大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・永遠女子高生・12《塔子の場合・4》

2018-04-26 06:36:37 | 時かける少女

永遠女子高生・12
《塔子の場合・4》
        


 焼き芋が再びのグラビアに繋がるとは思いもしなかった。

「あ、今日も停まってる」
 角を曲がったところで、あの交差点の向こうに、あの焼き芋屋さんの軽トラが営業しているのを見つけた。
「おじさん、今日も!」
 いちばんオッキイのを買って、ナオタンと半分ずつに。レギュラーサイズ二つ買うよりも安いのだ。
「ハハ、考えたね」
 気をよくしたおじさんは、軽トラック荷台からキャンパス地の庇を伸ばして、その下に折り畳みの椅子を置いてくれた。
 歩きながら食べるのは、やっぱ、どこか恥ずかしい。
 プラタナスと軽トラに挟まれて、程よく隠れているのでノビノビと焼き芋を楽しむことができる。

「ハハ、焼き芋カフェテリアね」

 プラタナスの向こうから声がかかった。
「あ……瀬戸内さん!」
 そこには、ポッペティーンの瀬戸内美晴さんがカメラをぶら下げて立っていた。
「また、撮らせてくれるかなあ?」
「え、またグラビアに載るんですか!?」
 ナオタンの目が活き活きとする。
「あー、今は企画はないんだけどね、あたしのブログとかに使わせてもらおうかと思ってる。だめ?」
「「いいえ、いいえ」」
 焼き芋屋のおじさんや、御通行中のお婆さんとかも入って、数百枚の写真を撮った。

 そして、このブログの写真が雑誌のグラビアよりもヒットした。

 もちろん瀬戸内さんの腕なんだろうけど、あたしたちの写真は「見ていてホッとする」という評判で、あくる春には『ホッと女子高生』のタイトルで写真集になった。

『ホッと女子高生』は『ホッとうこ』の企画に発展していった。

 タイトルから分かると思うんだけど、漢字で書くと『ホッ塔子』になる。つまり、あたしの個人写真集。
 ナオタンも人気があったんだけど「ホッと直子じゃインパクトないもんね」と言って、いつの間にか自分が写ることよりも、マネジメントの方が面白くなってしまった。世話焼き上手なナオタンには向いていたのかもしれない。

 こうして、あたしはモデルと女子大生という二足の草鞋になり、大学卒業のころには女優になってしまっていた。

 正直、女優と言う意識は、さほどには持たなかった。なんというか、ありのままの自分でやってきたように思う。
 一世を風靡したというような女優人生じゃなかったけど、塔子が出ていると、なんだかホッとする……そんな役をもらってばかりだった。これは、マネージャーとしてのナオタンの腕だったと思う。

 97歳になった。

「いい人生だったわ……」

 病室の壁に掛けた写真に呟いた。写真は去年逝ってしまったナオタンのだ。
 あ……写真がぼやけて……また意識がなくなるんだろうか……この一週間、あたしの意識はおぼろになって来た。今度目をつぶったら、もう二度と開くことはないだろうよいう感じはしている。

 廊下の方から人の気配がした。

「……お待たせ」
 一人の女子高生が入って来た。
「……あ………凛子」
「憶えていたのね」

 憶えていたのではない……80年の時間の末に思い出したのだ。

 15分まで待って来なかったので放ってきたことを。

「遅かったじゃない、凛子」
「塔子も直子もがんばりすぎたから……」
「がんばったかなあ…………楽しかったわよ」
「よかった……」
 凛子は、穏やかだけども、とても安心した目になった。

 思い出した……凛子は、あの家に住んでいたんだ。

 あたしたちは戦っていたんだ、この時代に足場を置いて、時空を超えて戦っていた。
 3人のうち2人が犠牲になって踏みとどまらなければ、世界が滅んでいた。

「凛子が生き延びたら、どこかのパラレルで、あたしたちを生かしてくれたらいいからね……泣かないで凛子、じゃ、いくよ」

 凛子は約束を守って、17年に満たなかったあたしたちに人生の続きを見せてくれたんだ。

 ありがとう…………凛子。
 

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高校ライトノベル・永遠女子高生・11《塔子の場合・3》

2018-04-25 06:27:17 | 時かける少女

永遠女子高生・11
《塔子の場合・3》
        


 女子高生の朝の身支度は10分~20分だそうだ。

 あたしは計ったことは無いけど、2~3分。
 ざっとブラッシングして、前髪を整えるくらい。メイクはしない。唇が荒れているときにリップつけるくらい。
 スキンケアとか眉毛のお手入れなんか、一ぺんもやったことはない。

 言ってみりゃ生成りの女子高生。

 ビジュアル系だとかモテカワだとか意識したことはない。街を歩いていて、他人様に不快がられなきゃ、それでいいと思ってる。
 だから、教室の机につまづいてスネに傷ができてもへっちゃら。ナオタンとお揃いのバンソーコー貼って喜んでいる。

「塔子、グラビアまるまる1ページだよ!」

 廊下の端からナオタンが突進してきた。
 ポッペティーン今月号の『日差しの中のナチュラル』というタイトルで、あたしとナオタンの写真が載っている。
 先日、マックを出たところで、ポッペティーンの瀬戸内さんが撮った写真だ。
「エー、うっそー!」
 目立つことはヤなんで、屋上に続く階段の踊り場に行く。
「こんなに、オッキク取り上げられるなんて思わなかったねーーー!」
「まるで、売れっ子ドクモじゃん!」
 8ページにわたる『街角ギャル 秋バージョン』特集で、瀬戸内さんたち4人のカメラマンの競作になっている。
 カメラマンそれぞれがキャプションを付けていて、瀬戸内さんのが『日差しの中のナチュラル』になっているわけ。
 
 嬉しかったけど舞い上がることは無かった。

 その日は「すごいじゃん!」「やったね!」とかクラスの子たちに言われたけど、三日もすると忘れられた。
 高校生にとって面白いことは、日替わり定食みたいに目まぐるしい。あたしら自身もテストや進路のことで忙しい秋の本番に突入していった。
 
「贅沢言わなきゃ、推薦入試ってのは無理じゃないけど、修学院女子なあ……」

 進路懇談でのグッスンは厳しかった。
 担任としてはいい加減だけど、進学指導では定評がある。グッスンがウンと言わなければ本当にむつかしい。
 修学院にこだわっているのはナオタンもそうで、理由は卒業後の進路保証がしっかりしているからだ。安定した一部上場企業のOLさんになって、普通の安定した人生を歩みたいという、手堅いと言うか地味と言うか、そういう路線なんだ。

 あたしもナオタンも、校門出たとこで親とは別れて2人でノラクラと下校する。

「安定した普通を得るためには、一ぺんは頑張らなきゃならないのかねぇ~」
「せめて学年の始めに言ってくれりゃ、頑張りようもあるんだけどねぇ~」
 もう2年生の成績は半分がとこ確定している。今から評定を上げようとしたら、4月の倍の努力が要る。
 そんな努力は自信が無いし、やりたくもない。

「あ、焼き芋屋!」

 交差点の向こうに焼き芋の軽トラが停まっている。タイミングよく青になった信号を渡って直行。
「嬉しそうな顔して買ってくれるんだねえ、おじさんも嬉しいからオマケしとくよ」
 おじさんこそ商売がうまい、50円負けてくれたんだけど、調子に乗っておっきい方を買ったので、けっきょく50円高くついてしまった。とうぜん食べるのも大変なので、みっともないように裏の生活道路を通る。
「ん、どーかした?」
 焼き芋を齧りながら振り返ったので、ナオタンが「あれ?」っと思った。
「こっちがわさ……もう一軒家があったような気がするんだけど……」
 道の両側は似たような一軒家が続いているんだけど、南側と北側では家の数が違う。少ない南側に、もう一軒あったような気がして気持ちが悪い。
「このへん建売だからさ、業者が違ったら建坪とかビミョーに違うんじゃない?」
「……そっか」
 
 釈然としなかったけど、とりあえずは大きすぎる焼き芋を食べることに集中したのだった。

 秋はたけなわになろうとしている。

 

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高校ライトノベル・永遠女子高生・10《塔子の場合・2》

2018-04-24 06:05:32 | 時かける少女

永遠女子高生・10
《塔子の場合・2》
        

 廊下側から2列目一番後ろの机が、やっと片づけられた。

 プールの授業の後、あたしがぶつかって怪我をしたので、ナオタンがグッスンに抗議。
 無精者のグッスンも、生徒が怪我したとあっては放ってもおけず、やっと片づけたのだ。
 ナオタンは、面倒なことが嫌いで、たいていのことはケラケラと笑って済ます子だけど、ここは言っておかなきゃというところではキチンと言う子だ。あたしがボンヤリして体育の授業に遅れそうになった時もそうだったし、今度の机のこともそうだ。

 そんなナオタンが嬉しくって、お礼をすることにした。これもナオタンがきっかけを作ってくれたことなんだけどね。

「マック、上げ潮だね」
 スマホでなにやら見ていたナオタンが言う。
「ああ、ポケモンGOとタイアップしたんでしょ?」
「それ、もう古いよ。セットメニューをチョー安くしてさ、薄利多売で売り上げ伸びてるみたい」
 ナオタンのスマホを覗き込むと、バリューランチと銘打ってビッグマックとドリンクのセットで400円になっていた!

「悪いわね、なんだかオネダリしたみたいで」
 

 そう言いながら、ナオタンはビッグマックにかぶりついた。
「ううん、ナオタンがいろいろ言ってくれたことで助けられてるもん」
「あ、それって性分なのよ。あとでお節介だったなって反省することの方が多いもん……ハムハム……あの机だってさ、もうちょい早ければ、塔子怪我しなくてすんだでしょ」
「でもね、こんな怪我よりも、ナオタンがグッサンに掛け合ってくれたこと、とっても嬉しかったから」
「ハハ、そっか。怪我してなきゃ有難みも薄いってことだね……でも、そのすねの傷残ったりしない?」
「モデルさんとかになるわけじゃなし、どーってことないわよ」
「そーだ、せめてさ……」
 ナオタンは通学カバンをガサゴソすると、かわいい絆創膏を出して貼ってくれた。
「ハハ、救急車になってる(^^♪」
「うん、塔子って、こういう可愛いのもお似合いだし……そーだ!」
 ナオタンは、閃いて、自分のすねにも同じように貼った。
 なんだか、とても仲良し同士って感じで嬉しくなった。

 嬉しさのまま外に出ると、シャッター音が聞こえた。

「ごめんなさい、勝手に撮ったりして」
 Tシャツにカメラを2台もぶら下げたオネーサンが、恐縮していた。
「あ、あの……」
「わたし、ポッペティーンのカメラマンで……」
 出された名刺には『ポッペティーン専属カメラマン瀬戸内美晴』とあった。
「なんだか、お2人、とってもいい感じにフレンドリーだから。よかったら、この続き撮らせてもらえるかなあ?」
「え、あ……」
「いいですよ、いい記念になるじゃん!」
 あたしは尻込みしたけど、ナオタンはちょうどいい友情記念に思った。
 で、2人とそれぞれの1人撮りを数十枚やってもらって、自分たちのスマホでも撮ってもらった。

 ほんとうにいい記念になった。そして、記念は次への大きなステップになっていく……。

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高校ライトノベル・永遠女子高生・9《塔子の場合》

2018-04-23 06:38:37 | 時かける少女

永遠女子高生・9
《塔子の場合・1》
        


 15分まで待って来なければ放って行くことになっていた。

 だから放ってきたんだけど、こんなことは初めてだ。
 当たり前ならスマホでメールとか電話なんだろうけど、凛子とは、そーいうことはしないことにしている。

 だから朝礼の時間を過ぎても空席になっている凛子の席が気になってしようがない。

 メールしようかと思ったけど、朝礼が長引いて、担任のグッスンが教室を出ると同時に1時間目の八重桜が入ってきて起立礼になってしまい、きっかけを失ってしまった。

 八重桜というのは凛子が付けたあだ名。鼻から上は美人なんだけど、鼻の下はサンマちゃん。だから「ハナの前にハが出る」とい意味で八重桜。こうゆー言葉に感覚とかは、凛子はとってもいかしている。で、ずっと八重桜と呼んでいるんで、八重桜センセのリアル名前は忘れてしまった。

 休み時間になって直ぐに電話してみる。呼び出し音はするけど出てこない。

 理不尽てほどじゃないんだけど、こんなことは初めてなので、イラっとくる。

「ね、凛子来てないんだけど、知ってる?」
 隣の席のナオタンに聞いてみる。
「リンコ? だれ、それ?」
「えー、凛子よ吉川凛子、ほら、あの空席の」
 廊下から二列目の一番後ろに目をとばす。
「あそこ……?」
「うん、たまに教科書立てて早弁とか……」
「あそこって、最初から空席だよ。グッスンが間違えて余計に置いて、メンドイからオキッパになってる」
「え、だって……」

 かつがれているのかと思ってスマホを出す。

「うそ…………?」
 なんと、スマホから凛子に関する全てが消えていた。ついさっき電話したばかりなのに履歴も消えていた。
 ボー然とするあたし。
「塔子、急がないと、次ウメッチの体育だよ!」
 ナオタンが急き立てる。

 2年になって、体育が1年の時と同じウメッチだと分かって、あたしとナオタンは叫んだ。

 ギョエー!

 ウメッチの体育はチョ-キビシイ! 持久走や水泳は規定の時間数をこなさなければ絶対に欠点にされる。だから、見学が溜まってしまい10月になっても補講で泳がされている子も居た。単にプールに漬かってるだけじゃなくて、課題の泳ぎ方で250メートルは完泳しないと許してくれない。

 だから、ナオタンとダッシュしてプールの更衣室へ。

 正味45分、プールでみっちり泳がされる。
「よ-し、上がれ!」
 ウメッチの声でプールから上がる。

 3時間目の授業に遅れそう! 

 慌てて教室に飛び込む。
「ブグ………イッテーーー!!」
 廊下側2列目一番後ろの机の脚にスネを打ち付けて行きが停まりそうになる。
「くっそー、こんな空き机、さっさと片付けろよな!」

 あたしは、そこが、学年の始めから空席だったと思っていた……。

 

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高校ライトノベル・永遠女子高生・8《瑠璃葉の場合・4》

2018-04-22 06:17:04 | 時かける少女

永遠女子高生・8
《瑠璃葉の場合・4》
        


2000年の2月29日という400年に一度しか巡ってこない日に「みんなの幸せが実現するまでは、天国へ行かない」と誓って亡くなった結(ゆい)は、永遠の女子高生となって時空を彷徨う。


 現実は、その一歩先をいっていた……。

「仲むつまじいカタキ同士の元アイドル」という見出しで、週刊誌に書かれてしまった。
 むろん瑠璃葉と楠葉のことである。

 人の不幸は密の味で、この特集は、いささか評判になった。
――二人はレズの関係か!?――
――複雑なカタキ同士の愛憎?――
 二人は、エキストラの仕事も無くなり、バイト先からも遠回しに辞めてくれと言われた。

 瑠璃葉は大人なので、プライドさえ捨てれば、キャバクラで働くこともできた。
 楠葉は現役高校生でもあったので、風当たりが強かった。『ラ・セーヌ』で主役に抜擢されたころは、学校の広告塔にもなり、チヤホヤされたが、悪い噂が立つと学校も友達も手のひらをかえしたように冷たくなった。

 瑠璃葉は、楠葉に済まないと思った。が、どうしようもなかった。

 楠葉は、病気を理由に休学した。
「あたしのせいだ!」
 瑠璃葉は、そう思った。でも楠葉はサバサバしたものだった。
「あたし、瑠璃葉さんを前にしてなんだけど、本当に病気なの。舞台から落っこちて、神経やられて踊れなくなっちゃったでしょ」
「申し訳ない、それも、アタシの……ウワー!」
「キャー!」

 なんで、ここで悲鳴になるかというと、マスコミの目があるので、二人は考えて浅草はなやしきローラーコースターに乗って肝心の話をした。営業開始から60年になる日本最古のコースターだけど、ほどよく絶叫し、ほどよく話をするのには最適だ。
「あたし、最新の神経再生治療うけるの。うまくいけば、また踊れるようになる……キャー!」
「そうだったの……ウワー!」
「これ降りたら、別行動。治療が終わったら連絡するわ……ギョエー!」

 ほどよく悲鳴をあげたあと、二人はニコニコと別れた。つきまとっていた芸能記者や、レポーターは肩すかしをくらった。

 楠葉は「お金を貯めといて、とりあえず200万円」とメールを打った。
 瑠璃葉は、なりふり構わずバイトやパートをして、明くる年の春には200万円貯めた。
 楠葉は、その間神経細胞再生という最新の治療を実験台になることを条件に受けて成功していた。

――ニューヨークへ行くわよ。行き先は……――

 半年ぶりに楠葉からメールがきて、二人は別々にニューヨークを目指した。
「ニューヨークまできて、アルバイト?」
 瑠璃葉は驚いた。
「うん。ただし、次のステータスのためのステップに過ぎない!」
 楠葉は明るく答えた。
 二人は留学ビザの限度一杯バイトにいそしみ、お金よりも英語力を身につけた。

「え、ここが目的地だったの!?」

 瑠璃葉は目を見張った。二人の目の前には赤レンガのアクターズスタジオが屹立していた。
 アクターズスタジオと言えば、マリリンモンローやジェームスディーンなどを輩出した世界一の俳優学校である。
 むろん入学は難関ではあるが、日本での痛い経験が入学テストに幸いした。テストの内容は「人生で、もっとも辛かったことの再現」であったから。

 かくして、二人は無事に卒業し、アメリカの俳優として頭角を現し、名優として日本に戻ってきた。

 楠葉の結(ゆい)は、瑠璃葉を幸せにすることに成功した。瑠璃葉が、人の幸せ(この場合楠葉)が自分の幸せになるところまで心が成長していたことが嬉しかった。

 結の時空を超えた試練は、さらに高度なものになっていく気配であった……。

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高校ライトノベル・永遠女子高生・7《瑠璃葉の場合・3》

2018-04-21 06:23:09 | 時かける少女

永遠女子高生・7
《瑠璃葉の場合・3》
        



2000年の2月29日という400年に一度しか巡ってこない日に「みんなの幸せが実現するまでは、天国へ行かない」と誓って亡くなった結(ゆい)は、永遠の女子高生となって時空を彷徨う。


『ラ・セーヌ』は竜頭蛇尾だった。

 代役の矢頭萌の印象も良く、第一週目の観客動員も、『限界のゼロ』に次いで二位だった。
 ところが、二週目に入って失速した。

 原因は二つと考えられた。

 一つは、本来主役であった楠葉が事実上芸能界から引退をせざるを得なかったこと。
 もう一つは、楠葉の事故の原因が瑠璃葉ではないかと、一部のファンが言い始めたことである。
 舞台挨拶のビデオを克明に観察したファンがいた。ファンはT大の行動心理学の助手で、専門の行動心理から、目立たないが、瑠璃葉の舞台上での動きを解析して結論を出した。

――瑠璃葉は、舞台上で、一度も主演の楠葉さんを見ていません。この無関心さは不自然で、逆に負の感情、つまり、不快感や強い反発を持っていたように思われます。第一原因者である三島純子さんは、袖のマネージャーに声をかけられ、その注意は完全に舞台袖にあり、三島さんの視線からも足許が見えていないことが分かります。で、ここで注目してください。三島さんのマネージャが声をかけた時、瑠璃葉さんは、一瞬袖を見ています。事態を正確に把握していたといえるでしょう。そして袖にハケる時に、瑠璃葉さんが三島さんの前に足を出す必然性は、人間行動学上ありえません。あるとしたら……故意に三島さんを転ばし、その前を歩いていた楠葉さんにぶつからせ、怪我をさせようとしかかんがえられません――

 匿名の動画サイトへの投稿だったが、波紋は大きく広がり、テレビのワイドショーでも取り上げられ、専門の心理学者などが「この分析は正確で、楠葉さんのファンであることを差し引いても、ほとんど信用してもいいと思います」と、分析した。

 収まらない瑠璃葉は、進んでワイドショーに出て釈明した。

「青天の霹靂です。ビデオがこの通りだとしても、わたしに、そんな意識はありませんでした」
「瑠璃葉さん。そういうのを心理学では未必の故意って、言うんですよ」
 瑠璃葉は墓穴を掘ってしまった。ワイドショーでは、ただの話題作りのために嘘発見器まで用意していたが、瑠璃葉は、それを断った。ますます疑惑は高まり、瑠璃葉は出演が決まっていた映画の役を降ろされてしまった。

「瑠璃葉さん、だめよ、こういうことしちゃ」

 楠葉が、大部屋の楽屋のゴミ箱に捨てられていた映画の台本を手にして、瑠璃葉に小声で注意した。
「あの大部屋で、あの映画に関連してたのは瑠璃葉さんだけだし、通し番号で持ち主は直ぐに分かるわ」
「あ、記憶になかった。ついよ、つい」
「その言葉もダメだわ。また未必の故意って言われるわ」
「……ふん」
 瑠璃葉は、台本をふんだくった。

 二人は、仲良く……はなかったが、いっしょに連ドラのエキストラをやっていた。互いに一からの出直しであった。ただ、新旧の違いはあるが、元アイドル同士で、先日の事件があったところなので、マスコミは直ぐに嗅ぎつけて、記事にした。
「瑠璃葉さん、道玄坂で、美味しいラーメン屋さん発見したんです!」
「原宿で、かわいいアクセサリーのお店ありますよ!」
 楠葉は、すすんで瑠璃葉と仲良くし、マスコミのウワサを打ち消して行った。

 瑠璃葉は、たまらなくなって、渋谷のラーメン屋で聞いた。

「どうして、楠葉は、こんなに優しいのよ!?」
「あたし、瑠璃葉さんのこと好きだから。これじゃ、だめ?」
「あ、あたし、楠葉に嫉妬してたんだよ」
「ありがたいことだと思ってます。それほど関心持ってもらってたってことだもの。あの件だって、あたしが舞台から落ちることまでは考えてなかったでしょ? あれは、あくまでも、あたしのドジが原因なんです」
「楠葉ちゃん……」

 瑠璃葉は大粒の涙を流した。

「ラーメン、塩味になってしまいますよ」

 この一言で、瑠璃葉の心は救われた。だが、現実は、その一歩先をいっていた……。

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高校ライトノベル・永遠女子高生・6《瑠璃葉の場合・2》

2018-04-20 06:20:53 | 時かける少女

永遠女子高生・6
《瑠璃葉の場合・2》
        


2000年の2月29日という400年に一度しか巡ってこない日に「みんなの幸せが実現するまでは、天国へ行かない」と誓って亡くなった結(ゆい)は、永遠の女子高生となって時空を彷徨う。

 楠葉は、左の手足を骨折した。

 エミの役は降りざるを得なかった。代役には同じAKRのチームAから矢頭萌が出ることになり、瑠璃葉は、引き続きエミの姉の役で残り、『ラ・セーヌ』の撮影は続けられた。

 楠葉の怪我は、不幸な事件として処理された。舞台挨拶が終わり、一同が袖に引っ込むとき、直接の原因になった三島純子という女優が袖のマネージャーに声をかけられ、足許に注意がいっていなかった。そのために、たまたま瑠璃葉の足が引っかかり、そのまま楠葉を押すように倒れ込んだ。勢いが付いたまま舞台の下に落ちた楠葉は、左半身を強打、そのまま救急車で病院に搬送された。

 楠葉の中味は結なので、真相は分かっていた。だが、なにも言わなかった。

 しかし、怪我が取り返しのつかないものであるとまでは思っていなかった。並の骨折なら三か月もあれば完治し、映画はともかくAKRには復活できるものだと、楠葉もみんなも思った。
 リハビリに時間が掛かりすぎるので、理学療法士が「もしや」と思って、精密検査が行われた。

「神経が切れている」

 医者の診断であった。普通に歩くことには目立った支障はないが、踊ることができなかった。
 歌って踊ってなんぼのAKRである。卒業せざるを得なかった。
 プロディユーサーの光ミツルは、せめてモデルかソロ歌手として残る道を考えてくれたが、それも楠葉は断った。
「わたし、歌って踊って、なんとか半人前なんです。きっぱり卒業します」
 ミツルの前で、その覚悟を伝えた。

 卒業は、皮肉にも『ラ・セーヌ』の初日であった。

 楠葉は固辞したが、AKRシアターで楠葉の卒業式が行われた。

「小学校の運動会で、こんなことがありました。100メートル競走のゴール手前で転けちゃって、それまで先頭を走っていたのが、ビリになってしまいました。膝を痛めて、そのあとのリレーも出られなくなってしまいました。わたしって、ほんとドジなんです。でも大玉転がしでは一等賞でした。
 人間一つのことがダメになっても、きっと他に開ける道があります。怪我のために、もうみんなのように踊ることもできません。歌は、自分で言うのもなんですが、うまくありません。だからAKRは卒業します。でも、人生の大玉転がしは……きっと、どこかにあります。それを信じてがんばっていきます。それから、この怪我は、楠葉のドジが原因です。誰のせいでもありません」

「そんなこと、ありません。あたしが悪いんです!」

 観客席から声が上がった。

 三島純子だった。映画の初日挨拶を終えて、シアターに直行。楠葉の言葉にいたたまれなくなったのだ。

「三島さん……違います。絶対違います。みなさんも信じて下さい。そして、また、どこかでお目に掛かります。人生の大玉転がしで。そして、これからも、みなさん、AKRの変わらぬファンでいてください。お願いします!」

 楠葉が頭を下げると、三島純子も舞台に上がり、メンバーのみんなも一緒になって涙涙の卒業式になった。

「フン、一晩だけの悲劇のヒロイン。明日になれば、世間は忘れてるわよ。大玉を転がして一等賞になるのは、あたしよ。ざまあ見ろ」

 そう毒づいて、瑠璃葉は、テレビのスイッチを切った。

 テレビの前のテーブルには、次の映画の台本が置かれていた……。

 

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高校ライトノベル・永遠女子高生・5《瑠璃葉の場合・1》

2018-04-19 06:26:30 | 時かける少女

永遠女子高生・5
《瑠璃葉の場合・1》
       


2000年の2月29日という400年に一度しか巡ってこない日に「みんなの幸せが実現するまでは、天国へ行かない」と誓って亡くなった結(ゆい)は、永遠の女子高生となって時空を彷徨う。


 久々のスポットライトは眩しすぎた。

 目の前が一瞬ホワイトアウトし、舞台も観客席も見えなくなった。
 しかし、わき起こる拍手で、自分は、まだアイドルなんじゃないかと、一瞬錯覚した。
 錯覚は、直ぐに覚めた。拍手の対象が微妙に違う。

 意地を張るんじゃなかった。後悔したが後の祭りだ。

 2001年から二年間大ヒットした『ラ・セーヌ』の実写版の制作発表に呼ばれ、瑠璃葉は大先輩のつもりでいた。だから、舞台挨拶は実写版リメークの主役秋園楠葉(あきぞのくずは)といっしょにという条件を出した。
 そして、舞台に出る寸前に、ごく自然に楠葉の前に行き、先頭を切って舞台に出た。

 観客の拍手は、瑠璃葉のすぐ後ろに控えめに現れた楠葉に対するものだった。屈辱感が増しただけだ。

 瑠璃葉は、高三の秋に新作アニメ『ラ・セーヌ』の声優のオーディションに応募して、あまたのプロを押しのけて主役ロゼットの役を射止めた。
『ラ・セーヌ』は、19世紀のパリが舞台で、ムーランルージュの踊り子たちが時代に翻弄されながらもたくましく生きていくという『ベルばら』の再来と言われたほど流行ったアニメだった。

 それが十三年の後、時代を現代に置き換え、主人公も日本から来た留学生が、アルバイトからスターになっていくストーリーになっている。
 その主役が、AKR48から抜擢された秋園楠葉である。まだ17歳で、瑠璃葉の半分ほどにしかならない、現役の女子高生でもあった。

 これが結(ゆい)の新しい姿でもある。

 楠葉は、なかば結の意識で、往年のアイドル声優であった瑠璃葉に、もう一度自身を取り戻してもらって、一流の俳優になってもらいたいと願っていた。
 だからプロディユーサーに頼んで、瑠璃葉にも役を付けてもらった。多少の無理はあったが楠葉の姉の役で、楠葉が演ずる主人公のエミの姉という設定で、最初は妹のエミが留学を捨てて役者になることに反対するが、最後は、その情熱と才能に気づき、応援する側に回るというものであった。

 MCに続いて、楠葉のスピーチが始まった。楠葉がマイクを持っただけで歓声があがる。

「こんにちは、みなさん。正直楠葉はビビッています。研究生からチームRになって半年。総選挙でも47番目だったわたしに、こんな大きなチャンスを頂いて、ほんと足が震えてます」
 可愛いよー! 大丈夫! 観客席から声援と拍手があがる。
「ありがとうございます。えと、この『ラ・セーヌ』は、瑠璃葉さんが声優をされて、一世風靡した作品で、『ベルばら』の再来とまで言われた名作です。今度設定は変わりますが、前作。そして、前作の主役でいらっしゃった瑠璃葉さんの名を汚さないよう頑張りますので、よろしくお願いします。あ、それから瑠璃葉さんには、今回特別出演していただくことになっています。どの役かは内緒ですけど、みなさん、どうぞ楽しみになさってください。では、瑠璃葉さん、どうぞ」

 楠葉は、瑠璃葉にマイクを渡した。拍手はきたが楠葉ほどではない。
 なにか二分ほど話したが、瑠璃葉は、その間も観客の注目の大半が楠葉に向いているのがいたたまれなかった。

 プロディユーサー、監督の話が続き、全員の挨拶が終わって舞台袖に引き上げるとき、自分の前を歩いた助演女優の三島純子に敵意を覚えた。そして体をよけるフリをして、その女優に足をかけた。
 三島純子は「ア」っと声を上げて、前を歩く楠葉に倒れかかり、楠葉は、はずみで舞台から転げ落ちた。

 会場は騒然とし、瑠璃葉も心配顔をつくろったが、胸にはどす黒い快感が湧いていた……。

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高校ライトノベル・永遠女子高生・4《久美の変化》

2018-04-18 06:46:15 | 時かける少女

永遠女子高生・4
《久美の変化》
        


2000年の2月29日という400年に一度しか巡ってこない日に「みんなの幸せが実現するまでは、天国へ行かない」と誓って亡くなった結(ゆい)は、永遠の女子高生となって時空を彷徨う。


 久美は律儀に教育実習をこなしていた。

 S高校の男子生徒たちに絡まれたのはショックだったが、立ち直りは早かった。
「あたりまえだ」と、小百合は思った。
 明くる日、二の丸高校に来てみれば、お行儀のいい生徒ばかり。自分の出身校も乃木坂で、都内でも有数の名門校。S高などは、久美の視界には入っていない。ほんのちょっと怖い思いをしたけど、自分が勤めるのは、二の丸や乃木坂のような学校と決めてかかっている。

 しかし、久美が教師になって、そんな学校で教師を続けられるのは可能性として低く、また、一生をアマちゃんのお嬢ちゃん先生でいることは、小百合になった結(ゆい)には、いけないことに思えた。

「先生、ちょっといいですか?」

 若干ギクっとしたが、久美は、声を掛けた小百合に笑顔を返した。
「なあに、藍本さん?」
 そう応えたとたん、意識はS高校に飛んだ。

「びっくりしないで、飛んでるのは意識だけだから、先生の姿も、わたしの姿も、ここでは見えないわ」

 そこは、学校の玄関だった。メガネをかけたベテランらしい先生が二階の職員室から降りてきた。玄関には、先日久美の襟元を掴もうとしたアンチャンがふてくされ、その横に恐縮しきった母親とおぼしきオバチャンが立っていた。

「どうも、田中君のお母さん、わざわざお越し頂いて恐縮です。どうぞ、このスリッパにお履き替えください」
 メガネ先生は、旅館の番頭さんのようにスリッパを揃えた。
「岸本先生、応接へ……そう、先生も同席してください。あ、お母さん、お履き物はお持ちになってください。ときどき無くなることがありますので。良樹、先生すぐに行くから、お母さんと応接にな」
「……おう」
「おう……はないだろう。良樹にとっても大事な日なんだ。ほんの二十分ほどだ。ちゃんとしろ」
「うん」
「うんじゃない。はい、だろう」
「はい……」
 岸本という若い教師が田中親子を応接に案内しているうちに、メガネ先生は、事務室にお茶をくみに行った」

「ちょっと、早回しにするわね」

 まるでビデオが編集されたように、泣きはらしたオバチャンと、怒ったようにフテった良樹が応接から出てきた。

「退学届けはいただきましたが、こうやって担任をさせていただいたのも縁です。良樹の人生は、まだまだこれからです。ご心配なことがありましたら、いつでもお電話ください。とりあえずは、明日、城南のハローワークで、良樹を待っております」
「オレ、んなダリーとこいかねえし」
「来なくても、時間までは待ってる。先生ってのはな、無駄足踏んでナンボなんだよ。しつこくフォローするからな」
「ちぇ……」
「そんな顔すんな。最後だ、ちゃんと挨拶!」
「ありがとうございました……これ、良樹!」
 良樹は、コクリと頭を下げた。
「よし、じゃあ、先生、明日待ってるからな」
「では、先生、失礼いたします」

 親子は玄関を出て行った。若い岸本は踵を返して職員室に向かおうとした。

「岸本、親子が校門を出るまで見送るんだ」
「え、だって……」
「言われた通りにしろ」

 田中親子は、校門のところで、どちらともなく振り返った。メガネ先生は深々と頭を下げ、岸本先生も、それに倣った。

「辞めてく親子の半分以上は、ああやって振り返るんだ。そのときオレたちが見送っていなきゃ、寂しいだろ。最後まで見届けるのが教師だ」

 そこまで見て、久美はため息をついた。
「いい先生だわね……」
「もう少し見ていよう」
 校長が出てきた。迎えのタクシーが来て、どうやら出張のようだ。
「ご苦労様です、行ってらっしゃいませ」
 メガネ先生は、校長にも慇懃に頭を下げた。岸本先生は、ちょっとバカにしたような顔になった。
「オレは、あの校長個人に頭を下げたんじゃない。S高の校長職に頭を下げたんだ」
「いっしょじゃないですか。あいつ、ここ面倒だから、一年残して早期退職するってもっぱらの評判ですよ」
「評判じゃない……事実だ。しかし、あの男が校長である限り礼は尽くさなきゃならん。学校で大事なのは秩序だ。教師が否定したら、もう仕舞だ」

 久美は、ますます感心した。

「でも、あの先生の本心は、こうなんだよ」
 久美の頭に、メガネ先生の思念がダウンロードされるように入ってきた。

――これで15人目だ。あと3人というところか。240人入って、卒業するのは100人足らず。オレたち一年生の担任は、無事に首を切るのが仕事。明日良樹はハローワークには来ない。そこまで不義理をさせれば、学校の評判を落とさずに、良樹との腐れ縁が切れる。さあ、指導記録の作文にかかるか……この岸本は、こういう機微が分からん。苦労するだろうが、もう大人だ。オレの知ったこっちゃない。新任指導の実績はつくった。あとは自分で地獄を見るんだな――

 久美はショックだった。これがメガネ先生の心……。

「そう、こういう学校が大半なんだよ。久美先生、やっていける?」

 教育実習が終わるころ、久美は先生になることを、とりあえず断念した。
 小百合の中の結は思った。久美のことは、取りあえずここまで。まだまだ手の掛かるのが残ってる……。

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高校ライトノベル・永遠女子高生・3《久美・2・友ゆえの試練》

2018-04-17 06:49:40 | 時かける少女

永遠女子高生・3
《久美・2・友ゆえの試練》
       

2000年の2月29日という400年に一度しか巡ってこない日に「みんなの幸せが実現するまでは、天国へ行かない」と誓って亡くなった結(ゆい)は、永遠の女子高生となって時空を彷徨う。


「これ、本当に藍本さんが書いたの?」

 久美は放課後、小百合を相談室に呼び出した。
 どうも、印象が会わない。小百合は豊かな髪の毛を、今時珍しいお下げにし、両肩に垂らしている。前髪もほどほどで、制服は、そのまま学校紹介の見本に使えそうなくらいキチンとしている。
 顔つき、特に目は親しみと慈愛と言って良いほどの親近感に満ちている。
 だから、暫定的に、この「先生は、バー○ンですか?」は、誰かが小百合の名を騙ってイタズラしたと考えたのだ。

「はい、わたしが書きました」

 期待を裏切る答が返ってきた。用意していた次の質問をする。
「じゃ、どういう意味かしら?」
「読んで頂いたとおりです」
 小百合は、しごく冷静に答えた。
「伏せ字になっているから分からないわ。こういう聞き方をするのは失礼じゃないかしら」
「わたしは、マニュアルみたいな質問をしては失礼だと思ったんです。それをお読みになって、頭に浮かんだお答えがいただけたらと……そう思ったんです」

 久美の頭には○の中に入る字がフラッシュし、表情が固くなった。

「こんな質問に……」
「答える義務はありません」
「分かりました。そして松原先生が答える義務はありません。じゃ、失礼します」
 小百合の早い反応に久美は着いていけなかった。
「藍本さん」
「いいんです。先生がバージンじゃないことは分かりました」
「藍本さん!」

 久美は、顔を赤くして立ち上がった。

「わたしが聞きたかったのは、別の言葉です。失礼ですけど、先生にはトラウマがあるように思いました。失礼します」
 久美には、とっさにかける言葉が無かった。

 夕方を待って、小百合は学校を出た。久美が出てくる寸前を狙った。電柱三つ分後ろの久美には、下校する生徒の一人にしか見えない。目立つお下げは下ろしてある。
 駅近くの公園まで来たとき、S高校の男子生徒たちがたむろしている気配を感じた。S高校は二の丸高校に比べれば、いささか品が落ちるが、ワルというほどの者は少ない。
 小百合は、S高の男子たちのリビドーを少しばかり刺激してやった。公園の入り口あたりに来ると、S高の男子たちの視線が突き刺さってきた。
「よう、二の丸のおじょうちゃんよ」
「シカトしないで、お話してくんないかなあ」

 怯えたフリをしていると、公園の入り口まで来て、小百合を取り巻き始めた。さすがに胸やお尻を触る者はいなかったが、気安く髪や腕に触れてくる。嫌がり怯える風を装ったが、男子生徒たちの欲望はかき立てるが、ちらほら通りかかる通行人は見て見ぬふりである。

 久美は揺れていた。小百合が絡まれているのは分かっているが、足がすくんで動かない。小百合は、もう少し男子生徒たちを刺激した……直接心に入り込んで、男たちの自制心を緩めてやった。
 一人が、ぎこちなく腕を掴むと、公園の中に引きずり込もうとした。小百合は声を出さずに抗った。

「う、うちの生徒に、何をするの!」

 久美が、思い切って声を上げた。そして公園の入り口まで来た。
「なんだ、おめえセンコーかよ」
「……いや、そのリクルート姿は教育実習だな」
「いい度胸してんじゃん」
「痛い目に遭うぜ、ネーチャン」

 久美は、襟元を掴まれそうになり、反射的にのけ反った。高校生の時の体験がフラッシュバックする。ちょっとした段差に引っかかって尻餅をついてしまった。
「オネーチャンの太ももも、なかなかそそるじゃんかよ」
「一人じゃ足んないから、二人いっぺんにいくか。おい、真部のアニキに車で来てもらえよ」
「おお、まかしとけ!」
 一人の男子が、スマホを取りだした。
「もしもし……」
 と、一声言ったところで、スマホは男子もろとも吹き飛んでしまった。他の男子たちはあっけにとられた。
「今の、あたしの回し蹴りだから。今なら、その子だけで勘弁してあげる。それとも自分でやってみなきゃ分からないオバカさんかしら」
 そう言いながら、小百合は手早く髪をヒッツメにした。
「なめたマネしやがって」
「そう、今のはほんのマネ。これから本気でいくからね……」

 久美には、何が起こっているのか、よく分からなかった。小百合が二三度体を捻ると、男たちは、放り出されたサンマのように転がった。
「まあ、骨が折れるようなことはしてないから。一週間も痛めば治るわ。松原先生いきましょう」

 少しは大変だと思い始めたようだ。二週間じっくりかけて、考え直させよう。

 小百合は、腹をくくった。

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高校ライトノベル・永遠女子高生02《久美・1・先生はバー○ンですか?》

2018-04-16 06:27:35 | 時かける少女

永遠女子高生        
《久美・1・先生はバーンですか?》


2000年の2月29日という400年に一度しか巡ってこない日に「みんなの幸せが実現するまでは、天国へ行かない」と誓って亡くなった結(ゆい)は、永遠の女子高生となって時空を彷徨う。


 結は、2003年藍本小百合という、二の丸大学附属高校の女生徒になった。

 役割は分かっていた。多分あの大天使ガブリエルみたいなのがダウンロードしてくれたんだろう。
――久美を学校の先生にしないこと――
 これが命題だった。

 小百合が、まだ結だったころ、久美は高校の先生になることを夢見ていた。
 その久美が、大学の四回生になって、教育実習にやってくる。

「起立、礼、着席!」

 日直の安西君がかけ声をかける。指導教諭の藤田先生の横で、久美が緊張して、虫歯が痛いのを我慢しているような笑顔で立っている。
「えーー、今日から教育実習に来られる松原久美先生だ。今週は授業の見学。来週の三時間を実際に授業していただく。君らは、よそ行きにする必要はないが、必要以上に困らせるようなことがないように。じゃ、相原先生。一言ご挨拶を……」

 久美は、ますます虫歯痛の笑顔になって挨拶した。

「この二週間、勉強させていただく松原久美です。よろしく。大学は、想像が付くと思いますが、二の丸大学です。将来……いえ、来年は採用試験に通って、必ず地歴公民の先生になります。どうぞよろしく。さっそくですが、みんなと仲良くなりたいのと、あとの自己評価の資料にしたいので、わたしへの質問や印象を書いて下さい。名前は書いても書かなくってもいいです」

 緊張はしているが、さすがに高校時代から演劇部だったので、声量と発声は、とてもいい。まず結はひっかけてみることにした……。

 アンケートを五分ほどで取り終えると、久美は藤田先生の授業を熱心に聞き、メモをとって、ときどき頷いたりして、いかにも初々しい教育実習生になった。首からぶら下げているIDが、まるでバーゲンの印のように思えて可笑しかった。しかし、小百合という子は、そんなことは、まるで表情に出ない、一見優等生のお嬢さんである。

「え……」

 昼休みに、実習生ばかりの控え室で、お弁当を食べながら、アンケートを読んで息が止まりそうになった。
 ほとんどのものは、「がんばってください」「よろしくお願いします」「うちのクラブ見に来てください」など。変わったところでも「先生はモームスのダレソレに似てますね」と、いったところで、実習生としての久美そのものに踏み込んだものは無かった。そして、そのほとんどが無記名だった。

 その中に、ただ一つ奇妙と言うよりショックなものがあった。

――先生は、バー○ンですか?――

 というものがあった。そして、きちんと名前が書いてあった。

 藍本 小百合。

 久美は顔を赤くしながらも、対応を考えた……。

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高校ライトノベル・永遠女子高生01《Etenal feemel highschool student 言葉の勢い》

2018-04-15 06:48:29 | 時かける少女

永遠女子高生・01
《Etenal feemel highschool student 言葉の勢い》  

    


 悔しくて心配だった。

 死の淵に立った人間には、相応しくないほど生々しく強い感情だ。

 あたしは、十七歳の若さで死んでいこうとしている。枕許には、両親と弟、そして、親友の三人がいる。

「あと、三日で誕生日だ、がんばれよ、結(ゆい)!」
 お父さんが言った。そうよ、あたしは、三月三日生まれ、まもなく十八になれる。
「明日は卒業式なんだよ。がんばって、四人で卒業しようよ」
 久美が言う。そう、明日は我が乃木坂学院の卒業式……せめて卒業証書を手にして死にたい。
「姉ちゃん、来月はプレステ2の発売だよ。いっしょにやるって言ったじゃないか……」
 ベソをかきながら弟が言う。そう、ファイナルファンタジー・Ⅹをやるのが楽しみだった。
「そうよ、四日には先行予約したのが届くから、お母さんといっしょに……」
 年甲斐もなくゲーマーのお母さんが、あたしの未練を刺激する。一月二十九日の発表には驚いた。きれいなグラフィック、シリーズ初めてのフルボイス。デモビデオのユウナが「できた……!」と言って気を失いかけ、階段を転げ落ちそうになったとき、ティーダが助けようとして、ガーディアンのキマリが抱き留める。あの時のユウナの顔は最高にいい。
 あたしは、まだ人生で、あんな達成感に満ちた気持ちを味わったことがない。あたしもゲーマーだけど、それを超えて女の子として、あの達成感には羨望だ。

「結。ごめん……ごめん。だから死なないで!」
 ありがたいけど、瑠璃葉に言われたくはない。あたしが今、死にかけているのは、瑠璃葉に原因がある。

 前の年、夏休みに瑠璃葉の強引な計画と誘いで、湘南に四人で旅行に行った。
 発展家の瑠璃葉の計画なので、危ないなあという気持ちはあったんだ。
 初日は、湘南の海で、他の海水浴客に混じって遊んでいるだけだったけど、二日目に飛躍した。
「ちょっと、離れたとこで泳いでみようよ!」
 瑠璃葉の言葉に乗って、遊泳禁止区域ギリギリのところで泳いでいた。

 そこに、あの男達が、カッコよくサーフボードを滑らせてやってきた。

 ヤバイと思ったけど、案外キチンとした話し方で、サーフボードの初歩を教えてくれたりした。

「どう、夕方から俺のコテージで焼き肉パーティーするんだけど、来ない?」誘惑に乗ってしまった。

 コテージなどと言うよりは立派な別荘だった。あたしたちも瑠璃葉の別荘に泊まっている。規模は同じぐらいだったけど、こちらの方が、趣味が良い。その雰囲気にも流されたのかも知れない。
 三杯目のドリンクからアルコールが入っていることに気づいた。
 あたしは気づかれないように、ソフトドリンクに替えた。だけど瑠璃葉、久美、美鈴の三人は知ってか知らでか、グラスを重ねた。
 十一時を回った頃、部屋の照明がFDして、なんだか雰囲気が変わってきた。あたしの肩に男の腕が絡んでくる。
「あたし、そういうことはしないの」
 冷たく突っぱねて、庭に出た。本当は、そのまま帰ってしまいたかった。でも三人を残して帰るわけにもいかない。

 何分たっただろう、男が庭にやってきた。

「なあ、おれ達も……いいじゃないか」
「あの三人になにをしてるの!?」
「尖るなよ。みんな、あの通りさ」
 男が顎をしゃくった先のリビングは明かりが落ちて、二階の三つの部屋が薄明るくなっていた。
「リビングのソファーは、エキストラベッドにもなるんだ」
 酒臭い息と共に絡みついてきた手に爪を立ててひっかいた。
「テッ、なにするんだよ!?」

 あたしは、フェンスを乗り越えて道に出た。

 男が欲望むき出しの荒い呼吸で追いかけてくる。そして、海岸沿いの大通りまで飛び出した。

 二つ目の交差点……あたしは車に跳ねられて、頭を打った。脳内出血だった。

 大手術で二か月入院した。瑠璃葉たちは乱暴され、男達は警察に捕まったが、瑠璃葉のお父さんが動いて、学校には知られずに済んだ。
 瑠璃葉たちは、心身共に傷ついたが、目に付いた怪我はしていない。ただ、女の子が女になっただけ。時間と共に傷は癒されていった。

 あたしは、そうはいかなかった。

 秋には一時回復して学校に戻れたが、年末に頭の別の血管が破れて再入院。

 そして、今に至っている。正月には、もう右手と、首から上しか動かなくなった。一月後の今は喋るのもやっと。

「お願い……が……あるの」

 みんなの顔が寄ってきた。意識が切れかけているので、お医者さんが注射をしてくれた。僅かな時間だけど喋れるだろう。
 まとまらないけど、なにかきれいにまとめて死んでいきたかった。
 どんな死に方をしても悲しまれる。だったら美しく悲しんでほしい。そんな思いなんだ。
「なんだい、結?」
「なんでも言って、ユイ!」
「……あたしのことで自分を責めたりしないでね……そして、みんな幸せになってね、亮介も」
 弟は、ケナゲにも歯を食いしばって泣くまいとしている。
「お父さん、お母さん……なにも親孝行できなくて……ごめんなさい」
「結……!」
 お母さんが、気丈な声で、あたしの魂を引き留めている。お父さんは、もうグズグズだ。

「あたし、みんなが……幸せに……なるまで……天国に行かないから……」

 そこまで喋るのがやっとだった。

 一瞬みんなの顔が見えなくなると、明るい光に包まれた……明かりの向こうからきれいな女の人が現れた。

「お疲れ様でした結さん。これからの、貴女のことを説明しにきました」
「あ、あなたは……?」
「えと……大天使ガブリエルとでも思ってちょうだい。人によっては観音さまにも見えるけど。貴女の知識ではガブリエルの方が分かり易い」
「ガブリエルって、受胎告知の……」
「うん、通信や伝達が主な担当」
「あたし、これから、どこへ?」
「天国……と言ってあげたいけど、貴女は誓いをたててしまった」
「誓い……?」
「みんなが、幸せになれるまでは、天国には行かないって……」
「あ、あれは……」

 言葉の勢い……とは言えなかった。

「人間死ぬ前はピュアになって、クールな言葉を言いがち。そこらへんは、あたしたちも分かっている。だから、いちいち末期の言葉を証文のようにはしないわ」
「だったら……」
「日が悪かったわね、2000年2月29日。400年に一度のミレニアムの閏年。この日にたてた誓いは絶対なのよ」
「じゃあ……」
「みんなの幸せを見届け……言葉は正確に言いましょう。幸せになる手伝いをしてあげてください」
「死んじゃったのに?」
「その時、その時代に見合った体をレンタルします……あ、貴女って、まだ卒業証書もらってないんだ」
「あ、多分卒業式で名前呼んでもらえると思います」
「そういう演出じゃダメ。実質が伴わないとね……結さん。貴女にはEtenal feemel highschool studentになってもらいます」
「え、エターナル……?」
あたしは舌を噛みそうになった。

「永遠の女子高生っていう意味。せめてカッコヨク言わなきゃ。まあ、魂の修行だと思ってがんばって。わたしも力になりますから!」

 そう言うと、ガブリエルは光に溶け込んでしまい、あたしは永遠の女子高生になってしまった。

 ああ、Etenal feemel highschool student! 

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高校ライトノベル・新 時かける少女・13〈柏木薫〉

2018-03-03 06:39:56 | 時かける少女

新 時かける少女・12
〈柏木薫〉



 わたしは、助けてはいけない女の子を溺死寸前に助け、代わりに命を失った。そのために記憶を失い、時空を彷徨って、いろんな人生を生きなければならなくなってしまった。

 自分は大正十三年四月四日の生まれである。

 柏木という華族の三男として生を受けた。名を薫という。日本古典文学の半可通であった父が、源氏物語にこと寄せて付けた名である。母が三宮の出身であることに引っかけたようであるが、源氏に出てくる薫は父の源氏とは縁が薄い。そこまでは知らなかった……あるいは、後妻である母への複雑な思いや、配慮があったのかもしれない。
 しかし、昭和の御代にあっては、この男とも女ともつかない名前に、自分自身は苦労した。学習院の初等科に入学したとき、あてがわれた席は笠松潤子の後ろ。すなわち担任が、名前を見ただけでの誤解であった。あとは推して知るべしの混乱が、この二十二年の生涯に幾たびかあった。

 一度だけ、自己確認のために記す。

 自分は、身体は男子なれど、心は女であった。もとより、それは隠しおおせてきたが、苦しいものであった。

 意識的に銃剣道に打ち込み、毛ほどにも女の心を持っていることは、悟られなかった。また、男仲間の中にいることは、自分の密かな喜びでもあった。海軍航空隊の士官となったのも、その延長線の上にあるのかもしれない。しかし、この乖離を解消するために、明日、自分は人生を終わる。むろん、この悪化する戦況において、日本人が日本人であることを後世に残し、再建される日本の心。そのささやかな柱石になれればという心があることも事実である。
 この世に完全などは存在しない。自分の心も、かくのごとくの混乱である。しかし、無理な心の整理などはしない。混乱、不純のまま自分は自裁する。

 一気に書き上げ、一読。納得した。エンカンに入れ燃やしてしまうと迷いも未練も無くなった。混乱、矛盾こそが、自分のありようなのだ。そう確認できただけでいい。

「下瀬さん。あなたの炸薬を試してみますよ」
 そう言うと、下瀬少佐は驚いた顔をした。
「柏木さん……しかし、終戦の詔勅から、もう十日にもなりますよ」
「だからこそ、米軍にも隙がある。今夜にも決行します。明日になれば、残存機のペラはみんな外されて飛べなくなってしまいますからね。整備は、間島整備長に頼んでおきました」

 下瀬少佐が作った炸薬はピカほどの力はないが、並の炸薬の十数倍の威力がある。二十五番(二百五十キロ爆弾)に詰めれば、大和の主砲弾並の力がある。当たり所によれば、一発で戦艦を沈めることもできる。

 機体はグラマンに外形が似ている雷電を使う。

「では、行ってきます」
「あくまで、柏木少佐が機体を強奪したということにしますので」
 整備長が、ニッコリ笑った。自分は、こういう男らしい笑みに弱い。思わず抱きしめたが、整備長は、男の感が極まった行為と受け止め、ハッシと抱きかえしてきた。
「では、行ってらっしゃい。残った者は殴り方用意……始め」

 男達が殴り合って居る間に、自分は発進した。これで、自分が機体を強奪した言い訳にはなるだろう。

 いったん箱根の山の間を抜けて、相模湾に出て、米軍機の巡航速度で高度をとった。そしてあらかじめ調べておいた米軍機のコードで無線連絡し、遭難機を装った。子どもの頃アメリカで暮らしていた英語が役に立った。ヨークタウンから着艦許可が出た。

 近づいて、シメタと思った。三百メートルほどのところに、ミズーリとおぼしき戦艦が停泊している。
「ラダー故障、着艦をやり直す」
 そう電信を打つと、左にコースをそらせ、そのままミズーリのど真ん中に突っこんだ。

 一瞬目の前が真っ赤になって、意識が途絶えた。

 刹那、兄のひ孫の想念が飛び込んできた。

――ミズーリ爆沈、乗員全員死亡。ヨークタウン中破、死者、負傷者多数――

 ミズーリにはマッカーサーが乗っており、ヨークタウンでは、ジョージ・ブッシュという若いパイロットが巻き添えをくって死んでいた。

 自分の、いや、わたしの時空を超えた漂流は、まだまだ続きそうだった……。

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高校ライトノベル・新 時かける少女・12〈S島奪還・2〉

2018-03-02 06:49:08 | 時かける少女

新 かける少女・12
〈S島奪還・2〉
 



 あたしの後に救急患者が運ばれた。

 あたしは瀕死の重傷だったけど、とぎれとぎれに視覚と聴覚は戻っていた。
 患者は、具志堅君だった。具志堅君は、その場で死亡が確認された。声で仲間先生が来ているのが分かった。一瞬とどめを刺されるんじゃないかと思ったけど、すぐに気配が消えた。具志堅君をやったのはエミーたちだろう。で、仲間先生は身の危険を感じてフケた。

 そのころお父さんは、S島から帰還した牛島一尉ら四名と決死のコマンド部隊を作った。

 むろん、お父さんには指揮権など無い。かろうじて自衛隊員の身分を保っている。
 状況に大きな変化が起こる前にS島を奪還しようというのだ。裏ではエミーたちのアメリカのエージェントが関わっている。
 今のアメリカには正面だってC国と争う姿勢はない。でも、現状に危機を感じている者も少なからずいる。米軍は、秘密裏にお父さん達を援助した。

 C国は、S島の支配を完全にするために、一個大隊の派遣を決めている。奪還するのは、この24時間しかないだろう。

 米軍は、故意に軍事衛星の制御を不能にし、ジャミングをかけ続けた。その間に、お父さん達五人のコマンドは、自衛隊機に擬装した米軍のオスプレイから、パラシュートで、S島の東海岸に降下した。米軍は、島の西側に絶えず照明弾を落とし、島の7名の残存部隊を牽制した。米軍としては、戦闘行為ギリギリの行動で、C国政府も抗議していた。C国政府は、島に接近する米軍機に、島から威嚇射撃することを認めた。そして、本当に携帯型の地対空ミサイルを撃ってきた。お父さん達は、その隙間を狙って、降下したのだった。

 勝負は三十分でついた。

 お父さん達五名のコマンドは、全員二回以上のレンジャー訓練を受けたベテランたちで、牛島一尉ら四名は、つい二十時間前に、ここで戦って、敵のクセを把握していた。
 島には、日本とC国の戦死者の死体が、そのままにされていた。お父さん達は、その戦死者達に紛れて、S島の残存部隊に接近したのだ。
 C国の七人は、まだ息のある味方の負傷者を周囲に集め、その気配に隠れていた。

 敵の七人は、瞬時に五人が即死。二人が捕虜になった。

 そして、島に奪還を示す日章旗が掲げられ、待機していた米軍が撮影。その動画は、瞬時に動画サイトに投稿され、世論も瞬時に変わった。

――自衛隊5人のコマンド、S島を奪還――
――凄惨な戦場!――

 キャプションが付いた動画は、サイトの暗号化に成功していたG社によって、C国国内にも流れた。
 島に生き残っていたC国の七人は、負傷していた自衛隊員に残虐にもとどめをさしていた。明らかに戦時国際法や交戦規定に違反している。日本人を本気で怒らせたことはもちろん、アメリカの世論も日本に味方し、安保条約の規定通り出撃し、S島を目指していた、C国の一個大隊の半数を輸送機ごと撃破した。

「わたしたちは命令に反して出撃しました。シビリアンコントロールに反する行為です。責任をとって、辞職いたします」
 お父さん達五人は、部隊章、階級章をむしり取り、自ら武装解除した。

 国民の世論は、圧倒的にお父さん達を支持し、最初の無理解な命令を出した政府を非難した。
「なぜC国と話し合いをしなかったのか!?」
 そう報じたA新聞は、その日のうちに百万人の購読者を失った。

 あたしは、この状況を夢として見ていた。もう助からないなと、自分でも、そう思った。

 お母さんが、一睡もしないで付き添ってくれた。
 最後に目に入ったのは、涙でボロボロになったエミーの顔だった。
 お父さんが駆けつけてきたときには、あたしは天井のあたりから眺めていた。

 ああ、幽体離脱したんだ……。

 そう思った瞬間、あたしは時間の渦に巻き込まれていった。小林愛としての人生が終わり、別の人間として、また時空をさまよう。時かける少女なんだ。あたしは……。

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高校ライトノベル・新 時かける少女・11〈S島奪還・1〉

2018-03-01 07:04:17 | 時かける少女

新 かける少女・11
〈S島奪還・1〉
 



 勇猛七烈士!!

 C国のマスコミは、こぞってS島の生き残りの兵士たちを褒め称え、S島の死守に成功したことを宣伝した。
「このままじゃ、S島は、完全にC国に取られてしまう。アメリカは、仲介に入って現状を追認するつもりよ」
 エミーが、電話してきて、奇妙なほど落ち着いた声で言った。
「電話じゃ、分かんないよ。学校で詳しく教えて」
 微妙な間があったあと、エミーが言った。
「そうね、そうするわ。それから、この電話は盗聴されてるから。具志堅君でしょ、聞いてるのは。対抗措置とるからね」
 エミーが、そこまで言うとプツンとかすかな音がした。
「学校に行ったら、気を付けて。まだ、敵のスリーパーがいるから。じゃあね」

 一方的に電話が切れた。

 学校に行くと、エミーが来ていなかった。あたしは、職員室で念のため、日直であることをいいことに、両隣のクラスの出席簿を確認した。C組の具志堅という男子が欠席していた。こいつだ、盗聴していたスリーパーは。

 視線を感じた。

「よそのクラスの出席簿見ちゃダメだろ」
 教務主任の宮里先生に叱られた。
「ちょっとお父さんのことでナーバスになってるのよね。勘違いぐらいはするわよ」
「お前か、小林連隊長の娘は?」
 宮里先生は、蔑みの目であたしを見た。こんなところまで、作戦失敗の責任はお父さんにありと浸透している。マスコミの怖ろしさを感じた。
「宮里先生、この子には関係のない話です。そんな言い方はしないでください」
 音楽の仲間先生が、毅然と宮里先生に言ってくれた。
「急ぎで悪いんだけど、昼からの音楽の時間に使うプリントを配っておいてほしいの、準備室に来てくれる」
「はい」

「失礼します」
 音楽準備室に入ると、仲間先生の暖かい眼差しが返ってきた。
「さっきは、どうもありがとうございました」
「いいえ、わたし、ああいう弱い者いじめみたいなことは嫌いだから。じゃ、これ、よろしくね」
「はい」

 プリントの束を受け取って、準備室を出ようとしたら、ドアが開かなかった。

「またか……ここのとこ鍵の具合が悪くてね、音楽室の方から出てくれる」
 仲間先生は、準備室と音楽室を仕切るドアを開けてくれた。
 とたんに突き飛ばされ、あたしはピアノの横に倒れてしまった。一瞬なにが起こったか分からなかったが、仲間先生の顔を見て分かった。今までの優しい先生の顔じゃなかった。

「卑怯なことは嫌いだから、説明してあげる。わたしは宇土麗花の姉よ。妹のカタキとと任務を遂行させてもらう」
「先生……スリーパー!?」
「の、リーダーよ。ここであなたには死んでもらう」
「なんで、あたしのお父さんは解任されたわ!」
「いいえ、吾妻愛のお父さんは、まだ現役よ」
「え……」
「だって、あなたのお父さんは総理大臣だもの」
「うそよ、あたしのお母さんはDNA検査でも実の親だったもの」
「お母さんはね……」
「え……」
「小林一佐は、お母さんごとあなたを引き取ったのよ。お父さんと愛は血のつながりはない。知っているのは、ごくわずか。愛は、お父さんのことを悲観して発作的に飛び降り自殺をするの。総理はショックでしょうね……」

 そう言いながら、仲間先生は、静かに音楽室の窓を開け、その一秒後には、あたしを三階の音楽教室の窓から無造作に放り出した。

 仲間先生の悲鳴で、先生や生徒達が集まってきた。

 あたしはあちこちの骨、特に頭蓋骨骨折で「もう、死ぬんだ……」と思った。
「宮里先生が、あんな嫌みなことをおっしゃるから! 小林さん! 愛ちゃん! 死なないで!」
 薄れる意識の中で、血まみれのあたしを抱きしめて涙を流している仲間先生……いや、C国のスリーパーを呪った……。

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