大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・かの世界の片隅へ:22『8時58分』

2018-09-22 14:55:49 | 小説5

かの世界の片隅へ:22     

『8時58分』  

 

 もう屋上から飛ぶしかないかも……

 

 学校中を捜してもピッタリの鍵穴は見つからず、昇降口の階段でヘタってしまう。

 ヘタってしまうと、さっきまでの勢いはどこかに行ってしまって、わたしの呟きにギクッとする健人。

「もう飛ぶ気も無くなったんでしょ?」

「ん、んなことねー」

 熱しやすく冷めやすい健人、これ以上言うと、このまま家に帰って布団をかぶってしまいそう。

 まあ、互いに呼吸が整ってからだと口をつぐむ。

 

 無人の昇降口に、せわしない二人のブレスだけが際立つ。

 

 ダイブは、三年に一度、学校で七人だけが許される。

 

 この世界は、わたしが寺井光子として存在していた世界に酷似しているが、根本のところが違う。

 この世界は対応する異世界と対になっていて、異世界が混乱すると、その影響がモロに出る。

 想定外の事故や災害は、異世界の混乱に原因がある。

 想定外の事故や災害の数カ月後に、選ばれた学校に白羽の矢が立つ。

 矢が立つと言っても、本物の矢が飛んでくるわけではない。

 生徒のスマホや携帯にメールの形でやってくる。選ばれた生徒はメールに指示された相手に応諾を伝えたうえで創立記念の日にダイブする。

 応諾を伝える相手は、年によって変わる。

 校長である場合、特定の生徒である場合、先生の誰かである場合もあれば、特定のクラスの掃除用具入れである場合もあり、トイレの便器であったり校庭の桜の木であったりもする。

 ダイブし、異世界で成果を上げれば、成果の出来に従って、こちらの世界の災いが軽減される。

 そして成果を上げたダイバーも、成果に応じた報酬を受けられる……とされている。

 

 されている……というのは、こちらに戻った時には、なにが報酬であったかを忘れるからだ。

 

 健人はスマホのメールに気づくのが遅れた。

――有効期限が切れました。ダイブは六人で行われますが、どうしても参加したい場合は六人の同意を得るか屋上から命を懸けてダイブするか、いずれかの方法でも可能です。その場合でも、リミットは創立記念日の午前九時までとします。あなたの報告相手は幼なじみの小早川照姫です――

 健人は六人に頼み込んだが、ダイブの朝、女装して来ることを条件にされてしまったのだ。

 そして、この昇降口に至っている。

 

「飛び降りなくていいから、いちど屋上に行ってみよう」

 

 ここで諦めては、もともとズボラでヘタレの健人だ、ますますダメになってしまう。

「行くよ!」

 ゲシュタルト崩壊しかけている健人の襟首を掴まえて屋上への階段を駆け上がる!

 チラ見した時計は8時58分を指していた。

 

 

☆ 主な登場人物

 

  寺井光子  二年生 今度の世界では小早川照姫

 

  二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される

 

  中臣美空  三年生、セミロングで『かの世部』部長

 

  志村時子  三年生、ポニテの『かの世部』副部長 

 

  小山内健人 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ

 

 

 

 

 

 

 

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高校ライトノベル・かの世界の片隅へ:21『鍵穴はどこだ!?』

2018-09-18 13:22:37 | 小説5

かの世界の片隅へ:21     

『鍵穴はどこだ!?』  

 

 

 これが……!?        「鍵イラスト フ...」の画像検索結果

 

 中坊らしい好奇心を剥き出しにして、わたしの手の平を見つめる健人。

 そのまま手洗いソープのCMに使えそうなほどきれいで整った手に感心したのでもなく、わたしの手相に運命の出会いを見たのでもない。

 わたしの手の平に載っている、なんの変哲もない真鍮製の鍵に感動しているのだ。

 いや、多少は珍しいかも。

 いまどき真鍮製の鍵なんて、昭和、それもアルミサッシとか無い時代の木造二階建ての校舎の窓とか、住宅の玄関とか、木製ロッカーとかでしかお目に掛かれない。

 お目に掛かれないと言っても現物を見たことは無い。アニメとか昔の映画とかで観る感じ。

 例えて言うなら、サザエさんちの玄関の鍵という感じ。

 実用本位に作られていて、鍵本体というか鍵穴に入ってシリンダーのメス鍵を回す部分はシンプルなEの形をしている。

 Eの背中の部分は長さ五センチほどの心中の柄になっていて、親指と人差し指で握るところは……スライムのシルエットの形。スライムだったら口の当たるところに直径三ミリほどの穴が開いていて、ひもを付けたりフックに掛けておいたりするようになっている。その先っぽのEからスライムの部分まで装飾らしいところは一つもない。

 

 このダイブの鍵を、わたしが持っていることには説明がいるんだけど、健人は、その余裕をくれないだろう。

 

「これで、どこを開けるんだ?」

「しっかりしてよ、異世界の扉に決まってるでしょうが」

「でも、この鍵に合う扉って……」

 健人の戸惑いはもっともだ、実用品として、こんな鍵は見たこともないだろうから。

「言い伝えでは、身の回りというか、周辺の鍵穴の一つが、これに合うように変身してるって」

「ということは、学校の中だな!」

「たぶん!」

 

 教室を飛び出して学校中の鍵穴に当たってみた。

 ところが、学校の鍵穴は、下のイラストの感じ。そっけないマイナスかイナヅマ型だ

 

           「鍵穴イラスト ...」の画像検索結果

 真鍮の鍵の鍵穴はこけし型と言うか前方後円墳型だ。

           「鍵穴イラスト ...」の画像検索結果

 ニ十分ほどかかって学校中の鍵穴にあたってみたが、これに合う鍵穴は一つもなかった……。

 

 

 

☆ 主な登場人物

  寺井光子  二年生 今度の世界では小早川照姫

  二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される

  中臣美空  三年生、セミロングで『かの世部』部長

  志村時子  三年生、ポニテの『かの世部』副部長 

 

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高校ライトノベル・かの世界の片隅へ:20『ダイブの鍵』

2018-09-14 14:16:59 | 小説5

かの世界の片隅へ:20     

『ダイブの鍵』  

 

 

 ドッシーーーーーン!!

