大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・オメガとシグマ・93『マッジさんと七人のマッチョ』

2018-11-16 07:18:12 | 小説3

 


オメガとシグマ・93松ネエのターム

 

『マッジさんと七人のマッチョ』



 ほら、違うでしょ?

 座りなおしたミリーさんは二割増しフレンドリーになった。


 昨日、ミリーさんがオバマ先生を連れて見まいに来てくださった。
 ニ十分ほどで居合わせたみんながフレンドリーになって、ベッドでひっくり返っているわたしを含め、とても充実した時間を過ごせた。

 それが、マッジさんの気配りからなんだと直感はしたものの、具体的にマッジさんがどうやったのかは分からない。

 それで、今朝も見舞ってくださったミリーさんに聞いてみたのだ。

「椅子を引いて座って頂く時に、ほんの二三センチ近くして、方向もみんなが向き合うように微妙に変えるの。すると、座り直した時に……こうなるワケ」
「なるほど、それが自然にできちゃうわけですね」
「でも、みんなに同じことをやったら気づかれる。気づくととたんにぎこちなくなる」
「ですよね、不自然な圧を感じます」
「だから、お茶を出したりクッキーを出したりするときに……そうね、例えばもなかさんは、少し距離があっても手を出すから、このへん」
「ほんとだ、わたし自分から近づいて行ってる!」
「むろん、みんなに仲良くお喋りがしたいという気持ちがなくっちゃだめなんだけど。ま、そういう空気も読んで、自然に雰囲気が出来るように、ね」
「そういう気配りって、メイド喫茶のマニュアルじゃできませんよね」
 チロルさんが感動して、男みたいに腕を組んだ。
 メイドが人前で腕を組んではいけないんだけど、休憩室なんかでリラックスするとやってしまう。彼女の魅力は可愛いルックスの下に潜んだ男らしさなのかもしれない。

「テニスコートの準備が整いました」

 マッジさんが、テニスウェアーで現れて、みんなに告げた。

 今日は、わたしも回復して、ホテルのテニスコートを借りてテニスをすることになっているのだ。
 わたしがこんなだから、マッジさんが手配をしてくれたんだ。
 マッジさん自身、ハイスクールでは、かなりの腕だったようで、コーチをかって出てくれた。
「わたしはランチの予約をしてからまいりますので、みなさんお先にどうぞ、三番コートです」
「すみません、なにからなにまで」
「いいえ、こういうの好きですから」
 マッジさんと分かれてテニスコートに向かう。
「じゃ、楽しいテニスを」
 ミリーさんはお店があるので駐車場の方に消えて行った。

 あ、あれ~?

 三番コートには先客が居た。
 それもマッチョな男の人たちが七人も。
 
 七人とも短髪のサングラス、人種はまちまちだけど、チューインガムを噛んでいる口から漏れるのはネィティブな英語だ。
「すごいタトゥーだ……」
 チロルさんは、男たちのTシャツの下に隠れている刺青を目ざとく見つけた。
「ちょっとヤバイ感じ……」
 あたしたちはジワジワと後ずさって、テニスコートの入り口まで戻った。

「どうしたんですか?」

 ランチの予約を終わったマッジさんと出くわした。
「分かりました」
 事情を説明すると、マッジさんは、ツカツカと三番コートへ。

 ヘイ、ミスター!

 最初の一言しか分からなかった。
 双方早口の英語(ゆっくりでも分からないけど)の上、ほとんど怒鳴っているし、わたしたちはビビってる。
「ヤバいわよ、通報した方が……」
「「う、うん」」

 通報と言いながら、三人の脚は動かない。
 マッジさんが、完全に囲まれてしまったときは、正直ちびりそうになった。
 一瞬、男たちがいっせいにわたしたちを睨んだ。

「「「ヒッ!」」」

 五歳の時にお化け屋敷に入って以来の悪寒が背中を走る。
 すると、男たちが早足で、わたしたちのところにやってくる。
 瞬間意識が飛んだかもしれない。
 気づくと、マッジさんが目の前に居た。
「ダブルブッキングのようです、あちらといっしょにフロントに掛け合ってきます」
 そう言うと、再びマッジさんは男たちに囲まれてホテルの本館に向かった。

 生きた心地もしなかったけど、結論は直ぐに出た。

「フロントのミスでした。あの人たち、いっしょにやろうって言ってますけど、どうしましょうか?」

 で、けっきょくマッチョ七人組と、テニスをする羽目になってしまった!
 

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高校ライトノベル・オメガとシグマ・92『マッジさんが誘導していたんだ』

2018-11-15 06:11:21 | 小説3

オメガとシグマ・92松ネエのターム

『マッジさんが誘導していたんだ』



 もう少し早く声を掛けていたら……。

 マッジさんは、枕もとで凹んでいる。


 右わき腹の傷跡は、やっぱり目立ってしまった。
 もなかさんだけじゃなくて、ビーチに居た人たちの少なからぬ視線も集めてしまった。
 むろん、お行儀のいい水泳客ばかりだから――お気の毒に――というものばかりだったけど、どんな目で見られようと、もなかさんにはプレッシャーだ。

 おまけに、わたしは具合が悪くなった。

 直射日光に晒されたのがまずかったのだろう、傷跡がつっぱらかり、右わき腹全体が痛み出したのだ。
 そのため、夕食も食べずにベッドでひっくり返り、マッジさんの世話になっている。

 マッジさんが二度目のため息をついたときにドアがノックされた。

「ミリーさんが来られたわよ」
 マッジさんの応対を待たずに入って来たのはチロルさん。そのチロルさんの次にもなかさんのエスコートでミリーさんと、引退したお相撲さんのような男の人が入って来た。
「ビックリしたわ、日本でのこと、何も知らなかったから……どう、おかげんは?」
「申し訳ありません、わたしが付いていながら」
 マッジさんの恐縮した肩に手でポンポンと慰めた後、引退したお相撲さんを紹介するミリーさん。
「お医者様に来ていただいたの、わたしが五十年診ていただいているから太鼓判よ」
「五十年も!」
「わたしは二代目です、シバラク・オバマと言います」
「なんだか大統領みたいでしょ」
「わたしはシバラク、それにバラクは前の大統領ですよ、さ、脈から……」
 毛むくじゃらの手にビビったけども、腕を掴んだ手は、とても優しかった。
「傷跡を見せてもらっていいですか?」
 男の先生に見せることよりも、女四人に見られる方が極まりが悪い。
「きれいに縫合してあります、ただ術後の日数がたっていないので、ちょっと無茶でしたね。水着になるのにドクターの許可は得ましたか?」
「術後は一回行ったきりで、そのあとは行ってないんです」
「それは、またどうして?」
 わたしは、薄情な女医さんのことをまくしたてた。
「アメリカなら訴訟になりますね、ま、そのままほったらかしにした貴女も豪傑ですけどね」
「わたし、日本に帰れますでしょうか……?」
 凹んでいるマッジさんともなかさんを元気づけるために、おどけて聞いてみた。
「こんなチャーミングなメイドさんなら、そこのお友だちもいっしょに出国を阻止したいところですけどね」
「オバマさんは、うちのお店の常連さんなのよ」
「@ホームはスバらしいですよ、とってもファンタジーです。わたしも、後継ぎが出来たら妖精さんになりたいですね」

