大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・128『大谷の快挙と巡の粋狂』

2024-09-22 10:18:56 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
128『大谷の快挙と巡の粋狂』   




 50-50(フィフティーフィフティー)というのはお相子、勝負無し、お互いさま、可もなく不可もなく、五分五分、半々……そんな意味だと思う。

 だからピンとこなかった。

 お祖母ちゃんが時計代わりに点けているテレビが『大谷翔平の50-50』を盛大に褒め称えている。

 野球に興味のないわたしは――そんな大騒ぎするようなことなの?――だ。

「昨日の夕刊に載ってただろ?」

 お婆ちゃんは言う。

「新聞なんて……あ、読んだっけ」

 夕べ「巡(めぐり)、こんなコラムが出てるよ」と、お祖母ちゃんは夕刊を見せた。

「……ああ、これは意義深いねえ」

 内容はこうだ。

 コラム氏が友人から転居のお知らせ葉書を受け取った。

 読んだコラム氏はビックリした。その友人は念願の引っ越をしたんだけど、それが鹿児島の離島。特に定年後の一念発起というのじゃないらしい。葉書は印刷じゃなくてキッチリと肉筆で書かれていて思いのたけが偲ばれる。なんだか、ぶっ飛んだ人、粋狂な人だ。

 うちの家系は、こういう粋狂が好きだ。

 定年後も、いろいろ魔法少女のコボレ仕事を引き受けているらしいお祖母ちゃん。火星に行くんだとNASAで訓練中のお母さん。制服が気に入らないからという理由で、毎日昭和の高校に通っているわたし。

 そういう粋狂のアンテナは、世間的にも、限りなく相似形のお婆ちゃんと比較しても微妙な違いがあるみたい。

 あらためて見た夕刊一面のトップニュースに、この大谷選手の50-50達成のことが載っている。扱いは、どこかの県議会で知事の不信任だったか辞職勧告だったかの決議を満場一致でしたのよりも大きかった。

 でも、その大谷選手の50-50は、わたしの脳みそにインプットされていなかった。

 ま、女子高生の興味や関心はこんなもんだ。

 盗塁50、まあ、一軍の野球選手ならあるだろ。ホームラン50、これもあるだろう。よう知らんけど、イチローとか松井とかは、もっとすごかったと思うよ。 まあ、一回の試合で両方達成したというのがすごいのかもしれないけどさ。

 わたしなんか、一学期末の英数国はそろって50点。大谷のダブル50どころかトリプル50達成だよ。


 戻り橋を渡りながら、わたしの脳みそは大谷選手の快挙は起きる寸前に見てた夢みたいに儚くなって、懸案事項でいっぱいになっていた。


 実は、アルバイトでしょっちゅう行く結婚式場。そこの貸衣裳の花嫁衣裳が大量に放出されることになってるんだよ。

 一着500円とか1000円とか!

 貸衣装っていうのは、ちょっとくたびれただけでダメになる。微妙な黄ばみとかシミとかあるだけでアウト。
 むろん、手入れで取れるものは取って使っているんだけど、ほとんどおニューと変わらないものでないと、ユーザーからは敬遠される。

 1970年代というのはそういう時代なんだ。戦後四半世紀、住はともかく、衣食は足りてきて、花嫁衣裳ぐらいはピシッと決めたい時代なんだ。

 わたしはね、まあ、お遊びですよ。粋狂物のお遊び。

 気に入った一着を着てさ、メイクとかは仲良くなった式場のスタッフにやってもらえるし、撮るのは須之内写真館のスタジオでさ。

 たぶん1000円ぐらいでできるよ。

 令和だったら、ラーメンいっぱい食べられるかどうかって金額で、ちょっとした夢が叶うわけ。

 問題は、その後の花嫁衣裳。

 貸衣装の放出品だから500円とか1000円。

 いま現役で使ってるのはレンタルしたら昭和の時代でも複数の聖徳太子が要る。それが500円とか1000円。

 引き取るにしてもねぇ、花嫁衣裳って一着だけでもかさ張るんだよ。普通の古着なら普段着に使えるけど。うちの家にクロ-ゼットなんちゅうハイカラな収納は無い。ジュニア用の洋服ダンスと押し入れだよ。ウェディングドレスなんか入れたら、それだけで一杯!

 で、大谷君のことなんか1000%飛んで、悶々として学校に着いた。

 で、少しすっ飛ばして、その日のロングホームルーム。

 二年生になると、どこかズボラになって、本番まで一か月を切ろうかというこの日に文化祭の取り組みが議題に上った。

「なにか、取り組みとか出し物のアイデアないですかぁ……」

 副委員長のたみ子が――今日締め切りなんだけど――という想いを籠めて三度目に言った時、わたしは閃いた!

「ねえ、ウエディングのファッションショーとかやってみない!」

 閃いた勢いのまま提案して、あっさり決まってしまった!

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・127『MITAKA特別講演会』

2024-09-14 13:49:34 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
127『MITAKA特別講演会』   




 久しぶりのMITAKAを階段教室でやってる。


 先日の世界史の授業、ツクツクボウシが鳴きやんだことから吉村先生が脱線。

 兵隊時代の話をしてくれて、みんな印象深かったので急きょMITAKAで講演してもらうことになったのだ。

「いやあ、階段教室いうのは大学以来ですなあ。むろん、学生でそっち側で、前に立って話すのは初めてです」

 事前に「どんな話をしてもらえますか?」と真知子が聞いたんだけど「まあ、思いつくままに(^_^)」ということで、黒板には十円男が『戦争を知らない子どもたちへ』とタイトルを書いて、ロコがお花を描いて、それらしい雰囲気。

「ええとぉ……戦時中の空襲いうと原爆とか東京大空襲ですが、この宮之森や大浜市にも空襲がありましたが、当時は大阪におりましたんで、大阪大空襲の話をします」

 そう言うと、先生は、黒板にサラサラと大阪の地図を描いた。

「当時は大阪城に第四師団が置かれて、外堀の南には第八連隊がありました」

 サラサラと天守閣の南東に師団司令部。内堀と外堀を跨いで連隊本部を書き入れた。

「僕は気象班やったんで、司令部の建物に居りました。司令部は天守閣を再建するときに……当時は城の中は陸軍の用地で、天守閣を再建するときに交換条件で師団司令部を作ったんですねぇ……あ、これです」

 先生が示してくれたのは、三階建ての異世界アニメに出てきそうな西洋のお城風。

「あ、『ゴジラの逆襲』に出て来た……」

 高峰君が呟いた。

 ゴジラと言えば『シン ゴジラ』と『ゴジラ-1.0』しか知らないわたしには、アニメの2クール目みたいで新鮮な響きがある。

「そうそう『ゴジラ』の二作目ですなあ、大阪城でナンチャラいう怪獣と大暴れする奴。あれにも出てましたなあ。あそこはGHQが居らんようになって、一時は警視庁が置かれましてなあ……」

「え、大阪に警視庁があったんですか?」

 四組の男子が声を上げる。

「うん、すぐに大阪府警と改めるんですがね、あのころは自治体警察いいましてねぇ……あ、いまでも言うか。けど中身は全然違って、アメリカの警察と同じでした。大阪で犯罪が起きてパトカーで追いかけますなあ、県境を超えて京都とか兵庫に行かれると捕まえられません」

 ビックリする声と笑い声が起こる。

「『青い山脈』いう古い小説が、映画にもなってますが、吉永小百合、浜田光男なんかの青春映画の走りですな。主人公を寺沢新子いう女子高生なんですが、ラストでリンゴの密輸、終戦直後は自治体やら国の許可なしに食料を県外に移送することは違法やったんです。家のためやったか友だちの家のためやったか、新子はリンゴをトラック一杯に積んで値段の高い県外に輸送するんです。密輸の女親分ですなあ。新子は警察に見つかってパトカーに追われるんですが、県境を越えると追うてこんようになります」

 アハハハ

 笑いが起こって、わたしは『ラピュタ』でシータと空賊の女親分を思い出した。

「それで、警察の予算も自治体から出るもんやから、小さな町では警察官の給料も払えません。当然、自治体によって給料も違いますしねえ」

「なんか、アメリカの保安官みたいですねえ」

 久々に出て来た佳奈子が面白がる。

「元々、GHQの指導でできた警察ですからね、モデルはアメリカです。あ、そうそう、大阪の大空襲は5月13日やったんですが、月の初めに東京の大本営から参謀飾緒付けたエライさんが来て『五月に大空襲がある模様だから対策するように』て注意しよったんです」

「事前に分かってたんですか!? あ、すみません(;'∀')」

 たみ子が、ちょっと大きな声を出して、自分で謝る。

「そらぁ、日本の軍隊もアホやないから知ってます。重要書類やら燃料やら大事なものは避難させんとあきませんからね。兵隊は、来たるべき本土決戦のために、空襲で死なすわけにはいきませんからね」

 ええぇ……

「それで、第四師団のエライサンは『大阪府民に伝えるべき!』やと言うたんですが、大本営は『軍機に属することだから一般には伝えてはならん!』と言うんですなあ。その言い争う声が廊下まで聞こえてきましてなあ、外の車寄せから大本営が帰りよるまで殺気だってました」

 大本営の秘密主義にもビックリしたけど、大阪の第四師団も意外に府民の事を思っているのでビックリした。

「それで、第四師団はどうしたんですか?」

「いや、軍機ですからね、府民に言うわけにもいかず、防空についての指導やら教練に力を入れました。まあ、これで悟ってくれいう感じでしょうなあ」

「それで、大阪大空襲はどれほどの被害が出たんですか?」

「ううん……4000人ぐらい死者がでましたかねえ……」

 4000……という数字に二種類の反応。

 多いというのと、逆に少ないという反応。

「東京大空襲は七万人死んだと聞いてます、空襲の規模が違ったんですか?」

 10円男が数字を挙げて質問する。学園紛争やってる時に少しは勉強したのかもしれない。

「規模は同じくらいです。B29は300機前後来ましたし、爆弾やら焼夷弾は2000トンぐらい落としていきました。あ、それと東京大空襲の七万いうのはあくる日に警察が把握した数なんで、その後に分かった分を合わせたら10万はいくでしょうねえ」

 10万……広島や長崎より多いよ、たぶん……。

「まあ、ただの伍長でしたからね、細かいところはわかりませんが、そんなもんです。そうそう、僕は気象班でしたんで、毎日司令部の屋上で、風向きやら気温やら日照を調べて上の方に報告するんです。まあ、日に三回ほど、あとは大学で気象学やってた班長、大尉なんですが、この人を中心に喋ってばっかりですわ。まあ、ヒマやったんですなあ。終戦の前の年ぐらいまでですが、暑くなってくると『吉村さん、ビール買うてきてくれませんか』と頼まれる。班長は会社で言う管理職なんで、公用の外出許可を出せるんです。それで、公用の腕章つけて、堂々とビールを買いに行ったこともありました」

「戦時中にビールがあったんですか?」

「あるとこにはあります。まあ、大空襲のまえぐらいまでは」

 じっさい現場にいた人の話だから面白く、下校時間いっぱいまで先生のMITAKA特別講演は続いた。



☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・126『ツクツクボウシが鳴きやんで脱線する吉村先生』

2024-09-10 11:19:08 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
126『ツクツクボウシが鳴きやんで脱線する吉村先生』   





 ついさっきまで鳴いていたツクツクボウシピタリと鳴きやんだ。


 出席簿を閉じて――さあ、これから授業――という吉村先生の手が停まってしまった。

「ああ、ちょうど、こんな朝でしたなあ……」

 品のいい関西訛で先生は遠い目になって窓の外に目をやって言葉を繋いだ。

「班長が家までやってきましてなあ『吉村、このままやと脱柵になるでぇ』と言いよりました」

 ダッサク?

 聞き慣れないダッサクという言葉と班長という学校でも日常的な言葉が混ざって、教室は――なんだろそれ?――という気持ちと――これは先生のフリートーキングになって授業が無くなるという期待に溢れた。

 まだまだ残暑厳しい九月の初め、エアコンも無い教室は短縮が終わって、生徒も先生もげんなりの空気。

「脱柵とは脱走のことですなあ……僕は当時は大阪に住んでましてね、十八年に召集されましてなあ、兵隊やっとったんですけども、二十年の七月に病気になって帰郷治療になったんです。まあ、当時は陸軍病院も焼けてしもて、ロクな治療が受けられませんからね、実家が大阪市内やし、そういうことになったんですなあ。もう半月も前に戦争が終わって軍隊も無条件降伏したんで、顔出すことも無いやろと思てたんですなあ……」

 そこまで話すと、先生はポケットから煙草を出しかけ――おっと――という顔になってしまい直す。

 ふふふ あはは

 ついうっかりの先生に自然な笑いが教室に起こる。

「無条件降伏しても組織は生きてるんですねえ、原隊復帰した上で兵役解除してもらうんです。そうすると現役で復員したことになって軍人恩給ももらえるというわけです……それが、ちょうどこんなツクツクボウシの声が途絶えた日ぃでしたなあ」

「階級はなんだったんですか?」

 高峰君が質問する。

「ああ、伍長」

 そう答えて、先生は黒板にきれいな字で書いた。

「下士官の下、兵隊の上いうとこですなあ。高峰君のお父さんは軍隊行ってはったのかなあ」

「はい、海軍の主計科でした」

「主計科かぁ、数学が出来る人がいくとこやなあ」

 あ、そういや、高峰君は数学が強かったっけ。

「海軍の主計いうと、外地で補給するときに活躍する部署でね、レートの計算なんか上手かった言われてます。あ、そういや、先月アメリカが固定相場制止めて変動相場制にしましたなあ」

 え、なんかむつかしい……と思ったら、高峰君とか何人かが身を乗り出して……10円男まで伏せていた顔を上げた。

「長いこと、一ドル360円でしたけど、320円……いや、もう300円ぐらいまでいきましたかねえ」

 わたしは、こういう話は弱い。

 令和では、一ドル150円くらいだったかなあ。

 360円と150円だったら360円の方が高いと感覚的に思うし、中学まではそう思ってた。

 だけど違うんだよね(^_^;)。

 一ドルのものを買うのに360円要る昭和。一ドルのものを買うのに150円ですむ令和という違いなんだ。つまり、令和じゃ360円で一ドルのキャンディーが二個も買えてお釣りがくる。それを昭和じゃ一個しか買えないということなんだ。

「きみらは、なんで、一ドルが360円だったと思う?」

「ええと、戦後ドッジという経済顧問がやってきて、インフレを収束するときに決めたんだと思います」

「アメリカ帝国主義の陰謀!」

 高峰君と10円男が答えて、当然のことながら10円男は笑われる。

 アハハハハ((´∀`*))ウフフ( *´艸`)

「うん、高峰君のも正解やけど、加藤君も正解というか大事な感覚やと思う」

 え? 

 ちょっと空気が変わった。

「360というと……」

 先生は黒板にきれいな円を描いた。

「円の角度は?」

 あ!?

「そう、円の角度は360度。公式な記録は残ってないと思うけど、ドッジは『What does yen mean? 』と聞いたやろねえ。すると日本の役人は『yen is a circle』と答えて『A circle is 360 degrees 』とドッジは返す。で、日本人は『ナイスギャグ!』と手を叩いて決まった」

 笑い声と、微妙にムッとした空気が同じくらいに起こった。

「まあ、この通りやったかどうかは分かりませんが、そういう空気が日米の間にはあります。まあ、このギャグが通じんようになって、ドッジは悔しいかもしれませんが」

 アハハハ((´∀`*))

 先生も笑いながら辞書を引いている。

「ああ、三年前に亡くなってますなあ……生きていたら『ざまあ見ろ』ぐらいカマせたかもしれないねえ。惜しいことをしたね加藤君」

「先生、いまの英文、黒板に書いてもらえませんか」

「ああ、いいよ」

 先生はサラサラと三つの英文を書いて、もう一度発音。

 みんなも書き写して「リピートアフターミー」とも言われないのにそれぞれに繰り返している。

 
 久々に生きた授業を受けた気がした。

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・125『エアコンはないんだけども』

2024-09-05 10:58:06 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
125『エアコンはないんだけども』   




 令和の学校は8月の25日ぐらいから学校が始まっている。

 冷房の効いた家の窓から、まだまだ真夏の学校に通う令和の子たちを見ているのは、ちょっと気持ちよかった。

 でもね、令和の学校にはエアコンがある!

 昭和の学校にはエアコンどころか扇風機も無い!


 ニチャ……


 これが終わったら三時間目の終りで、短縮授業期間だから学校そのものがおしまいという現国の時間。課題のプリントを書き終えて顔を上げると、いっしょに上げた腕が机に貼り付いて、不潔な音がする。

 これがパリっていう乾いた音ならそれほどじゃないんだろうけど、ニチャ……はいけない。汗と空気中の水分と机と腕の間に繁殖した細菌とかばい菌がスクラム組んでいるようで、めちゃくちゃ不潔で不快な音だ。

 机の上には腕の形に汗が付いていて、乾くと塩が吹いていたりする。

 気を付けていたけど、腕の端っこがプリントを踏んでいて、踏んだところがビチャビチャ。

 ペタペタペタ

 この人特有の軽いサンダルの音をさせて杉野先生が戻って来る。

「じゃあ、これで終わるから、後ろから集めて」

 七列ある席の後ろの子がプリントを回収して教卓に持っていく。

 ほんの十秒ほどで回収し終えると、そのまま先生は教室から出て行っておしまい。

 二時間目の数学もプリントで、ちゃんと授業があったのは一時間目の物理だけ。

「杉野が前に立ったらひんやりしてたよ」

 教卓の前に座っているたみ子が汗を拭きながら言う。

「ああ、ずっと職員室のクーラーの前に居たんだよ、先生」

「いいですよねえ先生は、教室にもクーラーを付けるべきです」

 真知子やロコからもグチが出る。

「図書室にでも行こうか」

 たみ子が下敷きをパタパタ言わせながら提案。

「そうね、お喋りはできないけど」

 フローラルな香りの扇子をヒラヒラさせて真知子が決定。

 
 本日休館


「「「「ええ……」」」」

 図書室のドアには無常の張り紙がしてあった。

「昨日も休館だった」

「短縮中は開かないんですかねえ」

 校内で唯一生徒が利用できるエアコンスペースである図書室の前、しばらくは立ち去れない四人組。


「よかったら、ウチくる?」


 振り返ると演劇部の牧内千秋さんが体操服で立っている。

「うちの部室は一階だしね、秘密兵器があるんだよ~」

 去年のクリスマス以来の部室。

 あ、正式には倉庫。

 生徒会と交渉して別に部室を獲得したんだけど、それは階段の下、ハリーポッターのねぐらみたいなとこ。それで、普段の部活はやっぱり倉庫なんだそうだ。

「ええ、なんですか、これ!?」

 ロコが発見したのは、ちょっと変わった扇風機。

 扇風機の後ろに水彩絵の具用のバケツが固定してあって、バケツの中には掃除機の狭いところ用のノズルが立ててある。

「ちょっとした発明でねぇ……」

 ヤカンの水をバケツに注いでスイッチを入れる牧内さん。

 ブィ~~~ン

 中の勢いで扇風機が首を振りはじめる。

 ……え!?

「めちゃくちゃ涼しい」「なんで?」

 たみ子と真知子が扇子と下敷きを停め、ロコが扇風機の後ろに周る。

「あ、これはスゴイです!」

 ええ? なになに?

「気化熱を利用して冷風にしてるんですよ!」

「え、あ……」

「なるほどぉ!」

「エアコンと同じ原理だ……」

「アハハ、苦肉の策なんだけどねぇ(^_^;)」

「いえいえ、立派なもんですよ!」

「そうねえ、クリスマスのかがり火といい、この扇風機といい……」

「牧内さん、天才だ!」

「へへ、そんないいもんじゃないわよ。正式な部活は短縮が終わってからだしね」

 うん、少しは分かるよ。

 牧内さんが工夫してるのは部活のためなんだ。

 わたしたちがお邪魔してるってことは、他の部員は来ないんだ。

 やっぱり短縮授業中、マイナーな部活はね、テンションやらモチベーションの維持が難しい。短縮中に部活をしてはいけないなんて決まりはない。部員が付いてこないだけなんだ。連盟の副会長まで引き受けている牧内さんだけど、自分の部活は楽じゃないんだね。

 いーちにーいちにさんし イチ!(ソーレ) ニ!(ソーレ) サン!(ソーレ)……

 開け放した窓から元気な掛け声、佳奈子が後輩たちを追い上げてランニングをやっている。

 空にはまだまだ夏の入道雲、思い出したように蝉が鳴く。

 ツクツクボーシ、ツクツクボーシ… 

 やっぱり、微妙に季節は移ろっていっているようだ。

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
   
 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・124『今日から二学期!』

2024-09-01 10:35:34 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
124『今日から二学期!』   




 シャッコウって読むんだよ。


 いつも教えられてばかりのロコに教えてやるのは、ちょっぴり気持ちいい。

 始業式の今朝。いつものようにロコといっしょになって商店街を抜けて学校に向かっている。
 和菓子屋さんの表に今月のカレンダーが貼ってあって、九月一日のところに赤口とある。

 あかぐち?

 情報通のロコでも、さすがにスカタンを言うので正してやる。

「グッチ、物知りですねえ!」

「結婚式場で写真のバイトやってるからねえ、こういうのだけは詳しい」

「仏滅とか友引は知ってましたけど、赤口は知らなかったです(^_^;)」

「赤口神っていうのが居てね、そいつが悪さをする日で仏滅と並んで敬遠されるんだよ」

「なるほどぉ、シャッコウシン……」

 さっそくメモ帳を出してメモる親友。「で、どんな神さまなんですか!?」と聞かれて「あ、縁起悪いしか知らないんだけどねぇ(^○^;)」と白状して、始業式の朝が始まった。


 ヨントーゴラク!


 始業式の冒頭、赤口の効き目なのか、校長先生の話が長い。

 そもそも始業式が屋外のグラウンド。

 なんの我慢会!?

 話の中で、ヨントーゴラクが四当五落だと分かってくる。受験を控えた三年生への励ましというか激励なんだと分かる。

 一日に5時間も寝る奴は落ちる! 睡眠時間は4時間にして頑張れ!

 という意味なんだ。

 進学校としては、ひいき目に見ても一流半の宮之森。東京帝国大学を優秀な成績で卒業した。でも、大蔵省とか一流企業とかには行かずに一介の田舎高校の校長に甘んじている校長先生としては忸怩たるものがあるんだろうね。

 後の話しは上の空で、続く若杉先生(生活指導)倉田先生(生徒会)と保健部の(名前忘れた)先生の話は完全にぶっとんで、ようやく解放される。

 みんなが真っ直ぐに向かうのは校内に10台ほど備えられているウォータークーラー。足元のペダルを踏むと「グアァアアア」とポンコツな音がして放物線を描いた冷水が飛び出す。
 ミネラルウォーターとかじゃなくて、ただ水道水を冷やしただけなんだけどね。昭和のこの時代、ペットボトルも無いし、家から水筒ぶら下げてくる習慣も無い。
 10台のウォータークーラーからあぶれた者は、水道の蛇口をひっくり返して、そのまま飲んでいる。

「おお、新学期の水道は血の味がするぜぇ」

 10円男の加藤高明がドラキュラみたいなことを言って、したたる顎の水を拭っている。いっしょにいるのは三年の男子たち。留年して足かけ二年なのに、まだ引きずってんのかなあ。

 ちょ、なに気にしてるんだ(-△-;)?

 あいつとは運命の転がり方次第では身内になる可能性もある(072『大晦日の奇跡』とかね)。むろん不本意だから、あまり意識しないようにしよう。意識しなければ未来は変わるんだからね。

 ウォータークーラーで喉を潤して振り返ると、たみ子と満智子が並んでる。

「いやあ、銀座以来だねえ」

「あ、元気してた二人ともぉ!」

「元気元気ぃ!」

 サッサと水を飲んで真知子が抱き付いてくる。

「あ、ごめん、暑かったよね(^_^;)」

「ううん、どうしてたのよ二人ともぉ!」

「あ、うしろつかえてるよ」

「あ、ごめんなさい」

 ウォータークーラーの列を離れて教室へ向かう。

 ゾロゾロと教室への階段に向かう。

 ひしめく同級生たちからは、洗濯したての制服の匂いがして、わたしの二学期が始まった!

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
   
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・123『軍艦突堤もしくは防波堤』

2024-08-28 14:56:11 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
123『軍艦突堤もしくは防波堤』   




「待ってたわ、すぐに案内するから(^▽^)/」


 車が停まると同時に奥さんの恵さんが飛び出してきた。

「いいの、直で?」

「うん、ぜんぜん!」

 直美さんに元気に返事すると、クルンと振り返り手のひらを庇にして空を見上げる。

「ヘクチ! アハハ、朝の光の方がだんぜんいいから。じゃ、ちょっと行ってきまーす!」

 奥さんの恵さんが声をかけると空の手前で旦那さんの勲さんが手を振る。

 勲さんは灯台のライトハウスっていうんだろうか、そこのガラスを元気に拭いている。Tシャツ姿だけどちゃんと制帽を被って、首に双眼鏡、手にはウエスを持ってガラスを拭いて、いかにも灯台守。

「毎日拭かないと塩がついちゃうの。でもね、灯台のことは自分の仕事だって手伝わせてくれないのよ」

「フフ、いい旦那だ」

 てっきり灯台か灯台下の磯や岩場を撮るんだと思ったら、わたしは後部座席、恵さんが助手席に収まって、大浜港の方に向かった。


 ザップーーーン!


「土用の波だねぇ」

 カシャカシャカシャ

「え?」

 ちょっと混乱、今日は火曜日だし。

「立秋の頃に寄せてくる。不規則に大きな波が来るから要注意」

「波を撮るんですか?」

「波も撮るけど、も少し大きい景色をね。あの突堤をね……」

 突堤なんか撮ってどうするんだろう。

「トッテイモいいんだぞぉ」

 ( ̄m ̄〃)ぷぷっ!

