大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

タキさんの押しつけ読書感想・『ホビット』映画化に先立って

2016-08-31 06:23:02 | 読書感想
タキさんの押しつけ読書感想・
『ホビット』映画化に先立って


この春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ


これは、悪友の映画評論家・滝川浩一氏が個人的に『ホビット』映画化に先立って読み散らかした読書感想を仲間内に流した物ですが、映画鑑賞にあたって、お役に立てればと、本人の了解を得て転載したものです。



 前に読み返したのが「指輪物語」の映画化前だから、かれこれ10年以上前になる。
 今回 「ホビット」が映画化されるのでまたひっぱり出して読み返した。 日本での創刊は1951年、 もう60年になる。


 確か、「指輪物語」を発表しようとしたが、あまりの長大さに出版社が二の足を踏み、プレ編を童話仕立てにして出したのが本作だったと思う。
 トールキンの創作の原動力は、イギリスに神話の無きを悲しんでの事、当時 同じ大学の教授であった C・S・ルイス(ナルニア国物語の作者)と共に書き始めた。文学者であると共に言語学者でもあったトールキンは、ストーリーを錬るのと同時に「エルフ」や「ドワーフ」の言語を作ったり、各種族の詩や歌(作曲もやった)を作ったり、本編には書き込まない「世界創世神話」をも作っていた。

 ルイスの方は、ナルニア著述にあたって そこまでアンダーラインを引かなかったようだ。アスランがルーシー達の世界では違う名前で呼ばれている(キリスト)と さっさと裏を割っている。

 さて、「ホビット~行きて帰りし物語」は早々にベストセラーとなり「指輪~」出版の背中を押す事と成るのだが、今回再読して、その世界観のまとまり方に改めて気づかされた。
 作家は、その処女作に 後に続く数々の作品の総てを詰め込んでいるものだといわれる。物書き各位におかれては異論もおありだろうが、私の読書経験からすると十分に首肯できる。ましてや「ホビット~」はトールキンの気か遠くなるような未整理草稿の上に成立している。これ以後、「指輪物語第1部~旅の仲間」に修正が入ったかどうかについては記憶が不確かなのだが、ホビットから指輪1の間は密接緻密に繋がっていて 些かの齟齬も無い。そして「指輪~」で語られる膨大な物語のエッセンスをプレ冒険談として語り尽くしている。まさにトールキンの総てがここにあると言って差し支えないと断言できるのである。
 
 トールキンは、世界を三千年を一区切りとして、三つの三千年紀を語っている。

唯一神がまず天使を生み、天使達との合唱の内に世界が創世されていく。この時、不協和音を出した天使が悪魔となり、もともと繋がっていた神界と地上を引き離す原因となる。悪魔を滅ぼさんと地上に残った天使達は後のエルフ達の先祖となる。悪魔対天使の戦で悪魔は滅ぼされるが、その一番弟子と一部眷属はしぶとく残り、この弟子が 後に魔法の指輪を作り、悪魔族対エルフ・人間連合の大戦争となる。
 この戦いもエルフ・人間側の勝利となるのだが、この時 指輪を破壊しなかった為、悪魔の弟子を完全には滅殺できず、後に禍根を残す事となる。
 
記憶が定かではないが、確か 悪魔対天使の戦いまでが第一の三千年紀で、悪魔の眷属との戦争が第二の三千年紀の二千五百年、この時 とあるホビットが指輪を偶然拾い 山深くに隠れてから五百年、この間に彼は怪物ゴラム(瀬田貞二訳ではゴクリと名付けられている)へと変身してしまう。

 世界創世から第二の大戦争までの五千五百年の話は、トールキンの死後 彼の子息が膨大な草稿を整理して「シルマリルの物語」として出版している。その後の五百年に関しては「指輪物語 第三部~王の帰還」巻末補講に触れられている。

 現在 日本語訳では、未発表草稿の内から 比較的まとまった逸話を集めた。「知られざる物語(全二巻)」が発行されている。イギリスではトールキンの遺稿総てを整理し 全十巻の本がある。知る限り未だ邦訳はされていない筈で、今回の映画化によって日本語訳が出版されるかもしれない。トールキンフリークとしては涎を垂らして待っているのだが……。

「指輪物語 第三部」で主なる登場人物達はこの世を去り、新たな三千年紀が 今度は人間の世紀として始まる…今は その第三の三千年紀の終末期と捉えられる。さて人間は無事に第四の三千年紀を迎えられるのだろうか…というのがトールキンの含みである。

 翻訳者の瀬田氏に対して何の含みも無いが、ただ、宗教的考察に欠けるきらいがある。訳自体も少々古くなっているので改訂訳を望みたい所。さらに言うと、ホビットがウサギの人格化ではないかと指摘されている。ホビット~ラビットで、至極当然な連想であるがトールキン自身それに言及してはいない(筈である) 瀬田さんは岩波文化人であって、どうしても唯物的思考のお人と思われる。
 イデオロギー・フリーでなおかつ宗教的教養のある人の訳で読みたいものである。いやなに、私が自在に英語を操れれば良いのですがね…………アハハハ。
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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ書評・のぼうの城

2016-08-28 06:10:12 | 読書感想
タキさんの押しつけ書評
 のぼうの城


この春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ


 これは、友人の映画評論家の滝川浩一が個人的に仲間内に流している書評ですが、もったいないので、本人の了解を得て転載したものです。

ハードカバー発売時、目には留まったんだけど手にはしなかった。
 おそらくは同じように目に留まった “ど(「石弓」を現す字が出てこない)”がイマイチだったのが原因かと……来月映画公開されるのでまぁ読んどこかいと思って読み出したら、これがなんとも良い!

 “のぼう”ってのはデクノボウの事、時は戦国の再末期 秀吉の北条攻めが舞台である。
 北条方の一枝城「忍城(おしじょう)」守兵500人対秀吉方 石田三成・大谷吉継以下20,000人。この忍城守護のトップが“のぼう様”こと成田長親(なりたながちか)。
 デカい身体をしているが武術・体術からっきし、城代の倅ながら 城下の村をうろつき百姓仕事を手伝いたがる。それがまともに出来るならまだしも、麦踏み程度の作業にも失敗する。 百姓にしてみれば有り難迷惑も良いところで 本人にメンと向かって「のぼう様は手を出さんで下され」と言い放つ。言われた長親、悲しそうではあるが一向に怒る気配なし。
 
 さて、この話 れっきとした史実であり、成田側、石田側はたまた公式の戦記にもはっきり記載されている。江戸期の書物には 公方に逆らった者として、必要以上に石田三成を貶めた書き方がされているが、戦闘があった当時のリアルタイム資料が五万と残っている。 本作の面白さは、合戦のスペクタクルと、“のぼう様”が本当に馬鹿者なのか稀代の将器かトコトン最後まで解らないというこの二点。
 時にハラハラ、時に爆笑(こっちの方が多い)しながら最後まで一気に読ませる。作中 長親が内心を吐露する部分は一切ない。その場に一緒にいる人間の評価が示されるだけで、読者にも全く判断が付かない形になっている。一読、隆慶一郎の何作かが浮かんだが…隆さんの作品にも この小田原攻めを扱った部分は多くあるのだが、また違った趣の小説である。
 映画では この“のぼう様”を野村萬斎が演じる、さほどの巨漢ではない彼が いかなる“のぼう様”振りを見せるのか、今からムズムズしている。
 他の配役も、なる程なあ~と思わせるのだが…ただ一点、石田三成が上地雄輔ってのが引っかかる。さて上地君、大化けして大向こうを唸らせる事が出来るか、彼にとってはキャリアの分かれ目になるとおもいます。本の内容にはあまり触れませんでしたが、面白いのは保証致します。是非とも御一読ありたい!
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タキさんの押しつけ読書感想『あなたへ』『黄金を抱いて飛べ』『岳飛伝』

2016-08-26 06:40:06 | 読書感想
タキさんの押しつけ読書感想
『あなたへ』『黄金を抱いて飛べ』『岳飛伝』


この春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ


これは悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に流している読書感想ですが、面白いので、本人の了解を得て転載したものです