 

 いまどきアニメでも使わないような擬音が鳴り響いてぶつかった。

 アイターーー!!

 これまたガルパンの知波単学園の戦車隊長が吶喊直後に撃破された時のような悲鳴が上がった。

「ごめんなさい、急いでたもんだから」

 スカートを掃いながら立ち上がって絶句した。

「け、健人! なに女装してんのよ!?」

「イ、イテーなあ……くそ、食べかけのトーストがあああああ、邪魔すんなよテル!」

 砂まみれのトーストの半分を投げ捨て、ズレたボブのウィッグを直しながら健人は行ってしまった。

「なによ、意地も誇りもないってかあ!」

 ドラゴンボールの敵役みたく仁王立ちしたわたしは小早川照姫(こばやかわてるき)と名乗るようだ。

 前回は三十年前の世界にデフォルトの自分で飛び込んだんだけど、今回は寺井光子に上書きされた人格だ。

 砂ぼこりを掃って、健人の後を追うころには、テル、小早川照姫の人格に成りきっていた。

 視界の左上はインターフェイスのようで。レベル・3 経験値・5 HP・55 MP・55と表示されている。

 

 他にもいろいろ表示があるが、先を急がなきゃならない。

 

 健人はつまらない賭けをしやがった。

 マヤのグループとどっちが先にダイブするかで賭けたんだ。

 マヤのグループは揃って成績優秀の上、スポーツも、それぞれ運動部の部長が務まるくらいの奴ばっかり。

 タイマンならまだしも、一対七、あっさり負けを認めれば恥をかくだけで済んだのに、マヤの挑発に乗ってしまいやがった。

 

 これ着て八時までに登校したら一緒にダイブさせてやるわよ。

 

 そう言って投げ出された女子の制服。

 恥ずかしい真似はやらせない! たとえ遅れてダイブすることになっても見っともない真似はさせない!

――馬鹿な真似はしねーよ――

 メールの返事に安心はしたけど、馬鹿な真似の意味がわたしとは違うんじゃないか?

 予感がして寄ってみたら、このざまだ。

 

 馬鹿はよせ……

 

 祈りながらの学校へ。

 昇降口を二階へ上がってすぐの教室に入ると、誰も居ない教室の真ん中に健人は立ちつくしていた。

「なんちゅー格好なのよ」

「るっせー」

 汗みずくの崩れた女装が痛々しいを通り越して不潔で惨めったらしい。

「テルとぶつかってなきゃ……」

「人のせいにすんな」

「あいつらだけじゃ勝てっこないし、俺が一人ダイブしたってどれほどのこともできゃしねーよ」

「ただのゲームに、なんでそこまでムキになんのよ」

「テルには分かんねーよ」

 そう言うと、健人は背中を見せて後ろのドアから出て行こうとした。

 あーーーイライラする奴だ!

「どこにいくのよ」

「屋上からダイブする。地上スレスレで飛べば追いつくかもしれない」

「99パーセント死ぬよ」

「俺なら行ける」

「止してよ、創立記念日の学校で女装のまま墜落死するなんて!」

「…………!」

 

 キーーーンコーーーンカーーーンコーーーン……キーーーンコーーーンカーーーンコーーーン……

 

 健人が抗弁しようと息を吸ったところでチャイムが鳴った。

 健人の目からホロホロと涙の粒が落ちていく。

 どうやらチャイムがタイムリミットの合図であったようだ。

 

 分かった、わたしが付いて行ってやるから。

 

 無意識にポケットから出したのは……ダイブの鍵だった。

 

☆ 主な登場人物

  寺井光子  二年生 今度の世界では小早川照姫

  二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される

  中臣美空  三年生、セミロングで『かの世部』部長

  志村時子  三年生、ポニテの『かの世部』副部長 

 

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高校ライトノベル・かの世界の片隅へ:19『みっちゃん飛んで!』

2018-09-11 14:48:44 | 小説5

かの世界の片隅へ:19     

『みっちゃん飛んで!』  

 

 

 あ………

 

 そう言ったきり志村先輩は息をのんだ。

 ロンゲのお姫様カットで眉が隠れているのでとことんの表情は読めない。

 志村先輩は表情の核心を眉に表す人なんだ。

 眉を見せてください……とも言えずに中臣先輩を見る。キリリとしたポーカーフェイスで、さっきまでの陽気さが無い。

 消極的だけど、次の任務が大変なことを物語っている。

 

 モニターには、どこにでもある一軒家が映っている。

 

 二階建てで、カーポートと十坪ほどの庭が付いている。

 ラノベの主人公が住んでいそうな中産階級の見本のような家。今にもトーストを咥えた女子高生が飛び出してきそうな雰囲気だ。そして、最初の角を曲がったところで男の子とぶつかって――なんて失礼な奴!――お互いに思っう。そして学校に着いたら、そいつが転校生でビックリして、そこからお話が始まるとか……。

「ミッチャンの思った通りよ、しばらくしたら誰かが飛び出してきて、角を曲がったところでミッチャンがぶつかるの」

「そんなラブコメみたいな任務なんですか?」

「ラブコメではないと思う。でも、そういうフラグが立っているのは分かる」

「そう、フラグなのよ……」

 志村先輩がマウスを操作すると、カメラが引きになりながら上昇……通り二つ向こうに学校が見えてくる。

「この学校が舞台なんですか?」

「これは小学校……見て、屋上の……」

「あ」

 それは、前の任務でも見た『白の丸』だ。

「この『白の丸』を『日の丸』に戻さなきゃクリアにはならないと思う」

「でも、それは、このステージの任務ではないと思うのよ」

「チュートリアルに毛の生えたような任務だと思う。白の丸に関わるのは、まだ先」

「初期設定は……HP50 MP50」

「時間が迫ってる。時子、ダブルクリックして」

「うん」

 中臣先輩がカチカチとクリックすると、ドアからトースト咥えて飛び出してきたショートヘアーの女の子……外股だ……え、女装男子!?