 直美さんがヘタな洒落をカマシて移動。

「漁協に話はしてあるから」

「助かるぅ!」

 わたしが機材を担いで、直美さんはカメラ二つを持ち、恵さんの案内で漁協の建物に向かう。「お世話になります」と受付で声だけかけて、そのまま屋上へ……と思ったら給水塔の上まで上がるしい(^_^;)。

「うん、ちょうどいい。望遠と広角用意しといて」

「はい」

「それと、これ!」

 ビュン

 恵さんが命綱を放り上げてくれる。

「え、こんなのするんですか?」

「撮りだすと夢中になるからね、グッチも付けといて」

「あ、はい(^_^;)」

 腰に命綱を付けて、端っこの金具を給水塔のフックにかける。

「……まあ、ギリいけるかなあ」

 パシャパシャパシャ

「望遠300!」

「はい」

「いや、広角、光が変わりそうだ」

「は、はい」

 レンズをケースから出して渡す。

 パシャパシャパシャ パシャパシャパシャ

「やっぱり高いところはいいわねぇ」

 気が付いたら恵さんんも上がって来た。

「直美さん、どこを撮ってるんですかねえ……」

「突堤を右に据えて、港を撮ってるんだと思うわ……突堤の上、よぉく見て」

「突堤の上ぇ……あ」

「分かった?」

「あれって……船……ですか?」

 注意して見ると、突堤の上面にうっすらと船の形が見える。

「うん、軍艦が埋まってるの」

「軍艦!?」

 パシャパシャパシャ

「うん、あそこにね旧海軍の駆逐艦を沈めて臨時の突堤にしたんだ。コンクリートで固めちゃったから、もう船の縁が見えてるだけなんだけどね……あ、フィルムお願い」

「あ、はい」

 我ながら慣れた手つきでフィルムを装填すると恵さんが横に来る。

「葉月って駆逐艦。お父さんが乗ってたんだ」

「え、そうなんですか」

「戦後しばらく引揚船に使われてたんだけど、二年で引退して、あとはあそこで防波堤になった。わたしもね、ついこないだ知ったんだけどね」

「上の方は無いんですね、大砲とか煙突とか」

「必要なのは胴体だけだから鉄くずにしたんでしょうねえ」

「葉月って八月の和名でしょ、突堤になったのが二十二年の秋だから、なんかピッタリで、それで直美さんに話したら、ぜひ撮りたいって」

「よし、次は突堤そのものを撮るよ!」


 三人で漁協を出て突堤に向かう。


「うん、横から光が来ればクリアーになるね。レフ板!」

「はい!」

 レフ板で頭上の日光を横向きに変換。僅かに残った縁と微妙な高低差が際立ってくる。

「ブリッジはこのへんかなあ……」

 給水塔から見下ろして大よその形は分かっている。葉月は舳先を海に向けている。

「最後の引揚船の時にお母さんが乗ってて、その縁で結婚したんだって」

「え、そうだったんですか!?」

「ブリッジの前の方、左舷て言ってたから、このへんかなあ……ここで、お父さんプロポーズしたんだって」

「ええ、そうなんですか(^▽^)!?」

「昔の話しなんてちっともしない人だったんだけどね、こないだ、たまたま話してくれて」

「それを聞いた直美さんが閃いたってわけですね」

「ねえ、ちょっと走ってみようか!」

「走るんですか!?」

「うん、舳先からお尻までちょうど百メートルほどだから。ねえ、直美も!」

「ええ?」

 渋る直美さんもいっしょに突堤を走る。

 現役女子高生だから楽勝……と思ったら、ゴール近くでラストスパートをかけてきた恵さんにあっさり抜かされる。むろん、直美さんはドンケツだったけどね。


 帰り道、直美さんが教えてくれた。


 恵さんは、夏の初めに流産していた。

 ちょっとこじらせたらしくて、しばらく入院していて、心配したご両親がこっちにこられて、その時に突堤の話を聞いたそうだ。

 令和に戻って改めて突堤を見に行く。

 
 ああ……


 突堤は近辺の海といっしょに埋め立てられて跡形も無かった。ググって見ると『軍艦防波堤』というくくりで出ていた。防波堤と突堤というのは厳密には違うらしいけど、一般には軍艦防波堤と呼ばれて、全国に数カ所残っている。

 名残惜しくてウロウロしていると『軍艦防波堤跡』という説明書きが残っていた。地元では軍艦突堤とも呼ばれていたけど、記念碑を残す時に全国的な軍艦防波堤という名称にしたと書いてある。

 その説明書きも半ば赤さびて、もうネットの中でしか知ることは出来なくなるのかもしれない。


 わたしの夏休みが終わった。

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
  
 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・122『再び岬の灯台へ』

2024-08-24 11:28:40 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
122『再び岬の灯台へ』   



 小指を突っ込んで左に半回転……カチャっとカセットを戻し、パカンとふたを閉め、ガチャンと再生ボタンを押す。


 おーいでみなさん聞いとくれぇ♫ ボークは悲しい受験生ぇ……(^^♪


 ドンピシャで頭から再生が始まる。

 頭から繰り返して聞き直すだけで四つ、再生を停めてカセットを取り出す作業まで含めると六つ、カチャっとかパカンとかガチャンとかのアナログ操作。

「高石ともやって知ってます?」

 写真館に着いて直美さんに聞くと「あ、テープあるよ」とラジカセとテープを貸してくれた。

「特定の曲をリプレイするときはね……」

 そう言って教えてくれたのが今の操作。

 スマホだっら「高石ともや、受験生ブルース」と囁くだけでやってくれる。電車の中だったりしたら曲名を出してリピートに触れるだけ。

 小指を突っ込んで半回転なんて、めちゃくちゃアナログなんだけどね。それで、きちんと頭から音が出るのは感動。

 なんだか、蒸気機関車の熟練運転手になったみたいで嬉しくなってくる。

「肩に力が入り過ぎてないのがいいよね」

 一式の機材を並べ終わって一息つく直美さん。

 この時代ではフォークソングというんだ。去年クリスマスイブに学校の中庭で歌った歌はそういうジャンルになるらしい。

「プロテストソングとか反戦歌になるとね、ちょっとついていけない。あ、こんなのもあるよ」

 別のテープを入れると、早回しの変な曲が流れて来た。

 おらは死んじまった おらは死んじまった 天国に行っただぁ♪

 プ( ´艸`)

「アハハ、いつ聞いても笑っちゃうよね。でも、これがリムジン川とかになると、メロディーはいいけど政治的メッセージが強すぎてねぇ……ウイシャルオーバーカムはモロ公民権運動のプロテストだしぃ、そうそう、これなんか……」

 次にかかったのは『自衛隊に入ろう』と勧誘してるみたいなんだけど『男の中の男はみんな自衛隊に入って花と散る!』と締めくくって、完全にコケにしている。

「おもしろいけど、わたしは評価しないなあ……他にも『死んだ女の子』とか『戦争を知らない子供たち』とか……まあ、好き好きはあるんだろうけどね……そうそう、今回のテーマはね」

 いまは もう秋 だれもいない海ぃ~♪

「あ、いい曲ですね(^^♪」

「でしょ、このイメージで撮りたいわけですよ。さ、機材もそろえたし、そろそろ出るかぁ」

「はい!」

 ホンダZの後部座席に必要な機材を載せると、とりあえずは、十カ月ぶりの岬の灯台を目指した。

 カーエアコンなんて付いていない車だけど、八月も下旬、窓から吹きこんでくる風は、もう、秋の気配を感じさせた。


 あ、生きてる。


 『し』の字の宮之森線の脇ををなぞるように南に下ると『し』の字の底を曲がったあたりから灯台の先っぽが見えてくる。

 令和に戻ってから見に行った灯台は完全に無人化されて、敷地ぐるみ立ち入り禁止。広大な敷地に立っている灯台は歴史上の有名人物の墓標のようだった。

 それが、ゲートは開きっぱなしで、入り口から灯台までの小道には雑草も無くて、令和の時代にも変わらず灯台に寄り添っている官舎。その網戸の窓が開いているだけで生きているという感じがする。

 ブチブチブチ……

 タイヤが陽気に砂を噛む音を響かせると、奥さんが窓から顔を出した。

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
  
 

 

 
 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・121『お祖母ちゃんは時々お香をたく』

2024-08-20 12:11:01 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
121『お祖母ちゃんは時々お香をたく』   




