せやさかい・268
お寺で煩わしいのんは、来訪者への対応。
ピンポ~ン
ドアホンが鳴って「はい、どちらさんでしょうか?」と対応して、普通の家やったら、まあ、五秒もあったら玄関。
ところが、お寺であるうちの家は、三十秒はかかる。
ドアホンの受信機はリビングにある。リビングがいちばん人が居てる確率が高いさかい。
リビングでドアホンが鳴って「はい、ただいま出ます」とか言うて廊下に出て、つっかけ履いて25メートル先の山門へ出向くと、まあ、三十秒。
タイミングが悪くて、自分の部屋に居てる時に『ピンポ~ン』鳴ったら、三秒待つ。
リビングかキッチンに誰か居ったら、その誰かが出る。
応対する気配が無かったら、あたしが出撃することになる!
ドタドタドタ!
廊下に出て階段を下りて、廊下からリビング。
ドアホンに「はい、どちらさまでしょうか?」と、応対して、山門に出たら……一分ぐらいはかかってしまう。
そこで、あたしの部屋にもドアホンの子機を付けてもろた。
あたしの部屋で応対したら、廊下を逆に行って本堂から山門に出ることもできる。
まあ、十秒足らずのショートカットやねんけどね。
「すまんなあ、なんか門番させるみたいで」
子機のネジを締めながらテイ兄ちゃんが恐縮する。
「ううん、この方が便利やさかい」
と、明るく応える。
実はね、お祖父ちゃんが、近ごろ足やら腰やらが具合が悪い。
昼間のリビングに居てる確率はお祖父ちゃんがいちばん高い。
まあ、ちょっとでも役に立てばと思うワケです。せめて冬休みとか夏休みとかぐらいはね。
「さくら、偉いよ」
留美ちゃんは尊敬してくれる。
「だって、ふつうの中学生はドアホン鳴っても出ないよ、めんどうなことは嫌だからね」
「そう……やろねえ。まあ、うちは人相手にするのは気にせえへんほうやからね」
「うん」
「あ、うちがおらん時に鳴っても、留美ちゃんは出んでええからね」
「出るよ、わたしだって!」
「おお、ほんなら門番2号っちゅうことで」
「ラジャー!」
留美ちゃんも、ちょっと成長。
よきかなよきかな(^▽^)
で、大晦日の今朝は朝寝坊。
朝寝坊と言うても、十分ほどやねんけどね。
夕べは、受験に向けて、留美ちゃんと勉強してたんで、ちょっとポカやったんですわ。
留美ちゃんは、あたしが寝ても「もうちょっと」と頑張ってたからね、起こさんように、チャチャッと着替えて山門へ。
ブル……
さすがに寒い。
カロン コロン カロン コロン カロン コロン
まだ薄暗い境内の石畳にツッカケの音響かせて、郵便受けから新聞を出す。
うちの新聞は、朝日と産経。
なんか、新聞同士ケンカしそうな組み合わせ。
檀家さんにはいろんな人が居てるさかい、両極の新聞を読んでバランスをとっとこという営業方針かららしい。
リビングに新聞置いて、ナニゲに三面を開く。
北新地放火事件の容疑者が死んだ。
この事件は、あまりにも凄惨なんで、進んで読んだり見たりはせえへんかった。
今の記事も見だしを見ただけ、中身は読まへん。
ブルっと身震い。
昼間、留美ちゃんと勉強してたら、ドアホンが鳴った。
「はい、どちら……」
最後まで言うまでもなく、宅配のニイチャン。
「すぐ行きま~す」
認め印にぎって、本堂経由で山門へ。
「ちょっと重いですよ」
「だいじょうぶだいじょうぶ……」
ズシ
めっちゃ重たい。
クス
いっしゅん宅配のニイチャンが笑いよる。
「アハハ、へいきへいき(^_^;)」
伝票見ると、重量8キロ!
受取人は、いつものことながらテイ兄ちゃん。
テイ兄ちゃんは、珍しいもの好きの通販オタク。また、しょうもないもんを買うたにちがいない。
「おお、来たか来たか!」
従妹の苦労をねぎらいもせんと、朝ごはん食べに来たテイ兄ちゃん。
「なんやのん、このクソ重たいもんは!?」
我ながらツンツン。
「これはやなあ……」
ガサゴソ……
「「「な、なんやこれは!?」」」
食卓のみんながタマゲタ。
それは、縮尺1/10の釣鐘やおまへんか!
「今年も、除夜の鐘ツアーでけへんからなあ、発想の転換や」
「これ、ほんまに撞けるんか?」
お祖父ちゃんが、眼鏡かけてしげしげと見る。
「あったりまえですがなあ~(^▽^)」
ちゃんと、組み立て式の釣鐘堂もあって、文字通り朝飯前のお撞き染め。
ゴ~~ン
「「「おお!」」」
イッチョマエに釣鐘の音がする。
「しかし、境内には本物の釣鐘があるのに、なんや、ケッタイやなあ……」
お祖父ちゃんは、ちょっと複雑。
街中のお寺は、騒音になるとかで、リアルに撞けるとこは少ない。
「実はね……」
ニヤニヤしながらテイ兄ちゃん。
「頼子さんとこにも同じもんを送ってある……」
「「「え?」」」
なんと、頼子さんとうちの如来寺で、スカイプで繋いで共同で除夜の鐘を撞こうというタクラミらしい。
さて、令和三年の『せやさかい』の大晦日。
どんな年越しの夜になりますやら。
来年もよろしくお願いいたします。
佐藤 さくら