大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・89「新部室にお引越し」

2017-09-29 11:23:29 | 小説
高校ライトノベル・オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
89『新部室にお引越し』
      



 車いすはかさ張るもんだ。

 自分も車いすなのに、そう感じるのは申し訳ないんだけど、実際そうなのよ!

「ご、ごめん!」

 これで三回目。


 ミリーの車いすのデッパリが、またわたしのスカートを引っかける。
 その都度十センチほど裾が持ち上がり、斜め前の啓介先輩にわたしの太ももが露わになってしまう。
「い、いや、見えてないから……あ、あ、また……」
 啓介先輩は上を向いて、ティッシュを詰めた鼻を押える。
「これで見えてないって、説得力ないわよ、ほれ、わたしがやったげるから」
「いて! 先輩、やさしくして!」
 須磨先輩が狭くなった部室をものともせずに啓介先輩の鼻血ティッシュを取り換える。
 ミリー先輩と新入部員が並んで小さくなる。
「じっとしてないと換えられないでしょ!」
「い、いや、せ、先輩の胸が……」
「も、もー! 啓介はエロゲのやり過ぎ!」
「「「「ハ、ハハハハ……」」」」
「も、もうやってらんないわ! ちょっと掛け合ってくる!」
 須磨先輩は机を乗り越えて部室を出ると二階に駆け上がった。
 二階には生徒会室と職員室がある。業を煮やして掛け合いに行ったんだ。

 今日から交換留学生のミッキーが演劇部に加わったのだ。

 なんでも、休日の昨日、ホームステイ先の瀬戸内美晴先輩の家にまで行って決めてきたらしい。
 近所の公園で話をまとめたらしいけど、ミリー先輩は、なぜか足を挫いて車いす。

 でもって、タコ部屋を兼ねている狭い部室は、かさ高い交換留学生とミリー先輩の車いすが入って身動きもできない。
 暫定的に小さい方の机を廊下に出したんだけど、あんまし効果なし。
 交換留学生のミッキーは、なんとか身をよじって邪魔にならないようにしてくれるんだけど、車いす自体にに人格が無いもんだから、ミリー先輩が動くたびに、わたしのとぶつかって、二回に一回は、こうして悲劇になる。

「みんなー、引っ越しするよ!」

 五分ほどすると、意気揚々と須磨先輩が戻って来て引っ越しを宣言した。
「引っ越しって、どこへですか?」
「二階の角部屋、さ、あんたたちも手伝って!」
 廊下の方へ声を掛けると、生徒会執行部の人たちと副顧問の朝倉先生までがドヤドヤとやってきた。

 演劇部という看板を出しているけど、演劇なんてちっともやらない。

 放課後にウダウダしてる場所が欲しいだけが、我ら空堀高校演劇部なのです。
 ほんとは五人の部員が居ないと部活とは認めてもらえないんだけど、我らが須磨先輩ががんばって四人でも部活として認めてもらえるようになった。
 だけど、演劇をやってないという事実があるので「もっと広い部屋に替えて!」とはなかなか言い出せなかったし、生徒会も、わたしたちに広い部室をあてがう気持ちは全然無かった。

 それが、須磨先輩が掛け合ったとはいえ、ものの五分で引っ越しが決まったのは、ミッキーが入部したから。

「「「「うわーーー!」」」」

 ミッキーのことだけでは説明がつかないほどに、今度の部室は豪華だったのよ!

 でも、今度の部室はすごかった!
 
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高校ライトノベル・ライトノベルセレクト・212『ラブラドール・レトリバー・3』

2017-09-28 18:21:31 | ライトノベルセレクト
ライトノベルセレクト・212
『ラブラドール・レトリバー・3』
         


「ああ、戻ってきちまったのかよ……」

 来栖先輩はバツがわるそうに……いや、うまく言えないけど、それ以上の感情をこめて言った。

人柄なんだろうか、いやらしい感じはなかった。例えて言うなら、みんが隠れる前に振り向いてしまった「鬼ごっこ」をする鬼に対するように……。
「え、あ、いや、それならそれでいいんです。最初から正直に見せてくださったら、そんなにびっくりしないで受け入れられました。あ、そう戸惑ってるだけなんです。先輩も独身なんだし、こういう趣味もありって思うんです。本物の女の子に変に興味持つよりは、言っちゃなんだけど、可愛いものだとおもうんです。いや、ほんと、突然なんでびっくりしてるだけです」

 言いながら、あたしは、ラブラドールのマメが居ないのを不思議に思っていない自分が不思議だった。

「やっぱり、わたしの見立て通りね」
 背後で声がしたので、びっくりして振り返った。なんと、ラブドールが伸びをしながら目をこすっている。
「ハハ、伸びをしたら涙が出てきちゃった……ファ~」
 無邪気に言うラブドールは、大きく口を開けてアクビをした。その口元にはシソの葉が付いていた。
「いや、これは、そのなんだ……」
「いいわよ。あとは、わたしが説明する。もう決めちゃったから」
 ラブドールは、髪をかき上げながら先輩を制した。その全裸の姿はほれぼれするように若々しく美しかった。
「よくできた、その……なにですね」
「なにじゃないわよ。わたしはメイム。ちょっと理解は難しいでしょうけど、未来からやってきたレトリバーよ」
「マメちゃんは……?」
「あなたの理性は反対してるけど、感情が認めている通りよ。この人はMAMEとしか言わなかったけど、あれでメイムって読むの。レトリバーというのは、獲物を回収するって意味があるの。わたしは、それ専門に派遣されてきた義体。この人もそうだけど型落ち。わたしみたいにトランスフォーメーションはできないけどね。リクルートのアビリティーは確かね。あなたなら、わたしの時代でも十分能力が発揮されるわ。なんせ深刻な人手不足。あなたも、向こうに行ったら素敵な義体にしてもらうといいわ」

 メイムに見つめられているうちに、あたしの意識は跳んでしまった。

 先輩は、それからはパッとしないが仕事はできる父親として、父子家庭を営んだ。むろん娘はメイム。あたしが、あの時代に存在した痕跡は全て消された。来月には、新しいレトリバーとしてあの時代に戻る。能力がありながら、その力を発揮できない若者はゴマンといる。

 あたしは義体になっても、元のまま。あの姿は気に入っていたから。もし、あなたが友人知人の家に行って、ラブラドール・レトリバーがいたら気を付けて。あたしか、メイムが、トランスフォーメーションしたものかもしれない……。

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高校ライトノベル・ライトノベルセレクト・211『ラブラドール・レトリバー・2』

2017-09-27 17:11:40 | ライトノベルセレクト
ライトノベルセレクト・211
『ラブラドール・レトリバー・2』
         


「先輩、これは誤解しますって!」

 あたしはスマホの画面を、来栖先輩の鼻先に突き付けた。
「アハハ、だよな。うけるな、これは。今度の飲み会で言ってやろ」
「もう、並の女の子なら、これ見ただけで来ませんよ」
「まあ、これだから人生はおもしろい!」
 そう言いあっているあたしたちの足元を生後三か月のラブラドール・レトリバーが尻尾を振りながらチョロチョロしている。

 そう、先輩は「ラブラドール」と打つところを「ラブドール」と打ってしまったのである。

「この子の名前は?」
「MAME」
「プ」
 思わず噴きかけた。
「ラブラドールって、大きくなるんですよ。今はいいけど大きくなってからマメって、なんだか変」
「いや、うちに来る前から付いてた名前だから変えるのもかわいそうに思ってな」
「あ、これお土産」
 コンビニ特製のお結びを袋ごと渡す。先輩はそれをローテーブルの上にぶちまけた。渡す方も渡される方も色気なしを通り越して、いささか乱暴。
 マメは、梅干し入りのお結びを咥えて、自分のエサ皿まで持っていくと、器用にラッピングを外してハグハグと食べだした。
「器用なんですね」
「ラブラドールは、賢いからね」
 意味が分かるんだろうか、梅干しのシソの葉を口に付けたまま、嬉しそうに「ワン」と吠えた。

