大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・ライトノベルベスト[OSAKA FANTASY SEKAI NO! OWARI]

2017-09-19 17:02:37 | ライトノベルベスト
ライトノベルベスト
[OSAKA FANTASY SEKAI NO! OWARI]



 時空戦艦カワチのきっかけになった短編小説 初出・2014-08-12 17:40:57


 八戸ノ里は、八戸の農家から発展した。

 どうしようもない湿地帯であったところに、江戸時代七戸の農家が移住してきて、元からあった一戸の農家を中心に開発をすすめ、豊かな農地にした。

 田島精機の社長は、この話が大好きだ。

 八戸ノ里(ヤエノサト)などと言っても、メジャーではない。東大阪の東の外れ、近鉄奈良線が通るが各停しか止まらない。昔は町工場が多く、小なりと言えど工業地帯であったが高層団地が増え、昔ながらの工場は、ほんの一握り。東京で言えば荒川区の南千住あたりに似ている。
 田島精機は、そんな零細企業の一つである。ほとんど手作りと言っていい測定器の製造……の下請けを細々とやって生き延びてきた。
 社長の勲(いさお)は、似たような生き残りの会社七社と手を組み『チームYAE』を作り、その技術を持ち寄って「世界をアッと言わせるようなモノを作ろうといきごんでいた。
 人工衛星のマイド一号には後れを取ったが、このたび目出度く世界的防犯設備『セワヤキ』を開発。自主実験を百回近く繰り返し、今日、大阪府知事、各市町らが集まり、公開実験を行った。

『セワヤキ』は監視カメラのように設置され、半径数百メートルの人々の良心を増幅させる機能があった。計測器と脳波測定器、それにゲーム開発の技術が結集されている。
「人間は犯罪を犯す前には、わずかではありますが良心の呵責があります。この呵責を眠らせるために『自分だけとちゃう』という言い訳催眠を自分の脳にかけます。それによって良心は委縮し、犯行にいたるわけであります。この『セワヤキ』は、呵責の気持ちを増幅させる機能があります。駅前で実験したところ、街頭犯罪が1/20に激減いたしました!」

 そのあとの実験が良くなかった。いや、最初は順調だった。ボランティアの人たちに「自転車を盗め」と告げておき、自転車100台の前に立たせたが、誰一人自転車を盗めなかった。
「たとえ実験とは言え、人のモノを取ってはいけないという気持ちがあります。それが増幅されたのです」
 それから、AV女優に頼んで盗撮の実験もやってみたが、誰一人、盗撮できたものはいなかった。
「また、これは機能を一点集中させたもので、逃走する犯人、犯行中の犯人に照射しますと良心をマックスにして、自ら逃走、犯行を中断させます」
 これは、人体実験が出来ないので、コンピューター相手に使われた。ウィルスを感染させようとしているパソコンに照射すると、なんと、パソコンは自分で、全てのデータを消去し、シャットダウンしてしまった。この機能はゲーム開発の社長のアイデアと技術が生きていた。

 が、最後が良くなかった。知事や、市長、公募校長などに無作為に悪いと思われる政策や政治方針を書かせて、テーブルに置いた。そして、百メートルの距離を置いて、それを取らせにいかせたが、全員が書いた書類を手に取った。
「こ、こいつら人間とちゃう……!」
 勲たちは思ったが、実験は失敗と判断された。

 やけになった勲は娘の幸子が操縦する軽飛行機に乗って八尾空港を飛び立ち、大空で思い切り「アホ、バカ、マヌケ、ゼイキンドロボー!」などと憤懣のありったけを大空に向かって叫んだ。まさに獅子吼であった。
「お父ちゃん、その馬力で市長さんらにも文句言えたらよかったのにな」
「あんなに政治家どもが無神経やとは、思えへんかった!」
 同乗のゲーム会社の社長が歯ぎしりした。
「あ~あ、オッサンらは、権力には弱いねんからな」
「何ぬかしとる、幸子、もっと早う、もっと高う飛べ!」
「軽飛行機には限界の高さがあるんよ。ちょっとなにすんのん田部のオッチャン!」
 ゲーム屋の田部がコパイロットの操縦桿を優先にして操縦し始めた。こういう裏技はゲーム屋ならではである。

 そのとき、無線機から緊急放送が入った。

「近畿管区の上空を飛んでいる全ての航空機に伝達。KC国が発射した核ミサイルが大阪上空に接近中。自衛隊、米軍ともに迎撃に失敗。着弾まで、二分、至急退避! 至急退避!」
「なんやと……」
「田島はん、絶好のチャンスや!」
「くされミサイルにいかれてたまるか!」
 田部はGPSで着弾予定地を大阪城の真上と割り出し、方位、高度をとった。

「見えた、あれや!」

「ウワー、世界の終わりや!」
 幸子は泣き喚いたが、オッサンたちは冷静かつ、果敢であった。
「距離2000、エネルギーマックス! くらえ!!」
 田島は、ミサイルに照準を合わせ、渾身の一撃をミサイルにくらわした!

 ミサイルは空中で一回転したかと思うと、急にヒョロヒョロになり、そのまま大阪城の大手門前に落下し、グシャグシャになった。

 政府の発表では、ミサイルの故障で起爆しなかったと発表があり、だれも『チームYAE』の功績であるとは認めなかった。
「これで、ええんじゃ。世界 NO! 終わり! にでけたんやさかいな……」
 チームYAEのメンバーは、祝杯ともヤケ酒ともつかない酒盛りをやった。

 日本政府が気づいたのは、アメリカの軍事産業が八戸ノ里に通い始めてからだった。

 田島たち『チームYAE』がどう動いたかは、大阪のオッサンにしか分からない……。

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高校ライトノベル・小説府立真田山学院高校演劇部・6〔どないしょ、記者会見や!!〕

2017-09-05 06:36:12 | 小説3
小説府立真田山学院高校演劇部・6
〔どないしょ、記者会見や!!〕



「制服きちんと着て、23日11時にミナミホテルに来なさい。記者会見やります」

 というメールが高橋さんから来た。
 プロのやる仕事は早い。しかし、昨日の今日とは思えへんかった。
 いつもルーズにしてるリボンもきちんと締めなおし。ローファーも磨いて、ニーハイも白のソックスに替えて折り返し、そのまんま制服見本になれそうな出で立ちで、言われた時間よりも30分早くミナミホテルにつく。

『ラプソディー真田山制作発表会』

 三間に一尺半の横断幕が眩しかった。会場は普段は結婚式なんかをやる会場で、なんとも言えん気品が漂ってた。
 演壇の上には、長いテーブルに白いテーブルクロス。その前には出席者の名前のフンドシみたいな紙がぶらさがってる。
 高橋の御大を筆頭に、劇団到来、NSK、浪速テレビ、そうそうたる面々の名前が書いたった。

『三好清海』……うそ!?

「ええ、では、ただいまより『ラプソディー真田山』の制作発表をさせていただきます。司会進行は、言いだしべえのわたくし高橋三郎が務めさせていただきます。我々は長年、この公演のアイデアを温め、本日天皇誕生日の良き日に発表にこぎつけられたことを、この上ない喜びとするものであります」
 長年……うそ、昨日決まったばっかりやのに!
「わが母校、真田山学院高校は、府立高校の中で唯一、校名に『学院』を冠する高校であります。話せば長くなりますが、私学として創立以来百年になんなんとする歴史と、三万を超える卒業生……その中には歴史の分だけ、卒業生在校生の人数の分だけの物語があります。もう、これは、大阪の近代史そのものであると申しても過言ではないと存じます。その大阪の来し方を顧み、先人の行い悲喜こもごもの物語を一つのピアノを通してドラマに仕上げ、全国の皆さんには大阪のたたずまい。大阪の人たちには、明日の大阪に想いをいたすよすがにしていただければと願います。まず、このピアノをご覧ください」

 会場の正面の扉が開けられ、あのスタインウェイのピアノがスポットライトに照らし出されて運び入れられた。

「生徒政策委員の三好清海さん。あのピアノで『新世界』を弾いてもらえますか」
「え……」
 あたしは、中学三年までピアノを習てた。その最後の発表会に弾いたのが『新世界』 
 そやけど、なんで知ってんねんやろ。それになによりも二年近くピアノには触ってない。言われてすぐに弾けるもんとちゃう。高橋のオッサンは記者さんらには見えへん方の目でウィンクした。下手でもかめへんいうサインやと思た。

 案の定、弾きはじめると、会場のあちこちから笑い声がもれた。

 あたしは、曲が体に染みついて、楽譜を見たら、意外に間違わんと弾けた。笑いの原因はピアノの狂いやった。まるでディキシーランドの曲みたいに外れた音がする。あたしも可笑しかったけど、譜面を追いかけるのに一生懸命で、笑うどころやなかった。

「このピアノは、すぐる大正11年、旧皇族で有られた李王殿下御夫妻がご来光の折に、地元有志の方々によって寄付されたものであります。その折に殿下御夫妻の前で弾かれた曲が、この『新世界』でありました。わたしたちは、数か月をかけて、このピアノを修復いたしながら、『ラプソディー真田山』を仕上げます。李王家の有り方や、今の日韓の間にある様々な問題はありますが、あのころの大阪の人たちには、当時の日本そのものが『新世界』でありました。その『新世界』は思ったようには発展せずに、戦中の苦難、戦後のひたむきな努力の末に、今の大阪があります。それを三つのドラマとし、それを横糸に。このピアノが縦糸となって、今の大阪を思うよすがにしようと思いました。ささやかではありますが、壊すばかりがまかり通る大阪を考え直してみたいと思います」

 笑いは、いつの間にか真剣な静寂になり、あたしの調子っぱずれな『新世界』が終わるころには満場の拍手になった。

 なんや、あたしらは、とんでもない強引なもんに巻き込まれそう。せやけど……面白そう。ノッテみよか! 


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高校ライトノベル・小説府立真田山学院高校演劇部・5〔パンツからスタンウェイへ〕

2017-09-04 06:36:50 | 小説3
小説府立真田山学院高校演劇部・5
パンツからスタンウェイへ〕



 あたしは、スカートめくってパンツ見せる役がきたらどないしょうか心配した。

 けど、それは杞憂やった。
 あたしら、真田山学院は、たいがい並の高校生の在り様からは外れてる。
 今時めずらしい学園紛争をやって民間校長をクビに追い込んだり、軽音とダンス部が演劇部のコンクールに参加して、登場人物日本一のレコードとったり。変態まがいのオッサンが来て、古い小道具の箱から300枚のパンツを出して満艦飾の陳列。それが50年前の卒業生(正確には中退生)で、直木賞作家の高橋さん。
 青春の思い出にふけってるうちに、往年の名作『パンツラプソディー』と『すみれの花さくころ』のコラボ公演の話が決まってしもた。

 二つの作品の共通点は、正当な評価を受けへんかったいう点。

 というわけで、今日は応接室に軽音、ダンス、演劇の部長と難波ホールの支配人、作家の高橋さん、それから知らんオッチャンオバチャンが二人。話を聞くと、共に大阪で一番のNSK歌劇団と劇団到来のエライサンいうことが分かった。
「え、プロの人らと共演ですか!?」
「互いにええ刺激になる。それに生パン見せるのは、高校生にはさせられへんしなあ」
「でも、奥さんは、やらはったんでしょ?」
「あのころの高校演劇は、何でもありやったからな。今は、いろいろうるさいよってにな」

 それから、NSKと到来と難波ホールの支配人に、コンクールのDVDを見てもろた。

「えー、これ落とすか?」「うそー!」「審査員、なに見とるねん」
 三者三様の驚きと非難の声があがった。
「今からYouTubeにでも投稿するか?」
 と高橋さん。
「カメラ一本のべた撮りでは弱い。ちょっと編集させてもろて、プロモの一つにしよ」
 難波ホールの支配人。
「歌とダンスのとこは、うちらにもかませてください。友達の由香との会話は、20人ぐらいに増やして、厚みを出そ」

 DVDを観終わったあと、ほんの20分ほどで粗々の話が決まった。

 あとは、適当にお喋りかと思たら、プロのやることには無駄が無い。ちょっとでも高校生を感じておきたいというんで、学校見学会になった。
 食堂で、定食やらランチやら食べたあと、みんなで学校に入るとこから、授業、休み時間、教室の掃除なんかをダイジェストでやってみた。
「こんな丁寧に掃除はしませんよ」
 という。
「掃除は基本。ここで手ぇ抜いたらあかんなあ」
 と厳しいお返事。

「あ、スタンウェイのピアノがある!」

 NSKのプロディユーサが、同窓会館で発見した。あたしらにしたら、ただの壊れたピアノやけど、かなりのレアなもんで、このまんまでも500万円くらいにはなるらしい。
「これ使いましょう!」
 高橋さんの頭の中で、何かが閃いた。