 妖精さん? 瞬間戸惑ったけど、メイド喫茶のスタッフ(妖精さんと呼ぶ)のことだと思い至って笑わせてもらった。

 気が付いたら、わたしのベッドを中心にして輪が出来ていた。
 わたしに人望があってとか、みんなが気を遣ってというんじゃない、気が付いたら部屋のスツールや椅子がそうなっていて、みんなで仲良くお茶会になっていたのだ。

 オバマ先生が帰ってから気が付いた。

 お茶を出すタイミングとテーブルの移動、さりげなく輪になるようにマッジさんが誘導していたんだ。
 

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高校ライトノベル・オメガとシグマ・91『ワイキキビーチだ!』

2018-11-14 06:48:10 | 小説3

オメガとシグマ・91松ネエのターム

『ワイキキビーチだ!』



 同じ27度でも、こんなに違うんだ。

 ビーチまでの道中で思った。
 道中と言っても芝生の緩い坂を、ほんの数十秒なんだけどね。
 ホノルルのワイキキビーチは、とても爽やか。

 ホテルのドアを出て直ぐにワイキキビーチ。

 昨日は、同じ27度のアキバを歩いていた。
 駅から@ホームの往復だけなんだけども、五分足らずの道中で汗みずくになった。
 それが、水着の上から厚めのTシャツを着ていても、お肌はサラサラだ。
 やっぱ湿度が違うんだろうか。

 ビーチはカラッとしているけど、わたしの心は、少し湿度が高い。

 水着は着たものの、Tシャツを脱ぐことにためらいがある。
 右のわき腹には、まだ初々しい傷跡があるんだ。

 ほら、連休の狭間、秋葉原駅でもなかさんがストーカーに襲われ、助けに入ったら刺されてしまった、あの傷。

 水着にならないのが順当なんだろうけど、それじゃもなかさんが気にするだろう。
 ワンピースにすれば、傷跡も隠れるし、ビーチにまで来ながら水に浸からないという不細工なことをしなくても済む。
「やっぱ、ワイキキビーチならビキニだよね!」
 そう誓い合ったのは、ミリーさんに招待されてハワイに訪れた先月のことだ。

 パインさん

 わたしを源氏名で呼ぶ声がした。
「あ、マッジさん」
 ミリーさんから、わたしたちの世話を頼まれているマッジ.ヘプバーンさんだ。
 ほら、ミリーさんの家でパーティーをやったとき、人数が13人になることを避けるために呼ばれた人。
 パーティーじゃ目立たない人で、今回お世話していただくことになって、到着した時に流ちょうな日本語で挨拶されたのでビックリした。
「パインさん、気にしてらっしゃるんじゃないですか?」
 そう言って右の脇腹を指した。
「え、あ、えと……」
 ビックリした。なんでマッジさんが知っているんだ!?
「レンタルならワンピースのがあります」
「でも……」
「ジュースがこぼれて着替えるというアクシデントはどうでしょう?」
「あ……」
 うまいことを考えるもんだと思った。

 二人ともー、早くおいでよ!

 チロルさんが手招きしている。
「うん、いま行く!」
 Tシャツを脱ぎながら二人のいる波打ち際へ。
 二人の目が、瞬間だけど傷跡に来る。その瞬間の半分くらいの間、もなかさんの表情が曇る。
「さ、いっぱい泳ぐぞーーー!」
「「オーーー!」」
 三人の声が揃って、わたしたちのバケーションが始まった。

 最初はショックでも、わたしが元気にしていればいい話なんだもんね!
 

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高校ライトノベル・オメガとシグマ・90『ラッキーな創立記念日はアキバで!』

2018-11-13 06:48:10 | 小説3

オメガとシグマ・90オメガのターム

『ラッキーな創立記念日はアキバで!』




 アキバの青空は格別だ。

 ビルやJRの高架に囲まれ、また、中央通などを除いて道幅が狭く、アキバの空は四角く切り取られている。
 学校のグラウンドを見上げて見える半分以下の空しか見えない。
 そんな空でも、しっかり五月晴れになっていると、シャレじゃないけど晴々して深呼吸なんかやってみる。

「それは、創立記念日だからですよ!」

 そうなんだ、シグマの言う通り、今日は学校の創立記念日なんだ。
 増田さんは、伯母さんの葬儀が終わって昨日帰って来た。
 本来なら――サブカル研の親睦会を兼ねて、アキバにゲームを探しにいく!――というアイデアは一週遅れるはずだったんだが、運よく創立記念日の月曜日。俺たちは連れ立ってアキバにやって来たのだ。
「フーーー、あんなに安いとは思いませんでした!」
 ラジ館・ソフマップ・アニメートと回ったところで、増田さんはため息をついた。
「そうよね、10円なんてのもあるんだもんね」
 コンシューマー化されたゲームを買うのが目的だったが、天下のアキバだ、いろんなものが目につく。
 シグマや風信子が増田さんの気をひいている間に、俺とノリスケは格安エロゲを仕入れることを忘れなかった。
 むろん、第一目的のコンシューマー化されたゲームも仕入れた。
 懐かしの『ツーハート』や『この青空に』を最初に買った。ああかじめネットで検索してあったので発見は早い。
 でも「お、こんなのもある!」的な発見の連続だ。
「ラノベって、たいがいゲームになってるんですね!」
 あまりアキバに足を運ばない増田さんは、すごく新鮮なようで100円前後で買えるレトロゲームに目を輝かせている。
「大げさかと思ったけど、リュックにして正解だったわね」
 何百本も買ったわけではないけど、エロゲというのはパッケージがデカい。初版限定品なんかだとオマケが一杯ついていて特大の弁当箱かと思うくらいの大きさだ。むろんコンシューマー化されたゲームにも、そういうのがあって、終戦直後の買い出しかというくらいのリュックでないと間に合わない。

