大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 33『孤高の剣聖・3・侵入者』

2021-09-23 12:39:04 | ノベル2

ら 信長転生記

33『孤高の剣聖・2・侵入者』  

 

 

 

 端午の節句の鍾馗様みたいな奴が家来を引き連れて森から湧き出した。

 

「お前たちか、この折り紙を飛ばしたのは?」

 鍾馗様が口をきいた。

 言葉が口の動きと合っていない。喋っている言語は日本語ではないけど、英語のアフレコのように耳には日本語に聞こえている。

「意味は通じておるだろう、応えろ」

 グシャ

「ヒ!」

 紙飛行機を握りつぶされ、忠八くんはシャックリみたいな悲鳴を上げる。

「あんたたち、紙飛行機も無いような野蛮なとこから来たみたいね。ここは、そんな野蛮人が来るとこじゃないの。さっさと回れ右して帰んなさい!」

「殿、こいつらの言葉は倭語のようです」

 学者風の冠の男が野良犬を見るような目を向けたまま鍾馗様に告げた。

「倭?」

「はい、東海の海南にある島国であります。一般に背が低く、文化と呼べるものもないくせに生意気な奴らです」

「そうか、ここは倭人たちの居住地であったか。見れば、風水的にも条件の整った良い土地だ。とりあえずは、このあたりに橋頭堡を確保しよう。この二人は捕虜第一号だ。後で尋問にかけるから縛っておけ」

「殿、今日は捕縛道具を持ってきておりません」

 馬周り役みたいなのが注進する。

「ならば、足の筋を切って転がしておけ」

「承知、おい」

 足軽っぽい奴らが刀を抜いた。

「待て、女の方は、ちょっと可愛いから手荒にはするな」

「いかにも。ならば、女は手足の親指だけを縛っておけ」

「承知、おい」

 足軽っぽい一人が刀の下げ緒を外して寄って来る。

「触るな、下郎!」

 下げ緒を持った手を捻って足払いをかける。

「ウオ!」

「おもしろい、こやつ、可愛いだけではないようだな。だれか、こいつの相手をしてみろ」

 ハイ! ハイハイハイ!

 十人ほどのスケベそうな雑兵が手を挙げる。

 少し数が多い(;'∀')

「かかれ! ただし傷はつけるな!」

 オオ!

「忠八くん、逃げて!」

「織田さん!」

「大丈夫、こんな五月人形みたいなやつらの四人や五人やっつけられる!」

 そう、四人や五人ならね……これだけいたんじゃ、ちょっと焦る。

「女一人に十人もかかってきて、卑怯な奴! そこの大将、名前ぐらい名乗りなさい!」

 名乗らせたところで勝ち目はないんだけど、ムザムザやられるわけにはいかない。

 バカ兄貴なら「是非もない」とか「であるか」とか収まりかえるんだろうけど、あいつの真似はするもんか。

「そうか、では名乗ってやろう。聞いて驚け、我は豫洲汝南郡の名族にして江南の太守である袁紹、その人であるぞ……どうだ、恐れ入ったか。今なら助けてやろう、儂の前に跪け」

「だれが!」

「やれやれ、では、致し方ない。よいか、くれぐれも傷をつけるでは無いぞ」

 オオ!

 転がした奴に蹴りを入れて、飛びかかってきた奴を目力で怯ませながら飛び蹴りを食らわせ、空中で足を入れ替えると、次の男の後頭部を蹴り倒す。

「グエ!」

 着地した時点で三人を倒すけど、同時に三人が飛びかかって来る。

 着地しきって勢いがつかず、倒せるのは一人だけ。

 横に駆ける!

 前に二人、後ろに二人、視界の端、進行方向に一人が立ちふさがっている。

 これでは、手足のどこかを掴まえられて引き倒される。同時に五人に乗りかかられては、万事休すだ!

 こうなれば、たとえ一人だけでも!

 

 その時、風が吹いた。

 シュッ! シュシュッシュ! シュッ!

 

 あっという間に五人が倒れた。

「二人とも、わたしの後ろに!」

 言うが早いか、風は、前方で見物を決め込んでいた部隊の真ん中に付き進んで行く。

「押し包んで討ち取れ!」

 学者風がヒステリックに叫ぶが、兵たちは返事をする前に血しぶきを上げた。

 やっと走るのを停めた風は、転生学園の制服を着た二刀流だ。

「宮本武蔵……」

 忠八くんが呟く。

 これが、兄きが言っていた孤高の三白眼!?

 セイヤッ!

 停まっていたのは一秒足らず。切り株を足場に跳躍すると、中央の五人を瞬時に切り倒し、返す刀で学者風の首を切りおとした。

「殿、ここはお引きを!」

 馬周り役筆頭みたいなのが、袁紹に退却を進言し馬首を武蔵に向けたが、袁紹の方を向いていたわずかの間に間合いを詰められ、その近さに驚いたところを真っ向から兜の鉢ごと切られた。

 ズガ!

