大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

くノ一その一今のうち・48『胸の魔石と隧道の金塊』

2023-03-31 15:55:32 | 小説3

くノ一その一今のうち

48『胸の魔石と隧道の金塊』 

 

 

 トックン……トックン……

 

 心(地下戒壇)の闇の中で自分の心臓の音だけが際立つ。

 闇の向こう、たった今まで老忍の多田さんが身をもって隠していた風穴が露わになった。

 その向こうは、さらに奥行きを感じさせる。目を凝らせば先の方では微かに灯りの灯る隧道になっているような気配。

 心臓の音は忍びの臆病虫の声だ。

 単なる怖れではない。この先に踏み込めば命にかかわる。それを告げる忍者の本能的なアラームなんだ。

 ここへ来るにあたっては、まあやはもちろんのこと、課長代理にさえ告げていない。

 上忍の課長代理なら夜明けまでには気付くだろうが、今ではないだろう。

 でも、頭の別のところでは、これが埋蔵金の正体や、その行方、背景を見届ける最後のチャンスだと呟く者がいる。

 

 ク…………足が動かない。

 

 目覚めたとはいえ、ついこないだまでは冴えない女子高生だった。半端ではない怖れが忍者の思考を鈍らせる。

 

 ん?

 

 胸の谷間が熱くなる、反射的に手を当てる…………魔石だ。

 ペンダントにしている魔石が熱を持っている。

 忍の素養に目覚め、風魔一族の棟梁『その一』の名と共に引き継いだ風魔の魔石。

 それがわなないて熱を発している。

 これは、魔石の警告? いや、そうじゃない。魔石は――進め――と言っている。

 ほんとうにそうか? 臆病虫が逡巡させる。

 だけど…………これって、なにかに似てる。

 そうだ、ゲーム機を買って内蔵ストレージが足りなくなることを予想して、外付けのハードディスクを付けた。

 ゲームがいっぱいになって、いよいよ外付けがフル回転した時の、あの熱の持ち方に似ている!

 ブーンと唸りを上げ、手をかざせば「お前はドライヤーか!?」と思うくらいの熱を発して、でも、格段に面白いゲームの世界を広げてくれた、あの外付けHD!

 

 魔石とは、風魔忍者の秘密や能力が刻まれていて、必要に応じて忍者本人にインストールさせる外付けHDだったんだ。

 そして、たった今、この先の変異に対応するだけの力が付いたんだ。

 そう思い定めると、恐れも迷いも吹き飛んで、前に進んだ!

 

 ほとんど闇の隧道。しかし、先の方では灯りの灯った空間があるようで、そこから反射や照り返しを繰り返したささやかな薄明かりが滲み出て、訓練された忍者にはさほどの苦にはならない。

 二キロも走っただろうか、気の流れが変わった。

 文字通り空気の流れと、いつの間にか魔石を通じて自分が放っている気。

 その気が、前方向だけではなく、数十メートル先では下に流れ落ちている。

 !!?

 前方向だけに気を取られていたら見落としていただろう、幅五メートルはあるだろう谷が口を開けている。

 セイ!

 一息で飛び越える。

 チラ見した谷に特別の仕掛けは無かったが、隧道とは違って人の手が入っておらず、岩がむき出しで、転落すれば忍者でも命はない。

 そういう谷や横穴が随所にあって、いちいち立ち止まっていてはキリが無く、おおよその見当で突き進んでいく。

 やがて、甲府城のそれよりも数倍大きな石室に出た。

 構造も甲府城のものと同様で、多数の枕木が並んでいて、直前まで相当の重量物が置かれていた形跡がある。

 

 …………まだ運び出されて間がない。

 

 ということは、先の方では、まだ運び出しの最中!?

 よし、現場を押えよう!

 数倍と思った石室は、まだまだ先があって、進むにしたがって明らかになっていく。

 信玄の埋蔵金とは、どれほどのものなんだ?

 それに、これほどの金塊を運び出しているというのに、まるで音がしない。

 おそらくは小分けにしてあるのだろうけど、相当の数と重量だ。機械の音、あるいは、運び出す人間の声や物音がするはずだ。

 四つ目のブロックを過ぎたところで見えた。

 まだ運び出されていない金塊の箱。

 

 え? ええ!?

 

 我が目を疑った!

 なんと、金塊の箱が床から背の高さほどのところに浮遊したかと思うと、数秒のうちに形がおぼろになって。次々に消えていく。

 いや、違う。

 それは、ゲームの中で人や物が転送される様子に似ている。消える寸前にゆるくスパークするように光るのだ。

 停めなきゃ!

 しかし、どうやって!?

 

「やはり、決着を付けなきゃならないようだね」

 

 金塊の山から再び多田さんが現れた……それも、五人の仲間を連れて!

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
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RE・かの世界この世界:054『早朝の四号』

2023-03-31 06:56:59 | 時かける少女

RE・

54『早朝の四号』テル  

 

 

 朝の諸々の音で目が覚めた。     

 子どもたちのさんざめき、キッチンでお湯が沸いて食器を並べる音、古びた床の軋みと軋ませている足音、野鳥のさえずり、微かな瀬音……それらは騒音ではなく、朝の微睡みをいやますような心地よさがあった。遠い子どものころ、ひょっとしたらわたしが、いまのわたしであるもっと前のわたしであったころに田舎の祖父母の家で目覚めた時のような安堵感のある諸々の音。

 その優しい音たちに、もう一つの聞き慣れた音が混じって来た。

 キュロキュロキュロキュロ……

 二号ではない、三号……四号か……?

 四号の履帯の音であると気づくと同時に、一気に現実に戻った。

 パンツァージャケットを掴むと片方袖を通しただけで庭に出た。

 子どもたちも二人の先生も出ていたが、上り坂に差し掛かった四号に目を奪われて、お早うの挨拶も返ってこない。

「タングニョ-ストが四号で追いかけてきました」

「グニさんが?」

 村の廃墟の中を生きた戦車が通ると、豆戦車の二号でも逞しく見えるが、二号よりも二回りも大きな四号は神がかって見えるほどだ。

 四号がゲートから入ってくると、子どもたちが一斉に駆け寄る。

 わーー! おっきい! つよそー! 昨日のよりかっくいい!

 事故が起こってはいけないので、四号はゲートを入っていくらも進まないところで停車した。

 むろん先生たちや、いつのまにか混じって来たヒルデとケイトも制止しているんだけども、言うことを聞くような子たちじゃない。

 ガチャリ

 砲塔のキューポラではなくて、一段下の操縦手のハッチが開いた。

「トール元帥のご指示で伺いました、元帥副官のタングニョーストです。早朝からお騒がせして申し訳ありません」

 院長先生への挨拶が終わると、申し訳なさそうな顔で近づいてきた。

「元帥にバレてしまいましてね、わたしが二号を回したことが」

 まさか、二号を取り上げて、ここからは歩いて行けとか……。

「二号では力不足だろうとおっしゃって、急きょ四号を持ってきた次第です」

 
 四号は重量で二号の三倍近くあり、武装が優れているだけでなく、居住性も段違い。例えば、二号の出入りは砲塔のキューポラ一か所だけだけど、四号は定員五人に対して一つづつのハッチがある。走破性にも優れ、整備も簡単だ。

「ちょうどいいわ、四号のタングニョーストさんもいっしょに朝ごはんにしましょう。今朝は水も豊富なので、パンも柔らかいし、スープも付けたわよ」

 わあースープ! やわらかパン! パンパンパン!

 子どもたちの目が輝く。好奇心より食欲が優先されるのは、やっぱり、シュタインドルフの厳しさなのだろう。

「で、タングニョーストは帰りどうするんだ?」

「二号に乗って帰るつもりだ」

 タングリスもわたしも順当な考えだと思ったが、ヒルデが飛躍したことを思いつてしまった。

 
「なあ、二号のエンジンを外してジェネレーターにすればポンプが生き返るんじゃないか?」

 
 先生たちは遠慮気味に、子どもたちは、とても無邪気に――それがいい!――と賛成した。

 そのことと、例の子どもを一人連れて行くことで、事態は二転三転することになった。

 

☆ ステータス

 HP:1000 MP:800 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・20 マップ:3 金の針:5 所持金:8000ギル
 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)

 
☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘
 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にブリの世話係

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・015『入学式・2』

2023-03-30 14:56:45 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

015『入学式・2』   

 

 

 威風堂々のBGMが流れる中、式場の体育館に入る。

 

 BGMは威風堂々だけど、全員サンダル履きなので微妙に締まらない。

 ペッタンペッタンペッタンペッタンペッタンペッタン………………

 なんだか人に化けた両生類が行進してるみたい。

 

 あ?

