大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・412『今年も梅雨入り』

2023-05-31 09:11:56 | ノベル

・412

『今年も梅雨入り』さくら   

 

 

 この月曜日から制服自由期間になった。

 

 自由というのは、なんでもありではなくって、制服であれば自由という意味。

 うちはジャンパースカート、留美ちゃんはジャンパースカートの上から指定のカーディガン。

「「おはようございまーす!」」

 ハンゼイのドアを開けてごあいさつ。

「おはよう、うん!」

 早川のおばあちゃんが、うちらのヘルメットをふんだくると体を捻ってカウンターの下に仕舞う。

 ハンゼイは朝からモーニングのお客さんでいっぱい。それをテキパキとこなしていくマスターの昴(あきら)さんとパートの早川のおばあちゃん。

 早川のおばあちゃんは、うちの婦人部では田中のおばあちゃんに次ぐ年寄りやねんけど、若いころミナミの喫茶店で働いてたんで、歳を感じさせへん身のこなしでフロアーやらレジをこなしてる。「ってきまーす」「ってらっしゃい」はちょうど入ってきた常連さんの「いつものモーニング」とすれ違って表に出る。

「早川のおばあちゃん、コス変わってたね!」

「あれ、現役やった時の制服やて」

 テイ兄ちゃんがスマホ見せながら教えてくれた。黒のワンピに白いエプロン、七分の袖口と襟が白で、いかにも昭和の喫茶店。五月の連休明けまでは瑞穂さんと同じコス着てたけど、やっぱり思うところがあるねんやろね。

 

――通勤通学のみなさん、おはようございます、市長候補の○○でございます、来たる市長選挙……――

 

 路地から出たとたんに、市長候補の元気な声が聞こえる。

「ふふ、元気があっていいわね」

 自分は大人しいくせに、人が元気ににぎやかしてるのは好きな留美ちゃん。

 交差点では、いつもの婦警さんが信号の横で目を光らせてる。信号待ちの宅配のミニバンの運ちゃんも女の人。

 ちょっと速足でエスカレーターを上がって行くのは阿倍野のS女学園。進学に熱心で一時間目の前に0時間目があるらしい。今日も堺の女は元気です。

「あ、降ってきたよ」

「まあ、どこかのミサイルとちゃうさかい」

「だね」

 ホームに出ると鈍色の空からミストのような雨で、点字ブロックのところまで濡れ始めてる。

 朝のうちは雨が残るけど、昼までにはあがるという予報なんで傘は持ってきてへん。

 念のためにスマホでチェックする留美ちゃん。

「よし、雨もミサイルも大丈夫みたいだよ」

「よしよし」

「あ、外人さん」

 隣の列に半袖半パンの欧米系が三人。

 外人なんて、大阪では珍しいこともなんともないねんけど、堺東の駅は観光のルートからは外れてるし、朝のラッシュ時にホームに立ってるのは珍しい。

 行先案内のディスプレーに『次の列車は三国ヶ丘を出ました』のお知らせが灯る。

 ワオ

 感動の面持ちでスマホの画面と見比べてる。

「体験通勤電車だね」

 YouTubeなんか見てると、日本の鉄道に感動したいう外人さんの動画がいっぱい出てる。

 けど、通勤時間帯の動画というのは、あんまり見たことが無い。

「昨日はごりょうさんとか見て、一発通勤電車の動画をアップするんやろなあ」

 評判通り、時間ピッタリに来る電車に感動したという感じ。

 雨の日は、けっこう電車遅れるねんけどね、まあ、よかったよかった。

 ブルブル ブルブル

 マナーモードにしてたスマホが震える。

 チラッと見たら、真鈴先輩のメール。

 この人のメールは、ちょっと怖い。

 ちょうど電車も来たみたいやし、読むのはまた後で。

 細かい雨粒の付いたディスプレーをスカートでグヌっと拭ってポケットにしまう。

 堺の街に今年も無事に梅雨がやってきました。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバン(バンシー)ナンシー(リャナンシー)が友だち
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん)
  •   

 

 

 

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RE・かの世界この世界:114『落花狼藉の大騒ぎ』

2023-05-31 05:56:42 | 時かける少女

RE・

114『落花狼藉の大騒ぎ』テル 

 

 

 明るさは滅びの徴であろうか 人も家も暗いうちは滅びはせぬ

 
 太宰治の『右大臣実朝』の一節だと思うのだけど、太宰治が何者で右大臣も実朝もよく分からない。どこか夢の中で出てきた言葉なのかもしれないが、目の前で繰り広げられている光景は、まさに、この言葉通りだ。

「おかえり、ヤコブ! しばらく見ないうちにいい男になって! お母さん嬉しいよーーーー!」

「おかえり!」「久しぶりいい!」「やあ!」「ウッス!」「ほんとにおかえり!」「おかえり! グラス持って!」「グラスこっち!」「あーーもーージッとしてらんない!」「歓迎のポルカだ!」「サルサだ!」「ヨサコイだ!」「ヤコブを真ん中に!」「となりはあたし!」「ずるい!」「あんた小学校でもとなりだったじゃん!」「となりはあんた!」「膝の上でもいいよお!」「まずは胴上げだ!」「そーだそーだ、胴上げだ!」「胴上げだあ!!」

 なんだか分からないうちに胴上げになり、阪神タイガースの優勝みたいになった。お調子者が川に飛び込む代わりに片っ端からシャンパンやビールの栓を抜いてアルコールの雨を降らす。

 って、阪神タイガースってなんだ? 時々分からない言葉が浮かんでくる……。

 子どもたちも、一瞬四号に目を輝かせるが、大人たちの乱痴気騒ぎに載ったり載せられたり飛んだり跳ねたりしている。

 胴上げを八回もやられて「ちょっと助けてえ!」とヤコブがこちらも見るものだから、舞い上がった参加者がいっせいにこちらを見た!

「次は、あんたらだ!」

 数十人の矛先が、四号の乗員に向かった。

 ロキとポチはノリノリで喜んだが、こっちは軍服は着ていても女だ。あちこち触られまくりの胴上げには抵抗がある。

「ウ」「キャ!」「グエ!」「ウヒョー!」「フグ!」「ギョエ!」

 為すすべがない。

「え、あ、ちょと……」

「ボタン外さないでえ!」

「ベルトおおお!」

 胴上げされながら服を脱がされていく。

 もう身を任せろ。

 横を見ると、ほとんど下着だけにされてしまったタングリスが、どこか楽しんでる顔でウィンクしている。

 えーい、ままよ!

 身体の力を抜くと、あっという間に裸にされて、恥ずかしがる間も有らばこそ、別の衣装に着替えさせられた。

 
 もう一回、カンパーーーイ!!

 
 参加者と同じヘルムの民族衣装に着替えさせられて、飲んだくれたちの仲間入りをさせられてしまった。

 それから、いっしょにポルカを踊ったり、何十枚も写真を撮ったり撮られたり、食べたり乾杯したり歌ったり。落花狼藉の大騒ぎになった(^_^;)。

 さすがに酔っぱらって尻餅を突いたところにヒルデが倒れ込んできて意識がなくなった。

 

 まるで玉砕した部隊の中で、たった一人生き残ったような感じで目が覚めた。

 ウンコラショ……っと、ヒルデのお尻をどかせ、脚にまとわりつくケイトを引き剥がして首を巡らす。

 

 ヒソヒソ ヒソヒソ……

 

 二つ向こうのテーブルで密かに話し合う声が聞こえてきた。

 ちょっと怪しいヘルムの朝だ……。

 

☆ ステータス

 HP:13000 MP:150 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・80 マップ:8 金の針:0 所持金:5500ギル(リポ払い残高29000ギル)
 装備:剣士の装備レベル30(トールソード) 弓兵の装備レベル29(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:シルバーヒール(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・030『滝さん怒る』

2023-05-30 12:45:29 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

030『滝さん怒る』   

 

 

 お祖母ちゃんの機嫌が悪い。

 

 悪いと言っても、人や物に八つ当たりするわけじゃない。

 笑顔が消えてしまって声が小さくなる。

「いってらっしゃい」「おかえりなさい」「ごはんですよ」「お風呂入ってしまってぇ」「牛乳飲んだぁ?」とか、なにげな言葉に元気がない。

 以前、機嫌が悪かったのは、お母さんがMSAT(Mars stay acclimatization training=火星順応滞在訓練)に行くことに決めた日だった。四年間も帰って来れないだけじゃなくて、家族とも連絡が取れなくなるんだから、機嫌が悪くなるのも無理ないと思った。

 

 お祖母ちゃんは、自分のことで機嫌を損ねることは、ほとんどない。

 

 お祖母ちゃんは、近しい人が不幸になったり、いらない苦労をさせられると機嫌が悪くなる。

 お母さんは「魔法少女はおせっかいだからね」と言って、ひそかに、あけすけに言えばバカにしていた。

 でも、娘が高校入試で、次に会えるのは四年後の成人式だからね。わたしも――たいがいにしてよねぇ――と思うんだけど、言ったら聞かない人だし「あ、そう」で済ました。

 お祖母ちゃんは、そういう孫娘がかわいそうで言ってくれたりしたんだ。

 それでも、お母さんの決心は変わらなかったから機嫌が悪くなった。

 今回は、その時よりも悪いかもしれない。

 

