大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・048『モンスターハント・2・元帥と合流』

2021-05-31 09:29:02 | 小説4

・048

『モンスターハント・2・元帥と合流』  マーク船長   

 

 

 胸が痛むね……

 

 そう言いながらも、殿下はチーチェのPCを無力化されていく。

 チーチェは、ペットロボットが野生化したものであるが、自己増殖能力を持っている。

 火星のあちこちに散らばっているマース戦争の残骸や遺棄兵器を加工して自分たちの子どもを作るのだ。

 原材料の電子パーツは火星各地の古戦場にいくらでも転がっている。マース戦争のころは、まだ実装弾が使われていたからな。

 実装弾というのは、レーザーやパルスなどのエネルーギー弾ではなくて、昔ながらの銃弾・砲弾の形をしている。

 実装弾の弾頭にはマイクロチップが埋め込まれていて、それが、微妙な弾道修正から敵味方の識別までやってのける。

 はるか三百年の昔、米軍が日本軍の特攻機対策に作ったVT信管が起源だと言われている。VT信管というのは、砲弾の中に極小の真空管が仕込んである近接信管だ。ドップラー効果にによって、目標のエンジン音が低くなった瞬間(最接近した瞬間)に炸裂するようにしたもので、従前の時限信管に比べて有効率は十倍以上に跳ね上がった。

 マース戦争時のそれは、銃弾で数十センチ、砲弾だと数メートルから数十メートルの弾道修正をやってのけ、味方への誤射だと判断すると、軌道を外すだけでなく、信管の無効化までやってのける。口径の小さい銃弾には炸薬が入っていないので、炸裂することが無く、そう言った不発弾や使用済みの弾丸が数千億とも数兆とも言われる単位で散らばっている。

 チーチェは、その実装弾の弾体とICチップを加工して子供を作るのだ。

 この機能は、開発者であるマス漢(マース漢、中国の火星植民地)の若い技術者が開発したもので、そのアイデアは、ニ十世紀末に日本で大流行したタマゴッチが元であると言われている。

 キューー( ノД`)

 パルスナイフでチップを無効化しようとすると、チーチェは首だけになっても、断末魔の鳴き声を発してハンターの心を揺さぶる。

「なんだか、自分が虐殺者になったような気にさせられますねえ……」

「それが、チーチェたちの手です。躊躇は禁物ですよ、殿下」

「大丈夫ですよ、殿下はちゃんとやってらっしゃいます」

「今はまだ小動物のフォルムですが、これが大型獣や人型になると厄介ですねえ」

「それは、言葉にするだけでも悪夢です(^_^;)」

「そうですね、さっさとやっつけてお昼にしましょう」

 

 三人で、それぞれ最後のチーチェの無効化にかかった時に、元帥とヨイチが帰ってきた。

 

「変異体がいるようだぞ」

「「「おお」」」

 元帥の馬の鞍には、通常の1・5倍ほどのチーチェが括り付けてあった。

 ヨイチが外して地面に置いたそれは、形こそチーチェのそれではあるが、中型の成犬のような大きさで、成犬と子犬がそうであるように、大きい分可愛げには乏しい。

「これは、持ち帰って精密検査しなくちゃいけませんね」

 コスモスが結論付けると、ヨイチがテキパキと処理して、自分の馬の鞍に結わえ付けた。

「獲物が食べられると、駆除も捗るんだろうけどな。もも肉なんか、見た目には美味そうなフォルムだが、ただのアルミ合金の外骨格に過ぎんからな」

「では、あの岩陰でランチにしましょう。ヨイチさん、手伝っていただけます?」

「承知しました」

 律儀に敬礼を返すヨイチ、満州戦争以来の副官の挙措動作には無駄も無ければ愛嬌もない。

 銀河の空賊である俺には物足りない男だが、正規軍の下級将校としては、申し分ないんだろう。

 コスモスとは相性がいいようで、将来、彼女に一方面を任せるとしたら、いい相棒になるような気がする。

 馬を岩陰に寄せると、もう、大昔のゆるキャンのように、昼食の準備が始められていた。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信

 

 

 

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ライトノベルベスト『クリカラモンモン』

2021-05-31 06:32:02 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『クリカラモンモン』  




 気配を感じて振り返ると、それがあった……!

「お姉ちゃん、何それ!?」

「この秋のニューファッション。ちょ、ジャマ!」

 あたしは思わず椅子を引いて、机と同化した。あたしの部屋は狭いので、ドアを開けて入ろうとすると、机使用中のあたしは、机にくっつくようにしなければ後ろのアネキが通れない。

 でもって、このアネキが必要なときだけ使いに来る姿見がある。

「琴子も十七なんだから、姿見ぐらいいるよね」

 そう言って、今年の誕生日に払い下げてくれたデカブツだ。いちおう「ありがとう」とは言っておいたけど、アネキにはタクラミがあった。

 あたしの部屋よりも一畳分広い部屋で、クローゼットも、あたしより広いのに、洋服いれを買ったのだ。でもって、姿見の置き場所に困り、プレゼントと称して、あたしに押しつけたわけ。
 
 アネキは、この春に短大を卒業し、この就職難の時に信金に就職。でもって、妹にお小遣いやろうなんて殊勝な気持ちはマルでなくて、ファッションに目覚めちゃった。それも、ネットでちょっと奇抜な(あたしの感想で、本人はアヴァンギャルドなんてカビの生えまくった言葉で正当化)のを安く買ってはコスプレみたくして、ご近所でも、ちょっと評判。

 で、この時のアネキの出で立ちは、ニットのザックリチュニック。色はピンクで、背中を大きく出した分、お尻の裾が長く前は短く、ジーパンならベルトのバックルが見えるくらいにツンツルテン。

 でもって、驚いたのがスパッツ。

 カタチは一応フツーのスパッツなんだけど、まるでクリカラモンモン。
 
 あ、クリカラモンモンてのは、入れ墨のことで、特に全身に施したようなゴージャスなものを指していうらしい。

 らしいってのは、学校の文芸部(今時めずらしい)の課題で、野坂昭如の本を読んだら、これが出てきた。先生は、単に「入れ墨のこと」としか言ってくれないので、家に帰ってから、ネットで大検索。

 で、画像検索すると、スゴイ入れ墨のオンパレード。とてもタトゥーなんてヤワな言葉で表現できるもんじゃない。体の首と名の付くとこ(首、手首、足首)以外彫りまくりってのがゾロゾロ。

 でもって、こういうのを、ガマンとかクリカラモンモンとかいう。

 近所で一人だけ、このクリカラモンモンの米井さんのお爺さんがいる。もう九十を過ぎてカクシャクたるもんだけど、夏の暑い日に、庭でフンドシ一丁で水浴びしてるとこをお母さんが見ちゃった。だから、お母さんに聞いたんだけど、プフと笑ったきり教えてくれない。

 でも。ネットのはすごかった。圧巻は明治時代の名作。御本人の没後、その遺言もあり、皮を剥いで某大学に保存されてるやつ。見事な上り龍だった。周りは、よく分かんないけど、青地に唐草模様みたい。

「お姉ちゃん、そのスパッツ、これと似てるよ!」

 一人、姿見の前で、悦に入っているアネキに(けしてイヤミではなく)画面を見せてあげた。

「ウ……」

 と、一言唸って、自分の部屋へ戻っていった。

「舞子、琴子、今夜台風来るって、一応非難の用意しときな」

 お母さんが階下で注意報。

 このあたりは海抜が低いので、この夏のゲリラ豪雨の時も非難した。その経験があるので、チャッチャと準備。

 泥水で汚れる可能性大なので、動きやすく、かつ汚れてもいいようなものを用意。

 一番の候補は、中学の時のジャージだけども、同じかっこうの後輩たちと避難場所の小学校で顔をあわすのもハズイ。

 で、考えたのが、中学の時に入っていたダンス部の練習着。ダンス部はあたしたちの次から、一式変えたのでガチンコすることはない。そして、少しばっか、かっこいい。

 そして、夜中の寝入りばなに非難警報が出た。寝ぼけ眼で、被難衣を着て、首までファスナーを閉めて、家族で避難した。

 さすがは昭和一ケタ、米井さんのオジイチャンが牢名主よろしく、体育館の舞台前に体操のマットを積み重ね、アグラをかいて収まっていた。

「お、琴ちゃん。なかなか粋だね!」

 ポンと手を打って、木場で鍛えたいい喉で声をかけてきた。避難所のみんなの目線が、あたしに集まった。

 なんと、あたしの練習着の下は、アネキのクリカラモンモンと入れ替えられていたのだ!

