大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・33『あれ……?』

2018-03-31 12:16:16 | 小説3

通学道中膝栗毛・33

『あれ……?        

 

 

 ぼんやりYouTubeを見ていたら、馴染みのユーチューバさんが――プレステVRの価格が一万円値下げされました!――とセンセーショナルな笑顔で言っている。

 一万円引きと言うことは……三万四千円。ちょっと現実的な価格だ。アキバでのバイトも始めたので買えないことはない。

 二人でやったら楽しいだろうなあ……思ったけど、夏鈴ははるかノインシュタインの空の下だ。

 買おうか! という気持ちは急速にしぼんでいく。

 わたしの楽しいは、多分に夏鈴といっしょということが前提になってしまっているのだなあと、改めて思う。

 

 こんなことじゃダメだ!

 

 プレステ4のYouTubeモードを解除して、メニューバーからインスコしたままホッタラカシているゲームを起動する。

 バイトの帰りにアキバで買った何本かの一つ。

 クリックすると――このアプリケーションを始めるために、ディスクを入れてください。――

 ソフトを探して入れるのが煩わしく、そのままスリープモードにして、セレクターをプレステ3に切り替える。

「こっちは入れっぱだったんだ……」

 グラフィックなどはイマイチだけど、プレステ3でも十分だ。

 小学校のころに夢中になったRPGのシリーズの続編。当時なら六千円はしたソフトが中古だけど、なんと百八十円だった。たかだか十六年ちょっとの人生だけど、ゲームがレトロになってペットボトルのお茶と同じ値段になるくらいには長いんだ……アホなことを思いながら起動されるのを待つ。

 モードはゆるゆるのイージー。

 このゲームはダンジョンでエンチャントした後のキャラたちの会話がいい。

 むろんゲームだから、数十個のパターンがランダムに出てくるだけなんだけど、小気味よくって楽しくなる。

『おまえの技って直観的なのな』『そう思ったのはキミの直観?』とかね、文字で書くとそんなに面白くないんだけど、ノリと勢いがいいから面白い。こんな風に人と話せたらいいだろうなあ……と、ややコミュ障のわたしは思うのだ。

 あれ……?

 R3ボタンというんだろうか、左のグリグリを触ってもいないのに矢印が動いてしまう。

 あ、あーーー制御できなくなってしまうよ~!

 お父さんが買ってきたものだから、もう十年はたつ。大事に使ってきたけど、やっぱ限界?

 

 こうなると一気に冷めてしまう。

 

 プレステ4をやればいいんだけど、もうそんな気分じゃなくなる。

 布団をかぶって寝ることにする。

 こういう時は、気分を挽回しておかなければ引きずるよなあ~と思いながらも横になった身体は起きてくれない。

 と言って、眠気はなかなかやってこない。

 やっとウツラウツラしかけたところでサイレン。

 意外に近い……パトカー? 消防車?

 カンカンと鐘の音がして消防車だと知れる。

 わりと近所で停まって、怒号やらハンドマイクの声、そのうちお母さんが起きだして玄関が開く音。

 お母さんは見に行ったんだ。

 たぶんボヤ程度、そう思って頭まで布団を引き上げる。

 もう焼け死んだってかまわない。不埒に思って、また眼が冴えてきた……。

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高校ライトノベル・ライトノベルベスト『蜘蛛の糸2018』

2018-03-31 06:54:08 | ライトノベルベスト

ライトノベルベスト
『蜘蛛の糸2018』
    


 ある日の事でございます。御釈迦様は極楽の蓮池のふちを、独りでごしごし掃除なさっていました。
 
 極楽も、経費節減のため、人件費を削らざるをえなくなりました。お釈迦様は率先垂範(そっせんすいはん)のため、ご自分の散歩道は、ご自分で掃除されることになりました。
 昨日は、沙羅双樹(さらそうじゅ)の林の落ち葉を掃き集め須弥山(しゅみせん)のふもとでお焼きになられました。そのとき、須弥山の荒れようも気になられたのですが、須弥山はとてつもなく大きな山だったので、こう呟かれました。

「まあ、あれは趣味の問題だから、後回しにしよう……ちと、おやじギャグであったか……」

 寒いギャグに、お仕えの天人がクシャミをしました。
 そこで、今日は、おやじギャグをとばしても、誰の迷惑にもならぬように、独り極楽の蓮池のふちを掃除なさっていたのです。
 池のふちを掃除し終えると、ワッサカと茂りすぎた蓮を間引きにかかられました。
「うんしょ……!」
 一抱えの蓮の葉の固まりを取り除くと、そこに開いた水面から地獄の様子が見えます。
「そうだ、この池は、地獄に通じていたんだった……」
 お釈迦様は、百年ほど前にカンダタという男を蜘蛛の糸で救おうとしたことを思い出されました。
「あの時は、意地悪をして、助けてやらなかったなあ……」
 そうお思いになって、百年ぶりに池の底を覗いてごらんになられました。

 極楽の池は、今では教員地獄というところに繋がっておりました。

 教員地獄には、現役の教師であったころ、ろくな事をしなかった者達が、地獄の年季が明けるまで出ることができない学校に閉じこめられています。
 地獄そのものも、廃校になった学校が使われています。その地獄の学校は、夜になることも、昼になることもなく、永遠のたそがれ時でした。

 チャラ~ンポラ~ン、チャランポラ~ン……と、チャイムが鳴るたびに、教師の亡者たちは、教室に行っては授業をします。

 教室は様々ですが、鬼の子達が生徒に化けて授業を受けています。その教室の様子は筆舌に尽くせません。お読みになっている貴方が、ご自身の学校を思い出して想像してみてください。
 授業が終わると、教師の亡者たちは職員室にもどり、吹き出した汗のような血や、血のような涙で、えんま帳の整理をやります。席に戻れば、パソコンに終わりのない書類の打ち込みをやりながら、聞き取れないような声で、だれに言うでもない不満を呟き、他の亡者たちは、みんな自分の悪口を言われているのではないかと思い、疑心暗鬼地獄になります。
 少し離れた会議室では、職員会議地獄があります。そこは、主に管理職だった亡者が、永遠に終わらない職員会議に出ています。平の亡者たちが、ときどき、ここに来ては、喧噪の中、しかめっ面をして息を抜いています。
 でも、本当に息を抜くと、議長に指名され、発言を求められ、質問地獄になります。
 そして、チャランポラ~ン……と、チャイムが鳴ると、授業地獄に行かなければなりません。
 そして、管理職だった亡者は、永遠に職員会議地獄からは抜けられません。

 神田という亡者が、職員会議を終えて、授業地獄にいくところが、お釈迦様の目に留まりました。
「ああ、これも何かの縁だろう……」
 お釈迦様は、思い出されました。

 この神田という亡者は、現職のころ「蜘蛛の糸」と呼ばれていました。神田は困難校ばかり渡り歩いてきた教師で、退学の名人でした。担任になると、めぼしい生徒に目を付けます。
 めぼしいとは、成績や出席状況から進級、卒業ができそうにないもの。問題行動が多く、懲戒を繰り返し、いずれは辞めさせなければならない者。
 そういう生徒には、四月から家庭訪問や面談をくりかえし、生徒や保護者と人間関係を作り、その「信頼関係」を作った上で、学年途中や、学年末に自主退学させていました。
 学校では、この退学のことを「進路変更」という言葉で呼んでいました。なんとなく美しい響きでしたが、要は首切りで、たいがいの教師は退学届をもらえば、それでしまいでした。
 神田は、本当に変更先の学校や、職場、ハローワークまで付いていってやりました。だから、大方の退学生は「ありがとうございました」と言って去っていきました。

