大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

くノ一その一今のうち・82『B国王城接見の間』

2023-10-31 15:25:08 | 小説3

くノ一その一今のうち

82『B国王城接見の間』そのいち 

 

 

「サマラ(アデリヤの母)は元気にしておるか?」

 

 アデリヤ姫に言葉を向ける国王は、サマラ王妃の兄というよりは父親、いや祖父かと見間違えるほどに老けている。

 サマル王子が父親似だということが初対面でも知れるのだけど、刻まれた皴や目の縁のクマ、丸くなった背中に国王として置かれた立場が容易なものではないことを物語っている。ここのところの草原の国からの圧力、軍事的緊張で心身ともに擦り減っているんだろう、王立牧場の難民キャンプでボーイスカウトみたいに生き生きしているサマル王子とは対照的すぎる。

「はい、大臣たちが父をよく輔弼し、国連や友好国からの援助も受け、緊張感はありますが、いたって前向きに過ごしております。母も、そんな父に安心して明るく過ごしております」

「そうか、それはよかった。王族第一の役目は臣民たちを安心させることだからな、なによりのことだ」

「父上は気に病み過ぎです、我がB国にも優秀な軍人や役人が山ほど居ります。みな、父上を輔弼し、我が国の進路過たぬように努力しております」

「え、あ、そうであったな……しかし、サマル、そなたも皇太子なのだから、少しは城に居て大臣たちの話に加わらぬか」

「我が国は、三権も軍事も国王が最終最高の権能を持ちます。むろん、大臣たちの輔弼を受けてのことでありますが、国事の最高意思決定を国王隣席の御前会議で行うのは、その基本を外さぬためであります。その席に皇太子たる自分までが同席するのは大臣たちへの圧が強すぎましょう。闊達に意見を交わし、過たぬ決定をするには要らぬ圧力になりかねないことは控えるべきかと。いま、国民と世界の目は難民への対応に向いております。これを抜かりなく処理するのが、陸軍少佐でもある、このサマルの役目かと存じます」

「む、そうではあるが……このままでは、A国と肩を並べてアデリヤの国に攻め入ることになりかねないぞ」

「陛下は国家の良心であります、常に臣民と地域の安定発展に向けた決断をされるものと信じております」

「弁えておるのう」

「はい、国家の意思決定にあっては皇太子と言えど、一臣民にすぎません」

「やれやれ、百年前の革命のおりにサマル一世が残した言葉であったな……そう言えば、アデリヤ、その衣装は映画の撮影のためか?」

「これは……」

「そうなのですよ、父上。B国は、いよいよ『バトル オブ ハイランド』の製作に入るのです。世の中が平和な証拠です」

 キャンプから直接王城までやってきたので、わたしもアデリヤ姫も変装のままだ。

「『バトル オブ ハイランド』は三国がまだ一つであった頃の物語、あの時代もいろいろ争いはありましたが一つにまとまりました。この難局もA国とB国、それに高原の国も加わり、多少の困難があってもまとまるに違いありません」

「そうか……そうであれば良いがのう……で、アデリヤ、それは何の役の衣装なのだ?」

「はい、難民の衣装です。ひょっとしたら、映画だけではなく、アデリヤの普段着になるかもしれませんが」

 

 コンコン

 

 接見の間のドアがノックされ、侍従が御前会議の時間が迫っていることを告げに来た。

「すまん、日本のお方には挨拶もできなかったな。落ち着いたら、またゆっくりと話しができたらと思う」

「恐れ入ります、陛下」

「それではな……」

 侍従に先導され、国王は会議の間に向かわれた。

「では、僕はキャンプに戻るよ、君たちはどうする?」

「今夜はお城に居る。もう少し伯父上とお話しできたらと思うし」

「そうか、では近衛には話を通しておく。万一のことがあっても、二人を敵認定しないように。明日の朝には迎えを寄こす、最終的な身の振り方はキャンプで決めるといいだっちゃ」

 バシっと敬礼を決めると軽い足取りで接見の間を出て行った。

 

 侍女に案内されて客間に通される途中、中庭の木の間隠れに軍服姿が見えた。

 

 慌てて身を隠していなければ、ここいら旧ソ連の国々は似たような軍服、草原の国の将校とは気が付かなかっただろう。

 事態は、姫やわたしの想像を超えて進み始めているようだ。

 

 ガタガタ ガタガタ

 

 通された客間、窓の建付けが悪いと思ったら、窓枠にえいちゃんが挟まってもがいていた(^_^;)。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
  • えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
  • 豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟
  • ミッヒ(ミヒャエル)   ドイツのランツクネヒト(傭兵)
  • アデリヤ         高原の国第一王女
  • サマル          B国皇太子 アデリヤの従兄

 

 

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RE・トモコパラドクス・64『お隣の中野さん・2』

2023-10-31 05:37:03 | 小説7

RE・友子パラドクス

64『お隣の中野さん・2』 

 

 

「中野のオジサン、自己嫌悪なんて簡単なところに逃げ込まないでねぇ、通報したりしないから」

 正直、中野は自己嫌悪というような麗しげなものではなく、ただパニックに落ち込んでいるだけだった。しかし、七十歳にもなろうかという元高校教師に自己分析をさせ、正しい十年余りの余生(日本人の平均寿命から割り出した)を、心静かに送ってもらうには、自己嫌悪のうちに閉じこもっているだけでは、なんの進歩ももたらさない。

 なんと、友子は七十歳の元教師をソクラテスのように論破し、中野の精神を救済させようとしているのだ!

「中野のオジサンは、これまでずっと独身でぇ、教師と党員であることを生き甲斐に生きてきたのよね」

「その命題の置き方は間違えている。わたしがずっと独身であったことと、教師、党員であったことを並列にしては誤謬に満ちた結論しか導き出せない」

「もう、ムツカシイこというんだからぁ。ガチガチの教師で、コチコチの党員だったから、女性に巡り会う機会が無かったのよ。あ、話は最後まで聞いてね。オジサンは、そうでありながら、求めている女性像は、まるで違った……ここに不幸があった」

「……どういうことかね?」

「オジサンは、自分と同じ教師だったり党員だったりする女性には魅力感じなかったのよ」

「それは意味が違う。彼女たちは、同志であり、そういう対象なんかではないのだ!」

「じゃ、簡単な実験」

 友子はタブレットを出した。

「今から、ここに八人づつ女性の写真が出てきます。時間は一秒間。ただ見てくれるだけでいいから」

「見るだけで、いいのか?」

「うん、いくよ」

 友子は、八人づつ、延べ1600人の若い女性の写真を見せる。それは、過去に中野が出会った、同僚、後輩、そして生徒。それに、通勤途中で電車の中で、チラ見したのから無意識な憧れを持った女性などから選ばれた人たちであった。友子は、一秒間の間に中野がどの女性を見たか、瞳孔の開き具合から血圧、心拍数まで計って結論を出す。

「じゃ、今から、一つのグループを一人0・2秒ずつ見てもらいます……」

 中野の瞳孔は小さくなり、心拍数、血圧も低くなっていった。簡単にいうと興味が無いのだ。

「じゃ、次のグループ行きますねぇ……」

 中野の瞳孔は大きくなり、心拍数、血圧も高くなった。要するに、好みの女性達であったのだ。

「なんだか、懐かしいような顔もあったような気がするが」

「オジサンが、興味を持たなかったのは、同業の党員、またはそういう傾向を持った女性。興味を持ったのは、そういう思想的な傾向とは真逆な女性達。で、魅力を感じた女性の平均値を出すと……これ!」

 それは、オカッパに近いボサボサ髪、今で言うとボブに分類される女学生の姿であった。試しにほんの0・1秒水着姿にしたが、中野には変化が無かった。

「オジサン、やっぱりダテに七十年生きてないね。反応がとても複雑だわぁ(^_^;)。憧れと、反感が両方あるよ」

「そ、そうかな、自分じゃ意識してないけど」

 友子は、その平均値を数値化して、自分の電脳のデータと照合してみた。

―― え? ――

 なんと、一番の近似値は友子自身だった。

 でも、不思議だった。普段、隣から感じる中野の視線は胸とお尻で、単純なスケベエジジイだと思っていたが、さっきの水着姿には反応していない。本当の関心は、顔となんとなくの雰囲気だ。

『また資本論なんか読んで。こんなもんで世界なんか理解できないわよ。弟が時代遅れのマルクスボーイだなんて、姉ちゃんやだからね!』

 瞬間、中野のお姉さんの姿が言葉といっしょに浮かび上がった。

―― そうかぁ、女性の理想像はお姉さんなんだ……十七で亡くなってる。これが意識下にあったんだ。ちょっと、あたしにも似てるかなあ ――

 甘いと思われるかもしれないが、友子は、その日のことは何も誰にも言わなかった。それどころかSNSから、中野と共通の友人が一人いる59歳の女性にフレンド依頼を中野宛てに出させた。自然で無理のないタイプの女性だった。

 心拍数などを計っていて友子には分かってしまった。中野の寿命は、あと二三年。友子でも手の施しようがない心臓と、血管の障害がある。若い頃の教師時代の無節操が祟っている。