 それ以来、近所のガキンチョはクリカラの琴子と囃し立てる。秋のファッションは要注意だよ……。

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コッペリア・9『なんで!?』

2021-05-31 06:03:46 | 小説6

・9 

『なんで!?』 




 神楽坂高校での打ち合わせは簡単に終わった。

 偏差値56……まあまあの学校のようである。

 校長は教員免許をコピーすると、必要な書類をくれた。学年末・学年始めのタイムスケジュール、校内の案内図、それから、お決まりの健康診断依頼書と学校の創立九十年誌。最後の九十年誌は、正直余計だ。一年契約の非常勤講師が学校の歴史を知っても、どうということもない。

「ざっと、校内見て回っていですか?」

「どうぞどうぞ。ただ美術室は、改装工事中で見ていただいても、様子はわかりませんが」

「いいんです。学校の雰囲気を感じておきたいだけですから」

 颯太は、新しい学校に行くと、必ず一人で校内見学をやる。学校というのは、偏差値や校内案内図で分かるものではない。実際に校内を歩き、生徒や職員室の様子、廊下や教室の様子を見てみなければ分からないものである。

 三年生のフロアーは、卒業して人気(ひとけ)がなかったが、一二年生は午前中の授業を受けていた。

 学年末考査も終わった法定授業日数をこなすだけの午前中授業、気の入らないのは当然。どこのクラスも半分前後が居眠り状態。ただ、破滅したようなクラスはなかったので、授業をやる分には問題なさそうである。

 廊下の隅にホコリが毛玉のようになって溜まっている。生徒も教師もあまり気が入っていない証拠と見えた。

 トイレは、まずまずの清潔さ。これは定期的に業者が入って清掃している様子。

 職員室……学校の規模の割に狭い。大半の教師は準備室や、分掌の部屋に籠っているのだろう。事務的な会話以外聞こえない。教師同士の関係は希薄なようだ。教頭と目が合ったので、四月からくる美術の非常勤とだけ自己紹介。さすがに当たり前の挨拶はしてくれるが、他の教師は顔も上げない。

 仕事はともかく、人間関係は希薄な教師集団のようだ。これで学校の秩序が維持できているんだから、生徒はまずまずなんだろう。非常勤、授業さえ穏便にできれば言うことはない。

 とりあえず見るべきものは見た。生徒の下校時間と重ならないように、颯太は校門を出た。

 すると、一人の女生徒が校門を出てくるのと一緒になった。

 早退か?

 一瞬目が合ったが、都心の交差点でたまたま並んだ程度の無関心さで、ほとんど空気のように無視された。こういう時は先に歩いてやった方がいい。一瞬見えたその子は、顔色のわりに元気がなかった。学校に不適応な子なんだろう、できたら授業で会いたくない種類の生徒だ。追い越し際に微かにラベンダーの香りがした。

「やあ、また会っちゃった!」

 帰り道、アパートまで半分くらいのところで、きっちりした清楚な女性に声をかけられた。

「あ、営業用の顔だから分かんないんだ。セラよ、お隣のセラ!」

「ああ、ぜんぜん分からなかった。あのジャージ姿と違うんだもん……案外ってか、清楚なんですね」
「ガールズバーじゃないからね。大人相手の静かめのクラブ。全員が、こうじゃないんだけどね、あたしって、こういうのが合ってるみたい。評判いいんだよ、これでも」

「いや、どうみても良家のお嬢さんですよ!」

「あ、お嬢さんてば、あんたとこの彼女挨拶に来てくれた。良さげな子だけど、着るものに、もうちょっとね……安物のアキバの印象」

「お嬢さんて……」

「もう、この期に及んでトボけんじゃないわよ。じゃあね、フウ君」
 
 まるで女子大生然として、セラさんは駅に行ってしまった。

「うちのお嬢さん……まさか!」

 颯太は、アパートまで駆け出した。で、ドアを開けると陽気な声が返ってきた。

「お帰りフウ君!」

「ただ今……」

 条件反射で応えて、あとは言葉が続かなかった。

 人形が、うっすらと開いた口から言葉を吐いた……と思ったら、颯太の着替えを持って近寄ってきた。

「顔描いてくれてありがとう、おかげで喋って動けるようになった。あ、あたし栞(しおり)て言います。よろしくね」

 関西訛の笑顔。颯太は混乱を通り越して腹が立った。

「なんで、隣のセラさんのとこに行ったりするんだよ!」

「だって、お隣さんやもん。それに、あたしが居てるの気いついてはったし」

「フ、フライングだよ。ボクに断りも無く!」

 そう言いながら、颯太は不思議だった。人形が動いて喋ることより、人形然とした栞が、セラさんには人間に見えたことが……。

 そして、なんで……オレ、普通に喋ってるんだ?

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やくもあやかし物語・81『首を挿げ替える』

2021-05-30 08:53:45 | ライトノベルセレクト

やく物語・81

『首を挿げ替える』    

 

 

 フィギュアは大きく分けて二種類あるんだよ。

 

 材質?

 うん、それもあるんだろうけど、それは知らない。

 動くのと、動かないの。

 わたしの持ってるのは動くフィギュア。

 あちこちに関節が入っていてね、自分の好きなポーズがとらせられるの。顔や手首も、表情の違うのが三つほど付いていて、その時その時の気分次第で換えられる。

 桐乃は、やっぱり腕組みしてプンプンしてるのがいいし、黒猫はジト目でブスッとしてるのがデフォルト。

「うんうん、いいわよね、こんな風に自由に怒ったり笑ったりジト目してみたり、とっても素敵」

「そういや、チカコは、ずっと笑顔ね」

「ああ、あははは……(^_^;)」

 

 話が横道に入っている。

 

 電話を切ってから「明日の服装どうする」って話になった。

 チカコは、まるでお雛様みたいな姿なんだ。

「それって、大変でしょ?」

「出かける時は手首に戻るわ」

 そうか、チカコは手首がデフォルトだった。

「う……でも、それって」

「あ、ちょっと不気味?」

「あはは……」

 万一、人に見られた時に手首ってのはね(^_^;)

 それで、他のフィギュアの服装を参考にしようってことになって、フィギュアを見てもらってるってわけ。

 手首にだって化けられるんだから、首から下の衣装を変えるなんて、お茶の子さいさいだろう。

「うん。このゴスロリさんがいいかなあ」

「あ、黒猫」

「体格が近いし、桐乃さんみたいに、いきなりミニスカというのもね」

「うん、それがいいかも(^▽^)」

 賛同してあげると、チカコは予想もしない行動に出た。

 

 スポン!

 

 なんと、自分の首を抜いたのだ!

 抜いた首を腕に抱え、瞬間迷ってから、フィギュアの椅子に首載せると、首のないまま黒猫に近寄って、自分にしたように首を抜いた。

「えと……」

 首のないままの体で、自分の首を黒猫の体に嵌める。

「……うん、やっぱりピッタリだわ」

 数秒で首は収まって、まるで最初から、自分の体であったように馴染んでしまった。

「じゃ、黒猫さんは、こっちね……」

 黒猫の首を、それまでのチカコの体に嵌める。

 残念ながら、チカコのように喋って動くということは無かったけど、ちょっと頬が染まったような気がした。

 

 そのまま通学カバンに入れら、教科書に挟まれてペッタンコになりそうなので、使っていないペンケースの中に入ってもらうことにする。

 ファスナーを少し開けて、首が外に覗くようにもしてあげる。

 ホー へー ナルホドぉ

 学校に着くまでのあいだ、ずっと首を出して感心しきりのチカコ。

 ダミーに、マスコットのキーホルダーとかもぶら下げて、首を出しても簡単にはバレないようにしてあるので安心。

 校門に入る時、立ち番の先生のいつにない視線を感じて、ちょっと焦った(;'∀')。

 カバンにぶら下げたマスコットが、ちょっと不審なんだ。

 ダミーを含めて三つのマスコット。

 叱られるかなあ……と思ったけど、無事に通れた。

 たぶん、いつもはマスコットもキーホルダーも付けないわたしが、チャラチャラ三つも付けてるのが珍しかったんだ。

 

 放課後、すぐにお地蔵さんのところに行こうと思ったら、図書室当番だったことを思いだす。

 

「あ、インク切れた」

 図書カードの整理をしていた小桜さんが、ボールペンを投げ出した。

「あ、わたしの使って……」

 新刊図書に気を奪われていたわたしは、うっかり言ってしまった。

「サンキュ」

 小桜さんが、カバンを開ける気配がして『あ!?』っと思った。

 でも、遅かった。

「わ、五更瑠璃!?」

 小桜さんが、黒猫の本名を口にして驚いた(;'∀')!

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ)

 

 

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ライトノベルベスト『宇宙人モエの危機・3』

2021-05-30 06:20:59 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『宇宙人モエの危機・3』  




 グァムの日本臨時政府は、戦後の日本国史上初の防衛出動を自衛隊に命じた。

 国内の自衛隊は、今やおそしと出動準備を整えていたが、命令無しの出動はできないと自粛していたのである。

 帝国陸軍そっくりの宇宙軍は専守防衛の名の下に、自らは一発の弾も撃たなかった。全ての戦いを語ることは不可能なので、その幾つかを紹介するに留める。

 まず、国会周辺を中心に戦闘が開始されたが、これがまったく勝負にもなにもならなかった。大は10式戦車から、隊員が撃ち出す小銃弾にいたるまで、宇宙軍は全てを無力化して撃ち落とした。

 千代田区界隈は、またたくうちに、不発弾と化した砲弾や銃弾ミサイルで埋め尽くされた。

 日米安保条約により出動した米軍も例外ではなかった。巡航ミサイルでさえ、故障したラジコン飛行機のように、ドスンドスンゴロゴロと撃ち落とされた。

 二日目に入り、自衛隊は肉弾攻撃を仕掛けてきたが、ことごとく三八式小銃の餌食になった。三八式小銃に撃たれた隊員は死にはしない。ただ昏々と眠り続けるのである。すぐに救護隊が昏睡者を収容するが、18000人を超えたところで、その無駄な攻撃を知り、米軍を含め、戦闘を中止した。

「どうだ、これでいいだろうモエ。一滴の血も流さず、膠着状態に持ち込んだ。いずれやつらは根負けする」

「いったい、あたしはジョ-ンズにどんな救援依頼をしたの?」

「覚えてないのか、助けてと叫んだのを?」

「叫んだとこまでは覚えている」

「だから、モエが集めたデータを基にして、我々はできるだけ目立たず、もっとも効果的な方法で日本を含む極東の安定化を図りにきたんだ」

「目立ちすぎなのよ!」

「それは、モエの勉強不足だ」

「それに、あたしは『時をかける少女』の真琴みたくなりたかったの!」

「それは、無理だな。われわれにも時間を自由に操ることはできないからな」

 お父さん犬が言った。

「報告します。周辺諸国が日本の無力さを知り、周辺の島々を攻撃準備中であります!」

 ビートたけしが報告に来た。

「連合艦隊の出撃だ!!」

 ジョーンズは怪気炎をあげた。

 まず、対馬沖で戦闘の火ぶたが切られた。

 相手国は、空対艦ミサイル、艦対艦ミサイルを撃ち込んできたが、連合艦隊の空母赤城、加賀などから発進したゼロ戦によって、全ミサイルが無力化され、虚しく海中に沈んだ。

 連合艦隊を襲った戦闘機や攻撃機は、対空射撃により実物大の模型に変えられ、これもパイロット達は緊急脱出以外に手が無くなった。

 トチクルった某国は、核ミサイルを撃ち込んできたが、大和の46サンチ砲をまともにくらい、発射直後に角砂糖ミサイルに変わり、辺り一面に角砂糖をばらまいて、飢えた民衆に喜ばれた。

 隣国では、自国軍隊のあまりの不甲斐なさに、各地で暴動が起こり、事実上、国は五つほどに分裂。

 また、ある国では国家が崩壊し、多数の難民が出たが、宇宙軍は、難民と分かった時点で、船や飛行機を模型に変えてしまい。難民達は移動することも出来ず。極東地域は、日本以外ほとんど無政府状態になってしまった。

「これでいいのだ!」

 マッカーサーに化けた宇宙軍最高司令官ジョ-ンズは、厚木基地に降り立った飛行機にコーンパイプをふかしながら呵々大笑した。

「困るよ、ジョ-ンズ。極東はめちゃくちゃだよ!」

「極東は、元来メチャクチャなのが普通の姿なのだ。その中で一人日本だけが平和を謳歌する……日本人の理想じゃないか。モエ、おまえの報告も、救援依頼も間違ってはいなかった。あとはよろしく任務に励み給え」

 そうカッコだけつけると、降りてきたばかりのダグラスに乗って行ってしまった。

 モエは、あそこで階段から落ちなければ……と、後悔した。

   おわり   

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コッペリア・8『顔が描き終った』

2021-05-30 06:11:32 | 小説6

・8 

『顔が描き終った』 




 顔が描き終った。

 

 冷めたコーヒーを飲み干すと午前一時を回っているのに気が付いた。

 描きはじめたのは、夕方の五時だから、延々八時間も、この人形の顔と格闘していたことになる。

 身震い一つしてトイレに入った。描きはじめてから、食事はおろか、トイレにも行っていない。

 トイレから戻ると、床の上のおびただしい消しゴムのカスに気づいた。どうやら清書の前の下描きに大半の時間を費やしたようだ。

 よく見ると、清書した絵具もすっかり乾いている。

「これ、オレが描いたのか……」

 不思議な感じがした。描くのに苦労した感じではなかった。描くことによって、何かが降りてくるのを待っていたというのが正直な感想だ。

 そして、それは日付が変わったころに降りてきたんだろう、それからは一気呵成に描きあげ、描いた顔の造作に納得し、降りてきたものが、静もったのが、ついさっきだったのだろう。絵を描いているときにも、ごくたまに、こういうことがある。

 しかし、それで必ずしも傑作が描けるわけでもない。

 現に、今目の前にいる人形の顔は、アニメキャラのように目が大きい。なんの凹凸も無い口には一筆書きのように、薄い唇が一呼吸もしない間に描かれている。

 よく見ると口が微かに開いているように……いや、実際に口は三ミリほどの隙間で開かれていた。

「オレ、口開けちゃったんだ……」

 鉛筆の削りかすの中に、硬質ビニールの細いかけらが混じっていて、机の上には彫刻刀の箱が開けっ放しになっていた。

「やっぱ、服着せなきゃまずいな」

 颯太は仕上がりの時を予想してディスカウントストアで買ってきた仮装用の服とウィッグを付けた。ボールの関節がむき出しで、色気などはかけらもないが、顔を描くと、人形は、とたんに人に近いものになる。そのことを予想して、最低の衣装とウィッグだけは用意しておいていたのだ。

 服とウィッグを付け終ると、颯太は泥のように眠ってしまった。

 朝は、スマホの着信音で目が覚めた。

「お早うございます。神楽坂高校の校長の田中と申します……」

 さすが東京は反応が早い、ほんの一昨日登録したばかりなのに、都立神楽坂高校から、非常勤講師の口がかかった。颯太は眠気も吹っ飛んで、二つ返事で快諾した。

「つきましては、お顔も拝見したいですし、書類も見ていただきたいので、ご足労ですが、十時にご来校ねがえませんですか」

「はい、十時ですね。承知いたしました、よろしくお願いいたします!」

 切れたスマホに一礼して、颯太は一帳羅のスーツに着替えて、朝ごはんも食べずに部屋を飛び出した。

「あら、お隣さん。引っ越しのご挨拶以来ねえ!」

 部屋の鍵をかけていると、隣のセラさんが出てくるのといっしょになった。

「お早うございます。お早いんですね」

「今日はお休み。で、ごみほりの日だから、立風クンとこはゴミないの?」

「あ、溜まってるんだ!」

 颯太は、慌てて部屋に戻り、溜まっているゴミの袋を三つ抱えて出てきた。

「フフ、お安くないわね」

「え、なんですか?」

「靴を隠してもね、気配で分かるのよ。女の子の気配……」

「そ、そんなんじゃないですよ!」

「まあ、いいって。東京に来て半月。彼女の一人ぐらいできて普通だって」

 ゴミ置き場に手馴れてた様子でゴミを放り込むと、セラさんは同じ方向に歩き出した。

「お出かけですか?」

「まさか、こんなスッピンのジャージ姿で。コンビニに買い出し。立風クンは、仕事見つかったとか?」

「ええ、なんとか非常勤講師の口が」

「あら、立風クン、学校の先生?」

「え、ああ、非常勤だからバイトみたいなもんですけど」

「そりゃ、おめでとう! そうだ、お祝いに……これどうぞ」

 セラさんは、キーホルダーのビリケンさんを外して颯太に渡してくれた。

「前の立風さんからもらったものなんだけど、縁起がいいんだって、お守り代わりにどうぞ」

 颯太は、セラさんを気のいい人だと思った。

 孤独死した人からもらったお守りなんて、普通気持ち悪くて捨ててしまいそうなものだが、セラさんは大事にキーホルダーとして使っていた。くれる時も厄払いのような様子ではなく、颯太の仕事が決まったことを心から喜んでくれている様子だった。

 コンビニの前で隣人と別れると、駅への足取りが自分でも驚くくらいに軽い楓太であった。

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誤訳怪訳日本の神話・42『オモヒカネとアメノホヒノミコト』

2021-05-29 09:18:32 | 評論

訳日本の神話・42
『オモヒカネとアメノホヒノミコト』  

 

 

 八意思兼神(ヤゴコロオモヒカネ)、略してオモヒカネという神さまが登場します。

 

 スサノオが大暴れして高天原をメチャクチャにして、頭に来たアマテラスが天岩戸に隠れた話をしました。

 高天原の八百万の神さまたちは困り果てて、天安河原(あめのやすかわら)に集まって会議をしました。困った時には、みんなで集まって会議をする(大勢の時もありますし、主要メンバーだけの時もあります)のが、日本の神話から現代に至るまでの特徴だと申し上げました。

 その天河河原で議長になって話をまとめたのがオモヒカネなのです。

 自分を騙して岩戸から引っ張り出した張本人なのですが、逆に、そのことでアマテラスはオモヒカネを信頼して、相談役にしておりました。

 まあ、アマテラス自身、岩戸に隠れてみんなを困らせたのは更年期のヒステリー……思っていても、口にしませんし、指摘する不躾な神さまもいません。

 オモヒカネを重く用いることで、そういう反省や気持ちを現していたのかもしれません。。

 

 余談になりますが、日本神話や日本の歴史においては、人を糾弾するということが、あまりありません。

 世界史はズボラな勉強しかしませんでしたので証拠を挙げろと言われると困るのですが、外国では、糾弾が行き過ぎて魔女裁判的なことが、たびたび行われます。

 中世や独立前後のアメリカの魔女裁判は、文字通りそうですし。中世の異端審問(ガリレオがやられました「それでも地球は回っている」の呟きが有名ですね)。フランス革命のジャコバン派などの恐怖政治、ロシア革命、中国の文化大革命、東京裁判などがそうですね。日本人は戦犯として3000人あまりが処刑されましたが、アメリカ人など連合軍側で戦犯に問われた者は、わたしの記憶の中にはありません。

 その、オモヒカネにアマテラスは聞きます。

「ねえ、オシホミミが逃げちゃったんだけど、他に適任者はいないかしら?」

「そうですね……それでは、第二皇子の天之菩卑能命(アメノホヒノミコト)をおつかわしになってはいかがでしょう?」

「そうね……血筋から言ったら、あの子になるかなあ……」

 ということで、アメノホヒが呼び出され豊芦原之千秋長五百秋之瑞穂国(とよあしはらのちあきのながいおあきのみずほのくに)……長ったらしいので、これからは地上と書きます(^_^;)。

「はい、兄に成り代わって、このアメノホヒが地上を治めます!」

 あたかも大河ドラマの主人公のようなカッコよさで引き受けて地上に向かいます。

 しかし、ミテクレはかっこよくとも、政治的な手腕というものは別物です。

 

 アメノホヒがとった政治は、徹底した融和主義とでもいうようなもので、何かにつけてオオクニヌシに相談して政治を行います。

 まるで、源氏の血筋が途絶えた後の鎌倉幕府の将軍です。摂関家や皇子から選ばれた将軍にはなにも決定権がない飾り物でした。

 融和主義というのは、無責任と紙一重なところがあります。

 なんの見通しもなく、ただ優しくすれば道が開けるだろうという、よく言っても楽観主義に陥ることがあります。

 

 幣原喜重郎という、大阪出身の唯一の総理大臣がいました。

 戦前は外務大臣で、大陸に対しては徹底した融和主義をとって、結果的に事態を混乱させ、現地の日本人が多く犠牲になることを防げませんでした。ワシントン軍縮会議では代表になって渡米、当時のタイム誌の表紙を飾ったこともあります。レジ袋を有料化した某長官同様、いわば人気者でした。

 戦後、軍部から遠く、任期もあって、融和主義であったということで戦後二代目の総理大臣になりますが、半年余りの任期では「平和主義」を看板にしただけで、なにもできずに吉田茂にバトンタッチしました。

 二十代の終わりころ、所用で門真市役所に行った時に『幣原喜重郎コーナー』を発見しました。各種受付が並んだ片隅に、学校の購買部ほどのショーケースがあって、レジカゴに三杯分くらいの写真や手紙などの資料が並んでいるだけでした。

 2018年に生誕150年のプロジェクトが企画されたようですが、ざっと見たところ、ちょっと寂しいものを感じました。

 

 脱線しましたが、アメノホヒは、その子の代でオオクニヌシの家来になってしまいました(^_^;)。

 

 アマテラスは、第三の使いを地上に送ることになりますが、今度は、自分の血筋ではない神を送ることになります。

 

 

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ライトノベルベスト『宇宙人モエの危機・2』

2021-05-29 06:43:30 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『宇宙人モエの危機・2』  

 



 新橋駅の高架下あたりからウソみたいに現れて銀座通りを行進していった……。

 九十七式中戦車三両を一個小隊とする戦車隊。それに挟まれるようにしてトラックに乗った何万人という兵隊の流れ。それらは、銀座を東北東に進み、なぜか信号は全て青になり、その帝国陸軍の列は、丸の内を目指し、そこから数隊に分かれ、国会議事堂を占拠するもの、皇居の警備につくもの、警視庁、NHKを占拠するものに分かれた。
 さらに新しく現れた陸軍部隊は、首相官邸、防衛省、各大臣公邸を襲い首相以下、全閣僚の身柄を拘束した。

 NHKを占拠した部隊は、全国民に向けて放送を始めた。

「我々陸軍の決起部隊は、いたずらに混乱を招来するものではありません。戦後、国際法に反して作られた日本国憲法を廃止し、帝国憲法の復活を宣言するものであります。しかし、急速な変化は混乱をもたらすものであるので、法律、行政機関、民間の経済活動は従前のままとし、帝国憲法が周知徹底されるまで、わが帝国陸軍が……」