「リュックが満杯にならないうちに飯にしよう!」
「それなら@ホームだ!」
「え、あの有名なメイド喫茶ですか!?」

 アキバに行くと言ったら、松ネエがウェルカムチケットをくれたのだ。ドリンクサービス、ランチ10%引きだ。
 増田さんが喜んでくれたのが嬉しい。

「「「「「「「「お帰りなさいませ、ご主人様、お嬢様」」」」」」」」

 メイドさんたちが一斉の御挨拶。
「フワ~、こ、これがリアルメイドさんなんですね~♡♡♡!!」
 増田さんは胸の前で手を組み、瞳を♡にしアニメのように感激した。
「ハハハ、ほんとうに嬉しそうだね」
「はい、地球屋でバロンを見つけた時みたいです!」
 えと、『耳をすませば』のイベントなんだろうけど、きっちり観ていない俺には分からない。
「ハハ、空に飛んでいってしまいそうだな」
 ノリスケは増田さんの頭を撫で、シグマも風信子もニコニコ。
 ランチが終わって、サービスのドリンクが運ばれてきたときに、ショータイムになった。
「「「ラッキー!」」」
 混み具合によっては割愛すると聞いていたので、俺とノリスケとシグマはガッツポーズ。
「みなさん可愛いですねえ~~~~」
「真ん中の三人、チロルさん、もなかさん、パインさんて言って、お店のベスト3なんだわよ」
「迫力ね~」
「めったに揃わないんだぜ」

 揃った理由は知っている。あの三人のメイドさんは明日からハワイの@ホームに行くんだ。

「メイドさんのコスプレもいいですね!」
 @ホームを出ると、増田さんはすっかりメイドファンになってしまった。
「じゃ、これからジャンク通りに行くぞ!」
 ノリスケを先頭に中央通を横断した。
 中央通りと交わる蔵前橋通りからAKIBAカルチャーズZONEまで伸びる裏道、通称「ジャンク通り」と呼ばれるアキバ中のアキバだ。
 パソコンパーツに限らず、いろんなジャンク品が並んでいる。
 子どものオモチャ箱とオッサンの道具箱をいっぺんにぶちまけたような、オタクの通りだ。
「あれ、増田さん?」
 CAFÉ EURAでアイスクリームの列に並んだところで、増田さんが遅れていることに気づいた。
「あ、あそこ」
 増田さんは、一つ向こうの十字路でしきりに写メを撮っている。
「増田さ~ん、順番周って来るよ~!」
 シグマが叫ぶと、照れたような笑顔になって戻って来た。
「すみませ~ん、こういうディープなところって好きなんです。お祖父ちゃんも好きなんで写メ送ってあげました!」
 目をカマボコ形にしてペロッと舌を出す増田さん。
 こんな表情もするんだと、横を見るとノリスケも嬉しそうに目を細めている。
「それで、お祖父ちゃんから、いい情報を仕入れたんです!」

 アイスクリームを手に手に、増田さんの案内で、さらにディープなアキバに向かう俺たちだった。

 

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高校ライトノベル・オメガとシグマ・89『増田さんの忌引き』

2018-11-12 07:12:21 | 小説3

高校ライトノベル・オメガとシグマ・89
オメガのターム『増田さんの忌引き』




 昨日の祝賀会で食べ過ぎてしまった。

 ほら、菊乃の突撃新人賞受賞祝賀会。
 うちのご近所は、なにか祝い事があると寄り集まる。
 下町の義理堅さとか人情とか言っているけど、要は祝い事にかこつけて一杯やりたいというのが本音。
 でも、そういうの、俺は嫌いじゃない。
 高校生になっても、ご近所の人たちと気楽に付き合えるというのは珍しいことで、いいことだと思う。
 要は、俺も好きなんだ。
 子どもたちや呑めない人のために、酒のさかなも美味しいものが多い。

 それで食べ過ぎて、トイレに籠っている。

 でまあ、いつもより時間をかけて用を足し、すっきりした腹を摩りながらトイレを出る。
「ムッ……消臭スプレーしときなさいよね!」
 トイレを出たところに菊乃が鼻をつまんで立っている。
「ドアの真ん前に立ってるお前が悪い……なんだ、順番待ってたんじゃないのか?」
 菊乃はトイレには入らず、鼻をつまんだまま、俺の後を付いてくる。
「プハーー! 窒息するとこだった」
「おまえ、ずっと息停めてたのかよ!」
「聞きたいことがあんのよ」
「なんだよ?」
「お葬式で休んだら欠席扱いにはならないんだよね?」
「え、葬式ができたのか?」

 葬式は増田さんだった。
 伯父さんが亡くなったので休まなければならないんだが欠席になることを気にして電話をしてきたようだ。

 伯父さんなら三日間の忌引きが認められ、その間は欠席にはならない。
 そう教えてやると、菊乃はすぐにスマホで連絡をした。
「喜んでた、高校三年間皆勤を目指してるんだって」
 聞かれもしないのに教えてくれた菊乃。
 ここんとこ、増田さんは俺たちと一緒に居ることが多く、入学以来の友だちである菊乃は少し寂しかったようだ。
 電撃文庫新人賞を獲っても、やっぱ、根は十五歳の女子高生だ。そう思うと、俺もホッとする。

 そうだ!

 ホッとしたところで思い立った。

「……というわけで、サブカル研でやるゲームを考えたいんだ」
 増田さんのいない部活で俺は提案した。
 増田さんはエロゲの耐性がほとんどゼロで、こないだはモニターの画面を見て気絶してしまった。
 シグマの機転で錯覚だったということになったが、あれ以来、部活でエロゲができなくなった。
「賛成です、この際、コンシューマー化されたゲームをやってみるのも勉強になると思います」
 シグマが真っ先に賛成した。
「じゃ、サブカル研の親睦を兼ねてアキバに出向くか」
 ノリスケが具体的なプランを言う。
「そうね、でも、やるんだったら増田さんが参加できる日を設定しなくっちゃね。ノリスケ、増田さんに聞いてみてよ」
 風信子が行動の指針を示す。
 たった五人の部活だけど、なんかいい感じになって来たと思う。

 さっそくノリスケがメールを打った……。
 

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高校ライトノベル・オメガとシグマ・88『祝 突撃新人賞受賞! 妻鹿菊乃!』

2018-11-11 06:45:20 | 小説3

オメガとシグマ・88菊乃のターム

『祝 突撃新人賞受賞! 妻鹿菊乃!』




 ほんのガキンチョのころ、うちはパブをやっていた。

 で、今でもお店はそのまま残っていて、応接間代わりにしたり、時には、あたしたちの遊び場や、たま~には勉強部屋になったりする。
 でも、家族やご近所の人たちが使っているだけでは、現役当時の賑わいはない。
 お店そのものは、お祖父ちゃんのこだわりで、昔のマンマ。
 マンマなんだけど、えと……たとえばね、お客さんが出入りしていると痕跡が残るのよね。シートのレザーのテカり具合、棚に納められたグラスや食器の佇まい、テーブルやカウンターの微かなシミや汚れや傷、そういうものが違うのよね。
 シミも汚れも傷も歳をとる。二十年前のそれと夕べ付いたそれでは、かなり違う。
 なによりも空気が違う。
 空気清浄機があるとはいえ、営業していたころは、タバコやお酒のニオイ、香水とか加齢臭とか、シャンプーとかコロンとか、お客さんが運んできた外の空気のニオイとかがする。
 
 要するに、生きているお店のオーラ、閉店してからは、そのオーラが無い。

 え……?

