大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・かの世界の片隅へ:30『無辺街道の眠り姫・2』

2018-10-21 15:03:24 | 小説5

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かの世界の片隅へ:30     

『無辺街道の眠り姫・2』  

 

 寝た子を起こすな……。

 

 行った時は遅かった。

 ケイトがツインテールのお尻を爪先でツンツン。

 

 プギャーーー! 

 

 アニメ調の悲鳴を上げて、ツインテールは地上五メートルくらいに跳び上がった。

「な、なにやつ!? 気配を消して機嫌よく昼寝をしておるところを!」

「あんた飛べるんだあ!」

 羽もないのにホバリングしているのに感心。ケイトは見かけによらず乱暴な反応をするツインテールに、ややビビっている。

「我は主神オーディンの娘にして無辺街道を統べるブリュンヒルデなるぞ! 狼藉は許さぬぞ!」

「あ……えと……起こして悪かった。な、ケイトも謝れ」

「あ、ご、ごめん」

 自分でチョッカイ出しておきながら、ちょっとそっけない。

「わたしは剣士のミキ、こっちは妹分のケイト。なんだかメッチャクチャ可愛いお人形が横になっていたんで、ついケイトがツンツンしたんだよ。なにせ田舎剣士のことなんで、キチンとした礼も知らぬ。キミの可愛さゆえの事、この通りだ」

 ケイトの頭を押さえて、いっしょに詫びる。

「そ、そうか。我の稚けなき可愛さのあまりであったか。それならば無下に責めるのも無体というものであろう……」

 ツインテールは、わずかに機嫌を直して地上に下りてきた。

「む、頭が高い……蹲踞せよ」

「そんきょ?」

「畏まって、頭を下げろってことよ」

 異世界ものアニメでやっているように、片膝ついて畏まる……が、それでも、こちらが少し高い。

「むむ……」

 ツインテールはキョロキョロすると、傍らの人の頭ほどの意思を見つけて、その上に立った。

「近う寄れ」

 四五歳の子どもがツッパラかっているのはなんともおかしいんだけど、こじらせたくないのと、ここまでの無辺街道が退屈だったので、合わせてみることにする。

「して、そなたたちは、何ゆえ物々しく武装して我が無辺街道を通るのじゃ?」

「話せば長いことになりますが、我らは並行世界からの旅人でございます。奥つ城の名も知れぬ魔物を討伐して、我らの世界の安寧をはかろうと旅をしております」

「そうか、そなたたちも崇高なる使命を帯びておる勇者なのだな。ここで出会うたのもオーディンの賜物であろう。もう日も傾きはじめる。ここらで一夜のキャンプにするが良いであろう」

「はあ、しかし、歩き始めて、まだ五時間ほど。今少し距離を稼ぎとうございますので……」

 すると、ツインテールが空を指さす。つられて見上げると、俄かに空は夕闇の茜色に染まった。

「あ、いつの間に?」

「慣れぬ旅に、時間の感覚も狂ったのであろう。ゆるりと休め」

 ケイトは素直に茜の空を信じたが、わたしは「御免」とことわって立ち上がる。すると、茜の空は、ここを中心とする半径百メートルほどで、その先は、まだまだ昼下がりの日差しだ。

「こ、ここの夕暮れはまばらにやってくるのだ!」

「ならば、日差しを拾いながら進んでまいります。行くぞ、ケイト」

「う、うん」

 よっこら立ち上がって回れ右して歩き出すと、ブーーンと音をさせてツインテールが回り込んできた。

「な、ならば、わたしも連れていけ!」

「いや、二人で行きます」

「この異世界、ブリュンヒルデを供とすれば無敵であるぞ!奥つ城まで顔パス同然じゃ!」

「まっとうに行きます」

「つれないことを申すな」

「けっこうです」

「そこをなんとか」

「いささかウザったい」

「ウザったいくらいが旅の無聊の慰めにもなろうというものじゃ、なあ、どうじゃ、どうじゃ」

「あのね……」

「プギャーー! なにをいたす!?」

 ツインテールを掴むと、傍らの灌木の枝にチョウチョ結びにしてやった。こいつは地上にいる限りは大したことは無いと見きったからだ。

「さ、行くぞ」

「いいの、ほっといて?」

「いいわけないだろ! ほどけ! 連れてけ! 連れて行けよ!」

「テル、ちょっと可哀そう」

「仏心を出すな」

「連れてけ! 連れて行ってよ! 誰かに連れて行ってもらわなきゃ、オーディーンの戒めで無辺街道の外には出れないんだよー!」

「なんだか、訳ありっぽいよ」

「かまうな」

「プギャー! かまえ! かまえよ!」

 かまってらんないので、ケイトの手を引いてズンズン進んで半ば駆けるようにして街道まで戻った。

 プギャー! プギャー!

 数百メートル離れてもツインテールの叫び声が付いてくる。戒めが解けるわけもなく、どうやら、街道に居る限りは耳から離れないようだ。

「これは、たまらん!」

 もう、ガンガンと耳鳴りのようになってきて、たまらず戒めの灌木まで戻った。

 涎と涙でグチャグチャになった姿は、まるで、こちらが幼児虐待をしたような気分にさせられて、しかたなく解いてやる。

「きっと戻ってきてくれると思った! じゃ、これからはよろしくね!」

「よろしくするかどうかは、お前次第だ」

「まあ、役に立つから、な!」

「行くぞ」

「合点! それから、わたしのことはブリュンヒルデって呼んでね、ブリュンヒルデ!」

「ブリュンヒルデ……びみょうに長いかも」

 ケイトが困った顔をする。

「大きくなったら呼んでやる。それまではブリだ」

「ブ、ブリ……」

「行くぞ、ブリ!」

 

 三人の旅になって、無辺街道は、まだ道半ばであった……。

 

主な登場人物

  寺井光子  二年生 今度の世界では小早川照姫

  二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される。回避しようとすれば光子の命が無い。

  中臣美空  三年生、セミロングで『かの世部』部長

  志村時子  三年生、ポニテの『かの世部』副部長 

  小山内健人 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトと変えられる

 ブリ    ブリュンヒルデ 無辺街道でいっしょになった主神オーディーンの娘

 

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高校ライトノベル・かの世界の片隅へ:29『無辺街道の眠り姫・1』

2018-10-18 13:39:54 | 小説5

 

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かの世界の片隅へ:29     

『無辺街道の眠り姫・1』  

 

 

 無辺街道は単調だ。

 

 シリンダーをやっつけた後のしばらくは思わなかった。

 小さな起伏はあるし、街道の両側は草むらやら灌木林やらの小さな変化があって、ちょっとした遠足気分。

 途中、もう一度だけ空間が歪んでシリンダーが現れたけど、こちらも慣れてきて一撃で倒せるようになると姿を見せなくなった。

「こんど現れたら、あたしがやっつけるのに!」

 言葉遣いまで女子化したケイトがぼやく。

 ただの強がりだとは分かっているんだけど、そうだねと合わせておく。

 

 そうして五時間も歩いていると、慣れてきたというよりは飽きてきた。

 

 景色は変わらないし、クリーチャーはおろか、虫の一匹もあらわれない。

「尻取りでもしようか?」

 小学生でも言わないような暇つぶしを提案すると「うん、やろう」と同意してきた。

 とにかく、このままでは歩きながら寝てしまいそうなくらい退屈だったのだ。

 

 ケイト トンマ まぬけ けだもの のろま まぬけ……しまった!

 

 ボキャ貧のケイトは簡単に玉砕してしまうが、それが刺激になって退屈退治という所期の目的は果たせている。

「あれ? 降参?」

 メンマとか按摩とか「マ」で終わる言葉を連発しているとダンマリになって来た。

「ちがう……寝息が聞こえる」

「寝息?」

 立ち止まってみるが、草木がかすかにそよぐ以外の音は聞こえない。

「こっち」

 ケイトは手にした弓の先で街道脇の茂みを指した。

「どこいくのよ?」

 確信があるのか、ケイトはズンズン茂みの中を進んでいく。

「そんな滅法に進んだら、戻れなくなるわよ」

「すぐそこ」

 戻る道を気するわたしに、ケイトは確信的に指をさした。

 

「「あ……!?」」

 

 そこには、四五歳のツインテールの女の子が体を丸めて眠っていたのだった……。

 

 主な登場人物

  寺井光子  二年生 今度の世界では小早川照姫

  二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される。回避しようとすれば光子の命が無い。

  中臣美空  三年生、セミロングで『かの世部』部長

  志村時子  三年生、ポニテの『かの世部』副部長 

  小山内健人 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトと変えられる

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高校ライトノベル・かの世界の片隅へ:28『無辺街道のシリンダー』

2018-10-15 14:24:26 | 小説5

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かの世界の片隅へ:28     

『無辺街道のシリンダー』  

 

 ペギーの店を出てしばらく行くと、すっぽりと地面が落ち込んでいた。

 

 例えば、本郷あたりから東に進んで日暮里当たり。

 山の手の端っこから下町を眺めたようなところに出てきた。

 と言っても眼下に下町の賑わいがあるわけではない。ザックリと地理的に台地から平地への境だと言うことだ。

「無辺街道と言うらしいわね」

 ウィンドウ表示された名前を言うと、ケイトは頬を強張らせながら頷いた。

 女子化したことで気弱になったのか、気弱さの為に女子化したのか、最初の意気込みはどこへやらだ。

 まあ中二病の空元気なんて金魚すくいのポイ(金魚をすくう紙張りのすくい網)に貼られた紙みたいに脆弱なものなんだけど。

 

 無辺街道は半ば以上が風化したり埋もれてしまった黄褐色の石を敷き詰めたもので、所によっては数十メートル数百メートルにわたって途切れ途切れになっているのが分かる。

 途切れた先に道が続いているには、いわば日暮里側の高いところから観ているからであって、うっかりしていたら見失う予感がする。

「まんいち見失ったら、お日様の昇る方向を目指したらいいみたい。憶えとくのよ」

 念を押すと、ケイトがチュニックの裾を掴んだ。

 

 二度敷石が消えてチュニックの裾が五センチは伸びたころに異変が起こった。

 

「ウ、気持ちわる」

 ケイトが吐き捨てると同時に、ギュィーンと音がして目の前の風景が渦巻状に捻じれた。

 ほら、RPGとかでモンスターとかクリーチャーとかが出現するときのエフェクト!

 すると、目の前にお尻が現れた!

 お尻と言うのは印象で、くわしく描写すると、直径一メートルほどのプニプニの球体で、球体の下の方が窪みになっていてお尻に似ているのだ。そのお尻がプヨプヨと空中に浮かんで威嚇してくる。

「や、やっつける!」

 口だけは勇ましいケイトは、チュニックの裾を掴んだまま後ろに回る。

「たぶんチュートリアルよ。ウィンド開いて弱点とか調べて」

「う、うん……だめ、ウィンドがテルと重なって見えない」

「離れりゃいいんでしょうが!」

「そ、そだね」

 やっと裾を離したので、わたしは横っ飛びに跳んでソードを抜いた。

「どう、なにか分かった!?」

 横目で見ると、ケイトはウィンドを開いたままガタガタと震えているばかりだ。

「チ、使えねー」

 仕方なく自分でウィンドを開く。

 

 シリンダー: 無属性クリーチャー HP100 突進攻撃を仕掛けてくる……

 

 そこまで読んだところで、ソードを振りかぶって斬撃をくわえる!

「テーーー!」

 一瞬シリンダーは避けようとするが、プヨプヨのリズムが激しい割には鈍重で、わたしのソードは水ようかんを切ったほどの抵抗があって、シュッと向こう側に抜けた。

 シリーーー!

 蛇を思わせる悲鳴を上げて、斜め上に赤い傷跡が付いた。

 シリンダーの上にはパワーゲージが出ていて、それが一撃を加えただけで半分近く減ってしまった。

 

 楽勝だな。

 

 そう思ってジャンプすると空中二回転で奴の後ろにまわって第二撃を食らわせる。

 さすがに躱されたが、それでも切っ先がニ十センチほどに切り裂いて、やつのゲージは残り三割ほどになった。

「ケイト、そこからでいいから矢を射かけて!」

「わ、わかった💦」

 返事は良いが、つがえた矢は何度やっても構えた弓の先からポロリと落ちる。

 シリンダーがニヤリと笑ったような気がした。

 まずい!

 シリンダーとわたしの跳躍は同時だった。

「セイ!」

 跳躍した瞬間のシリンダーを両断した。シリー! 一声吠えたかと思うと、シリンダーは幾百のポリゴンに分裂して消えてしまった。

 

「ど、どうよ、気合いだけでやっつけてやった!」

「バカ、わたしが仕留めてなきゃ、あんたがやられてたわよ!」

 

 美少女の見かけの割には役立たずのケイトを一発張り倒して無辺街道の旅を続ける二人だった。

 

☆ 主な登場人物

  寺井光子  二年生 今度の世界では小早川照姫

  二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される。回避しようとすれば光子の命が無い。

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高校ライトノベル・かの世界の片隅へ:27『ペギーの店・2』

2018-10-10 15:39:45 | 小説5

かの世界の片隅へ:27     

『ペギーの店・2』  

 

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 テルキは剣士、ケイトは遠距離攻撃の弓兵がいいでしょ。

 

 エフェクトが満開の花火のようになって、それがチラチラと煌めきながら消えていくまでの十秒ほどで、ペギーさんは属性と装備を決めてしまった。

「あ、えと、装備はともかく、どうしてIDネームまで知ってるんですか?」

「ビミョーに間違えてるし……」

「そのナリでケントはないでしょ、女の子らしくケイト。装備は、これよ……」

 ペギーさんが指を振ると、目の前にトルソーに着せた装備一式が現れた。

 

 わたしのは、チュニックに皮鎧。ベルトにはダガーがぶら下がって、ソ-ドはレイピアのように細身だけど実用本位で、鞘も柄も鉄地剥き出しの鈍色だ。ミニのアーマースカートが付いていなければ、男性用と言われても分からない。

 ケント、いやケイトのは、チュニックに胴着。ベルトにダガーは同じだけど、斜めに掛けた短弓は心もち太めだ。わたしのソード同様実用本位で木地のままだ。

 

「お察しの通りの実用本位だけど、初期装備としては強力なものよ。レベル10までは十分だと思う」

「えと、ちょっと贅沢すぎる気がしないでもないんですけど」

「うん、レベル8の装備とスペック的には変わらないんだけどね、今日は、あんたたちで仕舞みたいだし……ま、サービスだと思ってくれていいわよ」

「「ありがとうございます」」

「実は、今日のタームは女子限定なんだよ。そんなナリはしてるけど男子がやってくるのには意味があると思うのよ」

「これは、クラスの女子に……」

「言われたんだろうけど、その女子たちも気づいていない力が働いているように思うんだよ。一応の属性は決めてあげたけど、フラグの立ち方次第では変わるかもしれない。ま、峠の万屋(よろずや)の素人判断だけど、ペギーさんの参考意見ってことで。そうだ、サービスで金の針を一本ずつ付けてあげる」

 ダガーの横に鞘に入った金の糸が現れた。

「金の糸ということは、石化魔法を使うモンスターが現れるんですか!?」

 石化魔法は、制限時間以内に解かないと、直ぐに粉々の砂に劣化してゲームオーバーになってしまう。

「ああ、まあ、使い方は色々さ。あけすけに言えば売れ残りなんだけどね、ケイトの女子化と同じく、なんか意味のあることじゃないかと……思ってみたい峠の万屋さ。ま、気を付けて行っといで」

「「はい、ありがとうございます」」

 

 ケイトと揃って頭を下げて、上げた時には店ごと消えてしまっていた。

 

「あ……」

「えと……」

「お代、まだ払ってなかったよね」

「帰りに通りかかったら、払おうか」

「だね、じゃ、行くか!」

 

 路傍の道標には――たちまち海岸へ10マイル――の文字が浮かび上がっていた。

 

☆ 主な登場人物

  寺井光子  二年生 今度の世界では小早川照姫

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  小山内健人 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトと変えられる

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高校ライトノベル・かの世界の片隅へ:26『ペギーの店・1』

2018-10-06 14:04:00 | 小説5

かの世界の片隅へ:26     

『ペギーの店・1』  

 

 しばらく行くと一本道は分岐していた。

 

 いずれも畦道ほどのものでしかないけど、左側の方は、少し進んだところに宝箱がある。

「あ、宝箱!」

 健人は跳び上がって宝箱を開けようとした。

「ちょっと待って」

「え、なんでえ?」

「序盤でミミックってことは無いだろうけど、大事な選択肢だと思う」

 

 ウィンドウを開いて調べてみる。

 

――開ける前に難易度を選択すること、選択肢はA・イージー B・レギュラー C・ハード D・オニ ――

「どれにする?」

「むろん、イージー。サクサク進みたいからね♪」

 わたしの意見も聞かずにA・イージーをクリックする健人。ま、いいけど。

 

 パッカーーーン

 

 のどかなエフェクトと共に宝箱が開く。

――メンバー全員にポーション五つずつ――

 レジのような音がして、ウィンドウのアイテム欄に五個のポーションが加えられた。

 

 HP:200 MP:100 属性:?

 持ち物:ポーション・10 マップ:1 所持金:1000ギル

 装備:始りの制服

 

「なんかショボイ」

「かわりに何かあるよ、きっと……」

 首を巡らせると、いままで来た道が消えていて、右側の道はいばらの道に変わってしまって、左側の道は、分かりやすく虹がかかっていたりする。

 

 左の道をしばらく行くと、造りは中世ヨーロッパの田舎風の小屋が見えてきた。

 

 小屋ではあるんだけど、屋根やら軒やら脇やらに「激安の殿堂!」「ビギナーの味方!」「なんでもあります!」「毎日特売!」などドギツイ看板がネオンサインにキラキラしい。

「どうやら、ここで初期装備を整えるみたいね」

「でも、肝心の店の名前が書いてない」

 女装が板についてきた健人が可愛く口を尖らせる。

 すると、看板の全てが『ペギーの店』という店名を表示して、矢印が入り口を示した。

 

 ジャ~ン! ようこそペギーの店に!

 

 ドアをくぐると、店内いっぱいに声が響いた。

 声がするからには、店のオーナーとかスタッフが居るんだろうけど、わたしも健人も店内の広さと品数の多さにぶったまげた!

 屋根も含めて四メートルほどしかないはずが、まるで東京ビッグサイトほどの空間になっていて、雑多なグッズが本来の意味でのアマゾンみたく湧き出している。

 

 ボワ~ン……☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆!!

 

「ルーキーの味方! ペギーが初期装備の全てを見立ててさしあげま~す(^^♪」

 

 カーネルサンダースをオバサンにしたようなのが魔法使い出現みたいなエフェクトとともに現れた。

 

 

 

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高校ライトノベル・かの世界の片隅へ:25『風の向くまま』

2018-10-01 15:12:58 | 小説5

かの世界の片隅へ:25     

『風の向くまま』  

 

 わたしには、あるべきものは有って、有ってはならないものは無かった。

 

「……健人だけがカミングアウトしたんだ」

「カ、カミングアウト言うなあ!」

 腕をブンブン振って抗議するけども、エキサイトすればするほど黄色い声になるので何ともおかしい。

「ちょ、慣れるのに時間かかるから、興奮しないでくれる……ハ、ハハハ、ハーーおっかしいよ~」

「おかしくなんかない……」

「さて……」

 右手を上げてウィンドウを開いて、ステータスを確認する。

 

 HP:200 MP:100 属性:?