 隊長の演説は延々一時間に渡って、民放を含む全放送局で流された。

「モエ、これでいいだろう」

 陸軍中将のナリをして、部下を一個中隊引き連れて、ジョーンズが病院にやってきた。

「なによ、ジョ-ンズ、これは!?」

「お前の報告で、地球を救援にきたんだ。いま地球はメチャクチャで、モエの担当である極東は、その中でも不安定要因を大きくしていて暴発寸前だ。だから、モエの情報を元に、一番自然なかたちで秩序を回復しに来たんだ。もう安心しろ」

 そういうと、ジョーンズは美味しそうに缶コーヒーを飲み干した。

「ジョーンズ、あたし、今は女子高生ってのになってるんだけど、あんまり勉強とかできるほうじゃなくて、ちょっと情報が混乱してるみたいに思うんだけど」

「なにを言うんだ。ここまでやったことを今さら止められんぞ。心配するな。モエが間違えた部分は、我々が修正していく。もう、ここに来るまでに、専守防衛という概念を理解した。けして、外国や日本の実力部隊を攻撃したりはしない」

「そうだ、だから安心しろ!」

 犬に化けたカイが、犬語で喋った。

「入ります」

 ビートたけしに似た下士官が入ってきて、不動の姿勢で報告した。

「TPPの交渉に出かけていた副総理が、事態を知って、グアムに臨時政府を作りました」

「あ、そう」

 ジョーンズは、オヤジギャグをとばした。ギャグというのはジョーンズの思念が言っているだけで、モエにはよく分からない。

 なんか、ズレてる。

 モエは、なんだかよく分からなかったが、とんでもない事態を引き起こしてしまったことだけは自覚した。

「だって、学校の授業じゃ、自衛隊も昔の軍隊も区別つかないんだもん!」

 そう言うと、モエは頭から布団を被ってしまった……。

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コッペリア・7『気が付けば春……』

2021-05-29 06:31:34 | 小説6

・7 

『気が付けば春……』 


    

 久々に朝日のまぶしさで目が覚めた。

 颯太は寝坊したのかと思った。時計を見れば、まだ八時を過ぎたところである。

 ここのところ、はっきりしない天気が続いていたせいもあるが、季節は確実に進んでいるようだ。

「もう、春なんだ……」

 はっきりしない頭でも、そう気づかせるほどに明るい陽射しに、颯太は伸びをして、スーツに着替えた。

 美音とのことが傷になって、とりあえず越してきたものの、この十日あまり、ほとんどボンヤリしていた。

 ダラダラと部屋を片付け、近所のホームセンターで必要なものを買ってきてはいるが、きちんと組み立てて使いだしたのは二人用のテーブルと椅子だけだった。
 一人暮らしに、なぜ二人用かというと、ホームセンターのハンパモノで、この二人用が一人用よりも安かったからである。大家と不動産屋のジイサンも時々顔を出してくれる。ならば二人用もありかと買ったのである。
 他の家具や道具は、まだほとんど手つかずである。

 例の人形のおさまりがつかず、決めかねていた……と、自分を納得させてはいた。

 しかし、いつまでもダラダラはしていられない。あてもなく東京に出てきたが、今までやってきた美術講師の経験と履歴でなんとかなると思っている。東京は都立だけで三百近い高校がある。講師の口の一つや二つはあるだろう。

 パソコンで打ちだした履歴書と教員免許を持って山手線に乗った。

 新宿の西口で降りると、散歩と交通費の節約を兼ねて都教委のある第二庁舎まで歩いた。

 新宿のビルは、どれも颯太の感覚では人間が使用する規模とたたずまいを超えている。歩ている自分がひどく矮小なものに思え、通行人は、どこかデジタル映像のように無機質なものに感じられた。
 それでも庁舎に入ると、教育委員会特有の雰囲気が有り、慣れた流れの中で講師登録ができた。

「やっぱ、規模はでかいけど、中身も流れもいっしょだな。ちょっと東京見物でもしようか」

 一人ごちると、颯太は、再び電車に乗り、山手線を半周して秋葉原まで行ってみた。

 三年生は春休み、一二年は学年末の半日授業でアキバは賑わっていた。新宿よりも、アキバの空気の方が颯太にはあっていた。「こういうやつらを相手にするのか」と、高校生たちを見て納得と覚悟をした。

「ま、口さえあればなんとかなるだろう」

 AKBショップの前を通った……つもりだったが見当たらず、検索したら二年も前に移転している。自習監督に行った時、生徒がアキバに行ったら行ってみたいと言っていたのを思い出したのだが、ついこないだだと思っていたのが、ひょっとしたら三年も前のことかと、時の流れの速さを感じた。

 それでも駅前広場は賑わいは面白い。駅前に蠢く人の大半が若者で、目的のショップに向かうオタクたち、キョロキョロと待ち合わせする女子高生、スマホを弄っているのは目的地の情報を検索しているのか、メールを打っているのか。とにかく活気があって楽しくなる。
 足を延ばしてラジオ館に着いた。ここも近年改装したようで、若者たちでにぎわっている。

 ラジオ館は、ドールやフギュアのテナントで一杯の、その道のオタクたちの聖地である。
 入り口のウインドウの中に颯太のところと同じホベツ150のドールが飾ってあった。颯太のところのものと違って、顔の造作が描かれてていた。うまくポーズは付けてあるが、顔もポーズにも何かが欠けている。

 存在感がないんだ……颯太は、そう思った。

 オレなら、もっと生命感のあるものに……いや、あのドールは素体のままでも十分な存在感がある。ほんのちょっと手を加えてやれば……何を考えているんだ。そう思ったときには神田まで足が延びていた。
 
 古本屋街の一角に、絵画と絵具の店があった。颯太は仕事柄、こういう店を素通りすることができない。
 印象派を中心としたレプリカの絵がウインドウで客を引き付けていたが、颯太は、店の奥にもっと面白いものがあるような予感がしていた。

「これは……」

 数ある絵具の中に、それを発見した。

 ビスクドール用の絵具の中に、一つだけフランス製の売れ残りがあった。色やけしたパッケージのフランス語は、颯太の乏しい語学力でも読めた。

――Peinture de vie――

 ええと……生命の絵具?

 直訳すると、そう読めた。

——やってみるか——

 生命萌えいずる春のせいだろうか。

 颯太は、あのドールに、しっかりした顔かたちを描いてやる気になってきた……。

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かの世界この世界:188『疾走! 屋島を目指して!』

2021-05-28 10:00:08 | 小説5

かの世界この世界:188

『疾走! 屋島を目指して!』語り手:テル   

 

 

 嵐の中、屋島を目指して進撃する義経軍を追うようにして西北西に進む。

 

 右手に見えるのは鈍色の海と空。

 ようやく背後から夜が明け始めているんだけど、治まりきらないきらない嵐の為に空と海の狭間は定かではなく、砕けた波しぶきが雨と混ざって頬を濡らしていく。

 身に着けた衣類も背中の背嚢も水を含んでグッショリと重くまつわりつくようなのだが、不快には思わない。

 小学校のプールでやった着衣泳、服を着たままプールに入るのが新鮮で、高揚したのを思い出す。

 ムヘンでの冒険にも高揚感はあったけど、それとは違う。

 異世界とはいえ、ここは日本だ。

 自分の国の風土の中で冒険するというのは格別なのだろう……思うけれどもしまい込む。

 一刻も早く、瀬戸内海を渡って本州の土を踏み黄泉の国を目指さなければならない。イザナミを連れ戻してイザナギとの国生みを完遂させなければ、この物語は破綻……いや、消滅してしまうかもしれない。

