  •  小山内 啓介      二年生 演劇部部長 
  •  沢村  千歳      一年生 空堀高校を辞めるために入部した
  •  ミリー・オーウェン   二年生 啓介と同じクラス アメリカからの交換留学生
  •  松井  須磨      三年生(ただし、六回目の)
  •  瀬戸内 美晴      二年生 生徒会副会長
  •  姫田  姫乃      姫ちゃん先生 啓介とミリーの担任
  •  朝倉  佐和      演劇部顧問 空堀の卒業生で須磨と同級だった新任先生
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妹が憎たらしいのには訳がある・12『スーパー銭湯にて』

2020-12-27 06:52:06 | 小説3

たらしいのにはがある・12
『スーパー銭湯にて』
          

 

 


「じゃ、ちょっと行ってくる!」

 そう言って親父はアクセルを踏んだ。バックミラーに写る幸子とお袋の姿が小さくなっていく。


 男同士の話がしたい。

 そう言って、俺を車で十五分ほど行ったところのスーパー銭湯に連れ出した。


 これは、かなり異例なことだ。親父は結論しか言わない人だ。一月前、お袋と復縁するときも、そうだった。そして、それ以前のいろいろも。

 幸子のことだろうと察しはついた。お袋も、そうだろうと思ったはずなのに、いぶかる風はなかった。
「まあ、今夜は男同士、女同士ってことで」
 女同士といっても、お袋の前では、幸子はプログラムされた娘を演ずるだけだ。お袋はボクとお父さんに託したいことがあるのかも知れない。

 人気の岩盤浴やジャグジーは避けて、この時期には人気のない露天風呂に入った。
 親父は慣れた様子で、前も隠さず露天風呂に向かった。
 露天風呂に続くドアを開けたとたんにブルってしまった。まだ四月の初旬、外気は冷たい。
 親父はザッとお湯を前にかけると勢いよくお湯に漬かった。

「太一も早く来い」

 俺は、お湯を被って「アチチ」、お湯に片脚漬けただけで「アッチチ」
「一気に漬かるのが醍醐味なのにな」
「俺は、猫舌、猫肌、猫なで声がモットーなんだよ!」
「そりゃ、営業職に向いとるなあ」
「どうしてさ」
「営業ってのは、あんまり派手じゃだめなんだ。相手に合わせて一歩遅れてるぐらいの可愛げがなきゃ勤まらん。そうやって、じんわりお湯に身を慣らしていくようにな」
「なんだか人生訓だね……」

 この段階で、やっとお湯の中で膝立ち……。

「オレは、営業ってのは、常に、相手の先手を取ることだと思っていた。この風呂にザンブリと入るようにな。でも、それじゃダメなんだと分かったときには大阪支社に回された。それも総務でな。完全な左遷だと思ったよ」
「それで、お袋と別れたんだろ」

 ここで、やっと胸の下。

「ああ。だけど、オレは、大阪でがんばって営業に戻って、成績をあげれば、また東京に戻れるとタカをくくっていた」
「いまでも、総務じゃん」
「ああ、今は総務で満足してる。高橋さんて人がいてな、その人が、こう言ったんだ『営業ってのは、航空母艦に載ってる戦闘機みたいなもんだけど。総務ってのは、その戦闘機がいつもベストなコンディションで発艦できるようにしてやるクルーみたいなもんだ』ってな。そう言われて高橋さんの仕事を見てると、まさにそうなんだ。若い営業が新規の飛び込みに行くときなんかは、いったん引き留めてな、バカな話をしたり、靴なんか脱がせて足裏マッサージしてやったり……」
「なんか、地味なカウンセラー……」

 やっと、首まで漬かったけど、体はガチガチ、湯が噛みついてくる。

「おれもな……」
「う、動かないでよ。お湯がこっち来て噛みつくんだ……」
「ああ、すまん。まあ、そうやってホグして送り出してやる。名人芸だったな……そのうち、大阪で営業に回されたけど、自分で総務に戻った。ちょうど幸子が最初の事故に遭ったころだ」
「で、幸子がサイボーグになるのを……その……受け入れたんだね」
「ああ、お母さんはパニクっていたけどな……オレは、これを受け入れるしかないと……こういう気持ちを放下(ほうげ)っていうんだ。任せると思ったら、完全に力や疑いを捨てて任せることだ」
「で、今日に至っているわけ……」
 俺の言葉に、親父はノンビリと、でも敏感に反応した。
「放下というのは、バカになって放棄することじゃない。その先に待っているリスクも含めて、しっかりと、そしてヤンワリと受け止めることだ」
「親父は、受け止められた……?」
「そのつもりだったけどな。今日の自分を思い返すと、まだまだだ……この先、何がおこるか分からん」
「この先……?」
「考えてもみろよ。たとえ幸子という少女の命を救うためだとは言え、おかしいだろ、厚労省のトップまで絡んでいるんだ」
「ああ、今日口止めにきた」