 中野は彼なりに、いい教師を勤め上げた気で居る。
 
 資本論をバイブルに、タイプの女性と晩年に仲良くなって生涯を閉じてもいいんじゃないかと思う友子であった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
  • 滝川 修         城南大の学生を名乗る退役義体兵士

 

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鳴かぬなら 信長転生記 149『信長版西遊記・敦煌・4・寝仏とは涅槃像のことだ』

2023-10-30 15:06:03 | ノベル2

ら 信長転生記

149『信長版西遊記・敦煌・4・寝仏とは涅槃像のことだ信長 

 

 

 ひょっとしたら敦煌は無事に抜けられるかもしれない。

 

 そう思ったぞ。

 

 96窟の大仏で莫高窟も半ばを過ぎた。

 どこからかかって来てもやっつけてやるぞという気概で臨んだのだが、思わず見入ってしまうほど石窟の仏画や仏像は素晴らしい。市も猪八戒の仮装を解いて遊びに出てくるぐらいだ。

 よし、あと一つ二つ見たら宿に行って出発の準備をしよう。

 96窟を出て数歩歩いたところで決めた、148窟の寝仏をトドメにしよう。

 

 正確には涅槃像という、寝仏は俗称だ。

 

 涅槃というからには、臨終の釈迦の姿をかたどったものだ。全長は15メートルほどだから学校のプールの横幅ほどだ。まん前に立つと、釈迦のへそが見えるばかり。左右に首を振って、ようやく釈迦の顎先と爪先が窺える。

 周囲には、釈迦の臨終に嘆き悲しむ仏弟子や衆生、動物たちの姿も描かれている。

 しかし、釈迦の表情も姿も平安の一言だ――やるべきことはやった、伝うべきものは伝えた、お浄土で待っているよ――そんな顔をして微笑んでおる。

 

 涅槃図そのものは、ガキの頃、平手の爺に見せられて知っている。

 

「若、ごらんなされ。釈迦は悟りを開き、全てを成し遂げたがゆえに、このように平安な笑みをたたえておられるのでござりますぞ。仏弟子や衆生どもは、そんな釈迦臨終の姿に接し、もう生きた釈迦の言葉も聞けぬ、慈愛に満ちたお顔も見れぬと嘆き、別れを悲しんでおるのでございますぞ。棟梁たる者、国主たる者はこれに倣わなくてはなりませんぞぉ」

 したり顔で、ガキの俺に話しおった。

「爺、これは不穏な絵じゃ」

「ふ、不穏でござりますか?」

「不憫と申してもいい」

「ふ、不憫!?」

「衆生どもの悲しみを見よ。顔をゆがめて嘆き悲しみ、諸侯どもの中には、刃を持って自らの体を切り、鼻や耳を削いでいる者もおる」

「それほどに、悲しんでおるということでございりましょう」

「ちがうぞ」

「どのように?」

「これは、そこまでして悲しみを装わなければ、身が危ないからじゃ――自分は、これほどまでに嘆いている、悲しんでいる――そう装わなければ信仰心を疑われ、日々の生活、商売、領国支配に支障が出るからじゃ」

「若……」

「これまで、何度か織田の一族や力のある者、えらい者の葬儀に出たが、みな似たり寄ったり。髪を下ろしたり髻を切ったり、同じことではないか」

 だからな、爺、親父が死んだとき、葬儀の席に遅刻して焼香の香を鷲づかみにして投げつけたんだ。

 こんな空涙であの世に送り出される親父がかわいそうでならなかった。

「しかし、釈迦は、こんなにも安らかな笑顔で臨終を迎えておられるではありませぬか」

「人間、死ねば力が抜けて呆けた顔になる。爺も、幾たびも戦に出て知っておるであろう」

「それは、若の思い違いにございましょう。先般の美濃の戦、お父君が討ち死にした者たちを見舞われた時にご一緒なされて、ご覧になられたではありませんか。みな、お屋形様の御ために戦えたことを嬉しく思い、死してなお微笑んでおったではありませぬか」

「爺……知っているぞ。死んだ者の枕を高くしてやれば喉が頬の肉を押し上げて微笑んだように見える」

「それは……」

「まだ吉法師と呼ばれたころに、一緒に遊んでいたガキの親父が急死してなぁ、俺は、そのガキよりも早く、そいつの家に駆けつけた。その親父は、まだ死んだばかりでな、目を半開きにして呆けた顔をしておった。くしゃみが出る寸前の顔みたいだと思った。一家の者たちは急いで死人の身なりを整え、枕を高くして寝かせたら、まるで微笑んだようになったぞ。連れのガキには『おまえがしっかりしているのを知って、親父殿は安心して逝かれたぞ』と嘘を申しておった」

「……そういうのを身も蓋もないと申すのですぞ」

「俺は、涅槃図よりも、坊主がお八つに出してくれた干し柿の方がありがたいぞ。まんべんなく白い糖分が噴き出て甘そうではないか。芸術鑑賞はここまでにして、早く食わせろ……ジュルリ」

「若ッ!」

 

 涅槃像とあるが、この釈迦はまだ死んではおるまい。弟子や衆生どものオーバーアクションに、最後の力を振り絞って微笑んで見せた……そういうものであろう。しかし、涅槃を主題にして作られたアートとしては良くできているぞ。釈迦の安らかさと、周囲の悲しみのコントラストが見事に際立ち、どちらに焦点を当てても人を感動させるようにできている。アイロニーでありながら、精緻でバランスが取れて美しい。真の仏教とは矛盾したままに人間を肯定し救済するのではないかと錯覚させる。いや、錯覚したままでも良いのではないかと安堵させる統一感さえ感じてしまう。これを織部に見せてやったら、あのへうげ者は卒倒するかもしれんなあ。これなら、俺は干し柿どころではなくなるかもしれんぞ。

 

 ゆっくり息を吐くと、静かに瞑目合掌した。

 

 ……そして、目を開けると。

 なんと涅槃像も目を開け、微笑んだまま俺を見つめておったぞ!

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主

 

 

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RE・トモコパラドクス・63『お隣の中野さん・1』

2023-10-30 07:04:58 | 小説7

RE・友子パラドクス

63『お隣の中野さん・1』 

 


 後ろから音もなくやってくるワゴン車には、とっくに気づいていた。

 

 車は友子を追い越し、電柱一つ分前のところで止まった。ナンバープレートは偽装してある。

 友子は、女子高生らしく、少し怯えた風で車の横をすり抜けようとした。チラ見した車の中に人影はない。

「静かにしろ、黙って車に乗るんだ……!」

 ひしゃげた声がした。男は友子の背中に鋭いものを当て、左手で抱きかかえるようにして口を塞いで車内に押し込んだ。男は、友子の胸を握るように押さえ、押し込むときにお尻を同じように掴むようにした。正直キモかった。意外な器用さで目隠しをされ腕も縛られたが、友子は我慢した。

「さ、騒ぐと、こ、殺すからな!」

「は、はひ……」

 車は発進し、男は震える手でボタンを押した。ナンバープレートが切り替わった。なかなかのスグレモノである。むかしマジックに凝っていたときの技術が生きたことに、男は、これから先の計画も成功するのではないかと、期待に胸を膨らませた。

 男は、ルート上の防犯カメラをチェックし、なるべく写りこまない街はずれの道を選んで、目的地に着いた。

 住宅地を少し離れた廃工場のシャッターが男のリモコンで開いた。瞬間、男は周囲を見渡す、手順が僅かに狂ったのである。本来なら、暗視スコープで周囲の安全を確認してから、シャッターを開けるはずだった。やはり、根は小心者、僅かなミスに気が動転するが、周囲の安全が確認できると、深呼吸して、ゆっくりと車をバックで工場に入れ、シャッターを閉めた。

 ウグ(;>∀<)

 友子は、全身でショックを感じたふりをした。シートのリクライニングがいっぱいまでまで倒されたのだ。胸には制服越しに鋭利なものが当てられ、男が全身で覆い被さってくるのを感じた。男の荒い息が聞こえる。友子が後ずさりすると、後部の座席は倒され、畳二畳近くの平たい空間になっていることが分かった。

「いい子だ、大人しくしていたら命までは取らないからな……!」

 胸に当てられた鋭利なものが、制服にくいこんでくる……よし、予定通りだ。

 男の頭には、もう次の自分の成功した様子が、シミュレーション通りに頭を駆けめぐった。

 セーラー服は、女の服で一番脱がせやすい。ファスナー一つと、上下のホックを外せば、バナナの皮を剥くよりもたやすい。そして、その次は……。

 

「そこまでよ、中野のおじさん」

 

 それまで恐怖におののき、身を震わせていた女子高生が、ガラリと落ち着き払った声で、まるで、試験時間の終了を告げる教師のように落ち着いた声で、なんと正体まであばいて言ったのである。

「ウ、ウワー!」

 パニックに落ち込んだ中野は、大声をあげ、車から這い出ようとした。

――もう、これじゃ、逆じゃんかよ!――

 友子は、中野の足を掴まえると、後部の二畳足らずのスペースに、引きずりもどした。

「さあ、そろそろヘリウムガスの効き目もなくなったでしょう。あれで声変えられると、笑い堪えるの大変なのよ」

 いよいよ、ジイサンといってもいい隣人・中野のオッサンへの友子の説教が始まった……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
  • 滝川 修         城南大の学生を名乗る退役義体兵士

