大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・イスカ 真説邪気眼電波伝・24「中庭のバトル・1」

2018-01-31 15:18:42 | ノベル

イスカ 真説邪気眼電波伝・24

『中庭のバトル・1』

 

 

 鬼の形相というのは比喩とかデフォルメとかじゃない!

 もう、まるっきりの鬼だ!

 

 薄くなった髪の毛は逆立ち、まるで脳みそが茹って湯気を立てているように見える。目と口は釣り上がり、メリメリと音を立てて裂けている。貧弱な体のくせに肺活量が並の十倍ほどに感じられ、荒い息をするたびにゴジラのようにゴーゴーと音がする、血管が赤や青に浮かび上がり、呼吸の度に膨れ上がりグロテスクなマスクメロンのようだ。

「生徒の分際で教師をコケにしやぐゎって……佐伯いいいい、ちょっとばかり可愛いからって、たてつきやがってえええ……そうだよおおお、おまえの言うとおりだったよ。ネットで調べたら、おまえの言う通りだったさ! オレは驚愕のあまり椅子からずり落ちて、もうちょっとでチビってしまうところだったよ……どこ見てんだあ? こ、これは机の上のお茶をひっくり返したからで、けっしてチビったわけじゃないからなあ……お、おまえら、廊下で笑ってただろう……ささいな間違いを、鬼の首とったみたいに笑ってただろう……可愛い綺麗な顔しながら、そんなクズの劣等生といっしょになってええええええ!」

「そ、そんな、笑ってなんかいません」

「ぐへへ……怯えやがって、怯えても可愛いって反則じゃねーかああああ!!」

 ベキっと音がして、眼鏡が弾け、ブチっと音がしてシャツのボタンが跳んだ。

「こ、怖い」

 佐伯さんが腕にしがみついてくる、オレも怖いんだけど、生意気にも佐伯さんを守らなきゃって気がしてくるぞ。

「ネトゲしかできない面汚しがあ……なんだよ、そんなゲームのモンスター見るような目で見やがってえ……!」

 バリ!

 服が裂けて肌が露出する……それはもう人ではなかった、ムリムリと盛り上がった肉はひび割れて臭くて赤黒い体液をタラタラとこぼしてオレたちに近寄ってくる。

「オレから離れないで……」

 震えながらも、オレは佐伯さんを庇った、庇いながら中庭の奥にジリジリと後ずさる。

「い、いっしょに、く、くくく、食いち……ぎってや……るるる……さ、佐伯ききき、クズといっしょに噛み砕かかかか……かれて……し、し、しまえええええ!」

 グワッ!!

 赤い口を開けて跳躍したそいつは、もはや人間じゃなかった。

 レモンほどの大きさに膨れた瞳は蛇のように縦長で、口からはみ出た舌は腕の長さほどもあって、チロチロ二枚に分かれている。

「危ない!」

 佐伯さんを抱えて遊歩道を転げる。二人の下でシャワシャワと枯れ葉が砕け晩秋の香りが鼻孔に満ちる。

 秋の匂いって枯れ葉の匂いだったんだ……呑気な感動をする。その秋の香りが香ばしくなって……と思ったら、モンスターが火を吐いて、舞い上がった枯れ葉の屑を焼いているのだ!

 グエ!

 奴のかぎ爪が伸びてくる! させるか!

 佐伯さんを抱えたまま身を捩る! ビシュッ! 背中に衝撃!

「キャーーーー!」

「大丈夫、佐伯さんには掠らせもしないから!」

「血……背中から血が」

 オレの背中に伸ばしていた手に血が付いたようだ……どうやら制服の上着ともども背中を切られた。

 グエエエエエ!

 セイ!

 花壇の縁に足を掛け、その反動で転げる! 佐伯さんと俺の頬が密着する。暖かくて柔らかくていい匂いがする……こんな状況に置かれてなお……いや、この余裕なら、まだ大丈夫! ネトゲで鍛えたバトルの感覚はダテじゃねえ!

 と思ったら、中庭の縁にぶち当たって逃げ場所が無くなってしまった!

「北斗君!」

 振り返るまでもなく、奴が迫ってきたことを感じる! 

 セイ!

 佐伯さんを抱えたまま跳躍……できるわけがない、ネトゲの勘は働いても、身体能力はヘタレの高校二年生だ。

 せめて佐伯さんだけでも……思う自分を健気に思う。

 でも、万事休す! 全身を盾にして佐伯さんを強く抱きしめる!

 

 バシッ!!

 

 先ほどとは比べ物にならない衝撃が背中に走った!

 

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高校ライトノベル・国つ神の末裔 一言ヒトコ・5『尖閣諸島沖空中戦』

2018-01-31 06:12:35 | 小説5

国つ神の末裔 一言ヒトコ・5
『尖閣諸島沖空中戦』



 昔、雄略天皇が葛城山へ狩に行った時、山中で、自分たちと同じ身なりをした一行に出会った「何者だそなたたちは!?」そう尋ねると、天皇そっくりの者が、こう言った「吾は悪事も一言、善事も一言、言い離つ神。葛城の一言主の大神なり」 これは、その一言主の末裔の物語である。 



 陳少佐は、尖閣諸島の領空を三十分にわたって侵犯し帰隊する予定で、J-10を低空速度ギリギリのマッハ1.2で飛行していた。

 那覇基地ではスクランブルの司令を受け、F15Jが二機飛び立ったところであろう。那覇基地から尖閣諸島までは三十分ほどかかる。尖閣の領空で出くわしても、ほんの十分ほど、自衛隊機をオチョクレば任務達成である。
 自衛隊は領空を侵犯されても、警告。あとはせいぜい並走してくるだけで、間違っても火器管制レーダーを照射してきたり、アタックポイントに機体を飛ばしたりはしない。

 楽な嫌がらせ飛行のはずであった。

 北西から回り込んで、レーダーに尖閣を捉え始めた時、単発のレシプロと思われる機をレーダーに捉えた。速度は二百ノットそこそこで、無謀にも、陳少佐のJ-10に接近しつつあった。

 目視できる距離にまで近づいたとき、陳少佐は、わが目を疑った。教習生のころに何度か見せられた七十年前の日本のゼロ式艦上戦闘機だった。

 陳少佐の知識では、日本に飛行可能なゼロ戦はいない。ロシアがレプリカを作って売っているという話を覚えていた。
 日本は自由すぎて、時に予測もつかないことがおきる。今日も元総理がクリミアに行って、ロシア寄りの発言をして、中国国内でも笑いものになったところだ。

「ここは、いっちょう脅かしてやるか……」

 陳少佐は、三百ノットまで減速して、ゼロの横に付けた。三百ノットはゼロの最高速度だ。横に付けたらバシバシ写真も動画も撮りまくり、十メートルぐらいに接近して、脅かしてやろうと思った。
 
 信じられなかった。

 横に付けた途端、ゼロは視界から消えた。慌ててレーダーを見ると、真後ろやや上の、絶好のアタックポイントに付けていた。

「ちくしょー!」

 陳少佐は、スロットルを上げて、このポイントから逃げ出そうとした。
 寸前に、ゼロは増速し陳少佐の前に出た。
 ちょっと頭にきた陳少佐は火器管制レーダーを照射した。しかし、相手が本物のゼロなら、レーダー照射を受けたことさえ分からない。ゼロは、悠然と撃てるものなら撃ってみろと距離四十メートルほどに詰めてきた。

「ちょっと怖い目にあってもらうぜ……」

 J-10の23ミリ機銃が火を噴いた。ゼロは、それを予見していたように、寸前で急上昇、陳少佐は戦闘機乗りの性で後を追ってしまった。上昇したゼロは空中に描いたループの頂点で捻りこみをかけ、あっと言う間に、後ろを取られてしまった。急旋回をしているので、スロットルを上げることができない。三百ノットに近い速度でドッグファイトになった。
 マッハを超える急旋回にも耐えられる陳少佐と、中国の主力戦闘機だったが、三百ノットで、三十分やられては体も神経ももたない。
 この間、陳少佐は、一度も後ろを取れていない。相手にその気があれば、いつでも撃ち落される状況だ。

 ついに、陳少佐はブラックアウトしてしまった。長時間の急旋回の連続で血が下半身に集中し、脳の血流が悪くなり、視力を失ってしまうのだ。陳少佐の機体は斜め下に失速しかけた。

 その時、右翼に衝撃を感じた。

 なんとゼロが真横に来て、左翼でJ-10のウイングを叩いたのである。一歩間違えば空中衝突という曲芸である。
 ゼロのキャノピーが開いた。
 白いマフラーをたなびかせ、パイロットが白い歯を見せた。
 陳少佐は、やっとの思いで、映像だけは撮った。

 一時間後、陳少佐の機体はスクラップ寸前の状態で帰隊してきた。

 中国が流した映像には、信じられない人物が写っていた。坂井三郎少尉であった。
 
 ヒトコは、アキバのプラモデル専門店のウインドウに飾ってあるゼロ戦を見続けていた。そして、イメージだけでも自分の能力が発揮できることを確認した……。

「パイロットはポルコ・ロッソの方が面白かったかな……」

 この件について、ヒトコがもらしたたった一言の言葉であった。 

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高校ライトノベル・国つ神の末裔 一言ヒトコ・4『村主勲の憂鬱』

2018-01-30 06:41:04 | 小説5

国つ神の末裔 一言ヒトコ・4
『村主勲の憂鬱』



 昔、雄略天皇が葛城山へ狩に行った時、山中で、自分たちと同じ身なりをした一行に出会った「何者だそなたたちは!?」そう尋ねると、天皇そっくりの者が、こう言った「吾は悪事も一言、善事も一言、言い離つ神。葛城の一言主の大神なり」
 これは、その一言主の末裔の物語である。
 




 衆議院議員・村主勲(すぐりいさお)は、滑るように走る新幹線の中、いささか憂鬱だった。

 昨日は東京大空襲慰霊祭に参列して後ろめたい思いをした。

 終戦当時国民学校の二年生であった勲は、早くから縁故疎開で福島のS町で過ごし、東京大空襲には遭わずに済んだ。
 こういう後ろめたさは、疎開して命が助かった当時の子供ならば、多少なりと持っている感情である。自分たちより年少で、東京に残った子供たちの多くが死んだ。十万人の犠牲者の中でも、十歳までの幼児や子供の死亡率が一番高い。
 そこに加えて、勲は伯父の家への縁故疎開で、食べ物に不自由することもなければ、空襲に遭ったこともない。父はボルネオで戦死し、母と幼い妹は、十日の大空襲で亡くなった。亡くなったと言っても遺体が見つかったわけではない。大勢の身元不明の遺体といっしょに焼かれたのだろう。終戦直前に死亡宣告がされた。
 伯父の家の従兄弟二人は二十歳と十八歳で戦死、跡を継ぐものがいないので、勲は、そのまま伯父の養子になり、戦後つつがなく大学まで進学。その後福島で農協に勤めた後、地元の議員に目を掛けられ、彼の地盤を引き継ぐようにして県会議員になり、四十歳を超えて衆議院議員に当選、今日に至っている。

 その伯父一族も、あの震災で逝ってしまった。

「さ、さっきはすんませんでした」

 トイレに行く途中、学生風が気おされて、すれ違う前に謝った。
「ああ、分かればいいさ」
 鷹揚に言ってはみたが、後ろめたい。昨日の気鬱と、これから福島でやらなければならないことを考えていた勲は、四人掛けのシートで騒いでいた若者たちを叱った。
 若者たちは春休みの旅行に浮かれて、ちょっとはめをはずしていたが、あの叱り方はないと自分でも思っている。

「今日は大震災の日だ。被災地へ向かう人たちも多い、学割で乗っている身で騒ぐんじゃない」

 勲は、議員として社会の裏も表も見てきた、熾烈な選挙戦も勝ち抜いてきた。議場では、いつもどすの利いた野次を飛ばすことでも有名だった。ほんの少し不機嫌そうに叱ったが、彼らにはよほど堪えたようである。
――居ても立っても居られない🎵――
 孫娘が歌って耳にタコになった、AKBの一節が、文字通りヘビーローテーションしている。

 列車の連結部に来た時、一瞬周囲が暗くなった。

「ウ……!?」

 声にならなかった。自動ドアが開くと、そこは新幹線ではなかった。オハ35という戦時中の客車であった。座席と通路は旧日本陸軍の兵士で一杯だった。
 兵士たちは、一瞬勲をみたが、そのあとは、勲など居ないかのように正面を見据えている。今風に言えばシカトである。
 トイレは、その先なので、どうしても通らざるを得ない。混んではいたが水の中に混じった一滴の油のように、兵士たちと触れることもなく次の車両に……。

 次の車両は、集団疎開の国民学校の児童でいっぱいだった。ここでも、みな一瞥はくれるがシカトをきめられた。
 居たたまれない気持ちで車両を通り抜け、デッキに出ると、小さな女の子がいた。

「さ……幸子か」

「兄ちゃん、怖がらなくてもいいよ……選挙対策でもいいよ……後ろめたいのは、兄ちゃんに、済まないという気持ちがあるから。幸子たちのことをかわいそうに思ってくれる気持ちがあるからだよ。世の中気持ち全部で申し訳ないと思える人なんかいないよ。ね、元気出して勲兄ちゃん。泣いちゃだめ、幸子たち悲しいままで、行くところにも行けない。涙拭いて……」

 小さな手を差し上げるようにして、幸子がハンカチを渡してくれた。

 涙を拭くと、幸子の姿は、もうなかった。そして、そこは新幹線のトイレの前だった。

――これで、あのお爺ちゃん、少しは楽になったかな――

 三百キロ近い速度で流れていく景色を見ながら、ヒトコは思った。
 

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高校ライトノベル・イスカ 真説邪気眼電波伝・23「中庭の藤棚」

2018-01-29 16:04:04 | ノベル

イスカ 真説邪気眼電波伝・23

『中庭の藤棚』

 

 

 ビクリとして振り返った佐伯さんは無防備だった。

 

 無防備に驚いていても佐伯さんは美人だ。ひそめた眉に日ごろ見せない可愛ささえ滲ませていて、その下の目はうっすらと涙があふれている。

 その美しさと可愛さと涙に狼狽えて、佐伯さん以上に狼狽えてしまった。

 あ……。

 手にしたキーホルダーに気づいて小さく声を上げ、招き猫みたく顔の横でおいでおいでをし、教科書を腋に挟んだままの左手で出口を指さした。

 ここじゃまずいから、外に出て話そうというジェスチャーだ。

 

「拾ってくれたのね、ありがとう」

 藤棚まで行くと、渡す前にお礼を言われる。

「あ、はい、これ……」

「やっぱ緊張してたのね、荷物持ちかえた時に落としたんだ」

「えと、あ、じゃ……」

「待って」

「え……?」

 振り返ると、佐伯さんはベンチに座って、自分の横をホタホタと叩いた。

「え、あ……うん」

 佐伯さんのすぐ横に座るなんて初めてだ、自分でも分かるくらいにドキドキする。

「わたしね、三宅先生に質問に行ったの」

「え? あ、ああ」

「あ、ひょっとして三宅先生の名前知らなかった?」

「え、あ、うん」

 半年以上も習っているのに、ちょっと恥ずかしい。オレって、どんだけ学校に気が向いてねーんだ。

「ハハ、やっぱ影の薄い先生だもんね、薄いままにしときゃいいのに……ついこだわっちゃうのよね」

「なにかこだわったの?」

「板書と説明が間違ってるんで、質問しにいったの」

「え、あ、すごい」

 オレは質問どころかロクに聞いてさえいない。イスカに躾けられてノートは取るようになったけど、まるで古代文字を写してる感じで、中身なんか気にも留めていない。

「巣鴨でA級戦犯が処刑された日が間違ってたのよ、先生は12月24日って書いたけど、実際は23日」

「え?」

 不用意に反応してしまった。そんな細かいことって思っちまったんだ。

「そうよね、細かいことよ。テストにも出ないでしょうし……先生はね『日本人へのクリスマスプレゼントのつもりだったんだ』って言ったのよ」

「23日だったら?」

「23日は天皇誕生日。クリスマスプレゼントどころか、えげつない当てこすり。たぶん先生は間違えて覚えてしまったのよね、それを気の利いた話のつもりで、ま、余談の範疇の話だから、わざわざ質問に行くことも無かったのにね」

