千早 零式勧請戦闘姫 2040 

34『クロックの配達日記』
市庁舎の上にゼロ戦が戻ってきた。
先月は突如、市庁舎の上空で米軍機との空中戦になってしまった。
ゼロ戦がバタバタと撃墜され、付近の建物や道路に墜落。リアルなホログラム映像なので一時はパニック状態になったが、九尾市を挙げての『ゼロ戦100周年』、コンピューターがハッキングされたが無事に復旧したということで再開されている。
「こっちは復旧したけど、バブルの森は振出しだなあ……」
キュービック(最上階の展望レストラン)の窓際席、今日はランチの後、渋茶で粘っているアカリン市長だ。
先日、自ら調査に入ってバブルの森が異常であることを確認してしまった。
森の中心部分が熱を持って軟弱になっているのだ。堆積した腐葉土の異常発酵だとされているが、症状は地層の深いところまで及んで、現在は森への立ち入りは禁止されてしまっている。
このままでは、誘致するはずだったロボット工場は進出を白紙に戻すだろう。
地上に目を落とすと、宅配便の車が停まって配達の真っ最中。人が付き添っていたはずだったが、いつの間にかロボットが一人で仕事をこなしている。
「おやおや……」
交差点で、ロボットは一旦停止し、左右を確認してから道を渡った。
ロボットは衛星や監視カメラとリンクしているので、わざわざ立ち止まって視覚的な確認など必要ないのだが「危なく感じる」「子どもたちが真似をする」という苦情が出て、ギミックとして停止と左右の確認をやっているのだ。
「これからはロボットの時代なんだけどなあ……」
宅配ロボットは一台で宅配トラック二台分の値段がする。大手のクロクマトヤマだから導入できているが、中小の業者に広がるのにはもう少し時間がかかるだろう。しかし、先進国では税制優遇などの措置が講ぜられて工場や研究施設が作られ始めている。
「なんとしてでも誘致しなくっちゃ……」
ブゥゥゥゥーーーン
抑制されたエフェクト音をさせて窓の外をゼロ戦が横切った。
「ゼロ戦は飛び立たせるだけだったけど、ロボットは九尾の基幹産業に育てなくっちゃねえ……」
配達を終えたロボットが、交差点の向こうで左右を指さし確認。
「え?」
その指が、自分を差した。
コンニチハ アカリンシチョウ(^▽^)/
目の前の窓ガラスにロボットらしい片仮名でメッセージが投影される。
ロボットが指差し確認した指の先からレーザーで投影している。
思わずアイドル時代のように笑顔で手を振り返す。
市長室に戻ると、PCのネットニュースが新着のシグナル。
クリックすると『配達の途中、市長さんにご挨拶したら笑顔が返ってきました』と、ついさっきのロボット。
タイトルは『クロックの配達日記』とあって、クロクマのロボット配達開始のキャンペーンの一つだと知れた。
☆・主な登場人物
- 八乙女千早 浦安八幡神社の侍女
- 八乙女挿(かざし) 千早の姉
- 八乙女介麻呂 千早の祖父
- 神産巣日神 カミムスビノカミ
- 天宇受賣命 ウズメ 千早に宿る神々のまとめ役
- 来栖貞治(くるすじょーじ) 千早の幼なじみ 九尾教会牧師の息子
- 天野明里 日本で最年少の九尾市市長
- 天野太郎 明里の兄
- 田中 農協の営業マン
- 先生たち 宮本(図書館司書)
- 千早を取り巻く人たち 武内(民俗資料館館長)
- 神々たち スクナヒコナ タヂカラオ 巴さん
- 妖たち 道三と家来(利光、十兵衛)
- 敵の妖 小鬼 黒ウサギ(ゴリウサギ)