 魔法少女は上からの指令で、どんな任務でもこなし、時には「○○に代わってお仕置きよ!」と人をぶちのめしたりする。

 身分は特別職の公務員で、公安に似てるけど、ネットで検索しても出てこない。

 まあ、日本政府が魔法少女に頼ってるなんて言えるはずもないしね。

 定年を迎えてからも5年間再任用で働いて、それでも、時おり非公式にヘルパーを頼まれる。

 

「じぶんらなあ……」

 

 タキさんが、カウンターの向こうで腕を組んだ。

 カウンターには、アイ、マイ、ミー三人の猫又さんがうな垂れている。

 ペコさんは、滝さんに頼まれて商店街に食材を買いに行ってる。

「「「すみませんでしたあ!」」」

 三人揃って頭を下げる、六つの猫耳がそろって揺れる。

「猫耳はひっこめとけ、勘狂う」

 シュポン

 音がしたわけじゃないけど、こんな感じで猫耳が引っ込むと、空気がシリアスになる。

「応(こたえ)さんに頼むときは、俺にひとこと言え」

「「「はい」」」

「魔法少女いうのは、退職しても頼まれると弱い。もともと、そういう裏の仕事をやるのんが魔法少女やけどなあ、裏の仕事っちゅうのは、三つも四つも人づてに頼まれることが多い。それでも、現役やったら、上の方でチェックやら吟味やらしよるけど、退職後は、そういうチェックも吟味もでけへん。ひとりでこなせるのか、どこまでやってええのかも確かやない。うまいこといったらメデタシメデタシやけど、失敗したら、引き受けた応さんが一人自責の念にとらわれて落ち込むことになるんや」

「はい、マイもミーも上の上から頼まれて」

「アイ、お前もやろ」

「は、はい、三人とも揃って同じ依頼だったし、もうお願いするしかないって思って」

「それが怪しい、MS銀行、つくも屋、寿書房三軒同時に頼まれてくるいうのは揃いすぎやろ。三軒とも『他言無用』ときた」

「あの」

「なんや、代理、いやメグリ?」

「あ、ちょ……」

 こんなおっかない滝さんは初めて、言葉がつまってしまう。

「『失敗したのはわたしだから、ぜったい三人を責めないで』って、お祖母ちゃん言ってたですから……」

「責めてるんとちゃう。総括や、二度とこんなことが起こらんように。なあ!?」

「「「ハ、ハヒ(;゚Д゚)!!」」」

「だいたいやなあ……」

 もう一発かまそうと、滝さんが肩を揺すったところで、ペコさんが戻って来る。仕入れの荷物が多いようで、魚屋のニイチャンが荷物を抱えて入って来て、さすがに中断した。

 

 志忠屋に入った時、カウンターには1970年の新聞が載っていた。

 もう50年以上昔の新聞なのに、ついさっき配達されたばかりという感じで、開いた三面からはインクのニオイがした。

「五段目の小さい記事や」

 言われて読んでみると、ひとりの現役警察官が、ひっそり退職したことが書かれていた。

「あ、ああ……」

 わたしも、読んでから「あ」っと思った。お祖母ちゃんは「失敗したのはわたしだから、ぜったい三人を責めないで」とだけしか言ってなかったので、中身がぜんぜん分かってなかった。

 1970年の五月二週目に、若い男が連絡船をシージャックするという事件があった。犯人は、シージャックするまでに、もう何人も撃って、船でも人質をたくさんとって、100発以上発砲、何人も犠牲者が出たので、警察はやむなく狙撃手を配置して犯人を射殺した。

 その後、いくら犯人とはいえ射殺はやり過ぎだと、テレビや国会でも取り上げられ、射殺した警察官の人が辞職に追い込まれたというニュース。

「応さんは、犯人を射殺した警察官が辞めんでもええように、できたら、射殺じたい起こらんようにしてほしいと頼まれたんやそうや」

 え、ええ!?

 50年以上も昔の事件だよ。

「それがな、たとえ凶悪犯相手でも銃器の使用をためらうという風潮の元になったんや」

「そ、そうなんですか……」

 

 言葉が無かった。

 

 昨日の学校帰り。

 

 ロコが「こういうのは続きますねえ」と、電器店のテレビの臨時ニュースを見ながら言ってたけど、わたしもロコも立ちどまってまでは見なかった。ビートルズや中間テストに頭がいってたし、四月にはよど号ハイジャック事件があったばかりだったしね。

 家に帰ってパソコンで検索、事件のことは出てくるけど、犯人が撃たれる瞬間の映像は出てこない。令和の時代、人が死ぬ、殺される映像なんて、すぐにバンされる。

「ロコ、あの映像見た?」

 歩きながらロコに振ってみる。

「うん、観たよ」

「どうだった?」

「あ……うん、なんかドラマの一コマみたいな、カメラもロングだったしね……」

「そう……」

「それに、人が撃たれるところって、よく出てくるよ」

「え、そうなの!?」

「うん、写真とかはモロだし、ベトナムじゃ毎日ドンパチやってるし」

「え、あ……ベトナム戦争!?」

 そうかリアルベトナム戦争の時代なんだ(^_^;)

「そういうのもスクラップしてるから、見せたげようか?」

「あ、アハハ、ちょっと遠慮しとく」

 1970年のこんにちはぁ~(*^^)v♪

「だよね、それよりも万博行きたいねえ!」

 商店街のBGMが、俄かに耳に飛び込んでくる。

「こんにちは~こんにちは~♪」

「世界の国っから~♪」

 つい歌ってしまう。

「そうだねえ、ちょっと考えてみようか」

「あ、うん! 乗るよ! みんなで考えたらアイデア浮かぶかも!」

 あっという間に16歳の関心はジャンプした。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子             1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長
  • 須之内写真館            証明写真を撮ってもらった、優しいおねえさんのいる写真館

 

 

 

 

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RE・かの世界この世界:113『我が食のトラウマ』

2023-05-30 06:18:54 | 時かける少女

RE・

113『我が食のトラウマ』ブリュンヒルデ 

 

 

 大通りをヤコブの家に通じる道。その角を曲がった時からいい匂いがしている。

 
 ちょうど昼に差しかかっていたので、レストランかなにかがあるんじゃないかと思った。

 主神オーディンの娘に生まれたが、贅沢に育ったわけではない。

 父オーディンは元来放浪の神であるので生活は質素だ。ヴァルハラは大きくて立派な城だが、七歳まで父の事は城の管理人くらいにしか思っていなかった。むろん、平の管理人ではないが、せいぜい管理課長くらい。城にいる者たちも七歳までは名前のままブリュンヒルデとかヒルデの愛称で呼んでいた、ひどいのになるとブリと悪意のこもった呼び捨てだった。でもまあ、管理人の娘なら、そんなものだろうと疑うことも無かった。

 食事も城に仕える者たちといっしょ、当たり前のように大食堂で食べていた。大食堂はバイキング形式で、トレーを持って自分の好きなメニューを取る……というのは建前で、子どもが大人たちに交じって好きなものを取るのは至難の業。なんとなく子ども用大人用に分かれ、大人用でも戦士のテーブルとか女官たちのテーブルとか事務職のテーブルごとに集まる傾向があった。

 小さな子は大きな子が面倒を見てくれるので、知らず知らずのうちに大食堂での作法が身についていく。

 トール元帥の戦士たちが食べているのがとても美味しそうで、早く大人になって食べてみたいと、他の子どもたち同様にヨダレを垂らしていた。

 七歳になって王女の待遇になった。

 王女の待遇と言っても、呼ばれ方がブリュンヒルデから殿下に変わっただけと言っていい。改まった時に『ブリュンヒルデ殿下』とか『ブリュンヒルデ姫』とか、儀式の時は『天の下知ろしめすオーディンの娘にしてグラズヘイムの花。ヴァルキリアの陣頭に立つ我らが麗しのブリュンヒルデ姫』と伝統的尊称で呼ばれる。学校に上がって侍女が付くようになって、その侍女が融通の利かない奴で、呼ぶたびに尊称で呼ぶ。そのうえドンクサくて、しょっちゅう間違う。間違ったら言いなおしだ。登校前の忙しい時に五回も六回も言い直されると遅刻してしまう。じっさい遅刻してしまうんだけど「侍女のやつが、何度も言い間違えるからあ!」とは言えない。ただ「すみませんでした」と謝って廊下に立たされる。

 この侍女が交代すると言うので「誰でもいいけど、天の下知ろしめすオーディンの娘にしてグラズヘイムの花。ヴァルキリアの先頭に立つ我らが麗しのブリュンヒルデ姫とは呼ばない人にして!」とだけ注文を付けた。

 すると、次の侍女は「殿下」と簡単に呼んでくれる。

 いいっちゃいいんだけど、そのころ、よく便秘になって朝のトイレが長くなることがあった。すると、その侍女はトイレのドアを叩いて「殿下! 殿下! はやく! 殿下!」と叫ぶ。むろん「遅刻しますよ!」いう意味なんだけど、わたし的には「早く出んか!」に聞こえる。

 まあ、そんな少女期が過ぎて、なんとか姫騎士と自他ともに認められるようになって、大食堂でもトール元帥の戦士たちの列に並んで好きなものが食べられるようになった。

 

 で…………不味かった(-_-;)。

 

 憧れの騎士飯がこれかあああああ(╬•᷅д•᷄╬)……というくらいに不味かった。

 子どものころからの期待が大きすぎたせいかもしれない、わたしが早くにブァルハラを出ることになった原因の一つは、この大食堂の不味さにあることは確かだ。

 そういう食の原体験があるせいか、ヤコブの家から漂ってくる美味しそうな匂いは凄まじかった!

 グ~~~~~~~~~~~

 四号の乗員全員のお腹が鳴ったぞ。

 この香り、この匂い……クンカクンカ…………もし、ヴァルハラの大食堂の時みたいに食べたらぜんぜん違った! ということになれば発狂するぞ~!

 
☆ ステータス

 HP:13000 MP:150 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・80 マップ:8 金の針:0 所持金:5500ギル(リポ払い残高29000ギル)
 装備:剣士の装備レベル30(トールソード) 弓兵の装備レベル29(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:シルバーヒール(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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RE・かの世界この世界:112『ヤコブの家まで、車中にて』

2023-05-29 06:26:59 | 時かける少女

RE・

112『ヤコブの家まで、車中にて』テル 

 

 

 

 ヤコブが心配していた子どもの飛び出しは無かった。

 
 確かに、四号の姿に目を輝かせる子どもは多い。子どもどころか大人まで立ち止まって「オオ」とか「ホオオ」とか感心してスマホで撮影する者も多い。子どもたちは反射的に車道に飛び出しそうになるが、親や年長の子どもが引き留めて、我々を煩わせることが無い。民度が高く、親子関係や子どもたち同士の関係がうまくいっている証拠だろう。

「行儀の悪いのは、お前ひとりだったな」

「仕方ないよ、衣装脱いで着替えるのに手間取ったんだから。おしとやかにしてたら置いてかれる」

「家の準備はできてるのか?」

「うん、歓迎式典に出かける前にやっといた」

「まさか、おまえが料理とかしてないだろーな?」

「アハハ、そんな無謀なことはしないよ。お母さんがやってくれてる」

「それより、みなさんのこと紹介してよ、お兄ちゃん。式典じゃろくに口もきけなかったし。まずは、わたしの胸元ばっか見てる坊やから」

 指名されたロキがひっくり返りそうになる。

「通信手のロキ、子どもだが、なかなかの苦労人だ」

「よろしく、わたしのスリーサイズなんか通信しちゃダメよ。国家機密なんだから」

「し、しないよ(;'∀')。あ、あんたほんとに、さっきのクイーンなのか?」

「そうよ、島の人たちはいい人ばかりだから、オフの時は自由を尊重してくれるのよ、坊や」

「ぼ、坊やぁ(^▲^;)!?」

「ロキの肩に停まってる妖精さんは?」

「ヒック!」

 しゃっくりを一つしてロキの服に中に隠れるポチ。

「こ、こら、くすぐったいポチ!」

「へー、ポチって言うんだ!」

「い、犬じゃないからね!」

「分かってるわよ、点という意味だよね。東の文字って点がどこにあるかで全然意味がちがっちゃうものね。大の字の肩に掛かれば犬だし、又の所にくれば太いだし、丸まって肩に戻ったら、ポチのポだよね」

「ハハ、ポはカタカナだよ。縦棒が長いし足の付け根に隙間があるし」

「そっか、東の文字は難しいからね」

「おまえが不勉強なんだ、雑学ばかり強くなって」

「テヘ。いいじゃん人柄はとってもいいからさ!」

「自分で言うかあ」

「いいのいいの、わたしって可愛いからね!」

「砲塔の右っかわから身を乗り出しているのがケイト。装填手。歳はユーリアと同じくらいだ」

「光栄です、お目にかかれて」

「あ、敬語禁止。私服の時はただのユーリア。ヤコブ兄ちゃんにはもったいない美人の妹」

「は、はい」

 不思議だ、ユーリアは自然に振る舞っているようで、威厳……気品……口にすると違うのだが、人に一目置かせる何かがある。ベイクイーンの称号は伊達ではないようだ。

「わたしに何かあるみたいに思ってるオネエサンは?」

「テル、砲手をやってる。世話になるけどよろしくね」

「よろしく、ケイトとテルは……二人で一組なのね」

「え……ああ、砲手と装填手だからね」

「そうか」

 なにか本質的なことを言われたような気がしたが、自分でも分からない、気のせいだろう。

「運転中だから顔は見えないけど、操縦手のタングリス」

 そこまで聞くと、ユーリアは器用に車内に潜り込みタングリスに挨拶する。

「本当は、この中でタングリスさんが一番綺麗な人なんだと思う……」

 ポツリというユーリアに苦笑で応えるタングリス。

「えと、これでいいかなあ?」

「よくない!」

 砲塔のキューポラから声がする。

「失礼だよ、お兄ちゃん」

「あ、車長のブリュンヒルデ」

「見知りおけ、主神オーディン娘にして堕天使の宿命を負いし漆黒の姫騎士ブリュンヒルデである」

「冗談みたいに長いお名乗りだけど……いいえ、お目にかかれて光栄です殿下」

「畏まるのはこれきりでいい。これからはブリュンヒルデあるいはヒルデでよい。ブリという呼び方は禁止だぞ」

「心得ました殿(でん)……ヒルデ(^▽^)」

 
 自己やら他己やらの紹介をやっているうちにヤコブとユーリア兄妹の家に着いてしまった……。

 

☆ ステータス

 HP:13000 MP:150 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・80 マップ:8 金の針:0 所持金:5500ギル(リポ払い残高29000ギル)
 装備:剣士の装備レベル30(トールソード) 弓兵の装備レベル29(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:シルバーヒール(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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くノ一その一今のうち・57『ホームズのメモ』

2023-05-28 11:55:18 | 小説3

くノ一その一今のうち

57『ホームズのメモ』 

 

 

 スタジオに入ると、幾つもあるセットの中、ホームズの探偵事務所だけに明かりが灯っていた。

 雑然としたところは相変わらず。でも、二回目なのか、メインのテーブルは直ぐに分かった。

 板ガラスと緑のフェルトの間には、様々なメモやら地図やら領収書やらが挟まれていて、大方は黄ばんでしまった中に、まだ白さを保ったメモが目に留まった。

――お宝は大阪城内にある模様だが、大阪城のどこであるかは不明――

 なんだ、そのことは、とっくに知っている。

「下に、もう一枚あります」

 えいちゃんが見つけたそれは、黄ばんだメモの中に紛れていて、一見しただけでは分からない。横着なのか、探偵らしく擬装したのかは判断しにくい。

――空堀の坂道で木下の連中が目撃されている――

 空堀の坂道!?

 これは有力な情報だ!

「えいちゃん、大阪城に行くよ!」

「はい!」

 足元に注意しながらセットを出る。ホームズの事務所も散らかってるけど、スタジオのフロアは照明のケーブルや道具やらが散らばっている。隣のセットにも明かりがともったので、比較的楽にスタジオの扉にたどり着けた。

 大阪の地理には不案内だけど、大雑把には調べた。地理情報の収集は忍者の基本。

 大阪は東京に比べて300平方キロメートルも狭く、山手線と環状線の内側で比べると大阪は東京の半分も無い。

 下手にタクシーを待つよりは公共交通機関を使った方が早い。

「あ、ここから先は……」

 撮影所の門を出たところでえいちゃんが立ち止まる。

「どうした?」

「わたし二次元だから、このままリアルには出られません」

「え、あ、そうか」

 えいちゃんはポスターから抜け出したばかりで、まだ奥行きが無い。わたしには、横向きであろうと後ろ向きであろうと、平面の側を見せてくれるので、二次元だと言うことは忘れていた。

