大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・66『C国多摩事変・1』

2018-10-31 06:29:43 | ボクの妹

妹が憎たらしいのには訳がある・66
『C国多摩事変・1』 
      


 よくある漢方薬の注文のメールだった。一日に数万件はある、それらの、ほんの三百件ほどだった。

 木下が、おかしいと思ったのは、それらが多摩ニュータウンに集中し、商品が、今はほとんど注文のない強壮剤だったからである。
 多摩ニュータウンは人口減少と多摩局地戦の影響で、規模が2/3に縮小され、高齢者の人口は減っている。
 こんな多量、同種の漢方薬が発注されることがおかしいと思った。勘の働いた木下は、そのうちの一軒を覗いてみた。
 内務省が極秘で持っている世帯個別調査のコードを使った。これを使えば、各世帯のテレビ内蔵のカメラや、PCカメラ、防犯カメラの映像を瞬時にみることができ、住人の個体識別もできるというスグレモノである。映された映像は、若い夫婦が子孫繁栄のための、ごく個人的な行為の真っ最中で、まちがっても強壮剤などは使わない。

「あ……」

 それはハッカーとしての直感であった。
 これは初歩的なハッキングによる情報操作だ。木下は受信先のアドレスを徹底的に洗った。
 その結果、今は壊滅した対馬戦争時代のC国陸軍の情報部宛になっていた。
 そこで木下は、その情報部のコードを偽造し、注文主に確認のメールを送った。すると、そこには、二世代前のチンタオ型、それもステルスタイプのロボットが十数台集結しつつある映像が映った。

「こいつはスリーパーだ……こないだのは、そのうちの一台にすぎなかったんだ!」

 チンタオ7号は考えた、ついさっき再起動したことを偽装電で送った。宛はチンタオ統合情報部である。そこから、再起動確認の偽装電が送られてきた。他の300台にも短波無線で情報を流し、全てのロボットが再起動の連絡をやりなおした。
 すると今度は、チンタオ統合情報部からではなく、彼らが以前稼動していたころには存在しなかった陸軍中央情報局から、暗号文で活動停止の電文が送られてきた。チンタオたちはこれをフェイクと考え、最初の再起動確認の電信を送ってきた者を敵と見なし、その発信源を突き止めた。

「しまった、こいつらCPを並列化して捜索してやがる」

 こんな事態になるとは思っていなかったので、簡易偽装と通り一遍の迂回しかやっていない。いかに二世代前とは言え並列化したCPなら数分で、ここを特定するだろう。

 木下は、CPを使ってワルサはするが、ごく身近な人間には「親切」な男である。
 となりの真由と優子を助けてやろうと思った。PCの一つを覗きモードにすると真由と優子の部屋が見える。就寝準備のため、布団をしいて、パジャマに着替えている。
「いつ見ても、真由ちゃんのオッパイってかわいい……いかん、今は、そんな状況じゃない!」
 木下は、慌てて隣の部屋に行きドアを叩いた。
「真由、優子、すぐに逃げろ、間もなくミサイルが飛んでくる!」
『なに言ってんの。あたしたち、もう寝るとこだから』
「寝ちゃダメだ、逃げなきゃ!」
『おやすみなさ~い』
「くそ!」
 木下は、二人の乙女を助けるべく、ドアを蹴破って中に入った。

 部屋の中はもぬけの殻だった。

「真由、たいへん。木下クンが、あたしたちの部屋に入った」
「え、ほんとだ」
「あいつ、チンタオのスリーパーに気づいて、あたしたちを助けようとしてるんだ!」
 その時、渋谷にいた二人の上空を一発のミサイルが飛んでいったのが分かった。
――木下クン、逃げて!――
 わたしは部屋のPCを起動して、思念で呼びかけた。それが音声化されて木下の耳には届いたが、パニックになっている彼は、とっさには理解できなかった。

 そして、数秒後にミサイルは、マンションごと、木下を吹き飛ばしてしまった……。


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高校ライトノベル・トモコパラドクス・43『東京異常気象・1』

2018-10-31 06:22:58 | トモコパラドクス

トモコパラドクス・43 
『東京異常気象・1』 
       

 三十年前、友子が生む娘が極東戦争を起こすという説が有力になったん…未来。そこから来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺された。しかしこれに反対する勢力により義体として一命を取り留める。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」そう、友子は十六歳。女子高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された! 娘である栞との決着もすみ、久々に女子高生として、マッタリ過ごすはずであったが……。


 東京は6日連続の真夏日で、ナントカ評論家たちが、地球温暖化のせいだと騒いでいた。

 温暖化がガセだというのは、未来を知っている友子にはフンってなもんだが、それを信じ込んでいる現代人には深刻だ。クールビズはダサイので下火気味だが、冷感繊維を利用した衣類は今年のヒット商品になってきた。
 残念ながら、乃木坂学院の制服は、そういう繊維でできていないので、学校に着くころにはアセビチャで、朝の教室は、耐汗スプレーや、抗菌スプレー、それに汗の臭いなどものともしない男どもの匂いが混ざって一種異様な臭いがする。

 友子も、紀香も義体なので、汗をかかないでおこうと思えばできるのだが、自然さを装うためにも人並みの汗はかかなければならない。先日の『ベターハーフ事件』では、うっかり汗も忘れていた友子だったが、あれから、16歳の女子高生に相応しい汗をかくようにプログラムしなおした。

 しかし、それが問題だった。

 汗というのは、適度なフェロモンが含まれていて、地下鉄の中などでは男どものイヤラシイ欲望を刺激してしまう。
 友子は、なるべく普通にふるまっているので、地下鉄でも必要が無くてもつり革に掴まっている。当然脇の下は無防備になり、合成フェロモンをまき散らしっぱなしである。また、友子の義体は、見た目には、ごく清楚な女子高生にできており、とても10万馬力には見えない。

 気づくと、お尻と右のオッパイを触られていた。

 お尻は、大学生のニイチャン。オッパイは新聞で巧妙に手を隠した公務員風のオッサン。二人とも顔はあさっての方角を向いている。
 大学生のニイチャンは、彼女に振られた腹いせが原因であることが分かったが、その後ろのサラリーマンのオッサンが――うまいことやりやがって――と、羨望の目で目撃しているので、放ってはおけない。
 方や、公務員風のオッサンは、どうやらプロで、この混雑の中、友子の足の間に膝を割り込ませてきた。

 ドサッ、グチャという音が同時にした。

「痴漢です、警察呼んでください!」
 友子はカバンを床に落とし、両手でニイチャンとオッサンの手をひねりあげ、股でオッサンの膝を締め付けた。

 ちょっとやりすぎた。

 ニイチャンとオッサンは手首を骨折、オッサンは膝の骨にヒビが入った。
「オッサン、よく、こんな痛む脚で……よっぽどのスケベだな」
「違うよ、こいつが凄い力で、オレの脚挟みやがって、イテテテ……」
「それにしても、お嬢ちゃん偉かったねえ!」
「わ、わたし、怖くて怖くて、でも、女性の敵だと思って一生懸命で……」
 友子は、顔を赤くして、涙さえうかべてみせた。
「でも、大した度胸と力だったよ!」
 駆けつけたお巡りさんが、あまりに褒め称えるので、つい言ってしまった。
「はあ、合気道を少々やっていたものですから……」
「ほう、自分もやっておるのですが、どこの流派で?」
 友子は、お巡りさんの心に浮かんだ流派を、そのまま口にした。
「はい……青芝流を」
「奇遇だ、自分と同じだ!」
「あ、わたしは本を読んで、ほんの真似事で……」

 この遣り取りが、新聞に載り、動画サイトで流れ、テレビでも放送したので、その影響は凄かった。
 絶滅寸前だった青芝流は入門者が引きも切らず。絶版になっていた『青芝流合気道入門』は大増刷になった。

 乃木坂学院の女生徒は被害者も多かったので、わざわざ全校集会がひらかれ、理事長表彰を受けただけでなく、痴漢撃退の講師まで、やらされた。

「あ、その……わたしが掴まえられたのは、たまたまですが。犯人の手を掴まえること、それが無理なら『警察を呼んでください!』と叫ぶことが大事です。『助けて下さい』では、一瞬意味が分からず、取り逃がすことがあります。この乃木坂学院から、犠牲者を出さないためにも、がんばりましょう!」
 みんなが拍手をする中、紀香一人が笑いを堪えていた。

 そして、この「警察呼んでください!」が、とんでもない事件を引き起こすのだった……。



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高校ライトノベル・小説大阪府立真田山学院高校演劇部公式ブログ・Vol・17『今日この頃』

