大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・118「広すぎるお風呂は瀬奈さん付」

2017-11-29 11:07:49 | 小説

高校ライトノベル・オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
118『広すぎるお風呂は瀬奈さん付』
                

 

 

 え 広い……

 

 瀬奈さんに案内されて、少し降りたところにお風呂があった。

 

 十二年前は日帰りだったので、大お祖母ちゃんちの風呂は初めてなんだけど、あまりの広さに足が止まってしまった。

 まだ脱衣所なんだけど、ゆうに教室一つ分は有る。

「里の人たちも利用されますので大きんんです、さ、こちらにどうぞ」

 温泉旅館のように二つの壁面が四段の棚になっていて、一段ごとに八つの籠。4×8×2=62、ざっと六十人くらいは入れる。浴室に近いところが窪んでいて衝立で目隠しになっている。

「お嬢様、こちらへ」

 瀬奈さんが示したのは、その衝立の向こうで、入ると四畳半のスペースで、しつらえが高級になっている。

「こちらがお身内様の脱衣所になっております」

「ここでなきゃダメなのかしら?」

「お好きなところを使われて良いのですが、里の人たちが気を使われますので……」

 ああ、そういうことかと納得して裸になって浴室に向かう。

 

 え……広すぎる。

 

 浴室は脱衣所どころではなく、小学校の講堂くらいの広さに大小四つの浴槽がある。

 どうやら温泉で、浴室の外から、それぞれ掛樋が引かれて、盛大に湯煙を立てながらお湯を注いでいる。

 広場恐怖症ではないのだが、美晴はたじろいでしまった。

 夏休みのサンフランシスコで入った温泉も学校のプールのような広さだったけど、屋外でのスポーツ施設のような感じにたじろぐようなことは無かった。

 壁面の一つはゴツゴツの作り物ではない岩壁になっていて、この浴室が、元々は天然の岩風呂だったことを偲ばせる。

 大お祖母ちゃんちは天守閣さえあれば十分お城で通用しそうな屋敷なのだが、このお風呂は、それに倍する歴史の重さを感じさせる。瀬戸内家の始まりは、ひょっとしたら、この天然温泉の周囲から始まったのかもしれないと思った。

 

「お背中を流します」

 

 ハッとした。

 いつの間にか瀬奈さんがセパレートの水着で控えている。

「あ、え、あの……」

「嫡流の方のご入浴は、それぞれ役目の者が付きます。いつもわたしとは限りませんが、本日はわたしが務めさせていただきます。こちらへ……」

 檜の腰掛に座ると、瀬奈さんがユルユルと賭け湯をしてくれる。

 お風呂で人にお世話されるなんて初めてなので、いささか恥ずかしい。

「御屋形様と同じ肌をなさっておられます。やはりお血筋なのですね」

「え、あ、そうなんだ」

 三杯ほどの掛け湯を済ませると中ほどの浴槽を示された。

 入ってみると、思ったよりも熱くない。美晴は熱い風呂は苦手で、家の風呂も冬場でも四十度設定である。

「この浴槽が一番穏やかな温度設定になっています、慣れてこられましたらお好みの浴槽をお使いください。あちらの小さいのが一番たけだけしくて四十五度ございます。ちなみに、御屋形様は、あちらをお使いになっておられます」

 ただでも近づきがたい大お祖母さまが、いちだんと化けものじみて感じられた。

 同性とはいえ瀬奈に身体を洗われるのはきまりが悪かったが、髪を洗ってもらうのはラクちんで気持ちが良かった。

「えと……なんだか瀬奈さんの視線をヒシヒシ感じるんだけど」

「あ、申し訳ありません。お風呂のお世話はお嬢様の健康状態のチェックも兼ねております。まだ未熟者ですので、ご不快でしょうね、申し訳ございません」

「あ、いえ、そんなんじゃ」

 自分で指摘しておきながらワタワタしてしまう。

 

 風呂からあがって驚いた。

 

 着替えが全て新しくなっている。

 いちばん驚いたのは制服だ。

 三年間着慣れたものではなくて、触っただけで分かる新品に替わっていたのである。

「新しいものと、御屋形様からの御指示でございましたが、制服をお召しになってこられたのはお嬢様の心意気であるとお見受けいたしましたのでご用意させていただきました」

 すばやくメイド服に着替えていた瀬奈さんが、心なし楽しそうな表情で言った。

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高校ライトノベル・オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・117「帰りたんですけど」

2017-11-26 15:32:26 | 小説

高校ライトノベル・オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
117『帰りたんですけど』
                

 

 

 トイレに行くのが先決問題だったので瀬津さん……と間違えたメイドさんの正体は分からずじまい。

 

 手洗いのあと通された部屋は十二畳ほどで広かったけど、ほどよく暖房がきいている。

 南向きの窓には淡いグリーンのカーテン。二重窓になっているようで、窓の傍によっても寒くない。

 窓に沿ってベッド。セミダブルと言っていいほどの大きさで、硬すぎず柔らかすぎず。

 枕は、内と同じ低反発ピロー。

 枕の方角にL字型に机、デスクトップのパソコンは大学に入ったら、これに買い替えようと思っている新型。

 モニターが二つと思ったら、一つは憧れの二十四インチの液タブだ。

 書架には、わたしがシリーズで読んでいるラノベが6シリーズ並んでいる。

 部屋の真ん中には四人で鍋ができそうな炬燵が合って、足を突っ込むと、とてもホンワカ。

 ウツラウツラしながら思った。さっきの大広間と違って、広さ十分なわたし好みの部屋……わたし好み?

 

 トントン

 

 ドアがノックされた。

「ど、どうぞ」

 反射で、そう答えてしまう。

――失礼します――

 一声あって、さっきのメイドさんが入って来た。

「今日は、申し訳ありませんが、御屋形様お戻りになりません。時間も時間ですので……」

「あ、いいのいいの。大お祖母さまは忙しい方なんだから、わたしはこれで失礼します。穴山さんに駅まで送ってもらったら、まだ十分新幹線には間に合う、さ、急ぎましょうか」

「あ、いえ。食事になさいますか? お風呂になさいますか? というお話なんですが」

「あ、あ……えと……」

「申し遅れました、わたくし美晴お嬢様のお世話を担当いたします瀬奈と申します。お嬢様も御存じの瀬津の娘でございます。母は、いまは御屋形様の秘書を務めております。不束者ではありますが、よろしくお引き回しのほどお願いいたします」

 瀬奈さんか、やっと正体が分かった。そうよね、似てると思ったら親子だったのね。お辞儀の仕方なんて、もう堂に行っちゃって、アキバのメイド喫茶なんて目じゃないわ。それでこそわたしの世話係……世話係って? わたしスグにでも帰るつもり……

 

 スマホの呼び出し音……わたしにじゃない。

 

「失礼いたします」

 なんだ瀬奈さんの……あの、帰りたんですけど(;^_^A

「お食事は、お役目のみなさまや里のみなさまが御一緒されますので、お嬢様にはお風呂の方にご案内せよとのことです。ささ、どうぞこちらへ」

 さっさとドアの外に出て行くしぃー!