 このとき、湯気の向こうで女性の悲鳴があがった。一瞬ボクたちが間違っているのかと思った。

「お嬢さんたち、女湯は隣りだよ」
「す、すみません!」
 怒っているのか、謝っているのか分からない感じで、女の人たちが前を隠して行ってしまった。ボクはプリンプリンのお尻が三つ揺れながら脱衣場に消えていくまで観てしまった。
「ハハ、幸子の裸を見たぐらいじゃ、免疫にはならんなあ」
「幸子の方が、プロポーションはよかった」
 バカな答えをした。
「良すぎるとは思わないか?」
「え、プロポーション!?」
「バカ、幸子の全てだよ。バックで国が動いているらしいこと……なにより、幸子の義体の技術は、この時代のものじゃないと思う」
「それって……」
「それ以上は分からん。これからなにが起こるかわからんが、しっかりと、でもヤンワリと受け止めていくことだな。まあ、多少ヘンテコな妹を持ったと思って、ユッタリ、ドッシリとやってくれや……」
 そういうと、親父は、片側のお尻を軽く持ち上げた。ポワンと大きな泡が浮かんで弾けた。
「く……臭えなあ!」
「すまん。すっかり緩んじまった……」

 この会話が聞こえたのか、隣の露天風呂で、さっきの女の人たちの笑い声がした。
 お湯は、ようやく体に馴染んで噛みつかなくなっていた……。

 

※ 主な登場人物

  • 佐伯 太一      真田山高校二年軽音楽部 幸子の兄
  • 佐伯 幸子      真田山高校一年演劇部 
  • 大村 佳子      筋向いの真田山高校一年生
  • 大村 優子      佳子の妹(6歳)
  • 学校の人たち     倉持祐介(太一のクラスメート) 加藤先輩(軽音)
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やくもあやかし物語・41『受け止め方』

2020-12-27 06:41:24 | ライトノベルセレクト

物語・41

『受け止め方』     

 

 

 アノマロカリスのお腹を探りまくった。

 

 これが人間だったらくすぐったくて、とっくに降参してただろう。

 アノマロカリスは縫いぐるみだから文句も言わないでされるがままになっている。

 交換手さんの言い方は、俺妹の女子キャラがまだ隠れているという感じだ。

 でも、人間だったら笑い死にしてるってくらい探っても出てこない。俺妹キャラは小さい縫いぐるみだけど、これだけ探ったら手触りで分かるはずだ。

 あきらめかけたころ、小さな紙切れが手に触る……レシートだ。

 お父さんは忙しいもんだから、他の用事のついでにクレーンゲームで取ったんだろ。

 コンビニやら文具屋やらのレシート、駐車券、クーポン券……ちょっと入れ過ぎ。

 ポイ捨てしないということでは真面目なんだろうけど、それを縫いぐるみの中に入れっぱにしてるのは問題だ。

 外面は良いけど、家族には無頓着。いまさら思い出すお父さんの性格……でも、紙くず多すぎ。

 あれ?

 紙くずの中に妙なものが……メモ……手紙だ。

―― やっと見つけたよ、やくも好みの子ネコ。やくもも見つけたね、この手紙を。お金は払ってある、受け取りにいくといいよ。都合がついたらいっしょにいくんだけど、ダメだったらお母さんと行っておいで。 ――

 手紙の下にはペットショップの住所と簡単な地図が書いてある。

 

 そうなんだ! そのころ、ネコを飼いたくてお願いしてたんだ!

 

 お父さんもお母さんも生き物を飼うことには慎重だった。だから、なかなかウンと言ってくれなくて。アノマロカリスをもらったころには諦めかけていた。諦めかけていたから縫いぐるみを集め始めたんだ。

 お父さんも、こんな手の込んだことやって……あっさり言ってくれていたら、直ぐにでも引き取りにいっていたよ。

 ほんとにタイミングの悪い親子だったな。

 

 ん? なんか忘れてる……そーそー! 俺妹のキャラだ!

 

 でも、そんなのない。まさか、アノマノカリスの中に縫い込んだ……そこまではしないよね。そんなに暇なお父さんじゃなかったし。

 机の上に並んだキャラを眺める。

 桐乃、黒猫、あやせ、麻奈美、バジーナ、メルル……桐乃、黒猫、あやせ、麻奈美、バジーナ、メルル……

 

 分かった! カナカナが居ない!

 桐乃やあやせと同級の来栖加奈子、メルルのそっくりさんイベントで一等賞を取った……ああ、そーか!

 閃いて、机の上のメルルをひっつかむ!

 ……やっぱり!

 メルルと思ってた縫いぐるみは来栖加奈子のコスプレだったんだ!

 

 あらためてぬいぐるみを見ると、メルルの可愛い顔は来栖加奈子のニクソサに変わっていた。

 

―― いえいえ 変わったのはやくもの受け止め方ですよ🎵 ――

 

 受話器もとらないのに交換手さんの声が聞こえた。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君       図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん      図書委員仲間
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