大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・233『大連へ』

2021-09-16 09:23:00 | 小説

魔法少女マヂカ・233

『大連へ語り手:マヂカ  

 

 

 

 もうお馴染みになった凌雲閣。

 

 凌雲閣と言っても地上の十二階ではない。

 エレベーターで下りた地階フロアーにドアがあって、そこを開けると時空を超えた場所に行ける。

 最初は、八角形のフロアーに八つのドアがあったが、いま稼動しているのは一つだけ。

 その、ひとつ稼動しているドアの上に『大連 8/25』とある。

「8月25日の大連に行けるって意味やねえ?」

 ノンコが指差す。

「試合の日まで間があるな」

「試合の日まで野宿ってわけじゃあいでしょうね?」

 ブリンダと霧子が心配する。

 

 カタカタカタ……

 

 ビックリした。

 ドアのガラスの下に小さなスリットがあって、そこから書類が出てくるのだ。

「こんなものがあったのね?」

「何度も使っているから、バージョンアップしたのかもしれない」

「赤城も三回バージョンアップしました!」

 赤城さんが嬉しそうに言う。

 たしかに三段甲板を一段の全通甲板にしたり、艦尾まで伸ばしていた煙突を中央に移設したりとかしていた。

 大正時代というのは、わずか15年しかなかったが、技術や仕組みの進歩は著しい。

「なにか、日程とか注意書きが書いてあるわ……」

 臆することなく霧子が書類をとって、斜め読みする。

「どんなこと書いたあるの?」

「あ、ごめんなさい(^_^;)」

 霧子は、ノンコでも読めるように姿勢を低くする。

「あ、宿泊先は大和ホテルだわ!」

「おお、ヤマトホテルか!」

「戦艦ヤマトのホテルやのん?」

 アメリカ人のブリンダでも知っている、戦前の超一流のホテルなのだけど、ノンコは宇宙戦艦ヤマトのイメージだ。

「滞在費は大連帝国銀行に振り込まれているみたい」

 カタカタカタ……

 今度は、ATMのように預金通帳が出てきた。

「どれどれ……え、1000円!」

「1000円ぽっち!?」

 令和の感覚で驚くノンコ。ブリンダは、ドル換算中。

「大正時代は、大卒の初任給が50円ぐらいだったよ」

「ご、ごじゅうえん!?」

「だいたい、令和は4000倍くらいだから、400万円くらいか」

「よ、よんひゃくまんえん!?」

 驚きっぱなしのノンコ。

「えと、えと……」

 こんどは、みんなの顔を見て悩み始めた。

「五人で分けたら……800円ずつ?」

「いいえ、1000円です」

「え、なんで、赤城さん? 五人ちゃうのん?」

「いいえ、四人です。わたしは、大連までは出向けませんから」

 そうなんだ、船霊は船を離れては遠出ができないんだ。まして赤城は天城によって命を救われ空母への改造が決まったばかりだ。

「でも、気持ちはみなさんといっしょです。がんばってください!」

「うん」

 なんだかおセンチになったノンコがグシグシと目をこする。

「じゃ、行ってくるわね」

 霧子が締めくくり、四人揃ってドアの向こうへ。

「行ってらっしゃいませ、長門おねえさんのこと、よろしくお願いいたします!」

 深々と頭を下げられ、赤城さんの想いが痛いほど伝わってきた……。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ライトノベルベスト・「GIVE ME FIVE!・4」

2021-09-16 06:18:39 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『GIVE ME FIVE!・4』  

 2021-06-19 の『GIVE ME FIVE!・3』の続きです

 

 スーザンの代役で地区予選は無事に最優秀。

 我が校としては十五年ぶりの地区優勝だった。

 ささやかに、祝勝会をカラオケでやった。

 女の子ばっかのクラブなので、唄う曲は、KポップやAKB48の曲になり、ボクはタンバリンを叩いたり、ソフトドリンクのオーダー係に徹した。

 スーザンは、この三ヶ月で、新しい日本語によく慣れた。立派な「ら」抜きの言葉になったし、自分のことをときどき「ボク」と言ったりする。もっとも「ボク」の半分は、いまどき一人称に「ボク」を使うボクへの当てこすりではあるけど。スーザンの美意識では、男の一人称は「オレ」または「自分」であった。

 しかし、スーザンの歌のレパートリーも大したものだ。AKB48の曲なんか、ほとんど覚えてしまっていた。

 

 中央大会でも、出来は上々だった。

 

 最優秀の枠は三つあるので、地方大会への出場は間違いない!

 演ったほうも、観ていた観客もそう思っていた。部長のキョンキョンなどは顧問に念を押していた。

「地方大会は日曜にしてくださいね。土曜は、わたし法事があるんで!」
「ああ、法事は大事だよね」

 スーザンが白雪姫の衣装のまま、神妙に言ったので、みんな笑ってしまった。

 しかし、その笑顔は講評会で凍り付いてしまった。

「芝居の作りが、なんだか悪い意味で高校生離れしてるんですよね。高校生としての思考回路じゃないというか、作品に血が通っていないというか……あ、そうそう。白雪姫をやった、ええと……主水鈴さん(洒落でつけたスーザンの芸名)役としてコミュニケーションはとれていたけど、作りすぎてますね、白雪姫はブロンドじゃないし、外人らしくメイクのしすぎ。動きも無理に外人らしくしすぎて、ボクも時々アメリカには行くけど、いまどきアメリカにもあんな子はいませんね。それに……」

 審査員のこの言葉にスーザンは切れてしまった。

「わたしはアメリカ人です! それも、いまどきの現役バリバリの高校生よ! チャキチャキのシアトルの女子高生よ!」
「まあ、そうムキにならずに」
「ここでムキにならなきゃ、どこでムキになるのよ! それだけのゴタク並べて、アメリカ人の前でヘラヘラしないでほしいわよね!」
「あのね、キミ……」

 そのあと、スーザンは舞台に上がり、審査員に噛みつかんばかりに英語でまくしたてた。アメリカに時々行っている審査員は、一言も返せなかった。っていうか、言うほどには英語が喋れないみたい。

 今まで観た中で一番怖い白雪姫だただろう。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする