大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・80『瑠璃波美美波瑠璃……どこで切るんだ?』

2022-09-30 06:26:30 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

80『瑠璃波美美波瑠璃……どこで切るんだ?小菊   





 読んでいるとは思わなかった。

『くたばれ腐れ童貞!』は25日発売のトッパ6月号に載るので、関係者以外で読んでいる人はいないはず。


「言葉が生きているわ、ただのツンデレの裏がえし兄妹愛じゃなくて、若者のことなかれに対する憎しみが心地よかった。ほら『女のここ一番に素通りかましやがって、そこに直れ! 使う気のない道具なんかちょん切ってやる!』って、ハサミ持って家中追い掛け回すじゃない、その時の家の描写がさ、昔の置屋の雰囲気と兄貴のヘタレぶりとか、荒ぶる神みたくなった佳乃(主人公)とが重層的で、なんか、初めてVRで観たときみたいな迫力だったわ!」

「え、なんで知ってるんですか?」

「わたし、すごいと思ったら、なにがなんでも自分で確認しなきゃ気が済まないの。そんなわたしのペンネームは瑠璃波美美波璃瑠(るりはびびばりる)よ」

 ええ( ゚Д゚)!?

 その上から読んでも下から読んでもみたいなビビットペンネームは、突破新人賞の最終選考に残って最優秀を競い合った女子高生!

 書類のペンネームでしか知らなかったけど、まさか同じ神楽坂高校の生徒だとは思わなかった。

「でも、なんで発表前の作品を知ってるんですか?」

「それは言えない。そういうことも含めて、わたしの力だと思って」

「そう……(^_^;)」

「そんな二人が一緒になれば、きっとすごい化学変化が起きると思わない?」

「えと……あたし部活とかで群れる気ないんで」

「あら……そう」

 瑠璃波美美波璃瑠さんの瞳孔がさらに小さくなった。

 すると、瑠璃波美美波璃瑠さんは両手でほっぺたをペシペシ叩いた。

 叩くと、それにつれて瞳は大きくなって、ちょうど三回叩いたところでレギュラーな大きさになり、そのせいか、ひどく柔和な顔つきになった。

 正直ホッとした。

 あのまま瞳孔が縮んでいったら蛇みたくなって、いや、ほんとに蛇とかになって、呼び出された校舎裏で呑み込まれてしまうんじゃないかとビビった。

「じゃ、またね。わたしのことは瑠璃波美美波璃瑠でも和田友子でも好きな方で読んでちょうだい。ほんじゃ!」

 瑠璃波美美波璃瑠さんは宇宙戦艦ヤマトのクルーみたいな敬礼をして回れ右をした。

 回れ右の勢いが強すぎて、スカートが大きく翻り、脚の付け根近くまで見えてしまった。あまりきれいな脚なんで、ドキリとしてしまう。

「そだ、明日から中間テスト、がんばってね。一年の一学期は先生たち締めてくるから、気を抜くと欠点だらけになっちゃうからね」

「あの……」

「なに? ひょっとして気が変わった!?」

「いえ、そうじゃなくて、瑠璃波美美波璃瑠さんのお名前って、どこで切ったらいいんですか? やっぱ真ん中?」

「好きなようにぶった切ってちょうだい、書くことにかけては敵同士なんだから」

「あ、はい、いえ……」

 それだけ言い残すと、瑠璃波美美波璃瑠、いや和田友子さんは、昇降口を出ていく友だちに「いっしょに帰ろ(^▽^)」と声を掛けてふつうに行ってしまった。

 スマホでググると、瑠璃波美美が苗字で、波璃瑠が名前の、キラキラペンネームだと分かった。

 

 瑠璃波美美波璃瑠さんの言葉通り初めての中間テストはムズイ。

 数一の答案用紙、下1/3が空白のままに一昨日の瑠璃波美美波璃瑠さんとの出会いを思い出しているあたし。

 そだ、瑠璃波美美波璃瑠じゃ舌を噛みそうなのでビハ……ビバさんと呼ぼう。数一のテスト時間で考え付いたベストの答えなのだった。

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿幸一           祖父
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート
  • ビバさん(和田友子)     高校二年生 ペンネーム瑠璃波美美波璃瑠 菊乃の文学上のカタキ
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魔法少女マヂカ・291『孫悟嬢が救援に来てくれる!』

2022-09-29 16:18:27 | 小説

魔法少女マヂカ・291

『孫悟嬢が救援に来てくれる!語り手:マヂカ 

 

 

 風を巻き起こしたのは孫悟嬢、もう一つは、孫悟嬢の如意棒。

 如意棒は意志あるもののように雲を曳きながらポチョムキンの周囲を旋回、着かず離れずの間合いを取ってポチョムキンに打ちかかり、わたしを攻撃する余裕を与えない。

「掴まれ!」

 悟嬢自身は筋斗雲を寄せて、わたしを助けてくれる。

「ありがとう、助かった!」

「来栖司令が戦闘記録を照合して、現れるなら舞鶴沖だろうと見当を付けてくれたんだ。待ってくれ、止めを刺すからな……」

 ブチ

 悟嬢は一房の髪を毟ると、フッと息を吹きかけて飛ばした。

 飛ばされた髪は、数百人のミニ悟嬢になって、それぞれの如意棒を握ってポチョムキンに打ちかかっていく。

「みんながんばれ! ここで仕留めるんだ!」

 エイ! エイ! トー! セイ! セイヤ! トー! エイ! トリャー!

「かわいいもんだね」

 小さな悟嬢たちが打ちかかっていく様子は、戦闘とは思えない可愛さがある。如意棒は、けっこうヒットして、そのたびにポチョムキンの甲冑や剣に火花を走らせる。

「本当は等身大なんだけどな、このニ十一世紀に飛んでくるのは、ちょっと無理があって、あれが精いっぱいなんだ」

「飛行石があれば、わたしも自在に戦えるんだけどね」

「仕方がないさ、無理をしているのはポチョムキンも同じだ。疲れて音を上げたところを仕留めるさ」

 セイヤ! トー! エイ! トリャー! エイ! エイ! トー! セイ!

 悟嬢の分身たちは懸命に戦ってくれているけど、個体によって差があるようだ。

 猪突猛進してポチョムキンの剣で粉砕される者もいるし、巧妙に動き回って一打を決める者、グルグル回っているばかりで、攻撃のタイミングが掴めない者、親分の如意棒の後ろに隠れて、声をあげているだけという者もいる。

「これを持っていてくれ、万一の時は役に立つ」

「なに、指輪?」

「髪の毛をリングにして固めたものだ、多少の役には立つだろう」

「ありがとう……で、どうケリを付ける? ちょっと旗色が悪くなってきたみたいだけど」

 猪突猛進型のものが、ほとんど打ち砕かれて、人数は半分ほどに減っている。

「その分、奴も、くたびれ始めているさ……今だ、如意棒!」

 悟嬢の檄に感応したのか、如意棒は、一瞬で力を貯めると一気にポチョムキンに突きかかって行った!

 

 ガキーーーーン!!

 

 敵は、一瞬のうちに悟って結界を張った。

 しかし、生成がわずかに追いつかず、如意棒は弾き返されたが、ウブな結界は障害物が当たったフロントガラスのようにひびが入った。

「まずい、中途半端だ!」

 悟嬢が筋斗雲を巡らせるのと、強度の落ちた結界に穴が開くのが同時だった!

 ビューーー!!

