大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・逢魔が時・5『かみきり』

2015-10-12 12:50:02 | 小説5
逢魔が時・5
『かみきり』
              

 ロンゲがありがたい季節になってきた。

 ロンゲは朝夕の冷え冷えとした空気から首筋を守ってくれる。
 中学の頃、一度ショ-トにしたことがある。ちょうど今みたいな季節で、摩子は首筋から風邪をひいて一週間ほど寝込んだ。
 それから、また髪を伸ばしはじめ、この秋には腰の上10センチまでの長さになった。
 体育の時間や部活のときはひっつめやポニテにしている。
 クラブが空中分解してからは、体育の時間以外、髪は下ろしたままだ。廊下で何度か森本や顧問と出くわした、二人ともなにか言いたそうにするが、部活の摩子と様子が違うので、今のところ声をかけられることがない。

――……やっぱりなあ……でも……どうしよう……ま、これでもいいか……――

 気が付くと横断歩道の前に来ていた。
 渡ると、またあっちの世界に行ってしまう。一瞬たじろいだ摩子の足許をすり抜けて、猫が横断歩道を渡っていった。
 横断歩道の向こうに着くと、猫は振り返り、ニャーと一声鳴いて路地の方へ。路地の角に両の手が、猫は、その手にすくい上げられる。
 猫をすくい上げた手は、すぐに消えたが、摩子にははっきり分かった。

――あれは、もう一人のあたしだ――

 横断歩道を渡り、路地に踏み込むと、猫も、もう一人の摩子の姿もなかった。振り返ると、道の向こうは真っ黒な闇。
「行くしかないか」
 そう呟いて、摩子は路地に足を踏み入れる。
 人気がないという以外、摩子の世界と同じ世界。
 目だけ動かして、まわりに気を配る。今日のこちらがわの世界は、なんの気配もしなかった。
 今までは、なにかしら気配があって、それが気になる。気になったからと言って怪しげなものに会いたいわけではないけど、それなりに手順というものがあった。
「いきなりというのは、ごめんだな……」
 学校カバンをゆすりあげ、摩子は路地、路地から表通り、そして、また路地と歩いた。
 そうやって黄昏の街を歩いていると、少しずつ街の音がもどってきた。街のかなたに電車が走る……通りの向こうに子どもたちが遊んでいる足音と声、お豆腐屋さんのラッパ、家々からはテレビの音声や、夕飯の用意をする音。
「懐かしいなあ……」
 そう思っていると、なんと、お味噌汁や揚げ物、カレーやなべ物などの夕飯の香りがしてきた。
「ああ、お腹へった……」
 家の晩ご飯が恋しくなった。なったからといって、こちらは向こう側、あやかしの世界。じっさいに家に帰って夕飯を食べられるわけではない。
 でも、それまでと違う穏やかさ、温もり、空腹にひかれ、家の前までやってきた。

「あら、おかえり。腹ペコな顔して」
「……お母さん」
「ちょうど晩御飯の用意ができたとこだから、さっさと着替えてといでよ」
 母は回覧板を手に家の中に、家の中には父の気配もした。
「ラッキー、今夜はすき焼きなんだ!」
 着替えてキッチンに行くと、テーブルのすき焼き鍋の中で牛肉がジュージューおいしそうな音を立てて焼けていた。
「ネットで、近江牛のいいのが出てたから、夕方に着いたとこだ。三人で食べるのは久しぶりだな」
 父が、昨日までの遠慮した様子ではなく、ニコニコ顔で、すき焼きを取り仕切った。
「昔の御手洗家がもどってきたね!」
 摩子も、ニコニコ笑顔で玉子をかき回した。

 一時間以上かけて、楽しい夕飯になった。

「ああ、お腹いっぱい!」
 お腹も心も幸せになり、摩子はゴロンと横になった。
「まあ、行儀の悪い。牛になっちゃうわよ……」
 母の言葉を途中まで聞いて、摩子は本格的に眠ってしまった。