「時間よ、みっちゃん飛んで!」

「は、はい!」

 一瞬でホワイトアウトして、再び次元の狭間に投げ出されるわたしだった…… 

 

☆ 主な登場人物

  寺井光子  二年生

  二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される

  中臣美空  三年生、セミロングで『かの世部』部長

  志村時子  三年生、ポニテの『かの世部』副部長 

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高校ライトノベル・かの世界の片隅へ:18『新しい任務が表示された』

2018-09-08 14:00:30 | 小説5

かの世界の片隅へ:18     

『新しい任務が表示された』  

 

 

 白い闇の真ん中がドーナツ状に凝縮していき、二呼吸するうちにUFOのような発行体になり、拉致されるのかと思ったらリング状の蛍光灯だと合点がいく。

 どこかで見たような……考えていると霧が晴れるように白い闇が消えていき、部室の天井だと分かる。

 分かると同時に背中に引力を感じる。

 何のことは無い、見えているのが天井ならば背中は床だ。床方向に引力があるのはあたりまえ。

 どうも、わたしの感覚は視覚的なようだ。

 

 気が付いた?

 

 ギクッとした。

 視界の左に志村先輩の心配顔。

 ホッと吐息。

 右側に中臣先輩。

 

 突然見えたみたいだけど、さっきから居たんだろう。私の感覚は聴覚的?

 

「大変だったわね」

「そっと起きるのよ」

「あ、はい……あ」

 上半身を起こすと部室がグラ~っと回って、わたしはカエルを潰したように腹這いになった。めちゃくちゃ気持ちが悪い。

 体中の穴から寺井光子の実体が溶けだしてクラゲかバクテリアになってしまいそう。

 

 ソロリと先輩の優しい手で上向きにされる……すると中臣先輩の顔がズ~ンと寄って来た。

 どうやら抱き起されている……先輩の美しい顔はさらに寄って来る。先輩のロンゲがハラリと頬に掛かった。

 ア……

 わたしの口が先輩の唇で覆われてしまった。

 生まれて初めてのキスが先輩……すると口移しに爽やかなものが流し込まれ、ビックリしたけど不快じゃない。

 爽やかなものは、瞬くうちに全身に漲って平衡感覚が戻って来た。

「初めてだから次元酔いしたのよ」

「次元酔い?」

「口移しにしてごめんね」

「わたしの方が良かった?」

「茶化しちゃダメよ美空」

「ハハ、まあ、この次は自分で飲みなよ、このドリンクだから。冷蔵庫に冷やしてあるから、あとでもう一本くらい飲んどくといいよ」

「は、はい。ありがとうございました中臣先輩」

「よかった無事に戻ってきて……あれを見て」

 

 先輩が指したモニターを見ると、映っている三本の柱の右端のが青みを増している。ようく見ると、柱は無数の小部屋と言うか細胞というかで出来ていて、その半分ほどが青くなっている。残りは赤や、どっちつかずの白。見ようによっては無数のフランス国旗が埋め込まれているように見える。

「ミッチャンのお蔭よ」

「わたしですか?」

「うん、光子がミカドの窓際に座ったんで、あの学生と営業見習い風の女は出会わずに済んだ」

「あ、あの二人……」

「二人が出会うと、二年後には結婚して子供が生まれるの」

「男の子なんだけど、五十年後に総理大臣になるんだ」

「そして国策を誤って、日本どころか世界をメチャクチャにするの」

「メチャクチャに?」

「うん、でも生まれないことになったから、多分大丈夫」

「あの青いところが安全になった世界なんですね」

「そう、青が安全。赤は滅亡、白は一進一退というところ」

「真ん中のひと際明るい青がね、ミッチャンが修正したところ」

「あ、でも……」

 

 思い出した。わたしと出会ったことで三十年前のお母さんは死んでしまうんだ。

 

「そうなんだ。危機は回避したけど光子は生まれない世界になってしまった」

「それで戻ってきたんですか?」

「まあ……でも、あの世界は大丈夫だから」

 自分が生まれない世界と言うのは釈然としないが、母親の事故死を防げなかったという衝撃は小さくなった。

 だって、他の世界、真ん中と左側の柱には、母が生きていて、当然わたしも生まれている世界がたくさん残っているのだ。

「そして、ミッチャンが冴ちゃんに殺されない世界も、まだ現れていない」

「それって……」

「もうひと頑張りしなくっちゃ……」

 志村先輩がノーパソを操作すると、モニターに新しい任務が表示された。

 

☆ 主な登場人物

  寺井光子  二年生

  二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される

  中臣美空  三年生、セミロングで『かの世部』部長

  志村時子  三年生、ポニテの『かの世部』副部長 

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高校ライトノベル・かの世界の片隅へ:17『相席』

2018-09-05 13:59:09 | 小説5

かの世界の片隅へ:17

『相席』

 

 

 B駅へ向かうために下りのホームへ。

 

 B駅は下りの先頭方向に改札があるので、ホームの前の方、一両目の印があるところに立つ。

 電車がやって来る上り方向を覗うと、三十年前のお母さんとお祖母ちゃんが現れた。

 同じ電車に乗るんだ。

 嬉しくなって少しだけ寄ってみる。

 

――あの娘さんのお蔭ね――

――そうね、クーポン券、今日が期限。気が付かなきゃ、そのまま帰ってた――

 お母さんがヒラヒラさせてるのは平成三十年でもB駅近くにあるBCDマートだ。昭和六十三年だったら新規開店で間もないころかな。素敵な靴が手ごろな値段で手に入るので有名。三十年後のお母さんもちょくちょく利用しているご贔屓の量販店だ。

 ウキウキしているお母さんが新鮮でくすぐったく、わたしは、やってきた下り電車の一両隣の車両に乗った。

 連結部分のガラス窓を通して――お母さん可愛い――ホンワカしているうちにB駅に着いてしまった。

 

 改札の位置が違う。

 

 三十年前のB駅は改装前で、改札に続く跨道橋は中央寄りにある。

 わたしは、お母さんとお祖母ちゃんの後姿を愛でながら改札を出た。

――あ、クレープ屋さん!――

 お母さんがロータリー端っこに停まっている移動クレープ屋さんに気づいた。

 女子高生らしい勢いで突進すると。十人ほどの列の最後尾について、お祖母ちゃんをオイデオイデしている。

 なんだか可愛い。あんな無邪気なお母さんは初めてだ。

 

