大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

永遠女子高生・29《塔子の場合・4》

2019-12-15 06:34:43 | 時かける少女
永遠女子高生・29
《塔子の場合・4》
        


 焼き芋が再びのグラビアに繋がるとは思いもしなかった。

「あ、今日も停まってる」
 角を曲がったところで、交差点の向こうに、あの焼き芋屋さんの軽トラを見つけた。
「おじさん、今日も!」
 いちばんオッキイのを買って、ナオタンと半分ずつに。レギュラーサイズ二つ買うよりも安いのだ。
「ハハ、考えたね」
 気をよくしたおじさんは、軽トラック荷台からキャンパス地の庇を伸ばして、その下に折り畳みの椅子を置いてくれた。
 歩きながら食べるのは、やっぱ、どこか恥ずかしい。
 プラタナスと軽トラに挟まれて、程よく隠れているのでノビノビと焼き芋を楽しむことができる。

「ハハ、焼き芋カフェテリアね」

 プラタナスの向こうから声がかかった。
「あ……瀬戸内さん!」
 そこには、ポッペティーンの瀬戸内美晴さんがカメラをぶら下げて立っていた。
「また、撮らせてくれるかなあ?」
「え、またグラビアに載るんですか!?」
 ナオタンの目が活き活きとする。
「あー、今は企画はないんだけどね、あたしのブログとかに使わせてもらおうかと思ってる。だめ?」
「「いいえ、いいえ」」
 焼き芋屋のおじさんや、御通行中のお婆さんとかも入って、数百枚の写真を撮った。

 そして、このブログの写真が雑誌のグラビアよりもヒットした。

 もちろん瀬戸内さんの腕なんだろうけど、あたしたちの写真は「見ていてホッとする」という評判で、あくる春には『ホッと女子高生』のタイトルで写真集になった。

『ホッと女子高生』は『ホッとうこ』の企画に発展していった。

 タイトルから分かると思うんだけど、漢字で書くと『ホッ塔子』になる。つまり、あたしの個人写真集。
 ナオタンも人気があったんだけど「ホッと直子じゃインパクトないもんね」と言って、いつの間にか自分が写ることよりも、マネジメントの方が面白くなってしまった。世話焼き上手なナオタンには向いていたのかもしれない。

 こうして、あたしはモデルと女子大生という二足の草鞋になり、大学卒業のころには女優になってしまっていた。

 正直、女優と言う意識は、さほどには持たなかった。なんというか、ありのままの自分でやってきたように思う。
 一世を風靡したというような女優人生じゃなかったけど、塔子が出ていると、なんだかホッとする……そんな役をもらってばかりだった。これは、マネージャーとしてのナオタンの腕だったと思う。

 97歳になった。

「いい人生だったわ……」
 病室の壁に掛けた写真に呟いた。写真は去年逝ってしまったナオタンのだ。
 あ……写真がぼやけて……また意識がなくなるんだろうか……この一週間、あたしの意識はおぼろになって来た。今度目をつぶったら、もう二度と開くことはないだろうよいう感じはしている。

 廊下の方から人の気配がした。

「……お待たせ」
 一人の女子高生が入って来た。
「……あ………凛子」
「憶えていたのね」
 憶えていたのではない……80年の時間の末に思い出したのだ。

 15分まで待って来なかったので放ってきたことを。

「遅かったじゃない、凛子」
「塔子も直子もがんばりすぎたから……」
「がんばったかなあ…………楽しかったわよ」
「よかった……」
 凛子は、穏やかだけども、とても安心した目になった。

 思い出した……凛子は、あの家に住んでいたんだ。

 あたしたちは戦っていたんだ、この時代に足場を置いて、時空を超えて戦っていた。
 3人のうち2人が犠牲になって踏みとどまらなければ、世界が滅んでいた。
「凛子が生き延びたら、どこかのパラレルで、あたしたちを生かしてくれたらいいからね……泣かないで凛子、じゃ、いくよ」

 凛子は約束を守って、17年に満たなかったあたしたちに人生の続きを見せてくれたんだ。

 ありがとう…………凛子。
 
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永遠女子高生・28《塔子の場合・3》

2019-12-14 06:26:29 | 時かける少女
永遠女子高生・28
塔子の場合・3》
        


 女子高生の朝の身支度は10分~20分だそうだ。

 あたしは計ったことは無いけど、2~3分。
 ざっとブラッシングして、前髪を整えるくらい。メイクはしない。唇が荒れているときにリップつけるくらい。
 スキンケアとか眉毛のお手入れなんか、一ぺんもやったことはない。

 言ってみりゃ生成りの女子高生。

 ビジュアル系だとかモテカワだとか意識したことはない。街を歩いていて、他人様に不快がられなきゃ、それでいいと思ってる。
 だから、教室の机につまづいてスネに傷ができてもへっちゃら。ナオタンとお揃いのバンソーコー貼って喜んでいる。

「塔子お、グラビアまるまる1ページだよー!」

 廊下の端からナオタンが突進してきた。
 ポッペティーン今月号の『日差しの中のナチュラル』というタイトルで、あたしとナオタンの写真が載っている。
 先日、マックを出たところで、ポッペティーンの瀬戸内さんが撮った写真だ。
「エー、うっそー!」
 目立つことはヤなんで、階段の踊り場に移動。
「こんなに、オッキク取り上げられるなんて思わなかったねーーー!」
「まるで、売れっ子ドクモじゃん!」
 8ページにわたる『街角ギャル 秋バージョン』特集で、瀬戸内さんたち4人のカメラマンの競作になっている。
 カメラマンそれぞれがキャプションを付けていて、瀬戸内さんのが『日差しの中のナチュラル』になっているわけ。
 
 嬉しかったけど舞い上がることは無かった。

 その日は「すごいじゃん!」「やったね!」とかクラスの子たちに言われたけど、三日もすると忘れられた。
 高校生にとって面白いことは、日替わり定食みたいに目まぐるしい。あたしら自身もテストや進路のことで忙しい秋の本番に突入していった。
 
「贅沢言わなきゃ、推薦入試ってのは無理じゃないけど、修学院女子なあ……」

 進路懇談でのグッスンは厳しかった。
 担任としてはいい加減だけど、進学指導では定評がある。グッスンがウンと言わなければ本当にむつかしい。
 修学院にこだわっているのはナオタンもそうで、理由は卒業後の進路保証がしっかりしているからだ。安定した一部上場企業のOLさんになって、普通の安定した人生を歩みたいという、手堅いと言うか地味と言うか、そういう路線なんだ。

 あたしもナオタンも、校門出たとこで親とは別れて2人でノラクラと下校する。

「安定した普通を得るためには、一ぺんは頑張らなきゃならないのかねぇ~」
「せめて学年の始めに言ってくれりゃ、頑張りようもあるんだけどねぇ~」
 もう2年生の成績は半分がとこ確定している。今から評定を上げようとしたら、4月の倍の努力が要る。
 そんな努力は自信が無いし、やりたくもない。

 あ、焼き芋屋!