 でも、神田は思っていました。これは学校のため……自分のためであることを。

 退学は、いざ、その場になればもめることが多くありました。こじれたときは弁護士が来ることも、裁判になったことさえありました。神田は、それが嫌だったのです。ただでも忙しい学年末に、そんなことに時間を取られることも、神経がささくれ立つのもごめんでした。
 でも、神田の蜘蛛の糸ぶりは徹底していました。
 保護者が来校したときは、玄関まで迎えに行って、スリッパを揃えました。退学が決まって、親子が学校を去るときは、玄関に立ち、親子が校門を出て、姿が見えなくなるまで見送りました。二分の一の確率で、校門を出るときに、親子は学校を振り返ります。その時には、深々と頭を下げてやります。そうすれば、親子が地元に戻ったとき、学校や担任の悪口を言いません。
 
 これは偽善です。だから神田は地獄に墜ちたのです。

「神田の心には、僅かだが、善意があった……」
 神田自身、高校生のとき、不登校になったり落第した経験があります。そして、何度か退学を勧められたことがあります。
「その時の孤独さは、分かっていたんだね……」
 そう呟くと、お釈迦様は、百年前と同じように蜘蛛の糸を一本垂らしてやりました。
「今度は、意地悪しないからね……」

「あ……これは?」

 神田は、一本の糸に気づきました。
 雲の先は、永遠のタソガレの空に、一点だけ青空になっていました。
「これは……蜘蛛の糸だ!」
 神田は、えんま帳も教材もみんな放り出して、蜘蛛の糸を昇り始めました。

「あの時といっしょだな……」
 
 お釈迦様は、呟きは続きました。
「わたしの悲願は……衆生済度(わけ隔てなくみんなたすける)なんだからね……」

 神田は、自分のあとから沢山の亡者たちが続いて糸をよじ登ってくるのが見えて戦慄しました。

――来るな。これは、オレの糸だ。オレが救われるための糸だ――

 そう、思いましたが、国語の教師であった神田は思い直しました。

――カンダタはこれで失敗したんだ。みんな登ってくればいい。みんなで極楽に行こう……そうだ、おれんちは浄土真宗だ「善人なおもて往生をとぐ、いわんや悪人をおいてをや」だ……でも、組合の奴らが真っ先てのはムカツクなあ……まあ、いいか。
 神田が、目をこらして下の方を見ると、糸を登らずに、ぼんやり見上げている一群がいました。
「おーい、お前らも来いよ!……え、意味わかんねえだと……そうか、あんたら再任用で、定年超えてもやってたんだ……そこが地獄だってことも分からないか……いいようにしな……」
 そう言って、手を伸ばした先に糸がありません。
「え……うそだろ!?」
 極楽の池の水面は、もう、そこまで見えていました。あと五寸というところで、蜘蛛の糸は切れています。それでも、お釈迦様の悲願なのでしょう、糸は直立しています。
「なんで、五寸なんだ……そうか、オレって演劇部の顧問だったから尺貫法なんだ!」
 妙なところで納得しかけた神田でした。
「でも、なんで、あと五寸……!」
 神田の手は、虚しく空を掴むばかりでした。
 やがて、亡者たちは力尽き、ハラハラと学校地獄に墜ちていきます。
 神田は、最後までがんばりました。もう慈悲深いお釈迦様のお顔さえ見えます。

「残念だ……神田。お前は五年早く早期退職した。その分、糸の長さが足りないんだよ」
 
 お釈迦様は、涙を浮かべて、そうおっしゃいました。
「そうか……おれって、堪え性がないもんで……」
 神田は、悲しそうに……でも、納得して墜ちていきました。

「南無阿弥陀仏……」

 最後の、神田の一言が、お釈迦様の耳に残りました。
「これは、阿弥陀さんの仕事……だな」
 そう呟くと、お釈迦様は、たすきを外して、歩いていかれました。

 極楽には、何事もなかったように、かぐわしい風が吹き渡っていきました……。

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高校ライトノベル・クレルモンの風・1『知らないことばっか!』

2018-03-31 06:44:32 | 小説・2

クレルモンの風・1
『知らないことばっか!』
     



 クレルモンと言っても、なにもクレルわけじゃない。フランスの中南部の街。それだけ。

 それだけの知識で、あたしはここに来た。正式にはクレルモンフェランということも、こないだ知ったばかり。
 大学で、交換留学生の募集があったので、あんまり良く読みもしないで申し込んだら、当たってしまった。

「須之内くん、これ一年は帰って来れないの知って応募した?」

 決まってから、学務課留学係りに行くと、担当のオジサンに開口一番に言われた。正直オッタマゲタが、元来の負けず嫌いで、こう言ってしまった。

「もちろん、承知の上です!」

「じゃ、これ必要書類。フランス語は訳しといたけど、英文は自分で読んで。手続きは今月中。九月の第一週には向こうに行って、すてきな留学生活送ってください」

 で、我ながらアホなんだけど、パスポートも持っていなかった。でもって、向こうの学科なんて、日本語に訳してもらってもチンプンカンプン。
 その結果、出発が十日プラス連休分遅れてしまった。なにかペナルティーがあるかと思ったが、ノープロブレム。ただし、勉強の遅れは自己責任で自分でやらなきゃならないらしい。

 そんなあたしを憐れんでか、寄宿舎のルームメイトには日本語が堪能なアグネスって、アメリカの女子学生をつけてくれた。

 飛行機に乗ってから、日本のありがたさが、身にしみてよく分かる。エールフランスだったけど、日本人のCAさんもいて、苦労はなかった。パリの空港で乗り換えなんだけど、ちゃんと日本語の案内がある。まあ、知らない日本の街に行ったと思えば肩も凝らない……と思えたのは。クレルモンに着くまでだった。

 パリの空港までは日本人もウジャウジャいたけど、クレルモン行きのローカル便は、フランス人ばっか。

 たぶん、心細そうな顔(めったにしません)をしていたんだろう。
「エクスキューゼモア……」って、感じでアジア系のオバサンが、隣のカンペキフランスのオッサン押しのけて、あたしに声をかけてくれた。
「あなた、ひょっとして日本人?」
「はい、そーです!」

 あたしは、地獄でホトケというような顔になった。

「ハハ、あなたって分かり易い性格ね」 
 オバサンは、本格的に横のオッサンと話をつけて、あたしの横に来てくれた。で、聞かれもしないのに、今までのいきさつをいうと、コロコロと笑って気を楽にしてくれ、あたしに、取りあえずどんな援助が必要か考えてくれた。
「じゃあ、空港の出口までエスコートしてあげる」
「みしゅらん土地で、助かりました」
 あたしは、感謝の気持ちでいっぱいになり、半べそでお礼を言った。
「アハ、今の立派なオヤジギャグ!」
「え、なんで?」
「クレルモンは、ミシュランでもってる街だから」
「え、そーなんですか?」
 と言いながら、ミシュランが有名なタイヤメーカーであることを知るのは、もうちょっとあと。

「ま、とりあえずFBで、お友だちになっておこうか」
 そのオバサンは、空港で荷物を受け取ったあと、わたしに提案してくれた。
「あたし、須之内優子っていいます。送りますね……」
「はい、これでお友だち!」
「メグ レヴィさん……ですか?」
「そう、正式なメアドは、いずれってことにして……」
「はい、日本でも、簡単にメアド教えるなって言われてきました」
「うん、いいこころがけ。あ、あの子じゃない、お迎えは!?」

 ブロンドのポニーテールがキョロキョロしていた。

「はーい、アグネス……だよね?」
「うん、あんたがユウコ?」
「うわー、会いたかった!」
「うちもや!」
 スカイプなんかでは、顔も声も知っていたけど、現物は迫力が違う。ハグしたときの感触……とくに胸。
「てっきり、一人で来る思うてたから、わからへんかった!」
 と、大阪弁丸出しのアメリカネエチャンが言った。
「あなたの日本語って、完ぺきな大阪弁やね!」
 と、メグさんも大阪弁で返してきた。

 アグネスは、隣のバアチャンが大阪の人だったので、日本語が大阪弁でインストールされてしまって、標準語だと言葉が出にくいらしい。スカイプでは苦労して、標準語を喋っていたらしい。
 メグさんは、神戸あたりの出身であることが分かった。