 

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やくもあやかし物語・2・013『魔法の杖が配られて防御魔法を習う』

2023-10-29 10:38:37 | カントリーロード

くもやかし物語・2

013『魔法の杖が配られて防御魔法を習う』 

 

 

 いつも閻魔帳しか持って来ないソフィー先生がカステラの三本詰めくらいの木箱を持ってやってきた。

 

「他の先生たちとも話し合ったんだが、諸君にも魔法の杖を持ってもらうことにした」

 二種類の「え?」が湧き上がる。

 一つは、思っても見なかった「え?」、もう一つは嬉しい「え?」だよ。

 ここ(ヤマセンブルグ王立民俗学学校)が魔法学校だったことは入学式でも説明されて、みんな知っている。

 いずれは、魔法の「魔」の字くらいはやるもんだとも思っている。

 現に、教壇に立っているソフィー先生は先祖代々王室に仕える魔法使いの家系だし。

「ついては、各自、魔法の杖をもってもらう。すでに、自分の杖を持っている者は見せてくれ、呪力・魔力を計測して適当であれば使用を認める。持っていない者は学校の杖を貸与する。持っている者は見せに来い。持っている者は手を挙げろ」

 他人の様子を伺いながら、1/3ほどの子たちが手を挙げる。

「ヤクモ、おまえも持っているんだろう」

「え、あ……」

 あれって魔法の杖なんだろうか?

「え、じゃあ、とりに戻っていいですか?」

 日本に居た時と同じく、あれは机の一番下の引き出しにしまい込んである。

「念じて見ろ、魔法の杖なら、五秒もかからずに手の中に現れる」

「え、そうなんですか!?」

 それまで湯せんしなければ食べられないと思っていたレトルトカレーがレンチンでもいけると分かったときみたいに驚いた。

「やってみろ」

「はい」

 …………ボン!

 ガスが突然点いたみたいな音がして、握った手の中に鬼の手が現れた。

 

 おお( ゚Д゚)!

 

 教室のみんなが驚いた。持ち主のわたしはもっと驚いた。

 他の魔法の杖は菜箸くらいの大きさなのに、鬼の手は孫の手ほどの大きさがあるし、先っぽはまさに手の形してるし。

「見せろ」

 ちょっと厳しい声で先生が言うので、教壇までの5メートルほどを走ってしまった。

「…………これは……一級呪物だな」

 一級呪物?

「並みの杖が自転車だとしたら、これはレオパルドⅡかM1エイブラムスほどの力があるぞ」

 ええ!?

 わたしも、みんなも驚いた。

 戦車なんかにはウトイんだけど、ウクライナ戦争のおかげで憶えてしまった。両方とも世界最高の戦車だよ!

「しゅっげ~(´ºº♡)

 ハイジなんか、なにを間違えたかよだれを垂らしてるしぃ。

「ヤクモ、おまえ、これを三輪車程度にしか使ってないな」

 三輪車ぁ(^_^;)

 アハハハハ(>▽<*)

 わたしは驚いて、教室のみんなは笑った。

「本来なら学校で預からねばならないほどのものだが、よく馴れている。注意して使え」

「は、はひ」

 それから、先生は五人の杖を鑑定して、ルームメイトのネルに目を向けた。

「コーネリア、おまえも魔法を使うんだろ、見せろ」

「あ、あたしは魔法の杖は使いません。インスピレーションですから」

「ほう……では、魔法を使う時は無詠唱なのか?」

「は、はい」

「……そういえば、コーネリアとヤクモは同室だったなあ」

「「はい」」

 (* ´艸`)クスクス

 なぜか、みんながクスクス笑う。

 残りのみんなに杖を配り終えて、先生は居住まいを正した。

 

「実は、学校の周囲で不穏な動きがある」

 

 不穏な動き……

 

「森が騒めき、湖はさざ波だっている。まだまだ精霊のレベルだが用心にこしたことはない。王宮と学校には結界が張られたが、お前たちも用心してもらいたい」

 なるほど、そのために魔法の杖なんだ。

「では、初歩的な防御魔法を教える。見本を見せるから、あとに続け」

 そう言うと、先生は、年季の入った杖を出すと頭上に構えて詠唱したよ。

「ディフェンシブ!」

 先生の頭上にアニメに出てくるような亀甲模様が数十個連結したシールドが現れた。

「やってみろ」

 ディフェンシブ!

 無詠唱のわたしとネルは即座に、みんなは一二秒遅れてシールドが現れる。

「そのままで居ろ」

 先生は机間巡視しながら、みんなのシールドをトンカチで叩いて周る。

 トントン  タンタン  ボコボコ  ベシャベシャ  カンカン  コンコン

 いろんな音がする。

 カチンカチン

 ネルのは鋼鉄を叩いたような音がした。

 キィーーーーーン

 わたしのは、もっと高い音がした。

 先生は、手がしびれて手をフルフルと振ったよ(^_^;)。

「頭上に作った時は前も左右もがら空きだが、慣れれば、同時に前方にもシールドが張れる。もっと慣れれば全身を覆うシールドも可能だ。しかし、結界もシールドも過信は禁物、危ないと思ったら、一目散に逃げろ」

 

 うんうん

 

 ネルとわたしは実感を込めて頷いたよ(^_^;)。

 

 

☆彡主な登場人物 

  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学)

 

 

 

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RE・トモコパラドクス・62『友子の倍返し!・2』

2023-10-29 06:45:40 | 小説7

RE・友子パラドクス

62『友子の倍返し!・2』 

 

 

 カチャカチャカチャカチャ……

 

 パソコンのキーを数百回押すとC国S市のパソコンのカメラに繋がった。どこやらのオフィス。複数のデスクの上にはパソコンやらモニターやらが並び、大きなガラス窓の向こうにはS市のシンボルの高層ビル群が立ち並んでいる。

 カチャカチャカチャ……

 さらに、数十回押すと、オフィス全てのパソコンと監視カメラと繋がって、友子のパソコンのモニターにはオフィス内の八つの映像が映し出された。

 そのうちの四つには男女が抱き合っている映像が四つのアングルで映し出され、一つはローテーブルに置かれたパソコンのもので、ちょっと刺激的。

 ガチャ!

 音がしたかと思うと、その画面は天井と壁の一部を映した。

 どうやら女の足がパソコンを蹴ってしまったようだ。

 カチャカチャ

 数回キーを押すと監視カメラのコントロールができるようになり、コントローラーのジョイスティックを動かして二人の姿が画面の中央に据えられた。

 S市に戻った彼女は、日本での仕事がつつがなく終わったのをカレと確認して、オフィスでイチャイチャしていたのである。

「ウ、ウググググ……( ノД`)」

 太田は、ただ泣きの涙であった……。

「泣いておしまいなの?」

 友子は、太田の不甲斐なさに、ただただ呆れるばかりである。

「こんなのもあるのよ」

 監視カメラのアーカイブの映像も、無修正で見せてやった。二人は以前から深い仲であったようだ。太田は、ただ悲しそうに悔しそうに、涙と鼻血を流すばかりであった。

「この子はS市の党幹部の娘でね、オヤジが作った会社のCEOに収まろうって思って、今度のことを計画したのよ。彼女がフィクサーであり、実行犯のボスよ。で、相手の男はね……」

 映像から、男の顔のモザイクを外した。

「あ、こいつは……!?」

 今度は、一郎が熱くなった。男は、新製品の情報を盗み、会社から10億の金をC国の子会社に融資させ、焦げ付かせた張本人である。

「分かったかなあ……こういう仕掛けなのよ、情けないなあ、落ち込むしか手がないのぉ? いい歳したオッサンがさ!」

「だって、姉ちゃん……」

「姉ちゃん?」

 太田がビックリした。

「チ……太田さん、悪いけど、しばらく眠ってもらうわね」

 一瞬で太田はソファーにひっくり返って寝息を立てだした。

「起きたら記憶はないんだろうね……」

「当たり前でしょ。一郎の会社のためなんだから、今回は特別。ほっといたら、一郎は首だろうし、会社だって損失が大きすぎて、人員整理しなくちゃならなくる」

 友子は、口にケーブルをくわえると、パソコンに繋いだ。

「なに、やってんの?」

「盗まれたUSBを繋いだら、内容が書き換わるようにしてんの。五十年前のC国製のルージュになるわ」

 カチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャ…………カチャ!

 目にもとまらぬ早さで数万回キーを叩き、最後に留めのエンターキーを押した。

「これでよし!」

「十億の融資は、姉ちゃん!?」

「明日、証券市場が開いてからね。十億は、証券のカタチになってるのよ。とりあえずなんとかなったから、太田さんお願いね。じゃ、あたしクラブの稽古だから……」

 制服の上着を掴むと友子は家を出た。隣家からの視線を感じるが、これはパス。

 

「ムハハ、そりゃ、朝から面白そうだったじゃん(* ´艸`)」

 紀香が、面白そうに笑う。

「でも、流行りの倍返しにしたいわね」

「それなら、こんなアイデアがあるよ」

 妙子が、一生懸命に稽古しているのに見事に付き合いながら、さらに情報交換をやった。

「……て、わけよ」

「ナルホドね!」

 さすがに、稽古が止まってしまった?