「同窓会館に眠るスタンウェイ。それが二つの物語を紡ぎだす!」
「ラプソディー真田山。スタンウェイによる……イメージが膨らむなあ!」
 と、劇団到来の鈴本さん。さっそく、学校の備品簿から、このスタンウェイに関わる物語を拾い始めた。


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高校ライトノベル・小説府立真田山学院高校演劇部・4〔パンツいっぱいの思い出〕

2017-09-03 06:13:12 | 小説3
小説府立真田山学院高校演劇部・4
パンツいっぱいの思い出〕



「退学寸前にやりたいことやろ思うてな……」

 場所を校長室に改めて、先輩作家の高橋さんの話が続いた。
「演劇部が、コンクールの演目と人材に困ってるいう話聞いてなあ……安うて、意表をついて、おもろい芝居書いたろ思たんや」
「先輩、演劇部の岸田さんに気ぃありましたからね」
 校長先生も容赦がない。
「ハハ、その甲斐あって、今はオレの嫁はんやけどな」
 高橋いう先輩は、どうも、あたしらの想像とケタが違うみたいや。
「なんで、あんなパンツいっぱいの芝居やろ思いはったんですか?」
「金かからんさかいにや」

 意表をつく言葉やった。あれだけのパンツ集める(どう見ても新品)のは、かなりのお金がかかりそうや。

「母ちゃんがパンツ加工の内職やっとってな。ほら、女もののパンツて前後が分かるように、小さいリボンが付いてたりするやろ。あれ付ける内職や」
「そんな内職あるんですか?」
「うん、あれは天止め言うてな。案外むつかしい。あそこに、どんなリボン付けるかで、出来がまるで違う。ほら、こっちのパンツのリボンが、これに付いてたらどんな感じや?」
 高橋先輩は、なんのてらいもなく二枚のパンツを示した。淀先生は俯いてしもた。ちょっとカマトト。
「収まるとこに収まってるいう感じやろ。画竜点睛いうやっちゃ」
 先生らが吹きだした。あやめとはるなは『画竜点睛』という言葉の意味が分からへんのでぽかんとしてる。
「そやけどな……これこれ。このスキャンティーに付いてるのを、このベ-シックなやつに付けると、微妙に大人に近い匂いになる。このへんの見極め方が母ちゃんの目は一級品やった!」
 あたしは、なるほどと思うた。高校三年ぐらいになったら、こういうの穿いてもええなあと感じる。

「で、これがなんで、芝居になったんですか?」

「母ちゃんの内職卸してくれてた会社が潰れてなあ。で、現物支給されたんがこれや。森光子のドラマみたいに行商に行くわけにもいかへんしな。で、しばらく母ちゃんは無職になった。そんな環境で高校四年生やってるわけにいかへんさかいな。で、今のカミさんに頼まれて、高校演劇では絶対やらへん芝居やってみたんや」
「どんな芝居なんですか?」
 部室にある台本は全部読んでるけど、パンツの出てくる本はあらへん。
「まんまや。パンツの内職やってる親が仕事なくなって、子供が苦労する。子どもは、それ苦にして学校を辞めよる。親はやっと次の仕事見つけて、生活の算段つけてくる。思いやりの行き違い。それで、ラストは300枚のパンツで万国旗。途中には子供……言うても娘、で、親は男の父子家庭。途中でパンツの行商の決心した娘がスカートたくし上げてパンツ見せるシーンがある。受けたし泣かしたなあ……観客は支持してくれたんやけど、審査員が反対しよってなあ……講評の段階で大論争やったけど、カミさんが『もうええ』言いよってなあ。『審査基準がないから、こないなるんです。そやけど、これが今のルールやったら、もうええです。お客さんには通じましたから』それから、審査基準ができたんやけどな。また、無くなったみたいやなあ」

 忘れかけてた悔しさが蘇ってくる。

「そうや、あの芝居、もう一遍やれへんか!?」
「え……!?」
 一同がたまげた。
「小屋代やらはオレが出す。もちろん有料公演で、チケ代でちょっとは儲かるぐらいにはする。公演としては一本じゃ弱いから、オレのパンツ芝居と抱き合わせ。これいけるで、さっそく手ぇうっとこ!」
 高橋大先輩は、校長室からホールに電話、なんと難波ホールを三日も抑えた。そんで『すみれ』の方は大橋先生に電話して直ぐに潤色ありの上演許可をとってくれはった。

 あたしは、スカートめくってパンツ見せる役がきたらどないしょうか心配した。

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高校ライトノベル・小説府立真田山学院高校演劇部・3〔段ボール一杯のパンツ!!〕

2017-09-02 06:16:50 | 小説3
小説府立真田山学院高校演劇部・3
〔段ボール一杯のパンツ!!〕



 いよいよ変なオッサンやった!

 ビニールシートの上に段ボールから取り出したパンツを一枚ずつ取り出しては、広げて並べ始めた。
 どないみても変態のパンツフェチ。
「ところで、オッチャン、卒業生の人ですか?」
「え……ああ、まあ、そんなとこや🎵」
 返事があいまい、いよいよ怪しいんで、はるなに先生を呼びにいかせる。あやめは遠ざけて、あたし一人腹くくって相手をする。
「あの、何期生の方ですか、演劇部にいてはったんですか?」
「そんなんは、どうでもええ。とにかく、ここに僕らの青春があったんや🎵」
 並べたパンツは、思いのほか多種類やった。いわゆるショーツから、ビキニの下みたいなやつ、Tバックのご先祖のスキャンティーとか言うような奴。種類だけやちごて、デザインもさまざま。縦縞、横縞、チェックにニコニコマーク、イチゴ模様。
 不審者の侵入には厳しい学校やけど、冬休み前の短縮授業の下校時間。学校の校門は、ほとんどお出入り自由。こんな変態が入ってきても分からへん。
 いろいろ話しかけて間を持たせる。時間にしたら10分も無かったやろけど、先生が来るのは、ひどく遅く感じた。

「なにしてはるんですか!?」

 やっと、顧問の淀貴美先生が、体育の先生二人連れてやってきた。で、最初の第一声は淀先生。
「邪魔せんでくれんか。久方ぶりに僕は高揚してるんやさかい……」
「先生ら、この人確保してください。あたしは警察に電話します!」

 それから、パンツを巻き上げながら大騒動。オッサン見かけの割に力があって、先生らも苦労してた。あたしも気ぃついたらオッサンの足にくらいついてた。あやめとはるなは、ビビって倉庫の外に出てしもた。

 やがてパトカーがきて、びっくりした先生やら、残ってた生徒やらが集まってきた。

「コラ、抵抗したら公務執行妨害になるぞ!」
 言うたお巡りさんが、オッサンに後ろ手に捻られて、ひっくり返り、もう一人のお巡りさんが背負い投げされたところで、校長先生が来た。
「あ、高橋先輩!」

 校長先生が青い顔になって説明した。

 オッサンは高橋三郎いうて、直木賞とった作家さん。うちの学校には留年を含めて三年半通うて、中退。その後作家生活に入って、テレビやら映画の脚本でも有名。あたしでも名前は知ってたけど、顔までは知らんかった。
 その高橋さんが、なんと、今度のコンクールを観に来てくれてはって、えらい感心しはった。そんで、一回久しぶりに、中退した母校を訪れたということが、ハンカチで汗拭きまくりの校長先生から説明された。

 ちなみに、校長先生は夏休みに演劇部が自衛隊の体験入隊やったことで、今時珍しい学園紛争にまでなって、学校の統制がとられへんかったいうことで、交代してる。前の校長は、いわゆる民間人校長で、もともと問題の多い人やった。そんで、府教委は本校の卒業生である今の校長を寄越してきた。
 で、この校長先生が生徒やったころ、少林寺拳法部の先輩やったんが高橋さん。で、なんで少林寺拳法が演劇部に……?

 あたしは、はるか先輩の時の山中さんと、うちらの仲間の長曾我部先輩のことを思い出した。二人とも少林寺拳法や!

