大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・アーケード・4《花屋のあーちゃん》

2018-02-28 16:38:52 | 小説

・4
《花屋のあーちゃん》



 フラワーショップ花のあやめは、二日たっても腰が痛い。

「ウーン……」と唸ってしまって、あやめは自分がお婆ちゃんになってしまったような気になった。

 おとついは、アーケーズ前列の左端に居た。白虎フェスタを盛り上げたくて、9人のメンバーは歌にもダンスにも熱が入ってしまい、フォーメーションが膨らんでしまって『365日のお買い物』のツーコーラス目のスピンで危うくステージから落ちそうになった。
「ウグッ」人知れず唸り声をあげ腰を捻ってバランスを取った。で、なんとか転落は免れた。

 その場はなんともなかったが、昨日から腰が痛み始めた。

「あーちゃん、薮井さんとこ行って来たら」
 中学校に納品する花を切りそろえながら姉の桔梗が言った。
「やだよ、大したことないし」
 薮井医院は町医者としては珍しく内科・小児科の他に整形外科を兼ねている。江戸の昔から城下町の町医だったのでオールマイティーなのだ。

 ただ去年から息子の健一が大学病院から戻ってきたのが商店街のジュニアたちには問題なのだ。

 健一は「けんちゃん」とか「けんにい」とか呼ばれ、白虎通り商店街では西慶寺の諦観と並んで、われらのお兄ちゃんというべき存在だった。高校大学とラグビーをやっていた健一は、それだけでも文武両道なのだが、全日本ラグビーで五郎丸歩が脚光を浴びてからは「ソックリ!」という噂がたって、ローカルテレビが取材に来たほどである。

 腰の痛みなら診療用のベッドにうつ伏せにされ、けんにいの手で触診される。

 正直言って、左の股関節にも痛みがある。
 むかし母が腰を痛めて診てもらうのに付き添ったことがる。けんにいの父である大先生が診てくれた。あの時の触診を見ているので、あやめは絶対に薮井医院には行きたくない。で、あやめは順慶道を跨いだ商店街の西の畑中薬局に向かった。
「すみませーん」
「お、あーちゃんじゃないの」
 店主の梅子ばあちゃんが明るく声をかけてくれる。
「えーと……」
「あー、腰を痛めたんだね、おとついがんばってたもんね。どれどれ……」
 商店街の年寄りはお見通しだ。調剤室にあやめを上げて、秘伝の湿布を貼ってくれた。
 赤ん坊のころから世話になっているので、パンツをずり下ろして湿布を貼ってもらっても平気だ。
「これで痛みはひくけど、薮井さんのとこで診てもらったほうがいいよ」
 三日分の湿布を渡しながら梅子婆ちゃんは忠告する。
「うん、ありがとう」

 店に帰ると「ごめん、中学校から電話があったの、あやめ行ってきて」と桔梗から頼まれた。

「え~やだよ」
「チョイチョイと形整えるだけだから。あたしもお父さんお母さんもお店があるから」
 自分しかいないことは分かっている。入学式や始業式が立て込む今日明日は、フラワーショップ花は忙しい。店番に姉の桔梗と母は欠かせないし、父には配達がある。あやめは口を尖らせただけで中学に行くことにした。
 商店街のジュニアたちは、家の仕事と言われれば逆らえない。いちおうプータレてはみるが、そこまでだ。
 良くも悪くも、白虎通り商店街には昔ながらの繋がりが、家庭にも地域にも濃厚に残っている。

「中学校からだって言い方がずるいよね……」
 グチりながら中学校の正門を潜る。
「あ、咲花さん。講堂の方に行って」
 職員室で会った元担任は入学式の準備をしながら指示をした。「咲花」のイントネーションが在学中と微妙に違う。在学中は苗字としての「咲花」だったが、今の言い方はフラワーショップ花の昔の屋号『咲花』のそれであった。

「あ~~~~」

 ため息をつきながら講堂に向かう。講堂では明日の入学式に向けての準備の真っ最中で、教頭の水野が腹を抱えながら……と言っても笑っているわけではない。この人の癖で、タップリでっぱたお腹を支えるように手をあてがっている。よく見ると両手はベルトを握っていて、大きな声を出してズボンがずり下がるのを予防しているのだ。
「あのう……」
 おずおずと声を掛けると、ゼンマイ仕掛けのように水野教頭は振り返った。
「おう、咲花の!」
 またしても屋号のイントネーションで呼ばれる。
「すまん、壇上の生け花、もうちょっと様子よくしてくれ」
「あ、はい……」
 

 一礼して壇上に上がる。

 壇上の壺活けの花は綺麗に活けられている。昨日姉の桔梗が配達して活けていったものである。特に問題はないが、桔梗の癖で、やや派手だ。
――問題ってほどじゃないんだけどなあ――
 そうは思うが、注文主の意向には逆らえない。あやめ自信美華流華道師範の腕を持っている。ほんの3分ほどで、思い切り古典的な活け方に直した。あまり早くやってしまっては軽々しいので、さらに10分以上かけて直しているふりをする。

「できました。いかがでしょう?」
「おう、これこれ。穏やかに控えているような佇まいがいいね。ごくろうさん」
「ありがとうございます。では、これで……」
 帰ろうとしたところ、声がかかる。
「まあ、お礼に持って行ってくれ」

――あっちゃ~~~~~~――

 あやめは教頭からもらったドテカボチャを担いで帰路に着いた。このカボチャを恐れて桔梗は妹に振ったのだ。
 水野教頭の家は代々相賀家の家老の家で、江戸時代の飢饉をカボチャで乗り切った伝説がある。明治になってからは農学博士として有名になり、相賀名物の相賀カボチャを開発した。
 で、水野家では、人への(特に目下の)慰労には、この相賀カボチャを使うことが慣わしになっている。
「これ、5キロはあるわよね……」

 そうして商店街の東口に差し掛かったとき、にわかに腰にきた。

「う、う~~~~~~~~~~~~~~ん!!!」
 あやめはカボチャを抱えたままへばってしまった。で、へばった場所がよくなかった。
「けん兄ちゃん、たいへん、花屋のあーちゃんが!」
 ちょうど医院から出てきた肉屋の遼太郎が医院の奥に呼ばわった。あやめは待合室のご近所の人たちに担がれて診察室に運ばれた。
「湿布だけで安心しちゃだめじゃないか。よし、すぐに楽にしてやるからな」
 けんにいに向かって「ノー」は言えない。さんざ触診されて、腰とお尻にブットイ注射をされてしまった。

 あやめは声を掛けた肉屋の遼太郎とは、しばらく口をきかなかった。 


※ アーケード(白虎通り商店街の幼なじみたち) アーケードの西側からの順 こざねを除いて同い年

 岩見   甲(こうちゃん)    鎧屋の息子 甲冑師岩見甲太郎の息子

 岩見 こざね(こざねちゃん)   鎧屋の娘 甲の妹

 沓脱  文香(ふーちゃん)    近江屋靴店の娘

 室井 遼太郎(りょうちゃん)   室井精肉店の息子

 百地  芽衣(めいちゃん)    喫茶ロンドンの孫娘

 上野 みなみ(みーちゃん)    上野家具店の娘

 咲花 あやめ(あーちゃん)    フラワーショップ花の娘

 藤谷  花子(はなちゃん)    西慶寺の娘

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高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・7『行ってきまーすの前に』

2018-02-28 06:53:38 | 小説3

通学道中膝栗毛・7

『行ってきまーすの前に』        



 人生は死ぬまで学校だ……という言い回しがある……そうだ。

 そうだと言うのは、校長先生が言っただけで他には聞いたことが無いから。
 それと、一生学校だと言われて――そんなの真っ平――と怖気をふるったから。

 鈴夏と二人、制服をビシッと決めているのは高校が三年間だけだからだ。
 考えてもみてよ「一生高校生だ!」と言われたら、きっとウンザリだ。二十歳を超えてセーラー服だなんてゲロが出そう。
 渋谷とかに行くと二十代で女子高生のナリをしている人がいるらしい。
 お父さんは「てんぷら女子高生」という。お母さんは「コスプレ女子高生」という。
 どっちにしても気持ちが悪い。

「ね、あれ見て」
 
 鈴夏が示した先に後姿の女子高生がいた。
 ハイソの脚がとってもきれいで、小ぶりなお尻がキュート。学校カバンを後ろに持って、お尻でポンポンしてるとこなんか、ちょっと子どもっぽいけど、佇まいとしてイケてる。
「かわいい子ね」
「よーく見てみ」
 すると、その子は道の向こうに知り合いがいるようで、可愛くピョンと撥ねて横向きになり、知り合いが移動するにつれて、こっちに顔を向け始めた。

「え……」

 その子の鼻の下には髭が生えていた。
「ねー、こっちこっち!」
 と言う声は、まごうかたなきオッサン! すぐ横を通って、知り合いと合流しに行った。モワッとシャンプーの香りがした。オッサン用じゃなくて、女の子がよく使ってるやつ。目眩がしたのは香りが強すぎるだけではなかった。
「あーいう楽しみ方もあるんだ(^^♪」
 鈴夏は目をカマボコ形にして喜んでいる。見かけによらず鈴夏は豪傑だ。

 じゃなくって、ものごとには相応しい時期ってものがあると思う。

 えーーーーそれも本題じゃなくって、人生死ぬまで学校!

