大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・オメガとシグマ・35『俺もシグマも風信子も』

2018-09-19 06:30:44 | 小説3

オメガシグマ・35
『俺もシグマも風信子も』



 ヨッチャンから電話があった。

 ほら、ヨッチャン。

 うちのクラスの担任で、ほんとは田島芳子っていうんだけど、とっつき易さと頼りなさから、親しみを込めてヨッチャンと呼ばれている。

――ごめん、木田さん海外旅行にいっちゃったんだ――

 この一言で全てが分かってしまう俺って、頭がいいのか人がいいのか、ね、実際ははもめ事が嫌なだけなんだけどね。

 木田さんてのはクラスの副委員長で、新入生登校日である今日、いろんな用事に当たっているんだ。
 その木田さんが、アウトになったので俺に救いの電話をしてきた。

 で、俺は教科書販売の案内と場内整理をやっている。

「二列にお並びください、順番が回ってくるまでに、購入用紙を出して選択科目をご確認お願いします。二列に……」
 注意を繰り返しながら、今の俺って、ゲーム発売時のゲーム屋のスタッフみたいだなと思った。
「あの、副読本もここで買えるんですか?」
「副読本は隣の教室、芸術の教材と体操服は向こうの校舎になります。いずれも購入票や引換券が必要ですのでご準備ください」
「体操服なんですけど……」
「夏用の体操服は五月の販売となっています」
「すみません、おトイレは?」
「向こうの階段の隣……」
「奨学金の申し込み……」
「本館二階の進路指導室……」
「お腹痛いんですけど……」
「一階の突き当りが保健室……二列にお並び……」

 八面六臂の働きをしていると肩を叩かれた。

「ごめんね妻鹿君、君のお蔭でスイスイ進んでるみたい、ほんと恩に着るわ」
 ヨッチャンが済まなさそうに言う。
 だけど、手にはお財布入りのポーチで、足許は下足のパンプス。これから校外に昼飯食べに行く気マンマン。
 無神経な人だけど、ほんとに助かって嬉しい気持ちが溢れている。ちょっとムカつく。
 ま、担任と生徒の関係は明日で切れる。辛抱、辛抱。

 一段落してピロティーへ。

 柱の向こう側を、制服の入った箱をぶら下げて菊乃が入れ違いにやってくる。

 これから教科書を買うようだ。ま、顔を合わせなくて正解だろう。
「ゆう君とこも落ち着いたみたいね」
 ベンチに腰掛けると、水筒持った風信子が現れた。
「風信子も動員されたのか?」
「まあね、お茶飲む?」
「お、サンキュ」
 こういうところで缶ジュースなんか出さないところが神社の娘だ。
「さっき菊乃ちゃんが来てた」
「うん、そこで行き違った」
「菊乃ちゃん、ゆう君が終わるの待ってたんだよ」
「兄妹で顔合わせたら気まずいんだろ」
「菊乃ちゃんも、そういう年頃なんだね。昔は『お兄ちゃん、お兄ちゃん』で、ゆう君の後付けまわしてたのに」
「今じゃ『この腐れ童貞があああ!』だもんな」
「ハハ、そういう年頃」
「春祭りのは凄いもの出すんだな」

 昨日のことを振ってみた。

「うん、牛込に古くからあった『田乃神祭』を復活させるんだよ」
「それにしても、あれはなあ……」
「いいでしょ、あっけらかんとしてて」
「あれにしめ縄付けてる風信子って偉いと思ったよ」
「神事だもん平気だよ」
「……で、あれってなんて呼んだらいいんだ?」

「チンポウよ」

 あやうくむせるところだった。
「まんまかよ」
「違うわよ、ウが付くのウが。漢字にしたら珍宝。れっきとした田の神様の依代」
「でもな、いきなり見たらビックリするよ」
「ハハ、だから凄いものだって言ったでしょ。百年ぶりの復元だったから、あのフォルムに決めるの大変だったのよ。さ、午後からは写真撮影のお手伝いだ」
「まだあるのか?」
「うん、ピンチヒッター。あら、あの子、ゆう君といっしょだった子、うちの生徒だったのね」
 言うまでもなくシグマだ。
「おーい、シグマ!」

「あ、先輩!?」

 ビックリして口を尖らすシグマ。
 俺はチャームポイントだと思うんだけど、人はどう感じるかなあと風信子の横顔を見たりする。
「あなたも当番だったりする?」
「はい、代理ですけど」

 この学校は代理を頼みすぎだと思う。
 で、引き受ける俺たちも人が良すぎるんだよなあ……。

 

コメント

高校ライトノベル・オメガとシグマ・34『本番が見てみたい……』

2018-09-18 05:47:01 | 小説3

オメガシグマ・34
『本番が見てみたい……』



 開いた口が塞がらなかった。

 そして目のやり場に困った。
 シグマなどは、こういうものには慣れているはずなのに、真っ赤になっている。

 お祓いの神事が終わったそれは圧倒的な存在感だ。


 三メートルほどのそれは、荷台の長さには収まらず、先端の部分が運転席の屋根に掛けられていて隆々と首をもたげている。
 稲わらで出来たそれは、根元から3/4ほどは白布で覆われて神社の名前が黒々と書かれて、いかにも祭りのモニュメントって感じだけど、そのフォルムはケシカラン、実にケシカランものだ。
 神社の鳥居の前には交番があって、もちろんお巡りさんも居るんだけど、そのお巡りさんも鳥居前まで出てきて感心したように見ている。

 だめだろー! これって完全に法律に触れるぞ!

「えと、えと、あれってあんな形してるものなんですか?」
 オズオズとシグマが聞く。
「エロゲやってて、その……知らんのか?」
「し、知らないわよ!」
「そりゃそうだ、ゲームでは大抵モザイクかボカシだもんな」
 ノリスケが平板な声で言う。こいつが本気で感動したときにはこうなる。

「車から降ろしますよ」

 そろいの法被を着た役員さんたちが荷台に上がってソロリソロリと持ち上げた。
 大きさの割には軽くできているらしく、年寄りばかりの役員さんたちは「セイヤッサ、セイヤッサ」と元気な掛け声で、地上の役員さんたちにリレーしていく。

「あれ、オメガんちの祖父ちゃんじゃん」

 リレーのお終いに控えているのは、うちの祖父ちゃんだ。
 祖父ちゃんはパブのマスターをやっていたぐらいで、どっちかっていうとハイカラな年寄りなんだけど、法被でねじり鉢巻きの姿は和風で、どこか若やいでる。
 やがて、その祖父ちゃんのところまで周ってくると、六人の役員さんがシッカと担いだ。
 そいで、巫女姿の風信子(ふじこ)が静々と、その先端に紅白の紐の付いたしめ縄を掛ける。
 介添えの役員さんが居るとは言え、それは戦艦大和の主砲ほどの直径がある。
「あ、なんだか……」
 言葉を、そこで止めたのは、シグマも普通の女子高生だということだろう。
 
 エロゲ慣れしたシグマでさえこうなのに、巫女の風信子はどうだ!

 エイっとばかりにしめ縄を回した時にバランスを崩し、なんと、その先端部分に顔を押し付けてしまったではないか。
「あ、電気屋のオヤジ!」
 介添えをやっていた電気屋のオヤジが横から風信子を支えた。
 支えたのはいいが、その左手は風信子の胸を掴んでいるではないか!

 ク、羨ましい! じゃなくて、反則だろーが!

 何事も無かったように居住まいを正すと、風信子はしめ縄を付け終った。
 役員さんたちに担がれたソレは、境内を一周して拝殿の中に収まろうとしている。
「あれの先っぽって、ガラガラの鈴に似てますね……」
 シグマは静かに感動して、俺とノリスケは、もう突っ立てるだけだ。

 帰り道、シグマは感動の熱が残った声で、こう言った。

「本番が見てみたい……」

 本番て、祭りのことか……それとも……。
 

コメント

高校ライトノベル・オメガとシグマ・33『ちょっと凄いのよ』

2018-09-17 06:24:24 | 小説3

高校ライトノベル・オメガシグマ・33
『ちょっと凄いのよ』




 凄い凄いを連発している。

 連発しているのは祖父ちゃんだ。

 平仮名の「すごい」でも片仮名の「スゴイ」でもなく漢字の「凄い」だ。
 マンガの吹き出しじゃないから、祖父ちゃんの口から漢字が飛び出してくるわけじゃないんだけど、感じとしては漢字(親父ギャグみたいだ)なんだ。

 なにが凄いかというと、昨日の大相撲春場所千秋楽結びの一番。

 前日の怪我で休場するんじゃないかと思われていた稀勢の里は、左肩から胸にかけての痛々しいテーピングの姿で大関照ノ富士を小手投げで打ち破った。
 祭りの打ち合わせに神社に行った祖父ちゃんは夜中まで帰ってこなかった。
「三時には終わったんだけどね」
 先に帰って来たお袋は晩飯のダンドリがつかないので「様子を見てきて」と俺に命じた。

「ちょっと大勝負になってんのよ!」

 社務所で声を掛けると、神社の娘で幼なじみの風信子(ふじこ)が巫女装束に似合わないテンションで告げた。
「大勝負!?」
 祖父ちゃんたちが喧嘩でもおっぱじめたんじゃないかと、素っとん狂な声が出てしまった。
「オメガもいっしょに観て行きなよ!」
 神社の豊楽殿に行くと、三十人ばかりの役員さんたちが100インチのテレビにかじりついていた。
 相撲なんて久しく見ない俺だけども、土俵で睨みあっている横綱と大関には圧倒された。

 でも、あの怪我じゃ勝てないなあ。

 圧倒されながらも俺の常識は、そう予測した。

 その稀勢の里が、見事に勝ってしまった。

 三十畳の豊楽殿は沸きかえった。WBCの準決勝戦よりもボルテージが高い。
 あっという間に豊楽殿は宴会仕様になって、ポンポンとビールの栓が抜かれる。
「妻鹿屋の若!」「ゆうちゃん!」
 俺にも声が掛かって(さすがに街の年寄りたちはオメガとは呼ばない)ビールを注がれてしまう。
「あ、どもども」
 こんなときに「未成年ですから」というのはヤボだ。
 でも酔いつぶれるわけにはいかないのでグラス二杯で勘弁してもらう。
 風信子は心得ていて、年寄りの相手をしながらも俺をエスケープさせてくれる。

「お祭りもね、この春は、ちょっと凄いのよ。明日の昼過ぎは見ものだよ!」

 逃がしてくれながらも、風信子は俺をけし掛けてくる。
 この街の子どもたちは、楽しそうなことがあると、みんなでけし掛けあうんだ。
 一人で楽しいことは二人で、二人で楽しいことは三人、三人はみんなでってな具合で広げていく。
 年寄りたちが騒いでいるのも、このけし掛けあいが根っこにあるんだろう。

 で、一夜明けた今日。

 俺はシグマとノリスケを呼んで、再び神社に来ている。
 俺もけし掛けたわけだ。

 せっかくだから、サブカルチャー研究会の発足と弥栄(いやさか)を神さまに祈る。
「あたし、この神社は知らなかった」
 二礼二拍手一礼を終えると、神社のなにかに感応したのか、シグマは興奮の面持ちだ。

 手水舎の向こうが車の出入り口になっていて、一台のトラックが停まっている。

 そろいの法被を着た氏子さんたちが、荷台のロープを外し終わって、ブルーシートを剥がしにかかっている。
 風信子が言っていた「ちょっと凄い」はこれなんじゃないかと、ここに来た時から目を付けている。
「あ、神主さんが出てきた」
 小父さんが風信子を従え、手には大きな幣(ぬさ=ハタキの親分みたいなの)を構えて現れた。

 そして、シートを剥がされ、その姿を顕わにしたものに、三人揃って感嘆の声を上げることになったのだ。
 

コメント

高校ライトノベル・オメガとシグマ・32『松ネエと二人の日曜日』

2018-09-16 06:36:19 | 小説3

オメガシグマ・32
『松ネエと二人の日曜日』



 シャワーで済まそうと思っていた。

 だって午後の一時だ、お湯はとっくに抜かれているはず。俺一人の為に浴槽を満たすのは気が引ける。俺んちは大昔の置屋の名残で風呂もでかい、ガス代と水道代を考えてしまうんだ。

 ところが予想に反して浴槽にはお湯が満ち満ちているではないか。
 いつもの「温泉の素」が入っていないので、ひたすらただのお湯。
 ま、朝湯どころかの昼湯には、こういうのが清々しいかなと納得。
 
 ひょっとしたら、このまま湯船の中で寝てしまうんじゃないかと思ったけど、頭は冴え冴えとしている。

 14時間かけてあいこルートとはまりルートをコンプリートした。
 あいこが、あんなに奔放だとは思わなかった。はまりが、こんなに尽くす奴だとは予想もしなかった。
 それに、なんだ……えと……あのいたし方が、あんなにバリエーションが豊富だなんて、興奮を通り越して感動してしまった。
 湯船に浸かっていると、その感動が風呂の湿度と熱気のせいか興奮に還元されて、我ながら慌てふためく。

――ゆうくん、昼ご飯作るんだけど、いっしょする?――

 脱衣場の外から松ネエの声。
「お、お、おぉ~~~」
 虚を突かれて、なんともみっともない返事になる。

 茶の間に行くと、ちゃぶ台の上に冷凍ものではないチャンポンが湯気を立てているので「おーー!」と素直な感動。

「今日は、あたしたち二人だけなのよ」
 スープとレンゲを置きながら松ネエ。
「え、どうして?」
「伯父さんは日曜出勤、伯母さんとお祖父ちゃんはお祭りの打ち合わせ。あ、お祖父ちゃんたらおっかしいのよ、朝からお風呂沸かして斎戒沐浴してんのよ」
「サイカイモクヨウ?」
 チャンポンに半分以上の神経を持っていかれてる俺はスカタンを聞いている。
「斎戒沐浴よ、お風呂で身を清めて身に付けるものを全部新品に着替えるの」
「あ、ああ」
 祭りの当日にやっているのは知っていたが、それがサイカイモクヨクという深海魚みたいな名称だとは知らなかった。それにチャンポンがすこぶる美味しい。馴染みの豚バラやカマボコがこんな味だとは御見それしていた。
「それで、あたしも朝風呂いただこうかと思ってたら、ゆうくんが起きてくる気配でしょ。それなら順番替えてお昼ご飯を先に作っちゃった」
 大人びてきたと圧倒されっぱなしの松ネエだと思っていたが、チャンポンをモクモク食べる様子は昔のままだ。
「菊乃は、まだ寝てんの?」
「朝一番でお出かけ、この春休みは遊びまくるんでしょ」
「え、てことは、俺たち二人だけ?」
「やだ、さっきから言ってるじゃないの」
「あ、あ、そうだっけ」
 見ると、松ネエの横には風呂の用意が置いてある。昼飯のあとに入るつもりなんだろう。
「ゆうくん、徹夜でエロゲやってんでしょ?」

 グフッ!