 結界の中と外では、大きな気圧差があるようで、結界の穴に周囲の空気が持っていかれる。

 分身たちは懸命に風に逆らうが、その抗いには結構なエネルギーを使うようで、次々に弾け去っていく。

 パチン ピチ パチ プチン

「仕方がない、とりあえず戻るぞ!」

 筋斗雲が方向転換するのと結界の割れ目が大きくなるのとが同時だった!

 ビョオオオオオオオオオオオ!!

 猛烈な風が吹いて、わたしは体を持っていかれてしまう。

「マジカアアア!」

「悟嬢オオオオ!」

 お互いの叫び声も虚しく、わたしは結界の中に吸い込まれていってしまった……

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長 アキバのメイドクィーン(バジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン一世)
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔
  • サム(サマンサ)     霊雁島の第七艦隊の魔法少女
  • ソーリャ         ロシアの魔法少女
  • 孫悟嬢          中国の魔法少女

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査
  • ファントム      時空を超えたお尋ね者

 

 

 

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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・79『イテ!』

2022-09-29 06:32:57 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

79『イテ!小松   






 ミリーさんからメールが来た。

 ほら、ミコちゃん……じゃわからないか、シグマちゃんのお祖母さま。

 春先に@ホームに来られてメイドカフェが気に入って、ハワイ@ホームを作っちゃって、わたしたちアキバ@ホームのメイドをインストラクターに呼んでくださった。

―― おかげさまで、ハワイ@ホームは順調です。月末にでも、みなさんいっしょに来ませんか? ワイキキの浜辺も待ってますよ! ――

 ハワイ@ホームのメイドさんたちの写真が添付されていて、一気に懐かしさがこみ上げてきた。

―― みんなと相談して、ぜひ伺います! ――

 返事を打ってルンルン気分。考えたらハワイ、湘南にいくようなわけにはいかないんだけど、お仲間はいっぱいいるし、ま、なんとかなるでしょ(^▽^)/。

 ワクワクして笑いがこみ上げてくるのは、青春真っ盛りの証拠です!

 ウフ フフフ フフフフ アハハハハハ…………イテ!

 激しく笑うと傷が痛む。今日のわたしは、退院後最初の通院なんだった(^_^;)。

 思わずわき腹を押える。ショーウィンドに映る姿が自分でも可哀そうなんだけど、ひどく三枚目じみて見えるのは、わたしの本性だからなのかもしれない。実際、ウィンド向こうの店員さんが笑いをこらえて俯いている。

 十時の予約だったのに、診察室に入れたのは十一時だ。

 お待たせして申し訳ありません。他の業種だったら、ぜったいお詫びの言葉から始まる。

 病院は、こういう場合でも涼しい顔で「84番の方どうぞ~」になる。

「失礼しま~す」

「え~と……あら、ずいぶん早く退院したのね」

 挨拶に返事も返さずに、この言葉。わたしは絶句しそうになったけど、きっちり言いました。

「先生が退院しろっておっしゃったんです」

 にこやかにしているけど、目が三角になりかける。

「あ、そうだ、わたし次の日から休暇だったんだ」

 な、なんだって!? 休暇に入るから在庫一掃整理したってか!

「あれから熱が出て、別のお医者様に診ていただいて、そしたら一週間安静の診断でした」

「そうですか、で、今は?」

「笑うと痛いです」

「でしょうね、笑うとか怒るとか、感情的になるのは、即痛みになります」

 言いたいのをぐっとこらえた。

 で、けっきょく五分足らずの問診だけで終わってしまい、診察を出ようとして、なにかを引っかけた。

 ブチ! 

 音がしたかと思うと、女医さんの悲鳴が続いた。

 キャッ、デ、データがああああ!!!!!

 確認も同情もしないで診察室を出たことは言うまでもありません。

 ああ、ワイキキの浜辺が待ち遠しい……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿幸一           祖父
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート
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くノ一その一今のうち・21『ダブルブッキング』

2022-09-28 15:59:18 | 小説3

くノ一その一今のうち

21『ダブルブッキング』 

 

 

 声さえ出さなければソックリ!

 

 まあやの代役とスタントの仕事は増えてきた。

 それまでは、アップでまあやの演技を撮っていて、そこで倒れるとか落ちるとかの危ない演技になる時は、カメラが切り替わる。

 切り替わって、カメラがロングになったり、後姿になるとかして、倒れるとか落ちるとかする、つまり代役の仕事。

 ところが、ソックリになってきたので、台詞が終わった時に入れ替わって、そのままアップで倒れたり落ちたり。

 昨日なんか、暴漢に火を点けられ、苦しみながら川に飛び込むなんて、忍者でなければ不可能な吹替までやった。

 

「いやあ、あはは、まあやの人気は天井突き破ってしまったわ!」

 マネージャーさんは手放しの喜びよう。

 金持ちさんに聞いたら「マネージャーのギャラ倍になったそうよ」だった。

 マネージャーのギャラが上がるんなら、むろんまあや本人のギャラも上がってるわけで、当然わたしのギャラも上がるはずで、わたしのギャラが上がれば事務所の収入も増える……ことにはならなかった。

「いやあ、今のところ、そのちゃんのことは秘密だからね。いきなりギャラあげられないのよ、表向きはまあやが自分でやってることになってるから、そのちゃんの立場は付き人兼代役でしかないのよ。へたにギャラに反映させたらさ、ネットの時代でしょ? すぐに足が付いて、そのちゃんの存在に気付かれてしまうからね。いや、ネット民恐るべしなのよ! いずれは、身の立つように考えるって社長も言ってるし、ごめん、もう少し辛抱してね!」

 弱小事務所の駆け出しアルバイトでは、それ以上言うことはできない。

 自分のことはいい。生活費と、お祖母ちゃんに渡すだけのギャラがもらえるんだったらね。

 でも、社長と金持ちさんの期待を裏切ることになるのは辛い。徳川物産に入って、会社の支出は減ったけど収入が増えるわけじゃないからね。

 まあやが気を遣って手を合わせる。

「ごめんねぇ、後でそのちゃんの口座教えて」

「え?」

「わたしのギャラから、いくらかは回せるようにしとくから」

 まあやの嬉しい気遣い。

「それはダメだよ。まあやの口座なんて、全部事務所が把握してる。変なお金の流れとかあったら、すぐに分かってしまう」

 こういうことも金持ちさんから教わっている。お金の流れはクリアーにしておかないと政務署がうるさい。

 今は、ただただ辛抱の時なんだ。仕事自身は十分楽しいしね。

 

「ごめん、助けると思って『うん!』て言って!」

 

 会うなりマネージャーさん。

「え、どうしたんですか?」

「じつは、ダブルブッキングしてしまって(^皿^;)!」

「ダブルブッキング?」

「うん、吠えよ剣のリハーサルと、一日警察署長の仕事が重なってしまって……」

「え、そんなことってあるんですか?」

「コンピューター管理してるから起きるはずないんだけどね、入力ミスとシステムエラーが重なったとかでね……リハの方を代わってもらうわけにはいかないでしょ?」

 そりゃそうだろ、わたしがリハに行って、まあやが本番だけってやれるわけないし、だいいち声出したらバレバレだし。

「だから、一日署長の方をね……にこやかに手を振ってりゃ済む話だからさ……」

「ウウ……事務所の方には話しといてくださいね」

「もちろん! 任しといて!」

 いっしゅんでマネージャーさんは元気になって、スマホを持って廊下に出て行った。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三
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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・78『その明くる朝』

2022-09-28 06:40:57 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

78『その明くる朝』小菊 




 好きなものを見ると人間の瞳孔は大きく開く、特に女子はね。

 赤ちゃんとか、恋人とか、大好きなスィーツとか見たら、女の子の瞳は、もうマンホールの穴かってくらいに開く。

「わー、すごいです! スゴイです! 凄いです!

 いろんなニュアンスでSUGOIDESUを連発している増田さんが、まさにそうだ。

 遠くからしか見たことないけど、ノリスケを見る時もこういう目をしてるんだろうなあと思う。

 ついこないだまでは、引きこもり寸前だった地味子の増田さんの両眼は緩みっぱなし。

「で、この太一というお兄さんは実在するんですか!?」

「え、あ……まあね」
 
 覚悟はしていたけど、あの腐れ童貞が実の兄貴だと言うことを認めなくてはならない。

 同じ神楽坂高校に通っていても、腐れ童貞は特徴のヘラヘラ顔からω(オメガ)で通っていて、本名の妻鹿で呼ばれることはほとんどない。

 もし聞かれたら――遠い親類――で通そうと思っていた。でも、そんな心配はいらなくって、いまだに真実を知っているのは学校では、ほんの僅か。

 今朝、増田さんは最初の信号の所で待ち伏せしていた。

「学校では、あんまりキャーキャー言えませんからね(^_^;)」

 それで、校門を潜るまで、瞳孔開きっぱなしのキラキラ眼(まなこ)であたしを眩しがってくれている。

 増田さんがこれなんだから、学校に行ったらさぞかしと覚悟はしていた。

 ……でも、意外に平穏。

 

 なぜか昇降口の所に担任の田中先生が居て「新人賞おめでとう」と小さな声で言ってくれただけ。

 教室に入るといつも通り、月曜日特有の倦怠感。

 中には週末に試合を控えた運動部とかで、やる気満々という人も居るんだけど、そういうポジティブな空気は、なるべく出さないようにしているところがある。増田さんが「学校じゃキャーキャー言えませんから」と言った、あの空気。

 何人かは、突破新人賞を知っている人が居て、瞳がオッキクなっている子がいる。

 でも、キャーキャーとはならない。日本人特有の『そっとしてあげよう』感。

 騒がれるのは苦手だから、ま、ありがたい空気。

「なあ、オメガが兄貴だって言っちゃだめか?」

 渡り廊下で会ったノリスケが聞いてくる。

「だめ! 自然に知れるのはともかく、バラされるのは絶対だめだからね!」

「いや、一般ピープルにじゃなくて、増田さんにさ。彼女、授賞式のトーク聞いててさ、がぜん腐れ童貞クンに興味を持っちまってさ」

「んーーーーやっぱだめ。まだ作品は発表されてないんだしさ、最低、やっぱ読んでからだよ」

「そっか、じゃ」

 そう言ってやり過ごしてから、再び声を掛けてきた。

「まだ用?」

「あんまりひどく書いてないよな?」

 親友だからの心配なんだろうけど、カチンと来た。

 でも、少し瞳孔が大きくなっていたので「出たら読んで」とだけ言って許してやった。

 放課後、昇降口で下足に履き替えようとしたら、柱の陰から声を掛けられた。

「突破新人賞おめでとう、妻鹿小菊さん」

 え(# ゚Д゚#)!?

 校内で初めての正面切ってのおめでとうだったので、正直びっくりした。

「わたし二年二組の和田友子、うちの学校から突破新人賞が出るなんてすごい。それに、こんなに可愛い一年生なんだもの、ほんとにすごいわ」

「あ、ども、あ、ありがとうございます」

 二年生なので、いちおう敬語でお礼を言う。

「ね、わたしとあなたで、学校にラノベ部つくらない?」
 
 にこやかに言う和田さんだけども、瞳孔は開いていない……どころかめちゃくちゃ小さくなってたんですけど(;'∀')。
 

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿幸一           祖父
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート

 

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せやさかい・349『ダミアが唸る』

2022-09-27 13:31:35 | ノベル

・349

『ダミアが唸る』さくら    

 

 

 うちはお寺やさかい、時々お骨を預かる。

 

 お葬式は『ご出棺』で終わりやねんけど、喪主さんはご遺体と一緒に火葬場に行って最後のお別れをしたあと、葬儀会館、あるいはお寺に戻ってきて、お斎(みんなで食事しながら骨上げを待つ)を頂いて、二三時間して、もう一度火葬場へ。そして親類縁者でお骨上げをやって、もういっかい葬儀会館やお寺に戻ってから初七日法要。そこまで坊主(うちやったら、テイ兄ちゃんとかおっちゃん)は付き合って、喪主さんが骨箱を持ってお家に帰らはって、おしまい。

 ところが、亡くなった人が一人暮らしやったりすると、納骨までお寺に預けはることがある。

 せやさかい、テイ兄ちゃんが骨箱持って帰っても不思議には思えへんかった。

 ただね、今回は、お骨の他に、もう一つ……お人形が付いてた。

 

「ドールだね……」

 

 お骨に手を合わせたあと、詩(ことは)ちゃんが呟いた。

「ドールて、人形のことやろ?」

 そのくらいの英語は分かるいう感じで詩ちゃんに返す。

「あ、こういうタイプはドールって云うんじゃないの?」

 言うた詩ちゃんも、ようは分かってへんらしい。

「多関節人形のことだと思うよ」

 留美ちゃんが付け加える。

 フーーーー!

 なんでか、ダミアが怒って毛を逆立てよる。

「ダミアは近づけない方がいいみたい(^_^;)」

 詩ちゃんに従順なダミアは、尻尾を立てて庫裏の方へ帰って行った。

「亡くなったお婆ちゃんが大切にしてはったんやて。昼間は居間に、寝る時は枕もとに置いてはって、姉妹みたいに大事にしてはったらしい」

「そうか……別々にしたら、お婆ちゃんも人形も可哀そうやと思わはったんやね」

「まあ、納骨までには喪主さんも考えはるやろ」

 そう言うて、みんなでナマンダブを唱えて、本堂を後にしました。

 

 ミャーーー

 

 宿題も終わって、そろそろ寝よかと思てると、廊下でダミアが鳴いとる。

 いつもは、詩ちゃんの部屋に潜り込んでる時間なんで、ちょっとイレギュラー。

 廊下に出ると、詩ちゃんも出てきて、留美ちゃんと三人でダミアのあとを追いかける。

 ダミア~

 詩ちゃんが声かけても、知らん顔で本堂の方へ行きよる。

 庫裏の方から行くと、ちょうど須弥壇の裏に出る、

 チリン

 ダミアの鈴が外陣の方から聞こえる。

 本堂は、用心のためにLEDの薄明かりが点いてる。その薄明かりの中、ダミアはお座りして、小さく唸っとる。

「え?」「ちょ?」

 留美ちゃんと詩ちゃんの声が重なる。

 鈍感なわたしは、一瞬遅れて気が付いた。

 

 シクシクシク……シクシクシク……

 

 人形が泣いてるやおまへんか!?

 お寺というのは、あちらの世界とこちらの世界の狭間というところがあって、ときどき不思議なことが起こる。

 にくそい顔で唸ってるブタネコダミアも、子ネコの頃は、ちょびっと不思議なことがあったしね。

 ほら、夢にマリーアントワネット出てきたり(084『前の廊下で話声がする』)とか、佐伯さんのお婆ちゃんが亡くなったと思たら、中学生の頃の姿で出てきたり(038『佐伯さんのお婆ちゃん改め、のりちゃん』)とか、他にもお雛さんの三方( 127 『お雛さん・3』)が出てきたり、ごりょうさん(134『ごりょうさん奇談・2』 )が出てきたり。

 少々の事では驚かへんねんけども、人形が泣くのは気持ちが悪い。

 けど、みっともなくうろたえたりはせんと、三人でナマンダブを唱えて部屋に戻りました。

 

「ああ、あれなあ……」

 

 翌朝、朝ごはんの時にテイ兄ちゃんに報告すると、気楽な返事が返ってきた。

「中に音声ユニットが入ってて、センサーに感応したらリアクションしたり喋ったりするらしいで。スイッチは切ったあるはずやねんけどなぁ……まあ、何かの拍子でスイッチ入ったんやろなあ」

「そういうことは、最初に言っといてよね!」

 珍しく、詩ちゃんが食ってかかる。

 落ち着いてナマンダブを唱えてた詩ちゃんやけど、ほんまは一番ビビってたみたい(^_^;)。

 でね、今日になって分かったんやけど、人形のリアクションの中に「シクシクシク泣く」というのは無いらしい。

 

 ほんでから、学校で話したら頼子さんとソフィーが目を輝かせて、今度の休みには見に来ることになった!

 むろんメグリンも加わって、散策部の立派な部活になる予定です!

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー       ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 女王陛下      頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 

 

 

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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・77『くたばれ腐れ童貞!』

2022-09-27 06:46:59 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

77『くたばれ腐れ童貞!』オメガ 





 起き抜けに点けたテレビに、いきなり妹のドアップが写って驚かない兄はいないだろう。

 ゲホッ! ゲホ! ゲホ! ゲホ! ゲホ!

 お茶が横っちょに入ってしまって、死ぬほどむせかえってしまった。

「あらあら、朝から不調ね」

 松ネエが背中をさすってくれる。松ネエもやっと落ち着いて、昨日からは屋内に限って普通に過ごしている。

 しかし、やっと回復期の松ネエに労わられるというのも申し訳なく、自分で水を飲んで喉の混乱を収める。

「やっと発表になったのね」

 小菊のドアップを見ても動じることのない松ネエは、小菊の姿に目を細めている。

「これって、いったいなんなんだ?」

 ストロボ焚かれまくりの中で、ニコニコとトロフィーを抱いている小菊は、ひどく現実離れしている。

 瞬間アップになったトロフィーには、こんな言葉が刻まれているのだ。

 ☆・第十七回突破文庫新人賞・☆

 時空が歪んで、パラレルワールドの、それも、とってもでんぐり返った異世界の出来事だと思った。

「家では、あんまり騒がないでって言われてたけど、受賞発表されたら、もう解禁ね!」

「おお、いよいよだったんだな!」

「付き添って行けばよかった!」

「今夜はお祝いだな!」

 アハハハハハハ( ´艸`)(^0^)(^Д^)(≧▽≦)

 いつの間にかリビングに収まった小菊の両親と祖父が盛り上がっている。

 両親と祖父ってのは、俺にとっても親父とお袋と祖父ちゃんになるんだけど、あまりのショックで違和感の有りまくりなんだ。

 小菊に文才が有るとは知らなかった、てか、小菊は作文も苦手なはずだ。

 それがラノベの登竜門として超有名な『突破文庫新人賞』を受賞、いや、応募したこと自体信じられない。

――わたしって、本当は臆病で自信のない子なんです。でも、突撃のスタッフさんたちが、ここ一番という時にきちっと応援してくださるので、なんとか受賞させていただいたんだと、とっても感謝してます――

――いや、女鹿さんに、いや小菊さんに、それだけの力があるからですよ。最終選考に残った時、初めて経歴を見ましたが、15歳の女子高校生なのにはビックリしました――

――あの時ポテチいっぱい下さったじゃないですか『とりあえずおめでとう賞』ってことで。スタッフさんたち凄いと思いました。春にはポテチ用のジャガイモが品薄になって、ポテチがすっごく喜ばれるって読んでたんですもんね、わたし、ポテチだけでもよかった! そう思ってましたもの(^▽^)――

 ましたもの……なんちゅう猫っかぶり! それに一人称も「わたし」になってやがるし!

 俺は、このあとの展開に、ひどく良くないものを予感していた。

 

 で、その予感を超えて、受賞発表は場外ホームランになってしまうのだ!

――小菊さんの凄いところは、ラノベに新しいステージを提示したことですよね――

――提示だなんて、わたしは、ただ届く範囲の想像力で書かせてもらっただけです――

――タイトルは『くたばれ腐れ童貞!』。凄いです、久々に突破力満点の作品が出てきたと括目してますよ!――

 そう、小菊のラノベネタは、こともあろうに、この俺だったのだ!

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿幸一           祖父
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート
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漆黒のブリュンヒルデQ・091『世田谷城址公園』

2022-09-26 16:01:28 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

091『世田谷城址公園』   

 

 

 こんなところがあったんだ……

 

 学校帰り、芳子と二人で足を伸ばして世田谷城址公園に来ている。

 いや、足を伸ばすというほどではない。

 なにせ、豪徳寺の南隣だ。

 通学路との間にマンションが立ちふさがっているが、子どもの頃から住んでいれば、十分に生活圏……というよりも子供には絶好の遊び場だ。通学路からはマンションと重なって背景の森のように見え、豪徳寺の緑とあいまって、日常の景色であって、特に意識することも無かった。

 中世からの城跡を整備したもので、面積は世田谷八幡ほどだろうか、石垣で囲まれた防塁の跡がそこここにあって、防塁の合間を森の小道が走り、小道は枝を伸ばしてそれぞれの防塁を繋いでいる。

「子ども会の行事で来たじゃないですか、昆虫採集とか写生の会だったけど、先輩は男の子と戦争ごっこばかりやって叱られてましたよね」

「え……ああ、そうだったな。勝ってばかりなんで飽きてしまったがな」

 状況に合わせて自動生成された記憶なんだが違和感がない。

 さすがは、北欧の主神と言われた父だ。娘を放逐するにも無駄がない。

「わたしも入れてもらいたかったんですけどね、あの頃は見てるのが精一杯でしたからね」

「そうか、じゃあ、こんど学校のみんなで鬼ごっこをしよう」

「ですね、でも、出発は明後日だから、戻ってからですね」

「そうか、もう明後日なんだなぁ……」

 芳子のアメリカ行きは、半分は芳子に憑りついている女学生の霊が望んでいるからだ。

 ここに来たころなら問答無用に成敗していたかもしれない。

 名前を持たないあやかしは、ただただ危ない存在だと思っていたし、いまも、そのことに変わりはないと思っている。

 今度のことは……まあ、特別だ。

「友だちがね、お握りを落っことして、転がって行ったんですよ」

「おお、おむすびころりんではないか!」

「そうなんですよ! ころころ転がっていくと、本当に切り株のところに穴があって、コロリンと落ちて行って……」

「穴の中に白ネズミとかいたのか?」

「話し声が聞こえて、ともだちと覗いていたら先輩が来たんです」

「え、そうなのか?」

「そしたら、とたんに話し声がしなくなって、お握りも友だちのお弁当箱に戻っていて」

「そうか、なんか、いいことをしたのか悪いことをしたのか分からんな」

「いい思い出です!」

「そうか、それは良かった」

 アハハハハ

 二人で笑っていると、公園の入り口辺りで良からぬ気配がした。

「ちょっと待ってろ」

「先輩……」

 

 公園入口のところに国民服の男が立っている。

 少し疲れた感じで、明らかに戦時中から、このあたりを徘徊しているあやかし、あるいは妖化しかけた零体だ。

 

「そこを動くな! 貴様の名前は……」

『松本順二です』

「なに……」

 国民服は、たった今、わたしの頭に浮かんだ名前をシレっと答えた。

「貴様……」

『お騒がせして申し訳ありません、まだ怪しの空気を纏っているかもしれませんが、浄化の道を進んでおりますので、どうかご容赦のほどを……』

「そ、そうか、ならば行け」

『失礼いたします』

 そう言うと、国民服は横断歩道を渡って道の向こう側に行ってしまった。道の向こう側にはゲートルの学生服が待っている。

 国民服が促すと、学生服は気後れしながらもキチンと礼をして、国民服と共に東の方に去って行った。

 

 芳子の待っている防塁に戻って、ささやかに森林浴を楽しんで家に帰った。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の猫又 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • 玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
  • お祖父ちゃん  
  • お祖母ちゃん            武笠民子
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・76『夏コミに行きたい!』

2022-09-26 06:53:58 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

76『夏コミに行きたい!』シグマ 





 これの三倍以上の人が来るんだ……

 そう思うとため息が出る。

 ウットリしてるんじゃない、す、すごいなあ(;'∀')……そう感じて尻込みしてしまう。


 気まぐれでテレビを点けたら後楽園球場の試合を映していた。

 ググってみると……後楽園球場は43000人ほど人が入る。

――満席の後楽園球場には定員いっぱい43000人、満杯の野球ファンで埋め尽くされております!――

 アナウンサーの言葉でリモコンを持つ手が止まった。

 画面の後楽園もすごいけど、かねがね行きたかったアソコは一日に17万人、三日で50万人以上の人が集まる。

 夏コミ 20✖✖!

 日本最大!……ってことは世界最大のオタクの祭典!

 中学の頃から行きたかったけど、動画サイトなどで見る混雑ぶりというか密度の高さで諦めていた。

 夏コミに行けば、限定アイテムや同人誌が手に入る。

 これが他府県なら諦めもつくけど、なんてったって東京ビッグサイトだ。始発に乗っても六時前には着ける。

 それに、今のあたしはボッチじゃない、サブカル研のみんなに声を掛ければいいんだ!

 …………でも迷ってしまう。

 オタクと言ってもいろいろなんだ。

 人生全てが二次元というようなガチな人から、数ある趣味の一つですという人まで。

 うちのサブカル研は、あたしが無理を言って、その無理に先輩たちが合わせてくれているところがある。

 そうなんだ、合わせてくれているんだ。

 ノリスケ先輩は元々二次元が好きみたい。パソコンでゲーム進行していても、とてもテンポがいい。

 ゲームで詰まっても「おもしれーじゃねーか」とセーブデータを見て「ここが分岐だったんだなあ(^▽^)」と適切に過去フラグに戻って、すぐにルートに戻ってくる。

 でも、オメガ先輩は途中で投げ出すゲームも多い。

 最初にやってもらった『君の名を』はツボにはまったみたいだけど、先月紹介した『時を掛ける妹』は止まっているみたいで、あまり興味はない様子だ。

 部活らしくやろうということで始めた『バトルフィールドラブ』で勝ったことが一度もない。エロゲなんで勝ちにこだわることもないんだけど、やっぱ、お付き合いでやらされてる感が漂っている。

 冷静に分析すれば、あたしの我がままに、人のいい先輩たちが着きあってくれているということなんだ。

 そこんとこ分かっているから、連休中も無理は言わなかった……言えなかった。

 それで、あたしは風信子先輩に相談してみることにした。

「へー、そういうのがあるんだ!」

 まず感心された。

 

 三日で50万人以上のイベントとはいえ、やっぱ社会的にはオタクの祭典。連日ニュースで取り上げられたたり、スポンサーがついて中継されるようなもんじゃない。情報に接していなければ知らなくて当たり前。

 そもそもオタクのイメージって「異性にモテない」「目を合わせて話さない」「服装がキモイ、あるいはダサい」「引きこもってゲームばっかりやってる」そんな感じ。

 そんなオタクが集まっても、世間は後楽園球場に集まった野球ファンのようには見てくれない。そうなんだよ、野球に関しては「野球オタク」とかは言わない。あくまでファンだよ。サッカーやラグビーとかは、熱狂したファンが発狂して事件を起こすことがあるよね、暴力沙汰になって、暴動めいたり、殺人事件になったり、興奮したファンを鎮めるために機動隊やら軍隊が出撃することも珍しくない。

 オタクが何十万人集まっても、機動隊やら軍隊が出動なんて無いよ。会場に行っても、スタッフが「並んでください」「走らないでください」という注意に見事なくらい従ってる。イベントが終わった時も自主的にゴミの回収とかもやるしね。

 でも、いくら大人しくても、秩序だってても、オタクはオタク。ファンのカテゴライズには勝てない。なんというか、イナゴの大群とかネズミの大群見る感じ。たとえネズミがきれいに一列に並んでも「えらい、キチンとしてるねえ」とは言われないよね。

 去年の夏コミの動画を見ていると、風信子先輩は意外なことを言った。

「ねえ、これって出展とかした方が面白いんじゃない?」

 絶句した、そういう発想は持ったことが無いから……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿幸一           祖父
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート


 

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ピボット高校アーカイ部・25『朝の騒動と先輩の反省』

2022-09-25 10:54:02 | 小説6

高校部     

25『朝の騒動と先輩の反省』

 

 

 

 そ-いうの止めてよね!

 

 そいつの前に立ちふさがると、女子は目を三角に、口を四角にして怒った。

「な、なによ、いきなりビックリするじゃないの!」

 女装男子も負けずに声を張り上げるが、ナヨっとしていて気持ちが悪い。

「不愉快なのよ、ナヨナヨして!」

「ジェ、ジェンダーフリーよ! あ、あたし、心は女の子だから、それに相応しい格好をすることにしたのよ! そんな風に言うのはヘイトよ! 心外だわ!」

「心外はこっちよ! 本物の女子はそんなナヨナヨしてない! 本物の女子から見たら気持ち悪い! バカにされたみたいで気分悪い!」

「気分悪いのはこっちよ! 長年ずっと我慢してきて、やっと勇気出して、自分に正直になったのに、そんな言い方されたら、悲しくなるわよ! むちゃくちゃ腹立つ!」

「腹が立つのはこっちの方!」

 別の女子が割り込んできた。

「なによ、あんたは!?」

「女子トイレ使うの止めてよね! あんたが入ったら、気まずくって、他の女子は入れなくなる!」

「そ、そんな、そんな言い方しなくてもいいでしょ!」

 とっちめている女子は二人だけなんだけど、他にも立ち止まって同情やら迷惑やら憤慨の顔をする奴が出始めた。

「先輩……」

 僕は先輩の袖を引いた。

「面白いから見て行こう」

「いや、もういいですから」

 言い出したら聞く人じゃない。まあ、少し見ていれば気がすむか……ため息ついて、先輩のちょっと後ろに回る。

 そのわずかの間にも、エキサイトして双方涙目になって唾を飛ばし合っている。

「わ、わたし、三年の真中螺子先輩を見習ってるんだから!」

 

「え、わたしか!?」

 

 なんで矛先が向いてくるんだ(;'∀')!

「螺子先輩は、あんなにきれいなのに堂々と男を主張してるじゃない! わ、わたしは、螺子先輩に励まされて勇気を奮ってカミングアウトしたのよ! ねえ、螺子先輩なら分かってくれるでしょ!」

 ああ~~~~~~

 なんかオーディエンスまで納得の声をあげている(^_^;)。

「鋲、行くぞ! みんなも鐘が鳴る、急げ!」

 先輩は僕の手を引っ張って、とっとと歩き出す。すれ違った生活指導の先生たちが注意すると、オーディエンスたちも意外にあっさりと校門に向かって歩き出す気配。

 先輩の影響力はすごい。いや、危ういかも……部活体を部活だけに限定使用していたのが分かった気がした。

 

 昼休み、学食に入るところで先輩に掴まった。

 

「な、なんですか?」

「今朝の事で考えた。少し余技に走り過ぎた、軌道修正して本来の部活に戻るぞ」

「は、はい」

「そのためには体力を付けねばならない! まず、食うぞ! 鋲も食え!」

「ちょ、ちょっと……」

 僕の返事も聞かずに、先輩は学食に突撃。一人で五人分は平らげてしまう先輩だった。

 学食中の注目を浴びたのは言うまでも無い……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 田中 鋲(たなか びょう)        ピボット高校一年 アーカイ部
  • 真中 螺子(まなか らこ)        ピボット高校三年 アーカイブ部部長
  • 中井さん                 ピボット高校一年 鋲のクラスメート
  • 田中 勲(たなか いさお)        鋲の祖父
  • 田中 博(たなか ひろし)        鋲の叔父 新聞社勤務
  • プッペの人たち              マスター  イルネ  ろって
  • 一石 軍太                ドイツ名(ギュンター・アインシュタイン)  精霊技師 

 

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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・75『スペメン食って食堂の窓を見上げる』

2022-09-25 06:43:55 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

75『スペメン食って食堂の窓を見上げる』オメガ 





 コンビニに寄って、もどったら駐車場に車が無くって焦ってしまう。

 こんなのもある。

 ドライブしていたら、無免許で運転していることに気づいて、口から心臓が飛び出すくらいにドキドキする。それからは、通行人や自動車の咎めるような視線を感じる。
 

 電車を乗り換えたら、ぜんぜん違う方向で目的地から遠ざかってしまう。焦っているうちに、どこへ行くんだったかも忘れてしまう。

 そこで目が覚める。

 そう、夢の話なんだ。

 あ、俺じゃなくて、増田さんが見る夢だ。

「あの子の心は臆病な心でがんじがらめなんだ」

 スペメン(全部載せうどん)を啜りながらノリスケが言う。

「いつぞやの電話でも言ってたよな」

「ああ、その臆病さから抜け出るために、アニメみたいな恋をしようと背伸びしている」

 そうなんだ、図書館の本を拾ったきっかけで付き合いだした二人だけど、ノリスケは、そこを心配している。

 増田さんは、ノリスケに恋をしているんじゃなくて、アニメのような恋に恋しているのだ。

 それが分かっていて断らないのがノリスケだ。

「断ったらさ、恋に恋することも止めてしまうだろ」

 

 ノリスケは付き合っている間に色々経験させてやって、できたら本当の彼ができるまで面倒を見てやる気でいる。

 だから、俺と小菊には写真を撮らせている。むろん増田さんも了解している。臆病なくせに写真はOKというのも変なんだけど、臆病の裏返しで、好ましいと思った者への傾斜は並の女子よりもきつい。

 しかし、あの気難しい小菊の懐に飛び込み、入学以来友だちでいてくれている。これは並の人間に出来る技じゃねえ。あの子の本性はヤンデレに染まりかけた天使なんじゃないかと思ってしまう。

 でも、特にアドバイスめいたことはやらない。時間はかかるが、増田さん自身が気づくように誘導している。

「あ、この表情イイね!」「この姿勢はステキだなあ!」

 そんな風に言ってやるのは、増田さんの作らない笑顔とか明るさが写ってるとこだ。むろん彼女が誉めて欲しいところでも褒めてやる。

 すると――こういうのもいいんだ――と気づいて自信が生まれる。そういう遠まわしがいいと、若いヒギンズ教授は思って、ピカリング大佐も付き合っているわけだ。

「でもなあ、けっきょくお前に気に入られようとしているという点では進歩ないんじゃないか」

 痛いところを突かれたようで、ヒギンズは曖昧な笑顔で目をそらせた。

 俺も「進歩が無い」とまでは言えるが、どうしたらいいかが言えないので、腕を組んで同じように食堂の窓を見上げた。

 やつとは何度かこういう話をしているが、同じ景色を見るのは――今日はここまで――の企まないサインでもある。

 窓の向こうは本館で、本館二階の廊下を歩いている風信子と目が合った。

 そっち行く! 

 口の形で告げるとセミロングなびかせながら階段を駆け下りてくる。

 なんだか、保育所時代のお転婆だったころの印象そのままなので、可笑しくなる。

「階段一段飛ばしで下りてきただろ」

 予想より数秒速い到着に、冷やかし半分で言ってやる。

「ううん、最後の四段は飛び降りちゃった!」

「そりゃ、さぞかし嬉しい話なんだろな」

「あのね、増田さん、茶道部に入れちゃったよ!」

「「え?」」

「あの子の世界広げてあげたかったんでしょ、あんたたちのタクラミぐらい分かってるって!」

 あの子が部活に入るなんて、最初から選択肢に無かった。実質帰宅部の俺たちが言っても説得力あるわけないし、そもそも部活に向く子でもない。サブカル研は活動の中身を考えると勧めるわけにもいかないしな。

「奥多摩に一緒に行ったのがよかったかもね、じゃ、さっそく放課後の部活の用意してくるわ」

「でもさ、茶道部って他に二人部員がいたろ、風信子はともかく、大丈夫なのか?」

 増田さんは並外れた人見知りだ。

「大丈夫、三日前に二人辞めて、わたし一人だから、アハハハ」

 風信子にも苦労はあるようだ……。 

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿幸一           祖父
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート
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やくもあやかし物語・156『蓬莱山』

2022-09-24 16:01:02 | ライトノベルセレクト

やく物語

156『蓬莱山』 

 

 

 教頭先生を追いかけていくと、向こうに鳥居が見えてきた。

 

「阿須賀神社ですね」

 電話線のある所ならどこへでも行ける交換手さんは、まだ距離があるのに神社の名前を言い当てる。

「あれ?」

 てっきり神社の鳥居を潜るのかと思ったら、その手前で左に曲がった。

 新宮歴史民俗資料館への矢印があるので、そっちかな?

「いえ、ちがいます」

「ちがうの?」

「ちょっと巻き戻します」

 そう言うと、交換手さんの前に黒電話のダイヤルの部分だけが現れて、交換手さんは0と5を回した。

 ジーーコロコロコロ  ジーーコロコロ

 5が回り終って戻ってくると、鳥居と矢印の間に道が現れた。

「無線機のスイッチを入れてください」

「ラジャー!」

 バッグの中の無線機のスイッチを入れる。

 みかん畑のとこでも言ったけど、交換手さんは電話線のある所ならどこにでも行けるけど、電話線が無いところには踏み籠めない。

 そこで、お爺ちゃんからもらった無線機のスイッチを入れて延長する。一個は木の陰に置いて、もう一個を持って道に踏み込む。電波の届く範囲なら、これでだいじょうぶ。

 道は上り坂になっていて、道は丘の上に繋がっている。

「丘じゃありません、山です、蓬莱山です」

「え、徐福が目指した?」

「はい、時空の狭間からしか行けない蓬莱山ですけどね」

 普通の神経なら「なにそれ?」ってことになるんだろうけど、あやかし慣れしたわたしには分かる。世の中には、リアルの時間からは切り離された場所と云うのがあるんだ。

 教頭先生は、学校で、わたし以外であやかしが見えるただ一人の人。

 二度ほどあやかしについてアドバイスしてもらった。

 先生が忙しいのか、わたしが人見知りのせいか、必要以外でお話したことは無い。

 

 五分もかからずに山頂に着いたわたしと交換手さんは薮の陰に隠れて様子を窺ったよ。

 

 教頭先生は、こんな感じ。

 しまった、早く着いてしまったという感じで、上着を脱ぐとハンカチでオデコや顔を拭いた。

 ネクタイを緩めると、カバンからペットボトルを取り出して、グビグビと2/3ほども飲み干した。

 わたしは、のどが渇いていても半分も飲まないので、ずいぶん喉が渇いているんだと感心した。

「まあ、東京からは遠いですからね」

 まさか、東京から走ってきたわけじゃないよね?

「なにか現れます……」

 思わず、口に手をあてる。

 保育所の時、先生に「静かにしなさい!」と言われた時を思い出した。

 しばらくすると、山の向こう側から公園で見たのと同じ姿が現れた。

 徐福だ!?

 教頭先生は、立ち上がるとネクタイだけ直して、ペコリとお辞儀する。

 お辞儀の仕方がペコリお化けみたいなんで、ちょっと可笑しくなる。

 二言三言話すと、徐福は、うんうんと頷き、労わるように先生の肩を叩いた。

 それから、懐から、千疋屋とかで売ってそうな果物の包みを渡して、もう一度頷いたよ。

 果物の包みは、半分ほどほぐれていて、中身が見えそう……

 

 !!

 徐福と目が合いそうになって、急いで身を隠す。

 

 三十秒ほど息を殺して、おそるおそる顔を上げると……徐福も教頭先生の姿も無かった。

 交換手さんと頂上を横切って、山の向こう側を見ると、山肌は一面のみかん畑。みかん畑はかすみの向こうまで果てしなく広がっていたよ。

 一個ぐらいもいで帰ろうかと思ったけど、果てしなくあっても人のものなので我慢した。

 

 家に帰ると、交換手さんが電話してきた。

『教頭先生、ご苗字はなんと言いますか?』

「うん、ハタ先生だよ」

『ハタ……どんな字を書きますか?』

 え、あ、そう言えば、普通には先生も生徒も『教頭先生』と呼んでいる。ときどき、PTAとか校長先生とかが『ハタ先生』と呼んでいて、それで憶えたんだ。

「ちょっと待ってね」

 一学期の始業式でもらった学年通信を出してみる。

「ええと……春って字の日を禾(のぎへん)に変えた字だよ」

『あ……ああ、分かりました。ありがとうございます』

 自分でも紙に書いてみる。

 パソコンで『はた』で入力して、分かった、秦と書いて『ハタ』って読むんだ。

 で、これは秦国の秦だったよ。

 

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六条の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王 伏姫(里見伏)
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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・74『盗撮すんじゃないわよ!』

2022-09-24 06:53:38 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

74『盗撮すんじゃないわよ!』小菊 






 喋る前には空気を吸わなきゃならない。

 あたしは、一瞬遅れてしまった。


「先輩と食べてくる!」

「ア、アハハ……(#^▽^#)」

 フライングした増田さんの一言にはくすぐったい笑顔で返すしかなかった。

 今日の3・4時間目は初の調理実習で、クラスは緊張と期待でソワソワしている。

 なんせ、高校に入って初めての調理実習で、こういうイレギュラーな実習の時は、普段の成績や様子からでは推し量れない結果が出るものなんだよ。

 中学の時も、クラスでイジメラレ傾向にあったS君が仕込みの段階から美味しそうな匂いをさせてカレーを作った。玉ねぎのみじん切りも料理番組の先生みたいだったし。そのために女子たちから「S君の女子力すごいよ!」ということで俄然注目され、あっという間に人気者になってしまったことがある。

 高校にもなると、そこそこお料理の出来る子は結構いる。

 だから、S君のようにクラスのスターダムに昇るとこまではいかないけど、増田さんの中では会心の出来であった。

 おそらく、味見するまでは「先輩と食べてくる!」ということは考えていなかった。

 瞬間的に閃いたことなので、破壊力は抜群。

 あらかじめ考えていたら、引っ込み思案の増田さんは「先輩と食べてくる!」にはならない。

 入学二日目から、お昼はあたしといっしょ。その習慣を壊す勇気は増田さんには無い。

 で、先輩というのは、言うまでもなくノリスケよ!

 作品のちらしずしをタッパに詰めて教室に戻る道すがら、ひょっとしてと渡り廊下から目線を下ろしたところに二人は居た。

 中庭の藤棚の下、仲良くベンチに腰掛けて食べているよ~(n*´ω`*n)。

 ノリスケは誰に対しても垣根のないやつで、あのフレンドリーさに偽りはない。

 増田さんも、あたしには見せたことのない自然な親しさで接している。

 う~ん、でも微かな媚を感じるのは、あたしのヒガミ?

 いや、相手がノリスケでヒガムわけないんだけど、なんだろね、この感じ?

 月曜にこっそり教えてくれたけど、連休の後半は神社の風信子さんたちと一緒に奥多摩に行ってきたんだ。

 ま、うちの腐れ童貞とかシグマとかいっしょだったから、そうそう飛躍することってないと思うんだけど……。

 あたしはスマホを出して藤棚の二人を撮ることにした。

 カシャ! カシャカシャカシャ!

 シャッター音に驚いて柱を挟んだ隣を見る。

「な、なにやってんのよ!」

 なんと、あたしより先に腐れ童貞が二人の様子を連写しているじゃないの( ゚д゚ )。

「い、いつから、そこに居やがるんだ(;'∀')!?」

 質問には答えないで糾弾してきやがった。

「盗撮すんじゃないわよ!」

「なにが盗撮だ、お前だってスマホ構えて撮る気マンマンじゃねーか!」

「あたしとあんたとじゃ撮る意味が違うのよ!!」

「声デカ……」

「ウ……」

 兄妹仲良くしたくもないのに、柱の陰に密着して身を隠した。

「ノリスケに頼まれたんだよ、もっと増田さんを自由にしてやるためにな」

 え、なにそれ……?

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿幸一           祖父
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート

 

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鳴かぬなら 信長転生記 89『クルミ団子』

2022-09-23 12:25:27 | ノベル2

ら 信長転生記

89『クルミ団子』織部 

 

 

 ぬふふふ……

 

 扶桑(転生国)と三国志の間に蟠る大森林を前にして、自然に笑いがこみ上げてくる。

「キモ……」

 リュドミラの侮蔑の呟きも気にならない。

 なんといっても、中華文化の宝庫である三国志に、大手を振って入れるのよ。

 唐三彩、景徳鎮、青磁、白磁、灰釉、黒陶……茶器に通じる焼き物だけでも目が回るほどの種類と数がある。

 彫物、金細工、螺鈿、翡翠などの装飾品にも目が離せない。

 そもそも、扶桑文化の種は、大陸の中華文化にこそある。茶器を中心とする我が国の文化の源流と言ってもいい。それが凝縮、昇華されたものが三国志文化。

 へうげ者、古田織部の面目躍如でしょ! 野に放たれた虎よ!

 活動資金も生徒会からもらったし、諜報の表題さへ付けば、どこへ行こうと、誰と会おうと自由だもんね。

 おまけにリュドミラなんて、名うてのガードまで付けてもらって……もう武者震いが止まらない。

 

 ブルブル

 

 しかし、急いては事を仕損じる。

 

 美を求める心は隠しようもないものだけど、少しは地に足をつけなければ、どんな失敗をするかもしれない。

 信長の使いで信貴山城に行った時は、松永久秀に読まれてしまって、平蜘蛛の茶釜ごと爆死されてしまった。

 久秀の命も信長の調略もどうでもよかったけど、あの平蜘蛛を爆砕されてしまったのは一生の不覚!

 焦る心は押さえなくちゃね。

「ちょっと、休憩しよう」

「ああ」

 ロシア女は大人しく路肩の岩に腰を下ろすと懐からクルミの実を取り出して、グリグリもてあそぶ。

「それって、指の鍛錬なんだよね?」

「ああ、銃を出すわけにはいかないからな」

「まあ、落ち着こうよ。こっちのクルミはどう?」

「ん、クルミ団子か。いただく」

「お握りでは芸がないし、お茶に合うかと思ってね」

「うん、美味しい」

「よかった」

「……さっきは、思わず言ってしまった。ごめん」

「ああ、いいよ。キモイのは自覚してるから」

「そ、そうか」

 

 ひとしきり団子を食べる。

 

「ひとつお願いがあるんだけど」

「なに?」

「ガードをやってもらって、こんな注文するのは僭越なんだけど、あんまり銃はぶっ放さないでね」

「なぜ?」

「あ、いや、リュドミラって、こんど生まれかわったら3000人の願掛けしてるんでしょ? 前世じゃ309人しか殺れなかったから」

「まあな」

「ということは、腕を上げたいわけでしょ? 腕を上げるためにはバンバン撃たなきゃならないわけでしょ? あたしたちスパイだから、あんまり目立つのは、ちょっとね……」

「そうだな……でも、いまのわたしは少し違う」

「違う?」

「わたしはモスクワで生まれたんだけど、ウクライナ人だ」

「ウクライナって、ロシアでしょ?」

「ちがう、いや、そう思っていたけどちがう」

「ちがう?」

「ああ、いま、ロシアがウクライナを侵略している」

「あ、ああ……」

 近ごろニュースでやっているのは知っている。

「フン、日本人の認識はその程度だ、まあ、いいけどな。今度のことで、自分はウクライナ人なんだと、しみじみ思った。生前は、ほとんど意識しなかったから大きなことは言えないがな」

「そうなんだ」

「織部は、美術以外のことはどうでもいいんだろう」

「あ、いや……」

「いいよ、責めているわけじゃない。織部みたいないい加減そうな奴の方が諜報に向いていることも承知している。わたしも軍隊生活が長かったからな」

「あはは……」

「わたしは、ほんとうに戦いを停めようと思ってるんだ。たとえ、ロシアとウクライナでなくともな……だからガードを引き受けた。いまは、そんな気持ちだ。これでいいか?」

「じゃあ、3000人達成は……」

「やるよ、侵略者は容赦しない、あの時代に戻ったら3000人を目指す。それと……」

「なによ?」

「この森でもクルミが採れそうだ」

「あ、ああ、そうだな、採っていけば、まずは物々交換の種になるか。物々交換が商いの第一歩だよね」

「あ、いや、クルミ饅頭も美味しいだろうと思ってな。織部は茶人だろ、茶人なら饅頭ぐらい作れるだろ?」

「あ、そうか、饅頭にした方が商品価値が上がるか」

「いや、取りあえず食べたいだけなんだが」

 

 そうだ、扶桑からの商人という触れ込みなんだ。そう思いなおすと次の行動は早かった。

 一時間ほど大森林でクルミ狩りをやって、とりあえず皆虎の街を目指す二人だったよ。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生(三国志ではニイ)
  • 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹(三国志ではシイ)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  •  

 

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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・73『松ネエの傷跡』

2022-09-23 06:41:20 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

73『松ネエの傷跡』小菊 





 松ネエはお医者さんに叱られた。

 叱られたと言っても病院のお医者さんじゃない、ホームドクターの薮中先生だ。

 腐れ童貞が付き添って退院して来た時には、もうヘロヘロだった。

「気が利かないわね、どうして病院で診てもらわなかったのよ!」

 松ネエに肩を貸しながら言ってやった。だって、この様子じゃ病院を出る時から不調だったに違いない。

「すまん」

 こういう時に言い訳しないのは認めてやるけど、どうして口が笑っているんだ!

 本当に笑っているわけじゃないことは分かってる。ω口が生まれついてのものだということも分かってる。

 でも腐れ童貞はショーモナイ奴だ、高校三年にもなったら自分の顔に責任持てよな。

 兄妹だから、あたしも似たような口元だけど、あたしのはチャームポイントになっている。悲しいときや腹立つ時は、ちゃんとそういう表情になる。ほんとうにショーモナイ男だ!

「わたしが無理を言ったからだよ……」

 こんな時にも松ネエは人を庇う。こんなにもいい松ネエが、こんなひどい目に遭うなんて……悔し涙がこぼれてくる。

 夕方に、お祖父ちゃんが車で薮中医院に連れて行った。

「無茶だよ、一週間は安静!」

 

 薮中先生は診察半ばで宣告した。

 それまでに「若いと言って過信しちゃだめだ」とか「術後で体が弱ってるんだから」とか、九十過ぎとは思えない馬力で叱っていた。

「コウちゃんも気を付けてやらないとな」

 コウちゃんとはお祖父ちゃんのこと。コウちゃんは、しきりに頭を掻いている。薮中先生にかかるとお祖父ちゃんも、まだまだハナタレ小僧だ。

 先生は、松ネエの背中と首筋を摩って薬を出した。

「このマッサージは、我が医院の秘伝でな、親父のころは宮さまにも施してさしあげたそうだ。緊張をほぐして五臓の機能を整えて血流をよくするんだ……よし、このくらいか……お風呂には入っていいけど半身浴、傷口を浴槽に浸けちゃダメだからね」

 家に帰って、松ネエは一晩眠った。先生が摩ったのが効いたのかもしれない。

 

 朝になっても松ネエは起きてこなかった。

 

 いちおう部屋を覗いて、穏やかに寝息を立てているのを確認。

 昼休みにはメールが来た。

―― いま目が覚めたとこ、熱も下がりました。昨日はありがとう ――

 ひと安心(^_^;)。

 増田さんと食後のお茶を飲んでいたら、またメール。

―― 今日は久々にお風呂に入りたいので、よかったらいっしょに入ってくれる? ――

 入院中はお風呂に入れない。お風呂に入りたい気持ちはよく分かる。

 夕食後、松ネエのお風呂に付き添う。

 いっしょに入るなんて小学校以来、ちょっと懐かしい。

 でも懐かしさなんて、服を脱ぐだけで辛そうな顔を見ていると吹っ飛んでしまう。

 身体を洗ってあげて、マジマジと見てしまった傷跡。赤いムカデが貼りついたように見えるのは縫った跡だ。

 この傷は一生残るんだろうなあ……そう思うと目が熱くなってきた。

「アハハ、菊ちゃんが泣くことないじゃない」

 笑顔は、もういつもの松ネエだった。

 とりあえずよかった!

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿幸一           祖父
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート

 



 

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