「よし、じゃあ、こうしよう!」

「え、あ、ちょ……」

 四の五の言わせず、えいちゃんをクルクル巻いてカバンに突っ込む。学校帰りにアキバでポスターをゲットしたJKの感じだ。

 撮影所の前の橋を渡ると長瀬川沿いの二車線の道路、右を向くと緩くカーブした先に長瀬駅が見える。

 とっとと歩く、ちょうど下校時間と重なって、駅に向かう高校生や大学生に紛れる。

『地味に目立ちますね』

 丸めたままのえいちゃんが心配する。わたしは東京の制服のまま、地元のK付属高校の制服とは、ちょっと違う。

「大丈夫よ、これでどう?」

 制服は変えられないけど、少しだけ背中を丸めて緊張感を抜き、歩く速さを高校生たちに合わせる。

『あ、溶け込みましたね!』

 骨柄はまあやにソックリだけど、顔のパーツは地味子そのもの。周囲の人たちは犬が歩いているほどにも気を停めない。

 面倒だけど切符を買う。ICカードだと履歴が残るからね。

 長瀬駅は先頭車両が地獄のように混む。

 スタスタ歩いてホームの後ろの方へ、ちょうどやってきた上六行きの普通に乗る。

 電車は長瀬駅を過ぎて高架になる。途中JR東線を跨ぐので、けっこう高く、進行方向左側の窓からは大阪の街が一望に見渡せる。

 ああ、あれがあべのハルカス……ビルとしては日本で一番高い。

 他に高いビルが無いので格好のランドマーク、少し北に目を向けると通天閣、ちょっと低くて地上に降りたら目印にはなりにくい。大阪城はもう少し北……これは見えない。

 ざっと見渡して環状線の内側なら、自分の脚で走っても40分もあればどこにでも行ける。

 この任務、あたりを付けるところまでなら比較的簡単に済むかもしれない。

 少し冷静になったところで、景色が回る、布施駅が近づいて電車は大きく西に首を振った。

 鶴橋に向かって環状線に乗り換えれば、三つ目が大阪城公園。

 しかし、大阪城の中心に至るには手前の森ノ宮駅で降りた方が早い。

 ざっと下調べしただけだが、もう半分済んだような気になった。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
  • えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手

 

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RE・かの世界この世界:111『歓迎式典』

2023-05-28 05:58:00 | 時かける少女

RE・

111『歓迎式典』タングリス 

 

 

 ベイクイーンのユーリアが笑顔で歓迎の花束を船長に捧げ、波止場に拍手が満ちて歓迎式典が始まる。

 わずかに残っていた霧もきれいに、それこそ霧消して、山の端の緑が空の青さに映える。ブラスバンドは軍の栄誉礼で流すような、ゆったりとしながらも清々しい曲を奏で、傷ついたシュネービットヘンを癒してくれる。

 緊急避難と修理の為の入港なのだが、ヘルムは最大の敬意と親しみで出迎えてくれている。戦ばかりのオーディンの版図にありながら曲芸のように独立を保つことの難しさの現われなのだろうが、島の住人たちの明るさと礼節の有り方に好感を持つ。

  ユーリアは岸壁の中央に設えられた雛壇の玉座に収まって、その玉座の前にとっかえひっかえエライサンが出てきては挨拶する。ヘルム島副首相 ヘルム議会議長 ヘルム裁判所長官 ヘルム警察庁長官 ヘルム商工会議所会頭……などなど。

 長くなってはたまらんと思ったが、それぞれ長くとも一分ほどのスピーチで助かった。

 スピーチの前と後にきちんとユーリアに敬礼する。なんだか本物のクイーンのようだ。ただの観光や親善のための役割としては大げさな気がしないでもないが、答礼するユーリアの所作もなかなか堂にいっていて気持ちのいいものだ。

 プロジェクターにも、ときどきクイーンの様子がアップされる。そのたびに姫が対抗心剥き出しの目になるのが面白い。

 式典の最後に復員兵たちの寄宿舎が紹介され、警察が先導して、そちらに向かった。我々はヤコブ伍長の手配もあって、四号に乗ったままヤコブの家を目指すことになった。

 シュネーヴィットヘンには島の水先案内人が乗り込み、タグボートに介助されて一キロほど離れたドッグに向かっていった。

 

 ゲートを出て二キロほどです。

 

 ヤコブ伍長が地図を広げて港のゲートからヤコブの家までをなぞった。

「とくに気を付けなければならない交通規則とかは無いのか?」

 初めての土地なので、操縦手としては気になる。

「……子どもですかねえ。島の子は戦車なんて見たこともありませんから、間近で見ようと飛び出してくるのがいるかもしれません」

 なるほど、接岸の時も幼稚園児が飛び出して一騒動になったところだ。

「みんな、警戒をおこたらないように」

「「「「ラジャー(^^ゞ」」」」

 元気な声が返って来る。注意するまでもなく、乗員たちも島が珍しく、車外に全身を晒したり、ハッチから半身を出して景色を楽しんでいる。

 オーディン神国とちがって戦火にまみれたことのないヘルムは長閑だ。

「オーディンの四号戦車だ、ゲートを開けてくれ」

 眼鏡のガードマンに頼む……が、ガードマンは椅子に座ったまま身じろぎもしない。

「警備員、聞こえないのか!」

 気の短い姫の声が尖がる。

「任せてください……」

 ヤコブが下りてガードマンの前に立つ、何をするのかと思ったら、そっと奴の眼鏡を外した。

「「「「「あ!?」」」」」

 驚いた、目をつぶって寝ているではないか。眼鏡のレンズにはパッチリ開けた目がプリントされていて、パッと見には分からない。

「あ、いや、これはすみまっしぇん(;'∀')」

 目覚めたガードマンは素っ頓狂な声をあげてゲートを開けてくれる。

 いやはや、我らの国ならば懲戒ものだ。


 ギギー!

 ゲートを出て大通りに出たところで急ブレーキを踏んだ!

 
 急に短パンの少女が飛び出してきたのだ。

 25トンの四号がつんのめり、車外に出ていた乗員は振り落とされそうになる。

「家まで載せてって!」

 しゃあしゃあと満面の笑顔でのたまうのはバイト帰りのような少女だ! 

「ユーリア!」

 ヤコブが声をあげる。

 え……!?

 そいつが、さっきまですまし顔で玉座に収まっていたクィーンだとはすぐには分からなかった……。

 

☆ ステータス

 HP:13000 MP:150 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・80 マップ:8 金の針:0 所持金:5500ギル(リポ払い残高29000ギル)
 装備:剣士の装備レベル30(トールソード) 弓兵の装備レベル29(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:シルバーヒール(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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鳴かぬなら 信長転生記 124『鬼の罠』

2023-05-27 10:54:01 | ノベル2

ら 信長転生記

124『鬼の罠信長 

 

 

 漁師さま用貸間フェスタ!!

 

 門の内側は、枡形になっている。

 枡形というのは門を二重にした間の四角い空き地で、攻め出すときは、ここにまとまった数の兵を並ばせ、外の門を開いて一気呵成に出撃させる。逆に、寄せ手が外門を破っても内門が閉じているので、ここで滞留して四方の櫓や城壁の狭間から集中攻撃を受けることになる。

 寄せ手である我々は、この枡形に入ったところで行き場を失った格好なのだが、特に矢玉が飛んでくる気配も無い。

 その代わり、内門の二階の窓がディスプレーになっていて『漁師さま用貸間フェスタ!!』の電飾が輝きだしたのだ!

「おい、周りを見ろ!」

 近習の浦島太郎一号が周囲の城壁を見渡しながら指をさす。

 おお!

 600人の浦島太郎がどよめく。

 城壁には狭間が穿たれているのではなくて、各部屋の間取りと付帯設備が映し出されている。

 2DKが基本で、大き目のクローゼットには、網や釣竿などの漁具が収納出来て、換気用のダクトも完備している。

「おお、ベランダを降りると共用の通路が浜に続いて船を漕ぎだせるようになってるぞ!」

「別のバージョンもあるぞ!」

 浦島太郎48号が後ろの城壁を指さすと、そこには――ご家族が増えた時には3LDK、4LDKもご用意しております――と出ている。

「これは、乙ちゃんとだって住めるってことか!?」

「そうだろ、4LDKは男一人には広すぎる、いや、夫婦二人でも広い! 子どもがいることが前提の間取りだ!」

「デヘヘ、乙ちゃんとの愛の巣ってわけかあ……」

 600人の浦島太郎が、クレヨンしんちゃんがデレたときのような目で俺を見る。

「コラ! スケベな目でわたしを見るんじゃない! 浦島太郎が乙姫と結婚するなんて設定はないんだからな!」

「女は、乙ちゃんだけじゃないしな!」

「アハハ、見学随時、即入居可、取りあえず下見しようじゃないか!」

「そうだそうだ!」

「嫁取り子作りは、その先だ!」

 おお!!

「こら、貴様らぁ!」

 600人の浦島太郎は、ちょうど開いた内門から城内各地に散って行ってしまった。

「オモイカネ! アッチャン! なんとかし……」

 二人とも、新しく掲示板に現れた『単身神さま用貸し神社』というのに見入っている。

「小さいが、よくできておるのう、太陽光発電にWi-Fiまで完備しておる」

「オモイカネ、上の方も読んで」

「オール電化にもできると書いてある……おお、20年ごとに式年造替いたします!?」

「熱田神宮よりもいいかも!」

 

「コラアアアアアアアヽ(≧Д≦)ノ!!」

「ハ(°д°)!?」「ア(°д°)!?」

 

 渾身の怒りで、ハッと我に返る二人。

「す、すまん(;゚Д゚)!」

「鬼の術中にはまってしまったみたい(^_^;)」

「浦島太郎どもを呼び戻すぞ! アッチャンは右! オモイカネは左! 俺は真ん中の廊下を行く!」

「わたしが言ったら、刀が無くなるわよ」

「浦島太郎ごとき、素手で十分だ! オモイカネ、お前も元の姿に戻れ、その図体では廊下を走れんぞ」

「気に入っておったのじゃが……よし、等身大に戻そう!」

 等身大の大魔神、ただの着ぐるみだが、本人が気に入っているので指摘はしない。

 

「おい、浦島太郎ども! さっさと部屋から出てこい! まだ鬼退治は済んでないぞ!」

 

 各部屋のドアを叩いて催促するが、返事はおろか人の気配も無い。

 フロアの奥まで行って、もう一度と思うと、廊下のむこうでアッチャンが――ダメだった――という風に腕をXの形に交差させている。

「儂のほうもダメだった」

 オモイカネも大魔神の青い顔をさらに青くして戻ってきた。

「オモイカネ、その青い顔はメゲるからマスクだけでも取ったら?」

「もう、マスクは取っておるわ」

 え、もう地顔が真っ青ってか?

「是非に及ばず……三人でいくぞ!」

「あ、信長!」

 こういう時は立ち止まってはダメだ!

 桶狭間の戦い、越前金ヶ崎の退き戦、退くにせよ攻めるにせよ電光石火がデフォルトの信長だ!

「天守を目指すぞ!」

「ちょ」「待て」

 とろくさい二柱の神など捨ておいて、俺は天守への石段を駆けのぼった!

 

 ズシリ カチャリ

 

 腰と胸元に重さが戻ってくる。

 アッチャンもオモイカネもついてはくるようだ。

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ)

  

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RE・かの世界この世界:110『シュネーヴィットヘン入港』

2023-05-27 06:18:42 | 時かける少女

RE・

110『シュネーヴィットヘン入港』テル 

 

 

 

 ポチが触れ回ったので岸壁に面した左舷デッキでは復員兵たちが鈴なりになった。

 
 貨物デッキは注水のため海面から一メートルの高さしかなく、接岸すると岸壁よりも低くなる。

 このままでは岸壁と対面してしまうので、四号の乗員は車体の上に乗った。

 数千人の島民が『歓迎 シュネーヴィットヘン!』の横断幕やデコレーションに負けないくらい色とりどりに着飾って出迎えてくれている。

 地元高校のブラスバンドが動員されたのだろうか、オモチャの兵隊のような衣装で行進曲に編曲したオーディン国歌を吹奏してくれている。

 四号の車体が岸壁の高さなので、車体に立っていると歓迎の人たちと同じ高さだ。

 感激のあまり、お迎えに動員された幼稚園児が駆け寄ってきて船に乗り移ろうとした。一人が駆けだすと、みんな後について来て、ちょっとした騒ぎになる。接岸間近とは言え、船と岸壁の間は一メートルあまりの隙間がある。落ちてしまえば助けようがない。引率の先生や近くの大人たちが必死で停めて事なきを得たが、女の先生が足を踏み外した。

 キャ!

 セイ!

 反射的にムチを振って女先生の腕を絡めとって救助する。

「ロキ、ケイト、先生を介助して主砲に乗れ」

 三人を主砲に跨らせると、砲塔がゆっくりと九十度旋回して、砲身の先一メートルちょっとが岸壁に届いて女先生を無事に届ける。期せずして船と岸壁の双方から盛大な歓声と拍手が起こった。

 ウワアアアア! パチパチパチパチパチパチ!

 あまりのすごさにビックリすると、上のデッキの兵隊たちがしきりに指をさす。岸壁の後ろには映画のスクリーンほどのプロジェクターがあって、一部始終を映していたのだ。後ろの者でも良く見えるようにという配慮なんだろうが、今の救助をアップで映されるのは面映ゆい。

 ジリジリと所定の位置に近づく。すでに船はエンジンを切ってタグボートの力だけで動いている。速力はほとんど一ノット、人が歩くほどの速度だ。

 幼稚園児たちが過ぎて、島民たちの集団が過ぎて、ブラスバンドの前を通過。舫いのロープが投げられる頃には島のエライサンたちが巡ってきて、そのエライサンの壁を割るようにして港の女王が現れた。

 本来なら、船の中央でラッタルが下ろされるところに待ち受けているはずなのだが、大型船に慣れないタグボートが押し過ぎて、百メートル近くいきすぎ、船尾貨物デッキの我々のところが、歓迎団の中央になってしまった。

 目の前に港の女王が迫ってきた。

「か、可愛い……わたしの次くらいに可愛いぞ」

 砲塔の上のヒルデが呟き、他の乗員もため息をついた。

「……ユーリア!」

 砲塔の後ろで控えていたヤコブが声をあげた。

―― おにいちゃん! ――

 女王は口の形だけで驚いている。

 我々とヤコブの妹ユーリアとの初対面(はつたいめん)だった。

 

☆ ステータス

 HP:13000 MP:150 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・80 マップ:8 金の針:0 所持金:5500ギル(リポ払い残高29000ギル)
 装備:剣士の装備レベル30(トールソード) 弓兵の装備レベル29(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:シルバーヒール(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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滅鬼の刃・29『二回目』

2023-05-26 17:26:00 | エッセー

 エッセーラノベ    

29『二回目』   

 

 

 うっかり同じテーマで二回書いてしまいました。

 

 23回と28回、タイトルも同じ『元日の新聞』で、いやはや焼きが回りました。

 28回目を書き終えて、三日目に栞に指摘されました。

「え、そんな馬鹿な……」

「ほらぁ(^_^;)」

「あちゃ~~」

 

 それで、今日は『二回目』をテーマに書いてみようと思い立ちました。

 

 五十数年前、うかつにも高校二年を2回やってしまいました。

 早い話が落第したわけです。

 当時、生徒の身でありながら高校演劇の役員をやっていたわたしは、年度末の役員会を終えて帰宅して、茶の間の沈鬱な空気に――ヤバイ――と思いました。

 小学校に入って間がないころ、いつもとは一本違う道に入り込んで、大きな野良犬と目が合ってしまったことがあります。あの時の――ヤバイ――に似ていました。

 お袋は、担任の先生と、もう一人えらい先生が来て留年を宣告していった事実を目を合わせることも無く伝えました。

 

 親父は、こんな話をしました。

 

 わたしには、三つ年下の妹がいたと言うのです。

 わたしには三つ年上の姉がいて、ずっと、その姉との二人姉弟だと思っていました。

 姉は、勉強も出来て、弟のわたしから見ても器量よしで、しっかり者の姉ちゃんでした。

 ところが、わたしが生まれた三年後、三人目が宿ったことが分かって、親父とお袋は堕ろすことに決めました。当時の家計では三人目を育てることは無理と判断したんですね。

「……女の子だった」

 そんなつもりは無かったのかもしれませんが、言外に、女の子が生まれていたら――きっと落第などしないいい子だったろう――という、強烈な残念さを感じました。

 高校二年というのは修学旅行のある学年です。ご丁寧に、二度目の修学旅行にも行きました。

 わたしが親なら「バカモン! 二回も修学旅行に行くやつがあるか!」と叱っていたでしょう。

 親父は、あっさりと二回目の修学旅行費を一括で払ってくれました。

 修学旅行は二回目も同じ信州方面。同じコースを同じバス会社のバスで、あれ?っと思ったらバスガイドさんまで一回目と同じ人でした(^_^;)。

 留年と修学旅行に関しては面白い話もあるのですが、それは、また別の機会ということにします。

 

 二回目というテーマに戻ります。

 

 ちょっとした運命のいたずらで孫娘の栞といっしょに暮しています。

 娘の娘で、正真正銘の孫娘なのですが、早くに引き取ったので、なんだか子育ての二回戦という感じです。

 栞も「二回目の父親だ!」などと言って、境遇を面白がっているように言います。

 わたしも「二回目の娘だ!」と言って調子を合わせております。

 これも踏み込むと奥が深すぎますので、主題に入ります。

 

 主題は「二回目の人との接し方」です。

 

 大人になってからでも半世紀以上生きておりますと、初対面の人とはソツなく接するようになります。あるいは出来るようになります。

「どうも、お世話になります」「大橋と申します」「武者走などと大層なペンネームですが」「いやあ、今日は暑いですねえ」「お噂はかねがね」「ごいっしょさせていただきます」「お隣り、よろしいでしょうか」「あ、そうだ」

 切り出し方はさまざまですが、切り出して、その反応で(あまり話しかけない方がいい)とか(この話題でいこう)とか(こっちの話の方が)とか感じながら接していきます。

 友だちがイタ飯屋を経営していて、仕事の帰りなど看板までいたものですが、テーブルが二つに、カウンター席が八つほどでしたので、ちょっと客同士の距離が近いのです。

 その客も、友人であるマスターの友だちや知り合いが多く、こちらもマスターの友人。場合によっては「こいつ、古い友だちで大橋っていうんだ」的に振られます。

 こういう時に「あ、ども」だけでは、なんとも素っ気なさすぎるので、まあ、互いに気を遣ってしまう訳ですね。

 それで、話題を探るわけです。

 

