大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・ボクとボクの妹

2018-05-29 06:43:27 | ボクの妹

ボクとボクの        


 ボクの妹は、自分のことを「あたし」という。気持ちの悪い奴だ。

 といって、ボクは男ではない。れっきとした十八歳に成り立ての女子高生だ。
 世間ではボクのようなのを『ボク少女』などとカテゴライズされていて、ネットで検索すると以下のようである。

 ボク少女(ボクしょうじょ)、またはボクっ子(ボクっこ)、ボクっ娘(ボクっこ)、僕女(ぼくおんな)は、男性用一人称の「ボク」などを使う少女のこと。 Wikipediaより

 生まれて気づいたら、自分のことを「ボク」と呼んでいた。
 ボクは、いわゆる「女の子」というのを拒絶している。悔しいことにWikipediaでも同じように書いてある。あれとは、ちょっとニュアンスが違うんだけど、文字にすると同じようになる。

「お姉ちゃんは否定形でなければ、自己規定ができないんだ。そんなの太宰治みたいに若死にするよ」
 とニベもない。
 ボクだって、社会常識はある。「ボク」と言っていけないシュチエーションでは「私」という中性的な一人称を使う。そう、例えば職員室とか、面接の練習とか、お巡りさんに道を聞くとき(まだ聞いたことはないけど)とか。

「春奈なに編んでんのさ?」
「見りゃわかるでしょ」
「分からないから聞いている」
「ミサンガよ」
「やっぱし……」
 風呂上がりの髪を乾かしながらため息が出た。
「なによ、ため息つくことないでしょ」
「なんで、ニサンガぐらいの名称にしないんだ……」
「ニサンガ……なに、それ?」
「六だ、二三が六。九九も知らないの?」
「じゃ、ミサンガは?」
 そう言いながら、赤糸と金糸を器用に編み込みにしていく。
「六にならん。ロクでもない。しいて言えば九だ。苦を編み出しているようなもんだ」
「お姉ちゃん、シャレになんないよ。これ、吉野先輩にあげるんだからね!」
「ああ、あの野球部のタソガレエースか」
「エースはいいけど、タソガレは侮辱だよ」
「事実だ。今年も三回戦で敗退。プロはおろか実業団とか大学の野球部からも引きがない。あいつの野球人生も、今度の引退試合が花道だろ……それも勝ってこそだけどな」
「怒るよ、お姉ちゃん!」
「勝手に怒れ。ボクは真実を言ってるんだ」
「いいもん。あたしは、こういう女の子らしい道を選ぶんだから。行かず後家まっしぐらのボク少女とはちがうのよ!」
「行かず後家ってのは、ちょっち差別だぞ。一生シングルで生きても立派な女の人生だ」
「田嶋陽子みたくなっちゃうぞ!」
「田嶋さんをバカにするな。尊敬する必要もないけどな」
「なによ、十八にもなって、彼氏もいないくせして!」
「春奈は、ボクのことを、そんなに浅い認識でしか見ていなかったのか?」
「だって、吉野先輩のこととか、メチャクチャに言うから」

 ボクは、無言のまま押入から紙袋を出してぶちまけた。

「なに、これ……?」
「こないだの誕生日に男どもが、ボクに寄こしたプレゼント。よーく見なさい!」
 妹は、プレゼントの一つから目が離せなかった。
「こ、これは……」
「そう、春奈のタソガレエースからの」
「くそ……よりにもよって、お姉ちゃんに!」

 妹は、発作的にハサミを持ち出して、編みかけのミサンガを切ろうとした。

 パシーン!

 派手な音をさせて、妹を張り倒した。加減はしている。鼓膜を破ることも口の中をきるようなタイミングでもない。春奈が歯を食いしばったのを狙って張り倒している。

「バカ、春奈は、そういうアプローチの道を選んだんだろう。だったら、そのやり方でやりきってみろ。意地でも、あの野球バカを自分に振り向かせてみろ。運良く、ボクはあんな男には興味ないからな」
「く、悔しい……!」
「休憩して、風呂入ってこい。そいで続き編んで、明日野球バカに渡せ」
「試合は、今度の日曜……」
「だからバカなの!」
「なによ!」
「あげるんなら、早い方がいい。あの野球バカは、ボクにプレゼントするのに一カ月かけて欲しいモノ調べやがったんだよ。赤のシープスキンの手袋……やってくれたね。あやうくウルってくるとこだったよ。がんばれ妹!」
「でも、これじゃ勝負になんないよ」
「バカ春奈。戦う前に負けてどーすんだよ。さ、風呂だ。こうやってる間にも給湯器クンは懸命に風呂の追い炊きやってくれてるんだ……じれったいなあ!」

 あたしは、タンスからパジャマとパンツを出して妹の胸に押しつけ、部屋から追い出した。

 妹は、ほとんど忘れているけど、ボクたちには兄がいた。ボクが四つのとき亡くなった。ボクは、ボクの記憶の中でもおぼろになりかけている兄のためにも生きていかなければと思っている。

 だから「ボク」……バカ言っちゃいけない。ボクたちに、ちゃんとしたアイデンティティーを示してくれなかった大人が……学校が、国が……よそう、これもグチだ。

 あの震災で、パッシブなアイデンティティーと忍耐は学んだ。でも、人間って、もっとアクティブでなきゃいけないと思う。
 あのとき、そのアクティブを見せてくれた兄。うまく言えないけど、自衛隊の人たちにも、それを感じた。
 だから、ボクは自衛隊の曹候補生の試験をうけて合格した。

 入学式は、お父さんと妹と、妹のカレになった野球バカも来てくれた。それから妹はAKBの研究生のオーディションに受かった。妹は、慰問に来てくれたAKBに自分を見つけたようだ。

 神さまは、いつか「ボク」に変わる一人称……言えるようにしてくれると信じて。

 2025年  三島春香 

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高校ライトノベル・秋野七草 その七『ナナとナナセのそれから』

2018-05-29 06:36:06 | ボクの妹

秋野草 その七
『ナナとナナセのそれから』
       

 そのニュースは、30分後には動画サイトに載り、夕刊は三面のトップになった。

『休日のOLとサラリーマン、半グレを撃沈!』『アベック、機転で子供たちを救う!』などの見出しが踊った。

「ナナとナナセさんて、同一人物だったんだ!?」
 山路は事件直後の現場で大感激。ナナが正体がばれてシドロモドロになっているところに、パトカーが到着。ナナは、演習の報告をするように、テキパキと説明。コンビニの防犯カメラや、通りがかりの通行人がスマホで撮った動画もあり、二時間余りで現場検証は終わった。

 帰ってからは、マスコミの取材攻勢。最後に自衛隊の広報がやってきて、ナナはいちいち丁寧に説明をした。
 
「山路君、驚いたでしょ……」
「うん、最初はね……」

 事件から一週間後、山路に済まないと思ったナナに頼まれ、山路にメガネとカツラで変装させて、我が家に呼んだ。

「最初は、酔った勢いで、ナナセって双子がいることにしちゃって、明くる朝、完全に山路君が誤解してるもんで、調子に乗って、ナナとナナセを使い分けてたの……ごめんなさい」
「いいよ、僕も面白かったし。そもそも誤解したのは僕なんだから。あの事件で思ったんだけど、ナナちゃん、ほんとは自衛隊に残りたかったんじゃないのかい?」
「うん、自衛隊こそ究極の男女平等社会だと思ったから……でも、女ってほとんど後方勤務。戦車なんか絶対乗せてくれないもんね。レンジャーはムリクリ言ってやらせてもらったけどね。昇任試験勧められたけど、先の見えてることやっててもね。レンジャーやって配属は会計科だもんね。で、除隊後は信金勤務。で、クサっているわけよ」
「ナナちゃんなら、半沢直樹にだってなれるさ」
 そう言いながら、山路はナナのグラスを満たした。
「こんなに飲んじゃったら、また大トラのナナになっちゃうわよ。もうナナセにはならないから」
 そう言いながら、二口ほどでグラスを空にした。
「まあ、ここで潰れたって自分の家だもんな」
「またまた、あたしのグチは、こんなもんじゃ済まないわよ」

 ナナは、家事をやらせても、自衛隊のレンジャーをやらせても、金融業務でも人並み外れた力を持っていた。ただ世間の受容体制が追いつかず、ナナはどこへ行っても、その力を十分に発揮できはしなかった。
「僕は、ナナちゃんのことは、よーく分かっている。いっしょにいろいろ競争したもんな。お兄さんだって分かってくれている。人生は長いんだ、じっくり自分の道を進んでいけばいいさ!」
「……そんなことを言ってくれるのは、山路だけだよ。ありがとね!」
 ナナは、握手しようとしてそのまま前のめりにテーブルに突っ伏し、つぶれてしまった。

 そうやって、ナナと山路の付き合いが始まった。

 いっしょに山に行ったり泳ぎに行ったり。二人の面白いところは、いつのまにか仲間を増やしていくところだった。三月もすると仲間が20人ほどになり、自衛隊の体験入隊までやり、自ら阿佐ヶ谷の駐屯地の障害走路の新記録をいっぺんで書き換えた。歴代一位がナナで二位が山路。民間人が新記録を書き換えたというので、広報やマスコミがとりあげ、一時テレビのワイドショ-などにも出まくり、アイドルユニットが、ナナをテーマに新曲を作った。ヒットチャートでAKBと並び、ナナは、山路とともに歌謡番組にゲストで呼ばれ、飛び入りでいっしょに歌って踊った。
「ナナさん凄い。よかったらうちのユニットに入ってやりませんか!?」
 リーダーが、半分本気で言った。ナナはテレビの画面でも栄えた。
「ハハ、嬉しいけど、あたし平均年齢ぐっと上げそうだから。でも、よかったら、そこのゲスト席でオスマシしてる山路、ヨイショしてやってくれる。あいつ、明後日からチョモランマに行くんだ!」
 ナナは、あっと言う間に、山路の壮行会にしてしまった。