 校長先生は、適当にマニュアルから拾ってきた話をしたんだろうけど、わたし的にピピピっと発展して閃いたことがある。
 人生が学校なら、人が通る道はどこだって通学路になる!

 でしょ!?

 学校は、それほど好きじゃないけど、登下校の通学路は好きだ。
 登下校の為に学校に行っていると言っても過言ではない。

 で、今日も土曜の休みだけど、人生の通学路を歩くわたしでありました。ま、世間では散歩というんだけど。

 また、面白いことがあっても無くてもお話します。

 じゃ、行ってきまーす!

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高校ライトノベル・新 時かける少女・10〈S島決戦〉

2018-02-28 06:47:35 | 時かける少女

新 かける少女・10
〈S島決戦〉
 



「そんなバカな!」

 と、お父さんは言ったらしい。
 らしいというのは、遊撃特化連隊に連絡将校として派遣されている米軍将校からの連絡だ。
 素人で、まだ半分ガキンチョのあたしが聞いても分かる。

 敵の上陸部隊は、一個中隊180名ほど。

 これに対し、政府の緊急安全保障会議では、同規模の一個中隊の派遣が認められただけだ。
 島は、城といっしょで、戦術的な常識では、敵の三倍の兵力でなければ潰せない。信長さんや秀吉さんの、もっと昔からの常識。
 近代戦では、その前に、戦闘攻撃機によって、徹底的にミサイル攻撃を加える。ナパーム弾による爆撃など効果的なのだが、日本政府は非人道的武器であるとして、対人地雷とともに破棄している。

 弱腰と、専門的知識がないもので、侵犯国(敵とも呼ばない)と同規模同程度の実力部隊の派遣しかできないとの指令である。

「バカか!」

 日頃温厚な米軍の連絡将校も声を荒げたそうである。オスプレイ6機を護衛艦あかぎに載せて、敵を威嚇しつつ、戦闘は最終手段とするといった念のいったバカさかげんだ。これでは、敵に十分な防御対策をさせてしまう。このまま突っこんでは、上陸前にボ-トごと一個中隊は殲滅されてしまうだろう。
 民自党の防衛大臣は、空自による事前攻撃の直後、戦闘機による制空権を確保した上で、一個大隊(敵の三倍)で一斉攻撃をかけるべきであると主張したが、連立与党の公民党が「目的は島の奪還であり、殺戮が目的ではない。最小限度の攻撃に止めるべきである」と主張し、一個中隊の派遣になったわけである。

「我々は全滅しにいきます。それで政府の目を覚まさせてください」

 中隊長は、そう言い残し、出撃していったそうだ。こんな覚悟で出て行くのは、お父さんがもっとも信頼している牛島一尉だろうと思った。

 お父さんは、一部政府の指示を拡大解釈した。

 上陸部隊は一個中隊だが、後方支援の部隊については指示がない。そこで、遊撃特化連隊に許されている最大の権限を行使した。
「必要に応じ、連隊長は、陸海空自衛隊に支援を要請することができる」という条項である。
 ただし、要員の輸送に関してのみという条件がついていたが。
「輸送というのは、部隊を確実に作戦地域まで送り届けることである。そのためには、なにをしてもいい」
 そう解釈し、空自のP3Cを飛ばし、敵の衛星や、侵攻部隊のレーダーにジャミングをかけた。
 つまり、敵が目視できるところまで来なければ、味方の部隊は発見されない。

 そして、上陸寸前に限定的ではあるが、上陸地点の爆撃を依頼した。

 攻撃は、セオリー通り夜間に行われた。ただ、政府が予想していたのより一晩早く。
 オスプレイ6機が、石垣島を離陸したのと同時に、ジャミングが始まった。敵は若干慌てた。攻撃は、政府の指示通り、明くる日だと思っていたからだ。

 S島の東海岸線が空自によって徹底的に爆撃され、敵の本拠地であると思われる山頂を30発のミサイルで潰した。中隊は無事に東海岸には到達できた。一個分隊を除いて……。

 牛島中尉は、自ら一個分隊を指揮し、島の一番急峻な、西の崖をよじ登った。

 東海岸に上陸した中隊の主力は、よく頑張った。上陸直後から、三個小隊に分かれ、小隊は、さらに分隊に分かれ、牛島一尉が見抜いていた、敵の指揮官がいる中腹を目指した。

 夜明け前には、敵部隊の半数を撃破。しかし、中隊は2/3の兵力を失っていた。

 西側の崖をよじ登った牛島一尉の分隊は夜明け前には、敵の指揮官の分隊の背後に回った。東側の中腹で中隊が全滅したころ、牛島一尉は敵の指揮官の首にサバイバルナイフを突き立てた。

「一尉、後ろ!」

 分隊長が、自分の命と引き替えに牛島を助けた。しかし、そこまでだった。中隊を全滅させた敵の部隊が集まり始めた。

 牛島の撤退の合図に応じたのは三名に過ぎなかった。

 ボートで沖に全速力で三十分走った。そこを海自の潜水艦に救助された。

 180人の中隊で生き残ったのは、たったの4人だった。で、島は奪還できなかった。
 政府の反応は早かった。お父さんを命令違反と、作戦失敗の責任をとらせ即日解任したのだ。

「バカな政府を持ったもんだね日本は……」
 エミーが無表情に言った。

「S諸島は日本の領土だから、アメリカ軍が助けてくれるんじゃないの……?」
「世の中、そんなに甘くないのよ」
「そんな……!」
「でも、愛のガードは続けるよ」
「……どうして、お父さん解任されちゃったのに」
「世の中、甘くもないけど単純でもないの」

 スイッチを切り替えたように、エミーは、涙目の笑顔になった。

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高校ライトノベル・アーケード・3《アーケーズ》

2018-02-27 16:06:45 | 小説

・3
《アーケーズ》



 畳んだ鎧は拍子抜けがするほど小さくなる。

 身長175センチの甲が着用していた赤具足は、羽毛布団を入れるくらいの大きさの段ボールに鎧櫃ごと入れられて、鎧屋の屋号が描かれたワゴン車に収まっている。

「じゃ、行ってきます」

 運転席のきららは、師匠の甲太郎に挨拶すると、穏やかにアクセルを踏み込んだ。ワゴン車は歩行者専用時間前の商店街を東に走り、民俗資料館と西慶寺に挟まれた順慶道に入った。

「おはよう、おはようございます」

 ちょうど西慶寺の山門から出てきた花子が、ワゴン車のきららと甲に挨拶した。今朝の花子は僧侶の衣ではなくアイドルの制服のようなナリをしている。
「あら、アーケーズも出るんだ!?」
 きららはブレーキを踏んで笑顔の花子に応えた。
「ええ、露出しておかないとモチベーションもスキルも維持できないし。なによりみんな好きだから」
「てことは、うちのこざねも?」
 助手席から身を乗り出して甲が聞く。
「うん、あ、ほら後ろ」