 持病で、月に一回病院に通っていました。十年ほどはお袋の車いすを押して週一回病院に連れていきました。二年ほどは父を別の病院に、老人ホームにも通いました。

 待っている間に、隣の人と話になることもあります。こちらは馴染みの患者、あるいは付き添いなので、病院や施設の事情にも詳しいので、時どき訊ねられます「薬局はどちらでしょう?」「待ち時間長いですか?」「問診票のここ、どう書くんでしょう?」「トイレどこでしょう?」「ちょっと見ててもらえます?」など、ちょっとしたやり取りなのですが、病院の待ち時間は一時間を超えることはザラなので、控え目にしながらも話すことがあります。

 そういう人たちと、二度目に会った時が、ちょっと厄介です。

「あ、先日は……」

 向こうから話しかけてこられたり、話しかけるのではなく目礼などされると、話さざるを得ません。

 そうすると、もうなおざりな話では済まないような気になって、話題を考え、返事を考えしたりできりきり舞いになってしまいます。お天気の話がいちばん無難なんですが、そうそうお天気の話ではもちません。趣味の話は押しつけがましいし、そうだ、前回はなにを話したっけ、えと……えと……。

 一番困るのは――え、知ってるようなんだけど、どこで会ったかな? 勘違いかなあ?――とか悩みます。

 あ、二回目なんだけど名前が出てこない! えと……お名前は……(-_-;)

「あ、先日はどうも(^_^;)」と、適当に先手を打って「え、初めてですが?」的に返されたら目も当てられません。

 間違いなく――適当なやつだなあ――と思われます。

 さらに困るのは、こちらが最初気づかなくて、相手が先に気付いて――失礼なやつ、シカトしやがって――と気まずくなる時ですねえ。

 電車の向かいのシートで、なんだか不機嫌な年寄りが座っていて――なんだ、この爺さんは?――と視線を避け、しばらくしてから――あ、先輩だ!――と気づいたあとの気まずさ(-_-;)。

 

 ププ( ´艸`)

 

 ここまでキーボードをたたいていると、後ろで二回目の娘が噴き出しました。

「もう、神経質な文章書いてぇ、もう、お風呂入ってしまってよね」

「え、晩御飯まだだぞ」

「え……」

 真顔になる二回目の娘。

「え、あ……ハハ、うそうそ」

 冗談でかましたのですが、翌朝、学校に行くまで心配そうな顔をされたのには参りました(^_^;)

 

☆彡 主な登場人物

  •  わたし        武者走走九郎 Or 大橋むつお
  •  栞          わたしの孫娘 

 

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せやさかい・411『バンとナンシー』

2023-05-26 09:26:37 | ノベル

・411

『バンとナンシー』詩(ことは)   

 

 

 ついつい出てしまう言葉ってあるよね。

 

 はにゃ?  アセアセ  さーせぇん  草  ビエーン  こみこみで  知らんけど  まるっと

 

 大学の構内では今風の言葉が溢れてる。

 言葉って、同族意識の現われ。

 ふるさとの 訛なつかし 停車場の 人ごみの中に そを聴きにゆく

 石川啄木の歌なんか身に染みてよく分かる。

 同じ言葉を聞いて、同じ言葉を使っていると安心、とりあえず人との距離が近くなる。

 あまり、流行りの言葉って使わない方だけど、気が付いたら「ブルータス、わたしもか!?」って感じで口にしたり、メールで使ったりしてる。

 お母さんが東京の出身なんで、生まれも育ちも堺なのに標準語っぽい言葉になってる。お母さんの親類に言わせると「詩(ことは)ちゃんのは関西訛の東京弁」だそう。

 わたしには、人が使わない口癖がある。

 

 ナマンダブ

 

 きちんと書くと南無阿弥陀仏。

 家がお寺なので、このナマンダブは日に数十回は聞く。

 ひょっとして、生まれて初めて聞いた言葉なのかもしれない。

 兄の時とはちがって難産だったので、お父さんが立ち会ったらしい。

 お坊さんというのは、嬉しいにつけ悲しいにつけ「ナマンダブ」が口を突いて出る。

 お父さんは、生まれたばかりのわたしに思わず手を合わせて「ナマンダブ」って、お母さんが言ってた。

 病院から家に帰ると、檀家の総代さんや婦人部長さんなんかも来ていて、ベビーベッドのわたしに盛大に「ナマンダブ」を投げかけた。

 さすがに、口に出して言うことは、めったにない。

 

「ううん、言ってるわよ」

 

「え、ほんと!?」

「言葉に出さずに、口の形。時どきはほんとに言ってる」

 窓辺の花を替えながらお母さんが楽しそうに言う。

「ここのお花は使い放題で、嬉しくなっちゃう」

「ああ、でもほどほどにね(^_^;)」

 三日前から宮殿に戻っている。

 やることは、少しずつのリハビリなので、病院でなくてもいいということで、女王陛下が手配してくださった。

 宮殿の庭はビックリするほど広くって、敷地面積は大仙公園と変わらないくらい。

 敷地の手入れや警備には日本の軽トラックやバンが使われている。

 お母さんは、その広大な庭から花を摘んできては、部屋中に活けている。

 日本の病院だと、こんなには活けさせてはもらえない。

「ちょっと花瓶を借りてくるわね」

「あ、ほどほどにねぇ……」

 

 お母さんが出ていくと枕もとに現れる。

 

『『おはよう、コトハ』』

 聖真理愛の制服を着た二人の妖精。

「おはよう、板についてきたわね」

『『うれしい!』』

 クルンと回って体育座り。

 一度はシルエットのまま消えてしまった。

 でも、わたしが呪文を唱えたので戻ってこれたと言う。

 呪文なんか唱えたつもりは無いんだけど、二人の妖精は、そう言って涙ぐんでいた。

『魔石が目ざめめたときは、もうダメだとおもったよ』

『森の奥、ピューって引きもどされるところだった……』

『光があらわれて、もどしてくれた……』

『もう、なんの力もないけれど、傍にいるだけでいいのならいいって、光がいった』

『ほんとうに居てもいい、コトハ?』

「うん、いいよ。いつも相手してあげられるわけじゃないけど、そばに居るだけならね」

『『うんうん』』

「ウフフ」

『コトハ笑った!』

『うれしい!』

『うれしい!』

 ピョンピョン

「制服のままバク転しちゃダメだよ(^_^;)」

『ダメなの?』

『うれしいから、ピョン! ピョン!』

 パンツ見えちゃう……けどいいか、フィギュアみたいにちっこいし。

 

 こうやって小さなともだちが増えた。

 バンシーとリャナンシー。

 微妙に言いにくい、ちょっと縮めよう。

 

 バンとリャン……なんだか麻雀みたい。

 ……バンはそのままで……リャナンシーは……ナンシー。

 決まった、これで行こう。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバン(バンシー)ナンシー(リャナンシー)が友だち
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん)
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RE・かの世界この世界:109『紅茶まみれの姫騎士』

2023-05-26 06:04:07 | 時かける少女

RE・

109『紅茶まみれの姫騎士』ブリュンヒルデ 

 

 

 突然の砲声に満身創痍のシュネーヴィットヘンは慄いた(;゚Д゚)!

 船腹に大小六つの穴を開けられマストもへし折られたシュネーヴィットヘンは千トンあまりの注水で水平を保っている。そのため喫水は貨物デッキから一メートルちょっとしかなく、海面の高さと変わらなくなっている。そこに弾をぶち込まれればひとたまりもない。

 

 しかし、その慄きは杞憂であった(;'∀')。

 

 二発目の砲声が轟いても、船はおろか海面にも弾着の水柱が上がらない。

 ヘルム島から放たれたのは礼砲なのだ(^▽^)!

 そうと知れた途端に、船内の復員兵たちはデッキに群がってヘルメットやら小銃やら戦闘帽を振って応えた。振るものを持たない傷病兵たちは松葉杖や腕のギブスを振ったり、包帯を解いて白いテープのようになびかせた。

「すまん、四号の主砲を撃ってくれ!」

 船長がタラップを滑り降りながら叫んだ。

 そうだ、礼砲には礼砲で応えなければならない。しかし、シュネーヴィットヘンは輸送船、答礼するための砲が無い。

「わかった船長、弾数を聞いて礼にかなった空砲を撃つ。みんな配置についてくれ!」

「「「「ラジャー!」」」」

 舷側に並んでいたみんなが声を揃えて車内の配置に着いた。

 砲塔を九時の方向に旋回させ、主砲を最大仰角に上げる。

 シュネーヴィットヘンの船長は大佐だ。大佐への礼砲基準は無いから准将待遇として十一発、領事待遇で九発か……なんと、元首待遇の二十一発を数えた!

 思えば、一万トンを超えるオーディンの軍艦がヘルム島に来るのは初めてなのだ。しかも休戦協定に違反するパラノキアの攻撃を受けて傷ついているのだ。最大の歓迎と言っていい。

 ウオオオオオオオオ(≧▢≦)!

 船と港の双方からヘルム湾を震わすような歓声が沸いた!