 学校からまっすぐ帰り、お店のドア開けて戸惑った。
 お店に営業中のオーラがあるのだ。
「お祖父ちゃん、今日、人が集まったりした?」
「え、そうかい」
 ……お祖父ちゃんは、なんか隠してる。
 お店に大勢の人が集まるのは、町会とか神社のお祭りとかで、たまにあるんだけど、その感じでもない。
 でもまあ、大人の事情ということもあるんだろうから詮索はしない。

 二階の自分の部屋に戻ってエアコンを点ける。

 制服のブラウス脱いでハンガーにかける。ほんとは洗濯したいんだけど、昨日のを洗濯籠に入れるの忘れていたので致し方ない。
 着替えとタオル持ってお風呂場にシャワー浴びに行く。
 シャワ-浴びていると、お店ではない玄関の開く音がして、廊下をドタドタとお店の方に。
 足音で腐れ童貞だと知れる。

 それも、なにか重い荷物を持っている気配。
――あいつ、なに企んでるんだ?――
 先週までは、帰宅後のシャワーでシャンプーまではしなかったけど、ここんとこのムシムシでシャンプーすることにしている。
 シャワーの音に紛れて、微かにざわめきがしたような気がする。
 濡れた髪をガシガシ拭きながら廊下に出る。

「菊乃、こっちこっち!」

 二階へ戻ろうとしたらお母さんに呼び止められる。
「え、なに?」
「いいからいいから!」
「なによ……」

 お店と廊下を隔てるドアを開ける。

 パパパパパーーーーン!!

「きゃ!」
 音と閃光に思わず目をつぶった。
 恐る恐る目を開けると……お店はご近所の人で一杯だ!

 祝 突撃新人賞受賞! 妻鹿菊乃!

 横断幕が張られ、あちこちでビールの栓を抜く音、風信子ちゃんにエスコートされてお店の真ん中へ。
「よし、胴上げよ!」
 町会長夫人が黄色い声を上げて、あっという間に担がれる。

 あ、あ、ちょっと、胴上げもいいけど、オッサンたちは加わらないでよ、ちょっと、どこ触って……。

 その間に、腐れ童貞は、段ボールに入ったトツゲキ6月号を配り始めた。手伝っているのは、ノリスケ、シグマ先輩、それに増田さんまで!

 あ、ありがたいんだけど、これは……キャ!

 胴上げに力が入りすぎ、天上にぶつかってしまった!
 

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高校ライトノベル・オメガとシグマ・87『パックをペチャンコにする』

2018-11-10 06:23:22 | 小説3

高校ライトノベル・オメガとシグマ・87
菊乃のターム『パックをペチャンコにする』




 昼休みが長くなったような気がする。

 学食でランチを食べたあと、グラウンドを見下ろすベンチに腰掛けて、パックジュースをチビチビやるのが日課。
 どうかすると飲み切らないうちにチャイムが鳴っていた。
 それが、パックジュースを飲み切っても時間が余る。

 ジュルジュルルーーーーーーペコン

 飲み切ったパックジュースのストローをしつこく吸って、パックをペチャンコにする。
 お母さんは行儀が悪いというけど、子どものころからの癖でやめられない。癪だけど、腐れ童貞と同じ癖。
 ペチャンコにしたところでベンチ一つ向こうのゴミ箱に投げる。
 ストライクになると嬉しい。三回に一回は失敗し、立ち上がって拾い、ゴミ箱に捨てに行かなければならない。
 パックジュースは飲み切っておかないと、わずかに残ったジュースがペシっと飛んで制服やら顔に掛かったりする。
 でも、ペチャンコになるまで吸っとけばジュースの逆襲に遭うことはない。
「でも、かかってしまいますー」
 増田さんは、いつも失敗していた。失敗しても増田さんは、あたしの真似をした。

 ああ、そうだ。増田さんがいないから早く済んじゃうんだ。

 増田さんは、こともあろうにサブカル研に入ったらしい。
 腐れ童貞がシグマさんたちといっしょに作った同好会。サブカルチャーとか言いながらエロゲをやっていることはチラホラ噂にもなっている。
 ま、増田さんが自立して部活をやることはメデタイことなんだけど、あの増田さんが……という気持ちは拭えない。

 余った時間、あたしはこうしてグラウンドに居る生徒たちを見ている。

 観察と言うと大げさなんだけど、人を見ているのが好きだ。
 観光名所とか大自然の美しさには興味が無い、景色がいいのにこしたことはないんだけど、人間が見えてこなければ値打ちは半分。
 グラウンドを見下ろす、この場所は屋上の次に眺めがいい。
 人を見るんだったら、渡り廊下からの中庭もいいんだけど、ちょっと閉鎖的な感じと、背後を人がゾロゾロ歩くのがね。

 ヒューーーーー

 と音はしなかったけど、あたしの頭の上をペチャンコパックが飛んで、ベンチ一つ向こうのゴミ箱にストライクした。
 あたし以外に、あたしよりも遠くから飛ばす人がいるのでビックリした。

 アハハ、ビックリした?

 明るい声に首をひねると、ビバ先輩が涼宮ハルヒみたくスーパーマンポーズで立っている。
「和田先輩!?」
 わざと本名の方でビックリしておく。
「素直じゃないなあ、驚いた瞬間は瑠璃美美波瑠璃だったはずだよ」
「一応敬意を払ったつもりです」
「そっか、ま、いいや」
 そう言うと、ビバ先輩は、あたしの横にどっかと座った。
「え、えと……」
「はい、これにサインしてくれる?」
 先輩は、あたしの顔の前に雑誌を差し出した。
 目の焦点を合わせてロゴを確認すると、トツゲキ6月号だった。
「本日発売のホヤホヤ、四時間目に抜け出して買ってきたばかり」

 そうなんだ、今日は突撃新人賞のあたしの作品が6月号に掲載される日なんだ!