 バックミラーに花子と同じコスを着たこざねがアーケードを東に向かうのが見えた。なんだか猫が集会場所に行くように気配が無い。

「ハハ、恥ずかしんだこざねちゃん」
「そういう年頃ですね。こうちゃん、今日のステージは見てくれるんでしょ?」
「うん、今日は納品だけだから」
「嬉しい! じゃ、サクラお願いね」
 そう言うと、花子はコスのスカートを翻してこざねの後を追った。
「間に合うようにチャッチャッとやりますか」
 
 ワゴン車は国道に入り国府市のショッピングモールを目指す。

 赤具足は国府市の大型ショッピングモールの依頼で作った新造品というかレプリカというか、以前の鎧屋からすればゲテモノであった。

 真田ブームにあやかった客寄せのための等身大五月人形とでも言うべきもので、大河ドラマなどで使っている衣装としてのヨロイと大差ないものである。
 胴も鉢も鍛えは一切ない軟鉄で、本当の戦に使ったら鉄砲玉どころか矢でもプスリと貫通しそうなもので、甲太郎に言わせれば『アルミで作った戦車』のようなものでしかない。
 関東地方屈指の甲冑師である岩見甲太郎が、こういうものを作るようになったのは、それだけで一本のドラマができるほどの葛藤があったが、今は年若い女弟子の草摺きららの働きが大きかったとだけ述べておく。

「いやあ、さすがは岩見さんの作品だ、風格が違いますねえ」

 特設会場に飾り終えた赤具足を見て、感心しきりの支配人である。
「鍛えはありませんが、機能的には完品です。こちらの甲くんが具足駆けをやって、実証済みですから」
「ほう、そうですか!」
 感心はしているようだが、具足駆けの意義などは分かっていない様子の支配人。
「では、撤収の時に伺います」
「よろしくお願いいたします」

 一礼すると、甲ときららは、ショッピングモールのフードパークを目指した。

「こうちゃん、早いか美味いか?」
 これだけで意味が通じる。
「うん、両方!」
「ハハ、あたしといっしょだ」
 二人は海鮮丼のコーナーに向かった。早くて美味くて牛丼ほど熱くもない。とんぼ返りで商店街に帰りたい二人にはうってつけだ。

 思ったより40分早く戻ることができて、リハーサルの最後に間に合った。

 商店街東詰めの白虎広場には特設ステージが組まれていて、白虎フェスタのリハーサルが行われている。

「じゃ、アーケーズ、よろしく!」

 進行責任者である仁木楽器店若主人・仁木祐樹がキューを出す。商店街のテーマ曲に乗ってアーケーズのメンバー9人がステージに上がった。

「こんにちは、みなさ~ん!! 白虎通り商店街看板娘たちで結成したアーケーズで~す! ありがとうございます。わたしたちアーケーズは早いもので結成3年目を迎えました、とりあえず元気いっぱい歌います! 白虎通り商店街応援ソング『365日のお買い物』です!」

 花子が寺の娘とは思えないテンションで一気に雰囲気を盛り上げていく。

 ここ3年聞きなれた『365日のお買い物』は仁木楽器店若主人・仁木祐樹の作詞作曲で、すっかり商店街のテーマソングになり、ローカルではあるが相賀テレビのヒットチャートのトップになったこともあり、地元で愛される名曲になっている。フリも3年の間に改良され、今日の白虎フェスタでは、その新バージョンが発表される。

「なるほど……」
 甲たちリハーサルに参加した商店街の面々は一様に感心した。
「子どもだと思っていたら、いつのまに……」
 喫茶ロンドンの泰三祖父ちゃんなどは涙ぐんでしまった。

 午後の本番も大盛況で、甲は花子に頼まれたサクラを務める必要もなかった。

 そうして、4日前の具足駆の熱気などはあっと言う間に忘れ去られてしまった。
 

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高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・6『発見と味わいと友情の乗り越し』

2018-02-27 06:54:23 | 小説3

通学道中膝栗毛・6

『発見と味わいと友情の乗り越し』        

 ちょっと、乗り過ごしたわよ!

 鈴夏の声で目が覚めた。


 南向きのシートがラッキーにも二人分空いていたので、座ったのがまずかったのかもしれない。
 朝から快晴なために、放射冷却というやつで、ここは北海道かってくらい寒かった。
 で、南向きのシートは、いっぱいの日差しと車内の暖房でホコホコ。つい二人そろって眠ってしまった。

 そ、居眠りじゃなくて爆睡。

「栞、ヨダレ!」

 言われて、手の甲で拭ってみると、右のホッペがビチャビチャ。
 ハンカチで拭きながら電車を降りると、隣の駅だ。
「ひっさしぶりの隣町だ!」
 あたしたちの生活は都心を向いている。渋谷とか新宿とかね。
 だから、反対方向にはあんましいかない。このSK駅には実のところ下りたことが無い。子供のころは、たまに自転車で遠征したけど、せいぜい街の公園くらい。
「中学になってからは来たことないね」
 ということで一駅分料金払って探検に出る。

「SKってば、SK学園だよ!」

 鈴夏が閃いて、主体性のいないあたしはウンウンと着いていく。
 女子バレーで有名な私学で、高校受験の時に併願で受ける子も多いんだけど、あたしも鈴夏も公立一本だったんで縁が無い。

「そーだ、確かめたいことがあるんだ……」
「え、なになに?」
「SKの子って見かけるんだけども、謎があるんだよね」

 SK学園こちらという標識を見て、学校に近づく。当然のことだけどブレザーにチェックのスカートのSK生と向き合う形で歩いている。彼女たちは下校の真っ最中。逆流するあたしたちは少し目立つ。すれ違うSk生がチラチラと見ていく。

「ちょっとハズイな」
「もうちょっとだから」
「いったい、なにが謎なのよ?」
「え、見てて分からない?」
「え?」
「制服よ制服」
 そう言われて、つい前からやってくるSK生たちをガン見してしまう。

「なによ……」

 不審がる声が聞こえてくるので、居たたまれなくなって脇道に入ってしまう。
「ダメじゃん、ガン見しちゃ」
「だって」
 そこまで言ったとき、脇道に一人のSK生が走って来た。
 ヤバっと思ったら、SK生がジャンプした。
「わ、栞と鈴夏じゃん!」
「「え、え!?」」
「あたしよあたし!」
「「あ、あーーー!」」
 SK生は中三でいっしょだった真知子だった。

「「「うわー、おっひさー!」」」

 とりあえずはハイタッチ。
 ピーチクパーチク懐かしがったあと、鈴夏は本題に入った。

「ね、SKのブラウスって四種類あるでしょ。学年別なら三種類なのに、四種類ってのはどーして?」
 言われて、初めて気づいた。たしかにSKのブラウスは淡いピンクとブルーとイエローとホワイトだ。やっぱ鈴夏は鋭い。
「これはね、四色あって、どれを着てもいいことになってんの」
「「あ、なーるほど!」」
 目から鱗だ。
 あたしたちの希望ヶ丘青春高校は完全自由。で、あたしらは逆に制服時代の完全武装。
 SKのようにオプションを作っておくと言う手があったんだ。昭和二年創設の歴史は伊達じゃないと思った。
「でもさ、そーいうことならネットで調べりゃ一発なんじゃない?」
「あ、そりゃそう……」
 そう言いかけると「そうじゃないわよ」と鈴夏は言い返した。
「ネットで調べてたら真知子には会えてないじゃん」
「あ、それもそうだ!」
 そう言った割に、鈴夏はスマホを取り出した。
「お。お昼の販売って、地元のパン屋さんが入ってるんだ」
「そだよ、豆乳クリームパンが安くておいしいんだよ」

