大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・68『妹が憎たらしいのには訳がある』

2018-11-02 06:56:21 | ボクの妹

妹が憎たらしいのには訳がある・68
『もう妹は憎たらしくない!』 
     

 

 大阪に戻った私たちにすることはなかった。

 これには二つの意味がある。

 第一に、わたしも優子も状態が悪く、もうメンテナンスの仕様もなかった。二人とも生体組織が壊死してしまい。腐敗が進んできたので、亜硫酸のタンクに漬けられて、生体組織を溶かし、スケルトンの状態にされた。この状態が裸になって、股間にドレーンを挿入されてメンテナンスする何倍も恥ずかしいことであることを、わたしも優子も自覚した。
「わたしのスケルトンの方がキュートよ!」
「なによ、わたしの顔のスケルトンの方がかわいいもん!」
 最初はじゃれあいのようだったが、互いの機能が低下してくると、憎まれ口もきかなかくなってきた。
 見かけは上半身と下半身に裂かれてしまった優子がひどかったが、わたしはPCに受けたダメージが意外にひどく、五日目には言語サーキットがいかれてしまい。CPにケーブルを接続しなければ意思表示も出来ない状態になった。

 わたしには、ユースケに取り込まれる前の義体が残っていたが、それにCPの中身をインスト-ルすると、わたしの半分である太一の人格が復元できないことが分かった。太一を殺すことはできない。東京で、あれだけの働きができたのは、太一とねねを融合したからこそのことであった。
 優子のCPは、比較的安定していたが、CP内に収容していた優奈の脳組織が弱ってきた。一度は取り出そうとしたが、そのオペレーションに優奈の脳組織が耐えられる確率は30%もなかった。それに、取りだしたとしても、寿命は半年がいいところである。

 最初に崩れたのは、太一のお母さんである。

娘と息子を同時に失おうとしているのだ、無理もない。羊水に漬けられた太一を見ては涙になり、モニターを通じての幸子との会話も、CPの寿命を延ばすため最小限度におさえられていたため、ある日、緊急事態用の手榴弾を持ち出したところを、アラームに気づいた水元中尉に、爆発寸前に助けられた。太一の父は、そんな妻をただ抱きしめることしかできなかった。

 東京は、あれからしばらく平穏なように見えたが、グノーシス同士の争いが激しくなり、国防省のCPは事実上ダウンしていた。市民生活は平穏そのものであるが、毎日グノーシス戦士の遺体や破壊されたロボットが発見されたが、彼らは最後の瞬間に、一般人や、普通の車に擬態するので、身元不明の遺体や、事故車が増えた程度にしか、一般には認識されていなかった。国防省のCPは甲殻機動隊が肩代わりして、日常の業務に差し支えないようにしていたが、それがC国やK国に見破られるのは時間の問題だ。

 そんなある日、T物産のトラックが、真田山駐屯地へやってきた。

「厨房機器の納品です。お通し下さい」
 初老の運転手が窓越しに書類を渡した。
「話は聞いています。念のためスキャナーにかけますので、トラックごとそのセンサーの間に入ってください」
 門衛の下士官に言われ、初老のオッサンは、ゆるりとハンドルを切った。
「ああ、T物産の高橋さんですか。T物産の総務の神さまですね。調達品の取引じゃ、下手な営業さんより話がしやすいって、親父も言ってましたよ」
「あ、あなた営繕課にいた牛島准尉さん……の息子さん!? いやあ、時代ですなあ」
「今日は、総務が配達ですか?」
「来月で定年なもんですからね、ちょっとわがまま言って、若い頃に回ったところを一つ一つ回らせてもらってるんです」
「メカニックの方は、女性なんですね」
「身元や経歴はスキャン済みでしょうが、厨房関係は女性の方が分かりがいい。それに……」
「チーフの方は、陸軍の予備役なんですね」
「そうよ。ずっと給養員のボスやってたから、ここの給養装備もみんな見たげる」

 そうして、この御一行は、地下のシェルターにやってきた。

「高橋課長!」
 太一のお父さんが、すっとんきょうな声を上げた。
「いやあ、一別以来……と言いたいが、佐伯さん。あなたとは初対面です」
「え……」
「高橋さんの体を借りている。向こうのグノーシスのハンスと申します」
「グ、グノーシス!?」
「まあ、こっちにもいろいろありましてな。今日は里中副長の依頼で来ました」
「もう、恥も外聞もなく、お願いしました」
「一応、隊長にもごあいさつを……」
 そういうと、ハンスは、佳子ちゃんの妹で優子と同名の幼女に挨拶をした。
「困るなあ、ハンス。ずっとばれないできたのに」
「これからは、あなたの指揮が重要になりますから」
「ゆ、優子、どうしたの!?」
 佳子ちゃんがうろたえた。
「潜在能力が優れてるんで、二年前からやってるの。甲殻機動隊の隊長としてのアビリティーだけは高いけど、あとはお姉ちゃんの妹だから、これまで通りよろしく。じゃ、あとは副長よろしく」
「は」
 里中副長が、上官に敬礼するところを初めて見た。
「じゃ、かかろうか」
 三人の女性スタッフのオーラには、なにか懐かしさを感じた……あ、ビシリ三姉妹!

 大げさな作業になると思ったら、わたしたちと持ち込みのCPをケーブルで繋いだだけである。
 ミーと思われるビシリが、すごい早さでキーボードを操作した。とたんに、わたしの意識が飛んだ。

「お、溺れる!」 

 そう思ったら、急速に羊水が抜かれ、俺は久々に太一に戻った。気づくと空のアクリルの水槽の中で、俺はひっくり返っていた。で……みんなの視線がボクに集まった。
「キャー!」
 佳子ちゃんとチサちゃんは同じような悲鳴をあげて、それでもしっかり裸の俺を見ていた。
 ビシリのミルが目隠しに立ってくれ、ミデットが、取りあえずの服を一式を、タオルとともに投げ入れてくれた。
 水槽から出たとき、優子と真由のスケルトンは死んでいるように見えた。
「移植急ぐぞ」
 ハンスが、高橋さんの姿で言った。ビシリ三姉妹が、厨房機器の箱を開けると、中から優奈が現れた……!?
「義体だけどね、脳を移植すれば本物になる」
 ビシリ三姉妹は、優子のスケルトンの口を開けると、大きめの注射器のようなものを取りだし、優奈の前頭葉と脳幹の一部を保護液といっしょに取りだし、優奈の義体の口を開け喉の奥からCPに挿入した。
「だいぶ弱っているな……」
「はい、なにか刺激がいります」
 ミーが答えた。
「仕方がない、祐介がユースケになった今までの記録をダウンロ-ドしよう」
 微かな起動音がして、優奈がピクリとした。それから、血の気がさして、閉じた目から涙がこぼれ落ちた。
「これで、祐介のことは愛情を持って理解した。残念ながら、太一への愛情を超えてしまったけどな」
「それはいいんです。祐介の気持ちは分かっていたし、こうあるのが自然です」

 優奈が意識を取り戻し、起きられるのに一時間ほどかかった。そして優奈が元に戻った頃、幸子とねねちゃんが戻ってきた。

「お兄ちゃん、みんな!」
「お父さん!」

 幸子は、ユースケが使っていた義体に、優子から分離した幸子のパーソナリティーをインストールしたのである。
 完全な幸子に戻っていた。プログラムモードではなくニュートラルで、幸子は憎たらしくなかった。

「わたし、自然にしていても世界は壊れないのね!」
「ああ、半分賭けだったけどね。これで僕たちも希望を持って前に進める」
 ハンスが、珍しく嬉しそうに言った。
 ねねちゃんも義体で、ここまで自然になれるのかと思うほど人間らしかった。
「これは、太一、キミのおかげだよ」
 里中副長が言ったとき、急に空間が歪み、全員がショックを受けた。

 目の前に、傷つき果てたユースケが現れた。

「もう空間移動の技術も覚えたんだね」
「そうしなきゃ、生き延びられないんでね……優奈!?」
「祐介、ごめんね。いままで祐介の気持ちに気づいてあげられなくて。こんなに苦労して、こんなに傷つき果てて」
「で、でも、どうして……」
「舞洲で殺されたとき、わたしの脳の一部をサッチャンが保存してくれていたの。体は義体だけど、心は優奈だよ。祐介の優奈だよ!」
「そんな……でも、オレは幸子を殺さなきゃならないんだ!」
「もう、その必要はない。グノーシスの間でも休戦協定が結ばれた。君も、いつまでも、そんなロボットに取り込まれていなくてもいいんだよ」
「そうよ、祐介!」
「オ、オレは……ウワー!」
 ユースケは悶え苦しんだ。危ないので優奈を引きはがそうとした。
「このままで……祐介! 祐介!!」

 やがて、ユースケは動きを止め、静かにボディーが開くと祐介がこぼれ出てきた。

 そして、一週間して祐介の意識が戻った。義体と入れ替わっていたみんなも自然に元にもどった。

 そして、俺の妹の幸子はニクソクはなくなった……。


『妹が憎たらしいのには訳がある』  シリーズ・1 完


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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・67『C国多摩事変・2』

2018-11-01 07:04:15 | ボクの妹

妹が憎たらしいのには訳がある・67
『C国多摩事変・2』 
     


 300機のチンタオは二世代前のロボットであるために今のC国のコードも通用しない。

 私たちから連絡を受けたC国大使館は、すぐにチンタオたちに「行動中止」のコマンドを二世代前の様式で送ったが、彼らは通常のコマンドコードを受け付けず、C国大使館そのものを敵と見なし、攻撃を加えてきた。C国大使館は、自動でバリアーを張って無事だったが、周りの建物に被害が及んだ。Rヒルズの南側の窓ガラスは全部割れてしまった。
 国防省の対応も早く、阿佐ヶ谷駐屯地は、ミサイル発射の熱源に向けて反撃の地対地ミサイルを撃ち込んだが、ステルス化したチンタオたちはすでに移動したあとだった。

 ユースケは、首都防衛の精鋭ロボット部隊ロボコンを送った。彼らは国内最精鋭部隊で100機のロボコンで構成され、司令機の一機を上空で待機させ、3機編成の33の小隊に、それぞれ指令を送った。

 ロボコン部隊は、チンタオの初期ステルスを易々と見抜き、あっと言う間に半数を多摩地区で撃破した。それから残ったチンタオ達は、カメレオンのようにステルスのモードを変換し、都心部へと近づいてきた。
 都心は、100機以上のチンタオの攻撃を受け、あちこちで大惨事が起こった。ミサイル発射直後の熱源を衛星で探知し、その後20分でさらに50機のチンタオを撃破、擱座させた。
 チンタオは旧式ではあるが、偽装については能力が高く、都心に入ってきたものは、熱源を市販の自動車と変わらないものにし、トンネル内で、荒川で見かけたバンに擬態化し、都心の中枢に向かっていった。
 ロボコン部隊は、強力なセンサーで擬態するチンタオの速度に、次第に追いつき、1機、また1機と撃破していく。

 わたしと優子は、ロボコンを除けば、数少ないチンタオのステルスが見破れる個体なので、彼らが目標としている新宿の国防省に向かった。新宿では、まだ市民に情報が行き渡っておらず。あちこちで交通事故や、混乱が起こっている。
「あのバン、チンタオよ!」
「任せて!」
 わたしは腕のグレネードを発射した。徹甲弾モードにしたグレネードは、チンタオの内部に入って爆発するので、そんなに破片は飛び散らない。しかし程度問題で、数千個の大小の部品が凶器になって、あたりに飛び散る。わたしたちは、一度に一万個の目標を追尾する能力がある。飛び散った破片がどのような軌道を描くのか瞬時に計算し、危険の高い破片から対応する。ごく小さなものは目に仕込まれたレーザーで焼き切る。それ以上のもので脅威にならないものは放置する。

――三時の方向、破片オッサンに!――

 真由の指示でジャンプ。オタオタしているオッサンにしがみつく。若い女にしがみつかれたと思ったオッサンは一瞬ニタリ。直後背中に衝撃、チタン合金の肋骨の下の柔らかい生体組織に突き刺さる。
「おじさん、早く逃げてね。都庁の方角が安全」
 そうアドバイスしながら、背中の破片を抜く。血が噴き出し、オッサンの顔にかかった。
「ごめん……」
 腰を抜かしたオッサンを尻目に、国防省へ急ぐ。真由も女の子を庇い、首に破片が貫いている。両手両足のグレネードを使ったので、関節の生体組織が破れ、わたしたちは血みどろになった。
 国防省の構内に入ると、弾薬庫を目指した。もう手持ちのグレネードが切れてしまっている。
「甲殻機動隊。少し弾薬を分けて」
 相手はロボット兵だったので、0・1秒でIDを認識して弾薬庫に入れてくれた。
 両手足にグレネードを装填し終えた時に衝撃がやってきた。
「バリアーが破られた!」
 外に出てみると、国防省の東側のバリアーが破られていた。周囲の破片から三機のチンタオが同時に突っこんできたことが分かった。もう一機は、わずかに間に合わなかったのだろう、植え込みのところでデングリカエって黒煙を上げていた。バリアーはすぐに回復を現す薄いグリーンになっている。
「お前達も大変だったな」
 ユースケが声をかけてきた。
「CICにいなくていいの?」
「ああ、やつらの目標はCICのコマンダーのオレだ。いっそ外に出た方が始末が早い」
「最後の1機が突っこんでくる!」
「司令機よ!」
 わたしと優子とユースケは、瞬時に同じコマンドコードになり、二百キロの速度で構内を走り回った。
 もう、グレネードを撃っている暇もない。
 直前で司令機は三つに分離し、三人それぞれに向かう姿勢を示したが、これはブラフであった。ユースケのコマンドコードを正確に読み取った司令機は、ユースケに集中した。
 優子は、その前に身を投げ出した。

 強烈な炸裂音がして、司令機も優子もユースケも吹き飛んでしまった。

 優子は、正面で、まともに受け止めたので、胴体のところで千切れてしまった。生体組織がぶちまけられ凄惨な姿ではあるが、頭部は無事だったので元気ではある。
「優子、世話かけちまったな」
 片腕を失ったユースケが優子の顔を覗き込む。
「ハナちゃんが、今来るわ」
 そう言うと、二人とも安心したようだ。
「優子、おまえがサッチャンだってことは分かっているけど、そっちの勝負は当分お預けな。フェアにいきたいからな」

『いやあ、神楽坂も、マンションは爆破されるわ、新宿の方から人たちが逃げてくるわで大変でした』
「遅れた言い訳?」
「いいじゃん、ハナちゃんも大変だったみたいだから」
 同期した優子とハナちゃんは、情報を共有したようだ。
「木下クンは……」
『……なんとか、人間の形にして、あとのお世話はお願いしてきました』
「ありがとう……わたしたちもメンテナンス大変なんだろうな」
「もし、わたしのCPの中に優奈が生きてるって分かったら……ユースケ、どうしただろうね」
「さあ……」

 ハナちゃんは、わたしたちを乗せて、一路大阪を目指した……。



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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・66『C国多摩事変・1』

2018-10-31 06:29:43 | ボクの妹

妹が憎たらしいのには訳がある・66
『C国多摩事変・1』 
      


 よくある漢方薬の注文のメールだった。一日に数万件はある、それらの、ほんの三百件ほどだった。

 木下が、おかしいと思ったのは、それらが多摩ニュータウンに集中し、商品が、今はほとんど注文のない強壮剤だったからである。
 多摩ニュータウンは人口減少と多摩局地戦の影響で、規模が2/3に縮小され、高齢者の人口は減っている。
 こんな多量、同種の漢方薬が発注されることがおかしいと思った。勘の働いた木下は、そのうちの一軒を覗いてみた。
 内務省が極秘で持っている世帯個別調査のコードを使った。これを使えば、各世帯のテレビ内蔵のカメラや、PCカメラ、防犯カメラの映像を瞬時にみることができ、住人の個体識別もできるというスグレモノである。映された映像は、若い夫婦が子孫繁栄のための、ごく個人的な行為の真っ最中で、まちがっても強壮剤などは使わない。

「あ……」

 それはハッカーとしての直感であった。
 これは初歩的なハッキングによる情報操作だ。木下は受信先のアドレスを徹底的に洗った。
 その結果、今は壊滅した対馬戦争時代のC国陸軍の情報部宛になっていた。
 そこで木下は、その情報部のコードを偽造し、注文主に確認のメールを送った。すると、そこには、二世代前のチンタオ型、それもステルスタイプのロボットが十数台集結しつつある映像が映った。

「こいつはスリーパーだ……こないだのは、そのうちの一台にすぎなかったんだ!」

 チンタオ7号は考えた、ついさっき再起動したことを偽装電で送った。宛はチンタオ統合情報部である。そこから、再起動確認の偽装電が送られてきた。他の300台にも短波無線で情報を流し、全てのロボットが再起動の連絡をやりなおした。
 すると今度は、チンタオ統合情報部からではなく、彼らが以前稼動していたころには存在しなかった陸軍中央情報局から、暗号文で活動停止の電文が送られてきた。チンタオたちはこれをフェイクと考え、最初の再起動確認の電信を送ってきた者を敵と見なし、その発信源を突き止めた。

「しまった、こいつらCPを並列化して捜索してやがる」

 こんな事態になるとは思っていなかったので、簡易偽装と通り一遍の迂回しかやっていない。いかに二世代前とは言え並列化したCPなら数分で、ここを特定するだろう。

 木下は、CPを使ってワルサはするが、ごく身近な人間には「親切」な男である。
 となりの真由と優子を助けてやろうと思った。PCの一つを覗きモードにすると真由と優子の部屋が見える。就寝準備のため、布団をしいて、パジャマに着替えている。
「いつ見ても、真由ちゃんのオッパイってかわいい……いかん、今は、そんな状況じゃない!」
 木下は、慌てて隣の部屋に行きドアを叩いた。
「真由、優子、すぐに逃げろ、間もなくミサイルが飛んでくる!」
『なに言ってんの。あたしたち、もう寝るとこだから』
「寝ちゃダメだ、逃げなきゃ!」
『おやすみなさ~い』
「くそ!」
 木下は、二人の乙女を助けるべく、ドアを蹴破って中に入った。

 部屋の中はもぬけの殻だった。

「真由、たいへん。木下クンが、あたしたちの部屋に入った」
「え、ほんとだ」
「あいつ、チンタオのスリーパーに気づいて、あたしたちを助けようとしてるんだ!」
 その時、渋谷にいた二人の上空を一発のミサイルが飛んでいったのが分かった。
――木下クン、逃げて!――
 わたしは部屋のPCを起動して、思念で呼びかけた。それが音声化されて木下の耳には届いたが、パニックになっている彼は、とっさには理解できなかった。

 そして、数秒後にミサイルは、マンションごと、木下を吹き飛ばしてしまった……。


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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・65『荒川事件』

2018-10-30 06:44:39 | ボクの妹

妹が憎たらしいのには訳がある・65
『荒川事件』
     



 捜すのにずいぶん時間がかかったよ。もっとも、こちらも、それだけに構っていられなかったけれどね。

 ホンダN360Zは、入力したコースを離れ、荒川の河川敷に停まると、そう話しかけてきた。

「油断したわ」
「いや、ここまで隠れていたんだ、大した者だと誉めておくよ」

「この声……ユースケね?」

「その名前は気に入っているよ。原体になった祐介は完全に取り込んだけど、このロボットの行動や思考の力は祐介の想いが原動力になっているからね」
「今、祐介は、どうなっているの?」
 抑えた声で優子がたずねると、ダッシュボードのモニターに赤ん坊のように丸まった祐介の姿が映った。粘膜や血管のようなものが繋がり繭のようなものの中で眠っているようだった。
「そして、これがわたし……ユースケのMCPだよ。どうせ君たちのスキャン能力じゃ分かってしまうことだろうからね。友好のシルシにお見せしておくよ」
「ホンダN360Zの擬態はやめたのね。どこにでもあるアズマの大衆車だわよ、これじゃ」
 わたしの不満にユースケは、正直に答えた。
「わたしも、あれのほうが好きなんだけど、目立つからね、山手線のガードを潜った時に変えた。ちょうど周りはアズマの同型車が四台も走っていたからね。途中、衛星の目の陰になるところでシリアスもナンバーも何度も変えたよ。見てごらん、営業の途中に自主的な休息をとっているアズマが、この河川敷に何台もいるだろう」
「なるほど、都心の道路じゃ、すぐに交通監視員のオジサンがやってくるものね」
「窓開けていい?」
「いいよ」

 オートで窓が開いた。広い荒川の川風が吹き込んできて気持ちがいい。

「子供の頃、こんなとこで、よく石投げをしたものよ。ちょっと出てやってもいい?」
「それは、話が済んでからにしてもらえないか。君たちのノスタルジーに付き合うために、ここまで来たんじゃないんだから」
「ち……」
「それに、うかつに外に出られて走り回られちゃ、擬態を解いてロボットの姿に戻らなきゃならないからね。せっかく平和に自主的休憩をとっているサラリーマン諸君の安らぎの邪魔はしたくない」
「ま、とにかく話を聞いてみようよ」
「友好的な態度に感謝する」
「で……?」
「C国が予想以上に我が国に浸透してきている。M重工の重役にハニートラップがかけられていた事でも分かるだろう?」
「ええ、あれはショックだったわ。C国の技術が、あそこまで進んでいるとは思わなかった」
「的場みたいな抜けたやつが防衛大臣をやっていたからな。今の民自党の時代に相当やられてる。それだけじゃない。君たちが多摩でクラッシュしてくれた古いロボットの他にも、相当なスリーパーが潜り込んでいるようで、対馬を中心に、周辺海域をしらみつぶしにあたっている」
「で、その間は、グノーシスの仲間割れは中断なのね」
「ああ、この国がなくなっちゃ元も子もないからね」
「だったら……」

 わたしと優子は手話に切り替えた。

――向こう岸の、ミッサンのバンに気を付けて――
――上空をノンビリ飛んでるアズマテレビのヘリコプターにもね――

 そのとき、ミッサンのバンが方向転換をしたかと思うと、ヘッドライトのところから対地ミサイルを、こちら岸のアズマの営業車に撃ち込んできた。
 二台目が吹き飛んだとき、わたしたちはドアから飛び出し、ユースケはアズマの擬態を解いてロボットの姿になり、荒川をジャンプし、ミッサンのバンの擬態を解きつつあるC国のロボットに飛びかかっていった。すると上空をノンビリ飛んでいたアズマテレビのヘリコプターが、空対地ミサイルをユースケ目がけて発射した。ユースケは予定進路を変え、同時にジャミングをかけた。
 わたしたちが義体であることに気づくのには、少し時間がかかり、わたしたちは擬態を解いたC国のロボットの後ろにまわり、至近距離から手首のグレネードを四発首筋にお見舞いし。ロボットは擱座した。真由の二発で間に合ったので、わたしは上空のアズマテレビのヘリコプターを撃ち、重力誘導で荒川の真ん中に墜落させた。

「ビックリするよね」
「あ、ユースケ、フケやがッた」

 あちこちで、アズマの車や、ロボット、ヘリの残骸が燃えている。わたしと優子は体温を地面と同じにし、衛星のサーモセンサーにかからないようにして、すぐに街中に逃げ込んだ。

 これが、C国多摩事変と呼ばれる局地戦争の始まりだった……。

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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・64『オーマイガー!?』

2018-10-29 06:37:22 | ボクの妹

妹が憎たらしいのには訳がある・64
『オーマイガー!?』 
    


 それから、表面上は穏やかな学生生活が続いた。

 裏ではいろいろあった。

 春奈の父親は、C国のハニートラップ、それもロボットに騙され情報を流し続けたということで、他社や自社の重役や、役人達といっしょに社会的に抹殺され、今は長崎に帰って妻と少しずつ「夫婦」に戻りつつあった。春奈は、これを機に東京で、学生生活に本腰を入れた。むろん宗司のサポートがあってのことだが。
 日本政府とC国の関係は一触即発の状態になり、グノーシスの仲間割れも休戦状態で、隣の木下クンのところからも、日本とC国の腹のさぐり合い以上の情報は流れてこず、緊張を孕んだ平和が続いた。

 そんな中、W大の理工学部と自動車部の肝いりで自動車ショーが開かれた。

「足としての車 足は第二の頭脳である」

 もっともらしいコンセプトで、自動車部が持っているガラクタ同然のクラシックカーに理工学部が適当な解説をつけ、お祭り騒ぎをやろうという学生らしい企みであった。
 むろん参加料はタダだが、自動車メーカーや、玩具メーカーとタイアップし、ブースを出してもらい、一稼ぎしようという目論見。
 企画は、我らが「となりの木下クン」で、彼自身ネット上にブースを設け、中古車から、クラシックカーのパーツ販売の仲介までやって稼いでいた。宗司クンは、スーパーの知識と、料理の腕をを生かし、友人とB級グルメの店を出して楽しんでいた。宗司クンの出店は、いわば客寄せで、ほとんど儲けはないが、趣味人として楽しみ、他学生である春奈も喜々としてウェイトレスの手伝いなんかをしていた。
 
「この車かわいいね」

 優奈が一台のクラシックカーに目を付けた。ホンダN360Zと表記された車は「古典的未来の魅力」というキャプションが付いていた。
 百年前の車だけど、21世紀に対する無垢なあこがれがフォルムに現れていた。21世紀初頭を感じさせるフロントグリル、コックピットと言っていいような乗車スペース。大胆な黒縁のハッチバック。切り落としたように無い車体後部。
「これ、極東戦争の前にヒットした『オーマイガー!!』に出てくる車だよ」
「主人公のマドカが『ファルコンZ』って名前付けて、イケメンの外人講師乗せたり、過去の世界に戻って、高校生時代の母親を助けたりするんだよね」
 優子は、頭脳の元になっている幸子か優奈が好きだったんだろう、『オーマイガー!!』の映画への思い入れと知識に詳しい。
「良かったら試乗してください。オートでしか運転できませんが、時代の雰囲気は満喫していただけます」
 W大生にしては、可愛いミニスカ・キャンギャルの女の子が、にこやかにドアを開けてくれた。

「ウワー、カッチョイイ!」

 優子のその一言で、わたしは優子といっしょに「コックピット」に乗り込んだ。
「うわー、これ音声認識もしないんだ!」
「はい、三世代前の手動入力になっています」
 キャンギャルの子が、目をへの字にして、興味をそそる。
「じゃ、神楽坂に出て、渋谷……」
 優子が、山手線の内側をなぞるようにコース設定をした。
「ウウ、たまらん、このアナログ感!」
「ファルコンZ、しゅっぱーつ!」
 優子が、映画のマドカのように声を上げた。
 車が一般道に出るまで、キャンギャルの子は笑顔で手を振っ見送ってくれた。

 車が見えなくなると、キャンギャルの子は、ブースの陰でミニのコスを脱ぎ捨て、隠しておいた国防軍のレンジャーのユニホ-ムになり、迎えに来た高機動車に乗り込んだ。

 木下クンも、宗司も春奈も、会場の誰も気づかなかった……。

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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・63『ボクの勘』

2018-10-28 06:36:21 | ボクの妹

ボクのがこんなにニクソイわけがない・63
『ボクの勘』 
 
         


「ボクの勘だけど、あの女の人はロボットのような気がする」

 マンションに戻る途中、春奈と宗司がマンションを出て駅に向かって居ることがGPSで分かった。
そして、最初に飛び込んできたのが、宗司のこの言葉だった。

 しばらく、二人は無言だった。

 春奈が涙をこらえ、宗司が、今の言葉を後悔しながら、春奈の気持ちを引き立てようとしていることが、無言の息づかいや、足音などから分かった。

「言葉なんか無くても、通じるものってあるんだね……」
 優子が、優しく言った。
「始め言葉ありき……と、聖書にはあるけどね」
「新約聖書「ヨハネによる福音書」第1章ね……わたしはクリスチャンじゃないから、この言葉は信じない」
「そうだね。今、宗司は無言で春奈に寄り添ってるよ。だから、春奈も崩れずに、駅に向かって、ちゃんと歩いている、歩けてる」