「嵐が収まったのか、対岸が見えるぞ」

 ヴァルキリアの姫騎士には戦の嗅覚がるのだろう、疾走しながらも周囲の景色や状況が冷静に見られているようだ。

「あれは小豆島だよ。後にミカンの名産地になる」

「ミカン……オレンジのことですか?」

「ああ、オレンジよりも小振りだけども、味がいい」

「オレンジ以外にも懐かしい香りが……」

 タングニョ-ストも、疾駆しながら余裕の観察。

「オリーブの栽培でも有名になるからね」

「美しい海だ。名前はなんと?」

「瀬戸の海、つづめて瀬戸内海とも」

「うん、やさしい響きだ」

「船に乗って嫁ぐ花嫁と島の分教場が似合う海だよ」

 ……ああ『瀬戸の花嫁』と『二十四の瞳』のことか。お祖母ちゃんが好きだったなあ。

「中国の役人が初めて瀬戸内海を通った時に『日本にも大きな川があるではないですか』と褒めたことがある」

「川だと?」

「晴れていれば、真ん中を通っても両岸が見える。大陸の感覚では黄河とか長江なんでしょうね」

「フフ、大きければいいというものでもないだろうに」

「あれは、なんですか?」

 タングニョーストが、島に広がる緑の縞模様を指さした。

「中国の役人も同じことを聞いたよ。同行した日本の役人が、船のデッキから指さして答えた『段々畑です』。島の農民が撫でるようにして段々畑を営んでいることが、役人には嬉しい。誇るべき勤労の成果なんですね」

「それは分かる、ブァルキリアの北欧でも、少しの平坦地でも利用して畑を作っている」

「中国の役人は、こう記録しました『耕して天に至る』」

「大げさだなあ」

「続きがあります」

「「続き?」」

 ヒルデとタングリスの声が揃う。

「『耕して天に至る、貧なるかな』と。島々の山の頂まで耕さなければならないのは、国が貧しいからだと憐れむんですね」

「失礼な役人ですね」

「フフ、面白い話だ」

 タングニョーストは憤慨し、ヒルデは面白がる。イザナギが時空を超えて日本のあれこれを知っているのも床しいことだけど、ケイトは話に付いていけない。

「なんだか授業を受けているみたいだ(^_^;)」

 わたしは、こういう会話が懐かしい。

 いつか冴子と、こんな感じで話ができる日々が戻れば……思った頃に高松の町が臨める峠に着いた。

 

 え!?

 

 眼下に見えたと思った高松の家々から火の手が上がったかと思うと、ほんの数十秒で町全体を呑み込むような煙になった。

「フフフ……義経というやつ、なかなか面白いことをやるなあ……」

 ヒルデが、同類を見つけたように笑った。

 

☆ 主な登場人物

―― この世界 ――

  •  寺井光子  二年生   この長い物語の主人公
  •  二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば逆に光子の命が無い
  •   中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  •   志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

―― かの世界 ――

  •   テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
  •  ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
  •  タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
  •  タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
  •  ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
  •  ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
  •  ペギー         荒れ地の万屋
  •  イザナギ        始まりの男神
  •  イザナミ        始まりの女神 

 

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ライトノベルベスト『宇宙人モエの危機・1』

2021-05-28 06:40:45 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『宇宙人モエの危機・1』  

     


 アッと思ったときには階段を踏み外していた。

 目の前に色様々な蝶々のように一クラス三十八冊のノートが舞った。

 あたしは、アニメの『時をかける少女』の名シーンを思い出していた。

 真琴が理科準備室で、人の気配に気づいて集めてきたノートといっしょに派手にひっくりかえり、時をかける少女になったところを……。

 気づいたら、保健室に寝かされていた。

「おい、大丈夫か!?」

 担任の保科先生の声が前方、やや上か聞こえた。

「はい、大丈夫……!」 

「笹倉!」

 そう言って保科先生は、前をかき合わせる仕草をした。

「アッ……!」

 ブラウスの第二ボタンまで外され、胸を締め付けないために、ブラのホックまで外されていることに気づいた!

「だめでしょ、例え担任でも男は厳禁!」

 養護教諭のミッチー先生が間に入った。

 ブラは、起きあがった衝撃で、五センチは下に下がってしまい、見えてはいけないものが、見えてしまったことが、保科先生のリアクションで分かった。

「もう、救急車くるからね、身繕いだけはしときなさい。外傷は無いようだから、主に頭のCTだろうね」

 その時、保健室のカーテン越しに救急車のサイレンが聞こえてきた。

 そうだ!?

 救急隊の人たちが来る前に、あたしは右の二の腕の裏を確かめた。

 どうやら、タイムリープ出来る体にはなっていないようだった……残念!

 救急隊のオジサンは、あたしの瞳孔をチェックし、名前とか、今日の日付や曜日の確認をした。

「宇宙歴3634年、オメガの月、第13日」

「……もう一度聞くよ。今日の日付は?」

「あ、2021年7月19日金曜、終業式の日……です」

「緊急搬送!」

 オジサンは、そう部下に指示し、首を固定されてストレッチャーに載せられた。

 なんか、変なこと言ったなあ……と、そのときは、そんくらいの認識だった。

 おかしい……そう思ったのは、病院でCTをかけられている最中だった。

――アルタイル星団調査隊、太陽系第三惑星調査分隊、モエ・ナスターシャ、報告せよ――

 そんな声が、頭の中でして、一瞬のうちに、いろんなことがごちゃ混ぜになった情景が頭にうかんだ。

「おくれ」

「手遅れじゃないよ。タンコブが出来てるけど、たいしたことはない」

「あ……」

「多少脳波にブレがでたけど、これは何かを思い出した波形だね。ジブリの『風立ちぬ』でも観にいって思い出していたのかな? あれは、感動的ないいアニメだったもんね」

 ドクターはベテランらしく、あたしが頭に浮かんだことの半分は当てていた。リバイバル上映の『風立ちぬ』は実際観て感動したんだもん。

 でも、半分は分からなかったようだ。自分でも忘れていた……。

 あたしは、宇宙人だってこと……!

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コッペリア・6『主人公立風颯太の事情』

2021-05-28 06:20:03 | 小説6

・6 

『主人公立風颯太の事情』 






 同姓同名の前の住人、立風さんの事情は分かった。しかし、わが主人公の立風颯太にも事情はあった……。

『好きだったら、どうしてこんなに放っておいたのよ!?』

 四カ月ぶりにかけた電話の向こうで美音(みおん)がなじった。

 颯太は、一瞬で事態を理解した。

 颯太は、芸大を卒業したあと、美術の教師になろうと励んでいたが、この教師不足の時代でも、美術教師に採用されることは簡単ではなかった。美術の教師は、音楽・書道と並んで、一校に一人いれば十分な教科で、なかなか空きができず、試験に合格しても採用に至ることは少なかった。昨年は努力の甲斐あって二次試験まで通っていたが、退職者がいなかったために、採用はされなかったのだ。

 もう三度目の採用試験であった。

 最初の年から、颯太は常勤講師や非常勤講師で食いつないでいた。生徒が言うところのアルバイトの先生で、長くても一年の契約だ。

 そんな不安定な生活の中でも、颯太には美音という彼女ができた。二校目のバイトの学校で教育実習に来た美大生で、一見大人しく時代離れした実直な女子学生。大人しそうな分、自分の仕事や勉強には熱心な学生で、そんな美音を颯太は熱心に指導した。そうして、実習が終わった後も付き合いが続いた。

「こんな時代でしょ。立風先生でも採用がないんだから、あたしは一般企業の宣伝か企画の部署に就職します」

 美音の見通しはドライで現実的であった。

 颯太は、スマホが苦手で、美音には手紙で連絡をとるのが常であった。その手紙に応えるようにして美音が電話をしてきて、月に一二度会っては、映画を見たり美術展に行ったり、つましいが中身の濃い付き合いをしていた。