 アグネスの運転で大学に行った。荷物は車に残し、学校の事務所が開いているうちに手続きをしてしまおうということになっている。

「ウワー、かわいい、不思議の国のアリスみたい!」

 入った玄関ホールは、まるでアリスそのもの、学生も4、50人ほどで、こぢんまりしている。螺旋階段がすてきだし、床のチェック柄もすてき。これなら、大きなオセロゲームができると思った。

 で、それは、意外に、意外な問題を解決するのに役に立つのであった……。

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高校ライトノベル・坂の上のアリスー28ー『リリシャスフェアリー』

2018-03-31 05:59:51 | 不思議の国のアリス

坂の上のー28ー
『リリシャスフェアリー』



 けっきょく日本橋に行くことになった。

 日本橋は、東京で言えばアキバだ。電器とオタクの街。

 東京では日本橋と書いて「にほんばし」と読むが、大阪では「にっぽんばし」と発音する。
 ちょっと違和感だけど「にっぽんばし」と発音した方が勢いが出る。そうだろ、サッカーとかバレーとかで観客が応援するとき「にほん! チャチャチャ!」では空気が漏れたようで勢いが出ない。「にっぽん!チャチャチャ!」だろう。

「ふん、そんな下卑た力の入れ方じゃ聖天使には似つかわしくないわ」

 箱根から西に行ったことが無い聖天使ガブリエルこと二宮純花はレースのヒラヒラ袖を翻しながら悪口を言う。
 ちなみに純花と綾香は白黒色違いのゴスロリファッションに、ご丁寧に天使の羽まで付けている。
「よくそんななりで汗かかないな?」
 真治がスポーツドリンクを飲みながら、で、飲んでいるのと同量の汗を流しながら呆れている。
「ホホホ、わたしをなんだと思っているの。聖天使よ。体も心がけも違うのよ」
 よく見ると、わが妹の綾香も黒のゴスロリで汗をかいていない。
「いつもならタンクトップでも汗みずくなのに……」
「心がけがちがうのよ」
 ジロッと睨みながら言う、白と黒の違いはあるが純花と同じノリだ。一見小憎らしいが、生まれてこのかた兄妹をやっているので、純花に合わせてやっているのが分かる。偉いよ、おまえの外面は。
「日本橋には呪いがかかっているのよ」
 静香までがへんなことを言う。
「地下鉄日本橋で降りると、めったなことではたどり着けないのよ」
「え、そうなのか?」
「ええ、現に、わたしたちが下りたのは恵美須町だったわ」
「ム~、その割に聖地としては二線級ね」
 たしかに日本橋は堺筋という大通りに面した一本道と、せいぜいその裏通り。アキバのような厚さはないような気がする。
「あ、でもやっぱり呪いの街かも……見て、五階百貨店と書いてあるのに平屋だわ」
「大阪の蛮族には五階に見えるのかしら……」
 大阪にケンカを売ってるのかというようなことを言う。

 大手のヨドバシカメラは検索すると梅田にある。ソフマップもアキバよりも小規模だ。ラジオ会館のようなオタクの総合デパートのようなところもない。純花の目は蔑みの混じった力みかえりから失望に変わってきた。やっぱ、この暑さでゴスロリは大変だろう。

 が、福引会場の前で純花の目の色が変わった。

「あ、あ、あ……あれを見てよ!」
 純花が指差した先には福引の商品……で、さらに指先を見ると、その指は一等のハワイ旅行ではなく二等のフィギュアに向けられていた。

「ほ、欲しい……リリシャスフェアリー!」

 俺たちは、福引をひくために思わぬ買い物をすることになってしまった。


 ♡主な登場人物♡

 新垣亮介      坂の上高校二年生 この春から妹の綾香と二人暮らし

 新垣綾香      坂の上高校一年生 この春から兄の亮介と二人暮らし

 二宮純花      坂の上高校一年生 綾香の友だち トマトジュースまみれで呼吸停止

 桜井 薫      坂の上高校の生活指導部長 ムクツケキおっさん

 唐沢悦子      エッチャン先生 亮介の担任 なにかと的外れに口やかましいセンセ 

 高階真治      亮介の親友

 三宮静香      亮介の親友 

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高校ライトノベル・あたしのあした・42『あたしの中に住んだ人・2』

2018-03-31 05:47:50 | 小説4

高校ライトノベル
あたしのあした・42
『あたしの中に住んだ人・2』
      

 今度はパソコンの画面の中に現れた。

 風間さんのことが気になったので、ネットで「風間寛一」を検索してみたのだ。

 風間さんのことは、退院した後の事情聴取のときに、お巡りさんが教えてくれてはいた。
 衆議院議員の春風さやかの秘書で、正義感の強いやり手だと聞いた。たまたま駅のホームで、あたしが電車に飛び込んだところを反射的に飛び込んで助けてくれた。
 並の人間にはできないことだと感謝して何度か御見舞にもいった。意識が無いので、枕もとでそっと頭を下げて感謝の気持ちを表すことしかできなかったけど。
 その風間さんのことを調べてみる。
 知っていた以上のことは出てこない。そうだろう、ネットに出てくることなんてオフィシャルなことしかないから、風間さんの心情までは分からない。

 三回スクロールして読み直し、途方に暮れて、画面の「風間寛一」の名前をボールペンのお尻でトントンしている。
 すると、ウィキペディアの画面が切り替わって、風間さんが現れた。

――やあ、ここに現れる方がエネルギーが少なくて済む。
「風間さん!?」
――きみの調べたいと思う気持ちとパソコンの力のお蔭だよ。
「えと……」いざとなったら、なにから聞いていいか分からなくなる。
――わたしは、脳腫瘍の末期で長くはない。二か月前、駅前の交差点で死んだような目をしたきみを見かけたんだ。
 偶然だが、行先は同じ駅のホームだった。そして、きみはやってきた電車に飛び込もうとした。
 わたしが飛び込めば助けてあげることができるかもしれない。
 ラグビーをやっていたのでタックルやトライには自信があったし、ダメでもいっしょに死ぬだけだ、そう思ったんだよ。
 そして、なんとかきみを助けることができた。
「そ、その節は、ありがとうございました!」
――お礼を言うのは早いよ。実は衝撃的なことを伝えなきゃならない。
「えと、なんでしょう?」
――じつは、きみとわたしは融合してしまっているんだ。
「ユーゴー?」
――病院で目を覚ました時、わたしはきみになっていた。
「どういうことですか?」
――目覚めたとき看護婦さんに声を掛けられ、返事した声が変だった。で、鏡を見ると、わたしはきみの姿になっていた。
「あの、あたし目覚めた時は誰も居なかったですけど」
――それは、恵子さん、きみが自分の意識で目覚めた時だよ。
 つまり、二回目の目覚めだ。わたしは、きみを驚かせたくなかった。だから意識の底に潜ったんだ。
 すると、どうやらきみと同化してしまったようなんだ。
「でも、今は別々に……」
――パソコンの力を借りてね。自分の力だけでやると、昨日の金縛りのように続かなくなってしまう。
「えと……」
――退院して最初にお風呂に入った時、ドキドキしたでしょ?
「あ、ええ、なんだか自分の身体じゃないみたい……って、あれは!?」
――そう、あれはわたしの感性だろうね。

 顔が熱くなった、恥ずかしいから……って、あたしの感性? 訳わかんなんくなってきた。

「学校に復帰してからのあれこれって、実にあたしらしくないんですけど、それは風間さんの……」
――おそらくは……。
「そうなんだ……あたしにしては上出来すぎますもんね」
 あたしは凹んだ。あたしは、あんなにアクティブで思いやりのある人間じゃない。
――でも、こんな風に融合してしまうのは、恵子さん、きみの中にも同じような感性があるからなんだよ。
 同じでなければ、こんな風に融合したりはしないと思う。
「そうなんですか?」
――そうなんだ。近ごろは、ほとんどきみの意識で動いているといってもいい。
 仲間への気遣いはきみならではだと思うよ、議員秘書の感覚からだったら、あの子たちとは切れていたと思う、いっしょに居ても、あまりきみのためにはならないからね。自信を持っていいよ。
「ありがとうございます」
――そこで本題なんだけれども。
「は、はい」

 思わず居住まいを正してしまった。

――恵子さん、しばらくきみの身体を貸してもらえないだろうか?
「は、はい!」

 うっかり反射的に返事をしてしまったが、うろたえまくるあたしであった。

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高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・32『180305の意味から』

2018-03-30 12:13:41 | 小説3

通学道中膝栗毛・32

『180305の意味から        

 

 

 180305

 18は西暦の下二桁、03は三月、05は五日を表している。つまり、この缶コーヒーは先月製造されたばかりだということが分かる。

 近所の百円自販機がなんで安いのかと調べた時に覚えた賞味期限の表記法。

 安売りは、賞味期限が迫ったものを安く仕入れるのでできることなのだ。だから、安売りの頭二文字は17となっていなければならない。

 じゃ、なんでこんなに安いんだろう?

