大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・JUN STORIES・4《殉の人》

2018-05-04 06:58:49 | ノベル

JUN STORIES・4《殉の人》


 この季節、喪中葉書が多い。

 たいていは、ご両親のどちらかが亡くなったもので、言い方に困るが、我々の親は、たいがい大正生まれなので天寿を全うされたということで、来るべきものが来たんだと、あまり悲壮感はない。
 中には愛犬が亡くなりましたのでというものがあり、ご本人の気持ちには察して余りあるものがあるが、どこかヒューマンな温もりを感じる。

 堪えるのは、友人や歳の近い先輩自身がお亡くなりになったものである。

 元職が教師なので、この手の喪中葉書は例外なく現職、または退職間もない人ばかりである。
 三十年教師をやっていて、関係した(担任、あるいは教えていた)生徒に五人逝かれた。やや多い部類に入る。
 同僚、先輩は、両方の手で足りない。ざっと思い出しても十五六人にはなる。

 他職のことはよく分からないが、少し多いような気がするのだがどうだろう。

 この業界には七・五・三という言葉がある。校長で退職すると三年。教頭で五年、平で七年の平均余命という意味である。
 中には現職中に亡くなる人もいる。一番若かったのは二十三。教職についてわずか半年であった。

 死因は自殺。

 亡くなる前、体中に湿疹ができ、その治療にも通っていた。一応府教委は、校長を通じて職場で問題が無いか調査をしたが、病気治療で通院していたという一事で「病気を苦にしての自殺」で片づけてしまった。
 生徒が自殺すれば、全国ネットで大騒ぎになり、時に裁判沙汰になる。彼の自殺は、新聞の地方欄に天気予報より小さく載っただけである。

 あとで思うと前兆があった。

 教材研究に呻吟していた。穴が空くほどに教科書と指導書を見つめていた。

 物事を理解することと、それを人に教える能力は別物である。大学の教職課程では、この教えることを教えない。教師は、採用され、その日から現場で子供たちを相手にしなければならない。
 府教委もわずかに考え、一年間は指導教官を置く。また、官制研修もアホほど増やした。
 だが、多くの場合指導教官そのものの授業が度し難い場合が多い。官制研修に至っては現場で不適応だった指導主事が多く、これも、ほとんどアリバイにしかならない。
 かれは、授業を中断して職員室に帰ってくることや、授業開始時間になっても教室にいけず、教頭から注意されたりしていた。
 自殺の原因は、誰が見ても仕事の悩みである。
 わたしの勤務校は、府下でも有数の困難校で、わたし自身初年度の夏休みを入院と病気治療に食われてしまった。
 この学校に勤務していて、在勤中、または退職後、転勤後に六人ほどが亡くなっている。

 今年の最初の喪中葉書は、三つ年上の退職間もない先生自身のものであった。何度か読み返した。ご母堂のそれではないかと思ったからである。四回目にご本人が亡くなったことに違いが無いことを理解した。

 日本では、交通事故による死者は、事故後24時間以内に亡くなった人のみをいう。アメリカは州によって違いがあるが、ほぼ事故後一か月を事故死と扱っている。数字はマジックである。

 極端な話、退職してあくる日に亡くなっても教師の死にはならない。二三年もたっていれば、現職時代のストレスと絡んで考えられることはありえない。

『月刊生活指導』というイカツイ雑誌がある。たいていの学校の生活指導室には置いてある。十数年前に「教師のストレス」という特集をやっていた。
 そこにILOの資料が載っていた。
 総じて、教師のストレスは、最前線の兵士のそれに匹敵する。むべなるかなである。

 わたし自身在職中の疾病で、いまだに通院している。むろん、なんの保障もない。

 息子の進路に口出しはしないが、教師になると言えば絶対反対する。命を懸けて殉ずることは絶対いらない。


コメント
この記事をはてなブックマークに追加

高校ライトノベル・JUN STORIES・3《淳の心情》

2018-05-03 06:59:04 | ノベル

JUN STORIES・3
《淳の心情》



 1945年4月12日、アメリカのフランクリン・ルーズベルトが亡くなった。

 大方の読者はご存じであろうが「スネークアタック!」「リメンバーパールハーバー!」のキャッチコピーの大統領で、日本を太平洋戦争に引きずり込んだアメリカの第32代大統領。この月の1日には、アメリカは沖縄上陸作戦を実施、6日には坊津沖で戦艦大和が水上特攻で撃沈されている。マンハッタン計画の推進者でもあり、もし彼が大統領でなかったら、日本に原爆は落ちなかったといわれている。

 そんなルーズベルト大統領の逝去に対し、信じられないことだが、日本は中立国経由で弔電を打っている。

 峰岸淳は、外務省の電信課長であった。

 峰岸は外務省のキャリアの尻尾の方で、出世のチャンスは何度かあったが、そのたびに自分より能力が高そうな者に譲ってきた。
 一つには、この難関になんとか戦争を回避したかったので、自分よりも優秀な奴がいっぱいいると信じていた。外務官僚は「オレこそが!」というキャリアが多かったので、人情の手前からも人に譲って正解だと思った。

 同期に来栖がいた。

 元来来栖は三国同盟に反対で、当然日米戦にも反対だった。来栖は妻がアメリカ人女性で、冷静に国際情勢も分析、日米戦争には必ず反対を貫いてくれるものと信じていた。
 それがドイツの見せかけのカッコよさと、ベルリンに行った時の歓待ぶりに幻惑され、三国同盟を結び、日米開戦前夜は、野村大使らと飲み過ぎて、最後通牒をアメリカに手渡すのに二時間も遅れ、真珠湾奇襲には間に合わず、ルーズベルトをして「スネークアタック!」と言わしめてしまったといわれている。

 でも来栖には来栖の事情があったんだろうと同情していた。

 淳は人情にも厚かったが、法規遵守の気持ちも江戸時代の奉行のように厚かった。淳は、ルーズベルトにも彼なりの事情があったと思えるくらいに冷静であった。アメリカのニューディール政策の結末には戦争が必要だと、淳には思えた。ただ、その目標が日本であることだけが迷惑であった。
 淳は、外務省の電新規則は全てそらんじていたが、念のため、法規書を確かめ、外務大臣に上申した。
「大臣、アメリカに弔電を打つべきです。外国元首の逝去に当たっては弔電をうつべしと法規には書いてあります。戦時における敵国の条項がありませんので、規則上も弔電を打つべきです」

 このようにして、日本はアメリカに弔電を打った。

 当然アメリカは無視した。が、戦後になって、アメリカの新聞社が気づいて、淳に取材にきた。
「法規にのっとってやりました。日本は法治国家でありますから」
 私情は挟まなかった。結局アメリカの新聞も揶揄したコラムとして扱った。

 淳は1970年に亡くなった。2016年、アメリカの大統領はこのことに注目して、淳のことを調べなおし、改めて、この弔電を称賛した。いささかの思惑は秘められてはいたが。淳の年老いた息子は、それでもいいと思った。親父に似た心情の老人であった。


※:これは史実にヒントを得たフィクションです。

コメント
この記事をはてなブックマークに追加

高校ライトノベル・JUN STORIES・2《順とは、大人しい……だけじゃない》

2018-05-02 06:54:28 | ノベル

JUN STORIES・2
《順とは、大人しい……だけじゃない》



 この言葉を言うのに半年かかった。

 正確には、言おうとして息を吸い込んだところまでだった。
「花野、話があるんだけど」
 健太が割り込んできた。

 水野健太は花野優衣がマネージャーをやっている野球部の元エース。先月の試合で引退している。

「なんですか、水野さん?」
「ちょっと、いいかな」
 そう言った時には、優衣を中庭西のベンチから、東の方のベンチに歩き出していた。クラブでのマネージャーとエースの呼吸がまだ抜け切れていないのだろう。マネージャーは、呼ばれたらすぐに反応する……基本だもんな。

「えー!」

 という声がして、優衣は少しモジモジしたあと、健太がさらに一押し。優衣は顔を赤くしてコックリ頷いた。
 もうこれだけで分かる。いま健太はコクったんだ。で、優衣が好意的に驚いた。そして、さらなる一言で優衣は健太の手に落ちた。
 オレは、健太が言おうとしていたことを、半年かけて、やっと決心したんだ。今度、優衣が一人で居るところを見つけたらコクろうって。
 でも、もうやめた。健太は学年は一個上だけど、近所の幼馴染。オレみたく、家に籠ってイラストばっか描いてるオタクじゃない。スポーツ万能で、人あしらいも上手く、子供のころから一目置かれていた。野球部のエースで成績もルックスもいい。
 なによりも優衣が、とても幸せそうに頬を染めている。もう、オレの出番じゃない。

 オレは、女の子を好きになるということは、その子の幸せを祈ることだと思っている。と、言えばカッコいいけど、負け犬の言い訳のようにも感じる。
 オレの名前は順だ。大人しいとか、人に従順だという意味がある。親父も祖父ちゃんもゴンタクレだったので、その血を引かないように順とつけたらしい。その要望通り、オレは順な高校生になった。人より前に出るということがない。命に関わるような選択に迫られたことはないけど、そういう状況に陥っても、オレは、人に譲ってしまいそうな気がしている。

 オレは、高校に入った時、本格的に絵の勉強がしたくて美術部を志願した。美術部の顧問は有名なアーティストで、教えるということで、自分の中の創造性を高めようと、美術の講師をやっている。本格的な絵の勉強をするためには、この美術部に入るのが一番だった。だけど、この先生は学年で5人までしか入部させない。指導が行き届かないからだ。
「欠員ができたら、知らせるから」
 同時に入部希望を出した女子に譲ってしまった。で、絵に関しては二線級と言われる漫研で、なんとかやっている。

 オレは、失恋もイラストのアイデアだと思い、美優とのことをシュチュエーションを変えてコンクールに出し、個人の部で優秀賞(二等賞)をとった。
「よく、こんなアイデア浮かびましたね!?」
 地元紙の記者に聞かれた時も、こう答えた。
「こんなの、学校に居たら日常茶飯ですからね。友達のそういうの見てモチーフにしました」
「いやあ、なかなかの観察力だ!」
 審査にあたったプロのイラストレーターの先生も誉めてくれた。

 オレは、帰り道は電車に乗らないで、街を流れる川の堤防を歩いて帰った。晴れがましい気持ちよりも、ネタにした優衣にバレないかと気遣いながら、苦い気持ちを持て余しながら歩いていた。
 川面は空と同じ鈍色で、秋も終わりを感じさせる。

 ふと前方に人の気配を感じると。100メートルほど先に優衣が自転車を押しながら、こちらにやってくる。

 心臓が止まりそうになった。
「ネットのライブで見てたよ」
 優衣が眩しそうに言った。
「男と女を変えてたけど、あれ、順自身のことでしょ?」
「え、あ、そんなことは……」
「あるって顔に書いてある。あ、言っとくけど、今眩しいのは夕陽の方向いてるからね。だから……」
 それから、二人そろって東に向かって歩いた。優衣は涙をぬぐった。
「まだ、眩しいか?」
「ばか……」
「ごめん」
「ごめんて言うな!……あの中庭の時、順がなに言うか分かってた。だから水野さんにコクられたときは、逆に嬉しそうにしたんだよ。順は、きっと、それを乗り越えてコクってくれると思った……だのに、だのに、順たら勝手に悲劇のヒーローなんかになっちゃって。ずるいよ」
「ありがと……来年は、あれにどんでん返しの結末書くよ」
「リアルは、いま書き直して!」
「あ、描くものもってないし……」
「ああ、もう、ほんとバカ。とりあえず順が運転して、あたしを家まで連れて帰って」
「う、うん」

 優衣の温もりを背中に感じながら、一時間近く街の中を走った。あとで検索したら、優衣は、ものすごく遠回りして道を教えていたことが分かった。真っ直ぐ行けば5分足らずの道だった。

 順、少し良い名前に思えた。別れ際に優衣もそう言ったんだから。

コメント
この記事をはてなブックマークに追加

高校ライトノベル・JUN STORIES・1《男? それとも、女?》

2018-05-01 06:47:48 | ノベル

JUN STORIES・1
《男? それとも、女?》



「あ、女の子なんだ……」

 その一言で純はクラブへの入部をためらった。

「調査書に書くとき、やっぱクラブ名があった方がいいな」
 三者懇談で担任に言われたので、あたしはほどほどのクラブがいいだろうと演劇部を訪ねた。
 演劇部は、先日の県大会で二等賞である優秀賞を獲っていた。で、まあ上り坂のクラブがいいだろうと、演劇部を訪ねたが、顔を見るなり部長の三年生に言われてしまった。
 確かに演劇部は女子ばかりだ。男子部員も一人いたが、女装が趣味と噂のあるC組の歌川貴美だった。こいつもややこしい。貴美と書いて「たかみ」と読む。で、れっきとした男子で、貴美だと言われているネットの女装写真を見ると、自分よりも数倍可愛い。
 間近で貴美を見て、噂は本物だと思った。

「今日は、優秀賞のビデオ観て反省会やるから。田部さん(あたしの苗字)は、まあ、県下二位のお芝居をゆっくり観てちょうだいよ」

 部長が自信ありげにプロジェクターに写した芝居は、正直退屈だった。こんなもので二位が獲れるなんて、わが県の高校演劇ってどうなってるんだ!?
 ただ、驚いたのは、歌川貴美が女性役で出て、なんの違和感もないこと。幕間交流で「実は男なんです」と言った時の観客席のどよめき。で、貴美は個人演技賞を獲っていた。そのことだけじゃないんだけど「これでドーヨ!」って、クラブ全体にある自己陶酔が嫌だった。第一舞台には5人の役者が出ている。照明や音響などのスタッフを考えれば、最低でも9人は居なきゃ、この芝居はできないだろうと思った。
「4人は臨時部員よ」
 なるほど、稽古場にしている視聴覚室には純を含めて5人しかいない。で、その一人が貴美だ。純は、偏見かもしれないと思ったが、貴美が、自分の女装の演技に恍惚となっていることに違和感を感じた。

 で、速攻、演劇部への入部は止めにした。

 幼稚園からこっち、時々男と間違われることには慣れていたが、今日ほどの屈辱感はなかった。
 ためしにネットで調べてみた。日本の女性で一番多い名前は和子。そのあとに幸子、恵子、洋子とあって、幸子の後に「ジュン」という男女どちらにも点けられる名前」とあった。

