大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

大人ライトノベル・タキさんの押しつけ映画評『アンナカレーニナ』

2013-03-31 07:02:50 | 映画評
タキさんの押しつけ映画評
『アンナカレーニナ』


 これは悪友の滝川浩一が身内に流している映画評ですが、もったいないので本人の了解を得て転載したものです


 見終わって 陶然てのか 茫然てのか…ボ~ッと歩いてました。

とは言え 気付くと ちゃんとトンカツ屋の前にいてましたけどね。 トルストイの原作に触れたのは随分昔、以降 読み返してはいませんが、内容は汲み取っていると思とりました……アタシャ この物語の何を読んでたんでしょうねぇ、自分が物語のホンの上っ面だけを素通りしていたんだと、丸太でぶん殴られた気分です。

 その本作ですら、原作の一部をクローズアップしているに過ぎないと断ってあります…げに恐ろしきはトルストイの天才であります。
 この作品が 先日のアカデミー賞で主要外4ノミネート(衣装デザインのみ受賞)だなんぞと…メロドラマは嫌われるってのと、ロシア文学だってのをさっ引いても…納得いかない。
 主演女優賞5作品の内、アムール/インポッシブル/ハッシュパピーの3本を見ていないが、本作のキーラ・ナイトレイが見劣りするとは思えない。ジョー・ライト(プライドと偏見/ハンナ)の監督。トム・ストッパード(恋に落ちたシェイクスピア)の脚本も、メラニー・アン・オリヴァー(レ・ミッズ)の編集も、目を見張るばかりなのに……話の内容は あまりにも有名、なんせ見たことも読んだことも無い人でもご存知……「世界の名作百選」なんてな企画があれば必ず低くとも20位以内に入っている、140年前の作品なのに…
 本作は殆どのシーンが劇場内で演じられる芝居の形に成っている。舞台最奥の搬入口が開くと、その先にリョービンの荘園が現れ そのままロケシーンとなる。劇場の天井が開いて花火が見えたりもする……舞台劇と映画的手法の見事なミクスチャー、敢えて映画の自由な表現法を捨てる事によって、そして舞台劇をアップで見せるテクニックを最大限に駆使して見事な映像をクリエイトしている。人物をアップにする事に拠って、貞淑な妻から人生初の恋に出会って怯える女、滅びを予感しながらも恋に飛び込んだ幸せの絶頂、そして混乱
から死へと至るアンナ。妻の噂を聞いても許そうとし、確信しても包み込もうとし、決定的に裏切られてすら その先に愛を見いだすカレーニンが見事に立ち上がるにとどまらず、リョービンとキティのカップルやオブロンスキーとドリー夫妻……物語の周囲を固める人々が鮮やかに浮かび上がっている。今までに私の知る限り4作の映画化作品があり、そのどれと比較しても本作は“最高”と評価できる。
 
 まさに21世紀の“アンナ・カレーニナ”がここにある。

 アンナの情夫であるヴロンスキーが登場した時には思わず笑いそうになった。あまりにも少女漫画から抜け出したような美男子、これまでの映画では単なるスケコマシ風に描かれる彼とその取り巻きも 皆 人間的な匂いを持って描かれている、この点がもっとも印象的であり、だからアンナの苦悩も肉を持ったリアリティを伴って現出する。衣装が素晴らしいのは、これもわざわざ書く必要無し……まだまだ触れたいシーンは山ほどあるが、これ以上はご覧になる方の感動の邪魔ってもんで もうやめます。メロドラマなんか見ないとおっしゃる方もおいででしょう。どうか、騙されたと思って劇場にお出かけ下さい。世のメロドラマの代表のような内容ですが、そこは大トルストイの代表作の一つ、その魂の物語に触れて下さい。
 最大級の賛辞をもって 心よりお勧めいたします。


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高校ライトノベル・らいと古典・わたしの徒然草・77『世の上の人は』