 

「そりゃHOPEコーヒーだったろう?」

 答えてくれたのは、あくる日、芋清のおいちゃん。

 改札を出ると焼き芋の匂い。とたんに食べたくなって駅向こうの探訪は止めて芋清に向かう。

「うん、そうよ」

 店内のスツールを勧めながらおいちゃんは続ける。夏鈴と二人ならともかく、一人焼き芋食べながら歩く気はしない。そういうところを、おいちゃんは自然に分かるみたい。

「HOPEはコンピューターミスとかで特定の銘柄を作り過ぎてしまって、過剰在庫にしたくないんで安く流してるってうわさなんだよ」

「え、そうなんですか?」

「HOPEは、そう言ってるけどね。中国の会社が資本参加して、会社のあれこれが思うようにいかなくなった歪みがでてるんじゃないかと言われてるよ」

「そうなんだ」

 分かったように相槌打ってるけど、よく分かっていない。ま、安くいただければ嬉しい女子高生なのだ。

「でも、うまい具合にお芋の匂いが立ち込めるんですね。改札出るまでは駅向こうに行くつもりだったんですよ」

「どういう具合か、風の流れなんだろうなあ、駅まで匂いが流れなきゃ売り上げの半分は無いと思うよ」

「ふふ、焼き芋の神さまがいるのかも」

「ちげーねー」

 そんな話をしているうちにも五人のお客さんが買っていく。贔屓のお店が繁盛しているのは嬉しいものだ。

 そのうちにお客さんが並び始めた。おいちゃんは丁寧にお芋をくるみ対応も丁寧なのでつかえてくる。

「手伝うわ」

 セーラーの袖口をたくし上げ、軍手をはめて釜の前に立つ。日ごろ見慣れているのでテキパキやれる。

「すまないな」

 おいちゃんは釜の中を覗いて芋を選び、わたしが包装する。その間にお勘定をやって、倍とは言えないけど五割増位のペースで進んで十分もすると落ち着いてきた。

「あら、お孫さん?」

 お客さんに言われる。

「いや、ご贔屓さんが成り行きで手伝ってくれてるんで」

「まあ、そう、いっそバイトしてもらったら売り上げ伸びるわよ」

 アハハと笑っておく。芋清も悪くないんだけど、週二回のアキバのバイトもある。

 お客さんと入れ違いにおばちゃん(もうお婆さんなんだけど、おばちゃんで通っている)が帰って来る。見ると手に岡持ちをぶら下げている。

「あら、出前するんですか?」

「たまにね、若けりゃスクーターかなんかに乗るんだけどねえ、ブキッチョだから岡持ち持ってだと自転車にも乗れない」

「栞ちゃんが手伝ってくれてたんだぜ」

「あー、それは申し訳ない」

 そういうと、おばちゃんは焼き芋をどっさり持たせてくれようとしたけど、そんなには食べられやしない。ドンマイドンマイと手を振って家路についたのでした。

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高校ライトノベル・ライトノベルベスト『遅刻の誉れ・2』

2018-03-30 06:24:29 | ライトノベルベスト

ライトノベルベスト
『遅刻の誉れ・2』
       


 今朝は十分間に合う時間に起きた……それで遅刻である。ハルは、横断歩道で、その無常を知った。

 義母である好子さんは、ハルの弁当を作って悩んだ。
「これでは、中身がグチャグチャになるわ……」
 弁当箱に、華やかに総菜を並べてはみた。きれいではあるが、ちょっと傾けただけで中身が寄ってしまう。
 そこで、弁当箱を二回変えて、やっと隙間無く収めることができた。この間十五分。

「お母さん」

 そう呼ぶのには、まだ遠慮があった。ハルは大人しく仕上がるのを待った。
 結果的には。妹が幼稚園のころ使っていたオベントバコになったが、ハルは、それにも文句は言わなかった。
 駅の横断歩道の真ん中でオバアチャンがウロウロしていた。信号が変わりかけていた。
「どうぞ」
 ハルは、背中をオバアチャンに提供して、横断歩道を渡った。
「あたしゃ、駅の向こう側にいくんだよ~!」

 ハルは、てっきりオバアチャンは駅に行こうとしているんだと思った……。

 しかたなく、信号が変わるのを待って、向こう側に戻り、ダッシュで駅に戻った。ホームに着くと電車は、ちょうど出てしまった後だった。
 そして、五分待って次の電車に乗り、やっと駅に着いて、地上に上がると信号が変わったところだった。まあ、この信号が間に合ったところで、始業には間に合わなかっただろうが。駅から学校まで400メートルはある。人間がスプリントで走りきれる限界の距離である。確か世界記録は、マイケル・ジョンソンの43秒18。ハルはその43秒18の前に1分をつけても無理である。

 はるか400メートル先で、遅刻を告げるチャイムが鳴り始めた。

 もう、ハルは諦めて歩き始めた。皮肉なもんだと思った。学校の敷地は、元々はハルのお屋敷の跡である。
 そう、ひい祖父さんが、国に召し上げられるなら、いっそこっちからくれてやろうと寄付したものである。

 ひい祖父さんが、珍しくフライングしたことが、ひ孫のハルに祟っている。柄に合わないことはやるもんじゃないと、ひい祖父さんに理不尽な恨みを感じてしまった。

「こらあ、治国、また遅刻か!」

 生指の水野先生が、いつにもない大声でハルをどやしつけた。他の先生も怖い顔をしている。

 が……なにか変な感じがした。なんだろう、この、微かなハメられたような違和感は?

「入室許可書ください」
 それでもハルは、ほとんど脳細胞を使うこともなく、習慣化した言葉をオウムのように口にした。
「ハル、今日は校長室へ行け」
「え……覚悟してたけど、マジ、いきなりっすか?」
「問答無用!」
 水野先生が、大声のもう一つ上の声でたたみかけてきた。
 AKBではないが、マジッスカ学園である。だいたい、水野先生の家は、江戸時代にはハルの家の家来にあたる家である。それが主筋にあたる自分に「問答無用!」である。世も末だと、今さらながら代々のご先祖を怨めしく思った。

「尾呉治国(おくれはるくに)今日も遅刻か!」

 失礼しますの一言言う間もあらばこそ、校長は、お家断絶を言い渡す役人のような、重々しさと厳しさ、そして役目を果たした安堵感を滲ませて、大音声……え、安堵感……これは違和感である。

「若、さすが尾呉一万二十四石四斗四升四合四勺。よくぞお遅刻あそばされました!」

 生指部長の水野先生が、感涙にむせびながら平伏した。

「尾呉君、君は、この尾呉坂高校を救ってくれたんだよ。やはり、尾呉家二十六代目当主の器量。見事な遅れ。なにをか言わん哉。遅刻の誉れ、ここにありであります!」
「あ、あのう、もう一つ空気読めないんですけど……」
「いや、失礼。君たち生徒や保護者の方々には内密にしていたが、この尾呉坂高校は、都知事から、命ぜられていたんだよ……」

 校長室に居合わせた先生や事務長がむせび始めた。

「あ、あの、説明とかして欲しいんです……けど」
「ああ、すまんすまん。ここは譜代の臣である、水野先生から説明していただくのが適当でしょう」
「いえ、この義ばかりは、大目付大久保家御末裔であられる校長先生より……」
「そうですか、それでは……実はね、我が都立尾呉坂高校は、都知事の意向で、一学期の間に、遅刻者が一万人を超えるようなら、即無期限休校、近隣の都立高校十校にお預けということになっていた。これは事実上、不名誉極まる廃校と同義。なんとか、これを明るい展望のある休校とし、お家再興……いや、学校再建に結びつけたいと神仏に祈っておったのです」
「そこを若が、尾呉家二十六代当主として、堂々たる意義深い遅刻。きっと、明日の朝刊には載りましょう。尾呉治国、見事に第二十六代の責務を果たし、記念すべき一万人目の遅刻の大役を果たすと!」
「マスコミも、都民、国民も、こういうトラディッシュでユーモアに満ちた事件を待ち受けているんだ。これは、信長公の末孫、織田信成クンがフィギュアスケートに現れた時以上の快挙だよ」
「そう、AKBの総選挙で、サッシーが第一位を獲得したのに肩を並べる痛快事。これで、尾呉高校の再建は約束されたようなもんだよ。有難う尾呉君!」

 さすがに、このニュースは、その日のうちに日本中、いや、サムライファンの外国にも、いろんなサイトを通して配信され、世界的なニュースになった。
 この年の顔は、ハルこと尾呉治国と、サッシーこと指原莉乃が独占した。

 AKBは、その後、ヒット曲をバンバン飛ばし、ますます国民的アイドル集団として、隆盛を極めた。
 しかし、尾呉高校再開のニュースは、とうとうやってこなかった。その後東京オリンピックも決まり、都民や国民の関心は確実に薄れ、ボクはお預け先の外苑高校の劣等生として、なんとか卒業はできた。

 今、考えると、みんな尾呉高校から、明るく後ろ指を指されることもなく移動したかっただけじゃないかと思った。

 もう二十一世紀も半ば、東京オリンピックは懐かしく国民の心に刻みつけられた。AKBもますます元気に世代交代を果たしている。

 尾呉家二十六代当主であるボクは、まだ独身だ。どうやら、尾呉一万二十四石四斗四升四合四勺は、ボクの代でお家断絶の気配。

 断腸の思いではありますが、戦国時代から四百年、愛すべき尾呉家が続いたことで良しとしてください。あの最後の遅刻を尾呉家の尾呉家らしい誉れと思し召して……。

 尾呉家累代のご先祖様  尾呉治国
 

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高校ライトノベル・坂の上のアリスー27ー『お待たせしました』

2018-03-30 06:14:14 | 不思議の国のアリス

坂の上のアリスー27ー
『お待たせしました』



 大阪最初の宿は大阪城を間近に見るホテルだ。

 最上階のラウンジからは大阪平野が一望にできる。

「なんちゅうか、狭いなあ」
「コンパクトじゃね」
「ふーーーーーん」
「かわいい……」
「食欲ない」

 窓際のテーブルで、五人それぞれの感想を呟いた。大阪は異文化の地で、ちょっとくたびれかけている。
 新大阪では元気にうどん体験ができた俺たちだが、なんとはなしの大阪にちょっとくたびれている。

 大阪は関空を除けば日本で一番狭い。
 このホテルは二十何階かで、そんなに背が高いわけじゃない。それで大阪の四方の端っこが分かるんだから狭い。
 でも、狭いからと言ってバカにするほどアホじゃない。
「東京が広すぎるんだよね……」
 これは静香だ。
「これなら地震とかになっても家まで歩いて帰れるよな」
「あそこUSJじゃね?」
 西の海と陸との境目にUSJ、ボールを投げたら届きそうだ。

「お待たせしました」

 てっきり晩飯が並ぶのかと思ったら放出(はなてん)さんだった。
「明日から、あちこち周ってもらいます。特にコースは決まっていません、このリストの中から二か所選んでください。もちろん一か所をじっくりでもかまいません」
「あのう、写真と名前だけで中身が分からないんですけど」
 そう、放出さんのリストには説明と言うものがなくって、まるでレストランのメニューのようだ。
「聞いていただければご説明いたします。まずは、みなさんのご興味です」
 放出さんはにこやかに俺たちを見渡す。にこやかなんだけど、なんだか試されているような気になる。質問がなかったり、スカタンを聞いたら密かにバカにされそう……てか、このへんに日当5000円アゴアシ付きの秘密があるような気がする……て、気の回し過ぎだろうか?
「この狭いところに面積当たりじゃ東京より多い飲食店があるんだよな……」
 真治が寿司屋の息子らしく呟く。
「そういう食べ物に特化したコースも考えられますよ」
「聖天使ガブリエルとしては、我が霊力を高めるためにスピリチャルスポットを周ってみたい!」
 ようやくエンジンがかかってきた純花がぶっ飛んだことを言う。
「聖天使様のスキルアップには絶好のコースを用意しております」
 杭全さんは、事もなげに受け止めてくれる。

 俺たちは一時間以上も、あーだこーだと唾を飛ばしながらアイデアを練った。

 で、いろいろ言いあっているうちに、気が付くと結構な空腹になっていた。

 

 ♡主な登場人物♡

 新垣亮介      坂の上高校二年生 この春から妹の綾香と二人暮らし

 新垣綾香      坂の上高校一年生 この春から兄の亮介と二人暮らし

 二宮純花      坂の上高校一年生 綾香の友だち トマトジュースまみれで呼吸停止

 桜井 薫      坂の上高校の生活指導部長 ムクツケキおっさん

 唐沢悦子      エッチャン先生 亮介の担任 なにかと的外れに口やかましいセンセ 

 高階真治      亮介の親友

 三宮静香      亮介の親友 

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高校ライトノベル・奈菜のプレリュード・21《空襲の後と、そのずっと後》

2018-03-30 06:05:57 | 小説・2

奈菜のプレリュード・21
《空襲の後と、そのずっと後》



 地下鉄本町駅の地上出口は、逃げ場を失った人らで一杯やった。

「開けてくれや、もうわしら逃げ場所……熱う、もう、そこまで火いきてんねんぞ!」
「ニイチャン、今は非常時の非常時や、今開けへんかったら、あんたは大阪の人間とちゃう。血い通うた人間やったら、開けるで!」
「そない言われても、終電後は規則で……」
「人見殺しにして、規則もへったくれもあるか!」
 警防団のおっちゃんまで、シャッター越しに当直の若い駅員に詰め寄る。

 大阪城の向こうで、一トン爆弾が何発もさく裂する音がして、地面は地震みたいに揺れる。周りの建物はみんな巨大な松明みたいになって燃え盛ってる。それでも若い駅員は、シャッター越しに規則通りの答えしかせえへん。
「おい、駅員。わしはネソ(曽根崎署)の坪井や、駅長呼べ、駅長!」
「駅長は、運転司令と電話してはります!」
「鴨野君、シャッター開けなさい!」
 シャッターの向こうから声がした。
「駅長です、すまんこってした。運転司令とは連絡が途絶えました。わたしの権限で開けます!」

 シャッターが開いて、人が殺到した。曽根崎署の坪井いうお巡りさんと、警防団のオッチャンが整理と指揮を執る。

「通路降りるんは二人ずつ。じきに南口も開くやろさかい、後ろの人は南口に、せや、そのオッサンから後ろは南口。女子供が優先や!」
 その混乱の中を、富久子は友達といっしょに地下鉄へ。

 ここまでが、すでに撮り終えてる未編集のV。この後に新しいシーンが加わる。

「難波の松坂屋(今の高島屋)まで、なんにもあらへん……」
「フクちゃん、見てみ、生駒山から近鉄電車が出てくるのが見えるわ」
「きれいさっぱりやな……」
 地下鉄から出てきたあたしらは、大阪の街の変貌ぶりに茫然とする。
「シズちゃん、うちら、どないしたらええねんやろな……」
 そう言うと、朱里が演ずる富久子は、立ったまま涙をぽろぽろと流した。CGをはめ込むためにグリーンのシートで囲まれたスタジオで、よう泣けるなあと思うたけど、あたしも虚脱感と、悲しさが湧いてきて自然と涙が出てくる。これが無対象演技やねんやろなと思た。芝居て、お騒がせのO先輩が言うてたようなハッチャケてたらええいうもんやないことが、よう分かった。
 ほんで、監督が事前に未編集のVを見せてくれた意味も。演技の基本は想像力やいうことが、よう分かった。ここで昼休みの予定。