「どうして、純なんて名前つけたのよ!?」

「ああ、男女どちらでもいける名前ってことで、生まれる前から決めてた」
 お父さんは、カウチに横になりテレビを見ながら答えた。
「もう……」
 そう言うと、お父さんはオナラで返事した。

 数日後、半端な付き合い方をしていた二年の神崎君に思い切って言った。
「ねえ、もうお互いの関係はっきりしたいんだけど」
「うーん……今のままじゃダメ?」
「なんか半端でさ。あたし、他のカレとかつくってもいいわけ?」
 他のカレの予定などなかったが、ハッタリをかましてみた。
「それは……純の自由じゃん」

 逃げを打ちやがった。あたしは、そう思った。

 あくる日、食堂で昼を食べていると、後ろに神埼と、ヨッコが座ったのが分かった。
「……でもさ、神崎さんて、純のカレじゃないですか」
「おれ、ああいう男だか女だか分かんないのは、苦手でさ。もう、別れる寸前」

 純は、振り向きざま、神崎をはり倒した。
「名前なんか、理由にすんなよ!」
 神崎は、ひっくり返ったランチをかぶったまま、言った。

「名前じゃなくて……お前の、こういうとこ!」

コメント
この記事をはてなブックマークに追加

高校ライトノベル・イスカ 真説邪気眼電波伝・44「このままやれってか!?」

2018-02-23 14:30:08 | ノベル

イスカ 真説邪気眼電波伝・44

『このままやれってか!?』

 

 

 え……だれ?

 

 野営のテントから出ると、ブスに訝しそうな目で見られた。

 見られただけじゃなくて、レイピアを喉元に突き付けられる。下手に動いたり口走ったりするとグサリとやられる。

「ダレって聞いてるのよ! 人のテントに忍び込んで、なにしてんのよ!?」

「あ、オレだよオレ、ナンシーナンシー!」

「ナンシー? IDを見せなさい!」

「え? ちゃんと頭の上に……あれ?」

 カメラをグリンと回したが、オレの頭の上にIDは見えない。こういうことになってはいけないので、ログインするときにID表示は確認したはずなのに!?

「いっぺん死ねええええ!」

 レイピアがズンと突き出される! からくも避けて万歳をする。半ば威嚇の攻撃だったので躱せたが、次に本気でやられたら死ぬ。なんせバトルスキルはレベル20だ。幻想神殿を始めて二年になるけど、ずっと47層の森で隠遁生活なのだ。それに……今日のオレは、ずっと仕舞い込んでいたサブアバターだ、20の力も無いだろう。

「タンマタンマ、オレだって、ほんとにオレだって!」

 くり出されるレイピアに地面を転げまわる。

 ズチャ! ズチャ! 二度三度耳を掠めて地面を刺突する音、もうダメだと思った瞬間!

「ID表示を迷彩柄にしないでよねー!」

「え、迷彩?」 

 カメラを回すと……確かに森林迷彩柄になっている。これでは木や草を背景にしたら見えなくなる。でも、おかしい、ログインするときに、ちゃんと赤と黄色のネオンカラーに設定したはずなのに?

「ネオンカラーって迷彩のすぐ下だから、間違えた……かな?」

 われながらドジだ。

「でも、なんで、そんなアバターなのよ!? ひょっとしたら、人間に化けたモンスターとか思っちゃうでしょ!」

「え、あ、いや、それが……」

 

 オレは、佐伯さんが幻想神殿を面白がって、アバターをつくって上書きしてしまったことを説明した。

 

「それだったら、また上書きすればいいだけの話でしょ」

 レイピアをクルクル回して鞘に納めながら、なにをくだらない! という感じで言い放った。

「それが、上書きしようとすると、HPもMPもスキルも『初期化されます』のアラームが出るんだよ」

 ネトゲの世界というのはアナーキーなもので、システムの隙間を縫うようにしてアイテムやスキルの盗難が意外にある。寝落ちしたプレイヤーのウインドウを開いて盗む奴とか、ウィルスを仕込んで盗む奴とかが存在するらしい。

 だから、異なったアバター間でのやり取りは制限がかかっている。回数なのか、設定条件なのか、アバターの切り替えなんてやったことが無かったから、よく分からない。しかし、佐伯さんのアバターに上書きできないことは確かなのだ。

「それじゃ、その上書きされたアバターに替えなさいよ。いくらなんでもデフォルトの初期アバターじゃ攻略は無理よ」

「いや、あ、でも女性アバターなんだぜ……ネカマの趣味ねーし」

 

 実は、幻想神殿を始めて間もないころ、パーティーを組んだ中に可愛い女の子が居て、結婚を申し込んだら「アハハ、おれ男だぜ!」と大恥をかいたことがある。

「あ、それが47層で隠遁しちゃった原因?」

「ち、ちがわい!」

「ま、とにかく、それじゃ話にならないから、さっさと替えてきてちょうだい!」

「わ、わーったよ!」

 コンソールウィンドウを開きながらテントの中に戻ろうとした。

「ここでやればいいでしょ」

「そ、それは」

「恥ずかしいんだ。ま、いいや、さっさとやってね、今日は山一つ超えときたいからね」

「の、覗くんじゃねーぞ!」

「だれが覗くか!」

 

 そしてテントに戻って、アバターを替えた。自分の姿を見るのが嫌で、オレは一人称視点にしてテントを出た。

 

――ど、どう?――

 口の形だけでブスに聞いた。

「……………………!」

 目を見張るばかりで声を発しない。

「なー、なんとか言えよ!」

 声を発して驚いた。佐伯さんによく似た女の声だ!?

「ちょっと待て、いま、声の設定変えるから!」

「あーーそのままそのまま! その姿で男の声は犯罪的に気持ち悪いから、じゃ、行くよ!」

「えーー、じゃ、このままやれってか!?」

 数歩先に歩き出していたブスは、回れ右をすると、真面目な顔で寄って来た。

 

「その姿かたちで男っぽいのは、わたしの美意識が許さないの!」

 

 オレは、初めて本気でネトゲを止めようかと思った。

 

 

コメント
この記事をはてなブックマークに追加

高校ライトノベル・イスカ 真説邪気眼電波伝・43「佐伯さんのアバター」

2018-02-21 14:42:47 | ノベル

イスカ 真説邪気眼電波伝・43

『佐伯さんのアバター』

 

 

 ネトゲを検索すると、トップにネトゲ廃人、二番目にネトゲ嫁が出てくる。

 

 これで分かるように、ネトゲに対する世間の目は厳しい。ゲーマーだと分かったとたんに、中世のペストの保菌者を見るような目で見られる。中世だから、そういう伝染病の罹患者は焼き殺される。ネットで知ってカミュの『ペスト』を斜め読みしてビビったのは中二の時だった。ネトゲーマーは焼き殺されることは無いが、学校という社会の中では精神的に隔離される。もともと人交わりが苦手で、友だちはおろか、口をきいてくれる友達も少ない。そんなオレがゲーマーだと知れれば社会的に抹殺され学校にも行けなくなる。

 そのネトゲをスリープにしていたパソコンが起きてしまって佐伯さんに知られてしまった!