2018-10-30 15:42:23 | 小説・2

小説大阪府立真田山学院高校演劇部公式ブログ
Vol・17『今日この頃』 
 
       


※台詞は入ったんやけど

 稽古は着々……と言いたいんですけど、なかなかです。
 なかなかいい、とちごて、なかなか進まへんの「なかなか」です。日本語はむつかしい。

 配役は以下の通りです。

 咲花 かおる    三好清海 (二年:部長・演出)
 畑中 すみれ    九鬼あやめ(一年:舞台監督)
 由香・看護師    大野はるな(一年:音響・その他)

 本は『すみれの花さくころ』 ネットで、これに大橋むつおと入れると出てきます。

 えらそうや思うたら堪忍してくださいね。いわゆる高校演劇のレベルにはなりました。
 台詞も入ったし、立ち位置や、おおよそでとりあえずの動き(ミザンセーヌ)は決まりました。挿入曲も一応覚えました。文化祭のクラス劇やったら、もう完成です。

 そやけど演劇部は、ここからです(^_^;)

 泣き笑いなんかの喜怒哀楽が、まだまだ引き出し芝居です。一応役者としての基礎練習はよそよりやってるんで、普通には芝居できます。

 役者の第一条件は、自己解放です。

 自己解放とは、芝居に合わせて自分の感情が自在に操れることです。一年の時に徹底的にやらされました。やり方は簡単。過去の体験で、悲しかったことや、辛かったことを再現するんです。演じるんとちゃいます。気持ちを表現するんとちごて、その時の物理的な記憶を思い出すんです。
 うちは、お婆ちゃんが認知症になって、あたしのことを忘れた時のことを思い出しました。病院のたたずまい。病院独特の奥行きの在るエレベータ、消毒薬と、そこはかとなくしてくる病人さんらのニオイ。夏やったんで、エレベーターが開いたとたんに入ってきた冷気。それも足元やのうて、首筋で感じたこと。病室のドアが最初はちょっと重たいけどスルっと開く感覚……ほんで、お婆ちゃんが「こんにちは」と言うた時の他人行儀な響き。他人に対する愛想のよさ……この時の笑顔が、お婆ちゃんが亡くなったとき初めて見た死に顔と重なって、あたしの記憶は一気に、お婆ちゃんが死んだ日にとんでしまいました。どっと悲しみが溢れてきて、お通夜、葬式、火葬場、骨あげ、あたしはパニックになりかけました。
 この練習は、メソード演技の基礎です。ただ、レッスンの素材に使う思い出は、3年以上経過してて、感情の崩壊をおこさん程度のもん。これが原則です。うちは、お婆ちゃんが亡くなったばっかりやったんで、記憶が、そっちに引っ張られてしもて、まだ生傷のお婆ちゃんの死を思い出してしもたんです。
 そやけど、これであたしは自己解放を覚えました。

 しかし、役者は、これではあきません。役者個人が自分の感情を見せたら演技とちゃいます。
 役者は、その役に合うた感情表現ができんとあきません。たとえばAKBの高橋みなみと指原莉乃とでは、泣き方も笑い方もちがうでしょ?

 今、あたしは、この段階にさしかかってます。役の肉体化と言います。かおるというのは昭和20年に17歳やった女学生です。女と言えど人前で泣いたり笑うたりしたらあかんと言われてた時代です。ほんで宝塚を目指すほどの子ぉですから、姿勢もええし、歌もうまいし、抑えようとしても出てくる自然な明るさ……なかなかですわ。

 チェ-ホフやったかスタニスラフスキーやらが言うてました。

 本を書くのも演技するのも、例えて言うと森の中を歩くのといっしょやて。
 一回通っただけやったらあかんのんです。毎日森を歩いて、森の中の最高の場所と道を探します。最初は、毎日違う道を歩いて迷うこともあります。適当に見つけたロケーションで満足することもあります。それでも繰り返し歩いて、ほんまに、その人物や戯曲が求めてる道を探ります。

 つまりですねえ、森の中で「ここや!」という場所を見つけたら、見つけたことを喜んでるだけではあかんのです。

 何回森の中に入っても、その「ここや!」にたどり着けるように、森の中の目ぼしいとこをチェックしとかならあかんのです。朽ち果てて横倒しになった楡。根元から分かれた糸杉。谷川に露出した岩。獣道の痕跡。キノコの群落。エトセトラ……そういう目印になるようなところを発見して、いつでも「ここや!」にたどりつけんとあきません。

 それを繰り返して、脚本が要求している感動にたどり着けるようにするのが稽古です。

 また、繰り返すことによってマンネリになってくるのも稽古です。

「返してよ!」とお願いして目的のものを返してもらう演技があるとします。それがクライマックスの感動に結び付くとしたら、ええかげんにはできませんよね。

『アーニャおじさん』というロシアの芝居で、酒飲みのおじさんから姪の女の子が酒瓶を取り上げるシーンがありました。公演を重ねるにしたがって「おねがい、おじさん、酒瓶を渡して」という姪の台詞に切実さが無くなってきました。

 あたりまえですよね、台本では、このセリフで渡すことになっているのですから。役者はダンドリで台詞を言うようになってしまいます。ダンドリ芝居では観客は感動しません。

 そこで、おじさん役の男優は酒瓶を渡さないことにしました。

 姪の女優は本番の舞台で困り果てました。

 そこで困り果てた気持ちで、ほとんど役者個人にもどって「返して……」と台詞……というより、本気で哀願しました。

 男優は、そこで初めて「おまえに頼まれちゃかなわないなあ」とアドリブをかまして酒瓶を渡し、とても生きたしばいになりました。

 なんか、ええ話に聞こえますが、本当は決められた台詞と演出の中で演技できならあきません。

 それを、確かで強固にするのが稽古なんです。

 分かったようなことを言うてますけど、実際は難しいもんです。

 まあ、今は、こんなとこです。役作りは、毎回のことやけど、大変です。まあ、四か月あるから、どないかなるでしょ。こういう楽観も役者には必要です。


 文責 大阪府立真田山学院高校演劇部部長 三好清海(みよしはるみ) 

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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・65『荒川事件』

2018-10-30 06:44:39 | ボクの妹

妹が憎たらしいのには訳がある・65
『荒川事件』
     



 捜すのにずいぶん時間がかかったよ。もっとも、こちらも、それだけに構っていられなかったけれどね。

 ホンダN360Zは、入力したコースを離れ、荒川の河川敷に停まると、そう話しかけてきた。

「油断したわ」
「いや、ここまで隠れていたんだ、大した者だと誉めておくよ」

「この声……ユースケね?」

「その名前は気に入っているよ。原体になった祐介は完全に取り込んだけど、このロボットの行動や思考の力は祐介の想いが原動力になっているからね」
「今、祐介は、どうなっているの?」
 抑えた声で優子がたずねると、ダッシュボードのモニターに赤ん坊のように丸まった祐介の姿が映った。粘膜や血管のようなものが繋がり繭のようなものの中で眠っているようだった。
「そして、これがわたし……ユースケのMCPだよ。どうせ君たちのスキャン能力じゃ分かってしまうことだろうからね。友好のシルシにお見せしておくよ」
「ホンダN360Zの擬態はやめたのね。どこにでもあるアズマの大衆車だわよ、これじゃ」
 わたしの不満にユースケは、正直に答えた。
「わたしも、あれのほうが好きなんだけど、目立つからね、山手線のガードを潜った時に変えた。ちょうど周りはアズマの同型車が四台も走っていたからね。途中、衛星の目の陰になるところでシリアスもナンバーも何度も変えたよ。見てごらん、営業の途中に自主的な休息をとっているアズマが、この河川敷に何台もいるだろう」
「なるほど、都心の道路じゃ、すぐに交通監視員のオジサンがやってくるものね」
「窓開けていい?」
「いいよ」

 オートで窓が開いた。広い荒川の川風が吹き込んできて気持ちがいい。

「子供の頃、こんなとこで、よく石投げをしたものよ。ちょっと出てやってもいい?」
「それは、話が済んでからにしてもらえないか。君たちのノスタルジーに付き合うために、ここまで来たんじゃないんだから」
「ち……」
「それに、うかつに外に出られて走り回られちゃ、擬態を解いてロボットの姿に戻らなきゃならないからね。せっかく平和に自主的休憩をとっているサラリーマン諸君の安らぎの邪魔はしたくない」
「ま、とにかく話を聞いてみようよ」
「友好的な態度に感謝する」
「で……?」
「C国が予想以上に我が国に浸透してきている。M重工の重役にハニートラップがかけられていた事でも分かるだろう?」
「ええ、あれはショックだったわ。C国の技術が、あそこまで進んでいるとは思わなかった」
「的場みたいな抜けたやつが防衛大臣をやっていたからな。今の民自党の時代に相当やられてる。それだけじゃない。君たちが多摩でクラッシュしてくれた古いロボットの他にも、相当なスリーパーが潜り込んでいるようで、対馬を中心に、周辺海域をしらみつぶしにあたっている」
「で、その間は、グノーシスの仲間割れは中断なのね」
「ああ、この国がなくなっちゃ元も子もないからね」
「だったら……」