 あたしは因縁のようなものを感じた。けど、あのパンツとの関係は、まだ分からへんかった……。


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高校ライトノベル・ライトノベルベスト・〝そして 誰かいなくなった〟

2017-09-01 18:04:40 | ライトノベルベスト
ライトノベルベスト・1
〝そして 誰かいなくなった〟
 


「へへ、どの面下げてやって来ちゃった!」

「キャー、恭子!」
「来てくれたのね!」
「嬉しいわ!」
 などなど、予想に反して歓待の声があがったので、あたしはホッとした。

 正直、今朝まで同窓会に行くつもりは無かった。
 あたしは、高校時代、みんなに顔向けできないようなことをしている。

 校外学習の朝、あたしは集合場所には行かずに、そのまま家出した。
 FBで知り合った男の子と、メルアドの交換をやって、話がトントン拍子に進んで家出の実行にいたるのに二か月ほどだった。

 校外学習の朝に家出するのは彼のアイデアだった。

「なに来ていこうかな~♪」
 てな感じで服を探したり、バッグに詰め込んでも親は不審には思わない。
「帰りにお茶するの」
 そう言うと、お父さんは樋口一葉を一枚くれた。同じことを兄貴に言うと一葉が二葉になった。
「行ってきまーす!」
 そして担任の新井先生には「体調が悪いので休みます」とメールを打つ。

 これで、あたしの行動は、10時間ぐらいは自由だ。

 彼は品川まで迎えに来てくれていた。それまでに、たった二回しか会ったことはなかったけど、ホームで彼の顔を見たときは涙が流れて、思わず彼の胸に飛び込んだ。携帯は、その場で捨てて、彼が用意してくれた別の携帯に替えた。
 二人揃って山梨のペンションで働くことは決めていた。でも、一日だけ彼と二人でいたくって、甲府のホテルに泊まった。ホテルのフロントで二人共通の偽の苗字。下の名前はお互いに付け合った。あたしは美保。彼は進一。なんだか、とっても前からの恋人のような気になった。部屋に入ったときは、新婚旅行のような気分だった。

 そして、その夜は新婚旅行のようにして一晩をすごした……。

 彼の正体は一カ月で分かった。
 同じペンションで働いている女の子と親しくなり、お給料が振り込まれた夜に二人はペンションから姿を消した。
 あたしはペンションのオーナーに諭されて、一カ月ぶりに家に帰った。捜索願は出されていたが、学校の籍は残っていた。
 学校に戻ると、細部はともかく男と駆け落ちした噂は広がっていた。表面はともかく学校の名前に泥を塗ったから、駆け落ちの憧れも含めた好奇や非難の目で見られるのは辛かったが、年が変わり三学期になると、みんな、当たり前に対応してくれるようになった。

 そして、卒業して五年ぶりに同窓会の通知が来た。

 家出の件があったので、正直ためらわれたが、夕べの彼……むろん五年前のあいつとは違うけど、ちょっとこじれて「おまえみたいなヤツ存在自体ウザイんだよ!」と言われ、急に高校の同窓生たちが懐かしくなり、飛び込みでやってきた。

 来て正解だった。昔のことは、みんな懐かしい思い出として記憶にとどめていてくれた。
「みんな、心の底じゃ恭子のこと羨ましかったのよ」
「あんな冒険、ティーンじゃなきゃできないもんね」
「もう、冷やかさないでよ」
 そんな会話で済んでいた。

 そのうち、幹事の内野さんがクビをひねっているのに気づいた。

「ウッチー、どうかした?」
 委員長をやっていた杉野さんが聞いた。
「うちのクラスって、34人だったじゃない。欠席連絡が4人、出席の子が29人。で、連絡無しの恭子が来て、30人いなきゃ勘定があわないでしょ?」
「そうね……」
「会費は恭子ももらって30人分あるんだけどね」
「だったら、いいじゃない」
「でも、ここ29人しかいないのよ」
「だれか、トイレかタバコじゃないの?」
「だれも出入りしてないわ」
「じゃ、名前呼んで確認しようか?」
「うん、気持ち悪いから、そうしてくれる」

 で、浅野さんから始まって出席表を読み上げられた。あたしを含んで全員が返事した。

「ちゃんと全員いるじゃない」
「でも、数えて。この部屋29人しかいないから」
「え……」
「名簿、きちんと見た?」
「見たわよ、きっかり30人。集めた会費も三十人分あるし」
「……もっかい、名前呼ぼう。あたし人数数えるから」