「なにが、ナルホド?」

「ああ、妙子の演技よ。イイ線いってたよぉ!」

「え、あ、そう(^_^;)?」

 嬉しそうにはにかむ妙子。実際、妙子の芝居は良くなっていたので、あながちウソでもない。

 しかし、敵もなかなかのもので、昨日の月曜で取引を操作して、証券価格を一気に20%も引き上げた。あらかじめ紀香に言われて織り込み済みの事態だったので、昨日は静観。

 そして、膨らみきった証券に、不良債権を山ほど付けて証券市場に流してやった。敵が持ち出した証券は、あっと言う間に、二十億の不良債権を含んでしまい。五分で一億ずつ負債がふくらんでいった。気づいたC国の会社は、すぐに手を打とうとしたが、手続き上子会社化してあり、破綻したことにしてあるので、親会社が処理に乗り出せたころには、親会社の総資産額を超えてしまい、昼には親会社自身が破綻した。

 

「姉ちゃん、会社の証券が一日で倍の含み益になったよ!」

 

 家に帰ると、一郎が喜びの余り友子にハグしてきた。

 羨ましそうな隣家の視線を感じたが、まあ……いいかと放っておく。

「で、それをさっさと売って十億余計に取り戻したんでしょ。感謝しなさいよ、お姉ちゃんに」

 喜ぶ弟を、半分情けなく思いながらも、笑顔だけは向けてやって自分の部屋でスマホを開く。

 

 ムグ……!

 

 歯ぎしりした。

 今日も天気予報を外してしまい、倍返しの200円を取られた友子であった……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
  • 滝川 修         城南大の学生を名乗る退役義体兵士

 

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・059『高校生集会に行った』

2023-10-28 16:32:29 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

059『高校生集会に行った』   

 

 

 10月も末の日曜日、地元の奥宮駅から七つ向こうの谷口(やとぐち)駅に来ている。

 

 なんでかっていうと、ほら、高校生集会。

 MITAKAで盛り上がって――今度は高校生集会に行こう!――って話がまとまったでしょ。

 

 会場は県立大浜高校。

 大浜って言うのは、バイトでいってる結婚式場がある丘。そこを下った団地の先にある大きな街。

 位置関係でいうと、平仮名の『し』、『し』の頭のところに我が家の最寄りの奥宮駅。

 頭のところから二駅下りたところが学校がある宮之森駅。

 宮之森駅を出ると電車は大きな弧を描いて東に向かって『し』の底のあたりでスコーンと開けて海が見える。

 その大海原を右手に見つつ、三つ目の大きな駅が大浜駅。

 

 駅に着くと、いろんな制服の高校生が大浜高校を目指している。

 中三の時の模試を受けたのに似ている。

 

 大浜高校は県内有数の進学校で、なんか校門潜るだけで位負けしそう。

「昔のナンバースクールですからねえ……」

「ナンバースクール?」

「あ、昔は、県立一中とか第三高女とか番号ついてたんですよ。ちなみに大浜は県立一中ですからねグレードが違います」

 ロコは平気なようだ。

 他の子たちはどうしてるのかなあと思ったら、メガホン持って案内係やってる真知子が目についた。

「案内板で分科会の教室を確認してから入ってくださーい。校舎内は土足厳禁です、入り口で持参した上履きに履き替えてくださーい」

 慣れた口調で案内しながら矢印のプラカードを振っている。矢印の先には合格発表の時みたいな大きな張り紙の案内図がマジックで書かれている。

「サブカルチャーはあっちですね」

 ロコは、自分のは後回しにしてわたしの会場を探してくれる。

「じゃ、終わったら、またここで」

 

 政治活動とか安保問題とかは苦手なんで、サブカルチャーって令和のわたしでも付いていけそうな分科会を選んだ。

 他の分科会は普通の教室を使ってるんだけど、サブカルチャーのは視聴覚教室。

 視聴覚教室はおっきくて、マイクとかの放送設備もあるので、きっと他よりも参加者が多いのだろうと思った。

 

 てっきり、マンガ、アニメ、ライトノベル的なのが話題になるかと思ってた。

 

『新宿フォークゲリラ闘争の総括と展望』

 

 え、なに(;'∀')?

 

 上下可動式の黒板の隠れていた裏側のが下ろされると、物騒なタイトルが書かれている。

 いっしゅん頭に浮かんだのは、サバゲーみたいな戦闘服にヘルメット姿のゲリラたちが手に手にフォークを持って、こっちに襲い掛かって来る姿!

 え、サブカルの分科会だよね?

 プチパニックになっていると、ショートカットの大浜女子が制服の袖をまくって現れた。

「ここにいるみんなも承知している通り『新宿駅西口闘争』は当局の不当な弾圧により敗北し……」

『敗北って言うな!』『ナンセンス!』

「失礼、頓挫するに至った。しかし、我々の不屈の精神は、これを頓挫のままに置いておくことは思考を停止することだと思う。昨年の状況を振り返り総括して、新たなる地平を見出し、60年代を通して醸成されてきた我々の文化を失うことになると思う。ここには、この闘争を真に理解するに至っていないノンポリの諸君も多いとと思う。まずは映像資料によって事実を確認するところから始めたいと思う。上映時間は16分。実行委員の諸君は窓を閉め暗幕をひいてくれ」

 シャーー シャーー シャーー

 暗幕がひかれると、黒板の前にスクリーンが下ろされ、同時に照明が落ちて、スクリーンに映像が映された。

 

 友よ~ 夜明け前の闇~の中で~ 友よ~ 戦いのぉ~ 炎を燃やせ~♪

 

 なんか物騒な歌をアコステ持ったニイチャンたちがリードし、地下通路に集まった数百人、ひょっとしたらそれ以上の若者たちがスクラム組んで歌っている。

 場所は、なんか地下通路? ぶっとい柱が何本もあって、天井が低いんだけど、それなりに広さがある。

 カメラがパンすると、面積的には学校の体育館よりも広い。

 みんなふつうの服装なんだけども、ゼッケンとか付けたら、どこかの国の労働争議みたい。

 え、なんか行進してる。ヘルメット被ってる奴もいるし、なんか体育祭の日に10円男らがやってたデモの豪華版?

 歌も「インタナショナ~ル 我らが~もの~」なんて物騒になってきたしぃ。

 画面が切り替わると、機動隊が周囲を取り囲んで、隊長っぽい隊員がマイクを握った。

「君たちの行為は道路交通法に違反するだけではなく、東京都迷惑防止条例にも違反……すみやかに解散しなければ、我々は実力を持って、この新宿駅西口広場より君たちを排除する」

「ナーンセンス!」「帰れ、機動隊!」とかヤジが飛ぶ。

 上映はあっという間に終わって、明かりが点くと、会場は、ちょっと異様な雰囲気。

 なんていうんだろ、火が点きましたというか、体育祭で騎馬戦が始まる直前みたいな空気。

 それからは、使われてる言語が日本語であると言う以外には理解できない言葉が飛び交って、さらに高揚していく。

「では、これからジッセンに入るぞー!」

 大浜女子が拳を突き上げると、アンプに繋がったアコステを抱えたニイチャンが二人出てきて、大合唱になる。

 なんか、昔の若者の歌っぽいんだけど、一つも分からない。

 あ、知ってると思えたのは『今日の日はさようなら』一曲だけ。

 なんで知ってるんだろう?

 

 あ、そうか『エヴァンゲリオン』の挿入歌なんだ!

 

 でも、エヴァといえば『残酷な天使のテーゼ』でしょ!

 

 何曲も知らない曲が続いて思った。

 いろいろ言ってるけど、ようはみんなで歌いたかったんじゃなかったのかなあ?

