大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・290『捨てられへん!』

2022-03-31 15:44:41 | ノベル

・290

『捨てられへん!』   

 

 

 はあ~~~~~~~~~

 

 万感の思いが溢れてため息になる。

 今日で、まる三年。

 お母さんと如来寺に引っ越してきて、苗字が変わって、安泰中学に入って、その卒業式も終わって。

 去年からは、留美ちゃんもいっしょに暮らすようになって。

 それが、見える形で目の前にある。

 ああ、感無量。

 

「思いに浸るのはいいけど、ほとんどさくらのだからね!」

 うう、怒られた。

 怒ってるのは、従姉妹の詩ちゃん。留美ちゃんは困った顔で笑ってる。

「これってさ、わが酒井家の男の血だわよ」

「え、酒井家の男?」

 言われて、なるほどと思う。テイ兄ちゃんもお祖父ちゃんもガラクタが多い。

 あたしは、ものが捨てられへん性質。あたしは男か!?

 こないだ、お片付けしたばっかりやねんけど、高校生活を目前にして、ここんとこ部屋のモデルチェンジ。

「でも、さくらの持ち物って、もらった物が多いですよ」

「せやろ、道歩いてたら近所の人らが『やあ、お寺のさくらちゃんやんかあ』言うて、いろいろくれるさかいに……」

 今まで、人に紹介せえへんかったけど、うちの(正しくは、うちと留美ちゃんの)部屋は、貰い物がいろいある。

 サイドデスク  ロッカー  飾り棚  洋裁のトルソー  ミシン  オーディオ一式  特大のバービー人形

 貯金箱いろいろ(中身は入ってへん) イーゼル  タコ焼き機  ゲーム機あれこれ  液タブ  エトセトラ

 

 最初はね、婦人部長の田中のお婆ちゃんに「ちょっと机が狭いねん」と愚痴をこぼしたら、近所の人が新品同然のサイドデスクよかったら……いう話を持ってきてくれて、それから、なにかにつけて「さくらちゃん、これどないや?」「これもどうぞ」「あれもどうぞ」ってなことで、今に至ってるわけですわ。

 詩ちゃんも気ぃつかってくれて、お互いさまというかたちで、ちょっとしたもの(ティッシュの買い置きやら、プリンターのインクやら……)あんまり嵩の大きないやつを、うちの部屋に持ち込んでた。

 でもね、高校に入ったら家庭科がんばろ思て、トルソーとミシンを出したのが始まりで、ほんなら、美術のために液タブを。創作意欲が湧くようにオーディオを設置して……てな具合にやってたら収拾がつかんようになってしもた。

「今まで、留美ちゃんが整理してくれてたのよねえ……」

「あははは……」

「今週の土曜は不用品の回収日だから、ちょっと選択して、処分するもの選んでみたら」

「せやねえ」

「ヨッコイショ……と」

 散乱する色々を跨いで、とりあえず奥の方から品定めする詩ちゃん。

「あ、手伝います」

 留美ちゃんも、タブレット持って詩ちゃんの後に従う。

「なんで、タブレット?」

「あ、一応、頂いた時のことを記録してあるんです」

「え、いつの間に!?」

「これって、一種の御喜捨でしょ。うちはお寺だし、そういうことはキチンとって思うのですよ」

「「えらい!」」

「さくらが言うな」

「ですよねえ(^_^;)」

「ああ、タグ付けしてあるのね」

「ええ、クリックしたらいろいろ分かるんや!」

「ええとね……サイドデスクは……アメリカ製……新品だと1300ドル!?」

「1300ドルて?」

「13万円くらい?」

「いえ、いまは円安……1ドル120円くらうだから……15万6000円です」

「アハハ……でも、中古やさかい(^_^;)」

「待ってくださいね……○○ファニチャーの……1995年製……え?」

「なんぼ?」

 留美ちゃんは答え言わんと、そのまんまタブレットを示した。

「「2200ドル!?」」

 うう……捨てられません。

「バービー人形は?」

「……24000円」

「トルソーは?」

「……フランス製、中古で42000円」

 てな具合で、みんなけっこうなお品ばっかりです。

 

 ……………しばしの沈黙。

 

「仕方ないですねえ、取りあえず、足の踏み場を確保して、晩御飯食べたら考えましょう」

 留美ちゃんが暫定案を出して、しばし執行猶予。

 

 晩ご飯食べながら思いついた。

 今日の留美ちゃんは、ずっと敬語っぽい。

 で、思い出した。

 留美ちゃんは、腹が立つと言葉が丁寧になる子ぉやった!

 

 ああ、ナマンダブ ナマンダブ……

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鳴かぬなら 信長転生記 66『鉄兜論議』

2022-03-31 13:46:28 | ノベル2

ら 信長転生記

66『鉄兜論議』信長  

 

 

 曹茶姫の部隊は一変した。

 

 転生流に言えば近代化であろう、輸送部隊を除いて、兵のことごとくが騎兵だ。

 背負った武器は鉄砲、それも元込めのミニェー銃で、俺が長篠の戦で使った火縄銃の数倍の威力がある。

 射程距離で三倍、弾籠めから発射までの時間は三分の一以下だろう。

「でも、単発だよ」

「シイ(市)、おまえは理想が高すぎる。単発でも三段、いや二段の構えにしておけば、敵を凌駕できる。お仕着せが赤と黒というのもいい」

「うん、カッコいい、制服がオシャレというのは士気が高まるよ!」

「それだけではない、赤と黒は血に染まっても目立たない」

「なるほど……しかし、頭の防御は? 兜も鉢金も無いわよ」

「とりあえずは、切り替えたということを内外に示したいのだろう」

 営庭で騎兵の運動演習をやっている兵たちを眺めながら、市を相手に批評会をやっている。

 茶姫が近衛参謀待遇にしてくれたので、観察し放題だ。

 それに、市の関心の示し方が心地いい。光秀ほどの知識も無いし、秀吉ほどにも勘は鋭くはないが、育てれば三年で、やつらに並ぶだろう。

 市が弟だったら、信行のように殺さずに済んだかもしれない。

「馬の乗り方がかかっこいい!」

「あれはドイツ式だな」

 騎兵は、馬の歩みに合わせて腰を上下させている。背筋も伸びて、いかにも姿がいい。

 転生してから、図書室でいろいろ調べたが、騎兵の運用方法は大別してドイツ式とフランス式がある。

 ドイツ式は日本人好みで、優れた用兵術だが、全てにおいて、そうだとも言えない。

 いま、市が感心している騎兵術などは、それがよく現れている。

 あんなにカッコよく乗っていては、長時間の騎行ではバテるのが早い。

 多少ルーズではあるが、馬の一部になったように、柔軟にいなしていくフランス式の方が優れている。

「使い分けだね……」

「であるか」

 こいつ、俺と同じ思考をしたんだ。

 黙っていても、思いが通い合うというのは良いものだ。

「いろいろ見抜いてくれているようだな」

「キャ?」

 後ろから茶姫。市が可愛い声を上げる。

 うかつだが、気配を感じなかった。市のように声を出すことはないが、ちょっと驚いたぞ。

「おお、来た来た!」

 検品長が鍋のようなものを抱えて走ってきた。

「品長、まるで初年兵のようだな」

 悪い意味ではない、初老の品長が、茶姫の姿に気付くや、初年兵が隊長を見つけたように頬染めながら脚を速めたからだ。

 人の心のくすぐり方を心得ている。

「たった今、試作品が届きました。御検分のほどを」

「ちょうどいい、ここは新参の三人だけだ。意見を聞かせてくれ」

 その鍋のようなものは鉄兜だ。

 発注していた試作品だろう、塗料の匂いも初々しい。

 お皿のようなものと、鍋のようなものの二種類だ。

「お皿の方は上からの衝撃や落下物には強そうだけど、鍋の方は横や後ろからに強そう」

「であるな。どのような戦いを主眼に置くかだ。塹壕に籠っての持久戦なら皿の方、突撃するなら鍋の方だ」

「品長は?」

「は、はい……鍋の方は、鉢が深い分、圧延工程が倍になります。受張(うけばり)も後頭部のものが必要になり、その分単価が高くなります」

 調達係りらしい評だ。

「備忘録の書類によると、調達費には、まだ二億両の余裕がある。テッパチ(鉄兜)に少々掛かっても問題はなさそうだな」

「しかし、この先の弾薬や糧秣、場合によっては大筒の買い入れなどもありますので、ご勘案のほどを」

「承知している。どうだ、テッパチの上に赤い房飾りを付けてみては? 風になびいて、とても美しいとは思わぬか?」

 なるほど。

「うん!」

 シイが短く反応する。

 むろん、俺もな。いまのやり取りで、茶姫の狙いの凡そが理解できた。

 品長も頓悟したようで、瞳が明るい。頭の中では、予想される軍事行動の軍費と調達のあらましが計算されたのだろう。

「一ついいか?」

「なんだ丹衣?」

「つや出し研磨剤を買って、鉄兜と胸甲を磨かせてはどうか?」

「「「おお!」」」

 三人の声が揃う。

 三人の頭には、見事な隊列を組んで、鉄兜や胸甲を煌めかせ、兜の房を靡かせて草原を疾駆する騎兵旅団の姿が浮かんだ。

 総司令官・茶姫の決定を紙飛行機にしたためて、すぐにでも転生へ飛ばしてやりたい気になったが、茶姫の描く騎兵隊の姿を実際に見て、その姿を確認……いや、感動してからの方がいいと思ったぞ。

 

 

☆ 主な登場人物

 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
 織田 市        信長の妹
 平手 美姫       信長のクラス担任
 武田 信玄       同級生
 上杉 謙信       同級生
 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
 宮本 武蔵       孤高の剣聖
 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
 今川 義元       学院生徒会長 
 坂本 乙女       学園生徒会長 
 曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長)弟(曹素)

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・2『乙女先生の転勤・2』

2022-03-31 09:24:22 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

2『乙女先生の転勤・2』    

 

 

 

 あいつが校長だとは思わなかった。

 ブリトラ(伝統的英国風)の着丈の長いスーツを着ても脚が長く見える日本人のオッサンは少ない。

「あ、ああ……転任の先生ですか」

 一秒ほどで、乙女先生を観察し、保険の外交員ではないと気づいた洞察力と、表情のさりげない変え方は教師のそれではなかった。

 しかし、こうやって校長室で渋茶一杯飲まされたあとに軽やかに入ってきて、校長の席についたからには校長なんだろう。乙女先生は少し驚いたが、顔に出るほどのウブではない。そつなく、他の三人の新転任同様に程よい会釈をした。前任校の校長ならビビる頬笑みも、ここではまだ普通の社交辞令ととられるようだ。

「やあ、みなさんお早うございます。校長の水野忠政です。職員会議まで時間がないので、ここでは簡単なご紹介にさせていただきます」

 そういうと、校長は窓のカーテンを閉めて、パソコンのキーとリモコンを同時に入れた。

―― 本年度、新転任者紹介 ――

 タイトルがホワイトボードに映された。

「ええ、まず田中米造教頭先生。淀屋橋高校からのご転勤です。プロフィールはごらんになっている通りです。座右の銘は『小さな事からこつこつと』であります。我が校は大躍進中で、わたしはいささか暴走気味ですので、良いブレーキ役になっていただければと期待しております」

 ホワイトボードの写真は明るい笑顔だが、乙女先生の前にいる本人は、お通夜明けの喪主のように暗い。落ち込んだ演技をしたときのイッセー尾形に似ている。

「えー、わたくしは……」
「ああ、ご挨拶は、職会で。ここでは、とりあえず新転任同士ご承知していただいて、このプロフに誤りや、ご不満が有れば、おっしゃってください」

 田中教頭は、無言でうなずいて座った。趣味は盆栽……と読んだところで、なぜか「凡才」の字が浮かんだ。同時に田中教頭がため息をもらしたのは偶然なのだろうが。

「以下の新転任の方々は、在職期間の長い順ですので他意はありません。佐藤乙女先生、地歴公民。モットーは……ハハ、いや失礼『ケセラセラ』であります。前任校は朝日高校。プロフは……職会でも同じものを映しますので、そのときご覧下さい」

 乙女先生は、こんな使われ方をするとは思わず、A4・1600字の用紙いっぱいに書いてきた。名前の由来から、飼っている猫が靴下を食べて、手術したことまで書いてあった。皆が驚いている。字数のせいばかりではないことは、本人も分かっている。

「次は、技師の立川談吾さんです。退職された鈴木さんの後任としてきていただきました。お願いのお言葉は『落語家ではありません』です」

 立川は、ほとんど半ばまで禿げあがった頭をツルリと撫で、ニコリと笑った。その潔い禿げようが、前任校の校長の欺瞞的なバーコードと対極なので、乙女先生はおかしくなり、思わず立川と目が合ってしまい、互いに面白い人間らしいことを確認した。

「最後に新任の天野真美先生。英語科です。ご挨拶は『新任です、ビシバシ鍛えて下さい』です。潔よいですなあ」

 真美先生は生真面目に立ち上がり、深々と頭を下げた。

 ゴン

 下げすぎてテーブルにしたたかに頭をぶつけてしてしまった。

「教師はね、そうやって早めに頭をぶつけておいた方がいいんですよ」

 乙女先生はそう茶化して、バンドエイドを出した。教頭の田中以外のみんなが笑った。

 それから、事務長から校長に辞令が渡され、さらに校長から一人一人にそれが渡された。

「校長、そろそろ時間です」

 ノックもせずに、筋肉アスパラガスが半身だけドアから体を現して言った。筋肉アスパラガスとは、その時の乙女先生の印象で、あとで首席の桑田だということが分かった。

 渡り廊下を会議室に向かっていると、ガラス越しの中庭に、古墳が見えた。

「あら、かわいい古墳」
「あれは、ここの前身のS高校が出来るときに潰した古墳のレプリカです。縮尺1/4ですが、生徒たちはデベソが丘なんて呼んでますけどね」

 校長は歩みをゆるめることもなく、横丁のポストを紹介するような無関心さで説明した……と、思ったら立ち止まって、乙女先生に言った。

「おっと、言い忘れてました。乙女先生、先生は三年生と一年生の渡りをやってもらうんですが」
「ええ、それが……」
「転任したての先生には申し訳ないんですが、一年の生指主担をやっていただきたいのですが……」
「ええ、かまいませんよ。前任校も生指でしたし」
「それは、どうも、ありがとうございました」

 校長は、心なしホッとしたように見えた。この学校の偏差値は六十に近く、前任校よりもワンランク高い。まあ、その分知恵の回ったワルはいるかもしれないが、今までの経験から言ってもどうってことはないだろう。

 それよりも、この学校が出来る前のS高校の時に潰された古墳の方が気がかりだった。地歴公民などという訳の分からない教科であるが、専門は日本史である。ちゃんとした現地調査はなされたんだろうか? 被葬者のお祀りはちゃんとしてあるんだろうか、その方が気になった。

 会議室に入って目に入ったのは、教職員のメンツではなかった。

 そんな緊張をするほどウブなタマではない。

 窓から見える春らしいホンワカとした雲が、家に一人残してきた猫のミミにそっくりなことであった。

 さすがに民間人校長だけあって、職員会議の流れはスムーズだった。新転任の挨拶は、さっきのスライドを使ってバラエティー番組のように楽しく早く済まされた。

 乙女先生の年齢は伏されていたが、その見かけと経歴のギャップには、職員のみんなが驚いたようである。

 ここだけの話しであるが、乙女先生はこの五月で五十路に手が届く。しかし居並ぶ職員には三十前後にしか見えない。

――これでも地味にしてきたんだけどなあ、保険屋のオバチャンと思われる程度には……。

 そして、なにより、A4の自己紹介であった。同じ物がプリントされて配られている。むろん個人情報に関わる部分は抜かれていたが、飼い猫のミミが靴下を食べたところでは、みんなクスクス笑っていた。で、一年の生指主担と紹介されたときには、皆から、同情のようなため息が漏れた。

 新任の真美ちゃん(乙女先生は、そう呼ぶことに決めていた)がバンドエイドを貼った頭で、顔を真っ赤にして挨拶したときは、暖かい笑いが起こった。

 今度は、真美ちゃんはテーブル頭をぶつけることは無かった。

 ただ、乙女先生の手のひらが痛くなった。真美ちゃんがテーブルに頭をぶつける寸前に、右の手のひらをクッションに差し出したからである。

―― 痛アアアアアアアア!!!!! ――
 
 乙女先生は、心で叫んだ。それがコントのように見えたのだろう。会議室は再び笑いに満ちた。

 しかし、田中教頭は笑わなかった。

 そして、もう一人笑わず、腕組みのまま苦虫を潰したような顔をしている男がいた。

 それが、生指部長の梅田である。その時の乙女先生は「筋肉ブロッコリー」と思えただけである。この男と、いろんな意味で取っ組み合いになるのは、もうしばらく後のことである。

 窓から見える雲がミミから太りすぎの羊になったころ、職員会議が終わった。

 そして、希望ヶ丘青春高校での乙女先生の新しい生活が始まったのだった!
 

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・1『乙女先生の転勤・1』

2022-03-30 09:17:30 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

1『乙女先生の転勤・1』          

 

 

 

「は……」

 乙女先生は、思わず声に出てしまった。

「オホン……だから、佐藤乙女先生の転勤先は、希望ヶ丘青春高校です」

 どうやら校長は、乙女先生が転勤先の学校が気に入らないのかと思い、バーコードを撫でつけ、緊張して言い直した。乙女先生は、名前に似合わず、学校で、いや校長会でも、ちょっと名前の通った女傑である。

 若い頃は(今も実年齢よりかなり若く見えるが)駅のホームで、他校生とケンカをしてボコボコにされていた受け持ちの悪ガキ生徒を発見。相手のK高校のアクタレ五人を叩きのめして過剰防衛で所轄署刑事に事情聴取されたこともある。

 指導もきびしく、喫煙で捕まった生徒がシラバックレようなものなら「ええかげんにさらせ!」と、見かけだけはリカちゃん人形のような手でシバキ倒した。

 ガキ(子どもというようなカワユゲなものじゃなかった)のころから、ケンカ慣れしていて加減というものを知っている。シバキ倒しても鼓膜を破ったり、口の中を怪我させたりはしなかった。
 今は、さすがに生徒に手を出すことはしなくなった。セクハラや体罰に世間がうるさくなってきたからで、乙女先生の心情が変わったわけではない。実際十年ほど前の過渡期には、思わず手が出てしまい、戒告をうけたこともある。

 それからは、主に言葉である。岸和田の生まれなので、人を叩きのめす言葉は、絶妙のタイミングで、ボキャブラリーの中から何百通りでも出てきた。

 事実目の前にいる校長は、前々任校では、乙女先生の同僚で組合の分会長であった。組合がN教組から、独立してZ教を作ったとき、乙女先生は吠えた。

「ええかげんにさらせ! ネチネチとシンキクサイんじゃ!」

 乙女先生は、昨日まで組合の幹部が、こう言っていたのを覚えていた。

「組合が上部のN教組を抜け、新しい組合組織に入るのには、組合員の全員投票が必要」

 それが一晩で、こうなった。

「新しい上部組合に入るのではなく、新しく自分たちで創るんだ」

 乙女先生には屁理屈としか思えなかった。

「自分たちで、新しい組織を作るんだから、全員投票の必要はない。各学校ごとの分会の決議でいけるんだ!」

 この手のひらをかえしたような変貌ぶりを一言で見限った。

「あほくっさ!」

 で、すぐに組合をやめた。そうしたら数人の幹部の先生に呼び出され、椅子に座らされ、取り巻かれて、刑事ドラマの犯人が刑事達に尋問を受けるようなかっこうになった。

―― ああ、これが、M集中制っちゅうやつで、今のウチの状況を総括ていうねんなあ ――

 乙女先生の辛抱は五分で切れた。

 で……。

「ええかげんにさらせ! ネチネチとシンキクサイんじゃ!」

 と、なったわけである。

 むろん校長は、そのネチネチ組の中に入っていた。

 まだ平教師であった校長氏は日の丸、君が代にも当然反対で、あのころは卒業式そのものをボイコットして、校門前で式に参列する保護者たちにビラを配っていた。その同一人物が、つい先月の卒業式では、国歌斉唱のとき、起立しない教職員の頭数を数えていて、乙女先生と目が合うと、サっと目線を避けた。

 そんなこんなで、校長は、乙女先生が転勤先に不満を持ったと思ったのである。

 乙女先生は、ただ、学校の名前がピンとこなかっただけである。

 数秒後思い出した。

 四年ほど前に、統廃合されて、そんな学校ができてたなあ……。

 その思い出すまでの数秒間、乙女先生は校長の目を見っぱなしであった。特にウラミツラミがあってのことではないのは、読者にはお分かりのことと思う。

 ただ、校長には蛇に睨まれたカエルのように長い時間のように感じられた。


 これが学校の看板かあ……(`_´)。
 
 希望ヶ丘青春高校の校門の前に立った、第一印象が、これであった。

 乙女先生の常識では、学校の看板とはブロンズのレリーフで重々しいものでなければならない。

『大阪府立希望ヶ丘青春高等学校』の十四文字は、キラキラのステンレスの貼り付け文字。予算不足のドラマセットのように軽々しい。校舎は、統廃合前のS高校の校舎を、そのまま使っているので、どうにもアンバランス。

 乙女先生は、最近の公立高校の名前の付け方も気に入らない。何年か前までは、条例で「学校名は地名を冠するものとする」と決められており、例外は廃校になった准看護婦養成の女子高と、八尾市から引き継いだ伝統校だけであった。校名を具体的に書くことははばかられるが、なんだかラノベに出てきそうな校名が多く、どうにも軽々しい。

 なによりも地名を冠しないことで地域との結びつきが希薄。で、希薄になった分、逆に地域からのクレームが増えた。これは、単に校名の問題ではなく、地域がコミュニティーの存在としての意義を失ったからであろうが。

 そんなことを思いつつ、校門前に佇んでいると後ろから、バリトンの東京弁で声をかけられた。

「保険の勧誘ならだめだよ、今日は会議と作業で、先生たち手一杯なんだから」

 振り返ると、四十前後のニイチャンが、スーツ姿で立っていた。

―― なんや、こいつは? ――

―― なんだ、こいつは? ――

 同じ表情が二人同時に顔に浮かんだ。

 チュチュン

 ビックリしたのか、小鳥が飛び立ち、五分咲きの桜の花びらハラハラと舞い落ちた……。

 

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やくもあやかし物語・131『Vic□orの蓄音機ワンコ』

2022-03-29 09:57:32 | ライトノベルセレクト

やく物語・131

『Vic□orの蓄音機ワンコ』 

 

 

 緊急なのです! エマージェンシーなのです!

 

 そう言いながら、アカアオメイドはしっかり天蕎麦食べていったし、時間を停めたという割には、戻ってからでも一時間近くたっていたので、明日でもいいだろうと思った。

 龍と蛇の業魔は、行きがかり上、すぐに対戦したけど。やっぱ、終わって戻ってみるときついよ。

 だからね、明日にしようって思った(^_^;)。

 

「やくも、こんなの要るかい?」

 

 歯を磨いて寝ようかと廊下に出ると、お祖父ちゃんが、くたびれた紙箱を差し出した。

「なあに?」

「若いころにステレオ買ったら電気屋が、おまけにくれたものなんだけどな……」

「ほお」

 手に取ってみると、ずっしりと重い箱の上にはVic□orのロゴがあって、ワンコがお座りして蓄音機に耳を傾けてるイラスト。

「開けていい?」

「うん、確かめて、気に入ったらあげるよ」

「どれどれ…………うわあ」

 箱の中にはフワフワの紙にくるまれて、イラストと同じワンコと蓄音機が入っている。

 昭和的レトロ、いや、もひとつ前の大正ロマンて感じ。

 いっしゅん陶器かと思ったけど、なんか、微妙に柔らかいプラスチックみたいなのでできている。

「ありがとう、めちゃくちゃ気に入ったからもらっておく!」

「そうかそうか、やくもは値打ちの分かる子だから、お爺ちゃん好きだよ」

「えへへ、お爺ちゃん、趣味いいもんね」

「あはは」

 お爺ちゃんは、頭を掻きながら部屋に戻って行った。

 お爺ちゃん、わたしが歯を磨きに廊下に出るの待ってたんだ。

 お爺ちゃん、シャイだから、たとえ孫娘でも、夜中に女の子の部屋を訪ねるのにためらいがあったんだよね。

 お婆ちゃんに見せたら「そんなもの、とっとと捨てなさいよ」って言われるの目に見えてる。

 不用品はメルカリとかに出せばいいと思うんだけど、お婆ちゃんは断捨離婆さんで、めんどくさがり屋だから、メルカリは嫌いなんだ。

 机の上に蓄音機ワンコ、枕もとにはコルトガバメントとメイデン勲章を置いて寝る。

 うん、明日はカバンにしのばせて学校に行くつもり。

 これまでの経験から言っても、通学の途中で業魔とか現れて戦いになりそうな気がしたからね。

 チカコと御息所は両手に握っておこうと思ったけど。「寝ている間にオナラされちゃかなわない」「歯ぎしりがねえ」とか理不尽なこと言って、杖の上でハンカチのお布団被って寝てしまう。

 やれやれ。

 

 そう思って眠りに落ちると、二丁目の坂道が夢に出てきた。

 

 坂道下って折り返し。

 あれ?

 折り返してみると、アキバの駅前広場に下りるエスカレーターだよ。

 いっしゅん引き返そうかと思ったけど、振り返るとペコリお化けが『工事中』の看板立てて、済まなさそうに頭を下げる。

 仕方ない。

 エスカレーターに足を載せると、下の方に、騎士メイドやメイド将軍たちを引き連れたメイド王・アレクサンドラが、その向こうにはアカアオメイドと滝夜叉姫のトラッドメイド……これは、もう逃げられないよ(;'∀')。

 せめて朝まで待ってほしかったけど。

 ポケットの上から御息所とチカコが居るのを確認。

 エイヤ!

 残り五段は駆け下りて、メイド王の前に立つわたしだったよ。

 

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王
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せやさかい・289『ジョージ・クロイツ中佐』

2022-03-28 17:04:34 | ノベル

・289

『ジョージ・クロイツ中佐』頼子   

 

 

 十七年の人生で、二番目にビックリする事件があった。

 

 ちなみに、いちばんビックリしたのは「頼子はヤマセンブルグの王女さまなのよ」と言われた時。

 これについては、いずれ話しする気になるまで待ってね。

 

 で、二番目のビックリ。

 

 今朝、領事館の玄関に出たら、正面の国旗が置いてあるところで、ジョン・スミスが壁に向かって突っ立ってるの。

 玄関の壁には、国章と王室のエンブレムが常時掛けてある他に、記念日とかの行事には、いろんなものが掲示されたり陳列されたりする。

 十二月にはクリスマスツリー、七月には七夕の笹飾り、独立記念日には初代ヤマセンブルグ国王の肖像画とかね。

 その展示や陳列は警備課の仕事だから、警備部長のジョン・スミスが立っているのは、まあ、領事館の日常的な光景なわけなのよ。

 だから、いつものように「おはよう、ジョン(^▽^)」って声を掛けた。

 ギク!

 ジョン・スミスはギクッと驚いて、振り向いた目が、とっても怖かった。

 

 わたしが気づく前に、気づかれてるのが普通。

 なんたって情報部、ソフィーもそうだけど「壁の向こうに居ても殿下の気配はハッキリ分かります」と言われている。

 子どものころ、王宮でかくれんぼしたことがあるんだけど、ソフィーに勝てたことは一度もないもんね。

 そのソフィーの親玉のジョン・スミスが驚くなんて、声かけたわたしの方が驚いてしまう。

「アハハ、ちょっと新型の催涙スプレーのテストをしてたもので、ちょっと顔を洗ってきます」

 下手な冗談を言って、ジョン・スミスは行ってしまったけど、今度はソフィー。

「わ、ビックリぃ!」

 だって、ジョン・スミスを見送って、振り返ったら目の前にいるんだもん!

「失礼しました。驚かすつもりはなかったんですけど」

「どうしたの、その花は?」

 ソフィーは、普段は領事室に置いてある花瓶に一杯の花を持っていたから。

「二代前の警備部長が亡くなったんです」

 そう言って、正面の写真に気が付いた。

 初めて見る男の人の写真。

 第15代警備部長 ジョージ・クロイツ中佐

「ドイツ出身なので、正しくはゲオルグ・クロイツですけどね」

「初めて見るわ……」

「情報部ですから、露出することはめったにありません。今回みたいに戦死しなければ」

「戦死!?」

「はい、昨日、ウクライナで……」

「ウクライナ……義勇兵だったの?」

「わたしの名付け親でもありました」

「ソフィーの?」

「はい、わたしって、正しくはソフィアじゃないですか。それって、クロイツさんのご先祖のお名前でもあったんです」

「そうなんだ」

「ジョン・スミスの教官でした」

「そうなんだ」

 そうなんだ……間抜けた返事しかできないのがもどかしいけど、なんだか、いまは踏み込んではいけないことのように思える。

 ソフィーは、手際よく写真に黒いリボンを掛けると、小さな十字架を花の横に置いた。

 いっしょに十字を切ると、しばらくぶりにキリスト教式のお祈りを捧げた。

 あとで領事に聞くと、ロシア軍側にもジョン・スミスの仲間が居るとか。

 ヤマセンブルグは、ヨーロッパの小国。

 ニ十一世紀の今日まで生き延びてくるには、日本に居ては想像できないような事情と苦労があるんだ。

 わたし、こんなに深くて重いもの担えるんだろうか。

 ちょっと、たじろいでしまった。

 

 

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魔法少女マヂカ・265『尻尾を出すな!』

2022-03-27 10:15:17 | 小説

魔法少女マヂカ・265

『尻尾を出すな!語り手:マヂカ  

 

 

 こいつは『つん』だ。

 

 霧子とノンコの頭には?マークが浮かぶが、JS西郷は頭に電球が灯ったように納得した。

「そうか、つんは人間に成れたんだ!」

「つん……て、なに?」

「ほら、上野の西郷さん、犬を連れてるだろうが」

「ああ、それがな、人の姿になって、いろいろと役に立ってくれて、令和の時代だけどな。それで、西郷さんが人間で居ることを許してくれて」

「ワン!」

 得意そうに返事をするとチンチンの姿勢になる。

「あ、このチンチンは、つんだよ!! おお、よーしよしよし(^▽^)/」

 つんの首を抱きしめてスリスリするJS西郷。

「ああ……完全にワンコやわぁ……」

「ま、だから、わたしが引き取って渡辺詰子ってことにして妹にしてやったんだ」

「マヂカ、綾香姉ちゃんも居るから、三姉妹になったんや! うらやましいなあ!」

 綾香姉も、ケルベロスって犬の化け物なんだけどな……(^_^;)

「つん、そのチンチンはやめておけ」

「あ、ヤバイヤバイ(#^_^#)。でも、この子も西郷さんの匂いがするよ、クンカクンカ」

「だから、犬っぽくなるな!」

 ポコン

「あいて!」

「アハハ、あたしJS西郷って言うの、西郷さんの30%ぐらいが人間化したものでね、30%しかないから小学生くらいしかなくって……でも、お互い、西郷さんの分身みたいなものだから、なにか通じてるものがあったんだよね!」

「うん、夜中に目が覚めたら天井に黒い闇が浮かんできてね、そこから、マチネエの声が聞こえたから飛び込んできたんだ」

「あ、見て、雲が切れてきたわ」

 霧子の指さした西の空に、切れ切れだけど雲の晴れ間がのぞき始めた。

 

 被服廠跡から原宿の高坂邸は歩いて帰れる距離ではない、令和の感覚だとスカイツリーから原宿の距離だからね。

 元犬の詰子は走れるにしても、ノンコと霧子には、ちょっときつい距離だ。

 仕方がない、わたしが霧子を、詰子がノンコを背負って走るか……そう覚悟した時、高坂家のパッカードがやってきた。

 ブルン ブルルル……キッ

「銀座の異変を聞きつけまして、二三度人に尋ねまして、こちら方面だろうと見当をつけてまいりました」

 松本運転手も、わたしたちのアグレッシブな日常によく付き合ってくれる、ちょっと申し訳ない。

 霧子以外の一般人を巻き込んではいけない。そう思うと、パッカードの後部座席に収まっていても、つい考え事の仏頂面になってしまう。

「なにか考え事?」

「あ、いや、詰子をね……」

「あら、真智香の妹だもの、いっしょの部屋でいいでしょ?」

「あ、ああ、すまない霧子」

「ごめんマチネエ、帰ること考えずに来ちゃったから……」

 詰子をダシに誤魔化す。

 ほんとうは違う。

 虎の門事件まで、もうひと月ほどでしかない。

 今日の被服廠跡の戦いで、敵はかなりの力を付けた。数も多い。

 なんとか影一人をやっつけたが、怪人を含めても、まだ13人。それに黒犬の化け物も健在だ。

「さあ、家に戻ったら、みんなでお風呂に入りましょう! そして、モリモリ晩御飯を頂いて、明日からの戦いに備えるわよ!」

「そうだ、晩御飯、みんなで作ろやんか!」

「え、ノンコが?」

「せやかて、うちら調理研究部やねんし!」

 そうだ、我々は特務師団の魔法少女ってことだけでは無くて、日暮里高校の調理研究部でもあるんだ!

「ほんなら、久しぶりに自衛隊ご飯つくろか(^▽^)/」

「自衛隊?」

 大正時代では自衛隊は通用しない。

「ああ、陸軍の特殊部隊だ(^_^;)」

「ああ、それは楽しみ!」

 霧子の声にJS西郷も詰子も大賛成して、取りあえず、今日のところは悩まないことにする。

 

 箕作巡査の敬礼を受けて、パッカードは高坂家の門を潜る。

 ごめん、箕作巡査。今日もクマさん救出の目途はたたなかった。

 箕作巡査とも阿吽の呼吸。微かに頷いた仕草で、互いの気持ちは伝わった。

 

 みんなで風呂の入る。詰子が大喜び。

 見た目には十五歳の少女なのだが、はしゃぐと瞬間尻尾が現れる。

 三人は事情を知っているが、この先令和の時代に戻るまでは、人に知られるわけにはいかないので、やっぱり躾ける。

 ピシャリ!

「ああ、お尻が割れるよ~」

「だったら尻尾を出すな!」

「ああ、真智香姉ちゃんがイジメるぅ~」

「こら、今度は耳が出てる!」

 ポコン!

「あ、尻尾!」

 ピシャリ!

「アハハハ」

 詰子、おまえ、わざとやってるだろがあああ!

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男・ファントム
  • 箕作健人       請願巡査

  

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せやさかい・288『今日もパシャリ!』

2022-03-26 22:28:22 | ノベル

・288

『今日もパシャリ!』   

 

 

「「おお!」」

 

 如来寺のテイ兄ちゃんから送られてきた写真を見て感激ひとしおのわたしとソフィー。

 昨日の朝、テイ兄ちゃんから『制服撮影ナウ!』というメールが来た。

 添付の写真は、三分咲きの桜を背景に後輩二人の新制服姿。

 これは如来寺の境内だ!

―― わたしも行きます! ――

 直ぐにメールを打って、ソフィーと共に如来寺へ!

 もちろんクリーニングあがったばかりの制服持って。むろんソフィーにも制服持って来させる!

「あ、そういう手があったか!」

 着いてみると、さくらも留美ちゃんも中学の制服も着て、ビフォーアフターを撮っているじゃないの!

「あ、高校の写真しか送ってなかったなあ!」

「もう、分かってたら中学のも持ってきたのに!」

「あ、じゃあ、わたしの着てみます?」

「え、いいんですか!?」

 サイズを見ると、わたしと同じ〇号サイズ!

 

「……よし! じゃあ、お願いします!」

 

 中学の制服でパシャリ!

 さくらと留美ちゃんも並んでパシャリ!

 高校の制服でパシャリ!

 三人、高校の制服でパシャリ!

「あ、ソフイーさんも!」

 留美ちゃんが叫んで、ソフィーも制服姿でパシャリ!

 五人揃ってパシャリ!

「もう一回、みんなで撮ろ!」

 テイ兄ちゃんが手を挙げて、みんなで撮ったり、組み合わせを変えたり、気が付いたら百枚ほど撮ってしまった(^_^;)

 

 で、その写真が、全部送られてきたんだけど。

 

 そのうちの一枚がねスゴイの!

―― 矢印をクリックしてね♡ ――

 そう書いてあるので、ポチ! 

 なんと、中学の制服姿のわたしがね、ゆっくりと高校の制服に変わっていくんだよ!

 文芸部三人で並んだ写真もね、まず、わたしが高校の制服になって、しばらくして二人が高校の制服に!

 ソフィーは……来日した時には、もう高校生だから、まんま。

 ちょっと詰まらなさそうにしてるけど、これは仕方がありません。

「でも、殿下の中学の制服は……」

 遠慮した物言いだけど、ハッとした。

「そうだよ、詩(ことは)さんの借り物だ……」

―― すみません、もう一回撮ってくださいm(_ _)m ――

 

 まあ、春休みだからできることなんだけど、今日も朝になるのを待って如来寺へ。

 

「あ、あれえ?」

「「頼子先輩!?」」

 中学の制服に着替えると、わたしも、さくらたちもビックリ!

「お、おお……!」

 テイ兄ちゃんも顔を赤くしてビックリ!

 なんと、胸がキツイ……

 昨日はぴったりだったのに……?

「アハハ、まあ、そういうことなんだ(^_^;)」

 詩さんが鼻を掻く。

「つまり、殿下の胸が発育したということです。で、詩さんは、中学の時にすでに、そのレベルに達しておられたということです」

 ジイイイ……

 みんなの視線が詩さんに向く。

「あ、わたしね、中三の春に制服買い直したから」

 なるほど、中三の春には、この発育ぶり!

「あ、いや、カギ裂き作っちゃって、上だけ買い換えたのよ(^_^;)」

 って、結局は発育してらっしゃったってことなんですけど。

「え? え? やだあ、もう、どうでもいいでしょ(#^0^#)!」

 賑やかなうちにあやふやにして、みんなで、お茶会。

「あ、もう四分咲きですよ」

 ソフイーが指差した桜は、確かに昨日よりも沢山花をつけている。

「なんだか、急かされてるみたいだね」

「よし、みんな、がんばろう!」

「「「「おお!」」」」

 お茶をお替りして、みんなで、また乾杯。

 テイ兄ちゃんは檀家周りがあるので中座。代わりにさくらがスマホで写真を撮りまくり。

「あ、そうやったんや!」

 写真に飽きて、さくらが叫ぶ。

「さて、みなさん。今日は何の日ぃでしょうか!?」

 スマホを隠しながら、みんなに質問。

 いろいろスカタンな答えの後に、さくらが、嬉しそうに正解を言う。

「敦ちゃんが、卒業して、ちょうど10年になりました!」

 ええ!?

 みんなビックリ。

 

 そうだよ、わたし、小学校に入ったばかりのころだよ。

「うち、保育所やった!」

「わたしも」

「わたし、三年生かな?」

「アッチャンて、誰ですか?」

 ソフィー一人が分からない。

 それで、みんなでAKBのあれこれをピーチクパーチク。

 ソフィーも今のAKBは分かるので、大いに盛り上がる。

 

 ひところよりも日が長くなったので、6時前まで、AKBのことやら、昔の事で盛り上がった。

 領事館に帰ると、テイ兄ちゃんからメール。

―― ソフィーの分も作りました ――

 え、どういうこと?

 開いてみると、桜の下に、黒っぽいワンピースのソフィー……あ、エディンバラに居た頃のソフィーだ。

 ソフィーは、先祖代々王室付きの魔法使いの家系なので、公務中は魔法学校の制服めいたのを着ている。

 ああ……思い出した。

 二年前、みんなでエディンバラに行った時、エディンバラ城で、こんなの撮った。

 そうか、ソフィーのとこだけ抜いてハメ込んで、昨日の写真に繋げたんだ。

―― 感動したら、もう一回クリックしよう! ――

 え、なんだろ?

 で、クリックすると……おお!

 ゆっくりと、桜の花びらが散りつつ、カメラが引いて行かれ、わたし、さくら、留美ちゃん、詩さんが同じ制服姿で現れて、まるで仲良し姉妹の集合写真のようになっていく。

 ―― よし、みんな、がんばろう! ――

 昨日のわたしの言葉が滲みだしてくる。

 そして、しばらくすると、言葉は無数の花びらになって散っていく。

 テイ兄ちゃんは、ITオタクだとは思っていたけど、なかなか大したものよ。

―― ソフィーの番号分からないので、頼子さんから送ってあげてください ――

 よし、すぐに転送するぞ。

 ポチ

 クリックして三分待って、図書室に行く。

 この時間は、当番明けで、ここで勉強してるはず。

 見えた。

 書架の陰に隠れた席でニヤニヤしている。

 直接見たら気づかれるので、壁の鏡に映っているソフィーを見る。

 でも、さすがにわたしのガード、直ぐに鏡越しに目が合って、怖い顔。

 写真撮ってやろうと思ったら、気配に気づかれて、もう一つ怖い顔をされた。

 

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銀河太平記・100『及川軍平の遭難』

2022-03-26 10:01:45 | 小説4

・100

『及川軍平の遭難』加藤 恵   

 

 

 まずい、脚が折れてる!

 

 気を失うことは無かったが、ショックで、しばらく身を起こせなかった。

 ナバホインディアンに追いかけられ、国道から外れた火山灰と火山岩の地帯に踏み込んでしまった。公用車はランドクル-ザー仕様で、少々の荒れ地ならば平気で走破できる。

 だが、ナバホインディアンに追いかけられ、100キロに近いスピードで踏み込んでは、地面の起伏に付いていけず、地面に突き出た溶岩柱を引っかけてスピンし。そのままクレバスの底に落ちてしまった。

 自分は、投げ出されて、クレバスの棚になったところに引っかかった。

 一応助かったと言うべきか……車は、はるか下に転落したのか、目の前に千切れたドアがあるきりで、本体の姿は見えない。

 間に合っていれば、自動で救難信号が出ているはずだが、あのクラッシュでは、その間もなかっただろう。

 管理事務所に連絡……腕を上げると、ハンベはベルトを残しているだけだ。

―― そうか、インディアンの矢が掠めて行ったんだったな(;'∀') ――

 これが内地なら、他の車や道路管制機などが、僅かな状況変化を感知して、情報を数十秒から数分で解析して管理ドローンを飛ばして発見してくれる。

 だが、つい昨日、本土並みの法の適用をしたばかり、インフラが整っていない。

―― インフラ整備が先決、法の適用は、その後。開発の順序を逆にしたことが悔やまられる。しかし、無法地帯の西ノ島を日本政府に服ろわせるためにはスピードが必要だった。わたしの思考に間違いはない ――

 上級公務員としてのアイデンテティーを反芻してみるが、これは、単なる習性。この非常事態を解決する手立てにはならない。

 しかし、間違っていないことを再確認するのは、無駄ではない。

 下手をすれば、このまま発見されずに朽ち果ててしまいかねない状況、自分を鼓舞する思考活動は、決して無駄ではない。

 祖父の及川軍太郎は月面都市のインフラ更新調査の途上で遭難したが、救助されるまで国交省職務規範を復唱することで命の灯を消さずに済んだ。それどころか、経産省の業務の一部を国交省に移管することで、へき地開発の実を上げられることに気付き、救助された後、国交省の権限拡大に努め、今や財務省に並ぶ力を持ってきた。

 そうだ、わたしは、祖父の努力と幸運を受け継いで、親父がなし得なかった国交省事務次官の地位に上り詰めるのだ!

 よし、力が湧いてきた!

 が……力が湧いても、救助は来ない。要請する術もない……いかん、足の痛みが消えてきた……単なる骨折ではなく、神経がやられた? ひょっとして壊死し始めた?

 カサリ コロコロ

 上の方で気配がしたかと思うと、軽石の欠片が二三個落ちてきた。

 イ、インディアン!?

『ナニカイル』

『害虫・害獣ナラバ排除でゴザル』

『駆逐アル、駆除アル』

 この特徴ある機械音声、抑揚こそは失っているが、スキルダウンさせたパチパチども!?

「おーい、お前らああ!」

『ナニカ叫ンデル』

「わたしだ! 国交省西ノ島開発局長の及川軍平だあ!」

『オイカワグンペイ?』

『ナニアルカ?』

『島ノ住民登録ニハナイデゴザル』

「ごちゃごちゃ言ってないで、助けろ! 助けなさい!」

『ワレワレ、作業機械』

『作業機械、自発的作業デキナイデゴザル』

『「助ケロ」ハ作業手順ニ無イ』

『無イ行動デキナイアル』

「そんなこと言わずにい!」

『主要道路ガ国道指定ウケタタメ、新通路啓開調査中』

「調査中でも、ここに遭難者がいるんだ、助けろ!」

『救助プログラムサレテナイ』

『救助、理解デキナイ』

「助けろ! ここに救いを求めている人間が居るんだぞ!」

『島民ノ手助ケナラアルデゴザル』

『ソウナノカ……アッタアッタ、困ッテル島民助ケルアル』

「だったら救助、いや、手助けしなさい!」

『助ケルノ島民ダケダ』

『動物ノ死骸ナラバ、公衆衛生的ニ排除アル』

『死骸ナラ、取リ出シテ海ニ捨テル』

『死ネバイイデゴザル』

『死ネ』

『死スベシ』

『死ヌアル』

「そ、そんな……」

『ン……誰カ来タ』

『ナバホ村ノ村長デゴザル』

「や、止めてくれ!」

『「おまえら、こんなところで何してる!?」聞イテキタアル』

「ヒ、言うな! 絶対言うな! 言ったら殺す!」

『殺ス? パチパチ機械、機械ハ殺セナイ』

「ちょっと、どけ!」

 ヒイイ、インディアン!!!

「フフフ……こんなところにいたか……」

 キリキリキリ……

 インディアンが弓を引き絞るうううう!

「こ、降参! 降参します!」

 

 島に住民登録することを条件に助け出される。

 及川は、島の住民になったことで、自動的に国交省は首になり、一瞬のうちに、西ノ島で唯一のホームレスになってしまった。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥              地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室                西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩)
  • 村長                西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地

 

 

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せやさかい・287『制服が届いた!』

2022-03-25 10:29:09 | ノベル

・287

『制服が届いた!』   

 

 

 ピンポ~ン……宅配便です

 

 ドアホンの声にあたしも留美ちゃんもハンコを持ってダッシュ!

 境内の花の世話をしてたおばちゃんに「アハハ」と笑われる。

「今朝の宅配は、うちらが直に受け取るよってに、よろしくね!」

 と言ってあるので、おばちゃんは、山門の前の宅配車に気ぃついてても知らんふりしてくれてたんや。

「どうも、ごくろうさまでした!」

 普段よりも気合いの入った挨拶で荷物を受けとってハンコを捺す。

「さっそく、やるでえ!」

「うん!」

 荷物抱えて自分らの部屋へ向かう。

 リビングにはお祖父ちゃんが出てきてニコニコしてる。

 アハハ エヘヘの愛想笑いを残して、自分らの部屋へ。

 箱を開けるとパラフィン紙があって、それをソロリとめくると……出てきた。

 

 真っ新な制服! 聖真理愛学院の真っ新な制服が!

 

「並べてみよ!」

 留美ちゃんが、らしからぬ大きい声で宣言。「うん!」と負けん声で返事して、それぞれのベッドの壁に架けてみる。

 横には、お片付けの時から吊ってある安泰中学の制服。

 三年前、ガバガバやと思てた制服が、新しい制服と並ぶと、ワンサイズ小さい。

「なんか、感無量だね……」

「うん、せやなあ……」

 うちも留美ちゃんも、中学のうちに実質的に親のおらん子になってしもた。

 並の中学生の何倍も劇的な三年間やった。

 幸い、人に恵まれて、こうやって新旧の制服並べてシミジミしてられる。

 思わず感謝のナマンダブが出てきそうやけど、檀家のおばあちゃんらみたいなんで、やめとく。

「写真撮ろうか」

「うん」

 スマホを出して、新旧並んだ制服をパシャリ。

「ねえ、どうせやったら、着てみて撮らへん!?」

「あ、いいわね、やろやろ!」

 最初に中学の制服、次に高校の制服を着て、お互いの写真を撮る。

 

「うわあ、制服できたんだ!」

 開けといたドアから詩(ことは)ちゃんが顔を出す。

 

 アハハハハ(〃´∪`〃)(n*´ω`*n)と二人で照れる。

「ねえ、詩ちゃんもやろうや!」

「え、あたしも!?」

 ビックリする詩ちゃん。

 ハタハタと手ぇ振るけど、まんざらでもないのは分かってる。

 

「わあ、中学のんも残してたんやね!」

「あ、うん……なんだかタイミング失っちゃってね(^_^;)」

「「それでは!」」

 ということで、何年かぶりのJCコトハとJKコトハの撮影会。

 ウフフ アハハ アラ~ モウヤダァ キャハハ

 女子三人でいちびってると、いくら広いお寺でも下の階まで声が響く。

「なにやってんねん……おお!」

 テイ兄ちゃんが上がってきて、ビックリするやら面白がるやら。

 そのうち、お祖父ちゃんもおばちゃんも上がってきて、なんか七五三のお祝いみたいになってきた(^_^;)。

 

「せや、もっと、きちんと撮ろうぜ!」

 

 テイ兄ちゃんのイチビリで、三人そろって境内に出る。

 名残の梅と四分咲きの桜。これも新旧めいてて面白い。

 それを背景に、テイ兄ちゃんのプロカメラでパシャリパシャリ!

 そのうち、おっちゃんが檀家周りから帰ってきて「いっそ、記念撮影にしよ!」ということになって、椅子を持ち出して、みんなで家族撮影になった。

 ダミアが「寄せてえなあ」という感じで寄って来るけど、おニューの制服に毛ぇつけられてはあなわんので邪険にしてやる。

「よしよし、わたしが抱っこしてやろう」

 詩ちゃんが高校の制服で抱っこ。

 パシャリ

「うわあ、王女様のかんろく!」

「あ、そういや、ダミアの種類ってマリーアントワネットの飼い猫だったわね」

 せやせや、拾てきた当時は、そんなん言うて喜んでた。

「そうだ、王女さまってば、頼子さん!」

「せや! 頼子さんも呼んだげなら!」

 テイ兄ちゃんのハートに火が付いてしまう。

 

 蔓延防止規制も解除になったとこなんで、ニ十分後には頼子さんもソフィーを引き連れてやってくる。

 

「ほらほら、ソフィーも!」

「自分はガードですから」

 ポーカーフェイスで断るソフィーの目の前に、ジョン・スミスがズイっと紙袋を差し出す。

「え?」

「ソフィーの制服だ」

「い、いつの間に!?」

「プリンセスのガードは臨機応変でなければならないのだ」

 

 あたしと留美ちゃんの、ささやかな記念撮影は一時間もたたないうちにお祭り騒ぎ。

 昼前には三年ぶりの『灌仏会 お花まつり』の打合せに来た婦人会のお婆ちゃんらもいっしょになって、ほんまに楽しい一日になりました。

 

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明神男坂のぼりたい・109〔男坂のぼりたい〕

2022-03-24 07:54:21 | 小説6

109〔男坂のぼりたい〕 

 

 

 え………………………………?

 

 病院に運ばれたはずなのに、家の前に居る。

 見上げると、ついさっき見た男坂の谷の空。

 見渡すと、人の気配が無い。

 男坂の反対側は452号線の大通り、深夜にだって車が走っているのに、気配もない。

 ちょっと怖い。

 家に入ろうと思ったら二階の玄関には鍵がかかってる。

 階段下りて、一階のドアもビクともしない。

 

 カツーン………………カツーン………………カツーン………………カツーン………………

 

 なんだか音がする……男坂の上の方だ。

 男坂の向こうの空が、懐かし色に光っている。

 夕陽?

 男坂の向こうに夕日が傾くと、時期とタイミングによっては、この谷底を神々しく茜に染めてくれる。

 でも、ちょっと違う。

 男坂を上って行けば、あの懐かし色の中に入っていけそうな。

 懐かし色の向こうは、とても穏やかで気持ちのいいところなんだ。

 そう思って歩き出すと、坂の踊り場のところに佐渡君。

 

 あ、やっぱり、さっきから居たんだ。

 

 佐渡君は、照れながらも嬉しそう。

「久しぶりだねえ……」

 石段を上がると、嬉しそうなんだけど、嬉しそうなまま首を横に振ってる。

 さらに上がると、今度は両手をワイパーみたいに振る。

「行っちゃだめ?」

 コクンと頷くと、消えてしまう。

 

 カツーン………………カツーン………………カツーン………………カツーン………………

 

 音が、さらに大きくなって、坂の上を見上げると、お祖母ちゃん。

 ほら、しゃくばあじゃない方、去年亡くなった方のお祖母ちゃん。

「おばあちゃん……」

 手を伸ばすと、お祖母ちゃんも――さあ、おいで――って感じで手を差し伸べてくれる。

 認知症で、孫のわたしの顔も忘れた時の顔じゃなくて、よちよち歩きの時「アンヨがじょうず、ここまでおいで~」って、あの時のお祖母ちゃん。

 カツーン………………カツーン………………カツーン………………カツーン………………

 え、音が大きくなって、音が邪魔する感じになって、脚が前に進まない。

 待って、お祖母ちゃん。

 明日香、いま行く、いま行くから。

 カツーン………………カツーン………………カツーン………………カツーン………………

 なに、なんで、この音は邪魔すんの?

 カツーン………………カツーン………………カツーン………………カツーン………………

 別にバリアーとかじゃないんだけど、石段を上ろうとすると力が抜けてしまう。

 カツン

 音が止んだ。

 あ、脚に力が戻ってきた。

 そして、石段を二三段上がったところで、下から上がってきた人に抜かされた。

「え、しゃくばあ?」

 石神井のおばあちゃんが、あたしを追い越して、坂の上まで上って行く。

 上まで着くと、二人のお祖母ちゃんは光になって西の空に上って行ってしまった。

 

 ……わたしは、危ないところで持ち直したらしい。

 

 過労だったところに、子どもの頃に完治したと思っていた病気が再発したみたい。

 集中治療室なんだろうね、ベッドの周りに機械がいっぱい。腕や鼻にチューブ突っ込まれてるし。

 人の気配感じて目をやると、だんご屋のお仕着せが目に入る。

 さつき?

 いや、出雲阿国さんだ。

『さつきからの言付けを伝えに来たの』

『さつきから?』

『さつきね、大公孫樹(おおいちょう)使って丑の刻参りやっちゃってね』

『え、御神木の大公孫樹?』

 思い出した……あの音は、大公孫樹に藁人形打ち付ける音だったんだ!

 さつきは、滝夜叉姫って云って、丑の刻参りの御本家……でも、だれを呪って……?

『人じゃないわ、明日香に巣くった病魔よ』

 阿国さんが指を振ると、藁人形が浮かんだ。

 藁人形のお腹には『明日香の病魔』と書かれている。

『もう千年も封じてきた丑の刻参り、それも明神様の御神木でやっちゃあね……』

『巫女さんに怒られた?』

『わたしが結界張って見えないようにはしてたんだけどね、少彦名命さんに見つかった』

 スクナヒコナ……ああ、明神さまの、もう一人の神さま。

『あの人、小さいから、結界の隙間から入ってこられて、それで大黒様にも知れてしまって』

 そうだ、大黒さまも御祭神。

『お二人は、病気平癒を祈っての事だからって、大目に見ようって仰ったんだけどね、現実の大公孫樹に打ち付けたわけじゃないし。あれは、明日香の心の中の神田明神だしね』

『将門さまが?』

『うん、身内だからこそ甘い顔はできないって』

『さつきは、どうなるの?』

『しばらくは出てこられないって……』

『そう……』

 鼻の奥がツンとして言葉が出てこない。

『あ、行かなきゃ。そろそろ佳代ちゃんも起きるころだから』

 そうだ、阿国さんは、佳代ちゃんの神さまだったんだ。

 さつき……わたしのこと構いすぎだったんだよ。

 

 退院して、お母さんに聞かされた。

 わたしが入院した日に、しゃくばあが倒れて、そのまま逝っちゃったこと。

 今日は、そのしゃくばあの納骨。

 見上げた男坂の上に一片の雲がゆっくり流れていく。

 雰囲気……と思ったら、大江戸テレビのクルーの皆さんが駆け降りてくる。

 ダメですよぉ、AKRの明日香に戻るのは納骨終わってからですからね。

 ちょうど、タクシーもやってきた。

 

 ヘイ、タクシー!

 

 明神男坂のぼりたい 完

 

 

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鳴かぬなら 信長転生記 65『検品長と装備変更』

2022-03-23 13:43:09 | ノベル2

ら 信長転生記

65『検品長と装備変更』信長  

 

 

 なんだこれは……

 

 妹の本営に移送する荷を検めて、曹素は苦虫を嚙み潰したような顔になった。

「こんな軍装を見るのは初めてです」

 検品長も目を剥いている。

「甲冑は胸甲だけだぞ、足軽の装備よりも貧弱ではないか……それに軍衣は筒袖だし軍袴も股引のように細いぞ。こんなもので戦えるのか?」

 三国志の軍装と言えば、ワンピースの表面に鉄片や皮革片を綴じつけた挂甲(けいこう)の類で、足軽程度のものでも簡単な草摺と袖(肩鎧)は付いている。

 それが、鉄地剥き出しの胸甲だけなのだ。

 下の軍装も、上着は筒袖、下は股引。

「これでは洛陽の紙くず拾いが腹を壊して腹巻をしたようではないか」

「昨日の事もございます、めったなことをおっしゃっては……」

「そうだな……で、そっちの装備は?」

「はい、ただいま……」

 検品長が顎をしゃくると、部下たちが長物の行李を解いた。

「鉄砲ばかりです」

「鉄砲だと?」

 ざっと行李を開けさせたところで、曹素は興味を失ってしまった。

 伝統的な装備を良しとする曹素は京劇の舞台衣装のようなものしか、軍装としては認められないのだ。

 まして個人装備の武器は槍や太刀でなければならない。鉄砲などは弾籠めが面倒なだけで、一撃食らわせた後では再装填に時間がかかり過ぎて、ものの役には立たないと思っている。

「検品長、豊盃への輸送はお前がやれ、俺は、風邪をひいて寝込んでいると言っておけ」

「は、はあ」

 検品長はじめ、豊盃への輸送のため早起きした兵たちは顔にこそ出さないが、落胆している。

 仰々しい隊列を組んで、都から運んできたものがこれかと思うと情けない。

 主の曹素は、単純だが気まぐれなところがあり、気に入らないと、重要な任務でも投げ出してしまうところがあるのだ。

 輸送任務ばかりで実戦部隊を任せられないのは、この気まぐれで飽き性な性格が原因だと思われている。

 主将・曹茶姫の兄でなければ、とっくに解任されているか、身に合わない実戦部隊を指揮して身を滅ぼしていたであろう。

「女漁りした奴らの気も分かるぜ」

「これ、余計なことを言うな」

 部下の愚痴を封じると、検品長は、さっさと荷を戻し、隊列を組むと豊盃に向かった。

 見送る兵たちの目には、少々バカにした光がある。実戦に参加することが無い輜重部隊の中にあって、検品のチェックに厳しく、横流しを許さない検品長は融通の利かない万年准尉として軽んじられてきているのだ。

 

「ご苦労であった検品長。しっかりした荷造りであったな。よければ、装備替えを見ていくといい。味方同士だ、互いの仕事ぶりを見ておくのも勉強になるであろう」

「はい、茶姫さま、見学させていただきます。それでは、古い装備を受領してから部隊に戻らせていただきます」

「よし、手間が省ける。なかなか手際が良いようだな」

 部隊に帰っても、洛陽へ帰るための準備しかやることが無い。また、他の兵たちの緩みや狼藉を見ないで済むなら、たとえ半日でも息が抜ける。そんなことは見抜いているのだろうが、茶姫は人を動かすのがうまい。

「検品長、階級は准尉のようだが、名はなんという?」

「え……検品長は……」

「うん、だから検品長、お前の名は?」

「はい……検品長そのものが名前でございます。姓は検、名は品長であります」

「なんと……」

 ワハハハハ クスクスクス アハハハハ( ^ิ艸^ิ゚)

 営庭の兵たちから笑い声が起こる。

「笑うな!」

 茶姫の凛とした叱責の声が響く。

 一瞬で粛とした営庭に下りると、茶姫はズンズン進んで検品長の肩に手を置いた。

「人の姓は先祖からの、名は親からの賜物だ。それを笑うのは非道であるぞ! 品長、お前さえよければ、わたしの部隊に来い。兄には、わたしから連絡をしておく」

「茶姫将軍……!」

「よいな?」

「は、はい……しかし」

「しかし、なんだ?」

「わたしの部下もいっしょではいけませんか? この者たちだけで戻っては……」

「そうだな、兄は、この者たちに辛くあたるだろうなあ。承知した、部隊ぐるみ引き取ってやろう。備忘録、この者たちの世話をしてやれ」

「怖れながら……」

「なんだ、不都合があるのか?」

「いきなりの移籍では角が立ちます。装備変換のため、当面、検品長の隊を出向させるということにされては?」

「おお、良いところに気が付いた。昨日も凹ませたばかりだったしな。では、そういうことで処理してやってくれ」

「承知」

 あっという間に、不遇な検品長とその部下を救済してのけた。

 茶姫の判断も優れているが、それを補佐する備忘録もなかなかの者だ。

「クク……涙が溢れて……止まらないんですけど(´;ω;`)ウッ…」

 一番影響を受けたのは市であったようだ(^_^;)。

 

「これから、新装備に切り替える。ただちに切り替えよ!」

 

 営庭いっぱいの兵たちが、その場で装備を改めた。

 改められると、営庭の門が開かれ、人数分の馬が引かれてきて、兵一人一人にあてがわれた。

「そのまま騎乗せよ!」

 ザザザザ

 五分で切り替えた装備で乗馬すると、胸甲を付けた鮮やかな竜騎兵の大部隊が出来あがっていた。

 

☆ 主な登場人物

 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
 織田 市        信長の妹
 平手 美姫       信長のクラス担任
 武田 信玄       同級生
 上杉 謙信       同級生
 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
 宮本 武蔵       孤高の剣聖
 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
 今川 義元       学院生徒会長 
 坂本 乙女       学園生徒会長 
 曹茶姫         魏の女将軍

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明神男坂のぼりたい・108〔救急車に載せられて〕

2022-03-23 08:20:52 | 小説6

108〔救急車に載せられて〕 

 

 

 救急車のサイレンが聞こえて、途絶えた意識が切れ切れに戻って来る。

 

 三階でひっくり返ったもんだから、どうやって担架もってくるんだろう……?

 苦しいけど、そんなこと思った。

 佐渡君の時は路上だったから、すぐにストレッチャーに載せられて、そのまま救急車まで運ばれた。

「だいじょうぶ、ゆっくり行くからねえ……」

 救急隊員のお兄さんは、とっても口調が優しい。保育所の先生か生協のお兄さんみたいな感じ。

 ガンダムがこんな感じだったら……気持ち悪い。

 宇賀先生だったらステキ、東風先生……ありえねえ。

 イチ ニ サン

 掛け声と共にハンモックみたいなのに載せられて、三人がかりで階段を下ろしていく。

 玄関の階段を降りると、ハンモックごとストレッチャーに載せられ、ゴロゴロと振動が伝わって来る。

 あ……谷底だ。

 上向きの視界に入って来るのは、四角い空。

 男坂と両側の建物に区切られた景色は谷底のイメージ、家の前で、こんな真上を向いたことなかったもんね。

 風の谷のアスカ……なんてね。

 苦しいんだけど、ちょっと感動。

 視界の端に、ご近所の人たち。明神さまにお参りする人もチラホラ。

 あ、だんご屋のおばちゃん……巫女さん……巫女さんの笑顔以外の表情初めて見た。

 ガッシャン

 ハッチバックからストレッチャーごと載せられる。

 その瞬間、心配顔のお母さんの後ろに佐渡君が見えたような……。

 バタム

 ハッチバックが閉められて、発作みたいに救急車のサイレンが鳴り始める。

 ピーポーピーポーピーポーピーポー

 救急隊のお兄さんが無線で連絡して……搬送する病院をあたってる。

「だいじょうぶ、こんな可愛いお嬢さんだから、手を挙げる病院はいっぱいあります(^▽^)」

 心配するお母さんに、救急隊員のお兄さんはやさしい。

 お母さん、ジャージのまま……え?

 首から上はさつき?

「明日香、お母さん付いてるからね」

 声はお母さん。

 え?

 不思議に思ってると、お母さんの顔……え、あたしの顔?

 手を握ってくれて……これって、佐渡君を救急車に載せた時のあたし?

 あたしは……あたしは……

 

 そこで再び意識が……途絶え……た……。

 

 

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やくもあやかし物語・130『天蕎麦で今度の敵は戌』

2022-03-22 12:26:34 | ライトノベルセレクト

やく物語・130

『天蕎麦で今度の敵は戌』 

 

 

 やくもさまやくもさま

 

 アカアオメイドが声をそろえる。

 二人は、いつもポーカーフェイスなので、呼びかけられただけでは何の用事なのか分からない。

 ここは御息所の館なので、ひょっとしたら、滝夜叉姫もお呼ばれしていて、二人は、その先ぶれのためにやってきた?

 いや、ひょっとしてひょっとしたら、将門さまが回復されて、その知らせにやってきた?

 そうだよ、将門さまは神田明神で、関東の総鎮守さま。体力も回復力もずば抜けていて、わたしが蛇(巳)と龍(辰)をやっつけたから、早々と回復した!?

 それとも苦労人の御息所だから、将門さまの下で働いているトラッドメイド(滝夜叉姫)のそのまた下で働いているアカアオメイドさんを慰労するために呼んだとか?

 そうだよ、御息所が、わたしに仕掛けたドッキリなのかも!?

「いえ、そのいずれでもありません」

「頭から否定するのは、ちょっと失礼かもですよ、アオ」

「いえ、ことは緊急を要するのです」

「そうだった。でも、親しき中にもということもあるじゃない」

「緊急なのです、エマージェンシーなのです」

「そうね」

「そうよ」

「あ、え……で、なんの御用なのかなあ(^_^;)?」

「「病魔です、業魔です」」

「え、もう次の!?」

「はい」

「今度は、戌です」

「犬です」

「西の方角です」

「白くて長い布切れを従えて、ちょっと難儀な犬なのです」

「白い布切れ?」

「蛇の抜け殻」

「一反木綿よ」

「どっちなの?」

「「とにかく敵!」」

「ただちに!」

「出撃!」

「わ、分かった分かった、分かったから」

「あら、ちょっと、あなたたち!?」

 メイドたちを従えて、御息所が目を三角にして現れた。

「「あ、御息所!」」

「なんで、あなたたちが断りもなく入ってきてるのよ!?」

「緊急なのです!」

「エマージェンシーなのです!」

 今度は、分かりやすく赤メイドの頭が赤く明滅し始め、アオメイドが「ピーポーピーポー」と警笛の真似をしながらクルクルと回り始める。

「そ、そう、じゃあ、仕方がないわね」

「あ、その匂いは?」

「天蕎麦の匂いですね!」

「蕎麦の香りが爽やか」

「エビ天二個」

「ハモ天一個」

「よく分かるわね」

「わたしたちも」

「メイドですから」

「じゃあ、いってらっしゃいね」

 御息所の言葉に合わせて、お付きのメイドたちも手を振る。

「「仕方ありません」」

 そうだよね……そう観念して、わたしも立ち上がる。

「「天蕎麦いただいてからにします」」

「え?」

「時間が無いのであろう?」

「「時間を停めます」」

「「ええ!?」」

「こういう閉鎖空間でしたら……」

「一時間以内なら、わたしたちでも……」

「「時間を停められます」」

 アカアオメイド二人そろって右手を上げる

「「えい!」」

 小鳥のさえずりも館の上を流れる雲もピタリと動きを停めてしまった。

「それでは」

「頂戴いたします」

 二人は手際よく静止したメイドさんたちが持っている箱膳を寝殿に並べ、四人揃って天蕎麦を頂いた。

 でも、よく考えたら、最初から箱膳は四人分用意されていて、ヤラセだったのかなあと思ったけど、追及はしなかったよ。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王

 

 

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明神男坂のぼりたい・107〔始業式 それぞれの道〕

2022-03-22 07:27:43 | 小説6

107〔始業式 それぞれの道〕 

 

 


 こういう不意な衝撃を受けた時って、あるじゃん。

 タイムリープとか転生とかさ。

 戦国時代に飛ばされて信長の友だちとか? 異世界に飛ばされて勇者になったりスライムになったり?

 ほんの瞬間だけどさ、異世界に飛んでハーフエルフの女の子と知り合って、魔王とかやっつけて、お金や財宝ウハウハで、みんなからチヤホヤされる世界を夢想したよ。

 でも、現実は信長の友だちにも勇者にもスライムにもなれなかった(^_^;)。


 バンジージャンプって脚にゴムが結わえ付けてあるから、落ちては引き戻されてまた落ちるってのが四回ほどもある。つまり、四回も墜落の恐怖に晒されるんだよ! 特に落ちる時の衝撃はハンパ無い!

 アイドルどころか、女であることも捨てた感じ。落ちる速度と谷からの上昇気流が作る合成風力で、あたしの顔は、まるで崩れかけのプリン。

 ギャーと叫んだ口には遠慮なく空気が猛烈な勢いで入ってきて、顔全体をはためかす。中学のときに治した奥歯が銀色に輝き、喉ちんこが叫び声と風にはためいてるとこまで御開帳。鼻の穴も二倍に膨らんで見えるし、つぶった目は押し上げられて、糸ぐらいの細さ。この時間にして30秒もない映像を、さっそくSNSで流される。中には叫んで、一番不細工になった瞬間を50回もつないで流したヒマなやつもいた(#'∀'#)。

 一応アイドルだから、親会社のユニオシ興行が削除依頼してくれるかと思ったら、なんとユニオシ新喜劇の冒頭に大スクリーンに映し出してくださった!

 

 で、今日は一か月半ぶりの学校。

 予想通り、校内で顔合わす生徒のほとんどがあたしの顔見ていく。中には遠慮なく吹き出す奴もいる。相手によって、アハハと笑ったり、恥ずかしげに俯いて見せたり。このへんの使い分けは、AKRの二か月ちょっとで覚えた社交術。

「あれ、美枝は来てないの?」

 空いてる席を見てゆかりに聞いた。

「うん、もうお腹が目立ってきたからね……」

 AKRで明け暮れてた夏の間に、学校のみんなはいろいろあったみたい。

 そりゃそうだろうね。あたしだって、こんなに変わってしまった。

 他にも、いくつか空いてた席があったけど、体育館での始業式終わって戻ってみたら、全部の席が埋まっていた。さすがにガンダムクラス、帳尻は合わせてる。でも、なんか違和感……席ごと居なくなった奴がいた!

「新垣麻衣が、家庭事情でブラジルに帰った。話は、八月の頭には決まっていたけど、みんなに気づかれるのは辛いのでクラスのみんなには内緒だった……今ごろは飛行機に乗ってる時間だろ。朝早くに学校の郵便受けに、こんなのが入ってた……」

 ガンダムは、一枚の色紙を黒板に掲げた。

 

―― みんなありがとう! ――

 

 たった九文字の中に万感の思いが詰まっていた。

 くだくだしいことはなんにも書いてない。あたしだったら日本人の常套句「がんばって!」ぐらい書いただろ。さよならだけどお別れじゃない……なんて言葉を書いたかもしれない。鮮やかなお別れの言葉だった。

 ホームルームのあと、教室に残ってゆかりと夏の空を見ていた。名残の入道雲がゆっくりと流れていく。

 今までのあたしたちは、空気吸い込んだら、なにか言葉にしなくちゃもったいないというくらいのおしゃべりだったけど、二人とも無言。


「サンバ……やるよね?」

「うん、みんなで決めたことだもん」


 言いだしべえの麻衣はいないけど、文化祭でやろうというのはクラスみんなの決定。それが筋だと思う。

 

 夜のステージが終わって家に帰ると関根先輩から手紙が来ていた。

―― メールではなくて、手紙にした、きちんと気持ちを伝えるために。AKRを何回か観に行った。握手会にも並んで。明日香は、ほんとにきらきらしていた。そう感じた。明日香は明日香の道を歩いていけよ。それが一番だ。明日香のことは、明菜といっしょにずっと応援してます。鈴木明日香様 関根学 ――

 涙がこぼれてきた……関根先輩はあたしのこと思っていてくれた。で、決心した。あたしは握手会に来てくれてたことにも気がつかなかった。先輩は悩んだに違いない。そんなことは、ちっとも書いてないけど、短い文章の文字の間に痛いほど現れてる。人の心は……言えないところ、書けないところによく現れる。麻衣も先輩も……。

 返事を書こうと思って止めた。決心した人には余計なことだ。

 スマホ片手にしばらく悩んだ。

 手紙では重すぎる、メール、それも短く……そう思って、指が動かない。

―― ありがとうございました 明日香 ――

 そう打って、何度も読み返して、やっと送信ボタンを押す。

 ポチ…………

 クラっときた。

 急速に視野が狭くなって、あたりが暗くなっていって、いやな汗が噴き出してきて……せめてベッドに……

 バタン

 そのまま床に倒れて、意識が遠のいていく……。

 

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