 二つに割れた兜が宙に舞うと、敵は一気に崩れ、我先にと森の中に逃げていく。

 バサバサバサ

 森の鳥たちが、次々に飛び立ち、その合間に敵の悲鳴があちこちからした。

 数十秒がたって、これで終わったかと思いかけた時、馬首にしがみ付いたままの袁紹が森から飛び出してきた。

「お前たち、あの者を止めろ! 止めたら国の半分をくれてや……」

 最後の一言を言う前に、袁紹の首は飛んでしまい。主の胴体を乗せたまま馬は森の中に消えて行った。

 

 武蔵は振り返ることもせずに学園の方に歩き去っていった……。

 

☆ 主な登場人物

  •  織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
  •  熱田敦子(熱田大神)  信長担当の尾張の神さま
  •  織田 市        信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)
  •  平手 美姫       信長のクラス担任
  •  武田 信玄       同級生
  •  上杉 謙信       同級生
  •  古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  •  宮本武蔵        孤高の剣聖

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ライトノベルベスト『明日から学校だ……』

2021-09-23 06:34:28 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『明日から学校だ……』   

 




「ああ、明日から学校だ……」

 鏡に映った自分が呟いた。

 日ごろ生の感情は表に出さないようにしている咲子だが、年末年始の休暇の最後の朝には洗面台の鏡の自分は嘘をつかない。

 歯磨きを終えて、ショートヘアーの寝癖を直したころには、いつものウソつき咲子のニコニコハツラツ顔に戻っていた。
 教師と言うのは、元気……そうにやっていなければならない。そうでなきゃ授業もクラブ指導も辛いだけになる。
 人相手の仕事と言うのは、元気そうにやっていなければ、余計しんどくなることを咲子は五年の教師生活で知った。

 だから、普段はニコニコハツラツのウソつき笑顔。

 しかし、おせちの残りをアレンジした高級残飯をかっ込んで自分の部屋にもどると、二週間ぶりのウソつき笑顔は消えてしまった。机の上に始末しそこなった辞表を見てしまったからだ。

 咲子は二学期いっぱいで学校を辞めようと思っていた。昨年の十二月には決心し、この辞表を書いた。

 が、出しそびれてしまった。咲子の学校の校長は、いわゆる民間校長……正直迷惑。

 土日に平気で行事を持ってくる。人事は教職員に相談もなく勝手に決める。組合主導のお手盛り人事もごめんだが、イエスマンだけを運営委員に選ぶようなところは、民間で仕事をしくじった証拠。また、教師の大半は新卒で教師になった者が多く、こういう上司にたてつく術を知らない。表ざたになるとマスコミが食いつきそうなことがいっぱいあるが、悪代官の下僚のように、みんな見ざる聞かざるを決め込んでいる。

 咲子は、校長がしてきたことを各種の証拠を付けてUSBに残している。辞表を出したあと、元カレの下元にエンターキー一つで送る算段になっている。

 だが、咲子が辞職しようと思ったのは、この民間校長のせいではない。

 顧問を務める新聞部を筆頭とする生徒たちに幻滅したからである。

 咲子の学校は、評定は中の上で、お行儀はいい。そのことで咲子の学校を選ぶ中学生も多い。
 でも、中には例外がいる。授業中、こそっとスマホをいじる者。弁当を食べる者。大したことではないが誉められたことではない。咲子は、もっと崩れた学校が初任校だったので、この程度のことを「悪い」という認識はない。
 ただ、傍にいる生徒たちは、違法なことをやっているのに見過ごしている教師に不信感を持つ。

 こんなささいなことを教委に電話する生徒や保護者がいることが問題だ。生徒と教師の人間関係は加速度的に希薄になっている。
 咲子は、そううことがあるので早ベンも隠れスマホも許さない。そんなささいなことで、生徒たちは咲子を他の教師よりは信頼している。
 一人だけ早ベンを叱ったことがある。
「あんたが思っているように、ささいなことだよ。だけどみんなはいけないことだと思ってる。そのこと分かってるんだろ? だから電車の中で迷惑行為を平気でしているように思うわけ、だから先生は許さないの!」
「分かりました……」
 その場は愁傷げだった。しかし、すぐに教委に電話されてしまった。
「早ベンやったら、電車の中の痴漢行為のように言われた」と話が変わっていた。

「いつ、痴漢て言ったのよさ!」

 思わず、壁ドンをやるところだったが、今日日は、こんなことでもパワハラに取られてしまう。慎重に言葉を選びながら、延々一時間指導し、泣かせてやった。咲子もドラマのように営業用の涙をこぼした。
 こいつとは、それから心が通うようになった。

 早ベン一つで、これだけの労力がかかるのである。咲子の臨界点が近くなった。

 で、トドメが新聞部であった。今時の新聞部なので、ブログを日刊で出している。
 この新聞部が、戦時中のA新聞のように御用記事しか書かない。学校はパラダイスで、先生も生徒も聖人か天使のようにしか書かない。
「批評もしなきゃ、新聞じゃないよ! アクセスだけ稼いで立派な新聞部だと思ったら大間違いだわよ!」
 批評など、仮名にしたり学校名を伏せたり、一般論にしたり、小説やコラムにしたり、いくらでもできる。

 新聞部全員を泣かせてしまった。

 あくる日からは徹底したシカトにあった。幻滅した。しかし責任上顧問は降りなかった。
 学期末が、いい機会だと思って辞表を用意した。

 咲子は、部屋の手鏡で、もう一度自分の顔を見た。ゲンナリ顔に戻っていた。

 咲子は、あくる日の仕事始めに辞表を出した。まだ、やっと三十歳。出直しは効くだろうと思った。
 そのあくる日、新聞部のブログを開くと、仮名ではあるが咲子の辞職のことが書かれていた。まるで汚職で辞職した議員のように書かれていた。
「ハハ、やっと批評的な記事がかけるようになったか」

 咲子はパソコンのエンターキーを押した。

 学校はひっくり返るだろう。積もり積もった垢を振り落すには、一度ひっくり返ればいい。

 咲子はカウチにひっくり返り、ポテチを一つまみした……。
 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする