大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・ライトノベルセレクト・(緑の庭に集いて)

2016-01-24 17:57:59 | ライトノベルセレクト
ライトノベルセレクト・(緑の庭に集いて)         


 てっきり、オレ一人かと思っていた。

 月明かりのそこには、もう三人の先客がいた。
「なんだ、芳雄もきたんか?」
 篠原に見つけられると、他の二人も振り返った。
「なんだ、芳雄も緑にふられた口か?」
「ハハ、三人もか」
「芳雄も照れてないで、こっちこいよ」

 声で正体が分かった。ついさっきまでいっしょだった、篠原、阪本、鈴木の三人だ。

 ついさっきまで、飲み明かしていた軽音のメンバーだ。ボーカルの鈴木が言い出して、十五年ぶりでメンバーが集まって、コンサート……ならよかったんだが、同じ軽音の仲間が開いている飲み屋を借り切ってミニ同窓会をやっていたのである。町はずれの小公園。目の前の道路の彼方に、不法駐車のトラックが一台見えるだけだった。
「今でも、これで飯食ってるのは芳雄だけだな」
 鈴木が、ベースを弾く真似をすると、他の二人が笑った。懐かしさに少し揶揄が混じっていると感じたのは、オレのヒガミかもしれない。
 ベースをやっているとは言え、ミュージシャンのイメージからは少し遠い。週二回温泉地のアトラクションのバックで演奏する以外は、ごくたまにローカル局でのバック演奏をやる。それ以外は、大手楽器店でバイトの店員。そう自慢できた境遇ではない。

 ギターの鈴木は中学の教師になっていた。でも、音楽ならともかく社会科だ。
 阪本は、絵に描いたようなサラリーマンで、メンバーの中でただ一人の既婚者だ。この夏にはオヤジだと自嘲を装って照れていた。客商売の勘で、幸せなんだろうなと思った。
 パーカッションの篠原は、運送屋でトラックのハンドルを握っている。緑の手は握り損ねたようだ。
「しかし、妙だよな。みんな、ここで緑といっしょにクッチャベッていたのに、いっしょになったことないんだもんな」
 鈴木が、ブランコに腰掛けて言った。

「まあ、三か月で転校しちまったから、そういうこともあったかもしれんなあ」
「突然の転校だったよな。オレなんか、いっしょの大学行こうって粉振ってたんだけどよ」
「あ、それずるい!」
 鈴木の抜け駆けに、二人が純情に反発している。

 オレは、もっと自慢できるし、ミゼラブルでもある。あの唇の感触が蘇ってきて、自分で頬が赤くなるのが分かった。公園が禁煙なのは分かっていたが、気づいたらタバコをくわえて、さっきの店でもらったマッチで火を点けいた。オッサンばかりなので、文句を言うものもいない。
「キスしたの、芳雄が初めて……」
 バカなおれは、思わずほくそ笑んだ。十五年前の、ほんの唇が触れただけのことが、そんなに自慢できることでもないんだがな。男ってのは、幾つになってもガキだと、嬉しさ半分自嘲半分。
 半分喫ったタバコを放り投げると、偶然隣のブランコのスチール製のシートに落ちた。

 三人が、思い思いに、月明かりの下、密かに緑の庭と呼んだ小公園で、それぞれの緑の思い出に耽った。

 しばらくすると、ブランコが微かな振動とともに、握った鎖がほのかに暖かくなった。
「どうかしたか?」
 篠原が、ついでのように聞いた。オレは唇のことを除いて説明した。
「自意識過剰だって……なんともないぜ。なあ」
 篠原は、他の二人にも促した。

「芳雄クンは間違えていないわよ」

 気づくと目の前に、白衣を着た女が立っていた。

「緑は、芳雄クンのことをしっかり覚えていたわ。だからセンサーが反応した」
 女がブランコの鉄柱を軽く叩くと、その部分が葉書大に開いた。中には小さなイコライザーのようなものやら、モニターがあった。
「緑の趣味は、芳雄クンだったみたいね」
「え……なに、それ?」

「あ……!」

 鈴木が、驚きの声を上げた。なんと、公園の入り口にあのころのままの緑が立っていた。そして、緑の後ろには不法駐車のトラックが。
「だめでしょう、勝手に出てきちゃ」
「なんだか、この三人の人たち、懐かしくって……」
 緑は、三人の顔を順に見て、オレの方に近づき、じっと目を見つめた。
 年甲斐もなく、心臓が踊り出した。
 緑は、真ん前まで来ると背伸びして、オレに瞬間キスした。