 おっと、ミカドを探さなきゃ。

 

 首を半分回したところで発見。ロータリーに繋がる商店街の角に、これまた新規開店のミカドが見えた。

 三十年後はたこ焼きのお店があるはずの場所だ。

 先輩に言われた時間まで一分あるかないかで窓際のシートに座る。

 わたしの後ろから入って来た学生風のお兄さんが――おっと――という感じで窓際の席を諦めて、奥の四人掛けに収まった。

 ミカドは流行っているようで、カウンター以外の席は埋まってしまっている。

 むろん窓際は四人掛けなので、その気になれば相席できる。満席近いのに四人掛けを占拠していることに収まりの悪さを感じる。

 オーダーした紅茶を待っているうちに出版社の営業見習いって感じの女性が入って来た。

「すみません、ここ、いいですか?」

 わたしの四人掛けの向かいを指して笑顔を向ける。

「あ、ええ、どうぞ」

 斜め前に座った見習女史は、ぶっといシステム手帳とA4の書類やチラシの束を出して仕事を始めた。

 これなら四人掛けでなきゃならないはずだと納得。

 紅茶を飲み終えたころ、見習い女史は席を立ってカウンターのピンク電話に向かった。

 ピンク電話の傍が、さっきの学生さん。

 学生さんは、チラリと女史を見る。微妙に笑顔になった風。

 女子は電話が終わると「お邪魔してごめんなさい」。のこやかな笑みをコーヒー代といっしょに残して出て行った。

 

 さあ、約束の三十分が過ぎた。わたしもお勘定を済ませてミカドを出る。

 

 キキキーーーーグワッシャーーーーン!!

 

 ロータリーの方でクラッシュ音。

 セダンが歩道に乗り上げて、ベンチや花壇やなにやらをなぎ倒し、バス停に激突して停まっている。

 交通事故!?

 愕然とした。

 セダンの前方に、捻じれたように転がっているのはお母さん! お祖母ちゃんがへたり込んで呆然としている。

 

 おい、警察! それより救急車! すごい血  だめかもな  早く救急車!

 

 目の前の風景が急速に色彩を失い、次に輪郭が無くなり、わたしは白い闇に投げ出されてしまった。

 

 

 

☆ 主な登場人物

 

 寺井光子  二年生

 

 二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される

 

 中臣美空  三年生、セミロングで『かの世部』部長

 

 志村時子  三年生、ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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高校ライトノベル・かの世界の片隅へ:16『なにかお困り?』

2018-09-02 14:23:38 | 小説5

かの世界の片隅へ:16

『なにかお困り?』 

 

 

 無意識にポケットをまさぐる。

 

 脊髄反射でスマホを捜してしまうのだ。

 今は昭和63年だから、スマホはおろか携帯も存在しないのだ。

 なんとも落ち着かない。

 スマホがあれば、A駅近辺の喫茶店で検索できる。それ以上にスマホを持っていないという現実を突きつけられ、とても不安になる。

 スマホ無しで、どうやって調べたら……。

 

 人に聞くしかない……至極当たり前の解決策が湧いてくるが、これが容易なことではない。

 子どものころから見知らぬ人は不審者という決めつけがある。

 小学校入学時から防犯ブザーを持たされ、見知らぬ人に気をつけましょうと注意されてきた。

 当然世間の大人たちも子どもにものを尋ねるようなことはしない。

 

 路上でものを尋ねて警戒されないのは、マイクを持ってカメラマンを従えているテレビ局とかの人間だけだ。

 

 どうやって聞いたらいいんだろう……。

 駅前の交番が目についた。うまい具合にお巡りさんも居る。

 足を向けてためらわれた。

 わたしは別の世界の平成三十年からやってきた人間だ。

 三十年のギャップ。数分でも会話すれば、なにかボロが出てしまうんじゃないか……こちらは日の丸が白丸になっているように、とんでもないところで違いがある。

 もし、異世界の平成三十年から来たと分かったら……いや、そもそも信じてもらえない。

 変なことを言う女! 話すことがズレてる! 某国のスパイか工作員か!?

 

 次々に湧いてきて、顔が引きつるだけで身動きが取れなくなってしまう。

 

 なにかお困り?

 

 口から心臓が飛び出しそうになった!

 胸を押えながら振り返ると、買い物帰りのオバサンが穏やかな笑顔で立っていた。

「あ、はい! 困ってるんです!」

 ほとばしるように言ってしまった。

「そうなの、怖い顔して、とても思い詰めてるように見えて。お節介でなくてよかった。で、どうなさったの?」

 なんだか、とても懐かしい感じのオバサンで……というか、わたしが、そこまで途方に暮れていたということなんだ。

「この辺に、ミカドっていう喫茶店ありませんか?」

「ミカド……ミカドね……」

 どうやらハズレ……すると、同じような買い物帰りのオバサンが寄って来た。

「どうしたの?」

「あ、おけいさん。この娘さんが……」

 どうやらお仲間の様子。

「ああ、それだったらB駅じゃなかったかな。カタカナ三つの喫茶店が開店してた。A駅前を考えていたらしいけど、借地料が合わないとかで、ここいらは駅前の再開発で地価が上がってるからねえ」

 そうか、反対だったんだ! B駅も隣だ!