 でも、ビバ先輩は、わけは分からないけど、すでに『くたばれ腐れ童貞!』は読んでいる。
 それをわざわざ学校を抜け出してまで買ってきた。
 なんかある感じはしたけど、きちんと本を差し出されては、サインしないわけにはいかない。
「ども、ありがとうございます」
 サラサラとサインする。
「お~~書き慣れたサインだね~」
「アハハ、必死で練習しましたから(*´∀`*)」
 可愛いリアクションをしておく。
「よし、これで、わたしたちはライバルとして新しい局面に突入するのだよ、ひとひとまずまず」

 先輩は可愛くスキップしながら行ってしまった。

 あいかわらず目は笑っていなかった……。
 

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高校ライトノベル・オメガとシグマ・86『増田さんのお母さん』

2018-11-09 06:31:32 | 小説3

高校ライトノベル・オメガとシグマ・86
オメガのターム『増田さんのお母さん』




 忘れ物を心理学的に説明すると、こうなるんだそうだ。

 忘れ物をした場所に、もう一度行ってみたいという気持ちの現れ……だそうだ。

 そう教えてくださったのは増田さんのお母さん。


 今日、一年生は球技大会で学校に居ない。
 なので、増田さんの母さんは、直接俺に電話をしてこられた。
「よかったわ、直接お会いできて」
 忘れ物のスマホを差し出しながらお母さん。
 ちなみに、俺はスマホを二つ持っている。正月に機種変したんだけど、前のスマホもメモ帳代わりに持っている。
 あまり使わないままバッグに入れてるんだけど、コスプレ衣装に着替える時に落としたようだ。

「衣子がコスプレ衣装を着たのは初めてだったんですよ」

 エアコンの設定を変えながらお母さん。
 お邪魔した時にはキンキンに冷えていたが、汗が引いたタイミングで変えられたのだ。
「でも、とっても似合ってました。なんというのか、俺たちはいかにもコスプレでしたけど、増田さんはいかにも月島雫でした」
「親バカかもしれませんけど、あの子の才能だと思うんです」
「そうですね、あ、いや親バカじゃなくて増田さんの才能」
「見てください、あの子の衣装です」
 差し出されたのは、増田さんが着ていた雫のコスプレ衣装だ。
「……すごい」

 手に取って初めて分かった。

 俺たちが着ていたコスプレ衣装とはグレードが違う。セーラーの襟もしっかりしているし、打ち合わせの裏には『月島雫』と刺繍ネームまで入っている。
「一回解いて補整してから縫い直しているんです。それだけじゃなくて、雫は中学三年の設定なので……ほら」
「おーーーー!」
 お母さんが示したのは袖口だった。袖口は内側が軽く擦り切れている。
「軽石で擦って時代を出しているんです」
「すごいですね!」
「先月、食堂で火傷しましたでしょ」
「あ、はい」
 トレーを持った男子生徒とぶつかって、まともに熱々のラーメンを三杯もかぶって、菊乃に命ぜられて保健室まで運んだのは俺だった。
「あの火傷、痕が残るって言われてたんです」
「え、そうだったんですか!」

 連休の御神楽神社のことを思い出した。
 風呂に裸のシグマと増田さんが入って来た。一瞬のことだったけど二人の姿は焼き付いている。
 あの時、増田さんの胸には火傷の痕なんかは無かった。

「雫もわたしも火傷なんか似合わない……そう念じて、あくる日には消えてましたから」
「え、根性で治したんですか!?」
「ハハ、たまたまかもしれいけど、衣子には、なにか人並み外れたものがあるみたい。それが高校に入ってからはっきり現れてきたみたい」
「そうですね……」
「まだまだ自分の力だけでは前に進めない子だけど、よろしくお願いします」

 お母さんは高校生の俺に深々と頭を下げるのだった。

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高校ライトノベル・オメガとシグマ・85『このビルは増田さんちの?』

2018-11-08 06:38:13 | 小説3

高校ライトノベル・オメガとシグマ・85
オメガのターム『このビルは増田さんちの?』




 アニメには詳しくない俺でも、それと分かるものが一杯だ。

 もののけ姫 千と千尋の神隠し 魔女の宅急便 となりのトトロ などのジブリ作品。
 ラブライブ ラブライブサンシャイン 化物語 地獄少女 ラブプラス ドラえもん
 タイトルは分からないけど多分アメコミのキャラ そしてハリーポッター スターウォーズ えと……

 とある科学の電磁砲 はがない おれいも アルプスの少女ハイジ 魔法学校の劣等生 アナザー トリニティーセブン ブラッド うる星やつら ペルソナ4 宇宙戦艦ヤマト あしたのジョー ガンダム トゥーハート……

 俺が詰まったのをシグマが引き受けてタイトルを言ってくれる。 

「すごいよ増田さん!」
 シグマでも詰まったところでノリスケが感嘆した。意識しているわけじゃないんだろうけど、感嘆するタイミングを心得ている。
「これ、涼宮ハルヒの北高なんだけど、このブレザーのは?」
「それは『涼宮ハルヒの消失』の別世界でハルヒが通っていた光陽園学園」
「あ、そっか、あそこはブレザーだった!」
「気づいたシグマ先輩もすごいです!」

 シグマと増田さんは相似形なのかもしれない。

「でも、これだけのコレクション、どうやって集めたの?」
「えと……ここは元々はコスプレ衣装の会社が入っていたんです、それが去年倒産して、溜まった家賃が払えないので置いて行ったんです」
「てことは、このビルは増田さんちの?」
「え、あ、はい」
「ビル一つ持ってるってすごいよ」
「えと……お祖父ちゃんが元気なころに建てたんです」
「お祖父ちゃん?」
「今は入院してます」
 ビル一つおっ建てるなんて、うちの祖父ちゃんよりもすごい。

「ねえ、着てみてもいいかな?」
 シグマがノリノリの気分になった。
「あ、どうぞどうぞ、そのために来てもらったんです!」

 で、ファッションショーが始まった。

 いろいろ試した末に、俺は宇宙戦艦ヤマトの古代進に、ノリスケはルパン三世、風信子はアナと雪の女王のアナ、シグマはおれいもの高坂桐乃に変身した。

「じゃ、みなさーん、チーズです~」

 みんな並んで記念撮影、シャッターを押したのは増田さんだ。

「ね、増田さんもコスプレして撮ろうよ!」
「あ、いえ、わたしは……」
 増田さんは身を縮めてイラナイイラナイをする。
「でも、せっかくだから」
「いえ……」
「ここのコスプレ衣装って、みんなタグとか仕付けが付いたままだけど、増田さんは……」
「見てるだけで十分なんです」
「あ、そうだ、みんなで『耳をすませば』の制服着て写真撮ろうよ!」
 シグマがいいことを思いついた。増田さんはノリスケに借りた図書館の本を拾ってもらい、自分を『耳をすませば』の月島雫に仮託することによってノリスケにアプローチできたんだ。これならイケる!
「じゃ、こんなとこかな」
 シグマは数が揃っている制服を、人数分見つくろった。

「あ、それじゃだめです」

「これ似てるけど」
「ぜんぜん違います、『耳をすませば』の制服はこちらです」
 奥の方から五人分の制服とパネルを持ってきた。パネルは月島雫と天沢誠二の立ち絵だ。
 俺たちはパネルと見比べながらコスプレし直した。
 増田さんは、奥で着替えていて、オズオズと出てきたときにはビックリした。