 ということで、駅前商店街のパン屋さんを目指し、三人で一個ずつパンを買って、食べ比べをやった。

 ヘヘ、発見と味わいと友情の乗り越しでありました。

 チャンチャン。
 

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高校ライトノベル・新 時かける少女・9〈ガーディアン〉

2018-02-27 06:46:50 | 時かける少女

新 かける少女・9
〈ガーディアン〉
 



「始まったわね」

 オスプレイの機内で、エリーが呟いた。そして、指揮官らしい将校に何か言ってる。

「エリー、あなたって……」
「あたしは、愛のガーディアンよ」
「ガーディアン?」
「愛を守るために、去年から那覇中央高校にスリーパーとして潜り込んでいたの」
「うそ、あたしのため?」
「南西方面遊撃特化連隊ができたときから。K国もC国も、この部隊ができたときに、日本は本気なんだということを知った。だから、いざというときには混乱を引き起こして、有利に戦おうとした」
「それが、あたしを狙うことだったの?」
「愛を殺せば、連隊長の判断が鈍る」
「お父さんは、そんなことで判断を誤ったりしないわ」
「敵は、お父さんを甘く見ていた。だからフェリーの中で愛を殺すことに失敗したあとは、沖縄で派手に愛を殺すことに切り替えた。大げさな事件になれば、非難は特化連隊や政府に行くわ。それで、特化連隊や日本政府の手を縛ろうとしたの。さっきの学校前の事件、A新聞なんかは、特化連隊との関連に気づいて……むろん情報をたれ込んだのは、敵のスリーパーだけどね。政府批判のキャンペーンをやり始めた」
「わ、わけ分かんないよ」
「愛に間違われた子は、死んだわ。他にも怪我人がね。日本人は、こういう事件が起こると敵よりも、敵に、そうさせた政府や自衛隊を非難する。敵の狙い通りよ」

 オスプレイは時間を掛けて海を渡った。おそらく内地の米軍基地を目指している。

 基地にたどり着いたのは、夕方だった。あたしたちは、他の米兵と共に、基地内の宿舎に向かった。あたしとエリーに化けた女性兵士は、護衛十人ほどが付いて別の建物に入っていった。

「愛、悪いけど髪を切って染めてくれる」

 そう言ってきたエリーは、他の女性兵士と同じようなショ-トヘアーになっていた。あたしも、アレヨアレヨというまにブラウンのショートヘアーにされてしまった。

「お母さんには、自衛隊で保護してあると言ってある。この二十四時間の間に事態は動くわ。政府がバカな判断をしなければスグにカタが付く」
「うん……」
「……気に掛かってるんだね、宇土って工作員が言ったこと」
「そんなことないよ。あたしは、お父さんとお母さんの娘だもん!」
「やっぱ、ひっかかってるんだ」
「違うってば!」
「だったら、なんで、そうムキになるの」

 返す言葉が無かった。

「おいで、証明してあげよう」
 エリーは、そう言って、あたしを研究室のようなところへ連れていった。
「これ、さっき切った愛の髪の毛。念のために口の中の粘膜ももらおうか」
 ポカンとしてるあたしの口に、エリーは綿棒を突っこんで、あっという間にホッペの内側をこそいでいった。
「そんな、乱暴にしなくても……」
「ごめん。ついクセでね」

 エリーの本性が分からなくなってきた。

「これが愛の遺伝子。こっちがお母さんの髪の毛から取った遺伝子。ね、よく似てるでしょ」
 エリーは、モニターを見ながらニマニマし、エンターキーを押した。
「ジャーン。これが結果!」

 あたしとお母さんが親子である確率は99・999%と出てきた。
 正直ホッとした。
 ホッとしたのもつかの間、基地内にアラームが、鳴り始めた。

「中尉、C国がS諸島に侵攻しはじめました!」

 若い下士官が、エリーに言った。
「愛の前では、そういう呼び方しないで!」
「すみません。軍服を着てらっしゃったので、つい……」
「この上歳なんか言ったら、軍法会議」
「ハッ!」
「……すっとばして銃殺!」

 下士官は、顔色を変えてすっ飛んでいった。

「アハ、今の冗談だからね」

 しかし、事態は冗談ではない方向に進んでいた……。

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高校ライトノベル・アーケード・2《七人の幼なじみ》

2018-02-26 16:40:30 | 小説

・2
《七人の幼なじみ》



 江戸の昔、相賀は八万石の城下町で戦国時代から続く相賀氏が治めていた。

 相賀氏は尚武の気風高く、空高くなる秋に家臣打ち揃い相賀原で馬揃(うまぞろえ)をやることが慣わしになっていた。

 馬揃とは、家臣一同が家伝の鎧兜に身を固め騎乗行進し、お城で藩主の閲兵を受け、閲兵の後は騎乗のまま相賀八幡に参拝。お家と天下の弥栄(いやさか)を祈念した後、相賀原で勇壮に旗絡(はたからめ)を競い合う。
 旗絡とは、相賀八幡の御神旗を花火のように打ち上げ、騎乗の鎧武者たちが、落下してくる御神旗を競い合って馬の鞭で絡めとるという合戦さながらの祭りで、県の重要無形文化財にもなっている。
 相賀の若者は、18歳前後で鎧の着用を許され、許された日には家伝の鎧兜を身に着けてお城まで早駆けすることになっていた。これを具足駆けといい、相賀の街では男子の成人式のようになっていた。

 主人公の岩見甲は、一昨日具足駆けを果たし、商店街の幼なじみ達から具足祝いをしてもらうことになった。

「やっぱ、鎧屋の具足は違うねえ」

 料理を配膳しながらマスターのお祖父ちゃんが賞賛する。カウンターの上には50インチのモニターが甲の具足駆けを写している。
「いやあ、実質は商売もの検品ですよ。たまたまオレのサイズだったんで、親父のアイデアで具足駆けにしちゃったんです。秋の馬揃には、みんなといっしょにやりますよ」
 21世紀の今日、交通事情や経費安全性などの観点から個人で具足けは廃れてしまい、秋の馬揃の前夜祭的に有志の若者たちでイベントとして行われる。具足もレンタルで、お城の大手門から本丸まで駆けるだけである。

「今年からは、鎧じゃなくてコスプレとかでもいいそうね」
「女子にはヨロイ重いもんね」
 花屋のあやめが芽衣といっしょに料理を取り分ける。
「ぜったいコスプレの方がいいよ。あたしももクロのコスがいい!」
「鎧屋の娘が、そんなこと言っていいのかあ」
 こざねの発言を肉屋の遼太郎が咎める。
「まあ、コスプレが出てきても鎧武者は廃れないわよ。伝統行事だもん」
「うんうん」
 靴屋の文香と家具屋のみなみがフォローする。

「みんな見てごらんよ」
 お祖父ちゃんがモニターの動画を停めた。

「こうちゃん、いい武者っぷりじゃないか」
「そうね、停止にしてもさまになってるっていいよね」
 孫の芽衣が賛同する。
「甲は体育のランニングじゃイマイチなのにな」
「こうちゃん、やっぱり腰なのかい?」
「はい、腰を落として、あまり大股で走らないことです。長距離は、それでなきゃもちませんから」
「なるほどねえ」
「みんな、お料理とカップ行き渡った?」
「ああ、いいんじゃないか。芽衣、そのまま乾杯の音頭とってくれよ」
「え、あたしでいいの?」
「立ってるからついで」
「む~、ついでってね……」
「いいじゃないか芽衣」
 お祖父ちゃんの賛同に、みんなも倣う。
「それじゃあ、こうちゃんの具足駆けを祝って……」

 その時、喫茶ロンドンのドアベルがカランコロンと鳴った。

「遅れてごめん、急に月参り入っちゃって!」
「あ、はなちゃん忘れてた!」
「もう、忘れてたはないでしょ」

 衣姿の花子は、ごく自然に上座の甲の向かいに座った。みんなと同い年の女子高生にも関わらず西慶寺の花子には僧侶としての貫禄があった。

「じゃ、もっかいいくわね!」

 鎧屋岩見甲の具足祝いは、幼なじみ6人と妹に囲まれて賑やかに始まった。

 相賀の春は、白虎通り商店街でたけなわになろうとしていた……。
 
 


※ アーケード(白虎通り商店街の幼なじみたち) アーケードの西側からの順 こざねを除いて同い年

 岩見   甲(こうちゃん)    鎧屋の息子 甲冑師岩見甲太郎の息子

 岩見 こざね(こざねちゃん)   鎧屋の娘 甲の妹

 沓脱  文香(ふーちゃん)    近江屋靴店の娘

 室井 遼太郎(りょうちゃん)   室井精肉店の息子

 百地  芽衣(めいちゃん)    喫茶ロンドンの孫娘

 上野 みなみ(みーちゃん)    上野家具店の娘

 咲花 あやめ(あーちゃん)    フラワーショップ花の娘

 藤谷  花子(はなちゃん)    西慶寺の娘

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高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・5『近ルートは刺激的』