 その美音から三か月連絡が無かった。やむなく颯太は苦手な電話をした。

「このごろ、どうしてる?」

「……どうして、この三月ほったらかしにしておいたのよ! しっかり掴まえておいてくれなかったのよ!」

 数秒の沈黙の後、美音はなじるように颯太を責めた。

「そうか……分かったよ」

 颯太には、美音の数秒の沈黙と、意外なほどのなじり方で、全てが分かった。

 この三か月の間に颯太が出した手紙は、美音の親によって美音の手に届くことも無く捨てられていたのだろう。娘に未来の見えない男と付き合わせたくない。颯太は親の気持ちを忖度した。そして美音には新しい恋人が出来ている……。

 颯太は、何も言わずに電話を切った。

 本当のことを言っても、美音を混乱させるだけだろうと思ったからだ。

 美音のことが好きなのは確かだ。美音の幸せのためには静かに身を引くべきだと思った。アナ雪でクリストフが瀕死のアナを城に送り、心配顔のまま、その場を去っていく姿と重なった。思えば美音と最初に観た映画がアナ雪だった。ただ自分は、クリストフのようにアナの元に戻るようなことはないだろう。現実はディズニーアニメのようには展開しない。

 美音は、去年の暮れに結婚した。

 颯太は、同じ町にいるべきではないと思った。

 そして、産休講師の期限が切れるのを機に、東京の、このアパートに引っ越してきたのだ。

――不器用なんだね――

 物思いにふけっていると、先代立風さんが残していったノッペラボーの人形が、そう言ったような気がした。

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せやさかい・208『お祖母ちゃんは機嫌が悪い』

2021-05-27 09:46:01 | ノベル

・208

『お祖母ちゃんは機嫌が悪い』頼子     

 

 

 

 女の子は父親に似るっていう。

 

 小学校のころ、クラスにとっても可愛い女の子が居た。

 自分の容貌に自信の無かったわたしは、進んで、その子のお友だちになる作戦を立てて成功し、その子のベストフレンドの一人になることに成功した。

 初めて、その子の家に行って「いらっしゃ~い」と笑顔で迎えてくれる、その子のお母さんを見てビックリした。

 なんというか……子ども心にもブスなお母さんだと思ったのよ。

 でも、その子の部屋で家族写真を見せてもらって合点がいった。

 お父さんが、その子にそっくり! いや、その子がお父さんに似ていたんだ。

 ちなみに、いっしょに写っていたお兄さんはお母さん似だった。

 

 わたしもお父さん似だ。

 

 髪はプラチナブロンド、目はシルバーブルー。ほっぺと唇は、自分でも恥ずかしくなるくらい赤くって、そういうのが嫌だったから、あまり興奮しないように心掛けていた。興奮すると、赤いホッペが、いっそう赤くなって恥ずかしくなるからだ。

 五年生の後半から、グングン背が伸びて、自分でも分かるくらいに大人びてきて、私服で歩いていると、時々声を掛けられるようになった。

 声を掛けてくるのは二種類で、一つは外人さん。

 インバウンドがうなぎ上りのころで、よく道を聞かれた。

「日本人だから、英語わかりません」

 そう答えた。

 ほんとは、お祖母ちゃんと口げんかできるほどに英語は喋れたんだけどね。

 日本人にしろ外人にしろ、外見だけで人の属性を判断されるのは、とっても嫌だった。

 友だちに薦められて『冴えない彼女の育てかた』というのを読んで、アニメにもなっているというので読みながらアニメも見た。

 沢村・スペンサー・エリリって子に親近感。

 お父さんがイギリス人で、境遇と見てくれがわたしに似ている。感受性は、完璧に日本人で、好きな幼なじみに一度も本心が言えないでいるところとかね。

 もう一種類は、いわゆるスカウト。

 その気がないので、まともに相手をしたことが無い。

 あんまりしつこいと、ジョン・スミスの前任者が飛んできた。

 そういうのが嫌だから、東京にはめったに行かなかったし、大阪でもミナミとかは避けていた。

 

 昨日は、自分の内面が日本人であることを、しっかり思い知らされた。

 

『え、なに、それ?』

 いつになく不機嫌な声がモニターから聞こえてくる。

 こういう言い方が耳に入ると、反射的に微笑みを浮かべて画面を見てしまう。

『嫌な顔をするんじゃないの』

 たいてい、これで誤魔化せるんだけども、お祖母ちゃんにロイヤルスマイルは通用しない。

 なんせ、生まれてこのかた、このロイヤルスマイルの総本山をやってきた化け物なんだから。

「あのね、テルテルボーズって言うのよ、一種のラッキーチャーム、おまじないよ」

『ラッキーチャーム?』

「うん、これ吊るしておくと晴れになるっておまじない」

『ふーん……』

 気が無い……どころか、なんだか、今日のお婆ちゃんは十七歳の孫娘に挑戦的な雰囲気。

「あのね、shine shine monk(直訳すると晴れ晴れ坊主)なのよ」

『晴れに文句言うの?』

 これは、分かってイチャモン付けてる。

 お祖母ちゃんも、日常会話程度には日本語は分かってる。日本人と結婚したいっていうお父さんの気持ちに触れたいというので、三か月で日本語会話の三級をとった人だ。

「とにかく、雨期に入って、ただでもコロナ疲れしてる日本が、少しでも晴れやかになりますようにってお祈りなのよ」

『ふーん、その下に書いてある文字は?』

「南無阿弥陀仏、仏教のお祈りの言葉だけどね、これは見本なの。さくらのお寺でやり始めたら、可愛いし平和的だし、うちの領事館でも、グッドアイデアというんで、いろいろ試しに作ってるのよ」

『わたしはクリスチャンよ』

「だーかーらー、これはサンプル! ほら、こっち見てよ」

 媚びるつもりはないけど、お祖母ちゃんを喜ばそうと思って作ったのをカメラの前に持っていく。

『ゴッド セイブズ ザ クイーン……ね』

 あれ?

 なんか、乗ってこない。

『ヨリコには悪いんだけどね、shine shine monkは、なんだか縛り首みたいで……それにGod Save the Queenと書いてあるとね……王党派を処刑した革命みたいよ』

「……お祖母ちゃん、なんかあった?」

『なにもないわよ、ちょっとね、ワクチン注射の二回目を打ったら、痛くってね』

「ドクター・ヘンリー(王宮主治医)も歳なんじゃないの?」

『ヘンリーは注射のボランティアに行ってるから、サッチャーに打ってもらったの』

「え、ミス・サッチャーに!?」

 ミス・サッチャーてのは、エディンバラの屋敷でメイド長をやってたオバハン、コロナがひどくなって、ヤマセンブルグに呼び戻されていたんだ。

『サッチャーは看護師免許持ってるから……1973年に取ったもんだけどね』

「ベテランじゃない!」

『病院勤務は無いって……注射打ち終わってから言ってたわ。48年ぶりに人に注射しましたって!』

「ああ、そりゃ、お祖母ちゃんを不安にさせないために言わなかったのよ……きっと(^_^;)」

『ギネスに申請してあげたいくらいよ、ペーパーナース世界記録』

 

 と、まあ、バカな話をして、近頃サボり気味だったお祖母ちゃんへのオンライン報告を終わる。

 

 それから、ネットで調べたんだけど、大戦中や戦後の動乱のころ、リンチと言っていい縛り首が、ヨーロッパのいろんなところで行われていた。

 それは、お祖母ちゃんの言う通りテルテル坊主を連想させた。お祖母ちゃんは、リアルタイムで、そういうの見てきたんだ。

 やっぱり、日本に居ると、そういう感覚は鈍くなる。

 ちょっと落ち込む。

「考えすぎです!」

 ソフィアに怒られた。

 ソフィアはテルテル坊主を百個も作っていた。

 

 

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ライトノベルベスト『その他の空港・2』

2021-05-27 06:03:03 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト 

 