 襟首の涼しさで目が覚めた。

「ん……ここは?」
 摩子は街はずれの空き地で横になっていた。
「あ……あたしの髪?」
 襟首に回した手は髪には触れなかった。慌ててカバンから手鏡をだした。
 手鏡には、ショートカットの摩子が写っていた。
「ええ……どうして!?」

「かみきりにやられたんだよ」

 声をした方を見ると、例の猫。
「かみきり……?」
「寝ている間に髪の毛を盗っていく妖怪。手が込んでるね、摩子をだまして寝かせつけたんだ」
 それだけ言うと、猫はスタスタと夜の闇の中に消えていった。

 摩子は、またいっそう逢魔が時の世界に入り込んでしまったようだ。

 

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高校ライトノベル・逢魔が時・4『べとべとさん・2』

2015-10-10 11:38:25 | 小説5
逢魔が時・4
『べとべとさん・2』
          


 あっちの世界と、こっちの世界、ほとんど違いはない。

 でも、摩子には分かる。口ではうまく言えないが、分かる。
 逢魔が時の横断歩道を渡ると……クラっときて、ひどい立ちくらみのように一瞬なにも見えなくなる。
 見えるようになると、違和感……同じ街の逢魔が時、全てが黄昏色から闇に落ちようとしている。

 だが微妙に違う……そう、気配がするのだ。

 今も気配がしている。
 ついさっきまでは、空中分解してしまったクラブのことで頭がいっぱいだった。
 横断歩道を渡ったとたん、何者かの気配が闇の向こうから……大げさに言えば、纏わりついてくる。
 最初は摩子のソックリだった。
 ソックリは、本当なら横断歩道の無い二車線を横断しようとして、摩子が車に撥ねられ轢かれて死んでしまうことを見せてくれた。
 三日後は、座敷童だった。摩子の家の座敷童だったようで、励ましてやると、父とともに幸せな家庭を取り戻してくれた。
「今度は誰なの……」
 闇に向かってささやいてみたが、気配はそのままで、何も現れてはこない。

 数分待った……なけなしの残照はすっかり無くなり、ボンヤリとした街灯だけが町の切れ端をシミのように浮き立たせている。

 気配は、摩子の後ろにまわった。電柱一本分の背後……べと、べと、べと、音をさせて摩子に近づいてくる。
 摩子は、振り返ることもできず、前に逃げた。
 そいつは、摩子のすぐ後ろまで近づくと、歩調を摩子に合わせた。
 
 べと、べと、べと、べと、べと、べと、べと、べと、べと、べと……。

 走って逃げたい衝動に駆られたが、走れば、たちまち追いつかれそうな気がした。気がするだけでなく、追いつかれた時の自分が見えた。
 追いつかれると、体中の穴という穴から侵入され、心も体も奪われてしまうような恐怖の予感。
 摩子は声も立てず、ひたすら歩いた。
 自分の家の前を二度通過した。違う道を歩いているのだけど、どうやらループしているようだ。

 べと、べと、べと、べと、べと、べと、べと、べと、べと、べと……べと、べと、べと、べと、べと、べと、べと、べと、べと、べと……べと、べと、べと、べと、べと、べと、べと、べと、べと、べと……。

 三度目に家の前を通過したとき、このままでは死ぬと思った。
 そして苦しい息の中、考えが浮かんだ。

 ……道を譲ろう……でも、どうやって……あの気配の名前も分からないのに……。

 べと、べと、べと、べと、べと、べと、べと、べと、べとべと、べと、べと、べと、べとべと、べと、べと、べと、べと!

 とうとう、それが、すぐ背中までやってきたとき、声が出た。
「べとべとさん、どうぞお先に!」
 それだけ叫ぶと、気力が尽き果て、摩子は立ち止まってしまった。

 フッツリ……気配は足音と共に消えた。

 街の気配が、あっちからこっちにもどった。
 


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高校ライトノベル・逢魔が時・3『べとべとさん・1』

2015-10-09 13:31:44 | 小説5
逢魔が時・3
『べとべとさん・1』
          


 気が付いたら渡っていた。

 座敷童のおかげで、父が戻ってきて、御手洗家に平和が戻って来た。
 最悪の場合、学校も辞めて、母と一緒に、この生まれ育った街から出て行かなければならないと思い詰めていた。

 まずは一安心の摩子だったが、学校の問題は解決していない。

 今日の稽古、主役が休んでしまった。
「じゃ、あたしが代役やるね」
 摩子が、そう言ったが、演出の森本は返事もしなかった。
「……じゃ、始めるよ。さ、みんながんばろ!」
 摩子はなけなしの元気を奮い立たせ、笑顔で言った。
「勝手に始めるな」
「だって、他の役者が稽古できないよ」
「揃わなきゃ稽古の意味が無い。役者を揃えておくのは、摩子、舞台監督である、おまえの仕事だろ。それもできないのに、イイコちゃんぶって、稽古、稽古って言うなよ」
「なによ……その言い草は!」

 摩子は、溜まりに溜まっていたものをぶつけてしまった。

「もう演劇部もおしまいだ……」
 口げんかに負けて、森本は、そのまま帰ってしまった。他の部員もいなくなった。
 悔しく情けない思いで胸がいっぱいになり、摩子は夕方まで稽古場を出ることができなかった。
 西に沈む夕陽が稽古場のカーテンを懐かし色に染め始め、優しく弄るように頬の涙を乾かしていく。
 吐息をつくと、床に自分の影がドアの方に延びている。

 ふと影が誘ったような気がした。

 そして……いつの間にか学校を出た……そして……気が付いたら渡っていた。

 あの逢魔が時の横断歩道を……摩子は、もう一段深く、向こうの世界に踏み込んでしまった。


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高校ライトノベル・逢魔が時・2『座敷童』

2015-10-08 11:24:02 | 小説5
逢魔が時・2
『座敷童』
           

 あれから例の横断歩道は現れない。

 三日ほどは気になったが、摩子には学校の悩みがあったので、子どものころからの夢想癖の為せる技と納得した。
 幼いころ、魔女のアニメを観た。魔女は子どもたちを魔界に誘い込み、自分の小間使いに使っていた。アニメを観た後、街のいろんなところで魔女を見かけるようになり、とても怖い想いをしたことがある。映画で純白のウェディングドレスを着た花嫁を見た、すると駅前や商店街のお店のショーウィンドウにウェディングドレスを着た大人の自分が見えたこともある。

 ま、あれの一種だろ。今のあたしには現実の問題がいっぱいあるんだ。

「……オレの脚本のどこが悪い」
 森本は静かに切れた。
 コンクールの脚本候補を出したのは、摩子と部長の森本だけだった。摩子は高校演劇の古典とも言われる既成の脚本を、森本はラノベに影響された自分の創作脚本を押した。
 摩子は、自分の推薦にこだわる気はなかったが、森本の創作劇は、どうにも書けていなかった。人物は類型的で台詞は、ことごとく説明的。転換が多く、道具も大掛かりになる。稽古を進めていっても破綻するのは目に見えていた。

 クラブの調和を守ることを優先して、摩子は、それ以上の反対はしなかった。で、演劇部は壊滅寸前になっている。

 校門を出ると、どっと疲れがやってきた。
 摩子は舞台監督なので、稽古中はハイテンションでいる。ここまで破綻せずに稽古を維持できたのは、摩子の力である。
 でも、この三日ほどは、それも限界になってきている。稽古に人が集まらなくなっている。代役は摩子一人でこなしている。もう全部の役の台詞が頭に入っている。そんな摩子を、森本は疎ましく思っていて、顔色や態度に出る。

「もう限界かな……」

 ここのところ癖になった独り言が口からこぼれた。独り言なので返事する者などはいない。
「そうだニャー」
「エ……」
 猫が追い越しざまに返事をした。三日前、あの横断歩道で追い越していった猫だ。
「いま、喋った?……喋ったよね……」
 猫は一瞬振り返ると、黄昏色の路地裏に入っていった。
「待って、待ってよ!」
 猫を追いかけて、摩子は路地裏をクネクネと小走り。