 駅の改札を潜ると、まるでシェルターにでも入ったように、春奈は、ベンチに腰を下ろし、ため息をついた。
 
 電車が来ても春奈は、ベンチを立とうとはしなかった。

 宗司は、寄り添ってベンチに座り続けた。
 場馴れしない宗司は、無意味に立ち上がり、自販機でコーヒー牛乳を買って、一つを春奈に渡した。

「プ、よりによって、コーヒー牛乳……」
「あ、ボク、何にも考えてなくて……よかったら、別の買ってくる」
「いいの、こういう子供じみた飲み物がちょうどいいの」
「そ、それはよかった」

 そう言いながら、宗司自信は、コーヒー牛乳を持て余していた。
 春奈は、付属のストローを、さっさと差し込んで、最初の一口を口にした。

「おいしい、宗司クンも飲んでみそ」
「う、うん」
 宗司は、音を立てて、半分ほども飲んでしまった。
「子供みたい」
「あ、ボクって、気が回らないから……ごめん」
「謝ることなんかないわよ」
「ロボットみたいだって、いいかげんな慰め言ってごめん」
「ううん、心がこもっているもの。でも、どうしてロボットだって思ったの?」
「……ただの勘。エントランスですれ違ったときに、なんてのかな……人間て、不完全てか不器用だから、たいてい複数のオーラを感じるんだけど、あの人からは美しいってオーラしか感じなかった。むろん表情が硬かったり、適度に足早だったり……でも、ボクには、プログラムされた動きのように思われた……いや、ドジなボクの勘だから」
「残念ながら、あの女の人は人間。これも勘だけど、当たり」

「そうなんだ……」

「中学の頃に、お父さんのゴミホリ手伝ってたら、紐が切れて、古い本やら手紙がばらけちゃって」
「アナログなんだね」
「エンジニアって、そんなとこあるでしょ。その手紙の中に、経年劣化すると隠れた写真が浮かび出てくるものがあったの。その写真、さっきの女の人にそっくりだった」
「女の人からの手紙?」
「ううん、お父さんの友だち。きれいな人だなって思った。手紙には『20年後に、この手紙を見ろ』って書いてあった。元は風景写真みたいだったけど、女の人の姿と二重になっていて、お日さまに当てると、あっと言う間に、女の人だけになった」
「その女の人、お父さんの彼女だった人?」
「うん……不思議そうに見ているお父さんが、後ろから言った『お母さんと知り合う前に付き合っていた。向こうの親が反対らしくてね、お父さんのメールや手紙は全部ブロックされていた。で、数か月後に街で会ったら、こう言われた』 彼女は、こう言った『なんで、しっかり掴まえていてくれなかったの』。それで、お父さんは、手紙やメールがブロックされていたことを悟った。で、なにも言わずに別れたって……『人を愛することは、その人が一番幸せになることを望むことで、けして押しつけるもんじゃない』って。そして『いま、お父さんが一番大切な人は、お母さんと春奈だ』って」
「……そうなんだ」
「その女の人によく似てるんだもん。ロボットだったら、いくらなんでも分かるわよ……でしょ。その……スキンシップとかがあれば分かる事よ」
「そ、そうだよね……」
「電車が来た。もう、この街から離れよう」
「うん」

「これ、やっぱり放っておけないよ」
 反対側のホームで、優子が言った。
「予定変更、ただちに実行」
 わたしは、あの女に送り込んだプログラムを書き加えた『迅速な活動停止』と……。

「あなた、ただ今。どうだった、春奈ちゃん?」
「あ、ああ、少し傷つけてしまったようだけどね……」
「ごめんなさいね、わたしが……」
 そのまま女は倒れて、呼吸が止まった。

 救急車で女は救急病院に運ばれ、蘇生措置が行われたが息を引き取った。
 そして、病理解剖されて、初めてロボットであることが分かった。同時に全国で二十体の活動を停止したロボットが発見された。わたしが発見したより十五体多い。C国のトラップは、思いの外進んでいた。

 事態は、わたしたちの予測を超えて進み始めている……。
 

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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・62『春奈の秘密・2』

2018-10-27 06:52:02 | ボクの妹

が憎たらしいのには訳がある・62
『春奈の秘密・2』 
        


 春奈の父の部屋から三十がらみの女がエレベーターで降りてくる。

 女がマンションから出てくると、優子とわたしは道を分かれて追跡した。
わたしたち義体にはGPS機能が付いているので相手に気づかれない。道の分かれ目で合流し、追跡を交代すれば、よほど慣れたスパイや、アナライザーロボットや義体でも、二回まではごまかせる。
 女は野川沿いの緑地帯に入っていった。顔見知りなんだろう、犬を散歩させているオバサンに声を掛けて、犬とじゃれ合った後、ベンチに座った。

 少し離れたベンチで、女のパッシブスキャンをやる。

 体から出てくる体温、水蒸気、呼気、脳波、電波などから、相手が人間かロボットか義体なのかを見分けるのだ。

「……人間?」
「確かめよう」
 ベンチに座ったまま優子と石の投げっこをする。
 優子が軽く投げた石ころを、わたしが別の石で当てるという無邪気な遊びである。ほんの数メートルの距離だけど、女子高生がじゃれているぐらいにしか見えない。他にもキャッチボールをやったり、フリスビーで遊んでいる家族連れがいるので目立たないのだ。
「真由、いくよ」
 優子が、小さく呟く。
「OK……」

 わたしは二百キロのスピードで小石を投げ、優子の小石をはじき飛ばした。はじかれた石は、まっすぐに女の顔に向かい、女は二百キロで飛んできた小石を軽々とかわすと、アクティブレーダー波を発した。

――義体か、ロボットだ――

 優子は、すぐにジャミングをかけ、わたしは小石をキャッチボールをしている親子のボールに当て、ボールを緩く女の足もとに転がした。
「どうも、すみません」
「いいえ、ボク、投げるわよ」
 女は、正確に、少年のグロ-ブに投げてやった。
 その隙に、わたしと優子は女の後ろに回り、アクティブスキャンをかけた。

――ロボットだ!――

 女が行動を起こす前に、耳の後ろのコネクターに手を当てると、CPをブロックし、アイホンに見せかけたケーブルを繋いだ。
「C国の、最新型ね。並のスキャンじゃ人間と区別つかない」
「メモリーにロックされてるのがある」
「……待って、下手に解除したら自爆するわ」
「そんなドジはしない……わたしの勘に狂いがなければ……ほら、ロックが解けた」
「どうやったの?」
「ダミーのM重工の情報を流した……大当たり。M重工のロボット技術の機密でいっぱい」
「産業スパイ?」
「兼秘密工作員。奥にまだロックのかかったのがある。このキーは軍事用だわ」
「いっそ、破壊する?」
「もっと、いい手がある……」
「なにしてんの?」
「こいつのCPにウィルスを送り込んだ。掴んだ情報に微妙な係数がかかるようにね。C国が気づくのに半年、解析に三ヵ月はかかる」
「でも、八か月で、バレちゃうじゃん」
「解析したらね……多摩で出会った二世代前のロボットのスペックが出るようにしといた」
「真由って、優秀!」
「優子にも同じスキルがあるんだけど、優奈の脳細胞生かすのにCPに負担かけられないからね……」
「ごめん」
「それよりも、M重工の技師やらエライサンの秘書やら愛人に五体、同じのが送り込まれてる」
「機密情報垂れ流しじゃん!」
「ハニートラップに特化したロボット……意外と間が抜けてる。五体でネットワークしてる。このウィルスは自動的に、他のにも感染するね」
 そこで、わたしたちはロボットを解放した。ロボットは浮気相手の娘が来たので、避難した記憶しか残っていない。

 この間、わずかに二秒。緑地帯に居る人たちは、ちょっと貧血を越した女性を女子高生が労わったとしか見えていないだろう。

 春奈には悪いけど、もう少し親の不倫に悩んでもらわなければならない。春奈のフォローのためにマンションに戻った……。


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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・61『春奈の秘密・1』

2018-10-26 06:38:58 | ボクの妹

が憎たらしいのには訳がある・61
『春奈の秘密・1』 
        


「春奈はどうして長崎から東京に来たの。N女程度の大学なら、九州にでもあるだろ?」

 バカな質問をする奴だと、二つ隔てたテーブルで、わたしと優子は思った。

 多摩自然公園で、スリープしていたC国のチンタオ型ロボットと戦って以来、美しい誤解で、W大の宗司とN女子の春奈は急速に仲がが良くなった。
 池の中で溺れかけた春奈は、マウスツーマウスで人工呼吸をしてくれたのは宗司だと思っている。ほんの五秒ほどだけども、わたしは宗司にも人工呼吸をしてやった。で、めでたく宗司も春奈に人工呼吸したのは自分だと思いこんでいる。
――たしかに、宗司に人工呼吸してやったとき、宗司はなけなしの肺の空気を、春奈と勘違いしたわたしに送り込もうとした。その人の良さにわたしは、倍の酸素を送ってやったけど、ロボットの目をかわすために、すぐその場を離れた。で、美しい誤解が生まれた――

「春奈ちゃんの東京弁聞いても分かるジャン。長崎の匂いはあるけど、あの子は、昨日今日東京に来た子じゃないよ」
「ワケありで長崎に行っていたことぐらい想像つかないのかなあ……」
 優子もため息をついた。
「宗司クンなら、話してもいいかな……」
「うん、なんでも相談に乗るぜ」

 宗司は身を乗り出した。その拍子に、テーブルの下で自分の膝が、春奈の膝の間に食い込んだことにも気が付かない。春奈はミニスカだったので、さすがに身をひいたが、それでも続けた。

「わたし、去年の夏までは東京にいたの。親の都合で田舎の長崎に……宗司クン。いっしょに付いてきてくれる?」
「う、うん」
 
 全然説明不足な春奈の説明に、オメデタイ宗司は二つ返事でOKした。

 駅を降りると、春奈と宗司は、成城の街の中心に向かって歩き出した。
 さすがに、春奈もポツリポツリと事情を説明する。

「お父さんとお母さんは別居してるの……で、お母さんの実家がある長崎に。わたしは生まれも育ちも東京だから……」
「やっぱり、慣れたところがいいもんな。それで東京のN女に?」
「……うん、まあ、そんなとこ」
「で、今日は久々にお父さんに会おうってか」
「うん……」

「スーパーと料理に関しては大したオタクだけども、こと女心については、小学生以下だね」
「イケてるミニスカートとチュニックの組み合わせ、ありゃ、元気に明るく女子大生やってますって背伸びだよ。無理してんね。それぐらい分かれよな、ボクネンジン!」
 優子も辛辣だ。
「せめて、デートってか、彼らしく決めてこいよな。ジーンズにスニーカー……春奈の気持ちぐらい分かってやれよ」
 二百メートル遅れて歩きながら、わたしと優子はぼやきっぱなしだった。
「ここ、わたしのマンション」
「え、すっげー……!」

 さすがのボクネンジンでも、それが、並のマンションでないことぐらいは分かった。大スターか、一部上場企業のエライサンでなければ手の届かないシロモノだ。春奈は慣れた手つきで、エントランスの暗証番号を押して監視カメラに向かって手をふった。
――はい、川口ですが。どちらさまでしょう?――
 知らない女の声がして、春奈はうろたえた。
――あ、春奈か。今エントランスを開けるから、ロビーで待っていてくれ――

 しばらくすると、五十代前半のオッサンが、つまり春奈の父親が降りてきた。

「やあ、春奈。言ってくれたら迎えにいったのに。リニア東京からだとくたびれただろう」
「ううん、わたし東京のN女子に通ってんの。あ、彼、BFの高橋宗司クンW大の二年」
「高橋です。どうも、こんなナリで失礼します」
「わたしが気まぐれで、付き合わせたから、仕方ないのよ」
「W大か、なかなかだね。専攻はなんだね」
「あ、一応理工です」
「ハハ、一応ね」
 二百メートル離れた道の角で、優子とわたしは、少しむかついた。ポケットの名刺のIDをチェックすると、M重工のエライサンだということが分かった。国防軍用のロボットを半分以上を請け負っている大企業だ。
「わたし、自分の部屋が見たい」
「あ、ああ、上がんなさい。君はここで少し待っていてくれたまえ」

 わたしも、優子も悪い予感がした……。


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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・60『5人のロボット対戦』

2018-10-25 06:40:45 | ボクの妹

が憎たらしいのには訳がある・60
『5人のロボット対戦』 
      


 

 赤さびたロボットは右足を引きずるようにして近づいてきた。木々をなぎ倒し、岩を踏み砕きながら……。

 携帯武器は持っていないようだが、搭載武器が生きているかも知れない。わたしたちは必死で逃げた。ロボットは二世代前のチンタオ型で、半ば故障しているとは言え、生身の人間には十分過ぎる驚異だ。
 わたしと優子は義体なので、その気になれば後ろに回り込み、メンテナンスハッチを解錠し、動力サーキットを切ってしまえば、ものの数秒で無力化はできるが、それでは、仲間達に義体であることを知られてしまう。

 とにかく逃げることだ。

「こいつは、チンタオのアナライザータイプだ。攻撃能力は知れているが、探査能力が高い……」
 頭上の岩が爆発した。近接戦闘用の搭載兵器、多分ショックガンを使ったんだろう。
「キャー!」
 春奈が悲鳴をあげた。優子は、春奈の口を塞ぎ、次の岩場の陰に隠れた。
「やっつけちゃ、ダメ?」
 わたしは、春奈に聞かれないように早口で優子に言った。優子は素早い手話で答えた。
――ダメ、義体であることがばれる。ばれたとたんに、C国に情報が送られる――
――三ヶ日じゃ、うまくいったじゃない――
――ダメ、他の三人に知られる。わたしたちは「人間」なのよ。

 ドーン! 

 今度は木下と宗司が隠れていた岩場がやられた。

 ただ、ロボットの動きが鈍重なので、あらかじめ察知して、次の隠れ場所に移動する余裕は、なんとかありそうだ。でも、この先隠れ場所になりそうな岩場や、大木がない。大きな池があるだけの背水の陣だ。追いつめられるのは時間の問題だ。
 宗司が飛び込んできた。
「なんで、あんたが!?」
「木下クンが、あいつのCPのハッキングをやるって。その時間稼ぎに、二組に分かれて逃げ回ってくれって」
「そんなこと……」
「危ない!」
 不満はあったけど、結果的に、わたしは優子と、宗司は春奈ちゃんとの二組に分かれて逃げ回った。

 そして、池の水辺にまで追い込まれた。

「これ以上、どうしろって言うのよ!?」
「水にに飛び込むんだ、あいつの生体センサーは一メートルも潜れば感知できなくなる」
「まだ、泳ぐには早すぎるわよ! 水着もないし!」
 真由がど抗議したが、この言い方には余裕がありそうだ。実際次のショックガンがくるまでに、注意を引きつけて、宗司と春奈ちゃんが水に飛び込む時間を稼いだ。

 池に飛び込むと同時に、岩が吹き飛ばされた。池に潜ったわたしたちは二メートルほど潜ったが、五メートルほど先でパニックになりかけている春奈ちゃんを持て余している宗司が目に付いた。

――優子、あっちを助けて。わたしはここであいつを引きつける。

 わたしは、シンクロスイミングのように水面に姿を晒すと、池の深みを目指して泳いだ。次々に撃ち込まれるショックガンで、水面は泡だった。
 優子は春奈に口移しで空気を送ってやった。しかしパニクっている春奈は、半分も、その息を吸うことができなかった。
 三十秒が限界だった。これ以上やっては春奈を溺れさせてしまう。優子はそう判断すると、春奈を水面に放り上げ、自分も高々と水上に姿をあらわした。

 ショックガン……来ない。

 立ち泳ぎで、ロボットを見ると、ショックガン発射寸前の赤いアラームが肩で点滅していた。で、動きが止まっていた。
「やったー!」
 木下クンが、ジャンプして、ガッツポーズをした。

「木下クンなら、甲殻機動隊のサイバー部隊でもやっていけるわね」
「そうね、後始末もお見事」
 木下は、ハッキングの痕跡をきれいに消しただけでなく、ロボットが興味を示したものの記録も、一切合切消した。その中には、違法に改造された彼のCPの他に、わたしたちが義体の疑いがあるという情報も入っていた。

「お二人とも、とても泳ぎがお上手なんですね!」
 
 この春奈ちゃんの記憶は消せなかった。で……。
「宗司クン、水中で人工呼吸してくれて……ありがとう」
 と、宗司にお礼を言った。宗司も半ばパニックだったので、そのへんの記憶があいまいで、
「とっさのこととは言え、ごめん」
 と、美しく誤解していた。

 で、麗しくも切ない青春ドラマの横道へと、物語は展開の気配……。
 

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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・59『古戦場のピクニック』

2018-10-24 06:52:44 | ボクの妹

妹が憎たらしいのには訳がある・59
『古戦場のピクニック』 
    


「あ~たまに来る田舎もいいもんだなあ」

 高橋宗司がノビををした。


 わたしたちは、ひょんなことで友だちになり、みんなでお好み焼きパーティーをやったあと、今日のピクニックの話になった。
 で、木下クンの提案で、多摩の自然公園のピクニックに来ている。

 自然公園といっても奥多摩のような完全な自然公園ではない。今世紀の初頭まで、団地が林立していた多摩市、八王子市、町田市にまたがるニュータウンの北西部である。
 人口の減少、高齢化にともないニュータウンの過疎化が進み、先の極東戦争では首都圏内で唯一戦場になったこともあり、1/3にあたる1000ヘクタールあまりが、戦後自然に戻され、多摩自然公園……のようにされた。
 戦場跡であったので、そのままの状態で保存しようという声も高かったが、「平和を希求する日本の象徴」として、自然公園のように作り替えられ、昭和の昔には多くの人の営みがあったことなど、痕跡も留めていない。
 コンクリートやアスファルトなどは、クラスター砲(物質を分子の次ぎに大きいクラスターのレベルまで分解するショックガン。その威力は、一発で10000平米ほどに展開した戦車部隊を、鉄とセラミックのクラスターに分解し、核とは無関係なのに極地核兵器とまで恐れられ。戦後は国際法で使用が禁止された。なぜなら、人間さえタンパク質やカルシウムのクラスターに分解してしまう。今では対クラスターの技術も進んでいるのだが、象徴的に禁止兵器とされている)を民生用に転用したクラスター破砕機で素材にまで分解され、自然の岩のようにされて、十数年たった今では苔むして、見かけは完全な自然に戻っている。

 わたしは無意識に、その「自然な姿」をCPの中で元の形に復元して見ていた。

――ここは、ジブリの『耳をすませば』のモデルになった公団住宅のあたりだ――

「なに思い出にふけってんのよ」

 優子が、たしなめた。義体の能力を使えば、パッシブセンサーに捉えられる可能性がある。
「優子だって、こないだ宗司クン助けたじゃん」
「あれは、一瞬の出来心。真由、もう10分もサイトシーングしてるよ」
「ああ、やっぱ、あれは出来心だったのか!」
 意外なところで、宗司クンが傷ついた。
「あたりまえでしょ、あんなのほっといたら、事故になって、みんなが迷惑するんだからね」
「ねえ、ここらへんでお昼にしようよ!」
 宗司クンの気を引き立てるように、春奈が明るく言った。