 終わってしまった…………。

 

「きれい…………」

 

 佐伯さんは、有ろうことか、モニターに映し出されるバーチャルな風景に見入っていた!?

 ログアウトしても、ゲームそのものをオフにしなければ、ゲームのアレコレをPV風に流していく。PV風はカスタマイズできて、バトルシーンとかにもできるんだけど、オレはゲームの中の景色のいいところをチョイスしてランダムに流れるようにしている。

 いわば『幻想神殿名所百選』みたいなもので、バーチャルであるがゆえに、この世のものとは思えない美しさがある。

 画面にはお気に入り、第一層のアーガス丘陵が夜明けを迎えたところだ。上りきらない太陽が浅い斜めにさしかかり、微風にそよぐ木々からの木漏れ日になって、チラチラと朝露を載せた下草たちを宝石のように煌めかせている。

「いまのCGってすごいのね……」

 佐伯さんが見入っているところを、丘の向こうから馬に乗った三人がやってきた。姫騎士と竜騎士と白魔導士のようだ、徹夜で狩りをしての帰りだろう、満足げに談笑し、やがて上りつつある朝日にため息し、胸の前で十字を切ってお祈りの風情になった。

「なんてきれいな人たち……」

 夕べは獲得経験値三倍の狩のイベントがあったはずだ。大猟だったんだろうけど、この祈りの姿勢はハンティング疲れでチャットする元気もなくなってしまって、コマンドを『祈り』にしたまま離席している。トイレに行ったかコンビニに朝ごはんを買いに行ったか、ひょっとしたら着の身着のまま寝落ちしているのかもしれない。姫騎士と竜騎士というのもアバターの話で、リアルは何者か分かったもんじゃない。

「それ、アバターだから……」

 佐伯さんの夢を壊さないように遠慮気味に言う。

「この人たちプレイヤーなの? CGアニメかと思ったわ」

 ほとんどデフォルトの三人だけど、デフォルトならではの完成度がある。佐伯さんに憧れの目で見られているプレイヤーのネタバラシをしてやりたくなった。

「簡単だよ、こういう具合に……」

 アバタープロダクト画面を出した。そして、さっきの姫騎士のイメージで美少女を作り上げる。時間はたったの三十秒。

「すごい、魔法みたい!」

 で、調子に乗ってしまった。

「これじゃ、さっきの姫騎士のまんまだから、ちょっと手を加えようか」

「うんうん🎵」

 髪形を佐伯さんと同じ内ハネのシャギーにして髪艶を少し上げた。

「あ、トリートメント直後ってこんな感じ! 胸は少し小さく……」

「自分でやってみる? このメニューをクリックしたら詳細設定ができるから」

「あ、うん、やってみるね」

 

 ツボにはまったのか、佐伯さんは目を輝かせて熱中しだした。勉強している時とはちがって、楽しい緊張感が嬉しくなってきた。優姫に邪魔されたくないので、オレは自分でお茶を入れにキッチンに下りた。

「あ、いま淹れようとしてたのにい」

 いつの間に買いに行ったのか、テーブルの上にはコンビニのケーキが三つ並んでいる。これはムゲには断れない。

 で、兄妹二人、お茶とケーキを持って二階に上がる。

 

「ワー、すごい! 佐伯さんそっくり!」

 

 入るなり優姫が感動した。

「すごいのは、このゲームよ。首から上だけでも百以上エディットできるのね、なんだか楽しくなってきちゃった!」

「もっとすごいんですよ♪」

 優姫は佐伯さんの隣にいくなり操作を開始した。

「きゃ!」

 F8ボタンを押したのだ、アバターが裸になって、佐伯さんは小さく悲鳴を上げた。

「ボディーもこと細かに設定できるんですよ~」

 なんでそこまで知っている優姫?

「ふ、服着せてください~(^_^;)」

「あ、ごめんなさい。お兄ちゃん、あっち向いて!」

「う、うん」

 後ろを向くと、ガールズトークが始まった。瞬間驚いた佐伯さんだが、エディットが面白くなって、前を向くお許しが出たのは十分後だった。

 

「お兄ちゃん……ごめん、上書きしちゃった」

「え、あ、また上書きすればいいんだから……? 優姫、固定のボタンクリックしたか?」

「え、あ、保存した……んだけど?」

 

 オレのアバターは佐伯さんのまま固定されてしまった、下手に作り直すと経験値もスキルも消えてしまうことに五分後に気づいたのだった……。

 

コメント
この記事をはてなブックマークに追加

高校ライトノベル・イスカ 真説邪気眼電波伝・42「万事休す!」

2018-02-20 16:53:50 | ノベル

イスカ 真説邪気眼電波伝・42

『万事休す!』

 

 

 玄関とトイレのドアが開くのが同時だった。

 

 そして、トイレから出てきた優姫が息をのんで目を丸くした。トイレからはくぐもった流水の音が響いている。

 こないだと同じパターンなので、また一悶着あるかとヒヤッとする。水音の猛々しさと長さから大きい方であると推測されるのだ。

 しかし、今日の優姫は鼻を鳴らして不貞腐れることはしない。それどころか、大文字のDを丸い方を上にして横倒しにしたような目になって、母親譲りの愛想笑いをするではないか!

 前回と違う豹変ぶりには理由がある。

 オレの後ろには、学校で三本の指には入る美人の佐伯さんが控えているのだ。

「お邪魔します、わたし、北斗君と同じクラスの佐伯といいます。いっしょに勉強することになって、前触れもなくすみません」

「いいえ、不甲斐ない兄ですけど、よろしくお願いします! ト、トイレ掃除の途中なので、あ、あとでお茶とかお持ちしますね!」

 佐伯さんの「あ、おかまいなく」も聞かずにトイレに引き返す愚妹、ハハハ、掃除はこまめにやってくれるんだ……とフォローしておく。

 学習塾のCMに「分かった!」「じゃ、分かったら説明してごらん!」という生徒と講師の掛け合いがあった。本当に理解できるというのは、人に筋道を立てて説明できることだとオレも頷いたもんだ。ただ、なんで塾の講師がバク転とか鞍馬をしているのかは理解に苦しんだが。

 佐伯さんは、そのCM真っ青というくらいに教えるのが上手い。

 イスカの西田さんもなかなかだったんだけど、佐伯さんは胸時めかせながら教えてくれる。オレの横、丸椅子に腰掛け「どれどれ……」という感じで三十センチまで接近、肩なんか、時々触れてしまうんだ。体温は感じるし、シャンプーの香りはするし、ここはね……とか、そうそう……とか言うたびに、いい匂いがする。

「あの……もしもし」と数回注意されたけど、え、あ、うん、ゴメン……と答えるたびにコロコロ笑う佐伯さん。

 佐伯さんと言うのは、オレみたいなパンピー男子にとってはチョー高嶺の花で、高嶺の花というのは文字通りの花、それも遠くから眺めるだけの富士の高嶺にこそ咲く花。せいぜい五合目あたりから気配を感じるだけでありがたい。それが、こんな息のかかる距離で……オーーー、いま、ノートを覗き込もうとした佐伯さんの髪がハラリと頬っぺたに掛かって百万ボルトの電気が流れた。

 あやうく気絶してしまいそうになったとき愚妹の優姫がお茶を持ってくる、お菓子を持ってくる。暖房の具合を聞いてくる。

 ありがとうとコノヤローを等量に感じる。

「はい、きょうはこんなところかな」

 佐伯さんが、明るく爽やかに終了を宣言した時、スリープにしていたパソコンの画面が点いた。ヤバイ、幻想神殿のタイトルがパチンコ屋のディスプレーのようにデモを流し始めたではないか!