 お地蔵さんの角を曲がると行き止まりだった。

「あれ……ここを曲がったはず……」
 前には何十年も前からあるような板塀、高さは二メートル以上もあり、あの猫が飛び越えられるようなものではない。摩子は、それでも確かめたくて、板塀に手を掛けた……すると、板塀がクルリと回って、摩子は前につんのめってしまった。
「ウワー!」
 天地がひっくり返り、二階から落ちるような衝撃を感じ、一瞬目がくらんだ。
「ええ…………?」
 見覚えのある小さな崖が目の前に立ちはだかっている、崖の上には板塀……あそこから落ちたんだ……ここは、あの二車線の道沿いにある崖、あの向こうには行ったことがない。

「こっちニャー」後ろで、猫の声。

 振り返ると……あの横断歩道があった。
 猫がお尻を向けて、横断歩道を渡っていく。
「待って」
 猫を追いかけ、横断歩道の真ん中までくると、またグラリときた。

「あ……」摩子はたたらを踏んだ。

 横断歩道を渡ると、電柱一本分先の路側帯におカッパに着物姿の女の子が立っていた。
「……ほんとに来てくれたんだ」
 青白い女の子の頬に、ほんのりと血の気がさした。
「あなたは……?」
「聞かない方がいいよ……それより、あたしに『がんばれ』って言って」
 熱っぽい目をして女の子が言う。「がんばれ」はクラブでさんざん言ってきた言葉、あまりいい感じはしない。
「あたしはちゃんと聞くから」
 女の子は切なそうにに胸で手を組んだ。
「あ、えと……がんばって」
「うん……嬉しい!」
 女の子は、本当に嬉しそうに目を輝かせ、体も光ったかと思うと妖精のように消えてしまった。

「ただいま……あ……!」

 家に帰ると、しばらく見なかった男物の靴が並んでいた。
「……お父さん!」
「おかえり……摩子にもお母さんにも心配かけたな」
 長らく別居していた父が戻ってきた。お母さんも嬉しそうだ。
「お便所みたいな苗字だけど、もしばらく、このままでいようか……摩子?」
 御手洗(みたらい)家に幸せが戻ってきた。

 さっきの女の子は座敷童(ざしきわらし)だったようだ。
 

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高校ライトノベル・逢魔が時・1『ようこそ逢魔が時に』

2015-10-07 14:02:09 | 小説5
逢魔が時・1
『ようこそ逢魔が時に』
         

 ……こんなところに横断歩道?

 摩子はいぶかしんだ。
 小学生のころから学校に通うのには、この二車線の道を渡ってきた、だから間違えようもない。道沿いに建つ家やお店、郵便ポストに自販機、電柱の位置まで頭の中にある。
 むろん、この道にある三つの横断歩道を見間違うことはない。

 電柱四つ分向こうの横断歩道には信号機が付いていて、赤信号で車が溜まっている。あそこまで歩いていったらタイミングがずれそうだ。
 その横断歩道は、街灯に照らされて、とても白く浮き上がって見えた。
――そうか、新しい横断歩道なんだ。きっと学校に居る間にできあがったんだ――
 そう納得して、摩子は肩に掛けた通学カバンをゆすりあげ、横断歩道に踏み出した。

 黄色いセンターラインを越えたところで、一匹の猫が追い越していった。

 この道沿いの野良猫や街猫じゃない……そう思った時、クラっときた。
 一歩よろけただけで身を立て直し、横断歩道を渡り切る。
「アレ…………?」
 黄昏時だというのに、道路に自分の影が伸びている。街灯は摩子の正面、太陽は、ちょっと前に西の空に沈んでいる。
 影は、摩子の脚から離れ、伸びた路側帯の先でムクムクと立ち上がった。
 数秒で影は姿かたちがはっきりした。
 それは、もう影ではなく、摩子そのものであった。
 突然の怪異に、摩子は言葉も出ない。