「うわー、豪華なランチパックじゃないの!」
「夕べから、川口さんといっしょに作ったんです」
 宗司クンが際どいことを言う。
「それって、原因、結果?」
 木下クンが、意地悪な質問をする。
「いやあ、作っているうちにアイデアが膨らんで、あれも、これもって……」
 宗司クンが頭を掻く。
「あ、結果ですからね、結果。宗司クンには下心なんかありません!」
「そういう言い方って、想像力をかきたてんのよね」
 真由まで調子にのりだした。

「ここに、カントリーロードが走っていた」

 ちっこいPCを出して、木下クンが言った。
 覗いてみると、PCには今の風景と、ニュータウンがあったころの風景が、重なって映し出されていた。
「この道を挟んで、杉本が雫を呼び止めるんだ」
「知ってる、で、神社ですれ違いの告白になるんだよね!」
 と、わたしが言おうとしたことを春奈が先を越した。
「しかし、木下クンのPC技術はすごいね」
「実は、他にも使い道が……」
 地図にグリーンのドットが現れた。
「なにこれ?」
「多摩奇襲作戦で、敵のロボットが破壊された場所」
「今でも残ってんの!?」
 優子がすっとんきょうな声を上げ、驚いた小鳥が二三羽飛び立っていった。
「本体は回収されたけどね、部品が地中に埋まってる……こいつを掘り出して、オークションにかければいい値段になるんだけどね」
「ひょっとして、木下クン、そのために、わたしたちを連れてきたとか?」
「少しはあるけどね、みんな地中深くだ。大がかりな重機でもなきゃ無理さ。たとえできても採算が合わない…………ん、これは?」

 モニターに赤いドットが現れた。

「こいつ、生きてるよ!」

「え、何が?」
 みんなが寄ってきた。
「これは国防軍のレベルCの機密なんだけど。奥多摩奇襲作戦で補足した敵のロボットと撃破したロボットの数が一つ合わないんだ。カウントミスということになっているけど、こいつはスリーパーだったんだ……」
「寝てたの?」
 春奈が、あどけない質問をする。
「今までは、グリーンの残骸と認識されていたんだ……」
「なあ、このドット動いてないか?」
 宗司が、信号機が変わったぐらいの関心で言った。
「ヤベエ、こっちに近づいている!」
 その時、地響きがして、やがて地震のような揺れになった。
「みんな、逃げよう!」

 ボーーーーーーン!


 鈍い爆発音のようなのがして、現れた……そいつが。

 C国の戦時中の出来損ないのガンダムのようなロボットが……。


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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・58『優子の場合』

2018-10-23 06:57:30 | ボクの妹

 

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妹が憎たらしいのには訳がある・58
『優子の場合』 
    


 バカか、あいつは……?

 優子は、他の通行人といっしょに、そう思っていた。
 大学の帰り、真由のようにお友だちもできなかった優子は、晩ご飯の用意にスーパーに寄ろうとして、そいつを見てしまった。

 ベースは悪くないのだろうが、一目でW大生とわかるダサいパーカーのそいつは、交差点の真ん中で立ち往生していた。
 荷台に括りつけていたゴムバンドが外れて、垂れたフックが自転車の後輪に絡まり、身動きがとれなくなっていたのだ。
 滑稽なことに、本人は気づかず、幽霊かなんかが、自分の自転車を止めている超常現象のように思っているらしいことである。
「あれ、あれ……ええ……?」
 で、パニック寸前の顔で、交差点の真ん中で、オロオロしている。見ている通行人は、原因が超常現象などではなく、ただのドジであることが分かっていたので、クスクス笑っていくばかり。それが、このW大生をさらにパニックに陥れていく。
「あ、悪霊の仕業か!?」

 で、信号が青から黄色、そして赤に変わった。

 バカかあいつは……!?

 通行人の認識が変わった。ただ、信号が赤になったばかりの交差点に入って、哀れなW大生を助けるのにはリスクが高かった。信号は赤だが、彼の顔は青いままで、すでにパニックになりかけていることが分かった。下手に助けに飛び込んだら、巻き込まれる恐れがあるので、誰も助けには出ない。
 優子(幸子と優奈の融合体)は、義体のモードで車道に飛び出し、自転車を担ぎ、W大生の手を引いて、反対側の歩道に、あっと言う間に着いた。拍手と冷やかしが等量におこった。

「ほんとっ、バカね、あんた」

 優子は、後輪に絡んだゴムひものフックを見せながら言った。
「え、え……このせいで?」
「そう、悪い霊のせいなんかじゃなくて、あんたの悪い勘のせい!」
「あ、ど、どもありがとう」
「じゃ、これからは気を付けてね」
 優子はさっさと車道の向こう側に戻りたかったが、信号が変わらない。W大生は動く気配がない。
「あんたの行く方向は、あっちじゃないの?」
「考え事してて、つい渡っちゃったんだ。バイトが、こっちのほうなもんだから」
「じゃ、バイト急いだら」
「今日はシフトに入ってないんだ。晩ご飯の材料買って帰るとこ」
「あ、そう」
 優子は、さっさと歩き出した。なぜかW大生も後を付いてくる。
「なんで、付いてくんのよ!?」
「だって、Kマート、こっちだから」
「あ……」
 木下に教えてもらったス-パーもKマートであった。もうKマートは目の前である。
「言っとくけど、運命だなんて思わないでね。わたしも最初からここに買い物に、来るつもりだったの」
「あ、ども……」
 優子は、さっさとKマートに入り、買い物かごを持って、野菜売り場から順路に従って回り始めた。

 そして、冷凍食品のコーナーで、あいつを見つけてしまった。

 あいつは、店の順路を逆回りして、実に手際よく品物をカゴののなかにぶち込んでいた。
「やあ!」
 そいつは、元気に手をあげた。
「あんたって、ほんと変わり者ね。どうして逆に回るのよ?」
「スーパーって、総菜コーナーが最後にあるの。で、総菜って一番旬で、店でもお買い得の材料を使ってるんだ。そこで偵察して、食材を選ぶ。セオリーだよ。それから、豚コマ、しめじ、もやし、なんかは工場生産で、価格が安定してるから、まず確保だね。あ、お好み焼き粉買っちゃったの!?」
「うん、だって一円の超特売だから」
「バカだなあ!」
 バカにバカと言われて、優子はむっとした。
「粉を大安売りしてるってことは、それに付随するキャベツとか、蛸、イカなんかの値段が高いんだよ。スーパーの手。う~ん……レタスにしときな、これは並の値段。あと豚コマ。ソースは二個セットの……」
「二個もいらないわよ」
「ボクも切れてるから、あとで分けよう」

 こんな調子で、完全にW大生のペースに巻き込まれた。

 帰り道、同じマンションであることが分かった。優子たちと同様ルームシェアリングしていたらしいペアが、この春に卒業したので、しばらくは一人暮らしのようだ。

 道々、話を聞くと、彼はW大の二年生で、高橋宗司。意外にも大阪の出身であった。
「お好み焼きを作る」
 と言うと、ごく自然に、部屋に上がり込んできて、生地を作り始めた。悪意や下心などは丸でなく、親切心……というより、こんな料理下手にやらせられるかというピュアな気持ちで、上がり込んできたようだ。
「ねえ、ちょっと量多くない?」
「ある程度の量を作らないと、一定以上の味が出ないんだ」
「でもね……」
 そこにメールが入った――友だち連れていくから、一食分多目にお願い――

 けっきょく、わたしの友だち春奈と、宗司、お隣の木下クンまで入って賑やかな初晩ご飯になった……。

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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・57『でんでらりゅうば』

2018-10-22 06:44:16 | ボクの妹

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妹が憎たらしいのには訳がある・57
『でんでらりゅうば』
    

 

――しばらく様子を見る――

 二日後にユースケに宛ててメールを打った。当然、となりの木下クンのPCを中継しているのでメールの出所は分からない。

――さすが甲殻機動隊。発信源も分からないし、着信履歴も残らないな――

 折り返し、ユースケからメールが来た。ユースケも、なかなかやるもんで、発信はペンタゴンになっていた。もっとも原文は――バグダッドは快晴、雲一つ無し――で、世界中に駐留するアメリカ軍、関係施設に一斉送信され、そのどこかのCPをハッキングしているCPをいくつも経由して、木下クンのCPに入ってきたものだ。通信コードからペンタゴンと知れただけである。木下クンのハッキングは秒単位で移動して、しかも痕跡を残さない。ペンタゴンも、軍の情報局も、甲殻機動隊でも見抜くことはできないだろう。

 どうせ、腰を落ち着けるなら、適度なPCマニアの側がいいだろうぐらいのネライだったが、大ヒットだった。

 その週のうちに国防省で佐官級の人事異動が小さなニュースになった。表向きは、極東アジアの警備の都合ということであったが、裏にグノーシスの権力闘争があることは、わたし(真由=ねねちゃんと俺の融合)も優子(幸子と優奈の融合)も分かっていた。対馬に移動した佐官二名がウミドリ(オスプレイの発展系)の不時着事故で死亡している。
 ユースケからの連絡も――連絡あるまで待機――のメールを最後に途絶えた。ちなみに、このメールはあるタレント政治家が、愛人に宛てた――しばらくいけない。愛してるよ――に偽装されていた。このメールは週刊BSにも流れ、その週の最大のスキャンダルになった。これはユースケのちょっとしたウサバラシだろう。