 と思ったら……。

「無表情で二メートルほど先を見る。三パターンほどください」
 監督が、なんとも抽象的な注文。想像力もメソードもへったくれもない。
「はい、奈菜ちゃんいくよ」
 対象物どころか説明もなしに、ただ無表情で見ろというだけ。あたしの脳みそをよぎったんは『ああ、お腹空いた』だけ。
 三パターンは、いろいろ注文がついて百近く撮らされた。
 やっと二時半ぐらいに解放されてお弁当。
 スタジオに戻ると、監督とスタッフが、さっきのラッシュと事前に撮ってあった映像の組み合わせに余念が無かった。
 お腹空いたと思うてたとこは、死にかけたお婆ちゃんが、無意識に蠅を手でおうてるとこ……つないでみるとサマになってる。
 プロの仕事は、ええ加減そうに見えて、大変で意味のあることやとしみじみ思うた。

「はい、OKです。黛さん、加藤さん、お疲れ様でした」
 チーフADが言うと、どこからともなく花束が。そんでスタジオ中から拍手。ぐっと感動が湧いてきた……。

            奈菜……♡ 

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高校ライトノベル・あたしのあした・41『あたしの中に住んだ人・1』

2018-03-30 05:59:23 | 小説4

高校ライトノベル
あたしのあした・41
『あたしの中に住んだ人・1』
      


 金縛りになった。

 と言っても、生まれて初めてのことなので確証はない。
 意識は冴えているのに体が動かない、目玉だけが動かせる。話しに聞いた金縛りの症状と同じなので、いちおうそうなのかと思っておく。
 人間と言うのは、自分や自分の身の回りのことをカテゴライズしておかなければ落ち着かないものなんだと思う。
 だからカテゴライズすると少し落ち着いた。
 だって考えてもみてよ。
 夜中にパチッと目が覚めて、目玉以外動かなきゃ狼狽えてしまうでしょ? ま、そのくらい怖いものなのよ。

 階段を誰かが上がってくる気配。

 お母さんじゃない、お母さんなら、もう少しこし速い。
 それに階段を踏みしめる音にズシリと重みがある……これは男の人だ。
 お母さんと二人暮らしの家に男なんかいない。もし、お母さんが男でも連れ込んでいなければ……。

――おもしろいことを考えるんだね。

 気配が口をきいた。いつの間にかベッドの脇に立っている。
 スーツを着て落ち着いた感じのオジサンだ、全身から人柄の良さが滲みだしているようで、恐怖とか不安とかは感じない。てか、どこかで会ったことがあるような気がする。

――思い出してくれたかな?
――あ…………風間さん?

 そうだ、あたしの引きこもりが最悪の時、フラッと行きついた駅のホームから電車に跳び込もうってか、跳び込んだ時に助けてくれたオジサンだ。
 この人のお蔭で、あたしはかすり傷だけで助かった。風間さんは寝たきりになってしまっている……とても申し訳ない。

――わたしが寝たきりなのはきみのせいじゃないよ。
 風間さんは心が読めるようだ! 
――読んでいるわけじゃないんだ、ま、その説明は後にして……私が寝たきりなのは、脳腫瘍が大きくなりすぎたせいなんだよ。
――脳腫瘍?
――もうステージ4の末期。きみについて跳び込んだときには、もう意識が切れていた。覚えているのは君に抱き付いた瞬間までだ。
――えと……その風間さんが、なんでここに?
――いちおう伝えておいた方がいいと思ってね、それと、お願いしたいこともあったし。
――えと……なんでしょう?
――この姿は、君の心の中に投影したものなんだよ。実際はここには居ない、わたしは君の心の中に居るんだ。
――心の中?
――あれから、自分の行動や考え方が変わったとは思わないかい?
――えと……。

 思い当たることは次々に浮かんできた。

 智満子をやっつけ、あたしをイジメていた子たちと仲良くなれた。だけじゃなくて、それがショックで不登校になった智満子を復帰させた。更衣室を覗いていた覗き魔を水野先生といっしょになって捕まえた。早乙女女学院とのいろいろ、毒島を相手に戦おうとしたこと。どれをとっても、それまでのあたしには考えられない行動力や決断力だ。お茶や将棋についての知識もあたしには無いものだ、初対面の人なのに、すでに知っていたような気がした……これって……? そうだ、最初は、とても不思議だった。慣れてしまって、あまり気にしなくなってしまったけど……これって、全部風間さんがやったこと!?

――そうじゃないんだ……

 続きを言いかけて、風間さんの姿はフェードアウトしてしまった。あたしは再び眠りに落ちた。

 

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高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・31『駅向こうのお屋敷』

2018-03-29 14:47:51 | 小説3

通学道中膝栗毛・31

『駅向こうのお屋敷        

 

 

 きょうも駅向こうの探検。

 

 知らない街じゃないので、なにもかも新鮮というわけじゃない。

 渋谷とか原宿とかにくらべれば、やっぱマイホームタウンの一角ではある。

 ただ、小学校を卒業するまでは校区の境が駅だったので、足を踏み入れることがほとんどなかった。

 その点で、駅のこっち側とは少し疎い感じがあるのだ。

 

 今日は商店街を外してみた。

 

 商店街と言うのは脇道に逸れにくい。アーケードの心地よい閉鎖性、あれこれのお店に気がひかれたりで、自分の生活圏でもなければ道を逸れるようとは思わないでしょ。

 なので、いきなり道一本西に入ってみる。

 駅の近くは二三階建てのビルとかお店、古い家が建て込んでいて、道幅も途中で半分ほどになっていたり、おそらく昔は田んぼや畑だったんだろうと偲ばれる。

 角を曲がると大きなお屋敷が見えてきた。

 おおーー。

 思わず声が出た。

 馴染みのお屋敷街のとはスケールが違うのだ。お屋敷の親分というくらいに敷地が広い……大名屋敷というくらいの広さがあって、大きな建物だけで三つもある。二つは和風だけども、一つは洋風というか洋館だ。

 洋館は二階建てだけども、屋根の勾配が鋭角的で、三角のデッパリが三つほど、たぶんロフトになっているんだろう。

 屋根の上にテレビアンテナが立っていなければ、そのまんま映画の撮影に使えそう。

 テレビアンテナだけはどこの家でも変わらないんだなあ……そこにだけ親近感を感じていると視線を感じた。

 奥のでっぱり窓に女の子……と分かると直ぐに姿が消えた。

 髪の長い子で、野球帽をかぶっている。

 一瞬だったし、ツバの下は陰になっていてよく分からなかったけど、鼻から下はとても可愛い印象だった。

 突然のことで、胸がドキドキいってる。

 

「おねえちゃん、見ちゃったんだ……」

 

 これにもビックリした。

 お屋敷からの視線を避けるようにして、忍者みたく塀にへばり付いている小学生が居た。

「あれ窓女なんだぜ、あいつと目が合うと死んじゃうんだぜ」

「え、まさか」

 子どもに脅かされてたまるかと笑顔を作ってみるが引きつっているのが自分でも分かる。

 

 おーーい!

 

 道の向こうで声がした。どうやら、その子のお仲間で――いつまでやってんだ!――という響きがした。

 いま行くからというように手を上げると、真剣な眼を向けてきた。

「エンガチョしとこ!」

 薄気味悪かったけど、何年かぶりでエンガチョをきった。

 

 お屋敷の前を通って商店街に戻ると、なんだかホッとした。

 四月にしては熱すぎる日差しのせいか、アーケードの木陰が気持ちがいい。

 昨日発見した百円自販機、ちょっと迷って炭酸飲料を買う。

 取り出したら逆さだったので賞味期限の数字が見えた。

 あれ?

 180305とプリントされているではないか。

 大きなクェスチョンマークが立って、しばらくプルトップを開けることができないわたしだった。

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高校ライトノベル・ライトノベルベスト『遅刻の誉れ・1』

2018-03-29 06:50:11 | ライトノベルベスト

ライトノベルベスト
『遅刻の誉れ・1』
       



 ハルは、横断歩道で覚悟した……今日も遅刻だ。

 今日の遅刻で、一学期の遅刻は四十回を超える。
 学期で四十回を超えると特別指導だ。保護者同伴で、先生たちにみっちり絞られる。そいで夏休みに十日間も無遅刻で登校させられ、校内全部を掃除させられる。

――ボクのせいじゃない。好子さんが悪いんだ――

 ハルは、そう思った。事実2/3は、その通りなんだから。
 今年の三月に、オヤジが再婚した。その相手が好子さんなのだ。

 オヤジは、柄にもなく流行りの再婚活というのをやった。ネットで真面目そうな婚活サイトに当たりを付けて、いざ本番に臨んだ。都内の有名ホテルで、立食パーティーのかたちで行われた。

 で、オヤジは、先祖伝来の性癖である「迷い」に落ち込んでしまった。

 ハルの家は、昔で言えば華族様である。江戸時代は一万石ではあったが大名で、維新後、スッタモンダのあげくに伯爵に序せられた。

 ハルのご先祖は、戦国時代にまで遡る由緒ある遅刻の家系である。ご先祖は秀吉の北条征伐に遅刻した。もっとも主筋の伊達政宗の遅刻に付き合わざるを得なかったという理由はあったが、これがケチの付き始めだった。
 その後、うまく取り入って、徳川秀忠の家臣になったが、大坂冬の陣のときに秀忠と共に真田に足止めを食らわされ、またも大遅刻。あやうく減封かと思ったが、あくる夏の陣では秀忠に武功があり、チャラになった。
 元禄の時代、いわゆる忠臣蔵の事件が起こり、ハルのご先祖は、将軍綱吉より、ひそかに吉良上野介の身辺警護を命ぜられるが、史実が物語るように、ご先祖は、これにも間に合わず、むざむざ赤穂の田舎侍どもに吉良の首を持って行かれた。これは切腹ものかと覚悟を決めたが、綱吉はことのほかご機嫌麗しく「そなたを警護役として、幕府の体面は保たれたぞ」と、密かにお誉めの言葉を賜った。
 幕末では、勤王か佐幕か藩論がまとまらず、ぐずぐずしているうちに新政府が出来上がった。近隣の諸藩は奥羽列藩同盟に加わり、維新後ひどいめにあった。しかし、ハルのご先祖は、その奥羽列藩同名に入ることさえ意見がまとまらず。どっちつかずで、薩長の遠征軍を迎えることとなった。当初はお家断絶を覚悟したが、ご先祖の日和見のおかげで、周辺の小大名たちも日和って、実質的な抵抗をしなかった。で、結局ここに功ありとされ、のち伯爵を賜ることになった。

 ことほど左様に、ハルのご先祖の優柔不断というか、その結果としての遅刻は、ラッキーと世間に思われてしまった。
 
 下ってハルのひい祖父さんは、陸軍の中隊長で、敗戦直前まで大した武功はなかったが、部隊の損害も奇跡的になかった。昭和二十年の春に沖縄への移動を命ぜられるが、途中列車が、敵の攻撃を受け三時間到着が遅れた。ひい祖父さんの中隊はオイテケボリをくったが、先行した部隊は潜水艦にやられて全滅してしまった。
 おかげで、ひい祖父さんの中隊は終戦まで、誰一人戦死者を出さずにすんだ。

 戦後は、華族の財産は没収されると聞き、ひい祖父さんは取られるぐらいなら、さっさとくれてやると、家屋敷を国に寄付。おかげで財産税やらを取られずにすみ、残った資金で会社を作り、可もなく不可もなく父の代になって現在に至る。
 
 その父が、再婚パーティーに遅れてしまった。何事も起こらないはずがなかった。

 次々とカップルが出来ていく中、先祖伝来の出遅れ、迷い癖で、男性グループのミソッカスになってしまった。
 そして、女性グループの中にも、一人取り残された人がいた。

 それが、今のハルの義母である好子さんなのである……。

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高校ライトノベル・坂の上のアリスー26ー『俺たちの夏旅行はこうして始まった……』

2018-03-29 06:40:06 | 不思議の国のアリス

坂の上のー26ー
『俺たちの夏旅行はこうして始まった……』


 というわけで、俺たち五人は新大阪駅の改札を出たところにいる。

 わけというのは、親父からのメールだ。
――モニターの都合がつかなくなった、至急五人集めて欲しい――
 という内容で、俺と妹の綾香、幼なじみの静香と真治、純花の五人で関西の旅に出たのだ。

 なんのモニターか……息子の俺にもよく分からない。

 親父とお袋は学者……たぶん。昔からいろんな実験やら調査をやっていて、時々意味も分からずに手伝わされた。
 たぶん社会科学の方面で、地図に書かれたポイントをクリアしながら目的地へ行けとか、一日同じ景色を見ていろとか、モノを運べとかをやらされた。
 今回は、それの大掛かりなものだろうと、気楽に引き受けた。なんせアゴアシ代と一日5000円のギャラが出る。
 来年だったら進路のことなんかがあって長期の旅行なんかはできない。

 そうなんだ、期間は今日から三週間の長丁場。

 親父からのメールでなきゃ引き受けなかっただろう、世間的な常識ではヤバゲだもんな。

「……こいつらは、みんな化け物なんでしょ?」
 純花が綾香の後ろに隠れながら呟く。意外だったけど、純花は箱根から西に行ったことがないらしい。街で出会う関西人の声は大きく粗暴に見えるので苦手だと言っている。その関西人、その中でも最もコアな地である大阪は、純花にはとんでもない土地のようだ。
「わたしは聖天使ガブリエル。こんなソドムやゴモラのような享楽の地には行けないわ!」
 最初は眉間に皴を寄せていたが、俺と綾香が居なくなれば家族以外で口の利ける人間が居なくなってしまうので付いてきた。
 俺は、一種のショック療法で、純花のためになるんじゃないかと……こういう楽観主義は親譲りかなと思ってしまう。
 ま、相当の楽観主義でなきゃ、子ども二人をほっぽらかして何か月も海外に行ったりはできないだろうけど。

「小腹がすいたなあ、ちょっとうどんでも食っていこうや」

 真治が提案し、静香の笑顔で決定した。こういうところは真治も静香も人格者だ。
 駅構内の立ち食いに毛の生えたような店に入る。ちなみに新大阪駅には、こういううどん屋だけでも七軒ほどもあるんだそうだ。
 食券買ってトレーを持ってカウンターに並ぶ。
 俺と真治は全部載せ大盛りうどん、静香はスタミナうどん、綾香はきつねうどんに鯖寿司、純花は関東人の意地なのか食べ物に臆病なのかたぬきそば。

 全部載せうどんは、洗面器ほどの丼にうどんが二玉。トッピングは海老天、玉子、オボロ昆布、牛肉、明石焼きが載っている。
「オ、ダシは本格的なカツオと昆布の合わせ出汁!」
 家が寿司屋の真治は感動している。
「それだけちゃうで、トドメに追いガツオや!」
 厨房でオヤジが言う。その手には、今まさに追いガツオを投入しようとカツオで一ぱいのカゴが持たれていた。
「う~! いい香り!」静香が幸せそうな顔になる。
 投入された追いガツオは、モワッと湯気とともに香りをまき散らしたのだ。
「ムムム、タヌキがキツネに化けおった!」
 眉間にしわを寄せているのは聖天使ガブリエル。
「アハハ、スミちゃん、関西でタヌキってったら天かすじゃなくてお揚げなんだよ」
 転校慣れした綾香が暖かく講釈。