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組)

  

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RE・トモコパラドクス・61『友子の倍返し!・1』

2023-10-28 07:24:48 | 小説7

RE・友子パラドクス

61『友子の倍返し!・1』 

 


 三十年前、友子の娘が極東戦争を起こすという説が有力になった未来から来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺された。しかしこれに反対する勢力により義体として一命を取り留める。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に復帰する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」 そう、友子は十六歳。女子高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された! 娘である栞との決着もすみ、久々に女子高生として、マッタリ過ごすはずであったが……夏休みも終り、いよいよ始業式……と思ったら、もう日曜日。


「倍返しだからね!」という怖ろしげな紀香の電話がかかってきた。

「ち、仕方ねえなあ!」と、相手を先輩とも思わぬタメ口で返事をした。

 もっとも紀香とは、第三者が居ない限り、友だち言葉で話すことにしていた。公式には、紀香は未来からやってきた義体で、『友子の娘が極東戦争を起こす』という未来の予測のために監視していることになっている。しかし、それは今世紀の地球温暖化と同じく利権化した仮説で、紀香とは、監視し監視されるフリをして仲良くしている。

 新学期といっても半日授業。
 
 退屈なので、『倍返しごっこ』を始めたのである。

 明日の天気を予測して、百円かけるのだ。

 両方が同じ予測で当たれば、何も無し。両方とも外れば互いに百円を払う(客観的には意味はないのだが、ゲームだから面白い)。で、片方が外れば倍の二百円を払うことになっている。
 ただし、予測について、電脳を使ってはいけないことにしている。ネットに出ている天気図だけをもとに、当てっこするのである。ズルができないように、予測するときには、互いにリンクして、電脳を使っていないことを確認する。

 で、二日目にして友子は予報を外してしまった。

 

「くそ、倍返ししてやりたいなあ!」

 

 父であり、弟である一郎がため息混じりに大きな独り言を言った。母であり義妹である春奈は、今日はクラス会に行って留守である。

 友子は、すぐに一郎の思いが飛び込んできて、そのアマチャンぶりに呆れた。

「そりゃ一郎、あんたが甘いのよ」

「なんだ、心読んだのか?」

「それだけハッキリ恨んじゃったら、読まなくってもわかってしまうわよ」

「だったら、どうして甘いなんて言うんだよ!」

「日本の感覚で、商談したり契約したりするからよ」

「でもなあ……」

 中身は、こうである。C国から受け入れた熱心な研修者に、新製品のルージュの製法を盗まれたのである。おまけに、彼の勤務態度の良さに気をよくして派遣してきた子会社に十億円の融資をしたのであるが、この子会社が、計画倒産をしてしまい、十億の融資は焦げ付いてしまった。

 おまけに、研究職の太田を引き抜かれてしまった。

 太田は、この春に一郎たちと一緒に新製品のルージュを開発した後輩であるが、同じく研修生として引き受けていた美人のハニートラップにひっかかって、今朝、一番の飛行機でC国に渡ってしまったのである。

 まさか太田に限ってはと、一郎らしく甘く見ていた。

「まあ、尖ってないで、コーヒーでも飲みなよ」

 

 隣家のカーテンが揺れた。

 泥棒事件で助けてもらって以来、中野は友子が気になって仕方がない。

 友子も隣人が覗いていることを承知で見せつけている。

――うらやましかったら、家庭をもちなさいよ――

 そう思っているが、半分は面白がっている友子だ。

 

 一郎はイライラとスマホを繰りながらシュガーポットの砂糖をコーヒーに入れた。

 

「ウッ、姉ちゃん、このコーヒーしょっぱいよ!」

「あたしは、ただ、塩のポットを置いただけよ。ちょっと見ればすぐに分かるのに。やっぱ一郎は抜けてんねえ」

「まさか、姉ちゃんがするとは思わないだろ!?」

「ハハ、怒るな怒るな。お姉さまがが倍返ししてあげるから」

「ほ、ほんと!?」

「お金の方は、証券会社が開いてからやるとして、とりあえず、太田くんを取り戻してくる」

 そう言うと、友子は二階への階段を上がって隣家の窓からは死角に入った……。

 

 太田は、C国の彼女のことで頭がいっぱいであった。

 

――本社が、子会社に不動産投資をさせて焦げ付かせてしまって。このままじゃ、お父さんは、責任をとらされて、会社を首になるわ――

 会社の給湯室で泣いていた彼女から三日がかりで聞き出したのが、このお盆明け。少し迷いはあったが、今朝、決行してしまいC国S市行きの飛行機の中で、一人高揚していた。

「太田様、後ろのP席窓ぎわのお客様が、ご用があるとおっしゃっておられますが」

 キャビンアテンダントのオネーサンが優しく後部座席を指し示した。首を回して、そっちを見ると見慣れた彼女の頭が見えた。

「ありがとう!」

 キャビンアテンダントのオネーサンが友子であることにも気づかずに、太田は後部座席に急いだ。

「もう、ほんとに日本の男ときたら!」

 そう呟くと、友子はスッと姿を消した。

「ありがとう、ボクと同じ飛行機に乗ってくれたんだね!」

 彼女は、ゆっくりと窓から、太田に顔を向けた。

「お久しぶり、太田さん」

「!……君は、鈴木先輩のお嬢さん!?」

 次の瞬間、目の前が真っ白になり、気が付いたら、同じ飛行機の同じシートに、友子といっしょに座っていた。

「友子ちゃんがどうして?」

「周りを見てごらんなさい」

「……あ!?」

 それは同型機ではあるが、日本航空のS市発羽田行きの飛行機であった。

「とりあえず、あたしの家に来てもらおうかしら」

 二時間後、太田は友子といっしょに家のリビングに居た……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
  • 滝川 修         城南大の学生を名乗る退役義体兵士
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銀河太平記・187『上様の目は微笑ってはいなかった』

2023-10-27 10:22:59 | 小説4

・187

『上様の目は微笑ってはいなかった』胡蝶 

 

 


 御池の中島に明々と輝く楕円のブロンズ。


 台座はマメ科植物の群れの下に隠れ、あたかも、この群れの気が凝って精霊に昇華したように見える。

 マースビーンズの商品化百周年を記念して火星農産が先週上様に寄贈したものだ。

 マースビーンズは二代将軍正仁様がお造りになった品種で、いまでは扶桑以外の火星でも主要穀物になっている。

 日本庭園のど真ん中に、豆とはいえブロンズ像が佇立しているのはどうかと思うのだが、上様は頓着されないし、意外に面白い。

 幾星霜か経ってみれば、鮮やかな緑青がふいて案外な侘び寂びの点景になるのかもしれない。

 

 ソヨリ

 

 マースビーンズの群れが戦いだ。

 歩を緩めると、池の半ば近くを占める水田の稲穂もマースビーンズに倣って戦いでいるのが分かる。

 明らかに風向きが変わった。

 納得すると、お召しを受けた東屋への歩みを速める。

 

「胡蝶も気が付いたようだね」

 上様は東屋の外に出て風に御髪をなぶらせておられる。

「大老殿の狙いは、これだったのですね」

「うん、これが停戦のきっかけになればいいんだけどね」

「まことに」

「あ、ここじゃ畏まらなくていいからね。畏まられると話しにくくなるからね……」

「は」

「……………」

 話があると仰せられながら、上様は後ろ手組んで、あいかわらず風を読んでおられる。

 

 感慨にふけっておられる、あるいは、念じておられるのだ、火星の平和を。

 だが、こういう時の上様は難題を申し付けられることが多い。

 

 穴山大老は、老中若年寄たちの反対を押し切って戦略ミサイルを打ち上げさせた。

 100基の戦略ミサイルは、200キロの高度に達すると、二発が空中爆発、残りは一定の方角には飛ばず、ウロウロとマス漢とは真逆の東に向きをとって飛び始めた。慌てたロケット軍は、すぐに自爆させようとしたが、自爆できたのは3基にすぎなかった。

 発射前から兆候を掴んでいたマス漢は、最高レベルの迎撃態勢をとって待ち構えていたが、ミサイルの迷走ぶりに安堵し、かつ嗤った。

「なんという恥さらし!」

 たちまち官民の怨嗟の声があがり、C国系の多い虎ノ門ヒルズでは爆竹を鳴らして喜ぶ者たちもいて、扶桑を応援する難民たちとの間で衝突騒ぎまで起こった。

「いやはや、まあ、こんなこともある」

 当の穴山大老は、近ごろ禿の進んだ頭をつるりと撫でるだけだった。

「やはり、大老はタヌキです」

 弾道ミサイルの射程は1300キロ、逆回りではマス漢には届かない。扶桑からは反対側の荒れ地に落下して虚しく爆発炎上する。100に近いミサイルの爆発は中緯度地方の大気の流れを真逆にした。赤間関に吹く風は、方向を真逆にしてマス漢の方角に流れ、腐乱した遺棄死体の悪気はマス漢を苦しめることになる。

 しかし

「ミサイルの炸薬や燃料が燃えても一時間ももたないのでは?」

「あれに炸薬は入っていないよ」

「え?」

「代わりにマス炭が入っている」

「マス炭が!?」

「うん、考えたものだよ穴山大老は」

 マス炭とは、マースビーンズの搾りかすを脱水して固めた固形燃料だ。パルス処理されて、穏やかに一か月は燃え続ける。

「これでマス漢も思いとどまってくれるといいんだけどね、かの国はそれほどヤワではないし、連合国(アメリカ系の火星国家)の帰趨もなかなか読めない」

「はい」

「そこで、胡蝶、君に頼みだ」

「はい!」

 いよいよ本題。

 

 上様は穏やかに笑みを浮かべておられるが……その目は少しも微笑ってはいなかった。

 

☆彡この章の主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン             太陽系一の賞金首
氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平             西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟

 

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟

 

 

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RE・トモコパラドクス・60『友子の夏休み グータラ編・3』

2023-10-27 06:43:10 | 小説7

RE・友子パラドクス

60『友子の夏休み グータラ編・3』 

 

 

 リビングのテレビは、共に5000メートルの噴煙を上げている桜島と西之島新島の映像を流している。桜島は鹿児島を始め近隣自治体の交通をマヒさせ、火山灰による被害が憂慮され、西之島新島は日本の国土と排他的経済水域が広がると喜ばれた。

 政府は、この二つの火山噴火とその影響のシミレーションCGをゲーム会社に作らせ、国民に警戒と希望の両方を喚起させている。要は両火山に対する予算措置や特例法の成立をやりやすくするための国家的宣伝だ。

 友子は、これだと思った!
 
 友子は、起こりもしない極東戦争のために開発された義体である。その開発には大手家電メーカーや自動車メーカーが義肢メーカーやバイオメーカーを新たに立ち上げたり買収したり、産業構造を変化させるほどのムーブメントを起こした。そのことが、利権化してしまい。友子は存在し続けなければならない。ストレスはハンパではない。従って、並のグータラでは、発散のしようがない。思い切ったガス抜きが必要だ。

 

「でぇ、なにしようってのよ?」

 

 二日続けて遊びに来た紀香が、気乗り薄げに聞く。

「極東戦争のシミュレーションやってみよう!」

「起こりもしないのに?」

「だから、面白いんじゃない。これくらいのことやらないと、あたしたち義体には息抜きにもならないわよ」

「でも、電脳のバーチャルでやっても……ん……ひょっとして、本当にやってみるつもり!?」

「ガハハハハハ」

 返事の代わりに、友子は身に合わない豪傑笑いで応えた。

――大変であります。尖閣諸島東方海域に、旧ソ連軍の大艦隊が出現いたしました。アドミラル・クズネツォフ級空母3隻を中核とした機動部隊で、総数60隻に及び……いま、関連のニュースが入ってきました。ロシア政府は、この旧ソ連軍の艦隊は、ロシアとはなんの関係もないと周辺諸国に通達いたしました。続いて……尖閣諸島の西南に旧日本海軍そっくりの大艦隊が出現しました。これが映像であります……海上自衛隊の発表によりますと、大和型戦艦2隻……どうやら、特徴から、前が大和、後方が武蔵のようであります。続いて、長門、陸奥……高速巡洋戦艦、榛名、金剛、比叡、霧島と続き、その周囲を巡洋艦、駆逐艦が続いております――

「なんで、空母出さないのさ」

「作戦よ、作戦」

――中国政府は、日本の陰謀であると非難し、周辺海域の中国の艦船を避難させました。日本政府も、この旧帝国海軍の艦隊は日本政府が関わったものではなく、全くの不審艦隊であると発表いたしました。双方の艦隊の距離は50キロに迫り……あ、今ソ連艦隊の空母群から次々と艦載機が発艦しております!――

「スホーイ33の対艦ミサイルで、ドッカン、ドッカンやっちゃうからね!」

 紀香の鼻息は荒い。友子はおもむろに高速戦艦4隻を艦隊の前方に展開した。まともに勝負しては、友子に勝ち目はない。なんと言っても亜音速で飛んでくるミサイルである。

「全機、ミサイル発射!」

 合計120発の対艦ミサイルである。現代のイージス艦でも、飽和攻撃で、全ミサイルの撃破は難しい。
 友子は、それまでに弾着観測用の零式観測機と零式三座水偵を12機発艦させていた。

「なに下駄履き飛ばしてんのよ、砲戦になる前に、そっちは全滅よ」

「どうかなぁ……」

 なんと、12機の下駄履きは、120発のミサイルを撃ち落としはじめた!

「そんなバカな(;゚Д゚)!」

「見かけで判断してはいけません」

「機銃の弾に自動追尾装置つけるなんて反則だ!」

「勝てば、なんでもありよ!」

 そうこうしているうちに、ソ連艦隊は日本艦隊の射程に入ってきた。

 傲然と火を吐く大和・武蔵の46サンチ砲。高速で接近した巡洋戦艦4隻も主砲を撃ち始めた。

 ソ連艦隊も対艦ミサイルで反撃するが、そのほとんどが高角砲に撃ち落とされる。

「アナログの高角砲が対艦ミサイル撃ち落とすなんて不合理だ!」

「でも、こっちの主砲はアナログのままよ」

 下駄履きが、本来の任務である弾着観測をし始めたので、日本艦隊の弾は確実に当たり出した。

 結果は、旧日本艦隊の一方的勝利、旧ソ連艦隊は、ほとんどが撃沈された。

「どうだ、庭でバーベキューでも……」

 一郎が、呼びかけると、二人はスホーイ33と零式水偵でドッグファイトの真っ最中であった。二機の背後には沈み行くソ連艦隊。

「お前ら、こんなの国際問題になるぞ……」

 一郎の声に一瞬気を取られた隙に、スホ-イの30ミリ弾が水偵に当たったが、複葉機であるために、主翼の間をすり抜けてしまった。

「今だ!」

 水偵の後部座席の7・7ミリ機銃がスホーイのコックピットをぶち抜いて勝負がついた。

「負けたあ!」

「勝ったあ!」

 次の瞬間、ソ連艦隊も日本艦隊も分子にまで分解され、その姿がきれいに消えた。

 友子たちが、バーベキューをしている間に、周辺諸国は、居なくなった相手に非難のしまくりであった。

 なんの痕跡も残さなかったので、アメリカと日本のゲーム会社が一時疑いの眼で見られたが、技術的に不可能であるといわれ、国際的なハッカー集団のせいにされて決着した。

 友子のウサバラシも、かなり人迷惑ではあった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
  • 滝川 修         城南大の学生を名乗る退役義体兵士
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RE・かの世界この世界:212『魔性の霧と桃太郎二号の災難』

2023-10-26 15:32:23 | 時かける少女

RE・

212『魔性の霧と桃太郎二号の災難』テル 

 

 

 ビョンビョン ピュンピュン ビョンビョン ピュンピュン

 

 与一殿の強弓(こわゆみ)とケイトの短弓が空気を震わせる。

 すでに県境を超えて島根に踏み入っている。島根の本姓出雲は、その名の通り叢雲沸き立つの謂いで、水蒸気が多い。

 しかし、いま、我々『黄泉の国を目指す勇者の会』の前に立ちふさがるモヤモヤはめでたき叢雲でも、ファンタジーのエフェクトでもない。

 地霊が凝ったか、間近に迫った黄泉の国から漏れ出たか、魔性の霧が立ち込めてゆく手を阻んでいる。

 やみくもに進んでは、右手の中海、あるいは左手の山中に誘い込まれ黄泉比良坂にたどり着けなくなる、それどころか、我々はバラバラにされ、各個に撃破されるだろう。

ヒルデ:「ノルドの地では霧に誘い込み、同士討ちさせる魔物もいたぞ」

タングニョ-スト:「カエサルの五万の軍が霧に迷い込んで全滅させられたこともあります」

 ヴァルキリアの教範にもあるのだろう、ヒルデとタングニョ-ストは慎重にあたりを警戒する。

桃太郎二号:「す、すこしは晴れてきやがったかぁ……」

 鳴弦の甲斐あって、我々の周囲だけは靄が晴れてきた。

 ピュンピュン

ケイト:「桃太郎二号、おまえ、おしっこに行きたいんじゃないのか?」

桃太郎二号:「ち、ちがわい(;'∀')!」

 ビョンビョン

ヨネコ:「あ、大きい方!?」

桃太郎二号:「……………(#-o-;#)」

与一:「待ってください、もう少しで、その薮のあたりまでは晴らせるでしょうから」

 ビョンビョン ピュンピュン

桃太郎二号:「少しって、どれくらい?」

与一:「五分ほどでしょうか、ケイトくん、がんばりましょう!」

ケイト:「おお!」

 ビョンビョンビョン ピュンピュンピュン

 二人は鳴弦の速度を速めるが、桃太郎二号は切羽詰まっているようで、お尻を押えてピョンピョンしだした。

 ビョンビョンビョン ピュンピュンピュン ピョンピョンピョン

桃太郎二号:「も、もれるっ(;゚Д゚)」

ヨネコ:「こ、ここで出さないでちょうだいね!」

桃太郎二号:「う……うん……」

イザナギ:「よし、我々も協力しよう!」

ヨネコ:「え、どうやって? 弓とかは、もうないよ!」

イザナギ:「気合いです! 刀でもいいです、刀が無ければ、そこらあたりの棒きれを振りましょう! それも無ければ、桃太郎二号くんの傍で、いっしょに跳ねてください。少しは気がまぎれる!」

みんな:「おお!」

 ビョンビョンビョン ピュンピュンピュン ピョンピョンピョン ビシバシ ブンブン ピョンピョン ビシバシ

雪舟ねずみ:「おお、さらに晴れてきたような!」

イザナギ:「みんな、がんばりましょう!」

 ビョンビョンビョン ピュンピュンピュン ピョンピョンピョン ビシバシ ブンブン ピョンピョン ビシバシ

ヨネコ:「もうちょっとかも!」

 ビョンビョンビョン ピュンピュンピュン ピョンピョンピョン ビシバシ ブンブン ピョンピョン ビシバシ

桃太郎二号:「あ……あ、もうだめだぁ!」

 ピューー

 桃太郎二号は、我慢の限界に達し、お尻を押えながら少し晴れ間の広がった薮の向こうに走っていった。

 

☆ ステータス

 HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・300 マップ:16 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト) 思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)
 日本神話の神と人物   イザナギ イザナミ 那須与一 桃太郎 因幡の白兎 雪舟ねずみ 櫛名田比売 ヨネコ

 

 

 

 

 

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RE・トモコパラドクス・59『友子の夏休み グータラ編・2』