 持ち物:ポーション・5 マップ:1 所持金:1000ギル

 装備:始りの制服

 

 ポーションがエントリープライズのようだ。使ってみなければ分からないが、ポーションの効き目は250くらいのものだろう。

 いろいろやったRPGの初期回復アイテムの効果がそれくらいだ。

 逆に言えば、ポーションを一回まるまる使っても最大で199しか回復しない(HPは最低でも1は残していないと死亡判定になってしまい、直近のセーブポイントまで戻されてしまう)ので、200というHPが、いかにショボイかが分かる。

 属性はAPを稼いでコマを進めなければ決められないようだ。

 装備は始りの制服で、たぶん、いま身に付けている学校の制服のことなんだろう。

 攻撃用の武器も防御用の盾やシールドも無いので、システムは分からないが、早く獲得しておいた方がいいだろう。

 マップは『始りの草原』とある。たぶん、今いる原っぱがそうなんだろう。後にも先にも『始りの草原』しかないのは、冒険が進むにつれてマップが増えていく仕掛けになっているんだろう。

「どこに行ったらいいか分からないよ……」

 同じようにウィンドウを開いた健人が、早くも途方に暮れている。

「ヘタレるの早すぎ!」

「わ、悪かったよ」

「とにかく周囲を観察してヒントを探そ……始まったばかりの出発点なんだから、そんなに難しいはずはないよ」

「う、うん……」

 とりあえず立ち上がる。

 当てがあるわけじゃないけど、座ったままだと、気持ちが前向きにならない。

 ノロノロと立ち上がった健人は女の子らしく、制服のあちこちに着いた乾草の欠片をハタハタと掃う。

 乾草の欠片は、わずかに健人の右後ろに落ちていく。

 

 そうか!

 

 わたしは、一掴みの乾草を揉みしだいて粉々にすると「えい!」っと頭上に投げた。

 乾草の粉は欠片よりもハッキリと右後ろに流れていく。

「わかった!」

「え?」

「風の向くままよ!」

 

 草原のあちこちに乾草の山の崩れがある。たぶん、わたし達より先に来た者たちが着地した跡だろう。

 その崩れで乾草を揉みしだいては「えい!」と投げ上げ、風の向きを見失わないようにして進んでいった。

 そうやって百回近く繰り返して、やっと草原の中に伸びる一本の道を発見したのだった……。

 

 

☆ 主な登場人物

  寺井光子  二年生 今度の世界では小早川照姫

  二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される。回避しようとすれば光子の命が無い。

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  小山内健人 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ

 

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高校ライトノベル・かの世界の片隅へ:24『あるはずのモノ ないはずのモノ』

2018-09-28 14:27:14 | 小説5

かの世界の片隅へ:24     

『あるはずのモノ ないはずのモノ』  

 

 

 バフッ! グニュ!

 

 二つの衝撃が同時にやって来た。

 うつ伏せに落ちた前の方がバフッ! 背中側がグニュ!

 一瞬わけがわからないが、コンマ五秒くらいで爽やかな香ばしさが鼻孔をくすぐり、露出した手足にチクチクあたるものがあって、乾草の上に落ちたと分かる。

 背中側のグニュ! 重さがあるので健人が重なっているんだと見当はつくんだけど、感触が変だ。

「ちょっと、健人……」

 反応がない、落下のショックで気絶しているようだ。

 しかし、下敷きにされた方がしっかりしていて、わたしをクッションにした健人が気絶しているのは面白くない。

「ちょっと、どいて!」

 払いのけるようにして起き上がると、意識のない健人はサワサワサワと軽やかな音をさせて乾草の山から転がり落ちてしまった。

「もう、だらしのない……ウワーー!」

 乾草の頼りなさにバランスを崩し、フワフワと転げ、今度はわたしが健人の上に重なった。

 

 ムニュ

 

 不可抗力で健人の胸を掴んでしまった……しまったんだけど、この感触?

 上体を起こして、あいかわらず気絶中の……健人?

 さっきみたいにセーラーの上が捲れ上がってるんだけど、そこから半分顔を出した膨らみはブラの分?

 こいつ、イミテーションのオッパイまで付けてんのか?

 まじまじ見ると、ブラからはみ出ている部分は明らかにシリコンなんかの偽物じゃない。

「ちょ、ちょっと、健人!」

「ウ、ウ~ン」

「目、覚めた?」

「え、あ、テル……」

 変だ。

「健人、大丈夫?」

「う、うん、高いとこ苦手だから、ちょっと気が遠くなってしまって……」

「その声……」

「ん?」

「まるで女の子じゃないの!」

「え、ええ?」

 びっくりして、わたしの顔を見る健人。

 その顔の造作は、幼いころから馴染んだ健人に間違いないんだけど、顎や首筋のラインが微妙に違う。

「胸触ってみ……ばか! わたしのじゃない! 自分のだ、自分の!」

「え、あ……あ……ああ!?」

 

 自分の胸を掴んで驚愕した健人は、次の瞬間、股間に手を伸ばして泣きそうな顔になる。

 

「ど、どうしよう……無いはずのものがあって、有るはずのものが無くなってる! 無くなってるよ~!」

「しっかりしろ! わたしが守ってやるが、うろたえているだけじゃ何もできないぞ!」

「テル……なんだか男っぽい」

「え、ええ?」

 

 わたしは、おそるおそる胸と股間に手をやった……。

 

 

 

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高校ライトノベル・かの世界の片隅へ:23『掃除機のスイッチが入ったみたいに』

2018-09-25 12:43:45 | 小説5

かの世界の片隅へ:23     

『掃除機のスイッチが入ったみたいに』  

 

 

 ひょっとしたらと思った。

 

 健人が――屋上! 屋上!――と言うもんだから、わたしの意識は屋上を排除していた。

 昔っからそうなんだけど、意識の底で、健人はヘタレで、言うことやること真逆のスカタンだと決めつけていたのかも。

 

 もし屋上に鍵穴があったら、生まれて初めてだけど、健人に頭を下げよう。

 

 思ったんだけど……屋上階段室のドアの鍵穴は合っていなかった。

「くそ!」

 落胆……でも、鍵は開いていた。

「開いてる!」

 健人は屋上に飛び出したけれど、そこが異世界であるはずもなかった。

 午前九時前の屋上は、この件がなければ昼寝をしたいくらいの穏やかさだ。

「へたり込むのは早い。屋上は広いんだ、もっと探そう!」

「ムギュッ!」

 へたりこんだ健人を蹴ると、あっけなくカエルみたいにのびる。勢いでセーラーの上が捲れ上がる。

「キモ、あんたブラまでしてるの!?」

「うっさい! 見るな!」

 真っ赤になって服装を直す様子から、先行した六人の女子から強制されたんだろうと分かる。

「行くよ!」    

 健人の手を引っ張って、屋上の縁に沿って調べる。

 屋上の縁は金網になっていて、その金網はコンクリートの縁から一メートルほど内側に設えられている。

 金網に沿って走ってみるが鍵穴がありそうなところは見当たらない。

 やっぱハズレ……落胆しかけて最後のコーナーを曲がったところで見えた!