2018-02-26 06:40:55 | 小説3

高校ライトノベル
通学道中膝栗毛・5『近ルートは刺激的』
        


 ときどき鈴夏と目配せをする。

 なんの目配せかというと――今日は近ルートで行こう!――という合図。
 なんでこうなるかというと、どちらかが待ち合わせの時間に遅れて近ルートでなきゃ間に合わなくなった時。
 親しき中にも礼儀ありなんで、目配せのあとは「ごめん」と「ドンマイ」をやりとりする。

 近ルートはブッチャケ斜めコースなんだ。

 斜めと言っても、駅まで斜めの道があるわけじゃない。

 斜めに行けるのは公園とコンビニの駐車場と神社の境内。この三つを有効に使うのには、地元民ならではの土地勘がなくてはならない。
 お地蔵さんの裏側に幅一メートルほどの路地があることや、養楽園という介護施設の横っちょが商店街に繋がっていることなどを熟知していなければならない。神社の境内を通る時は走ってはいけないし、拝殿の前では瞬間だけど、立ち止まって神さまに頭を下げる。
 それから養楽園のお年寄りと目が合った時は、ニッコリして軽く頭を下げる。お年寄りの中には、このニッコリ会釈を楽しみにしている人もいるので、敷地を通ることを黙認してもらっている。朝、あたしたちと会釈をかわすと、その日は一日元気でいられたり、いいことがあるというジンクスまであるそうだ。きっとあたしたちが、制服をビシッときめていることが大きいと思う。いいかげんなナリだと、もうとっくにお出入り禁止になっていただろう。

 今日は年が明けて初めての近ルート。

「ごめん」と「ドンマイ」を合言葉みたくして、歩幅を5センチ長くして歩き出した。

 コンビニの駐車場に入ったところで「コラー!」という声が聞こえた。
 一瞬斜め横断を叱られたのかとギクッとしたが、お爺さんがレジ袋振り回し、高校生の二人乗り自転車追いかけているのを見て――これは事件だ!――と理解した。
 お爺さんは、自転車の鍵をかけないで買い物をしたんだ。忘れていたのか、ほんのちょっとだからと思ってのことなのかは分からない。
 お爺さんは、少し足が悪いようで、走って追いかけることができないようだ。
「栞」
「うん」
「「待てー自転車泥棒!」」
 あたしたちは二人乗りを追いかけた。
 まさか、駐車場の斜め向こうから人が現れて追いかけてくるとは思わなかったんだろう、ハンドルを握っている方が立漕ぎになってスピードを上げ始めた。

 グゥアッシャン!

「「うそ!」」

 なんと自転車のフレームが真ん中から折れて、自転車泥棒二人は前のめりに道路に投げ出された。
「イテー!」
「イタイイタイ!」

 立漕ぎは顔から落ちて、鼻からドバドバと血を流している。もう一人は左手の肘から先が変な方向に曲がっている、たぶん骨折。
「あら、可愛そう……」
「いま電話してあげるから」
「た、頼むよ救急車ぁ~」
 鈴夏は、スマホを出してタッチし始める。
――事件ですか? 事故ですか?――スマホのむこうで声がしている。
「ふたり怪我してますけど、命には別条ないようです。自転車泥棒なんでパトカーに来てもらってください」
「お、おい」
「頼むよおおおおおお」

 パトカーと救急車が同時に来た。

「お爺さんが乗ってる時でなくてよかったですね」
 鈴夏は、優しい笑顔でお爺さんを労わった。
「お爺さん、自転車は、すこし高くてもJIS規格にあったのにした方がいいですよ。最近は乗ってる時に急に壊れてしまう自爆自転車の事故が多いからね」
 お巡りさんが、優しく意見する。
 自爆自転車とはうまく言ったもんだと感心。

 で、二人そろって遅刻してしまったのでした。

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高校ライトノベル・新 時かける少女・8〈オスプレイ緊急試乗〉

2018-02-26 06:35:34 | 時かける少女

新 かける少女・8
〈オスプレイ緊急試乗〉
 



「じゃあ、一発乗って確かめてみるか!」

 エリ-の提案は、なかなか実現しなかった。あたりまえっちゃ、あたりまえ。あんなのに簡単に試乗できるわけがない。

 大きなのと小さなのと、二つの気がかりがあった。

 大きな気がかりは、那覇に来るときの宇土さん。この人は正体不明だけど、あたしの命を狙っていた。そして、海に飛び込む寸前に言った言葉「……それは、愛ちゃんが総理大臣の娘だからよ」
 あたしを守ってくれた運転手さんは「あれは、注意をそらすためのブラフだよ」って言った。その通りの状況だったけど。あたしが南方方面遊撃特殊部隊の連隊長の娘であっても大げさなんじゃ……という気がする。

 小さな気がかりは、あたしの真似をする子が出てきたこと。

 あたしは、長崎の前は東京に長くいた。だから、言葉や、なんとなくの雰囲気に東京の匂いがするらしい。スカートの丈は、みんなより微妙に長い。ブラウスの第一ボタンは外すけど、リボンは、そんなにルーズにはしない。俯いたときに人から胸の谷間が見えないための工夫。で、前髪は少し切っておでこの前でヒラヒラさせている。これは、単に暑いから。汗でおでこに前髪が貼り付くのヤだもん。ブラウスの袖は七分にまくり上げる。暑い戸外と冷房の効いた教室の両方に間に合うようとの合理性だけ。

 でも、二組の愛はイケテルってウワサになった。

 あたしはブスってほどじゃないけど、特別可愛くもない。東京弁を喋ることと、単に東京の子というだけのこと。連休明けになると、あたしが見ても驚くようなそっくりな子が現れ始めた。

「フフ、あの子も愛のこと真似してる」

 エリーが、電柱一本分前を歩いている子を見て言った。あたしは、暑さに耐えきれず、髪をアップにしてお団子にしていた。
 その時、一台のスモークを張ったクーペが静かにあたし達の横を通った……と、思う間もなくアクセルをふかし急加速して、前を歩いていた、あたしのソックリさんを跳ね上げた!
 その子は悲鳴を上げる間もなく十メートルほど跳ねられ、歩道に落ちて二回転ほどして動かなくなった。クーペは一目散に逃げていった。

 道路はパニック状態になった。

「愛、ヤバイ!」
 エリーに突き飛ばされると、あたしのすぐ横をナイフを腰ダメにした男子生徒が走り抜けていった。
「チ」と、舌打ちをすると、その男子生徒は器用にナイフをしまい込むと、生徒達の群れの中に溶け込んでしまった。
 歩道に転がった子の頭からは、どんどん血が流れて、あたりを血の池にしていた。
「なんとかしてあげなくっちゃ!」
「なんとかしなきゃならないのは、あんたよ。こっち来て!」

 エリーは、大通りまであたしを引っ張っていくと、生徒手帳を振りかざして、通り合わせた米軍の四駆を停めた。そして流ちょうな英語で二言ほど喋ると、四駆の後ろのドアが開き、エリーはあたしを押し込んだ。

 四駆は、猛スピードで走り始め、その間、あたしはエリーに覆い被されてシートに貼り付いていた。

 止まったのは米軍基地のゲートの前。運ちゃんと門衛の兵隊さんが言葉を交わすと、車は基地の奥深くに入っていった。
 
「さあ、オスプレイの試乗をするわよ!」

 エリーは、そう言うと裸になって、米軍の戦闘服に着替え始めた。
「ボーっとしてないで、愛も着替えるの!」
 特殊な服なので、ノロノロ着替えていると、同じような体格の女性兵士が、リカちゃん人形のように着替えさせてくれて、あろうことか、あたしの制服を着だした。

「あの、これって……」

 二機のオスプレイが待機していた。両方に八人ほどの米兵が乗り込み、あたしたちも、その中に紛れた。

 驚いたことに、エリ-とあたしの制服を着たソックリさんが、それぞれのオスプレイに乗り込んだ。

 そして、二機のオスプレイは、どこともなく飛び立ち始めた……。
 

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高校ライトノベル・アーケード・1《具足駆けと具足祝い》

2018-02-25 13:59:19 | 小説

・1
《具足駆けと具足祝い》

 