2023-10-26 07:11:26 | 小説7

RE・友子パラドクス

59『友子の夏休み グータラ編・2』 


 

 宿題なんか、あっと言う間にやっつけられる友子だが、あえてグータラやってみることにした。

 

 さすがに英数理の三教科は、グータラといっても電脳が反応してしまい、並の高校生の百倍くらいの早さで終わってしまった。

 問題は読書感想文である。

 課題図書は、よくもまあ、これだけ傾向性の強い本を選んだなというショ-モナイ本のオンパレードであった。

 野間宏『真空地帯』 小林多喜二『蟹工船』 大岡昇平『レイテ戦記』 徳永直『太陽のない街』と、プロレタリア文学が続いた後、石坂洋次郎『青い山脈』 太宰治『斜陽』『人間失格』 なんとか今風なもので、井上ひさし『父と暮らせば』である。

 書こうと思えば、市民派をいまだに自認してはばからない国語の小林先生を感涙にムセバせるぐらいのチョウチン感想文などいくらでも書けるのだが、それでは面白くない。

 友子自身、小林という先生を好きになれなかった。沖縄戦の生き残りである理事長先生のことを「沖縄県人の犠牲の上で生き残った人も居るには居ますがね」と間接的に揶揄する。

 友子は知っていた。

 理事長先生は、自決を決めてはばからない村長を殴り倒して手榴弾を箱ごと取り上げ、白旗を用意させ、英語で「There are a lot of civilians, please help them!(民間人が大勢いる、彼らを助けてやってくれ!)」と叫び、自分たち兵隊はガマの裏口から陽動のために駆け出したのだ。

 八人で駆け出した分隊は岩陰まで駆け抜けたときには四人に減っていた。そして、最上級者の曹長は肩に貫通銃創を負っていた。伍長の理事長は、ここまでだと観念した。

 理事長は、取り巻く米兵たちに降伏を申し出た。

 曹長は拳銃を出した……仲間は伍長が撃たれると思った。曹長は自決しようとしたのである。戦死した小隊長から小隊を預かり、それも最後には、自分を含めて四人にまで減ってしまった。その責任をとろうとしたのである。負傷した曹長の拳銃は他の仲間が取り上げ、四人は無事に捕虜になった。

 それでも、理事長は、どこかで贖罪の意識があった。

 数十名の民間人は助けたが、他に大勢の罪もない県民が命を落とし、自分たちは助かった。

 もし、あの時、曹長も戦死して、自分が最上級者になっていたら……曹長と同じことをしていたのではないかと。だから、自分が九十の歳を越えて生きていることに申し訳なさがあり、死ぬまで乃木坂学院の理事長を務めようと決心している。

 だから、くちばしの黄色い小林のような先生が市民派を気取り、どのような本を課題図書にあげても一言も言わず、ただニコニコしている。それを思うと友子はムナクソが悪くなり、電脳内に資料を集積し、戦前の蟹工船に関わる資料を全て集めた。

 結果は予想していたが、蟹工船に関わる資料の多くが、その力仕事に見合うだけの賃金を払っていたことの証明になった。たしかに多喜二が書いたような事例も存在したが、多喜二が小説の中で書いたような反乱が起こった例はなかった。

 

 友子の『蟹工船』の読書感想はA4で百枚を超えた。

 

 改めて蟹工船を読み返すと、そこには搾取と被搾取の価値観しかなく、仕事への「やり甲斐」というような日本人の働くことの観念が抜け落ちていることに思い至った。友子は勢い余って小林先生の公的私的な記録まで調べてしまった。

「え、小林先生って、『資本論』でさえ剰余価値説(ほんの入り口)までしか読んでないんだ……」

 先生の愛読書、岩波文庫の『資本論』は、外側こそくたびれていたが、32ページ以降は真っ新だった。辛うじて「可」のついた卒論も第二部・資本の流通過程はおろか第一部・第六篇の労賃、第七編の資本の蓄積過程を読んだ形跡もない。

「なに真面目に宿題なんかやってんのよ。うわあ、信じらんない。百枚もあるじゃん!」

 気がつくと、紀香が人がましくお客さんとしてリビングのソファーに座っている。

「グータラで夏休みを過ごそうと思ったら、こうなっちゃったのよ」

 友子は紀香の電脳にリンクしないで、アナログ言語で喋ったので、一時間ほど二人は言い合いし、時に爆笑し、リビングで聞いている父一郎と、母である春奈は喜んだ。

「友子も、やれば年頃の女子高生らしくできるんじゃないか」

「そうね、ちょっと理屈っぽいけど……」

 

 う……(-_-;)

 

 もっとグータラに徹しなければと、心に誓う友子であった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
  • 滝川 修         城南大の学生を名乗る退役義体兵士
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くノ一その一今のうち・81『サマル王子だっちゃ』

2023-10-25 11:35:28 | 小説3

くノ一その一今のうち

81『サマル王子だっちゃ』そのいち 

 

 

 かつて潜入した草原の国は買ったばかりの緑の絨毯のようだった。

 

 それに比べ、救護トラックの荷台から見えるB国の草原は廃棄寸前の玄関マットのように禿げてみすぼらしい。

 大昔、国境など無かった時代はひとくくりの草原でそれほどの優劣は無かったんじゃないだろうか。

 よく見ると、擦り切れた草むらの間にひしゃげた軍用車両や赤さびた何かの残骸が見える。

「旧ソ連時代、この辺りは演習場や射爆場だった。戦術核の実験場にされたこともあって、まだ十分に回復してないのよ」

 いつの間にか目覚めたアデリヤ姫が説明してくれる。

「でも、ほら……」

 王女が指差した向こうに王都が見え、王都からこちらは青々と草が茂っている。

 トラックに乗っている避難民も、やっとオアシスを見つけた砂漠の迷子のように安堵の表情になっている。

「サマルが旗を振って作った草原牧場、日本人が見れば立派に見えるかもしれないけど、国土面積の2%にも満たない。普段はサマルの箱庭と呼ばれてるけど、まあ、今度の避難民を収容するには十分ね」

 さらに進むと、カーキ色の軍用テントの群れが見え始める。

 テント村はまだ設営中のものもあって、兵士たちが設営と難民受け入れに分かれて忙しく働き、一部のテントでは先客の難民たちが荷物を整理したりテントの中を整えたりしている。

 

「え……」

 

 中央のテントで地図を睨んでいた将校の一人が顔を上げた。

 なにかのコスプレかと思うほどに髭も軍服も似合っていない将校は少佐の階級章を付けていて、初めてジャンボリーに参加したボーイスカウトのように可愛く力んでいた。

「続けていてくれ」

 そう言うと、少佐殿はトラックから下りたばかりの我々のもとに寄ってきた。

「大変だったねみんな、テントは設営中だが、君たちが入る分はもうできているよ。准尉、みんなを案内してあげてくれ」

「イエッサー!」

 ベテラン准尉のおっさんが――あとはお任せを――という顔で敬礼し、部下の兵隊に指図する。

 ボーイスカウトは、部下たちにウンウン頷くと、わたしたちのところに寄ってきた。

「なんで、アデリヤがいるんだ?」

「どこか話の出来るところに案内してちょうだい、少佐どの」

 ボーイスカウトは髭を捻ると、偉そうに後ろ手組んで真新しいテントの一つに歩いて行った。

 

「お久しぶり。思ったとおり、段取りのいい皇太子殿下ね、髭も良く似合ってる」

 

 けして誉め言葉ではない挨拶をすると、傲然と睨み上げるアデリヤ姫。

「国民の保護は国家第一の責務だからね。こちらは、ただの侍女には見えないけど?」

「日本から来た映画の撮影隊のメンバーだ」

「ああ、やっぱり映画は作るんだ。高原の国は平和主義の原則を貫くんだねぇ、うんうん」

「主演女優鈴木友子の付き人で、風魔そのいちと申します」

「そのいち……微妙に長いねぇ、ソノッチって呼んでいい?」

「はい、みんなにもそう呼ばれています。殿下は日本人の愛称にも詳しくていらっしゃいますね」

「うん、日本のアニメやラノベは大好きだっちゃ。ぼくの日本語イケてるだっちゃ(^_^;)?」

「はい、とてもお上手です」

 ――だっちゃ――って、いつごろのアニメだっちゃ!?

「それで、どうすんのよB国は?」

「あ、だから難民の保護を……」

「そんなもん、サマルがやらなくったって、工兵隊の一個大隊もあてがってりゃできるでしょ。いま、大事なのは……」

「あ、ちょ、アデリヤ!」

 意外な力でサマルを外に引っ張り出すと、テント群の向こう、城壁の向こうのそのまた向こうに聳える王城を指さした。

「あそこでは、A国に倣って草原の国に味方するか、我らの高原の国に味方するか、伯父さんの国王や大臣たちが頭をひねってるんでしょ!」

「ああ、アデリヤとは従兄妹同士だし、今までのこともあるし、悪いようには決まらないよ。それに、草原と高原って、よく似てるし。ひらがなで書いたら『そ』と『こ』の違いだけだから。な、似てるってことは、きっとうまくいくってことで……」

「漢字で書いたら、草原の国は『草』よ、クサ! クサの味方する奴はウンコだからな!」

「ウ、ウンコ……!(꒪ꇴ꒪)

 

 過去になにか確執があったのかウンコの破壊力はすごく、完全にアデリヤ王女がマウントをとった!

