大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 47『風速6ノット!』

2021-11-30 17:10:00 | ノベル2

ら 信長転生記

47『風速6ノット!』  

 

 

 てっきり南の大森林から潜入するものと思っていた。

 

 三国志の長城は大森林と付かず離れずのところを東西にのびている。

 長城にはいくつかの関門があって、人の行き来がある。

 その、人の行き来に紛れて三国志の領内に潜入するのが普通だ。

 

 しかし、ここへきて俄かに関門の警備が厳重になり、なにに化けようと関門からの潜入は不可能という知らせが生徒会からもたらされた。

 ひょっとして偵察隊の派遣は中止か?

 決まったことを覆すのは性分に合わない。しかし、妹の市は、気持ちがいっぱいいっぱいだ。

 昨日、市に詰め寄られた敦子が「ちょっと、あの子ヤバイわよ」とこぼしていた。

 敦子は、あれでも熱田大神の化身。それがヤバイというのだから、とても偵察隊の任務など務まらないだろう。

 市の代わりには織部か武蔵にやらせればいいだろうと思った。

 

 しかし、俺と市の兄妹編成も出発にあたっては変更は無い。

 

 生徒会は、俺たちが紙飛行機に乗って越境を果たすことに変更した。

「間もなく、南風が5ノットを超えます」

 織部が時計と風速計の両方を見ながら神妙に声をあげる。

 決定したのは生徒会だろうが、技術的な立案者は、この御山の南斜面、織部と並んで上昇気流を読んでいる二宮忠八だ。

 二人乗りの紙飛行機が存在しているのは、目の前にそれが見えていても不思議なのだが、忠八は、こう見えても飛行神社の祭神なのだ。神としての力を振り絞れば、これくらいのことはやってしまうのだろう。

 この神業が扶桑に迫った危機感からなのか、市への想いからなのかは分からないが、文字通りこれに乗るしかない。

 ここで中止になれば、世間はどう思う。

 織田兄妹ラッキー! あるいは 織田兄妹命拾い! 妹と共に胸をなでおろす信長! 

 けして進んで引き受けた役目ではないが、そんな人を見下げた同情心などごめん被る。

 たとえ、墜落して命を落とし、再び本能寺の変をやり直すことになろうと、俺はこの道を進む。

「お兄さん」

「俺は、お前の兄ではない」

「す、すみません。信長さん」

「なんだ?」

「こ、これを市さんにお渡しください」

 忠八の手には、飛行神社の朱印が押されたメモ帳のようなものが載っている。

「メモ帳か?」

「いえ、飛行神社のお御籤用の紙片を閉じたものです」

「いよいよ神頼みなのか(-_-;)?」

「いえ、偵察の報告とか……なにかお困りのことが起きましたら……」

「どこかの神社の木の枝に結んでおけか?」

「いえ……紙飛行機にして飛ばしてもらったら、ぼくのところに飛んできます」

「そうなのか?」

「はい、いちおうは……」

「そうか、おまえも、いちおうは神さまであるか」

「ハ、ハヒ(;'∀')」

 どれだけ役に立つのかは分からないが、こいつは掛け値なしの善意なのだろう。

「うん」

 頷いて妹に渡してやる。

「なに!?」

「尖がるな、忠八からの心遣いだ」

「う、うん」

 市もいっぱいいっぱいなんだろう、怒ったような顔を向けておしまい。

 それでも通じたようで、忠八は頬っぺたを真っ赤にして頭を掻いた。

 

「風速6ノット!」

 織部が叫ぶ。

 

「いくか」

「お、おう」

 兄妹二人して、紙飛行機に跨る。

 手をかしてやると、市の手は異様に冷たい。緊張が頂点に達しているんだ。

「信玄! 謙信! 頼んだぞ!」

「おお!」

「任せておけ!」

 手を挙げた二人の鞍にはロープが繋がれて、この紙飛行機に繋がっている。

「コンタークト!」

 三成が懐中電灯を左右に振って、噛まされていたチョーク(車止め)が外される。

「発進!」

 その一言だけが仕事の今川生徒会長が号令をかけ、後ろで控えていた乙女生徒会長と利休が機嫌よく手を振って、見送りに来ていた学院と学園の生徒たちが、それに倣う。

 ハッ!!

 信信コンビが馬に鞭を当てる。

 ビン!

 一瞬の唸りを上げると、紙飛行機はグンと機首を上げて、夕闇迫る扶桑の空に舞い上がった!

「パージ」

 声を掛けると、コクンと頷いてレバーを引く市。牽引ロープが蛇のように落ちていく。

 

 グウーーーーーン

 

 さらに勢いを増して、紙飛行機は大森林の向こうに垣間見える三国志の長城を目指した。

 

☆ 主な登場人物

  •  織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
  •  熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  •  織田 市        信長の妹
  •  平手 美姫       信長のクラス担任
  •  武田 信玄       同級生
  •  上杉 謙信       同級生
  •  古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  •  宮本 武蔵       孤高の剣聖
  •  二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  •  今川 義元       学院生徒会長 
  •  坂本 乙女       学園生徒会長 
  •  

  

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ライトノベルベスト〔左足の裏が痒い……〕

2021-11-30 05:43:14 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト 

 
 左足の裏が痒い……〕   




 

 左足の裏が痒くて目が覚めた。

 覚めたと言っても、頭は半分寝ている。無意識に膝を曲げて手を伸ばす。

 掻こうと思った左足の裏は、膝から下ごと無くなっていた。

「あ、まただ……」

 そう呟いて、あたしは再びまどろんだ……。

 目覚ましが鳴って、本格的に目が覚める。

 お布団をけ飛ばして、最初にするのは、パジャマの下だけ脱いで左足の義足を付けること。

 少し動かしてみて、筋電センサーがきちんと機能しているのを確かめる。

―― よし、感度良好 ――

 そして、再びパジャマの下を穿いて、お手洗いと洗顔、歯磨き。

 それから部屋に戻って、制服に着替える。そして、念入りにブラッシング……したいとこだけど、時間がないので手櫛で二三回。自慢じゃないけど髪質がいいので、特にトリートメントしなくても、まあまあ、これで決まる。

 むろん、セミロングのままにしておくのなら、これでは気が済まない。きゅっとひっつめてゴムで束ねた後、紺碧に白い紙ヒコーキをあしらったシュシュをかける。

 

 これで、標準的なフェリペ女学院の生徒の出来上がり。

 お父さんが出かける気配がして苦笑、直ぐにお母さんの声。

「早くしなさい、遅刻するわよ!」

 遅刻なんかしたことないけど、お母さんの決まり文句。あたしと声が似ているのもシャクに障る。

「はーい、いまいくとこ!」

 ちょっと反抗的な感じで言ってしまう。実際ダイニングに降りようとしていたんだから。

 お父さんが、ほんの少し前まで居た気配。お父さんの席に折りたたんだ新聞が置いてある。

「まだ、そこに新聞置くクセ治らないのね」

「え……」

 洗濯物を、洗濯機に入れながらお母さん。

「そういうあたしも、お父さんが出かける気配がするんだけどね」

 と言いながら、ホットミルクでトーストとスクランブルエッグを流し込む。

「また、そんな食べ方して。少しは女の子らしく……」

「していたら、本当に遅刻しちゃう」

「それなら、もう五分早起きしなさい!」

「こういう朝のドタバタが、年頃の女の子らしいんじゃん」

「もう、減らず口を……」

「言ってるうちが花なの。ねえ、一度トーストくわえたまま、駅まで走ってみようか!?」

「なにそれ?」

「よくテレビドラマとかでやってんじゃん。現実には、そんな人見たことないけど」

 これだけの会話の間に食事を済ませ、トイレに直行。入れてから出す。健康のリズム。

 消臭剤では消しきれなかったお父さんのニオイがしない。ガキンチョの頃から嗅ぎ慣れたニオイ。

 

 これで、現実を思い知る。

 

 お父さんは、もういない……三か月前の事故で、お父さんは、あたしを庇って死んでしまった。

 あたしは、左足の膝から下を失った。

 最近、ようやくトイレで泣かなくなった。

「よし、大丈夫」

 本当は学校で禁止されてんだけど、セミグロスのリップ付けて出発準備OK!