「お嬢様、お湯殿にまいられますー、みなみなさま御仕度をーーーー!」

 彼方で大勢の人が動く気配、なんだかとんでもないことになって来た。

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高校ライトノベル・オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・116「足がしびれた」

2017-11-23 15:03:51 | 小説
高校ライトノベル・オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
116『足がしびれた』
              




 三十分たっても大お祖母さまは現れない。

 だだっ広い広間なので冷える。

 トイレに行きたいんだけど、行ったら負けのような気がする。

 せめて座布団を敷きたいんだけど、大お祖母さまに会ってもいないのに座布団を使うのは無作法だ。
 むろん、こんな田舎の作法に従う気はないんだけども、大お祖母さまと勝負するまではと思う。

 声を上げれば、どこか近くで控えているメイドさん……たぶん瀬津さん(メイド長)が取り計らってくれる。

 だけど、そうするには瀬津さんと話さなければならないし障子や襖を開けたり廊下を歩いたりしなければならない。
 ここでの作法は畳の縁を踏んではいけないとか、目上の前で座布団を使ってはいけないことぐらいしか分からない。
 大お祖母さまに会って決着を付けるまではボロは出せない。

 それに……もう、感覚が無くなるくらい足がしびれて、まともに立つこともできない。

 たった三十分、大お祖母さまに会う前に悲惨なわたしだ。

 大お祖母さまが現れるのは、上段の向かって左側。
 おつきを従えて静々と現れるはず。
 じっと目の端でとらえているので、いまにも襖が開くような錯覚におちいる。

 失礼します

 右後ろから声がしてビックリ。
 障子が開いたんだけど、痺れきって振り返ることもできない。

「御屋形様は急なご用事でお出ましにはなられません。まず、お部屋にご案内いたします」

 瀬津さんの声、作法通りに障子を広く開き、廊下で待ってくれている。
 ここでトチるわけにはいかない。
「承知しました……」
 かっこを付けて立とうとする。

 あわわわわ!

 ラノベの萌えキャラみたいな声を出た。

 バッターン!

「あ、美晴お嬢様!」

 瀬津さんが駆け寄って介抱してくれる。
「ご、ごめんなさい、ちょっと痺れてしまって……」
「わたしの肩におつかまり下さい」
「ずびばぜ~ん」
「さ、どうぞ」
 優しく支えてくれた、その顔は瀬津さんではなかった……。
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高校ライトノベル・高安女子高生物語・52『オッサンの時代とはちゃうねん!』

2017-11-23 06:16:35 | 小説・2

高安女子高生物語・52
『オッサンの時代とはちゃうねん!』
     


――僕も、明日香のことは好きや――

 ドッキン!

 それが、まず目に飛び込んできて、うちは思わず、スマホから目を離した。

 ドキドキドキドキドキドキドキドキ

 うちの中に勝手に住み込んだ、山川の詳説日本史でもたった一回しか出てけえへん楠木正成が、うちの関根先輩への煮え切らん思いに業を煮やした。
 ほんで、こないだ玉串川の川辺で、うちに「好きや」と告白させよった。そんでも、それ以上なにもようせんうちに苛立ったんか、意地悪か、善意か、よう分からへんけど、うちが寝てて意識がないうちに先輩のアドレス調べて、うちの声で電話しよった。で、その返事がメールで返ってきた。

 心を落ち着けて続きを読んだ。

――保育所のころから好きやったけど、明日香は他にも男の友達がいてて、俺のことは眼中に無いと思てた。こないだの玉串川のことも、あとのシラっとした態度でイチビリかと思た。夕べのことで、明日香の気持ちは、よう分かった。正直、今は美保もいてる。煮え切らん男ですまん。でも、夕べみたいなことはあかんと思う。学――

 心臓がバックンバックン言うてる……ん……ちょっとひっかかる?

 夕べみたいなこと……電話以外になんかしたか? 

 うちは電話の履歴を調べた。美保先輩と二人の電話の履歴はあったけど、関根先輩のは無かった。で、メールの送信履歴を見る。

――今から、実行に移します。明日香――

 え……うちて、なにを実行に移したんや!?

 そう思うと、ジャージ姿のうちが浮かんできた。どうやら夕べの記憶(うちの知らん)の再現みたいや……。

 時間は夜の十二時を回ってる。

 素足にサンダル。自転車漕いで……行った先は、関根先輩の家……自転車を降りたうちは、風呂場から聞こえる関根先輩の気配を感じてる。先輩がお風呂! せやけど、うちは覗きにはいかへんかった。方角は、関根先輩の部屋。その窓の下。
 うちは、そーっと窓を開けると、先輩の部屋に忍び込んだ。で……。

 あろうことか、先輩のベッドに潜り込んでしもた!

 先輩が、鼻歌歌いながら部屋に戻ってきた。

「先輩……」
「え……!?」
「ここ、ここ」
 うちは布団をめくって、姿を現した。
「あ、明日香。なにしてんねん、こんなとこで!?」
「実行に移したんです……うちもお風呂あがったとこです」

 ゲ、うちはジャージの下は、何も身につけてないことに気が付いた! ほんで、おもむろにジャージの前を開けていく。先輩の目ぇが、うちの胸に釘付けになる!
 うちの手ぇは、ジャージの下にかかった。

「あかん、明日香! こんな飛躍したことしたら!」
「言うたでしょ。うちを最初にあげるのんは、先輩やて」
「声が大きい……!」

 それから、先輩は、うちのジャージの前を閉めると、お姫さまダッコ!……で、窓から外に出されてしもた。
「大丈夫か……頭冷やして……オレも連絡するさかい!」
 で、うちは、そのまま自分の家に帰った。

 なんちゅうことをしたんや!

「好きやったら、あたりまえやろ。この時代の男はしんきくさい。好きなくせに夜這いも、ようさらさんと。せやから明日香の方から仕掛けていったんや」

「オッサンの時代とはちゃうねん!」

「せやから、夕べは大人しい帰ってきた。関根、ほんまにビビっとったからな。わし、分からん。好きな女が二人おってもええやんけ。付き合うて、相性のええほうといっしょになったらええねん。せやけど、明日香の気持ちは伝わったで」
「伝え過ぎや!」
「そう、怒りな。そろそろ学校いく時間とちゃうけ?」
「あ、もう7時45分!」

 うちは、ぶったまげて、制服に着替えよ思て、パジャマ代わりのジャージを脱いだ……ほんで、気ぃついた。夕べの朝やから、うちは、パンツも穿いてなかった……。

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・51『えらいこっちゃ!』

2017-11-22 06:37:13 | 小説・2

高安女子高生物語・51
『えらいこっちゃ!』
        


 今日は、公式と非公式の「えらいこっちゃ!」があった。

 高校二年にもなると、世間の手前「えらいこっちゃ!」と言うとかなあかんことと、心では、そう思てても口に出して「えらいこっちゃ!」と言うたらあかんことの区別ぐらいはつく。

 それが、一日に二つとも起こってしもた。珍しい一日や。

 世間の手前は、新しい校長先生が来たこと。

 世間には、一回聞いたら忘れられへん名前がある。例えば剛力 彩芽。苗字と名前のギャップが大きいんで、この人はテレビで一発で覚えた。これが、特別であるのは、たいていの人の名前は一発では覚えられへんという常識的な話。
 新しい校長先生は、府教委の指導主事やってた人。
 指導主事や言うだけで、うちはガックリや。何遍か言うたけど、うちの両親は、元学校の先生。せやから、よその子ぉよりは、学校のことに詳しい。
 指導主事言うのは、学校現場では使いもんにはならん先生がなるもんらしい。で、校長先生の半分は、教師として生徒やら保護者と協調でけへん人がなってる。新しい校長先生は、その両方が被ってる。せやから、着任の挨拶もろくに聞いてへん。もっとも、本人が前の校長さん以上に話し下手いうこともあるけど。

「どうですか、新しい校長先生がこられて?」

 学校の帰りに、テレビ局のオネエチャンに掴まってしもた。

「……今度のことは、うちら生徒には、大変ショックです。せやから新しい校長先生に指導力を発揮してもろて、一日も早く学校を正常化してもらいたいと期待してます」
 と、毒にも薬にもならへん、ええかげんな答をしといた。なんせ、その時には、新校長の名前も忘れて、顔の印象もおぼろ。せやから、最初の溜め息は、どないしょ!? いうだけの間。
 それが、テレビ局には「傷ついた女子高生の苦悩」みたいに写ったみたいで、他の生徒にもインタビューしてたけど、ニュースで流れたんはうちのインタビュー。なんちゅうても、こないだまでは演劇部やったさかい、悩める女子高生一般なんかチョロイもん。
「学校の主人公であるべき生徒たちは、このように傷つき混乱しています。民間人校長のありようが問われ、なによりも一日も早い正常な学校生活の復活が望まれます」
 と、オネーチャンは締めくくってた。どーでもええニュースやったけど、学校の主人公が生徒やいうのには引っかかった。主人公やなんて感じたことない。学校いうとこは上意下達。下々の生徒風情が主人公やなんて、日本の平和は憲法9条のおかげやいうくらいに非現実的。

 もう一個の「えらいこっちゃ!」は、関根先輩からメールがきたことーーーー!!