「なんだか、とても懐かしいわ……」

「困った子ね。自律機能が昔とは比べものにならないから。今夜のことは忘れてもらうわね」
 女は、そういうと、スマホのようなものの画面を指でワイプさせた。そして、記憶が途絶えた。

 朝、四人揃って、公園で目が覚めた。とても懐かしい気持ちが、消え残った火のように、心でチロチロしていたが、オレは誰にも言わなかった。言おうにも気持ちだけで、なにも覚えていないのだからしようがない。

 緑の庭を出るとき、道の向こうを見たが、不法駐車のトラックはいなかった。

コメント

高校ライトノベル・神崎川物語

2016-01-17 10:36:27 | 小説・2
神崎川物語             

わたしの中に住み着いた少女
 

「え、また、あの役やるの?」

 その子は、こたつの中に両手両足をつっこみ、こたつの上にアゴを載っけ、ミカンを見つめながら不足そうに言った。
 セミロングの髪が、こたつにかかり、前髪のすき間から不満そうな片目が覗いている。

 この子……この少女は、いつからか住み着いた。
 最初は気配……いや、単なるインスピレーションだと思っていた。
 わたしの作品は百五十本ほどあるが、その多くに十代の少女が登場する。
『犬のお巡りさん』の子ネコちゃんになったのが最初。
 最近は『はるか 真田山学院高校演劇部物語』のはるかになったり、『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』では、まどかになったりした。

『乃木坂学院高校演劇部』では、はるかとまどかの二役をやらせたりしたので、ご機嫌ナナメである。

 この少女の姿が見え始めたのは、『女子高生HB』の第一章を書き始めていたころであった。
「わたしはHB,シャーペンの芯じゃないよ……」
 と、最初の一行を書いて、あとが続かず、座卓で唸っているときに、こいつが現れた。
 目の前に気配を感じ、パソコンのモニターから顔をずらすと、目の前でコワイ顔をして、今のように、座卓にアゴを載っけて、わたしを観ていた。
 それから、なんの不思議もなく、わたしの中に住み着いた。

「違うよ、四十年前から、ずっと住んでいるんだよ」
 と、ホッペを膨らませる。

 わたしが、本を書いているうちは、わたしが書斎代わりにしているリビングの片隅で遊んでいる。
 わたしと違って、本が好きな子である。
 大した本というか、ムツカシイ本は読まない。赤川次郎や、氷室冴子がお気に入り、数は少ないが浅田次郎の本も読む。
「わたし、ポッポ屋が好きなんだ」
 ある日、機嫌のいいときに、事のついでのようにそう言った。
「あ、そうなんや……」
 わたしの気のない返事をとがめるでもなく。わたしの好きなコーヒー牛乳を二つ冷蔵庫から持ってきて、一つをわたしの前に置き、もう一つは、自分で飲みながら、佐藤愛子が兄であるサトウハチロウの悪口を書いたエッセーを読んでいた。

「『妹』書き直してみる気ない?」
 と、振ってきた。

『妹』はわたしが三十九年前に書いた戯曲で、十数回の上演実績がある。
 しかし、十年ほど前に、北陸の劇団で演られて以来、上演はおろか、わたしの記憶の中でも引き出しにしまったものになっている。
「あれなあ……三億円事件がでてくるから、かなり手え加えんとなあ」
 気のない返事をして、パソコンに目を落とすと、「テネシーワルツ」のメロディーが聞こえてきた。
「ん……」
 顔を上げると、少女が目を潤ませながら、じっとわたしの顔を見て、「テネシーワルツ」をハミングしている。
「どないしたんや?」
「このドンカン!」
 そう一言残して、少女は消えてしまった。

 何分か、そのままボーっとして……気がついた。
「テネシーワルツ」は『ポッポ屋』で、出てくる曲である。
 主人公の乙松が、亡くなった妻や、赤ん坊のうちに死なせた娘ユッコを思い出すときに出てくる曲である。