 わたしたちは、思いがけず、平穏な女子大生生活を送ることになった。わたしは国文、優子は史学科だった。こないだまで女子高生だったけど、義体なもので、N女子大の学生としては、中の上ぐらいの能力設定にしてある。また、それに合わせて生体組織も変態させ、プラス四歳。胸も念願のCカップにした。

 国文の講義で、こんなことがあった。

 講義中に、わたしの足もとに消しゴムが転がってきた。斜め後ろの席で小柄なショートヘアがキョロキョロしている。
「これ、あなたのでしょ?」
「あ、どうも」
 これだけの会話だったけど、なんだか友だちになれそうな気がした。

「さっきはどうも」

 講義がが終わると、その子はちょこんとお辞儀をした。
「あなた、長崎の人でしょ?」
「え、分かります!?」
「なんとなく。よかったら学食でお昼でもどう?」
「は、はい」 
 その子は、弾けたような笑顔になった。

「真由さん、こっちこっち!」

 手際よく、その子は学食の席を二つ確保した。わたしは、まだこの子の名前を知らない。「わたし、渡辺真由。名古屋から……」
 そこまで言うと。
「取りあえず、席キープしてきます!」
 そう言って、ショートヘアをフワフワさせて学食へまっしぐらに駆けていった。

「あ、まだ自己紹介もしてませんね!?」

 それまで、東京に越してきたカルチャーショックについて、ほとんど一人で喋っていた、その子のスイッチが切り替わった。
「わたし、川口春奈っていいます。真由さんがN女にきて最初の友だちです」
 そう言って、特盛りのエビカツカレーの、最後のお楽しみに取っておいたのだろうエビカツの尻尾を美味しそうにかみ砕いた。
「友だちだったら、さん付けはよそうよ真由・春奈でいこうよ」
「え、いいんですか?」
「ってか、友だちなら、それが自然じゃない?」
「じゃ、真由……さん(n*´ω`*n)」
「ハハ、ボチボチいこうよ」
「デザート、なにか食べます?」
「じゃ、イチゴのショ-トにコーヒー」
「承知!」
 春奈はすっとんで、デザートをあっと言う間に確保してきた。わたしは、お金を渡しながらタマゲタ。春奈のデザートは、大盛りのかけそばだった。
「春奈、よく食べるわね!」
「エネルギー効率が悪いの」
 そう言うとサロペットのボタンを外すと、七部袖のTシャツを脱いで、勢いよくキャミ一枚になった。小柄だけど均整のとれた体だと思った。
「もう一杯、なんか飲もうか。わたしおごるから」
「嬉しい、じゃ、ジンジャエール。大……ごめんなさい」
「いいわよ、わたしも、それにしようと思っていたから」
 わたしは、義体のわりには要領が悪く。直前に三人組に入り込まれ少し遅れた。席に戻ると春奈が、何やら手で遊んでいた。
「なにやってるの?」
「あ、えへへ(〃´∪`〃)ゞ長崎の手遊び」
「それ、大昔、テレビで見たことある」
「ほんと!?『でんでれりゅば』っていうのよ」
「わたしにも教えて!」
「簡単よ、こんなふう『でんでれりゅうば、でてくるばってん、でんでられんけん、でてこんけん、こんこられんけん、こられられんけん、こ~ん、こ~ん』やってみて!」
 歌に合わせて、右手のグーと親指、人差し指と小指を交互に拍子を取るように左の手のひらに打ちつける……案外むずかしい。
 わたしは、あえて義体の能力を閉じて、人間の能力でやってみた。
「だめだね、こうだってば……」

 この人間らしいもどかしさが、とても愛おしく思えた……。
 

 

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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・56『となりの木下クン』

2018-10-21 06:58:04 | ボクの妹

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妹が憎たらしいのには訳がある・56
『となりの木下クン』 
    

 

「ハナちゃん、名古屋ナンバーに変えて」

『なに、企んどりゃーすね、怪しいてかんわ♪』
 ハナちゃんは、古典的な名古屋弁で冷やかしながら、ナンバーを変えた。
「大阪出身じゃだめなの?」
 急な変更にわたしは戸惑った。
「念には念を。パパが用意してくれたIDの信頼性は高いけど、万一ってことがあるから」
「さすが、甲殻機動隊副長の娘ね」

 わたし達はN女子大に近い神楽坂の若者向けのマンションの住人になった。

 不動産屋には女子学生専用のを勧められたが、わたしと優子(幸子と優奈の融合)は、あえて普通の中級チョイ下のマンションを選んだ。同郷の女子大生が住むのには、ワンル-ムのマンションよりは、この程度のマンションをシェアして借りた方が自然だと思ったからだ。それに隣人がぴったりだった 

「隣りに越してきましたものですが、ご挨拶にうかがいました……」

 しばらくすると、Tシャツにヨレたジーパンの若者がドアを開けた。
「あ……ども」
 不器用な挨拶だったけど、脈拍、呼吸、瞳孔を観察すると、一瞬で二人に興味を持ちすぎるほどに持ったことが分かった。
「わたしが大島、こちらが渡辺っていいます。今まで学生用のワンル-ムに居たんですけど、不経済なんで、二人でいっしょに住むことにしたんです」
「ひょっとして、N女子?」
「ええ、木下さんは……W大ですか?」
「ええ、まあ、在籍は。お二人は地方から?」
「ええ、名古屋です」
「まだ西も東も分からなくって……」
 優子が粉をふる。木下は、すぐにひっかかった。
「そりゃ大変だ、よかったら上がりませんか。近所の情報レクチャーしますよ」
「どうしよう……」
  

 駆け出しの女子大生らしく、ためらってみせる。

「じゃ、ちょっとだけ」

 呼吸を合わせて、自然なかたちで上がり込む。

 駆けだし女子大生らしく興味深げに部屋を見渡す。見渡すまでもなく、このマンションに来たときから、この部屋のことは調べ済みだ。
「あ、お茶入れますね。こう見えても実家は静岡でお茶作ってるんで、ちょっとマシなお茶ですから」
 そう言いながら、木下は自然に寝室のドアを閉め、お茶を入れ始めた。キッチンと、こっちの部屋はやもめ暮らしにしては整理されていたが、寝室はグチャグチャで女の子に見せられないものもいろいろある。
「東京に居てなんなんですけど、引っ越しのご挨拶の人形焼きです。どうぞ」
「ああ、こりゃ、お茶請けにぴったりだ」
「木下さんの部屋って、なんだかパソコンやらIT関連の機械が多いですね」
「趣味と実益兼ねてるんじゃないですか?」
 と、くすぐってみる。
「いやあ、鋭いな大島さんは。ネット販売の中継で小遣い稼ぎ程度ですけどね」
 触法ギリギリの商品の出所をごまかして、けっこうな稼ぎをしていることは、スキャニング済みである。
「スマホあります? この街の情報コピーしてあげますよ。あ、危ないウィルスなんか付いてませんから。でも、一応スキャンしてから入れて下さい」
 木下は、ケーブルを取り出すと、パソコンとわたしたちのスマホを繋いだ。
「大丈夫、安全マーク出ました」
「よかった。じゃ、送りますね」

 ソフトそのものは大したもので、神楽坂界隈からN女子、W大近辺のお店の情報やら、お巡りさんのパトロールのルート、果ては、界隈の犬猫情報まで入っていて、かわいい犬猫ベストテンまで付いていた。

「タッチすると、さらに細かい情報が出てきます」
 木下が、ある犬をタッチすると、飼い主から、お散歩ルートまで分かる。
「わあ、かわいい!」
 優子がブリッコをする。このソフトを人間に当てはめれば、人間の情報まで取り込めるということであることは当たり前である。実際木下のオリジナルのソフトには組み込まれている。また、木下のパソコンに繋いだ時点で、スマホは木下のパソコンで自由に閲覧できるようにされている。それも、わたしたちは承知であった。
 あとは、近所やら、互いの大学のいろんな話をして、一時間近く過ごし、程よいご近所になって部屋に戻った。

「あの人使えそうね」
 わたしが、そう言うと優子は声を立てて笑った。
「ほら、これが今の木下クン」
 優子がスイッチを入れると、テレビに木下の部屋が映った。なにやら、パソコンをいじっている。
「画面が見えないなあ」
「これで、どうよ」
 画面が、飛行機のように揺れて画面のアップになった。わたしたちの部屋が映っている。ただ現実のそれとは違って荷ほどきをやっている。
「よくできたダミーじゃない」
「これから微調整。彼がかましたソフトは、わたしたちのみたいに優秀じゃなくて、解像度悪いから、それに合わせるのが、ちょっと大変」
 木下が感染させたウイルスは、わたしたちの部屋中のセンサーやコントローラーをカメラにする機能が付いている。つまり、この部屋に何十個も監視カメラをつけたようなものである。
「木下クンの努力に合わせて、オートにしときゃいいじゃない」
「だって、お風呂の人感センサーや、トイレのウォシュレットにも付いてるんだよ」
「いいじゃない。全部ダミーの画像なんだから……って、今わたしをお風呂に入れる!?」
「いいじゃん、ダミーだから」
「あのな(#ToT#)」
「それより、こっちのモスキートセンサーで、よーく調べなきゃ……」
「ちょっと、脱衣場の感度下げてよ!」
「へいへい……木下クン悲しそう……でも、彼のネットワークはすごいわよ。10の20乗解析しても、情報の発信元が分からなくなってる。これを何十億ってCPかましたり、なりすましたりしたら、発信元は絶対分からないわよ」
「じゃ、そろそろリンクしますか」
 優子がリンクボタンをエンゲージした。

――どこに行ったんだ。連絡が欲しい。ユースケ――

 いきなり、ユースケのメールが入ってきた。
「わ、いきなりだ!」
「大丈夫……世界中のCPに無作為に送っている。こっちはキーがインスト-ルされてるから、解読できてるの。ユースケには分からないわ」
「そう、でも気持ちは落ち着かないわね」
 優子は、少し不安顔になった。しかたがない。つい最近ユースケと渡り合ったところなんだから……で、横のモニターを見るとダミー画像のわたしは、非常にクリアーな映像のまま浴室に入っていくところだった。

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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・55『メタモルフォーゼ』

2018-10-20 06:29:43 | ボクの妹

 

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妹が憎たらしいのには訳がある・55
『メタモルフォーゼ』 
    


 アズマのセダンに変態させたハナちゃんを三ヶ日のインターチェンジに入れた。

 わたし(ねねちゃんと俺の合体)と、サッチャン(幸子=ボクの妹)は、信太山駐屯地にあるシェルターを出発して東京を目指した。三ヶ日を過ぎると検問があるので、このインターチェンジで、これからの行動を考えながら当面の対策を練っている。
「ウナギの焼きお握りたまら~ん」
 サッチャンが優奈の顔で、目をへの字にした。
「義体にしては、よく食べるのね」
 わたしは天蕎麦のエビ天の尻尾をポリポリ囓りながら言った。えびせんのような香りが口の中に広がる。サッチャンは、とっくにそれを食べて、三ヶ日名物のウナギの焼きお握りたまら~ん状態。
「優奈ちゃんに変態したところだから、生体組織に栄養がいるのよ。それに東京での生活の準備あれこれに頭使ったから。ほらこれが、ねねちゃんのID……」
 サッチャンが、スマホにケーブルを繋いで、情報を送ってきた。
「え、わたし渡辺真由!?」
「わたしは大島優子。二人とも親が熱烈なAKBファンだったってことになってる。N女子大のちょいワル女子学生……以下了解?」
「インスト-ル終わり。長期戦覚悟ね」
「そうならないように願ってるけど、いくよ真由」
「へいへい」

 浜松市の外れまで来たときに、検問にかかった。

「この先10キロのところで、ロボットが暴走して、軍と警察車両以外は通行止めです。一般道に降りて迂回願います」
 警官の誘導で一般道に降りた。要所要所に警官は立っており、複数の一般道に誘導していた。五カ所目からは、国防軍に替わった。どうやらロボット兵のようだ。
「この道を、まっすぐ行くと、東名にもどれます」
 ロボット兵は、そう言ったが、後続の車はしばらく停止させられ、見えなくなってから別の道に誘導されていた。
『どうやら、ハメられたようですね♪』
 ハナちゃんが楽しそうに言った。
「そのようね、でもハナちゃんは大人しくしていてね」
『えー、つまんないな』
「ハナちゃんは大事な隠し球なの」
『ええ、そうなんですか。なんだか照れちゃう♪』

 そのとき、目の前にトラックに変態していたと思われるロボットが二体地響きをさせて降下してきた。

「真由(ねね)、こいつら情報とりながら仕掛けてくる。手の内は見せないで、一気に倒す……最初に、通信回路をブレイクして」
「言うには及ばないわ」
 わたしたちは、同時にハナちゃんから飛び出した。ハナちゃんは普通のアズマのセダンのように、オートで退避した。いきなりスキャニングパルスを感じた。
「こいつら、義体を探してるんだ!」
 二人はロボットの股ぐらにしがみついた。衛星の映像で、こちらのスペックを知られないためだ。背中づたいに首筋まで上り、グレネードレーザーで首筋に穴をあけ、手を突っこんで、通信回路を基板ごと引きちぎった。これでこいつから情報を送られることはない。
 ロボットも大人しくはしていなかった。ジャンプすると背中から落ちて、わたしをペシャンコにしようとした。その時偶然に振り落とされたように見せかけ、うつ伏せに倒れた。気を失ったフリをしていると、足で踏みつぶされそうになり、横っ飛びに跳んで優子と入れ違い、戦う相手を替えた。交差するときに手話で情報を伝えた。
 互いのロボットの首筋につかまると、グレネードレーザーで開けた穴にケーブルを突っこみ、バトルセンサーに細工した。エネミー認識をロボットにしたのだ。
 二人が離れると、二体のロボットは互いを敵と認識して戦い始めた。同じスペックのロボットだったので、勝負は、あっと言う間に相打ちに終わった。

 ハナちゃんが戻ってきて他の一般車両に混じった。

 東名の本線に戻ると、検問所で、同じアズマのセダンが次々に止められていた。
「わたしたち、引っかからないわね」
『型番を型オチにして、シリアルを、同型のアズマにシャッフルしておきました♪』
「同型って、どのくらいあるの?」
『国内だけで45万台はありますう。そのユーザーと、その知り合い……ちょっと天文学的数字になりますね♪』
「アハハ、ハナちゃんやるう!」
『それよりも、お二人義体丸出しですから、その対策を』
「拓磨の義体が使ってたバージョンアップのコードがあるわ。これで誤魔化そう」
「そうね、ユースケに見つかるまでの偽装になればいいんだしね」

 そうして、東京につくころには、N女子大の大島優子(幸子と優奈の融合)と渡辺真由(ねねちゃんとボクの融合)になりおおせていた……。


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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・54『羊水の中の俺』

2018-10-19 07:12:07 | ボクの妹

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妹が憎たらしいのには訳がある・54
『羊水の中の俺』 
     


 俺は特大の胎児のサンプルのように羊水の中に浮かんでいた。

「今度の任務は長くなりそうだから、羊水保存させてもらったわ」
 水元中尉が、まるで熱帯魚の移し替えをやったような気楽さで言った。
「おもしろかったわよ。みんなでお兄ちゃんのこと裸にして、エイヤ、ドッポーンってこの羊水の中に放り込んだの。頭の中身はそっちに行ってるはずなのに、裸にするときは嫌がってね。パンツ脱がせる時は一騒動だった。ねえ、チサちゃん」
「知りません、わたしは!」
 チサちゃんは顔を赤くして、あさっての方を向いてしまった。その後ろでは、親父とお袋がいっしょに笑っている。
「ほ、ほんとに自分たちでやったの!?」
 ねねちゃんの中に入っている俺の自我が、ねねちゃんの声で、そう叫んだ。
「チサちゃん、あそこつまんで、まるで眠った親指姫みたいだって」
「そ、それはあんまり……」
「そんなことしてませーん!」
 チサちゃんがムキになる。幸子が小悪魔に見えてきた。
「素人じゃできません。専門の技官が、やりました。サッチャンは冗談を言ってるんです」
「なんだ、そうか……」
「ただ、法規上、身内の方には立ち会っていただきましたけど」
「なんだ、そうか……って、みんな見てたの!?」
「うん。だからチサちゃんは、親指姫みたいだなって」
「わたしは、身内じゃないから見てません!」
「冗談です。大事なところは見えないようにしてやりましたから」
「じゃ、親指姫って?」
「親指のことよ。ほら、今だって、手は握ってるけど、親指は立ててるじゃない」
「ハハ、幸子の仕返しよ。いつもメンテナンスで太一には、その……見られっぱなしでしょ」
「それは、必要だから、やってることで……」
 俺の半分のねねちゃんが、あとを言わせなかった。

「大部隊の行動では目に付く。当面は二人でやってもらう」

 里中副長の意見で、東京に出撃するのは、わたし(ねね)と幸子になった。
「えー、わたしは、ここで毎日お兄ちゃんの餌やりしようと思ったんですけど」
「これは、並の人間じゃ勤まらない。戦闘用の義体でなくちゃな。それにねねは、向こうの信用も得ている。幸子クンは、その顔ではまずい。優奈クンに偽装してもらおうか、若干意表はつくが、ロボットのユースケを信用させるのには一番の偽装だ。向こうの世界から送り込まれた義体情報をヤミで流しておく」
「でも、国防軍の中枢だから、こちらから流した情報は、解析されれば分かってしまうでしょ」
「チサちゃんに、ほんの数分向こうの世界へ戻ってもらって流してもらう」

 その夜、チサちゃんは、詳しい事情も知らされないまま、向こうの世界に送られた。

 スマホで、向こうの古いエージェントに、暗号化した情報を流すためだ。
 チサちゃんは、元々は向こうの世界の幸子なので、短時間なら、痕跡も残らない。向こうのグノーシスはナーバスで、こちらの人間が向こうにいくとすぐに、その兆候が分かるようになっている。二三分なら個体識別まではできない、チサちゃんは、ちょっと表でスマホをかけたと思ってもどってきた。
「これでよし。移動は高機動車のハナを使え、鹵獲されたことにしておく」
『え、わたし鹵獲されちゃうんですか!?』
 部屋のスピーカーからハナちゃんの声がした。
「おまえ、どうしてこの部屋が分かった!?」
『わたしは、優秀なアナライザーでもあるんです。この真田山駐屯地のことは、一般隊員のグチまで分かります』
「司令に注意しなくちゃいかんな」

 と言うわけで、わたしとサッチャン、いや、優子はハナちゃんに乗って、その夜のうちに東京を目指した。ブラフではあるけど、もう一度ユースケたちを疑ってみるところから始めた……。


 

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