 口からイカの足が飛び出してしまった。
「驚くことないでしょ、@ホームで、あんなに大きな声で喋ってんだもん『小説執筆中』なんて張り紙しても丸わかりよ」
「え、あ、それは……」
「分かってるわよ、シグマちゃんが引っ張てんの。ゆうくんて、なかなか踏み外さないから、いいんじゃない、エロゲもシグマちゃんも」
「いや、あー、エヘン、オホン」
「ま、家族にはなかなかね……あたしは応援するよ。ゆうくんは少し弾けるくらいじゃないとね。ごちそうさま、じゃ、お風呂いただくわね」
「食器は洗っとくから」
「ありがと、じゃ」
 風呂の用意を持って立ち上がる松ネエ。

「あ」
「え?」

 抱えた風呂の用意からボーダーのパンツが落ちた。夕べのはまりのと同じなのでドキリとする。

 そんな俺をケラケラ笑いながら一つ年上の従姉は風呂場に向かうのだった。

コメント

高校ライトノベル・オメガとシグマ・31『俺は口走ってしまった』

2018-09-15 06:15:44 | 小説3

オメガシグマ・31
『俺は口走ってしまった』




 アキバと言うと牛丼とメイド喫茶の@ホームだ。

「なんで牛丼なんですか?」
 吊革の付属品みたいに揺れながらシグマが聞く。
「南のオバサンだよ」
「南のオバサン?」
「アハハ、そ、南のオバサン」
 一度しか会ったことが無いシグマは「?」で、馴染みのノリスケは「アハハ」だ。

 電気街口から出て駅前広場に。

 公立高校は今日が終業式なので高校生の姿が目立つ。
 たいてい中央通りのアキバメジャーや東側のヨドバシカメラに向かい、二クラス分くらいの高校生は広場でたむろしている。
 俺たちは、それに逆らって北へ。総武本線のガードを潜ってすぐの牛丼屋に向かう。
 アキバ慣れしているシグマだけど、こちら側は初めてのようで少し緊張しているように見える。
 こういう時に好奇心むき出しになる子もいいんだけど、程よく緊張しているシグマもいいと思う。
 不愛想なΣ口がニュートラルよりも尖がっている。愚妹菊乃もたいがい尖がった口をしているが全然違う。
 菊乃のは蔑みと不満の現れなんだけど、シグマは16歳の少女らしいナーバスさの表れだ。

「あ、学食のオバサンだ!」

 カウンターにお茶を運んできた南さんに気づいて、シグマは小さく叫んだ。
 緊張がほぐれて、目は親しみの色なっている。
 ナーバスだけど反射がいい。Σ口も心なし弛んでシグマらしい愛嬌になっている。
「あら、いつかの彼女じゃない」
 南さんは記憶がいい。
「学食のスペメン美味しかったです!」
「ハハ、アキバでも見かけたわよ。自衛隊の音楽隊が来た日、妻鹿君といっしょだったわね」
「あ、あれはたまたま」
「たまたまを十回早口で言ってみて」
「たまたなたまたまたまたまたまたま……またまたまた」
「ほら、またまただ」
「え、あ、いや」
 うろたえたシグマにニコニコしながら南さんはオーダーをとっていった。
「なんで、学食のおばさんが?」
「短縮授業の間は食堂閉まってるだろ」
「その間にフードコーディネーターとしての勘が鈍らないように働いてるんだ」
「そうなんだ」
「アハハ、働いてないとすぐに太っちゃうんでね、はい、牛丼並三つ! 男子は汁だくね」

 並にしたのはワケがある。

「「「「お帰りなさいませ、ご主人様、お嬢様」」」」

 そ、俺たちは牛丼の後@ホームに向かったのだ。
 むろんアキバのメジャーなところに興味も用事もあるんだけど、今日は@ホームだ。
「お嬢様、先日はどうもありがとうございました」
 店長がテーブルまでやってきて挨拶する。
「こ、こちらこそ!」
 シグマがシャッチョコバって俺が笑い、ノリスケの頭は(?)でいっぱいになる。

「と、こういうわけだ!」

 新メニューのフライドチキンを頬張りながらノリスケに種明かしをしてやる。
「すごいじゃん、シグマもお祖母ちゃんも! ね、写メとかあったら見せてよ!」
「え、あ、はい……これです」
 頬を染めたまま、シグマはスマホを取り出した。
「お! おお! インスタ栄え! いかしたお祖母ちゃんじゃん!」
 ノリスケは、こいいうところ人物で、ことさらお祖母ちゃんが外人であることやシグマがクォーターであることにアクセントを置かない。
「思い立ったらすぐの人で……」
 藤棚の下では触れなかったお祖母ちゃんの武勇伝をとつとつとシグマは語った。

 お祖母ちゃんの話に笑い転げ、新メニューのフライドチキンを味わううちにシグマも解れてきた。

「だから、エロゲは芸術なんですってば!」
 もう三十回ほどもエロゲを連発しているシグマ。
 店内のメイドさんもお客もチラチラ注目したりクスクス笑ったりしている。ちょっと藪蛇になってきた。
「きららルートぐらいで感動してちゃダメですよ! 先輩はいい人だからみすずルートにたどり着かないんですよ! みすずルートはね、他の女の子に情けを掛けちゃダメなんです! きららが情死しようがあいこが輪姦されようが、はまりが時空の狭間に消えようがゆうきが触手地獄に堕ちようがひたすら、ひったすら、みすずに構うんです! むろん裏技を使わない限りみすずルートにはたどり着けませんけどね、だからこそのみすずルートなんです! 『君の名を』はエロゲ界の新曲なんです、全ての処女のインフェルノを甘受しなければ真のベアトリーチェには出会えないんです!」

 こういうのを地雷を踏んだとかストッパーが外れたとかいうんだろう、ノリスケは笑い死に寸前だし、おれは真っ赤になって俯いてしまった。

「わあった! だから、俺がサブカル研に入ってやっから!」

 俺は口走ってしまった。



※ 主な登場人物

オメガ  妻鹿雄一  高校二年生 その風貌と苗字からω(オメガ)と呼ばれる

シグマ  百地美子  高校一年生 その風貌からΣ(シグマ)と呼ばれる みこが正しい読み方だがよしことも呼ばれる

ノリスケ 鈴木典亮  高校二年生 オメガの保育所時代からの友だち

菊乃   妻鹿菊乃  中学三年生 オメガのツンデレ妹

松乃   杉谷松乃  高校三年生 東京の大学に進学が決まったのでオメガの家に下宿 松ネエと呼んでいる

コメント

高校ライトノベル・オメガとシグマ・30『三人はアキバを目指す!』

2018-09-14 06:22:38 | 小説3

オメガシグマ・30
『三人はアキバを目指す!』



 終業式、特に三学期の終業式は格別だ。

 学年の終わりで、二度とこの教室で授業を受けることもないし、クラスメートと顔を合わせることもない。
 なんといっても宿題が無いので、一学期の始業式まで完全無欠のVACATIONだ。

 一言で言えば、高校生にとって最大最高の開放の日と言っていい。

 解放されると餌場に向かうのは、俺もノリスケもサルと変わりがない。

「終業式って、学食は休みだったんだよな……」
「去年もやっちまったよな……」
 ノリスケと二人そろってバツが悪い。
 学食は、午前中の半日授業になった日から休みだ。
 昨日まではちゃんと覚えていて、家に帰ってから食べるか、帰り道のマックなどで済ましていた。
「おーし、アキバにでもくり出すか!」
「同感!……だけど、ちょっと懐が寂しい」
 ノリスケの眉がヘタレる。サラリーマンの息子には24日というのは厳しい日だ。
「まかしとけ! 今日は俺のおごりだ!」
 俺は祖父ちゃんから諭吉を一枚もらっていた。なんでかというと、アレだよあれ。
『君の名を』をやるので「小説執筆中入るべからず」って張り紙をドアに貼った。
 で、それを額面通りに受け取った祖父ちゃんが感動してくれたんだ。
「なあに、すぐに書けなくってもかまわないだ。遊びに使ったっていい、文学ってのは無駄の回り道から始まるんだからな」
 学生時代に太宰治とかの無頼派に憧れたとかいう祖父ちゃんは孫に対しても前のめりな期待感がある。
「ほんじゃ、いっちょうくり出すか!」
「おう!」

 意気軒昂に振り返ると、財布を握りながら肩で息をしているシグマが立っていた。

「休みなんですか……食堂」

 かくして、終業式の開放感と学食への思い入れを同じくする三人はアキバを目指した。

 詳細は明日に続く!