 それから二時間ばかり、お結びとワインで盛り上がった。あのプラスチックのフィギュアは大いに当たり、モデルもアイドルグループの選抜メンバーも加え、ファンの中には選抜メンバー全部や、研究生の子たちまで入れて百体以上コレクションする者も居た。
「ポップから出た駒」
「それいける、今度のCMのコピーに使おう!」
 などと話題が営業のアイデアになったところで失礼することにした。
 マメは名残惜しそうに尻尾を振って玄関まで送ってくれた。
 この子なら、盲導犬などになったら優秀な子になるだろうと思ったが、あれは犬自身には、かなりのストレスになることを思い出し、頭をなでて外に出た。

 来栖先輩との話は有意義だ。

 こんなプライベートな訪問でも、はじけたアイデアが出てきて、仕事なのに学生時代の部活のように楽しくなった。
 で、楽しくなってスマホを置き忘れてきたことに気が付いた。
 出てきたばかりなので、気楽に「すみませーん!」とだけ、声をかけて鍵もかけていないドアを開けてリビングに入った。

 で、あたしは立ちつくしてしまった。ソフアーには、どう見てもハイティーンの女の子のラブドールが裸で座らされていた……。

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高校ライトノベル・オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・88「ジャングルジムのてっぺん」

2017-09-27 11:03:27 | 小説

高校ライトノベル・オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
88『ジャングルジムのてっぺん』
              


 ペダルが軽い。

 パンクの修理だけじゃなくて、あちこち油をさしてくれたようだ。

 やっぱり、基本的にミッキーはいいやつなんだ。

「どうもありがとう、とっても快調になった!」

「いやあ、ついでだよ、ついで」


 そう言うとミッキーはジャングルジムに上っていく。
 つけあがらせることなく誉めながら話そうと思っていたら、さっさと公園で一番高いところに上っていくわけ。
 女の子にもよるけど、ジャングルジムのテッペンなんてところで男の子と並んだら少しドキドキする。
 家の二階ほどの高さもないんだけど、お尻の下がスケルトンなためのムズムズドキドキ。
 この状況で恋を語られたら、自分の胸の高鳴りを誤解してしまいそう。

 もっとも、そんな『吊り橋効果』的なことを企んで上ったわけではない。

 単にこういう場所が好きなだけなんだろう。
 自転車の修理といいジャングルジムといい、ハックルベリーのようなところがあるみたい。
 ハックルベリーには直球がいい。
「ミッキー、清美のこと誤解してるのよ」
「なにを!?」
 直球過ぎて目を剥いている。
「I can cook pretty って言ったのよね」
「そうだよ。グループで自己紹介しあってるときに、清美のことをみんながprettyだとかcuteだとか騒いでる時に、彼女言ったんだ」
「though I can only cook……pretty でしょ」
「うん『お料理が上手いだけ……けっこうね』だよ。日本人て変な謙遜ばっかりするけど、あの言い回しは上手いと思ったよ、控えめに自分の長所をアピールしてるしね」
「清美はんぱに英語出来るから、ちょっと言い間違えたのよ」
「言い間違い?」
「ほんとは、こう言いたかったのよ。though I can only cook……little. ユーアンダスタン?」
「though I can only cook……little?」
「そ、prettyって単語が出たんで、うまいこと返そうと思って、とっさに間違えたのよね。でも、みんなが感心してくれるし、旅先だし『ま、いっか』にしちゃったわけ。まさか、あんたが日本に来て自分ちにホームステイするなんて思いもしないもんね」
「……そっか」
「だから、あの料理は、あたしのレクチャーと演劇部のアシストでやったってわけ」
 ここまで言うと、ミッキーは黙り込んだ。
 やっぱ直球はまずかった……フォローしようと思ったら、いきなりジャングルジムを飛び降りた。

 体操選手みたいに着地すると、クルッと振り返った。

「かわいいじゃないか! なんだかアニメの萌えキャラだ! ちょっとツンデレだけど!」

 いや、ツンはあるけど、デレは無いから……。

 こいつを野放しにしてはいけない! そう思って、わたしも飛び降りた!

「ミッキー、あんた演劇部に入んなさい!」
「演劇部?」
「そう、そして……」
「ミリー、ちょっと目が怖いよ……」
「い、いま、足をくじいたの(-_-;)……家まで送ってちょーーーだい!」

 痛いいいいいいいいいいいい!!
 
 
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高校ライトノベル・ライトノベルセレクト・210『ラブラドール・レトリバー・1』

2017-09-26 18:01:09 | ライトノベルセレクト
ライトノベルセレクト・210
『ラブラドール・レトリバー・1』
        


――新しいラブドールを買った、見に来いよ――

 そのメールを読んで、さすがのあたしも腰が引けてしまった。
 来栖さんは、職場の上司としても、男としてもクールってか、イケてるってか、尊敬さえしている。
 今の会社に入社したときに、大阪支社から主任として転勤してきた人で、酒癖が少し悪いということ、シャレが大阪風でノリにくいことを除いて申し分ない。

 仕事の上で男女の区別はしない。
 自分が課長に昇進した時の後任に年上の男の先輩を差し置いてあたしを推薦してくれたことでも分かる。
 仕事一途のように見えて情にも厚い。

 Sという、どうしようもなく仕事のできない先輩がいて、自他ともに整理解雇対象であることを当然だと思っていた。

 ところが、来栖さんは会社と掛け合って、総務資料課という閑職ではあるが会社に残れるようにしてくれた。
 Sさんは、窓際の仕事であるにもかかわらず、嬉々として仕事に励んだ。
 昔と違って、会社の資料はコンピューター管理され、社内の誰でも自分で検索し、活用ができるようになっている。
 ただ広告代理店という仕事柄、どうしてもコンピューターの無機質な資料には収まり切れないものがある。
 広告ポップの現物や、取引相手の担当者の個性や嗜好や弱みなどは、当時の担当者のアナログな資料を見なければ分からないものがある。

 Sさんは、そういうものを取引相手別、年代別に閲覧できるように整理してくれた。おかげでアイデアに行き詰った時などは、直で資料室に乗り込むと、狙っていた通りの資料を出してくれる。先日も新しい広告のポップに困って資料室を訪ねると、大きな見本を見せてくれた。
 前世期の70年代に流行った等身大のアイドルのポップだ。とうにパソコンで、その存在を知っていたが、現物を見ると新鮮だった。ただのボール紙のプリントだと思っていたら、なんと薄いプラスチック製で、ちゃんと体や顔に稚拙ではあるが凹凸がある。今は、こんなことをしなくてもデジタルでいくらも完璧な3Dのポップができるが、かかる経費の割にはありふれたものになっている。

「このアナログな立体感はイケる!」

 狙い通り、そのポップは当たった。印刷技術は、全盛期とは比較にならないほど進んでいる。それにちょっとした凹凸をつけるだけで、デジタルには無い存在感と温もりがあった。モデルには日本有数のアイドルグループの二線級の子たちを使った。ギャラが安くて済むし、彼女たちのPRにもなる。化粧品会社のポップだったけど、このポップを置いた店には男性客も増えた。中には夜間など店頭にオキッパにしているものが取られることもあった。二か月後にはポップ自体を景品に。
 すると、これにプレミアが付くようになり、あたしの会社では、急きょ、これを商品として売り出した。ただ、来栖さんが注文をつけた。

