大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・49『二本マスト』

2018-04-30 12:16:49 | 小説3

通学道中膝栗毛・49

『二本マスト

 

 

 駅についても降りないわたしを同じ制服たちが訝しんでいく。

 

 ギリギリで飛び乗ったわたしは、スカートをドアに挟んでしまった。

 ちょっと引っ張っても取れやしない。電車の中でアタフタするのも気が引けて、とうとう駅についてしまった。

 こちら側のドアが開くのは……七つも向こうの駅だ。

 不可抗力とは言え、大幅遅刻確定だ。

 ま、仕方ない。開き直って七つ向こうの駅までの景色を楽しむことにした。

 

 東京はどこも同じような景色だけど、通い慣れた通学路を外れてしまうと、もう見知らぬ街だ。

 スマホで検索すれば、どこをどう走っているかは、すぐに分かる。

 でも、わたしは、このトラブルを楽しんでみることにしたのだ。一字かえればトラベルになる。そんなダジャレめいたことにも、なんだかワクワクする。

 折り返しの駅に着いたら担任にメールを打とう。

 そう対策を考えると、ちょっと安心。ドアに寄り掛かったまま、うつらうつらとしてしまった。

 

 そして乗り過ごしてしまった!

 

 七つ目の駅はとうに過ぎて、電車は江戸前の海の方角に進んでいる。

 なんで、ドアが開いたことに気づかなかったんだ!? そうほぞを噛んだら、スカートは、あいかわらず挟まれたままだ。

 わたしの間抜け! 気づかないばかりか再びドアに挟まれてしまうなんて……ちょっとパニクッていると、ドア横の注意書きが目に入った。

――ホーム改修のため〇〇駅ではこちら側のドアは開きません――

 ずっと斜め前にあったのに、わたしは気づかなかったのだ!

 

 やっと降りれたのは、海に面した終点の一個前。

 

 海から入り込んだような入り江がプレジャーボートの船溜まりになったようなとこで、寄せる波に帆柱たちがユラユラ揺らめいている。

 先日、加山雄三さんの船が炎上したのを思い出した。

 船のエアコンは停めてしまうと結露ができてしまうので、ずっと点けっぱなしという贅沢さに驚いた、そのエアコンが原因とも読んだような気がするが、それはさておき、数百メートル先のボート群のデラックスさに驚いた。

 その中にひと際大きな二本マストが目についた。

 この連休にクルージングでもするんだろうか、デッキの上では数人の人たちが立ち働いていた。

 その中の一人、黒の執事服……上着を脱いだ姿はほれぼれするようなプロポーションの女性だ。あのまま背中に孔雀みたいな羽を点けたら宝塚のトップスター……伝わったんだろうか、執事服が振り返って、数百メートルの距離で目が合った。

 

 アケミさん……!?

 

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高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・48『ハンダクラック』

2018-04-28 10:53:42 | 小説3

通学道中膝栗毛・48

『ハンダクラック』 

 

 最初二分半、二度目に二分でP3は焼き上がった!?

 

 そして仮組してスイッチを入れると、P3はみごとに蘇った!!

「えーー、なんでオーブンで焼いたら直るわけ!?」

「初期のP3は発熱がハンパじゃなくって、基盤がハンダクラック起こすの」

「クラック?」

「ひび割れの事です、融点の低いハンダは発熱と冷却が繰り返されることで微妙に溶けてひび割れが出来ます。ですので、オーブンで程よく焼いてやることで、ハンダが溶けて、再び回路が復活するということなんです」

 アケミさんが補足してくれる。

「初期の60ギガバイトのはP2のソフトもできるし、ま、いろいろできるから置いとくと便利。そーだ、60ギガじゃ可哀想だから1テラくらいのハードディスクに交換して上げよう、こんど持ってくるね!」

 そう言うと、ノドチンコが見えるくらいのアクビをした。

「ちょっとお眠ですね、今夜はこれくらいにしておきましょうか」

 アケミさんが、そう言うとモナミは素直にオンブされてしまった。

「じゃ、栞さま、モナミさまのことよろしくお願いいたしますね」

 

 ニッコリ微笑んで、アケミさんは、モナミをオンブしたまま狭い階段を下りて帰って行った。

 

 そのあと、お風呂に入りながら考えた。アケミさんが言ってたことをね。

 ゲーム以外……ゲーム以外と言っても、ゲームそのものもハンパなわたし。

 考えてみたら、夏鈴が居たころから、いわゆる帰宅部で、学校の行き返りの通学路以外のことはあんまり知らない。

 アキバとか渋谷とかは時々行くし、週末にはメイド喫茶のバイトもやっている。

 でもね、人を楽しませるほどに馴染んだところは一つもない。

 うーーーーーん

 テーマパーク……水族館……動物園……スカイツリー……浅草……人形焼き……海の科学館……お台場……東京ビッグサイト……恩賜公園……それから……

 いっこうにまとまらない。十六年生きてるから、それなりに行ったところは多いけど、連れて行ってもらったとこばかりだ。

 能動的なお出かけじゃなかったから、やっぱ、モナミを連れて行って楽しめる自信はない。

 

 そうこう思い悩んでいるうちにのぼせてしまったので、さっさと寝ることにした。

 

 けっきょく何も思い浮かばないうちに朝が来て、いつも通りの通学路。

 駅の階段を上がっている時にスマホが鳴った。モナミからの電話だ。

 

「もしもし?」

―― オハー栞! この連休海に行くから用意しといてね。また連絡するね! ――

 

 それだけ言って切れてしまった。なんなのよーーとスマホを睨んでいるとホームで準急発車ののアナウンス。わたしは二段飛ばしで階段を駆け下りて電車に飛び込む。

 ちょっと違和感。

 なんと閉じた扉にスカートが挟まれてしまった。

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高校ライトノベル・ライトノベルセレクト・145【わたしのAKB48】

2018-04-28 06:38:13 | ライトノベルセレクト

ライトノベルセレクト・145
【わたしのAKB48】
         初出:2014-01-26 09:01:22


 このごろ、AKB48を観なくなった。

 最後の学年末テストが終わったら、アキバまでリアルAKBを観にいこうと決めてもいた。
 それが、まるで、そんな気持ちが無くなった。
 自分でも、この心境の変化に驚いている。

 AKBの結成は2005年。今年で10年目……かな?
 わたしがハマリだしたのは、2006年の『会いたかった』のメジャーデビューから。小学校の4年生だった。
 あたしは群れるのが嫌いだった。保育所のころから「お手々つないで」とか「みんなそろってね」とか言われるのが苦手だった。保育所のころは年長組のとき、いつもパートナーになるシンちゃんって子が嫌いなせいかと思っていた。
 シンちゃんも、あたしよりも一つ前のルミちゃんがいいのがよく分かっていた。2年間手をつないでも、お互いの顔は見たこともない。

 小学校に入ったら、変わるかと思ったけどダメだった。

 そもそも、人と群れることがダメと気づいた。
 自分や相手の気持ちなんか、なんにも考えないで「さあ、仲良くね!」は、ゲロが出そうだった。
「亜季、お友だちと仲良くできないんだって?」
 最初の懇談から帰ってきたお母さんが、ため息ついて言ったのを覚えている。
 3年生までは、通知票に決まって「集団活動が苦手」と書かれていた。

 それが、AKBの『会いたかった』で、世界が変わった。

 こんなに、一生懸命いっしょになって歌ったり踊ったりすることができる子達がいるんだ!
 まさに、大発見だった。You tubeなんか観まくっていた。タカミナの「このオーディションに落ちたら諦めようと思ってました」にもビックリした。そしてオーディションの様子。みんな、あたしたちと変わらない年齢で、歌も踊りも上手だとは思えない。プロモの彼女たちとはまるで別人。それが、あのチームワークとテンションの高さ。
 なによりも「お手々つないで」の強制なしでやれているのが信じられなかった。

 4年生からのあたしは、ガラッと変わった。運動会や生活発表会でも進んで前に出て、みんなを引っ張っていった。AKBの主なレパートリーは、ほとんどカンコピできた。でも、みんなとやるときは「会いたかった」とか「ヘビロテ」とか、ポピュラーなものにした。
 AKBの真似だけじゃないよ、遠足や修学旅行でも、いつの間にか仕切り役をやるようになった。

 中学では、キンタローほどではないけどAKBのメンバーの真似なんかもやって喜んでいた。お母さんなんか「一度オーディション受けたら」って言ってくれた。戸惑った。そんな気はぜんぜんなかったから。

 なんて言ったらいいんだろう……。

 富士山に登ろうという人は沢山いるけど、富士山になろうという人はいない……ちょっと近い。
 AKBッポイドというセミプロのグループがある。あの人たちはAKBの真似はするけど、AKBに入ろうとは思っていない。分かるかなあ……。
 キザな言い方すると、AKBからは「やったらできるんだ」という精神に気づかされたのであって、自分がなるものじゃ無かった。

 高校では演劇部に入った。新入生歓迎会で「桜の木になろう」を部員一同でやってくれたから。東日本大震災があって直ぐだったので、正直グッときた。

 入ってガックリだった。

 AKBの真似は単なる人寄せ。部員も他のクラブを兼ねている者が多く、考えていた部活とは違った。でも、そんな一面だけで判断するほど子どもじゃなかった。がんばれば、何かが出来ると信じて練習に励んだ。

 一年の時、震災を取り上げた創作劇をやった。

 ここで違和感。震災を取り上げながら、フィールドワーク一つやらない。せめて疎開してきた人から話を聞くとか、肌で共感しなければ、震災をモチーフにした芝居はやっちゃいけないと思った。
 夏休み、日帰りだけど被災地を自分の目で見に行った。
 そしてAKBのキャラバンのミニコンサートと偶然出会った。

 コンサートは、炎天下のトレーラーの荷台が舞台だった。終わった後握手会。あたしもAKBシアターには何度か行って握手会にも並んだが、ここでは並んじゃいけないと思った。
 驚いたことに、お婆さんが握手会に並んでいた。そしてメンバーになにやら話すと、ディレクターみたいな人が間に入り、みんなでお婆ちゃんの仮設住宅に向かった。

 帰ってから、ブログで分かった。お婆ちゃんのお孫さんがAKBの大ファンで、お婆ちゃんは、孫の魂といっしょに見に行き。感動のあまり、孫に焼香してやってくれと頼んだのだ。

 わたしの芝居は、それから変わった。コンクールでは、それなりの成果もあげた。でも、現場も見ないで受賞だけ喜んでいる部員や顧問にはガックリきた。
 でも、一年は辛抱した。もっとまともな創作集団にしてやる。そんな思いでやった。

 しかし、演劇部は、そういう集団にはならなかった。

 演劇部でありながら、芝居も観なければ、脚本も読まない。あたしは一人浮いた存在になり、二年の一学期で辞めた。
 そのころから、AKBの創立メンバーの卒業が始まった。昨日なんか、小嶋陽菜、高橋みなみ、大島優子が「卒業する!」と宣言し渡辺麻友を驚かせるが、実は“今までのバイト探し”からの卒業宣言だったというものがテレビに出てきて笑っちゃった。

 あたしは、10年ぶりに一匹狼になった。毎日通いながら学校がひどく薄っぺらに感じるようになった。

 お父さんが、昨日同窓会に行って、盛り上がって帰ってきた。今朝も『高校三年生』という古い曲を調子っぱずれな声で歌いながら、フェイスブックでチャットをやっている。お父さんの時代は人間の粘着力が違ったような気がした。
 あたしは、たった三人だけど気の置けない友だちができた。念のため演劇部の子じゃない。それで十分だ。

 あたしは、将来同窓会にはいかないだろう。この仲良し三人組で十分だ。

 AKBも世代交代。あたしのAKBは終わりつつある。二月末には、あたしも卒業。進学しないで就職する。就職先はN物産の赤羽物流センター。

 イニシャルだけはAKBだ。それもセンターだぞ!


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高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・47『よっしゃー!』

2018-04-26 12:04:52 | 小説3

通学道中膝栗毛・47

『よっしゃー!』 

 

 

 アケミさんの頼みにわたしは笑顔で応えた。

 はい、もちろん!

 

 だって、アケミさんのお願いは「モナミお嬢様の良いお友だちでいてください」だったから。

 アケミさんは、こうも付け加えた。

「簡単にやってらっしゃるようですが、いっぱいいっぱいなんです。栞さまに見ていただくために、お屋敷でも懸命にやっておられます」

 モナミは、わたしが興味を持ったゲームを毎日数時間やってはスキルを維持しているらしい。

「こんな頑張りはいつまでも続きません、できれば、栞さまの世界に引き込んで新しい世界を見せて上げて下さい」

「えと、モナミ、学校とかは?」

「アメリカで二つ、イギリスで一つ大学を出ておられます」

「だ、大学!?」

「今は、お屋敷に居ながらお仕事をなさっておられます、IT、AI、片手間に為替やトレーダーのお仕事なども……えと……わたしをお作りになったのもモナミさま……だと言えばお分かりいただけるでしょうか」

 そうだ、初めてモナミのお屋敷に行った時、アケミさんの首が取れて、それ直したのはモナミだったもんね。でも、なんだか凄すぎて「あ、そうなんだ」と間の抜けた相槌しか打てなかった。

 

「ねえ栞、リビングに初期のP3があったけど、使ってないの?」

 

 ハンカチで手を拭きながらモナミが戻って来た。

「ああ、あれ壊れてるよ、もう映像も出ないし」

 まだお父さんが居たころ、最初に買ったプレステ3だ。たしか60ギガしかなくって、ファンの音もうるさい。たわんだ棚の支えにいいもんだから捨てずに置いてある。

「じゃ、直してもいい?」

「うん、棚の支えさえなんとかなったら」

「よっしゃー!」

 軽くジャンプして、モナミは作業に取り掛かった。こういう仕草は、丸っきりの子どもだ。

 ポーチにホッタラカシにしていたプランターを真っ二つにして棚の支えにし、開けたプランターの正面は小物が入るように加工した。この作業が、わずかの十分。

 P3は、通電していることを確認すると「お任せお任せ」とニコニコしながら分解、クリーニングをして基盤を取り出した。

「おし、じゃあ、アルミホイルでくるんで……」

「はは、これがお芋だったらオーブンで焼いて食べられるかもね」

「そだよ、これからオーブンにかける🎶」

「オ、オーブンにかけるの!?」

 

 なんと、モナミはプレステ3の基盤をオーブンにぶち込んでしまった!

 

 

 

 

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高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・46『撃墜帝王モナミ』

2018-04-24 10:22:50 | 小説3

通学道中膝栗毛・46

『撃墜帝王モナミ』 

 

 

 モナミは毎晩やってきてはゲームの世界を広げていく。

 

 わたしはゲーマーなんだろうけど、ライトがつく。

 週に二三度コントローラーを握って、一年で数本のゲームしかしない。おもにRPGで、最初のコンフィグで設定はユルユルのイージーにしておく。パズルとかラビリンスとか、むろんゲームの中でのね、そこで躓いたら投げ出してしまう。

 うーーーん、ゲームと言うよりはストーリーを追っていると言ったほうがいいのかもね。

 ラノベ読んだりアニメや映画観るのと同じ。違いは、自分の意思とペースで進められること。

 この頃は広大なオープンワールドのゲームが主流になってきて、ものによってはストーリーを追いかけないで自由気ままにマッタリ生活するようなゲームもある、オブリビオンとかグランドセフトオートとかウィッチャーとか。それはそれで面白いんだけど、やっぱりストーリーはあったほうがいい。わたしが求めているのは自分のペースで進められる映画とかアニメに近いのかもしれない。

 モナミは違う。

 ゲームと名前が付けばなんでもあり。

 毎晩違うゲームを持ってきては披露する。

 むろんメインはわたしのファイナルファンタジーなんだけど、一段落するとモナミの独演会になる。

「ここで捻りこみ……かける!」

 バックを取られていたゼロ戦が縦ループの頂点で捻りこみの急降下を掛け、手品のようにグラマンのバックに着いた。

 ダダダダダ ダダダダダ

 二連射十発の射撃音がして、グラマンのキャノピーが粉砕される。

「グラマンの防弾版は7・7ミリじゃ抜けないんだけどね、パイロットはパニックになって機動が甘く……なったところを20ミリ!」

 ドドド ドドド

 あっという間にエンジンを撃ち抜かれてグラマンは撃墜される。

「これが坂井三郎の撃墜法! 滞空時間さえ確保出来たら五機くらいは墜とせるんだよ」

 

 コングラッチレーション! 撃墜帝王の称号を獲得しました!!

 

 画面いっぱいに花火やらキンキラのエフェクトが満ちる。

「すごい、三百機も撃墜したんだ!」

「な~に、軽いもんよ~♪」

 ほかにも『電車でゴー』『グランツーリスモ』『パイロットになろう』『A列車で行こう』などなどシミレーションものを見せてくれた。ほかにもゾンビ系やら無双もの、乙女ゲーまで見せてくれる。

 わたしにもコントローラーを握らせるが無理強いはしない。モナミのペースでやっているようだけども、わたしのモチベーションに気を配ってくれているのが分かる。

 モナミはイイコだし、モナミの後ろでニコニコとアケミさんが微笑んでいるのもいい。

 

 でも、ときどき思うんだ。モナミ、学校とかはどうしてるんだろう……。

 

 でも、それはモナミから言い出さない限り、わたしから詮索していいようなもんじゃない。

 モナミは気を遣いながらも子供のように楽しんでいる、わたしも程よく楽しめている。むろんテスト前とかになったら考えなきゃならないけど、今はこれでいい。

「ちょ、オシッコ!」

 ロボゲーで瞬殺の新記録を叩きだすや、モナミは階下のトイレに直行した。

「栞さま、ひとつお願いがあるんですが……」

 アケミさんがニコニコ笑顔のまま、真剣なまなざしを向けてきた……

 

 

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高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・45『ユウナの異界送り』

2018-04-21 13:21:36 | 小説3

通学道中膝栗毛・45

『ユウナの異界送り』 

 

 

 今夜のモナミは来た時から汗みずくだった。

 

「なんで汗かいてんのよ?」

「ちょっと忙しかったの! それより、今日はキーリカ出発するよ!」

「栞さま、シャワーをお借りできませんか。 このままゲームをやってはモナミさま風邪をひいてしまいます」

「だ、だいじょうぶ……クシュン!」

「もーー、さっさと入っといで、こないだ入ったから使い方分かるでしょ」

「モナミさま」

「わ、分かったわよ。ザコは相手にしてもいいけど寺院には入っちゃダメだよ、わたしが付いてなきゃ全滅するんだから」

「うん、分かった分かった」

「はい、これ着替えです。ちゃんと体を拭いてから着てくださいね」

「分かってるって!」

 モナミはお風呂セットを持って階下の風呂場へトコトコと下りて行った。

 

 かわいい足音がお風呂場に入るのを確認してアケミさんは口を開いた。

 

「お屋敷以外で、あんなに自由に振る舞われるのは珍しいんですよ」

「え、あ、そうなんだ」

「昼を過ぎたころからソワソワされて、栞さまの家に行くのがとても楽しみなんですよ」

「そうなんだ」

 アケミさんも打ち解けた様子なので、モナミのことを聞いてみようかと思った。でも、わたしが質問する前に、アケミさんが話題を振って来た。

「なぜポップコーンなのか分かります?」

 モナミは、今日もポップコーンのバレルを持ってきている。

「好物なんですよね?」

「いちばんの好物は芋清さんのお芋なんです」

 ああ、そうだ。モナミとの付き合いは、わたしが芋清おばちゃんに代わって出前を届けたことだったんだ。

「でも、お芋だと、ポロポロこぼしてしまわれるんです。特にゲームなんかに熱中してしまうと……ね」

「そっか、かと言ってポテチだと、よけいにカスが飛び散るし」

「ええ、もともとポップコーンは映画館では定番ですね。あれは、映画に興奮した観客が投げても大丈夫なように、アメリカで考え出されたんです。通路に飛び散っても、お掃除楽ですから」

「ああ、そうなんだ!」

 それからアケミさんはうまく話題を誘導して、モナミのことになるのを回避しているような気がする。

「モナミさまの事は、ご自身でお話になるまでお待ちに……あ、あがってらっしゃいました」

 ピンク色のパジャマで濡れた髪を拭きながらモナミが戻って来た。

「アケミ、おねがい」

 一言言うと、ペチャンコ座りになってパジャマの前ボタンを開けた。

「やるんですか?」

「ゲームはリラックスしてやりたいの!」

「はい、承知しました」

 アケミさんは合切袋を思わせるトートバッグから……なんとシッカロールを取り出した!

 

 ホタホタ ホタホタ ホタホタ

 

 シッカロールをはたく音と、赤ちゃんを思わせる穏やかな香りが部屋に満ちた。

 気持ちよさそうにシッカロールをはたいてもらっているモナミを笑いそうになったのを必死で堪える。目の前で、こんな姿を披露するのは、モナミがわたしと我が家に心を許している証拠なんだから。

 今夜はキーリカをコンプするつもりだったけど、シンの犠牲者を異界送りするユウナが素敵すぎて、パソコンでユウナを検索、そこからユウナのコスプレの動画鑑賞になってしまい、ゲームには入れずに終わってしまった。

 

 

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高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・44『シンを追っ払う』

2018-04-19 14:19:23 | 小説3

通学道中膝栗毛・44

『シンを追っ払う』 

 

 

 キーリカへの船の中でオオアカ屋に気づく。

 

 大きなリュックを背負った小太りのオジサンだ。

 以前かじったときは単なるモブだと思って、パスしていた。

 見知らぬ人には、なかなか声をかけられないわたしはゲームの中でもメインキャラ以外とは会話しない。モブキャラのことをNPCと略すことをモナミが教えてくれた。ノンプレイキャラクターの略で、本来はオンラインゲームでプレイヤーのアバターではなく、CPのアルゴリズムとかによって一定の動きと言葉しかないキャラ。ま、人の姿をしたオブジェクトのようなもの。

 FFXはオフラインだから、主役のティーダもユウナもNPCってばNPCなんだけど、ストーリーに絡んでこなければ、わたし的にはモブと変わらない。

 このオオアカ屋は行商のショップで、ここでポーションやらのアイテムを買っておかなければ、キーリカまでの最大イベントの『シンとの闘い』を乗り切れない。以前は、このクジラの化け物みたいなシンとの闘いを乗り切れなくってゲームそのものを投げ出してしまった。

 ま、こういう序盤戦で投げ出したゲームばかりで、ろくにコンプリートしたゲームは数えるほどしかない。

 ま、その程度のゲーマーとも呼べない、ライトユーザーであったわけです。

 今回は、モナミの指導もあって、オオアカ屋からポーションを買いまくってシンとのバトルに臨んだ。

 

「バッカじゃない!?」

 

 ポップコーンのバレルを抱えたまま、モナミが罵倒する。

「なんでよ、一所懸命戦ってるじゃない!」

 今夜は「シンをやっつける!」とメールをしたので、モナミはアケミさんの車でポップコーンのバレルを二つ抱えてやってきているのだ。

「シンのこけらは無限に出てくるよ! シンをやっつけなきゃ絶対クリアできないんだから!」

「シンなんてラスボスでしょ、こんな序盤戦で勝てるわけないじゃない!」

「勝てなくても、追っ払わなきゃ、いつまでたってもキーリカに着かないわよ!」

「だ、だって……この!この!この!このーーーー!!」

 

 本日二回目の全滅になってしまった。

 

「ワッカのシュートとルールーのファイアを撃ちまくって、ティーダとキマリはコケラ専門、ユウナはヒーラー専一!」

「わ、わかって……るんだけど、えと……キマリを引っ込めて……」

「ほら、ルールーのターム!」

「ファイアアアアアアアアアアアア!」

「あ、MPがないじゃん」

 MPがなければ魔法は使えない。

「信じらんない!? エーテルなしでバトルに突入!?」

「く……代わりに」

「万能薬使ってもMPは回復しないわよ! ど、どんくさい女やなああああ!」

「う、うっさい!」

 

 あやうく三度目の全滅かと思ったが、ルールーとユウナの活躍で、なんとかシンを追い払うことができた」

 

「や、やった…………」

「やったね、栞!」

 二人手を取り合ってキーリカへの無事な到着を祝福し合った。

「やだ、栞ったら汗びちゃだよ」

「モナミだって」

 

 久々に心地よい汗をかいた二人は、仲良く狭いうちのお風呂に入ったのでした。

 

 

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高校ライトノベル・フケモンGO・13『ひい祖母ちゃんはアンパンマン?』

2018-04-18 06:40:38 | 小説・2

フケモンGO 13
 『ひい祖母ちゃんはアンパンマン』



「遅れて申し訳ありません」

 周囲の人たちに頭を下げながら〔お父さん〕は、あたしの隣にお母さんと並んで座った。「亜美、ごめんな」と前を見ながら言ったところまでは覚えているけど、気が付いたら『SEVENTEEN』制作発表会は終わっていた。

 ジーンと頭が痺れているような感じ。

 制作発表の後は記者会見、これも早回しの映像みたく過ぎて行った。
「じゃ、俺は仕事残ってるから。改めて家族三人でお祝いしような」
 そう言って顔を寄せてきた〔お父さん〕は、目鼻立ちにお父さんらしさはあるんだけども決定的に別人だ。
 お父さんは、こんな映画の制作発表に出てこれるような人じゃない。シャイで口下手な人だ。お母さんは、まるまるいつものお母さんなんだけど〔お父さん〕は……そう、お父さんの従兄弟ぐらいなら、こんな人もいるかなあ……そんな感じ。

「お父さんが独断で応募しちゃったのはいつものことだけど、今回は大当たりだったわね」

 帰りのタクシーの中で、安心と誇らしさの混じった顔で、ため息のようにお母さんが言った。
「お父さんが応募したの?」
「いろんなのに応募しては断って来たけど、待ってて正解だったわね。やっぱお父さんは見る目が違うわねえ……亜美って、やっぱりひいお祖母ちゃんの血を引いてるのかもね」
「あ、そ、そうかもね……」
「なんたって日映ニューフェイスの第一期生で、清純派女優で大人気だったそうだから」
「そ、そうだったよね」

 あたしは適当に話を合わせた。

 ひいお祖母ちゃんはお父さんのお祖母ちゃんなんだけど、子どものころに法事で写真を見ただけだ。明るく朗らかそうな人だけど、アンパンマンを女にしたような丸顔の鼻ぺちゃで、清純派女優になれるような人じゃない。
「結婚して早くに女優は辞めちゃったけど、そのままやり続けていたら原節子みたいに伝説の女優になっていたかもね。ま、そうなると独身のマンマだから、お父さんも亜美も生まれてはこないことになるけどね……ひいお祖母さんの夢、亜美が叶えなくっちゃね」

 家に帰ってから、古いアルバムを取り出してみた。

 ええと…………あ、これだ!

 五冊目のアルバムにあった。ひいお祖母ちゃんの昔の写真。

 それは、あたしが知っているアンパンマンの顔ではなかった。スチール写真というんだろうか、アイドルや女優さんがPR用に使う写真だ。少し斜め上を見てニッコリ笑っている顔は、アングルこそアンティークって感じだけど、二十一世紀の今でも十分アイドルとして通用しそうだ。

 どこかで見たことがある。

 あたしは、アルバムのページを繰ってみた。
「!……これは?」
 それは女学校の卒業写真だ。集合写真で「あれ?」っと思い、友だち三人で写した写真で確信が持てた。

 それは土手道で、米軍機の機銃掃射から……あたしが救った女学生だ。

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高校ライトノベル・フケモンGO・12・『SEVENTEEN』

2018-04-17 06:41:54 | 小説・2

フケモンGO 12
 『SEVENTEEN』



 あたしの家の前は4メートル幅の生活道路。

 そこに数十人のマスコミがひしめいていて、それを掻い潜るようにしてタクシーに乗った。

 映画……主演……シンデレラ……決意……したのは……一言……頼みに……オーディション……これから……。

 マスコミの人たちの言葉が、タクシーの中で細切れの渦になって、あたしの頭をかき回す。
「ね、お母さん、これって?」
「着くまで目をつぶってらっしゃい、着いたらこんなもんじゃないんだから」
「いったい、なにが?」
 お母さんは答えてくれず、混乱したままPホテルの車寄せに……そこでも大勢のマスコミが居て、もうほとんど恐怖なんだけど、十人ほどのガードマンと屈強なオニイサンがガードしてくれ、学校の体育館程のロビーを抜け、エレベータに乗せられ二十階(たぶん)の大広間に着いた。

『SEVENTEEN』

 金屏風の上には、そのタイトルが掲げられ、横には日米合作ナンチャラと書いてあったような気がしたんだけど、確認する前にマイクやら花の飾りが並んだテーブルに座らされた。
 席に着くと、一斉にストロボが焚かれ、パシャパシャと夕立みたくシャッターの音。ただただビックリし続けていると、いつの間にか周囲に大人たちが座っている。
 鈍感な上に狼狽えまくっているあたしでも、これが日米合作超大作映画の制作発表会であることが知れてきた。

 間もなく日米合作映画『SEVENTEEN』の制作発表ですが、関係者が揃うまで今しばらくお待ちくださいませ。

 司会のオネエサンが、ゆったりした笑顔でおことわりを言う。
 このオネエサンだって、オーラありまくりの美人さんで、彼女を主演にしても立派に映画が撮れそうな気がする。
 ストロボを避けて目を上げると、特大の映画のタペストリーが何本も壁に掛けられているのが分かった。

 やっぱ、あたしだけどあたしじゃない……。
 タペストリーの真ん中には、それぞれ違うあたしがいる。映像記号としてはあたしなんだけど、目鼻立ちの整い方や微妙な骨格の塩梅、それに、その姿から発せられるオーラが、決定的にあたしではない!
 と言いながら、その姿は、今朝姿見に映ったあたしそのものではある……。

 それから五分ほどの間に、スタッフのエライサンや、出演者と思しき人たちが席に着いた。みんなあたしに握手してから座っていく。
 これは違うだろう……そう思いながらも、いつの間にか調子を合わせている自分に戸惑ってしまう。

 そして、決定的な人が急ぎ足で現れた。

 ほら、お父さんよ、やっと来たわ。

 お母さんが、あたしの肘をつつきながら小声で言った。

 え………………?

 それは、あたしが17年間親しんできたお父さんではなかった……。

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高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・43『はるかなるザナルカンド』

2018-04-16 15:49:20 | 小説3

通学道中膝栗毛・43

『はるかなるザナルカンド』 

 

 

 もともと、わたしの部屋はお父さんとお母さんの共用の物置部屋だった。

 

 夫婦の事情で整理しなくてはならなくなった時に、どうせやるなら、当時赤ん坊だったわたしの部屋になるように片づけたらしい。

 しかし、何事も徹底的にやることが苦手な両親は、部屋のあちこちにモノを残したままわたしに譲った。そして、いつの間にかわたしの持ち物の中に混じってしまったんだ。

 薄型プレステ2は、そういうモノの一つで、本棚そのものがピンク色であることに紛れてしまい、モナミに指摘されるまで気づかなかった。両親が学生時代に使っていた英和辞典や国語辞典に混じって縦置きにされていたので完全に紛れてしまったんだ。

 大型ってか、初代のプレステ2は知っている。ずっしりとごついフロントローディング式で、ソフトを入れる時、いちいち受け皿が出てきて、いかにもこれから仕事をしますって感じの働き者。うちのリビングに残っていたんだけど、受け皿の動作が悪くなったこととソフトを読まなくなったことで、複雑ゴミで捨てられた。

 

 えーーーー! もったいない!

 

 そう叫んだのは、その夜、うちにやってきたモナミだ。

 ピンクの小型も試しにDVDを掛けてみたら、ロゴマークから先に進まない役立たずだった。

 上蓋をパカって開いてソフトを掛けるのが「オーーノスタルジー!」って感じで気に入ったんだけど、使えなくては存在意味がない。こりゃ月末の複雑ゴミだとメールしたら、前回同様アケミさんの運転の自家用車でやってきたのだ。

「これはね、ピックアップレンズが汚れてるんだよ、クリーニングして調整してやれば、元通り元気な子になるから!」

 直す気満々でモナミは目を輝かせる。

「でも、DVDなら他のもで観れるし、プレステ2のソフトとかも無いし」

「そんな、直せば直る子を捨てようと言うの!?」

「あ、だって、使わないし……」

「それで捨てようなんて、ナイチンゲールの精神に反するわ!」

 あんたは看護師か!?

「まっかせなさーい!」

 宣言したモナミはさっそくプレステ2を分解し始めた。

「きったねー!」

 小さなボディーの中によく詰まっていたなあってくらいのホコリとヤニだ。え、ヤニ!?

「これ、相当タバコ喫う人が使っていたんだなあ」

 うちの両親は昔はタバコを喫っていたそうだ。あ、そうかくらいに受け止めていたんだけど、プレステ2の汚れ具合から見ると、とんでもないヘビースモーカーであったようだ。

「まあ、ファンが入ってるから空気清浄機みたいに吸っちゃうんだよねえ……よいしょっと、ほれ、ボディー洗って。うん、ふつうに水洗いでいいから」

 ザザッと洗ってくると、モナミはティッシュや綿棒で中身をクリーニングしていた。

「なんの毛だろう……ワンコ? ニャンコ?」

「動物を飼ってたなんて聞いてないよ」

「ま、いいや。えーと、ここがピックアップで、これをキレイキレイして……ほんで、横のポチっとしたとこが出力調整、これを五度ほど回してやって……」

 

 直った!

 

 無事にDVDが再生できた! でもDVDだったら他のハードでも再生できるんだけど。

「ゲーム機はゲームをやってこそのゲーム機でしょ!」

「だって、ソフトないよ」

「持って来たわよ!」

 モナミはバッグの中からニ十本ほどのソフトを取り出した。

「これあげるから、ちょっとやってみ。ほら、メモリーカードも二つつけとく。えーと、まずはFFX!」

 FFXはプレステ3のリマスターを持っているんだけど、せっかくのモナミの熱意に付き合うことにする。

「やっぱ、ゲームは本来の筐体で本来のゲームをやってやらなきゃね」

 

 その夜、わたしとモナミは、ユウナが召喚士になってビサイド島をティーダたちといっしょにザナルカンドを目指して出発するところまで頑張ったのでした……。

 

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高校ライトノベル・フケモンGO・11・ビックリした!

2018-04-16 06:21:16 | 小説・2

フケモンGO 11
 ビックリした!


 カフカの『変身』て知ってる?

 男の人が目覚めると、大きな毒虫に変身しているのでビックリするって話。
 えと……読書感想の課題図書の話じゃないの。あ、『変身』は課題図書ではあるんだけど、宿題の話じゃないの。

 妙に体が軽い。朝起きた時の感覚がね。

 小さいころにインフルエンザをやって、一晩ウンウン唸って二十時間ぐらい眠って目が覚めた時の感覚……あれに近い。
 一晩で三キロ痩せたから、そりゃ体も軽くなる。
 でも、あの時は布団もシーツもビチャビチャになるくらい汗をかいて、起き上がったらフラフラだった。

 でも、今朝は違う。

 病み上がりの気だるさが、ちっともしなくて爽やかなんだ。
 パジャマを脱いでキャミとショートパンツに、髪を手櫛で撫でながら姿見に我が身を映す、いつもの習慣通り。
「え……………?」
 姿見に映ったあたしは、そこはかとなく……その……可愛い。
 全体にほっそりしていて、それでいてバストはしっかり自己主張している。起き抜けなのに目元が涼しく、唇もプックリと魅力的だ。
「え……あたしだよね?」
 変身したっていうほどじゃない。なんちゅーか、補整がかかったプリクラ写真みたいだって言ったら分かるかなあ?

―― 早起きしないと、間に合わないわよ! ――

 一階から、いつも通りのお母さんの声が急き立てる。
「分かってる! いま起きたー!」
 反射的に言い返すが、なにに間に合わないんだろ? とくに予定なんかなかったはずだけど……。
 顔洗ってキッチンへ行く。
「あ、朝ごはん作ってくれたんだ」
「間に合わないといけないからね」
 なにが間に合わないんだろ? 瞬間思ったけど、17歳の胃袋は、久々に手の込んだ朝食に向かっている。
「あれ、お母さん、なんでよそ行き?」
 朝ごはん平らげたところで、エプロン外したお母さんのナリに気づく。お母さんは、中学の時にあたしがピアノの発表会のときにあつらえた若草色のワンピを着ていた。で、そのとき以上に念入りにメイクまでしていた。
「なに言ってんの、亜美もさっさと着替えるのよ。十分もしたらタクシー来るんだから」
「タクシー?」
「そうよ、今日は特別でしょ。汗みずくで行くわけにいかないんだから……やだ、あたしも慌ててる、ほら、これが今日着ていくワンピだから」
 お母さんが紙袋から出したのは、とても上品なパープルのワンピだ。こんなの衣装負けしてしまう。

「……でもないか」

 着替えて姿見に映った姿は、我ながらイカシテいた。
「ほんとは美容院に行かせてやりたかったんだけどね」
 姿見に映りこんだお母さんがため息ついた。
「髪はそのままにしておくって話だからね」
「お母さん、いったいどこに出かけるの?」
「なに言ってるの、今日は……あ、タクシー来たわよ!」
 表の自動車の気配に、お母さんはすっ飛んで行った。
――早くして、亜美!――
「ね、どこに……!?」

 表に出てビックリした。タクシーの周りにはカメラ構えたマスコミ関係者がいっぱいいたのだ……。

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高校ライトノベル・フケモンGO・10・クラッときた

2018-04-15 06:24:44 | 小説・2

フケモンGO 10
 クラッときた


 オリンピックの開会式を見損ねた。

 この三日、風邪をこじらせて寝込んでしまったので仕方ない。

 だけど悔しい。

 もちろん、ユーチューブなんかで、いくらでも見ることはできるけど、やっぱライブでなきゃね。

 やっと熱が下がったので、身ぐるみ脱いでシャワーを浴びた。

 この暑い盛りに足掛け三日もお風呂に入っていなかった。17年間の人生で初めてのことだ。
 ボディーソープで洗うけど、いつものように泡立たない。三日分の汗と汚れなんだけど、めちゃくちゃ気持ち悪い。

 プハー!

 風呂上り、コーラを飲んでオッサンみたいにプハる。
 風呂上り、それも三日ぶりになると、その感激に性別も年齢もないらしい。

 マスコミブースに銃痕!

 オリンピック記事の端っこの見出しが目についた。
 オリンピック会場のマスコミブースで銃が撃ち込まれたようだ。大丈夫なのかと心配になる。
 幸い、人がいない時間帯に撃ち込まれたようで、被害に遭った人はいないようだ。選手もそうだけど、取材しているマスコミ関係者も偉いと思う。銃のタマなんか撃たれたら、どこの誰に当たるか分からないもんね。

「今日は近場にしておこうか」

 部屋に戻ると芳子さんが、朝顔みたいな爽やかさで提案してきた。朝顔の健康さには逆らえない。
 スマホを持って角を二つ曲がる。
 いつもの道なら公園の前に出るんだけど、反対方向なので川沿いに出る。

――あ、(!)マーク!――

 いつもの(!)マークなんだけど、マークの肩の所に(・)が踊っている。こんなのは初めてだ。
 やがて見えてきたのは防空頭巾にモンペ姿のセーラー服だった。
 なんか、駆けている姿で、実際走っているんだけど、CGのハメ込みみたいに前には進まない。
――ああ、これは空襲の最中に逃げているんだ――
 フケモンGO慣れたあたしの感性は、素直にありのままを受け入れた。
 で、胸がサワサワしてきて、なんか声を掛けなきゃいけない気持ちになった。

「あ、ちょっと!」

 平凡だけど大きな声が出た。

「え……」

 女学生が振り返る。

 キューン!

 女学生のすぐ向こう、そのまま彼女が走っていたら、そこに達していたところで鋭く音がした。
 あたしが声を掛けなければ当たっていたと直感した。
 女学生の反応は、それまでフケモンGOで捕まえた人たちとは違っていた。
 声を掛けたあたしのことが分からないようだ。
 キョロキョロしているうちに消えてしまった。

「歴史が変わるかもしれないわ」

 いつのまにか後ろに現れた芳子さんが呟いた。
「あの子、この川岸で流れ弾に当たって死ぬところだったの……」
「……あたし、助けちゃったの?」
「そういうことね……あの子は生き延びて誰かと結婚するでしょうね」
「そうなんだ、よかった!」
 フケモンGOをやるようになって、初めて人の役に立ったと感動した。
「でも、本当なら生まれるはずがなかった子どもが生まれるわ。影響出るでしょうね……」
 そう言うと、芳子さんはスマホの中に戻っていった。

 その帰り道、クラッときた。

 その時は、暑さか、治りきらない風邪のせいかと思ったんだよね……。

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高校ライトノベル・フケモンGO・09・痩せっぽちのライオン

2018-04-14 06:29:08 | 小説・2

フケモンGO 09
 痩せっぽちのライオン


 なに撮ってるの?

 いきなり声がしたんでびっくりした。

 声の主はお母さんだ。
「あ、ちょっとね、えと、夏休みの宿題!」
「ふーん、エアコン撮るのが宿題なの?」
「うん、家の中の家電を撮ってエッセー書けっての。ま、読書感想よりましだけどね」
 いい加減な返事をする。読書感想もちゃんとあるので困るかなあ……ま、いいや。お母さんは細かことなんか忘れちゃうもんね。

 夕べは暑かったので、スマホの中の住人たちが1/8のフィギュアサイズになって机の上で涼んでいた。気の毒なのでエアコンを写メってスマホの中に付けることにする。で、我が家で一番出力の大きいリビングのエアコンを写したわけ。

「快調だぜ」と、ネイサン。
「すまないね、気を使わせて」と、小暮中尉。
「充電をこまめにね、エアコン点けると電気食うから」と、誠女親分。
 
 そっか、スマホの中でも電気食うんだ。新発見。

 そして、今日もジャイアンツのキャップを被って外に出る。もう習慣になってきた。

 公園の前まで来ると、芳子さんが立っていた。
「あら、スマホから出てきちゃったの?」
「ネイサンたちがエアコン設置してんの」
「あ、暑いから出てきちゃったの?」
「ううん、家から出たばかりでスマホは、まだ冷えてる。ちょっとね……ね、アフリカの草原とか検索して取り込んでくれないかなあ」
「あ、うん、いいよ」
 スマホの中は退屈なんだ。心がけておかなきゃ……で、あたしはケニアのマサイマラ国立保護区をコピーしてファイルに取り込んだ。
「今日は、その(!)が踊ってるところに行って」
「あ、うん」
 主体性のないあたしは、指示されるままに移動する。

 横丁を曲がったところに居た……どういうわけかライオンが!?

「ギョエーーーーーーーーーー!!!!」

 我ながら色気のない悲鳴が出る。
――大丈夫、あのライオンは大人しいし、ヤセッポチだから――
 なるほど、ライオンは立っているのがやっとという感じ。でも、その目は穏やかだ。
――ケージをキックして捕獲して――
 あたしは、ケージを指ではじいてライオンを捕獲した。
「あ、アフリカの草原で、寝そべってる」
 捕獲したライオンは三越デパートの玄関のブロンズみたいなポーズでくつろいでいる。
――草原に戻れてホッとしてるのよ。落ち着いたら食事になるでしょ――
「狩に出るの?」
――ううん、武雄は餌をとらないわ――
「へんなライオン……武雄って、名前があるの?」
――うん、あの子はずっと動物園に居た子だから――
「逃げてきたの!?」
――武雄はね……終戦のちょっと前に、動物園で殺されたの――
「え、なんで?」
――空襲で檻が壊れて逃げ出さないように……それに、もう動物にやる餌が無くなってきたからね――

 そうか……だから、武雄はあんなに痩せてたんだ。

 スマホを見ると、草原の向こうからトラックがやってきて武雄に餌を食べさせるところだった……。

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高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・42『プレステ2』

2018-04-13 13:31:17 | 小説3

通学道中膝栗毛・42

『プレステ2

 

 

 学校って案外狭かったんだ。

 

 ちかごろ、フト思うことがある。

 終礼が終わって、部活もしないし、新学年になって親しいクラスメートも居ないわたしは、まっすぐ昇降口に向かう。

 ま、学校出ても友だちいないんだけど。

 あっという間に一階の昇降口。

 下足箱を開けて靴を出す。間違ってもお手紙なんかは入っていない。期待もしていないんだけど、瞬間覗いてしまう。

 ティッシュで鼻をかんだ後、一瞬ティッシュ見ない? 人に聞いたことないんでというか、あんまり人に聞くことでもないので、思ってるだけなんだけど、見ると思うんだよね。それに似ている。

 ま、ちょっとした儀式なのかもね。

 その儀式を終えてローファーに履き替えて、校門を出るのに一分かからないんだよ。

 三年になって教室が三階から二階になったこともあるんだけど、やっぱ早い。

 思うに……やっぱ夏鈴が居なくなったからだ。

 教室からグズグズ喋っていたら、昇降口にたどり着くまで十分を超えることもある。

 

 あーーー引きずってちゃだめだ!

 

 ため息一つ吐いて校門……出たところでスマホが鳴る。

 歩きスマホはご法度なので、葉桜の木陰に身を寄せて着信を見る。

 友だちいないは訂正、友だちになったばかりのモナミのメッセだ。

―― ねー、栞の部屋にP2あるでしょ? ――

 P2?

―― P2ってったらプレステ2に決まってるでしょ ――

 プレステ2……んなのあったっけ?

―― 本棚の一番下 ――

 え? え?

―― もー、自分の部屋でしょ ――

 う、で、でも。

―― えと……帰ったら、一度確かめてみて! ――

 

 なんだか、ちょっと怒っているような勢いに圧倒されて、芋清に寄ることもしないで家路についた。

 

 モナミが言う通り本棚を見渡すがプレステ2は見当たらない。

 ちなみにプレステ2はやったことがない。物心ついたころにはプレステ3があったので、わたし的にはプレステと言えば3のことなのだ。ネットでチラ見したことはあるけど現物を見たことは無い。段違いの黒い箱を重ねたような形になっていて、軽いものなら上に物を載せられる的なことくらいしか分からない。

 ベッドの上に乗っかり、本棚全体が見えるように写真を撮ってモナミに送ってやった。

 ね、どこにもないでしょ。

―― ちゃんと写ってるでしょ、一番下の右っかわ! ――

 え? どこよ、どこ?

 すると写真に矢印がついて帰って来た。

 え、えーーーこれがプレステ2!?

 

 それはピンクの教科書程度の大きさのポート付きの物体だった。

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高校ライトノベル・フケモンGO・08・スマホのロック

2018-04-13 06:57:01 | 小説・2

フケモンGO 08 
 スマホのロック



 スマホのロックってかけてる?

 あたしは、面倒なんでかけていない。
 友だちは……ま。半分もいないかな? ネットで調べたら、やっぱ半分くらいの人がロックしていない。
 ま、めんどくさいってのが一番の理由なんだろうなあ……だってさ、お財布に鍵つけてる人なんかいないでしょ?
 友だちが一人きちんとロックしてて「アミ、あぶないよ!」って言われたけど「あ、うん」と曖昧な返事だけして、やっぱやらない。
 別の友だちがスマホ落っことしたことがあるんだけど。で、三日ほどして無事に出てきたんだけど、なんだか人にいじられたような気がして、いろんなアカウントやパスワードとかを、みんな変えてしまった。むろん、ロックをしていないから。
 その時は「やっぱ、ロックしなきゃ」と思ったんだけど、やっぱ、やらない。めんどくさいことは一日伸ばしになるのがあたしだ。


 人がやっていなきゃいいや。日本人的な不用心さなんだろうけど、そうなってしまう。

 夕べ、寝苦しくって目が覚めた。
 なんだかボソボソ声が聞こえるんで、半開きの目で見まわすと、声は机の上から聞こえてくる。

 あれ…………?

 机の上には、お父さんから巻き上げたスーパーソニコのフィギュアがある。
 そのフィギュアと同じくらいの大きさになった芳子さんと誠女親分。少し離れてネイサンと一馬中尉。
「あ、起こしちゃったわね」
 芳子さんが申し訳なさそうに頭を掻いた。
「ううん、蒸し暑いから目が覚めたの」
 そう言って、あたしはエアコンの設定温度を下げた。もちろんリモコンで、横になったまま。
「あたしたちも涼みに出てきたの、スマホの中暑いからね」
 誠女親分はキャミソール一枚になり缶ビールを飲んでいる。
「あ、画像フォルダーの中に缶ビールがあったから失敬してる」
 よく見ると、お父さんの誕生日にプレゼントしようと取り込んでおいた外国製のビールだ。
「「…………」」
 ネイサンと一馬中尉は、なにやら机の上に在るものを読んでいる様子だ。

 ……あれは、宿題をやろうとオキッパにしておいたプリントだ。

「自爆テロがカミカゼとは心外だなあ……」

 一馬中尉がため息をついている。あれは社会の先生がくれたプリントだ、ヨーロッパで起こっているテロのニュースが載っている。いまいち興味がないんでホッタラカシにしてるやつだ。
「ああ、カミカゼは違うよな……ちゃんと日の丸付けた飛行機に爆弾抱えて、オレたち軍隊だけを攻撃してくるんだ。こんな卑怯なテロリストとは違うぜ」
 ネイサンが腕を組んで同調している。
「それに、正しくは『しんぷう攻撃』と読むんだ。日本の新聞なのに、こう書かれるのは……なんか外国の新聞の翻訳を読んでいるようだなあ」
 
 そうなんだ……あたしがつまんないと思ったものでも、ネイサンや一馬中尉が読むと全然印象ってか、想いが違うんだ。

「亜美」
「なんですか?」
 長い髪をアップにしながら誠女親分が話しかけてきた。
「よかったらスマホはロックかけないままにしておいてくれないかなあ」
「え……はい」
「ロックされると、こうやって涼みに出てきたりできないからね。その代りセキュリティーは請け負うから。いいでしょ?」
「は、はい」
「あら、なんだか涼しい風が……」
「さっき、エアコンの設定温度下げたから」
「そりゃどうも」「ありがとう」「すまない」「サンキュー」の声がした。

 あたしも、涼しさの中、いつのまにか眠りに落ちてしまった。

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