 相賀市は関東平野の要衝の地にあって清々しいほどに空が広い。

 その広い空の下に相賀城址があって、相賀市はその南西方向にナスビの形に広がっている。

 ナスビのヘタが相賀城であり、ナスビの真ん中を東西に白虎通りが走っており、白虎通りは西端の白虎駅手前で茶杓の先ほどに湾曲していて、その300メートルほどの茶杓の先が明治のころから商店街になっている。県下でも早くからアーケードが設置されてきたので、本名の『白虎通り商店街』よりも通り名である『アーケード』の方で知られている。

 そのアーケードをガチャガチャと赤具足の鎧武者が駆け抜けていく。

 南蛮胴の正面と六十二間の筋兜の前立てには六文銭があり、流行りの真田信繁にちなんだものであることが分かる。
 相賀の住人は具足の音には敏感である。準備中のアーケードの住人が箒や商品を手にしたまま東に向かう鎧武者に注目した。

「あ!」と、靴屋のふーちゃんが。
「おお!」と肉屋のりょうちゃんが。
「まあ!」と喫茶店のめいちゃんが。
「いよいよね!」と家具屋のみーちゃんが。
「やったねー!」と花屋のあやちゃんが。
「よし!」と西慶寺のはなちゃんが。

 そして開店準備に忙しい他のアーケードの人たちも、通勤途上でアーケードを行く人たちも驚きの表情で鎧武者を見送った。

 鎧武者は相賀城址の大手門を潜り、小さな桝形で横に曲がり、満開の桜の下三か所の石段を駆けあがると本丸広場にたどり着いた。早くから来ていた観光客は時ならぬ鎧武者の闖入を喜び例外なくスマホやデジカメを向ける。
 広い空を眉庇(まびさし)上げて一瞥をくれると天守に一礼し「エイオー、エイオー」の掛け声を高らかに発して元の道を戻っていく。

 アーケードに戻ると、あいかわらず人々の祝福を受けたが、鎧武者は規則正しい具足の響きと「エイオー、エイオー」の掛け声だけで応え、息も乱さずにアーケード西の外れの鎧屋の中に入っていった。

「すぐに解け」

 鎧屋の主人岩見甲太郎は、鎧武者と互いに一礼すると、ただちに、弟子のきららに手伝わせ鎧武者の赤具足を解きにかかった。

「たまら~ん!」

 鎧武者は具足を解くと、ただの高校生岩見甲に戻ってひっくり返った。
「こざね、兄ちゃんにコーラくれ!」
 甲は、店の三和土(たたき)に立っている妹に声を掛けた。
「やだ、これから入学式の手伝いだもん」
 こざねは、そう言うと制服のスカートを翻して出て行ってしまった。今日は4月の1日なのだ。
「やれやれ……」
 甲は、自分で冷蔵庫を目指そうとした。

「こうちゃん、まだ検分が終わってないから」
 きららが真面目な顔でたしなめる。

「甲、発手(ほって)はきつくなかったか?」
 甲太郎が胴の発手(下の縁)を見ながら尋ねた。
「あ、胸のところがゆるぎになってるから思ったほどじゃなかったです」
 姿勢を正して甲は答えた。
「肩上(わたがみ)にも緩みはないな……きららくん、錣(しころ)にも異常はありませんか?」
「はい、仕上げ寸法のままです」
「よし、では仮裏を外して陰干しにしよう。甲、もういいぞ」
「助かった!」

 脚を崩すやいなや、甲は冷蔵庫からコーラを取り出し、風呂場に駆け込んだ。

「2本も飲んじゃ毒ですよ!」

 シャワーを浴びて二本目のコーラを掴んだところできららに声を掛けられた。
「あ、ついね……」
 エヘヘと笑って麦茶のボトルと持ちかえる。
「でも、きららさん、飾り鎧に正式の検分しなきゃならないのかなあ」
「それが先生です。手は抜かれません。それに、こうちゃんの具足祝いも兼てるんだから」
 マジ顔できららが返してくる。こういうときのきららは融通が利かないので、甲は麦茶に持ちかえた。

「こうちゃん、めいちゃんが来てるわよ!」
 母が玄関の方から呼ばわった。

「あ、うん……」
 麦茶を一気飲みして玄関に向かった。喫茶ロンドンの娘の百地芽衣がニコニコ顔で立っている。
「おう、告白にでも来たか?」
「バカ、真面目な用事」
「ひょっとして、みんなでお花見とか?」
「ああ、それもありだね! じゃなくって、えとね、さっきこうちゃん具足駆けしてたじゃん」
「ああ、新造した鎧のテスト兼てだけど」
「ううん、立派なもんだったよ。でさ、みんなで具足祝いしようって話がまとまって」
「え、大げさな!」
「あさって、うちの店休みだから、十二時からうちで。OKだよね?」
「あ、ああ」

 まあ、なんでもネタにして騒ごうというアーケード仲間の魂胆なのだろうと鎧屋の甲は承知した。

 

 

 

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高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・4『中ルートは香りの商店街』

2018-02-25 07:03:57 | 小説3

高校ライトノベル
通学道中膝栗毛・4『中ルートは香りの商店街』
        



 もう一つは中ルート。

 商店街のアーケードを通って行く。

 夏と冬は、もっぱら中ルートになる。
 暑さ寒さをしのげるのが理由の一つ。

 第一回でも言ったけど、都立希望ヶ丘青春高校に制服は無いけど、制服廃止前のセーラー服が女子の定番。
 セーラー服の冬の寒さは着てみないと分からないよ。
 裾が短い上にパカパカで、襟もとも大きく開いている。スースー空気が抜けて行って体温を奪ってしまう。
 女子の中には、セーラーの下にモコモコのセーターとか着る子がいるけど、あたしたちはしない。

 外見的に崩すことは絶対しない。

 フェリスとか女学館とか、セーラー服の名門校は、けして崩した着こなしはしないでしょ。ま、学校の指導が厳しいってことがあるんだろうけど、生徒自身に誇りがあるんだ。

 鈴夏と相談して、ネット通販でハーフコートを買った。昭和の女学校風で、とっても清楚。足許は黒のローファーとハイソで引き締め、首にはタータンチェックのマフラーを装着。装着なんだよね、間違っても毛糸のモワモワマフラーをグルグル巻きにして首の後ろで結ぶなんてことはしない。もう、なんちゅうか、学習院も顔負けって感じ。

 で、この格好で二人そろって商店街を駅に向かう。

 商店街を抜ける理由の二つ目は香りなんだ。

 朝の商店街は営業前。

 たいがいのお店は閉まっているけど、食べ物関係のお店は開店準備にいそしんでいるのだ。

 お惣菜のお店や蕎麦屋さんからはお出汁のいい匂い。魚屋さんは焼き魚、豆腐屋さんは油揚げを揚げる香ばしさ、ケーキ屋さんは甘いクリームの、もう開店しているパン屋さんは食欲そそる焼き立てパン、喫茶店からは挽きたてコーヒー、お寿司屋さんからは酢飯と、もう香りのバザールって感じ。

 帰りに通ると、これに天ぷら屋さんと肉屋さんの揚げ物の匂いが加わる。
 天ぷら屋さんは二種類で、練り物の天ぷらと普通の天ぷらとでは匂いが違う。あたしは、ごま油の天ぷらの匂いが好きだ。
 お父さんが、大阪には紅しょうがの天ぷらがあると言っていた。
「えー、それは信じらんない!」
 鈴夏は眉を顰めるけど、チャンスがあったら食べてみたい。あたしはショウガ大好き少女なのだ。
 これが最高というか、我が町の商店街のグレードを上げている匂いが、駅寄りの出口の方でする。

 花屋さんとお茶屋さん。

 食べ物の匂いもいいんだけど、お花やお茶の香りというのは心を気高くしてくれる。
「んー、分からなくもないけど、気高いかなあ?」
 鈴夏の感覚は、ほとんどいっしょなんだけど、こういうところにズレがある。
 まあ、神社のコマ犬みたいにそっくりじゃなくて、微妙に違いがある方が高校生らしくていいと思う。

 今日の帰り道は中ルート。

 お肉屋さんで揚げたてコロッケを一つづつ買う。一個60円なり。
 お屋敷街の100円自販機も安いんだけど、この60円にはかなわない。
 どうしてお肉屋さんのコロッケっておいしんだろ? 家で揚げてもこの味には絶対ならない。

 洋品屋さんのショ-ウインドウに二人の姿が写る。

 完全装備の女子高生二人がハフハフと歩きコロッケ。昔の女学校では禁止だったんだろうけど、こういう外し方はイケてると思う。

 歩きスマホよりもよっぽどいいな。そうは思いませんか?
 