「そんなことないよ、間違いは間違いなんだから先生も素直に認めなきゃ、あんな逆切れは……」

「あ、やっぱ、聞いてた?」

「あ、あ、それは……」

「ううん、仕方ないわよ。キーホルダー返そうとして戻ってきてくれたんだから……それよりも、わたしの話わかってくれてありがとう。でも、つまらない話だから、もう、これで忘れてね……って、自分から話しておいて可笑しいわよね」

「え、あ、ううん。そんなことないよ、誰でも人にぶちまけたいことってあるよ!」

「でも、これでせいせいした!」

 佐伯さんの明るさに、つい笑ってしまう。佐伯さんもアハハと笑って、二人の笑い声が中庭に響いた。

 

 おまえらあああああ……なにが可笑しいいいいいいいいいいい!!

 

 ビックリして目をやると、中庭の入り口に鬼の形相で三宅先生が立っていたではないか!!

 

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高校ライトノベル・国つ神の末裔 一言ヒトコ・3『3月10日の大空襲』

2018-01-29 06:48:33 | 小説5

国つ神の末裔 一言ヒトコ・3
『3月10日の大空襲』



 昔、雄略天皇が葛城山へ狩に行った時、山中で、自分たちと同じ身なりをした一行に出会った「何者だそなたたちは!?」そう尋ねると、天皇そっくりの者が、こう言った「吾は悪事も一言、善事も一言、言い離つ神。葛城の一言主の大神なり」 これは、その一言主の末裔の物語である。 


 ふと昼寝から覚めると、朝だか夜だか一瞬分からないことがる。

 今日のヒトコが、そうだった。
 ただ神さまの末裔なので、そのスケールはハンパではない。
「あ、朝……なんだ午後二時か……」
 そう呟くと、ヒトコは、もう一眠りしようと思った。今日はさる病院の入院患者になっている。この病院の内視鏡手術の失敗が多いので、そのヘタクソさぶりと、名利目当てのいい加減さを告発するために。

 しかし、もう一度時計を見てびっくりした。

 置いていた電波時計ではなく、レトロなベルが頭に乗った目覚まし時計だった。病室も変だ……部屋の日めくりを見てびっくりした。
 昭和二十年三月十日になっていた……。

「タイムリープしちゃった」

 神さまの末裔であるヒトコには時々あることである。元に戻れと念ずれば、あっさり元に戻る。
 ヒトコは、日付がひっかかった。

 昭和二十年三月十日……東京大空襲の日だ!

 ヒトコは、元に戻るのをやめた。これは自分の意志を超えた何ものかの御業に違いない。ご先祖の一言主神……さらに、その上の……。 役割は見当がついた。

 今夜、歴史に残る大空襲が行われ、東京は100万人が罹災、10万人の犠牲者が出る。史上最悪の空襲が数時間後に行われる。それを阻止するのが自分の役割であろうと……。
 325機のB29がやってくる。搭乗員は一機あたり11人。3575人の乗組員を一度にたぶらかすには、ヒトコの力は、あまりにも非力だ。女子高生一人に化けたり、アイドルのソックリさんに化けるのは容易い。でも、3575人……どうやっても手に余る。

 パス・ファインダー機(投下誘導機)によって超低空からエレクトロン焼夷弾が投弾、爆撃地域が照らし出された。

 後続のB29たちは、照準器を使うことも無く、ただ編隊を組んだまま、モロトフのパンかごと言われる爆弾を投下すれば済むだけの話だ。

「爆弾倉扉開放……」

 325人の爆撃手が静に呟く。機銃などの重量物は全て下ろして、通常の倍の7トン近い爆弾が搭載され、今まさに投下されようとしていた。
「全弾投下……」
 全機の機長が静かに命じた。
「全弾投下!」
 爆撃手が復唱し、全弾の信管が抜かれ弾倉架から爆弾が投下された……はずだった。
「なんだ、今の衝撃は?」
 全てのB29の弾倉は開いておらず弾倉架から外れた爆弾は、弾倉の中を転がった。
 爆撃手は、その勘で弾倉が開いていないことを感じ、二度三度と弾倉開閉ボタンのOPENのボタンを押した。

 しかし、それはCLOSEであった。

 大人数に化けることはヒトコにはできないが、B29の弾層扉のボタンを誤認させることは、さほど難しくはない。
 325機のB29は弾倉の中を転がるうちに信管が反応、B29は次々と弾倉から火を吐いて墜ちていった。
 325機のB29の大半は避難のために東京湾を目指していたが、その大半が空中で燃え尽きバラバラの破片になった。

 325機のB29は喪失され、3575人のアメリカ兵が、そして落ちてきた機体のために2000人ほどの日本人が犠牲になった。

 東京大空襲は完全に失敗に終わった。第二次大戦で失われたB29、700機の半分が一度に失われ、アメリカは数か月にわたって、まともな空襲をおこなうことができなくなった。しかし、戦争の大勢を変えることはできず、終戦が一か月延びた。いろんなところに影響が出た。

 ヒトコは分かっていたが、十万人の命を助けずにはいられなかった。

 ヒトコの最初の挫折だった。

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高校ライトノベル・イスカ 真説邪気眼電波伝・22「佐伯さんのキーホルダー」

2018-01-28 13:46:38 | ノベル

イスカ 真説邪気眼電波伝・22

『佐伯さんのキーホルダー』

 

 

 アレっと思っても詮索するような佐伯さんじゃない。

 

 ニコッと笑い、オヘソのあたりで小さく手を振ってくれる。

 こんな時に気の利いた言葉が出てくればいいんだけど、オレは蚊の鳴くような声で「ども」と返すのが精いっぱい。

 そんなブサイク男子の含羞を労わるように、もう一度微笑んでくれる。

 いい子だよなあ、佐伯さんて……。

 

 イスカと佐伯さんの余韻を持て余しながら別館を出る。

 

 あ、別館てのは校舎の一つで、音・美・書の教室と図書の分室(さっきまで居た書庫)とが入っている。

 ふつうの生徒は音美書の授業でもない限り寄り付くことはほとんどない。だから佐伯さんはアレって顔になったんだ。

 ん? とすると佐伯さんは、どうして、あそこにいたんだろう?

 

 カチャリ

 

 ボンヤリ歩いていて、なにかを引っかけた。

 ピンクのキーホルダーだった。自転車とロッカーのキーが付いている。

 キーホルダーのタグには『ERIKA・SAEKI』と書かれている。

 オレは、すぐに取って返した。

 歩きながら思った、佐伯さんはどこへ行くところだったんだ? あの先は図書の分室しかないのに。

 角を曲がって、佐伯さんと出会ったところまで戻ると声がした。

 一人は佐伯さんで、もう一人は……世界史の先生?