コメント

高校ライトノベル・オメガとシグマ・29『あやまたずBをクリック!』

2018-09-13 06:23:57 | 小説3

高校ライトノベル・オメガシグマ・29
『あやまたずBをクリック!』



『君の名を』には五人の女の子が出てくる。

 みすず(主人公の従姉) きらら(ギャル系) あいこ(お嬢系) はまり(オタク系眼鏡っ子) ゆうき(体育会系)

 あいうえお順では、あいこ きらら はまり みすず ゆうき
 身長順では、   ゆうき きらら あいこ みすず はまり
 胸の大きさ順では、きらら あいこ ゆうき みすず はまり
 家の近さ順では、 みすず ゆうき はまり きらら あいこ

 五人も出て来たら混乱するので、メモにしてノーパソの横に置く。

 五人は主人公と同じ学園に通っていて、主人公との関係は隣の従姉のみすずから高台に住むセレブで高嶺の花であるあいこまで、出発点はさまざま。

 みすずは毎朝主人公を起こしにくるし、日によってはご飯まで作ってくれる。一時間やって分かったんだけど、なんと生活費もみすずからもらっている。主人公の両親は仕事で外国に行っていて主人公は一人暮らしをしている。俺んちは五人家族なんで、ちょっと羨ましい。 両親から「くれぐれも雄二(偶然だろうけども俺の名前に似ている)のことお願い」と言われているので、うるさいくらいに世話を焼く。
 他の登場人物も同じ学園なので、いろんなきっかけがあって主人公と親しくなっていくのだ。

 一つひっかかった。

 どうみても高校なのに、ゲームの中では、みんな学園と呼んでいる。
「起きろ雄二! 学園に遅刻するぞ!」とか「学園帰りに寄っていこっか?」とか、絶対学校とか高校とかは言わない。
 こういうことに引っかかると先に進めないのが俺の性格。

 いろいろ検索して分かった。

 エロゲはZ指定どころか18歳未満は買うこともプレイすることも禁止されている。ま、そのくらいのことは分かる。
――なになに……未成年への配慮と高校生以下を性的な対象とすることは、法的にも社会通念上もはばかられるので、登場人物は全て18歳以上の設定になっています――

 なるほど。

『君の名を』がたまたまなのか、こういうものなのかエロシーンというのはなかなか出てこない。

 淡々とした日常の中で、高校生らしい……って、18歳以上なんだけど、いろんな問題が起こってくる。
 勉強、友だち、部活、アルバイト、文化祭、異性への興味と反発、先生や親の無理解などなど、あーそーだよなって事件や問題が起こってくる。

 ある日なんか、こうだ。

 通学途中できららが、大きな荷物を持ったお婆さんを助けているところを目にする。
「コラー! ざけんじゃねーよ!」
 左折した自動車の尻に向かってきららが拳を上げる。
「お婆ちゃん、だいじょーぶ?」
「ええ、だいじょうぶ。ノンビリ横断していたものだから……」
「でも、お婆ちゃんのすぐ横をぶっ飛ばしていくなんてブチギレるよ!」
 きららはお婆ちゃんの荷物を持って目的地まで付き添ってやる。
 そのために遅刻し、朝礼の時に教室に入ってきて、きららは担任から叱られる。
「さーせんさーせん、マジさーせん」
 ギャル口調でいなすきららに担任がマジ切れ。

 これがフラグというものらしく、選択肢が現れる。

 A:きららは叱られ慣れているので、ま、クラスの日常だと生温かく黙って見守る。
 B:きららは悪くないので、見たことを正直に言って担任の先入観を解いてやる。

 シグマを堂本のオッサンから庇ってやったことを思い出した。やっぱ、ここは正直に言ってやるよなあ。

 Bをクリックして誤解だか曲解だかを解いてやると、休み時間に、きららから礼を言われる。
「人から、あんな風に言ってもらったのマジ初めて、ほんとありがとね」
 きららの目は、びっくりするくらい素直だった。
 こいつ、いいやつなんだ……。

 それから、きららと話すことが多くなって、気が付くと友だちになっている。

――親に心配かけるわけにいかないし……下もつかえて……留年するわけには……――
 苦しい息の下から電話してきたきららに……。

 A:体が大事だから試験は休め!
 B:よし、俺が送り迎えしてやる!

 俺はBをクリック、自転車の後ろにきららを乗せて学年末考査の学校、いや学園にかっとばす!
 
 38度の熱を出しながら試験を受けて、きららはなんとか及第点を獲る。
「ありがと雄二、妹や弟に負けないネーチャン見せるだけでいいと思ってた、ほんとに進級できるとは思ってなかったよー、雄二、あたしがんばってよかった!」
 俺は、もうきららに惚れてしまった。

 そして、時あたかも春休み、雄二ときららは結ばれる。

 ここから初々しくも目くるめく18禁の描写が始まる。
 だけど、少しもイヤラシイとは思えない。それまでの二人の葛藤があれば、これは当然の帰結だと微笑ましくさえある。
「よかったなあ……」
 思わず俺は呟いた。
 その後いくつかの選択肢があってたどり着いたエンディング。

 卒業後、晴れて二人は結婚。最後の選択肢。

 A:ここで見送る
 B:もう少し手を繋いで歩く

 俺は、あやまたずBをクリック!

 すると後ろから車の気配。
 おりからの雨で気づくのが遅れ、振り返ると間近に車が迫る!
「危ない!」
 そう叫んで、きららは俺を突き飛ばし、きららは車に撥ねられる。

「あたし、あたし……最後まで、あんたの名を……大事な人だから、君の名だね……口にしていくね……雄二 雄二………雄………」

「きららーーー!!!!!」

 俺は身も世もなく号泣してしまったのだ。

コメント

高校ライトノベル・オメガとシグマ・28『俺の部屋ごもりが始まった』

2018-09-12 06:25:51 | 小説3

オメガシグマ・28
『俺の部屋ごもりが始まった』



 なんとなく分かっていた。

 シグマの延び延びになっている相談はサブカル研究会のことだ。


 で、その相談が延び延びになっているのは、ハワイからやってきたお祖母ちゃんの相手をしていたこともあるんだろうけど、俺に相談しても満足な答えが出てこないことを予見しているからだ。
 なんせ、俺はまだ『君の名を』をクリアーしていない。それも分かっているから切り出さないんだ。一見不愛想なΣ顔だけど、あれでなかなか気配りの奴なんだ。

 春休みに入ってしまうと学校で会うこともなくなる。それまでにはやっつけないと……。

 二年ぶりに部屋の鍵を掛ける。

 二年前も、正確には鍵を掛けさせられたんだ。

 高校受験が終わった直後に風邪をひいてひっくり返ってしまった。
 38度の熱がやっと7度台に下がった日に、菊乃が友だちを呼んで家で女子会をやることになった。
「あんたが熱出す前から決まってたことなんだからね」
 そう言って菊乃は俺が部屋から出てくるのを許さなかった。
「トイレ以外は出ねえよ!」
 きっぱり言ったけど聞くもんじゃない。
「無駄に部屋の多い家だから間違って入っちゃうことってあるでしょ」
「だったら『兄貴の部屋入るべからず』とか札掛けときゃいいじゃん」
「バッカねー、そんなもん掛けたら、あんたが居ること丸わかりじゃん。だいいち、入るなって言われたら、人間は逆に興味もっちゃうもんでしょ。いい、ぜったい姿見せないでよね。見せたら殺す!」

 そもそも部屋にこもるということが不自然だ。

 俺は人の気配が好きな人間で、みんなと一緒のリビングに居ることが多い。
 松ネエが来てからは店で過ごすことも多くなった。
 それが数日部屋に鍵まで掛けてエロゲに没頭しようというんだ、それ相当の理由がいる……。

「えと、俺……今日から小説とか書くから」

 そう看板を上げて、俺の部屋ごもりが始まった。

 始まってしまった。

 