「いってきまーす!」

「ちゃんと前向いて歩くのよ、せっかく助かった命なんだから」

 少しトゲのある言い方でお母さん。

 あのスガタカタチでパートに出かける。あたしによく似たハイティーンのボディで。

 あの事故で、お母さんはかろうじて脳だけが無事で、全身、義体に入れ替わった。オペレーターが入力ミスをして、お母さんの義体は十八歳。

 一応文句は言ったけど、本人は気に入っている。区別のため、お母さんはボブにしているけど、時々街中で、友だちに、あたしと間違われる。

 駅のホームに立つと、急ぎ足できたせいか、また左足の裏がむず痒くなる。

 この義足は、保険の汎用品なので、痒みは感じないはずなんだけど……。

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泉希 ラプソディー・3〈泉希着々と〉

2021-11-30 05:23:47 | 小説6

ラプソディー・03
〈泉希着々と〉    



「泉希ちゃん、このお金……」

 嫁の佐江が、やっと口を開いた。

「はい、お父さんの遺産です」
 
「こ、こんなにあるのなら、もう一度遺産分けの話しなきゃならないだろ、母さん!」

 亮太が色を成した。

「あ、ああ、そうだよ。遺産は妻と子で折半。子供は人数で頭割りのはずだわよ!」

「そうだそうだ」

「アハハハ」

「な、なにがおかしいの!?」

「だって、お父さんの子どもだって認めてくれたんですよね!?」

「「あ……」」

 5000万円の現金を目の前に、泉希をあっさり亮の実子であることを認めるハメになってしまった。

 そして。

「残念ですけど、これは全てあたしのお金です」

「だって、法律じゃ……」

「お父さんは、宝くじでこれをくれたんです。これが当選証書です。当選の日付は8月30日。お父さんが亡くなって二週間後です。だから、あたしのです。嘘だと思ったらネットで調べても、弁護士さんに聞いてもらってもいいですよ(^▽^)」

 亮太がパソコンで調べてみたが、当選番号にも間違いはなく、法的にも、それは泉希のものであった。

 

 泉希は、亮太が結婚するまで使っていた三階の6畳を使うことにした。机やベッドは亮太のがそのまま残っていたのでそのまま使うことにした。足りないものは三日ほどで泉希が自分で揃えた。

 

「お母さん。あたし学校に行かなきゃ」

「今まで行っていた学校は?」

「遠いので辞めました。編入試験受けて別の学校にいかなきゃ!」

 泉希は三日で編入できる学校を見つけ、さっさと編入試験を受けた。

 

「申し分ありません。泉希さんは、これまでの編入試験で最高の点数でした。明後日で中間テストも終わるから、来週からでも来てください」

 都立谷町高校の教務主任はニコニコと言ってくれ、担任の御手洗先生に引き渡した。

「御手洗先生って、ひょっとして、元子爵家の御手洗さんじゃありませんか?」

 御手洗素子先生は驚いた。

 初対面で「みたらい」と正確に読めるものもめったにいないのに、元子爵家であることなど、自分でも忘れかけていた。

「よく、そんなこと知ってたわね!?」

「先生のお歳で「子」のつく名前は珍しいです。元皇族や華族の方は、今でも「子」を付けられることが多いですから。それに、曾祖母が御手洗子爵家で女中をしていました」

「まあ、そうだったの、奇遇ね!」

 付き添いの今日子は、自分でも知らない義祖母のことを知っているだけでも驚いたが、物おじせずに、すぐに人間関係をつくってしまう泉希に驚いた。

 泉希は一週間ほどで、4メートルの私道を挟んだ町会の大人たちの大半と親しくなった。

 

 6人ほどいる子供たちとは、少し時間がかかった。今の子は、たとえ隣同士でも高校生になって越してきた者を容易には受け入れない。で、6人の子供たちも、それぞれに孤立してもいた。

 町内で一番年かさで問題児だったのは、四軒となりの稲田瑞穂だった。

 泉希は、平仮名にしたら一字違いで、歳も同じ瑞穂に親近感を持ったが、越してきたあくる朝にぶつかっていた。

 

 早朝の4時半ぐらいに、原チャの爆音で目が覚め、玄関の前に出てみると、この瑞穂と目が合った。

 

「なんだ、てめえは?」

「あたし、雫石泉希。ここの娘よ」

「ん、そんなのいたっけ?」

「別居してた。昨日ここに越してきたんだよ」

「じゃ、あの玉無し亮太の妹か。あんたに玉がないのはあたりまえだけどね」

「もうちょっと期待したんだけどな、名前も似てるし。原チャにフルフェイスのメットてダサくね?」

「なんだと!?」

「大声ださないの、ご近所は、まだ寝てらっしゃるんだから」

「るっせえんだよ!」

 ブン!

 出したパンチは虚しく空を打ち、瑞穂はたたらを踏んで跪くようにしゃがみこんでしまった。

「初対面でその挨拶はないでしょ。それに今の格好って、瑞穂があたしに土下座してるみたいに見えるわよ」

 カシャ

「テヘ、撮っちゃった(^ν^)」

「て、てめえ……(╬•᷅д•᷄╬)」

「女の子らしくし……っても、瑞穂は口で分かる相手じゃないみたいだから、腕でカタつけよっか。準備期間あげるわ。十日後、そこの三角公園で。玉無し同士だけどタイマンね、小細工はなし」

「なんで十日も先なのさ!?」

「だって、学校あるでしょ。それに、今のパンチじゃ、あたしには届かない。少しは稽古しとくことね」

 そこに新聞配達のオジサンが来て「おはようございます」と言ってるうちに瑞穂の姿は消えてしまった。

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せやさかい・262『ソフィアの休暇をめぐって』

2021-11-29 15:04:46 | ノベル

・262

『ソフィアの休暇をめぐって』       

 

 

 ☆ 頼子

 フェニーチェ堺『ゴルゴ13×堺』、わたしが行くわけには行かない。

 そうでしょ、わたしが行ったんじゃ、ソフィアの休暇にならない。

 たとえお忍びで行っても、ヤマセンブルグ諜報部員であり、魔法使いの末裔であるソフィアにはバレてしまう。

 バレてしまえば、真面目なソフィアは自主的に休暇なんて中止して、いつもの王女様(まだ正式じゃないんだけど)のガードに戻ってしまう。

 だけど、放っておけば、ゴルゴ13にドップリ浸かってしまって、ますます、堅物のガードになってしまう。

 ただでも、ソフィアは諜報部いちばんの堅物ガード。

 わたしより一個年上と言っても18歳。

 ルックスもスタイルも気立てもいい。そんな華の18歳が女ゴルゴになってしまうって、とっても残念だし残酷なことだと思う。思うでしょ?

 そんな女ゴルゴに始終警護されていたら、こっちの……いえいえ、あくまでも、ソフィアのためなのよ!

 ジョン・スミスと悩んでいたら、さすがにベテラン諜報部員。

 名案を思い付いてくれて、思わず膝を叩いたわたしは、さっそくわたしは愛すべき後輩に電話したのよ!

 

 ☆ さくら

 テイ兄ちゃんの車でフェニーチェ堺に来てる。

 頼子さんの勧めで『ゴルゴ13×堺』を詩(ことは)ちゃん、留美ちゃんといっしょに観に来てるわけです。

 テイ兄ちゃんは、てっきり頼子さんも来るもんやと思て「よし、連れてったろ!」と胸を叩いた。

 頼子さんはこーへんよ。

 言うたら、露骨に落胆してたけど、いったん「よし、連れてったろ!」と胸を叩いた手前いややとは言われへん。

 いつものように、テイ兄ちゃんは、うちら送った後に檀家周りして、時間になったら拾いに戻って来る。

 頼子さん来るんやったら、檀家周りの一つや二つおっちゃんに回したやろけどね。

「ゴルゴ13にもお宝的場面とかがあるんですね!」

 頼子さんの話を聞いて、留美ちゃんは目を輝かせてる。

「うん、文学的にも貴重な発見になるかも!」

 詩ちゃんは、マンガや劇画も文学の一つという感覚があって、文学的には『ゆるみ』に繋がるものがあると言って、これまた期待してる。

 本音のとこはね「そらええこっちゃ!」とお祖父ちゃんとおっちゃんが、それぞれ諭吉を奮発してくれたこと。

「なんか美味しいもんでも食べといで」

 コロナの規制もようやく解けて来たんで、孫や娘にも羽を伸ばしてやりたいという気持ちと、ちょっとでも堺の街を元気にしたいという地元民らしい心から。

「す、すごい!」

 入っただけで詩ちゃんが大感動を発してしまった!

 留美ちゃんも同じ、それ以上に感動してるねんけど、留美ちゃんは感動のあまり声も出えへん。

 入ったとこに畳六畳はあるくらいの看板があって、ゴルゴ13のでっかい顔と生原稿!

 すごいすごいと思てると「パネルの前なら写真撮れますよ」と言うてくれるんで、そんなら!

 スマホを預けて十枚くらい写真を撮ってもらう。

「うわあ」

 今度は、うちが声をあげる。

 モデルガンやねんやろけど、ゴルゴ13が使ってたライフルやらピストルがズラリ。

 う、撃ってみたい(# ゚д゚ #)!

「ちょっと、さくら」

「目が怖い」

 二人にビビられる。

「「うわあ(#꒪ꇴ꒪#)」」

 今度は二人が感動。

 ゴルゴ13のバックナンバーが全部揃てる!