 そして、山路が死んだ……。

 チョモランマで、滑落しかけた仲間を助け、自分は落ちてしまった。
「リポピタンDのCMのようにはいかないんだ……」
 ナナの言葉はそれだけだった。

 一晩、動物のように部屋で泣いていた。オレは深夜に酒を勧めた。だがナナは飲まなかった。
「この悲しみと不条理を、お酒なんかで誤魔化したくない。山路とは、そんなヤワな関係じゃない。正面から受け止めるんだ……」
 それだけ言うと、また泣き続けた。

 明くる日にはケロッとし、職場にも行き、マスコミの取材にも気丈に答えていた。

 山路の葬儀の日は、あいつらしいピーカンだった。ナナは、涙一つ見せないで山路を見送った。

 そして、三日後南西諸島で、C国と武力衝突がおこり、半日で局地戦になった。

 阿佐ヶ谷の連隊にも動員が係り、ナナは予備自衛官として召集され、強く志願して、石垣島の前線基地まで飛んだ。
 さすがに、実戦には出してもらえなかったが、最前線の後方勤務という予備自衛官限界の任務についた。

 この局地戦争は、五日間で日本の勝利で終わりかけ、アメリカが介入の意思を示すとC国は手が出せなくなり、誰もが、これで終わったと思った。

 敵は、第三国の船を拿捕同然に借り上げ、上陸舟艇と特殊部隊を積み込み、折からの悪天候を利用し、石垣島に接近すると、上陸を開始した。

 不意を突かれた石垣の部隊は混乱した。海岸の監視部隊は「敵上陸、オクレ!」の一言を残して、連絡が途絶えた。ナナは意見具申をした。携帯できる武器だけを持って、背後の林に部隊全員が隠れた。
 結果、敵はおびただしい遺棄死体と負傷兵を残し、本船にたどりついた残存部隊も、翌朝には、自衛艦により拿捕された。

 日本側にも、若干の犠牲者が出た。林を怪しいと睨んだ敵の小隊の迂回攻撃を受けた。ナナは味方を守りながら戦死した。

 詳述はしない。

 ただ、ナナは、山路を追うようにして死んだ。兄として言えるのは、この事実だけだ。

 秋野七草  完 

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高校ライトノベル・秋野七草 その六『ナナかナナセか!?』

2018-05-28 06:32:11 | ボクの妹

秋野草 その六
『ナナかナナセか!?』
        


 妹はテンポの違いとアルコールの具合によって、ナナとナナセを使い分けているようだ。

 もっともナナセという人格は、後輩の山路が家にやってくるまでは存在しなかった。山路が泊まった明くる朝、酔った勢いの口から出任せでナナセを演じざるを得なくなった。山路はナナセがお気に入りのようだ。
 そこで、そのあとは山路を帰すため、ちょっと誇張したナナを演じ、10メートルダッシュから木登りまで山路と競い、オテンバぶりを発揮した。これで山路はナナが嫌いになるだろうと。
 ところが、山男の山路は、そんなナナと気があってしまった。
 昨日再び山路を連れて家に帰ると、ほぼ同時にナナが帰ってきたが、山路はナナの指の傷を見て、ナナセと勘違い。仕方なく、ナナはナナセを演じた……。

「いやあ、夕べのナナセさんは凄かったなあ。仲間の技術屋と話しても、あそこまでは熱くなりませんよ」
 ナナセ(ナナ?)手作りの朝食を食べながら、山路は本気で妹を誉めた。
「お恥ずかしい、みんな父やお祖父ちゃんの受け売りです。女でなかったら、お兄ちゃんに負けないくらいのエンジニアになっていたかもしれませんけどね。なんせ家は女らしさにうるさい家ですから」
「でも、ナナちゃんみたいな妹さんもいるんですよね」
「だから、あの子は自衛隊に行ったんです。あそこなら男女の区別ないですから」
「じゃあ、なんで辞めたんですか? この浅漬け美味いですね」
「あ、それは母です」
「山路さん、ごゆっくり。あたしはちょいと……」
「あ、お母さん、どうもお世話になりました」
「いいんだよ、今日はご町内で、日帰り旅行」

 そう言いながら、オレは、ナナ・ナナセ問題の終息を、どう計ろうかと考えていた。

 結局は、面倒くさくなり、山路の帰りを妹に任せることにした。実際夕べは飲み過ぎて頭も痛く朝飯も抜いていた。妹はナナセだったので、一滴も飲んでいない。山路を送って帰ってきたら朝酒になりそうだ。

「ナナは、入ってみて分かったみたいです。自衛隊でも女ができないとかやっちゃいけないことが、けっこうあるみたいで……詳しくは言いませんけど」
「でしょうね、あの子は、面白いことには、なんでもチャレンジしてみたい子なんですよ、とことんね……でも、そこで女の壁にぶつかってしまうんでしょうね」
「もう子どもじゃないんだから、わきまえなくっちゃやっていけないって言うんですけどね。女でやれることで頑張ればいいって」
「でも、ナナセさんにも、そういうところあるんじゃないかなあ」
「え、わたしがですか?」
「うん、ただ射程距離が長いから、ナナちゃんと違って、時間を掛けて狙っているような気がする。今の勤めも腰掛けのつもりなんでしょ。ゆっくり力をつけて、経営のノウハウを身につけたら、独立するんじゃないかな」
「ナナは現場だけど、わたしは、信金でも総務ですから、そういうことは……」
「いや、総務ってのは会社全体を見てますからね。経営陣との距離も近い。ナナセさんも、かなりしたたか」
「そんな……」

 しおらしく俯いてはいるが、気持ちは言い当てられたような気がしていた。ただ、今の信金に勤めていては、ただの夢に終わってしまうだろうが。

 その時、幹線道路から、線路際の道にドリフトさせながら三台のスポーツカーが入ってきた。歩道の先には、近場の山に登に行く十人ばかりの子供たちが歩いていた。

 危ない!

 妹は、とっさに判断し、ジャンプし最後尾の子ども二人を抱えて脇に転がった。いままでその子どもが居た位置には先頭の車が、高架下のコンクリート壁に腹をこすりつけ停まっていた。どうやら、駆動系のダメージはなかったようで、ドライバーの若い男は。逃げようとシフトチェンジをしているところだった。
「山路、最後尾の車を確保!」
 そう言いながら、妹はコンクリートブロックを運転席の窓に投げつけて粉々にした。そして、中の二人の男がひるんだ隙に、エンジンキーを引き抜いた。
 山路は、ダッシュして三台目の車の後ろに回り。道路脇の店の看板を持ち上げ、ぶんまわしてリアのガラスを破壊。そのままリアウィンドウから飛び込み、ドライバーの男の頭をハンドルに思い切りぶつけ、これもエンジンキーを抜いた。

「なに、しやがるんだ!」

 子供たちが無事だったことに気をよくしたんだろう。二台目の車から男女がバールを持って降りてきた。それに勇気づけられたんだろう、他の二台からも、男三人と、女一人が降りてきた。
「山路、気を付けて、こいつら半グレだ!」
 半グレの六人は、言い訳の出来る道具袋を持っており。手に手に金槌などのエモノを持って立ちふさがった。
 山路は、そのエモノを避けつつ、一人を投げ飛ばし、後ろから振りかぶられた金槌をかわして腕をねじり上げた。ボキっと音がしたんで、男の腕が折れたようだ。
「山路、ネクタイでもなんでもいいから縛着!」
 そう言いながら、三人の男女を倒し、ズボンを足もとまで脱がせて足の自由を奪い、ベルトを引き抜き後ろ手に拘束した。四人目の男はその場にくずおれて失禁していた。妹は、そいつを俯せにして、馬乗りになり、こめかみに金槌をあてがい、スマホを構えた。
「こちら、通行人。状況報告、半グレと思われる車三台○○区A町、一丁目三の東城線東横で、子供たちを轢きかけ、一台中破、二台撃破、犯行の男女六人確保、至急現場に着到されたし、オクレ!」

 妹は、かつての職場の業界用語で七秒で警察に伝えた。

「キミは……ナナ?」
「あ………」

 妹と山路に、新しい転機が訪れようとしていた……。
 

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高校ライトノベル・秋野七草 その五『わたしは、ナナ……セ』

2018-05-27 06:31:05 | ボクの妹

秋野草 その五
『わたしは、ナナ……セ』
        


 秋野七草と書いて「アキノナナ」と読む、元陸自レンジャーの我が妹の名前である。

 今日は、真面目な話があったので後輩の山路をうちに泊めてやると家に電話した。山路は、こないだも終電に間に合わず泊めてやった。

「すみません。今夜もご厄介になります」

 で、不幸なことに、妹のナナが直ぐあとに帰ってきた。「「あ」」と二人同時に声が出た。

「あ、ナナセさんの方ですね?」と、山路が誤解した。

 無理もない。そのときのナナは会社で指を怪我をしてテープを貼ってきていたのである。指を怪我したのは、先日のイタズラでおしとやかな(しかし架空の)双子の姉のナナセだと思いこんでいる。とっさに、ナナも気づき、ナナセに化けた。
「先日は、不調法なことで失礼をいたしました」
「いいえ、お怪我の方は……」
「あ、もうだいぶいいんですが、お医者様が、跡が残ると生けないとおっしゃって、こんな大げさなことをしております」
「そりゃ、あんなに血が流れたんですから、お大事になさらなきゃ」

 まさか、あの時の血が食紅だったとは言えない。

「今夜は、またお世話になります」
「いいえ、先日はまともにお話も出来ませんでしたから、ゆっくりお話ができれば嬉しいです」
 心にもないことを言う。

 ナナがナナセとして二階へ上がると、携帯が鳴った。アドレスでナナと知れる。

「どうした、なんでオレに電話してくんだ(なんせ二階からかけてきている)え、今夜は泊まり? どうして、せっかく山路も来てんのにさ。あ、ちょっと山路に替わるわ」
「もしもし、山路。どうしたナナ……ちゃん。せっかく今夜は大事な話が出来ると思ったのに。ほら、例のチョモランマ……ええ、そういうこと言うかなあ。男一生の問題だぞ。あ、笑ったな! おまえな、そういうとこデリカシー無さ過ぎ。今度しっかり教育してやっから。それに、勝負もついてないしな。次は絶対勝つからな! そもそもナナはな……」