『その他の空港・2』




 飛行場の周囲は不規則に変わった。令和三年と昭和二十年と……。

「空港長、衛星受信も、各無線も、とぎれとぎれにしか使えません。こちらの問いかけには反応がありません」

 管制塔が泣き言を言ってきた。

 とりあえず、鍾馗の旧陸軍飛行隊の九人は会議室に集められた。

 陸軍側の要望で、窓側のカーテンは閉められている。

 陸上自衛隊Y駐屯地、大阪府警察航空隊、大阪市消防局航空隊、国交省地方整備局の人間も集まり始めた。一時間ほど、互いの状況についての論議があった。

「……分かった。どうやら、七十六年後のY空港と、わが飛行第246戦隊・第246飛行場大隊とが時間を超えてダブってしまったようだな」

 現代人である空港長たちより、旧陸軍の軍人達の方が飲み込みが早かった。

「しかし、いま少し事態を見守ってみては……」

 次長の片倉が取りなした。

「そう言ってるうちに、この戦争は始まったんだ。七十六年たっても変わらんようだな」

「空港長、近畿テレビの日比野さんとは、スマホが繋がりました。こちらは途切れません」

「ええんかね、人のスマホを?」

「非常時です。日比野さん、Y空港見えてる? あ、ちらちらと……」

「急いで、こっち来るように言うてくれるか」

「はい、日比野さん……」

 空が光ったかと思うと、少し遅れて雷鳴が轟いた。

「空港長、整備兵たちが動き始めた」

 滑走路は、九機の鍾馗に整備兵たちがとりつき、整備や弾薬、燃料の補給に余念がなかった。

 どうやら、空港の中でも時空的な混乱が起き始めている。

「蟹江さん、あんたらの戦争は負けまんねんで」

「そんなことは、分かっている。ただ、そこに敵がいて攻めてくる。で、迎撃命令が出ている、だから、我々は出撃する。それ以上の理由はない。そこの軍人のような人なら分かるだろう」

 自衛隊員は、黙って頷いた。

「そこの消防隊の人。燃え尽きる火事と分かったら、消火活動は止めるかね……それと同じだ、おれ達は」

「空港長、紀伊水道を百機余りの大型機の編隊が向かっていると、管制塔が言っています」

「和歌山から、B29の大編隊が北上してくるのが視認されたそうです」

「いまの時代でか!?」

「ええ、でも、レーダーには映らないそうで、自衛隊も米軍も手をこまねいているようです」

「アホな、こっちゃのレーダーには映っとるで!」

「では、自分たちはこれで出撃します。総員搭乗、かかれ!」

 蟹江隊長の一言で、八人の搭乗員は、滑走路の自分の機体を目指して、飛び出していった。

「蟹江さん!」

「目の前のことをやるだけです。ご覧なさい、鍾馗を。爆撃機のエンジンをむりやり戦闘機にくっつけた、あつかいにくいシロモンです。目の前に敵がいるから急ごしらえした機体です。では、行きます」

 蟹江は、窓を開けて飛び出していった。

 その夜、大阪湾上空で、大空中戦が行われた。

 その様子は、役立たずの大阪府の先島庁舎から一番よく見えた。

 B29が六機落とされ、三機が引き返した。鍾馗は全弾撃ちつくし、一機がB29に体当たりして自爆した。先頭の隊長機らしき鍾馗が、それに続く編隊に立ちふさがるようにして飛んだ。そして、滋賀県の八日市飛行場を目指して、飛び去った。

 B29は、九十機に減ったが、大阪の街に爆弾の雨を降らせた。市内各所で爆発は見られたが、映像としてだけであり、実害は、驚いた自動車が十数台物損事故を起こしただけであった。

――夏の夜空に繰り広げられた、謎の空中3Dショー!――

 それが、新聞の見出しであった。

 ただ、空港法で「その他の空港」に類別されるY空港の人たちだけが現実感をもって記憶した。

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コッペリア・5『そもそも人形が届いた理由・3』

2021-05-27 05:43:34 | 小説6

・5
『そもそも人形が届いた理由・3』

 

 

「立風さんは二人姉弟の下なんだけど、ほんとは、下に妹さんがいたみたいなんだ」

 家主は、湯呑の渋茶を飲み干すと、息といっしょに物語を吐き出した。

 立風さんは、高校を四年いっている。つまり落第しているのだ。
 担任の教師が、家まで来て落第を告げて帰ったあと、立風さんのお父さんがポツリと言った。

「楓太、お前と姉ちゃんに兄ちゃんがおったんは知ってるな」

「……月足らずで生まれて、死産の扱いになってんねんやろ」

 立風さんには三つ上の姉の上に兄がいた。ご両親は、まだ新婚一年目で、子どもができると分かったときには、アパート中の人たちが我が事のように喜んでくれた。戦争が終わって、まだ四年足らず、日本は、まだ混乱と貧しさの中、ベビーラッシュだったが、どこの町や村でも「子供が生まれる」と声が上がれば、近所中で喜んだものだ。

 しかし、立花さんの兄は七カ月足らずの早産だった。

 今の医療技術なら生存の可能性は高いが、当時の七カ月足らずは手の施しようが無かった。子犬ほどに小さな赤ん坊は、かすかに産声を上げ、三十分後に亡くなった。三十分でも生存していれば、出生届と死亡届を出さなければならない。そして葬式を出してやらなければならない。

 貧しい若夫婦に、そんな余裕はなかった。

「死産いうことで届けとくさかいにね」

 産婆さんは気を利かして、そういうことにした。

 アパートの住人は、我が事のように憐れに思い、有志で葬式のまね事をやった。

 赤ん坊の祖父は滋賀県の真宗坊主で、袈裟一枚持って、大阪にやってきた。祖父は初孫に釋浄本(しゃくじょうほん)と一人前の法名を授けた。

 赤ん坊は、リンゴ箱の棺におくるみにくるまれ、哺乳瓶一本が添えられ、リヤカーに載せられ、神崎川の河川敷に埋けられた。墓石など立てられるわけもなく。お父さんは、河原のラグビーボール大の石を目印に立て、のんのんと咲いているコスモスを束ね、ありあわせの花瓶に活けて、墓らしくした。

 その墓は、その秋のジェーン台風で跡形も無く流されてしまった。

 この話は、立風さんには耳にタコであった。身に堪える話だが新鮮味は無い。

 だが、自分の下に妹がいたと聞いたのは初めてだった。

「うちは、三人の子供は養われへん。せやから三か月で堕ろしてしもた……女の子やった」

 立風さんの頭に、初々しいセーラー服を着た女の子の姿が浮かんだ。立風さんは十八歳の五月生まれだったから、三つ年下の妹は初々しい高校一年生の姿で焼き付いたのだ。

 映画の早回しのように、イメージが流れた。

 三歳だった立風さんは、お母さんと寝ていたので、三か月の間お母さんのお腹を隔てて同じ布団の中で一緒だったことになる。

 堕ろされると決まった夜、三か月の妹は、生まれたら「ああもしたい、こうもしたい」という想いを三歳の兄に預けていった。

 立風さんは、その妹やジェーン台風で流された兄の分まで生きなければならない。落第した身で、そんな自信は微塵もなかったが、想いとしては、そうでなければならないと思った。

 立風さんは、大学も五年通ったが、三十歳の直前に五回目の教員採用試験に合格して、なんとか人がましい人生を送ってきた。

 仕事一途で、三十年間困難校ばかり回り、留年した生徒やしそうな生徒には手厚い指導をしてきた。

「えらいもんだ、立風さん」

 大家は感心したが、立風さんは寂しそうに否定した。

「ただ、クビにするのが上手かっただけですよ」

「そんなに卑下なさっちゃいけねえや」

「卑下じゃないんです、実際その通りなんです。安易に留年させても、まっとうに卒業する生徒は二十人に一人もいません。残ればダブリとヒネこびて、下の学年をむちゃくちゃにします。悪貨良貨を駆逐するってグレシャムの法則です。学校のためにやつらをクビにするんです。教師としては二級品です」

 この話を聞き終ったころ、颯太の渋茶は、手つかずのまま冷めてしまった。

 立風さんの人形作りには、そういう背景がある。楓太は、まだ、そんなセンチメンタルな背景でしか、人形の素体を見ることができなかった。

 それに、颯太自身、このアパートに越してきたことの心の整理がついてはいなかった……。 

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