 

 サンダルに気を取られて気づくのが遅れたけど、お祖母ちゃんのオーラを感じる。

 振り向くわけにはいかないけど、新入生の保護者席に普通に座ってる感じ。

 最後までグズってたけど、やっぱり来てくれたんだ。

 ちょっと嬉しい、家に帰ったら正直に「ありがとう」って言おう。

 真ん中の通路を挟んで右が男子、左が女子に分かれて座る。

 チラ見すると、足を組んだりだらしなく座ってる子が一人もいない。背筋が伸びてない子はいるけど、みんなちゃんとしてる。

 ヨイショ

 深く座りなおして背筋を伸ばす。威風堂々がフェードアウトして司会の先生がマイクの前に立つ。

 

「ただ今より昭和45年度入学式を挙行いたします。一同、起立」

 

 ザザ!

 全員同時だと、起立するだけで迫力!

 で、緊張する。

「校歌斉唱」

 え……なんか抜けてるような?

 

 ゆぅたかに萌える糺の森のぉ 東に聳えし学び舎ぁにぃ……♪

 

 校歌は普通っぽいんだけど……微妙に違和感。

 あ、そうか国歌斉唱がないんだ。

 壇上を見たら校旗と自治体の旗しかないし……ま、いいけど。

 入学式は小中で二回経験済み。昭和の入学式ってどんなだろうって思ってたけど、君が代と日の丸が無い以外は令和の時代と変わらない。ま、上履きのサンダルは宮之森だけかもしれないしね。

 挨拶の度に立ったり座ったりして、いよいよ担任紹介。

「それでは、一年の学年主任を紹介します。藤田勲先生」

 あ、うちの担任、学年主任を兼ねてるんだ。

 学年主任をやるんだから、並よりは偉い先生なんだろうけど、最初の印象がセサミストリートだったから、なんかギャグアニメの実写版みたいな感じ。

「教頭先生からご紹介をいただきました藤田です。担任と学年担当の教員を紹介いたします」

 へえ、司会の先生、教頭なんだ。

「では、一組……」

 藤田先生が読み上げると、教員席から順次先生が立ち上がって舞台に上がっていく。

 それまで反応の薄かった新入生の席から好奇心のオーラが立つ。

 控え目だけど、露骨に当たり外れのオーラだから面白い。

 四組の花園先生は新卒っぽい可愛い先生で、女子を中心に――うわあ、いいなあ――的などよめき、実際は溜息なんだけど大勢がため息つくと、けっこうな圧があって、花園先生はいっぺんに真っ赤になる。可愛い(^o^;)。

 ドンケツ8組の吉村先生は再任用? どう見ても六十をいくつか過ぎている。

 昭和45年で六十過ぎ……ってことは、明治生まれ?

 ちょっと感動。生きてる明治生まれって初めて見た!

 生徒の反応は……8組のあたりから残念オーラ、他は、ちょっと微笑ましく感じてるみたい。

 強化担当は、うちの担任は英語のリーダー。セサミストリートだから、やっぱり英語的な?

 グラマー担当は妹背先生。グラマーと云ってもナイスバディーの妹系の女性ではない。小柄な、でもおっかなそうな男の先生。

 で、リーダー、グラマーってなんのことだろう?

 先生の紹介があって、PTAやら事務からの諸連絡があってお終い。

「新入生が教室に戻ります。新入生、起立!」

 ザザ!

 藤田先生に先導されて式場を出る。保護者席のお祖母ちゃんが見える……ゲ、化けすぎ! 若作りしてくるだろうとは思ったけど、どう見ても五歳上くらいのお姉さんという感じ。

 で、手ぇ振らないでよ(#'∀'#)!

 

 教室のある北館二階まで戻って来て、またビックリ( ゚Д゚)!

 

 なんと、あの十円男が廊下にいるし! 

 そんで、あたしたちに紛れて教室に入って来るし!

 そんで、謎だった出席番号5番の席に座るし! 先生も平気な顔してるし! 前の4番も後ろの6番も我関せずだし!

 ひょっとして、わたし以外見えてない? ひょっとして悪魔!?

 いるんだよ、悪魔って! 魔法少女が居るんだから、悪魔もいるよ! お祖母ちゃん言ってたし!

 ひょっとして、あの無茶な若作りは、この悪魔に対抗するため(;゚Д゚)!?

 早くも昭和に来てしまったことを後悔し始めた(-_-;)。

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 宮田 博子             1年5組 クラスメート
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 須之内写真館            証明写真を撮ってもらった、優しいおねえさんのいる写真館

 

 

 

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RE・かの世界この世界:053『院長先生』

2023-03-30 06:58:59 | 時かける少女

RE・

53『院長先生』テル  

 

 

 ここの子たちは、みな戦災孤児です。

 
 院長先生は、ごく当たり前のことを言った。

 ヴァイゼンハオスというのは孤児院という意味なのだから、当たり前だ。

「そうですね、当たり前のことです」

 表情を読んだのか、言い当てられてしまった。

「ムヘンで一番安全なところですが、最も辺鄙なところでもあります。だから、ここが孤児院であることを誰も疑いません」

「なんだか意味深ですね」

「じつは、大切な人を預かっているのです。それをカモフラージュするために孤児院をやっています」

「どういうことでしょう?」

 グリとふたりで顔を見合わせてしまった。

「十年前に、さるお方からとても大切な人を匿うように言いつかりました」

「……子どもなんですね?」

 院長先生は、黙って頷いた。

「その子を送り届けてはいただけないでしょうか」

「送る?」

「ええ、そこは、その子を戻さなければ成り立たなくなってきているのです」

 

 タングリスはじっと院長先生の目を見ている。事の重大性と自分の任務と院長先生の話の重さを計っているのだろう。具体的な話を聞いてはいないが、話の重さは、先生の人柄と共に伝わってきている。

 
「詳しいことは申せません。ただ、このムヘンのみならず、この世界全体の命運に関わることだと申し上げておきます」

 話は、まだほんのさわりだが、院長先生の目は我々の決意を促している。

「その話だけでは、申し訳ありませんが、答えようがありません」

「……あなたがたが、ここに立ち寄られた理由を考えてください」

「立ち寄った理由?」

 それははっきりしている、ブリたちが旅行気分で買い込み過ぎたお菓子を届けに来たのだ。

「ムヘンブルグの北門を出たところで、警戒任務から帰って来たばかりの戦車兵とお話になったでしょ?」

 そうだ、車長の軍曹にゲペックカステンのお菓子を発見されて、不審に思われたところをタングリスが、とっさに誤魔化したんだ。シュタインドルフのヴァイゼンハオスに慰問に行くところだと……。

「その場の言い繕いなら、わざわざ来ることも無かったでしょう、そのままノルデンハーフェンに向かわれれば済む話です」

「「な……!?」」

 タングリスと揃って愕然とした。

 院長先生の言う通り、本来の目的からは何の意味もないことを、何の疑いもなくやってきているのだ。

「じつは、わたしが呪を掛けたのです」

「しゅ?」

「呪いと書きますが、悪意はありません。今は、こんなナリをしていますが、聖戦のころは、さるお方にお仕えする白魔導士でした」

「驚きました、おっしゃる通りです。我々は、ここまで足を運ばなければならない事情は何もなかったんです」

「でも、不快な感じや恐れはありません」

「それは、心の底では、共感いただいているからだと思いますよ。あなた方の任務は……いま、子どもたちを寝かしつけてくださっているブリュンヒルデ姫をヴァルハラにお連れすること」

 恐れ入った。院長先生はなにもかもご存じのようだ。

 
「騙されてはいけませんよ」

 
 いつのまにか間近にやってきたフリッグ先生がニコニコしながらとんでもないことを言う。

「院長先生は孤児院を続けるカモフラージュのために、あの子を預かられたんです」

「あらあら、そうなのかしら?」

「正解は、明日の朝になったら分かる……ということでいかがでしょう。そろそろ日付も変わる時間になってきましたから」

「え、あ、そうですね……」

 フリッグ先生の目を見ているうちにグリもわたしも急速に眠くなってきた……。

 

☆ ステータス

 HP:1000 MP:800 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・20 マップ:3 金の針:5 所持金:8000ギル
 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)

 
☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘
 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にブリの世話係

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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せやさかい・397『うちの桜』

2023-03-29 11:13:29 | ノベル

・397

『うちの桜』さくら   

 

 

 そろそろ桜も満開の春休み。

 

「来週あたりは大変になるだろうねえ……」

 境内の掃除が一段落して、山門横の桜を見上げる留美ちゃん。

「ああ、せやねえ……」

 これだけで意味が通じるうちらは、ほんまの姉妹みたい。姉妹みたいやけど、ほんまは中学一年から、ずっと同じクラスやいうお友だち。

 お家の事情で一人暮らしせんとあかんようになって、それなら「いっしょに暮らそう!」ということになって、早や三年、足掛け四年。

 うちも留美ちゃんも体動かすのん好きやから、特に決められたわけやないけど、本堂やら境内やらは二人の受け持ち。

 都会のお寺にしては広い境内で、曽ばあちゃんの頃は幼稚園やろかと本気で思たことがあるらしい。

 境内の塀の際には花壇があって、檀家の婦人部の人らが手入れしてはったんやけど、コロナの影響で足が遠のいて、それも、おばちゃん(伯父さんの奥さん)の監督のもと、うちらがやってる。

「ふふ、あのころ思い出すねえ」

「そうだね、感動した桜があるから観に行こうって、さくら誘って来てみたら、さくらの家だったんだもんね。ビックリした」

 入学早々、留美ちゃんは遅刻して怒られて、その理由が「あ、あ、えと……桜が満開になってて見惚れてしまいました」やった。

 それで、写真撮影の日の放課後、二人で観に行ったら、なんとうちのお寺の、この桜(005:『御釈迦さんといっしょ』006『クラス写真』)やった。

「中から見るのもいいんだけど、外から塀越しに見るのもいいんだよ」

「どれどれ……」

 ホウキ持ったまま門の外へ。

「こうやってね……」

 留美ちゃんは、美術の写生する時みたいに手でフレームこさえて覗く。

「あ、ほんまや」

 塀と山門の端っこだけをフレームに入れて覗いてみると、時代劇のタイトルに使えそうなくらいにサマになる、『暴れん坊将軍!』とか『太閤記!』とかね。

「将来、さくらをモデルに連続ドラマとかやったら、テーマの背景は、絶対これだね!」

「アハハ、なに言うてんねんな(^_^;)」

「いや、さくらの人生って、ぜったい面白いと思うよ。わたしに文才があったら、ぜったい書くよ!」

「アハハ、そういや。うちら元々は文芸部やってんねえ」

 頼子さんが王女さまになってしもて、文芸も散策部も開店休業……ちょっと寂しい。

「せや、花見しよう!」

 

 パン!

 二人で手を叩いて、急きょ、散策部のお花見になった!

 

「みごとなもんだ……」

 山門に入って来るなり、ソニーは桜に見入ってしまった。

「手入れがいいんですねえ……お父さんの駐屯地に、これより大きいのがあったけど、なんか色が濃いっていうか8Kの有機ELDみたいに鮮やかですね……香りも濃厚……」

 メグリンは背ぇが高いので、鼻の先に来た桜の香りに感動。

「うん、この美しさには霊的なものを感じる……」

 ふつうの子が言うたら危ない中二病やけど、ソニーはソフィーと姉妹で魔法使いの家系やからスゴミがある(^_^;)。

「よかった、二人にも感動してもらえて(^▽^)」

 留美ちゃんは、こういうところがある。

 自分の感動は独りよがりで、人に勧めても変に思われたり気を使わせるんやないやろかと気をもむ。

 うちと暮らすようになって、かなりマシになったんやけど、二人の車が見えた時には、ちょっとだけ緊張してた。

 運転手のジョン・スミスは「ほう」と小さく言うただけで、そのまま車を走らせていった。

「部長(ジョン・スミス)も見たがってたんだけど、領事館の方が忙しくてな」

「ちゃんと車の中から撮影してましたね」

「ウ、古閑は部長の隠しカメラに気付いていたのか?」

「え、アハハハ」

「さすが古閑大佐の娘だ……いや、それにしても……」

「きれいですねえ……」

「みんなで観るとひとしおねえ……」

 とりあえずは、四人、その場で桜を見上げて、ひとしきり感動。

 

「ねえ、あなたたち」

 

 本堂の縁側からおばちゃんの声。

「檀家のお婆ちゃんたちもご一緒したいって、いいかなあ?」

「はい!」「うん!」「かまいません!」「喜んで!」

 おばちゃんは話の途中やったらしく、そのまま手にしたスマホでお婆ちゃんたちに連絡。

 おばあちゃんたちは、重箱やらタッパやらにいっぱいご馳走を詰めて持ってきてくれる。

 

 もうじき月も改まって新年度。

 心配なこともあるけど、とりあえず幸せな気分になれるのは、うちと同じ名前の花の季節やからかもしれません。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん)
  •   

 

 

 

 

 

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RE・かの世界この世界:052『ポンプ小屋』

2023-03-29 06:30:59 | 時かける少女

RE・

52『ポンプ小屋』テル  

 

 

 ポルシェティーガーだな……

 ポンプ小屋の残骸を取り払い、ポンプとパワーパックを露出させるとタングリスが結論付けた。屋根やら壁の焼け残りを取り除いた下には孤児院の水汲みポンプとしては大げさすぎるメカが出現した。

「ポルシェのトラ?」

 付き添ってくれているフリッグ先生がランプを差し出しながら質問する。

 トラが居るの? こわ~い! かっこいい! 食べられる~!

 子どもたちもティーガーという言葉に触発されてふざけている。本来なら就寝時間が迫って来る時間らしいのだが、作業が面白く、夕食後みんなで見学しているのである。

「試作で不採用になった戦車です。ガソリンエンジンで電気を起こして、その電気でモーターを回す仕組みです。ガスエレクトリックと言うんですが、不採用になったんでシステムが宙に浮いて、それを利用したものですね」

「複雑なんですね!」

「先生は、こういうのお好きですか?」

「わたしは分かりません、でも、こういうことに目を輝かせている子どもたちを見るのは好きです」

 確かに、子どもたちは目を輝かせている。ブリとケイトが子どもたちが近寄り過ぎないように見張ってくれている。

「もう少し調べなくちゃ分からないけど、たぶんモーターは大丈夫でエンジンがやられている」

 素人目にも、エンジンの痛みの方がひどいように見える。配線があちこちで切れて、半分くらいのプラグヘッドが折れたりへし曲がっている。

「じゃ、あっちの戦車のエンジンと交換したら生き返るかも(^▽^)」

 ロキが無邪気なことを言う。

「ダメだよ、そんなことしたら、戦車が動かなくなる」

「だったら、いっしょに暮せばいいじゃん」

「「「「「「「「そーだそーだ(^▽^)/」」」」」」」」

 子どもたちは無邪気だ。

「ま、今日はここまでだ。もう、みんな寝る時間だろう」

 もう少しやってもいいのだが、放っておけば、朝まででも起きていそうなので、打ち切りを宣言する。

「さあさあ、起きる時間はいつもの通りなんだから、さっさと寝なさい!」

 追い込む先生の言葉に力がこもる。就寝時間はとうに過ぎているんだろう。

 わたしたちは、空き部屋を寝室にあてがわれているが、ブリとケイトは子どもたちに本を読んでほしいとせがまれ、寝付くまで付き合うことになっている。ま、あの二人なら子供と一緒に寝てしまうのもありだろう。

 
「ちょっと、お話があるのですが……」

 
 ゲペックカステンに用具を収めていると院長先生がやってきた。

 にこやかにはされているが、どうやら真剣な話がある様子で、タングリスとわたしは居住まいをただした。

 

☆ ステータス

 HP:1000 MP:800 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・20 マップ:3 金の針:5 所持金:8000ギル
 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)

 
☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 
 ブリ(ブリュンヒルデ) 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘
 グリ(タングリス)   トール元帥の副官 タングニョーストと共にブリの世話係