「うわー、きれいな動画!」

 万事休す! 佐伯さんが淹れ直したお茶をすすりながら興味を持ってしまった!

コメント
この記事をはてなブックマークに追加

高校ライトノベル・イスカ 真説邪気眼電波伝・41「人生最大の拍動」

2018-02-19 12:53:53 | ノベル

イスカ 真説邪気眼電波伝・41

『人生最大の拍動』

 

 

 移動教室の四限が終わって渡り廊下を食堂に急いでいると、眼下の車寄せに西田さんと年配の女性が見えた。

 続いて香奈ちゃん先生の後姿が見えたので、お母さんが迎えに来たところだろうと見当が付く。

 五十代前半みたいだけど、襟を立てた白っぽいスーツに青いスカーフ、足許はスーツよりもトーンを落としたパンプスで、なんだかイカシテる。西田さんはイスカのアバターなんで、そのお母さんもNPCみたいなもんで、いかにもお母さんという感じだと思っていたので意外だ。

 香奈ちゃん先生とお母さんがお辞儀のエンカウント、先生の方がずっと若いはずなんだけど、気品と貫録でお母さんの勝利になって車に収まった。収まる時は運転手が出てきてドアを開けた、お辞儀をしているところを見るとお父さんではない。なんちゅうかお抱え運転手? 

「民自党の西田しほり……?」

 オレの横で佐伯さんが呟いた。

「知ってるの?」

「うん、ここんとこ張り切りまくってる女性議員、民自党の女性議員じゃ一番総理大臣の椅子に近いって噂よ。お母さんも何度かパーティーに呼ばれたの」

 そうなんだ、佐伯さんのお母さんは有名な女優さんで、政治家のパーティーなんかにも顔を出すらしい。

 でも、小学校のころのイスカは籾井って苗字だった、いや、アバターだから……考えたらこんぐらがりそうなので、車が校門を出て行くのを見送って思考を停止した。「お昼いっしょに食べよ!」と佐伯さんに言われては、オレのナマクラな脳みそは活動を停止せざるを得ない。

 きのうの修羅場をいっしょに潜ったことで、距離が縮まり、ちょっとした同志の気持ちを持ってくれているのなら嬉しすぎる。

「やっぱり平和なのがいいわよね……」

 A定食のライス少な目を口に運びながら佐伯さんが呟く。白身魚のフライを箸で挟んだまま、ちょっと遠くを見る目になって、半開きになった口から白い歯が覗いている。オレがやったら妹の優姫に「死ね!」と言われるような間抜け面になる自信がある。でも、佐伯さんがやると、美しさに親しみやすい奥行きができるというか、そういう呆けた表情を間近で見せてくれることがなんとも嬉しい!

 オレ、きっと間抜けな顔になってる……オレは不器用承知で顔を引き締めた。

「あら、真剣な顔……昨日のこと思い出したり?」

 労わりを含んだ声で聞いてくれる。オレ如きに……やっぱ、佐伯さんはいい人だ。

「激戦だったけど、イスカが頑張ってくれて、しばらくは大丈夫だと思うよ」

 安心してもらおうと笑顔を作ろうとするが、五十センチまで顔を寄せられ、オレは俯いてしまう。

「ひょっとして……成績?」

 言われて愕然となった。

 イスカが面倒見てくれて、なんとか人並みにやれそうな雰囲気になったけど、イスカが倒れた今、オレの成績は失速? いや、急降下? いや、真っ逆さまに地獄に激突間違いなし!

「大丈夫?」

 佐伯さんの顔がさらに十センチ近くなった。

「え、あ、あ……」

 パニクっていると、さらに五センチ近くなって、佐伯さんは、スゴイことを言った。

「そうだ、わたしがカテキしてあげようか!?」

 

 ドッキン!!

 

 オレの心臓は人生最大の拍動を記録した。

 

 

コメント
この記事をはてなブックマークに追加

高校ライトノベル・イスカ 真説邪気眼電波伝・40「イスカからのメール」

2018-02-18 16:19:13 | ノベル

イスカ 真説邪気眼電波伝・40

『イスカからのメール』

 

 

 転がり落ちるようにしてベッドを下りて丸椅子に座った。

 

「先生呼んできた! 大丈夫!?」

 オレの顔を見るなり、佐伯さんは心配げに聞いた。オレはベッドから降りる時に右の脛をしたたかに打って涙目なのだ。

「に……西田さん、顔色すこし良くなったみたい……」

「どれどれ……」

 保健室の正木先生が白衣を翻してベッドのこっち側に寄ってイスカの左腕をとった。

「……打撲はしているようだけど……骨に異常はないようね」

「あ……もうだいじょうぶです」

 イスカの声もしっかりしている。どうやら、オレの身を挺してのリペアが効いたようだ。

「でも、大事を取ってくれてよかったわ、打撲のショックが大きいようだから……これで汗を拭きなさい」

 正木先生は、ショ-ケースみたいな滅菌箱から清潔なタオルを出して手渡した。

「北斗君、ほんとに、だいじょうぶ?」

 佐伯さんが、オレのやせ我慢に気づく。

「え、あ、アハハハ……脛を打ったみたいで……」

「ん? あ、あんたも……湿布しとこうか」

「先生、わたしがやります」

「あ、そう。じゃ、お願い。わたし、担任の先生に連絡してくるから」

 正木先生は職員室に向かい、佐伯さんは薬品箱から湿布と包帯を出して手当てに掛かってくれる。なんだか畏れ多いし、後ろ手は西田さんが汗を拭く衣擦れの音がする。

「佐伯さん、手際がいいね」

「去年は保健委員だったし……こういうの好きなのよ。でも、いつ打ったの?」

「あ、知らないうちに打ってたみたいで……」

 イスカに抱き付いてリペアしていたとは言えない。なんだか気まずくて顔を背けると、汗を拭くためにはだけた西田さんの背中が見えてドギマギする。

 その後、香奈ちゃん先生が心配な顔でやってきて、西田さんのお母さんが迎えに来ると言ったけど、イスカは、素っ気なく「ハイ」と答えただけだった。佐伯さんが心配したようにイスカの西田さんは、ちょっとおかしい。

「西田さんの鞄とかとってきます」

「じゃ、わたしは更衣室の制服を」

 佐伯さんと分担して、イスカが帰れる支度にかかった。

 四時間目が移動教室だったので教室には誰も居なかった。イスカの鞄を持って出ようとしたら、聞き覚えのある着信音。

「あ、俺のか」

 自分の机からスマホを出すとメールが入っていた。イスカからだ。

 

――昨日のバトル、思いのほかきつくて、しばらく動けない。学校に来ているのは、ただのアバターの西田佐知子。敵のルシファーにも相当なダメージを与えたから当分は平穏。勉強は見てあげられないけどサボるんじゃないわよ――

 

 読み終わると、四時間目終了のチャイムと共にメールは滲むように消えいった……。

コメント
この記事をはてなブックマークに追加

高校ライトノベル・イスカ 真説邪気眼電波伝・39「dakishimete」

2018-02-17 14:16:03 | ノベル

イスカ 真説邪気眼電波伝・39

『dakishimete』

 

 

 保健の先生探してくる!

 

 宣言するように言うと、佐伯さんは保健室を飛び出した。

 ベッドのイスカ……西田さんは無言だが、顔が青ざめて脂汗が浮かんでいる、そうとう痛いんだ。

 西田さんモードの時は、無口でどんくさい女の子なんだ。で、我慢強い。オレだったら転げまわって泣き叫んでるぞ。

 せめて「痛いよおおお」くらいの弱みは見せてほしい。どうしていいか分からずに横に居るのは心が折れる。

 

 ス………マ………ホ……

 

 西田さんが苦しい息の中、口の形だけで言う。

「スマホ? 西田さんのか? オレの?」」

「……うん」

「あ、えと……体育の時間だからロッカーにしまって……取ってくる!」

 

 ポロローン

 

 ドアに急ぐと、保健室のパソコンがメール着信の音がした。

 教職員用のパソコンなんで躊躇われたが、なんだか大事なことのように思えて、パソコンのデスクに寄った。

 

――dakishimete isuka――

 

 え、なんだろう?

 

 da  ki  shi  me  te  ……ダ キ シ メ テ……抱きしめて イスカ……気づくのに三十秒ほどかかった。

 口に出して言えないから、オレのスマホに、それも間の合わないから手近のパソコンにメッセージを送ったんだ、変換する余裕もないんだ。

 

 ひどく背徳的な気持ちがしたが、オレはイスカのジェネレーターだ。ゲームで言えばヒーラーでリペアの機能もあるに違いない。

 オレは、ベッドに上がった。体操服に泥が付いているのが気になったが、事は急を要するんだろう。西田さんの横に寝ると覆いかぶさるようにして……でも体重をかけるわけにはいかないから、手足を踏ん張って重なった。大丈夫な右手がオレの背中に回されてしがみ付いてくる。

「つ……よ……く……」

「あ、ああ」

 リペアのためだとは分かっていても、ベッドの上の女の子に被さるというのは、なんとも具合が悪い。

 くっついた胸からは西田さんの胸のふくらみを感じてしまう……ヤバいぜ……。

 オレは腰を浮かせた……だって、まずいだろ? 分かるだろ?

 すると、西田さんの右手が腰の上に下りてきて、思いのほか強い力で抑えてきた!

 ヌグ!?

 心臓が飛び出しそうになった!

 

 二三分そうしていただろうか……西田さんの呼吸が穏やかになって顔色も戻って来た。

 

 目を骨折した左腕にやると、反対方向に曲がっていたのが普通に戻って来た。わずかに逆方向だが、女の子の腕というのは、くつろげた状態でも、わずかに反っているものだ。にくそい妹が、まだ「お兄ちゃん」と慕ってくれていたころの様子を思い出す。

 もういいかな……そう思って身を起こそうとすると、右手でグッと抑え込まれる。左手が添えられないというのは、まだ具合は悪いのだろう。

 

 そうこうしていると、廊下の向こうから二人分の急ぎ足が聞こえてくる。佐伯さんと先生だ……ヤベー!

 

 

コメント
この記事をはてなブックマークに追加

高校ライトノベル・イスカ 真説邪気眼電波伝・38「西田さんモードのイスカ」

2018-02-16 17:32:09 | ノベル

イスカ 真説邪気眼電波伝・38

『西田さんモードのイスカ』

 

 

「なんだか、心ここにあらず……て、感じなの」

 

 踊り場は冬を思わせる冷え込みだったけど、腕組みした佐伯さんの肩に力が入っていたのは寒さのせいじゃない。

「お早う」の挨拶をしても「あのね」と話しかけても気のない返事が返って来るばかりで、かと言ってバリアーがあるわけでもなく、ただ、席に着いて、ずっと黒板を見つめているだけらしい。

「ひょっとして西田さんモードなんじゃない?」

「あ……うん」

 イスカのデフォルトは西田佐知子だ。クラスに溶け込めず、でも、それを気にする風でもなく、人とは必要最小限度の事しか喋らない。そういう地味子のはずだ。

 オレも、文化祭の三日前に佐伯さんが屋上から飛び降りるのを、時間を止めて助けたのを目撃してからだ。

 あいつが時間を止めると、みんなマネキンみたいにフリーズするんだけど、オレの時間は止まらないし、フリーズすることもない。

 そのことで、オレは堕天使イスカのジェネレーターだってことが分かったんだけど。それは置いておくとして、基本イスカが西田さんであるときは、たぶん日本一の地味子だ。佐伯さんは、あいつがイスカであると分かるまでは、ほとんど接触が無かったはずだ。きのう三宅先生がメタモルフォーゼしたモンスターをやっつける時にイスカモードになって親しくなった。

 佐伯さんは、人の欠点よりも長所を見て付き合っていこうという、優しくも優れた女の子だ。

 だから、いったんイスカに心を許してしまうと、イスカモードがデフォルトになり、西田モードでは戸惑ってしまうんだ。オレは、そんな佐伯さんを好ましく思う。

「えと……心配しすぎ?」

「うん、てか、そういう風に心配してくれるのは、とても嬉しいよ。あ、念のために、オレも声をかけてみる」

「うん、よろしくね」

 

 教室に戻って、自分の席に着くついでという感じで「おはよう」と声をかける。

「……おはよう」

 たしかに無機質と言ってもいいくらい抑揚に無い声だ。

「きのうは、お疲れさん」

「……うん」

 たしかに心ここにあらず……背中に佐伯さんの気づかわし気な視線を感じる。

――ドンマイ――目だけでサインを送る。

 きのうは下校してからでもいろいろあった。マトリックスって化け物とはまるでボス戦だった。だけど、わざわざ佐伯さんに言うことでもない。ま、たぶん、イスカは疲れまくっているだけなんだ。佐伯さんも心配げではあるけども小さく頷いてくれた。

 

 それは三時間目の体育の授業だった。

 

 男子の体育が早く終わって、ジャンケン運のないオレは機材を体育館に運ばされていた。

 女子も終わって、入り口のところでゾロゾロ出てくる女子たちとすれ違う。女子たちのさんざめきに圧倒されながらフロアーへ……すると、フロアーの隅で跳び箱の居残りをさせられている西田モードのイスカと佐伯さんに気づく。

 イスカが居残りをさせられて、佐伯さんが付き添っているのだ。

「もう一度やってみよっか」

 数えると五段の跳び箱が跳べないイスカを励ましている佐伯さん。てきとうに誤魔化せばいいと思うんだけど、こういうところは佐伯さんもストイックだ。

「ハイ」

 まじめに返事してリトライするイスカ、いや、西田さん。

 イスカの時とは違って、ノタノタと、いかにも運動音痴。

「えい!」

 掛け声駆けて、踏切板でジャンプ。

 しかし、前進のベクトルが弱いために、ピョコントお尻が持ち上がったままで跳び箱に手を突く。

 グショ……音がしたかと思うと西田さんの左手は逆方向に曲がって、そのままマットに落ちて行った!