※ 主な登場人物

オメガ  妻鹿雄一  高校二年生 その風貌と苗字からω(オメガ)と呼ばれる

シグマ  百地美子  高校一年生 その風貌からΣ(シグマ)と呼ばれる みこが正しい読み方だがよしことも呼ばれる

ノリスケ 鈴木典亮  高校二年生 オメガの保育所時代からの友だち

菊乃   妻鹿菊乃  中学三年生 オメガのツンデレ妹

松乃   杉谷松乃  高校三年生 東京の大学に進学が決まったのでオメガの家に下宿 松ネエと呼んでいる

コメント

高校ライトノベル・オメガとシグマ・27『連休明けとはいえシグマはくたびれすぎている』

2018-09-11 06:03:15 | 小説3

オメガシグマ・27
『連休明けとはいえシグマはくたびれすぎている』



 松ネエがオイデオイデをしている。

 宿題を2/3やったところでダレてきたので誘いに乗る。
 座ったままカウンター席の椅子を回すと二歩で四人掛け席に着く。
「あ、そーだ」
 呼んでおきながら、松ネエは席を立って店を出て行く。
 店というのは、かつてうちがやっていたパブの店舗部分。
 内装はそのままなので第二リビングとして家族のだんらんやご近所との社交場に使っている。松ネエが勉強やら書類を書いたりにも使い始めたので、俺も倣って気の乗らない宿題やら読書(っても、ラノベとかマンガ)のスペースとして使い始めた。
 子どものころの秘密基地の感覚なのかもしれない。

 大学生って大変なのな。

 テーブルの上には書きかけの書類が散らばっている。
 従姉だけども個人情報、マジマジと見るわけにはいかないけど、その種類と枚数で大変だと思う。
 奨学金申込書的なのが目に入る。
 松ネエんちは両親揃って学校の先生。一人娘の学費くらい楽勝なのに奨学金の申し込みというのは松ネエの心意気なんだと思う。
「ブスだーー」
 書類の写真を見て不用意な言葉が口をつく。

「だれがブスだって」

 いつのまにか戻って来た松ネエが怖い顔をする。
「いや、写真の写りがさ、現物はイケてんのに」
「ま、そのフォローに免じて食わせてやる。どーぞ」
 松ネエが出したのは箱入りのフライドチキンだ。
「お、いっただきー」
 さっそくかぶりつく。鳥は苦手なんだけど、フライドチキンは別だ。この調理法を編み出した白スーツに眼鏡のアメリカのオジサンはエライと思うぞ!
「買ってきたんじゃないんだよ、これ」
「え?」

 確かに見慣れたパッケージではない。

「こんど@ホームで出すかもしれない試作品」
 なるほど、俺は試作品のモルモットか。でも、こういうモルモットなら大歓迎だ、感想を言わなければならないんだろうと、真剣に味わう。
「……カレー味……なんだろうけど、インドとはちがう南国的ってかオーガニックな風味」
 オーガニックがなにかよく分かってなかったけど、イメージ通りの感想。
「いい勘してるわよ雄ちゃん」
「あ、そ?」
「ハワイのカイウラニスパイスってのを使ってんの」
「@ホームがハワイアンになるの?」

 俺はビキニみたいなフラダンスのコスを着た松ネエを想像してしまった。

「なんでフラダンスがビキニなのよ!?」
 松ネエはスルドイ。
「いや、なんでハワイアンってことで」
「それがね、シグマちゃんとお祖母さんがね……」
 松ネエが示したスマホには@ホームのメイドさんたちに囲まれた金髪バアチャンとシグマが写っていた」
「二日続いてお越しになってね、メイド喫茶のメニューにこれがいいって、キッチンで試作品を作ってレシピを教えてくださったの。初日は店長が気に入って、二日目にはオーナーが信者になっちゃった」
「宗教団体かよ」
「@ホームのハワイ店を出すことになっちゃった」

 で、俺とノリスケは藤棚の下でシグマの顔に見つめている。

「シグマってクォーターだったのか……」
 言いようによっては角の立つ感想だけど、今日のノリスケは哲学じみているので、なにか高尚なことを言ったように聞こえる。
「もー連休は、全部お祖母ちゃんに持ってかれて大変だったんですから」
 そう言えば元気のないシグマではある。
「でも、すごいお祖母さんだよな。皇居の写真で『なんで!?』って感じて日本に来るのもぶっ飛んでるけど、二日でハワイにメイド喫茶作るの決めちゃうんだもんなあ」
「あたし、今日は帰って寝ます」
 多くを語らずにシグマは席を立った。

 ほんとは他の話があったんだろうけど、祖母ちゃん疲れのせいかノリスケがいるためか、その話題に触れることは無かった。

コメント

高校ライトノベル・オメガとシグマ・26『お祖母ちゃんが突然やってきたワケ』

2018-09-10 06:29:07 | 小説3

オメガシグマ・26
『お祖母ちゃんが突然やってきたワケ』




 お祖母ちゃんは思い立ったらすぐの人だ。

 若いころに、お好み焼きが美味しいと感じたお店で感激、お勘定をしてもらいながらバイトを申し込んだ。三か月働いてノウハウを覚えると、直ぐに自分の店を出した。
 買い物に行って、人のムームーやアロハがダサいと感じたら、あくる日には衣料品の店を出してしまう。
 お祖父ちゃんと出会ったら「この人だ!」と猛烈にアタック、一か月後には結婚し、十一カ月後にはお母さんが生まれている。
 あたしが生まれた時も「神さまの啓示があった!」と叫んで飛行機に乗り、生まれた病院に直行し「孫娘を抱っこしたい!」と詰め寄った。新生児は24時間はガラス張りの新生児室から出せないので、ガラスに貼りついてスリスリしていたらしい。
「お母さん、明日には抱っこできますから」
 お父さんが言うと。
「義男さん、この子の名前!」
「え、あ、それはまだ」
「ミコになさいな、響きがいいし、縁起もいいの。字はね……」
 電子辞書を出して検索し「美」が気に入って、その押し出しのまま、あたしに美子という名前を付けてしまった。
 美子ってのは普通「よしこ」って読まれる。
 以前は、名前を伝えるたびに「ミコって読みます」と注釈していた。
 でも中学からこっちはシグマで通っているので、まっいいや。

 今回は何を思い立ったかというと……。

「ミコ、この写真に写ってるのはなんという?」
 うちに来るなり写メを見せた。ウインドブレーカーの下には、あのTシャツを着てるけどスルーしておく。
「えと、皇居?」
 見たマンマを答える。
「んーーーーーミコもそうかい」
 お祖母ちゃんは、まるで外人を見るような目で見る。

 てか、お祖母ちゃんこそ外人なんだけどね。

 日本語はペラペラだけど、髪はブロンドで目は青い。
 名前はミリー・ニノミヤ。お祖父ちゃんはとっくに亡くなったけど、お祖父ちゃんの苗字を大事にしている。
「写真に写ってるのは橋だろ?」
「え、ええ?」
 確かに写っているのは皇居前広場から見た二重橋だ。
「不思議だよねーーーー」

 ということで、先輩との約束をキャンセルして皇居前広場に行くことになった。

「ちょっとスミマセーン」
 わざとカタコトの日本語になって皇居前広場の人たちに聞くから恥ずかしい。

 お祖母ちゃんとあたしには共通点がある。

 お祖母ちゃんの口もΣなんだ。
 でも、お祖母ちゃんのΣ口はチャーミングだ。

 チャーミングなΣ口をアヒル口とも言う。グニュっと尖がったところに愛嬌がある。

 普通の口でもアヒル口はできるけどわざとらしくなる。お祖母ちゃんのは天然だし、アヒル口に見合った活発さと愛嬌がある。

 わたしのアヒル口も天然なんだけど、肝心の活発さと愛嬌が無い。だから、ただ尖がってるとのみ認識されてΣと呼ばれる。

 お母さんはΣでもアヒル口でもない普通。どうやらお祖母ちゃんの形質的隔世遺伝。

「お祖母ちゃんと比べっこしよう」
 中学の時、鏡に映して比べたことがある。
「ハハ、ミコとお祖母ちゃんはいっしょだね。口元がとってもチャーミング、そうだ! これTシャツにプリントしよう!」
 藪蛇で、お祖母ちゃんは、あたしとのツーショットをイラスト化してしまった。
「これ、お店でも良く売れてるよ!」
 でもって、皇居前広場に来たあたしはおソロのTシャツ。肌寒いからと言い訳してカーディガンを着ているんだけどね。