――いや、だから、そうとも言えるけど、この場合は……――

――でも、それでは……――

――とにかく授業で言ったり黒板に書いたりしたことが正しいんだ!――

――でも……分かりました――

――分かったのならけっこう、じゃあね――

――失礼しました――

 佐伯さんの声は珍しく角があった、出てくる気配がしたので廊下の奥に引き下がる。

 すると、なんの表記もされていない部屋から怖い顔をして佐伯さんが出てきた。こんな佐伯さんは初めてだ。

 文化祭の芝居に行き詰って屋上に出てきた時の顔とも違う。百パーセント怒りを抑えた顔だ。

 美人が怒ると近寄りがたいもんだけど、佐伯さんとは数学のあととか食堂とかで話をした、ついさっきも控えめな挨拶を交わしたところだ。なにより手元には佐伯さんのキーホルダーがある。

 

「佐伯さん」

 

 オレは、別館を出たところで佐伯さんの背中に声をかけた……。

 

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高校ライトノベル・国つ神の末裔 一言ヒトコ・2『数字がとれない』

2018-01-28 06:24:14 | 小説5

国つ神の末裔 一言ヒトコ・2
『数字がとれない』



 昔、雄略天皇が葛城山へ狩に行った時、山中で、自分たちと同じ身なりをした一行に出会った「何者だそなたたちは!?」そう尋ねると、天皇そっくりの者が、こう言った「吾は悪事も一言、善事も一言、言い離つ神。葛城の一言主の大神なり」これは、その一言主の末裔の物語である。 



 まさかと思っていた。

『探偵ナイトスクープ』の探偵三人が降板されることになった。
 関西ローカルの番組で、二十五年間視聴率二十%以上をとってきた名物番組である。
 最近は、視聴者のテレビ離れを差っ引いても、数字は十五あまりに落ちていた。

「関西はシビアだな……」

 帝都テレビの社員食堂で『サタディーナイト・21』の篠田ディレクターはスマホの記事を読んで独り言ちた。

「なに、不景気な顔してんですか?」
 アルバイトADのヒトコが中華丼を前に据えて、篠田の前に陣取った。
「ヒトコはいいよな、オレの番組ポシャっても、契約は局とだから、痛くも痒くもないもんな」
「サタナイ、やばいんですか?」
「ああ、今期中に数字出さないと、今のクールで番組打ち切りだな。中ドンとは、色気のないもん食ってんなあ、ヒトコも」
「安いし、美味いし、早いし……出てくるのも食べるのも。で、なんか企画あるんですか?」
「AKPのソックリ大集合……」
「ちょっとマンネリっすね……」
「まあ、一応数字はとれるからな」

 一回は、とれるだろうが、長期的展望にたった答えではなかった。ヒトコは業界慣れしていない(感情が正直に出る)篠田が好きだった。
「なんとかなりますよ。審査員モモタローさんで、AKPPOIDOとか、ものまねAKPなんて常連使わないんだから、きっと新鮮な収録できますって」
「ハハ、お前が言うと、ひょっとしたらってぐらいは思ってしまうな」

 ヒトコは、篠田のために一肌脱ぐことにした。

「では、カメリハいきまーす」

 選抜メンバー一組と、ピンが四組。ラストはAKPのヒット曲『希望的ライフライン』を全員で歌ってフィナーレ。間に、それぞれの日常のVが入るという、変哲のない構成だった。

 選抜と、ピン三人のカメリハが終わり、トリの大石クララのソックリさんの番になった。吉良コウという子は、ふとした瞬間クララソックリになるが、特に驚くほどではない。採用された経緯も予定していたクララ似の子が、盲腸をこじらせてアウトになったので、急きょスタッフが、SNSなどで自薦他薦のソックリさんから選んだものだった。

「じゃ、三十分後本番。それまで休憩でーす!」
 チーフADが叫んだ。

「ヒトコ見えないなあ」
「ああ、木スぺに持ってかれました」
「ADからひきあげるってか」
「木スぺは看板ですからね……」
 タイムキーパーと打ち合わせながらチーフADが、敗戦間近の参謀のように言った。

 本番になって驚いた。選抜とピン三人は型どおりだったが、クララのコウが大化けした。

 まるで本物そっくりだった。MCやモモタローとの掛け合いも素人裸足で、偶然他の番組に来ていた本物のAKPのメンバーが入ってくるというサプライズでも、コウは動じなかった。
「いや、まるで本物だあ!」
 卒業間近の高梨みなみも驚いた。
「みなみも、卒業なんかしてないで、このクララと勝負しなよ」

 この一言で、高梨みなみは冗談で「よーし、勝負だ!」と言ったが、その後のクララ人気で卒業は本当に無期延期になってしまった。

 コウは、AKPで、サプライズ登場し、個人的にもクララ自身の人気も押し上げてしまった。
 むろん帝都テレビが放っておくわけはなく『サタデーナイト・21』のレギュラーになり、数字はうなぎのぼりだった。
「そういや、ヒトコのやつ姿見ないけど、まだ木スぺ?」
 篠田が、少し寂しそうに言った。
「ヒトコなら、国に帰るって辞めていきましたけど」
「ああ……そうなんだ」

 コウになったヒトコは、篠田のため息だけで十分だった……。

 

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高校ライトノベル・国つ神の末裔 一言ヒトコ『ちょっと、あなた』・1

2018-01-27 06:31:08 | 小説5

国つ神の末裔 一言ヒトコ・1    
『ちょっと、あなた』



 昔、雄略天皇が葛城山へ狩に行った時、山中で、自分たちと同じ身なりをした一行に出会った「何者だそなたたちは!?」そう尋ねると、天皇そっくりの者が、こう言った「吾は悪事も一言、善事も一言、言い離つ神。葛城の一言主の大神なり」

 これは、その一言主の末裔の物語である。 

 
 莉乃は最近怯えている。

 最初は塾の帰り道だった。
「よう、きみ可愛いじゃん。よかったら車で家まで送っていくけど」
 ワンボックスが微速で莉乃の横に着け、声をかけてきた。最初は、それで済んだが、次は塾の帰り道で待ち伏せされ、しつこく付きまとわれた。

 莉乃は怖くなって、塾を辞めた。

 三日ほどは無事だったが、四日目には学校の帰り道で待ち伏せされるようになった。
 気弱な莉乃は、親にも先生にも相談できず、帰り道を変えて撒くことしかできなかった。

 やがて、その道も読まれてしまった。

「避けることないじゃん。車で楽しくドライブして、お家に送ってあげようってだけじゃん。ねえ、莉乃ちゃん、付き合ってよ~」

 同時に車の中から、数人の男の下卑た笑い声がした。

 莉乃は、一目散に車が入れない生活道路に入った。車を降りて追いかけてくる気配がした。

 いくつか角を曲がり、自分でも知らない旧集落の道に入ったときに声がした。

「ちょっと、あなた」

 若い女の声であった。

 声がする方向に首を向けると、古い祠が目に入った。莉乃は必死で祠の裏に隠れた。

「チ、こっちへ行ったと思ったんだけどな」
「てめえが、グズグズしてっからだろう!」

 男たちの声に言葉も無く、莉乃は目をつぶった。男たちの気配が無くなったので目を開けると、目の前に自分が居た……。

「隣町のチンピラよ、ちょっと頭に乗ってるようね。やっつけておこうか?」
「で、でも……」
 莉乃は、混乱した、自分ソックリな人間が、自分がやってみたいと思うことを言ったのだ、驚きが先になり答えようがなかった。

「任せといて!」

 そう言うと、莉乃そっくりな女の子は祠の裏から飛び出し、莉乃は、そこで意識が無くなった。

「し、仕方ないわね、車で送ってもらうだけよ」
「そうだよ、変なことはしないよ……俺たちがしたいと思っていること以外はな」
 車は、山中の道に入った。男たちは全部で四人だった。後ろのシートはまっ平らにされ、いつでも女の子を押し倒せるようになっていた。

「あにき、もうここらへんで!」

 子分各の少年が上ずった声で言った。
「待てよ、味見は、オレが先だ。おめえらは手足を押えとけ、カメラ忘れんな」
 兄貴格が、ズボンのベルトを外しながら、迫ってきた。
「や、やめて!」
「これからやる楽しいことは録画するからな。警察なんかに垂れ込んだら、SNSで流してやるからな……」
 男は、莉乃のソックリの制服に手をかけた。
「キャー、やめて!」
 莉乃のソックリは、思い切り男の股間を蹴り上げ、男が悶絶している間に車を半裸で逃げ出した。
「待て、このアマアアアアアアアアアアア!!」

 男たちが追いかけてきたが、そこまでだった。

「婦女暴行の現行犯で逮捕する!」

 なんと、山中と思っていたのは街の警察署の真ん前だった。
 そして莉乃ソックリの女の子は、可愛いが、全くの別人になっていた。

 気が付くと莉乃の目の前に、自分のソックリがいた。

「もう大丈夫だからね。もう付け狙われることはないし、警察から呼び出されて事情を聞かれることも無いから」
「あの……あなたは?」
「一言ヒトコ、また縁があったら会いましょ」

 で、気づくと莉乃は、自分の家の前に立っていた。

 ヒトコの久々な仕事だった……。

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高校ライトノベル・小説大阪府立真田山学院高校演劇部公式ブログ・Vol・36『相次ぐ訓告処分など』

2018-01-26 07:16:06 | 小説・2

大阪府立真田山学院高校演劇部公式ブログ・Vol・36
『相次ぐ訓告処分など』



 台風が近づいてるせいか、メッチャうっとうしい気分です。

☆校長先生が文書訓告される

 今日の昼に知ったニュースですけど、うちの校長先生が、先月のうちらの全学ストの責任を取らされて府教委から文書訓告の処分を受けはりました。
 長曾我部先輩が、ほかの三年生と話してるとこにうちの九鬼あやめが聞き耳頭巾になって聞いてきたんで知りました。

 そんでおかしい思たんです。学校を混乱させて、生徒に授業ボイコットさせるような混乱をもたらしたいうことで責任を問われたんです。授業ボイコットが悪いんやったら、処分されるのはうちら生徒の方です。

 もう一歩掘り進んで考えたら、うちら生徒に授業ボイコットさせた先生らが悪いんです。

 もともとは、うちら演劇部が役作りのために自衛隊に体験入隊したことに原因があります。職員会議で、このことを問題にした先生がいてました。理屈は、合宿計画書の提出期限を過ぎてから、合宿をやった、それを認めたいうことで問題にされました。
 理屈としては巧妙です。自衛隊の自の字も出てきません。単なる内規違反(合宿の申し込みは7月20日までに提出)ということです。一時は演劇部の部活停止まで言われ、同調した他のクラブやら生徒会が演劇部支援委員会を作って、先生らと対決しました。
 先生らは、あくまでも手続き論で責めてきました。ほんまは自衛隊の体験入隊いう、今までうちの生徒がしたことないことをやったのが気に入らんのです。先生らも、うちらが授業ボイコットまでやるとは思てなかったみたいで、慌てて教職員内部の問題いうことで処理されてしまいました。顧問の淀先生が顛末書を書き、校長先生が先生らに陳謝。その校長先生が府から訓告。

 なんか間違うてると思います。

 放課後に、主だった生徒らで校長先生に謝りにいきました。校長先生は、かえって労いの言葉をくださいました。その言葉の中身は詳しくは書けません。けど、校長先生と顧問の先生は信頼してます。
 ちなみに、うちの校長先生は、いわゆる民間校長です。とかく他校では問題が多い民間校長さんらですけど、うちの校長先生は偉い人やと思いました。

 訓告は戒告と違うて、履歴には残りません。府教委も形をつけて幕引かんとあかんので、こないしたんやと思います。しかし、大人の世界いうのは釈然しません。


☆劇団兼職の先生らの事情聴取始まる

 浪速高等学校演劇連盟加盟校の顧問の先生の中で、何人かプロ劇団と認知されてる劇団に入ってる人がいてます。前から、いろんなとこで問題になってましたけど、今月に入って府教委が動き始めました。
 きっかけは、連盟の総会の日に欠席してた運営委員の先生らが自分の劇団の公演に出てたいうことを、SNSで書きこんだ生徒がいてたからです。ネットとは恐ろしいもんで、5月に書き込んだもんが回りまわって、今頃問題になってきました。

 わたしは、これがきっかけで健全なアマチュアとして演劇活動やってる先生らが委縮したり、同じ目で見られることを心配します。

 ほんなら、プロとアマの違いは何か? 簡単です、本人がプロやと思てたらプロです。

 プロの役者が食べられへんでバイトやるのは問題ありません。
 プロの教師が、プロまがいに芝居したらあかんと思います。校務員は兼職禁止になってるからです。せめてSNSの職業欄に劇団名書くのは止めたほうがええと思います。

 

 このブログはしばらく休みます、演劇部を始めとする読者のみなさん、ありがとうございました。



   文責 大阪府立真田山学院高校演劇部部長 三好清海(みよしはるみ)


※ これは小説です。いかなる実在の組織や個人とも無関係です。

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高校ライトノベル・イスカ 真説邪気眼電波伝・21「創立百年の書庫」

2018-01-25 16:59:57 | ノベル

イスカ 真説邪気眼電波伝・21

『創立百年の書庫』

 

 

 うちの学校は創立百年を超えるらしい。

 

 普段は、その無駄な古さを感じさせないのは、オレが生まれたころに校舎の建て替えが完了したからだろう。

 校長室とか応接室とかに行けば歴史を感じさせるグッズっがいっぱいあるらしい。

 歴代校長の、それだけで一クラス分くらいある肖像写真、半分くらいは油絵で、初代校長のはモナ・リザの絵のようにひび割れて、セピア色のクスミがあるらしい。他にも歴代部活の賞状やトロフィーとかもあるらしいが、ふだんオレタチが目にすることはない。

 

 こんなところがあったのか……。

 イスカに呼び出された昼休み、オレはため息をついた。

 

「五万冊もあるから、収まりきらないのはここに仕舞われてるの」

 書架の陰からイスカが現れる。オレの方が先に着いたと思っていたから驚いた。

「な、なんだ、居たのか」

「古い本は百二十年前というのもあるわ……そういう本たちは、二人の気配を隠してくれる……ちょっと掴まってもいい?」

「え、あ……」

 返事も待たずにオレの鼻先十センチのところまでやってきて、両手を揃えてオレの胸に当てる。

「あ、あの……」

 このシュチエーション、エロゲだったら初〇ッチフラグが立つところだが、堕天使のイスカではありえねー。

「なに赤くなってんの、チャージに決まってるでしょ。ドラゴンとのバトルで消耗してしまって、こうやってないと倒れてしまいそうなの」

「ああ、あのドラゴンはボスクラスだったからな」

「あれは、ほんのザコよ」

「あ、あれが、ザコ!?」

「ええ、普段はアスティマの金魚鉢で飼われてるタツノオトシゴ。アスティマ自身も地獄の四天王の末席に過ぎない……ようは、いまの堕天使イスカの力は、その程度でしかないということ」

 イスカは眼鏡を取って、一層接近しオレの胸に顔を埋めた。

 シャンプーとかのいい匂いがして、イスカの体温なんかも感じてしまって、ちょっとヤバいぜ。

「………………」

「ごめん、時めかせてしまって……いまのわたし、立っているのもやっとなのよ……」

「あ、ああ……こうしていればいいんだな」

「うん……」

 無意識に両手がワキワキしそうになるが、がんばって耐えた。

「今日はドラゴン一匹だったけど、これからは、もっとすごいのが頻繁に現れる……今朝はほんの十分ほどだったけど、これからは何時間、いえ、何日何か月も時間を止めて戦わなければならなくなる……むろん、この世界は時間が停まって、たとえ百年戦っても一秒にもならないけどね」

「オレって、ヒーラーなのか?」

「ネトゲのやりすぎ……でも、そう、勇馬は、わたしだけのジェネレーターよ」

「で、ここで話って?」

「あ、そうね……こっち来て」

 イスカは、オレを書庫の中央に連れて行った。

 書架は田の字型に配置されていて、中央に立つと四つのブロックが見渡せる。

「勇馬は書庫の通路が交わる、この真ん中なの。まだ理解できていないだろうけど、勇馬は複数の世界に足を突っ込んでいるの、その一つが、この堕天使イスカの世界。あとのいくつかは自分で探ってちょうだい」

 そう言われて思い当たる、ここんとこ『幻想神殿』がちょっとおかしい……でも、あれは単なるネトゲだしな……。

「いずれは、勇馬自身が道を選ばなければならないけど……いまは、わたしの世界に居てちょうだい。この戦いに勝利するまで」

「え、あ……えと……」

「お願い」

「あ、う、うん」

「ごめんね、勇馬の流されやすい性格利用してるみたいで」

 みたいじゃなくて、そうなんだけど……。

「ありがとう、じゃ、教室もどろうか……あ、匂い消しとくね」

 イスカがオレの胸をワイプするように手を動かすと濃厚だった香りが消えた。

「元気がなくなると、こういう女の子らしいオーラが出てしまうの、気を付けるわ。じゃ、先に行くね」

 回れ右をすると、スタスタと行ってしまった。

 タイムラグをつくるつもりじゃなかったけど、数十秒遅れて書庫を出た。

 廊下の角を曲がると、佐伯さんが居て、アレっというような顔をした。

 

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高校ライトノベル・小説大阪府立真田山学院高校演劇部公式ブログ・Vol・35『参加申し込み』

2018-01-25 06:20:14 | 小説・2

大阪府立真田山学院高校演劇部公式ブログ・Vol・35
『コンクールの参加申し込みをしました』



☆ありがたい混乱

 専業部員は3人だけですが、先日の演劇部をめぐる校内紛争の結果、軽音とダンス部が兼業部員として加わってくれたので123人という大所帯になりました。
 台本は『すみれの花さくころ』で、キャストは3人だけです。この本はフレキシブルで、演出のやりかたでどないでもなります。

 原作では、すみれの独白から始まりますけど、テキストレジーして、冒頭を学校の全校集会の設定にしました。ド迫力やと思います。幕が開いたら100人からの生徒がならんで、校歌を歌ってます。そんで……なんやかんやあって(企業秘密)すみれ一人になります。
 途中で6曲入ります。これを仮設の張り出し舞台の上の80人近い軽音で伴奏してもらいます。で、曲のほとんどに、ダンス部がバックで入ったり絡んだり。もう一大スペクタルです。

 正直、ダンス部、軽音に負けてます。パフォーマンスとしての圧が違います。ブッチャケ食われてしまいます。

 正直うちらは、小規模演劇部として小さくなりすぎてました。一大ミュージカルになる芝居に、顧問の淀先生も張りきったり、顎が出そうになったり。

☆一度戻ってきた参加申し込み

 今朝、添付書類で送ってもろたんですけど、「参加生徒数間違ってませんか?」と連盟から問い合わせがありました。「ほんまに123人なんです」言うたら、担当の先生がびっくりしてはったそうです。


☆移動手段

 123人いうても、人間だけやったら電車で行けます。団体割引ができるんで、ええなあと思てました。
 問題は軽音の機材です。アンプとパーカッションがはんぱやないんです。どないしてもトラックが必要なんで、悩みの種です。学校の援助は見込めません。バックナンバー読んでもろたら分かると思います。


☆合同練習のむつかしさ

 これだけの所帯になったんで、時間的にも場所的にも、なかなかむつかしいです。なんとか本番前日は体育館まる借りできますけど、ほかが目途がたちません。全体のバランスとるためと、いろんな意味で色をそろえる必要があります。過去に似たようなことを近畿総合文化祭で、10校ぐらいが集まってやったそうですけど、沈没したみたいです。

 文責 大阪府立真田山学院高校演劇部部長 三好清海(みよしはるみ) 

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大阪府立真田山学院高校演劇部公式ブログ・Vol・34『人間万事塞翁が丙午(ひのえうま)』

2018-01-24 06:56:15 | 小説・2

大阪府立真田山学院高校演劇部公式ブログ・Vol・34『人間万事塞翁が丙午(ひのえうま)』

☆『人間万事塞翁が丙午(ひのえうま)』

 このタイトルの小説知ってる人は、かなり斜めの文学通です。

 青島 幸男(放送作家・元東京都知事)の小説で東京日本橋の仕出し弁当屋を舞台にした作品で青島さん自身の体験記みたいな小説です。
 元の言葉は『人間万事塞翁が馬』いう故事です。人間なにが幸いになるか分からへんいう意味です。これが丙午になると、やったことが裏目に出て、いっそう悪なる。そやけど笑い飛ばして生きて行こう言う人間賛歌です。
 せやけど、うちらは賛歌とは縁遠い……言うたらバチ当たりますけど。

☆演劇部闘争の余波

 前のブログでも書いた通り、うちらの闘争は学校のその場しのぎのスルーで幕を下ろしました。
 うちら生徒はおとがめなしで、顧問の淀先生に顛末書書かせて、学校側は紙屑みたいな勝利を得て面目を保ったつもり。そんで全生徒の学校への幻滅という前世期と同じ、踏んではならない轍を踏みました。
 もう、その影響は授業にも現れてます。先週までは一応の規律が学校にはありました。スマホを授業中に触る生徒なんかいてませんでしたけど、今日は机の下に隠して触ってる子がいてました。大半の先生が見て見いひんようにしてます。一人だけ注意した先生がいてました。規定通り、こない言わはりました。

「授業中のスマホは禁止。預かるから出せ!」

 先週やったら素直に出した思います。その子は、こない言いました。
「ボクがスマホ触ってたて証拠あるんですか?」
「ゴチャゴチャぬかすな! わしは、ちゃんと見てたんや!」
 そない先生が言うと、別の子が言いました。
「その言い方は恫喝や、パワハラみたいに聞こえますけど」
「なんやと……」
 で、そこらへんの生徒と言いあいしてるうちに、スマホの子は履歴を消しました。その上で、こう言いました。
「分かりましたよ。履歴見てください、なんにもあれへんから」
 スマホ見た先生は、言いようのない顔になりました。スマホは取り上げられませんでした。信頼関係築くのは大変やけど、崩すのは一瞬です。一部の先生除いて、先生とは呼べません。呼ばれへん自分らも悲しいです。分かるかなあ、この気持ち……。痛い心に麻酔打ったみたいです。

 授業は静かでしたけど、みんなスルーしました。他の授業もスルーです。べつに反抗やないんです。学校に対しては、そんな気力も残ってません。

「愛の反対は憎しみではありません。無関心なんですよ」

 闘争委員長が最後に先生らの背中に投げたマザーテレサの言葉が浮かびます。

 昼休みに、軽音とダンス部の部長が来ました。

「あの『すみれの花さくころ』て、歌とダンスが入るねんね。あたしらもよせてくれへん?」

 びっくりしました。あの芝居は三人だけの芝居です。せやけど、何べんも改訂されて上演されてるうちにミュージカルになったりして、歌とダンスが増えました。音大の学生さんらが演ったときは完全なレビューみたいになってしまいました。うちらも、ささやかに歌って踊ります。伴奏は長曾我部先輩がアコステでやってくれはることになってます。
「あたしらYouTubeで観たんやけど、あれ、演奏もダンスも人数増やしたら、めっちゃデラックスになるで。コンクールの締切24日やろ、間に合うやんか、軽音とダンス部の選抜入れたら100人近いよ。なあ、列組もうや!」
 まあ、よかったらYouTubeで『すみれの花さくころ』で検索してください。ラストのレビューは感動的です。

 というわけで、正規部員3人兼業部員1人の演劇部が一気に100人を超えることになりました。嬉しいような怖いような。

 放課後、顧問の淀先生に報告にいきました(相談やのうて報告です)先生の目が引きつってました。

「あんたらね、コンクールは8000円の参加料の他に部員数だけのパンフ買わならあかんのよ。なんぼになると思てる?」

 パンフは一部500円……それに100人以上を掛けると……答えは考えんことにしました。

 文責 大阪府立真田山学院高校演劇部部長 三好清海(みよしはるみ) 

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高校ライトノベル・イスカ 真説邪気眼電波伝・20「ドラゴンと空中戦」

2018-01-23 16:01:07 | ノベル

イスカ 真説邪気眼電波伝・20

『ドラゴンと空中戦』

 

 

 教室は跡形もなかった。

 

 ほんの今まで教室であったところは瓦礫の空洞になり、飛び込んできた窓側も廊下と教室の間の壁も廊下側も粉砕されて、ホコリがやコンクリートの微粒子が宙を舞って視界が効かない。

 手のひらをマスクにしていると、わずかに光が見えて、飛び込んできたそいつが中庭で力を回復しつつあった。

 そいつは、クジラほどの大きさのドラゴンだ!

「もう一度時間を停めるわよ!」

 イスカが腕を振るうと、ピタリと時間が停まり、廊下で、え? あれ? なんだ? どうした? とパニクッテいたクラスメートたちが再びフリーズした。あいつらが教室に居たままだったら、みんな死んでいただろう。イスカがみんなを連れ出したわけが分かった。

「瞬間目をつぶって!」

「え、え、なに?」

「いいから!」

「はい!」

 オレは従順な男だが反射が遅い。目をつぶる直前にイスカが素っ裸になったのが見えた。ゲームならラッキースケベなんだろうが、次の瞬間にはイスカの命令が神経に伝達されて目蓋が閉じた。

「わたしの腰に掴まって!」

「お、おー!」

 イスカにくっついたまま空中に躍り出るが体には実感がない。この感覚はVRだ。VRは視覚と体の動きが一致しないことでVR酔いになる。

「うわあああああああ」

 ゲロ吐きそうで目をつぶってしまう。

「情けない男ね! しっかり掴まっていなさい!」

 わずかに残った感覚で、イスカとドラゴンが戦っていることだけは分かる。ちなみにイスカは黒いプラグスーツみたいなのになっている。ツルツル滑るので、オレはよりきつくしがみ付く。チラ見した景色は、学校の上空百メートルくらいで、イスカとドラゴンの空中戦が続いている。そう、空中戦なんだよ、空中戦やってる戦闘機の背中にへばりついてるようなもんだから、一瞬でも気を抜いたら地上に落とされる!

「くらえ! フォールンエンジェルブロウ!」

 ギャオーン!

「フォールンエンジェルパーーンチ!」

 ギャゴーン!

「フォールンエンジェルキーーーック!」

 ギャボゴッ!

「フォールンエンジェルチョーーーップ!!」

 グゲ!

 イスカのアタックが確実にヒットするが、ドラゴンのHPはかなりのもののようで、悲鳴の割には衰えない。

「くそ、数で稼がなきゃならないか……」

「だ、大丈夫かイスカ?」

「しっかり掴まれえええええ!」

「う、うわあああああああ!」

 まるで軌道から外れたジェットコースターだ! 胃の中のものが喉までせり上がってくるが、なんとか呑み込む。

「くそ、スタミナがもたない……」

 ギャオーーーーーーーン!!

 攻守所を変えて、ドラゴンが追いかけてくる! オレをしがみ付かせたまま空中を逃げ回るイスカ!

「セイ!」

 イスカの一声で空間が歪んだまま停止した。

「こ、これは?」

「亜空間に退避した、少し息をつく」

 イスカの荒い息と鼓動が伝わる、真剣なんだこいつは……。

「オレ、邪魔じゃないか?」

「バカ、言ったろ、勇馬はジェネレーターだ、勇馬がいなければこんなバトルできない……」

「そ、そうか……」

「亜空間には三十秒しか居られない……勇馬……」

「な、なに?」

 なんだかイスカの顔が赤い。

「こ、こんなとこで告白とかすんなよ、吊り橋効果であらぬ返事を……イッテー!」

 張り倒された。

「まわした手で我が胸を揉め!」

「え? え?」

「胸を揉めと言っている! エネルギーの急速チャージだ! いくいぞ!」

 亜空間の壁が飛散して空中に放り出される、必死に掴まったオレはイスカの胸を揉む!

「いくいぞ! メテオインパクトオオオオオオオオオオオ!!!!!」

 

 ズギューーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!

 

 次の瞬間、ドラゴンは霧状に分解して拡散していった……どうやら勝利したようだ……。

 

「勇馬……いつまで揉んでいる!」

 

 また張り倒されて、オレは意識を失った。

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大阪府立真田山学院高校演劇部公式ブログ・Vol・33『学校は死んだ。演劇部闘争の果て』

2018-01-23 06:30:59 | 小説・2

大阪府立真田山学院高校演劇部公式ブログ・Vol・33
『学校は死んだ。演劇部闘争の果て』



☆本日の抗議行動

 昨夜原稿を闘争委員長の生徒会長にメールの添付書類で送りまし。

 委員長はさらに添付書類のビラ原稿を執行部と有志に転送。それぞれが50枚ずつコピーして、しめて1200枚のビラを7:50分から正門と通用門に分かれて撒きました。別にポケティッシュが付いてるわけでもないのに、ほとんどの生徒が受け取ってくれました。

 ひやひやもんやったけど、先生らからの制止や妨害はありませんでした。これは校外の人にもめてるとこを見られたないからやと思います。
 一限終了後、闘争委員長といっしょに教頭先生に確認にいきました。

「臨時職員会議は開かない。学校は平常通り授業を行う。教室にいない者はエスケープとして指導する」

 学校はあくまでも強い姿勢です。あたしらは自分らで禁じていたので闘争委員以外の生徒にはスマホで連絡を取ったり、一般生徒を煽ることは自重しました。一部の闘争委員が授業開始後も連絡のためスマホを操作してたら「授業中スマホを触るのは違反や」と先生ともめました。しかし、この程度の引っかけは想定内なんで、素直にスマホを先生に渡して平穏に3限まで終わりました。

 休み時間に、あらかじめ決めていたとおり、廊下を闘争委員が手分けして、生徒会のハンドマイクやらメガホンで緊急の生徒総会の出席参加を叫んで回りました。
 4限が始まって5分もすると523人(闘争委員会調べ)の生徒が体育館に集まってくれました。総合学習の授業ができたクラスは一つもありませんでした。

 闘争委員長の経過報告のあと、あたしが話しました。

「うちら演劇部は、なんにも悪いことしてません。演技の訓練のため自衛隊の体験入隊をやったんです。ちゃんと活動計画書出して学校長の許可ももらいました。それが二学期になって……」
 あとは泣いてしもて喋れませんでした。みんなが「がんばれ!」言うてくれましたけど、ますます喋れんようになります。闘争委員長が代わりに喋ってくれました。最後に「これで間違いないね?」言われて、あたしはコクコクと頷くことしかできませんでした。

 要求通り臨時職員会議が開かれるまでは、全学ストに入ることが満場の拍手で決まりました。48年ぶりの全学ストです。一線を踏み越えたいう気持ちと、何か熱いものを取り戻した感激で胸が一杯になりました。

 そんで、学校は5・6限の授業をカットして臨時職員会議を開くことを、やっと約束してくれました。勝った思たけど、闘争委員長が言いました。

「これはストの実績を残させへんための学校の手ぇや。問題は、臨時職員会議の結果や!」

 単細胞のうちと違うて、さすがは生徒会長。見通してます。
「臨時職員会議が終わるまで学校に残ってくれるように、呼びかけならあかん!」
 そう、みんなが帰ってしもたら、うちらの手に最終的な勝利は残りません。生活指導の先生らが「今から臨時職員会議やる、生徒の管理がでけへんから帰るように。これは妨害とは違う、学校としての管理責任の問題や!」と言うてきました。上手い誘導と闘争つぶしです。そんでも先生の誘いにのらんで、半分以上の生徒が残ってくれました。

☆学校側の回答

 今回のことは、教職員の手続きの齟齬の問題で生徒には責任がないことを確認。つまり反省文は書かんでもええいうことで、一見うちらの要求が通ったような気がしました。

「騙されたらあかん」闘争委員長が手ぇ挙げました。
「ほんなら、責任は教師がとるいうことでお茶濁すんですか。顛末書を淀先生が書くいうことは……まさか顧問に責任押し付けて幕引いたんちゃうやろな!」

 一瞬先生らが静かになりました。ほんで、顧問の淀先生が前に出てきて蒼白な顔で言いました。

「わたしの認識不足。わたしの手続きミス。それが全てです。顛末書を提出しました」
 顛末書の意味が分かりません。
「先生らは学校を死なせた!」闘争委員長の顔が赤なりました。
「いや、始末書やないんや。顛末書いうのは、ことの成り行きを書いただけのもので、始末書にある過失に対する陳謝の意味はないんや」
 教頭先生がにこやかに言わはりました。
「そんな問題やない! 学校は僕ら生徒の怒りをスルーしたんや! 分かってるんでしょ。生徒におとがめなし。顧問に顛末書書かせる。ほんで幕引き。僕らの怒りの矛先を無くしたんや! 前代未聞の日和見や。四十何年前もそないやった。僕らは学習したんです、先輩らの闘争を。同じ幕の引き方や……ほんで残ったんは無気力・無責任・無関心の三無主義やったんや。その結果学校は管理主義のドグマに落ちたんや。先生らが、こないに忙しなったんは、そのせいなんですよ。自分で自分の首絞めてるのん分かりませんか!?」
「とにかく、これですべて解決した。すみやかに解散しなさい」
 そない言うて、先生らは背中を向け始めました。
「先生、逃げるな。これだけは聞いて欲しい!」
 それでも足を止めへん先生らの背中に、闘争委員長は言いました。

愛の反対は憎しみではない。無関心なのですよ……マザーテレサの言葉を送ります」

 数名の先生がギクリと足を止めたけど、先生らは背を向けたまま行ってしまいました。学校は死んだと思いました。

「自分、どこの学校や?」
 
 一人の他校生が体育館の入り口に立ってました。

☆敗北の後

「あんた○○高校の某さんやんか!」

 その子は、みんなの視線を浴びて固まってました。
「なんで来たん?」
「……他人事やないような気がして、つい来てしまいました。ごめんなさい」
 ポニーテールぶん回して頭下げました。うちらは彼女を前に呼びました。で、うちが説明しました。
「この子は、○○高校の演劇部の生徒さんです。連盟(浪速高等学校演劇連盟)のコンクールに審査基準がないんで審査基準持ってくれ言うた人です。連盟は協議することは約束しましたけど、半年たっても回答がありません。連盟は学校と同じスルーしたんです。この子はうちらと同じスルーされた高校生です」

「も、もうええんです。ここに来て、あたしは一人やないいうことが分かったんで、それでええんです」

 拍手がおこりました。でも、それ以上は迷惑になりそうなんで止めました。そやけど、その子も含めてうちらには、今まで無かった連帯感が生まれてました。
「このまま解散するのは惜しいな。負けたけど、この繋がり……どないしょ」
「委員長、みんなで歌おうや!」
 軽音の部長が言いました。軽音の何人かはギター持ってました。そのギターがあの旋律を弾いて、自然に歌になりました。

 『翼をください』の大合唱になりました。

 歌うと、ますます高揚してきます。続いて『今日の日はさようなら』になりました。みんなエヴァンゲリオンは好きみたいです。最後は、なんでか『恋するフォーチュンクッキー』と『心のプラカード』で盛り上がりました。
「で、演劇部はなんの芝居やんのん?」
 ダンス部の部長が言うたのにはカックンでした。

『すみれの花さくころ』です!」

 後輩が言いました。みんなポカーンです。
「あ、歌が入るんです。先輩一曲いきましょ!」
 みんなに拍手されてやらんとあかんはめになって。ラストの曲を歌いました。

『お別れだけどさよならじゃない』YouTubeに出てます。音大のミュージカル科の学生さんです。よかったら観てください。

 負けたけど、大事な仲間がいっぱい増えました。今は、それでええです……ええんです。あたしらは、また歩きはじめますよってに!

 文責 大阪府立真田山学院高校演劇部部長 三好清海(みよしはるみ)

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高校ライトノベル・イスカ 真説邪気眼電波伝・19「さあ、時間を動かすわよ」

2018-01-22 13:58:17 | ノベル

イスカ 真説邪気眼電波伝・19

『さあ、時間を動かすわよ』

 

 

 登校して教室に入り、席に座ってボーっとしていたら、知らないやつばっかでタマゲタことがある。

 

 そんなシュールなことがあってたまるか! と言われるかもしれないが、本当にあった。

 種を明かせばこうだ。

 深夜アニメを観ていたら、めっぽう面白くてさ、オレも、あのアニメのキャラならいいなあ~と思いながら寝たんだ。

 そしたら、夢を見たんだ。ほんとうにアニメのキャラになって女の子と仲良くなるんだ。

 目が覚めても印象が強烈でさ、玄関出たら、女の子が迎えに来てるって設定にして、そのエア女の子といっしょの登校を思い続けたわけさ。口下手なオレにいろいろ話しかけてくれるし、オレのつまらない返事にも「え、そうなんだ!」とツインテール揺らして楽しそうに反応してくれる。もう夢中で教室まで行って、その子は隣の席でさ、話の続きをしてくれる。

「そこ、オレの席なんだけど!」

 声がして驚いた。知らない男子がオレを睨んでるんだ。

 で、気が付くと、周り中しらない奴ばっかで声も出ないんだ。つい今まで横の席に居た女の子も居なくなって、オレはパラレルワールドに来ちまったんじゃないかと焦った。

 すると、うちの担任が廊下で指差してんの――あっちあっち――

 ようやく悟った。

 夢の続きをトレースしていたオレは、一つ手前の教室に入ってしまったんだ。

 

 いっぺんに顔が赤くなって、教室のみんなにも廊下の担任にも笑われるし、とってもハズイ思いをした。

 

 あの小学三年生の時と同じショックを受けた。

 教室に入ったら、バグったゲームみたいにみんながフリーズしているじゃねーか!?

 入って直ぐが門田の席なんで、オレは門田を見た。文化祭でシナリオと演出をやってのける奴で、あまり口は利かないけど、ちょっとばかしは尊敬している。奴なら説明とかしてくれるんじゃないかと思ったんだ。

 奴は、他の男子とふざけていたみたいで、ジャンプしながら笑っていて足が床から五センチほど飛び上がっている。その横の佐伯さんもビックリした顔のまま体を捻って、横の女子にしがみ付こうとして、しがみ付かれようとしている女子はのけ反った勢いでスカートが翻って太ももの付け根まで露わになっている。

 夕べはアニメなんて観なかったぞ! じゃ、なんで!?

 

「わたしが停めたの」

 

 斜め後ろで声がして、ビックリして振り返った。

「イス……西田さん、動けるの?」

「わたしが時間を停めたの、停まっている間はイスカでいいから」

「あ、えと、どうして?」

「あまり余裕は無いの、教室のみんなを廊下に運び出す、手伝って」

 そう言うと、イスカはしゃがんで門田の脚を抱えた。

「一人じゃ持ち上がらない、上半身を抱えて」

「あ、あ、うん……でも、入り口のドア外さないと出せないんじゃ?」

「あ、そうね、外して」

 摩訶不思議な状況なんだけど、良くも悪くも指示されるとやってしまう。

 時間が停まっていても関節は動かせるようで、出すのに、それほどの苦労はない。廊下に出すと関節はゆっくりと元の姿勢に戻っていく。

 男はそれほどでもないけど、女の子を動かすのは気づまりだ。だけど、そこは阿吽の呼吸で、イスカはオレが持ちにくいところを持って運んでくれる。いつのまにこんな連携が取れるようになったんだ?

 ニ十分ほどかかって十三人いたクラスメートを廊下に出した。秋も終わりだというのに汗だくになる。

「さあ、時間を動かすわよ」

 以前のように決め台詞があるのかと思ったら、イスカはパチンと指を鳴らすだけだった。

 

 グワッシャーン!!

 

 とんでもない音がして、なにかが飛び込んできて、オレたちの教室一つを粉々にして飛び去って行った……。

 

 

 

 

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