 お祖母ちゃんは時々お香をたく。


 お香は、線香とかもぐさみたいに焚くものから、アロマっていうんだろうか、香水っていうか油っていうかみたいな時もある。

 それが、今朝はお線香だよ。

「いい男が二人も逝っちゃったんでねぇ……」

 そう言って、ソファーに浅く座ってお線香の煙を見ている。

「え、だれが亡くなったの?」

 お祖母ちゃんの視線を追うと、線香の煙が『アランドロン』と『高石ともや』という名前を描いた。

「えと……だれ?」

「ええ、知らないのぉ……」

「あいにく……」

 そう言うと、お祖母ちゃんはめんどくさそうに指を動かす。

 すると、ラックから朝刊が浮き上がり、テーブルの上でパサリと三面を開いた。

 たしかに、アランドロンという人と高石ともやという人の訃報が大きく載っている。

「ええと……映画俳優とシンガーソングライター?」

 ハーー

 ため息をつくと、もう一度指を動かすお祖母ちゃん。

 すると、映画の一コマなんだろうか、すごいヤサオトコが胸の大きなオネエサンと恋人の距離で見つめ合ってる映像が出てくる。背景は海で、ちょっとやるせないギターの曲が流れてる。

 太陽がおっぱい……いや、太陽がいっぱいか(^_^;)。

 もう一度切り替わると、高石ともやっていう人の若いころの映像が出て、陽気な歌を唄ってる。

 おーいでみなさん聞いとくれぇ♫ ボークは悲しい受験生ぇ……(^^♪

「ああ……」

 そういえば、クリスマスイブの集いとかで歌ってた曲っぽい。


 深入りするとお互いギャップにため息つきそうなので戻り橋を渡って写真館に行く。


 ボスの直美さんが晩夏をテーマに写真を撮りたいというのだ。

 いつもは家業の記念写真のために結婚式場とかだったりするんだけど、直美さんはプロの写真家でもあるんだ。

 それで、気心の知れた助手を連れて秋に応募する写真を撮りまくりたい。

 それを企画を練る段階からわたしを参加させ、テンションを上げたいという目論見。

 まあ、もう半分は、こんなわたしでも慰労してやろうという気持ちでもあるんだと思う。

 あ……ああ(-_-;)ゞ

 橋を渡った1971年は、令和と変わらない暑さ。

 でも、やってきた電車はめったに出くわさない冷房車。冷房の設定温度は令和より5度くらいは低くてラッキーだった。

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・120『妖退治・6・京橋空襲』

2024-08-16 11:42:18 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
120『妖退治・6・京橋空襲』   




 ああ、抜かっていたぁ……(-_-;)


 アキラのことを報告すると、晴天は頭を抱えてしゃがみ込んだ。

 頭を抱えても晴天にはすごいオーラがあるようで、眼下の工事現場に隠れていた妖が五六匹ビックリしたように顔を出し、晴天は指先をちょっと動かしただけで電磁波みたいなのを出してやっつけてしまう。猫や犬が微かな音にも反応するようなもので、本人には――やっつけた――という自覚も無い。

「そんなにショックなことなの?」

「グッチは知らない方がいい。いやあ、安倍晴天としたことがぁ……」

「で、アキラがやっつけたのは何だったの?」

「それも知らない方がいい」

「あ、そうなんだ……」

 わたしもお祖母ちゃんの孫、正体や名前を知ってしまったら厄介なことになることがあるのを知っている。ほら、西遊記の話で名前を呼んで、返事をしたら壺の中に吸い込んでしまう魔物の話があったよ。

「これを見てごらん」

 五六匹の妖をやっつけたばかりの指を動かすと、B5くらいのチラシが浮かんだ。

 わたしの方が、もうちょっと上手いぞという字で――私たちは本日、爆弾を投下しに来たのではありません。日本國民のみなさん、我々の敵は日本国の軍隊と日本政府です。連合国は日本政府と戦争終結についての交渉をしているところです……――ということが書かれている。要は、戦争の終結が近いから、むやみに爆撃して日本人を殺すことは控えるという内容だ。

「終戦の二日前に米軍が撒いていったビラだよ。日付は8月13日」

「ああ、終戦の二日前?」

「お、えらい、終戦の日を知ってるんだ」

「失礼ねえ、それくらいは知ってるわよ」

「怒ると応(こたえ)さんに似てるなあ」

「あんまり誉め言葉にはならないんですけど」

「明日は京橋に行ってみよう」

「京橋ぃ?」

「うん、うまい焼き鳥屋とかがあるしね」

 アキラがやっつけてくれたからいいようなものだけど、留守中に攻められたのに大丈夫という気持ちはあったけど、暑さしのぎは大賛成。


 こないだの玉造からは駅三つ北にあるのが京橋。例の砲兵工廠の南口が玉造、北口が京橋になるらしい。

 環状線と学研都市線、それに京阪電車も乗り入れていて、大阪市東部の一大ターミナル。

「あれぇ、終戦記念日は明日でしょ?」

 例のトンネルを出て着いたのが京橋駅の南口。高架の下に二張り白いテントが張られ、大勢の人たちが黙祷している。
 人々の前にはお地蔵さんが仰ぎ見るように立てられ、横には『南無阿弥陀仏』の石碑と少年少女がハトが停まった花輪を掲げてるブロンズ像。

 これは宮之森でも終戦の日にやっている慰霊祭といっしょだよ。

「終戦の前の日に大空襲があったんだ」

「え?」

「主目標は砲兵工廠だったんだけどね、ターミナルの京橋駅も狙われて、環状線と学研都市線の交差するこの場所に一トン爆弾が落とされたんだ」

「ええ……( ゚Д゚)」

 見上げると真上とその上に交差して線路が走っている。

「ちょうど、通勤ラッシュの時間帯で、千人近い人が犠牲になった。半分以上の人たちは身元も分からないまま火葬にされた」

「あ、ああ、真夏だもんね……」

 万博の建設現場でも、時どきハトやコウモリが死んでいて、半日もしないうちにカラカラになってる。人間は大きいから……その、すぐに腐っちゃうしね。

「それもあるけど、身元確認ができないくらいにバラバラになってるからなあ」

 あ、そういう意味か(;'∀')。

「でも、13日の宣伝ビラには……」

「ボクもがんばって爆弾を、ほら、そこの寝屋川やら大阪城の堀なんかに誘導したんだけどね……」

 そうだ、晴天は日之出通商店街の大正屋を爆撃から救ったんだ。

「なんせ、145機も来たからね、それに陰陽師や魔法少女は、あくる日はポツダム宣言受け入れて無条件降伏するって分かってたからね。油断もしていたしね……」

「そうなんだ……」

 
 それから、みんなと一緒に黙祷して、並んでお焼香。


 爆撃の話を聞いた後で、焼き鳥や焼き肉は無理……と思ったけど、駅近のいい匂いを嗅ぐと、一瞬で食欲の方が勝って、しっかりゴチになった(^_^;)。

 一日休みにするのかと思ったら、昼過ぎには戻って警備にあたった。

 そして、残りは「やっぱり自分でやる」と晴天が覚悟を新たにして、半月ぶりに宮之森の自分の家に戻った。

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
  
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・119『妖退治・5・アキラ 夏の思い出』

2024-08-13 11:39:44 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
119『妖退治・5・アキラ 夏の思い出』   




「ええと……だあれ?」

 質問に質問で返してしまう。ネックファンで余裕ができたのか、結界を張るだけとはいえ警備をやっている自負心からなのかは分からない。

 白の少女は、それにこだわることもなく応えてくれる。

「ええと……アキラ」

「かっこいい名前ね」

 見かけは小柄な女の子なんだけど、白のワンピースにペタンコのサンダル、それに少しワイルドなシルバーのロン毛は「アキラ」っていう、ちょっとボーイッシュな名前が似合ってるので正直な感想になってしまう。

「あなたは?」

「あ、メグリ、時司巡……こんな字」

 空中に大きく『巡』の字を書く。

「ああ、巡洋艦の巡だね」

「ジュンヨウカン?」

 なんだか羊羹の二級品みたいなのを想像してしまう。

「軍艦の巡洋艦、戦艦の次に大きいの。で、メグリは魔女なの?」

「ちがうちがう……魔法少女」

 相手が人間だったらうかつに魔法少女なんて明かさないんだけど、このアキラは工事関係者とかの人間じゃないし、近づいても平気そうだから、悪意のある妖や魔物でもなさそう。

「魔法少女かあ……久しぶりに見たぁ」

「あ、見たことはあるんだ」

「うん、海没処分になるとき見送りに来てくれた」

「カイボツ?」

「うん、海軍の艦だったからね」

「え、アキラは軍艦だったの?」

「軍艦じゃないよ、潜水艦」

「潜水艦も軍艦でしょ?」

「フフ、軍艦と呼べるのは戦艦、巡洋艦、航空母艦とかだよ。それ以外の小さいのは艦艇っていうんだ」

 その時、風が吹いてアキラのロン毛が戦いで首筋の赤いあざが目に留まってギクッとした。

「ああ、ほかにもあるよ、こことかね」

 ワンピをめくった太ももにも大きなあざ。

「裸になると、他にもある。沈められた時に撃たれた痕だよ」

「撃たれて沈んだの?」

「うん、魚雷とかで撃ってくれたら一発で済んだんだけどね、5インチ砲……こんくらい(手で丸を作ってお茶碗の直径ぐらいの示した)ので撃たれたから、合計8発もぶち込まれたよ」