「ど、どうもありがとうございました!」

 頭を下げると――お母さーん――という声がして、ロータリーの向こうから学校帰りの女子高生が駆けてくる。

 

 ほんの一瞬だけ見えて、逃げるように駅の構内に向かった。

 一瞬だったけど確信した。

 あれは、若いころのお母さんだ。

 オバサンが懐かしかったのは、三年前に亡くなったお祖母ちゃんだったからだ。

 そんな思いも振り捨てて、B駅を目指して電車に飛び乗った。

 

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高校ライトノベル・かの世界の片隅へ:15『喫茶みかど』

2018-08-29 13:50:21 | 小説5

かの世界の片隅へ:15

『喫茶みかど』   

 

 

 女神さまは中臣先輩だ。

 

 ほんの一時間足らずぶりなんだけど、ニューヨークかどこかで財布もスマホもパスポートも無くして知り合いに出会った感じ。

――どうやら、とても難しい世界に行ってしまったようね――

「はい、えと、わたしどうしたらいいんでしょう……」

「あのね…………」

 電話の向こうでボシャボシャと話声、どうやら志村先輩と話し合っているようだ。

――……わかった、うん……いい、みっちゃん。一つ課題を解決すれば、その世界から離脱できるの。いま、時ちゃんに探してもらってるから……うん、こっち? えと……みっちゃん――

「はい」

――駅一つ向こうに『みかど』って喫茶店があるの――

「あ、A駅の方ですね」

 リアルっていうか元の世界のA駅前で見かけたことがある。

――その『みかど』の窓際の四人掛けシートに三時半から四時までの間座っていてもらいたいの――

「座って何をするんですか?」

――意味はまだ分からない。ただ、座っていることで、そっちの世界が三十年後に大きな影響があるらしいの――

 ひどく申し訳なさそうな口調、先輩にも詳しいことは分からないんだろう。

「分かりました、三時半なら余裕です!」

 場所も分かっているので、明るく応えて受話器を置いた。

 自販機で切符を買うなんて久しぶり。

 行先ボタンとお金、どっちが先か? ちょっと悩んで、ボタンを押すけど反応なし。お金なんだと、百円と十円二枚を投入。

 すると、この駅を真ん中に上り下り二駅ずつのランプが点いてA駅を選ぶ。

 改札機ではふんだくられるように切符が吸い込まれるので、ちょっとオタ着く。

 スイカとか定期はスイっと改札機を舐めるだけなので暴力的に感じてしまうんだ。

 

 寒!

 

 電車に乗ると、暴力的な冷房に震える。

 設定温度間違えてるんじゃないかと腹と鳥肌がたつけど、周囲のお客さんたちは平然としている。

「うわ!」

 進行方向の反対につんのめる。

 電車の加速が、ガックンガックンしていてびっくり。

 元の世界では、もっと滑らかに加速していたと思う。これじゃ、立っているお年寄りなんか……周囲を見ると、そのお年寄りも含め、みんな器用にショックをいなしている。

 スマホはおろか携帯を触っている人も居ない。お年寄りは三四人くらいで、車両の平均年齢は、かなり若いように思える。

 そうか、昭和63年は、お年寄りの数は少ないんだ。

 驚いたり感心しているうちにA駅に着く。

 身構えて改札機へ……やっぱりふんだくられるのには慣れない。

 

 A駅の控え目な駅前を歩く。

 

 記憶では、もうちょっと賑やかなんだけど、三十年前はこんなものなのかもしれない。

 

 そして、『みかど』という喫茶店は見つからなかった……。

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かの世界の片隅へ:14『中島書店』

2018-08-25 14:11:46 | 小説5

かの世界の片隅へ:14

『中島書店』   

 

 

 ネガを見ているようだ。

 むろん日の丸のネガが赤字に白丸なわけないんだけど、見事に赤白逆転なので、ネガの感じになってしまう。

 神社の宮司さんなんかに聞くのはNGだ。

 神社を離れて駅の方に向かう。

 人通りの多い方が安心できるという理由だけ。

 途中、小学校の横を通る。そうだ、校舎の屋上に日の丸があったはず……見上げたそれは、やっぱり白丸だ。

 立ち止まっていると、下校途中の小学生に怪訝な目で見られる。

 エホン。

 軽く咳払いして、小学生とすれ違う。

 エホン。

 やつも咳払いして、ニタ~っと笑いやがる。

 構わずに先を急ぐ。

 駅に通じる商店街、抜けたところに中型書店。

 あれ? うぐいす書店のはずなのに、中島書店になってる。

 レイアウトに変わりはないんだけど、レジや本棚が微妙に違う。

 つい本を手に取りたくなるんだけど、我慢して参考書などのコーナーへ。

 目の端に見えた受験参考書の背表紙は1988年○○大学と書かれている。

 

 たしか昭和だよ……25を引けば昭和~年に変換できる。授業で習った変換式に代入……昭和63年だ。

 わたしって賢い……よく見ると参考書の西暦の下に(昭和63年)と書いてある。

 違う、確かめるのは……地図帳だ。

 あった……学校の地図帳と同じなのに値段は三倍くらいのそれを手に取って後ろの方を見る。

 世界の国々の情報が国旗と一緒に並んでいる……国旗を知っている国なんてニ十か国ほどしかないんだけど、ザッと見た限り首をひねるような国旗は無い。

 問題は日本……やっぱり白丸だ。

 スマホがあればググってみるんだけど、ここが昭和63年ならば、スマホはおろかパソコンだってあったかどうか。

 ましてネットカフェなんてあるはずもないだろう。

 他の本を読んだら……思ったけど、気力がわかず、そのままうぐいす……中島書店を出る。

 

 ぼんやり駅前を歩いていると急に電話のベルが鳴った!

 

 プルルルル プルルルル プルルルル

 

 え? え?

 

 首を巡らすと久しく見たことが無い電話ボックスの中で公衆電話が鳴っている。

 道行く人たちはNPCのように歩き去っていき、電話のベルに関心を示す人はいない。

 ファイナルファンタジー13で、公衆電話が鳴って、それをとったライトニングがヒントを聞いていたのが思い出された。

 

 もしもし、光子です!

 

 受話器を取ると、女神さまの声が聞こえた……

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かの世界の片隅へ:13『あ あれ?』

2018-08-21 14:00:20 | 小説5

かの世界の片隅へ:13

『あ あれ?』    

 

 

 戻って来たのかと思った。

 

 だって、同じ鳥居の前だ。

 時間は……たぶん昼? 

 鳥居も自分の影も真下にある。

 ……爽やか……南中したお日様に猛々しさはない、むろんお日様を直に見ることなんてできないけど、イメージとしてはニコニコと穏やかに笑っている。これは春か秋か?

 社務所に戻って聞いてみれば、いまがいつなのか分かる……でも、なにか憚られる。

 もう少し観察してからでないと、うかつには動けないという気がする。

 

 鳥居の柱に寄り掛かって周囲を観察。

 

 神社の前は昔からのお屋敷街で、見慣れた百坪や五十坪ほどが落ち着いたたたずまいで並んでいる。

 五月か十月ごろの鳥居前……てことは学校行かなきゃ……でも日曜で休みとか?

 スマホでカレンダーを見ようと思ったが……え、このポシェット?

 いつものリュックじゃなかった。肩から斜めに下げたポシェットと言っていい小ぶりのバッグ。

 一瞬ためらったけど、自分が下げているんだから自分のだろう。

 あれ?

 ざっくりワンピにちょっとルーズなカーディガン……自分のじゃない。

 ドキッとして顔を触ってみる。

 ほんとは鏡で見た方がいいんだろうけど、とりあえず触った感触は自分だ。

 ポシェットを探ってみると、財布とハンカチとティッシュにもろもろ……スマホが無い。

 

 スマホが無いと、こんなに不安なものだとは思わなかった。

 

 落ち着け光子……家に戻ろうか? いや、もうちょっと考えた方がいい。

 チラチラと周囲に目を向ける。

 ちょっと違和感……道路の両脇を走っている電線が頼りない……あ、光ケーブルが無い!

 子どものころ、電線に並行して走っている黒いらせん状が気になってお父さんに聞いたことがある。

――ああ、あれは光ケーブルだ。家のパソコンに繋がってるんだよ――

 そう教えてもらって、ひどく感心したことがある。

 

 ひょっとして昔にもどった?

 

 財布の中を確かめる、一万円札が三枚に千円札が……あれ? 夏目漱石だったけ?

 カードとかも変だ、なにこれ……テレホンカード?

 

 落ち着け。

 

 もう一度周囲を観察……振り返って神社の境内。

 あ、あれ?

 拝殿の脇にはポールが合って日の丸が掛かっているんだけど、その日の丸がおかしい。

 

 風に翻ったそれは、赤地に白丸ではないか。

 

 

☆ 主な登場人物

 寺井光子  二年生

 二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される

 中臣美空  三年生、セミロングで『かの世部』部長

 志村時子  三年生、ポニテの『かの世部』副部長 

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かの世界の片隅へ:12『ワープ』

2018-08-18 13:04:13 | 小説5

かの世界の片隅へ:12

『ワープ』    

 

 

 世界の綻び……このわたしが?

 

 わたしは、ヤックンに告白させないことだけを願っている。

 告白させたら、冴子がブチギレる。

 ブチギレた冴子は鬼になって跳びかかって来る、昇降口の階段をもつれ合いながら転げ落ちて、わたしは冴子を殺してしまうんだ。冴子を殺したわたしは旧校舎の屋上に追い詰められ、飛び降りて死んでしまうんだ。

 それを回避したいために過去に戻っているんだ。

 先輩には悪いけど、自分のためなんだ。世界の綻びと言われても困る。

 

「旅立たなければ、この半日が無限にループするわよ」

 

「で、でも、この帰り道に冴子が告白するかもしれないし」

「冴子は、そんな子じゃない」

「知っているでしょ、あの子はヤックンが告白してくれるのでなければ受け入れられないのよ」

 中臣先輩が悲しそうに首を振る。

「で、でも25回もループしているなんて……」

 二人の先輩の言うことを認めれば、なにかとんでもない世界というか段階に足を踏み入れざるを得ない気がして、頑なになる。

「ループしているのよ、今すぐに旅立たなければ!」

「時子」

「ごめん……追い詰めるつもりじゃないの」

「その玉垣の上を見てくれる」

「玉垣……」

 

 神社の結界を玉垣という、子どもの背丈ほどの石柱の壁には石柱ごとに奉納者と寄付した金額が彫り込まれている。

 鳥居のすぐ横が、最高額の奉納者である地銀の社名……そこから始まって、二十四番目の玉垣まで小石が置かれていた。

 

 これは……!?

 

「思い出した?」

「ループし終わると記憶が無くなるから、帰りに鳥居をくぐるたびに小石を載せておくように暗示をかけたの」

 小石を置く自分の姿がハタハタと蘇る。

「こことは違う世界、わたしたちは『かの国』と呼んでいるわ」

「三つ子ビルの一つ一つのブロックのように無数の『かの国』が寄り集まって宇宙とでもいうべきものを作っているの、そのいくたかの『かの国』がほころび始めている」

「それを修正して来て欲しいの、修正しなければ、三つ子ビルのように、この宇宙全体が崩壊してしまうわ」

 

 その時、VR酔いをしたように視界が横滑りして気分が悪くなった。

 

「この世界にも歪みが出始めた」

「もう時間がない、飛んで!」

 二人の先輩がゲームのヒーラーのように私に向けて、勢いよく手をかざした。

 

 ウ、ウワーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!

 

 とたんに鳥居を中心に風景が渦を巻くように捩れて、ついにはわたし自身もよじれて意識が飛んでしまった。

 

 

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かの世界の片隅へ:11『ループ』

2018-08-14 14:02:21 | 小説5

かの世界の片隅へ:12

『ループ』       

 

 

 いちど帰宅してから神社に向かう。

 

 巫女神楽は三度目だけど、二度目が終わった時に心の糸が切れているので、形はともかく気持ちが入ってこない。

 日数が無いのですごく集中する。

 バイト同然の巫女仕事に力を入れてもと思う人が居るかもしれないけど、わたしも冴子も、そういう性格だから仕方がない。

 左手に榊、右手に鈴を持って、舞台中央で冴子と交差する。

 シャリン! トン!

 鈴を打ち振ると同時に、右足で床を踏み鳴らし、踏み鳴らした勢いのまま旋回して冴子と向き合う。

 勢いがって平仄もあっている。

 三間(5・4メートル)向こうの冴子、軽く眉間に力が入って、それがとても美しい。

――光子も美しいよ――

 冴子が目の光だけで言っている。

――でも、わたし負けないから――

 そう続いて、その思いが、さらに冴子の表情を引き締める。後ろではヤックンがお囃子の中でわたしたちを見ている。

 ヤックンに近づいちゃいけない。ヤックンにコクるきっかけを与えちゃいけない。

 その思いだけでお稽古を終わり、サッサと着替えて宮司さんたちに挨拶。

「お先に失礼します」

 ペコンと一礼、

 視界の端で、ヤックンが立ち上がる気配。

 ダメだ、わたしを誘っちゃ!