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
  • えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
  • 豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟
  • ミッヒ(ミヒャエル)   ドイツのランツクネヒト(傭兵)
  • アデリヤ         高原の国第一王女

 

 

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RE・トモコパラドクス・58『友子の夏休み グータラ編・1』

2023-10-25 07:16:47 | 小説7

RE・友子パラドクス

58『友子の夏休み グータラ編・1』 

 

 

 夏休みも、とっくに後半。

 前半は犬のウンコを踏むという何事かを暗示するような不幸から始まった。軽井沢で少しは楽しめたが、義体の能力フル回転で電脳を休ませる間がないほどに事件が続いた。帰路についたとたん、別荘は爆発炎上、肖像画の秘密事件に巻き込まれ東京湾に沈められながらも、10万馬力の力で朱元基たち大陸系マフィアと渡り合うというSFアクション映画そのままのあわただしさであった。

 

 だから、残り二週間は、当たり前に女子高生をやってみようと思う友子であった。

 

 友子は緊急アラームだけを残して、あとの機能を停止させた。つまり、義体であることをしばらく忘れ、ほとんど人間として夏休みを過ごすことにした。

 で、今日は父であり弟でもある一郎が広告代理店からもらってきた優待券で、家族三人で評判のアニメを見に行くことにした。

「化粧品と飛行機の違いはあるけど、モノを作る情熱や、憧れという点ではいっしょだからな」

 と、一郎の言う通り、戦前に戦闘機開発に青春を捧げた若者たちのドラマであった。

「わたしは、死を覚悟の上のロマンスが楽しみ。ハンカチ三枚持って来ちゃったぁ、あ、もう並んでる!」

 と、義母である春奈も少女のようにウキウキと開場前の列に突進する。

 友子は、その気になれば映画館に行かなくても、映画の中身を知ることなど朝飯前だが、家族である一郎や春奈と同じ映画を映画館で観て共感したかった。

「お。鈴木さんじゃりませんか?」

 お隣の中野と一緒になってしまった。

「あ、こりゃぁ中野さん。お一人で映画ですか?」

「ええ、なにかと忙しいもんで、映画に行くぐらいが精一杯でしてねぇ」

「いやはや、うちも同じですよ」

「ま、このご時世、忙しいのはなによりですよ。どうですか、また新聞お願いできませんか?」

 と、中野は如才ない。

 中野は、いわゆる団塊の世代で、高校の教師を退職してからは、K党の党員活動を生き甲斐にしているオッサンである。なぜか体を横向きにして列の中で三人分ほどのスペースを取っている。

「いやあ、まだ景気好循環の恩恵にあずかれませんでねぇ、流行り病以来、給料も下げ止まったままですよ」

「それに、オタクの新聞、来月から値上げでしょ。うちも、夏の休日、仕事でもらったチケットで映画観るのが精一杯ですから……」

 春奈はニベもない。

「まあ、景気が戻りましたら、またよろしく」

「あら、今の政権じゃ、景気回復は見込めないというのが、党の見解じゃなかったですか、おじさん」

 友子も遠慮がない。

「これ、友子、失礼じゃないか」

 一郎がたしなめていると、二十代前半とおぼしき女の子が二人小走りでやってきた。

「中野先生、どうもお待たせしました。地下鉄一本乗り損ねたものでぇ」

「いやいや、わたしも今来たところだから、さ、順番は取っておいたから、ここに並びなさい」

「いいんですか、わたしたちなら後ろ回りますけど」

「いやいや、最初から三人分確保しておいたし、そんなに混んでもいないから」

 たしかに、七分ほどの人数だが、ミナコは少し不愉快だった。いつもなら、並んでいる人たちの心を読むのだが、今日は封印している。見回した感じでは迷惑顔な人はいなかったし、他にもポップコーンを買いにいったりして、「おまたせえ!」と、横から入ってくる人もいたので、まあいいかと抑えた。

 映画は美しく、感動的だった。

 命のはかなさ。しかし、はかないが故に「生きめやも」と強く願う人間の可憐さ、愛おしさ。そして突き抜けるような空への憧れに満ちていた。

 一郎は、鼻をかむフリをして。春奈は、堂々と三枚目のハンカチを涙でぬらしていた。ミナコも、人間モードになっていたので、正直に感動した。限りある命、限りない夢のパラドクスが、愛おしく羨ましくも思えた。

 

「兵器を作る人間の葛藤が描かれとらん……」

 

 気がつくと、前の席に女の子と並んだ中野のオッサンが、やや大きな声でぼやいていた……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
  • 滝川 修         城南大の学生を名乗る退役義体兵士

 

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鳴かぬなら 信長転生記 148『信長版西遊記・敦煌・3・敦煌大仏』

2023-10-24 16:35:47 | ノベル2

ら 信長転生記

148『信長版西遊・敦煌・3・敦煌大仏信長 

 

 

 96窟は外側に楼閣の設えがあって、莫高窟(ばっこうくつ)の表玄関のようになっている。

 

 おお……!

 

 大きなもの見事なものには素直に感嘆の声が出る。

 俺自身、大きなもの見事なものをプロディユースして人を喜ばせたり驚かせることは好きだった。

 

 安土城を作った時は、完成記念に大見学会をやった。

 

 俺自身大手門の門前に立って入場料を徴収してやった。

 入場料は百文。

 そんなに安い料金ではないが、百姓どもも喜んで料金を払って見学に押し寄せたぞ。

「御城を見世物になさるのですか!?」

 光秀は目を丸くして反対しおったがな。

 もし、臨時に百文の税をとると言ったら、みんな嫌な顔をする。無理な徴収は反発も招く。

 だが『安土城完成記念見学会』ということにしてやると、進んで百文握って門前に並ぶ。そして、ヘーとかホーとか感嘆の声を上げて喜んでおる。中には何度も列に並び直して安土城ファンになる者もおって、茶屋や宿も賑わい、城下には物売りたちも出てお祭り騒ぎになった、みなが喜び、ほどよく儲かって面白かった。

 大手門の内側で賑わっていると思ったら、サルの奴めはサイン入りの瓢箪を握手しながら売っておった。

「あいつは小便の後に手も洗わん奴だぞ!」

 悔しいから大声でバラシてやったら、女子供がキャーキャー言いおって、かえってサルの売り上げが増えたのはシャクだったがな。俺は、次に大坂に城を作ったら年パスとか発行して、影武者とかも使って握手会をやろうと思ったぞ。光秀のお蔭で狸の皮算用になってしまったがな。

 

 おお……!

 

 中に入って、また驚いた。

 奈良の大仏よりも大きく華麗な超大仏が俺を見下ろしている。

 おお!  うわあ!  ええ!  すごい! かっこいい!  きれい!  ギョエ!  ホエ~!

 感嘆の声があちこちであがっている。

 高さは33・5メートルというから、奈良の大仏の倍ほどか「フン、こんなものやわらかい岩を彫っただけじゃん、奈良とか鎌倉のはブロンズだよ」と、市の声が聞こえてきそう……な?

「なんで出てきたんだ、宿で大人しくしてろって言っただろ、仮装も解いてしまいおって!?」

「だって、宿に着くまでも着いてからでもなにも起こらないし、退屈だし、街は賑やかだし、茶姫と交代で出ることにしたの」

「しかし、その姿は……」

「イケてるっしょ(^▽^)/」

 猪八戒の姿に飽きたのは分かるが、いまの市の姿はペルシャ辺りからやってきた胡旋舞の踊り子のようだ。

「仮にも、俺は三蔵法師の成りをしてるんだ、そんな姿で寄ってくんな」

「だって、他にもいるよ。坊主のナリして酒飲んだり女連れみたいなのも」

「ん……?」

 仏画や彫刻に気を取られて気づかなかったが、たしかに怪しげな……中には尼僧がイケメンの優男を連れているのも居る。

「比叡山を焼き討ちした時も、女人禁制のはずが、けっこう遊女みたいなのもいたって言うじゃん」

「ああ、みんなぶった切ってやったがな」

「そういうことするから、天魔だとかサタンだとか言われるんじゃん」

「うっせー、とにかく10メートルは離れてろ、せいぜい、三蔵法師の追っかけ的なポジションにしてろ」

「ま、いいや。語尾にブヒブヒ付けなくていいだけでもラクチンだからね」

 そう言うと、しおらしく跪き、ズタブクロにおひねりを入れて合掌。

 なんとか、西域の踊り子が旅の高僧に喜捨しているの図になる。

 市が隣の石窟に行くのを待って調べてみる。

 え?

 いったいいくら包んだのかとズタブクロの中を見ると指輪の形になった一言主(ひとことぬし)。

 そうか、三蔵法師の姿になった時に三蔵が変身した悟空の頭に引っ越していたんだ。

 人にコスプレさせるしか能のない一言主だが、居ないよりはマシ。

 

 旅の高僧らしく、うやうやしく大仏に合掌すると、もう一つの大仏の石窟に向かったぞ。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主

 

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