 これで、今夜はナナはナナセで化け通すことになった。オヤジとオフクロには、この間に、話を合わせてくれるように頼んだ。一家揃って面白いことは大好きだ。

「と言う具合で、チョモランマに登るのには、準備も入れて三か月もかかるんです。うみどりの仕事は、その分みんなにご迷惑……」
「アハハ、そんなこと心配してたのか!?」
「だって、僕も設計スタッフの一員ですから」
「最初の三か月なんて、オモチャ箱ひっくり返すだけみたいなもんだ。アイデアを出すだけ出して、使い物になるかならないかの検討は、そのあと、さらに三か月は十分にかかる。それから参加しても遅くはないじゃないか」
「なんと言っても、オスプレイの日本版ですからね、僕だって……」
「気持ちは分かるけどな、A工業には大戦中からのオモチャ箱があるんだ。それこそ堀越二郎の零戦時代からのな。最初のオモチャ箱選びは、オレだって触らせちゃもらえない。オモチャの整理係なんだぞ」
「負けません。整理係でもなんでも」
「そんなこと言ってたら、チョモランマなんて一生登れねえぞ」
「すごいですね、若いのに二つも大きな夢があって」
「あって当然ですよ。僕にとっては、山と仕事は二本の足なんです。両方しっかり前に出さないと、僕って男は立ってさえいられないんです」
「焦ることはない。お前は帰ってきてから、広げて整理したオモチャの感想を言ってくれ。三か月もやってると、好みのオモチャしか目に入らなくなる。新しい目でそれを見るのが山路の仕事だ。うちの年寄りは、そういう点、キャリアも年齢も気にはしない。自分たちも、そうやって育ってきたんだからな」

 ここでナナが化けたナナセが割り込んできた。

「戦艦大和の装甲板を付けるとき、クレーンの操作がとてもむつかしくて、ベテランの技師もオペレーターもお手上げだったんです、俯角の付いた取り付けは世界で初めてでしたから。それを、ハンガーそのものに角度を付けるってコロンブスの玉子みたいなことを考えついたのは、一番若い技師の人だったんです……きっと山路さんにも、そんな仕事が待ってます!」
「ナナセさん。いいお話ですね……でも、そんな話し、どうしてご存じなんですか?」
「あ、これは……父が小さな頃に教えて、ねえ、お父さん……寝ちゃってる」

 それから、オレたち三人は技術や、夢について二時過ぎまで語り合った。山路はナナが化けたナナセの話しに大いに感激していた。ナナは、陸自に居たときも、実戦でも、技術面でも卓越したものを持っていた。だから、女では出来ないことにも挑戦しようとし、挫折して退役してきた。民間と陸自の違いはあるが、熱い思いは同じようだ。

 そして、オレは気づいてしまった。自分の罪の深さに……。

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高校ライトノベル・秋野七草 その四『ここで遭ったが百年目』

2018-05-26 06:46:55 | ボクの妹

秋野七草 その四
『ここで遭ったが百年目』
       


 『百年目』という落語がある。

 店では謹厳実直な番頭が、店の丁稚や若い者に細かな苦言を呈したあと「得意先回り」をすると言って店を出る。かつてから、こういう時のために借りている駄菓子屋の二階で、粋な着物に着替え、太鼓持ちや芸者衆を連れ、大川に浮かべた船で花見に出かける。
 最初は、人目にたたぬよう大人しく遊んでいたが、酒が入るに従って調子に乗り、桜の名所で、陸に上がって目隠し鬼ごっこをする。そして、馴染みの芸者と思って抱きつくと、なんとそれは店の旦那であった。
 で、明くる日旦那に呼び出された番頭が、「番頭さん、あの時は、どんな気分だった?」「はい、ここで会ったが百年目と思いました」

 この「会う」を「遭う」にしたような事件が妹の七草(ナナ)と後輩の山路におきた。
 
「やあ、ナナちゃんじゃないか!」
 
 そう声を掛けたときのナナは突然の出会いにナナらしい驚愕と面白さに、一瞬で生気に溢れた顔つきになったらしい。
 あとで、ナナ本人に聞くと、一瞬ナナセに化けようと思ったらしいが(といっても、ナナセが本来のナナの姿ではあるが)一昨日切ったはずの指を怪我していないので……ナナセはナナの出任せで、指を怪我したことになっている。で、山路も、それを確認した上で、ヤンチャなナナと確信して声を掛けたのである。

「なんかテレビドラマみたいな出会いだな!?」
「なんで、山路が、こんなとこにいるのよ!」

 この二言で、ナナといっしょに昼食に出た同僚たちは勘違い。

「じゃ、秋野さん、わたしたちはお先に……」
「すみません。変なのに出会っちゃって……!」
 同僚達は、なにやら勘違いした。
「わたしたちは、いつものとこだから、そっちはごゆっくり!」
 そして、桃色の笑い声を残して行ってしまった。

「おまえ、職場だと、かなりネコ被ってんのな」
「あったりまえでしょ。総務の内勤とは言え、この制服よ。会社の看板しょってるようなもんだもん。何十枚も被ってるわよ。でも、A工業の設計部が、なんで昼日中に、こんなとこに居るわけさ?」
「ああ、今日は防衛省からの帰りなんだ。飛行機一機作るのは、ロミオとジュリエットを結婚させるより難しいんだ」
「プ、山男が言うと大げさで陳腐だね」
「大げさなもんか。じゃ、知ってるだけの日本製の飛行機言ってみろよ」
「退役したけど、F1支援戦闘機、PI対潜哨戒機、C1輸送機、新明和の飛行艇、輸送機CX……」
「そんなもんだろ。あと大昔のYS11とか、ホンダの中型ジェットぐらい」
「そりゃ、アメリカが作らせてくれないんだもん」
「いいとこついてるね。F2は、アメさんの横やりで作れなくなったし、ま、そのへん含めて大変なのさ。ところで、一昨日の延長戦やろうか!?」
「よしてよ、こんなナリで、木登りなんかできないわよ」
「昼飯の早食い。これならできるだろ?」
「う~ん、ちょっと待ってて」
 ナナは、近くの喫茶店に行き、カーディガンを借りてきた。オマケにパソコン用だがメガネも。

「よーし、天丼特盛り、一本勝負!」

 近所の天ぷら屋「化け天」の座敷を借りて、フタも閉まらないほどの洗面器のようなドンブリに入ったメガ盛りで勝負することになった。ご飯は並の倍。天ぷらは二倍半という化け物である。むろん代金は負けた方が払う。
「ヨーイ、スタート!」
 と、亭主がかけ声をかけて、厨房へ。ランチタイム、早食いとは言え、終わりまでは付き合っていられない。三分後に見に来てくれるように言ってある。
 座敷といっても、客席からは丸見えで、一分もすると、その迫力に人だかりがした。

「ご馳走様!!」
「三分十一秒……こりゃおあいこだね」
 亭主の判定と、お客さん達の拍手をうけて、割り勘で店をあとにする二人であった。

 地下鉄の入り口で別れようとしたときに、山路のスマホが鳴った。

「出なくていいの?」
「ああ、これはメールだからな」
「そう、じゃ」
「またな」

 またがあってたまるか。そう思って、いつものナナ=ナナセに戻って歩き出すと、後ろから山路の遠慮無い気配。

「やったぞ、ナナ。チョモランマの最終候補に残った!」

 それだけ言うと、山路は、直ぐに地下鉄の入り口に消えた。

 七草は、ナナともナナセともつかぬ顔で見送った……。
 

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高校ライトノベル・秋野七草 その三『ナナ、ナンチャッテ!』

2018-05-25 06:57:56 | ボクの妹

秋野七草 その三
『ナナ、ナンチャッテ!』
        


 まさか、ここまで豹変しているとは思わなかった……!

「オハ、兄ちゃんワルイ。朝飯は自分でやってねえ。で、会場だけどさ……それウケる! ガールズバーで同窓会なんて、男ドモの反応が楽しみだね!」
「アハハ!」
「ウハハ!」
 と、トコとマコもノリが良い。
「あたし、いっしょにシェ-カー振るわよ! たしか、オヤジがシャレで持ってんのがあるから、やってみよ!」

 で、キッチンでゴソゴソやってるうちに、山路が風呂から上がってきた。

「あ、このイケメンが山路、兄ちゃんの後輩。で、水も滴るいいオトコ。朝ご飯テキトーにね」
「いいっすよ。いつも自炊だから」
「ごめんなさいね、同窓会の打ち合わせやってるもんで……ほんと、いいオトコ。あたしやります! ナナ、トコと話しつめといて!」
 マコが、朝ご飯を作り始めた。
「あのう、ナナセさんは?」
「ああ、あいつドジだから、そこで指切っちゃって、休日診療に行っちゃった」
「え、大丈夫なんですか?」
「あ、大げさなのナナセは。マコ、キッチン血が飛び散ってたら、拭いといてね。で、中山センセだけど……」

 キッチンへ行くと、シンクや壁にリアルな血痕が付いていた。

「ナナセさん、一人で大丈夫ですか!?」
「大丈夫よ。大げさに騒ぎまくるから、血が飛び散っちゃって。あんなの縫合もなし。テープ貼っておしまい。ほら!」
 ナナは、偽造したメールとテープを貼った指のシャメまで見せた。
「貧血になったんで、しばらく横になって帰るって」
「だったら、やっぱり誰か……」
「ダメ! 甘やかしちゃ、本人の為にならない。ガキじゃないんだから、突き放してやって!」
「ナナ、壁の血とれないよ」
 マコが、赤く染まったダスターを広げて見せた。
「アルコ-ルで拭けばいいわよ」
「あとあと、それより、そこのハラペコに餌やって、早く戻ってきてよ。で、会費は……」
「包丁にも……」
「大丈夫、ナナセは病気は持ってないから。処女の生き血混じりのサラダなんておいしゅうございますよ」
「おい、ナナ……」

 オレは、なにか言おうとしたが、女子三人の馬力と妖しさに、次ぐ言葉がなかった……いや、半分ほど、この猿芝居に付き合ってみようかという気にさえなってきた。どうも我が家の血のようである。