「一緒に帰ろ!」

 二人の間に冴子が立ち上がる。冴子も信じられないくらい早く支度を済ませている。

 わたしとヤックンを二人っきりにしたくないのだ。

「そうだね、じゃ、鳥居のとこで待ってる」

 二人とも装束を仕舞えていないので、わたしが先に出る。

 

 鳥居の所で待つこと二分ほど、社務所の陰から二人のシルエット。

 陰気なのはいけない、肩の高さまで手を上げてヒラヒラと振る。冴子も明るく返してくる。

「じゃ、いこっか」

「「うん」」

 声が重なって鳥居を出る。ゲームのダンジョンに踏み入ったように緊張する。

 ここから帰宅するまでは、親しい三人の友だちを演じなければならない。

 三人揃ってというのは久々のはずなのに、何度もやっているようなデジャブに似た徒労感がある。

 

 寺井さん

 

 夜道の斜め前から声が掛かる。

 

「あ、中臣先輩」

「こんな時間にごめんなさい、ちょっと部活の事で話があるの。寺井さん借りてもいい?」

「はい、ごめん。二人で帰ってくれる?」

 少し戸惑ったような顔をしたが、うん、じゃね。と二人連れで帰っていく。

 この帰り道のどこかで、冴子がコクればいいのに……そう思うけど、冴子はヤックンがコクルのを待っているんだ。自分からコクルなんて百年待ってもやらないだろう。

 二人が闇に説けるのを待って、先輩が口を開く。

「これで、二十五回目……」

「え、なにがですか?」

「三人で帰るのが」

「え、えと……話が見えないんですけど」

「ヤックンに告白させないまま三人で帰るのが二十四回あったの。そして家に帰って玄関を開けると、今日の夕方に戻って、また神社に急ぐ」

「え、そんな?」

「学校を帰ってから、この瞬間までがループしてるの」

「ループ?」

「……うん」

「ヤックンに告白させないために、無意識に時間を巻き戻している」

「もう、旅立たなければ無限ループの闇に落ちてしまう」

 いつの間にか志村先輩も現れて、わたしを挟むように立っている。

「このままでは、光子、あなたが世界の綻びになってしまうわ」

 

 二人の真剣さに、ゾゾッと背中を怖気が走った……。

 

 

 

☆ 主な登場人物

 寺井光子  二年生

 二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される

 中臣美空  三年生、セミロングで『かの世部』部長

 志村時子  三年生、ポニテの『かの世部』副部長 

 

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かの世界の片隅へ:10『世界を助けてもらいたいの』

2018-08-12 13:53:29 | 小説5

 

かの世界の片隅へ:11

『世界を助けてもらいたいの』    「中廊下のある旧...」の画像検索結果

 

 

 2000人助かると、時子のお母さんは別の人と結婚することになるの。

 

 中臣先輩は、学食でお蕎麦が売り切れだったらラーメンを食べるのというくらいの気楽さで言う。

「時子には生まれて来て欲しいから、やっぱり震災の犠牲者は6000人」

 先輩が訂正すると、滲みだすように志村先輩が現れ、年表も元の姿に戻った。

「いくつもの小さな変化を加えると、2000人助けた上で時子が生まれるようにもできるんだけどね、すごく難しい方程式を解くようにしなくちゃならない。たとえできたとしても、遠い将来に影響が出るかもしれない」

 ヤックンの告白を無かったことにして、冴子を殺すことを回避していなければ信じられない話だ。

 それに、二人の先輩はティータイムの雑談のように話すので、まるで切迫感が無い。

「だから、今のところ震災についてはいじらないんだけど、全てのできごとを放置していると……」

「わ!」

 三つ子のビルが音を立てて崩壊していく。

 思わずのけ反ったが、モニターに映った3Dなので、吹き飛ぶ破片や濛々と寄せ来る爆煙に襲われることもない。

「これって、世界が崩壊したことを意味しているの」

「歴史は三つ子ビルほど単純じゃないけど、いくつかの出来事を修正しないと世界は崩壊してしまうの」

「かの世部はね、そんな歴史のイレギュラーを修正していく活動をしているの」

「それで、寺井さんには才能があるのよ。歴史を修正していく力が」

「そんな力がわたしに?」

「そう、ついさっき、ヤックンの告白を回避したじゃない。あれが成功していなければ、寺井さんは二宮さんを殺してしまう」

「そして、校内を逃げ回ったあげくに、この旧校舎の屋上に追い詰められ飛び降りて死んでしまうことになる」

「わたしや時子にも力があるけど、屋上に逃げる寺井さんを中廊下奥の部室に誘導するのが精いっぱいなの」

「だから、ぜひ寺井さんに入部してもらって、わたしたちを……」

「「世界を助けてもらいたいの」」

 

 二人の先輩の声が揃ったところで再び意識が遠のいていった。

 

☆ 主な登場人物

 寺井光子  二年生

 二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される

 中臣美空  三年生、セミロングで『かの世部』部長

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かの世界の片隅へ:10『志村先輩……』

2018-08-10 15:38:16 | 小説5

かの世界の片隅へ:10

『志村先輩……』    「中廊下のある旧...」の画像検索結果

 

 

 最初に崩れた東側のビルは三か国の共同でつくられた。

 

 実際の工事に入ると、日本以外の二か国の技術では対応できないことが分かった。

 その時点で二か国を撤収させ、日本企業だけで作るべきだった。

 しかし、メンツを重んじる二か国は継続を固執し、日本企業もことを荒立てることを望まず、東棟の建設に部分参加させた。

 結局二か国が担当したところは、三棟を屋上プールで連結するという構造とベクトルと重量に耐え切れずに挫滅し、東棟全体を傾かせることになったのだ。そして、傾いた東棟は西棟、中央棟をも巻き込んで大崩壊に至ったというわけだ。

 これは、崩壊の責任を擦り付け合う、グロテスクな争いになるだろうなあ……光子は思った。

「これは、ただのサンプルなの」「今から説明することのね」

「サンプル……?」

「ええ、こじれても、会社が潰れたり、それぞれの国の評判が落ちるだけのこと」

「世界が滅びるようなことにはならないわ」

「でしょ?」

「ええ……まあ、そうでしょうけど」

「ちょっと切り替えるわね……」

 