 ムヘンこの方、戦ってばかりだったので、思わず眼がしらが熱くなる。ロキもケイトもテルも礼砲を撃ち終わるとハッチから身を乗り出し、他の復員兵たちと同じように帽子やらスパナやら薬莢やらを振っている。タングリス一人操縦席に収まってポーカーフェイスだが、うなじが紅く染まっている。素直に感激すればいいのにと思うぞ。

 わたしは堕天使かつ漆黒の姫騎士に相応しく鷹揚にコマンダーハッチをガチャリと開き。砲塔の上に聖グロリアーナ女学院のダージリンの如く泰然と立ち上がって左手にソーサー(分かるわよね、ティーカップの下のお皿)、右手にティーカップを持って、優雅に姿を現す。

 あいた!

 無様な声をあげて、ドジを踏んだローズヒップのように砲塔の上でひっくり返ってしまった。

「な、なにすんのよ、ポチ!」

 そうなんだ!

 パラノキアの対巡洋艦戦の時のようにダッシュで飛んできたポチがわたしのことを避けきれずにぶつかってしまったのだ!

「すごいよ! すごいのよ、みんな!」

「何事だ、今度こそ首輪をつけるぞ!」

「港は、歓迎の人たちでいっぱいでさ! メチャクチャ可愛い女の子がティアラにローブを羽織って花束抱えて待ってくれてるよ! まるでお姫さまだよ!」

「わたしだってお姫様なんだけどな!」

「ブリの百倍は可愛いもん! みんな聞いてえ(≧▽≦)!」

「それって、港の女王とかのコンテストで選ばれた可愛いだけが取り柄のマスコットガールだぞ!」

 くそ……漆黒の姫騎士を紅茶まみれにして、ポチは船内に触れてまわりやがった!

 

☆ ステータス

 HP:13000 MP:150 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・80 マップ:8 金の針:0 所持金:5500ギル(リポ払い残高29000ギル)
 装備:剣士の装備レベル30(トールソード) 弓兵の装備レベル29(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:シルバーヒール(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)

 
☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・029『教職員名簿とプラモ屋さん』

2023-05-25 09:28:47 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

029『教職員名簿とプラモ屋さん』   

 

 

 中学までは朝礼と終礼があった。

 

 朝、いちばんに顔を合わせるのは、門番当番の先生を除いては朝礼の担任の先生だった。

「おはようございます」の挨拶から始まって、出欠点呼、諸連絡。終礼でも諸連絡があって、先生が「今日の掃除当番はA班」とか確認して、先生に監督されながら掃除していた。

 昭和45年の宮之森高校では昼礼ということになっている。

 昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴ったら、生徒は教室に入る。で、担任の先生がやってきてSHR(ショートホームルーム)って建付けになってるんだけど、先生はめったにやってこない。だから、このごろは五時間目の予鈴が鳴らないと生徒も教室に入らない。

「必要なことは自分の授業で連絡するからいいんだ」

 謹厳実直そうなうちの藤田先生でも、そう言う。

 これって、良くないと思う。

 不慮の事故とかで生徒が居なくても(交通事故とか、無断欠席とか、家出とか)学校は気づかない。

 自主性の尊重とか言うけど、手抜きの一種だと思う。

 

 ま、いいけど。

 

 今日は珍しく、その昼礼があって、藤田先生が『職員・生徒名簿』を配った。

 文庫本の縦横を逆にしたようなサイズの小冊子で、教職員と生徒全員の住所と電話番号が載ってる。

 こんなの配って――不幸の手紙は止めよう!――とか言って、ちょっと矛盾だ。

「で、今から配るプリントはクラスの緊急連絡網だ。めったに使うことはないが、大事に保管しておくように」

 みんな、ざっと目を通してカバンにしまう。

 ちなみに、我が家のそれは令和の時代の固定電話。

 まあ、お祖母ちゃんは引退したとはいえ魔法少女。わたしのスマホ同様、たぶん使えるんだろう。

 でも、家庭訪問とかされたらヤバイから、品行方正を心がけよう。

 十円男の加藤高明は、名簿を繰りながら、時どきチェックを入れてる。変なやつ。

 

「ちょっとクラブ見学したいんで(^_^;)」

 

 放課後、ロコは、そうことわって本館の方に駆けて行った。

「うん、じゃ、またね」

 と、今日は一人で帰る。

 ロコは、人に依存するタイプだと思っていた。

 ハナから部活はやる気は無いので、放課後はロコとつるんで帰るのがルーチン化していた。

 オタク気質の子だけど、さすが、昭和の女の子だと、ちょっと嬉しい。がんばれロコ!

 

 駅に向かって歩いていると、ちょっと……いや、相当に香しい臭いがしてくる。

 

 どこかで浄化槽が爆発した!?

 角を曲がって見えてきたのは、宮之森市のマークを付けたバキュームカー。

 令和でも、たまに見かけるけど、ここまでの臭いはしない。

 そうか、この時代は下水が完備してないんだ。バキュームカーも消臭機能とかは充実してないんだよね。

 道幅は4メートルほど、ちゃんと左に寄せてくれているんで、バイクだって通れるんだけど、申しわけないけど手前のところで横道に入る。

 だいたいの見当をつけて商店街に入る。

 商店街は映画館があるところで曲がっているので、その先やら枝分かれした道は初めてだ。

『服部模型店』というのが目に留まる。

 プラモ屋さんだ。

 叔父さんがガンプラ趣味なんで、プラモのプの字くらいは分かる。

 ランドセル背負った小学生が三人、ショーウィンドウに張り付いている。

 チラ見すると、戦艦大和やらの軍艦や飛行機、自動車のプラモの完成品が並んでいる。

 え、ガンプラ無いんだ。

 叔父さんに連れられて行った電気街のプラモ店は、全店ガンプラ。ソフマップにも行ったけど、半分くらいはガンプラで、プラモ=ガンプラだと思っていた。

 並んでる完成品は、どれもピカピカ。

 塗装はしてあるんだけど、なんというか、キレイ。

 大和は竣工したばかり、ゼロ戦はこれから試験飛行しますって新品の感じ。

 ウェザリングって叔父さんは言ってた。

 ラッカー系の塗料で塗った後、エナメル系の塗料で汚しを入れて、エナメルの溶剤でボカシたり滲ませたりして実感を出す。仕上げはファンデみたいなので、まさにお化粧の感覚。

「ちょっと、アヤシイ」

 そう言うと「い、いや、こういうものなんだって、プラモは(^_^;)」と弁明していた。

「おねえちゃんも、模型やるの?」

 小学生が、首を捻って聞いてくる。

「アハハ、親類の叔父さんがね……ここって、安いの?」

 値段が5円とかの端数が付くものが多いので、そんな気がした。

「うん、5%引き」

「向こうの店は10%引きだぜ」

「え、向こうにもあるの?」

 教えてもらって脇道に入ると、文具屋を兼ねた店があって、服部模型店よりも微妙に安い値段がついていた。

 映画館といい、プラモ屋といい、写真館といい、令和では見かけなくなったお店が元気。

 というか、商店街自体が、すごく元気。

 三波春夫の『こんにちは~こんにちは~』をいつの間にか口ずさみながら電車に乗った。

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子             1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長
  • 須之内写真館            証明写真を撮ってもらった、優しいおねえさんのいる写真館

 

 

 

 

 

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RE・かの世界この世界:108『ヘルム島間近』

2023-05-25 06:24:21 | 時かける少女

RE・

108『ヘルム島間近』ブリュンヒルデ 

 

 

 

 ヘルム島で修理をすることになった。

 
 ポチの働きでパラノキアの巡洋艦を撃沈させたが、肝心の乗船シュネーヴィットヘンがグラズヘイムまでの航海に耐えられなくなってしまったのだ。

「無茶をせずに帰還できるな」

 あいにくの霧の中、島の輪郭が見え。船の応急処置の手伝いから戻ってきたヤコブに声を掛ける。

「船の修理に一か月はかかります、その間に解決できればいいんですが」

 レーゲ海の宝石と言われるヘルム島だが、ヤマタという島の邪神に四年に一度、十七歳の処女を生贄に捧げなければならない。

 今年はヤコブ伍長の妹が指名されているのだ。折からの休戦、彼は脱走同然に部隊を抜け出して島を目指しているのだ。むろん、生贄に出される妹を救うためだ。

 そして、相談したわけではないが、我々はシュネーヴィットヘンの修理が終わるまではヤコブを助けてやろうという気持ちになっている。

「でも、せっかくの島が見えないよ」

 ケイトが女の子らしい不満を言う。レーゲ海の宝石とあって、少女らしい期待を持っているのだ。ロキは船のコックから美味しいと聞いたシーフードを想像して目をへの字にしている。タングリスは渋い顔をしていたが、グラズヘイムで待ち構えている試練の予行演習になるだろうと思い直してくれた。テルは「あ、そうか」と頷いただけ、ムヘンで知り合ってから気心は知れたと思ったが、ときどき分からない表情をする。ポチは……

「チョロチョロしてると首輪をつけるぞ(;`O´)!」

 テルに作ってもらった新しい服が嬉しいのと、未知のヘルム島への期待で四号やら甲板やら手摺の上やらを子犬のようにチョロチョロしている。子犬とちがって空中も飛べるので視界に入ると煩わしくて仕方がない。

 かくいうわたし、ブリュンヒルデはひしひしと闇の力が漲るのを感じている。予知能力などは備わっていないと思うのだが、漆黒の姫騎士の血が来たるべき試練を予感して暗黒エナジーのたぎりを感じているのかもしれない。

 

 おおーーーーーーー!