 杉野さんの提案で、もう一度名前が呼ばれた。

「うん、30人返事したわよ」
「でも、頭数は29人しかいないわよ」
「そんな……」

 今度は全員が部屋の隅に寄り、名前を呼ばれた者から、部屋の反対側に移った。
「で、あたしが入って……29人」
 内野さんが入って29人。名簿は30人。同姓の者もいないし、二度呼ばれた者もいない。

「だれか一人居なくなってる……」
 一瞬シンとなったが、すぐに明るく笑い出した。
「酔ってるのよ。あとで数え直せばいいじゃん」
 で、宴会は再び盛り上がった。

「ちょっと用足しに行ってくるわ」
 あたしは、そう行ってトイレにいった。

 で、帰ってみると、宴会場には誰もいなかった。

「あの、ここで同窓会してるN学院なんですけど……」
 係の人に聞くと、意外な答えがかえってきた。
「N学院さまのご宴会は承っておりませんが」
「ええ!?」
 ホテルの玄関まで行って「本日のご宴会」と書かれたボードを見て回った。N学院の名前は、どこにもなかった。

 それどころか、自分のワンルームマンションに戻ると、マンションごと、あたしの部屋が無くなっていた。
 スマホを出して、連絡先を出すと、出した尻から、アドレスも名前も消えていく。そして連絡先のホルダーは空になってしまった。

「そんなばかな……」

 すると、自分の手足が透け始め、下半身と手足が無くなり、やがて体全体が消えてしまった。

 こうやって、今夜も、そして誰かいなくなった……。



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高校ライトノベル・小説府立真田山学院高校演劇部・2〔段ボール一杯の幸せ……💖〕

2017-09-01 06:20:00 | 小説3
小説府立真田山学院高校演劇部・2
〔段ボール一杯の幸せ……💖



 長曾我部先輩は山之内先輩の告白をこう処理した。

 夜になってパソコンでFacebookのチェックをしていると、お友だち登録している長曾我部先輩のメッセに出くわした。山之内先輩と親しい友達になっていた。
 うまい解決だと思う。気楽で肩肘張らないで、かつ社会的にオープン。ま、その気になればダイレクトメッセ送れるし、ドライな距離感の取り方やと思った。

 小さな段ボール箱いっぱいの幸せが、山之内先輩に届いたと思った。

 今日は授業が終わってから、延び延びになっていた部室の整理をやった。
 部室といっても体育館兼講堂の二階の倉庫。創立以来のガラクタでいっぱい。本当は気候のいい秋にやっておけばよかったんだけど、コンクールの準備などで後手後手になり(という言い訳)よりにもよって、こんな寒い日にやる羽目になった。
 あやめとはるな、それにあたしという、本来の演劇部三人でやった。

「訳の分からんものは捨てる!」という覚悟で始めた。

 で、やり始めると、古くてコチコチになったペンキや糊は捨てることが、あっさり決まったが、それ以外のものは「いつか使える!」と思い始めると、ただ場所の移動だけになってしまう。ただ、かなりの肉体労働になるので、寒さが気にならなくなったのが何よりだった。
「先輩、これなんですか?」
 あやめが、なにか鉄のオブジェみたいなのを出してきた。
 手に持つとかなりの重さ。アイロンを逆さにしたような形で、がっちりした土台が付いている。
「昔、賞かなんかとった時の記念品とかじゃないですか?」
 それにしては、賞のタイトルを書いたプレートめいたものが、どこにもない。

「それは金とこだよ」

 いきなり入口の方で声がしたので、たまげた。歳の頃なら還暦過ぎくらいのオッサンが怪しげに入り口に立っていた。
「入部したての一年生は、みんなこれをやらされた。こうやってね……曲がった釘を真っ直ぐにするんや。あのころ演劇部は金なかったからな……」
 そういうと、オッサンは、そこらへんにある釘を手際よく、真っ直ぐに叩き直した。
「曲がった釘は、もうないんかいな?」
「あ、曲がったのは捨てますから……」
「ものを大事にせんようになったなあ」
 オッサンは、怪しむあたしらをしり目に、勝手にあっちこっちを触るというか、かき回し始めた。

「あった。まさかとは思うたけど、残ってたんやなあ!」

 オッサンは、日に焼けた段ボール箱を幸せそうに、取り出した。
「なんですのん、それは?」
「段ボール一杯の幸せや……!」

 オッサンが、中を開けると……女もののパンツが折り目正しく詰め込まれてた。

 な、なんや、このオッサンは!?


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