☆あなたへ

 読み終えました。店のお客さんから「映画より良かったよ」といわれてたんで、読んでみようかなと思ったのですが…妙に分かり易く書かれていて、まさに不注意に映画を見ていたら見落とすような所をやけに詳しく書いてあるし、映画とは違った所でショートカットしてある。
 ただ、映画では極めて短いセンテンスの手紙が妻からもたらされるのですが、本には割と長めな文面になっている。
 文庫本「あなたへ」は誤解の仕様のない一本のはっきりした物語で、まぁこれはこれで感動的ではあるのですが、なんかこじんまりとまとまっとるなあっちゅう感じであります。これがあれだけ色々感じた映画の原作なのかと思うと、少々拍子抜けの感が否めない……ちゅうことはです。
 ひょっとして「映画が原作を超えたんかい?」…うっそ~!! マァジですかい!……と思ったのも束の間、本作は映画脚本のノベライズでした、チャンチャン。  
 
 
☆黄金を抱いて飛べ

高村薫の「黄金を抱いて飛べ」も本日読了。 高村のデビュー作で、来月映画公開されます。大阪を舞台とした銀行強盗物ですが、計画、調査、手法がやけに緻密に書かれているのと同じ位、メンバーの一人一人が至極丁寧に描かれています。映画キャスティングは判っているのて、ああ こいつは浅野やな とか思いもってよんどったんですが、さて 主人公の「幸田」をやるのが「妻夫木聡」なんだよなあ……。
 いやいや、妻夫木聡が下手だと言ってるんじゃないんですが、あまりにもイメージと違うキャラクターなので、一体どう演じるのか…興味深いやら怖いやら、頼むから変に原作をいじってなきゃええんですがねぇ~。


☆岳飛伝

「岳飛伝」二巻 終了しましたが、実史でいくと岳飛と榛魁(字忘れた シンカイ)が金に対する開戦・否戦で決裂して暗殺されるまでどう考えても二年ほどしかないんですが、どうも一冊当たり1~2ヵ月位のスピードなので下手したら10巻以上になるんかなと思いますわ。その後も梁山泊が存続するとしたら、やっぱり蒙古の侵攻が次の話になる。さあ、誰を主人公にするんでしょうねぇ。実は、楊令が女真族の女に生ませた息子ってのがいて、金軍のウジュツが養子にしとります。
 こいつなんですかねぇ? はたまた、元帝国になっても梁山泊はなんらかの形で残るのか? そういやチンギス・ハンの後継者フビライの子の内 チャゴタイ・ハンは確か養子だったとおもうんですが、話はこの辺まで続いていくんですかねぇ、どうせなら榛容なり胡延凌なりの子供が日本に逃げて来て世良四郎三郎の先祖に成るとか、アハハハハそれじゃ隆慶一郎ですかい。いずれにせよ、このサーガシリーズ、何処までいくんでしょうねぇ……。

 ところで、今ハタと気づいたんですが……明日から読む本がねぇぞ! ぎゃ~どないしょう~~!
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高校ライトノベル・ツン読書感想 平田オリザの『幕が上がる』を読む

2015-06-18 08:21:27 | 読書感想
ツン読書感想 
平田オリザの『幕が上がる』を読む



 わたしは平田オリザもももクロも好きじゃない。この好きなものじゃないものがドッキングした。

 幕が上がる……という。

 わたしは平田オリザが嫌いなため劇作家協会も辞めた。それほど嫌いである。
 ただ嫌いだけでは話にならないので図書館から本を借りてきた。
 普通映画の原作本は、数か月待たなければ読めないことが多いが、予約すると、直後に「確保できました」のメールが図書館からくる。

 講談社、四六判、305ぺ-ジもある。2012年の初版第一刷。3年もたつのに、ほとんど読まれた形跡がない。

①とりあえず32ぺ-ジまで

 主役(たぶん、さおり)のモノローグの形ではじまる。状況説明のようなことばかりで25ページ。一度投げ出す。
 主人公の演劇部がコンクールに落ちるという「事件」から始まるが、想像力を総動員して、自分の過去の高校演劇の経験と照らし合わせながら読む。事件なのではあるがドラマ(人間の葛藤やイザコザ)が希薄なため、野坂ほどではないけど、詰め詰めの活字。ボンヤリ読んでいると、筋の流れも掴めない。

 コンクールで負けたあとの日常が淡々と進んでいく。台本を書いた先輩が主人公にコクったのかどうかもわからないまま、唐突に『大学演劇の女王』であった吉岡先生が登場。その描写が「美人の美術新任の先生」
 わたしなら、美人であるなどとは書かない。人物の所作や行動、物事への反応などで人物を表現する。映画の最初がほとんどモノローグであったことが合点される。

②41ペ-ジまで、プロローグを読み終える

 8人いた演劇部は三年生が引退、1・2年生の5人だけの演劇部になるが、新学年になって新入部員が7人五月雨式に入ってきて、一気に12人の演劇部になる。その間新入生歓迎会がちょこっとよかったり、吉岡先生が「みんなが、それぞれ両親のことを語る」ことから芝居を創っていく方法を伝授。しだいに自然な表現ができるようになる。6月に校内公演で、それを演って必ず親に観てもらうことになる。

 相変わらず淡々としたさおりのモノローグ。前半で出てきた先輩の姿が消える。さおりとなにか起こりそうな伏線が張ってあったので期待する。

 コンクールで予選落ちした演劇部が5人に減ることはリアリティーがあるが、新入生歓迎会でやったことがよくて、7人も新入生……まず入らない。ま、そこは目をつぶるにしても、新採の先生が演劇部の指導をする動機が分からない。元学生演劇で女王と呼ばれていても、作品の中で書かれているように、完全に別物。どうやら美術部の正顧問で、演劇部は副顧問。
 新採の副顧問がのめりこんでいく心理的な条件が無い。
 吉岡先生と言うのは平田オリザ氏自身の分身のように思える。高校生といっしょに芝居作りの感動を疑似体験したい……先を読んでみないと分からないが、この段階で人間的な情緒表現がないと、登場人物、特に吉岡先生に感情移入できない。


③57ページまで

 視聴覚教室での特別公演。美人の副顧問吉岡先生が教えてくれた「家族を語る」を6月の上旬にやる。これはリーストラスバーグのメソード演技の中にある「記憶の再現」に似ている……ように思える。
 生徒に自由に語らせる……ところまでは同じ。だがメソード演技の場合「記憶の際限」のためには、演者と講師との間でやりとりがある。なぜなら、心理的、情緒的な記憶は物理的な記憶の再現(思い出し)の果てにやってくるものだからである。人間は「考えている」ように見えても、何かしら聞いて見て、匂いを感じたり、姿勢や肌の感覚、熱い寒いといった五感の感覚が働いている。その再現ができないと、俳優は「感情の解放」ができず、説明的な、あるいは見世物として誇張したパントマイムに陥る。
 この難しくも大事なプロセスが書かれておらず、生徒たちはいきなり成功してしまう。また、全員の家族が観に来ることは、それなりの親子の葛藤の末でなければ観に来ない。事実コンクールでも家族が観に来ているのは、ごく一部の熱心な保護者である。
 実際プロローグの予選では、さおりの両親が観に来た説明があるだけで、他の生徒の保護者は来ていない。コンクールでこれである、校内公演を全員の親が観に来るのは、いささかご都合主義ではないだろうか。
 S高校だったかの中西さん(3年生)が転校してくる。予選で優秀賞を獲り県大会に進んだ学校で、主役ではないが一番芝居の上手かった子である。どうなるかは、このあとに出てくるだろう。吉岡先生は、あいかわらず人間性なしの演劇機械。

④94ページまで

 中西の転校の理由がさっぱり出てこない。高校三年生での転校は非常に珍しいことで、かなりの理由がなければあり得ない。小説として納得できない。中西は卒業後プロの俳優をめざしているが、さおりの学校に来て演劇部に(吉岡先生の指導)接して、演劇部と劇団志望を両立させることを決心する。中西の人間的な背景がないので、ただ演劇部のために作者の都合で転校させたようにしか見えない。
 吉岡先生が、本気で演劇部の指導を(全国大会に行く)決心するところで、生徒たちと相談し、決心するところに、やっと人間としての心の揺れが見えたような気がするが。吉岡は教師としては失格。
 教師の初年度というのは、授業と研修、指導教官とのやりとりと校務で潰れる。なんで平田さんは吉岡を新任の教師の設定にしたんだろう。わたしが同じ職場にいたら「あんたクラブにのめりこみすぎ」と注意する。ラノベと開き直るにしては、文章が大人しく、リアリズムのような文体を持ってしまっているので、違和感が拭えない。
 コンクールにむけては「ロミジュリ」を下敷きにした創作と決まり、さおりが書くことになる。この展開は、ありえる話で抵抗はない。ただ、わたしの演劇観では演りたい本、演らせたい本の二つや三つは持っていなければ演劇人とは言えない。演劇集団として演劇部を育てるには、既成の脚本をしっかりやらせるべきだ。
 作中、吉岡先生が、全国大会過去十年間の台本を全部読んだと言う。大したものはなかった……これは共感できますが、どこにいったら過去十年分の上演台本が見られるのだろう。全国高校演劇協会は、そんなサービスやってないし、個人的に交渉し個人的に持っている先生から借りるしかないんだけど。まあ、そこは小説と割り切る。
 1/3近くまで、読んだ。まだ人間が出てこない。説明された人間の輪郭だけ。もしドラよりは、いい作品であることを祈る。

➄118ぺ-ジまで

 さおりと中西が、山梨の全国大会を観に行く話し。
 やっと会話が多く、小説らしくなるが、もう一つ食い足らない。ここまでで登場人物が高校演劇に没入するのが、吉岡マジックで流しているため、急に熱心になられても、人物の背景が書かれていないので入り込めない。ただ互いを「悦子」「さおり」とファーストネームで呼び合うことで象徴。ちょっと強引な感じ。
 一つ共感「コンクールは審査員の好みで結果が左右される」と審査の現状をきちんと書いている。で、平田さん、あなたの審査はどうだったんですか? と聞いてみたくなる。
 さおりが、創作劇を「銀河鉄道の夜」を下敷きにすることに変更。よくあることなので、これも共感。
 ただ個人的には、この時期に、まだプロットも出来上がっていないのは遅いと思う。
 もう一度、強調。平田オリザ氏も高校演劇の審査は偏向していると思っている! 

⑥165ページまで 県の研修会と自分たちの合宿

 作者には悪いですが、読むのが辛くなってきました。延々とさおりのモノロ-グ。時々会話は入るけど、研修やら合宿があったらさもありなんという日常ばっか。これが平田さんのいう「静かな演劇」に通じる空気なんだろうか。劇団新感線が好きなわたしには、耐えがたいモノローグです。
 さおりの『銀河鉄道の夜』を下敷きにした戯曲は、ほとんど苦悩することなく書けた様子。どうやらプロット程度のものでも、そこから稽古で中身を膨らませていけばいいという平田さんの作劇術が影響しているような気がする。
 吉岡先生が合宿中の夜中に外出、タバコの臭いを身にまとって宿舎に帰ってくる。これは吉岡先生の身に重大な変化が、この後にあるという伏線だろう。先を楽しみにする。
 高校演劇の現場に居た者としての違和感がいくつか。
 夏のこの時期まで、誰も退部者、幽霊部員になる者がいない演劇部は、ちょっとありえない。
 毎日の稽古の描写があるわけではないが、稽古を休んだり、乗り気でない部員が一人もいない。ちょっとご都合主義の感。
 新採教師の夏は研修と仕事だらけ。吉岡先生は美術部の顧問もやっているはず、そのへんのジレンマがないのは、審査員諸氏が大好きな「等身大」がない。プロローグでさおりにコクッタのかコクってないのかよく分からなかった孝史先輩がちょろっとでてくる。大学生になって、演劇からは遠のいている様子。さて、後半、どうなりますか。

⑦170ぺ-ジまで

 ここにきて「全員が揃わない日がある」と出てくる。もっと早くこういう状況は出てくるはずだ。それまで全員が部活に揃っていたことになる。やっぱりあり得ない。
 ユッコが推薦入試と、地区大会が重なって苦悩の末に、推薦入試を諦める。ちょっと考えにくい。コンクールはたいがい二日にまたがり、入試と重なった場合は出場の日を優先的に変えられることになっているはず。ために作った特殊な状況です。

⑧201ページまで 文化祭

 文化祭をコンクールの試演会のようにやる。よくあることで同感同感。
 ここにきて正顧問の溝口が「コンクールは入試と重なった学校は考慮される」と後出しジャンケン。でも、そんな学校は沢山あるだろうからと作者は逃げる。経験的にも10校コンクールに参加して、そんな事情のある学校は、せいぜい二校ぐらいしかない。やっぱり現場を知って作者は書いていない。

 最後に書こうと思ったのだけど。創作劇を演ることに違和感というか、厳しい言葉ですが嫌悪感を感じます。

 演劇の三大要素は、俳優、観客、戯曲です。にた部活に吹部があります。三大要素は、演奏者(指揮者も含む) 観客、演奏曲の三つです。吹部はコンクールなどで創作曲をもってくることは絶対と言っていいほどありません。わたしも昔は吹部にいたし、知恵袋で関係者からの答えを見ても「あり得ない」でした。二十年以上前に顧問の先生が作曲してコンクールに出てきたのが神話のように語り継がれているらしいです。
 わたしが吉岡先生なら、部員たちの身に合った戯曲の候補を示します。そして、その中から選びなさい。これが順当です。高校生が数か月で作曲家になれないように、戯曲も同様だと思います。
 ただ、吹部は適当に音符を並べただけでは、素人が聞いてもヘタクソなのが一発で分かってしまいますが、演劇の場合、子どもの絵のように一見アブストラクトで上手く見えてしまうこと。創作する学校が多すぎるので、当たり前に思っていることが障害です。
 戦後二十年以上は既成の脚本が大半でした。余裕があれば、最後に、また触れたいと思います。

 しかし、このモノローグ、なんとかならないだろうか。

⑨304ページ こんなん有りかい!?

 吉岡先生がときどきフケて、居なくなることが何かの伏線だとは分かっていた「まさか役者には戻らんやろ」と半分祈るような気持ちで読んでいると、なんと11月の地区大会を辛くも通過したところで、吉岡先生、いや吉岡は教師を辞める。
 こんな迷惑な演劇お姉ちゃんは学校にはいらない。本当に居たとしたら大ヒンシュクです。
 教科、分掌、授業に全て穴が開きます。全編を通じて吉岡の教師としての描写はまるでなし。これがコーチだとかOGだったら問題ないんだけど、採用試験を受けて(ということは、他に教師になりたかった人を蹴落としてなったはず。特に芸術科の教師は、大阪のように大きな街でも年間の採用は一人とか二人しかいない)あっさり辞めるか!?
 プロローグでも書かれていたと思いますが、高校演劇と言うのは顧問次第という要素が大きいクラブです。経験的・常識的に言って、こういう顧問が抜けたクラブは翌春にガタガタになるところがほとんどです。これは平田さんのファンタジーですな。

 生徒同士のトラブルや脱落者がゼロ。ありえません。平田氏にアドバイスしたと言われる先生たちは、何を平田氏に吹き込んだんでしょう!?
 百歩譲ってラノベだとしたら、エンタメ性がひどく乏しい。
 肝心のさおり達が作った芝居がちっとも分からない。銀河鉄道と、この演劇部の子たちの心情が、どこでリンクしたのか分からない。
「膨らみ続ける宇宙の中で、僕たちは限りなく離れていくし、いしょでもあるんだ」という禅問答のような台詞で暗示されるだけです。

 一つの演劇部が全国大会まで進むのは、こんな簡単なものではありません。もっとドロドロした人間模様があります。

 少なくとも5人ほどで細々とやっている大方の演劇部にとっては、なんの参考にも、共感も呼ばない読み物です。
 映画は観て居ませんが、この小説や映画で演劇部に入った人がいるとしたら、そのギャップに驚いたことでしょう。
 この春は、この映画のせいか、演劇部に入部した新入生は多いようです。ギャップを乗り越えて演劇部を続けていることを期待します。

 そして、吉岡という新任教師は許せません。



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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ読書感想『大橋むつお:ノラ バーチャルからの旅立ち』

2014-08-29 07:39:05 | 読書感想
タキさんの押しつけ読書感想
『大橋むつお:ノラ バーチャルからの旅立ち』



 これは悪友の映画評論家・滝川浩一が身内に流している書評ですが、もったいないので転載したものです。


なんか、ほのぼのと胸の中から暖かくなる作品達やね、一気に読み切ったよ。

俺はノラが一番好きやね。好みのSF設定だし、落ちが二重になってるし。 WOWOWで「イヴの時間」のアニメやってました。テレビ放送があって(? 知らんけどね)それの劇場版らしい。
 タイトルと同じ名前の喫茶店があって、アンドロイドが普通に存在する未来、その喫茶店では人間とロボットを区別しない、それがルールですと、わざわざ入り口はいった所のボードに書いてある。
 ちょっと別な事をしながら見ていたから……でも、ノラを読んでから、何か気に成ってきた。もっかい見るわ。   ちょうど旧タイプが破棄されるタイミングで記憶回路が初期化されても、ノイズ入りで在るかなきかの記憶にすがっているロボットが悲しい……そこだけ、妙に覚えてます。他に、恋人が死んで引きこもった女の子の所に、その恋人ソックリに偽装されたロボがやってくるってのもあったなぁ。何? こういった設定が流行ってたんかい? 俺、最近 深夜帯のアニメを全く見てないから解んねーでんす。

 クララは、やり方によっては、立派に不条理劇になるよね。そのバヤイ、ちょっとしたホラーテイストがまざるとええんやない? ただ、そうすると、始めのチャット部分に弱い所があるかな。ハイジが来てからラストまでが短いから、チャット部分で匂わせるか、それでラストにドンってひっくり返す。まぁ、大橋さんはそんなつもりで書いてないから、俺の勝手な読み込みやけどね。でもな、これでクララはほんまに一歩踏み出せるんかな。ちょっと書き足りないんじゃない? 結論は観客に預けるにしても、問題点をも少しはっきり見えるようにしたほうがええような…… 。

 星に願いを……も、可愛いね。ただ、志穂がトコとトシ君の関係を知らなかったって所が……ムムゥなんだよな、王子の存在もファンタジーと現実の間に浮いたまんまに成ってるように思えるし。この距離感は嫌いやないけどね。

 すみれの~は懐かしいねぇ、高演の芝居を思い出すなぁ……あれが優勝じゃないなんて、いかん!怒ってたのを思い出したよ。この本が埋もれちゃうなんて(いや、これだけがそうなるってんじゃなく。今は本の回転が早いからなぁ)もったいなさすぎやね。誰か推薦図書とかにしてくれへんのかなぁ。 とにかく、書き続けてね、継続は力だよ。 ネット小説もええけどさ、脚本も続けようぜ。 高校生向けだけじゃなく大人向けにも書いてみようよ。

 大橋むつおは埋もれたらあかんでぇ。


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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ読書感想『池井戸潤:銀翼のイカロス』

2014-08-08 07:11:55 | 読書感想
タキさんの押しつけ読書感想
『池井戸潤:銀翼のイカロス』



 これは悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に身内に流している読書感想ですが、おったいないので転載したものです。



北方版「水滸伝」「楊令伝」「岳飛伝」……漸く、頭からの読み返しが終わり、久方ぶりの新刊です。

「ロスジェネの逆襲」に続く“半沢直樹”シリーズ第四弾。半沢は本店に戻り、営業第二部次長に返り咲いています。
 前回の活躍からすると、平取部長……最低でも、と 思わんでもないんですが、この人 周りの迷惑考えずに喧嘩三昧ですからねぇ、敵を作り過ぎて、合併銀行内融和を図る中野渡頭取としては、あまり優遇人事が出来ないんでしょうね。これが生産現業なんかだと、一発で15人抜き出世しますな。
 半沢君、どんどん扱い金額がデカくなり、今回は500億の債権絡み、とうとう政治家も絡んできます。モデルに成っているのは「日航倒産」と「民主党の政権奪取」……いずれも日本を揺るがした大問題ではありますが、割と軽いタッチで仕上げてあります。半沢の行動原理は、ただただ“まっすぐ”ですから、普通は考えにくい選択を重ねて行きます。
 通常、本作のような“政策判断”に絡むマターはもっと複雑怪奇で、「快刀乱麻を斬る」なんて事をやっちまうと、後の混乱の方が深刻になります。 まぁ、民主党政権下では、「ありえね~!」と叫びたくなるような醜態が繰り返され、果ては こちらも呆れて笑うしかなくなりましたから……案外このストーリーもリアルなのかもしれませんがね。
 半沢が窮地に立たされ、そこから如何に反撃するかのシテュエーションを楽しむ作品ですから、ストーリーには一切ふれませんが、正直、反撃の方法に新し味が無いですね。金融現場では、これしか無いでしょうし、あんまり珍奇な事をされると、それこそリアルが滑り落ちるでしょう。とはいえ、少々先読み出来てしまいます。 その分、中野渡頭取の苦悩と決断を盛り込んで、これまで「謎の人」であった頭取の正体を開かしたりしています。

 評価としては、一級の金融小説ですが、第一作「俺たちバブル入行組」を超えられないように思います。

 真山仁の「ハゲタカ」程にぶっ飛んだ設定にも出来ないでしょうから、作者としても辛いでしょうねぇ。 本作は、明らかにテレビの2ndシーズン用に急がされた経緯もあると思います。日本ってのはまだまだ貧しいんでしょうね、熟成より消費優先です。決して つまらない訳じゃないんですが、段々軽く成っていると感じるのは私だけじゃないと思います。

 半沢はこの辺にして「水滸伝」を読み終えて(直訳本も含めると、通算15~6回読み返してますか?)毎回思うんですが、アタシャ梁山泊頭領/及時雨・宋江っちゅうオッサンに全く魅力を感じません。
 同じく「項羽と劉邦」の劉邦や「三国志」の劉備なんかも全くあきません。なんでこんなオッサンを担ぎ上げて、名だたる英傑達が従うのか理解不能。 北方謙三にせよ、司馬遼太郎にしても、このオッサン達を魅力的な人物に描こうとしていますが……どうもあきません。
 元々の中国原典が問答無用で「この人が親分なんだ」っちゅう書き方で、ある種の「中国人の理想」なんかなぁとも思うんですが、なぁんか納得行かない。三国志をよんでいても、つい呂布に肩入れしたくなります(最強戦士だが、あまりにも馬鹿)、だから、並み居る英傑達が純粋で一本気な所に、何やらウダウダと口先だけのオッサンはウザイのであります。



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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ読書感想『岳飛伝九』

2014-06-08 15:10:51 | 読書感想
タキさんの押しつけ読書感想
 『岳飛伝九』



 これは、悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に身内に流している読書感想ですが、もったいないので転載したものです。


久方振りの新刊です。ずっとスティーブン・ハンターの旧作を読んでいました。

「真夜中のデッド・リミット」に掛かったところで、これで手持ちのハンター作品は終了です。
 今回、読み返してみて、よ~く解ったのが「真夜中~」と「さらば、カタロニア戦線」の二作以外は、極一部にせよ、全部“スワガーサーガ”に繋がっているという事です。
 日本でのスティーブン・ハンター作品の翻訳出版は、出版社が三社にまたがり、また、出版順がバラバラだった為、その有機的繋がりが分かりにくかった訳です。
 今、改めて作品世界が見えています。これまでも部分的に読み返す事はあったのですが、「極大射程」から順を追って全部読んだのは初めて、やって良かったです。銃器がサブの主人公ですから、そちらに興味の無い方には苦痛になると思うので、万人にお薦め出来ないのが本間に惜しい。

 さて「岳飛伝」です。

 南宋と梁山泊は海上でとうとう開戦、呼応している訳ではないが、金とも開戦となり、ウジュ対呼延凌の間で火蓋が斬られる。南方では、秦容と岳飛に対して大里に侵攻した南宋軍が牙を剥き始める。
 ここ2巻、眠ったような展開だったのが、一気に動き始めています。
 経済戦も、ここ2巻に張られていた伏線が明らかになっている。「水滸伝」はこうじゃなくっちゃ面白く無い。   まぁ、小説ですから、沙門島が落とされて孫二娘が死んだりします(これでオリジナルメンバーの生き残りは8人)が、やむなしですね。彼女がここで死ぬ意味が分かりません。北方御大の価値観に“?”マーク一つです。
 物語的には岳飛が梁山泊にまた一歩近寄り、蒋ケン材も梁山泊に助けられる。これで間盛忠が梁山泊に取り込まれたら(無い話ではない)ある種の形が出来上がる。
 なんせ秦カイが、アホの官僚剥き出しになってきたし、ダラン(金の丞相)が死んで、金の宮中も大混乱。ウジュが軍事クーデターを起こして収拾しようとする。いずれにしても、後、ン十年で蒙古に飲み込まれるとも知らず、みんな懸命の権謀術数、読んでいて泣けて来ます。
 さて、ほんまに北方文豪……この先、モンゴルをどう絡めるつもりなのでしょうねぇ。
 また、楊令の遺児・胡斗児は、このまま、ウジュの子として生涯を終えるのか(な訳ゃぁ無え) 風雲急を告げる岳飛伝、次巻は一体いかなる仕儀となりますやら。いや、ほんまにやめられまへんなぁ。
 北方御大、物語途中でご病気など召されませんよう……楽しみに待っとりますでございます。



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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ書評・小太郎の左腕/逆説の日本史他2編

2014-04-26 06:59:05 | 読書感想
タキさんの押しつけ書評
小太郎の左腕/逆説の日本史他2編


 これは、悪友の映画評論家・滝川浩一の書評です。


小太郎の左腕

「のぼうの城」和田竜の三作目です。今回は全く架空の国を舞台にした戦国物語ですが、相変わらず読みながら画がまざまざと浮かぶ筆力は健在です。
 ただ、少しずつスケールが小さくなって行ってるのが少々気がかりです。この人、本来が脚本家ですから、あんまり小説に時間が裂けないのかも……。
 ある国の山中に鉄砲狩人の村があった。戦国のご多分に漏れず、この国も隣国との間に紛争が有った。この紛争に鉄砲狩人の孫が関わって行く。この孫、少々足りないのか 虐められてもニコニコ笑うばかり、同年代の子供達はそれなりに鉄砲を操るが、件の孫は全く下手。ところが、ある 特殊な銃を与えると、本領発揮 神手の狙撃手となる。
 この男の子の正体と、生来 底抜けに優しいこの子供が如何にして人を撃ち抜く狙撃手となるのか? それが主軸で、そこに他の人々の愛憎がからまる。鉄砲フリークの私といたしましては、いかに神の手を持つ狙撃手とはいえ、先込め火縄銃の射程圏が余りに大きいのには興醒め。いかに優れた砲手がいても、所詮 青銅の大砲とアームストロング砲じゃ勝負にならなかったのと(幕末の馬関戦争……長州vs英仏蘭米連合艦隊)同じ。まぁ、戦国ファンタジーだと思えば(ちゅかファンタジーだし)ええんですが、当時の事情やら雰囲気やら やたらリアルなんで、少々バランスがおかしかったです。

“逆説の日本史”

 週刊ポスト連載中のシリーズもとうとう幕末までやって来ました。この本も年一冊しか出ないんで見落としがち……ひょっとしたら去年の買ってないかも? 本巻はその幕末、長州が京都から追われ、益々尖鋭化する中、外国船に喧嘩売ってケチョンケチョンにやられるまでの2年間だけを解説しています。
 恐らく、日本人の行動原理・哲学・目指すべき未来像などが、坩堝に巻き込まれたごとくに千変万化した2年間……これを事細かに解説してあります。
 幕末維新史に関心の在る方必読! 史料主義学者に対する毒舌も健在なり(とはいえ、これはもうやめた方がええと思うんですが……) “

蘇るスナイパー
 スティーブン・ハンターの旧作を漸く全部読み返して、いよいよ未読の部分に突入いたしました。今作はボブ・リー(BL)・スワガーのベトナムにおける先輩であり、No.1スナイパーを名乗っていた男が、突如4人の男女を狙撃し、自らそのライフルで自殺する。
 事件は明白な結末を迎えるが、FBIニック・メンフィスに協力要請されていたBLには違和感が有った……って所から始まるのでありますが、始めの方に何やら強引な展開があって、“????”な違和感が有りました。違和感はこの後も続き、二冊目の前段まで少々イライラするのですが、BLが絶対絶命の危地を脱する辺りから俄然面白く……と言うより“腑に落ち”はじめます。そうなってくると「BLならこうするだろう」という予測もつきだして……まぁ、こういう読者の先読みを封じる工夫なんでしょうね、マンネリにしないための努力です。
 ラストは大サービスシーンになっとりましてカタルシス満開です。解説がいつもの関口氏じゃなかったのが残念。BLサーガフリークのお兄さんが書いてますが、くいたりまへんです。

星間商事社史編纂室  

 三浦しをんの新作です。題名からして“舟を編む”的な作品かと思いきや……まぁ、詳しく書くのは止めときますが、ハッキリ言ってお勧めしません。ある種の読者には受け入れられるかもしれませんが、私はダメでした。 編纂室に腐女子がいました……的お話でありますが、肝心の社史に関するストーリーがあまりにもヤッツケ仕事です。くすりとも笑えませんでした。



『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』
 5月発売決定!(税込み779円=本体740円+税)
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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ書評『犬の力』

2014-04-11 07:57:21 | 読書感想
タキさんの押しつけ書評
『犬の力』



 これは、映画評論家・滝川浩一の書評を転載したものです。


えっ?そんな映画があるのか?

 と思われた皆様、ハァイ! 正解です、“犬の力”という映画はありません。
 これはドン・ウィンズロウの小説です。 絶対読め! と友人がわざわざ持ってきてくれました(角川文庫) 内容はDEA(麻薬取締局)局員のアート・ケラーとメキシコの麻薬カルテル/バレーラ・パサドール(一統)との30年に渡る まさに血を血で洗う抗争の物語。

“犬の力”とは何を指すのか……旧約聖書/詩篇22章:窮地からの解放を神に祈る言葉の中に「剣」と共に、民を苦しめる“悪の象徴”を表す言葉として書かれています。
 虚構の中にCIAのコントラ支援(ちゅうかアメリカ政府やけどね)なんかの事実が絡められ、さながら70年台からの30年に渡るアメリカ/メキシコの裏面史を読む趣です。
 DEAのアートはメキシコからやってくる麻薬を止めようとやっきに成っているが、メキシコ官憲はやる気無し、どころか麻薬シンジケートに買収されて 信頼できる者はほんの一握り。DEAも、どこか腰が引けている。
 アートはあくまでも法に則って対処しようとするが全く歯が立たず絶望する。様々な難事が降りかかり、また、コロンビア解放戦線やら武器密売に中国軍が絡み、アートの中で何かが瓦解する。
 表面は法の執行官だが、徐々に「悪に対抗出来るのは、さらに強力な悪だ」と確信していく。“俺の中に犬の力を感じる”と……ラストは良くできたサスペンスになっていますが、カタルシスは無い。極めて後味の悪い幕切れとなっている……まぁ、現実です。
 全編からウィンズロウの怒りの叫びが聞こえて来る。さて、長い前置きでしたが、映画評になんで書評かっちゅうと、本作がアメリカのクライム(ノアールでも良いが)映画を理解する上で道案内をしてくれるからです。
 昨年のコーマック・マッカーシー脚本の「悪の法則」を見る前に本作を読んでおけば、マッカーシーが行間に埋めていたサイドストーリーが全て見えてきます。 数年前、東野圭吾「白夜行」のテレビドラマ化に際して、小説に書かれていない事件の裏工作を総て描いて見せました。小説とドラマの相乗効果の最良の例でしたが、まさにこれと同じ効果が出ています。コーマック・マッカーシーは「総てが悪意なんだ」「具体的力を持たぬ者は悪に関わってはならない」と描いて見せましたが、ウィンズロウは悪に対するに いかに力を得るかに言及しています。
 アメリカが「法治国家の皮を被った自警国家」だと繰り返し書いてきましたが、まさに人が「我が身は我が守る」という結論にいかにして導かれるかが延々と描かれています。そして、力には必ず、さらに大きな力を持つものが存在し、その高みに至らないなら結局 良くても失敗、悪くすれば破滅してしまう。絶対的真実。
 ノアール作品ばかりではありません。バットマンにせよ、スパイダーマンにせよ、「自警」と言う意味では一緒です。 殊に、クリストファー・ノーランがリブートしたバットマン/スーパーマンに顕著に見てとれます。   バットマンの物語の中では善悪の境界が常に揺らいでいますし、リブート3部作は悪対悪の構造になっている部分が大きな割合を持っています。 ヒーロー物語だと、最後に大ドンデン返しトリックで全部チャラにしてしまう訳ですが、これがリアルクライムだとそうは行きません。 出した結果は、総てキャラクターが担がねばなりません。
 本作ラストがサスペンススリラーに有りがちな展開になっており、もしかしたら何もかも綺麗に収まるか……と一瞬思いましたが、そんな訳ゃぁありませんでした。 なんとも重苦しい幕切れを迎えます。これがアメリカの真の姿だとまでは言いませんが、かなり正解に捉えられているとは言えます。読み切るのに結構体力が必要ですが、一読
後には自由の国・アメリカ(今時こんな呼び方しませんか?逆に言えば自由の国だからこその捻れです)の別の顔が見えてきます。
 物事を鳥瞰するとか相対化して見るのとは意味が違います。こんな小理屈は別にしても、極めて重層的に組み上げられた物語。 裏切り、罠、怒り、謀略、暴力、権力抗争、出会い、別れ、…死、死、死、死……実に様々な要素が精緻に組み上げられており、だからこそ虚構と知りながらも現実を見せつけられている気分にはまり込みます。

 これをこのまま映画にしてほしいもんですが、半端な作品になるでしょうね。 それじゃ意味がないんで、まぁ 本で楽しむしかないでしょう。「楽しむ」って言葉がまず違うと言われそうではありますが。



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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ書評・隆慶一郎“一夢庵風流記”

2014-04-05 08:22:14 | 読書感想
タキさんの押しつけ書評
隆慶一郎“一夢庵風流記”



これは、悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に身内に流している書評ですが、もったいないので転載したものです。



新感線の五右衛門を見て、隆さんが読みたくなりました。

 本作は原哲っちゃんの“花の慶次”の原作であります。 一代の傾希者(すきもの)前田慶次郎を主人公にした伝奇物語、何遍読んでも 読み出したら止まりません。
 前田慶次郎っても殆どの方には馴染みがないかもしれませんが、もとの出自は滝川一益の一党、それが前田利家の兄の養子となり、本来なら前田家の家督相続人だったが、主君信長の指図で前田家家督は弟の利家に譲られた為、養父利久の死を持って前田家とは縁が切れる。まるで戦う為に生まれたような人で、数少ない記録からだけでも、その剛勇、想像にかたくない。
 以前、NHKの大河で及川ミッチーが演じとりましたが、全くのイメージギャップ、なんで? と思ったもんです。
 前田慶次郎は記録や残存する旅日記からみて、単なる野卑な武人ではなく、深く広い教養人であった事も間違いありません。

 “カブク”=“反権威”ですから相当の覚悟と腕前がなければかぶけるものではありません。 織田信長にせよ秀吉にせよ一代の傾希者であった事は違いありませんが、その事よりも“天下人”としての評価が先に来て、その視点から見られる為、自由な一個の人間としての評価は二の次になります。その点 慶次郎は浪人を貫いた(最後は米沢藩上杉家の御家人になりますが)ので、個人としての生き様はさらに鮮烈に浮かび上がってきます。
 四代以降の徳川の時代、戦が無くなり、それでも中央集権/幕府の権威を保つ為、無理矢理持ち込んだ儒教による「主、主たらざれども 臣、臣たるべし」なんてな雁字搦めの存在ではなく(…こんな時代には“カブク”なんてな不可能)武士がもっと自由だった時代に生きた傑物のお話。
 恐らく日本人が世界最強の戦人だった時代(世界中の鉄砲の半数近くが日本に有ったと言われています) “
 唐入り”が秀吉の妄想(と決めつけるのは酷かもしれませんが)ではなく、信長が生きていたなら、もっと違う展開やったんでしょうね。少なくとも制海権を奪われるような無様は無かった筈です。  まぁ 繰り言です。武士がまだまだ自由であった時代においても、さらに突き抜けた存在だった男の物語です。“秩序”ってのは有り難いもんで、ルールに従っていさえすれば身の安全は一応保証されるんですが……そんな世界に息苦しさを覚える魂も……特別な存在じゃなく、誰の中にも少しはあると思います。そんな憂さを払ってくれるお話です。



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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ書評『“第三の銃弾”以降』

2014-03-29 06:41:27 | 読書感想
タキさんの押しつけ書評
『“第三の銃弾”以降』



これは、悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に身内に流している書評ですが、もったいないので転載したものです。


本来、スティーブン・ハンターの未読本が6冊もある事が判ったので、早速それらを読みたい所ですが、それ以上に“第三の銃弾”に関わるボブ・リー・スワガー主人公の過去作を読み返す事に気持ちが引っ張られました。

“極大射程”“狩りのとき”“ブラックライト”と読み返しました。後、“ブラックライト”と直接関わる“ダーティーホワイトボーイ”に明日からかかるつもりです。
 前にも書きましたが、スティーブン・ハンターの小説の登場人物群の中で一番異彩を放つのは銃と銃弾です。ハンターに関して こんな論評が有ります 「ハンターはトム・クランシーが原子力潜水艦を使ってやった事(レッドオクトーバーを追え)を、ライフルを使って表現した」……う~ん、言い得て妙であります。ただ、忘れてはならないのが ハンターは銃を前面に置きながらも、そこに“人間”が屹立している姿をはっきり書き記していると言うことです。
 しかも、作中でボブがこだわり続け、会話するのは……既に死んでいる父/アール・スワガーであり、ベトナムでスボッターを勤め、除隊を目前に倒れたダニー・フェン(しかもボブの妻はダニーの元妻)です。
 もう何十年も前に死んだ人々の死の真相に迫って行く、それは在るか無きかの……しかし、注意深く見れば明白な過去の事実を丁寧にたどる旅であり、現代のオデュッセウス ある種の冥界巡りとも言えるでしょう。
 この物語の中で人間も、さらに自身を取り巻く環境も大きく変化していくが、武器の本質は変わらない。ハンターは乾いた無機物に過ぎない武器が、それを手にする人間の心の有り様によって千変万化する様を追う事で人間心理の奥深くに切り込んで行く。一時期、大藪春彦にはまって 恐らく全著作を読んでいるが、ハンターを知った後では正直色褪せる。なんぞと書いてしまうと、あの世の大藪さんに狙撃されそうではあるが、やはり人物の厚みが違う。
 得意の銃にしても解説の深さが違う……これは酷ってもんですねぇ、所詮 日本にいたんじゃ解らない事の方が多いですからね。私の武器への興味、なかんずく銃に対するこだわりは大藪作品を通して培われていますから、悪口はいけませんや。
 ハンターの描く“スワガーサーガ”には通底する哲学が有ります、世界観と言い換えても良いのですが、評論家の関口さんが的確に書いています。「ヘラクレイトスは“戦争は万物の父である”と説き、ホッブズは これを人間行動に当てはめて“自然状態においては万人は相互に敵同士である”と結論。サルトルは更に進めて“二人の人間があいまみえるとき、必然的に戦闘状態が生じる。そこでは互いに相手の主体性を奪い取ろうとする。地獄、それは他人である。”と断じた。 これを世界の状況に俯瞰するには政治・経済的レトリックを重ねてみればよい。共産圏においては弁証法的唯物論/階級闘争であり、資本主義においては競争神話/個々人の私利追求の総和がいつの間にか公益になると言う幻想である。
 サーガの登場人物群は、まさにこの原則上に生きていて、この時間軸上で古いアメリカ人と新しいアメリカ人が対峙する。 この新旧の対話の中で、新しいアメリカ人は自分が何者であるかを考え、古いアメリカ人は自らのアイデンティティを示す。

 読者は読み進めて行くうちに自身のアイデンティティあるいはレーゾンデートルに思い至る。単なるアクションサスペンスでは有り得ない。



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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ書評『スティーブン・ハンター“第三の銃弾”』

2014-03-16 09:58:57 | 読書感想
・タキさんの押しつけ書評
『スティーブン・ハンター“第三の銃弾”』



これは、悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に流している書評ですが、もったいないので転載したものです。



ハンターの“スワガー・サーガ”最新刊にして最上級ミステリーです。

 スティーブン・ハンターはアメリカ地方紙の映画評論をスタートにガンアクションスリラーの書き手として、頂点に君臨しています。代表作“極大射程”はマーク・ウォールバーグ主演で映画化(面白かったけど原作に比べると数段落ちる)されています。
 当初は大規模軍事作戦物を書いていましたが、ベトナムでの天才スナイパー(狙撃手)ボブ・リー・スワガーを主人公とするシリーズで一気にこのジャンルのトップに躍り出ました。シリーズはボブの父親アール・スワガー、ボブの息子クルーズを主人公とするものもあり、親子三代の“スワガー・サーガ”になっています。
 ハンターには独特の語り口があり、かつ 銃に関する膨大な知識が解説され、またそれがストーリーの重要部分になりますから、銃に関心のない方には少々辛いかもしれません。

 しかし、本書は一読に値すると確信します。

 本書“第三の銃弾”とは1963年テキサス州ダラスにおいてJFケネディの頭蓋を砕いた三発目の弾の事です。
 JFK暗殺はテレビの初衛星中継の日に偶然合致、中継を見る為に多数の日本人がテレビの前に座っていた所に いきなりニュースとして流れました。 私は10歳でしたが 当時受けたショックは今でもはっきり覚えています。犯人は2時間後に捕まったリー・ハーベイ・オズワルド(以下LHO)。彼は共産主義者であり、一時期ソ連邦に亡命していた経歴があり ソ連情報局の暗躍が疑われましたが、翌日 移送されるLHOをジャック・ルビーというストリップクラブ経営者が射殺した為、暗殺の背景は解らなくなりました。 その後、アメリカは“ウォーレン委員会”を組織して事件の徹底究明を目指しましたが、発表された報告書(総てが公開された訳ではない)は不備な点が多々あり非難にさらされました。
 改訂版が確か3~4回出され、その都度 報告書は厚みを増しましたが、内容的には初版と大差ありませんでした。ずっと批判されているのは

①LHOの単独犯だと決めつけている
②銃・弾薬の分析に当たった人物が適任ではない
③事件の背後に対する考察が薄い…との3点がもっとも多いようです。

① LHOは元海兵隊狙撃手ではあるが、腕前は一級狙撃手(二級とする説もある)であって“特級”ではない。そのような程度の人間に かくも見事な狙撃が出来るのか? 観衆の証言によると、少なくとも三方向からの銃撃音が報告されている(但、当時のダラス/エルムストリートは地形/ビル・道路の位置から反響し易い条件下にあり、ダラス教科書倉庫からの銃撃音が反響したと考えるのが常識的) 反響を考慮するにせよ、教科書倉庫と隣り合ったビルからの狙撃も考えられるのではないか。② LHOが狙撃に使用したライフルは“カルカノ”という第二次大戦中イタリア軍の正式銃であるが、63年当時ですら欠陥品とされていた。しかも、LHOのキャリアは銃についている照門/照星を使ってのものであり、スコーブ使用によるキャリアはない(ソ連亡命中のキャリアも判明している) 押収されたカルカノにはスコーブが装着されていたが、至極安物であり(日本製) 4本のボルトで固定すべきなのに ボルトは2本しか締まっていなかった。 三発の銃撃があったが、命中したのは二撃・三撃目の二発。一発目はパレードカーの左後方の縁石に当たって数個に割れ 跳弾となって車のフロントグラスにぶつかり運転手の足元から発見された。二発目はJFKの背中から射入、骨を避けて首、胸、腰を傷つけた後 身体から飛び出して前席のシート越しに知事を襲い、病院で知事の服から発見された。(一発の弾が このような複雑な動きをするものか疑問視されたが、現在証明されている)

 問題の三発目、これはJFKの左耳横から右に向けて入り、彼の後頭頭蓋を脳漿と共に後方に吹き飛ばした。しかし、この弾丸は発見されていない。運転席から発見された破片がそれではないかと言われたが、如何なる人体の形跡も付着していなかった。
 このため、教科書倉庫からの(後方からの)銃撃ではなく、前方あるいは横からの第二第三の別人による狙撃が疑われたが 何ら証拠形跡が見つからず、JFKの頭蓋中で跳ね回った後外に飛び出したか 頭蓋中で爆発して粉々になったものと推定された。
 しかし、これはどちらも有り得ない現象で、LHOが使用した銃弾は非力な弾丸であり 頭蓋を貫通したならその時点で脳内に残留するしかない。また、そんなエネルギーがあるなら、第二射命中弾はJFKの骨を避けずある程度真っ直ぐに入って突き抜ける。 また、使用された弾丸は鉛の上に銅でコウティングされた徹甲弾であり、徹甲弾はパンクション(見かけ爆発…炸薬によらず、みずからのエネルギーで崩壊爆発する)を起こさない。
 これらの指摘は63年当時も常識的意見であったが、何故かウォーレン報告書には明確な説明がなされていない。③ JFKのダラス訪問は比較的急遽決定され、さらにパレードルートは2日前まで解らなかった。それをこのようにして用意待ち伏せできたのには相応の巨大なバックの思惑が動いたと考えるのが妥当だが、報告書は深くは突っ込んでいない。じつは この部分の調査報告が一番伏せられており、総て公開されたなら黒幕が現れると言われているが 現在は五里霧中である。

 このような経過から、すでに50年の時を経ながら未だに関係書籍の花盛りであり、中には単なる妄想の域を出ないものもある。
 しかし、LHOを殺したルビーも殺されており、その後15年程の間に暗殺捜査に関わった人間 または何らかの形で調査・陳述した人々の内30数名が自然死以外の死を遂げており、この事件の闇を更にひろげている。
さあて、本書はJFK暗殺時点ではまだ少年であったボブ・スワガーが、ちょうど30年後に狙撃事件に巻き込まれる(極大射程) 彼は雁字搦めの罠を噛み破り、途中から無理矢理見方につけたFBI捜査官ニック・メンフィスと共に逆襲に出る。最後に残った罠も仰天の機転(周到な準備というべきか)でひっくり返す。このラストのトリックは これ以降の多くの作品に影響を与えている。 それから20年、ボブの元にある女性から調査依頼が舞い込む。JFK暗殺にもしかしたら絡むかもしれないと思われたが、ボブをつき動かしたのは提示された証拠のコートに付着した小さなタイヤ痕だった。それは50年前の事件に留まらず、ボブ自身に降りかかった20年前の事件の亡霊をも呼び覚ました。
「極大射程」事件を絡ませつつ JFK暗殺の真相に迫っていく。勿論 小説であるからスワガー・サーガ世界のなかでのストーリーですが、JFK狙撃の第三の銃弾について これほど明解に喝破
した説を知りません。思わず息を呑みました。JFK暗殺にいたる背後事情やLHOの行動動機はサーガの中のフィクションですが、これも思わず唸る説得力です。
 銃/銃弾に興味のない向きにはまことに読み辛いかもしれませんが、ミステリーファンなら絶対読むべき一冊ですよ!



『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』        

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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ書評『百田尚樹:ボックス!』

2014-03-06 07:44:32 | 読書感想
タキさんの押しつけ書評
『百田尚樹:ボックス!』



これは、悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に身内に流している書評ですが、もったいないので転載いたしました。


BOX…「箱」を意味する名詞であるとともに、「ボクシングする」という動詞でもる。

 だから本作は「箱!」ではなく、(ボクシングで)戦え!の意味。プロボクシングで「ファイト!」と言うのと同じ意味です。
 百田さん、今回もジャンルが変わり 文体も変化している。高校ボクシング部が舞台で、天才的ボクサー/鏑矢とその友人/優希、副顧問の高田(20代女性)の三人が主人公。文体は三人称だが、優希と高田の視線から交互に語られ、鏑矢が自ら独白する事がない。この構成が面白い。

 これは「あしたのジョー」の学園青春物語です。我々の世代……百田氏は若干若いが……は ボクシングと言えば「あしたのジョー」を抜きには有り得ない。こいつはジョー、こっちが力石、段平のオッツァンもいる。漫画のドヤ街ほどではないが、舞台は西成の高校。荒川土手は淀川に代わって、舞台設定も見事にはま
り込む。
 基本的なボクシング知識とアマチュアボクシングについて、やけに詳しく説明してある。現実にボクシング部に取材もしているが、百田氏も高校生ボクサーだったらしい。ちょっとビックリいたしました。  これもホンマに上手い小説です。ボクシング題材の小説ってのは たくさん有りそうで 実は殆どありません。漫画なら絵で、映画なら映像で 戦いの迫力を表現できますが、これを「文字」でとなると難しい。本作では、まるで試合会場にいるかのごとくに感じますから これは尋常の表現力ではありまん。

 リング上でステップするキユッキユッって音、バンチが決まった時の内臓に響く音、ボクサーの息づかい飛び散る汗……目の前に浮かび上がっています。
 そして、サブキャラクター達も 実に見事に描き込まれ それぞれに重要な役割を担っている。何より みんな肉体を持って生きています。全員が「青春の懊悩」の真っ只中、悲劇のヒロイン(始めはとてもそうとは思えない)も登場する。
 単なる青春ストーリーではなく、人間の成長をボクシングを通して語る小説です。ラストが予定調和すぎて嫌なんですが……これが百田尚樹のハッピーエンド、認める事にいたします。

 ボクシングに関心無くとも また 女性の鑑賞にも耐える作品です。以前に 市原隼人主演で映画化されています。 百田氏に無関心だった頃の映画なので未見、こら探してこんといけません。 ただ、あんまり過度の期待は……やろなぁ〓



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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ書評『真山仁:コラプティオ』

2014-03-04 06:46:14 | 読書感想
タキさんの押しつけ書評
『真山仁:コラプティオ』



 これは悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に身内に流している書評ですが、もったいないので転載したものです。

corruptio:汚職・腐敗を指すラテン語

 単行本が出た時に読んでますが、文庫を間違って買ってしまいました。 改めて、初刊時より今の方が時代にマッチしていると思います。
 東北大震災に際して彗星のごとく現れた救世主にしてカリスマ的政治家・宮藤と若き政治学者にして宮藤の秘書官を勤める白石/大新聞の記者/神林。この三人を中心に政治の深層を探る。

 初刊 平成23年より今の方が時代に寄り添っているというのは、何も安倍政権を揶揄しているのではない。物語はもっと普遍的なテーマを追っている。初刊刊行時、多分に予言的な内容を持って本書は世に出た。
 未曽有の災害に当時の為政者の化けの皮が剥がれ落ち、日本人は強力なリーダーを求めていた。その風を背に受けて宮藤は首相に登りつめる。力強い言葉とカリスマ性を武器に その支持率は右肩上がりに上がっていく。 まぁ、あまりストーリーには触れない方がよろしい。ご想像通り、政権に疑惑の影がさす。果たして真相は? という疑問を追って物語は進行する。
 真山仁は、あの「ハゲタカ」の作者です。今回、経済ミステリーから「政治」に舞台を移しての作品。読み出すと止められなくなるのは「ハゲタカ」と全く同じです。「ハゲタカ」シリーズと同じく、状況の薄皮が一枚剥がれ落ちるたびに少しずつ違う風景が顔を出す。この状況変化をどう考えるか、どう対処するか……登場人物達の立場は微妙に変化し、心中は引き裂かれていく。この人間心理の移り変わりの筆致はさすがです。
「最良なるものの腐敗は最悪である」というラテン語成句がありますが、我々は「最良なるもの……と信じていたもの…」というように書き換えないでしょうか。 あまり違いは無さそうですが、書き換えた方には責任転嫁があります。「私は騙されていた」……どうでしょうか。
元の成句には「腐敗は避けられない、如何なるものにも」という意味が込められているのです。ラテン語成句じゃありませんが「騙すなら騙すで騙し通してくれ」ってのがありますが、その方が少なくとも心は平安だって事なんですね、その結果 奈落に落ちるとも……なんてな覚悟がある訳じゃありません。人間ってのは どこか他力本願で、ジッとしていれば誰かがどこかに運んでくれると幻想しがちです。
 その意味で、本作の主人公達は 自ら浄化の道を取ろうと……最善ではないにせよ……努力しています。とはいえ、最後の為政者の言葉を鵜呑みにはできないし、そこまで追い詰めた側も その後の進展に責任がとれるのか? 状況に関わり続けるのか?という疑問が残る。

 現実には有り得ない理想論を振り回すつもりはありませんが、本作がこれで完結するとするなら……私には「絶望」の二文字しか見えない。想像力の欠如?
「ハゲタカ」と同じく、本作の主人公達が、この後 如何なる地平を切り開くのか、是非とも続編が読みたいと思います。



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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ書評『米中開戦③④』

2014-02-28 07:11:06 | 読書感想
タキさんの押しつけ書評
『米中開戦③④』



これは、悪友の映画評論家・滝川浩一が、個人的に身内に流している書評ですが、もったいないので転載したものです。


書評始める前に ①②の時の訂正です。

 前回 本シリーズがクランシーの遺作だと書きましたが、ごめんなさい もう1シリーズあります(やったね〓)Command Authority ロシア大統領(元KGB!!!)の秘密をめぐって、30年前のジャック・ライアン・シニアの冒険と、現在のジュニアの活躍が交差する話だそうで、現在 翻訳作業中 さて 出版はいつなんでしょうねぇ。
 も一つ情報、現在公開中の「エージェント:ライアン」は一応 3部作予定でしたが、当初予定していた売上が不可能だってのがほぼ確定、シリーズ化にストップがかかっていましたが なんとか継続させるようです。主演のクリス・パイン/キャシー役キーラ・ナイトレイはそのまま、ケビン・コスナーについては分かりません。今作もそうだし、次回の最終作も映画化は不可能ですから、今度は脚本にこだわって作ってほしいもんです。

 で、本作の話です。一気に話は展開し始める、もう怒涛の勢いです。
 ハッカーの中枢に攻撃を加えるが、捉えたハッカーからはなかなか情報は得られない。ヘンリー・アソシエイツの正体も風前の灯火、最前線の鍔迫り合いはどちらも決定打を放てない。そんな中、中共の物理的攻撃は日々エスカレートしていき、サイバー攻撃も本格化する。
 ハッカー対ザ・キャンバスの戦いも佳境を迎えるが、どうも中共側が半歩先を行っている。ライアン大統領とジャック・ジュニアはアメリカを勝利に導けるのか、クラークはどこて活躍するのか。
 殊に④は 息接ぐ間もないほど急坂転がるような展開ながら、あくまでもリアル。
 クランシーのシリーズに対して「こんな都合良く行くかい!」とお怒りの方がいらっしゃいますが……「そりゃあ小説なんだから」とは申しません。クランシーの言いたいのは、勿論エンタメ作ですからアクションの迫力は強調してありますが 中心をしめるのは「如何にして正確な情報を集め、正当に受け入れ分析出来るかが 総てを決定するんだ」という事です。
 ここで言う“情報”とは、他の何物でもない“ヒューミント=人的情報”の事です。確実なヒューミント無くしては何事も失敗する確率が高くなるんだ! とクランシーはシリーズ第一作「レッドオクトーバーを追え」から書いているのです。
 ジャック・シニアが大統領になって以来、日本を始め中共、ロシアと戦争の連続でした。

 各シリーズ共に 全面戦争の可能性がありましたが、問題の核心部分をピンポイントに潰す事によって最小限戦闘で終わらせています。まぁ、現実にはいろんな考え方の人間、利益の相反する勢力が存在しますから、人間最悪の選択「戦争」の長期化を望む者だっています。ライアンシニアが極めて理性的正義の人(よくボーイスカウトだって言い方をされます)だからこれで済んでいる訳で……確かに「小説なんだから」としか言えませんがね。

 作品の中に何を求めて読むか ですが、クランシーの本シリーズが 今の世界の一面をリアルに描いている事に疑いはありません。 話を戦争から生活/仕事に入れ替えれば 我々にも様々なサジェスチョンを与えてくれます。
 とはいえ、気楽にお楽しみいただくのが第一であります。小理屈こねるのが私の悪い癖(杉下右京かい?) ごゆっくりお楽しみ下さい。〓



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