「8発も」

「うん、魚雷は高いし、5インチの弾なんて腐るほどあったしね……あ、終戦の時は、あっちの神戸港に居て、そこで捕まって。このすぐ前の海を通って和歌山の沖で沈められたんだ。ここに居ると両方が見えるんだ、それで、ちょっとお邪魔してる。メグリは?」

 小柄だから膝を抱えて見上げるようにわたしを見るアキラはめちゃくちゃ可愛い。

「あ、安倍晴天ていう陰陽師の手伝いで結界を張ってるの。この大屋根の中にはいっぱい妖とか魔物がいるんだよ」

「ああ、あんたたちだったのか。ここの悪者たちやっつけてたのは」

「あはは、やっつけてるのは晴天ていうボスだけどね。アキラ……」

「なに?」

 ちょっと失礼かもと思ったけど、思い切って聞いてみた。

「アキラって、日本の潜水艦なのに、そのぉ外人さんぽいね」

「あ、ああ。生まれはイタリアだからね」

「え、イタリア人!?」

「アハハ、人じゃないけどね。最初の名前は『コマンダンテ・カッペリーニ』って言うんだ」

「え、男みたい」

「イタリアの提督の名前だよ。イタリアが負けたらドイツに接収されて『UIT24』になって、ドイツが負けて日本に接収されて『イ号503』になった」

「え、じゃあ、アキラっていうのは?」

「途中、臨時にアキラ3号って呼ばれてた時期があってね、それがいちばん気に入ってる」

「そうだね、いちばん似合ってる」

「うん、ありがとう」

「どういたしまして」

 なんだか、昔からの友だちみたいになってきた(^_^;)。

「ねえ、その首にかけているのはなに?」

「あ、ネックファン。暑さは妖気を張って防いでるんだけど、これを掛けるといっそう涼しくなるんで、ボスの晴天がくれたんだ」

「へえ」

「かけてみる?」

「うん」

「どうぞ……」

「うわあ、なにこれ! 気持ちのいい林の中にいるみたい!」

「でしょでしょ、尾瀬っていうところのイメージなんだよ」

「うんうん、いいところだねえ」

 夏が来~れば 思い出す~♪ 遥かな尾瀬~ 遠~い空ぁ♪

「なに、その歌? この雰囲気にピッタリなんだけどぉ!」

「『夏の思い出』っていうんだよ」

「いいタイトルだねぇ……あ、やってきた!」

 ネックファンを付けたまま叫ぶアキラ! 

 顔は、最初のように南の空を見つめ、すぐに両手をその方向に伸ばした。

「アキラ?」

「静かに!……距離5000、方位角20……両舷魚雷戦ヨーイ! 距離4000……3000……2000……テーー!」

 アキラの両の手から8本の泡の槍が伸びて、数秒後に関空の上空辺りで大爆発!

 え、大丈夫!?

 ビックリしたけど、ちょうど着陸態勢に入っていた旅客機は何事も無かったように車輪を出して着陸していった。

「ねえ、いまの……」

 振り返った時には、もうアキラの姿は無かった。


 あ、ネックファン貸したままだった!



☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・118『妖退治・白の少女』

2024-08-12 10:48:56 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
118『妖退治・4・白の少女』   




 妖退治も二週間目に突入。

 こないだは、あまりの暑さに晴天自身が言い出して玉造(たまつくり)の日之出通商店街までカキ氷を食べに行って、ちょっと息抜き。

 でも、あくる日からは引き続き妖退治。

「お盆に入ったんで、ちょっとあちこち出張するんで、ここは頼むよ」

「あ、見てるだけでいいんなら」

「それでいいよ、グッチは居るだけで結界だからね。閉じ込めておいてくれさえすれば、帰ってからまとめてやっつけるからね」

「早く帰って来てね、わたしに手出しするのは居ないけど、ザワザワ言ってうるさいから」

「じゃ、これを貸してあげよう」

「え、ネックファン?」

 ありがたいけど、晴天が首につけていたやつかと思うと腰が引ける。

「新品だよ。AMATONに注文したのが届いた新製品」

「またAMAZON」

「便利だからね、じゃ、頼んだよ」

 それだけ言うと、あっという間に目の前から消える晴天。

 妖気の膜を張っているんで、ネックファンを付けることもないんだけど……おお!

 単に体感温度が下がるだけじゃなくて、めちゃくちゃ爽やか。ファンから噴き上がって来る風は森林浴をしてるみたいに爽やかで、魔力が二割ほど上がったような気がする。

 ボタンを押すとインタフェイスが現われる。シンプルに弱・中・強・自動の切り替え、と、可視化の選択肢。

 可視化ってなんだろう?

 ポチ……ゲ(''◇'')!

 切り替えると大屋根に囲まれた建設現場にウジャウジャと妖たちが蠢いているのが見える。裸眼でも、その気になれば少しは見えるんだけど、見え方というかグレードが全然違う。画質で言えば昔のアナログと今どきの8Kぐらいに違う。見えてる数も、裸眼で見るのと天文台の望遠鏡で見るくらいに違う。

 なるほど、晴天は、こういうのをやっつけてるんだ。こいつらを閉じ込めているんだから、わたしの力もなかなかのものだと思うよ。

 まあ、やっつけるのは晴天。わたしは結界専門。

 そう割り切って可視化をオフにする。

 そして森林浴みたいな気分で大屋根を周る。集成材とは言え、この大屋根は木で出来ている。妖気の膜で暑さを遮っているので、瞬間目をつぶるといい雰囲気。

――森林浴モードにしますか?――

 オフにしたはずのインタフェイスが現われて問いかけてくる。

「え、あ、おねがい」

 そう言うと、自分を中心に半径5メートルほどが木漏れ日になる。

 木漏れ日にも選択肢がある。広さが半径1メートルから無限大まで、漏れる光の具合も無段階で選べる。

 なるほどぉ、晴天が掛けていたのよりもグレードが高いかもしれない。

 いろいろ操作して、尾瀬の白樺林(行ったことないけど)のイメージにする。

 夏が来~れば 思い出す~♪ 遥かな尾瀬~ 遠~い空ぁ♪

 学期末に音楽で習った『夏の思い出』を口ずさんでいると、自動でいい雰囲気にしてくれる。


 あれ?


 調子よく半分ほど周ったところ、少しむこうに白いワンピースの女の子が体育座りしているのが目に留まった。髪はロングのシルバーで肌は抜けるように白く、横顔をこちらに向けて、ジッと南の空を見上げている。

 こないだも男の子の姿が見えたけど、あれは昔の残留思念がメタンガスと結びついて可視化したもので、近づくと消えてしまった。

 あれ、消えない……

 五メートルくらい、ちょうど視力検査の距離ぐらいになっても、その子は消えないで目が合ってしまった。

 白い横顔がこちらを向く。

「……あなた、魔女?」

 こっちから声をかけようとしたところなので、ちょっとビビってしまった。



 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
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  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
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  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・117『妖退治・3 本日は休みでカキ氷』

2024-08-06 12:19:51 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
117『妖退治・3 本日は休みでカキ氷』   




 万博建設現場の大屋根妖退治も一週間を超えた。

 
 途中、写真館のアルバイトに行って、結婚式場のスセリヒメに「おやぁあ?」と怪しまれたけど、式場は真夏だと言うのにメチャ忙しくて突っこまれることは無かった。

 夜は大屋根の上にマンションのモデルルームみたいなのが出現して、そこに泊る。食事も付いていてお風呂にも入れて、元々が地上ン十メートルの上なので夜景がすばらしく、PLの花火大会も見れて感激だった。

 でもね、一週間を過ぎるとさすがにねぇ。

「よし、今日は休みにしてカキ氷を食べに行こう!」

 朝ごはんを食べて――きょうも頑張るか!――と立ち上がったところに晴天がやってきて宣言した。


「え、ここ、どこ?」


 建設現場の地下に潜ったかと思うと、ゾワってきて、五六歩歩いて外に出る。

 ミーーン ミンミンミン ミーーン ミンミンミン ミーーン ミンミンミン

 うるさいほどの蝉が鳴いていて、正面を十段ほど下がったところに鳥居が見える。振り返ると出てきたのは石垣の下に穿たれた穴で、見上げた石垣の上には盾が並んで大砲みたいな筒が盾の間から覗いてる。

「え、真田の抜け穴?」

 標柱の字にビックリして反対を向くと鎧武者の銅像が立っていて、ちょっとビックリ。

「真田幸村だ。ここは幸村を祀っている神社なんだ。こういうのが、あちこちにあって、短距離移動の停留所になってる」

「空は飛ばないの?」

 家から大阪までは空を飛んだので、ちょっと意外。

「近場の移動に新幹線やら飛行機は使わないだろ」

「ああ」

「魔法や妖術にもエコがあるんだ」

 ペチ

 晴天が指を鳴らすと、とたんに熱気が四方八方から押し寄せてくる。

「ちょ……ひょっとして、妖気の膜外したぁ!?」

 大阪に来てからは、妖気の膜で暑さを遮断していたのでビックリ。

「カキ氷を食べるんだ、少し汗をかいた方が美味しさが分かる」

「あ、まあ、そうね(^_^;)」

 神社を出て数分歩いたところで大阪の暑さが身にしみてくる。

「去年の万博も暑かったけど、大阪の暑さって異常ねぇ……」

「去年の万博……ああ、グッチは昭和の高校に通ってるんだったね」

「あ、あの犬かわいそう……」

 お尻の大きなオバサンが犬を散歩させている。オバサンは日傘を差してるけど、犬はフサフサの黒い毛。それに地面のすぐ上を歩いてるから、めちゃくちゃ暑いと思う。

 ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ……

 長い舌をデロリンと垂らしてせわしなく息をついている。

 散歩させるんだったら、もっと早朝にしなきゃ……ちょっと虐待っぽい。

「ちょうどいい」

「どこが!?」

 ちょっと声が大きかったので、犬が振り返った――暑いのに大きな声出さんといてえなあ――そんな感じ。

「あの犬を救おう」

「え?」

「あの犬に冷気の膜を張ってやってごらん」

「そんな魔法使えないわよ」

 わたしの魔法は妖気の傘で雨を凌ぐとか、隣の部屋の様子を探るとか。晴天みたいに人を冷房してあげたりとかはできない。

「念ずればできる。グッチの魔法はそれぐらいのレベルにはなってる」

「そ、そう?」

「距離的にも隣の部屋を覗く程度だから、がんばってみよう……いち、に、さん、ハイ」

 晴天の掛け声に合わせて念を籠める。

 う……ううんッ……………………(;>,<;)

 ワン?

 犬が「あれ?」っていうような声を上げてキョロキョロ。

「おめでとう、無事に魔法がかかった」

「アハハ……その分、メチャクチャ暑くなってきたんですけど(;'▢')」

「これで、もうひとつカキ氷が美味くなる」


 着いたところは玉造という駅の近く、南北に長い商店街だ。


「けっこう長いんだ……」

 ほとんど真っ直ぐな商店街なんだけど、出口は遠近法の彼方。

「環状線に沿って隣の桃谷まで続いてる。昔は、砲兵工廠に通う工員たちが往きかえりに通って、今以上に繁盛していたんだ」

 はあ、どうりで『日之出通商店街』、時代を感じさせる名前だ。

「今で四代目になるってお好み焼き屋があってね、初代の頃から贔屓にしてるんだ。商店街の中ほどなんだけどね……」

「ほお……なんかレトロぉ」

 着いた店は、他とは違って屋根瓦に年代物の木製の看板に『大正屋』の屋号。

「戦前から残ってる数少ない店だ」

「ひょっとして、晴天さんが魔法で護ったとか?」

「まあな」

「やっぱ、晴天さんてすごいんだね」

「あんまり、褒められた魔法じゃない。ここに落ちるはずだった爆弾をよそに逸らしただけだからな」

「あ、ああ……」

 そう言えば、お祖母ちゃんも似たようなことを言ってたのを思い出して暖簾をくぐる。


「おや、安倍ちゃん、お久しぶりやなあ」


 うちのお祖母ちゃんよりも年季の入ったお婆さんがカウンターに出て来た。

「えらいかいらしい子連れてからにぃ、娘さんかぁ?」

「あはは、お仲間の孫だよ。ちょっと仕事を手伝ってもらって、今日は、ちょっと休みにしてるんだ」

「ああ、この暑い盛りやさかいなあ、休みもとったげんとなあ」

「ええと、メインはカキ氷なんだけど、まず、お好み焼きの大きいの……ミックスモダン一枚」

「あ、わたしも食べたいと思ってたところ!」

「はい、まいど!」

 手際よくミックスモダンの大きいのを焼いてもらって、半分ずつを二人でいただく。

 そして、本日メインのカキ氷。

 お好み焼きのあとなんでシンプルに、わたしはイチゴ、晴天はブルーハワイ。サイズはレギュラー。

「ちょっと、食べ比べてみ」

「あ、うん」

 二人で来ると食べ比べができて面白い。

「どっちがいい?」

「ううん……ブルーハワイは、ちょっとトロピカルっていうか……」

 もう一度両方を食べてみる。

「大人の甘さ? イチゴは子どもの頃を思い出すような、懐かしい甘さ、かな?」

「なるほどなあ」

 晴天が真面目な顔をして、お婆ちゃんはニコニコと笑ってる。

「実はなあ、両方とも同じ味なんだ」

「ええ、うそぉ!」

「シロップの色が違うだけ」

「え、そうなの!?」

「プラス、うちの気持ちが入ってるよぉ(^▽^)」

 お婆ちゃんが笑顔で付け加える。

「ははは、そうだね。魔法も似たようなもんさ。同じものを家で食べたら、きっと味が違う。シロップもお婆ちゃんにも秘訣があるのさ」

「いやあ、そんな褒めてもろたらぁ……」

 一瞬、お婆ちゃんの姿がブレたかと思うと……ビックリした!

 お婆ちゃんは、30くらいも若くなってしまった!



 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・116『妖退治・2 晴天のネックファン』

2024-08-03 09:33:06 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
116『妖退治・2 晴天のネックファン』   




 逃げ水ってあるでしょ。

 夏の盛りに道を歩いていると、道の向こうにユラユラと水たまりがあるように見えて、近づくと、近づいた分だけ逃げてしまう。

 あの逃げ水みたいなのが、大屋根の上にいくつも現れる。

 逃げ水と違って、近づいても逃げないで、大屋根の上をチョロチョロ動いている。中には、向こうから近づいてくるものもあるんだけど、だいたい10メートルぐらい近づくと消えてしまう。

 消えてしまうのは、わたしの魔力が退治している証拠だと安倍晴天は言う。

 晴天が妖気の膜を補強してくれているので暑くはないし、一周2.2キロの大屋根の上で見晴らしもいい。少しづつ仕上がっていくパビリオンや会場の施設を眺めているのも楽しい。

 三日ほどたって気が付いた。

 逃げ水の一つが消える寸前に人の形になったんだ。

 注意して見ていると、別の逃げ水は、はっきりと小さな男の子の姿になった後に消えていった。

 え、あれって、人なの?

 動けなくなった。

 わたしが動けば、逃げ水が消えるわけで、それは大阪に巣くう妖を退治していることだったはず?

「さすが応(こたえ)さんの孫だ、見えてしまうんだね」

 晴天が麦わら帽にグラサンのナリで横に立った。

「あれって、人じゃないの?」

「人ではない、人が残した負の感情が地中のメタンガスなんかに反応して形になったものだ」

「え、えと……」

「足下にグッチの影があるだろう」

「あ、うん」

 午前九時の影は黒々と足もとに伸び、当然だけどわたしの形をしている。

「生きてるみたいだけど、その影を生き物だと思う?」

「ううん、ただの影だよ」

「恐怖とか怒りとかの負の感情も同じ、一種の影なんだ。だから気にすることは無い」

「そ、そうなんだ(^_^;)」

 ブ~~~~~~ン

 少しだけ安心すると小さなモーターが回っているような音が耳につく。

「あ、分かってしまったか(¬_¬) ?」

 晴天がジト目でこっちを見ると、首筋に輪っかみたいなのが現れた。

「ネックファン?」

「AMATONで買ったんだ」

「へえ、安倍晴明の子孫でもAMAZONで買うんだ」

 ちょっと親近感。

「似たようなもんだけどね、吹きだす風が並みじゃないんだぞ」

「どれどれ……ヒエエエエエ!」

 指先がドライアイスに触ったみたいになって、慌てて引っ込める。

「黄泉の国の冷気だからね、並みの冷風じゃないさ」

「でも、汗かいてないみたいだけど」

「ああ、舞妓さんと同じでね、目につくところは汗をかかないようにしてるんだ。妖どもに弱みは見せられないからね」

「そ、そうなんだ(^_^;)」

「よし、グッチと喋って元気が出て来た、もうひと頑張りしてくるぞ!」

 ジュ!