「実物大だと持ち運びに大変だし、家族のいる男にはラブドールのように思われる。数を稼ぐためにも、ここはフィギュアのスタンダードの1/6にしよう」

 税込み981円のポップ……というよりも簡易フィギュアは飛ぶように売れ、会社の今年度の前期売上を20%も伸ばした。

 昨日、その数字の発表があり、渋谷で大いに盛り上がった。Sさんも会社から、特別功労賞が出て面目躍如。推薦者は来栖さんだった。宴会中の落花狼藉は覚悟もしていたし、意外に来栖さんとしては大人しかったので安心した。そこへ、このメールだ。

 まあ、四十男の生態を観ておくのも勉強と、コンビニの特別お結び(なぜか、来栖さんの好物)をぶら下げて、新しいラブドールを拝見に向かった……。



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高校ライトノベル・オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・87「美晴のブレイクファースト」

2017-09-25 10:57:26 | 小説

高校ライトノベル・オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
87『美晴のブレイクファースト』
        



 美晴んちで朝ごはんを頂くことになった。

 電話をすると「これから朝ごはん、ミリーもおいでよ!」と誘ってきたから。


 どっちかっていうと――よかった、ぜひ来てちょうだい!――という響きがあった。
 これは『まずは胃袋から、男を虜にするレシピ百選』でこさえた料理の数々が居候の誤解をいっそう進めてしまったんだなと思う。
 だからミッキーと二人きりの朝食は気が重く、わたしの電話は渡りに船だったんだ。

「いやー、めんごめんご、近所まで走ってきたらパンクしちゃってさー(^▽^)/」

「パンクなら任せてよ、幸いミハルんちにリペアキットがあるから直してあげるよ。自転車屋で直したら8ドルもするって言うじゃないか」
「最寄りの自転車屋さんまで二キロもあるしね」
「朝ごはんは先に食べててよ、待ってたら冷めてしまうからね」
 そう言うとリペアキットを持って外に出るミッキー。

 基本的には気のいいやつなんだ、ミッキーは。

「なるほど、ベーコンエッグはイッチョマエだ!」
 食卓に着くと直ぐにブレイクファースト二人前が出てきた。電話した時には、もう取り掛かっていたみたい。
 お皿は湯せんしてあり、乗っかってるベーコンエッグは頃合いだ。
 アメリカ人向けに黄身までしっかり火を通してあるけど硬すぎるということは無い。ベーコンはあらかじめ切ってありフォーク一つで食べられる。
「お、これは」
 一口食べるとフワっとしている。水の量と蒸らしている時間がちょうどいい……だけでなく、ベーコンと玉子の間にチーズが挟んである。これがフワフワの種なんだろう。
 トーストは、食卓に着く直前にトースターに入れ、コーンスープを少し頂いたころに焼き上がる。
 バターはあらかじめ湯せんして溶かしバターになっていて、トーストに塗る時のストレスが無い。
 サラダも『レタスとクルトンのバルサミコ酢合え』になっていて、シンプルでさっぱりしたしつらえ。
「わたし、朝食しかできないから……」
 恥ずかしそうにしている美春だけど、これは立派なもんだ。料理慣れした人間が――いつものブレイクファーストを作りました!――という感じだ。この調子でランチやディナーを作ったら結構ナイスなのを作るだろうと思わしめるものがある。
「もう正直に言っちゃえば?」
「これしか出来ないわよって?」
「うん、ずっとホームステイさせるんだったら、その方がいいと思うわよ」
「二つの理由でダメ」
「二つ?」
「ここへきて料理ベタと思われるのはシャクよ。それに、料理ベタっていうのは……案外……逆効果にならないかなって……」
「逆効果?」
 どうも分かりにくい女だ。
「えと……わたしって、いろいろできちゃうから。玉に瑕の料理ベタっていうのは案外萌え属性で……ラノベとかであるでしょ」
「ああ、なーる……」

 ラノベとかアニメは、いまや世界的なスタンダードになりつつあり、美晴の心配はうなずける。

「で、美晴がお料理名人だと思われてしまったキッカケっていうのはどんなの?」
「それはね……」

 それは、美晴の見栄とちょっとした単語の間違いが原因と知れた。わたし的にはもう一つ原因があるんだけど、事態をややこしくするだけなので指摘はしなかった。
 だけど、ご近所でパンクしたのは運命のように思われて、修理を終えて戻って来た居候にこう言ってやった。

「ちゃんと直ったか確認したいから、朝食食べたら試運転に付いて来て」
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高校ライトノベル・オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・86「えと、一番近い知り合い!」

2017-09-23 11:05:30 | 小説

高校ライトノベル・オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
86『えと、一番近い知り合い!』
        


 パーーン!

 久々に銃声かと思ったのは自分がアメリカ人のせいだろう。

 
 日本人なら銃声なんてドラマやアニメの中でしか聞いたことが無い。
 だから銃声というのは、ズキューン! ズバーン! などとエキセントリックな音がするものだと思っている。
 本物の銃声は乾いた音がする。そう、たった今のみたいに。
 撃たれたことは無いけど、銃声はシカゴでも数回耳にした。ギャングの発砲だったりお巡りさんだったりするんだけど、今のみたいに「パーーン!」なのよ。

 で、銃声では無くて、自分の自転車がパンクする音だった。

 カクンカクンと、タイヤのリムが直接アスファルトの路面を噛む衝撃で分かった。
「アチャー😵」
 こういう時にも日本語が出てくるのは、骨の髄から日本に馴染んだ証拠。
 でもね、黙ってりゃブロンドの白人少女、自分で言うのもなんだけど可愛い。
 サエカノに出てくる澤村・スペンサー・エリリに似ている。
 特に今朝は、中学の時のジャージにTシャツ。これって、エリリの定番だったりする。
 こんな街中、困った顔して佇んでいたら高い確率で声を掛けられる。十中八九オトコからね。

 思えば気合いが入りすぎていたんだ。

 美晴に頼まれて家庭料理のあれこれをレクチャーしに行った。面白そうなので演劇部の一同も付いて来て、とても盛り上がった。
 美晴は見かけに反して、ちっとも料理はできない。出来ないくせに居候のミッキーに「飯ならまかせとけ!」なんて請け負ってしまった。お婆ちゃんとお母さんが居ない一週間だけなんだけど、ボロが出ないようにしなくちゃならない。

 日本に来てから書き溜めたレシピノートを持ってって腕を振るったわけ。

 一週間はともかく四日くらいはいけそうな品揃えになった。
 でもね、家に帰ってから気が付いたのよ。
 あの品揃えのコンセプトは『まずは胃袋から、男を虜にするレシピ百選』だった。

 美晴がミッキーのハートを射止めようとか思ってるんだったらピッタリだったわよ。

 でもね、美晴は基本的にミッキーが疎ましい……とまではいかなくても、好意を寄せられるのは勘弁なんだよね。
 わたしの料理を三日も食べたら、男なら――彼女はオレに気がある!――ぜったい誤解する。
 演劇部の天敵である生徒会副会長の美晴だけど、それとこれとは別よ!

 そんなこんなを悩んでいたので、秋晴れの今朝――ヨーシ、今日は自転車でカットブぞ!――てんで、自転車に気合いと空気を……入れ過ぎた。

 ホームステイ先の渡辺さんちに電話すればいいんだけど、きっとパパさんが車で迎えに来てくれる。だけど、それって申し訳ない。
 人間、一つ失敗すると、連想ゲームみたいに過去の失敗の記憶が蘇ってくるんだ。
 で、直近の悪夢である『美晴んちでお料理に励みすぎ』を思い出してしまったわけ。

 あ、ヤバイ、学生風の二人がこっち見てる。
 日本語わっかりませーん! を装ってもいいんだけど、近頃のスマホには翻訳機能が付いていたりする。

「えと、一番近い知り合い!」

 スマホに呼びかけると一件ヒット。
 なんと、100メートルも行けば美晴の家ではないか!

 大学生風がこっちに歩いてくるので、迷わずに電話するミリー・オーエンであった!
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高校ライトノベル・ライトノベルセレクト・176『魔法化高校の劣等生』

2017-09-21 16:39:51 | ライトノベルセレクト
ライトノベルセレクト・176
『魔法化高校の劣等生』
  


 それは魔法化された高校だった。

 朝、予鈴が鳴ると生徒達はいっせいに走り出し、本鈴が鳴ころにはクラス全員がビシっと自分の席に着き、教師が来ると「ニッチョク」という魔法がかけられた者が叫ぶ。
「キリツ! レイ! チャクセキ!」
 この間接魔法の効果は絶大で、教室の全員が一斉に立ち上がり、きっちり30度、やや背中を丸めながら頭を下げ、授業が始まる。
 教師の授業は緩い魔法をかけるように単調だ。ボクの国なら、こんな授業はすぐにボイコットされる。

 事実、あの単調な授業は魔法だ。

 三音階、ワンテンポ……これが魔法の秘密らしい。生徒は5分ほどで魔法の効果が現れ、目はトロンとし、中には魔法が効き過ぎて眠ってしまう者もいるが、たいがい黒板に書かれる退屈な文章や図式を黙々と書き写している。
 授業の終わりで、教師は「質問は?」と、魔法解除の予備呪文を唱える。そして質問もなく授業が終わると同時に授業終了のチャイムが鳴り、ニッチョクが「キリツ! レイ!」の魔法解除の間接魔法の言葉を叫ぶ。すると生徒達は、一様に本来の人間性を取り戻す。

 昨夜の野球中継や、流行りのファッションなどの話に花が咲く。女生徒などはファッション誌を取りだし、あーだ、こーだと実にティーンの若者らしく賑わう。
 しかし、不思議なことに、その憧れのファッションをしている者は誰もいない。髪もブラック、あるいはブルネットの地毛のままで、ファッション誌にあるようなパーマをかける子はいなかった。いや、中には魔法のかかりかたが甘くパーマにしている子もいたが、目立たないようにキチッとお団子にしていた。

 スカートの丈などは、各自の自由だと思うんだけど、みな申し合わせたように膝丈。教師達は、その膝丈魔法の完ぺきさを維持するために、時折服装の検査をし、魔法が解けかけている者には「セイカツシドウシツ」という魔法の部屋に連れ込んで念入りに魔法をかけ直す。

 昼休みの食堂では「並ぶ」という魔法がかけられていて、まるでハーメルンの笛吹男に連れ去られるおとぎ話の中の子供たちのようで、ボクの国のように、ランチタイムの喧噪などは無い。
 微妙な魔法がかかっていて、男女が同じテーブルで、ランチを食べることは、まず無い。

 ハイティーンの男女をいっしょにしていれば、必ずセックスや、それに伴う問題があって当たり前(実際ボクの国では問題で、高校の中に、子連れの生徒のための託児所がある)なのに、この国の高校では、まずあり得ないらしい。ボクが一年間、この学校に居て、カップルがキスはおろかハグしているところも見たことがない。
 そのくせ、テレビやマガジンに載っているコミックなどのセックスやバイオレンスの描写は凄かった。これだけの刺激をうけながら、問題が起こらないというのは魔法以外の何物でもない。

 ボクは、元来魔法などは信じなかった。この日本に来たときも、最初は全体主義の国かと思ったが、秘密警察も密告の制度もない。ボクは魔法であろうと核心した。

 ボクがホームステイしていたノナカさんちのヨーコは、とても勉強が出来ない。テストの点数も40点を超えることは希であった。秋のテストでは挽回できるだろうと思ったが、やっぱりダメ。
 クリスチャンでもないのにクリスマスパーティーをやって、新年にはジンジャと言われるシュレインに出かけ、オマモリという魔法の小袋を、ヨーコは買った。

「こんなもの、効き目あるの?」

 ボクは、そう聞いた。
「これには神さまの力が籠もってるから」
 ヨーコは、微妙な言い回しで、その小袋に魔力があると言った。
「あたし、劣等生だから……」
 うつむき加減に、白い息とともに言葉にならない願いを吐いた。白い息は、ユラユラと立ち上って消えた。ボクは、ヨーコの言葉にはならない願いが、オズの西の国のいい魔女に届いて叶えばいいと思った。

 でも、学年末テストという最後のテストで、ヨーコは30点しか取れなかった。

「きっと……きっと魔法が効くよ」
 うなだれたヨーコに、そう言ってやるのが精一杯だった。

「学校で見る雪は、最後ね……」

 終業式の日、校門を潜っていると、三月には珍しいなごり雪が降って、ヨーコは、言葉の最後を濁して呟いた。
 この従容として運命に身をゆだねるヨーコの横顔は、とても美しく切なくて、ボクは時計を見るふりをした。
 日本では、女の子は落第すると「家の恥」ということで、たいがい退学していく。ボクの国では、みんな平気で落第していく。姉のミリーなんか、二回も落第しながら平気な顔だ。ま、その分大学でがんばって、飛び級で二年早く卒業したから、帳尻はあっている。

 奇跡が起こった!

 それは通知票をもらったとき、あのシャイなヨーコが「やった!」と叫んで飛び上がったことで分かった。
 ボクも「イッツ、ミラクル!」と喜んだ。
「ううん、ゲタよゲタ!」

 奇跡ではなく「ゲタ」という魔法であることが分かった。どちらにしろ、喜ばしいことに違いはない。
「喜んでくれてありがとう!」
 ヨーコが涙目で言った。
「あたりまえだよ。ヨーコは家族といっしょだもの!」

 この喜びを共有したことで、ボクとヨーコは国を超えて結ばれた。
 そして、30年がたった。ボクは仕事をリタイアし、ヨーコと共に魔法の国日本に戻った。
 ボクは、英語の非常勤講師のライセンスをとって、昔世話になった高校に勤めた。

 愕然とした。学校から……魔法が消えていた。

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高校ライトノベル・オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・85「まずは胃袋から!?」

2017-09-21 11:42:48 | 小説
高校ライトノベル・オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
85『まずは胃袋から!?』
        




 ミリーに言われて二つだけ確認してある。

 イスラム教徒でないこととベジタリアンでないこと。


「両方ともOKだよ」
 そう答えると、ニンマリ笑って薄い方のノートを仕舞った。
 したがってブットイ方のノートをペラペラとめくるミリー。
 垣間見えるノートには写真とともにレシピが英語まじりの日本語で書いてある。
「将来は料理屋さんでも始める気?」
「ハハ、まさか。渡辺さんちのレパはすごいからね、パパさんは魚屋さんだし、お婆ちゃんの実家はお料理屋さんで、ママさんはレストランやってたし、みんな教える気満々。習わなきゃ損でしょ……はい、これだけの食材買っておいて」
 メモを見ただけでは想像できなかったけど、その量はミッキーを荷物持ちにして正解だった。
「やっぱ、ミハルといっしょに帰るよ」というミッキーの気持ちもスケベー根性からだけではなかった。

「いやー、壮観ねー!」

 我が家のキッチンテーブルの上に並べられた食材とその他もろもろは多彩だ。
 野菜やお肉から始まり乾麺に各種調味料も色々、カレールーとか豆板醤があるのでカレーとマーボー豆腐は確定なんだろうけど、ケチャップに塩昆布、チョコレートは意味不明。
「さ、それじゃ分業するからテキパキやってね!」
 ミリーが指示すると演劇部の三人は手際よく下準備にかかる。
 一つ一つは「お湯を沸かして」とか「皮をむいて」とか「みじん切りにして」とか「均等に混ぜて」とかの単純作業。
 その組み合わせも絶妙で、一つの作業が終わると別の作業を指示して、無駄な時間待ちが出来ないようにしている。
 合間にはわたしへの解説と「じゃ、やってみて」と実際の調理もやらせてくれる。
「家庭用のコンロは火力ないから、炒め物はフライパンでいいわよ。手間だけどイモは面取りしといて、そこは余熱を利用して、そうそう、揚げ物は一度にやろうとしないで、野菜は最後に……」
 取りかかった時はミッキーが帰ってくるまでに仕上がるか不安だったけど、三十分もするとあらかた終わってしまった。

 コンロの上にはカレーと肉じゃがとロールキャベツが沸々と煮えていて、テーブルにはチキンライスと唐揚げハンバーグと玉子焼きが湯気を上げている。

「唐揚げ、ちょっと早くなかった?」
 唐揚げの衣がなんだか白っぽい。
「ミッキーが帰ってきたら、もう一度揚げるの。唐揚げは二度揚げするのがセオリーよ、でもって熱々を食べさせられるってメリットもあるしね、なにより甲斐甲斐しくクッキングしてますって感じがするじゃない」
「えと、それに、ちょっと多くない?」
 ざっと見渡しただけで七品もある。
「ほんまや、俺でもこんなには食わへんで」
 部長の啓介もため息だ。
「これは、最低でも三回分。カレーと肉じゃがとキャベツロールは明日以降ね。チキンライスは冷めてからラッピング、改めて玉子を焼いてオムライスにする。玉子の焼き方も明日以降に教える。ハンバーグは常温にしてから冷凍庫、ソースはそっちの小さな鍋、これも冷蔵庫、乾麺はうどんすきに使うからね」
「あ、デザートは冷蔵庫に、賞味期限は四日はいけますから」
 千歳がいつのまにかデザートの仕込みまでやっている。
「今度は、家に来てやってもらえないかなあ」
 須磨先輩は、次回の実習の予約をする。

「ん、なんだか家庭料理の定番オンパレードって感じね!」

 ミリーの行き届いたメニューに一安心して、なんだか嬉しくなってきた。
「これだけやっとけば、ミッキーも大満足でしょ」
 そう言ってミリーはノートを閉じた。

 閉じかけの中表紙の文字が目に飛び込んできた。

――まずは胃袋から、男を虜にするレシピ百選――

 えと……絶対したくないんですけど! ミッキーを虜になんかさ!

 
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高校ライトノベル・ライトノベルベスト[OSAKA FANTASY SEKAI NO! OWARI]

2017-09-19 17:02:37 | ライトノベルベスト
ライトノベルベスト
[OSAKA FANTASY SEKAI NO! OWARI]



 時空戦艦カワチのきっかけになった短編小説 初出・2014-08-12 17:40:57


 八戸ノ里は、八戸の農家から発展した。

 どうしようもない湿地帯であったところに、江戸時代七戸の農家が移住してきて、元からあった一戸の農家を中心に開発をすすめ、豊かな農地にした。

 田島精機の社長は、この話が大好きだ。

 八戸ノ里(ヤエノサト)などと言っても、メジャーではない。東大阪の東の外れ、近鉄奈良線が通るが各停しか止まらない。昔は町工場が多く、小なりと言えど工業地帯であったが高層団地が増え、昔ながらの工場は、ほんの一握り。東京で言えば荒川区の南千住あたりに似ている。
 田島精機は、そんな零細企業の一つである。ほとんど手作りと言っていい測定器の製造……の下請けを細々とやって生き延びてきた。
 社長の勲(いさお)は、似たような生き残りの会社七社と手を組み『チームYAE』を作り、その技術を持ち寄って「世界をアッと言わせるようなモノを作ろうといきごんでいた。
 人工衛星のマイド一号には後れを取ったが、このたび目出度く世界的防犯設備『セワヤキ』を開発。自主実験を百回近く繰り返し、今日、大阪府知事、各市町らが集まり、公開実験を行った。

『セワヤキ』は監視カメラのように設置され、半径数百メートルの人々の良心を増幅させる機能があった。計測器と脳波測定器、それにゲーム開発の技術が結集されている。
「人間は犯罪を犯す前には、わずかではありますが良心の呵責があります。この呵責を眠らせるために『自分だけとちゃう』という言い訳催眠を自分の脳にかけます。それによって良心は委縮し、犯行にいたるわけであります。この『セワヤキ』は、呵責の気持ちを増幅させる機能があります。駅前で実験したところ、街頭犯罪が1/20に激減いたしました!」

 そのあとの実験が良くなかった。いや、最初は順調だった。ボランティアの人たちに「自転車を盗め」と告げておき、自転車100台の前に立たせたが、誰一人自転車を盗めなかった。
「たとえ実験とは言え、人のモノを取ってはいけないという気持ちがあります。それが増幅されたのです」
 それから、AV女優に頼んで盗撮の実験もやってみたが、誰一人、盗撮できたものはいなかった。
「また、これは機能を一点集中させたもので、逃走する犯人、犯行中の犯人に照射しますと良心をマックスにして、自ら逃走、犯行を中断させます」
 これは、人体実験が出来ないので、コンピューター相手に使われた。ウィルスを感染させようとしているパソコンに照射すると、なんと、パソコンは自分で、全てのデータを消去し、シャットダウンしてしまった。この機能はゲーム開発の社長のアイデアと技術が生きていた。

 が、最後が良くなかった。知事や、市長、公募校長などに無作為に悪いと思われる政策や政治方針を書かせて、テーブルに置いた。そして、百メートルの距離を置いて、それを取らせにいかせたが、全員が書いた書類を手に取った。
「こ、こいつら人間とちゃう……!」
 勲たちは思ったが、実験は失敗と判断された。

 やけになった勲は娘の幸子が操縦する軽飛行機に乗って八尾空港を飛び立ち、大空で思い切り「アホ、バカ、マヌケ、ゼイキンドロボー!」などと憤懣のありったけを大空に向かって叫んだ。まさに獅子吼であった。
「お父ちゃん、その馬力で市長さんらにも文句言えたらよかったのにな」
「あんなに政治家どもが無神経やとは、思えへんかった!」
 同乗のゲーム会社の社長が歯ぎしりした。
「あ~あ、オッサンらは、権力には弱いねんからな」
「何ぬかしとる、幸子、もっと早う、もっと高う飛べ!」
「軽飛行機には限界の高さがあるんよ。ちょっとなにすんのん田部のオッチャン!」
 ゲーム屋の田部がコパイロットの操縦桿を優先にして操縦し始めた。こういう裏技はゲーム屋ならではである。

 そのとき、無線機から緊急放送が入った。

「近畿管区の上空を飛んでいる全ての航空機に伝達。KC国が発射した核ミサイルが大阪上空に接近中。自衛隊、米軍ともに迎撃に失敗。着弾まで、二分、至急退避! 至急退避!」
「なんやと……」
「田島はん、絶好のチャンスや!」
「くされミサイルにいかれてたまるか!」
 田部はGPSで着弾予定地を大阪城の真上と割り出し、方位、高度をとった。

「見えた、あれや!」

「ウワー、世界の終わりや!」
 幸子は泣き喚いたが、オッサンたちは冷静かつ、果敢であった。
「距離2000、エネルギーマックス! くらえ!!」
 田島は、ミサイルに照準を合わせ、渾身の一撃をミサイルにくらわした!

 ミサイルは空中で一回転したかと思うと、急にヒョロヒョロになり、そのまま大阪城の大手門前に落下し、グシャグシャになった。

 政府の発表では、ミサイルの故障で起爆しなかったと発表があり、だれも『チームYAE』の功績であるとは認めなかった。
「これで、ええんじゃ。世界 NO! 終わり! にでけたんやさかいな……」
 チームYAEのメンバーは、祝杯ともヤケ酒ともつかない酒盛りをやった。

 日本政府が気づいたのは、アメリカの軍事産業が八戸ノ里に通い始めてからだった。

 田島たち『チームYAE』がどう動いたかは、大阪のオッサンにしか分からない……。

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高校ライトノベル・オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・84「イベントか!?」

2017-09-19 11:39:30 | 小説
高校ライトノベル・オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
84『イベントか!?』
        



 空堀商店街は西に向かって緩い下り坂になっている。

 商店街は、他と比べて道幅が狭く採光が悪いので、ちょっと薄暗い。
 この坂道を下って学校に至るので、登校時の憂鬱ということもあり、ちょっと凹む。
 逆に下校時は坂道を上る。
 下校の開放感と、谷町筋に向かって明るく開いた出口が坂の上に見えていることもあって素敵。
 多少いやなことがあっても、明日は良いことがあるかもとか思える。
 良いことがあると、もうちょっと良いことが続くんじゃないかと思わせてくれる。

 わたし達の前を薬局のオッチャン・オバチャンが谷町筋に向かっている。

 洗剤を買って、学校の話に花が咲いた。
 お二人は空堀高校の卒業生で、奥さんは絵里世(エリーゼ)という名前のドイツと日本のハーフだ。
 喋っている分には完璧に薬局のオバチャンなんだけど、こうやって歩く姿を見ていると、腰高にシャキッとした姿勢はアッパレゲルマン人! わたしが洗剤を買った後、商店街の寄合があるというので、いっしょに店を出たんだ。
「良い感じの御夫婦だね……」
 坂道効果なのか、ミッキーはのぼせた感じで言う。なに頬っぺた赤くしてるのよ!

 オッチャンもオバチャンも、わたしたちを好意的に見てくれた。
 日米高校生の組み合わせが、男女の違いは逆なんだけど、自分たちの青春時代のロマンスと重なるところがある様子。
 でもって、ミッキーは、オッチャンオバチャンの好意に羽を付けて妄想たくましの様子。
「なによ、この手?」
「あ、ごめん」
 両手の荷物を左手にまとめ、空いた右手を肩に回してきやがった。
 ちょっとしたことなんだけど、許してしまえばズルズルになる。
 夕闇のゴールデンゲートブリッジを見下ろしながら迫って来た前科があるんだよね。
「じゃ、ここで。帰ってくるころには夕飯出来てるからね」
「やっぱ、ミハルといっしょに帰るよ」
「だめよ、領事館の用事は最優先で済ませておかなきゃ」
「でも、大そうな荷物だよ」
「食材以外はミッキーに任せるから、じゃね」
 食材のレジ袋だけをかっさらって、ちょうど青になった横断歩道を渡る。
 ホームステイ先が変わったので、ミッキーは領事館に手続きに行かなければならないのだ。同じ地下鉄に向かうんだけど上りと下りに分かれる。もっとも谷六駅のホームはアイランド型なので上りも下りもいっしょなんだけど「男には付いて来て欲しくないところに寄るの」と言って断ってある。
 
 信号渡り終えても背中に熱エネルギーを感じる。振り返ると案の定、ミッキーが子犬みたいな目で手を振っている。

 ハズいけど、邪険にもできず下げたままの左手をソヨソヨ振っておく。
 奴が地下鉄の昇降口に消えてホッとため息。
「待っへはわよ……」
 舌足らずが聞こえてきたと思ったら、角のたこ焼き屋さんからたこ焼き頬張ったままのミリーが出てきた。
「わたしたちもお供します~(o^―^o)ニコ」
 なんと軽やかに車いすを操作して千歳も現れ、それから……
「え、え……演劇部全員!?」

 演劇部は、わたしの料理講習をイベントにしてしまった!
 
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高校ライトノベル・セレクト№30『走れナロス』

2017-09-18 18:00:42 | ライトノベルセレクト
ライトノベル・セレクト№30
『走れナロス』
    


 ナロスは激怒した。必ずかの邪智暴虐の王を除かなければならぬと決意した。

 作者が、この最初の一行を思いついたときに、わたしは生まれ、その運命が決められた。

 わたしは、ギリシャのとある街の石工として設定された。固い友情を持つナロスの友としては、これほど相応しい仕事はないからだ。
 もとより、わたしに石工としての技術も、職業意識もない。その証拠に、作者は石工に関する描写をどこにもしてはいない。ただ、硬い意思と固い石をかけたオヤジギャグのようなものである。兵庫県豊岡市のユルキャラの玄さんのことが、ひどく羨ましく感じられる。ユルキャラ相撲ではクマモンやバリーさんに簡単に負けてしまったが、彼は愛されるために存在しているのだ。
 わたしは、ナロスの偽善に満ちた友情、ひいては作者の身勝手な責任回避、自己欺瞞の象徴であるナロスの引き立て役としての役割を与えられ、作品の終わり頃に付け足したように、命を救われる。実際作者の心情の中では殺されているに等しい。

 その欺瞞の引き立て役のわたしは、名乗るのもおこがましい……。

 作者は、見栄っ張りであった。

 ある日、作者は、僅かばかりの原稿料が入ったのに気を大きくして、友人を沢山連れて、温泉に遊びに行った。芸者やコンパニオンのオネエチャン、ふと立ち寄ったスナックのオネエサンなどを呼んで、連日のバカ騒ぎ。
 五日目の朝に、宿の番頭が、みんなの部屋を訪れて、こう言った。

「あのう……酒屋やスナックへの支払いもございますので、とりあえずここまでのナニを……」
「ナニとはなんだ!?」
 作者は、酒臭い息を吐きながら、そう毒づいた。
 友人達は、あまりに剣呑な言いように一瞬氷りついた。
 番頭は、穏やかにかみ砕いた物言いをした。
「はい、もう五日目になりますので、取りあえず、ここまでのお会計を済ませて頂ければと存じまして……」
「そうか、勘定か」
「は、ま、有り体にもうしますと……」
「そりゃそうだ、人間はカンジョウの動物だからな。理性だとか、知性だとか、品性だとか言いながら、基本のところでは、カンジョウの動物なんだよ!」
「は、わたくしには、難しいことは分かりませんが、左様でございましょうね」
「よし、分かった。いくらなんだい?」
「はい、夕べまでの分を計算いたしますと、このように……」
 番頭は、オズオズとお会計書を差し出した。
 作者は、じっとそれを見つめた。
「……酒が抜けてから、勘定するから、ちょっと待ってくれたまえ」
「は、はい、それでは、よろしくお願い申し上げます」

 作者は、うなだれた。場の空気が再び氷りついた。

「おいT……大丈夫なんだろうな」
「ああ、大丈夫さ。ただ、少し足りない……」
「少しって……?」
「まあ、心配すんな。近所に知り合いの先生がいる。ちょいと拝借してくるから、少しばかり待っていてくれ」
 そういうと、作者は宿のドテラ一枚に下駄履きという、ほんのご近所にいくような出で立ちで宿を出た。
 宿の番頭も友だちも、ほんの小一時間あれば戻ってくるだろう。そう思っていた。
 作者は、昼になっても、夕方になっても帰ってこなかった。
 なんせ、スマホも携帯も無い時代である。友人達は、心当たりに電話したが、ようとして作者の居所は分からなかった。

 けっきょく残された友人達は、十日ばかり宿でこき使われて、やっと放免された。
「あなたがたも、お友だちは選ばなくっちゃ」
 番頭の言葉に、友人達は頭を掻くだけであった。

 半月ほどして、作者の居所が知れた。さっそく友人達は作者に詰め寄った。
「ひどいじゃないか、俺たちがどんなに待って、どんな 目にあったか分かるかい!?」

 作者は、うつむいたまま、こう言った。

「君たちは、たかが待つ身じゃないか。君たちに待たせる者の苦悩が分かってたまるか……」

 とんでもない言い訳であることは、作者自身分かっていた。自己嫌悪さえしていた。
 その自己嫌悪を、作者は『走れナロス』を書くことで癒した。

 癒しであるために、ナロスは美しい。

 ほんの申し訳程度、氾濫した川を渡ることに苦労したり、たまたま通り合わせた山賊を、王の刺客と思いこんでやっつけ、体力を消耗し、「もう間に合わなくてもいい」と思わせたりした。
「この三日、一度だけ君を疑ったことがある」
 石工としての描写はおろか、ナロスとの友情の描写さえないわたしに、そんなことを言わせ、ナロスに殴らせている。むろん、ナロスも途中で、心情を吐露し、わたしに殴らせている。

 似たような設定が『紅の豚』の終盤にあるが、あの男らしさとカタルシスは、この作品には無い。
 作者自身、こんな友人関係はあり得ないことを承知で書いている。あり得ないのだから、作者の真情の中では、わたしは磔になって殺されている。殺されているのに生きていることにされ、半世紀もの間、わたしは小学校の教科書にも載り続けた。わたしは玄さんが羨ましい。みんなナロスの話はオボロでも、その名は国民の大半が知っている。だから。いまだにテレビのCMに使われたりする。ネットで検索しても750000件も出てくる。わたしの名は、僅かにグーグルで100000件。奴の1/7にも満たない。

 そんな、わたしの名はセロヌンティウス……このブログを閉じたとたんに忘れられてしまうだろう。

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高校ライトノベル・ライトノベルセレクト《痛スーツラブストーリー》

2017-09-17 17:36:12 | ライトノベルセレクト
 《痛スーツラブストーリー》   


 世の中に痛車というのがあるのは知っていた。

 アニメなどの萌えキャラをデカデカとペイントした「オレはオタク!」と宣言しているような車のことだ。バイト先のコンビニの客で、そういうのが来たことがある。
 オレは、そういうのに偏見はないほうだけど、その客は嫌な感じだった。太っているわけじゃないけど、体全体の肉に締まりが無く、なんとも男のあり方としてルーズ。買った物は今でも覚えている。
 萌パラダイスって、タイトルのまんまの雑誌。こういうものにも偏見は無い。ただ、そいつの買い方。
「うん」
「380円になります」
 やつはノソっと千円札を出した。
「1000円お預かりいたします……お釣り620円になります。レシート……」
 やつは、何も言わずにレジ袋に入れた雑誌を持って出て行った。で、店を出るとレジ袋を路上に捨てて、そのまま痛車に乗って行ってしまった。
 店にいた女子高生三人が、いかにもキモそうに顔を見合わせた。
 夢ちゃんを見ると、困ったように照れ笑いをしていた。

 そーなんだ、今日は、その夢ちゃんの歓送会なんだ、たった二人きりの!

 オレは、数少ないプチブルの友だち祐介のマンションに行く途中だった。その途中で痛車を見てしまったもので、こんなつまらないことを思い出してしまった。約束の時間まで40分しかない。
「すまん、ジャケット貸してくれ!」
 祐介のワンルームに入ると「上がれよ」を背中で聞いて、目の前に吊ってあったジャケットを掴んで、そのまま回れ右をした。
「おい、涼太、おまえに貸すのは、こっち!」
「直ぐに返す。あ、このフリース置いとくから」
 後ろで祐介が、なにか言っているが、オレはシカトして階段を降りた。あと30分……。

 地下鉄のホームに着いたとたん、電車が出て行ってしまった。ついてない、5分のロス。

 夢ちゃんは、半年前から、うちのコンビニにバイトに来るようになった。トンボメガネでシャイな子だ。高校三年生相応の可もなく不可もない子だと思っていた。
 よくシフトが重なり、いっしょになることが多かった。最初は失敗の多い子だったが、注意すると一発で覚える。どうやら、注意事項をメモっている。事務所兼休憩室でそれを見つけたとき、その字の美しさと、真面目な書き込みに感動した。

「あ、見ちゃったんですか……あたし、ドジですから(n*´ω`*n)」

 そう言って頬を赤らめた。それから、夢ちゃんに対する認識が変わった。よほど恥ずかしかったんだろう、メガネをとって滲んだ涙を手で拭った。メガネを取ると別人のように可愛い。
「夢ちゃん、メガネ無いほうが……いや、余計なことだよね、ごめん」
「バイト中は、間違えちゃいけないから掛けてるんです。今度お給料もらったらコンタクトにしようと思って」
 そして、最初のギャラが振り込まれたんだろう、次からはメガネをしなくなった。
 夢ちゃんには、苦手な客……というより、商品がある。アダルト雑誌や萌雑誌だ。客の顔も商品も見ないようにして済ましてしまう。
 まあ、お客さんも可愛いとは思ってくれているようなので、あえて注意はしなかった。

 そんな夢ちゃんが、今日を限りにバイトを辞める。歓送会をしたいと言うと喜んで受けてくれた。

 あ、もう時間だ!

 到着したら3分遅れだった。夢ちゃんはバルーンスリーブのセーターにサス付きスカート、頭はオレには分からない大きめのモコっとしたベレーを被っていた。
「ああ、よかった、場所間違えたのかと思っちゃいました」

 人待ち顔が、とびきりの笑顔になった。

「ごめん、シフトがタイトだったもんで」
 言い訳が言えたのは、肩の凝らないイタメシ中心の志忠屋という店のシートについてからだった。
「すみません、あたしのために」
 二時間近く喋ったあと、店を出た。高校生だ、早く帰さないと。
「一駅だけ歩きません。お話できるから」
「あ、うん、いいよ」

 その時、ビル風が吹いてきて、ボタンを留めていなかったジャケットが風に煽られてたなびいた。

「あ……!」
 夢ちゃんが、ジャケットの裏側を見て声を上げた。オレも驚いた。
 ジャケットの裏側は、萌えキャラで一杯だった。
「あ、これは……」
 オレは正直に言った。ジャケットは持っているけど、兄貴のお下がりで、ここしばらくクリーニングもしていない。いっそ、新しいのを買おうかと思った。が、買ってしまうと、今日のデート……いや、歓送会の費用が苦しい。そこで祐介のを借りたってことを。
「ハハ、オレって浅はかだなあ。ごめん夢ちゃん」
「ううん……」
 夢ちゃんは、暖かくかぶりを振った。
「あたしにも秘密があるんです……」
「なに?」

「ウソみたいですけど、あたし…………アニメのキャラなんです」

「え……?」

「あまり視聴率が上がらないんで、ワンクールで打ち切り。で、お別れなんです。バイトしたりしてがんばったんですけど、アニメの制作費って高いんです。最後まで秘密にしておこうと思ったんですけど、涼太さんが正直に話してくれたから……じゃ、ここで!」

 夢ちゃんが駆け出した。
 電柱一本分行く間に、その姿はフェードアウトしていった。

 それから三か月後。オレは就職の面接を受けに行った。第一志望の中堅企業……お手軽かと思ったら、人の思いは同じようで、面接会場の廊下は面接待ちの学生でいっぱいだった。
――こりゃ、ダメだな――
 ほとんど諦めて、面接を受けた。開き直ったせいかスラスラと答えることができた。可も無し不可も無し……で、通るご時世じゃないよな。

――そんなことないわ――

「え……?」
 背後から声がして振り返る……だれもいなかった。
「ダメだな……幻聴がするようじゃ」

 アパートに帰って、リクルートスーツを脱いで驚いた。背中の裏地に夢ちゃんがいた。むろんアニメキャラとしてであるが、特徴や印象は夢ちゃんそのものだ。これは洋服の秋山で買った、どこにでもあるリクルートスーツだ。むろん、こんなものは最初からついてはいなかった。

 夢ちゃんは、上に羽織るものなら、たいていのモノには付いてきた。そして、着ているとき、背中から、時々声をかけてくる。
 就職は、夢ちゃんが言ったように難関を突破して受かった。

 そして、何年かあって、オレにリアルな彼女ができたとたんに姿が消えた。

 でも、また会えるような気がする。
 うまく言えないけど、人生がワンクールだけで終わりそうになったとき、夢ちゃんは現れるんだよ。


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高校ライトノベル・オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・83「わたしはお料理名人!」

2017-09-17 11:39:26 | 小説
高校ライトノベル・オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
83『わたしはお料理名人!』





 自慢じゃないけどお料理はからっきし。

 目玉焼きくらいはできるけど、あとはカップ麺にお湯を注ぐくらいのもん。


 十八歳にもなって、このザマなのは家庭環境によるところが大きいんだけど、言いだすととんでもないグチりになるので控えておく。
 母も祖母も十分承知しているので、この一週間はデリバリーを手配してくれている。
 ところが、このデリバリーさんが食中毒を出してしまって、二日目からは止まってしまった。

 お母さんはヌカリノない人で、デリバリー以外の手配もしてくれている。

 わたしの口座に『おもてなし資金』を振り込んでくれていて、それを下ろせばしのげるようになっている。
 でも、これは万一の時の保険のようなもので、このお金で食材を買うことはできるけど。その食材でもって、わたしが料理することがどんなに無謀なことなのか……これには目をつぶっている。
 こんなところにも、日本人の安全保障への脳天気さが現れていると思うんだけどね。

 一週間だけのことだから、店屋物とか食べに行くとかという選択肢も一般的にはあるんだけど。

 シスコでミッキーんちに滞在している時に「ミハルの料理の腕はすごい!」ということになってしまっているのだ。
 これは日本と日本人への過剰な過剰な期待というか幻想が元になっていて、ま、多少の見栄とかもあって、ミッキーとその家族の思い入れを否定しなかったわたしにも問題がないわけじゃない。
 
 だって、一か月後にミッキーがわたしんちにホームステイするなんて、この大阪にミサイルが落ちてくるよりも確率が低いんだもん!

 でも、デリバリーを頼んでいたじゃない?
 それはね、こういうこと。
「わたしが作ったら美味しくなりすぎるのよ。一般的な家庭料理を堪能してもらうには、このデリバリーが一番なの!」
 と押し切った。
「もう少し一般的な家庭料理ができるようになったらご馳走するわ」
 自分へのフォローも忘れなかった。
 こういう屁理屈の立て方は、我ながらすごいと思う。ひょっとしたら国会議員に向いているのかもしれない。

 いろいろあって、放課後の空堀商店街をミッキーと二人で歩いている。

 恥を忍んで演劇部のミリーに相談したんだ。

 ミリーは、もう四年も大阪に居る。
 ホームステイ先は黒門市場で魚屋さんをやっている渡辺さんだ。
 渡辺さんは魚料理の他にも調理の腕はハンパじゃなくて、ミリーもその薫陶を受けて、かなりのものになっているらしい。
 演劇をちっともやらない演劇部だけど、お茶とお料理はなかなかのものらしい。
 お茶は千歳、お料理はミリーなんだ。
 松井須磨と小山内啓介も、なにか持っていそうなんだけど。生徒会の諜報能力をもってしても、この二人については分からない。
 
「協力してあげるわ、とりあえず食材は揃えておいてちょうだい」

 協力を約束してくれたミリーは綿密なリストを書いてくれた。
「魚だったら黒門市場の方がよくない?」
「ばかねえ、最初からそんな美味しいもの揃えたらハードル上がりっぱなしになるじゃないのよ!」
 なるほど、ミッキーのホームステイは三か月はあるのだ。
「それに、下校途中に買い物しておくって、とても自然じゃない」
「なるほど……演劇部のくせに思慮深いじゃない」
「うるさい!」

 ミリーは大したもので、空堀商店街のどこにいけば何があるかをしっかり把握している。

 わたしは家事とお料理の名人よろしくミッキーを連れまわした。
「すごいね、商店街がみんなお馴染みさんなんだ!」
「まーね」
 学校の制服を着て「あれとそれください」とテキパキしていれば、どこのお店でもお得意さんぶっていられる、地元商店街の有りがたいところよ♪

「あら、生徒会の副会長さん」

 そう声が掛かったのは、食器洗剤を買いに入った薬局だった。
 
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高校ライトノベル・オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・82「とんでもない事態になってきた!」

2017-09-15 11:31:05 | 小説

高校ライトノベル・オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
82『とんでもない事態になってきた!』




 運命とか神さまとかは信じない。

 お母さんとは意見の合わないことが多いけど、この点については一致している。

 世の中というのは因果応報、なにか事件が起こったり行動を起こすと、その事件なり行動が変数となって作用しあって事態を変化させる。

 わたしが新しい同居人で悩む羽目になったのは、そういう因果応報の果てのことなんだ。
 
 困ったことに、同居人は、いささかの運命論者。

「運命だと思ったんだけどなあ……」
 結論を聞いたミッキーは、ちょっとしょげている。
「ま、新しい執行部に持ち掛ければいいんだから、気落ちしなくていいわよ」
 いささかのシンパシー有り気な顔で答えておく。

 実は、ミッキーが生徒会活動に参加したいと言い出したのだ。

 ミッキーには悪いけど、これ以上わたしのテリトリーに入ってきてほしくない。
 脳天気なお母さんのお蔭で同居することのなったことだけでも十分すぎるほどトンデモナイことで、ミッキーの運命論を補強してしまっているのにね。
 自分で言うのもなんだけど、ミッキーはわたしに気がある。
 サンフランシスコの三日目、ゴールデンゲートブリッジのビュースポットでキスされそうになった。
 日の暮れで、周り中アベックばっかで十分すぎるほどの雰囲気。雰囲気十分で迫ってくることは理解できる。
 動物的衝動だけで迫って来たのではないことも分かっている。
 ミッキーが、わたしを崇拝してくれるのは嬉しいけども、崇拝されたからと言って、それに100%応えなきゃならない義務はない。
 でも、サンフランシスコからやってきた交換留学生への礼は尽くしてあげなければならない。
 ホスト校の生徒会副会長としての義務とか礼節はわきまえている。

 わきまえていなければ、彼の同居が決まった段階で家出してるわよ。

 生徒会規約によって執行部の肩書と人数は決まっている。現状で定員一杯。
 執行部は選挙によって選出された者のみをもって構成する。それに、留学生が執行部に入れる規定も無ければ選挙権の有無についてもうやむやだ。
 そういうことを生徒会顧問と執行部に説いた。
「それに、あんたたちの好きな猥談できなくなるよ」
「「「え!?」」」
 これが会長以下の男子役員には効いた。
「アメリカはね、未成年へのセックスコードはメッチャ厳しいの。この棚に並んでるラノベはみんなアウトよ。体は大人でルックスは幼女のパンチラなんて即刻絞首刑! その下に隠してあるパッケージと中身が違うDVDなんか銃殺刑!」
「そ、それはネトウヨのデマみたいなもんだ!」
 会長の悲鳴は、わたしのハッタリが事実であることを物語っていた。
 そして、ミッキーの「生徒会活動に参加してみたい、いや、そうなる運命だ」という信仰的思い入れは潰えさった。
「残念ね、日本というのは慣例や規約にはやかましい国だから、わたしも応援したんだけどね……まあ、部活とかだったらノープロブレムだから、いっしょに探してあげるわよ」
「うん……頼りにしてるよ」

 よし! 難関をパスした気になっていた。

 ところが、とんでもない事態になってきた!

――ごめん、お祖母ちゃんと一週間泊まりの仕事になっちゃった。留守番よろ!――というメールが飛び込んできた!
――ちょ、お母さん、ミッキーと二人ってことなんですか!?――
――大丈夫よ、ミッキーはいい子だし、念押しにメールしたら「安心してください、神に誓ってミハルを守ります!」って返事きたから――
 で、それがお守りになるかのように奴のメールを転送してきた。

 ウウ……それって、憲法九条で日本の平和が守れますってくらい脳天気なことなんですけど!
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