 交差点の向こうに焼き芋の軽トラが停まっている。タイミングよく青になった信号を渡って直行。
「嬉しそうな顔して買ってくれるんだねえ、おじさんも嬉しいからオマケしとくよ」
 おじさんこそ商売がうまい、50円負けてくれたんだけど、調子に乗っておっきい方を買ったので、けっきょく50円高くついてしまった。とうぜん食べるのも大変なので、みっともないように裏の生活道路を通る。
「ん、どーかした?」
 焼き芋を齧りながら振り返ったので、ナオタンが「あれ?」っと思った。
「こっちがわさ……もう一軒家があったような気がするんだけど……」
 道の両側は似たような一軒家が続いているんだけど、南側と北側では家の数が違う。少ない南側に、もう一軒あったような気がして気持ちが悪い。
「このへん建売だからさ、業者が違ったら建坪とかビミョーに違うんじゃない?」
「……そっか」
 
 釈然としなかったけど、とりあえずは大きすぎる焼き芋を食べることに集中したのだった。

 秋はたけなわになろうとしている。

 
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永遠女子高生・27《塔子の場合・2》

2019-12-13 07:08:19 | 時かける少女
永遠女子高生・27
塔子の場合・2》        

 
 
 廊下側から2列目一番後ろの机が、やっと片づけられた。

 プールの授業の後、あたしがぶつかって怪我をしたので、ナオタンがグッスンに抗議。
 無精者のグッスンも、生徒が怪我したとあっては放ってもおけず、やっと片づけたのだ。
 ナオタンは、面倒なことが嫌いで、たいていのことはケラケラと笑って済ます子だけど、ここは言っておかなきゃというところではキチンと言う子だ。あたしがボンヤリして体育の授業に遅れそうになった時もそうだったし、今度の机のこともそうだ。

 そんなナオタンが嬉しくって、お礼をすることにした。これもナオタンがきっかけを作ってくれたことなんだけどね。

「マック、上げ潮だね」
 スマホでなにやら見ていたナオタンが言う。
「ああ、ポケモンGOとタイアップしたんでしょ?」
「それ、もう古いよ。セットメニューをチョー安くしてさ、薄利多売で売り上げ伸びてるみたい」
 ナオタンのスマホを覗き込むと、バリューランチと銘打ってビッグマックとドリンクのセットで400円になっていた!

「悪いわね、なんだかオネダリしたみたいで」
 
 そう言いながら、ナオタンはビッグマックにかぶりついた。
「ううん、ナオタンがいろいろ言ってくれたことで助けられてるもん」
「あ、それって性分なのよ。あとでお節介だったなって反省することの方が多いもん……ハムハム……あの机だってさ、もうちょい早ければ、塔子怪我しなくてすんだでしょ」
「でもね、こんな怪我よりも、ナオタンがグッサンに掛け合ってくれたこと、とっても嬉しかったから」
「ハハ、そっか。怪我してなきゃ有難みも薄いってことだね……でも、そのすねの傷残ったりしない?」
「モデルさんとかになるわけじゃなし、どーってことないわよ」
「そーだ、せめてさ……」
 ナオタンは通学カバンをガサゴソすると、かわいい絆創膏を出して貼ってくれた。
「ハハ、救急車になってる(^^♪」
「うん、塔子って、こういう可愛いのもお似合いだし……そーだ!」
 ナオタンは、閃いて、自分のすねにも同じように貼った。
 なんだか、とても仲良し同士って感じで嬉しくなった。

 嬉しさのまま外に出ると、シャッター音が聞こえた。

「ごめんなさい、勝手に撮ったりして」
 Tシャツにカメラを2台もぶら下げたオネーサンが、恐縮していた。
「あ、あの……」
「わたし、ポッペティーンのカメラマンで……」
 出された名刺には『ポッペティーン専属カメラマン瀬戸内美晴』とあった。
「なんだか、お2人、とってもいい感じにフレンドリーだから。よかったら、この続き撮らせてもらえるかなあ?」
「え、あ……」
「いいですよ、いい記念になるじゃん!」
 あたしは尻込みしたけど、ナオタンはちょうどいい友情記念に思った。
 で、2人とそれぞれの1人撮りを数十枚やってもらって、自分たちのスマホでも撮ってもらった。

 ほんとうにいい記念になった。そして、記念は次への大きなステップになっていく……。
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永遠女子高生・26《塔子の場合》

2019-12-12 06:44:32 | 時かける少女
永遠女子高生・26
塔子の場合・1》   


 
 15分まで待って来なければ放って行くことになっていた。

 だから放ってきたんだけど、こんなことは初めてだ。
 当たり前ならスマホでラインとか電話なんだろうけど、凛子とは、そーいうことはしないことにしている。

 だから朝礼の時間を過ぎても空席になっている凛子の席が気になってしようがない。

 ラインしようかと思ったけど、朝礼が長引いて、担任のグッスンが教室を出ると同時に1時間目の八重桜が入ってきて起立礼になってしまい、きっかけを失ってしまった。

 八重桜というのは凛子が付けたあだ名。鼻から上は美人なんだけど、鼻の下はサンマちゃん。だから「ハナの前にハが出る」とい意味で八重桜。こうゆー言葉の感覚とかは、凛子はとってもいかしている。で、ずっと八重桜と呼んでいるんで、八重桜センセのリアル名前は忘れてしまった。

 休み時間になって直ぐにライン、待ちきれなくて電話もしてみる。呼び出し音はするけど出てこない。

 理不尽てほどじゃないんだけど、こんなことは初めてなので、イラっとくる。
「ね、凛子来てないんだけど、知ってる?」
 隣の席のナオタンに聞いてみる。
「リンコ? だれ、それ?」
「えー、凛子よ吉川凛子、ほら、あの空席の」
 廊下から二列目の一番後ろに目をとばす。
「あそこ……?」
「うん、たまに教科書立てて早弁とか……」
「あそこって、最初から空席だよ。グッスンが間違えて余計に置いて、メンドイからオキッパになってる」
「え、だって……」

 かつがれているのかと思ってスマホを出す。

「うそ…………?」
 なんと、スマホから凛子に関する全てが消えていた。ついさっき電話したばかりなのに履歴も消えていた。
 ボー然とするあたし。
「塔子、急がないと、次ウメッチの体育だよ!」
 ナオタンが急き立てる。

 2年になって、体育が1年の時と同じウメッチだと分かって、あたしとナオタンは叫んだ。

 ギョエー!

 ウメッチの体育はオニだ! 持久走や水泳は規定の時間数をこなさなければ絶対に欠点にされる。だから、見学が溜まってしまい10月になっても補講で泳がされている子も居た。単にプールに漬かってるだけじゃなくて、課題の泳ぎ方で250メートルは完泳しないと許してくれない。

 だから、ナオタンとダッシュしてプールの更衣室へ。

 正味45分、プールでみっちり泳がされる。
「よ-し、上がれ!」
 ウメッチの声でプールから上がる。

 3時間目の授業に遅れそう! 

 慌てて教室に飛び込む。
「ブグ………イッテーーー!!」
 廊下側2列目一番後ろの机の脚にスネを打ち付けて行きが停まりそうになる。
「くっそー、こんな空き机、さっさと片付けろよな!」

 あたしは、そこが、学年の始めから空席だったと思っていた……。

 
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永遠女子高生・25・《京橋高校2年渡良瀬野乃・16・特盛のたこ焼き》

2019-12-11 06:18:28 | 時かける少女
女子高生・25
《渡良瀬野乃・16・特盛のたこ焼き》          




 学園都市線のホームは環状線のホームの下にある。

 環状線だけで通っている生徒は、一階下の学園都市線のホームに降りることなく卒業していく。
 野乃もそういう生徒の一人であった。

――もう、この階段を下りることもあれへんなあ……――

 環状線への階段を上り終えて、野乃はため息をついた。
 半月かかった『少女像』が完成したのだ。もう一之宮先輩の家に行くこともない。
 ボンヤリしていたら、外回り電車の発車のアナウンス。いつもなら走っている――駆け込み乗車は大変危険です――そんなアナウンスなどものともせずに、ギューギュー詰めの車両に突進する。

 それが、今日はできない。

「それじゃ失礼します」と明るく出てくるのが精いっぱいだった。駅まで送るというのを断ったところで笑顔は引きつりかけていた。もう発車直前の電車に駆け込む元気はない。
 乗車位置に着いた時には、USJのデコレーション一杯の電車はホームを離れかけていた。
 間の悪いことに、次の電車は京橋止めだ。
 電車案内の表示が、次の電車が桜ノ宮を出たことを示したときに肩を叩かれた。

「あ、あやめさん!?」

 あやめと連れ立って、商店街のたこ焼き屋に向かった。
「いらっしゃい」「おばちゃん、いつもの」を交わして奥の席に。おばちゃんは、二人の空気を察して、それ以上の言葉をかけてこようとはしない。
「ごめんね、野乃ちゃんが帰ったあと、どうしても話しておかなきゃって……ヘヘ、エプロン外しただけで飛び出してきちゃった」
 エプロンを外しただけの普段着でも、あやめはとても魅力的だ。話をする前に、野乃は凹んでしまう。
「わたしから言うのも情けないんだけど、一度秀と話してくれないかしら」
「……もう作品はできたんですよね」
 このうえ作品の手直しを言われても、もう秀一の前に平常心で立つことはできない。好きだと言う気持ちが涙と一緒に溢れてくるのを止めることができないから。まして、その横にあやめがいては立っていることさえできそうにない。
「あのね、秀一はね……」

「ちょっと待って!」

 なんと、その時、たこ焼き屋に秀一が現れた。
「あ、あ、あたし……」
「気づいたらあやめがいないんで、原チャで追いかけてきた」
「よく分かったわね?」
「あやめがやることは見当が付く」
 やっぱり二人はツ-カーの仲なんだと、野乃は一層委縮した。
「あやめはやりすぎるんだ」
「なによ」
 秀一は、それに答えず、野乃の横の椅子に掛けた。
「あの……もう、これ以上のモデルは勘弁してください」
「そんなことじゃない……野乃ちゃん、ボクは野乃ちゃんが好きだ。付き合って欲しい」

「え……え……え……?」

「モデルになってもらう前に言わなきゃいけないんだけど、今日までズルズルになってしまった」
「そんな……からかわんといてください」
「からかってなんかいない。ボクの本心。今の今まで勇気が無くて言えなかったんだ」
「先輩にはあやめさんがいてはるやないですか。ツーカーの、阿吽の呼吸の、生まれながらの恋人みたいなあやめさんが」

「「あ……」」

 秀一とあやめが同時に息をのんだ。まことに呼吸の合った二人である。
「違うわよ、わたしたちいとこ同士だもん」
「い、いとこは結婚だってできるんです!」
「そうだよね。でも、ボクたちは元々姉弟なんだ」
「え……?」
「双子の姉弟。二卵性のね。あやめが、子どものいない伯父さんのところに引き取られたんで、戸籍上はいとこなんだ」
「阿吽の呼吸なのは……そういうこと。だから、お願いするわ、出来の悪い弟のこと」
「あ、えと……えと……」

「はい、おまっとうさん。いつものん特盛!」

 おばちゃんが、たこ焼を山盛りで持ってきた。
「おばちゃん、多いけど」
「おばちゃんのおごり。たこ焼き食べながらゆっくり話したら、気持ちもやわらこうなって、丸う収まるよってに。野乃ちゃんには、たこ焼大会がんばってもらわなあかんしな。アハハハ」

 そうして、京橋商店街のアーケードは、夕陽を受けて幸せ色に滲んでいった……。
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永遠女子高生・24・《京橋高校2年渡良瀬野乃・15・野乃花》

2019-12-10 06:17:35 | 時かける少女
永遠女子高生・24
《渡良瀬野乃・15・野乃花》          




「ちょっと手を加えてみようと思うんだ」

 ほぼ完成している少女像。それを前に、秀一は腕を組んでいた。

「だめよ秀、もう完成しているんだから変になるわよ」
 レジ袋を置きながらあやめがさえぎる。
「でも、これじゃ綺麗なだけの少女像だ……野乃ちゃんの魅力は、もっと奥が深かったんだ」
 秀一は、腕まくりして少女像とにらめっこを始めた。
「秀一、昨日のテレビ観ちゃったのよ」
「あ……!」
「そう、たこ焼三回転ジャンプ」
 野乃は顔から火が出そうになった。
「あの、あたしはどうしていたらいいですか?」
 秀一が少女像に集中しだしたので手持ち無沙汰になってしまった。
「たこ焼三回転ジャンプできる?」
「えと……勘弁してください」
 あれは、商店街という環境でこそできたのだ、それも秀一のことを吹っ切ろうとして。その秀一を前にしてできるものではない。
「じゃ、いつものようにしてくれる?」
「はい」
 野乃は秀一の前でいつものポーズをとった。手を胸の前で組み、乙女の祈りという言葉がふさわしい清純なポーズ、その実はお日様に顔を向けてクシャミを誘発しようとする野乃の奇癖のポーズ。
「うーん……ちょっとキャッチボールをしにいこう!」
「「え!?」」
 野乃とあやめが同時に声を上げた。

 三人で近所の空き地に行ってキャッチボールを始めた。

「トワッ!」「ナイスピッチング!」
 バシッ!
 最初こそ大人しくボールを投げていたが、あやめのボールが意外に速く、5分もすると、野乃は本気になった。秀一はいつのまにか抜けて野乃のスケッチに集中している。
「よし、これでいける! 二人は、もう少し続けていてくれ。二人のパッションを感じながら一気に仕上げるから!」
 秀一は家まで走って帰ると、20分ほどで一気に仕上げた。
 秀一から完成のメールを受けた時には、野乃もあやめも体育会系の面構えになって汗をかいていた。

「わ……すごい!」

 完成した少女像は清楚な可憐さが、これから空に駆けあがって行ってしまいそうな予感をさせている。
「おめでとう! じゃ、これから完成記念パーティーにしよう! 野乃ちゃんも手伝ってくれる?」
「はい、喜んで!」
 野乃も手伝ったが、あやめの台所仕事は手際良く、秀一との呼吸もピッタリ合っている。
――なんだか若夫婦って感じだな――
 野乃はそう思ったが、おくびにも出さず明るくふるまった。

「少女像に良い名前を考えた!」

 ブタ鍋が二巡目になったころに、秀一は宣言した。
「え、どんな!?」
 野乃は自分に芸名が付けられるようにときめいた。
「野乃花……どうだ!」

「「すてき……!」」

 野乃とあやめの声がそろった。
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永遠女子高生・23・《京橋高校2年渡良瀬野乃・14・あ、渡良瀬さん!》

2019-12-09 05:53:08 | 時かける少女
永遠女子高生・23
《渡良瀬野乃・14・あ、渡良瀬さん!》          




 春休みでよかった。

 たこ焼三回転ジャンプは、思いのほか広まってしまった。帰り道、家まで30秒というところで、タバコ屋のお婆ちゃんに捕まった。
「あたしらの子どものころにもイチビリはおったけどな、たこ焼を、あんなウルトラCで食べる子ぉはおらへんかった。あたしらのころのたこ焼きは……」
 たこ焼き談義を30分ほども聞かされ、その間、タバコ屋のお客さんや通行人の人たちからも「さっき、テレビに出てた!」「あんなことできる子おらへんなあ!」「オリンピックにたこ焼入れるべきやなあ!」などのエールを受けた。
 やっと家に帰ると、たこ焼の匂い。
「スーパー行ったら、前のたこ焼き屋さんに呼び止められてなあ、渡良瀬さんテレビ観てたよ! これで野乃ちゃんに稽古してもろて! いうてもろてきた」
 母がレジ袋一杯のたこ焼きを捧げ持った。
「え、これ全部!?」
「もらうだけやったら申し訳ないから、1000円で買うてきた!」
「3000円くらいはあるよ!」
 早くも口をモゴモゴさせながら奈菜が付け加える。晩ご飯はたこ焼きのフルコースになってしまった。

 あくる日は愛華に呼び出された。

「ノノッチ、女捨てたんやなあ」

 マックシェイクをすすると、ボソリと愛華が言う。手許のスマホはたこ焼き三回転半ジャンプの動画が、これでもかとループしている。
「あたしには似合えへんもん、乙女チックな女子高生なんか……」
「せやかて、一之宮先輩が……あれは、ちょっと本気ちゃうかと思うでえ」
「ないない、この半月モデルやってて、よう分かった。先輩は単に芸術的な興味で声かけてくれはったんや。先輩にはあやめさんがいてはるよって」
「そうかなあ」
「うん、あたしがモデルやってるときも、いっつも付いてはるし……二人はいとこ同士やけど、いとこ同士は……」
 結婚できるという言葉は飲み込んだ。屋上で聞いてしまった二人のスキンシップのことは言うまでもない。
「ノノッチ、あたしやからええけど、ジャージでうろつくのは止めとき。春やねんから、せめてスカートぐらいは穿きいや」
「ハハハ、スカートは内股擦れるからなあ」
「そんな下半身デブいうわけでもないやろに」

 家に帰って制服に着替える。もちろんスカート。

 今日はモデルの最終日。これが終われば新学期の始業式までスカートを穿くことはない。
 学園都市線S駅で降りる。
――帰りに乗ったら、ちょうどイコカもおしまい。キリがええこっちゃ!――
 器用にイコカを三回転半回してパスケースに収めると、野乃は大股で秀一の家を目指した。

 美容院の角を曲がると秀一の家。コホンと咳ひとつして女らしくする。美容院のガラス戸に今日を限りの制服姿が映る。
 美容院のマスターが「いらっしゃいませ」という顔でドアに手を掛けるのに「いえ、ごめんなさい」と手を振って角を曲がる。

「あ、渡良瀬さん!」

 曲がったところで、今まさに玄関を開けようとしているあやめさんと目が合う。
 あやめさんは、ピンクのエプロンして、スーパーのレジ袋。まるで新婚の奥さんというふうだった……。 
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永遠女子高生・22・《京橋高校2年渡良瀬野乃・13・どないしょう!?》

2019-12-08 06:34:26 | 時かける少女
 永遠女子高生・22
《渡良瀬野乃・13・どないしょう!?》          




 京橋たこ焼きタイトルマッチ!!

 商店街のポスターが目に留まった。
 早食いとフィギュアの二部門がある。早食いは規定の15分でどれだけたくさんたこ焼きが食べられるか。フィギュアは、いかに美しく面白く楽しくたこ焼きを食べられるか、それを芸術点や技術点で得点をつけるようだ。
「やあ、こないだあやめちゃんといっしょに食べに来てくれた子やんか!」
 ポスターを貼り終えたおばちゃんが声をかけてきた。
「あ、たこ焼屋のおばちゃん!」
「会長さん、この子、この子!」
 肉屋の前でポスターを貼っていたおっちゃんが振り返る。
「せや、あんたや。あんたのお蔭でアイデア浮かんでな。たこ焼きタイトルマッチにフィギュアを入れることになってん!」
「どないやろ、これもなんかの縁。タイトルマッチに出てくれへん?」
「え、あたし!?」
「うん、あんたやったら、別にエキシビジョンにしてもええよ」
 いつのまにか、商店会の役員やら子どもたちが集まり、買い物客のオバチャンたちも振り返り、なぜかカメラと音声さんを先頭にテレビクルーまでやってきた。
「京橋商店街街おこしイベントの取材に来ておりましたが、おりよく京橋たこ焼きタイトルマッチの出場者第一号決定の現場に出くわしました! ただ今から、そのホットなニュースをお伝えしたいと思います」
 アナウンサーが、人垣をかき分けて野乃に近づいてきた。

 どないしょう!?

 頭の中に秀一とあやめの姿が浮かんだ。きのう屋上のダクトから秀一とあやめがスキンシップしているのを聞いてしまった。
 二人はいとこ同士だけども、深い愛情で結ばれていることが分かった。いとこ同士は結婚もできる。もう、自分が割って入る隙間なんかない。そう感じた。
 いまさら少女像のモデルを辞めるわけにもいかないが、負けと分かりつつ続けるのは悲しかった。秀一の前で明るく振る舞うのも難しいように思う。

 そうや、元の自分にもどろ! マニッシュ野乃や! しおらしい女子高生なんかヤンペや!

「はい、たった今、京橋たこ焼きタイトルマッチ、ノミネート第一号になりました。京橋高校2年の渡良瀬野乃です。出場するかぎり、優勝はあたしです! 我と思わん人はかかってきなっさいー! そこのたこ焼き食べてる小学生、一個投げてくれる!?」
 京橋界隈は、大人も子供もノリがいい。野乃の意図を瞬時に理解して盛り上がった。
「おネーチャン、いくで!」
 小学生がランドセルを揺すりながら、たこ焼を日本女子バレーのようにサーブした。
「おー、まかしときいー!」

 野乃はフィギュアスケートのように空中三回転ジャンプし、見事にトトロのように口を開けてたこ焼きをキャッチした!

 商店街のオーディエンスからは盛大な拍手が起こり、そのさまはライブでテレビ中継されたのだった。
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永遠女子高生・21・《京橋高校2年渡良瀬野乃・12・やっぱり》

2019-12-07 06:17:11 | 時かける少女
永遠女子高生・21
《渡良瀬野乃・11・やっぱり》          




「ノノッチ、順調にモデルやってんねんな!」

 それまでの沈黙を破って、愛華がピョンピョンはじけた。下足室のスノコがカタカタとと音を立てる。
「もうセワシナイ女やなあ」
 愛華の善意はわかっているが、こんなところでハジケテもらいたくないのでツッケンドンになる。
「もう、幸せがきたときは素直に喜ばへんと、幸せの神さまは逃げていくで! この、この、この、このおっ!」
 愛華は「この」の度に通学カバンで、野乃のお尻をペシペシ叩く。
「もう、お尻われるやろ!」
「え、われた?」
「キャ! なにすんねん、ヘンタイ女!」
 お尻を掴まれモフモフされた野乃は、愛華を追いかけまわし、下校ラッシュの下足室のいい迷惑になった。
 そして、迷惑とともに、野乃が秀一のモデルになっていることはともかく、恋していることが知れ渡ってしまった。

「一之宮先輩のことは、ぜったいナイショやからな!」

 愛華に念は押しておいたが、幸せお披露目屋への効き目はないだろうなあと思いつつ、京橋から学園都市線に乗り組む。
――どないしょ、もう、この気持ち止められへんやんか――
 車窓のガラスに薄っすらと映る自分が――諦めとき――と言ったような気がした。

「う~ん……」 
 
 秀一の手が止まった。
 もうデッサンの段階は終わり、原形の粘土像を造る段階にきている。
「あ、動いてしまいましたか?」野乃は恐縮した。
「いや、ちょっと休憩しよう」
「あ、ほんなら、ちょっと外の空気吸うてきます」
 モデルをやっているとき以外、秀一と二人きりでいると息苦しくなってくる。それで二回に一回は、工場の屋上に息抜きに行く。
「……もう、すっかり春やなあ」
 屋上から見える景色に、五分咲きの桜がチラホラ見え始めた。東大阪というのは雑駁な街だけど、こうやって見ると、あちこちに桜が植えられているのが分かる。なんだか、ガラッパチな自分にも人を恋する心があるのに似ている。

 ああ、そこキクキク~……と、まるで男の妖精のような声が聞こえてきた。

「どこから聞こえてくるんやろ?」

 耳を澄ますが、どこからかは分からない――じゃ、こんなのはどう?――今度は女の妖精の声もしてきた。
――うん、きく~、あやめのマッサージは、ほんとうに効くなあ……――
「え、先輩とあやめさん!?」
 声は屋上のダクトから漏れていた。どうやら、秀一がいる部屋からダクトを通じて聞こえてくるようだ。
――いつもお父さんのマッサージやってるからね……じゃ、こんなのはどう?――
――おー、いい! ごくらく、ごくらく~――
――ハハ、打てば響くって感じ、なんだか夫婦みたいだね――
――夫婦? そんな水臭い仲じゃないだろ、オレとあやめは――
――そうだね……お、今度は秀が揉んでくれるって?――
――ああ、おかえし――
――……うぉ、どこ触ってんのよ、そ、その……――

 野乃は慌ててダクトから離れた。やっぱり、先輩とあやめさんは……胸が締め付けられる野乃であった。
  
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永遠女子高生・20・《京橋高校2年渡良瀬野乃・11・いとこ同士》

2019-12-06 06:06:29 | 時かける少女
永遠女子高生・20
《渡良瀬野乃・11・いとこ同士》          




 きのうから野乃の母は機嫌が良い。

 親類から電話があって、急に結婚式に参列することになったのだ。
 本来なら伯母さん夫婦が行くはずだったのが、体調が悪くなって、伯母さんのピンチヒッターで出ることになった。

「留めそでとか着なくてもいいの?」
「新郎新婦の身内じゃないんだから、これでいいの」
 ピンクのワンピを胸にあてがい、姿見の前でスピンしている。
「ちょっと派手すぎひん?」
 奈菜が歯ブラシを咥えたままつっこんできた。
「そうかなあ、よう似合うてると思うねんけどなあ♪」
 母は意に介さず、着替えに行った。
「……思い込みというのは恐ろしいね、お姉ちゃん」
 そう切り捨てると、奈菜は洗面所に戻っていった。
 野乃は、夕べ丹念にブラッシングした制服を点検「よし!」と指差し確認すると、スゥェットをエイヤと脱ぐ。さっきの姿見に上半身裸の自分が映る。
「うん、カッコいいバスト……プロポーションもバッチグー! せや、ブラウスは……」
 母と姉がおめかしの為に部屋に戻ると、洗面から奈菜が戻ってくる。
「母子そろうて、ナルシストやなあ……それとも、うちの姿見は魔法の鏡か? ん、あたしもなかなか……」

 散髪屋、マクド、ブティックに駅の階段と4か所の鏡やガラスに映る自分をチェック。

「アチャー」

 おかげで一本乗り遅れて京橋へ、学園都市線でさらに一本乗り遅れ、目的の駅に着いたときには走らなきゃならない時間だった。
「す、すみません! 遅くなってしもて!」
 息を切らせて秀一の家に着いたときには、ヨレヨレになってしまった野乃だった。
「ちょっと冷房つけるわね。ブレザー脱いで、少しくつろいで」
「す、すみません」
 と、顔を上げると私服のあやめだった。ま、いとこ同士なんだから……と納得しつつも、胸が騒ぐ。
「ちょっと、扇風機点けていいですか?」
「どうぞ」
 の声も待たずに、リボンを外しブラウスも第二ボタンまで外し、扇風機に向かってパカパカとやる。
「そういうのも、いいね」
 いつの間にか秀一が入ってきていてニヤニヤしている。
「あ、先輩!」
 裸を見られるより恥ずかしい野乃であった。

 クシャミするところを見せてくれと言われたらどうしようと思っていた。あやめの説得でモデルは引き受けたが、クシャミのシーンは勘弁してほしい。

「クシャミのところは石膏モデルがあるから……」
 で、かわいい方のポーズでクロッキーとデッサンをとることになった。
 好きな人の視線を感じるのって、こんなに幸せなんだとニマニマしてしまう。
「どうして、わたしが付いているかわかる?」
 半分ほど仕上がったところで、あやめが聞いてきた。
「えと……いとこ同士で、その……仲がいいから?」
「秀が調子に乗って、ヌードになれとか言わせないため」
「おいおい」
「ハハ、うそうそ。でも、すぐに時間忘れちゃうから。さ、お昼にしよ」
「あ、ごめん、もうこんな時間だ」
 あやめは、とっくに下ごしらえを済ませていたので、あっという間に昼ご飯になった。秀一は、あっという間に食事を終え、あやめとお喋りしている野乃をスケッチし続けた。
 昼食をはさんでデッサンをし続け、あやめの「そこまで」で、終わったのは夕方の6時過ぎだった。

 秀一の横であやめが手を振っている。ホームが遠くなっていく。

 いつか、秀一の横に自分が並ぶようになって、あやめも、それを祝福してくれる。そんなことを想像するのも春だからとこそばゆく思う日曜。フワフワした充実感で、野乃は家路についた。

「いやあ、今日の新郎新婦は最高やったわね!」
 母も、伯母の代わりに結婚式に出てご機嫌のようだ。
「ほら、これがお嫁さん。可愛いやろ!」
「ほんま、めちゃお似合いのカップルやんか!」
 スマホを見ながら、親子で幸せのお裾分けにあずかる。
「ヘヘ、この二人のなれそめは?」
「それがね、いとこ同士やねんよ……」
「ほんま!?」
 母と妹は盛り上がる一方だったが、野乃は息が止まりそうになった。

 いとこ同士って結婚できるんだ……。 
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永遠女子高生・19・《京橋高校2年渡良瀬野乃・10・たこ焼きキャッチ!》

2019-12-05 06:05:58 | 時かける少女
永遠女子高生・19
《渡良瀬野乃・10・たこ焼きキャッチ!》          


 
 
 
「わたしと秀はいとこ同士なんだよ」

 野乃は3個目のたこ焼きを落としそうになった。

「知らなかったのね?」
「一之宮先輩と里中さんって、とってもしっくりしてるやないですか。話してても一緒に歩いてても、すごく自然で、なんていうか……友だち以上いう感じが滲み出てますでしょ」
「ハハハ、そりゃ赤ちゃんの頃からいっしょだもの。あ、あたしと秀って、どっちも東京言葉でしょ?」
「ええ、すごく自然な標準語」
「東京弁よ、下町のね。気を付けていないとアサシシンブンとかになっちゃう。中学に入ったころに秀もわたしも大阪に引っ越してきたの」
「いっしょにですか?」
「うん、親同士が兄弟で工場やってんの。秀は工場を継ぐ覚悟。でね、仕事の関係で絵とか彫刻とかの勉強してるんだ」
「仕事でですか?」
「うん、3Dプリンター」
「あ、なんだかフロンティアテクノロジーって感じですね!」
「もう当たり前の技術よ。これにどんな付加価値を付けるかが勝負。そのために秀はアートの鬼にならなきゃならないの」
「鬼に……」
「鬼になるのに大事なことはね、モチベーションてか、創作意欲。ゴッホみたいにたぎるものがなければ続かないものなの」
「あ、それ分かります!」
 野乃はお父さんの仕事を思い出した。
 大学で舞台美術を教えているお父さんは「もっと湧いてくるもんがあったら、教えるんとちごて、自分で第一線に立つんやけどなあ」と言っている。
「とにかく、渡良瀬さんは、そういうモチベーションを上げさせるだけの魅力があるのよ」
「そ、そうなんですか……」
 野乃は耳まで赤くして照れ、照れながら5つ目のたこ焼きを取り落してしまった。「「あ!!」」とあやめと野乃が揃った。
「ホ!……ハグ!」
 野乃は回転レシーブのように、落下するたこ焼きを床スレスレのところで口に収めた。
 たこ焼き屋のおばちゃんと居合わせたお客さんがあやめといっしょに拍手した。
「秀が魅力に感じてるのは、そういうイキイキした渡良瀬さん。あのペアの少女像は傑作よ。ぜひ、協力してあげて!」
「は、はい!」

 野乃は、その場で秀一に電話した。電話の向こうで、秀一が飛び上がらんほどに喜んでいるのが分かった。

 そして、野乃のたこ焼きキャッチを――これはいける!――と、膝を打った商店会の会長がいた。
 
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永遠女子高生・18・《京橋高校2年渡良瀬野乃・9・わたしと秀は……》

2019-12-04 06:10:06 | 時かける少女
永遠女子高生・18
《渡良瀬野乃・9・わたしと秀は……》          



 勝負はついていた。

 勝負と思うこと自体がおこがましい。
 秀一先輩の彼女は若草色のワンピースがとても似合う里中あやめであり、自分はただのゲテモノ。
 秀一先輩は、そのゲテモノをモデルにオモシロイ作品を作ろうと思っただけで、野乃を好きとかいう気持なんかじゃない。
 この一週間の「女磨き」が、とてもバカらしくみじめに思えてきた。

 愛華の誘いも断って、一人で下校することにした。

 ハハハ……。

 この期に及んでモデルさん歩きが身についているのが笑えてくる。
「渡良瀬さん……」
 春風に呼び止められた気がして、振り返ると……一番会いたくない里中あやめが、野乃に続いて校門を出たところだった。
「あ、あの……」
「秀のモデル……だめかな?」
「え……」
 なんで里中さんが言うんだろう。ちょっと混乱した。

 野乃の答えがないので、あやめは数歩距離を詰めてきた。

「歩きながら話していいかしら」
「は……はい」
 あやめは、一筋遠回りの商店街に野乃を誘った。
「ごめんね、遠回りで」
「通学路だと、人に話を聞かれますもんね」
「あ、そこまで考えてなかった。ハハハ、単に商店街が好きなの」
 そう言いながら、予定していたようにたこ焼き屋に入った。
「おばちゃん、いつもの二っつ」
 注文しながら冷蔵庫からビクビタを二つ取り出し、一つを野乃の前に置いた。
「どうぞ、パチモンの栄養ドリンクみたいだけど、いけるわよ」
「あたしも好きです」
「そうなんだ、じゃ、乾杯!」
 あやめは、喉を波打たせ、意外なほどグビグビと飲む。その姿が、また美しいと野乃は思ってしまう。
「はい、いつものん二丁」
 おばちゃんが、たこ焼きを二皿置いていく。
「ここ、300円で8個もあるの。お得感でしょ」
「ほんま、普通は6個ですのにね」
「秀とときどき来るの」
「あ、そなんですね」
「うん……?」
 あやめは、野乃の表情が陰ったのをいぶかしんだ。
「秀、渡良瀬さんに……変なことしたとか言ったとか?」
「いいえ、そんなことは」
「じゃ、モデルになってやってくれないかな。秀、あなたのを高校で一番の作品にしたいみたいなの」
 ウダウダするのは性格に合わないので、深呼吸して野乃は聞いた。
「里中さんは、その……一之宮先輩の彼女なんですよね」
 あやめは目を点にしてフリーズした。

「わたしと秀は……」

 もう夫婦で、子供まで居る。と言われても驚かない野乃ではあったが……。
 
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永遠女子高生・17・《京橋高校2年渡良瀬野乃・8・若草色のワンピース》

2019-12-03 06:27:06 | 時かける少女
 永遠女子高生・17
《渡良瀬野乃・8・若草色のワンピース》           




 奈菜がビグビタを飲んだことは咎めなかった。

 咎めれば、秀一のことを言わねばならず、それて野乃の彼氏!? ぐらいのツッコミをされる。
 で、動揺した野乃を見て、奈菜は喜ぶに違いなく、下手をすれば学校やご近所に言いふらされてしまう。
「へんな姉ちゃん」
 とだけ言わせて、部屋に戻った。

 明くる朝も悶々としていた。

 授業を受けても上の空。もともと学年末テストを受けたあとの授業なんて身の入りようがないんやけど……もう、サイテー。
 ぼんやり窓の外を見ていたら、正門の方から私服たちが、キャピキャピ歩いてくるのが見えた。
 三年生やなあ……卒業式も終わって、完全リラックス……ん?
 キャピキャピの中に、すごく落ち着いた若草色のワンピースを見つけた。
 ほかのキャピキャピと違って、大人の風格。え……先生? 知っている限りの女の先生を思い浮かべる……あんな清楚で気品に溢れた女先生はいない。
「あ……」
 ふと、若草色の見上げた視線とボンヤリ眼のあたしの視線がぶつかってしまった。

 里中あやめ……さん。

 よりにもよって、秀一の彼女と目が合った。
 
 制服姿のあやめさんもすごいけど、私服のあやめさんは、もう大人の魅力。そのままワイドショーかなんかのお天気お姉さんが務まりそう。
 やっぱ、断ろう。秀一先輩は、あたしを珍しいイヌネコのレベルでモデルにしたんや。
 野乃はうつむいて、大きなため息をついた。ちょっと大きすぎるため息だったので、教室中の注目が集まった。
「渡良瀬、どうかしたんか?」
 板書の手を停めて、前田先生が声を掛けてきた。
「いえ、べつに……」
「ノノッチ……」
 すぐ横の愛華が、ハンカチを差し出した。
 
 野乃は、自分が泣いていることに、初めて気が付いた。 
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永遠女子高生・16・《京橋高校2年渡良瀬野乃・7・ドゥワー……!》

2019-12-02 06:14:12 | 時かける少女
永遠女子高生・16
《渡良瀬野乃・7・ドゥワー……!》         



「ドゥワー……!」

 帰るなり机に突っ伏してしまった。
 乱暴に脱ぎ散らかされたローファーを見て、妹の菜々は部屋まで行って野乃の後姿を確認したが、息を殺して自分の部屋に戻った。
―― あの状態の野乃はヤバイ、一番違いで宝くじの一等を逃したとき以上だ ――
 奈菜は息をひそめながら、姉が落ち着くのを待った。

 あれから、秀一は、野乃にスマホの写真を見せた。

 例の少女像が、まだ健在だったときのものだ。
「実は、あの少女像は二つで一つの作品なんだ」
 最初に見せてくれたのは、野乃が運んでいた祈るような姿勢をした少女像。作者の憧れや愛情がうかがえるようで、野乃のホッペは赤く染まった。
「で、もう一つが、これなんだ……」
 スクロールした画面を見て、野乃は息が止まりそうになった。

 顔の下半分を口にして、派手にクシャミをしている野乃の全身像だった!

「このギャップが素晴らしい! 片方だけでも渡良瀬野乃を魅力的に表現しているけど、二つ並べることで、その魅力は100倍になる!」
「は、はあ…………」

 思い出した。

 昼休みに中庭でくつろいでいると、目に太陽光線の漏れたのが刺激になってクシャミが出そうになる。そんなときは我慢せずに、目をつぶって太陽を見る。すると目蓋で濾過された太陽光線がドバっと入ってきて、爽快なくしゃみが出る。お金がかからない野乃のストレス解消方の一つである。
「そのクシャミが出る寸前の、祈りにも似た立ち姿。これも素晴らしい! 文化祭の戯れくらいに造ったものだけど、キミとぶつかって、キミと像をいっしょに目にして感じたんだ。この作品はキチンと完成させなければならない!」
 そのあと、秀一はかき口説くように、野乃がモデルになってくれるように頼んだ。

―― いっそ、ヌードモデルを頼まれた方がましだ! ――

 その場は「考えさせてください」と逃げてきた。
 あんなマンガみたいなことのモデルだったとは……浮かれて女を磨いた一週間ほどが、ひどく滑稽で情けなくなってきた。
「ちょっと、スッキリしよう……」
 涙で腫れぼったくなった両眼をこすると、野乃はキッチンの冷蔵庫を目指した。

「お……奈菜……おまえええ!」

 奈菜はフリーズしてしまった。なんの気なしに冷蔵庫にあった姉妹共通の好物を飲んでいたら野乃が青筋を立てて怒りだしたのだ。
「お、お姉ちゃん……!?」
「そ……そのビグビタはなあ!」

 奈菜の運命や、如何に!!??

  
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永遠女子高生・15・《京橋高校2年渡良瀬野乃・6・ひょっとして・5》

2019-12-01 05:50:04 | 時かける少女
永遠女子高生・15
《渡良瀬野乃・6・ひょっとして・5》         


 
「だいじょうぶ?」

 植え込み一つ隔てた藤棚から秀一の声。

 植え込みがあって良かった。いまのこけ方は、かなりみっともない。スカートはまくれ上がるし、脚はがに股だったし、悲鳴は「ギョエ!」っとカエルみたいだったし。

 でも二秒ほどで立ち上がったときは、清楚系の女子に戻っていた。

「あ、どうも、平気です」
「急な呼び出しみたいで、ごめんね……あ、立ってんのもなんだから、座ろうか」
「は、はい、失礼します」
 野乃は藤棚の下の向かいのベンチに座った。ごく自然な流れのように秀一は、その横に腰かけたので、野乃はキュンとした。
「はい、ビグビタ。渡良瀬さんも好きそうだから」
「あ、ども……」
 ビグビタは、出会いの時に野乃が持っていたが、秀一がぶつかって落としてしまった。で、秀一も同じビグビタをくれたので、それは、まだ飲まずに家の冷蔵庫に入れてある。野乃のラッキーアイテムなのだ。
 いつもなら、立ったまま腰に左手をあてがい、グビグビとオッサンのように飲み干すが、ガラにもなくハンカチでくるんで、秀一が飲むのを待って、少しだけ口を付ける。

「で、さっそく用件なんだけど」
「は、はい!」

 ドッキンとして、むせ返りそうになった。
「あ、飲んでからでいいから」
「はい!」
 条件反射で、いつものようにグビグビとオッサン飲みしてしまった。
「健康的な飲みっぷりだ」
 野乃は――やってしまった!――と、頬を赤くした。
「実は、あの少女像が壊れてしまったんだ」
「え……!?」
「どうも、見えないヒビが入っていたみたいで、ちょっと持ち上げたら、首と脚が落ちてバラバラになってしまったんだ」
「あ、あたしが乱暴に扱ったから……」
「それはないよ。もしそうだとしても渡良瀬さんは、ゴミだと言われて捨てに行くところだったんだから」
「え、いや、そうなんですけど……あんな素敵なものだったら、たとえゴミだと言われても、気づくべきやったんです」
「造りっぱなしで置いておいた僕が悪いんだ、美術の先生にゴミと判断されても仕方が無かった」
「でも……」
「そこで相談なんだけど」
「は、はい!」
 秀一が身を乗り出す。野乃は真剣に受け止めねばと秀一に正面を向けたので、互いに息がかかるところまで近づいた。
 お互いに、ビグビタの香りがすると思った。
「あれを、もう一度作り直そうと思うんだ」
「は、はい!」
「だから、こんどは正式にモデルになってほしい」
「あ、あの……その……」

 野乃は舞い上がってしまった……ひょっとして……ひょっとしてしまったのかもしれない!
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