「そうやったんか……」
ドンカンなわたしは、やっと気づいた。
 その少女は、わたしの……妹であった。


 わたしは、三つ年上の姉と二人姉弟である……戸籍上は。
 姉の上に、昭和二十四年生まれの兄がいた。月足らずで生まれ、この世に三十分しかいなかった。当時の医療技術では、育たない未熟児であった。取り上げた産婆さんは、父にこう言った。
「死産やいうことにしとくさかいにね」
 たとえ、三十分でも生きていれば出生届をださねばならず、同時に死亡届も出さねばならない。
 つまり、葬式を出さねばならない。当時臨時工であった、貧しい父にそんな余裕はなかった。だから産婆さんは気を利かして「死産」としたのである。
 初めての子、それも待ちわびていた男の子。父と母の落胆は大きかった。 
 親切な、アパートの人たちが、ささやかな葬儀をやってくれた。
 ミカン箱の棺にオクルミにくるまれ、ほ乳瓶一本と、ささやかな花々を入れてもらい、子犬のような大きさの兄はリヤカーの霊柩車にのせられ神崎川の河川敷に葬られた。父は目印に子供の頭ほどの石をおいて墓標とした。
 しかし、そのささやかな墓は墓標ごと、その年のジェーン台風にさらわれてしまった。

 まだ、二十四歳でしかなかった、父と母は落胆し、このことが貧しい夫婦の一生の負い目となった。

 明くる年に、姉が仮死状態で生まれた。産婆さんの懸命の蘇生措置でやっと息をとりもどした。父と母は、初めての娘に「三枝子」という、パッとしないが、精一杯の想いをこめて、めでたい名前をつけた。「三枝の礼」からとった名前である。
 その三年後にわたしが生まれた。姉弟の中でただ一人まともに生まれた子であった。名前を「睦夫」とつけた。愛称は「むっちゃん」で、こう呼ばれるのは女の子が多く、子供のころは嫌だった。大学にいって分かった。「睦夫」の「睦」は、さるやんごとなき方の名前から一字をとっている。しかし画数が多いので、ペンネームは「むつお」としている。

 わたしは、嫌いなことはしない子であった。
 一番嫌いなことは勉強で、高校二年で留年し、三年の二学期にも担任から、「卒業があぶない」と言われた。
 普段、あまり口もきかない父が、始めて言った。
「睦夫、おまえには妹がおったんや」

 衝撃であった。わたしの三歳のときに母が身ごもった。あいかわらず臨時工であった父と母に、三人の子を育てる経済力は無かった。
 やむなく、その子は堕ろされてしまった。
 女の子であった。
 わたしは、十九歳で高校生をやっていたので、妹の姿は十六歳の高校一年生のそれであった。
「おまえが生きているのは、早産で死んだ兄ちゃんと妹のおかげやねんぞ」
 無念の思いを、父は、そう表現したのである。
 還暦までに半年を切ったわたしは、どこから見てもくたびれたオッサンであるが、妹は、いつまでたっても十六歳の少女のままである。
 可憐であると感じるよりも、いつまでも、わたしが衝撃を受けた時の姿であることが、わたしには重荷である。

 わたしは、母のお腹を隔てて、三ヶ月の間、妹といっしょにいた。
「生まれたら、あれもしたい、これもしたい」
 という想いがあっただろうと、不甲斐ない兄は思う。
 そして、自分が堕ろされると決まったとき、妹は、わたしに背負いきれないほどの想いを託していった。

 わたしは、男の子のくせに針仕事が好きで、劇団をもっていたころ、たいていの衣装は自分で作った。オンチなわりには歌が好きである。物心ついて最初に読んだ本は『オズの魔法使い』『不思議の国のアリス』であった。
 ママゴトも好きな変な男の子であった。高校に入って入部したクラブは、男子が一人もいない演劇部であった。


 また気配がするので、パソコンのモニター越しに覗いてみると、こたつにアゴを載っけて妹が言った
「今度のはるかは、ポニーテールでいくわね」
 妹の名前は、聞かずとも分かっていた。

 栞(しおり)という。

 わたしの人生のページに「ここ忘れるべからず」と挟まれた栞である。

「今度は、ひとのことじゃなくって、栞のことも書いてね」
 そう、ナレナレシく言う。こいつには、いっぱい借りがある。
「はいはい、書かせてもらいます」
「はいの返事は一回だけ!」
 で、とりあえず、この短編を書いている。
 そのあいだ、妹はミカンの皮を剥いている。
「兄ちゃんも、わたしもビタミン不足だから」
「そう……かな」
「うん、そうだよ」
「栞は、ビタミンの何が不足してんねん?」
「このドンカン」
「なんやねん?」
「ビタミンIにきまってるじゃん」