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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鳴かぬなら 信長転生記 115『目指せバケツ谷』

2023-03-28 14:59:55 | ノベル2

ら 信長転生記

115『目指せバケツ谷信長 

 

 

 篠突く雨の中、行軍しつながら再度出した偵察隊が戻って来る。

 

「御注進! 御注進! 敵はバケツ谷にて休息し雨やみを待っております!」

「俺たちも雨宿りするか、もうパンツの中までグチュグチュだし(^_^;)」

 桃太郎が情けないことを言う。

「このまま前進だ! 敵の軍列は伸びきったままバケツ谷で停まっている。ならば、三千の軍勢でも容易に本陣が突けよう! 大将の首さえ獲ってしまえば、この戦は勝ちだ! このまま突撃しろ!」

「あ、でもでも、雨の中走ったら体が冷えて……」

 そこまで言うと、桃太郎は人よりも大きな顔を寄せてくる。

「な、なんだ(;'∀')!?」

「オレ、お腹弱いから、冷えると……したくなる」

「え、なにがしたくなるのだ?」

 すると、いっそう顔を寄せてくる。

「……鶴ちゃん、いい匂いがする(#^o^#)」

「か、嗅ぐんじゃない!」

「ごめん、ウ〇コしたくなる(#^皿^#)」

「すればいいだろ! 早飯早グソは武将のたしなみだ!」

「だって、こんなゴチャゴチャと鎧着こんでるし」

「戦国武士は鎧を着たままするのが嗜みだ、常識だろーが!」

「え、どうやって?」

「戦袴は股が割れていて、しゃがめば開く。フンドシは前に垂らさず、上に伸ばして首の後ろで紐を括る。そうすれば、紐を緩めるだけで用が足せるんだ。常識だろーが」

「知らなかった! パンツだし!」

「グヌヌ、もう馬に乗ったままやれ! 家康は、三方ヶ原でそうやって人気者になった!」

「え、そうなのか!?」

「城に逃げ戻ると、鞍壺にナニが付いているのを家来に見咎められてな。『バカを申せ! これは兵糧の味噌が付いただけのものじゃ!』と言い張って笑いを誘い、負け戦で落ち込んだ空気をほぐしたんだ」

「なるほど……」

「大将というのは、多少人間的な弱みやおかしみがあった方が人が懐く。しかし、わざとやったら、ただの鼻つまみ者だ……って、寄ってくんな!」

「いや、鶴ちゃんも首の後ろで紐括ってんのかなって……いや、めんごめんご(^0^;)」

「さっさと号令を掛けろ、勝機を逃すぞ!」

「よし! 皆の者! 敵はバケツ谷の底にあり! 狙うは大将の首一つ、歯向かう者は切り捨て打ち捨てよ! 逃げる者は追うな! 大将の首が取れたと知ったら、組打ちの最中であろうと、戦場(いくさば)を離れ、お爺さんお婆さんの待つ村に駆け戻れ! 行くぞ!!」

 

 おお!!

 

 クソの話で完全に解れた桃太郎軍は、そのままバケツ谷を見下ろす崖の上に至り、桃太郎が先頭を駆けて、ノリと勢いのまま敵の赤鬼大将の首を獲ってしまった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚

 

 

 

 

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RE・かの世界この世界:051『自己紹介の前にバケツリレーだ』

2023-03-28 06:46:18 | 時かける少女

RE・

51『自己紹介の前にバケツリレーだ』テル  

 

 

 近づいてみると半分近くが焼け跡だ。

 
 残りは火事の後に住めなくなって放棄され、雨風に晒されて朽ち果てた様子だ。

 ムヘンで一番安全と言われたシュタインドルフ。こうなってしまうには事情があったんだろうけど、事情に思いいたす前に無残さに気持ちが萎えてしまう。

 S字の坂道を上れば入り口というところで子どもたちが駆けだしてきた。

 ウワー戦車だ! カッコイイ! 兵隊さんだ! オレも乗りた~い! あたしも~!

 後ろから修道女、おそらく先生が追いかけて、なにやら注意しているが、子どもたちの馬力は、その上を行く。

 孤児院の敷地に入って停めようと思っていたが、取り囲まれてしまったので、やむなくゲートの前で停車した。

 
「辺境警備隊のタングリス一等軍曹です、支援物資を搬送してまいりました、あ、危ないから、触っちゃダメだぞ。あ、こら、そっちも(^_^;)!」

 履帯や転輪を触り、よじ登ろうとする子もいるので、大人たちはロクにあいさつも出来ない。

「これ、みんな。最初はご挨拶でしょ」

 遅れてやってきた年かさの女先生が声をかけて、やっと子どもたちが落ち着いた。

「じゃ、ご挨拶。ようこそヴァイゼンハオスへ!」

「「「「「「「「「「「ようこそヴァイゼンハオスへ(๑˃́ꇴ˂̀๑)!!」」」」」」」」」」」

 先生が音頭を取ると、子どもたちは揃って挨拶を返してくれる。

「オッス、みんな待たせたな」

 ロキが砲塔の上に立って偉そうにする。

「あ、ロキだけ、ずる~い!」

「あ、フレイも乗ってる!」

「アハハ、そこで先に会ったからだよ。軍曹さん、先にお水を……」

 遅れてハッチから出てきたフレイが提案。

「そうだな、水に困っておられるようでしたので少しばかり汲んできました」

「それは助かります」

「後ろの水槽に入れてありますので、リレーしましょうか?」

「はい、みんな、バケツを持ってきてちょうだーい!」

 ハーーイ!!

 先生の指示で、子どもたちはバケツを取りに戻った。

「じゃ、戦車を中に入れます。いいですか?」

「はい、左側のドアに寄せてください。キッチンですので」

 先生の指示で、戦車を指定の位置に持っていく。

「二号戦車でも大きく感じる」

「そこ、花壇が……」

「避けていると入らないなあ」

 二三度車体を動かしてみるが、安全を考えて花壇の手前で停車させる。

「じゃ、要所要所に大人が立ってリレーしましょう」

 戦車側に乗員、キッチン側に先生が立ち、間を子どもたちが繋ぐ形でバケツリレーが始まった。

 その間「ちょっと」とか「あのう」とかでは喋りにくいので、リレーをしながら自己紹介をやった。

 
 子どもたちはロキたちに似た年頃の男女合わせて十三人。 

 先生は院長のベストラさんと、去年赴任したばかりのフリッグさんだ。

 
 こちらは、四名の乗員がぜんぶ女なので驚かれたが、子どもたちは早くも発見してしまったゲペックカステン(道具入れ)のお菓子に目を輝かせ、ろくに聞いてはいない。

 しかし、先生たちの指導が行き届いているんだろう、作業が終わったらお菓子を配ると分かると、チャッチャと自己紹介とバケツリレーに集中した。子どもらしい乱暴さはあるが、事をわきまえればキチンとやることはやる。先生たちの手綱の締め方がいいんだ。

 

「この村は、いったいどうしたんですか?」

 

 作業の後、ダイニングで休憩。まず、わたしが切り出した。

「はい、シュタインドルフはオーディンシュタインのご加護で魔物は寄せ付けないんです。オーディンシュタインというのは巨大な一枚岩でしてね……村は、その一枚岩の上に乗っかているようなものなんです」

「岩はとても硬くて水を通しませんし、井戸を掘ることもできません。それで、水はムヘン川へパイプを伸ばしポンプでくみ上げていました」

「オーディンシュタインのお蔭で魔物は寄り付きませんが、人間の過失や自然の災害までは防げません」

「去年、火事が起こってしまったんです」

「シュタインドルフはオーディンシュタインの分だけ小高くなっていましてね、ムヘン川から吹く川風が駆けあがってくるんです。消火に使える水も乏しく、あっという間に燃え広がってしまいました」

「村の人たちは孤児院を大事にして下さって、なんとか類焼は免れましたが、ポンプ小屋と水槽タンクをやられてしまいまして」

「その後の嵐で、残った家々も無残なことになってしまって、今では、この孤児院を残すだけとなってしまったんです」

「フリッグ先生が赴任される前は、暖かくなったら、聖府にお願いしてムヘンブルグに移ろうと思っていたところです」

「子どもたちは、このシュタインドルフが好きなんですけどもねぇ……」

 

 ヴァイゼンハオスの現状に言葉も無いが、ヒルデがポンと膝を叩いた。

 

「よし、いちどポンプとか水回りを点検してあげないか? 必要とあらば、わたし(ブリュンヒルデ)が堕天使の力を使ってやるぞ」

「堕天使はともかく、点検はやっていいんじゃないかな。力仕事なら戦車の力も使えるだろうし」

「そうですね」

 最後にタングリスが組んだ腕を解くのがスタートになった。

 戦車の外装工具や、ゲペックカステンに残っていた少しの工具を使って点検作業が始まった。

 


☆ ステータス

 HP:1000 MP:800 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・20 マップ:3 金の針:5 所持金:8000ギル
 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)

 
☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 
 ブリ(ブリュンヒルデ) 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘
 グリ(タングリス)   トール元帥の副官 タングニョーストと共にブリの世話係

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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銀河太平記・153『邂逅する者たち・1・ブンカ―』

2023-03-27 15:58:58 | 小説4

・153

『邂逅する者たち・1・ブンカ―』越萌マリ(児玉元帥) 

 

 

 ブンカ―のドックは中型小型の船や水陸両用車でごった返していた。

 

 ドックを上がった待機エリアや整備エリアも足の踏み場が無い状況だ。

 到着したボランティア、配置の指示や装備の配給を待つ者、補給品の整理や管理をする者、装備を修理する者、負傷者の手当てをする者とされる者、戦死者を確認しながらシュラフに収める者、戦闘配食の用意をする者、片づける者、ドック各所に設置されたモニターを睨んで、どこまで正確か分からない戦況に一喜一憂する者、見ているだけで魚のように表情のない者、そういう、もう戦争と言っていい西之島紛争の前線基地の様子をマスとして捉える。

 数字としての戦闘経過や戦闘配置を見るよりも確かな戦争の『現在』が分かる。

 活気と疲労がせめぎ合っているが、負け戦特有の饐えた臭いはしていない。一進一退、ここが辛抱のしどころというところか。

「越萌さーん!」

 馴染みのある声に振り返ると、ニッパチにオンブされたラボのメグミ所長。

「メグミさんも出撃?」

 越萌マリの感性で尋ねる。

「負傷者の手当てに来ました、あ、わたしはロボット専門ですが」

「大変ねぇ、研究職までかり出されてるんだ」

「アハハ、本職は何でも屋ですから」

「負傷ロボットはCとDの柱の間に集められてるみたいよ」

 たったいま確認したばかりのロボット治療所を指さす。

「ありがとうございます。マリさんは、しばらくこちらに?」

「うん、この戦いの目途がつくまではいるつもり……」

 言葉を継ごうと思ったら、わたしを呼ばわる声。

 

『越萌さーん、こっちでーす!』

 

 首を振ると、ラッタルの踊り場で及川市長が手を振っている。あそこを上がったところが作戦やブリーフィングのエリアなんだな。

「じゃ、また」

「はい」

 会社の昼休みが終わって、それぞれの部署に戻るような気楽さで別れる。周囲はとても昼休という状況では無いんだが、それに浮足立つようでは先は無い。

「ありがとうございます。発光信号で越萌さんと分かってびっくりしました、ここを上がったところが作戦室です。市庁舎が爆撃を受けたので、今は、ここが島の中枢です。あ、足もとに気を付けてください、緊急に司令部機能を整えたんで、配線なんかがむき出しで」

「大丈夫です、島の幹部の方々は御無事で?」

「はい、ロボットの方々が初戦でがんばってくださって、なんとか五分五分というところで……あ、親王殿下、越萌さんをお連れしました」

 ハンガーを仕切っただけの作戦室には特設のモニターや各種機器が並び、制服もまちまちな公務員や志願者、ボランティアたちが、忙しく作業や連絡の真っ最中だ。

 親王殿下と呼ばれてモニターから顔を上げたのはお馴染みの氷室社長。

 綸旨を発してからは島内でも、その呼称を親王に変えているようだ。

「ありがとうございます越萌さん。シマイルカンパニーがご援助してくださるという知らせだけで百人力です。その上、CEO自らお出ましいただいて感謝に耐えません」

「頭を上げてください、仮にも綸旨を発して親王を称しておられるのです。わたし如きに笑顔はともかく、度を過ぎた敬礼は不要です」

「あ、すみません、まだ慣れないもので(^△^;)」

「いえいえ、初めてお目にかかってから、お若いに似ず大人の風格のあるお方と思っていました。総司令官としてドンと構えていてください。政府が対日武力行使と認めない状況、法的制約があるので会社としてできることは限られていますが、越萌マリ個人は一兵卒として奮闘いたします」

「ありがとうございます。日没後には作戦会議が始まります。どうか、それまでは体を休めていてください」

「いえ、とりあえずは島の状況を確認します」

「え、今からですか?」

「はい、善は急げというところです」

「それなら人を付けましょう」

「いえ、うちの運転手は元満州軍の精鋭でしたから」

「でも、予備役の方では」

「ハハ、この島で戦っている現役兵は敵の漢明軍にしかいないでしょ」

「あ、それもそうだ。承知しました、でも、くれぐれも無茶はなさいませんように」

「はい、では1830には戻ります」

「おお、ヒトハチサンマル、雰囲気ですねえ」

「素人ですからカタチからです」

 

 ラッタルを降りる途中C・Dの柱に目をやる。メグミ所長が瀕死のロボットを治療している。隣のEの柱の下では人間の兵士が治療を受けている。働いている看護師の何人かは市民病院で見た顔だ。本土からやってきた者はあらかた帰ったと思ったが例外は……あらためて見渡すと、けっこういる。

 日本政府は腐っているが、どうして、日本人は捨てたものではない。

「日本人ばかりではないアルよ」

 変な日本語に振り返ると、ラッタルを下りてくるもう一人の顔見知り。

「おお、孫大人!?」

 思わず声が大きくなった。

 

 

 ☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  •  

 

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RE・かの世界この世界:050『バケツとジェリカン』

2023-03-27 06:16:05 | 時かける少女

RE・

50『バケツとジェリカン』テル  

 

 

 ペチャペチャペチャ……ペチャペチャペチャ……ペチャペチャペチャ……

 
 葦の草叢を三つの足音が逃げていく。

 タングリスと目配せして川下と川上に分かれて追いかける、それぞれケイトとブリを従えている。

 融合体との戦いで、四人は阿吽の呼吸で行動できるようになったようだ。

 
 タングリスの掲げた手が草叢の上に上がり「そこ」を示している。「そこ」とは、カエル投げの犯人が一秒後に到達する位置だ。今現在の場所を指しても、飛び込んだ時には手遅れになる。

 セイ!

 その未来位置にケイトと一緒に飛び込む。タングリスとブリも飛び込んで瞬くうちにご用!

 襟首と腰の後ろを掴んで持ち上げると、ジタバタと手足をもがかせて抵抗するが、いかんせん小さい。

 はなせ! はなせ~! はなせ~ヘンタ~イ!

「おまえたち、ヴァイゼンハオスの子どもたちだな」

 腕組みしたタングリスは怖そうだが、目が笑っている。

「だ、だからやめろって言っただろ~が!」

 わんぱくそうなのがもがきながらイケメンの男の子に言う。イケメンの方は苦笑いだが、ケイトに掴まったお転婆が口を尖らせる。

「き、きったねー! 投げようって言ったのはロキの方じゃないか!」

「そうか、そういうやつか、お前は……」

 ピシ!

 タングリスが畳んだままの鞭を一閃、わんぱくの数本の髪の毛が宙に飛ぶ。

 ヒエ~~~~(((>Д<)))

 三人同時に悲鳴を上げて、腰を抜かす。

「ここじゃ、水に浸かるなあ」

 戦車の前まで連れていき、四人取り囲んで正座させた。

「なんでカエルなんか投げたのよ!」

 一人だけ命中弾をくらったケイトが詰め寄る。

「こんなとこまで戦車でやってくるのは……」

「えと……」

 男の子二人が言葉を濁らせると、女の子がまなじりを上げる。

「きっとサボりに違いない! だって、シュタインドルフはオーディンシュタインに護られてるから安全なんだもん! そんな安全なとこに来る兵隊は『きっと腰抜けだ!』って……間抜けだったっけ? ロキ?」

 ロキに振るので、首謀者は丸わかりだ。

「お、オレに振るな~!」

 わんぱく坊主はヘタレでもあるようだ。

「おまえたち、こんな河原で何をしていたんだ?」

「決まってるじゃん……あ!?」

 女の子は、自分の両手を見てハッとした。

「バ、バケツが……」

 わんぱく坊主もオタオタ、どうやら、なにかの用事の最中に、わたし達を発見して悪戯を思いついたようだ。

「バケツなら、三つまとめて向こうに置いてあるよ。戦車に気づいたとたんにほっぽり出すんだから」

 
 ピシュ

 
 タングリスが大きく一振りすると、鞭に絡めとられた三つのバケツが引き寄せられた。

「水汲みか……」

「自分たちも挨拶代わりに水を汲んで持っていこうとしていたところだ。ちょうどいい、作業を手伝え」

「戦車で水汲み?」

「ああ、そうだ。たくさん運べるが、水槽に入れるところまでは人力だ。がんばれ」

「そのまえに、ちゃんと名前を聞いておきたいかもな」

 ブリが、手ごろな使い魔を見つけたという顔で言う。

「ぼく、フレイです」

 イケメンが最初に名乗る。

「わたし、フレイア。フレイの妹よ」

 なるほど、性格は違うようだが顔立ちは似ている。

「ほれ、あんたの番よ」

 フレイに小突かれて、いっそうオタオタのわんぱく。

「ロ、ロキだ。ハオスの子どもの中じゃ一番偉いんだぞ」

「そうか、じゃ、偉いのが先頭で作業にかかるぞ」

「そそ、そっちも名乗れよ」

「向こうに着いてからだ、さ、かかるぞ」

 
 子どもたちのバケツと戦車のジェリカンをぶら下げて水汲みに掛かった……。

 

☆ ステータス

 HP:1000 MP:800 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・20 マップ:3 金の針:5 所持金:8000ギル
 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)

 
☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 
 ブリ(ブリュンヒルデ) 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘
 グリ(タングリス)   トール元帥の副官 タングニョーストと共にブリの世話係

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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くノ一その一今のうち・47『心の奥』

2023-03-26 13:58:28 | 小説3

くノ一その一今のうち

47『心の奥』 

 

 

 心(甲斐善光寺の地下戒壇)の中は陰圧が掛かっていて、外の戒壇に空気が漏れないようになっている。

 だから、ニオイも気配も外に漏れることが無く発見が遅れた。

 

 しかし、陰圧が掛かっているということは、吸い込まれた空気がどこかに抜けているということだ。

 抜けていく方向に何かがある、恐らくは信玄の埋蔵金の大半を収めた洞窟が。

 甲府城の地下にあったのは、埋蔵金のパートワンというか見せ金だ。本命の埋蔵金に寄せ付けないためのダミーに過ぎない。

 

 立ったままの姿勢でじっと動かない。感度をよくするために両手をパーにして伸ばしている。

 

 動いてしまえば、空気をかき回してしまい、この微かな空気の流れを見失ってしまう。

 両手を広げて立っているなんて、忍者にあるまじき無防備さだ。

 腕のいい忍びが吹き矢でも吹けば逃げようがない。至近距離なら手裏剣でさえ避けきれないだろう。

 

 …………分からない。

 

 入り口は狭い分、空気の流れが早くて陰圧として空気の流れを感じられた。だが、ここは教室ほどの広さがあって両手を広げたぐらいでは空気の流れを掴めない。視覚的には右前方に窪みがあって、そこから先が続いているように見えなくもない。しかし、わたしも忍者。五感のうちで視覚が最も騙されやすいのを知っている。

 こういう場合、風魔忍者は裸になる。裸になれば全身の皮膚で空気の流れを感じられる。

 特にくノ一の胸の先は感度がいいとされる。

 服を脱いで胸を晒せば……いや、それは最後の手段だ。

 取りあえず袖をまくり、ジャージの裾をあげる……手首、肘の裏、ふくらはぎ、膝の裏側がひんやりして空気を感じる。しかし、流れを感じとるところまではいかない。

 ジャージの上をまくり上げ、腹と背中もセンサーにする。

 これで分からなければ……いよいよ胸を晒すしかない(#'∀'#)。

 

 え…………ちょっと混乱した。

 

 微かに空気の流れを感じるようになったんだけど、それは視覚情報とは真逆。

 左側の隙間も穴も見えない岩肌から風が流れてくるように感じる。

 

 とっさに前転すると同時に掴んだ石を岩肌に向かって投げた!

 

 スサ!

 

 小さく、でも鋭い音がしたかと思うと、岩肌がハラリと崩れ、そこから黒い影が飛び出した。

 崩れたのは岩肌に見せた布切れだ。

 

 セイ!

 

 手裏剣を投げると『ドス』っという音と手応えがし、影が立ち止まって、こちらを向いた。

 影の太ももに手裏剣が刺さっている。

「やはり、現役を相手にするには歳を取り過ぎたか……」

 そう言って太ももの手裏剣を抜いて、こちらを向いたのは意外な顔だった。

「………多田さん!?」

 それは、年老いたお母さんが危篤ということでスタッフから抜けた照明係りの多田さん。

 やっぱり、佐助の手下だったんだ。印象の薄い人で顔も思い出せなかったけど、今は、しっかり分かる。多田さん本人も隠そうとしていない。

「そのッチはいいものを持ってるよ、くノ一としても年頃の女の子としても」

「なっ(#・▲・#)」

 思わずお腹を隠してしまう。

「ふふ、岩陰に隠れて思わず体が熱くなって、それで見つかってしまうとは忍者としては失格だがね……」

 

 ピカ!

 

 その瞬間、心の中は無音の雷が落ちたように光に満ちてホワイトアウト!

 

 数秒たって目を開けると、心の入り口が開いていて、それまで影が潜んでいたところは岩肌に重なりがあって奥が見えないようになっている、覗いてみると、さらに岩の重なりがあって奥に広がっていることが分かった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者

 

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RE・かの世界この世界:049『シュタインドルフのヴァイゼンハオス』

2023-03-26 07:03:12 | 時かける少女

RE・

49『シュタインドルフのヴァイゼンハオス』テル  

 

 

 ムヘンブルグの西端、シュタインドルフのヴァイゼンハオスを目指している。

 
 シリンダー融合体との闘いが苛烈だったせいか、単調なムヘン川の景色のためか、武骨な二号戦車のエンジンの振動さえも心地よく、つい居眠りしてしまいそうになる。

「よく、こんな体勢で寝られるなあ」

 知恵の輪のように絡み合って寝ているヒルデとケイトに感心したのは、寝てはいけないと思う自分への戒めであるのかもしれない。

 敵の襲撃に備えて、狭い車内に居るようにしているのだ。

「この緩い峠を越すとシュタインドルフです。車外に出ても大丈夫でしょう」

「どんなところなんだろう、シュタインドルフというのは?」

「厳つく聞こえますが、日本語に訳せばシュタインが石、ドルフが村ですから、石村です」

「石村……」

 拍子抜けがする。

「村全体がオーディンシュタインという岩盤の上にあるんです」

「主神オーディーンの名を冠した石?」

「はい、絶大な魔よけの効果があります。この石の上に居れば安全なので、一時は州都を持ってこようと言う話もあったのですが、さすがに城塞を築けるほどの広さもありませんし、西に偏り過ぎていることもあって、トール元帥はムヘンブルグに決めました。かわりに小さな村が拓かれて、シュタインドルフと名付けられたのです」

 キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン

 う!

 軽い耳鳴りがして、耳が詰まったような感じになった。

「峠を越えました。外に出ても大丈夫ですよ」

 最初に飛び出したのはヒルデだ、今の耳鳴りで目が覚めたのだろう。

「ふわああああああ(´Д`)…………え……ちょ、みんなも出てみろ……」

 車外に出て猫のようにノビをしたヒルデが沈んだ声で呼んだ。

「どうかしたんですか……」

 続いて出たタングリスが息をのんだ。

「これは……」

 

 驚いた。

 

 一キロほど先に見えてきたシュタインドルフは、ヴァイゼンハオスらしき建物を残して廃墟になっているではないか!?

 魔物の襲撃が無いとは言え、辺境の自然は苛烈なのだろう、十数軒の家屋は、いずれも棟が落ちたり壁が崩れたりの無残な姿だ。

「孤児院は生きています、ポールに聖旗が翻っています」

 目を凝らすと、ムヘンブルグの城頭にも掲げられていたオーディーン旗が翻っている。聖旗とも呼ばれるそれは定時の掲揚と降納が決められているという話だ。

「給水塔とポンプ小屋が壊れている……ちょっと川に寄ります」

「それがいいようだな」

 タングリスの提案は直ぐに理解できた。給水塔とポンプ小屋が壊れているということは、水の補給がままならないということだ。

 川から水を汲んで持って行ってやるのは妥当な土産だと思う。

 二号戦車はグリの意をくんで川辺に進路をとった。

 

 ブン! ブン! ブン! ベチャ!

 

 何かが四つ飛んできて、反射的に避けたが、ドジなケイトがまともに顔で受けてしまった。

「と、取って~! 気持ち悪~い(;'∀')!」

 アハハハハハ

 狭い二号の車内から解放されたからだろう、いささか荒れた光景にもかかわらず、みんな、ケイトの小さな不幸を笑うことができた。

「じっとしてろ、いま取ってやるから」

 それは、よく肥えたカエルであった。

 ヌチョっと音を立てて取ってやると、また、ひとしきりの笑い声。

 ムヘンの旅も、最初のインターバルにさしかかったかと思った。

 

☆ ステータス

 HP:1000 MP:800 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・20 マップ:3 金の針:5 所持金:8000ギル
 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)

 
☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 
 ブリ(ブリュンヒルデ) 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘
 グリ(タングリス)   トール元帥の副官 タングニョーストと共にブリの世話係

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・014『入学式・1』

2023-03-25 11:38:04 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

014『入学式・1』   

 

 

 こんなに可愛いんだよ、元気出してがんばれo(>ω<)o!

 

 証明写真のメグリがこぶしを握って励ましてくれる。

 魔法じゃないんだ、アプリだよ。

 白黒の証明写真にアプリを使って色を付け、もう一つのアプリで動かしてみた。メッセージを打ち込むと写真に見合った人工音声で喋ってくれる。

「へえ、なんだか魔法みたいね」

 引退魔法少女のお祖母ちゃんも珍しそうにのぞき込んでいたよ。

 有料アプリなんだけど、5人分は無料の体験版。

 

 月も改まって4月1日の今日は入学式。

 

 クラスも発表されるし、本格的な高校生活が始まる。

 靴下までおニューの制服。

 おニュー独特の匂い。袖口や首筋に触れるブラウスの襟の微妙な硬さ。

 歩くたびに胸元から新品の香り。ローファーも新品で足を下ろすたびにコツコツと音がする。

 髪は悩んだ末にポニーテール。

 ゴムを三重にした上に紺のリボンシュシュ……うん、キリっと清楚で好印象!

 

 で、勢いをつけて家を出たんだけど、戻り橋を渡って昭和に足を踏み込んだとたん緊張してきた。

 そこで、歩きながらスマホを出して自分に励ましてもらってるというわけさ。

 

 宮之森で降りて改札を出る。乗ってる間は気づかなかったけど、同じ制服着た子たちがゾロゾロ歩いてる。

 保護者同伴の子と、わたし同様一人で来てる子と半々。

 入学式だから保護者も来るんだけど、新入生はいったん教室に入る。開式までは時間があるし、親が付いてると恥ずかしいし、だから一人。特に男子はほとんど一人。

 あ、十円足りない男子!

 あいつも宮之森だったの!?

 新入生には見えないんだけど……あんまり見ないようにしよう。

 自然に顔をそむけたところに売店。

 前に並んだ新聞の見出しは『日航機を乗っ取り』『金浦空港に着陸』の大見出し。

 通勤時間のピークは過ぎてるんだろうけど、けっこうな人たちが新聞を買っていく。

 思い出すと、電車の中で新聞を見ている人も多かった。やっぱ、ハイジャックのインパクトは大きい。

 商店街に入ると、電機屋さんの前、テレビは金浦空港を映してるけど、昨日ほど見ている人は居ない。

 膠着状態ってやつなんだろうけど、解決遅くない? 二十一世紀なら特殊部隊とかがダダって突撃して犯人撃ち殺しておしまいだと思う。

 

 学校に着くと昇降口。

 

 入り口のガラスにクラス編成の紙が張ってあって、そこで、クラスを確認。

 …………あった、5組だ。

 時司巡の頭に30とあるから、出席番号は30らしい。

 中学では23だったから、ちょっと後ろの印象…………ああ、48番まであるのか。昔の学校って、ちょっと多い。

「下足箱はクラスごとになってます、出席番号と名前を確認して上履きに履き替え、直ぐに教室に行ってくださーい」

 女の先生が、良く通る声で注意してる。

 声がいいってだけで、ちょっと嬉しい。オッサンの先生もいるけど黙って突っ立てる。

 

「トキツカサさーーん!」

 え?

 

 振り返ると唯一見覚えのある女の子。

「あ、宮田さん!」

「嬉しい、おんなじクラスなんですね!」

「あ、そうなんだ! わたしって、自分の名前しか見てなかったから(^_^;)」

「いいえ、宮田なんて目立たない苗字ですから」

「いやいや(^_^;)」

 なにがいやいやなんだか、二人アハハと笑って北館二階の教室に向かった。

 

 教室の前にはすでに先生が居た。

 中年のオッサン、藤田先生だというのはクラス表で分かってたけど、ちょっととっつきにくそう。

 セサミストリートだったっけ、眉毛のつながったキャラがいたけど、あの感じ。

 席は、窓から二列目。宮田さんは三列目で、ちょうどわたしの横。

 ちょっぴり嬉しくって宮田さんにピースサイン。

 ?…………という顔をして、すぐにグーを出す。

 え、ジャンケンだと思ってる?

「名前を呼んで確認します。返事しなさい」

 簡単に言って、出席番号一番から名前を読み上げる藤田先生。

 

 あれ、五番目の席だけが空席……先生は、その空席を不審にも思わずに六番目を呼んで、あっという間に点呼を終わる。

「では、時間なので廊下に、男女別二列に並びなさい。教室には荷物を残さないように」

 なんか無言で先生の指示に従って廊下に並ぶ。

 無駄口をきくものも居なくって、なんだか緊張。

 やがて、前の方……どうやら隣の四組が動き出したのに続いて式場に向かう。

 ペッタンペッタン……

 上履きがサンダルなので、大勢が揃って歩くとおもしろい。

 アハハ( ´艸`)

 つい笑ってしまう。

 とたんに先生が振り返って睨まれる。

 なんか緊張してきた(;'∀')

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 宮田博子              1年5組 クラスメート
  • 須之内写真館            証明写真を撮ってもらった、優しいおねえさんのいる写真館

 

 

 

 

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RE・かの世界この世界:048『ブロンズですか?』

2023-03-25 07:18:39 | 時かける少女

RE・

48『ブロンズですか?』テル  

 

 

 ケイトの回復スキルによってHPを全快したタングリスは、一本だけ残った鞭を高速回転させて突っ込んでいく!

 ビシビシビシビシビシビシ!

 我々のために時間稼ぎをするつもりなんだ……タングリスの自己犠牲の精神に胸が熱くなる!

 

 しかし逃げるわけにはいかない! タングリスの自己犠牲に甘えるわけにもいかない! 旅は始まったばかりだ!

 一瞬ケイトを見上げるが、十字姿勢のまま呆然と浮遊するばかりで、わたしやヒルデのHPまで回復してくれる様子はない。

「テル、突っ込むぞ!」

「おう!」

 ヒルデとわたしは、HPを回復することなくタングリスに続いた。

 

 数秒の間に事態は変わった。

 

 ヒルデの突進力はすごく、瞬くうちにタングリスに追いつき、首が千切れるんじゃないかという勢いでツィンテールを旋回させた。

 ブビューーーーン!!

 タングリスの鞭もヒルデのツィンテールも、高速回転のあまり熱を帯びて発光し、発散されるエネルギーが旋回半径の倍ほどの距離にいるシリンダーさえも粉砕している。

 凄い!

 感動したのは一瞬だった。

 瞬間、融合体が膨張したように見えた。

 ブワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワワ

 違う!!

 膨張したのではなく、融合を解いたのだ!!

 融合するときに圧縮されるのだろう、放たれたシリンダーたちは瞬間に空気を充填されたようになり、元の融合体のサイズからは想像できない数になって二人に襲い掛かった!

 ジュジュッ!

 最初に襲い掛かった数百は主従二人の得物によって、焼け石にかかった水滴のように蒸発した。しかし、続くシリンダーたちは、仲間の蒸発によって熱を下げた得物もろとも二人を覆いつくしてしまった。

 二人が危ない!

 

 ブオッ!!

 

 わたしの中を灼熱するなにかが突き上げてきた!

 ほんの数瞬のうちの目まぐるしいせめぎ合い! そして眼前に迫った二人の危機にわたしのコアが炸裂した!

 
 グオーーーーーーーーーーー!!!!!!

 
 制御できない叫びをあげて突進し、ソードを二閃させた!
 
 ズバッ! ズビッ!

 二閃させただけでは勢いは収まらず、わたしはコマのように旋回しながら数十メートル上空に吹き飛ばされた。

 からくも踏ん張って勢いを削ぐと、さっきまで融合体であったシリンダーたちは数十分の一までに数を減らして四方に逃げ散っていく。

 浮遊していたケイトが、ゆっくりと動作し始めてグリーンのヒーラービームを放ち始め、ほとんどゼロになっていた二人のHPを回復し始めた……。

 

「二人とも凄かったじゃないか(^▽^)!」

 

 融合体との遭遇戦が終わって、しばらくは口もきけない四人だったが、回復力が人一倍のヒルデがニコニコ笑顔で言う。

 こういう時のヒルデは、出会った時のように、ひどく幼い顔に見える。

「ケイトのヒーラーぶり、ちゃんとコントロールできるようになったら、弓士とヒーラーが立派に兼ねられるぞ!」

「はあ……でも、ぜんぜん憶えてないんですよね(*´0`*)」

「テル殿のソードも凄かった。 あれが無ければ、この旅は、このムヘン川のほとりで幕を閉じていたところです」

 タングリスもポーカーフェイスのまま褒めてくれる。

「とっさに出たスキルで、自分でやったものなのか実感が……」

「実感は大事だ! わたしが、スキルに名前を付けてやろう!」

 可愛く腕を組むヒルデ、額に皴を寄せること数秒。パッと灯りが付いたような顔になって宣言した。

「オーバードライブってことで、ケイトのがブロンズヒール! テルのがブロンズスプラッシュだ!」

「え、あれだけの力がブロンズなのですか?」

 二号戦車を街道に戻し、クラッチを二速にしながらタングリス。

「ブロンズにしとけば、これから、シルバー、ゴールド、プラチナって伸びしろを感じるだろ。いいか、ふたりとも、これからスキルを使う時は、スキル名を高らかに名乗るんだぞ。ブロンズなんとか! すると、敵も、もっと強力なのがあるんじゃないかとビビるからな。アハハハ」

 こういうところの無邪気さも子どもだ。

 じつに、いちばん正体が分からないのは、このヒルデかもしれない。

 

 え? 

 

 ヒルデと呼んでないか?

―― 姫! ブリュンヒルデ姫! ――

 戦いが始まって、ヒルデが融合体に突撃して……その時、タングリスはヒルデの真名を叫んでいた。

 そうか、ヒルデの突撃でトール元帥の戒めも緩んでしまったか。

 ヒルデ……わたしもブリの愛称で呼ぶのを止めてヒルデと呼んでいる。

 うん、こちらの方が似つかわしい。

 

 見上げた空にはポッカリ白い雲がゆっくりと後ろに流れていく。

 その緩い流れに逆らって二号戦車は西を目指した。

 

 

☆ ステータス

 HP:1000 MP:800 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・20 マップ:3 金の針:5 所持金:8000ギル
 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

 
☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 
 ブリ(ブリュンヒルデ) 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘
 グリ(タングリス)   トール元帥の副官 タングニョーストと共にブリの世話係

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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せやさかい・396『うちのWBC』

2023-03-24 14:12:04 | ノベル

・396

『うちのWBC』さくら   

 

 

 WBC…………字面で見ると、トイレのドアを二本の指で開けてるとこに見える。

 言葉で聞いても、ダブルビーシ、ダブルシー、なんかトイレっぽい。

 思わへん?

 思わないよ( ´艸`)。

 

 コタツに向かい合って座ってお煎餅齧りながらテレビを見てる。

 テレビ言うても放送局の実況と違って、ユーチューブ。

 留美ちゃんと二人、ライブでは見られへんかったWBC決勝戦、日本VSアメリカ戦のダイジェストを観てる。

 留美ちゃんは感動しまくりやねんけど、うちはあかん。

 どうも、野球というのは性に合わん!

 どうも、うちは日本人としてはかなり珍しい部類に入るんやと思う。

 

 たとえばさ、古典の授業で万葉集とかあるでしょ。

 うちは、言葉の意味が分からんでも、なんとなく耳に心地い言葉を聞いてるだけで面白い。

―― あかねさす紫野(むらさきの)行き標野(しめの)行き野守(のもり)は見ずや君が袖振る ――

 最初聞いた時はチンプンカンプンやねんけど、なんか、リズムのええ和歌やなあと思た。

 ポップスの歌い出しとかサビのとことかに使ったら印象的かも。

『これはね、額田王(ぬかたのおおきみ)っちゅう天智天皇の奥さんが紫の花が咲き乱れる御料地の野原を歩いていると、野原の向こうを歩いている大海人皇子という旦那の弟が親し気に手を振って来る。そんなことしたら、御料地の管理人が――あの二人はおかしい(^_^;)――と思うでしょ! っていう、人妻額田王の気持ちを明るくおかしく歌ったものなんです』

 先生の説明を聞いて、うちは、めっちゃ面白かった(#^▽^#)。

 際どい内容やねんけど、言葉の響きが明るくてテンポも良くて、面白かった。留美ちゃんも顔を赤くしながらもウフフて笑ってたしね。

 せやけど、クラスの半分以上は―― あ……そう…… ――いう感じで板書をノートに写すだけ。

 

 万葉集と野球はいっしょになれへん!

 

 ほな、これは?

 中学の時、社会の授業でペコちゃんが蹴鞠のビデオを見せてくれた。

 蹴鞠っちゅうのは、貴族のオッサンらが、神主みたいな装束で輪になって鞠を蹴り合うという遊び。

 うちは――ああ、これやったらできるかも――と思って、面白かった。

 なんせ、ボールを落とさんように蹴るだけで、サッカーみたいにややこしいルールはない。

 けど、みんなの食いつきは微妙で、ペコちゃんは5分ある動画を2分で止めてしもた。

「う~~ん、かなり珍しい部類に入るだろうねえ(^_^;)」

 留美ちゃんは、ええ子やから、あからさまには言わへんけど、へんなやつて思てるやろねえ。

「大谷翔平って、すごいけど、なんか爽やかだよねえ……」

 インタビューを受けてる大谷翔平に溜息つく留美ちゃん。

「大谷て門主さんと同じ苗字やけど関係あんねんやろか……」

「……え、そうなの?」

「いや、こんなニイチャンが住職やったら檀家増えるやろと思て」

「……特に関係はないみたい」

 真面目な留美ちゃんはスマホでググってくれた。なんか申し訳ない。

 

 ガラ

 

 襖が開いて、うちのクソ坊主が顔を覗かせる。

「明日、親鸞聖人八百五十回忌のお勤めやるさかい、そこのトイレ掃除しといてや」

「ええ!」

「あ、はい」

 うちの不満を押しのけるようにして留美ちゃんがええ返事をする。クソ坊主は留美ちゃんには笑顔を、うちにはアカンベェをして行ってしまう。

 うちは、お寺なんで三つもトイレがある。

 家族用の家のトイレ  境内のトイレ  本堂裏のトイレ

 クソ坊主が言うてきたのは、本堂裏のトイレ。

 報恩講とかの行事やら、本堂でやるお葬式やら行事の時のトイレ。まあ、普段はうちらも使うさかいええねんけど。

 

「ねえ、本堂裏のトイレ、WBCって呼び方にしよか!?」

「え?」

 いっしゅん息を呑んで、アハハと笑う留美ちゃん。

 うちもアハハと笑って、WBCの掃除に行った。

 

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん)
  •   

 

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