 ウィッグを付けてメイクまでした増田さんは月島雫そのものだった……。

 

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高校ライトノベル・オメガとシグマ・84『水道橋の増田さんの家』

2018-11-07 07:01:45 | 小説3

オメガとシグマ・84
オメガのターム『水道橋の増田さんの家』




 その片鱗は見えていた。

 彼女がノリスケにビビっときたのは、ジブリアニメ『耳をすませば』の主人公、月島雫に自分を仮託したからだ。
 だから、ノリスケは彼女の想いを壊さないために付き合い始めた。
 ノリスケは、あれでなかなかのェミニストで、女の子にはずいぶん優しい。
「そでにしたら、あの子は不登校になるかもしれない」という気持ちからだ。
 最初は悩んでいた。増田さんが思ってくれているほどににはノリスケは気持ちが無い。
 でも、いろいろ気遣っているうちに、ノリスケの気持にも変化が現れてきたようだ。
「すこし積極性が出てきたみたいだ」
 彼女から「茶道部に入りました!」と報告された時は本当に嬉しそうにしていた。
 
 でも、その彼女が初めて茶道部の部活に来た時が、風信子のダブルブッキングで、わがサブカル研の活動日だったのには驚いた。

 さて、片鱗の話だ。

 増田さんは、かなりのアニメファンなのだ、正確にはアニメのコスプレファンだったのだ!
 だから、気絶から回復して、風信子が「夏コミにコスプレで参加しよう!」と宣言した時に、彼女のテンションは100倍になった!

 テスト明け最初の日曜日、俺たちは水道橋の坂道を歩いている。

「すみません、見てもらった方が早いと思いまして」

 水道橋駅の前で落ち合った増田さんは恐縮しっぱなしだ。
 彼女のコスプレコレクションは量が多いので、サンプルを持ってきてもらうよりも、俺たちが足を運んだ方が早いそうなのだ。
「東京ドームあたりにはよく来るけど、こっち側は初めてだなあ」
「うんうん」
「そうだねえ」
 神楽坂から水道橋は目と鼻の先なんだけど、生活圏は東京ドームのあたりまでで、その先は電車に乗った先の渋谷とかアキバになる。
 学校や中小の会社、それに学校が混ざっているのが特徴のようで、神楽坂と比べて賑わいが無い、逆に言えば落ち着いている。
 増田さんは賑わいが無いと言う風に感じているようで、自分の責任でも何でもないのに、なんだか済まなさそうに見える。
「この角の向こうです」

 角を曲がって示された先にはビルに挟まれるようにして『テーラー増田』の二階建てが見えた。

「「「お邪魔します」」」
「どうも、みなさんいらっしゃい」
 お父さんらしい職人さんが店舗兼仕事場で出迎えてくださった。
「お休みの日にお邪魔してすみません」
「ハハ、うちは休みじゃないから。母さん、衣子(きぬこ)のお友だちが見えたよ!」
――はーい――
「あ、あいさつなんかいいから、あの、こっちです」
 増田さんは、ちょっと不機嫌そう。友だちを呼んだりすることには慣れていないようだ。
「どうもみなさん、うちの衣子がお世話になってます」
「あ、いいからいいから」
 出てきたお母さんとの挨拶もそこそこに、作業場のドアの向こうに案内された。

 てっきり二階への階段を上がるのかと思ったら、増田さんは、もう一つのドアを開けた。

「こっちです」

 ドアの向こうは外だ。正確には裏のビルと増田さんの家の境目の路地。それを一列になって十メートルほど歩くとビルの裏口ドア。
 ビルの中に入って三階へ、増田さんはポケットから鍵を取り出した。
「ここが、わたしの部屋です」

 入ってビックリした!

 教室二つ分ほどのフロアには、まるでコスプレ店の倉庫のようにコスプレ衣装で一杯だったのだ!
 

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高校ライトノベル・オメガとシグマ・83『気絶した増田さん!』

2018-11-06 07:01:17 | 小説3

高校ライトノベル・オメガとシグマ・83
シグマのターム『気絶した増田さん!』





「「ヤバいよ!」」

 先輩二人は叫んだが、あたしは声も出なかった。

 増田さんは気絶してしまった。

――あ、みんなも居たの?……――

 続いて風信子先輩がやってきて声を上げた。

 え!?

 風信子先輩は一発で状況を理解した。
「ごめん、ダブルブッキングだ! それよりも増田さん、増田さん!」
 先輩は気絶している増田さんの肩をゆすった。
「その前に、モニターなんとかしなくちゃ!」
 オメガ先輩はパソコンのキーボードに手を伸ばした。
「待て!」
「だって、こんなHシーンが三つも並んでちゃ!」
「俺に考えがある」
 ノリスケ先輩がオメガ先輩を押しとどめ、キーボドをカチャカチャいじる。
「よし、この場面で良いだろう、そっちも無難な場面に切り替えとけよ」
「そうか、増田さんの錯覚ってことにするんだな」
「分かりました」
 あたしもHシーンを似たような構図のCGに切り替えた。主人公が女の子と出合い頭にぶつかって、倒れた女の子の上に主人公が被さるシーン。もちろん服を着ていて、普通のアニメにもよく出てくるパターン。
「ほんとごめんなさいね、てっきり今日は茶道部の部活だと思い込んで」
 風信子先輩の思い込みは無理もない。茶道部が先輩1人になってからは、茶道部の活動日でも、あたしたちはお邪魔している。
 もちろん、エロゲをやる時は風信子先輩の許可を得る。だから茶道部の活動日にあたしたちが居ても不思議じゃないし、あたしたちが居てもエロゲをやっているとは思わない。

 ウ ウ~~~~ン

 増田さんの意識が戻って来た。
「大丈夫、増田さん?」
 空気を読んで、年下のあたしが声を掛けた。
「あ……え? あ……わたし?」
「ごめんね、薄暗い部屋でいきなり三つのモニターの光で、フラッシュ効果になっちゃったんだよね」
 ほら、小さな子供がテレビ画面のフラッシュなんかで気分悪くなったり気絶したりするアレ。
「わたしがダブルブッキングしちゃって、びっくりしたわよね、ほんとごめんなさいね」
「あ、そのモニターに……あ、出会い頭にぶつかったところなんだ」
「そだよ、男の子が乗っかっちゃってるから一瞬ドキってするかもね」
「こっちのモニターは、ちょうどキラキラしていたしさ」
「あ、そうなんだ、あたしってばビックリしすぎ、ああ、恥ずかしいです!」
「ドンマイドンマイ、俺たちは、こうやって作法室間借りして、パソコンゲームとかの研究やってんだよ」
「ですよね、それをわたしは……」
 増田さんを落ち込ませてはいけないので話題を替えた。

「あのう、夏コミに参加するって話なんですけど……」

 あたしは、ペンタブを出してきて失敗した話をした。
「あ、そういう参加の仕方じゃなくって」
 風信子先輩が身を乗り出す。
「コスプレで参加できないかと思ったの」

「「「「ええ、コスプレ!?」」」」

 一人分声が多い。

 なんと、増田さんが、ビビッと目を輝かせて両手を胸の前に組んだのだった!
 