 それぞれのレベルで小腹を満たしたところで、二階のロータリーに。

「お待ちしていました」
 大阪弁のイントネーション、女執事のカッチリ衣装のお姉さんに声を掛けられた。
「宿舎からお迎えにあがりました」
「あ、ああ父のメールにあった放出さん?」
 親父からの二回目のメールで放出さんが担当だと知らされていた。
「でも、時間ピッタリですね!」
 純花以外が感動する。純花はまだ箱根の西に心を許してはいないようだ。
「みなさんのスマホにアプリが送られています」
「え、アプリ?」
「ええ、お父さまのメールに仕込まれていまして、連絡を取り合うことで他の方々にも送られることになっています」
 う~ん、油断がならない。
「それから、わたしの苗字は放出と書いてハナテンと読みます、どうぞよろしく」
「ムズイ……」

 俺たちの夏旅行はこうして始まった……。


 ♡主な登場人物♡

 新垣亮介      坂の上高校二年生 この春から妹の綾香と二人暮らし

 新垣綾香      坂の上高校一年生 この春から兄の亮介と二人暮らし

 二宮純花      坂の上高校一年生 綾香の友だち トマトジュースまみれで呼吸停止

 桜井 薫      坂の上高校の生活指導部長 ムクツケキおっさん

 唐沢悦子      エッチャン先生 亮介の担任 なにかと的外れに口やかましいセンセ 

 高階真治      亮介の親友

 三宮静香      亮介の親友 

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高校ライトノベル・奈菜のプレリュード・20《3月13日……あ、そうやったんか!?》

2018-03-29 06:31:37 | 小説・2

奈菜のプレリュード・20
《3月13日……あ、そうやったんか!?》



 撮影は今日から始まる。3月13日の金曜から……。

 別に昨日の12日から始まってもよかったんやけど、なんでかスケジュールは今日から始まった。
 別にジェイソンは出てけえへんやろけど、13日の金曜日に始めんでもねえ……というのが最初の感想。

「やあ、今年から宝塚の募集中止やて!」
 新聞を見ながら、富久子役の朱里が言う。場所は、中之島の設定。
 あたしらは架空の堂島女学校の生徒の役で、放課後中之島公園を歩いてて、落ちてた新聞を見てため息をつく。
「え、トクちゃん、宝塚いくつもりやったん!?」
「まあな。ま、思てるだけで、お父ちゃんらが許してくれるわけもないけどな」
「ハハ、船場のコイチャン(商家の下の娘の意味)が、受けられるわけも無しやな。うちらも新学期からは勤労奉仕で、ろくに学校いかれへんようになるらしいよ」
「ええやんか、勉強せんでも済むんやさかい」
「もう、不心得もんの非国民!」
「そんなハナちゃんみたいに力んどったら耐えられへんで。せめて中之島の梅の花でも楽しもうや!」

 と、満開の梅の花がある設定。中之島公園は今と戦時中とでは様子が違うんで、CGのはめ込み画面になる。

「せやな、お母ちゃんが言うてたけど、中之島公園もじきに芋畑になるやろて」
「もう、夢壊すなあ。せっかくのロマンチックが、ワヤやわ。梅がみんなお芋さんに見えてくるやんか!」
「ハハ、それはすんません。せやけど、これが現実やさかいね」

 ここで、ローレライを歌う。調子にのって原曲で。で、憲兵のオッサンに怒られる……とこは、午後から中之島公園の当時とかわらへん、とこを見つくろって、ロケになる。

「カット、OK!」と監督。

「じゃ、昼まで休憩でーす。お弁当は楽屋です。一時にはロケバス乗ります。よろしく!」
 今のシーンは一発でOKが出たんでホッとした。とたんに朱里が胸を鷲掴みにしてきた。
「痛い、なにすんのよ!?」
「今日はブラ外してんのね。奈菜ってノーブラでも、けっこうあるんだ」
「年相応です。朱里こそ、ちょっと痩せたんちゃう?」
「今ごろ気が付いた? 戦時中のドラマだから、三キロ落としたんだよ」
「そのせい、ロケ弁、ちょっと少ない……」
「アハハ、これがプロじゃ。覚悟いたせ!」
 朱里は、刀で切るふりをした。
「ウー、やられた!」
 と、合わせる。
「大阪の子って、ほんとうに、そういう反応するんだ。県民ショーでやってたけど、感動! もっかいやろ!」
「もう、イチビってんと、お弁当にしよ」
 朱里は、さすがにプロ。休憩中も自然にテンションを維持してる。

 ロケ地の中之島に行くと、準備の間に主だったスタッフとキャストで名うてのローカルバラエティーの記者会見を受けることになった。

「監督、なんでまた13日の金曜日に撮影再開なんですか?」
「3月の13日というのは、大阪大空襲の初日だったんですよ。水曜日でしたけどね。で、それに合わせて、この日にしました。70年前の午後11時、最初の大空襲が始まったんです」
「なるほど」
 MCのニイチャン感心しきり。
 実際は、スタッフ・キャストの関係で、この日にせざるをえんかったらしい。この業界、転んでもただでは起きません。

 見学の中に貫ちゃんが混じってるのが分かった。連絡したのは直美と貫ちゃんだけ。あとでサインしたろかなあ🎵

 そう楽しみにしてたら、貫ちゃんは、朱里にサインしてもろてた。プンプン! あたしには、やっぱり13日の金曜やった!

           奈菜……♡ 

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高校ライトノベル・あたしのあした・40『やられてしまった!』

2018-03-29 06:24:27 | 小説4

高校ライトノベル
あたしのあした・40
『やられてしまった!』
      

 放課後には、食堂で打つ手を思いついた。

 題して『これってセクハラなんだぞ!』という企画。

 毒島のオバサンたちが言うところのセクハラを、あたしたちが実演してみようというものだ。
「補講の時と同じ条件でさ、二人一組で六組。で、それぞれが毒島が言った『セクハラになる行為』てのを実演してみるわけ」
「やって、どうすんの?」
「『これはセクハラです!』って紹介するのよ。でもって、毎朝テレビに流してもらうの」
「それ、視聴率あがるよ!」
「でもさ、あたしらがセクハラだって認めてしまうのはシャクじゃない?」
「想像してみてよ、あたしら『悪い』って意識ないでしょ?」

「「「「「「「うん!」」」」」」」」

「だから、きっと楽しくやっちゃうと思う。楽しくやっちゃうとさ、言葉では言わなくても想いは伝わると思うんだ」
「どゆこと?」
「あたしたちは納得してるってサイン。楽しそうだったら、もうこれ以上非難することはないだろうって観た人は思うよ」
「そうか、こういうセクハラはダメだってことは、ちゃんと伝えるわけだしね」
「うん、毒島が主張することはきっちり表現するわけだし、あたしたちの想いも伝わるはずよ」
「そうしたら、あたしたちにも水野先生にも手を出せなくなるよね!」
 ベッキーの言葉で決まった。

 毎朝テレビの姫野さんに連絡すると食いついてきた。むろん楽しくやるという肝のところは言ってない。

「臨場感出すためにさ、毎朝テレビの系列のプールが使えるよ!」
「あ、毎朝ホテルの温水プール! 街のホテルのよりも高級だよ!」
「てか、水着でやるんだよね?」
「水着でなきゃ意味ないじゃん」
「スク水でなきゃだめかな? 毎朝ホテルなんだったらオシャレてみたいっしょ!」
「いーねいーね!」
「みんなで水着を買いにいこー!」
「「「「「「「おー!」」」」」」」
 盛り上がってきた。

 で、近場のスポーツショップなどを検索しようとして発見してしまった。思わずスマホをラーメン丼の中に落としてしまうところだった。

「うそ、水野先生謹慎処分だって!?」
 SNSのニュースを見て、ぶったまげてしまった。
 むろん先生の名前は伏せられていたけど、毎朝テレビの放送を観ていた人なら簡単に分かってしまう。
 先生は、戒告の上、県の教育センターで三か月にわたる研修を受けるということになっている。

 先を越されてしまった!

 ボキ!

 思わず握っていた割り箸をへし折ってしまった……。
 

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