「とうとうやってきてしまったのね」

 影……いや、もう一人の摩子は、黄昏色に微笑んで言った。
「あ、あなたは……?」
「御手洗摩子……あなたといっしょ」
「……どういうこと?」
「ちょっと車道を見て」
 うながされて車道を見ると横断歩道が無くなっている。
 脇道から、第三の摩子が現れた。学校で嫌なことがあった、そのままの顔で歩いて道の向こう側にやってきて、ろくに道の左右も見ずに渡り始めた。
 黄色いセンターラインまで来たところで、北側から走ってきた車が摩子を撥ねた。

 ボン、ドサ、グシャ……三つの音が続いた。車は摩子を撥ねたうえ、撥ね飛ばされた摩子を轢いていった。
 異様にねじ曲がった摩子の体から血が流れ出て、見る見るうちに道路を赤黒く染めた。

「本当は、ああなっていたの」
「あ……あたしが」
「逢魔が時のこちら側には横断歩道があるの」
 車道の摩子の死体が消えてゆき、再び横断歩道が現れた。
「な、なんなの、これは!?」
「ようこそ、逢魔が時の世界に。いろいろ起こるけど、少しづつ慣れていって。ね……」

 もう一人の摩子は輪郭を失い、元の影にもどり、その影も横断歩道も数秒で消えてしまい、街は神秘と憂愁の中に沈もっていった。
 


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高校ライトノベル・♡RITTLE PRINCESS・5♡♥この胸の苦しさは?♥

2015-10-03 12:40:40 | 小説
♡RITTLE PRINCESS・5♡
           ♥この胸の苦しさは?♥      


「……なんで、あなたはあたしにソックリなの?」

 結衣は、白い闇の中、自分ソックリに進化したバクテリアに聞いた。
 ほんとうは、プリンセスに捕まり(プリンセスは捕まえたという意識はない)火星などに連れてこられたことの方が、よほど不思議なのだけれど、たったいま目の前でおこった不思議の方に思考力のほとんどが費やされている。
「わたしを認めてほしいの」
 バクテリアは結衣と同じ声で言った。
「認めるって……?」
「あなたと同じ姿に進化したでしょ……」
「そうよ、なんであたしと同じ姿に」
「何億年分の進化を一秒でやったの、サンプルがいるわ」
「でも、どうしてあたしなの? プリンセスもアシスもいるじゃない?」
「アシスはロボット、プリンセスは****だからコピーできない」
「なによ****って?」
「え……通じないの?」
 バクテリアは戸惑った。
「****にしか聞こえない、****には意味が無い」
「……仕方がない。とにかく、この姿でいるには、あなたの許可がいるの。姿には、その……著作権のようなものがあるから」
「イヤ!、バクテリアがあたしと同じ姿をしているなんて!」
「そんな……あなたが許してくれなかったら、わたし元のバクテリアに戻ってしまう」
「もどればいいでしょ、頼んだわけじゃないんだから!」
「そんな、残酷だわ。バクテリアが進化して、あなたと同じ姿の人間になるなんて、宇宙のチリが集まって地球や火星ができるほどの確率なのに……」
 バクテリアはサメザメと泣き崩れた。
「え……ウ、ウ……なに、この胸の苦しさは?」
「……シンクロしたのよ、ソックリだから、わたしの胸の痛みが伝わったんだわ」
「そんな……たまらないわよ……ア、痛い、苦しい……分かった、許す!、認めるから!」

 胸の痛みに耐えかねて、結衣が叫ぶと、風が吹いてきて、元の谷にもどった。

「どっちがユイなの?」
 プリンセスが不思議そうに聞く。
「遺伝子マデ、ソックリデス!」
 アシスがビックリした。
「わたしがコピーで、こちらがオリジナルです」
 バクテリアが恥かみながら事情を説明した。
「アア、人間ニナッタノナラ、火星ニ残シテオクワケニハイキマセンネ……」
 バクテリアを進化させた責任があるので、アシスは気まずそうに、バクテリアを連れていくことを提案した。
「ややこしいから、あなたはホクロをつけましょう」
 プリンセスは、バクテリアの目の下に泣キボクロを付けた。
「名前ハ、ドウシマショウ?」
「テリアってよんでください」
「テリア、良い名前ね!」

 火星の地平線に太陽が沈むころ、テリアを加えた四人はケトル号に戻った。


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