 とにかくエネルギッシュなお祖母ちゃんにはかないません。これで、先月は心臓発作で死にかけたんだけどね。

 そんなお祖母ちゃんと、昨日今日はアキバに来ている。

 アキバはあたしのお庭みたいなもんなんだけど、久々にアキバでノビテしまった。
 いろいろ話題を提供してくれるお祖母ちゃんなんだけど、またいずれお話します。

 

コメント

高校ライトノベル・オメガとシグマ・25『あたしが先輩にキャンセルのメールをしたワケ』

2018-09-09 06:09:17 | 小説3

オメガシグマ・25
『あたしが先輩にキャンセルのメールをしたワケ』



 調子に乗ってしまった。

 学年末テストが終わって気が弛んだと言うのか膨らんだと言うのかねえ……。

 サブカルチャー研究会というのは我ながらいいアイデアだったと思ってる。そのことに間違いはないよ。


 いまや世界に冠たるアニメもマンガ映画と呼ばれていたころは三級以下の文化だったらしい。
 マンガそのものも長い間差別されていたんだ、信じらんないけど。

 マンガみたいだ。という言い方は「低級だ」「お笑い草だ」「品が無い」「子どもっぽい」「子供だまし」「いつか卒業するもの」などというマイナスのイメージしかなかった。
 だけど、いつの時代からかアニメと言われるようになると評価が変わって来た。大人が時間を潰して映画館に行ったり本屋さんに並んだり、真面目な顔して評論したり。お金的に言っても文学やら普通の映画を抜いてガンガン稼いでいる。
『君の名は』なんて空前の大ヒットでいまだに映画館にかかっている。デリケートでファンタジーな世界は世界中で支持を得ている。調べまくったわけじゃないけど、村上春樹さんの『騎士団長殺し』よりもファンは多く理解されてるんじゃないだろうか。

『騎士団長殺し』はざっと150万部 『君の名は』観客動員は1000万人超えなんだそうだよ。

 もう勝負あったって感じだと思うんですけどね。

『騎士団長半殺し』てな本は出てこないけど、『君の名を』てなエロゲはちゃんと出ています。
 まだアズサルートしかやってないけど、すっごく感動したもんね。あけすけに言えばパロディーってか便乗なんだろうけど、それでも、すっごく人を感動させる作品に仕上がってる。
 エロゲってのは万人にお勧めできるもんじゃないけど、エロゲが秘めているパッションとかエモーションとかは注目していいんじゃないかなあ。
 
 もちろん、学校で「エロゲ研究会」なんてできるわけがない。
 だから考えたってか閃いたんだ。

『サブカルチャー研究会』 

 別にごまかしてるんじゃないわよ。
 エロゲってのは二次元カルチャーの核になると思うんだよね。じっさいエロゲから良質なノベルとかゲームが派生せている。
『あいてつ』とか『この青空に翼を広げて』とか『インハート』とかのゲームやアニメは元々エロゲだったんだもんね。

 それでサブカルチャー研究会を立ち上げることにした。

 ペンタブとパソコンでチラシをこさえて後期選抜の合格発表で撒くことにしたんだ。
 合格発表には、オメガ先輩がきれいな女の人……と思ったら従姉の松乃さんと来ていた。離れたところに菊乃ちゃんがいたので、菊乃ちゃんがうちの学校を受けたんだと分かる。菊乃ちゃんの合格発表には一悶着あったんだけど、主題はそこじゃない。

 落ちた子にチラシを渡すわけにはいかないので、午後の合格者説明会で撒くことになっている。

 で、これがちっとも受け取ってもらえない。
「サブカルチャー研究会でーす!」
 精一杯の笑顔でなけなしの情熱籠めて差し出すんだけど、受け取ってもらえたのは二三人。
 いっしょに勧誘していた軽音やダンス部なんかは早々と入部希望者が名乗り出ている。
 サブカルチャーってマイナーすぎたのかなあ……と思ったけど、どうやら違う。

 チラシを渡そうとして合格の子たちの顔を見ると目をそらされる。中には露骨にビックリしているような子も居て、正直メゲた。

 ここのとこオメガ先輩といっしょのことが多くて、で、オメガ先輩は普通に接してくれるので思い違いをしてしまったんだ。
 あたしのΣ顔は、やっぱ人に避けられる。そのことを思い知った合格発表だった。
 担任の堂本先生が合格発表の担当で、とうぜんビラまきの最中に目が合った。
――世の中甘くないんだぜ――
 口にはしないけど、そんな目であたしを見る。

 凹みまくって先輩にメールをした。会って話を聞いてもらいたかった。
――よし、わかった――
 たった七文字だけど気持ちの籠った返事が返って来た。

 でも、土壇場でキャンセルのメールを打たざるを得なかった。

 なんの前触れもなくハワイのお祖母ちゃんがやってきたのだ!

コメント

高校ライトノベル・オメガとシグマ・24『「「イーーーーダ!」」』

2018-09-08 06:21:48 | 小説3

高校ライトノベル・オメガシグマ・24
『「「イーーーーダ!」」』



 受かってしまうと人間が変わった……いや、元に戻ってしまった。

「ちょ、じゃま」


 洗面で顔を洗っていたら菊乃が割り込んできた。
 うちの洗面は二人同時に使えるくらいの幅がある。実際に菊乃以外の家族とは平気で共用しているし、小学校のいつごろまでだったかは菊乃もそうしていた。夏休みとかに松ネエが来た時なんか子供三人で仲良く顔洗って歯を磨いていた。じっさい夕べは松ネエと俺はいっしょに歯を磨いたしな。そーだよ、菊乃が四つで歯を磨き始めた時、忙しい親に替わって磨き方を教えてやったのは俺なんだ。
「菊乃、俺以外の時は割り込んだりしないよな」
「うっさい、たまたまよ、たまたま」
 菊乃は、他の家族が使っている時には空くのを待っている。傍若無人だけど割り込んでくるのは、家族の中でも、俺のことをどこか親しみやすいと思っているのかもしれない。そう思うと、ほんのちょっぴりだけど可愛く思わないこともない。
「いま変なこと考えたでしょ」
「ねーよ」
「だめよ、あんたは、こういう時鼻が膨らむんだから」
 お前だってドヤ顔するときは盛大に鼻膨らませてんだろが……思ったけど口には出さない。
 その代り別のことを聞いた。

「どうして俺と同じ神楽坂受けたんだよ?」

「神さまのお告げ」
「は?」
「…………」
 答えが無いと思ったら、密やかに歯を磨いている最中だ。
「やっぱ、兄貴と同じ学校ならなにかと便利とか思ったか?」

「ングッ、んなわけないれしょ-!!」

 泡だらけの口で否定した。
「磨き終ってから喋れ!」
 菊乃の泡がシャツに飛び散ったのを急いで拭う。歯磨きには漂白剤とかが入っているので色が抜けることがある。
「ガラガラペーッ! 言っとくけど、学校で兄妹面なんかしないでよね!」
「おせーよ! 合格発表の時にバレてるよ!」
「え、なんでよ!?」
「おまえ、掲示板の受験番号こすって注意されただろーが!」
「あ、あんたが宝くじの話なんかすっから、間違いじゃないかと念を入れてしまったのよ!」
「あれで、堂本ってオッサンに『あれ、お前の妹か』って言われちまったよ」
「え、あのクサレメタボに!?」
「だいいち、うちの妻鹿って苗字じたいかなり珍しいからな」
「じゃ、とーいと-ーーーーい親類! いいわね、学校で口なんかきくんじゃないからね!」

 ボフ!

 使用済みの濡れタオルを俺の顔に投げつけ、プリプリとケツを振りながら菊乃は階段を上がっていった。
 歯磨きがとれたのを確認して俺も階段を上がる、俺はこれからお出かけなのだ。
「「イーーーーダ!」」
 兄妹いがみ合いながらそれぞれの部屋に入る。

 リュックを手に出かけようとするとスマホが鳴った。
「ん?」
 画面を見るとシグマ。

――すみません、都合で家を出られなくなってしまいました。またいずれ――

 出かける用件が無くなってしまった。

 

コメント

高校ライトノベル・オメガとシグマ・23『なにかもめてますよ』

2018-09-07 06:43:17 | 小説3

高校ライトノベル・オメガシグマ・23
『なにかもめてますよ』




 宝くじを見つめる菊乃の顔が歪んできた……やっぱヤバかった?

 歪んだ顔は、次には引きつってきて菊乃は爆発した!

 プハハハハハハ!

 一億円の当選に気が触れたか!?

「あーーーおっかしい! これってさ、一字違いのハズレ券なんだよ」
「いや、そんなことはない」
 当選番号はネットで検索して何十篇も確認した。俺には珍しく確信がある、断じて一字違いなどではない!
「お父さんがため息ついて捨てようとしてたのをもらったんだもん」
「いや、だって……」
 松ネエとシグマも覗き込んできた。松ネエはスマホで検索して当選番号を画面に出した。

 「……E組 127448、間違いないわよ!」

「やだ、これはね、F組 127448なのよ。Fの下に一本引いて当選番号の雰囲気に浸ってたのよさ」
「「「ん……???」」」
 葉書の大きさにも満たない宝くじに俺と松ネエとシグマの雁首が揃う。
「あーーーーーーーーFの下の線、微妙に色が違う!」
「そ、受験前の、ま、ゲン担ぎ」
 
 あ⤵⤵⤵⤵⤵⤵⤵⤵⤵⤵⤵⤵⤵⤵⤵⤵(´・ω・`)

 三人のため息を、満足そうに睥睨する菊乃。
 そうなんだ、こういう時の菊乃は鼻を膨らませてドヤ顔になる。
 そのドヤ顔が息を吸い込んだ状態で固まってしまった。
「どうした菊乃?」
「まさか!?」
 菊乃はダッシュして合格発表の掲示板に駆け戻った。

「あ、菊乃ちゃん、なにかもめてますよ」

 シグマが指差したところを見ると、菊乃が堂本ともめている。
「だめだよ、合格発表に触っちゃ!」
「だって、48の8って、3の左半分書き足したのかもしれないでしょ! だって43が無いもん!」
 人だかりがし始めているので、俺は慌てて駆け寄った。
「落ち着け菊乃! おまえの前は47、後が49、48以外には入りようがないだろが!」
「でも43は!?」
「それは落ちた子の受験番号だからよ」
 松ネエがしごく真っ当な答えを言う。
「そ、そっか、やっぱホントに合格したんだ……」
 四大現役合格の説明に、やっと菊乃は納得した。

「あれ、おまえの妹か?」

 機嫌よく校門を出て行く後姿の菊乃を顎でしゃくりながら堂本が聞く。
「え、あ、ま、一応」
「フン」
 鼻息一発かまして堂本は校舎に消えた。
「じゃ、あたしバイトに行くわ」
 松ネエも校門に向かい、駅方向の道へ急ぐ。
 松ネエが居なければ、堂本の鼻息だけでは済まなかっただろう。

「なかなか可愛いところがある菊乃ちゃんですね」

 この騒動をひとり楽しんだシグマが締めくくる。
「えと、なんで合格発表に登校してんの?」
 一年のシグマが合格発表に来る理由は無いはずだ。
「はい、新入生の勧誘です!」
 Σに口を尖らせながら胸を張るシグマ。
「え?」
 シグマって部活やってたのか?
「えと、作ったんです『サブカルチャー研究部』! ま、同好会だから、今のとこは研究会ですけど」
「そうなんだ、部員は?」
「あたし一人、だからこその勧誘なんです」
 なるほど、そう言えば合格発表の日の午後の説明会から部活の勧誘とかやってたっけ。
「先輩のお蔭なんですよ。先輩もエロ……いやパソコンゲームに興味あるでしょ、この学校であたし一人だけかとしょぼくれてたんですけどね。それに、先輩んちで勉強会とかやらせてもらって、ちょっぴり人を相手にすることに慣れたんです!」
 うん、それはいいことだ。

 だけど、俺はエロゲファンでは断じてない。ないけどシグマには言えないよな、こんなにキラキラしてんのに。

 俺は「がんばれよ!」のエールを送って学校を後にした。

 で、一晩たった今朝、菊乃に質問された。
「ね、あの宝くじ学校の茶封筒に入れといたはずなんだけど、どうして持ってたの?」

 言葉に詰まる俺だった。 

コメント

高校ライトノベル・オメガとシグマ・22『今日は合格発表』

2018-09-06 06:41:52 | 小説3

高校ライトノベル・オメガシグマ・22
『今日は合格発表』




 これに落ちると定時制の二次募集しかない。

 菊乃が背水の陣と言っていい後期選抜を受けたのには理由があるが、振り返っても仕方がない。
 とりあえずは、今日の合格発表だ。

 都立神楽坂高校は偏差値54の中堅校だ、中学の内申が7もあれば、入試当日の試験でよっぽどのドジを踏まなきゃ合格する。
 でも、愚妹の菊乃は、そのドジをやってしまったらしい。
 最後のテストで受験番号を書くのを忘れたというのだ。書いていなければ零点だ。

 宝くじのことしか考えていなかったこともあるけど、かけてやる言葉が無かった。

「あり得ないと思うわよ」

 菊乃が角を曲がるのを確認して松ネエが言う。
 一人で合格発表に行く菊乃の後を付けているのだ。松ネエも心配して付いて来てくれている。
「試験中も机間巡視やってるし、答案を回収したあとも、その場で受験番号のチェックはやってるわよ」
「でもなあ……」
 学校の先生たちの顔が思い浮かぶ、正直たよりない。
「入試ってのはね、監督を含め、どの作業もかならず二人以上でやるの。作業工程ずつにハンコ押すしね、まずミスは起こらないわ。たまに採点や集計の時にミスがあるけど、それもその分五回も六回も目を替えてチェックしてるから大丈夫よ」
「そうなんだ、松ネエくわしいね」
「ハハ、うちのお父さん高校の先生だもん」
 そうだった、松ネエのお父さんは影の薄い人なんで忘れていた。

 時計塔と花水木の間にトラロープが張ってある。
 
 そこを過ぎると、合格発表のパネルが貼り出されるピロティーだからだ。
 時間が来るまでピロティーには入れない。
 菊乃は最前列で待っている。リスが両手で胡桃を持つように受験票をかかげ、何度も見ては声に出さないで受験番号を確認している。
 そうやっていなければ、自分の受験番号が消えて無くなってしまうとでもいうような感じだ。
 何度も何度もやるので、口の形から受験番号が48番であることが知れる。

 合格発表の二分前には、トラロープのところに、わが担任のヨッチャンと堂本が立った。

「間もなく発表ですが、けして駆けださないでください」
「合格者の方は、午後一時半から合格者説明会がありますので、保護者の方といっしょに体育館の方にお越しください」
 二人で役割分担しながら事前の説明と注意をしている。

 やがて、合格発表を告げるチャイムが鳴って、トラロープがスルスルと巻き取られた。

 百人ほどの受験者と付き添いの保護者が、事前の注意にもかかわらず駆けだした。
 渡り廊下に貼り出された合格発表掲示板の白布がハラリと取り払われ、合格者の受験番号が明らかになった。
 ウワーとかオオーとかのどよめきが起こる。
 中に、数名の子と保護者が立ちすくむ……二割近く出る不合格者だ。
「やったー!」
 遠くからだけど、菊乃の48番があることが分かる。思わず松ネエとガッツポーズ。

 だが、菊乃の姿が無い。

 首をめぐらすと、トラロープが張ってあったところに一人立ちすくんでいる菊乃。
 駆け寄って合格したのを教えてやりたかったが、後を着けてきたのは秘密だ。朝食の時も「絶対付いてこないでよね!」と眉を逆立てていた。俺たちも、そっと見守るだけにするつもりだった。
 しかし、ここまでビビッているとはイラつくやつだ。