 マコと山路が朝飯作って、食後の会話で飛躍した。

「へー、山路って、山が好きなんだ!」
「うん、オレの生き甲斐だね。こないだも剣に登ってきたとこ。次は通い慣れた穂高だな」
「国内ばっか?」
「海外は金がね……でもさ、山岳会がテレビとタイアップして、チョモランマに挑戦するパーティーに応募してんだ!」
「じゃ、体とか鍛えとかなきゃ!」
「そりゃ、鍛えてあるさ、ホラ!」
 山路が、腕の筋肉をカチンカチンにして見せた。で、調子にのって、割れた腹筋を見せたとき、これまた、調子に乗ったナナが、ルーズブラウスをたくし上げて、自分の腹筋を見せた。
「おお、こりゃ、並の鍛え方じゃないな!」
「あたぼうよ。これでも数少ない女レンジャーなんだから!」
「じゃ、一発、勝負だ!」

 で、庭で10メートルダッシュをやった。これはナナの勝ち。
 アームレスリングは、3:2で山路の勝ち。
 腹筋は、時間がかかるので、60秒で何度やれるかで勝負。ナナが98回で勝利。
 匍匐前進は、むろんナナ。
 跳躍。指の高さは山路だが、足の高さではナナの勝ち。
 シメは、近所の公園まで行って、木登り競争。ナナが勝って、もう一回やろうとしたら、警官に注意され、お流れ。

 最初は、山路に嫌われるために、始めたのだが、双方本気になるに及び、事態がおかしくなった。

 どうやら、山路はナナが気に入ってしまったようなのだ。

「ナナちゃん。君は素敵だ!」

「ウソ?」

「本気だ!」

「ナ、ナナ、ナンチャッテ……!」

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高校ライトノベル・秋野七草 その二『ナナの狼狽』

2018-05-24 06:48:15 | ボクの妹

秋野七草 その二
『ナナの狼狽』
        


 オレがまだ起き出さないうちに、こんなことがあったらしい。

 山路が起き出したころには、七草(ナナ)は起き出していて、お袋といっしょに朝の家事にいそしんでいた。
 自衛隊にいたころからの習慣で、七草の朝は早い。お袋も、職工のカミサンで朝が早い。で、お袋は、寝室に居ながら、夕べのことは全部覚えていた。オレが山路を連れて帰ったことや、七草が、その酔態をごまかすために、七草の姉、七瀬の話をしたことなど。

「あ~、やっちゃたあ……」

 七草は、オレたちの朝の用意をしながら、ダイニングのテーブルにつっぷしてしまった。
「おはようございます。夕べは、すっかりお世話になりまして」
「いいえ、あらましは、夕べお聞きしました。いえね、もう床に入っておりましたんでね、この子達も、いい大人なんだから、恥ずかしさ半分、ズボラ半分でお話し聞いていましたのよ。大作がいつもお世話になっております。主人は早くからゴルフにでかけちゃって、よろしくってことでした」
「それは、どうも恐縮です」
「いえいえ、こちらこそ。朝ご飯の用意はいつでもできるんですけどね。その前に朝風呂いかがですか。さっぱりいたしますよ。その間に朝ご飯は、この子が用意いたしますので。わたし、朝一番に美容院予約してますので、失礼しますが、ごめんなさいね。これ、ちゃんとご挨拶とご案内を!」
 

 名前も言わずに、お袋は、七草をうながし、美容院へ行ってしまった。

 で、七草が正直に白状してしまう前に、山路の方がしゃべってしまった。

「お早うございます。わたし……」
「ああ、おねえさんの、七瀬さんですね。いや、夕べ妹さんがおっしゃっていたとおりの方ですね。双子でいらっしゃるようですが、だいぶご性格が違うようですね。いやいや、いろいろあってこその兄妹です。妹さんは?」
「あ……え……まだ寝てるんじゃないかと思います。仕事はともかく、うちでは、まだまだ子どもみたいで」
「いやいや、なかなか元気の良い妹さんです。部屋に入る前は、かっこよく敬礼なんかなさってましたね」
「ええ、あれで、この春までは陸上自衛隊におりましたの。本人は幹部になりたかったようですが、自衛隊の方が勘弁してもらいたいご様子で、今は信用金庫に……はい(モジモジ)」
「じゃ、お言葉に甘えて……お風呂いただきます」
「あ、どうぞどうぞ。兄のものですが、お召し替えもご用意いたしますので、どうぞごゆっくり。こちらが、お風呂でございます」
「あ、どうも」

 このあたりで、オレは目を覚ましていたが、展開がおもしろいというか、責任が持てないというか。タヌキを決め込んだ。そして、タヌキが本気で二度寝しかけたころに、インタホンが鳴った。

「お早うナナ。あら、お母さんもお父さんもお出かけ? お兄ちゃんは朝寝だね」
「こりゃ、気楽に女子会のノリでやれそうね」
 幼なじみで、親友のマコとトコが来た。そういや、高校の同窓会の打ち合わせを、ウチでやるとか言ってたなあ……なんだか、下のリビングとナナの部屋を往復する音がして、ややこしくなっているようだ。

「なんで!?」
「つい、ことの成り行きでね。お願いだから合わせてちょうだい……というわけだから」
「へー!」
「なんと!」
「ほんの、二三時間。わたしも張り切るから」
「おもしろそうじゃん」
「じゃ、そのナリじゃなくて、らしく着替えなくっちゃ!」
「メイクも、髪もね!」

 で、オレが起き出し、山路が風呂から上がったころには、夕べ玄関先で見かけたときのナナが出来上がっていた……。

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高校ライトノベル・秋野七草 その一『そんなつもりは無かった』

2018-05-23 06:58:06 | ボクの妹

秋野七草 その一
『そんなつもりは無かった』
       


 そんなつもりは無かった。

 ハナ金とは言え、アキバにある男同士肩の凝らない国籍不明の酒屋一件で終わるはずだった。

 ところが、二つの理由で、こうなってしまった。繰り返しになるが、そんなつもりは無かった。

 理由の一つは仕事である。

 防衛省から、ごく内々ではあるが、オスプレイの日本版を作る内示があった。オスプレイの採用は、調査費もついて、ライセンス生産が決まっている。しかしアメリカ的なデカブツで、海上自衛隊で、艦載機として使えるのは、ひゅうが、いせ、いずも、かがなどの空母型護衛艦に限られる。そこで、骨董品になりつつあるSH-60 シーホークの後継機を国産する方針になり、その仕事が、わがA工業に回ってきたのである。むろん他社にも競争させ、基本設計とコストを比較したうえ入札になる。
 で、その研究と概念設計の仕事が、わが設計部に回ってきたのである。正式に採用されれば、この三十年ぐらいは、この仕事、タクスネーム「うみどり」で、会社は安泰になる。

 で、近場のアキバというオヤジギャグのようなノリで、設計部の若い者達で繰り出した。

 もう一つの理由は、話の中で、オレ、秋野大作(あきのだいさく)が、南千住で四代続いた職工の家であると言ったことである。

 後輩の山路隆造が感激し、もう一軒行きたいと言い出し、調子にのったオレも「よーし、それなら!」と、上野の老舗のわりに安い牛飯屋に行こうと言ってしまった。

 山路と言う奴は、名前の通り山が好きな男で、連休や長期休暇には、必ず休みの長さと天気に見合った山を見つけて登っていた。ウチは爺ちゃんが元気な頃、暇を見つけては山に登りに行っていたので話が合って、気が付けば看板になっていた。山路は、終電車を逃してしまったので、自然に口に出た。

「じゃあ、オレの家に泊まれよ」

 かくして、深夜のご帰還とあいなった。

「「ただ今あ!」」

 という元気な声が二つ重なった。山路は、酒が入っているとは言え客であるので、神妙にしている。
「ちょ、そこ邪魔!」
 と、玄関のドアを叩いて、もう一度の凱歌あげようとする妹の拳を握り、口を押さえた。
「ちょ、なにすんのよ兄ちゃん。妹を手込めにしようってか!?」
「もう、遅いんだ。ただ今は一言でいい。ほら、近所の犬が吠え出した……」
「うっせえんだよ、犬!……あら、いい男じゃん」
 そう言うと、酔っぱらいなりに、身だしなみを整え始めた。髪は仕事中とは違うサイドポニーテールというヘンテコな頭に、ルーズな、多分帰り道、酔った勢いで買った、派手なオータムマフラー。それを申し訳程度にいじっておしまい。
「妹さんですか」
「ああ、七草と書いて、ナナって言うんだ。ああ、酒臭えなあ」
 酒の入ったオレが言うのだから、相当なものである。

 ここまでは、まだ取り返しの付く展開であった。

「どーも、あ、あたし妹の方の七草です」
「あん?」
 と、オレ。
「通称ナナちゃん。姉が七瀬って書いてナナセってのがいます。からっきしシャレも冗談も通じない子なんで。兄ちゃん、もうご両親も姉上もお休みのご様子。ここは、あたしの鍵で……あれ、鍵?」
「いや、オレの鍵で……」
「いや、あたしが……」
 ナナは、スカートのポケットに手を突っこんだ。その時プツンというスカートのホックが外れる音を聞き逃したのは、失敗。

 ここでも、まだ取り返しがついた。とにかく近所の犬が何匹も吠えるので、家に入るのが先決だと思った。

「ここが、お兄ちゃんの部屋。で、こちが、あたしの部屋。その隣が姉上ナナセの部屋。両方とも覗いちゃあいけません! おトイレは、その廊下の突き当たり。では、お休みなさいませ!」
 と、この春除隊したばかりの、自衛隊の敬礼をして、その拍子に落ちかけたスカートをたくし上げ、ゲップを二つと高笑いを残して、七草は部屋に入ってしまった。

 この時誤解を解いておかなかったのが、この後の大展開とドラマになっていく。

 そんなつもりは無かった……。

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高校ライトノベル・秋野七草 その七『ナナとナナセのそれから』

2017-10-05 16:55:06 | ボクの妹
秋野草 その七
『ナナとナナセのそれから』
       

 そのニュースは、30分後には動画サイトに載り、夕刊は三面のトップになった。

『休日のOLとサラリーマン、半グレを撃沈!』『アベック、機転で子供たちを救う!』などの見出しが踊った。

「ナナとナナセさんて、同一人物だったんだ!?」

 山路は事件直後の現場で大感激。ナナが正体がばれてシドロモドロになっているところに、パトカーが到着。ナナは、演習の報告をするように、テキパキと説明。コンビニの防犯カメラや、通りがかりの通行人がスマホで撮った動画もあり、二時間余りで現場検証は終わった。

 帰ってからは、マスコミの取材攻勢。最後に自衛隊の広報がやってきて、ナナはいちいち丁寧に説明をした。
 
「山路君、驚いたでしょ……」
「うん、最初はね……」

 事件から一週間後、山路に済まないと思ったナナに頼まれ、山路にメガネとカツラで変装させて、我が家に呼んだ。

「最初は、酔った勢いで、ナナセって双子がいることにしちゃって、明くる朝、完全に山路君が誤解してるもんで、調子に乗って、ナナとナナセを使い分けてたの……ごめんなさい」
「いいよ。僕も面白かったし。そもそも誤解したのは僕なんだから。あの事件で思ったんだけど、ナナちゃん、ほんとは自衛隊に残りたかったんじゃないのかい?」
「うん、自衛隊こそ究極の男女平等社会だと思ったから……でも、女ってほとんど後方勤務。戦車なんか絶対乗せてくれないもんね。レンジャーはムリクリ言ってやらせてもらったけどね。昇任試験勧められたけど、先の見えてることやっててもね。レンジャーやって配属は会計科だもんね。で、除隊後は信金勤務。で、クサっているわけよ」
「ナナちゃんなら、半沢直樹にだってなれるさ」
 そう言いながら、山路はナナのグラスを満たした。
「こんなに飲んじゃったら、また大トラのナナになっちゃうわよ。もうナナセにはならないから」
 そう言いながら、二口ほどでグラスを空にした。
「まあ、ここで潰れたって自分の家だもんな」
「またまた、あたしのグチは、こんなもんじゃ済まないわよ」

 ナナは、家事をやらせても、自衛隊のレンジャーをやらせても、金融業務でも人並み外れた力を持っていた。ただ世間の受容体制が追いつかず、ナナはどこへ行っても、その力を十分に発揮できはしなかった。
「僕は、ナナちゃんのことは、よーく分かっている。いっしょにいろいろ競争したもんな。お兄さんだって分かってくれている。人生は長いんだ、じっくり自分の道を進んでいけばいいさ!」
「そう……そんなことを言ってくれるのは、山路だけだよ。ありがとね!」
 ナナは、握手しようとしてそのまま前のめりにテーブルに突っ伏し、つぶれてしまった。

 そうやって、ナナと山路の付き合いが始まった。

いっしょに山に行ったり泳ぎに行ったり。二人の面白いところは、いつのまにか仲間を増やしていくところだった。三月もすると仲間が20人ほどになり、自衛隊の体験入隊までやり、自ら阿佐ヶ谷の駐屯地の障害走路の新記録をいっぺんで書き換えた。歴代一位がナナで二位が山路。民間人が新記録を書き換えたというので、広報やマスコミがとりあげ、一時テレビのワイドショ-などにも出まくり、アイドルユニットが、ナナをテーマに新曲を作った。ヒットチャートでAKBと並び、ナナは、山路とともに歌謡番組にゲストで呼ばれ、飛び入りでいっしょに歌って踊った。
「ナナさん凄い。よかったらうちのユニットに入ってやりませんか!?」
 リーダーが、半分本気で言った。ナナはテレビの画面でも栄えた。
「ハハ、嬉しいけど、あたし平均年齢ぐっと上げそうだから。でも、よかったら、そこのゲスト席でオスマシしてる山路、ヨイショしてやってくれる。あいつ、明後日からチョモランマに行くんだ!」
 ナナは、あっと言う間に、山路の壮行会にしてしまった。

 そして、山路が死んだ……。

 チョモランマで、滑落しかけた仲間を助け、自分は落ちてしまった。
「リポピタンDのCMのようにはいかないんだ……」
 ナナの言葉はそれだけだった。

 一晩、動物のように部屋で泣いていた。

 オレは深夜に酒を勧めた。だがナナは飲まなかった。
「この悲しみと不条理を、お酒なんかで誤魔化したくない。山路とは、そんなヤワな関係じゃない。正面から受け止めるんだ……」
 それだけ言うと、また泣き続けた。

 明くる日にはケロッとし、職場にも行き、マスコミの取材にも気丈に答えていた。

 山路の葬儀の日は、あいつらしいピーカンだった。ナナは、涙一つ見せないで山路を見送った。

 そして、三日後南西諸島で、C国と武力衝突がおこり、半日で局地戦になった。阿佐ヶ谷の連隊にも動員が係り、ナナは予備自衛官として召集され、強く志願して、石垣島の前線基地まで飛んだ。
 さすがに、実戦には出してもらえなかったが、最前線の後方勤務という限界の任務についた。

 この局地戦争は、五日間で、日本の勝利で終わりかけ、アメリカが介入の意思を示すとC国は手が出せなくなり、誰もが、これで終わったと思った。

 敵は、第三国の船を拿捕同然に借り上げ、上陸舟艇と特殊部隊を積み込み、折からの悪天候を利用し、石垣島に接近すると、上陸を開始した。

 不意を突かれて石垣の部隊は混乱した。

 海岸の監視部隊は「敵上陸、オクレ!」の一言を残して、連絡が途絶えた。ナナは意見具申をした。携帯できる武器だけを持って、背後の林に部隊全員が隠れた。
 結果、敵はおびただしい遺棄死体と負傷兵を残し、本船にたどりついた残存部隊も、翌朝には、自衛艦により拿捕された。

 日本側にも、若干の犠牲者が出た。林を怪しいと睨んだ敵の小隊の迂回攻撃を受けた。ナナは味方を守りながら戦死した。

 詳述はしない。

 ただ、ナナは、山路を追うようにして死んだ。

 兄として言えるのは、この事実だけだ。

 秋野七草  完 

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高校ライトノベル・永遠女子高生・12・《京橋高校2年渡良瀬野乃・4・ひょっとして・2》

2017-10-05 06:16:25 | ボクの妹
永遠女子高生・12
《京橋高校2年渡良瀬野乃・3・ひょっとして・2》
        

2000年の2月29日という400年に一度しか巡ってこない日に「みんなの幸せが実現するまでは、天国へ行かない」と誓って亡くなった結(ゆい)は、永遠の女子高生となって時空を彷徨う。
 

 野乃はホームセンターが好きというわけではない。

 ただ、芸術大学で舞台美術を教えている父に連れられて、子どものころからホームセンターには行っていたので、並の高校生よりは詳しい。
「へー、すごい、一発で見つけたなあ!」
 迷わずにドアノブのユニットを見つけると、愛華が感心した。
「ドアノブのバックセットいうたら、60ミリ厚がスタンダードやさかい、感心するようなもんとちゃうし」
「そのバックセットとか、厚がどうたらいう時点ですごいよ」

 ドアノブに感心されたことには忸怩たる思いがあったが、親友の賞賛は素直に受けておく。

 賞賛は、した方もされた方も気分がいいもので、どちらが誘うということもなくハンバーガショップに入る。
「「ハンバーガーセット、クーポン券で!」」
 と、声が重なったのに笑い転げてしまった。オーダーを受けたスタッフも笑っている。
「こういうとこは、気が合うなあ(#^.^#)」
 友情を新たにしながら、ハンバーガーに齧りつく。

「あの二人は、別れたいう噂やったんやけどなあ……」

「二人て?」
 分かってはいるけど、とぼけておく。
「一之宮さんと里中さんやんか」
「ああ、さっき校門で見かけた二人?」
「というか、一之宮さんは、ノノッチをモデルに少女像造った人やんか」
「あ、そうやったっけ」
「うん、あの話は、ビックリポンやったなあ……って、ノノッチもっとビックリしてええんとちゃう?」
「でも、一之宮さんは、そこらへんの犬とか猫とかモデルにしたような感じとちゃうかなあ」
 自分で言いながら寂しくなる。
「うーん……かもしれんなあ、ゴミとして捨てられるまでほっといたんやからなあ」
「けど、持って帰らはったんやんか」
「そやなあ……って、もしかしたら?」
 ズズーっとシェイクを啜って、野乃はごまかした。
「ノノッチ、シャンプーは、その奈菜ちゃんが買うてきたやつがええよ。香りが、とってもええさかい」
 愛華はシェイクの蓋を開けて、ズルズルと飲み干し、ガリガリと氷を噛み砕く。
――愛華は、こんなことをやっても可愛い。あたしがやったら、猿やて言われそう――
 寂しく思う、野乃であった。

「よし、ドア直ったよ」

 家に帰ると、ジャージに着替えて、直ぐにトイレのドアを直した。
「けど、お母さん、ユニットの中のバネが錆びて、折れてた。たまたま、あたしが触った時に壊れたんやさかいにね」
「いや、ほんま。やっぱりバブルのころにできた家やから、手抜きやったんやろか?」
「念のために、油スプレーしとくわね」
 しゃがみ込んで、スプレーオイルを吹きかけておく。
「なんや、そうやって作業してる姿はお父さんそっくりやねえ」
「…………」
 野乃は凹んだ。父は好きだが、まるで男のようだと言われたのと同じ。
 むろん母に悪気はないが、無意識であるからこそ凹んでしまう……。 
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高校ライトノベル・秋野七草 その六『ナナセかナナか!?』

2017-10-04 18:21:19 | ボクの妹
秋野草 その六
『ナナセかナナか!?』
        


 妹は、テンポの違いとアルコールの具合によって、ナナとナナセを使い分けているようだ。

 もっともナナセという人格は、後輩の山路が家にやってくるまでは存在しなかった。山路が泊まった明くる朝、酔った勢いの口から出任せでナナセを演じざるを得なくなった。山路はナナセがお気に入りのようだ。
 そこで、そのあとは山路を帰すため、ちょっと誇張したナナを演じ、10メートルダッシュから木登りまで山路と競い、オテンバぶりを発揮した。これで山路はナナが嫌いになるだろうと。
 ところが、山男の山路は、そんなナナと気があってしまった。
 昨日再び山路を連れて家に帰ると、ほぼ同時にナナが帰ってきたが、山路はナナの指の傷を見て、ナナセと勘違い。仕方なく、ナナはナナセを演じた……。