 そやかて、うちは先輩のアドレス知らんし、先輩もうちのアドレスは知らんはず……それが、どうして!?

 犯人は……正成のオッサンらしい。

 こないだ、オッサンのタクラミで、関根先輩に告白させられてしもた。せやけど、正成のオッサンは、スマホなんちゃらいうもんは知らんさかい、アドレスの交換なんかはせえへんかった。しかし、うちに覚えがないいうことは、うちの中に居てる楠木正成のオッサンしか考えられへん。
「やっぱり、オッチャンか?」
「ああ、日々学習しとるさかいな。明日香が寝てる間に、チョイチョイとやっといた。三人ほど電話したら、すぐにアドレス分かったで」
「さ、三人て、だれやのん? なに言うたん!?」
「人の名前て、すぐ忘れるよってな。最後の一人だけ覚えてる」
「だ、誰やのん!!?」
「田辺美保。こいつは明日香の恋敵でもあるさかいな。牽制の意味もこめて電話しといた」
「で、なに喋ったん……いや、うちに何喋らせたんや!?」
「忘れてしもたなあ。まあ、ええやんけ。これで二三歩は関根君に近づいたで。アハハハ」

 豪快な笑いだけ残して正成のオッサンは、うちの奥に潜ってしまいよった。

 怖いよって、なかなか関根先輩のメールは開かれへんかった……。

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高校ライトノベル・オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・115「ちっとも変わってない……」

2017-11-21 15:55:50 | 小説

高校ライトノベル・オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
115『ちっとも変わってない……』
              



 甲府の街は十分都会なんだけど、十分も走ると凄みの有る山々が迫ってくる。

 その山々を経巡るように三十分も走ると二十一世紀の感覚が無くなってしまう。

 アスファルト舗装にさえ目をつぶれば、ここが縄文時代と言われても「そうなんだ」と頷いてしまうし、信玄公の軍勢が通られますと言われれば、馬蹄の音が木霊してきそうな気さえする。
「ここで舗装道路は終わりです」
 穴山さんが呟くと、それが音声入力のスイッチであったかのように土道の感触がお尻に伝わってくる。

「ちっとも変わってない……」

 美晴の小さな歓声を穴山さんは穏やかな笑顔で受けとめてくれる。

 林を過ぎると騙し討ちのように川が現れ、車は器用に直角に曲がっていく。知らずに突っ込んで行ったら谷と言っていいほどの流れに突っ込んでしまうだろう。

 そして見えてきた、瀬戸内家先祖伝来の城郭と言っていいお屋敷が。

 屋敷の前は、先ほどの川の支流に当たる流れが堀のように横たわり、石垣の上にはしゃちほこが載った二層の門が聳えている。
「しゃちほこが有るのはお城なんだよね」
 そう呟いた時「しゃちほこは火除のお呪いなんですよ」と、穴山さんは幼い美晴に教えてくれた。
 あれから十二年もたっているのに、ほんの昨日のことのように思い出されるのは、あまりに変わりのない屋敷と風景のせい。

 だけど、美晴には大お祖母さまの気持ちが変わっていないことの意思表示のように思えた。

 制服を着てきて良かったと思った。
 生徒会の役目は終わったけど、まだ空堀高校の生徒であることには変わりはない。
 大お祖母さまは――公の仕事をしているうちは無理強いはしない――ということだったんだから。
 どう切り出して言いかは分からないが、制服は公のシルシだ。瀬戸内美晴という個人である前に空堀高校の生徒である。

 大お祖母さまに会って、なにを話のてこにするかは思い浮かばないが、制服である限りなにかできるはずだ。

「それでは、仕来りですので、ここでお控えください」

 やっぱりと思った。
 瀬戸内家は仕来りにやかましい。
 
 美晴は通された広間の畳の縁を踏まないようにして、上段の二間前に正座して待った。
 座布団は置かれていたが大お祖母さまの指示が無い限り使ってはいけないことも承知している。
 上段は中央が間口二間の床の間のようになっていて、瀬戸内家の代紋を背に厳めしい鎧が据えられて、まるで時代劇に出てくる殿様との対面の間のしつらえだ。

 瀬戸内家は、甲斐の国に八百年続く地元の名家であったのだ……。
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高校ライトノベル・高安女子高生物語・50『お祖母ちゃんをカバンに入れて』

2017-11-21 06:28:45 | 小説・2
高安女子高生物語・50
『お祖母ちゃんをカバンに入れて』
     


 お祖母ちゃんをカバンに入れて、京都の山中に出かけた……。

 と言うても、お祖母ちゃんを絞め殺して、山の中に捨てにいったワケや無い。
 だれでもそうやけど、うちには二人のお祖母ちゃんが居てる。
 お母さんのお母さんと、お父さんのお母さん。
 お母さんのお母さんの方は、今里で、足腰不自由しながら健在。

 カバンの中に入ってるのは、お父さんのお母さん。つまり父方の祖母。

 このお祖母ちゃんは、去年の7月に、あと10日ほどで88になるとこで亡くなった。そのお祖母ちゃんの遺骨が、うちのカバンの中に入ってる。

 家のお墓は、京都の東山にあるロッカー式のお墓。3年前にお祖父ちゃんが亡くなったときに初めて行った。
 お祖父ちゃんの骨壺はレギュラーサイズやったけど、三段に分けた棚には収まらへんかった。しゃあないんで、一段外して、なんとか収めた。
 これで、家の家族は学習した。
「ここは、普通の骨壺で持ってきたら、一人で満杯。アパートで言うたら単身者用の1K」
「このセコさは、ほとんど詐欺やなあ」
 お父さんは、そない言うて、怒ってた。
「そのうちに、なんとかしよう」と、言うてるうちにお祖母ちゃんが、去年の7月に、突然亡くなった。

 で、しゃあないんで、分骨用の小さい骨壺に入れてもろた。中味は500CCほどしかあれへん。
 ほんのちょっとしかお骨拾われへんかって、可哀想な気になった。
 そのペットボトルほどの骨壺が、うちのカバンの中でカチャカチャ音を立ててる。
 べつに骨になったお祖母ちゃんが、骨摺り合わせて、文句言うてるわけやない。フタが微妙に合わへんので、音がする。電車の中では、ちょっと恥ずかしかった。

 うちは、このお祖母ちゃんの記憶がほとんど無い。小学校に入ったころには、認知症で特養に入ってた。要介護の5で、喋ることもでけへんし、頭の線切れてるから、うちのこともお父さんのことも分からへん。