 同じ文芸部でも、あたしは『ニワカ』とか『ライト』の人間。

 そこいくと、留美ちゃんも詩ちゃんも『ガチ』ですわ。

 目の輝きが違う。

「これ、読んだら何年かかるんだろ……」

「麻生さんは全部読んだらしいよ……」

「え、麻生さんて?」

「財務大臣やってたひと……」

「へえ、そう……」

 言いながら分かってません。こっそりスマホで調べたら――え、このお爺ちゃん!?――という感じ。

 安倍さんが総理やったころ、いつも横に居った人相の悪い爺さん。

 留美ちゃんも詩ちゃんも、うちとはアンテナが違う。次々に展示物を見ては感動の声をあげていく。

「へえ、ゴルゴ13て、デューク・東郷っていうんや」

 パネルを見て感動してると、二人が付け加えてくれる。

「それって、中学の時の先生の名前なんだよ」

「え、ゴルゴ13の?」

「違うわよ、さいとうたかおの先生!」

「さいとうたかおは、いつもテストを白紙で出すんだけどね」

「そうなん!?」

 うちはせえへん、いちおう、なんか書く。まぐれで当たることもあるさかいね。

「すると、先生が『白紙で出すのは勝手だが、おまえの責任で出すんだろ、名前ぐらい書け』って言ったのよ」

「そう、それで、さいとう・たかおは感動して、名前を書くようになったのよ!」

「それで、尊敬の意味も込めて、ゴルゴ13に『東郷』って苗字をつけたんだって!」

 二人ともすごいよ(^_^;)。

「でも、ゴルゴ13がデレてるのって、どれに載ってるんだろうねえ」

「デレじゃないです、リラックスです!」

 なんか、すごい。

 すると、それを聞いてたんか、数人の視線を感じる。

「「あ、それなら」」

 目が合った二人のニイチャンから声がかかる。

「SPコミックス第78巻収録のがあります!」

「『夜は消えず』で、リラックスして小鳥の鳴き声を愛でてるのが有名!」

「そうそう、物音で思わず拳銃に手がいくんだけど、小鳥と気づいて自分で笑っちゃう的な……」

「他にも、46巻の『PRIVATE TIME』とか……」

「126巻の、その名も『HAPPY END』とか」

「そうそう、146巻の『いにしえの法に拠りて』とか」

「あとは……」

 いや、この人らもすごいわ(^_^;)……と、感心してたら、いつの間にか人の輪ができて(みんな男)楽しくゴルゴ談議になる。

 まあ、半分は詩ちゃんと留美ちゃん目当て。

 うちが騒いでても、こんなには集まれへんかったやろね( ≖ଳ≖)、いや、ほんま。

 

☆ ソフィア 

 あこがれのゴルゴ13! デューク・東郷! 

 初めて見たのはヤマセンブルク王立諜報アカデミーだった。初級諜報活動の訓練で、各国外務省や諜報機関の情報分析を習っている時に日本の外務省のHPの分析をやっていたら、ゴルゴ13が目に入った。

 男らしくクールな表情で、海外渡航者への注意喚起をしていた。

 何事にも動ぜず、冷静に事態を把握して任務を遂行する姿は007の比ではない。

 それから、少しずつ本編とも言うべきコミックも多忙な訓練の合間を見つけては読むようにした。

 しかし、わたしは女王陛下の諜報部員、特定のものに興味を持っていることは、たとえフィクションの世界だとはいえ人に悟られるわけにはいかない。

 すぐれた諜報部員や諜報機関なら、相手の嗜好から行動のパターンや傾向を読んでしまうからだ。

 だから、ブラフとしての趣味は持つことがあったけど、心から心酔しているゴルゴ13のことを人に悟られることは無かった。

 しかし、ヨリコ王女は別だ。

 わたしは、まだ18だけれど、ヤマセンブルグの次代を担うヨリコ王女に全てを捧げている。

 ゆくゆくは女王になられるであろう殿下に全てを捧げ、影ながら股肱之臣として殿下をお支えしていく所存。

 そのために、殿下には全てを……ダメだ、肩に力が入り過ぎている。

 今日は、有意義に心行くまでゴルゴ13の世界に潜り込むのだ。そのために、これまで自分に禁じていた休暇をとったのだから……。

 深呼吸して、もう一度展示物を見直す。

 日ごろの任務があるので、なかなかゴルゴ13を全巻読破することができていない。

 全巻読むのは、読めるのは……そう、殿下が女王に即位され、しかるべきところから伴侶を迎えられ、やがてお二人の間に次代を担う、王子か王女がお生まれになり、その王子、王女に新しくガードが着く頃だろうか。

 それまでは、ひたすら任務第一に……ん?

 

 さっき見て回ったコーナーが賑やかだ。

 

 ギャラリーに移動すると、下に見えるコーナーが窺える。常人には見えないだろうが、非常に生産的な熱気が立ち込めているのがビジョンとして見える。おそらくは、たいそうなゴルゴファンがゴルゴのあれこれで盛り上がっているんだ。微笑ましくも羨ましい。

 あれは?

 見れば、殿下の後輩である酒井さくら、榊原留美、それに、さくらの従姉の酒井詩。

 熱気がビジョンになってくる。

 まだまだ修行中だけど、わたしには人の関心や心に浮かんだイメージを感じる力がある。

 わざと視線を外して、立ち上って来る気に集中する。

 

 これは……わたしの知らないゴルゴ13、デューク・東郷の姿だ。

 小鳥を愛で……プールサイドで陽を浴びて……山小屋のチェストにくつろいで……こんなゴルゴ13もあったんだ。

 小鳥の身じろぎに思わず銃に手をかけてしまった自分い苦笑している……そして、前にも増したリラックスにの中に身をゆだねて……わたしの知っているそれとは違うゴルゴ13。

 い、いけない、うっかり、さくらと目が合うところだった(;'∀')。

 まだ衝撃でしかないけれど、新しいゴルゴ13のイメージを反芻しながら、フェニーチェ堺を後にするわたしだった。

 

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ライトノベルベスト『桜の花が満開になるまで』

2021-11-29 05:43:54 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト 

 
桜の花が満開になるまで』    




 近鉄山本駅を降りると四十年前と変わらない風景があった。

 よく見ると、駅近くの神社の玉垣が新しくなったり、舗装がしっかりしたものになっていたが、駅の構造、近辺の風景は、ほぼ昔のままである。

 ひょいと振り返ると、今東光が名付け親になった散髪屋も、そのままの屋号で残っていて、今にも散髪屋のオバチャンが出てきそうであった。

 首を元に戻し、十歩ほど歩くと玉串川。

 川幅四メートルにもならない小川であるが、川筋の桜並木は見事で、兵藤はもう一カ月も遅ければ見頃の桜……と、思ったが、直ぐに頭で打ち消した。

 なにも、これが最後というわけでもあるまいに……。

 毎日、この道を母校のY高校まで通った。もう大昔の話だ。

 最後に、ここを通ったのは、教育実習の二週間だった。

 それからもう四十年になる。

 現役の高校生のころ、この玉串川沿いに歩いていくと、三百メートルほどで英子が西の道から出てくるのにいっしょになった。

 特段何を話すということもなかったが、ほとんど毎朝、ここで「お早う」と声を掛け合うところから、学校の一日が始まった。

 意識していたのかどうかは分からないが、兵藤は三年間同じ時間の準急に乗っていた。英子は、朝の連ドラのテーマ曲が始まると家を出る。

 それで判を押したように、二人は、そこの辻で一緒になり三年間通った。そして偶然だが、三年間同じクラスであった。半期だったが生徒会の役員をいっしょにしたこともあった。

 が、特別に意識はしなかった。いや、意識はあったんだろうが、気が付かなかった。それほど当たり前の関係で、気が付いたのは、卒業して、この当たり前が無くなった時であった。

 英子はD大学の国文科に、兵藤はK大学の医学部に進んだ。

 そして、三年ちょっとたった時、教育実習で二週間同じ道を通った。そして、その二週間で、お互いが、当たり前の存在ではないことに気づいた。

「兵藤さん」


 口から心臓が飛び出しそうになった。あのころの英子が、そのまま、その辻から出てきた。

 

「兵藤さんでしょ?」

「あ、ああ……そうです」

 間の抜けた返事になってしまった。

「あたし、こういう勘はええんです。それに兵藤さん写真のまんまでしたし」

 一瞬どの写真か頭が混乱したが、目の前の英子については整理がついた。この子は孫娘の一美だ。同じY高の制服で、同じようなポニーテール。混乱して当たり前だ。兵藤は正直に、そのことを一美に言った。

「別に兵藤さんのこと威かすつもりやないんですよ。学校から帰ってきたら、そのまま兵藤さんのこと迎えに行け言われたもんですから……アハハ、ごめんなさいね。思たことが直ぐに口に出てしもて」

 兵藤は、英子の家を知らない。知っているのは、あの辻を曲がってからの英子だけだ。なんだか、この鈴のように陽気な一美が、英子の本性のような気がしてきた。

「お婆ちゃんには内緒なんですけど、兵藤さんの手紙が、ぎょうさんでてきたんです」

「え……あの手紙、残ってたん!?」

「大婆ちゃんが、どないしょ言うて、お母さんに見せたんです……ありがとうございます。お婆ちゃんのこと愛してくれてはったんですね」

 一美が拳で目を拭った。英子の状態が察せられた。

「兵藤君……わざわざ、ありがとう」

 やせ細った顔で、英子が言った。精神科ではあるが、医者ではあるので、英子の重篤さが辛いほど分かった。

「一美見てびっくりした?」

「うん、心臓が一個止まってしもた」

「兵藤君の心臓は二つあるのん?」

「ああ、悪魔の心臓と天使の心臓と」

「止まったん、どっち?」

「それは、業務上の秘密」

 重篤とは思えない明るさで、英子が笑った。その足許で英子そっくりな一美が笑っている。兵藤は不思議な幸福を感じた。

「あの時は、金蘭の付き合いで行こて、兵藤君わからへんかったでしょ?」

「うん、国文らしい単語でやんわり断られたと思た。帰ってから辞書ひいて、ちょっと分かった」

「どないに?」

「親密な交わり、非常に篤い友情……やっぱりNGやと思た」

「急にプロポーズするんやもん。あたしもネンネやったし、急にあんな言葉しか出てけえへんかった」

「せやけど、あの電話は堪えたわ『好きやったら、なんで、もっとしっかり掴まえといてくれへんかったん』」

「そうやよ、半年もほっとくんやもん……」

「せやけど、その結果、こんな一美ちゃんみたいな、ええ子がおるんやろ?」

「ほんまや。お婆ちゃんがが兵藤さんと結婚してたら、うち生まれてへん。兵藤さん、お婆ちゃんフッてくれてありがとうございました!」

 一美の言葉で、病床とは思えない笑いの花が咲いた。

 それから一か月。

 

「兵藤さん、ほんまごめんなさいね。この通りです」

 英子の母が、仏壇の前で、折りたたむように頭を下げた。

「お母さん、手ぇ上げてください。お母さんの選択は正しかったんですよ」

「あんたさんの手紙を隠したばっかりに、英子は主人にも上の娘にも先立たれて、自分も、こんな骨壺に収まってしもてからに……ほんまにバチあたったんですわ」

 兵藤は、英子の「好きやったら……」の電話に「何十通も手紙を出した」とは言わずに、ただ無言で通した。すでに、英子の気持ちが自分から離れ、おそらく新しい恋人ができていると察したから。

「お母さん、それよりも一美ちゃんです。この歳で母親に逝かれて、相当まいってるはずです。週一回寄せてもろて、カウンセリングやらせてもらいます。僕が英子にしてやれることは、これくらいですけど、前向いてやっていきましょ」

 虚空を見つめている一美に、まず明るさをとりもどしてやることだと、兵藤はおもった。

 玉串川の桜は満開になっていた……。

 

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泉希 ラプソディー・2〈泉希って……!?〉

2021-11-29 05:19:08 | 小説6

ラプソディー・02
〈泉希って……!?〉    




 泉希(みずき)は、よく似合ったボブカットで微笑みながら、とんでもないものを座卓の上に出した。

「戸籍謄本……なに、これ?」

 今日子は当惑げに、それを見るだけで手に取ろうとはしなかった。

「どうか、見てください」

 泉希は軽くそれを今日子の方に進めた。今日子は仕方なく、それを開いてみた。

「え……なに、これえ!?」

 今日子は、同じ言葉を二度吐いたが、二度目の言葉は心臓が口から出てきそうだった。

  雫石泉希   父 雫石亮  母 長峰篤子

 え……?

 亮の僅かな遺産を整理するときに戸籍謄本は取り寄せたが、子の欄は「子 雫石亮太」とだけあって、婚姻により除籍と斜線がひかれていただけだった。ところが、泉希の持ってきたそれには泉希が俗にいう婚外子であることを示す記述がある。同姓同名かと思ったが、亮に関する記述は自分が取り寄せた戸籍謄本と同じ。

「これは、偽物よ!」

 今日子は、慌てて葬儀や相続に関わる書類をひっかきまわした。

「見てよ。あなたのことなんか、どこにも書いてないわ!」

 泉希は覗きこむように見て、うららかに言った。

「日付が違います、わたしのは昨日の日付です。備考も見ていただけます?」

 備考には、本人申し立てにより10月11日入籍。とあった。

「こんなの、あたし知らないわよ」

「でも事実なんだから仕方ありません。これ家庭裁判所の裁定と、担当弁護士の添え状です」

「ちょ、ちょっと待って……」

 今日子は、家裁と弁護士に電話したが、電話では相手にしてもらえず、身分を証明できる免許証とパスポートを持って出かけた。

 泉希は、白のワンピースに着替えて、向こう三軒両隣に挨拶しにまわった。

 

「わけあって、今日から雫石のお家のご厄介になる泉希と申します。不束者ですが、よろしくお付き合いくださいませ」

 お向かいの巽さんのオバチャンなど、泉希の面差しに亮に似たものを見て了解してくれた。

「うんうん。その顔見たら事情は分かるわよ。なんでも困ったことがあったら、オバチャンに相談しな!」

 そう言って、手を握ってくれた。その暖かさに、泉希は思わず涙ぐんでしまった。

 今日子が夕方戻ってみると、亮が死んでからほったらかしになっていた玄関の庇のトユが直されていた。庇下の自転車もピカピカになっている……だけじゃなく、カーポートの隅にはびこっていたゴミや雑草もきれいになくなっていた。

「奥さん、事情はいろいろあるんだろうけど、泉希ちゃん大事にしてあげてね」

 と、巽のオバチャンに小声で言われた。

「お兄さん、お初にお目にかかります。妹の泉希です。そちらがお義姉さんの佐江さんですね、どうぞよろしくお願いいたします」

 

 夜になってからやってきた亮太夫婦にも、緊張しながらも精一杯の親しみを込めて挨拶した。

 なんといっても父である亮がいない今、唯一血のつながった肉親である。亮太夫婦は不得要領な笑顔を返しただけであった。

 母から急に腹違いの妹が現れたと言われて、内心は母の今日子以上に不安である。僅かとはいえ父の遺産の半分をもらって、それは、とうにマンションの早期返済いにあてて一銭も残っていないのである。ここで半分よこせと言われても困る。

「わたしは、ここしか身寄りがないんです。お願いします、ここに置いてください。お金ならあります。お父さんが生前に残してくれました。とりあえず当座にお世話になる分……お母さん……そう呼んでいいですか?」

 今日子は無言で、泉希が差し出した通帳を見た。

 たまげた。

 通帳には5の下に0が7つも付いていた。5千万であることが分かるのに一分近くかかった。

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魔法少女マヂカ・247『大連大武闘会 薫子(霧子)危機一髪!』

2021-11-28 14:40:33 | 小説

魔法少女マヂカ・247

『大連大武闘会 薫子(霧子)危機一髪!語り手:霧子 

 

 

 グオオオオオオオオオ!

 

 猛獣のように叫びながら大上段に打ちかかってきた!

 身を沈め左に避けながらラスプーチンの胴を抜こうと思った。

 なに!?

 打ちかかってきた太刀筋が傾斜したかと思うと、逆にわたしの胴を抜きにかかってきた!?

 ジャキイイイイイイン!

 からくも撃ち合わせて火花が散る。

 交差して、リングの端まで踏み込んで身を躱す。

 ビュン!

 頭上で空気を裂く音がして、自分の髪が数本目の前に散る。

 ラスプーチンが構えた時に判断したそれよりも一尺近く太刀先が前に出ている。鋼の太刀が伸びるはずもなく、それは、二メートルは超えようかという身の丈ながら、奴の動きは俊敏で、予想の外に太刀が届いてしまっているということ。

 大柄な相手には、懐に飛び込んで、太刀さばきの間に合わない至近から攻めるのが定石なんだけど、大男に似あわぬ俊敏さで構えを変えて仕掛けてくる。

 トオオオオオオオ!

 考えていては隙を突かれる。

 効果のほどなど考えずに、打ちかかり切りかかりして、ラスプーチンの構えと太刀さばきを観察する。

 ジャキイイイイイイン!

 ガシ! ガシ!

 チュリイイイイン!

 トオオオオオオオ!

 オリャアアアア!

 ジャキイイイイイイン!

 五合打ち合わせて分かった。

 奴の太刀は力任せで速いだけかと思ったら、牛若丸を思わせるほどに敏捷で変幻自在なのだ!

 あまりに速いので、目に留まるのは構えた瞬間と、構えの動作が終わった刹那だけだ。

 わたしも高坂流の免許皆伝、構えの後先を見れば、その間の動きは推測できる。

 奴の立ち合いはデタラメではない、柳生流や北辰一刀流の動きが混ざって、剣技の上でも油断がならない。

 セイ!

 オリャア!

 だめだ、総合的な腕は互角……いや、あと五分も撃ち合えば、奴の隙も見えてくるんだろうけど、こちらの体力が持たない。

「そろそろ決めるぞ……」

 こいつ、全て吞み込んでいる。

 わたしの動きも思考も、疲れた隙を狙って一気に攻め立ててくる。

 ウオオオオオオオオオ!

 ガシ! ガシ! ガシガシガシ! ガシガシガシガシガシガシガシガシガシ!

 くそ! もう持たない……!

 

 させるかアアアア!!

 

 え?

 

 懐かしい声が聞こえたかと思うと、ラスプーチンはリングの端まで跳んで行った。

 目の前の二つの背中は……

「マヂカ! ブリンダ!」

「待たせたわね、こいつの罠にひっかかって、抜け出すのに時間がかかった」

「しかし、オレとマヂカに抜けない罠なんかないのさ」

「恐れ入ったか!?」

「「ラスプーチン!」」

「ありがとう……わたしも負けてないからね!」

「ここからは、もう試合じゃない! ユーラシア大陸一番の悪党、親玉ラスプーチン退治だ!」

 ジャキン!

 三人揃って得物を構えると、ラスプーチンも口を結んで太刀を正眼に構える。

「気を付けて! なにか企んでるよ!」

 孫悟嬢の声が響いて、他の選手や観衆は水を打ったような静けさの中に息を飲んでいる。

 何を企んでいるにせよ、ここまでだ……そんなオーラが友人二人の背中から陽炎のように立ち上っている。

「「「トオオオオオオオ!!!」」」

 声が揃って、三人一斉に打ち込む!

 ラスプーチンも刹那に構えを変える!

 

 ドゲシ!!!

 

 三人の気迫と呼吸が一瞬早く、三発の打撃・斬撃・突撃が同時に炸裂した!

 

 …………ドウ

 

 数瞬の間を置いて、雷に打たれた深山の巨木ようにラスプーチンはリングに沈んだ。

 

「ありがとう、マヂカ、ブリンダ、危ないところだった(;゚Д゚)」

「ああ……」

 ブリンダの後をマヂカが続けようとして、異変が起こった。

 ええええ……《゚Д゚》(°д°)(꒪ꇴ꒪|||)(⚙♊⚙ノ)(◎o◎)(°д°)(꒪ꇴ꒪|||)(⚙♊⚙ノ)(◎o◎)!?

 観衆から形容の仕様のないどよめきが湧き上がり、孫悟嬢が手下たちとともに、しきりにリングを指さしている。

  

 カサ……カサカサ……ガサガサガサ

 

 ラスプーチンの体が、体の表面が瘡蓋のように儚くなったかと思うと、リングの上を流れた微かな風に吹き飛ばされ、別のものが生まれてきた。

 それは、ラスプーチンよりはわずかに低いが、その分かっちりした体に将軍のような軍服を着て、鼻の下にはブラシを思わせるような髭を蓄えている。

「ありがとう諸君。ラスプーチンの殻は自分一人では破れないものでね、おかげで無事に衣替えが済んだ……しかし、この大連大武闘会優勝は高坂霧子、いや、薫子の名乗りであったか、君の上に栄冠は輝くよ!」

「危ない!」

 マヂカとブリンダが庇ってくれ、周囲が暴力的な光に満ちた!

 気が付くと、リングの上に奴の姿は無かった。

 

 二人が教えてくれた、奴の新しい姿は、ヨシフ・スターリンという名前だった。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査
  • 孫悟嬢        中国一の魔法少女

 

 

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ライトノベルベスト[女子高生ラノベ作家軽子]

2021-11-28 05:53:59 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト 

 
『女子高生ラノベ作家軽子  




 軽子はこんな子だった。

 保育所の頃から人にお話しして、笑ってもらったり、驚いてもらったり、感動してもらうことが好きだった。

 でも、そんなに笑える話や、驚ける話、感動できる話が転がっているはずはなく、無意識のうちに話を作ってしまっていた。

 これで、話が詰まらなければ、人から「ウソつき少女」「オオカミ少女」「千三つ少女」などとバカにされていたはずである。

 だが軽子の話はおもしろい。

「キリンさんてかわいそうだね……」

 動物園に行ったとき、キリンの柵の前で涙を浮かべていた。

「軽子ちゃん、どうかした?」

 先生が聞くと、こう答えた。

「キリンさんはね、ふる里に残してきたお友だちや家族が恋しいんだよ。だから、あんなに首を長くしてふる里のことを思ってるの。でも叶わない願いだから、キリンさんは、一言も口を利かないで辛抱してるんだよ。キリンさんかわいそう……」

 そう想像すると、軽子の頭の中では本当になってしまい、一人涙を流してしまうのだった。

「でもさ、アフリカにいるキリンさんだって、首が長いよ」

 先生が頭を撫でながら、そう慰めてくれると、こう答えた。

「そりゃ当り前よ。みんな動物園に送られた仲間や、子供のことを思っているんだから」

 と、こんな調子であった。

 大きくなると、少し話が変わった。

「お父さん、キリンさんね、居なくなったお父さんのこと捜してるんだよ」

「ああ、知ってるよ。だからきりんさんは首が長いんだろ?」

 お父さんは高校生になった娘が、懐かしい作り話をし始めたと、ビールを飲みながら、いい加減な返事をした。

「違うわよ。キリンさんはね、そのために、ビールのラベルにお父さんの似顔絵を貼ってるんだよ。だから、ビールってキリンさんの涙で出来てるんだよ」

 これは、父が仕事の付き合いだと言って、毎日帰りが遅くなったとき、母の気持ちから作った話。お父さんは手にした缶ビールを持て余した。

 次の日は、ネットから野生のキリンが怪我をして保護され、やっと怪我が治ってサバンナに戻って家族と再会した記事をコピーして、テーブルの上に置いておいた。

 軽子の苗字は羅野邊であった。

 子供の頃は分からなかったが、ラノベというのはライトノベルの略であることを知った。軽子は、苗字が重いので、せめて名前は軽くという思いで親が付けた「軽子」と書いて「けいこ」と読む。

 この名前も、軽子はラノベに縁があると思った。

 デビューの仕方なんか分からないので、パソコンに思いついた話を書き溜めるだけだったが、ある日ブログの形で世間に発表することを思いついた。

 話は1000を超えていたので、USBに取り込んである。

 その中から10本、飛び切り軽くて面白い話を選び出し、ライトノベルベストという叢書名でアップロードしようとした。ブログの勉強もし、きれいなデザインのブログにした。

「よーし、これでOK!」

 軽子は勇んでエンターキーを押した。するとあろうことか、画面の文字は画面を抜けてユラユラと舞い上がり、空いた窓の隙間から空に昇って行ってしまった。

「ああ、軽すぎたんだ……」

 軽子が、その後ラノベ作家になれたかは定かではない……。

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泉希ラプソディー・01〈それが始まり〉

2021-11-28 05:28:43 | 小説6

ラプソディー・01
〈それが始まり〉
        


 

 業者は123万円という分かりやすい値段でガラクタを引き取って行った。

「まあ、葬式代にはなったんじゃない」

 息子の亮太は気楽に言った。

「でも、なんだかガランとして寂しくもありますね……」

 嫁の佐江が、先回りして、取り持つように言った。

 亭主の亮は、終戦記念日の昼。一階の部屋でパソコンの前でこと切れていた。

 今日子は悔いていた。

「ご飯できましたよ」二階のリビングから呼んだとき「う~ん」という気のない返事が返ってきたような気がしていたから。

 一時半になって、伸び切った素麺に気づき、一階に降り、点けっぱなしのパソコンの前で突っ伏している亮に気づき救急車を呼んだが、救命隊員は死亡を確認。

 そのあと警察がやってきて、死亡推定時間を正午ぐらいであることを確認、今日子にいろいろと質問した。

 あまりにあっけない亮の死に感情が着いてこず、鑑識の質問に淡々と答えた。

「おそらく、心臓か、頭です。瞼の裏に鬱血点もありませんし、即死に近かったと思います。もし死因を確かめたいということでしたら病理解剖ということになりますが……」

「解剖するんですか?」

 父の遺体から顔を上げて亮太が言った。

 今日子の連絡で、嫁の佐江といっしょに飛んできたのだ。

「この上、お義父さんにメスをれるのは可愛そうな気がします。検死のお医者さんに診ていただくだけでいいんじゃないですか?」

 この佐江の一言で、亮は虚血性心不全ということで、その日のうちに葬儀会館に回された。母の葬儀が大変だったことを思いだし、亮の通帳とキャッシュカードを持ち出したが、葬儀会館の積み立てが先々月で終わっているのに気が付いて、どれだけ安く上がるだろうかと皮算用した。

 葬儀は簡単な家族葬で行い(積み立てが終わっていたので5%引きでやれた)、亮の意思は生前冗談半分に言っていた『蛍の光』で出棺することだけが叶えられた。

 そして、長い残暑も、ようやく収まった10月の頭に、亮の遺品を整理したのである。

 亮は三階建て一階の一室半を使っていた……今日子にすれば物置だった。

 ホコリまみれのプラモデルやフィギュア、レプリカのヨロイ、模擬刀や無可動実銃、未整理で変色した雑多な書籍、そして印税代わりに版元から送られてきていた300冊余りの亮の本。

 佐江は、初めてこの家に来た時、亮の部屋を見て「ワー、まるでハウルの部屋みたい!」と感激して見せた。同居する可能性などない他人だから、そんな能天気な乙女チックが言えるんだと、今日子は思った。

 そして、一人息子の亮太が佐江と結婚し家を出ていくと、亮と今日子は家庭内別居のようになった。

 亮は、元々は高校の教師であったが、うつ病で早期退職したあと、ほとんど部屋に籠りっきりであった。

 退職後、自称作家になった。実際に本も3冊、それ以前に共著で出したものも含めて10冊ほどの著作があるが、どれも印税が取れるほどには売れず。もっぱら著作は投稿サイトでネットに流す小説ばかりであった。

 パソコンに最後に残っていたのは、mizukiと半角で打たれた6文字。佐江の進言で、その6文字はファイルに残っていた作品といっしょにUSBにコピーされ、パソコン自体は初期化して売られてしまった。