 

 骨折したんだ!

 

 オレと佐伯さんは同時に駆け寄った。

 あらぬ方向に曲がった左腕を庇う西田さん。かなり痛いはずなのに声も上げない。

「ごめんなさい、無理させちゃった!」

「保健室連れて行こう!」

 体育館の壁面に収納されているタンカを取り出すと、二人で担いで保健室に急いだ。

 入り口を出る時に「「怪我人です!」」と揃って教官室の方に声をかけるが反応なし。

 階段を下りて、保健室のある本館に向かっているときに教官室の窓から「どーかしたかー?」間の抜けた声がした。

 そして、保健室に着くと養護教諭の先生がいなかった……。

コメント
この記事をはてなブックマークに追加

高校ライトノベル・イスカ 真説邪気眼電波伝・37「朝の七時には目が覚める」

2018-02-15 13:44:20 | ノベル

イスカ 真説邪気眼電波伝・37

『朝の七時には目が覚める』

 

 

 どんなに疲れていても朝の七時には目が覚める。

 

 いい子だからじゃない。

 一種の強迫観念と言っていい。

 もし七時を過ぎると、ズルズルと二度寝三度寝してしまい、学校に間に合わない時間になってしまうと、あっさり休んでしまうことが分かっているからだ。一度休んでしまうと、あくる日はさらに行きにくい。二日休むと、もっと行きにくい。三日も休むと、おそらく不登校になる。

「北斗君は、入学以来休んだことが無いんだ。えらいと思いますよ!」

 三者懇談の時、香奈ちゃん先生は、そう言って誉めてくれた。

 成績も人間関係も褒められると一つもないもんだから、そう言って、まず誉めてくれたんだ。教師になって、まだ三年目だけど、こういう気配りの出来る香奈ちゃんは好きだ。でも、オレの無欠席が不登校寸前の弱っちい気持ちから来ていることは分からないだろう。

 殺人とかのとんでもない事件をしでかすやつが、クラスでも目立たない大人しい奴っているじゃん。

「真面目な子でしたよ」「そんなことをするようには見えなかった」「いつも通りでしたよ」とか、事件の後で言われたりするじゃん。それって、ふとしたことでリズムが狂ったからなんじゃないかと思うんだ。たとえば、目が覚めたら七時一分で、そのために休んでしまって、ズルズルになり、不登校になって、いろんなことが閉鎖的になり、そのあげく、いろんなことがチグハグになって人を殺しちゃったりな。

 だからオレは七時には目を覚まして起きるんだ。

 でも、めちゃくちゃ体が重い。

 分かってるんだ、昨日あれだけのことがあって、その上『幻想神殿』には律儀にログオンして午前一時までブスの相手をしていた。あいつのお蔭で三年ぶりのバトル。なんとかピーボスはやっつけたけど、急所を外したため、ピーボスはソードが刺さったまま逃げやがった。今度ログインしたらナイフ同然の初期装備のダガーしかないぞ。

 セイ!

 ゲームの中みたいな掛け声かけると、手早く着替えて一階に降りる。

 すでに起きて、出かけるばかりの優姫が罵声を浴びせてくるが割愛する。いつものことだし、いちいち思い出してははらわたが煮えくり返って憤死しそうなので、学校に行ったところまで巻きとする。

 教室に入ると、みんな生きて動いているので安心する。

 ほら、昨日は、みんなの時間が停まっていてさ、イスカ一人が起きてて、ルシファーのドラゴンとバトルになった。

 クラスは半分くらいが登校していて、イスカも席に着いていた。よしよし、全て世は事も無し……安心して席に着こうとしたら「北斗君……」と声をかけられる。

「佐伯さん?」

「ちょっと来て……」

 互いに「おはよう」の挨拶も交わさずに階段の踊り場に向かう。

 三十センチくらいに顔を寄せる佐伯さん。夕べのブスと同じ間合いだ……と思ったら、眉根を寄せてヒソヒソと言う。

 

「ちょっと、イスカさんの様子がおかしいの……」

コメント
この記事をはてなブックマークに追加

高校ライトノベル・イスカ 真説邪気眼電波伝・36「姫騎士ブスの危機一髪!」

2018-02-14 16:45:47 | ノベル

イスカ 真説邪気眼電波伝・36

『姫騎士ブスの危機一髪!』

 

 

 ウギャーーーーーーーーーーーーーーーーー!!

 

 赤ん坊みたいな悲鳴をデクレッシェンドさせながら、ブスは崖から落ちた。

 落ちる瞬間――なんで助けないのよおおおお!――という目をしたが放っておく。

 だって、ブスを崖っぷちに追い詰めたピーボスはオレに狙いを定めたからだ。

 カッカッカと前足で地面を掻くと、日ごろは可愛いと言っていいまん丸の目を三角にし、ブヒヒイイイ! と跳びかかって来た。

 セイ!

 瞬時にコマンドバーBを選択、右手のソードを振り上げるとともに跳躍し、突進してくるピーボスを躱すと同時に急所の首の付け根に突き立てる!

 プギーーーー!

 一声鳴くと、首にソードが付き立ったままピーボスは薮の中に消えて行った。

「お、オレのソード!」

 ジャンピングアタックはクリティカルになればピーボスレベルならば一撃で倒せる。しかし『幻想神殿』をやり始めた、ほんの一週間ほどしか狩をやったことがないオレは、むざむざとソードを持っていかれてしまった。

 手負いのピーボスなので、すぐに追いかければHPが尽き果てたところを発見できるのだが、崖下に落ちたブスを放っておくわけにもいかない。実際、こう逡巡している瞬間にも崖下から消え入りそうなブスのうめき声が聞こえている。

 し、仕方ねえなあ……!

 持っていきようのないいら立ちを、ガシっと地面をけることで紛らわせ、腹這いになって崖下を覗いた。

 え……?

 四階建ての校舎の高さほどはあろうかと思った崖は五十センチほどしかなかった。

 でもって、腹ばいで突き出したオレの顔とひっくり返っているブスの顔が三十センチちょっとの近さで重なった。

 涙目になってむくれているブスを、不覚にも可愛いと思ってしまった。い、いかんいかん。

「ちょっと、早く助けなさいよ!」

「これくらい、自分で起きられるだろ」

「お、乙女のピンチを救うのはナイトの務めでしょうが!」

「へいへい」

 手を伸ばして引き上げようとするが、ブスはフルフルと首を横に振る。

「ち、ちがうでしょ、降りてきて抱っこしなさいよ! グズ!」

 たった今「可愛い」と思った気持ちが掻き消える。しかし、事を荒立てないことをモットーにしているオレは舌打ち一つせずに下りて、ブスをお姫様ダッコにして助けてやる。そのグニャリとした手応えに――こいつ、腰を抜かしたな――と思いつつ、余計なことは言わない。

 