 ただ保育所に行ってたころ、お祖母ちゃんの家に行って、うちが熱出したとき、かかりつけのお医者さんに連れて行ってくれたことだけ覚えてる。
 正確には、お父さんが、うちをせたろうて、お祖母ちゃんが先をトットと歩いてた。足の悪かったお祖母ちゃんは、普段は並の大人の半分くらいの速さでしか歩かれへん。それが、そのときは、お父さんより速かった。

 せやから、うちの記憶にあるお祖母ちゃんは、後ろ姿だけや。

 その後ろ姿が、骨壺に入ってカチャカチャお喋りしてる。フタの音やいうのは分かってるけど、うちにはお祖母ちゃんの囁きやった。
 その囁きの意味が分かるのには、まだ修行が足らん。大人になって、今のカチャカチャを思い出したら、分かるようになるかもしれんなあ。
 そやけど、この正月に亡くなった佐渡君は、ハッキリ火葬場で姿が見えた。声も聞こえた。お祖母ちゃんのがカチャカチャにしか聞こえへんのは……うちの記憶が幼いときのもんやから……そない思とく。

 京都駅に着くと、初めて見る女の子が来てた。

「あ、未来(みく)ちゃんやないか。大きなったなあ!」

 お父さんが、昔の営業用の大きな声で言うた。その声で分かった。うちの従兄弟のオッチャンの娘や。
 うっとこは、お父さんが晩婚。伯母ちゃんは二十歳で結婚したんで、一番歳の近い従兄弟でも20年離れてる。
 せやから、従兄弟はみんなオッサン、オバハン。従兄弟の子ぉの方が歳が近い。

 せやけど、この子には見覚えが無い……思い出した。このオッチャンは離婚して、親権があれへん。それが、こうして連れてこれたいうのは……お父さんは、一瞬戸惑うたような顔になってから声かけてた。身内やから分かる微妙な間。なんか事情があるんやろ。

 納骨が終わると、未来ちゃんの姿がなかった。

「ちょっと腹痛い言うて、待合いで座っとる」
 従兄弟のオッチャンは、気まずそうに言うた。
 待合いに行くと、椅子にお腹を抱えるように丸なった未来ちゃんが居てた。
「大丈夫か、未来ちゃん?」
 うちが声をかけると、ビクっとして顔を上げた。
「う、うん……大丈夫」
 どこが大丈夫やと思た。佐渡君と同じ景色が顔に見えた。この未来ちゃんは人慣れしてへん。おそらく学校にもまともに行ってへんねやろ。うちが、それ以上声をかけるのははばかられた。佐渡君と違うて、血のつながりはあるけども、心の距離は、もっと遠い。

「なんや、この時代の人間はひ弱やなあ」

 家に帰ると、正成のオッチャンが、うちの心の中で呟いた……。

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・49『大阪はどないなっとんねん!?』

2017-11-20 06:40:52 | 小説・2

高安女子高生物語・49
『大阪はどないなっとんねん!?』
     


「おーい、明日香とこの校長クビになったで!」

 お父さんの声で目が覚めた。

 パジャマ代わりのジャージで二階に下りると、お父さんが新聞を広げてた。
「このオッサン、たいがいやなあ……」

――またも民間人校長の不祥事! どうなる、大阪!?――

 見出しが三面で踊ってた。
 読んでみると、人事差別と人事権の恣意的な乱用。事故死した生徒・保護者への心ない対応。
 そんな副題のあとに、実名は伏せながら、関係者が読んだら、事細かに分かる内容が書いたった。

 再任用教諭の理由無き任用停止。元教諭、校長を提訴。

 あ、これは光元先生のこっちゃ。始業式で、光元先生は一身上の都合で退職しはったと聞かされてた。
 光元先生は、OGH高校の前身府立瓦屋町高校の時代からの先生。学校の生き字引みたいな先生で、卒業生やら保護者からの信任の厚い先生やった。佐渡君が亡くなったときも校長室で、なんか話してはったけど、うちら生徒には分からへんかった。
 新聞には「あの校長先生は、うちの子が死んだんを真剣に受け止めてもらえなかった」と、母親の言葉が書いたった。佐渡君は交通事故で、うちが救急車の中で見守ってるうちに死んでしもた。純然たる事故死。

 佐渡君は遺書を残してた。

 交通事故で遺書いうのは、なんか変や……読み進んでいくと分かった。

 佐渡君は、生きる気力を無くしてた。で、なにが原因かは分からへんけど死を予感して、遺書めいたものを書いてたらしい。
 お母さんは、それを生徒に公開して欲しいと頼んだらしいけど。校長は断った。で、全校集会で、ありきたりの「命の大切さ」「交通事故には気を付けよう」で、お茶を濁しよったのは記憶にも新しい。

 で、肝心の遺書は、新聞にも載ってなかった。府教委も内容を精査した上で、公開を検討……あほくさ。個人名が書いたったら、そこ伏せて公表したらええだけのこっちゃ。

 それから、佐渡君が死んで間もない日に、音楽鑑賞で大フィルの演奏を聞きにいくはずやったんが、急に取りやめになった。「生徒が命を落とした間もない日に、かかる行事はいかがなものかと思った」と校長は言うてるらしい。
 お母さんは、あとになって、そのことを知った。
「あの子は音楽の好きな子でした。実施されていたら、遺影を持って、わたしが参加するとこでした。なんで、相談してもらえなかったんでしょう」
 お母さんの弁。こんなことは、うちら何にも知らんかった。火葬場で会うた佐渡君の幻も、そういうことは言わへんかった。佐渡君は根の優しい子やから、たとえ校長先生でも、人が傷つくことは言いたなかったんやろと思た。

 で、光元先生は再任用の先生で、契約は一年。
「せやけど、65歳までは現場に置いとくのが常識や」
 お父さんは、そない言う。新聞には3月29日の最終発表で「次年度の採用はありません」と言うたらしい。
 29日て、どこの学校でも人事は決まってしもてて、OGHで再任用されへんかったら、事実上のクビといっしょなんは、うちの頭でも分かる。

 校内でも、恣意的な人事が……ここ読んでピンときた。

 ガンダムが急に生活指導部長降りて、うちらの担任になったこと。

「ガンダム先生て、どこの分掌や?」
 お父さんが聞いてきた。
「どこて、平の生指の先生」
「担任しながら生指か、そらムチャやで」
「なんで?」
「担任やったら大目に見られることでも、生指やったら見逃されへんことがいっぱいあるで。まして、前の生指部長やろ。ダブルスタンダードでしんどいやろなあ」
 お父さんは、ため息をついて新聞をたたんだ。

 気ぃついたら、お父さんと頭ひっつけるみたいにして新聞読んでた。お父さんと30センチ以内に近寄ったんは、保育所以来や。ちょっと気恥ずかしいような、落ち着かんような気持ちになった。

 校長先生は、教育研究センターいうとこに転勤いうことになってたけど、これは事実上の退職勧告やろなあと思た。

 大阪は、大阪市も府も、民間採用された区長やら校長が途中で辞めたり、辞めさせられたりいうことが多い。そやけど、まさかうちの学校で、こんなことが起こるとは思わへんかった。

 それと、佐渡君のお母さんが佐渡君のこと思てたんも、意外。

 切ないなあ……。

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高校ライトノベル・オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・114「12年ぶりのニッキ水」

2017-11-19 16:25:56 | 小説
高校ライトノベル・オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
114『12年ぶりのニッキ水』
              