 

 船のデッキから一斉にどよめきが起こった。

 立ち込める霧の中に刀の刃文のような輪郭しか現わさなかったヘルム島。それが、神の力によって蒸発させたように数秒で霧が文字通り霧消して、フルカラーの姿を現したのだ!

 世界でただ一つ、我が父であり主神であるオーディンに服ろわざる(まつろわざる)島。

 それは、世界中の画家を集めても書ききれないほどに光と色彩に満ちた夢の島だ。

 近づくにつれ、色彩と遠近感が備わり、差し渡し一キロほどの間隔をあけた二つの岬が女神の腕(かいな)のごとくに奥つ城のヘルム湾を抱いているのが分かる。

 ヘルム湾は西北に奥まっていて、船が岬に近づくにしたがって装いを顕わにし、船は十ノットほどの微速になって、しずしずと湾内に入っていく。

 ドーーーーーン

 岬の灯台を過ぎたところで砲撃の音がした!

 

☆ ステータス

 HP:13000 MP:150 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・80 マップ:8 金の針:0 所持金:5500ギル(リポ払い残高29000ギル)
 装備:剣士の装備レベル30(トールソード) 弓兵の装備レベル29(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:シルバーヒール(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)

 
☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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銀河太平記・162『漢明大ドンケツ試合』

2023-05-24 16:19:32 | 小説4

・162

『漢明大ドンケツ試合』越萌マイ(児玉元帥) 

 

 

 横須賀の士官学校では、海軍と合同で年に一回謝恩祭というのをやっていた。

 

 謝恩祭とは、なんとも女子大の謝恩会のように慎ましく優し気な名称だが、学校側も地元の人たちも楽しみにしているワイルドな一大イベントだ。

 盛り上がったのは『日米対抗奇襲試合』だ。

 日米の海軍基地は横須賀湾を挟んで向かい合っている。

 号砲とともに、日米双方から50ミリ山砲を載せたカッターを漕ぎだす。総勢8名を載せたカッターは、湾の中央ですれ違い、敵の仮設埠頭まで漕ぎつけると、8名で山砲を揚陸、弾を込めて三発発射する。発射する弾はセレモニー用の染色弾で、赤青黄の煙を曳いて、300メートル先の的に当たる。的には三色の弾痕が着いて、命中成績が一目瞭然。三発発射し終わると、砲を分解してカッターに積むこみ、行きと同様に全力でカッターを漕いで味方陣地に戻って待機姿勢をとって完了。

 スピードと命中精度、パフォーマンスの総合成績で勝ち負けが決まり、謝恩祭一番人気のイベントだった。

 しかし、なんとも男臭く、配点方法が複雑で、けが人も絶えないことから、わたしが二年生の時に新しい競技が始まった。

 その名も『横須賀大ドンケツ試合』。

 プールに六個の円形フロートを浮かべ、その上に背中合わせで二人組が向かい合い、ホイッスルとともに尻で押し合いをやる。

 参加条件は12歳以上で性別も官民の別も問わない。

 ドンケツというのは駆け引きが重要で、体力、体格は、さほどには影響されない。

 古参の兵曹長が、飛び入りで参加した小6の女の子にあっさり負けた時などは、現場でも、市内各所に置かれた3Dモニターの前でも、爆笑と大喝采だった。

 グランマが、まだ惟任美音(これとうみおん)の本名でドブ板通りのマドンナだったころに参加してくれた。

 グランマの見事な尻さばきで、自分は兵曹長に続いて負けを喫してしまった。

 後にも先にもグランマと肌を接したのは、あれ一回キリ。

 二回戦でグランマは施設科の女子生徒に負けてしまったので、彼女とのスキンシップは自分一人だけになり、同期の仲間からは――このラッキースケベ野郎!――と、キツイ眼差しで羨ましがられた。

 この恥も外聞も捨てた謝恩祭は好評で、謝恩祭の前後ニ三か月は、基地や兵学校、軍への風当たりも弱くなり、世間からは『遮音祭』と揶揄されつつも喜ばれた。

 

 それと同じことを漢明海軍大学で、今まさに行われようとしている。

 

 漢明らしく、盛大に花火が打ち上げられ爆竹が鳴り響き、上空には景気づけのドローンが編隊でアクロバット飛行をして雰囲気を盛り上げている。

「なんだか、日本のパクリっぽいなあ」

「なに、こういうイベントのルーツは米英の士官学校にある、どっちも同じだ」

「盛り上げ方は、漢明の方が面白い」

「問題は中身だ」

「あ、おい、酒瓶の中身がないぞ」

「え、もう飲んじまったのか?」

「じゃあ、ジャンケン!」

「待て、メインイベント始まるぞ!」

 士官食堂の大型プロジェクターで、噂の漢明軍体育祭を見ている。

「急きょ開催した割には、けっこう集まってるなあ……」

「反乱軍部隊にも声を掛けたって言うじゃないか」

「ああ、とにかく『いっかい漢明全軍で弾けよう』という大統領のアイデアだそうだ」

「優勝を当てた者には、国籍を問わず賞金を出すって言うんだから、劉宏大統領もなかなかだぜ」

 そうなんだ。種目ごとに賭けることができて、賭け方も連勝単式とか、賭け事に縁のないわたしには分からん魅力的な方法をやっているとかで、世界中のどこからでも賭けることができる。

 大統領の肝いりで、今朝までに三千万人が賭けたというのだから、恐れ入る。

 これが好評ならば、以後は世界中の軍隊に呼びかけて、ワールドアーミーの大運動会にしようと劉宏大統領は提案しているらしい。

 

 そして、いよいよプログラムは話題のドンケツ試合になってきた。

 

 海軍大学の50メートルプールには100のフロートが浮かべられ、一つのフロートに4人の介添えに支えられて2人づつの選手が乗る。

「なんか言ってるぞ」

 いよいよ試合開始になって、アナウンスが入った。

―― プールサイドで転倒して故障者が出ました。よって、第一試合は99組198人の選手で……お待ちください……なんと、故障者の代わりに劉宏大統領ご自身が試合に参加されます! ――

 ウワアアアアアアアア!!

 歓声が上がったのは会場ばかりではない。わが士官食堂の面々も拳を振り上げて盛り上がる。

 準備していたわけでは無いのだろうが、なかなかの戦略眼だ。

 どこをどう抑えれば『盛り上げられるのか?』『友好的な空気を作れるのか?』という戦術変更ができるかということを本能的に知っている。

 厨房のおばちゃんたちまで、手を停めてプロジェクターに目を向けた。

「劉宏さん、大丈夫なの?」

「多少は元気になったみたいだけど……」

「現役の学生や軍人相手じゃ……」

「でもまあ、ドンケツなんだから」

「ちょ、あんたのオケツじゃま」

「あ、これはケツレイ(^_^;)」

 ――相手役の選手は……なんと、統合参謀本部議長のお孫さん、呉麗花ちゃんが出ることになりました! 麗花ちゃんは福建小学校の6年生で……――

「あ、伝説の謝恩祭と同じになってきたねえ!」

 お岩さんまで、厨房から出てきて、わたしの横に腰を下ろした。

 北京の北大街大酒店での劉宏大統領の様子が思い出される。

 新薬と入れ替えになった医療団のスキルが功を奏し、奇跡的な回復を見せたという。

 つくづく化け物みたいなやつだ。ひょっとしたら、北大街大酒店で見せた姿はフェイクだったのか?

「アハハ、こりゃ、ひ孫とひい爺さんだわ( ´艸`)」

「いや、あの骨柄はなかなか……」

 及川市長まで、やってきた。

「「「おお!」」」

 女性陣から声が上がる。

 ジャージを脱いで水泳パンツになった劉宏……さすがに萎びてはいるが、体幹の逞しさは現役時代のままだ。

 漢明の会場からも好意的な歓声が上がる。

 その歓声に応えるように手を上げ、フロートに飛び乗った姿は、あっぱれ往年の劉宏将軍だ。

――会場のみなさんにお伝えします。劉宏将軍の勇気に敬意を表し、その御健康ぶりを祝し、まずお二人の試合を先行して行うことにいたします――

 

「……なんか間を開けますね」

 及川市長が品行方正な疑問を持つ。

「お客が賭ける時間を空けてるんだよ、ほら、ごらんな……」

 なるほど、我が士官食堂でも、あちこちで賭けなおしが始まった。

「あれ、お岩さんは賭けないの?」

「ちょっとね……」

 不敵に腕と足を組むお岩さん。シゲ老人のカップもメグミのサーターアンダギーを持つ手も停まっている。

―― 各就各位,预备,跑! ――

 漢明語で号令がかかり、身長差50、年齢差60のドンケツ試合が始まった!

 

 ☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
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