「いやあ、夕べのナナセさんは凄かったなあ。仲間の技術屋と話しても、あそこまでは熱くなりませんよ」
 ナナセ(ナナ?)手作りの朝食を食べながら、山路は本気で妹を誉めた。
「お恥ずかしい、みんな父やお祖父ちゃんの受け売りです。女でなかったら、お兄ちゃんに負けないくらいのエンジニアになっていたかもしれませんけどね。うちはは女らしさにうるさい家ですから」
「でも、ナナちゃんみたいな妹さんもいるんですよね」
「だから、あの子は自衛隊に行ったんです。あそこなら男女の区別ないですから」
「じゃあ、なんで辞めたんですか? この浅漬け美味いですね」
「あ、それは母です」
「山路さん、ごゆっくり。あたしはちょいと……」
「あ、お母さん、どうもお世話になりました」
「いいんだよ、今日はご町内の日帰り旅行」

 そう言いながら、オレは、ナナ・ナナセ問題の終息を、どう計ろうかと考えていた。結局は、面倒くさくなり、山路の帰りを妹に任せることにした。実際夕べは飲み過ぎて頭も痛く朝飯も抜いていた。妹はナナセだったので、一滴も飲んでいない。山路を送って帰ってきたら朝酒になりそうだ。

「ナナは、入ってみて分かったみたいです。自衛隊でも女ができないとかやっちゃいけないことが、けっこうあるみたいで……詳しくは言いませんけど」
「でしょうね、あの子は、面白いことには、なんでもチャレンジしてみたい子なんですよ、とことんね……でも、そこで女の壁にぶつかってしまうんでしょうね」
「もう子どもじゃないんだから、わきまえなくっちゃやっていけないって言うんですけどね。女でやれることで頑張ればいいって」
「でも、ナナセさんにも、そういうところあるんじゃないかなあ」
「え、わたしがですか?」
「うん、ただ射程距離が長いから、ナナちゃんと違って、時間を掛けて狙っているような気がする。今の勤めも腰掛けのつもりなんでしょ。ゆっくり力をつけて、経営のノウハウを身につけたら、独立するんじゃないかな」
「ナナは現場だけど、わたしは、信金でも総務ですから、そういうことは……」
「いや、総務ってのは会社全体を見てますからね。経営陣との距離も近い。ナナセさんも、かなりしたたか」
「そんな……」

 しおらしく俯いてはいるが、気持ちは言い当てられたような気がしていた。ただ、今の信金に勤めていては、ただの夢に終わってしまうだろうが。

 その時、幹線道路から、線路際の道にドリフトさせながら三台のスポーツカーが入ってきた。歩道の先には、近場の山に登に行く十人ばかりの子供たちが歩いていた。

「危ない!」

 妹は、とっさにジャンプし最後尾の子ども二人を抱えて脇に転がった。いままでその子どもが居た位置には先頭の車が、高架下のコンクリート壁に腹をこすりつけ停まっていた。どうやら、駆動系のダメージはなかったようで、ドライバーの若い男は。逃げようとシフトチェンジをしているところだった。
「山路、最後尾の車を確保!」
 そう言いながら、妹はコンクリートブロックを運転席の窓に投げつけて粉々にした。そして、中の二人の男がひるんだ隙に、エンジンキーを引き抜いた。
 山路は、ダッシュして三台目の車の後ろに回り。道路脇の店の看板を持ち上げ、ぶんまわしてリアのガラスを破壊。そのままリアウィンドウから飛び込み、ドライバーの男の頭をハンドルに思い切りぶつけ、これもエンジンキーを抜いた。

「なに、しやがるんだ!」

 子供たちが無事だったことに気をよくしたんだろう。二台目の車から男女がバールを持って降りてきた。それに勇気づけられたんだろう、他の二台からも、男三人と、女一人が降りてきた。
「山路、気を付けて、こいつら半グレだ!」
 半グレの六人は、言い訳の出来る道具袋を持っており。手に手に金槌などのエモノを持って立ちふさがった。
 山路は、そのエモノを避けつつ、一人を投げ飛ばし、後ろから振りかぶられた金槌をかわして腕をねじり上げた。ボキっと音がしたんで、男の腕が折れたようだ。
「山路、ネクタイでもなんでもいいから縛着!」
 そう言いながら、三人の男女を倒し、ズボンを足もとまで脱がせて足の自由を奪い、ベルトを引き抜き後ろ手に拘束した。四人目の男はその場にくずおれて失禁していた。妹は、そいつを俯せにして、馬乗りになり、こめかみに金槌をあてがい、スマホを構えた。
「こちら、通行人。状況報告、半グレと思われる車三台○○区A町、一丁目三の東城線東横で、子供たちを轢きかけ、一台中破、二台撃破、犯行の男女六人確保、至急現場に着到されたし、オクレ!」

 妹は、かつての職場の業界用語で七秒で警察に伝えた。

「キミは……ナナ?」
「あ………」

 妹と山路に、新しい転機が訪れようとしていた……。
 

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高校ライトノベル・秋野七草 その五『わたしは、ナナ……セ』

2017-10-03 15:51:54 | ボクの妹
秋野草 その五
『わたしは、ナナ……セ』
        


 秋野七草と書いて「アキノナナ」と読む。元陸自レンジャーの我が妹の名前である。

 今日は、真面目な話があったので後輩の山路を、うちに泊めてやると家に電話した。山路は、こないだも終電に間に合わず泊めてやった。

「すみません。今夜もご厄介になります」

 不幸なことに妹のナナが直ぐあとに帰ってきた。「あ」と二人同時に声が出た。

「あ、ナナセさんの方ですね?」と、山路が誤解した。

 無理もない。そのときのナナは会社で指を怪我をしてテープを貼ってきていたのである。指を怪我したのは、先日のイタズラでおしとやかな(しかし架空の)双子の姉のナナセだと思いこんでいる。とっさに、ナナも気づき、ナナセに化けた。
「先日は、不調法なことで失礼をいたしました」
「いいえ、お怪我の方は……」
「あ、もうだいぶいいんですが、お医者様が、跡が残ると生けないとおっしゃって、こんな大げさなことをしております」
「そりゃ、あんなに血が流れたんですから、お大事になさらなきゃ」

 まさか、あの時の血が食紅だったとは言えない。

「今夜は、またお世話になります」
「はい、先日はまともにお話も出来ませんでしたから、ゆっくりお話ができれば嬉しいです」
 心にもないことを言う。

 ナナがナナセとして二階へ上がると、携帯が鳴った。アドレスでナナと知れる。
「どうした、なんでオレに電話してくんだ(なんせ二階からかけてきている)え、今夜は泊まり? どうして、せっかく山路も来てんのにさ。あ、ちょっと山路に替わるわ」
「もしもし、山路。どうしたナナ……ちゃん。せっかく今夜は大事な話が出来ると思ったのに。ほら、例のチョモランマ……ええ、そういうこと言うかなあ。男一生の問題だぞ。あ、笑ったな! おまえな、そういうとこデリカシー無さ過ぎ。今度しっかり教育してやっから。それに、勝負もついてないしな。次は絶対勝つからな! そもそもナナはな……」

 これで、今夜はナナはナナセで化け通すことになった。オヤジとオフクロには、この間に、話を合わせてくれるように頼んだ。一家揃って面白いことは大好きだ。

「と言う具合で、チョモランマに登るのには、準備も入れて三か月もかかるんです。うみどりの仕事は、その分みんなにご迷惑……」
「アハハ、そんなこと心配してたのか!?」
「だって、僕も設計スタッフの一員ですから」
「最初の三か月なんて、オモチャ箱ひっくり返すだけみたいなもんだ。アイデアを出すだけ出して、使い物になるかならないかの検討は、そのあと、さらに三か月は十分にかかる。それから参加しても遅くはないじゃないか」
「なんと言っても、オスプレイの日本版ですからね、僕だって……」
「気持ちは分かるけどな、A工業には大戦中からのオモチャ箱があるんだ。それこそ堀越二郎の零戦時代からのな。最初のオモチャ箱選びは、オレだって触らせちゃもらえない。オモチャの整理係なんだぞ」
「負けません。整理係でもなんでも」
「そんなこと言ってたら、チョモランマなんて一生登れねえぞ」
「すごいですね、若いのに二つも大きな夢があって」
「あって当然ですよ。僕にとっては、山と仕事は二本の足なんです。両方しっかり前に出さないと、僕って男は立ってさえいられないんです」
「焦ることはない。お前は帰ってきてから、広げて整理したオモチャの感想を言ってくれ。三か月もやってると、好みのオモチャしか目に入らなくなる。新しい目でそれを見るのが山路の仕事だ。うちの年寄りは、そういう点、キャリアも年齢も気にはしない。自分たちも、そうやって育ってきたんだからな」
 ここでナナが化けたナナセが割り込んできた。
「戦艦大和の装甲板を付けるとき、クレーンの操作がとてもむつかしくて、ベテランの技師もオペレーターもお手上げだったんです、俯角の付いた取り付けは世界で初めてでしたから。それを、ハンガーそのものに角度を付けるってコロンブスの玉子みたいなことを考えついたのは、一番若い技師の人だったんです……きっと山路さんにも、そんな仕事が待ってます!」
「ナナセさん。いいお話ですね……でも、そんな話し、どうしてご存じなんですか?」
「あ、これは……父が小さな頃に教えて、ねえ、お父さん……寝ちゃってる」

 それから、オレたち三人は技術や夢について二時過ぎまで語り合った。山路はナナが化けたナナセの話しに大いに感激していた。ナナは、陸自に居たときも、実戦でも、技術面でも卓越したものを持っていた。だから、女では出来ないことにも挑戦しようとし、挫折して退役してきた。民間と陸自の違いはあるが、熱い思いは同じようだ。