 できることならもう一期やっていたかった。

 でも、三年生は後期生徒会役員選挙には出られない。

 あたりまえ、後期役員は来年の5月までの任期。三年生が役員をやったら任期途中での卒業になってしまう。

 わたしは一年の後期から、通算四期二年間生徒会副会長を務めた。

 辞めるわけにはいかない、辞めればひいお祖母ちゃんとの約束を果たさなければならなくなるからだ……。

 
 お祖母ちゃんは17歳でお母さんを生んだ。お母さんは16歳でわたしを生んだ。
 だから、お祖母ちゃんは51歳、お母さんは34歳でしかない。

 なぜ、そんなに早く子どもを産んだか。


 それが、いま列車に揺られて山梨の田舎に向かっていることに繋がっている……。

 甲府の駅に下りてロータリーに出ると、まるで昨日の今日という感じで穴山さんが立っていた。
「お迎えにまいりました、お嬢様」
「……ご苦労です」
 ほんとは「お嬢様なんて止してください」と言いたかったんだけど、無駄だと分かっているので止した。抗えば、穴山さんは礼をもって「そうはまいりません」から始まって一分近くは喋ることになり、その話の内容は、ロータリーに居る地元の人や観光客の耳に留まり、場合によっては写真や動画に撮られかねないからだ。わたしは、ちょっとしたこだわりで学校の制服を着ている。制服姿で撮られては空堀高校と特定されてしまい、特定されて関係者に見られたら、すぐに瀬戸内美晴と知れてしまう。

 それだけは避けなければならない。

 数日後、無事に大阪に帰ることになっても。このまま死ぬまで田舎に留め置かれることになっても。

「穴山さん、ちっとも変わりませんね」
 ロータリーから車が出て、五分もすると沈黙に耐えられなくなり、自分から声をかけた。
「嬉しゅうございます、ひょっとしたらお屋敷まで口をきいていただけないのではないかと心配いたしておりましたから」
「穴山さんには何もありません。大お祖母様にもありません、ただ、この身体にも流れている瀬戸内家の血が疎ましいだけです」
「……それは、この穴山が嫌いと言われるよりも辛うございますね……お嬢様は、お心に留まるような殿方はおいでではなかったのですか」

 あ、と思った。

 穴山さん、家令としては踏み込み過ぎた物言いだ。
 穴山さんは、大お祖母様に会わざるを得ないわたしを哀れに思ってくれているんだ。
 お祖母ちゃんもお母さんも、いまのわたしと同じこの運命を避けるため、18歳に満ちるまでに子どもを産んだんだ。
 同居人のミッキーの顔が浮かんだ。
 お母さんがミッキーをホームステイさせたのは、それも自分もお祖母ちゃんも仕事で居なくなった時にホームステイさせたのは狙ってのことだ。
 でも、それにはのらなかった。
 ミッキーはダメだよ。趣味じゃないんだよ。

「クーラーボックスにニッキ水が入っております」

「え、ニッキ水!?」

 わたしも18歳の女の子だ、好きな飲み物、それももう飲めないと諦めていたものを見せられると心が弾んでしまう。
「もう作っているメーカーも少のうございましてね」
「そうでしょ、わたしも12年前に田舎で飲んで以来だもの」
「それが、お嬢様、そのニッキ水は大阪で作っているんでございますよ」
「え、あ、ほんと」
 ボトルという今風が似合わない瓶の側面には大阪は都島区の住所があった。
「不器用なものですから、お嬢様のウェルカムに、こういうものしか思いつきませんで」
「ありがとう、穴山さん」

 わたしは、シナモンの香り高いニッキ水を口に含んだ。

 12年ぶりの大お祖母さまとの再会にカチカチになっていく肩の凝りが、ほんの少しだけやわらいでいく……。
 
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高校ライトノベル・高安女子高生物語・48『ガンダムの怒り』

2017-11-19 06:28:13 | 小説・2

高安女子高生物語・48
『ガンダムの怒り』
        


 新学年の最初はいろいろある。

 一年のときに書いた健康調査とか住所・電話とか、変更があってもなかっても、全員に配られる書類。
 たいていの子ぉは変更あれへんさかい、新しいクラスと出席番号。あと、簡単な健康上のアンケートをチェックしてしまい。

 一年のとき佐渡君が、この健康アンケートのとこに「ビタミン不足」と書いたんを思い出した。一応健康問題なんで、佐渡君は、保健室に呼び出されて詳しく聞かれた。
「佐渡君、君は、なにのビタミンが足らんのん?」
 保健室の先生に聞かれて、佐渡君は、こない答えた。

「はい、ビタミンIです……」

 頭の回転の鈍い藤田先生(一年のときの担任)は「ビタミンIて……?」やったけど、保健の先生はすぐに分かった。
「アハハ、あんたて、オチャメな子ぉやな」

 Iは愛にひっかけてた。気が付いた藤田先生はクラスで言うて、みんなが明るく笑うた。

 佐渡君も笑うてたけど、ほんまは切実やったんや。あんな寂しい死に方して……。

 それから、進路に関する説明会と、早手回しの修学旅行の説明が二時間。「二年は、一番ダレル学年やから、締めてかかれ」と、まだ生活指導部長の名残が消えへんガンダムの長話。その間に、一年が発育測定。

 で、今日は、うちら二年が発育測定。

 身長、体重、座高、胸囲、聴力、視力と計る。クラス毎に最初に計るのんが決まってて、あとは空いたとこを適当に見つけて回っていく。ここで暫定委員長、副委員長の力が試される。空いたとこを要領よう回るのは、この二人の目端にかかってる。
 南ララアも安室並平も目端が利くとみえて、わがガンダムクラスは、イッチャン早よ終わった。
 当たり前やったら、教室に戻って、担任が待ってて視力検査やっておしまい。で、チャッチャッとやったクラスから早よ帰れる。
 ところが、教室に戻ると肝心のガンダムが居らへん。

 まあ、先生も測定係りやってるから、しゃあない。

 で、教室のあっちこっちで、スマホをいじりだした。中には仲ようなった子同士がメアドの交換なんかやってる。
 うちは、ネットで『はるか 真田山学院高校演劇部物語』を読んでた。この本は、この5月には改訂されて、『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』で出版される。799円と大阪の人間の心をくすぐるような値段。買うて読もうと思てるんで、比較のためにチョビチョビ読み直してる。
「佐藤さん、あんたラインせえへんのん?」
「え……あれて、ヤギさんの手紙みたいにキリ無くなるさかい、うちはせえへんねん」
「えらいね!」
 ララアが誉めてくれた。

 ほんまは、やりたい相手は居てる。天高の関根先輩。

 こないだは、正成のオッサンに告白させられてしもたけど、正成のオッサンはスマホを知らん(なんちゅうても700年前の人間)さかい、メアドは聞き損ねた。ララアに誉められるほどイイ子とはちゃう。せやけど、人の特徴を美点から見ていこいうララアの自然な対応には好感が持てた。

 それから5分ほどして、校内放送が入った。

「ただ今より、臨時の全校集会をやります。生徒は、至急体育館に集合しなさい」
 体育館にいくと、明日は3年の発育測定やいうのに、測定機材は隅に片づけられてた。
「黙って、チャッチャッと座れ!」
 まだ生活指導部長の名残が抜けへんガンダムが仕切りはじめた。新しい生指部長は黙ってる。ガンダムはなんか怖い顔してる。
 みんなが静まったとこで、教頭先生がマイクの前に立った。

「ちょっと事情があって、校長先生がしばらくお休みになられます。その間は、わたしが校長の代理を務めます。いま君らに言えるのは、そこまでです。なんや、よう分からんかもしれませんが、先生らも、いっしょです。で……」

 あとは、事務的な話。奨学金やら、各種証明書の発行が今日明日はでけへんような……。
 ガンダムの顔が、いよいよ厳しい、怒ったようになってきた……。

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・47〈新担任はガンダム!!〉

2017-11-18 06:38:10 | 小説・2
高安女子高生物語・47
〈新担任はガンダム!!〉
       


 ゲ、ガンダム!!

 同じような声が、体育館のうちらの列からわき起こった。
 今日は、一学期の始業式。朝学校に行くと体育館の下の下足室入り口に新しいクラス表が貼りだしたった。一年で同じクラスやった子が五人いてるけど、あんまり付き合いのない子ぉらやったんで、特に感慨はない。ただ男子に学年一のイケメンとモテカワが居てるのが気になったぐらい。

 ま、その話はあとにして、始業式での担任発表。

 うちらは、3組なんで三番目の発表。ガンダムがおっさんは不思議やない。なんちゅうても生活指導部長。
「三組担任、岩田武先生」
 司会の先生が言うたとたんに、「ゲ、ガンダム!!」になってしもた。
「3組を鍛え上げることは、もちろん。二年生をOGHで最高の学年にしたるから、そのつもりで」
 それだけ言うと、ニヤリと方頬で笑うて、担任団の席に戻っていきよった。クラスのみんなは、怖気をふるった。

 なんで岩田武がガンダムなんかは、字ぃ見たら分かると思う。音読みしたら「ガンダム」 それに、その名にふさわしい程の頑丈さと、ひつこさ。

 校門前で、朝の立ち番してるときに、あの美咲先輩がスカートの中を盗撮されたことがあった。二百メートルほど離れてたけど、「コラー!」の一声と共に駆け出して追跡。なんと一キロ追いかけて犯人を捕まえた。ついでに途中で喫煙しとったS高校の男子生徒のシャメも撮って、S高校の生活指導に送り、ありがた迷惑にも思われた。で、これだけの大立ち回りしながら息一つ乱れへんポーカーフェイス……いかにもガンダム。せやから、さっきの挨拶で方頬で笑うたんは、極めて異例で、クラスのみんなが怖気をふるうたのも無理はない。

 演劇部辞めてから、学校にアイデンテティーを感じひんようになったうちでも、この展開は興味津々や。

 で、クラスのイケメンとモテカワ。

 イケメンが安室並平。なんかアンバランスな名前やけど、うちの趣味やないんで、ようもててるいう以上のことは、よう分からへん。
 モテカワは南ララァ。名前の通りカナダからの帰国子女。日本人のお父さんとカナダ人のお母さんに生まれた子らしい。色はちょっと黒いけど、これは水泳部で普段から体を焼いてるから。地は色白やと、同じ水泳部の女子の弁。髪は水泳部にありがちな傷んだ自然な茶パツ。この自然な茶パツが、とてもワイルドで、その下には信じられへんくらいの可愛い顔。むろんプロポーションは抜群。

「暫定的に、学究委員長は安室。副委員長は南。学年始めはいろいろあるから、二人とも、しっかり頼む」

 ガンダムが、口数少なに言うた。みんなも「さもありなん」と納得顔。
 なんで、イケメンとモテカワで納得やねん!? うちは、そない思た。
「これで、シャアがおったら、完ぺきや」
 横の席の保住いう男子が呟きよった。

 うちはガンダムには詳しないよって、終わってからスマホで検索した。アムロが主役で、ララァいうのが、永遠のヒロイン。シャア言うのんがシオン軍のボス。で、担任がガンダム。

 確かに出来すぎ。ちゅうか……波乱の予感がした。

 波乱というと、午後の入学式。

 うちらは出席の義務は無いねんけど、うちの中に居てる正成のオッチャンが興味を示したんで、体育館のギャラリーで見ることになった。
「ただ今より、平成26年度入学式を挙行いたします。国歌斉唱、一同起立!」
 司会の教頭先生が言うたとたんに、うちは気をツケして、直立不動で『君が代』を音吐朗々と歌い出した。

――え、うちて、こんなに歌上手かった!? で、むちゃ恥ずかしい!――

 みんながギャラリーのうちのこと見上げてる。言うときますけど、今うちに歌わせたんは正成のオッサン。
――和漢朗詠集の読み人知らずの名歌やな。これを国歌にしてるとは、なかなかや!――
 オッサンは一人で感心しとる。
 式のあと、校長室に呼び出された。
「あんな立派な独唱は、甲子園ぐらいでしか聞かれへん。君は大した子ぉやな!」
 来賓の指導主事のオッチャンに誉められた。
「チェンバレンが、こんな英訳しております」
 正成のオッサンが、勝手に言わす。

 A thousand years of happy life be thine!
Live on, my Lord, till what are pebbles now,
By age united, to great rocks shall grow,
Whose venerable sides the moss doth line.


 いつのまに正成のオッサンは勉強したんや、はた迷惑な!

 うちの新学年も波乱の兆し……。

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高校ライトノベル・オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・113「千歳の胸騒ぎ」

2017-11-17 14:06:12 | 小説
高校ライトノベル・オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
113『千歳の胸騒ぎ』
              



 主役でもないのに緊張のしまくり。

 でも、緊張していたと自覚したのは、家に帰ってお風呂に入ってから。


 入浴は少しだけ介助してもらう。
 脱衣も着衣も一人で出来るんだけど、やっぱり浴室でのいろいろはお姉ちゃんに介助してもらう。
 浴室にいる間は必ず介助者が居なければならないんだけど、浴槽の出入りだけ手伝ってもらう。
 浴槽に浸かっている時間が長いので、付き合っていては冬でも汗みずくになってしまうからね。
 まあ、三十分くらいは浸かっている。

 お姉ちゃんはコンビニに出かけてしまった。ATMだけの用事だから、ものの五分ほど。

 で、不覚にも居ねむってしまった。

 バシャ! ゲホ、バシャバシャ! ゲホゲホ!

 お姉ちゃんが帰ってくるのと溺れるのがいっしょだった。

 ち、千歳!!

 土足のままのお姉ちゃんに救助されて事なきを得たんだけど……

 怖かったよーーーーーー!!

 その夜は熱が出て、けっきょく二日学校を休んでしまった。
 演劇部に入ってからは休んだことが無かったので、クラブのみんなからメールが来た。
 学校を休んでメールをもらうなんて初めてだったので、お礼は一斉送信なんかじゃなくて、一人一人にお返事を打った。
 


 で、本題はここから。


 あ、忘れてた。

 その日のあれこれを机に突っ込んで気が付いた。
 クラブの書類を生徒会に提出しなければならない。文化祭で飛んでしまっていたんだ。
 必要なことは記入済みなので、すぐにでも持っていこうと思ったんだけど……。

「千歳、大丈夫だった?」「もうええんかいな?」「Are you OK?」「よかったー! 元気になったみたいで!」

 クラブのみんなが休み時間の度にやってくるので、お昼休みになってしまった。

「失礼しま~す、演劇部です、書類を持ってきました~」

 どーぞ

 入ってビックリした。
「あ、えーーと……」
 生徒会室の本部役員の顔ぶれが変わっていたのだ。
「あ、ちょっとビックリ? おとつい選挙があって執行部は入れ替わったんよ」
 ピカピカの副会長バッジを付けた二年女子がにこやかに言う。
「瀬戸内さんは?」
「あ、引退したよ。三年生やからね」

 書類を渡すと、わたしは三年生の校舎に向かった。

 いま思えばメールすれば済む話だったんだけど、その時は直接顔を見なくちゃと思った。
 瀬戸内先輩は演劇部じゃないけど、部室明け渡し問題からこっち、ほとんどお仲間のようなものだったから。
「あのう……演劇部の沢村ですけど、瀬戸内先輩いらっしゃいますでしょうか?」
「あ、休んでるわよ、おとついから」
「え、そうなんですか」

 瀬戸内先輩は、ちゃんとメールをくれていた。
 
 あれ? 先輩自身休んでて、どうしてわたしが休んでたこと知ってたんだろ?