 Iが愛のカケコトバであることに気づいたころには、栞はパソコンのモニターの中で、まどかを演じておりました。
コメント

高校ライトノベル・ライトノベルセレクト『赤田先生の自転車』

2016-01-04 08:40:20 | エッセー
ライトノベルセレクト
『赤田先生の自転車』
        


 赤田先生の自転車は年甲斐もなく、赤い自転車である。

 厳密に言うと赤ではなく、オレンジ色に近い。
 信じられないが、もう四十年も乗っている。最初は、ほとんど赤だったのが四十年の歳月のうちにオレンジ色になってしまった。
 しかし、それ以外は、どこから見ても新車同然だった。磨き抜かれたフレームやハブ。効きのいいブレーキ。ダイナモで少しペダルが重くなるがLEDライトに負けないくらい明るいライト。ライトの色はLEDと違って、尖った明るさではなく、ちょっとアンバーがかった懐かし色。ベルのチリリンという音もどこか優しげ。
 みんな、赤田先生の人柄が反映されていると思っている。手入れを怠らず、大切にしてきたんだと思っていた。
 実際、赤田先生の家に行った先生や生徒は、その扱い方の良さにビックリする。

 なんと赤田先生は、自転車を自分の部屋に入れている。まるで家族のように。

 赤田先生は、新任のころから、この自転車で通勤し、出張に行き、家庭訪問に行った。
 よほどの遠距離。たとえば沖縄の修学旅行でもなければ、他の交通機関を利用することは無い。
 以前ヤンチャな学校に勤務していたころ、アクタレのアベックの生徒が、先生の自転車を盗んで、学校を抜け出そうとしたことがある。五メートルも行かないうちに、女の子が後輪のスポークに足とスカートを巻き込まれ、男の子は急ブレーキをかけた。そんなにスピードは出ていなかったのに、男の子は前に投げ出され頭蓋骨を、女の子はスカートが引き裂かれたアラレもない姿で両足首を骨折した。

 で、自転車には傷一つ付かなかった。

 子どもを助けたこともある。路地から飛び出した小学生が赤田先生の自転車にぶつかり、自転車のすぐ後ろを走っていたトラックに轢かれずにすんだことがある。自転車にぶつかった小学生は「まるで抱き留められたみたい」と言い。実際怪我一つしなかった。この時は、とっさに子どもを助けたということで、赤田先生は、警察から表彰状をもらった。

 そんな自転車に乗って仕事に行くのも、今日が最後である。

 今日は、三学期の終業式。赤田先生は、終業式を最後に事実上退職する。三月の残った日々は、有り余る有給休暇にした。
「赤田先生は、三十七年の長きにわたって、この自転車に乗り、生徒諸君のためにがんばってこられました。お休みになられたのは、ご両親が亡くなられたときと、インフルエンザで出席停止になったときだけであります」
 校長先生の言葉に、生徒達の中から泣き笑いの声が上がった。
「それじゃ、みんな。これでさようなら! みんなもがんばるんだぞ!」
 赤田先生は、ニコニコ笑いながら大きく手を振り、グランドを一周して、校門から出て行った。
 学校のフェンスには、生徒達や先生達がしがみつくようにして手を振りかえしてくれている。

 学校は、少し高い丘の上にあるので麓に行くまで、学校のみんなから見えている。

 赤田先生が、坂の下の橋に差しかかったとき、自転車は急に跳ね上がり、欄干を超えると十メートルほどの高さから、真っ逆さまに川に転落した。

――陽子ちゃん。やっぱり君は、僕を許してくれなかったんだね。三十八年前、僕は、ほんのチョイ借りのつもりで、赤い自転車を盗んだ。まさか、それが高校で同級だった陽子ちゃんの自転車だとは思わなかった。あの時、君は亡くなって三日目。ちょうどお葬式が終わって、陽子ちゃんは火葬場で焼かれていた。それで、駅前に置きっぱなしにしていた自転車に憑りうつったんだよね。僕は陽子ちゃんが好きだった。だから、僕は嬉しかった。それから、毎日同じ部屋で暮らして愛し合った。でも、君は自転車。僕は人間。いつかはお別れの時がくる。好きな女の人ができる度に君は邪魔をしたね。だから、僕は定年のこの歳まで独身だった。でも、ネットで知り合った女の人と僕は仲良くなった。今日家に帰って部屋に入ったら、自動的に陽子ちゃんをロックできるように仕掛けを業者の人に頼んでおいたんだ。それも君は見破っていたんだね。そして、こうやって……ぼくは嬉しいよ。怖いほどに嬉しいよ。僕は……――

 そこで赤田先生の意識はとぎれた。

 その後、川から海まで捜索されたが、赤田先生も自転車も見つからなかった……。

コメント