 そして、オレは気づいてしまった。自分の罪の深さに……。

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高校ライトノベル・ボクの妹がこんなにニクソイわけがない・68『もう妹はニクソクない!』

2017-10-03 05:59:55 | ボクの妹
ボクのがこんなにニクソイわけがない・68
『もう妹はニクソクない!』 
     


 大阪に戻った私たちにすることはなかった。

 これには二つの意味がある。

 第一に、わたしも優子も状態が悪く、もうメンテナンスの仕様もなかった。二人とも生体組織が壊死してしまい。腐敗が進んできたので、亜硫酸のタンクに漬けられて、生体組織を溶かし、スケルトンの状態にされた。この状態が裸になって、股間にドレーンを挿入されてメンテナンスする何倍も恥ずかしいことであることを、わたしも優子も自覚した。
「わたしのスケルトンの方がキュートよ!」
「なによ、わたしの顔のスケルトンの方がかわいいもん!」
 最初はじゃれあいのようだったが、互いの機能が低下してくると、憎まれ口もきかなかくなってきた。
 見かけは上半身と下半身に裂かれてしまった優子がひどかったが、わたしはPCに受けたダメージが意外にひどく、五日目には言語サーキットがいかれてしまい。CPにケーブルを接続しなければ意思表示も出来ない状態になった。

 わたしには、ユースケに取り込まれる前の義体が残っていたが、それにCPの中身をインスト-ルすると、わたしの半分である太一の人格が復元できないことが分かった。太一を殺すことはできない。東京で、あれだけの働きができたのは、太一とねねを融合したからこそのことであった。
 優子のCPは、比較的安定していたが、CP内に収容していた優奈の脳組織が弱ってきた。一度は取り出そうとしたが、そのオペレーションに優奈の脳組織が耐えられる確率は30%もなかった。それに、取りだしたとしても、寿命は半年がいいところである。

 最初に崩れたのは、太一のお母さんである。

娘と息子を同時に失おうとしているのだ、無理もない。羊水に漬けられた太一を見ては涙になり、モニターを通じての幸子との会話も、CPの寿命を延ばすため最小限度におさえられていたため、ある日、緊急事態用の手榴弾を持ち出したところを、アラームに気づいた水元中尉に、爆発寸前に助けられた。太一の父は、そんな妻をただ抱きしめることしかできなかった。

 東京は、あれからしばらく平穏なように見えたが、グノーシス同士の争いが激しくなり、国防省のCPは事実上ダウンしていた。市民生活は平穏そのものであるが、毎日グノーシス戦士の遺体や破壊されたロボットが発見されたが、彼らは最後の瞬間に、一般人や、普通の車に擬態するので、身元不明の遺体や、事故車が増えた程度にしか、一般には認識されていなかった。国防省のCPは甲殻機動隊が肩代わりして、日常の業務に差し支えないようにしていたが、それがC国やK国に見破られるのは時間の問題だ。

 そんなある日、T物産のトラックが、真田山駐屯地へやってきた。

「厨房機器の納品です。お通し下さい」
 初老の運転手が窓越しに書類を渡した。
「話は聞いています。念のためスキャナーにかけますので、トラックごとそのセンサーの間に入ってください」
 門衛の下士官に言われ、初老のオッサンは、ゆるりとハンドルを切った。
「ああ、T物産の高橋さんですか。T物産の総務の神さまですね。調達品の取引じゃ、下手な営業さんより話がしやすいって、親父も言ってましたよ」
「あ、あなた営繕課にいた牛島准尉さん……の息子さん!? いやあ、時代ですなあ」
「今日は、総務が配達ですか?」
「来月で定年なもんですからね、ちょっとわがまま言って、若い頃に回ったところを一つ一つ回らせてもらってるんです」
「メカニックの方は、女性なんですね」
「身元や経歴はスキャン済みでしょうが、厨房関係は女性の方が分かりがいい。それに……」
「チーフの方は、陸軍の予備役なんですね」
「そうよ。ずっと給養員のボスやってたから、ここの給養装備もみんな見たげる」

 そうして、この御一行は、地下のシェルターにやってきた。

「高橋課長!」
 太一のお父さんが、すっとんきょうな声を上げた。
「いやあ、一別以来……と言いたいが、佐伯さん。あなたとは初対面です」
「え……」
「高橋さんの体を借りている。向こうのグノーシスのハンスと申します」
「グ、グノーシス!?」
「まあ、こっちにもいろいろありましてな。今日は里中副長の依頼で来ました」
「もう、恥も外聞もなく、お願いしました」
「一応、隊長にもごあいさつを……」
 そういうと、ハンスは、佳子ちゃんの妹で優子と同名の幼女に挨拶をした。
「困るなあ、ハンス。ずっとばれないできたのに」
「これからは、あなたの指揮が重要になりますから」
「ゆ、優子、どうしたの!?」
 佳子ちゃんがうろたえた。
「潜在能力が優れてるんで、二年前からやってるの。甲殻機動隊の隊長としてのアビリティーだけは高いけど、あとはお姉ちゃんの妹だから、これまで通りよろしく。じゃ、あとは副長よろしく」
「は」
 里中副長が、上官に敬礼するところを初めて見た。
「じゃ、かかろうか」
 三人の女性スタッフのオーラには、なにか懐かしさを感じた……あ、ビシリ三姉妹!

 大げさな作業になると思ったら、わたしたちと持ち込みのCPをケーブルで繋いだだけである。
 ミーと思われるビシリが、すごい早さでキーボードを操作した。とたんに、わたしの意識が飛んだ。

「お、溺れる!」 

 そう思ったら、急速に羊水が抜かれ、ボクは久々に太一に戻った。気づくと空のアクリルの水槽の中で、ボクはひっくり返っていた。で……みんなの視線がボクに集まった。
「キャー!」
 佳子ちゃんとチサちゃんは同じような悲鳴をあげて、それでもしっかり裸のボクを見ていた。
 ビシリのミルが目隠しに立ってくれ、ミデットが、取りあえずの服を一式を、タオルとともに投げ入れてくれた。
 水槽から出たとき、優子と真由のスケルトンは死んでいるように見えた。
「移植急ぐぞ」
 ハンスが、高橋さんの姿で言った。ビシリ三姉妹が、厨房機器の箱を開けると、中から優奈が現れた……!?
「義体だけどね、脳を移植すれば本物になる」
 ビシリ三姉妹は、優子のスケルトンの口を開けると、大きめの注射器のようなものを取りだし、優奈の前頭葉と脳幹の一部を保護液といっしょに取りだし、優奈の義体の口を開け喉の奥からCPに挿入した。
「だいぶ弱っているな……」
「はい、なにか刺激がいります」
 ミーが答えた。
「仕方がない、祐介がユースケになった今までの記録をダウンロ-ドしよう」
 微かな起動音がして、優奈がピクリとした。それから、血の気がさして、閉じた目から涙がこぼれ落ちた。
「これで、祐介のことは愛情を持って理解した。残念ながら、太一への愛情を超えてしまったけどな」
「それはいいんです。祐介の気持ちは分かっていたし、こうあるのが自然です」

 優奈が意識を取り戻し、起きられるのに一時間ほどかかった。そして優奈が元に戻った頃、幸子とねねちゃんが戻ってきた。

「お兄ちゃん、みんな!」
「お父さん!」

 幸子は、ユースケが使っていた義体に、優子から分離した幸子のパーソナリティーをインストールしたのである。
 完全な幸子に戻っていた。プログラムモードではなくニュートラルで、幸子はニクソクなかった。

「わたし、自然にしていても世界は壊れないのね!」
「ああ、半分賭けだったけどね。これで僕たちも希望を持って前に進める」
 ハンスが、珍しく嬉しそうに言った。
 ねねちゃんも義体で、ここまで自然になれるのかと思うほど人間らしかった。
「これは、太一、キミのおかげだよ」
 里中副長が言ったとき、急に空間が歪み、全員がショックを受けた。

 目の前に、傷つき果てたユースケが現れた。

「もう空間移動の技術も覚えたんだね」
「そうしなきゃ、生き延びられないんでね……優奈!?」
「祐介、ごめんね。いままで祐介の気持ちに気づいてあげられなくて。こんなに苦労して、こんなに傷つき果てて」
「で、でも、どうして……」
「舞洲で殺されたとき、わたしの脳の一部をサッチャンが保存してくれていたの。体は義体だけど、心は優奈だよ。祐介の優奈だよ!」
「そんな……でも、オレは幸子を殺さなきゃならないんだ!」
「もう、その必要はない。グノーシスの間でも休戦協定が結ばれた。君も、いつまでも、そんなロボットに取り込まれていなくてもいいんだよ」
「そうよ、祐介!」
「オ、オレは……ウワー!」
 ユースケは悶え苦しんだ。危ないので優奈を引きはがそうとした。
「このままで……祐介! 祐介! 祐介!!」

 やがて、ユースケは動きを止め、静かにボディーが開くと祐介がこぼれ出てきた。

 そして、一週間して祐介の意識が戻った。義体と入れ替わっていたみんなも自然に元にもどった。

 そして、ボクの妹の幸子はニクソクはなくなった……。


『ボクの妹がニクソイわけがない』  シリーズ・1 完



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高校ライトノベル・秋野七草 その四『ここで遭ったが百年目』

2017-10-02 16:17:39 | ボクの妹
秋野七草 その四
『ここでったが百年目』
       


『百年目』という落語がある。

 店では謹厳実直な番頭が、店の丁稚や若い者に細かな苦言を呈したあと「得意先回り」をすると言って店を出る。かつてから、こういう時のために借りている駄菓子屋の二階で、粋な着物に着替え、太鼓持ちや芸者衆を連れ、大川に浮かべた船で花見に出かける。
 最初は、人目にたたぬよう大人しく遊んでいたが、酒が入るに従って調子に乗り、桜の名所で、陸に上がって目隠し鬼ごっこをする。そして、馴染みの芸者と思って抱きつくと、なんとそれは店の旦那であった。
 で、明くる日旦那に呼び出された番頭が、「番頭さん、あの時は、どんな気分だった?」「はい、ここで会ったが百年目と思いました」