 志村先輩が右手を上げると画面が変わった。

 ビルのシルエットはそのままで、シルエットは無数の小部屋に区分けされた。

 小分けされた小部屋には、高校二年の光子の知識では分からない……たぶん歴史的な事件が書かれている。

 歴史的な事件と分かるのは、ところどころ光子でも分かる出来事が書かれているからだ。

 

 平安遷都 元寇 太閤検地 サラミスの海戦 コロンブスアメリカ大陸到達 戊辰戦争 アパルトヘイトの終焉 etc……

 

「歴史年表ですか?」

「なんだけどね……」

「よく見て……」

 中臣先輩が呟くと、画面のあちこちがランダムに拡大されていく。

 

 秀吉が幕府を開く ナポレオンがロンドンを陥落させる ミッドウェー海戦勝利の日本がハワイを占領 リンカーン大統領暗殺失敗 阪神淡路大震災に米軍のトモダチ作戦……

 光子が見ても史実ではないことがチラホラうかがえた。

 

「そう、寺井さんが知っているのとは違う事件が起こった年表」

「たとえば、阪神淡路大震災のとき首相は村山さんじゃない可能性もあったの。すると、もっと早くアメリカの支援も受けたし、自衛隊の出動も早くて、死者は4000人で済むの」

 あの震災では6000人以上の犠牲者が出ていたはずだ……

「2000人以上の命が救われた……すると、どうなると思う?」

 イタズラっぽい視線を送って来る志村先輩。

「そりゃ、良かったんじゃないですか、2000人も多く助かるんだから!」

「すると、こうなる……」

 年表のあちこちが点滅して、事件のいくつかが書き換わった。

「歴史が変わるんだ、先輩……」

 

 振り向くと、志村先輩の姿が無かった。

 

「え、え?」

「2000人助かると、時子は生まれてこないの」

 中臣先輩が、シレッとして言った。

 

☆ 主な登場人物

 寺井光子  二年生

 二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される

 中臣美空  三年生、セミロングで『かの世部』部長

 志村時子  三年生、ポニテの『かの世部』副部長 

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かの世界の片隅へ:09『中臣先輩のロンゲ』

2018-08-08 14:51:54 | 小説5

 

かの世界の片隅へ:09

『中臣先輩のロンゲ』    「中廊下のある旧...」の画像検索結果

 

 

 落ち着いてくると部室の様子が分かって来た。

 

 教室一つ分ほどの部室は畳敷きで、くつろいだ雰囲気なんだけれど窓が無い。三方が障子と襖で、そこを開けると廊下とか別室に繋がっているのかもしれないけど、なんだか、そこには興味を持たない方がいいような気がする。

 中臣先輩が立ち上がって、つられて首を巡らすと、驚いたことに上段……というのかしら、一段高くなっていて、壁面は全体が床の間みたい。三つも掛け軸が掛かっていて、その横は違い棚で、香炉やら漆塗りの文箱みたいなのが上品に置いてある。

 これって、時代劇とかである……書院だったっけ、お殿様が太刀持ちのお小姓なんかを侍らせて家来と話をしたりするところだ。映画かテレビのセットみたいだ。

 中臣先輩は、襖の向こうへ行ったかと思うと、お盆に茶道で使うようなお茶碗を載せて出てきた。

 制服姿なんだけど、お作法に則っているんだろうか、とても和の雰囲気。摺り足で歩くし、畳の縁は踏まない。

 その黒髪とあいまって、大名屋敷の奥女中さんのような雰囲気だ。

 

「まあ、これをお上がりなさい。気持ちが落ち着くわ」

 

 前回と違って落ち着いているつもりだったけど、一服いただくと、自分でも分かるほどに呼吸も拍動も、春のお花畑のように穏やかになってきた。

「落ち着かないと、これからのお話は理解できないからね」

「は、はい」

 もっともだ、うちの学校は古いけど、旧校舎とはいえ、こんな部屋があるのは、そぐわないよ。元々は作法室かなんかだったのかもしれない。そうだよね、学校で畳敷きって言えば作法室か、今は使われなくなった宿直室くらいしかありえない。

「これを見てくれるかしら」

 志村先輩が上段の間を示すと、掛け軸があったところが大型のモニターに代っていて、どこかアジアの大都市を映している。

「大きな三つ子ビルがあるでしょ」

「あ、ニュースで見たことがあります。東アジア最大のビルで、屋上がプールになっていて三つを繋いでいるんですよね」

「うん、先月から右のビルが立ち入り禁止になってる」

「え、そうなんですか?」

「うん、傾き始めていてね、いずれ、他の二つも使われなくなるわ」

「そうなんですか?」

「日本の他に三つの国の建設会社が入って出来たビルなんだけど、技術の差や手抜き工事のために完成直後から傾き始めてね」

「これを見て」

 中臣先輩が手を動かすと、屋上のプールが3Dの大写しになった。

「あ、あれ?」

 プールの水は片側に寄ってしまって、反対側ではプールの底が露出している。

「東側のビルが沈下し始めてるんでプールが傾いているの」

「主に、X国の手抜きからきてるんだけどね、他の部分が、いくら良くできていても、こういうダメな部分があると、使い物にならなくなる」

「三カ月後には、こうなるわ」

 音は押えられていたが、東側が崩れ始めると、それに連れて他の二つも崩壊してしまった。

 3Dの画像なんだけど、崩壊の風圧が感じられ、中臣先輩の髪を乱暴にかきまわし、先輩は幽霊のようなザンバラ髪になってしまった。

「あ、髪の毛食べちゃった」

「トレードマークなんだろうけど、切るかまとめるかしたほうが良くない?」

「だ、大丈夫です……」

「さあ、話はここからです……あ、あ~、ペッ、髪が……こんどは絡んで……」

「やっぱ、切ろうよ」

「あ、いや、それは……」

「覚悟しなさい!」

「と、時子さん、それは無体です!」

 志村先輩が中臣先輩を追いかけ始めて、不思議な説明は中断してしまった。

 

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