「ピーボアが、あんなに強いなら言ってよね!」

「あれはピーボスって言って、別のモンスター……」

「だって、あいつのお尻を発見した時に『ピーボア!』って叫んだでしょ!」

「『ピーボス!』って言ったんだ」

「うそ、ピーボアだったわよ。ピーボスだったらバトルなんかしないもん!」

「いや、ピーボスにしたってレベルはたったの3だから。スライムに毛の生えたようなもんだ、躱しながら切りかかれば三回ぐらいで倒せるから」

 かっこよく一撃で倒そうとしてソードを持っていかれたことは言わない。

「そ、そんなの知らないもん。だいいち、ザコ見つけたらチュートリアル代わりにやっておこうって言ったのはナンシーでしょ」

「そんなにヘタクソだとは思わねえよ! そのシルバーアーマーの赤マントは、どこの姫騎士だってナリだもんな!」

「もう、そんなにポンポン言わなくってもいいでしょ! もう、今日は野営にするわよ」

「あ、わりい、オレ、もう落ちなきゃ、朝起きれなくなっちまう」

「ええ、もう?」

「リアルじゃ、もう午前一時だ。ネトゲのやり過ぎで休むわけにもいかねえからな」

 ほんとは、もう一時間くらいはやっていてもいい時間なんだけど、リアルでも大変な一日だった、さすがに限界……。

コメント
この記事をはてなブックマークに追加

高校ライトノベル・イスカ 真説邪気眼電波伝・35「ブスのクラブサンドイッチ・2」

2018-02-13 14:50:57 | ノベル

イスカ 真説邪気眼電波伝・35

『ブスのクラブサンドイッチ・2』

 

 

 お、おいしい……かな? から始まった。

 

 一個目を食べて二個目に手を出すまでに、ブスは十回くらい感想をせがんだ。

 オレはグルメでもなきゃ、料理評論家でもない。美味しいものは美味しいとしか言いようがないんだけど、そんなもんじゃ許さない気迫があった。

「端っこまで具が入ってるぜ、グー!」「洒落てないで」「マヨネーズの酸味がいい」「ワインビネガーが入ってるの」「んなもん入れたらビチャビチャになるだろ?」「かき回して水分飛ばしてるの」「そうなんだ」「ハムの味がしっかりしてる」「それはボローニャソーセージ」「ボ、ボロ?」「豚肉を細かくひき肉にしたものに塩・コショウなどの調味料やピスタチオやパプリカなどと脂身が入っていて、柔らかくて美味しいのよ」「レタスがシャッキリ」「氷水で締めたから」「玉子焼きの味が……」「焼き加減と溶かしバターね」「パセリが……」「叩いて香りを出してるの!」「パンが……」「焼きたて!」

 

 これだけの会話をしながら食べてるオレも偉いと思うぜ。

 

「ブスは料理が好きなのか?」

「これだけのもの作って嫌いなわけないでしょ」

「サンドイッチの店が開けるぜ、これだけ美味しんだから」

「う……うん」

 ブスは少し言いよどんだ。あれ? と思ったけど聞けなかった。

 

 なぜって……とんでもないことに気づいたからだ。

 

「え……なんで味がしたんだ?」

「そりゃ食べたからじゃん」

「だって、これってゲームだぜ。食べる真似はできても味なんかするはずないだろ……?」

「フフ、味だけ?」

「……え? あ、あ? あ?」

 首を巡らせて驚いた。360度全てが見渡せて、景色もブスの姿も立体の3Dだ!

 オレは32インチのモニターを一メートルくらいの距離で使っているので、没入感はすごいけど、VRではない。

 そういや、風のそよぎも肌で感じるし、傍に寄ったブスの温もりも感じる。よくできたゲームは時々五感を錯覚させるが、あれは錯覚であって、こんなに生々しいものではない。

 オレの脳みそは混乱しながら思い出していた。

 ブスと出会ったころは普通のオンラインゲームだった。コーヒー飲みながらキーボド叩いていても、コーヒーもキーボードもディスプレイのこっち側のものだと認識していた……そうだ、今夜ログインしてルベルの街に来て……ブスに振り回されっぱなしだったから気が付かなかったけど、すでにVR以上のリアリティーと没入感だった。

「それはね……わたしのせいなんだけど、ま、いいじゃん。リアリティーある方がいいでしょ。さ、食べ終わったら、さっさと48層の攻略に行くわよ、迷子にならないように付いてきなさい!」

 ブスは立ち上がるとランチセットを消してスタスタと歩きはじめる。

 ここで置いてけぼりを食ったら、二度とログオフできないような気がして、我ながら情けなくもアタフタしながら赤いマントを追いかけるオレ様だった。

 

コメント
この記事をはてなブックマークに追加

高校ライトノベル・イスカ 真説邪気眼電波伝・34「ブスのクラブサンドイッチ・1」

2018-02-12 16:29:27 | ノベル

イスカ 真説邪気眼電波伝・34

『ブスのクラブサンドイッチ・1』

 

 

 目が覚めると、お日様は真上に来ていた。

 

 川辺の広葉樹の下で寝っ転がっていたので、日差しが半分も無く目が覚めなかったようだ。

「あ、あち!」

 起き上がる時にレガースに手を当てると、火傷しそうなくらいに熱い。

 膝から下が木陰から出ていて、金属製のレガースが焼けていたのだ。

 お日様が南中して、木陰が動いて、脚が日向に飛び出してしまったようだ。

 期せずして頭寒足熱になったようで、我ながら健康的な昼寝をになった。

 

「オーーーイ!」

 

 橋の上から声が掛かる。首を巡らせるとブスが左手を振っている。右手は石の欄干に隠れて見えないが、どうやら何かを持っているようだ。

 石段を下りる時も器用にマントで隠しているので、なにを持っているのかよく分からないけど、ひどく楽しそうなので、姿を消していたのは、そいつのためだったと思える。

「ウフフフ」

「変なやつ、なに持ってきたんだよ?」

「な~んだ?」

「ハハ、なんだよ?」

「当ててみそ(^^♪」

 ブスは目をへの字にしてピョンピョン撥ねる。すると、かすかにいい匂いが立ち込める。

 ビネガー混じりのドレッシング……揚げ物……それにスパイシーななにか……要はおいしそうな匂いだ!

 近ごろのゲームのグラフィックは驚異的で、視覚を通していろんな疑似感覚を覚える。

 日差しの温かさや頬を撫でる風、ご馳走を観たら、なんとなく匂いを感じることもある。VRで女の子の家庭教師をするゲームがあるが、女の子が落としたシャーペンを拾おうとして、そのうなじが迫ってくると、吐息や女の子の匂いを感じたりするそうで。それは、視覚が他の五感に影響して錯覚させるらしい。こういう錯覚には積極的に没入したした方がいい。

「なにか食べ物だな!」

「さすがナンシー、ジャーーン!」

 差し出したのは乙女チックなランチバスケットだ。

 手際よくランチシートを広げ、腰を下ろすと、自分の横をポムポム叩く。座れということだ。

「え、え、ま、いいけど」

 こういうシチュには慣れていないので、どうも不貞腐れた物言いになる。そんなことは気にせずにバスケットを開帳するブス。

「はい、召し上がれ🎵」

「ウワ~~~~~」

 クラブサンドイッチというのか、三枚の食パンの間にレタスやチーズやベーコンやタマゴやハムやフライなどが挟んであって、その隙間には手作りらしいソースが頃合いにはみ出ていて、見るからに美味しそうなのだ! それが、バスケットいっぱいにギッチリと詰まっている。

「いっただきまーす!」

 さっそく一つ掴んでハムハムと頬張るオレ様だった!

 

コメント
この記事をはてなブックマークに追加