 この「会う」を「遭う」にしたような事件が妹の七草(ナナ)と後輩の山路におきた。
 
「やあ、ナナちゃんじゃないか!」
 
 そう声を掛けたときの、ナナは突然の出会いにナナらしい驚愕と面白さに、一瞬で生気に溢れた顔つきになったらしい。
 あとで、ナナ本人に聞くと、一瞬ナナセに化けようと思ったらしいが(といっても、ナナセが本来のナナの姿ではあるが)一昨日切ったはずの指を怪我していないので……ナナセはナナの出任せで、指を怪我したことになっている。で、山路も、それを確認した上で、ヤンチャなナナと確信して声を掛けたのである。

「なんかテレビドラマみたいな出会いだな!?」
「なんで、山路が、こんなとこにいるのよ!」

 この二言で、ナナといっしょに昼食に出た同僚たちは勘違い。

「じゃ、秋野さん、わたしたちはお先に……」
「すみません。変なのに出会っちゃって……!」
 同僚達は、なにやら勘違いした。
「わたしたちは、いつものとこだから、そっちはごゆっくり!」
 そして、桃色の笑い声を残して行ってしまった。

「おまえ、職場だと、かなりネコ被ってんのな」

「あたりまえでしょ。総務の内勤とは言え、この制服よ。会社の看板しょってるようなもんだもん。何十枚も被ってるわよ。でも、A工業の設計部が、なんで昼日中に、こんなとこに居るわけさ?」
「ああ、今日は防衛省からの帰りなんだ。飛行機一機作るのは、ロミオとジュリエットを結婚させるより難しいんだ」
「プ、山男が言うと大げさで陳腐だね」
「大げさなもんか。じゃ、知ってるだけの日本製の飛行機言ってみろよ」
「退役したけど、F1支援戦闘機、PI対潜哨戒機、C1輸送機、新明和の飛行艇、輸送機CX……」
「そんなもんだろ。あと大昔のYS11とか、ホンダの中型ジェットぐらい」
「そりゃ、アメリカが作らせてくれないんだもん」
「いいとこついてるね。F2は、アメさんの横やりで作れなくなったし、ま、そのへん含めて大変なのさ。ところで、一昨日の延長戦やろうか!?」
「よしてよ、こんなナリで、木登りなんかできないわよ」
「昼飯の早食い。これならできるだろ?」
「う~ん、ちょっと待ってて」

 ナナは、近くの喫茶店に行き、カーディガンを借りてきた。オマケにパソコン用だがメガネも。

「よーし、天丼特盛り、一本勝負!」
 近所の天ぷら屋の座敷を借りて、この界隈最大のランチを出す「化け天」で、フタも閉まらないほどの洗面器のようなドンブリに入った特盛りで勝負することになった。ご飯は並の倍。天ぷらは二倍半という化け物である。むろん代金は負けた方が払う。
「ヨーイ、スタート!」
 と、亭主がかけ声をかけて、厨房へ。ランチタイム、早食いとは言え、終わりまでは付き合っていられない。三分後に見に来てくれるように言ってある。
 座敷といっても、客席からは丸見えで、一分もすると、その迫力に人だかりがした。

「「ご馳走様!!」」

「三分十一秒……こりゃおあいこだね」
 亭主の判定と、お客さん達の拍手をうけて、割り勘で店をあとにする二人であった。

 地下鉄の入り口で別れようとしたときに、山路のスマホが鳴った。

「出なくていいの?」
「ああ、これはメールだからな」
「そう、じゃ」
「またな」

 またがあってたまるか。そう思って、いつものナナ=ナナセに戻って歩き出すと、後ろから山路の遠慮無い気配。

「やったぞ、ナナ。チョモランマの最終候補に残った!」

 それだけ言うと、山路は、直ぐに地下鉄の入り口に消えた。

 七草は、ナナともナナセともつかぬ顔で見送った……。
 

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高校ライトノベル・ボクの妹がこんなにニクソイわけがない・67『C国多摩事変・2』

2017-10-02 06:11:55 | ボクの妹
ボクのがこんなにニクソイわけがない・67
『C国多摩事変・2』 
     


 300機のチンタオは二世代前のロボットであるために今のC国のコードも通用しない。

 私たちから連絡を受けたC国大使館は、すぐにチンタオたちに「行動中止」のコマンドを、二世代前の様式で送ったが、彼らは通常のコマンドコードを受け付けず、C国大使館そのものを敵と見なし、攻撃を加えてきた。C国大使館は、自動でバリアーを張って無事だったが、周りの建物に被害が及んだ。Rヒルズの南側の窓ガラスは全部割れてしまった。
 国防省の対応も早く、阿佐ヶ谷駐屯地は、ミサイル発射の熱源に向けて反撃の地対地ミサイルを撃ち込んだが、ステルス化したチンタオたちはすでに移動したあとだった。

 ユースケは、首都防衛の精鋭ロボット部隊ロボコンを送った。彼らは国内最精鋭部隊で100機のロボコンで構成され、司令機の一機を上空で待機させ、3機編成の33の小隊に、それぞれ指令を送った。

 ロボコン部隊は、チンタオの初期ステルスを易々と見抜き、あっと言う間に半数を多摩地区で撃破した。それから残ったチンタオ達は、カメレオンのようにステルスのモードを変換し、都心部へと近づいてきた。
 都心は、100機以上のチンタオの攻撃を受け、あちこちで大惨事が起こった。ミサイル発射直後の熱源を衛星で探知し、その後20分でさらに50機のチンタオを撃破、擱座させた。
 チンタオは旧式ではあるが、偽装については能力が高く、都心に入ってきたものは、熱源を市販の自動車と変わらないものにし、トンネル内で、荒川で見かけたバンに擬態化し、都心の中枢に向かっていった。
 ロボコン部隊は、強力なセンサーで、次々にステルスのモードを変え、擬態するチンタオの速度に、次第に追いつき、1機、また1機と撃破していく。

 わたしと優子は、ロボコンを除けば、数少ないチンタオのステルスが見破れる個体なので、彼らが目標としている新宿の国防省に向かった。新宿では、まだ市民に情報が行き渡っておらず。あちこちで交通事故や、混乱が起こっている。
「あのバン、チンタオよ!」
「任せて!」
 わたしは腕のグレネードを発射した。徹甲弾モードにしたグレネードは、チンタオの内部に入って爆発するので、そんなに破片は飛び散らない。しかし程度問題で、数千個の大小の部品が凶器になって、あたりに飛び散る。わたしたちは、一度に一万個の目標を追尾する能力がある。飛び散った破片がどのような軌道を描くのか瞬時に計算し、危険の高い破片から対応する。ごく小さなものは目に仕込まれたレーザーで焼き切る。それ以上のもので脅威にならないものは放置する。

――三時の方向、破片オッサンに!――

 真由の指示でジャンプ。オタオタしているオッサンにしがみつく。若い女にしがみつかれたと思ったオッサンは一瞬ニタリ。直後背中に衝撃、チタン合金の肋骨の下の柔らかい生体組織に突き刺さる。
「おじさん、早く逃げてね。都庁の方角が安全」
 そうアドバイスしながら、背中の破片を抜く。血が噴き出し、オッサンの顔にかかった。
「ごめん……」
 腰を抜かしたオッサンを尻目に、国防省へ急ぐ。真由も女の子を庇い、首に破片が貫いている。両手両足のグレネードを使ったので、関節の生体組織が破れ、わたしたちは血みどろになった。
 国防省の構内に入ると、弾薬庫を目指した。もう手持ちのグレネードが切れてしまっている。
「甲殻機動隊。少し弾薬を分けて」
 相手はロボット兵だったので、0・1秒でIDを認識して弾薬庫に入れてくれた。
 両手足にグレネードを装填し終えた時に衝撃がやってきた。
「バリアーが破られた!」
 外に出てみると、国防省の東側のバリアーが破られていた。周囲の破片から三機のチンタオが同時に突っこんできたことが分かった。もう一機は、わずかに間に合わなかったのだろう、植え込みのところでデングリカエり黒煙を上げていた。バリアーはすぐに回復を現す薄いグリーンになっている。
「お前達も大変だったな」
 ユースケが声をかけてきた。
「CICにいなくていいの?」
「ああ、やつらの目標はCICのコマンダーのオレだ。いっそ外に出た方が始末が早い」
「最後の1機が突っこんでくる!」
「司令機よ!」
 わたしと優子とユースケは、瞬時に同じコマンドコードになり、二百キロの速度で構内を走り回った。
 もう、グレネードを撃っている暇もない。
 直前で司令機は三つに分離し、三人それぞれに向かう姿勢を示したが、これはブラフであった。ユースケのコマンドコードを正確に読み取った司令機は、ユースケに集中した。
 優子は、その前に身を投げ出した。

 強烈な炸裂音がして、司令機も優子もユースケも吹き飛んでしまった。

 優子は、正面で、まともに受け止めたので、胴体のところで千切れてしまった。生体組織がぶちまけられ凄惨な姿ではあるが、頭部は無事だったので元気ではある。
「優子、世話かけちまったな」
 片腕を失ったユースケが優子の顔を覗き込む。
「ハナちゃんが、今来るわ」
 そう言うと、二人とも安心したようだ。
「優子、おまえがサッチャンだってことは分かっているけど、そっちの勝負は当分お預けな。フェアにいきたいからな」

『いやあ、神楽坂も、マンションは爆破されるわ、新宿の方から人たちが逃げてくるわで大変でした』
「遅れた言い訳?」
「いいじゃん、ハナちゃんも大変だったみたいだから」
 同期した優子とハナちゃんは、情報を共有したようだ。
「木下クンは……」
『……なんとか、人間の形にして、あとのお世話はお願いしてきました』
「ありがとう……わたしたちもメンテナンス大変なんだろうな」
「もし、わたしのCPの中に優奈が生きてるって分かったら……ユースケ、どうしただろうね」
「さあ……」

 ハナちゃんは、わたしたちを乗せて、一路大阪を目指した……。



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