「あ、お母さん、人形が一つ残ってるよ」

 亮が仏壇の陰からSDと呼ばれる50センチばかりの人形を見つけた。

「あら、いやだ。全部処分したと思ったのに……」

 亮は、亡くなる三か月ほど前から、人形を集め始めた。1/6から1/3の人形で、コツコツカスタマイズして10体ほどになっていた。今日子は亮のガラクタにはなんの関心もなかったが、この人形は気持ちが悪かった。

 人形そのものが、どうこうという前に還暦を過ぎたオッサンが、そういうものに夢中になることが生理的に受け付けなかったのだ。

「人の趣味やから、どうこうは……」

 そこまで言いかけた時の亮の寂しそうな顔に、それ以上は言わなかった。

 しかし、本人が亡くなってしまえばガラクタの一つに過ぎなかった。惜しげもなく捨て値で売った。

 その時、どういうわけか、一体だけが取り残されてしまったようだ。

「佐江ちゃん。よかったら持ってってくれない?」

「いいえ、お義父さんの気持ちの籠った人形です。これくらい、置いてあげたほうがいいんじゃないですか」

 佐江は口がうまい。要は気持ちが悪いのだ。

 今日子は、今度の複雑ゴミで出してやろうと思った。

 人形は清掃局の車が回収に来る前に無くなっていた。

「好きな人がいるもんだ」

 プランターの花に水をやりながら、今日子は思った。とにかく目の前から消えたんだから、結果オーライである。

 水やりが終わると、ちょうど新聞の集金がやってきたので「主人が死んじゃったんで……」と亮をネタに、結婚以来の新聞の購読をやめてセイセイした。

 

 ピンポーン

 

 そのあくる日である、インタホンに出てみると17・8の女の子がモニターに溢れんばかりのアップで映っていた。

「こんにちは。泉希っていいます、いいですか?」

 それが始まりであった。

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やくもあやかし物語・112『背中についてる』

2021-11-27 15:16:44 | ライトノベルセレクト

やく物語・112

『背中についてる』   

 

 

「何かついてるわよ……」

「背中に……」

 

 ゼーゼー言いながら家に帰ると、コタツで寛ぎまくりのチカコと御息所が揃って指をさす。

「え、なによ、背中って……?」

「これ……よっ!」

 ペリ

 二人でジャンプして取ってくれたのは半分破れた紙切れだ。

「ううん……字がむつかしい」

 草書って言うんだろうか、ずっと昔の崩した字なので、ちょっと読めない。

「ちょっと、これは……」

「ヤバきものね……」

「エンガチョよ!」

「こころえた!」

「エンガチョ!」

「切った!」

 チカコが両手で作った輪っかを、御息所が手刀で切った……て、穢れを払うお呪いしてんじゃないわよ!

「こんなもの、どこで張り付けられたの!?」

 迫力のあるジト目でチカコが詰問。

「え…………あ、あのとき!?」

 坂を下って来るダンプを物の怪と間違って、いや、わざと間違えて……八房のやつ!

 親切に後ろを支えてくれたと思ったら!

「里見一族のやりそうなことね、正義の味方って、そーゆーことやるのよ(*≧0≦*)」

「え、あ、で……なんて書いてあるの?」

「「第一の怨敵は○○○……」」

「え、なに、その○○○は?」

「口にしたらエンガチョぐらいじゃ済まなくなる」

「口にしただけで祟られるわよ」

「でも、言ってくれなきゃ分からないじゃない!」

「それもそう……どうするチカコ?」

「やくもに字を思い出してもらおう」

「あ、そうね」

「やくも、うちみたいに二階の無い家ってなんていう?」

「一階建て?」

「別の言い方」

「平屋?」

「あ、その上の字」

「『平』?」

「「うんうん」」

「藤井聡太くんが、三冠をとったのは?」

「ふじいそうた?」

「これよこれ」

 チカコと御息所が向き合って座って、ペシペシ……あ!

「将棋!」

「ええ、それも上の字を憶えてね」

「次、いくよ」

「笑う門には福来る……」

「……の、門」

「さあ、三つ揃えて書いてみて」

「平……将……門……あ!?」

 平将門(たいらのまさかど)だ!

 正解を思いついて口にすると、二人ともコタツに頭を突っ込んでいた。

 

 え……ちょ、平将門をやっつけろって言うの!?

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝
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ライトノベルベスト『パンツ泥棒とAKP48選抜』

2021-11-27 06:49:00 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト 

 
『パンツ泥棒とAKP48選抜』  





「やっぱりねえ……」

「成績はそこそこ」

「部活の実績もあるんですが……」

「気が短いと言うか……」

「ケンカばかりしていてはねえ……」

「見送りますか……」

「「「「「やむなし」」」」」

 進路部会で篤子のS女子大への推薦は見送られた。

「キャー、先生、パンツがあれへん!」

 プールの授業が終わって、更衣室に戻ると二クラス分の女子のパンツ、48人分がなくなっていた。

「うそ、先生、ちゃんと更衣室の鍵かけたで!」

 Y先生は、法廷の検察官のように宣言した。

「あ、あとでチーコら遅刻して、鍵借りとったやろ?」

「うちら、ちゃんと返しにいったもん。なあ、先生?」

「うん……そやけど、鍵返しにくるのん、ちょっと遅なかったか、チーコ?」

「……あたし、準備運動してから、鍵に気いついて。ほんでも、ほんの3分ほどですよ」

 48人のノーパンガールズを沈黙が支配した。

「3分あったら変態泥棒には十分や。せやけどチーコは悪ない。悪いのんはパンツ泥棒や!」

 Y先生は、状況確認とチーコへの弁護を一言で片づけ、次の対策に入った。スマホを取り出すと、学校に一番近い下着屋を探した。

「あった。赤坂屋や!」

 Y先生は赤酒屋に電話すると、パンツの在庫を聞き、全員に確認した。

「なんとか、ありそうや。今からサイズ言うから手え挙げなさい。Sサイズ……Mサイズ……Lサイズ……LLサイズ……ようし、48人揃たな」

 先生は、サイズごとの枚数を言って、赤坂屋のオバチャンに持ってきてもらうことにした。

 ことは急を要するので、赤坂屋のオバチャンは、同じ白いパンツの4種類48枚を原チャで運んでくれた。この間8分。Y先生といい、赤坂屋のオバチャンといい、大阪のオバチャンの連携と馬力は凄い!

 これで無事に、次の授業は5分遅れただけで間に合った。

 噂は、瞬く間に学校中に知れ渡り、二つのクラスの女子はAKP48の異名をいただくことになった。AKPとは赤坂屋のパンツの略である。

 昼休みに小さな不幸が起こった。

 ビリ

 着やせが自慢の篤子はお決まりの丼とラーメンを食べて教室に戻り、席に着いたとたん、かそけき音を立ててパンツが破れたのだ。

 篤子は普段生パンの上にヘッチャラパンツ(見せパン)を穿いているが、支給されたのは生パンだけである。

 5・6時間目、篤子は椅子の上に胡坐をかくことも、スカートをパカパカやって暑気を逃がすこともできなかった。放課後には篤子が大人しくなったと職員室でも評判になった。

 篤子は後悔していた。

 篤子はLサイズなのだが、Y先生が手を挙げさせたとき、つい見栄でMに手を挙げてしまった。
 放課後は、珍しく部活の少林寺も休んで、早々に帰宅組の中に混じった。

 駅に着くと、隣接するS女学院のワルたちがたむろしていた。

「やあ、あんたら今日パンツ盗られたんやてね!?」

「「「「「よ、AKP48!」」」」」

「全員はおらへんから選抜やな。な、篤子!」

 中学時代から篤子の敵役の真夏がひやかした。

「なんやと……もっかいぬかしてみい!」

 で、篤子の取り巻きと、S女学院のにらみ合いになった。

 夏子は中学時代からの少林寺なので、篤子の得意技の回し蹴りなどを警戒していたが、意に反して足を大きく使わなくてすむ小技ばかりでS女学院あっさりと倒されてしまった。

 相手に怪我を負わせることも無く終わったので、特段学校からとがめだてられることは無かった。

 篤子としては回し蹴りのダイナミックな技で決めたいところだったが、ヘッチャラパンツはおろか、生パンも破れているので、技が出せなかっただけである。

 しかし、学校や仲間は「篤子も大人になったもんだ」と評判になり、AKP48選抜は期せずして学校の模範生となった。

 あの篤子が? そうか……。

 よし!

 篤子の推薦が復活した。

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せやさかい・261『ソフィアのON・OFF』

2021-11-26 11:06:57 | ノベル

・261

『ソフィアのON・OFF』       

 

 

 ON・OFFの区別って大事だと思う。

 

 中学に入ったころ、お祖母ちゃんの勧め(ほとんど命令)で某国王女がやってるグループビデオチャットをやらされたことがある。

 ま、国際感覚と王族に相応しい『付き合い方』入門ということなのよ。

 王子とか王女というのは裏表がある。

 フォーマルな時は、ディズニー映画のプリンスみたいにお行儀いい王子が、ビデチャになったとたん、変態王子に大変身したりとか。赤十字だったかのフォーラムで立派なスピーチしたのを褒めてやったら『アハハ、ネコよネコ、他にやることないから完ぺきになんのよ』とおへそとノドチンコ丸出しで大笑いする王女とか。

 こいつら、アホか?