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高校ライトノベル・オメガとシグマ・82『ダブルブッキング』

2018-11-05 06:37:09 | 小説3

高校ライトノベル・オメガとシグマ・82
オメガのターム『ダブルブッキング』




 心理学部に入れそうな体験をした、それも一日に二つも。

 人の羞恥心というのは、状況に寄って大きく変わる。これが一つ目。

 たとえ新品であっても生パンを人に見られるのは恥ずかしい、程度の差はあるけど男女ともにそうだろう。
 たとえ二年前に買ったものでも水着ならへっちゃら、これも程度の差はあるけども。
「腐れ童貞!」と妹に言われてもへっちゃらだが、「オメガ君童貞?」と女の子に聞かれたらアタフタしてしまうだろう。

 サブカル研は、エロゲをやるのが部活の中心なので、部活中は際どいことでもヘッチャラだ。

「前から疑問だったんですけど、男の人ってこんなに出るんですか?」
 画面を指さしながらシグマが質問した。
 画面は、主人公の想いが成就して、ヒロインと初めての行為の真っ最中。モザイクを掛けられたソレからはおびただしい粘液がほとばしっている。
「それはデフォルメだよ、個人さはあるけど3CCから6CCくらいって言われてるなあ」
 ノリスケがゲームの誤字脱字をチェックしながら答える。
「修正パッチ出てるのに、こんなにあるのかよ」
 ノリスケのメモには二十を超える言葉が書かれている。
「多少のミスは愛嬌ってか、キャラの個性に思えて微笑ましいんだけど、こうも多くちゃ興ざめになる」
「そうだな、ここのCGはアニメ映画並なのに、こんなところでミスされると凹むよな……シグマ、なにやってんの?」
 シグマはペットボトルのお茶をティースプーンに移してチビチビやっている。
「量を実感しようと思って、ティースプーン一杯が、だいたい3CCなんです」
 こういうこだわり方は邪道だとは思うんだけど、エロゲの楽しみ方は人それぞれというのが正しいあり方なので、感想は言っても批判はしない。
「最初から潮吹くなんて、このあとの描写とかどうするつもりなんだろうね」
「わーー派手に吹いてる、これも不思議なんですよね、ほんとに潮なんて吹くものなんでしょうか?」
「男に聞くか~」
「潮吹きのメカニズムとか成分とかはよく分かってないらしいけど、昔のお女郎さんなんかはテクニックでやれたらしいぞ」
 うちは江戸時代からの置屋だったので、酔っぱらった祖父ちゃんから断片的な話を聞いている。
「いちど、それぞれが感動したHシーンの比較とかしてみませんか、あたし、名場面をUSBに残してるんです」
「すごいなあ、シグマは」
「探求心は大事だぞ」
 シグマのUSBをパソコンに繋いで品評会になった。
「やっぱ、八方備男は絵師として一押しだな」
「ポニーさんの技巧も捨てがたい」
「ネコしゃんのエロカワイさが好きです」
 モニター三台に次々と名場面を映して盛り上がる。

 人間の記憶はカテゴリーごとに別々になっていて、別々な記憶を統合するのはむつかしい。これが二つ目。

 風信子は茶道部の部長であり、サブカル研のメンバーでもある。
 もっとも、サブカル研は俺たちに作法室を使わせてくれるための方便で、風信子自身がサブカルの活動に参加することはなかった。
 だから、茶道部とサブカル研のことは、風信子の中では別のカテゴリーの中に入っていて、うっかり二つのスケジュールをダブルブッキングしてしまったのだ。

――すみません、失礼しまーす――

 声と同時に作法室の襖が開かれ、俺たち三人はサブカルモードと日常モードの切り替えも出来ずにパニックになった。
 襖を開けて入って来たのは、菊乃のクラスメートであり、ノリスケの彼女である増田さんだった。

 俺は瞬時に理解した。

 茶道部に入ったばかりの増田さんは茶道部の部活と思ってやってきたのだ。
 風信子が二つの部活の活動日を間違って教えたのだ。
 で、そんなことは増田さんには関係ない。

 増田さんの目は、目の前の三つのモニターに釘付けになった。で……

 キャーーー!
 

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高校ライトノベル・オメガとシグマ・81『ペンタブを出してみた』

2018-11-04 06:59:15 | 小説3

高校ライトノベル・オメガとシグマ・81
シグマのターム『ペンタブを出してみた』





 久々にペンタブを出してきた。

 中三の春に出来心で買った中古品。動画サイトで、あたしくらいの女の子がスラスラ描いてるのを見て欲しくなった。
 そのままネットオークションにジャンプしたら、2000円で出ていたので、そのままクリックしたんだ。

 競り落としたブツが来るまでがハナだった。ペンタブさえ手に入れば、いっぱしのクリエーターになれる気になっていた。
 机周りを、それまでのゲーマー仕様からクリエーター仕様に変更。
 プリンターは必需品になるので、インクの残量をチェック、イラストをプリントすると、インクの使用量がケタ違いになってくる。ブラックがほとんどエンプティー。
 お財布掴んで近所のホムセンへ、見つけたカートリッジの値段を見てビックリ。
 なんと、競り落としたペンタブよりも値段が高い。
 しかし、インクが無ければ話にならない……!
 思案すること十分余り。スカイツリーのテッペンから飛び降りる気持ちで買った。

 その三日後にペンタブが届いて準備万端おこたりなし!

 で、見るとやるとは大違いだった。

 ペンタブは、パソコンのモニターを見ながら、手元のペンタブに描く。
 つまりね、描いたペンタブには何も映らないで、描いたものはモニターに出てくるの。
 めちゃくちゃムズイ。
 たとえば目を描くとするでしょ、上目蓋の線を描いて、下目蓋に移ろうとすると下ろしたペン先が上目蓋の描きだし位置に合わない。
 とても手に負えるものじゃないわけ。
 改めて検索しなおすと、夏コミなんかの常連さんたちは『液晶ペンタブ』てのを使っている。

 つまりね、ペンタブが液晶のモニターになっていて、直接ペンで描いていけるってシロモノ。

 なるほど……感心はしたけど、液晶ペンタブは十万円前後する。
 あたしは、大きなため息ついてペンタブをクローゼットにしまい込んだ。

 そのペンタブを二年ぶりに出して、USB端子をパソコンに繋ぐ。

 なにを描こう……えと……どうせ上手くなんか描けない。

 エイヤ! 

 ペンを走らせるとドラえもんになった。

 意外にいけるかも!

 今度はイメージを持って描く。
 ゲームでよく見る、いわゆるイケメンを描いてみる。

 オーシ、なかなかイケる!

 なんだか、ゲームの中の立ち絵みたいなのが描けた。
 元気が出てきたので、風信子先輩にメールの添付でイラストを送る。

 すぐに返事が返って来た。

――なかなか上手いよ! やっぱ普段からよく見てるのね、オメガそっくり!――

 え、えーーそんなつもりは……*!?$%#♡¥+*%$#!!!!!

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高校ライトノベル・オメガとシグマ・80『ペンネームは瑠璃美美波瑠璃』

2018-11-03 06:41:48 | 小説3

高校ライトノベル・オメガとシグマ・80
菊乃のターム『ペンネームは瑠璃美美波瑠璃』




 読んでいるとは思わなかった。

『くたばれ腐れ童貞!』は25日発売のトツゲキ6月号に載るので、関係者以外で読んでいる人はいないはずだ。


「言葉が生きているわ、ただのツンデレの裏がえし兄妹愛じゃなくて、若者のことなかれに対する憎しみが心地よかった。ほら『女のここ一番に素通りかましやがって、そこに直れ! 使う気のない道具なんかちょん切ってやる!』って、ハサミ持って家中追い掛け回すじゃない、その時の家の描写がさ、昔の置屋の雰囲気と兄貴のヘタレぶりとか、荒ぶる神みたくなった佳乃(主人公)とが重層的で、なんか、初めてVRで観たときみたいな迫力だったわ!」
「え、なんで知ってるんですか?」
「わたし、すごいと思ったら、なにがなんでも自分で確認しなきゃ気が済まないの。そんなわたしのペンネームは瑠璃美美波瑠璃(るりびびばるり)よ」
 その上から読んでも下から読んでもみたいなビビットペンネームは、突撃新人賞の最終選考に残って最優秀を競い合った女子高生!
 書類のペンネームでしか知らなかったけど、まさか同じ神楽坂高校の生徒だとは思わなかった。

「でも、なんで発表前の作品を知ってるんですか?」

「それは言えない。そういうことも含めて、わたしの力だと思って」
「そう……」
「そんな二人が一緒になれば、きっとすごい化学変化が起きると思わない!?」
「えと……あたし部活とかで群れる気ないんで」
「……そう」

 瑠璃美美波瑠璃さんの瞳孔がさらに小さくなった。

 すると、瑠璃美美波瑠璃さんは両手でほっぺたをペシペシ叩いた。
 叩くと、それにつれて瞳は大きくなって、ちょうど五回叩いたところでレギュラーな大きさになり、そのせいか、ひどく柔和な顔つきになった。
 正直ホッとした。
 あのまま瞳孔が縮んでいったら蛇みたくなって、いや、ほんとに蛇とかになって、呼び出された校舎裏で呑み込まれてしまうんじゃないかとビビった。
「じゃ、またね。わたしのことは瑠璃美美波瑠璃でも和田友子でも好きな方で読んでちょうだい。ほんじゃ!」
 瑠璃美美波瑠璃さんは宇宙戦艦ヤマトのクルーみたいな敬礼をして回れ右をした。
 回れ右の勢いが強すぎて、スカートが大きく翻り、脚の付け根近くまで見えてしまった。あまりきれいな脚なんで、ドキリとしてしまう。
「そだ、明日から中間テスト、がんばってね。一年の一学期は先生たち締めてくるから、気を抜くと欠点だらけになっちゃうからね」

 瑠璃美美波瑠璃さんの言葉通り初めての中間テストはムズイ。

 数一の答案用紙、下1/3が空白のままに一昨日の瑠璃美美波瑠璃さんとの出会いを思い出しているあたし。

 そだ、瑠璃美美波瑠璃じゃ舌を噛みそうなのでビバさんと呼ぼう。数一のテスト時間で考え付いた最後の答えなのだった。

 

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高校ライトノベル・オメガとシグマ・79『イテ!』

2018-11-02 06:35:28 | 小説3


高校ライトノベル・オメガとシグマ・79
松ネエのターム『イテ!』




 ミリーさんからメールが来た。

 ほら、ミコちゃん……じゃわからないか、シグマちゃんのお祖母さま。
 春先に@ホームに来られてメイドカフェを気に入っていただいた。そして、ハワイ@ホームを作っちゃって、わたしたちアキバ@ホームのメイドをインストラクターに呼んでくださった。

――おかげさまで、ハワイ@ホームは順調です。月末にでも、みなさんいっしょに来ませんか? ワイキキの浜辺も待ってますよ!――

 ハワイ@ホームのメイドさんたちの写真が添付されていて、一気に懐かしさがこみ上げてきた。
――みんなと相談して、ぜひ伺います!――
 返事を打ってルンルン気分。
 自然と笑いがこみ上げてくるのは、青春真っ盛りの証拠です!

 ウフ フフ フフ アハハハ……イテ!

 激しく笑うと傷が痛む。今日のわたしは、退院後最初の通院の途中なのです。
 思わずわき腹を押える。ショーウィンドに映る姿が自分でも可哀そうなんだけど、ひどく三枚目じみて見えるのは、わたしの本性だからなのかもしれない。実際、ウィンド向こうの店員さんが笑いをこらえて俯いている。

 十時の予約だったのに、診察室に入れたのは十一時だ。

 お待たせして申し訳ありません。他の業種だったら、ぜったいお詫びの言葉から始まる。
 病院は、こういう場合でも涼しい顔で「84番の方どうぞ~」になる。
「失礼します」
「え~と……あら、ずいぶん早く退院したのね」
 挨拶に返事も返さずに、この言葉。わたしは絶句しそうになったけど、きっちり言いました。
「先生が退院しろっておっしゃったんです」
 にこやかにしているけど、目が三角になりかける。
「あ、そうだ、わたし次の日から休暇だったんだ」
 なんだって!? 休暇に入るから在庫一掃したってか!
「あれから熱が出て、別のお医者様に診ていただいて、そしたら一週間安静の診断でした」
「そうですか、で、今は?」
「笑うと痛いです」
「でしょうね、笑うとか怒るとか、感情的になるのは、即痛みになります」
 言いたいのをぐっとこらえた。
 で、けっきょく五分足らずの問診だけで終わってしまい、診察を出ようとして、なにかを引っかけた。

 ブチ! 

 音がしたかと思うと、女医さんの悲鳴が続いた。

 キャッ、データが!!!!!

 確認も同情もしないで診察室を出たことは言うまでもありません。

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