 

 十メートルほど先、コンクリートの縁にドアが立っている。

 

 ドアだけが立っているんだから、開けたとしても、屋上の高さの空中なんだけど、とにかく発見!

「ドアが逃げてく」

 金網越しの前まで行くと、さっきよりもドアが逃げていて、ドアとコンクリの縁の間には五ミリほどの隙間ができている。

「鍵穴は……」

 鍵を持った手を金網から突き出して鍵穴に迫る……あと一歩と言うところで届かない。

 でも、鍵穴にはピッタリだ!

「金網の外に出よう!」

「で、でも……」

 健人は高所恐怖症だ。

「言ってる場合か!」

 

 金網は一か所だけ開閉できるところがある。そこは……階段室を挟んだ向こう側だ!

 

「こっち!」

 金網の出入り口が閉まっていたら万事休す!

 よかった、開いている!

 腰の引けた健人を引っ張ってコンクリの縁に出る。

 

 !!

 

 金網の内側と外側では、まるで感じが違う。

 足許からお尻に掛けて、ゾゾッと寒気が押し寄せる。健人は、もう震えている。

「金網に掴まりながら付いといで!」

 励ましながら、幅一メートル足らずの縁を蟹さん歩き。

 肝心のドアは階段室の向こう側。

 スパイダーマンでもない限り、階段室の外壁を伝うことはできないので、二百メートル以上の外周を可及的速やかに進む。

「ま、間に合わない……」

「やってみなきゃ分かんない!」

 吹き上げてくる風に服装は乱れまくるが、かまってはいられない。

「走るよ、掴まりながらでいいから!」

「え、ええ!?」

 ビビる健人の手をとり、反対の手で金網に掴まりながら走る!

「イッセーのーで!」

 

 歩くより、ちょっとだけ速い駆け足!

 二分ほどかけ、縁の角を三つ曲がったときには、ドアと縁の隙間は五十センチほどになっていた。

「なんとか行ける!」

 目いっぱい腕を伸ばして鍵を差し込む……回す。

 

 カチャリ!

 

「開いた!」

 ドアを開けると、向こうは草原のようで、草がソヨソヨと風になびいている。

「二人一ぺんには無理っぽい、わたしが先に行くから、付いてくんのよ!」

「う、うん……」

 下手をしたら、わたしだけが飛んで、健人は来ないことも思ったけど、考えている暇はない。

 ドアはジリジリと離れつつあるのだ。

「行くよ!」

 その時……ドアの向こう、まるで掃除機のスイッチが入ったみたいに二人は吸い込まれてしまった!

 

☆ 主な登場人物

  寺井光子  二年生 今度の世界では小早川照姫

  二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される。回避しようとすれば光子の命が無い。

  中臣美空  三年生、セミロングで『かの世部』部長

  志村時子  三年生、ポニテの『かの世部』副部長 

  小山内健人 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ

 

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高校ライトノベル・かの世界の片隅へ:22『8時58分』

2018-09-22 14:55:49 | 小説5

かの世界の片隅へ:22     

『8時58分』  

 

 もう屋上から飛ぶしかないかも……

 

 学校中を捜してもピッタリの鍵穴は見つからず、昇降口の階段でヘタってしまう。

 ヘタってしまうと、さっきまでの勢いはどこかに行ってしまって、わたしの呟きにギクッとする健人。

「もう飛ぶ気も無くなったんでしょ?」

「ん、んなことねー」

 熱しやすく冷めやすい健人、これ以上言うと、このまま家に帰って布団をかぶってしまいそう。

 まあ、互いに呼吸が整ってからだと口をつぐむ。

 

 無人の昇降口に、せわしない二人のブレスだけが際立つ。

 

 ダイブは、三年に一度、学校で七人だけが許される。

 

 この世界は、わたしが寺井光子として存在していた世界に酷似しているが、根本のところが違う。

 この世界は対応する異世界と対になっていて、異世界が混乱すると、その影響がモロに出る。

 想定外の事故や災害は、異世界の混乱に原因がある。

 想定外の事故や災害の数カ月後に、選ばれた学校に白羽の矢が立つ。

 矢が立つと言っても、本物の矢が飛んでくるわけではない。

 生徒のスマホや携帯にメールの形でやってくる。選ばれた生徒はメールに指示された相手に応諾を伝えたうえで創立記念の日にダイブする。

 応諾を伝える相手は、年によって変わる。

 校長である場合、特定の生徒である場合、先生の誰かである場合もあれば、特定のクラスの掃除用具入れである場合もあり、トイレの便器であったり校庭の桜の木であったりもする。

 ダイブし、異世界で成果を上げれば、成果の出来に従って、こちらの世界の災いが軽減される。

 そして成果を上げたダイバーも、成果に応じた報酬を受けられる……とされている。

 

 されている……というのは、こちらに戻った時には、なにが報酬であったかを忘れるからだ。

 

 健人はスマホのメールに気づくのが遅れた。

――有効期限が切れました。ダイブは六人で行われますが、どうしても参加したい場合は六人の同意を得るか屋上から命を懸けてダイブするか、いずれかの方法でも可能です。その場合でも、リミットは創立記念日の午前九時までとします。あなたの報告相手は幼なじみの小早川照姫です――

 健人は六人に頼み込んだが、ダイブの朝、女装して来ることを条件にされてしまったのだ。

 そして、この昇降口に至っている。

 

「飛び降りなくていいから、いちど屋上に行ってみよう」

 

 ここで諦めては、もともとズボラでヘタレの健人だ、ますますダメになってしまう。

「行くよ!」

 ゲシュタルト崩壊しかけている健人の襟首を掴まえて屋上への階段を駆け上がる!

 チラ見した時計は8時58分を指していた。

 

 

☆ 主な登場人物

 

  寺井光子  二年生 今度の世界では小早川照姫

 

  二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される。回避しようとすれば光子の命が無い。

 

  中臣美空  三年生、セミロングで『かの世部』部長

 

  志村時子  三年生、ポニテの『かの世部』副部長 

 

  小山内健人 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ

 

 

 

 

 

 

 

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高校ライトノベル・かの世界の片隅へ:21『鍵穴はどこだ!?』

2018-09-18 13:22:37 | 小説5

かの世界の片隅へ:21     

『鍵穴はどこだ!?』  

 

 

 これが……!?        「鍵イラスト フ...」の画像検索結果

 

 中坊らしい好奇心を剥き出しにして、わたしの手の平を見つめる健人。

 そのまま手洗いソープのCMに使えそうなほどきれいで整った手に感心したのでもなく、わたしの手相に運命の出会いを見たのでもない。

 わたしの手の平に載っている、なんの変哲もない真鍮製の鍵に感動しているのだ。

 いや、多少は珍しいかも。

 いまどき真鍮製の鍵なんて、昭和、それもアルミサッシとか無い時代の木造二階建ての校舎の窓とか、住宅の玄関とか、木製ロッカーとかでしかお目に掛かれない。

 お目に掛かれないと言っても現物を見たことは無い。アニメとか昔の映画とかで観る感じ。

 例えて言うなら、サザエさんちの玄関の鍵という感じ。

 実用本位に作られていて、鍵本体というか鍵穴に入ってシリンダーのメス鍵を回す部分はシンプルなEの形をしている。

 Eの背中の部分は長さ五センチほどの心中の柄になっていて、親指と人差し指で握るところは……スライムのシルエットの形。スライムだったら口の当たるところに直径三ミリほどの穴が開いていて、ひもを付けたりフックに掛けておいたりするようになっている。その先っぽのEからスライムの部分まで装飾らしいところは一つもない。

 

 このダイブの鍵を、わたしが持っていることには説明がいるんだけど、健人は、その余裕をくれないだろう。

 

「これで、どこを開けるんだ?」

「しっかりしてよ、異世界の扉に決まってるでしょうが」

「でも、この鍵に合う扉って……」

 健人の戸惑いはもっともだ、実用品として、こんな鍵は見たこともないだろうから。

「言い伝えでは、身の回りというか、周辺の鍵穴の一つが、これに合うように変身してるって」

「ということは、学校の中だな!」

「たぶん!」

 

 教室を飛び出して学校中の鍵穴に当たってみた。

 ところが、学校の鍵穴は、下のイラストの感じ。そっけないマイナスかイナヅマ型だ

 

           「鍵穴イラスト ...」の画像検索結果

 真鍮の鍵の鍵穴はこけし型と言うか前方後円墳型だ。

           「鍵穴イラスト ...」の画像検索結果

 ニ十分ほどかかって学校中の鍵穴にあたってみたが、これに合う鍵穴は一つもなかった……。

 

 

 

☆ 主な登場人物

  寺井光子  二年生 今度の世界では小早川照姫

  二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される

  中臣美空  三年生、セミロングで『かの世部』部長

  志村時子  三年生、ポニテの『かの世部』副部長 

 

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高校ライトノベル・かの世界の片隅へ:20『ダイブの鍵』

2018-09-14 14:16:59 | 小説5

かの世界の片隅へ:20     

『ダイブの鍵』  

 

 

 ドッシーーーーーン!!

 

 いまどきアニメでも使わないような擬音が鳴り響いてぶつかった。

 アイターーー!!

 これまたガルパンの知波単学園の戦車隊長が吶喊直後に撃破された時のような悲鳴が上がった。

「ごめんなさい、急いでたもんだから」

 スカートを掃いながら立ち上がって絶句した。

「け、健人! なに女装してんのよ!?」

「イ、イテーなあ……くそ、食べかけのトーストがあああああ、邪魔すんなよテル!」

 砂まみれのトーストの半分を投げ捨て、ズレたボブのウィッグを直しながら健人は行ってしまった。

「なによ、意地も誇りもないってかあ!」

 ドラゴンボールの敵役みたく仁王立ちしたわたしは小早川照姫(こばやかわてるき)と名乗るようだ。

 前回は三十年前の世界にデフォルトの自分で飛び込んだんだけど、今回は寺井光子に上書きされた人格だ。

 砂ぼこりを掃って、健人の後を追うころには、テル、小早川照姫の人格に成りきっていた。

 視界の左上はインターフェイスのようで。レベル・3 経験値・5 HP・55 MP・55と表示されている。

 

 他にもいろいろ表示があるが、先を急がなきゃならない。

 

 健人はつまらない賭けをしやがった。

 マヤのグループとどっちが先にダイブするかで賭けたんだ。

 マヤのグループは揃って成績優秀の上、スポーツも、それぞれ運動部の部長が務まるくらいの奴ばっかり。

 タイマンならまだしも、一対七、あっさり負けを認めれば恥をかくだけで済んだのに、マヤの挑発に乗ってしまいやがった。

 

 これ着て八時までに登校したら一緒にダイブさせてやるわよ。

 

 そう言って投げ出された女子の制服。

 恥ずかしい真似はやらせない! たとえ遅れてダイブすることになっても見っともない真似はさせない!

――馬鹿な真似はしねーよ――

 メールの返事に安心はしたけど、馬鹿な真似の意味がわたしとは違うんじゃないか?

 予感がして寄ってみたら、このざまだ。

 

 馬鹿はよせ……

 

 祈りながらの学校へ。

 昇降口を二階へ上がってすぐの教室に入ると、誰も居ない教室の真ん中に健人は立ちつくしていた。

「なんちゅー格好なのよ」

「るっせー」

 汗みずくの崩れた女装が痛々しいを通り越して不潔で惨めったらしい。

「テルとぶつかってなきゃ……」

「人のせいにすんな」

「あいつらだけじゃ勝てっこないし、俺が一人ダイブしたってどれほどのこともできゃしねーよ」

「ただのゲームに、なんでそこまでムキになんのよ」

「テルには分かんねーよ」

 そう言うと、健人は背中を見せて後ろのドアから出て行こうとした。

 あーーーイライラする奴だ!

「どこにいくのよ」

「屋上からダイブする。地上スレスレで飛べば追いつくかもしれない」

「99パーセント死ぬよ」

「俺なら行ける」

「止してよ、創立記念日の学校で女装のまま墜落死するなんて!」

「…………!」

 

 キーーーンコーーーンカーーーンコーーーン……キーーーンコーーーンカーーーンコーーーン……

 

 健人が抗弁しようと息を吸ったところでチャイムが鳴った。

 健人の目からホロホロと涙の粒が落ちていく。

 どうやらチャイムがタイムリミットの合図であったようだ。

 

 分かった、わたしが付いて行ってやるから。

 

 無意識にポケットから出したのは……ダイブの鍵だった。

 

☆ 主な登場人物

  寺井光子  二年生 今度の世界では小早川照姫

  二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される

  中臣美空  三年生、セミロングで『かの世部』部長

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高校ライトノベル・かの世界の片隅へ:19『みっちゃん飛んで!』

2018-09-11 14:48:44 | 小説5

かの世界の片隅へ:19     

『みっちゃん飛んで!』  

 

 

 あ………

 

 そう言ったきり志村先輩は息をのんだ。

 ロンゲのお姫様カットで眉が隠れているのでとことんの表情は読めない。

 志村先輩は表情の核心を眉に表す人なんだ。

 眉を見せてください……とも言えずに中臣先輩を見る。キリリとしたポーカーフェイスで、さっきまでの陽気さが無い。

 消極的だけど、次の任務が大変なことを物語っている。

 

 モニターには、どこにでもある一軒家が映っている。

 

 二階建てで、カーポートと十坪ほどの庭が付いている。

 ラノベの主人公が住んでいそうな中産階級の見本のような家。今にもトーストを咥えた女子高生が飛び出してきそうな雰囲気だ。そして、最初の角を曲がったところで男の子とぶつかって――なんて失礼な奴!――お互いに思っう。そして学校に着いたら、そいつが転校生でビックリして、そこからお話が始まるとか……。

「ミッチャンの思った通りよ、しばらくしたら誰かが飛び出してきて、角を曲がったところでミッチャンがぶつかるの」

「そんなラブコメみたいな任務なんですか?」

「ラブコメではないと思う。でも、そういうフラグが立っているのは分かる」

「そう、フラグなのよ……」

 志村先輩がマウスを操作すると、カメラが引きになりながら上昇……通り二つ向こうに学校が見えてくる。

「この学校が舞台なんですか?」

「これは小学校……見て、屋上の……」

「あ」

 それは、前の任務でも見た『白の丸』だ。

「この『白の丸』を『日の丸』に戻さなきゃクリアにはならないと思う」

「でも、それは、このステージの任務ではないと思うのよ」

「チュートリアルに毛の生えたような任務だと思う。白の丸に関わるのは、まだ先」

「初期設定は……HP50 MP50」

「時間が迫ってる。時子、ダブルクリックして」

「うん」

 中臣先輩がカチカチとクリックすると、ドアからトースト咥えて飛び出してきたショートヘアーの女の子……外股だ……え、女装男子!?

「時間よ、みっちゃん飛んで!」

「は、はい!」

 一瞬でホワイトアウトして、再び次元の狭間に投げ出されるわたしだった…… 

 

☆ 主な登場人物

  寺井光子  二年生

  二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される

  中臣美空  三年生、セミロングで『かの世部』部長

  志村時子  三年生、ポニテの『かの世部』副部長 

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高校ライトノベル・かの世界の片隅へ:18『新しい任務が表示された』

2018-09-08 14:00:30 | 小説5

かの世界の片隅へ:18     

『新しい任務が表示された』  

 

 

 白い闇の真ん中がドーナツ状に凝縮していき、二呼吸するうちにUFOのような発行体になり、拉致されるのかと思ったらリング状の蛍光灯だと合点がいく。

 どこかで見たような……考えていると霧が晴れるように白い闇が消えていき、部室の天井だと分かる。

 分かると同時に背中に引力を感じる。

 何のことは無い、見えているのが天井ならば背中は床だ。床方向に引力があるのはあたりまえ。

 どうも、わたしの感覚は視覚的なようだ。

 

 気が付いた?

 

 ギクッとした。

 視界の左に志村先輩の心配顔。

 ホッと吐息。

 右側に中臣先輩。

 

 突然見えたみたいだけど、さっきから居たんだろう。私の感覚は聴覚的?

 

「大変だったわね」

「そっと起きるのよ」

「あ、はい……あ」

 上半身を起こすと部室がグラ~っと回って、わたしはカエルを潰したように腹這いになった。めちゃくちゃ気持ちが悪い。

 体中の穴から寺井光子の実体が溶けだしてクラゲかバクテリアになってしまいそう。

 

 ソロリと先輩の優しい手で上向きにされる……すると中臣先輩の顔がズ~ンと寄って来た。

 どうやら抱き起されている……先輩の美しい顔はさらに寄って来る。先輩のロンゲがハラリと頬に掛かった。

 ア……

 わたしの口が先輩の唇で覆われてしまった。

 生まれて初めてのキスが先輩……すると口移しに爽やかなものが流し込まれ、ビックリしたけど不快じゃない。

 爽やかなものは、瞬くうちに全身に漲って平衡感覚が戻って来た。

「初めてだから次元酔いしたのよ」

「次元酔い?」

「口移しにしてごめんね」

「わたしの方が良かった?」

「茶化しちゃダメよ美空」

「ハハ、まあ、この次は自分で飲みなよ、このドリンクだから。冷蔵庫に冷やしてあるから、あとでもう一本くらい飲んどくといいよ」

「は、はい。ありがとうございました中臣先輩」

「よかった無事に戻ってきて……あれを見て」

 

 先輩が指したモニターを見ると、映っている三本の柱の右端のが青みを増している。ようく見ると、柱は無数の小部屋と言うか細胞というかで出来ていて、その半分ほどが青くなっている。残りは赤や、どっちつかずの白。見ようによっては無数のフランス国旗が埋め込まれているように見える。

「ミッチャンのお蔭よ」

「わたしですか?」

「うん、光子がミカドの窓際に座ったんで、あの学生と営業見習い風の女は出会わずに済んだ」

「あ、あの二人……」

「二人が出会うと、二年後には結婚して子供が生まれるの」

「男の子なんだけど、五十年後に総理大臣になるんだ」

「そして国策を誤って、日本どころか世界をメチャクチャにするの」

「メチャクチャに?」

「うん、でも生まれないことになったから、多分大丈夫」

「あの青いところが安全になった世界なんですね」

「そう、青が安全。赤は滅亡、白は一進一退というところ」

「真ん中のひと際明るい青がね、ミッチャンが修正したところ」

「あ、でも……」

 

 思い出した。わたしと出会ったことで三十年前のお母さんは死んでしまうんだ。

 

「そうなんだ。危機は回避したけど光子は生まれない世界になってしまった」

「それで戻ってきたんですか?」

「まあ……でも、あの世界は大丈夫だから」

 自分が生まれない世界と言うのは釈然としないが、母親の事故死を防げなかったという衝撃は小さくなった。

 だって、他の世界、真ん中と左側の柱には、母が生きていて、当然わたしも生まれている世界がたくさん残っているのだ。

「そして、ミッチャンが冴ちゃんに殺されない世界も、まだ現れていない」

「それって……」

「もうひと頑張りしなくっちゃ……」

 志村先輩がノーパソを操作すると、モニターに新しい任務が表示された。

 

☆ 主な登場人物

  寺井光子  二年生

  二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される

  中臣美空  三年生、セミロングで『かの世部』部長

  志村時子  三年生、ポニテの『かの世部』副部長 

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高校ライトノベル・かの世界の片隅へ:17『相席』

2018-09-05 13:59:09 | 小説5

かの世界の片隅へ:17

『相席』

 

 

 B駅へ向かうために下りのホームへ。

 

 B駅は下りの先頭方向に改札があるので、ホームの前の方、一両目の印があるところに立つ。

 電車がやって来る上り方向を覗うと、三十年前のお母さんとお祖母ちゃんが現れた。

 同じ電車に乗るんだ。

 嬉しくなって少しだけ寄ってみる。

 

――あの娘さんのお蔭ね――

――そうね、クーポン券、今日が期限。気が付かなきゃ、そのまま帰ってた――

 お母さんがヒラヒラさせてるのは平成三十年でもB駅近くにあるBCDマートだ。昭和六十三年だったら新規開店で間もないころかな。素敵な靴が手ごろな値段で手に入るので有名。三十年後のお母さんもちょくちょく利用しているご贔屓の量販店だ。

 ウキウキしているお母さんが新鮮でくすぐったく、わたしは、やってきた下り電車の一両隣の車両に乗った。

 連結部分のガラス窓を通して――お母さん可愛い――ホンワカしているうちにB駅に着いてしまった。

 

 改札の位置が違う。

 

 三十年前のB駅は改装前で、改札に続く跨道橋は中央寄りにある。

 わたしは、お母さんとお祖母ちゃんの後姿を愛でながら改札を出た。

――あ、クレープ屋さん!――

 お母さんがロータリー端っこに停まっている移動クレープ屋さんに気づいた。

 女子高生らしい勢いで突進すると。十人ほどの列の最後尾について、お祖母ちゃんをオイデオイデしている。

 なんだか可愛い。あんな無邪気なお母さんは初めてだ。

 

 おっと、ミカドを探さなきゃ。

 

 首を半分回したところで発見。ロータリーに繋がる商店街の角に、これまた新規開店のミカドが見えた。

 三十年後はたこ焼きのお店があるはずの場所だ。

 先輩に言われた時間まで一分あるかないかで窓際のシートに座る。

 わたしの後ろから入って来た学生風のお兄さんが――おっと――という感じで窓際の席を諦めて、奥の四人掛けに収まった。

 ミカドは流行っているようで、カウンター以外の席は埋まってしまっている。

 むろん窓際は四人掛けなので、その気になれば相席できる。満席近いのに四人掛けを占拠していることに収まりの悪さを感じる。

 オーダーした紅茶を待っているうちに出版社の営業見習いって感じの女性が入って来た。

「すみません、ここ、いいですか?」

 わたしの四人掛けの向かいを指して笑顔を向ける。

「あ、ええ、どうぞ」

 斜め前に座った見習女史は、ぶっといシステム手帳とA4の書類やチラシの束を出して仕事を始めた。

 これなら四人掛けでなきゃならないはずだと納得。

 紅茶を飲み終えたころ、見習い女史は席を立ってカウンターのピンク電話に向かった。

 ピンク電話の傍が、さっきの学生さん。

 学生さんは、チラリと女史を見る。微妙に笑顔になった風。

 女子は電話が終わると「お邪魔してごめんなさい」。のこやかな笑みをコーヒー代といっしょに残して出て行った。

 

 さあ、約束の三十分が過ぎた。わたしもお勘定を済ませてミカドを出る。

 

 キキキーーーーグワッシャーーーーン!!

 

 ロータリーの方でクラッシュ音。

 セダンが歩道に乗り上げて、ベンチや花壇やなにやらをなぎ倒し、バス停に激突して停まっている。

 交通事故!?

 愕然とした。

 セダンの前方に、捻じれたように転がっているのはお母さん! お祖母ちゃんがへたり込んで呆然としている。

 

 おい、警察! それより救急車! すごい血  だめかもな  早く救急車!

 

 目の前の風景が急速に色彩を失い、次に輪郭が無くなり、わたしは白い闇に投げ出されてしまった。

 

 

 

☆ 主な登場人物

 

 寺井光子  二年生

 

 二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される

 

 中臣美空  三年生、セミロングで『かの世部』部長

 

 志村時子  三年生、ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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高校ライトノベル・かの世界の片隅へ:16『なにかお困り?』

2018-09-02 14:23:38 | 小説5

かの世界の片隅へ:16

『なにかお困り?』 

 

 

 無意識にポケットをまさぐる。

 

 脊髄反射でスマホを捜してしまうのだ。

 今は昭和63年だから、スマホはおろか携帯も存在しないのだ。

 なんとも落ち着かない。

 スマホがあれば、A駅近辺の喫茶店で検索できる。それ以上にスマホを持っていないという現実を突きつけられ、とても不安になる。

 スマホ無しで、どうやって調べたら……。

 

 人に聞くしかない……至極当たり前の解決策が湧いてくるが、これが容易なことではない。

 子どものころから見知らぬ人は不審者という決めつけがある。

 小学校入学時から防犯ブザーを持たされ、見知らぬ人に気をつけましょうと注意されてきた。

 当然世間の大人たちも子どもにものを尋ねるようなことはしない。

 

 路上でものを尋ねて警戒されないのは、マイクを持ってカメラマンを従えているテレビ局とかの人間だけだ。

 

 どうやって聞いたらいいんだろう……。

 駅前の交番が目についた。うまい具合にお巡りさんも居る。

 足を向けてためらわれた。

 わたしは別の世界の平成三十年からやってきた人間だ。

 三十年のギャップ。数分でも会話すれば、なにかボロが出てしまうんじゃないか……こちらは日の丸が白丸になっているように、とんでもないところで違いがある。

 もし、異世界の平成三十年から来たと分かったら……いや、そもそも信じてもらえない。

 変なことを言う女! 話すことがズレてる! 某国のスパイか工作員か!?

 

 次々に湧いてきて、顔が引きつるだけで身動きが取れなくなってしまう。

 

 なにかお困り?

 

 口から心臓が飛び出しそうになった!

 胸を押えながら振り返ると、買い物帰りのオバサンが穏やかな笑顔で立っていた。

「あ、はい! 困ってるんです!」

 ほとばしるように言ってしまった。

「そうなの、怖い顔して、とても思い詰めてるように見えて。お節介でなくてよかった。で、どうなさったの?」

 なんだか、とても懐かしい感じのオバサンで……というか、わたしが、そこまで途方に暮れていたということなんだ。

「この辺に、ミカドっていう喫茶店ありませんか?」

「ミカド……ミカドね……」

 どうやらハズレ……すると、同じような買い物帰りのオバサンが寄って来た。

「どうしたの?」

「あ、おけいさん。この娘さんが……」

 どうやらお仲間の様子。

「ああ、それだったらB駅じゃなかったかな。カタカナ三つの喫茶店が開店してた。A駅前を考えていたらしいけど、借地料が合わないとかで、ここいらは駅前の再開発で地価が上がってるからねえ」

 そうか、反対だったんだ! B駅も隣だ!

「ど、どうもありがとうございました!」

 頭を下げると――お母さーん――という声がして、ロータリーの向こうから学校帰りの女子高生が駆けてくる。

 

 ほんの一瞬だけ見えて、逃げるように駅の構内に向かった。

 一瞬だったけど確信した。

 あれは、若いころのお母さんだ。

 オバサンが懐かしかったのは、三年前に亡くなったお祖母ちゃんだったからだ。

 そんな思いも振り捨てて、B駅を目指して電車に飛び乗った。

 

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