 そう感じて、半月で止めてしまった。

 あ、そいつらのON・OFFじゃなくてね。

 いや、世界のプリンス・プリンセスがパープリンなのは、日本も例外じゃないってのは、晴れて男とニューヨーク行っちゃった〇子さんで分かっちゃったけど。

 いや、だからね、そのパープリン王子・王女どもが呆れたのよ。

「うちの学校じゃ、授業の始めと終わりは、こんなんだよ」

 イラスト書いて、起立・礼・着席ってのを見せたのよ。

 すると、パープリン共が「なにこれ!?」「ナチスか!?」「信じらんねえ!」とか馬鹿にした。

 ああ、こいつらダメだ……そう思ったわたしの感性はまともだと思うでしょ?

 

 そのわたしが見ても「もうちょっと気楽にやりなさいよ」と思うのが、うちのインペリアルガード。

 

 みなさん、すでにお馴染みのソフィア。

 わたしより一個年上だと思うんだけど、日本ではガードのために、わたしと同じクラスで女子高生をやってくれている。

 日本語も一年足らずで、どうかするとわたしより上手い日本語をあやつるようになった。

 近ごろでは、軽く微笑んだりはするようになったんだけどね、まだまだ硬いんです。

 こないだ、お祖母ちゃんとスカイプで遠慮のないトークをしていたら、いつの間にか後ろに居て笑いをこらえていたりしてたんだけど、そういうのはビックリするから止めてほしい。

 もっと、日常生活でフレンドリーにね……と、思うわけです。

 お祖母ちゃんが寄こしてきた映像に『エリザベス女王と並んで座ってるメーガン妃が脚を組んでる』のがあった。

 わたしが見てもマナー違反。

 女王と一緒の時は脚を組んではいけない。すごく無礼な振舞いなのよ。正座されてる天皇陛下の前で胡座かいてるようなものって言えば分かるかしら。

 これを見た時にソフィー、いっしゅん固まった。

「ソフィーも無礼だと思うでしょ?」

「はい、相手が殿下でも、あとで張り倒します」

「え、張り倒されるの、わたし!?」

「殿下は、そういう無作法はなさいませんから。で、ございますよね?」

「は、はい(;'∀')」

 いや、目がマジで怖いから……。

 

 そのソフィアのことで、ジョン・スミスから一言あった。

 

「今度の休みに、ソフィアはフェニーチェ堺に行きます」

「え、ああ、いいんじゃない」

 ソフィアも、月に一回だけ完全なオフがある。

 ヤマセンブルグにも労働ナンチャラ法というのがあって、最低の休暇はとらなきゃならない。

 それをソフィアは一回もとったことがないので、まあ、めでたいお話。

「ご存知ですよね、フェニーチェ堺?」

「うん、堺市の市民ホールでしょ?」

 大ホールはキャパ2000人もあって、座席も四階席まであって、まるでパリのオペラ座みたいにごっついホール。

「いや、大ホールのイベントではなく、催事場で行われる展示です」

「え、展示?」

「はい……」

 

 ジョン・スミスがタブレットで見せてくれた『それ』を見て息をのんだ。

ゴルゴ13×堺市「さいとう・たかを劇画の世界」』

「え……」

 ゴルゴ13と言えば、ハードボイルドな国際的殺し屋の話だよ。

 それは、ぜんぜん問題ない。うん、ソフィアが公休日に何を見ようと自由よ。

 でもね、ゴルゴ13って、完全にON・OFFのない殺し屋だよ。

 わたしも、全巻読んだわけじゃないけど、ゴルゴ13がニヤケてくつろいでるとこなんて見たことない。

 でしょでしょ!

 もし、あれに憧れとかお手本とかを感じられたら……いや、感じてるのよ!

 ジョン・スミスが、わざわざ知らせてきたってことは、そういうことなのよ。

「これは、対策が必要ね……」

 

 ジョン・スミスが静かに、でも、しっかりと頷いた……。

 

 

 

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ライトノベルベスト・〔赤線入りのレシート〕

2021-11-26 06:44:36 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト 

 
赤線入りのレシート〕  



 赤線入りのレシートで渡された。

「ちょっと、レジロールどこかしら!?」

 パートのオバチャンが怒鳴ったけど、お客のわたしは両脇に赤い線の入った「おしまい」を示す印が付いたまま。

 わたしは、中学までは演劇部に入っていたけど、高校の演劇部は一年の連休明けから足が遠のき、学期末には正式に辞めた。理由はいろいろあるけど、大まかに言うと、高校の三年間を預けるにはお粗末だと思ったから。

 今は帰宅部二年生。お芝居はたまにお父さんが連れてってくれる。

 まともに観に行ったら一万円を超えることもある一級品の劇団の芝居を、近隣の市民会館のプロジェクト事業などで安く観られるのを見つけては、お父さんがチケットを取ってくれて、この二年で二十本ばかり観た。劇団四季とか新感線とか一級品の芝居はビデオで録画したのを観る。

「卒業しても、その気があるんなら劇団の研究生になればいいさ」

 と、往年の演劇青年は言ってくれる。で、三年生目前のわたしは受ける劇団の絞り込みの段階。一時は高校生でも入れるスタジオや劇団を受けようかと思ったけど、お父さんの意見で、高校を出てからにということにした。それまでは、戯曲を読んで、芝居を観るだけでいいということになっている。

「それよりも、高校時代は好きなことをやっていればいい」

 と、かなり自由にさせてくれる。

 わたしは、オープンマインドな人間じゃないので、一年の秋ぐらいまでは芝居を観る以外ボンヤリした女子高生だった。

「これあげるから、好きなようにカスタマイズしてごらん」

 誕生日にドールの素体というのをもらった。

 体の関節が人間と同じように動くプラスチックとビニールでできた人形。

 人形なんて、子どもの頃のリカちゃん人形以来だ。素体と言うのは、人形は裸のまんまで、首さえない。

 別に二万円を現金でくれて、それで自分の好きなヘッドやウィッグ、アイ、ツケマ、衣装なんかを買って人らしくしていく。

 やってみると、これが面白い。カスタムする以外に自分でポーズを付ける。ちょっとした体の捻り方、手の具合などで人形の表情だきじゃなくて、感情そのものが変わってしまう。この面白さは、やった人間でないと分からないだろう。

 気づいたらハマっていた。人を観察してドールで再現してみる。すると、今までのドールでは限界があることが分かる。

 わたしはドールのためにバイトまでするようになった。

 そして、二年の終わりごろには、男女含めて五体のドールが集まった。中でも圧巻は完全に自分の体形を1/3にしたマコ。わたしの真子をカタカナにしたわたしの分身。これでポーズをつけると他の理想的なプロポーションをした人間のようにはいかないことを発見。

 ドールの足の裏には磁石がついていて、付属の鉄の飾り台にくっつけるんだけど、やはり姿勢によってはできないものがある。

 ドールの撮影会で知り合ったSさんがホームセンターで売っている簡単な材料で人形の飾り台ができることを教えてくれて、その材料を買ったところで、出た。

 赤線入りのレシートが……。

 こないだ、ドールたちの手入れをしていると、暖房の効きすぎか、半分眠った感じになってしまった。

 マコが、トコトコと寄って来て、わたしにささやいた。

「真子、赤線入りのレシートが出たら、死んじゃうからね」

「え……」

「あたしたちを可愛がってくれるのは嬉しいんだけど、そういう落とし穴があるの」

「赤線入りって、めったに出たりしないわよ……」

「でもね……もし出たらね、破っても捨てても、消してもダメ、三時間以内に死んじゃう」

「どうしたらいいの……?」

「それはね……」

 そこで意識が無くなった。マコはなにか対策を言ってくれたんだけど、夢のように忘れてしまった。

「ねえ、マコ、どうしたらいいの?」

 家に帰って、マコに聞くが、マコはただじっとしてお人形様のまま。

「あああ……あと三十分で三時間だ」

 その時、わたしは閃いた。修正ペンを持ってきて、レシートの両側の赤線に……してみた。

 三時間たっても死ななかった。わたしは、赤線に白い区切りを点々と付けて紅白のお目出度いレシートにしたのだった。

 ほんとだよ。面白くなかったかもしれないけど。

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銀河太平記・081『おにぎり』

2021-11-25 12:22:28 | 小説4

・081

『おにぎり』 加藤 恵    

 

 

 ニッパチはロボットのカテゴリーにも入らない多用途作業機械だけど、共感通信ができる。

 共感通信とは情報の並列化と言ってもいい。

 同型機や、形式の合う機械同士で情報が共有できる。ナバホ村のサンパチやフートンのイッパチも同様だ。

 また、同型機でなくとも位相変換することで人間を含む他者とも交流が可能で、大人数が働く建設現場やスタジアムなどの警備に向いている。

 ただ、二世代前の量子エネルギーで動作しているので、その通信範囲や速度には限りがあって、この西ノ島ぐらいの広さが限界。

 しかし、パルスガスが発生してパルス動力がいっさい使えない事故現場では頼みの綱と云っていい。

 

 ニッパチは、変態しているムカデ型ボディーの結節点からリアルハンドを伸ばして、被災者との連絡をとろうとしている。

 

『見つけました! 被災者の手に触れてます!』

「共感通信できそうか?」

 兵二が身を乗り出す。身を乗り出したところで通信の感度が上がるわけではないけど、こういう、思わず無駄な動きが出てしまうのは好ましい。

『はい、被災者の声は共感通信で送ります』

「ニッパチ、ケガの具合から聞いてあげて」

『ラジャー』

 ジジジ ジジ

 同期させるためのノイズが少しあって、繋がった。

―― ありがとうございます、もう、脚の感覚がありません……左手も持ち上がらなくなってきました ――

「増援が来たらすぐに助けるから、もう気楽にしてくれていいよ」

 兵二が語りかけ、わたしが被災者データのモニタリングをやる。

 血圧が下がって、拍動も弱くなってる。

『止血と強心剤の注射をします、ちょっと、チクっとしますよ……』

―― う、うん……あ、これって看護婦さんの手だ…… ――

 看護師を看護婦と言ってる、これは、マース開拓団の出身?