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高校ライトノベル・新 時かける少女・7〈ナンヤティンナイサ部〉

2018-02-25 06:56:55 | 時かける少女

新 かける少女・7
〈ナンヤティンナイサ部〉
 



 エリーとナンヤティンナイサ部を作った。

 ナンヤティンナイサというのは沖縄の方言で「なんでもできる」という意味で、要はなんでもアリってな意味。
 大方は放課後ぶらぶら好きなことをやってるわけで、帰宅部にニュアンスは似ているけど、アクティブという点で違いがある。

 大概は、下校途中ファストフードの店なんかで、ダベッているだけなんだけど、なにかに引っかかったり面白いと思ったら実行に移すところが帰宅部とは違う。

 最初は、ソーキそばが、なぜソーキというかから始まった。フィシーズメーカーのエリーが大盛りの二杯目にかかったときに「なんで、ソーキって言うの?」というあたしの質問から始まった。エリ-は説明できなかった。本土で言えば「ラーメンを、なぜラーメンと呼ぶのか?」の質問と同じで、当たり前すぎて分からない。

「ソーキっていうのは、梳きのなまりなんだわ。ブタのアバラ使って出汁とるでしょ。そのアバラが櫛に似てるんで、櫛で梳くの梳きが、ね、なまったのよ」
 と、店のオバアチャンが教えてくれた。
「オバアチャンのお店のソーキそばって、沖縄で一番美味しいわね!」
 そう言うと、オバアチャンは正確、かつ正直に教えてくれた。
「うちより、まーさいびーん(おいしい)ところはあるよ」
 で、オバアチャンに教えてもらった、那覇中のお店を回った。那覇以外のお店もあったけど、高校生の行動半径で行けるところで絞った。

「いろいろあるのは分かったけど、あたしの主観では、あのオバアチャンのお店だな」

 と、意見の一致を見てから、俄然アクティブさが増してきた。

 琉球新報と沖縄タイムスは沖縄の新聞の90%以上を占めており、本土の新聞と大きな隔たりがあることを知ると、その「なぜ?」を調べる。

 で、分かったのは、簡単な法則。

 沖縄で、全国紙をとると、朝刊が読めるのが夕方になってしまい、新聞としての意味がないから。

「な~るほど」

 と、思ったけど、全国紙(ちなみに、あたしんちはS新聞だった)に比べると、内容や数字がかなり違う。基地問題や、デモの記事が多く、デモなんかの参加人数は全国誌と大きな開きがあった。
 新聞に凝っている間は、学校の図書館に通い詰めた。ネットで、沖縄の新聞と全国紙の比較をやった。その姿が、とても勤勉そうに見えたので、社会科の先生が「新聞部を作ろう!」と言い出したのには閉口した。
 エリーは、沖縄の新聞の特殊性は知っていたようで、あまり驚かない。でも全国紙でもAとS新聞などに大きな開きがあることには、びっくりして喜んでいた。
「一度、電車に乗ってプロ野球がみてみたい」
 本土には当たり前にある鉄道も球団も無いことに気づくのに少し時間がかかった。こういう?の間を面白いと感じられるのは、ひとえにエリーの人柄の良さだろう。

 名護市長選では移設容認派の市長が当選したが。石垣市の市長選と県知事選挙が控えている。
「これって、一つにはオスプレイの安全性の問題なんだよね」
 と、あたしが言うと、エリーは、ソーキそばのノリで、こう言った。

「じゃあ、一発乗って確かめてみるか!」

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高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・3『お屋敷街の100円自販機』

2018-02-24 06:48:10 | 小説3

高校ライトノベル
通学道中膝栗毛・3『お屋敷街の100円自販機』
        


 駅までのルートは三つある。

 遠、中、近の三種類。
 
 朝は近。


 もちろん時間の関係。遅刻ギリギリにに出ているということじゃないけど、鈴夏もあたしも余裕が無いってのは嫌だ。
 朝の寄り道とか道草って楽しくないもんね。
 ポストの所で落ち合うと、駅まではまっしぐら。

 でも、帰り道は中とか遠になる。
  
「これ発見した時は嬉しかったね」

 そう言いながら自販機に100円玉を投入。普通なら続いて10円玉を三つ入れなきゃならないんだけど、この自販機は100円ポッキリでいい。
 自販機も大型のが二台並んでいて、どちらも100円均一。
「賞味期限が迫ってるんじゃないかな?」
 最初は、そう思って、缶にプリントされている製造年月日を見たりするんだけど、そんなに古いというわけでもない。
「ま、安いんだからオッケーオッケー」
 深く考えるのはよして、遠回りの帰り道を楽しむ。

 遠回りの道はお屋敷街だ。

 あたしたちは地元民だから、このあたりがお屋敷街だということは知っている。
 中学校までは、あまり立ち入らなかった。
 あたしも鈴夏も下町人間というカテゴリーに入ると思っている。
 スカイツリーができた明くる年、ここいらをうろついたことがあった。

「固定資産税たかそー」

 鈴夏は、掛け始めた眼鏡をクイっと上げて、難しい感想を言った。
 あたしは、どのお屋敷も落ち着いた感じなのが気に入った。なんたって、どの家にも庭とか門がある。ゴルフの練習スペースのある家もあるし、ピアノの音がする家もある。うちの近所でもピアノの音はするけども、このへんは格別だ。なんで格別なのかというと……。
「音源が遠いからよ」
 鈴夏が一発で答える。
 そうなんだ、うちらへんは防音とかで小さな音になっていても壁一枚向こう。どうかすると、ピアノまでの距離は一メートルもないことがある。
 ほどよい隔たりがあると言うのはゆかしいものなんだね。

 ある時、ハナミズキがオシャレに咲いているお屋敷から、とても上手なピアノの音が漏れてきた。

 音楽の良し悪しなんてわからない二人だけど、思わず立ち止まって聞きほれてしまった。
「色が白くて髪の長い女の人だね……」
 鈴夏が言うと、あたしもそんな気がしてきた。
 しばらくすると背中に視線を感じた。
「え……」
 振り返ると、お向かいの勝手口の所でオバサンが、あたしたちを見ていた。うさんくさそーに。
「い、いこ」
 鈴夏の袖をつまんで、その場を離れた。

 ご町内で小学生の泥棒でも入ったんじゃないかと思うくらいの人の目があった。前からあって、あたしたちが気づかないだけだったのかもしれない。それを最後に足を踏み入れなかった。
 そんなお屋敷町、今は平気だ。
 高校に入って、気づいたら足を踏み入れていた。下校途中にペチャクチャ喋っていたら、このお屋敷街だったのだ。

「人の目がしないね」

 そう、人の気配は感じるんだけど棘が無い。
 今は深く考えることも無く、100円自販機につられて散策するようになったんだよね。
「それはね……」
 そう言いかけて、鈴夏は100%果汁を飲み干す。
「ま、いいじゃん」
 自販機の傍にゴミ箱がないので、空の缶を握りながら歩くのでした。
 
 

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高校ライトノベル・新 時かける少女・6〈那覇中央高校〉

2018-02-24 06:39:53 | 時かける少女

新 かける少女・5
〈那覇中央高校〉
 



 沖縄に越してからの一カ月は、あっという間に過ぎた。

 官舎は、今度の南西方面遊撃特化連隊の創設に合わせて作られた新築で、新しいというだけで嬉しくなった。ただ長崎に居るときとは違って、官舎なので他の隊員の人と同じく3LDK。まあ、お父さんは連隊長で、ほとんど石垣島に貼り付きなので、うちの家族は、お母さんと弟の三人家族のようなもの、そう手狭には感じない。

 フェリーでの出来事は、今では夢か現実か分からなくなっていた。運転手さんや助手の宇土さんが変わったのは会社の都合で、いっしょにフェリーに乗っていた他の隊員さんのところでも似たようなものだった。唯一の物理的な証拠であるお守り袋の穴も、官舎に入ったころには塞がっていた。で、忙しさもあって、あたしはほとんど忘れかけていた。

 いや、忘れようとしていた。あたしが総理大臣の隠し子……ぶっとんだ話だけど、心に刺さっている。

 学校は、那覇中央高校への転入になった。

 隊員の家族には、二十人ほどの高校生がいたけど、学力に応じて中央高校と東高校に振り分けられた。他の高校に行った者はいない。中学と小学校、幼稚園は、みんな同じところにいれられた。みんな同じ官舎にいるんだから、当たり前のように思えたけど、セキュリティーの問題があると、高校生ぐらいになると分かっていた。南西方面遊撃特化連隊というのは、それほど日本の安全保障には重要な部隊なんだ。

「ゲ、体重計に目隠しがない!」

 発育測定で、ぶったまげた。今まで行った学校では、発育測定の時は測定する先生の側だけ見えるようになっていて、本人にも周りのクラスメートにも見えないようになっていた。ところが、中央高校では平気で一般公開だ。

「みーかー、また増えてるよ!」
「あーねー変わらんねえ!」
 などとやっている。ちなみに「みーかー」は美加のこと「アーネー」は茜のこと。名前の呼び方が独特。
「へえ、あーいーは50キロ。やっぱヤマトンチューの子はスマートやね!」
 測定の先生までが、平気で言う。でも、小林じゃなく、みんなと同じように「あーいー」と呼ばれるのは嬉しい。

「エリーは、食うとるんか?」

 あたしの次の、比嘉恵里が言われている。恵里は漢字で書くと「恵里」だけど、読みは「エリー」だ。
 他の子が、方言で「みーかー」や「あーねー」になっているようなんじゃなくて、元々の読みがエリーなのだ。いわゆるハーフで、お父さんがアメリカ人。ビックリするほど可愛いんだけど、本人も周りも全然意識していない。で、出席番号が隣りなんで、すぐに仲良しになってしまった。

 ちなみに、エリーは大食いだ。何度も学校の帰りにファストフードの店になんかいくけど、あたしがMのところなら、LとかLLとかを食べている。

「いいねえ、エリーは太らなくて」
「ハハ、お父さんなんか『エリーはフィシーズメーカー』だって言うよ」
「フィ……なにそれ?」
「ウンコ製造機!」
 さすがに、店の人まで笑ったが、あくまでも明るい。本人もハンバーガーを持ったまま大口で笑っている。

 あたしは、この明るさが大好きになった。

 笑いながらお店を出ると、曲がり角からバイクがやってきて、危うく跳ねられそうになった。エリーは一瞬早く気づいて、あたしを抱えて地面を転がった。

「しなさりんど!」

 エリーは、バイクのアンチャンに悪態をついた。アンチャンは一瞬ムッとしたが、直ぐに照れた顔で、こう言った。
「ガチマヤーのエリーには、かなわんね!」
 で、二人は大笑いしておしまい。
「あの、今の翻訳してくれる?」
「あ、『しなりさりんど!』は『シバキ倒すぞ!』で『ガチマヤー』ってのは『大飯食い』てな意味」
 そう説明をうけたころ、周囲はごく当たり前の日常に戻っていた。

 那覇中央高校での生活は、驚きと発見のうちに楽しく始まった。

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高校ライトノベル・イスカ 真説邪気眼電波伝・44「このままやれってか!?」

2018-02-23 14:30:08 | ノベル

イスカ 真説邪気眼電波伝・44

『このままやれってか!?』

 

 

 え……だれ?

 

 野営のテントから出ると、ブスに訝しそうな目で見られた。

 見られただけじゃなくて、レイピアを喉元に突き付けられる。下手に動いたり口走ったりするとグサリとやられる。

「ダレって聞いてるのよ! 人のテントに忍び込んで、なにしてんのよ!?」

「あ、オレだよオレ、ナンシーナンシー!」

「ナンシー? IDを見せなさい!」

「え? ちゃんと頭の上に……あれ?」

 カメラをグリンと回したが、オレの頭の上にIDは見えない。こういうことになってはいけないので、ログインするときにID表示は確認したはずなのに!?

「いっぺん死ねええええ!」

 レイピアがズンと突き出される! からくも避けて万歳をする。半ば威嚇の攻撃だったので躱せたが、次に本気でやられたら死ぬ。なんせバトルスキルはレベル20だ。幻想神殿を始めて二年になるけど、ずっと47層の森で隠遁生活なのだ。それに……今日のオレは、ずっと仕舞い込んでいたサブアバターだ、20の力も無いだろう。

「タンマタンマ、オレだって、ほんとにオレだって!」

 くり出されるレイピアに地面を転げまわる。

 ズチャ! ズチャ! 二度三度耳を掠めて地面を刺突する音、もうダメだと思った瞬間!

「ID表示を迷彩柄にしないでよねー!」

「え、迷彩?」 

 カメラを回すと……確かに森林迷彩柄になっている。これでは木や草を背景にしたら見えなくなる。でも、おかしい、ログインするときに、ちゃんと赤と黄色のネオンカラーに設定したはずなのに?

「ネオンカラーって迷彩のすぐ下だから、間違えた……かな?」

 われながらドジだ。

「でも、なんで、そんなアバターなのよ!? ひょっとしたら、人間に化けたモンスターとか思っちゃうでしょ!」

「え、あ、いや、それが……」

 

 オレは、佐伯さんが幻想神殿を面白がって、アバターをつくって上書きしてしまったことを説明した。

 

「それだったら、また上書きすればいいだけの話でしょ」

 レイピアをクルクル回して鞘に納めながら、なにをくだらない! という感じで言い放った。

「それが、上書きしようとすると、HPもMPもスキルも『初期化されます』のアラームが出るんだよ」

 ネトゲの世界というのはアナーキーなもので、システムの隙間を縫うようにしてアイテムやスキルの盗難が意外にある。寝落ちしたプレイヤーのウインドウを開いて盗む奴とか、ウィルスを仕込んで盗む奴とかが存在するらしい。

 だから、異なったアバター間でのやり取りは制限がかかっている。回数なのか、設定条件なのか、アバターの切り替えなんてやったことが無かったから、よく分からない。しかし、佐伯さんのアバターに上書きできないことは確かなのだ。

「それじゃ、その上書きされたアバターに替えなさいよ。いくらなんでもデフォルトの初期アバターじゃ攻略は無理よ」

「いや、あ、でも女性アバターなんだぜ……ネカマの趣味ねーし」

 

 実は、幻想神殿を始めて間もないころ、パーティーを組んだ中に可愛い女の子が居て、結婚を申し込んだら「アハハ、おれ男だぜ!」と大恥をかいたことがある。

「あ、それが47層で隠遁しちゃった原因?」

「ち、ちがわい!」

「ま、とにかく、それじゃ話にならないから、さっさと替えてきてちょうだい!」

「わ、わーったよ!」

 コンソールウィンドウを開きながらテントの中に戻ろうとした。

「ここでやればいいでしょ」

「そ、それは」

「恥ずかしいんだ。ま、いいや、さっさとやってね、今日は山一つ超えときたいからね」

「の、覗くんじゃねーぞ!」

「だれが覗くか!」

 

 そしてテントに戻って、アバターを替えた。自分の姿を見るのが嫌で、オレは一人称視点にしてテントを出た。

 

――ど、どう?――

 口の形だけでブスに聞いた。

「……………………!」

 目を見張るばかりで声を発しない。

「なー、なんとか言えよ!」

 声を発して驚いた。佐伯さんによく似た女の声だ!?

「ちょっと待て、いま、声の設定変えるから!」

「あーーそのままそのまま! その姿で男の声は犯罪的に気持ち悪いから、じゃ、行くよ!」

「えーー、じゃ、このままやれってか!?」

 数歩先に歩き出していたブスは、回れ右をすると、真面目な顔で寄って来た。

 

「その姿かたちで男っぽいのは、わたしの美意識が許さないの!」

 

 オレは、初めて本気でネトゲを止めようかと思った。

 

 

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