 勢いをつけて行ったせいか、寸前まで晴天が居たところの水分が瞬間に蒸発した。

 まだまだ妖退治は続きそうだ。

  

☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
 

 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・115『妖退治・1 まずは説明』

2024-07-28 09:50:07 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
115『妖退治・1 まずは説明』   




 会社でいうと社長と課長ぐらいの差と一級呪物『言いくるめ絣』の着物のために、安倍晴天に言われるまま、建設途上の大阪万国博の会場に来ている。

 冷静になったら――無理に決まってる!――という気持ちしかないよ。

 わたしの魔法って、雨の日に薄い妖気の幕を張って濡れなくするとか、せいぜい壁一つ向こうの様子が探れる程度。バイトの結婚式場でやったら、とたんに巫女に化けていたスセリヒメにバレてしまったしね。

 もし、新幹線とか飛行機で大阪に行くんだったら、どこかで魔法が解けて隙を見て逃げ出したと思う。

 だけど、安倍晴天は名前の通り明るい性格で落ち込む隙を与えないし、うちの家から万博の建設現場まで一瞬で飛んでしまったしね。


「で、なにをすればいいんですか?」


 建設中の大屋根の上でボヤく。ちなみに、わたしの姿は晴天さんの魔法で人には見えないようになってるらしい。

「ここに居るだけでいいよ(^_^;)」

「え……」

 言葉にならなかったのは――このクソ暑い大屋根の上に居続けたら絶対熱中症で死んでしまう!――という絶望と――そんなことでいいのか!?――という呆れるほどの簡単さ。

「グッチは耐水魔法が使えるでしょ」

「雨に濡れない程度には」

「それを少しグレードアップ。ちちんぷ~いぷい(^▽^)」

「え、これって……あ、涼しくなってきた!」

「お昼ご飯とかは式神に持って来させるから、なにか足りないものや要望があったら言ってくれるといいよ」

「あの」

「うん?」

「どうして、ここに居るだけでいいんですか?」

「グッチ自身が結界になるからさ」

「わたしが結界!?」

「うん、時間がないから詳しい説明は後にする。とにかく夕方までは、この大屋根の上に居て。退屈したら大屋根の上を散歩するといい。一周2.2キロもあるからね、ゆっくり歩けば一時間は楽しめる。じゃあね」

 そう言うと晴天は大きくジャンプした。

 姿は地上に着くまでに消えてしまったけど、着地したあたりの空間が歪んだ。

 たぶん、待ち受けていた妖をやっつけたんだ。

 歪は建設現場のあちこちに移って、歪んでは消え、消えては、また別のところに歪みが現れる。

 いくつかの歪みは大屋根の際まで逃げてくるんだけど、結界に阻まれて弾かれていく。弾かれる瞬間に「チェ!」とか「クソ!」とかの声が聞こえる。ちょっとうるさいなあと思ったら聞こえなくなる。どうやらボリューム調整もできるみたいだ。

 まあ、これなら、なんとかやれるか。

 去年は昭和の万博、今年は令和の万博。

 令和は建設途中の妖退治だけど、これで間に合うなら、まあいいかと思う。

「でも、これってバイト料とか出るのかなあ……」

 呑気なことを思いながら、とりあえず大屋根を一周してみようかと歩き出す。

 もう少し涼しくしたいなあと思ったら目の前に26度と出て、すぐに24度に変わった。

 この魔法、この仕事が終わっても使えるといいのにと思った。

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 

 

 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・114『安倍晴天』

2024-07-24 11:18:40 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
114『安倍晴天』   




「それで、返事をしたのかい?」


 いつになく怖い顔で訊ねるお祖母ちゃんにビビった(;'∀')。

 終業式のあった20日の午後、みんなで新宿のホコ天に行ってマクド一号店でハンバーガーを食べた。みんなで記念写真を撮ったり楽しい半日だった。うっかり、あの時代にはまだ発売されてない使い捨てカメラを使ってロコに不審がられたりして、時を跨ぐのは注意の上に注意をしなくっちゃ。と、思い知る。

 そして、戻り橋を渡って令和に戻った時、後ろから声がかかった。

『ねえ、グッチ』

 完全に友だちのノリの声だった。それも橋からじゃなくて、川沿いの道からだったから、つい返事をしてしまった。

「え、わたし?」

 振り返ると、目の高さにハンバーガーが浮いている。

 ハンバーガーは、切れ込みのところがパカパカ開いて、それが喋っているように見える。

『あした、グッチの家に行くからうちに居てね。三時ごろ行くから』

「え、えと……」

『怪しい者じゃないよ、応(こたえ)さんの友だち、名刺わたしとくね』

 切れ込みが大きく開いたかと思うと、レタスとパテの間から名刺が飛び出してきて、受け取った瞬間にハンバーガーは消えてしまった。

 こいつは式だ、式神だ。それもメッセンジャーとか飛脚とか呼ばれるレベルの低い奴で、こちらが返事をしなかったら用件を伝えることさえできない。迷惑メールと同じ。返事するのはクリックするのと同じ。だから「それで、返事をしたのかい?」と、お祖母ちゃんは聞いたわけ。

 マクド一号店に行った後だったから油断していたんだね。

「安倍晴天……なんだかパチものくさいけど」

「めったなことを言うんじゃないよ。安倍晴明の五十代目、陰陽寮の司だよ」

「よく分からないんだけど」

「うちの時司家は、代々朝廷の陰陽寮に所属して時間の管理をしていたんだ」

「うちも司だし、偉くないの?」

「課長と社長ぐらいにちがう」

「あ、そうなんだ……」

「お祖母ちゃんが相手しとくから、部屋から出ちゃいけないよ」

 そう言われて、朝ごはんの後は自分の部屋に籠ったよ。

 お祖母ちゃんは、めずらしく久留米絣の装いで安倍晴天さんを待ち受ける。

 わたしは、パソコンにつないであるモニターで動画を観て時間をつぶす。麦茶とお煎餅なんかも持ち込んで、まあ、半日は退屈せずにすむだろうね。

 ドローンで世界や日本のあちこちを見せてくれるのをボーっと見ている。

 4Kの40インチ。六畳の部屋で観ているとけっこう臨場感がある。

 もうじきオリンピックのフランスから始めて、スペイン、イタリア、ポーランドの古城を空からゆっくり見てるのは雰囲気。

 エッフェル塔が出て来たからフランスかと思ったら、中国のお金持ちが作った2/3スケールのレプリカ。周囲もフランスの町っぽく作られていて、しばらく気づかない。スフィンクスとピラミッドでエジプトかと思ったらラスベガス。
 クリックすると、五重塔の向こうにおあつらえ向きの富士山。外国の人の動画で、日本人とは視点が違うから面白い。
 カメラが切り替わると見覚えのある山……ああ、宮之森の城山だ!
 去年は、みんなで花火を観に行った。おたふくでパンとか買ってプチ遠足にも行ったっけ。
 城山を巡ったカメラは、川沿いを進んで見覚えのある家並。どこだろうと思っていると……うちの家だ。
 近づいていくと、二階の窓が開いて……え、モニターを見てる後姿はわたしだ!

 振り返ると、めちゃくちゃイケメン、和服姿のオニイサンが笑顔で座っている。

「どうもぉ、安倍晴天ですぅ(^▽^)/」

 あ、やられた(;'∀')。

「応さんに会うと、言いくるめられそうで、直接おじゃましましたぁ」

「あ……え、えと……」

「応さん、久留米絣を着てるでしょう」

「あ、めったに着ないんですけどね……」

「あれはね『言いくるめ絣』と云ってね、なにを頼みに行ってもうまく言いくるめられて退散させられるという呪物なんだよ」

「え、そうなんですか!」

「応さんのは年期が入ってるからね、ボクでも太刀打ちできない」

「あ、え……それで、なんの御用なんでしょうか?」

「大阪の万博会場でガス爆発があったのを知ってる?」

 大阪万博と言われて思い浮かぶのは去年行った70年の万博。

「あ、そっちじゃなくて、いま建設中の」

「あ、ああ」

 思い出した。会場敷地の地下にメタンガスが溜まっていて、それに引火して爆発したってニュースでやっていた。

「メタンガスの仕業になってるけど、実は妖とかの仕業なんだ」

「そうなんですか!?」

「うん、それをやっつけたいんだけどね、ぜひグッチ、きみの力を借りたいんだ」

「わたしがですか!?」

「うん、というのがね……」

 晴天さんは膝を進めて、でも、穏やかに説明してくれて……けっきょくは引き受けてしまった。

「じゃ、今から大阪に飛ぶよ」

 そう言われても、戸惑いも抵抗も感じない。

 意識がボンヤリする中で気が付いた。

 晴天さんの和服も久留米絣だった……。



 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  

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