 すると、人ごみの中からシグマが飛び出してきて菊乃に合格を告げた。

「合格よ! 合格したのよ!」
「え、え、ほんと!?」
「ほら、こっちこっち!」
 シグマは菊乃の手を引っ張って確かめさせた。

「ウワーーーー#$!¥&%$#!!!!!!」

 久方の菊乃の歓声。いや、こんなに喜んでいる菊乃を見るのは初めてだ。
 で、今だと思った。

「おめでとう菊乃! 宝くじも一等賞だぞおおおおおおおお!!!!!」

 菊乃の目の前に、一等一億円当選の宝くじを広げてみせた。
 菊乃の目が点になった。



※ 主な登場人物

オメガ  妻鹿雄一  高校二年生 その風貌と苗字からω(オメガ)と呼ばれる

シグマ  百地美子  高校一年生 その風貌からΣ(シグマ)と呼ばれる みこが正しい読み方だがよしことも呼ばれる

ノリスケ 鈴木典亮  高校二年生 オメガの保育所時代からの友だち

菊乃   妻鹿菊乃  中学三年生 オメガのツンデレ妹

松乃   杉谷松乃  高校三年生 東京の大学に進学が決まったのでオメガの家に下宿 松ネエと呼んでいる

コメント

高校ライトノベル・オメガとシグマ・21『あたし神楽坂ウカルかな?』

2018-09-05 06:08:56 | 小説3

高校ライトノベル・オメガシグマ・21
『あたし神楽坂ウカルかな?』



 賞金受け取りの締め切りは三月十七日だ。

 つまり明後日の午後五時までに申し出なければ、一等賞金の一億円は頂けないのだ。
 当選の宝くじは、ただの紙切れになってしまう。

 持ち主は、薄い壁一枚向こうでマンガでも読んでいるんだろう、ケタケタ笑いながらベッドの上でドタバタ身悶えている。

「一等の一億円が当たってんぞ!」隣りへ行って、そう言ってやれば、この悶々とした気持ちは解消される。あとは「落ち着け菊乃! あとは兄ちゃんが全部やってやっから!」と宣言し、菊乃の代わりに一億円を受け取ってやればいい。菊乃は内弁慶なやつだから、一億円が当たったなんて知れたら間違いなく気絶する。なんとか覚醒させても、賞金の受け取りで、また気絶する。気絶しないまでも興奮のあまり失禁する。つまりオシッコをちびってしまう、小学校の入学式までは粗相してたもんな。それ以来、ここ一番という時には朝から水分を摂らないようにしてるもんな。入試は無事に終えたようだけど、一億円の受け取りってことになれば絶対ちびる。憎ったらしいツンデレのクソビッチだけど、血を分けた妹をそんな目に遭わせるわけにはいかない。
 で、代わりに受け取ってやれば、こうなる。

「ありがとうお兄ちゃん、忘れてた宝くじを思い出させてくれただけじゃなくって、代わりに賞金を受け取ってくれて、やっぱりあたしのお兄ちゃんだ!」

 そう言って、ここ何年かの無礼を泣きながら詫びて抱き付いてくるんだ。

「よせよ、姉弟の仲で水臭い。それより顔を拭きな、涙と涎で、せっかくの可愛い顔が台無しだぜ」
「グス、可愛いだなんて、お兄ちゃんに初めて言われた~嬉しいよ~、菊乃、チョー嬉しいよ~」
「おまえが素直になれば、お兄ちゃんだって、素直に褒めてやるさ」
「お兄ちゃん、お礼に賞金の半分受け取って!」

 は、半分!?
 一億円の半分って……五千万円だぜ!

「そんなの受け取れないよ、菊乃が掴んだ幸運だ、自分のいいように使えばいいさ」
「じゃ、せめて一割でも……」
 う~ん……それでも受け取れない。
 中坊のころ、酔っぱらった祖父ちゃん介抱したら「小遣いだ、とっとけ」と差し出したのが一万円。祖父ちゃんの懐具合から千円札と間違ったのは明らかで、それでも押し付けられた諭吉に足が震えた。
 俺は分というものをわきまえている。
 え、気が小さいだけだろ?
 いや、違う。説明できないけど違う。

 菊乃が部屋から出る気配、俺は反射的に部屋を飛び出した。

「なんか用? キモイんですけど」
 階段の下まで行くと睨まれた。
「あ、えと……」
 宝くじのことは言えない、言えば、菊乃の荷物から茶封筒を抜いたことがバレてしまう。むろん茶封筒は戻してあるけど宝くじは手許に置いてある。受け取りの締め切りを忘れたり捨てたりしちゃいけないからな!
 言葉に詰まったが、菊乃のトレーナーが裏がえしなのに気づいた。
「トレーナー裏返しだぞ」
「え、あ、ほんとだ」
 こういう場合、菊乃は悪態ついて部屋に戻って着替える……はずが、その場でトレーナーを脱いでしまった。
 で、あろうことかトレーナーの下は裸だ。パジャマを脱いだ後、そのまま着てしまったんだろう。
 こういう時の反応はむつかしい、でも、焦っているうちに菊乃はトレーナーを正しく着直した。ほんの数秒間だったけど、汗をかいてしまった。

「ね、あたし神楽坂ウカルかな?」

 靴を履く手を停めて、菊乃が呟く。たぶん呟きなんだろうけど、疑問形なので返事をしたものか戸惑ってしまう。
「あたし後期選抜じゃん、もう後が無いんだよね」
「あ、ああ……」
「ここ一番て時に力出ないからさ……入試の日も不安でさ、休み時間とかは、みんな賢く見えちゃって、カッコつけてさ、進学とか就職とかの色々集めたりしたんだけど、どっかいっちゃった。ちょっとは読んだり観たりしよーと思ったんだけどね……今日もマンガとかで気を紛らわせよって、笑ってみても……なんだかね……」
 菊乃は顔でも洗うような仕草をして停まってしまった。

 ひょっとしたら泣いているのかも……こんな菊乃は何年かぶりだ。

「あ、なんか寒い……って、トレーナーの下着てないじゃん!」
 ドタドタと階段を上がると、部屋で着替えている様子だ。
 いつもがいつもだから、ちょっと不憫になる。
 これ以上関わっては逆効果と思い靴を履く。
 そこへ着替え終わった菊乃が下りてきて、期せずしていっしょに外に出ることになる。

「散歩か?」
「うん……」

 後が続かない。
 宝くじを切りだそうとするんだけど、なぜ、俺が菊乃の宝くじを持っているのかの説明ができないためのためらってしまう。
「大丈夫、菊乃は受かってるさ。だって、この俺が受かって三年生になろってんだから」
「うん……」
 返事が冴えない、子どものころやったみたいに菊乃の髪をワシャワシャしてやりたくなったが手が出せない。
「あたし、最後のテスト、受験番号書き忘れたような気がするんだ……書いてなかったら零点だもんね」
「それは……」
 続けようとした言葉が出てこない。
「あたし、公園の方行くから」
「あ、ああ」
 駅の方に行こうかとしていたので、そこで別れた。

 やっぱ、菊乃と接点を持つのはむつかしい。

 駅前まで来ると、信号の向こうにシグマがいた。
 シグマなりに邂逅を喜んでいるんだろうけど、パッと見不貞腐れているように見える。損な奴だ。
 信号が変わるとシグマの方から駆けてきた。
「先輩、ゲームどこまで進みましたか!?」

 う、思い出した。

 家に帰ってゲームをやろうと決心した。

 

※ 主な登場人物

オメガ  妻鹿雄一  高校二年生 その風貌と苗字からω(オメガ)と呼ばれる

シグマ  百地美子  高校一年生 その風貌からΣ(シグマ)と呼ばれる みこが正しい読み方だがよしことも呼ばれる

ノリスケ 鈴木典亮  高校二年生 オメガの保育所時代からの友だち

菊乃   妻鹿菊乃  中学三年生 オメガのツンデレ妹

松乃   杉谷松乃  高校三年生 東京の大学に進学が決まったのでオメガの家に下宿 松ネエと呼んでいる

 

コメント