「きみは、マース開拓団の出身かい?」

―― え……どうしてですか? ――

「今どき、ナースの事を看護婦って呼ぶのは火星人くらいだからね」

―― え、あ…… ――

「いや、前歴を詮索するするつもりじゃないんだ、僕も火星人だからね」

―― そうなんですか ――

 西ノ島では人の前歴に触れるのはマナー違反だ、だから戸惑いがあるんだろう。

「つい懐かしくて、ごめん、ちょっとマナー違反だったね」

―― いえ……父の代で引き上げて、静かの海再開発公社で働いていました ――

 マース(火星)開拓から月の再開発、そして、辺境の小笠原諸島での鉱山労働……並みの苦労じゃない。

「僕は、先月まで、扶桑にいた」

―― 扶桑ですか……わたしも行きたかった……家族全員の移住が認められなくて……父は、家族全員でなきゃダメだって……それで、月に…… ――

『義体化はレベル1ですね、右の大腿骨と筋肉がハザマの01タイプです』

 ハザマ01、何世代前の義体パーツ? 開拓団だから、たぶん事故による欠失。

「僕は、ナバホ村の本多兵二、僕の横には氷室カンパニーの加藤恵さんが居る。もうじき地上とも連絡がとれて、本格的な救助作業がはじまるからね」

―― ありがとうございま……じゃ、この手は…………え、え……うそ、お母さん? ――

 意識が混濁し始めてる、ニッパチのリアルハンドをお母さんと勘違いしてるんだ。

『え……そうよ、今夜は夜勤だから、お惣菜はテーブルの上、マースポークのフライだから、一人二個ずつね。大きい小さいで姉弟げんかしないよう、チルルはお姉ちゃんなんだから、頼んだわよ。ご飯は炊きあがって保温になってるから、お爺ちゃんには、かならず二回は声かけてね』

―― うん、一回だと忘れちゃうもんね ――

『そろそろケアマネさんに来てもらって、認定のしなおし……』

―― 大丈夫だよ、わたしが付いてるから ――

『そうね、こんどお父さんと休みが重なった時に相談しよっか』

―― お母さん ――

『え、なに?』

―― おにぎり作ってくれない? ――

『なに? お腹空いた?』

―― お母さんの手見てたら、小さいころに握ってくれたおにぎり思い出して、食べたくなった ――

『フフ、チルルはよく食べる子だったから、晩御飯まで待てなかったのよね……よし、出勤まで三分ほどあるから、握ってあげよう』

―― ありがと、嬉しい ――

『……はい、熱々だから、気を付けてね』

―― うん! ハム……美味しいよ……お母さんのおにぎり……ハム……ハム………… ――

『チルルったら』

―― お、おい……し………… ――

『チルル……………』

―― …………………………………………………… ――

『午前9時25分……ご臨終です』

「そんな……」

 

 イッパチとサンパチがフートンのトラックほどの大きさのパルス清浄機を担いできたのは、その三分後。

 そして、本格的に救助作業が再開されたのは30分後のことだった。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥              地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室                西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩)
  • 村長                西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地

 

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ライトノベルベスト『スクールボブ』

2021-11-25 06:09:50 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト 

 
『スクールボブ』  




「やらないでおいた後悔は、やってしまった後悔よりも大きいから」

 照れたような顔で、そう言うと、沼田君は立ち上がった。
「じゃ、佳乃子さんも元気で!」
 一度振り返って、快活そうに言うと、沼田君は公園を出て行った。
 佳乃子さんという呼び方に、沼田君の傷を感じる。名前でいいわよと言ったら、ぎこちなく「佳乃子」と、さっきまでは言っていた。
 それまでは「支倉さん」だった。
 友だちでいようよという、いつもの優しい断り方をしたら、次の瞬間から、佳乃子に「さん」が付いてしまった。
 どう断っても、男の子は傷つく……分かっているんだけどなあ。

「ロングヘアーは、そそるよ」

 今城君を袖にしたときにお母さんに言われた。
 わたしは子どものころから髪を伸ばしている。わたしにとっては、伸ばした髪が自然だった。
 ネットで検索したら、男の子が一番好きなのが黒髪のロングだと出ていた。てっきりツインテールだと思っていた。親友のミポリンなんか典型で、カワイコブリッコして、よろしくやっている。今城君も、今はミポリンと付き合っているみたいだし。

 わたしは、男の子だけじゃなくても、束縛し合うような付き合いは御免だ。

 だから、コクられたら断ってしまう。もちろん相手が傷つかないように気をつかうが、男の子というのはデリケートなもので、ふつうの友だちのカテゴリーからも抜け出て行ってしまう。で、わたしは凹んでしまう。
「気づいてなかった? 佳乃子のロンゲは凶器だよ!?」
 ミポリンに言われて決心。お財布を握って咲花商店街のマルセ美容室へ。

「え……うそ、お休み?」

 開かない自動ドアの前で、30秒ほど佇んで気づく……そうだ、今日は火曜日だ。
 今日実行しなければ決心が鈍る。スマホで開いている美容院を調べる……あった!
 隣町のこっちよりにあるので、急ぎ足で向かう。

「すみません、ショートにしてください」

 たいての美容院が定休日だというのに、その美容院は開いていた。わたしが入ると入れ替わりにお客さんが出て行き、お客は、わたし一人になった。
「どのようなショートにしましょうか?」
 睡蓮と名札を付けた美容師さんが「いらっしゃいませ」の後に聞いてきた。
「えと……どこにでもあるようなショートヘアにしたいんです」
「高校生ですか?」
「はい、この春で3年生です」
「じゃ、なじんだ感じのスクールボブかな?」
「それでいいです」
 
 こんな平凡な顔になるんだ。

 できあがった頭を見て思った。これでいいという気持ちと寂しさの両方が胸に押し寄せてきた。
「悪くないですよ、佳乃子さんの新しい可能性が開けますよ」
「どんな可能性ですか?」
 リップサービスだと分かっていたけど、つい聞き直してしまう。
「沼田君や今城君とも、いい関係でおられます」

「え……?」

 なんで知っているんだろう? 睡蓮さんは聞き上手なので、カットしてもらっている間にいろいろ喋った。その中で、ひょっと口が滑ったのかもしれない。
 よそが定休日の日に開いているのはありがたいので、お店を出てから確認。通りに面したガラス壁にSEIREN(セイレン)と書かれていた。

 それからは、コクられることは無くなった。でも寂しくはなかった。

 男女にかかわらず、友だちがすごく増えた。それまで帰宅部だったのに、3年生であるのにもかかわらずテニス部に入ったりもした。
「あ、いたんだ!?」
 入部したあくる日に男子テニスに沼田君が居るのを発見。隣り同士のコートなので、あたりまえに友だちになれた。
 そんなこんなで、楽しく肩の凝らない高校生活が送れた。

「ええと……ここらへんだったんだけどなあ」

 わたしは八年ぶりにセイレンを探している。
 ずぼらなわたしは、あれからは咲花商店街のマルセ美容室ですましていた。

 あれから七年目に結婚し、こんど主人の転勤で住み慣れた街を離れることになり、引っ越し先でもうまくいくようにセイレンでカットしてもらうことにした。

 が、見つからない。あれから七年もたっているのだから仕方ないか……。

「あら、沼田さん!」
 そう呼ばれて反応するのに時間が掛かった。ふだんは旧姓を使っているので、新しい苗字にはまだ馴染まない。呼び止めたのは向かいの伊藤さんの奥さんだ。
「美容院だったら、この裏にありますよ。あたしも行くところだから」
「あ、そうなんですか!?」
 そして着いたのは別の美容院だったが、なじみのスクールボブ……いまや、わたしのトレードマークに磨きをかけてもらった。

  でも、伊藤さん、なんでわたしが美容院探してるの分かったんだろう?

 ま、いいや。帰ったら高校以来の付き合いの沼田君……主人に話しておもしろがろう!
  

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