 わたしと優子は手話に切り替えた。

――向こう岸の、ミッサンのバンに気を付けて――
――上空をノンビリ飛んでるアズマテレビのヘリコプターにもね――

 そのとき、ミッサンのバンが方向転換をしたかと思うと、ヘッドライトのところから対地ミサイルを、こちら岸のアズマの営業車に撃ち込んできた。
 二台目が吹き飛んだとき、わたしたちはドアから飛び出し、ユースケはアズマの擬態を解いてロボットの姿になり、荒川をジャンプし、ミッサンのバンの擬態を解きつつあるC国のロボットに飛びかかっていった。すると上空をノンビリ飛んでいたアズマテレビのヘリコプターが、空対地ミサイルをユースケ目がけて発射した。ユースケは予定進路を変え、同時にジャミングをかけた。
 わたしたちが義体であることに気づくのには、少し時間がかかり、わたしたちは擬態を解いたC国のロボットの後ろにまわり、至近距離から手首のグレネードを四発首筋にお見舞いし。ロボットは擱座した。真由の二発で間に合ったので、わたしは上空のアズマテレビのヘリコプターを撃ち、重力誘導で荒川の真ん中に墜落させた。

「ビックリするよね」
「あ、ユースケ、フケやがッた」

 あちこちで、アズマの車や、ロボット、ヘリの残骸が燃えている。わたしと優子は体温を地面と同じにし、衛星のサーモセンサーにかからないようにして、すぐに街中に逃げ込んだ。

 これが、C国多摩事変と呼ばれる局地戦争の始まりだった……。

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高校ライトノベル・トモコパラドクス・42『ベターハーフ・5』

2018-10-30 06:34:49 | トモコパラドクス

トモコパラドクス・42 
『ベターハーフ・5』 
        


 三十年前、友子が生む娘が極東戦争を起こすという説が有力になったん…未来。そこから来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺された。しかしこれに反対する勢力により義体として一命を取り留める。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」そう、友子は十六歳。女子高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された! 娘である栞との決着もすみ、久々に女子高生として、マッタリ過ごすはずであったが……。


 アズマッチを庇った杏は、トラックに5メ-トルも撥ね飛ばされた。

「杏、大丈夫か!」
「せ……先生こそ大丈夫……」
「大丈夫や、杏が、からだ張って助けてくれたから」
「361……覚えといて」
「なんや、それ?」
「うち跳ねよった車……ナンバーの下三桁」
「す、すぐ救急車呼んだるからな!」

 公園に居た人たちや、通行人の人たちがワラワラと集まってきた。
「まかしとき、うち救急車呼んだるさかい!」
「あたし、今、警察電話したよってに」
「お家の人に電話せなら、あんたスマホは!?」

 杏は、弱々しくスマホを取りだして、オバサンに渡した。
「あ、ボクの生徒やから、ボクが……」
「先生、そばにおって……ウ」
 
 杏の鼻と口から、血が流れてきた。

「喋ったらあかん、おれはずっとそばにおるさかい!」
 杏は、アズマッチの手を取ると、自分の胸に押しつけた。
「杏……」
「……ここ止まるまで……先生と……繋がってたい」
 ゴボっと音がして、杏は大量の血を吐いた。
「杏う!」

 もう、声は出せないが、杏は、口の動きだけで言った。

――ベター……ハーフ――

「うん、杏は、おれのベターハーフや。しっかりせい!」

 杏は頬笑み、そのまま胸の動きが止まった……。

「今だよ、なんとかするの……」
 紀香が言い終わる前に、友子は、無意識に時間を止めていた。

「こうしておけば、いいよね」
 処置を終えて、友子は紀香のところへ戻ってきた。

「今だよ、なんとかするのは!」
「今、やってきた。紀香が叫んでるうちに……」
「ひょっとして、時間……止めた?」
「ちょっとだけ、無意識だったから……」
「……肝臓の破裂が半分になって、肺に刺さった肋骨も一本に減ってる」
「頭のできものは、成長を止めてきた。これで半分の確率で助かる……と、思う」

 そこまで言うと、友子と紀香は一年前の東京の公園にリープした。

「見届けなくてよかったの?」
「あれが限界だった……のか、よく分からない。最後まで見届けたかったけど」
 ちょっと悔しそうに、友子は唇を噛んだ。
「まあ、あれでいいよ。あの二人は、自分の力でベターハーフになっていくよ。友子が全部やったら、ただの奇跡になっちゃう。ちょうど半分でよかったのよ」
「うん……今度のは勉強になった」

「友子、なんか忘れてない?」
「え……?」
 汗みずくの紀香を見ても、友子はピンと来なかった。
「汗よ、汗!」

 友子は、よほど緊張していたんだろう。外気温35度の公園で汗をかくのも忘れていたのだった……。
 

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高校ライトノベル・ライトノベルセレクト・『チンタラ電車と女学生』

2018-10-29 17:16:31 | ライトノベルセレクト

ライトノベルセレクト
『チンタラ電車と女学生』



「あんな血色のええ子はおらなんだなあ……」

 芝居を見てからずっと無口やったお母ちゃんが、発車待ちの近鉄電車のシルバーシートで、吐息混じりに言うた。
 うちは昭和25年の生まれやから、戦時中のことは分からへん。そやけど、今日の芝居には違和感があった。うちらが子供やった昭和30年代の初めごろでも、あんな子らはおらんかった。胴長短足で、今の子みたいにスタイルようて、顎のシュっとした子はおらんかったように思う。四角い顎して、水洟垂らして、いっつもお腹減らしてた。学校は二部授業……て、分かるやろか? 
 全校生が2000人ほどもおって、全生徒が学校に入りきらへんので、朝組と昼組に分かれて授業してた。それでも一クラス50人以上もおってすし詰めやった。そんでも一学期の始業式の時に、担任の先生は、全員の顔と名前覚えてたんで、子供心にもびっくりしたん覚えてる。

 今日は、孫の奈美が戦時中のチンチン電車の車掌の役で芝居に出る言うんで、86歳のお母ちゃんが奈美の舞台姿見たいいうのんで、午前中お医者さんに診てもろてOKもろて観にいった。
「奈美、元気に台詞しゃべって、頑張ってるなあ」
 中入りの時にお母ちゃんがもらした一言。とりあえずは、ひ孫の熱演には惜しみない拍手をしてた。
「ようやった、ようやった、かいらしい、かいらしい」
 拍手しながらお母ちゃんは喜んでた。で、上機嫌のまんま上六に着くと、榛原行の準急が出てしもうたあとで、各停にしか乗られへんかった。発車までには十分以上あるんで、お母ちゃんは頭の中で、今観た芝居を反芻してるみたいやった。
「あんな力んでたら、長い勤務時間もたへんで。適当に力抜きながらやったもんやけどなあ」

 お母ちゃんも戦時中、市電の車掌をやってた。あと一か月で運転手になれるいうとこで終戦。9月の半ばには男の職員が復員し始めて、お母ちゃんの市電勤務は半年足らずで終わったらしい。奈美への感動がおさまると、うちと同じ違和感が湧いてきたらしい。

「ポールの切り替え見せて欲しかったなあ」
「なに、ポールの切り替えて?」
「車線やら路線変更するときは、車掌が降りて、フック付の竹ざおでポール……架線から電気とるアンテナみたいなやつ。あれ切り替えるのん、お母ちゃんうまかったんやで。こうやってな、腰で……アイタタ」
「調子のって無理したらあかんで」
「ハハ、せやな」

――お客様にお伝えします。○○駅での人身事故のため、各車両とも発車時間が遅れております。おいそぎのところ申し訳ありませんが、発車まで、今しばらくお待ちください――

「こら、チンタラ電車になりそうやな」
「うまいこと言うなあ、お母ちゃん」
「大阪の客は口悪いさかいな、よう言われたわ。せやからポールの切り替え……あかん、また腰いわすわ」
 チンタラ電車いうたら、うちらが高校生やったころも市電はチンタラやった。当時は道路事情が悪いとこにもってきて、車が多て、市電はほんまにチンタラしてた。おまけに冷房なんかあらへんよって、みんな汗タラタラ……そない言うたら、今日の芝居は夏の設定のはずやけど、出てくる人は暑そうやなかったなあ……うちの感覚からもズレてる。
 まあ、孫の奈美が一生懸命やってたことだけで値打ちやけど、あれが奈美の出てへん芝居やったら……違和感やろなあ。
 うちらの世代は戦前の教育と平和教育が混在してた。
 日の丸は平気であがってたし、卒業式は『仰げば尊し』やった。芸術鑑賞は東京オリンピックの記録映画以外は反戦の映画やら芝居が多かった。正直見飽きた。ジブリの『火垂るの墓』観たときは笑ろたなあ。なんせ野坂の原作読んでたから、あんまり美しく設定かえてたんで白けた。

「歩きスマホらしい……」

 ダイヤの都合で運ちゃんが交代らしいて、代わりの運ちゃんが口にしてるのが聞こえた。人身事故いうからには亡くなったか大怪我やねんやろけど、歩きスマホではなあと思てたら、電車が動き出した。
 なんとか弥刀までは、行ったけど、そこでまた停車。

――△△駅で人身事故のため、しばらく発車を見合わせます。お急ぎのところ、まことに申し訳ございません――

 また、歩きスマホかと思たら、車内放送で歩きスマホを注意するアナウンスがした。たぶんビンゴ。

 かくして、一時間のチンタラ電車で、戦中と戦後高度経済成長の女学生はヘトヘトになって帰宅した。

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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・64『オーマイガー!?』

2018-10-29 06:37:22 | ボクの妹

妹が憎たらしいのには訳がある・64
『オーマイガー!?』 
    


 それから、表面上は穏やかな学生生活が続いた。

 裏ではいろいろあった。

 春奈の父親は、C国のハニートラップ、それもロボットに騙され情報を流し続けたということで、他社や自社の重役や、役人達といっしょに社会的に抹殺され、今は長崎に帰って妻と少しずつ「夫婦」に戻りつつあった。春奈は、これを機に東京で、学生生活に本腰を入れた。むろん宗司のサポートがあってのことだが。
 日本政府とC国の関係は一触即発の状態になり、グノーシスの仲間割れも休戦状態で、隣の木下クンのところからも、日本とC国の腹のさぐり合い以上の情報は流れてこず、緊張を孕んだ平和が続いた。

 そんな中、W大の理工学部と自動車部の肝いりで自動車ショーが開かれた。

「足としての車 足は第二の頭脳である」

 もっともらしいコンセプトで、自動車部が持っているガラクタ同然のクラシックカーに理工学部が適当な解説をつけ、お祭り騒ぎをやろうという学生らしい企みであった。
 むろん参加料はタダだが、自動車メーカーや、玩具メーカーとタイアップし、ブースを出してもらい、一稼ぎしようという目論見。
 企画は、我らが「となりの木下クン」で、彼自身ネット上にブースを設け、中古車から、クラシックカーのパーツ販売の仲介までやって稼いでいた。宗司クンは、スーパーの知識と、料理の腕をを生かし、友人とB級グルメの店を出して楽しんでいた。宗司クンの出店は、いわば客寄せで、ほとんど儲けはないが、趣味人として楽しみ、他学生である春奈も喜々としてウェイトレスの手伝いなんかをしていた。
 
「この車かわいいね」

 優奈が一台のクラシックカーに目を付けた。ホンダN360Zと表記された車は「古典的未来の魅力」というキャプションが付いていた。
 百年前の車だけど、21世紀に対する無垢なあこがれがフォルムに現れていた。21世紀初頭を感じさせるフロントグリル、コックピットと言っていいような乗車スペース。大胆な黒縁のハッチバック。切り落としたように無い車体後部。
「これ、極東戦争の前にヒットした『オーマイガー!!』に出てくる車だよ」
「主人公のマドカが『ファルコンZ』って名前付けて、イケメンの外人講師乗せたり、過去の世界に戻って、高校生時代の母親を助けたりするんだよね」
 優子は、頭脳の元になっている幸子か優奈が好きだったんだろう、『オーマイガー!!』の映画への思い入れと知識に詳しい。
「良かったら試乗してください。オートでしか運転できませんが、時代の雰囲気は満喫していただけます」
 W大生にしては、可愛いミニスカ・キャンギャルの女の子が、にこやかにドアを開けてくれた。

「ウワー、カッチョイイ!」

 優子のその一言で、わたしは優子といっしょに「コックピット」に乗り込んだ。
「うわー、これ音声認識もしないんだ!」
「はい、三世代前の手動入力になっています」
 キャンギャルの子が、目をへの字にして、興味をそそる。
「じゃ、神楽坂に出て、渋谷……」
 優子が、山手線の内側をなぞるようにコース設定をした。
「ウウ、たまらん、このアナログ感!」
「ファルコンZ、しゅっぱーつ!」
 優子が、映画のマドカのように声を上げた。
 車が一般道に出るまで、キャンギャルの子は笑顔で手を振っ見送ってくれた。

 車が見えなくなると、キャンギャルの子は、ブースの陰でミニのコスを脱ぎ捨て、隠しておいた国防軍のレンジャーのユニホ-ムになり、迎えに来た高機動車に乗り込んだ。

 木下クンも、宗司も春奈も、会場の誰も気づかなかった……。

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高校ライトノベル・トモコパラドクス・41『ベターハーフ・4』

2018-10-29 06:29:39 | トモコパラドクス

トモコパラドクス・41 
『ベターハーフ・4』 
       

 三十年前、友子が生む娘が極東戦争を起こすという説が有力になったん…未来。そこから来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺された。しかしこれに反対する勢力により義体として一命を取り留める。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」そう、友子は十六歳。女子高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された! 娘である栞との決着もすみ、久々に女子高生として、マッタリ過ごすはずであったが……。

 公園に行くと、アズマッチと杏(あんず)が実体化していた……!?

「ちょっと、これ……」
 アズマッチと杏が、一人分ほどの距離を空けてベンチに座っている。
「情報が実体化したかな……わたし、自分の力がよく分かってないから」
「……いや、ちがうね。あたしたちが入り込んだんだ。そこの住居表示を見てごらんよ」
 紀香が目配せをした。
「大阪市東成区……」
「どうやら、あたしたちの方がリープしたみたいよ」
「そっちのベンチ死角だから、そこで様子を見よう」


「杏、人には発達段階いうものがあるんや」
「発達段階?」
「ああ、そこの子供ら観てみい、えらい無駄にからだを動かしているように見えるやろ」
 アズマッチは、公園の真ん中あたりで走り回っている子どもたちを示した。
「あたしも、昔は、あんな風に鬼ごっこしてたわ……」
「子どもは、あれで体の試運転をやってるんや。杏もいっしょや」
「あたしは、もうあんな遊びはせえへんよ」
「いや、人を好きになる気持ちや」
「人を好きになる気持ち?」
「そう、杏の年齢は、本当に人を好きになる心の練習期間なんや」
「どういうことですか?」
「人間いうのは、ラノベみたいなもんでさ。慣れんと、直ぐに表紙のかっこよさや、最初の一二ページの面白さに惹かれてカスをつかむ」
「うん、ラノベは分かります。そやけど人間は……」
「いっしょやで。自分から聞くのもなんやけど、オレのどこがええねん」
「それやったら、はっきり言えます。先生、水泳部の監督すすんで引き受けてくれはった」
「ああ、あれか……でも、あれは監督なんてもんやない。ただプールサイドに椅子置いて座ってただけや」
「そやかて、顧問の水瀬のオッサンが、夏の練習に一日も付き合われへん言うて、うちらの水泳部、夏に一回もプール使われへんとこ、顧問でもないのに自分で手えあげて、先生はやってくれた。うちらでも分かる。あれはスタンドプレーで、水瀬のオッサンの顔潰すことになることぐらい」
「水瀬先生は、組合の支部長で、夏は忙しい。そやけど、それで水泳部の面倒を見いひん理由にはならへん。そう思ったから、やったまでや。オレがやらんでも、他の先生がやってたで」
「おかげで、あたしも、時々来ては泳げたし……」
「あれは感心したぞ。水泳部はみんな引退したのに、真剣に泳ぎに来た三年生は杏一人だけやったもんな。観てても後輩らが励みになってるのがよう分かったよ。杏こそエライ!」

 その教師らしい誉め言葉には乗らずに杏は続けた。

「先生、一学期に中山が辞めたとき、きちんと見送ったげたでしょ。校門出て行くまで」
「あれか……」
「他の先生は、玄関で見送っただけで職員室戻ってしもて。校門で振り返ったら、先生一人ずっと見送り続けて……あれには中山も感動しとった。うちも、横で見てて……ええ先生やと思うた」
「……辞めてく奴に地元で、学校の悪口いわれたらたまらんからな。一人ぐらいは、きちんと見送ってやらんとな。そんなに尊敬することでもない、教師の手練手管のうちや」
「そんな悪ぶって言わんといてください。子どもちゃうから、百パーセントの善意があるとは思てへん。手練手管や言いながらでもやった先生はステキやと思う」

 杏のステキを持て余して、アズマッチは缶コーヒーを二つ買いにいった。

「まあ、飲めよ。カフェオレがええやろ。コーヒーとミルクのベターハーフや……」
「ベターハーフ……おおきに。温いなあ……」
 杏は、両手で缶をコロコロ慈しんでから、プルトップを開けた。
「この程度の温さは自販機でも買えるで」
「この状況で、この感覚で買うてこれるのは、先生のステキさです」
「そやから、この程度のステキは、学校卒業したら、いっぱい居るて。オレみたいなもんで手を打つことないて」
「ステキの棚卸しせんといてください」
「ごめん……」
「……うち、この夏クラブ行って泳いでたんは、後輩のためとちゃうんです」
「うん?」
「オレに惚れてか?」
「アハハ……」
「なんや、おっさんオチョクってたら、あかんがな」
「オチョクってません。先生のことも好きやった……せやけど、あたし、泳げるのは、この夏が最後かもしれへんから……」

 杏は立ち上がり、背を向けて嗚咽した。

「杏……」
「あたし、頭の中にデキモンがあるんです。今はまだハナクソほどやけど……」
「腫瘍なんか……?」
「脳幹の近くで、手術がむつかしいとこ……ようもって、後二年。来年は入院してプールにも行かれへんかもしれへん」
「杏……!」
「見んといてください、今の杏の顔は見られたないよって。うちの人生は、あと二年。この二年がうちの人生の全て。そやから、うちは全人生かけて、好きなんです先生のことが」
「杏……」
「ええんです。先生の心には、もう住んでる人がいてる……ちゃいますか?」
「それは違う。もう住んでへん……そやけどな」
「もう、ええんです。迷惑かけました。家帰ります……」

 杏は、公園の入り口に向かって歩き出した。

「あ、アパートの鍵。ちょっと待て杏!」
「……先生のアホ」
「かんにんな、アホで……」
 アズマッチは杏の顔がまともに見られず、先を歩き出した。

 そのとき、トラックが前からやってきた。運ちゃんはスマホ片手に対向でやってきた軽自動車に気を取られていた。

「先生、危ない!」

 杏は、身を投げ出して、アズマッチを庇った……。

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高校ライトノベル・小説大阪府立真田山学院高校演劇部公式ブログVol・16『臨時増刊号』 

2018-10-28 17:57:21 | 小説・2

小説大阪府立真田山学院高校演劇部公式ブログ
Vol・16『臨時増刊号』 
 
         


 昨日のVol・14は意外に反響が大きかったので、臨時特別号です。

☆反響のコメントなど

 実は、デリケートな問題なので、顧問の淀貴美先生からは書くなといわれてたんですが。概要だけでも書いておきます。学校訪問で行った誠学園や谷町高校でも話題ににはなってたんですが、あえて書かなかったことです。それほどデリケートかつ根本的な問題なんで、あえて要目だけでも書いておきます。みなさんにも考えていただけたら嬉しいです。

☆創作劇の偏重

 大阪は、90%以上が、顧問や生徒などによる創作劇がコンクールに出てきます。これは創作劇が特別な扱いをされるからです。
「既成脚本と、生徒が一生懸命創作してきたもんを同列にはあつかえません」という高校演劇の先生方の公式見解による影響です。
 うちらは、坂東はるか先輩のころから、この風潮には反対してきました。谷町の先生なんか「上演本探してはいてんねんけど、どうせ落とされることが分かってると気がなえてしもてね……」と、苦笑いされながら言うてはりました。
 前号を読んだ人には分かると思うんですが、谷町の先生は「野村萬斎のマクベスなんかええな」と言うてはりました。やっぱり手に合うたものを探してはいてはるんです。これを、実際の上演にまでいかさへんのは『創作至上主義』からです。
 うちらは既成の『すみれの花さくころ』をやります。まっとうな芝居を、高校生にやらせるためには、創作優遇主義、どないかせんとあかんと思いました。

☆審査基準

 二校ともそうでしたが、審査には不信感を持ってはりました。コンクールの2回に1回は「あれ?」と思わはるそうです。むろんうちらもそうです。創作劇の偏重との相乗効果で、コンクールの審査に疑問を抱かせてる大きな問題になってます。審査基準がないと、極端な場合「裏で、なにかあるんちゃうか?」と勘繰られてしまいます。実際学校訪問で行った学校の先生は「一つの地区で、同じ学校が四半世紀に渡って、地区で最優秀とんのはおかしいで」とおっしゃってました。やっぱり審査基準を作って、透明性のある審査が望まれています。

☆今年の審査員

 本選審査員のお一人は、三年前に真田山を「作品に血が通っていない、思考回路・行動原理が高校生ではない」いうわけ分からへん理由で落としておきながら、合同合評会では、レジメで、その審査を撤回した人です。この人を再び使うんやったら、それ相当の説明が必要です。
 三年前は落とされましたが、東京のNOZOMIプロのディレクターは、ちゃんとDVDの記録を観てくれはって、坂東先輩がプロの女優になるきっかけになりました。その結果から見ても、審査はおかしいです。個人名はひかえますが、この疑問と、三年前の誤審については釈明し、審査員の人選を再考すべきやと思います。

 では、もう学校に行く時間なんで、失礼します。

 文責 大阪府立真田山学院高校演劇部部長 三好清海(みよしはるみ) 

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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・63『ボクの勘』

2018-10-28 06:36:21 | ボクの妹

ボクのがこんなにニクソイわけがない・63
『ボクの勘』 
 
         


「ボクの勘だけど、あの女の人はロボットのような気がする」

 マンションに戻る途中、春奈と宗司がマンションを出て駅に向かって居ることがGPSで分かった。
そして、最初に飛び込んできたのが、宗司のこの言葉だった。

 しばらく、二人は無言だった。

 春奈が涙をこらえ、宗司が、今の言葉を後悔しながら、春奈の気持ちを引き立てようとしていることが、無言の息づかいや、足音などから分かった。

「言葉なんか無くても、通じるものってあるんだね……」
 優子が、優しく言った。
「始め言葉ありき……と、聖書にはあるけどね」
「新約聖書「ヨハネによる福音書」第1章ね……わたしはクリスチャンじゃないから、この言葉は信じない」
「そうだね。今、宗司は無言で春奈に寄り添ってるよ。だから、春奈も崩れずに、駅に向かって、ちゃんと歩いている、歩けてる」

 駅の改札を潜ると、まるでシェルターにでも入ったように、春奈は、ベンチに腰を下ろし、ため息をついた。
 
 電車が来ても春奈は、ベンチを立とうとはしなかった。

 宗司は、寄り添ってベンチに座り続けた。
 場馴れしない宗司は、無意味に立ち上がり、自販機でコーヒー牛乳を買って、一つを春奈に渡した。

「プ、よりによって、コーヒー牛乳……」
「あ、ボク、何にも考えてなくて……よかったら、別の買ってくる」
「いいの、こういう子供じみた飲み物がちょうどいいの」
「そ、それはよかった」

 そう言いながら、宗司自信は、コーヒー牛乳を持て余していた。
 春奈は、付属のストローを、さっさと差し込んで、最初の一口を口にした。

「おいしい、宗司クンも飲んでみそ」
「う、うん」
 宗司は、音を立てて、半分ほども飲んでしまった。
「子供みたい」
「あ、ボクって、気が回らないから……ごめん」
「謝ることなんかないわよ」
「ロボットみたいだって、いいかげんな慰め言ってごめん」
「ううん、心がこもっているもの。でも、どうしてロボットだって思ったの?」
「……ただの勘。エントランスですれ違ったときに、なんてのかな……人間て、不完全てか不器用だから、たいてい複数のオーラを感じるんだけど、あの人からは美しいってオーラしか感じなかった。むろん表情が硬かったり、適度に足早だったり……でも、ボクには、プログラムされた動きのように思われた……いや、ドジなボクの勘だから」
「残念ながら、あの女の人は人間。これも勘だけど、当たり」

「そうなんだ……」

「中学の頃に、お父さんのゴミホリ手伝ってたら、紐が切れて、古い本やら手紙がばらけちゃって」
「アナログなんだね」
「エンジニアって、そんなとこあるでしょ。その手紙の中に、経年劣化すると隠れた写真が浮かび出てくるものがあったの。その写真、さっきの女の人にそっくりだった」
「女の人からの手紙?」
「ううん、お父さんの友だち。きれいな人だなって思った。手紙には『20年後に、この手紙を見ろ』って書いてあった。元は風景写真みたいだったけど、女の人の姿と二重になっていて、お日さまに当てると、あっと言う間に、女の人だけになった」
「その女の人、お父さんの彼女だった人?」
「うん……不思議そうに見ているお父さんが、後ろから言った『お母さんと知り合う前に付き合っていた。向こうの親が反対らしくてね、お父さんのメールや手紙は全部ブロックされていた。で、数か月後に街で会ったら、こう言われた』 彼女は、こう言った『なんで、しっかり掴まえていてくれなかったの』。それで、お父さんは、手紙やメールがブロックされていたことを悟った。で、なにも言わずに別れたって……『人を愛することは、その人が一番幸せになることを望むことで、けして押しつけるもんじゃない』って。そして『いま、お父さんが一番大切な人は、お母さんと春奈だ』って」
「……そうなんだ」
「その女の人によく似てるんだもん。ロボットだったら、いくらなんでも分かるわよ……でしょ。その……スキンシップとかがあれば分かる事よ」
「そ、そうだよね……」
「電車が来た。もう、この街から離れよう」
「うん」

「これ、やっぱり放っておけないよ」
 反対側のホームで、優子が言った。
「予定変更、ただちに実行」
 わたしは、あの女に送り込んだプログラムを書き加えた『迅速な活動停止』と……。

「あなた、ただ今。どうだった、春奈ちゃん?」
「あ、ああ、少し傷つけてしまったようだけどね……」
「ごめんなさいね、わたしが……」
 そのまま女は倒れて、呼吸が止まった。

 救急車で女は救急病院に運ばれ、蘇生措置が行われたが息を引き取った。
 そして、病理解剖されて、初めてロボットであることが分かった。同時に全国で二十体の活動を停止したロボットが発見された。わたしが発見したより十五体多い。C国のトラップは、思いの外進んでいた。

 事態は、わたしたちの予測を超えて進み始めている……。
 

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高校ライトノベル・トモコパラドクス・40『ベターハーフ・3』

2018-10-28 06:26:55 | トモコパラドクス

トモコパラドクス・40 
『ベターハーフ・3』 
      

 三十年前、友子が生む娘が極東戦争を起こすという説が有力になったん…未来。そこから来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺された。しかしこれに反対する勢力により義体として一命を取り留める。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」そう、友子は十六歳。女子高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された! 娘である栞との決着もすみ、久々に女子高生として、マッタリ過ごすはずであったが……。


「え、アズマッチ、退職願出してんの!?」

 ちょっと寄り道して、友子と紀香は途中の駅で降り、紅茶のおいしいお店に寄った。
「うん、却下されたけどね。この夏には、大阪の採用試験受けるみたい」
「自分から身をひくんだ……あの先生に、そんなとこが有ったなんてね……ただの口やかましい若年寄かと思ってた」
 紀香は、無意識にカップの中のレモンをスプーンで四つ折りにして、ギュっと絞った。
「……う、酸っぱい選択だね」
 義体でも、酸っぱい物は酸っぱい。当たり前の感性をしている。

「この夏の採用試験に合格して、アズマッチは、ある府立高校に赴任するんだ……」
 友子は、アイスティーのストローをもてあそびながら、言った。
「リープしたの?」
「意識だけね。やっぱ、あとは情報送るから、自分で判断して」
「OK……」

 アズマッチは、半分眠ったままで夢を見ていた。

 台所で、小気味良いまな板の音がする。懐かしいオカンのみそ汁の香り、玉子の焼ける音と匂いもした。
――そうか、これは子どものころの夢やねんなあ――
 大阪出身のアズマッチは、素直にそう思った。だが、おかしい、気配が妙にリアルだ。だいたい夢というのは、しだいにオボロになっていくのに、この夢は、ますますはっきりしてくる。
 気づくと、枕許に人が座る気配。オカンなら、襖を開けてこう言う。
「こら、いつまで寝とんじゃ、お日さんとうに起きてはんぞ!」
 で、季節に関係なく、カーテンと窓を開ける。そして、そのオカンは、乃木坂に就職した年に交通事故で死んだ。
 枕許の気配は、若い女のそれであった。

「おはよう、東先生!」

 アズマッチは、百万ボルトの電気にうたれたように、飛び起きた。
「お、おまえは……中村杏(あんず)!」
 三年二組の中村杏が、甲斐甲斐しいエプロン姿で、枕許でニコニコしていた。今日は久々の完全オフの日曜日。悪夢なら、さっさと覚めろ! しかし、これは現実であった。
「なんで、中村がいてんねん!?」
 アズマッチは、古里の大阪に戻ってすっかり、大阪弁に戻っていた。
「先生のこと愛してるからです」
「なんだ、そうか……て、説明になってないし、飛躍のしすぎやろ!?」
「ほんなら、説明は二つ」
「二つ?」
「はい、昨日、先生、相談室の前でキーホルダー落とさはったでしょ?」
「ああ、そやけど、沼田先生が見つけてすぐに届けてくれはった」
「最初に見つけたんは、あたし。連れの美由紀が進路相談終わるの待ってたんです」
「あ……相談室の前におったん、杏か!?」
「その時に、先生、相談室閉めよとして、キーホルダー落とした。で、家の鍵は直ぐ分かったよって、駅前で、直ぐに合い鍵こさえて、沼田先生がきはる前に廊下に落としといたんです。よかったですね、ネームプレート付いてなかったら、分からんとこやった」
「で、もう一つの説明は?」
「そら、朝ご飯食べてからにしましょ。先生、夕べは無精してお風呂入ってないでしょ。とにかくシャワー浴びて、着替えだけはしてくださいね。はい、パンツとシャツはサラ出しときましたから」

 完全に、杏のペースに巻き込まれた。

「で、第二の説明は?」
「先生、薮心療内科に通うてるでしょ?」
「なんで知ってんねん!?」
「そやかて、あそこ杏の家やもん」
「え……そやかて、苗字が?」
「薮は、実家の苗字。お母さんは、お父さんと別居中。で、あたしはお母さんと実家に転がり込んでるいうわけです。ほんで、先生がお祖父ちゃんに診てもろてるの分かって、カルテ見たんです」
「それて、杏なあ……!」
「未来の夫の健康状態を知るのは、妻の勤めです!」
 アズマッチは、みそ汁を噴き出しそうになって、むせかえった。すかさず杏は背中をさすりながら答えた。
「ピーゼットシー4mg エスタゾラム2mg プロチゾラム2.5mg アクゼパム15mg だいたいの睡眠時間は分かります」
「でも、寝た時間は分からんやろ?」
「うちの二階から、先生の部屋見えるんです。望遠鏡使わならあかんけど」
「杏なあ……」
 アズマッチは、箸を置いた。
「あきませんよ。おみそ汁はちゃんと飲まなら」
「みそ汁どころとちゃうで!」
「しかたないなあ……」
 杏は、飲み残しのみそ汁を、美味しそうに飲んだ。
「へへ、間接キスしてしもた」
「おい、おまえなあ……」
 杏は、椅子を寄せて、アズマッチの直ぐ横に張り付いて、潤んだ目でささやいた。
「あたし、今日は安全な日なんです……」

 今度は、紀香がむせかえる番だった。

「こ、これ、バーチャルなんじゃないんだよね!?」
「まだまだ、話はこれから……」

 二人は、紅茶屋を出て公園に向かった……。

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高校ライトノベル・小説大阪府立真田山学院高校演劇部公式ブログVol・15『加盟校活動報告・3』

2018-10-27 16:11:21 | 小説・2

小説大阪府立真田山学院高校演劇部公式ブログ 
Vol・15『加盟校活動報告・3・大阪府立谷町高校』
        


☆近所の府立谷町高校にお邪魔しました

 旧制女学校が、戦後の学制改革で新制高校になった由緒ある高校で、昔は府大会で優勝したり、近畿大会にも出場経験のある伝統校でした。それが今では、兼業部員が一人だけ。で、この部員は帰宅部と兼業。
 そう言って笑わせてくれたのは、顧問の矢部先生。

 先生自体、正式には放送部の顧問で、演劇部は副業。連盟には演劇部として登録してるけど、校内の扱いは同好会やそうです。

 むろん好き好んで二つの顔を持ってるわけやないんで、演劇同好会がクラブとして、三人以上の部員は必要という実態を失って長いからです。
「コンクールは、三年に一回ぐらいかなあ……」
 寂しそうに先生は言わはります。
「今年は出ますよってに」
 帰宅部兼業のH君がいう。
「まあ、あてにせんと待ってるわ」
「一緒にやってくれる奴が、もう二人ほどおったらね」
「そんな言い方せんでもええがな。芝居いうのは、舞台は一人でも、やっぱり照明やら音響のスタッフはいるさかいな」
「まるっきり一人で演れる芝居もありますよ」
「知ってます。そやけど、稽古場にいっつも一人いうのは、やっぱりね……」
 H君は俯きながら、そない言うた。
「こいつだけが悪いんやないねんわ。やっぱり、条件整備いうのは顧問の仕事やからね。昔はほっといても演劇部は人が集まったけど、今はこっちから声かけてもあかんあらね」
「中学校で、演劇部が無いようなってしまいましたからね」
「この四月はHもがんばってくれたんですわ。入学者の名簿から演劇部出身の子ぉ探したんやけど、どうもね、今年は見事に一人もいてなかった」

 高校演劇だけとちごて、中学校の演劇部が壊滅状態いうのを改めて実感。

「もし、何人か居てたら、やってみたい芝居とか無いんですか?」
「うん、野村萬斎がやってた5人だけでやる『マクベス』なんかよかったね」
「先生、5人なんか、絶対不可能。それに、あれマクベス以外は、みんな一人で何役もやらならあかんさかい、宇宙的規模で無理」
 
 そこで一回話題が途絶えてしもた。わざわざ来た甲斐ないので、他のことに話題をふってみる。

「ラノベなんか読まはります?」
「うん、多少はね。『はがない』とか『おにあい』とかね。映画も観に行ったし。

 ちょっと解説『はがない』とは「僕には友達がすくない」の略。『おにあい』は「お兄ちゃんだけど愛さえあれば関係ないよねっ」の略。

 けっきょく、後半はほとんどラノベの話で盛り上がっておしまい。あたしらはラノベみたいな芝居でもええと思う。とにかく、面白いと思う着想を芝居にする力。それが必要。
「近所やねんさかい、コンクールなんか二校合同で出られたらええのにな」
 矢部先生の苦し紛れは、可能性やと思いました。管理やら責任の問題はあるけど、野球部なんかでは複数校が合同で試合に出ることもあるらしい。連盟の規約を変えならでけへんけど、一つの可能性やと思うて帰ってきました。

 ちなみに、このブログは朝の5時から起きて打ってます。昨夜のうちにやっといたらよかったんやけど、台本読んでたら寝てしまいました。次は、うちらのクラブのこと書きたいと思います。

 文責 大阪府立真田山学院高校演劇部部長 三好清海(みよしはるみ)

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高校ライトノベル・トモコパラドクス・39『ベターハーフ・2』

2018-10-27 06:59:13 | トモコパラドクス

トモコパラドクス・39 
『ベターハーフ・2』 
      


 三十年前、友子が生む娘が極東戦争を起こすという説が有力になったん…未来。そこから来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺された。しかしこれに反対する勢力により義体として一命を取り留める。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」そう、友子は十六歳。女子高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された! 娘である栞との決着もすみ、久々に女子高生として、マッタリ過ごすはずであったが……。


 
 アズマッチはノッキー先生のことが好きなんだ!!!

「で、どうなのよ、二人の関係というか、可能性は?」
 駅前のパンケーキをかじりながら紀香が聞いてきた。今日は期末テストで二時間でおしまいなのだ。
「ま、ノッキー先生の記憶から取った情報……見てくれる」


「やっぱ、氷川丸は外せませんね」
「ふふ、乗せてしまえば、管理もしやすいですしね。でしょ、東先生?」
「違いますよ!」
「あら、ごめんなさい」
 二人は、遠足の下見に横浜の山下公園にやってきていた。去年の春のようだ。
「氷川丸は、昭和五年に造られた大型貨客船で、横浜とシアトルを何度も往復……あ、チャップリンも、この船で日本に来たんですよ」
「まあ、あのチャップリンが?」
「ええ、柔道の嘉納治五郎も東京オリンピック招致の会議のあと、この船で帰国中に肺炎で亡くなってます」
「嘉納治五郎って、東京オリンピックの前まで生きてたんですか!?」
「ハハ、昭和十六年の幻のオリンピックですよ」
「へえ、そうなんだ……」
「戦時中は、病院船になって、船体を白く塗って、緑の帯に赤十字が映えましてね。海の白鳥って呼ばれたもんです」
「へえ……この船、きっと白が似合ったでしょうね」
「戦後は、引き揚げ船やったり、もとの太平洋航路にももどって、その後は展示船になって、ユースホステルになったり、船上結婚式に使われたり……」
「え、ここで結婚式!?」
 ノッキーは、思わず身を乗り出した。
「白い船体に、白いウェディングドレス……素敵だわ!」
「あ、そのころはエメラルドグリーンに塗られてました」
「エメラルドグリーン、もっと素敵。そのころの氷川丸見て見たかったわね!」
「あ、じゃ、そこ立ってみてください!」
「え、この白黒じゃイメージちがうなあ……」
「あ、パソコンで処理して、船はエメラルドグリーンにしときますよ」
「ついでに、ウェディングドレスにしてもらおうかなあ」
「あ、それいいなあ、やっときますよ!」
「ハハ、冗談よ。このままでいい」
 スマホでシャメって、アズマッチは、ノッキー先生に見せた。
「あ、思い出した。このアングル!」
「ハハ、分かりました?」
「『コクリコ坂』で、海と俊がアベックで歩いたとこだ!」
「そう、お互い好きなんだけど……」
「その時は、お互い兄妹だと思いこんでいて、なんだか、とってもせつないのよね!」
「そういう、歴史的な背景を説明してやってから、生徒たちを、ここに連れてきてやりたいんですよ」
「うん、とってもいいアイデアだわ!」
「そして、帰りは、ここで集合写真撮ってやりたいんです。母港に落ち着いた氷川丸の前で!」
「うんうん!」
 そのとき、いたずらなカモメが、ノッキー先生の頬をかすめた。
「きゃ!」
 思わず、ノッキー先生はアズマッチの胸に飛び込んでしまった。
「柚木さんが、ボクの母港になってくれたら、どんなにいいだろ……」
 
 ノッキー先生は、優しく顔を上げた。

「……わたしみたいな小さな港には、東先生みたいな大きな船は入りきらないわ」
 そして、自然にアズマッチの胸から離れた。
「もう、入港させる船は……決まってるの?」
「……まだ、一度も入港してくれたことはないけど……さ、次ぎ行きましょうか」
「そ、そうですね、柚木先生!」

 それから、アズマッチは、彼女のことを、かならず「先生」をつけて呼ぶようになった。


「いい話だけど、切ないね。アズマッチは諦めちゃったの?」
「ううん、今でも好きだよ。でも、アズマッチはエライよ」
「え、あのボクネンジンが?」
「ほんとうに人を愛することは、その人が、一番幸せになることを願うことだって……」
「アズマッチの心覗いたの?」
「うん、でね……」

 そこで、地下鉄の到着を知らせる着メロがした。

「続きがあるんだね……」
「うん」
「それは、圧縮した情報のインストールじゃなくて、アナログに会話でしようか」
「うん、ちょっと応援もしてあげたいしね」

 発メロがして、二人を乗せた地下鉄は、ゆっくりと走り出した……。

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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・62『春奈の秘密・2』

2018-10-27 06:52:02 | ボクの妹

が憎たらしいのには訳がある・62
『春奈の秘密・2』 
        


 春奈の父の部屋から三十がらみの女がエレベーターで降りてくる。

 女がマンションから出てくると、優子とわたしは道を分かれて追跡した。
わたしたち義体にはGPS機能が付いているので相手に気づかれない。道の分かれ目で合流し、追跡を交代すれば、よほど慣れたスパイや、アナライザーロボットや義体でも、二回まではごまかせる。
 女は野川沿いの緑地帯に入っていった。顔見知りなんだろう、犬を散歩させているオバサンに声を掛けて、犬とじゃれ合った後、ベンチに座った。

 少し離れたベンチで、女のパッシブスキャンをやる。

 体から出てくる体温、水蒸気、呼気、脳波、電波などから、相手が人間かロボットか義体なのかを見分けるのだ。

「……人間?」
「確かめよう」
 ベンチに座ったまま優子と石の投げっこをする。
 優子が軽く投げた石ころを、わたしが別の石で当てるという無邪気な遊びである。ほんの数メートルの距離だけど、女子高生がじゃれているぐらいにしか見えない。他にもキャッチボールをやったり、フリスビーで遊んでいる家族連れがいるので目立たないのだ。
「真由、いくよ」
 優子が、小さく呟く。
「OK……」

 わたしは二百キロのスピードで小石を投げ、優子の小石をはじき飛ばした。はじかれた石は、まっすぐに女の顔に向かい、女は二百キロで飛んできた小石を軽々とかわすと、アクティブレーダー波を発した。

――義体か、ロボットだ――

 優子は、すぐにジャミングをかけ、わたしは小石をキャッチボールをしている親子のボールに当て、ボールを緩く女の足もとに転がした。
「どうも、すみません」
「いいえ、ボク、投げるわよ」
 女は、正確に、少年のグロ-ブに投げてやった。
 その隙に、わたしと優子は女の後ろに回り、アクティブスキャンをかけた。

――ロボットだ!――

 女が行動を起こす前に、耳の後ろのコネクターに手を当てると、CPをブロックし、アイホンに見せかけたケーブルを繋いだ。
「C国の、最新型ね。並のスキャンじゃ人間と区別つかない」
「メモリーにロックされてるのがある」
「……待って、下手に解除したら自爆するわ」
「そんなドジはしない……わたしの勘に狂いがなければ……ほら、ロックが解けた」
「どうやったの?」
「ダミーのM重工の情報を流した……大当たり。M重工のロボット技術の機密でいっぱい」
「産業スパイ?」
「兼秘密工作員。奥にまだロックのかかったのがある。このキーは軍事用だわ」
「いっそ、破壊する?」
「もっと、いい手がある……」
「なにしてんの?」
「こいつのCPにウィルスを送り込んだ。掴んだ情報に微妙な係数がかかるようにね。C国が気づくのに半年、解析に三ヵ月はかかる」
「でも、八か月で、バレちゃうじゃん」
「解析したらね……多摩で出会った二世代前のロボットのスペックが出るようにしといた」
「真由って、優秀!」
「優子にも同じスキルがあるんだけど、優奈の脳細胞生かすのにCPに負担かけられないからね……」
「ごめん」
「それよりも、M重工の技師やらエライサンの秘書やら愛人に五体、同じのが送り込まれてる」
「機密情報垂れ流しじゃん!」
「ハニートラップに特化したロボット……意外と間が抜けてる。五体でネットワークしてる。このウィルスは自動的に、他のにも感染するね」
 そこで、わたしたちはロボットを解放した。ロボットは浮気相手の娘が来たので、避難した記憶しか残っていない。

 この間、わずかに二秒。緑地帯に居る人たちは、ちょっと貧血を越した女性を女子高生が労わったとしか見えていないだろう。

 春奈には悪いけど、もう少し親の不倫に悩んでもらわなければならない。春奈のフォローのためにマンションに戻った……。


コメント
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高校ライトノベル・小説大阪府立真田山学院高校演劇部公式ブログVol14『加盟校活動報告2』

2018-10-26 17:49:21 | 小説・2

小説大阪府立真田山学院高校演劇部公式ブログ
Vol・14『加盟校活動報告・2・誠学園高校』 
 
      

☆誠学園高校にお邪魔しました

 誠学園高校は、大正時代から続く伝統私立高校です。顧問の織田先生は連盟の運営委員もお勤めになられ、校内では学年主任もやっておられる忙しい先生です。そんなご多忙な中、わたしらの演劇部訪問にも快く応えていただきました。

「お忙しいところ、お時間をいただいてありがとうございます」
「いや、あんたらこそ、うちみたいなとこに取材に来てもろて、ありがとう」
「先生とこは、部員いてはれへんのんですか?」
「お恥ずかしいけど、今のとこゼロ。せやけど、コンクールまでには部員入れて参加しよ思うてます。ま、連盟の役員もやってることやし、辞めるわけにいかへんさかいね」
「先生の熱意で、引っ張って行ってるんですねえ」
「半分は、なんちゅうか生き甲斐やね。連盟の仕事はえらいけど、仲間の先生がいっぱい居てるし、こない言うたらなんやけど、毎年ゼロから出発するのんはスリリングでええもんやで」

 (笑)

「どんなふうにして、その都度部員を集めはるんですか?」
「一応は、新入生のオリエンテーションで演劇部の勧誘はやるんやけどね……」
「オリエンテーションとか、新入生歓迎会では、なかなか集まれへんでしょ」
「せやねん。おれが、もうちょっと若うてイケテたら、来るやつもおるんやろけどな。こんなおっさんではなあ(笑)」
「ほんなら、どんなやりかたで? 去年もたしか3人出てくる芝居やってはりましたね。なんかエチュ-ド発展させたような」
「あれは、演芸部いうのが別にあってね。あ、植物育てる園芸とちゃうほうの演芸。あそこの部員に声かけて、夏休み利用して東京までワークショップうけさせに行って、言われたように、エチュ-ドから膨らませてん」
「いっそ、その演芸部と演劇部の合併なんか考えられませんのん? 地方によっては『舞台芸術部』いうくくりかたしてるとこもあるようですけど」
「うん、一つの考え方やけど、僕は、やっぱり演劇部いうあり方にこだわりたいんや」
「なるほどね」
「それに、正直言うと、そういうくくり方したら、演劇部の方が飲み込まれてしまいそうな気ぃしてな」
「今、ああいうコント系いうか、演芸パフォーマンス系は人気も馬力もありますからね」
「ま、今年もいろんなとこに粉ふってがんばってみるわ。ところで真田山は、まだ既成脚本にこだわってんのん?」
「はい、大阪では不利やいうのは分かってるんですけど。基本は外したないんです。戯曲言うたら、吹奏楽のスコア(総譜)にあたるもんでしょ。スコアなんて、プロの作曲家でもむつかしいでしょ。吹部のコンクールなんかでも、新作は、なかなか古典を超えられません。せやから新曲に挑むとこは、作曲家の先生に自分らの演奏聞いてもろて、その長所やら特徴に合うた曲を作ってもろてるらしいです。むろん、そんな贅沢なことできるのは、一部の恵まれた吹部だけですけど。ま、とにかく自分らで作曲までやる吹部は考えられへんそうです」
「ま、せやけど、高校生やないと考えられへん芝居言うのもあるさかいなあ。僕は既成の本でプロの真似事するのは外れてるように思うねん」
「お言葉ですけど、それやったら吹部も軽音もプロの真似事になります。野球やらサッカーなんか、完全に大人と同じルールでやってますけど」
「まあ、見解の相違やね。お互い自分らのやり方でやっていこうよ」
「先生、連盟の役員してはるから、このさい聞いときたいんですけど。大阪は創作劇の方が有利やいうのはホンマですか?」
「有利いう言い方はそぐわへんなあ。借り物の既成脚本と、生徒やら顧問の先生が苦心して書いてきたもんには、それだけの評価をしたらならあかんと思うねんけど」
「コンクールに『創作脚本賞』がありますけど、『既成脚本選択賞』いうのんは考えられません?」

 (笑)

「まあ、冗談でもええんですけど、既成の脚本探してきて、自分らなりに咀嚼して、舞台化するのんは、チャラけた創作劇やるよりも、大変な努力がいると思うんですけど」
「まあ、お互い、それぞれのやり方でがんばろうや。ところで真田山は、どんなんが候補にあがってるのん?」
「あ、もう絞り切って稽古に入ってます」
「もうかいな!?」
「はい、そやかて、もう一学期も後半でしょ。残り4か月いうても、定期考査やら、検定とか、個人的な理由で抜けるのん考えたら、実質の稽古は3か月切ります。一日3時間の稽古として270時間。役の肉体化には、これくらいはかかります」
「ま、一つの考え方やな」
「でもね、先生。270時間言うたら、日数で、11日にしかならへんのですよ。ま、見解の相違やからええですけど、審査基準はどないなりますのん?」
「それは、残念やけど、無しやな」
「お言葉ですけど、先生、昨年度の最後の地区総会では、連盟の運営委員会で諮ってみるて言わはったんちゃいますのん?」
「諮った結果、いらんいうことになったんや」
「そやったら、総会で報告あってもよかったんちゃいます? なんかスルーされたような気ぃするんですけど」
「まあ、君らには言えん事情もあってな」
「大人の事情……いえいえ、冗談です。一回聞いてみたかったもんですから。ほんなら、今日は、どうもありがとうございました」
 
 ちょうど校内放送で先生を呼ぶ声。うちらは、それで失礼しました。お忙しい中、際どい質問にも答えてくれはって、感謝の一言です。

 文責 大阪府立真田山学院高校演劇部部長 三好清海(みよしはるみ) 

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