「ああ、それはボクが伝えておいたからだよ」
 ミッキーが先輩んちにホームステイしてるのを思い出して、訊ねた返事がこれ。
「でも、そのあとスマホ繋がらなくなって、でも、明日あたり帰って来るんじゃないかなあ」
 ミリー先輩の通訳であらましは分かった。
 どうやら家の用事で親類の家に行っているらしい。

 でも、なんだか胸騒ぎのするわたしだった……。
 
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高校ライトノベル・高安女子高生物語・46〈オッサン出しゃばり過ぎ!〉

2017-11-17 06:43:04 | 小説・2

高安女子高生物語・46
〈オッサン出しゃばり過ぎ!〉
       


 気ぃついたら電話してた。

 誰にて……関根先輩に。

「明日、10時に山本球場横の玉串川の四阿(あずまや)のあたりに来て……訳は来たら分かります」
 この言葉も、あたしの意志とは無関係に出てきた。
――無関係やあらへんぞ。明日香の心の底にあるもんをちょっと後押しして言わせたっただけや――
 と、正成のオッサンは心の中でニヤニヤしてる。我ながら、けったいなもんを住まわせたもんや。
 10チャンネルの『満点青空レストラン』見てたら、八尾の若ゴボウの料理をやってた。
――おお、ヤーゴンボウやんけ。あの天ぷらてな料理美味そうやんけ、わい、あれ食いたい!――
「今日は、もう晩ご飯食べたから、今度!」
――明日にせい。その代わり、明日香の悩みは解決したるさかいに――

 嫌な予感を抱えながら、うちは自分の部屋に戻った。

 正成のオッサンとは、簡単な協定を決めた。お風呂とトイレ入るときはうちの中から抜け出すこと(ウォシュレットで、オッサンが嬌声をあげたんで、風呂だけやのうて、トイレまで付いてきてることが分かった。家族への説明に困った) うちにことわり無く、うちの人生に関わるような大事なことには関わらんこと。
 しかし、さっきの電話の件でも危ないもんや。うちは、なんとか自分の意志でオッサンの出入りをコントロールしようとした。でも、やり方が分からへん。ねばり強う考えよ。

 正成のオッサンが住み着くようになってから、昔の戦の夢をよう見る。

 たいてい赤坂の山に籠もって、幕府軍とにらみ合うてるときのオッサンの思い出。

 山肌を駆け上ってくる幕府軍にグラグラに煮えたウンコ混じりのオシッコを柄杓で撒く。わら人形にヨロイを着せて、敵に矢を撃たせて、不足気味な矢を敵からいただく。意表を突く戦法みたいやけど、これは『三国志』の中の赤壁の戦いで、諸葛孔明がとった戦法の応用やいうことが分かった。ガラの悪さに似合わず勉強家やいうことが分かる。お風呂やトイレには付いてくるくせに、部屋に居るときは、どないかすると何時間も、他の本の中に居てたりする。
「正成のオッチャン、本読んだら分かったやろ。楠木正成は湊川の戦いで戦死するねんで……」
――おお、分かってる。予想以上の最後に、自分でも感動しとる。しかし、歴史にはアソビがある。大きいは変えられへんけど、細かいとこでは創意工夫がでけそうや。わいは、今ワクワクしとる――

 さすがは河内の英雄。感受性が並の人間とはちゃうみたいや。

 で、日が改まって、日曜日。

 昨日の雨の隙をつくような曇り空。玉串川の四阿で関根先輩に会うた。

「花見には、ちょっと残念な空模様やな」
「これくらいがええんです。人も多ないし。ゆっくり語り合うのにはピッタリです」
 ここまでは、あたしの意志。あとは正成のオッサンが、うちの口から勝手に喋ったこと。
「なんや、今日の明日香は、まっすぐオレのこと見るねんなあ」
「うち、先輩のこと好きやさかい」
「え、ええ、こんなとこでコクルか?」
 確かに四阿はうちらだけやのうて、お年寄りが三人居てた。興味深そうに、うちらのこと見ながら。この他人のことにもろに興味持つのは、今も昔も変わらへん河内根性かもしれへん。
「うち、美保先輩には負けへん。うちのバージンを捧げるのは先輩やと決めてます。せやから、先輩も……いや、学君も言うてほしい、ホンマの気持ちを!」
「お、おい。人の目ぇがあるやろ」
 先輩は、大きなヒソヒソ声。三人の年寄りはニマニマとうちらの成り行きを見てる。
「人の目ぇがあっても、好きは好き。これくらいに!」

 うちは、先輩に胸を押しつけて抱きついた。

「あ、明日香……!」
「答え聞くまで、離れへん!」
「お、オレも明日香のことは……」
「好きやねんね!?」
「あ、ああ……」
「よっしゃ、今日は、ここまででええわ! ほんなら、山本の方まで歩きましょか」

 うちは、先輩にベッチャリひっついて山本の方に川沿いを歩いた。

 先輩の当惑と、うちへの好意が同量に感じられた。山本へは10分ほどで着いた。

「ほなら、新学期になってもよろしゅうに!」
 山本駅に着いたら、うちは、あっさりと先輩と別れた。ちょっと名残惜しい。

――色恋は、戦とおんなじや。駆け引きが大事。今日は、ここであっさり引いて、あいつの中に明日香を温もりの記憶として染みこませる――

 それはええけど……。

――なんやねん?――

 オッサン、出しゃばり過ぎ!

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・45〈高安幻想・4〉

2017-11-16 06:45:59 | 小説・2

高安女子高生物語・45
〈高安幻想・4〉
        


 うち自身が元の世界にもどれるかどうか……。

 それが、戻れてしもた!

 正成のオッチャンが、この古墳の石室に身を隠してならあかん事情を切々と説明したあと、なんや匿うたげならあかんようんな気ぃになってきた。どうやら、赤坂城で一暴れしたあと、護良親王の令旨(りょうじ)を受けて再び挙兵しようと潜伏中やったらしい。

「わいは、どないしてもやらならアカンのんじゃ」

 この和歌に十文字足らん言葉に万感の思いがあった。うちらの平成の時代のオッサンらには無い心にしみ通るような響きがあった。

 で、どないかしたらならアカン……と思たら、元の恩地川のほとりに、うち一人で立ってた。

 ゲンチャが脇をすり抜けていくのにびっくりして、我に返った。

「なんや、夢でもみててんやろか……」
――夢や無い。明日香の心の中に居る――
「え、うちの中!?」
――なんや、様子が変わってしもとるけど、信貴山、高安の山のカタチはいっしょや。これが七百年後の高安か――
「正確には、恩地との境目やけどね。とりあえず家帰るわね」
――あの、高安山の上にある海坊主みたいなんは、なんや?――
「あれは、気象レーダー……言うても分からんやろなあ」
 
 それから、家に帰るまでは質問攻めやった。いちいち答えてたら、通行人の人らがへんな目で見るさかい、シカトすることに決めた。正成のオッチャンも勘のええ人で、うちの迷惑になるのん分かったみたいで外環超える頃には、なんにも聞いてこんようになった。ただ、うちの心の中に居るんで、オッチャンの驚きがダイレクトに心にわき起こって、うち自身ドキドキやった。

「ただいまあ」

「おかえり……」
 めずらしい、お父さんが二階のリビングに居った。と、思たら、もうお昼や。
「明日香。生協来たとこやから、パスタの新製品あるで」
「ほんなら、もらうわ」
 うちは、自分の意志やないのに答えてしもた。どうやら正成のオッチャンがお腹空いてるらしい。
 レンジでチンして、和風キノコバターとペペロンチーネを二つも食べてしもた。

「ああ、おいしいなあ!」

「明日香が、そないに美味しそうに食べるのん久々やなあ」
「ああ、育ち盛りやさかい。アハハ」
 まさか、自分の中の正成のオッチャンが美味しがってるとは言われへん。うちは、それから、自分の部屋に戻ってから、どないしょうかと思た。
「正成さん、ずっと、こないしてうちの中に居るのん?」
――しゃあないやろ。どうやら、この時代では、明日香の中からは出られんようやさかいな――
「せやけどなあ……」
――狭いけど、いろいろある部屋やのう。あの生き写しみたいな絵は明日香やなあ――
 馬場先輩に描いてもろた絵に興味。
――この絵にはタマシイが籠もっんのう。ただ残念なことに、これ描いた男は、明日香のことを絵の対象としか見とらんようやけどな。まあ、大事にし。何かにつけて明日香の助けになってくれるで――
 それは、もう分かってる。
――なんや、知ってるんか。そこの仕舞そこねた雛人形も大事にしいや。もうちょっと、日ぃに当たっていたいらしいで。その明日香の絵ぇとも相性良さそうやさかい――
「分かってます。それより、ちょっとでもええさかい、うちの心から離れてもらえません。なんや落ち着かへん」
――しかしなあ……その日本史いう本はなんじゃい?――
「ああ、うちの教科書。日本でいっちゃん難しい日本史の本」
――おもろそうやなあ……しかし、日本史いう言い方はおかしいなあ。まるで日本いう異国の歴史みたいや。日本国の歴史やったら国史やろが……――

 正成のオッチャンが呟くと、心が軽なったような気ぃがした。

「正成さん、正成のオッチャン……」
――なんじゃい――
 なんと、山川の詳説日本史の中から声がした。
「オッチャン、いま本の中に居てるのん!?」
――なんや、そないみたいやな――
「大発見。オッチャン本の中にも入れるんや。本やったら、なんぼでもあるさかい、本の中に居って」
――ああ、わいも興味津々やさかいな――

 一安心、いつまでも心の中におられてはかなわん。あたしは、新学期の準備と部屋の片づけしてるうちに、正成のオッチャンのことは忘れてしもた。
 気ぃついたんは、夜にお風呂に入ってから。

――明日香、おまえ、なかなかええ体しとったなあ――

 心の中から、オッサンの声がしてびっくりした!
――しかし、明日香、おまえ、まだおぼこ(処女)やねんのう――
 顔のニキビを発見したほどの気楽さで言われたが、言われた本人は、真っ赤になった……。

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高校ライトノベル・オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・112「キャシーへの手紙・文化祭」

2017-11-15 15:34:26 | 小説
高校ライトノベル・オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
112『キャシーへの手紙・文化祭』
              



 秘密にしておこうと思っていたんだ。

 だって、失敗するか、失敗しないまでも、とっても恥ずかしい思いをして一刻も早く忘れてしまいたいと願うに違いないから!

 キャシー、このボクが役者として舞台に立ったんだぜ!

 日本の高校がクールだってことは、いまさら言うまでもないんだけど。
 そのクールな中でも一番クールなのがbunnkasaiだってことに異論はないだろう。
 漢字で文化祭、なんか厳めしい字面で中国の文化大革命みたいだけど、意味はschool festivalとかCulture festivalだね。
 国際生徒会会議の前にYouTubeでも見たけどさ、じっさい体験するとずっとスゴイよ!

 まず匂いだよ!

 こればっかりは動画では分からないだろ。
 じっさいボクも本番になって感動したんだよ。
 
 mogitennなんだけど、漢字で模擬店。refreshment boothのことでさ、いろんな食べ物のブースを生徒が出すんだよ。

 たこ焼き、焼きそば、うどんヌードル、アメリカンドッグ、カレーライス、クレープ、お茶と和菓子

 そういったブースが、朝からいろんな匂いをさせてるんだ。これで校門を入った時から雰囲気マックスさ!
 
 この一週間は、自分たちの芝居のレッスンで目いっぱいだったこともあって、ほかの取り組みに目をやる余裕も無かったんだけど、二日間にわたる本番はしっかり楽しめたよ。
 アメリカンドッグとポップコーンを買って校内を見て回ったんだ。
 普段は制服ばっかだけど、この日は模擬店を出している生徒たちがいろんなコスを着てる。
 まるでハローウィンのノリだ。
 ハローウィンと言えば、USJやアメリカ村(衣料やアメリカ雑貨の店が多いミナミのブロック)でやってたけど、それはYouTubeで見てくれ。

 コスで目を引いたのはメイド喫茶だよ。

 女の子たちがメイドのコスで「おかえりなさいませご主人様~」をやってくれる。
 本物のメイド喫茶に行ったら最低10ドルはかかる。ドリンクと食べ物いっしょなら20ドル。それが3ドルでいいんだ。
 3ドルでパンケーキとコーヒーが出てくる。それでメイドをやってるのは本物のティーンなんだ。本物のメイド喫茶は10歳くらいサバを読んでるメイドさんもいるっていうから、ほんとに掛け値なしのキュートさだ。
 
 カラホリ高校に限らないけど、日本の高校はとても設備がいいし清潔で、とてもカムファタブル。
 そのカムファタブルにハローウィンかレーバーデイみたいな楽しさが加わるんだから、もうスゴイよ。
 普段は穏やか……というか、ちょっと気力に乏しい生徒たちがイキイキしてるんだ。初めてボール(アメリカの高校の卒業ダンスパーティー)でダンスするときみたいにさ。
 キャシーも言ってたね、ボブ(キャシーの兄)がボールでエリサと踊った時の事。

 まるで男のシンデレラみたい!

 みんなボブみたいな目になってるんだ。
 別にダンスパーティーになるわけでもないし、こっそりとアルコールを飲んだりということもないし、スクールポリスの目の届かないところでドラッグやったりもないんだけど、とても楽しそうなんだ。

 寝落ちする前に本題だ!

 演劇部で『夕鶴』って芝居をやったんだ。
 キャシーのパパは芝居に詳しいから聞いてみるといいよ、Jyunnji kinoshitaの名作で、30年前にシスコでもオペラ版が上演されてる。
 ようは、男に助けられた鶴が女の人に化けて恩返しに来るという話。

 ボクは、鶴を助ける男の役をやったんだ。

 日本語の台詞を覚えるのは大変だったけど、ボクの怪しい日本語でも通じたよ。
 有名なストーリーだったし、英語版との二部構成だったことも幸いして、とっても共感してもらえた。

 鶴の役はシカゴ出身のミリーがやった。

 ミリーはプロポーションのことを気にしていてね。
 鶴が男に無理強いされ、自分の羽を抜いてきれいな布を二度も織ってやる。
 できた布を持って「あー、こんなに痩せてしまって」という台詞をとても気にしていたんだ。
 ミリーは標準的なプロポーションをしているんだけど、日本人の標準とくらべると……でね。
 そんなふうには思わないんだけど、こういうことは男のボクが言うと、どこかセクハラめいて聞こえてしまう。

 で、結果的にはミリーの取り越し苦労で観客に笑われることもなく無事に終わった。

 無事どころか、二回の公演ともスタンディングオベーションだった!

 まだまだ書きたいんだけど、もう寝るよ。   お休み。
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