2013-03-26 07:36:47 | エッセー
わたしの徒然草77『世の上の人は』

徒然草 第七十七段

 世中に、その比、人のもてあつかひぐさひ言い合へる事、いろふべきにはあらぬ人の、よく案内知りて、人にも語り聞かせ、問ひ聞きたるこそ、うけられね。ことに、片ほとりなる聖法師などぞ、世の人の上は、我が如く尋ね聞き、いかでかばかりは知りけんと覚ゆるまで、言ひ散らすめる。


 簡単に言えば「世の中の人は、うわさ話が好き」だということである。特に坊主なんぞというものは、お喋りでウワサ好き。ことの真偽も確かめず喋りまくるんだから、坊主には気を付けろと、坊主である兼好のオッチャンが言うのだから世話はない。

「社会科は見てきたような嘘を言い」
 現職時代に、自嘲と自重の念から、よく言ったことばである。
「皇極天皇4年(645年)6月12日、飛鳥板蓋宮にて中大兄皇子や中臣鎌足らが実行犯となり蘇我入鹿を暗殺。翌日には蘇我蝦夷が自らの邸宅に火を放ち自殺。蘇我体制に終止符を打った」だけではつまらないので、中大兄皇子が蹴鞠をしていてパスエラー、転がり出た鞠の先に中臣鎌足がおり、「実は、殿下……」「ふむ、そなたも、そう思うか……」などと実況風景風にやって、生徒の関心を引きながらやったものである。
 むろんこの話は、言い伝えで事実ではない。でも、見てきたように言う。
 シーザーが暗殺された下りでも、シェ-クスピアの嘘八百から引用して「プルータス、お、オマエもか……!」などと芝居気たっぷりにやる。
 これ、近世史までなら、なんとか許される。しかし近現代史を教えるときは、よほどのウラがとれないと、この「見てきたような嘘」は言わない。
 しかし、教科書には、この見てきたような、あるいは見なかったことにして嘘が書かれており、不勉強、あるいは、大学でそういうものを刷り込まれてきた教師は、それを真実として教えてしまう。
 例えば、「日露戦争に勝利した日本は」……もう嘘である。あの戦争は九回まで有る試合を五回の表で「日本が勝利したようなカタチに見える」ところで、試合を放棄したようなものである。奉天の会戦が終わった時点で、日本は経済力でも、陸軍の力も尽きており、ニコライ二世が「やーめた」と言わなければ、日本が負けていた戦争である。
 この戦争で勝ったような気になり「神国日本」などという思い上がりが、第二次大戦の不幸な結果を招いてしまった。
 あの戦争を「太平洋戦争」と、黒板に書いたら、もう嘘の始まりである。「大東亜戦争」と書かなければ、正しくない。戦時中は、そう言っていたのだから。「従軍慰安婦」という言葉も戦時中には存在しなかった。揮発性の高い問題なので、用語の間違い(嘘)だけを指摘しておく。
「戦犯」という言葉がある。A・B・Cに分けられた「戦犯」と言われる人々は極東軍事裁判などで死刑を言い渡され、千人以上の人たちが処刑された。この「戦犯」という言葉も、法的には存在しない。昭和二八年の閣議により、「戦犯」の人たちは、全て法務死、公務死ということになり、戦犯ではなくなっている。諸外国がそれについて苦情を言ってきたこともない。だから「戦犯」というのは、戦勝国が報復的に行った軍事裁判により、昭和二八年まで、戦勝国に強制された呼称で、それを日本人自身が決めたように教えるのは間違いである。
 また、「平和に対する犯罪」「人道に反する犯罪」の二つは、極東裁判のために作られた罪名で、国際法的にも無効である。インドのパール判事の言ったことが正しいが、これを書いた教科書はないし、そう教える教師もいない。
 そして、先の大戦で、連合軍側で戦争犯罪で裁かれた人間は一人もいない。
 さらに、GHQのトップであった、D・マッカーサーが「太平洋戦争は日本にとって自衛戦争であった」と、戦後アメリカ上院で証言したことを、日本の授業で教えることはない。
 わたしが高校生であったころ、「教師は労働者である」と言って公然と教師のストが行われていた。教師を法的に言えば「教育職公務員」であり、公務員=労働者と捉えれば、ストも有りかもしれないが「教育(者)」という意識が言葉と共に欠落している。
「仰げば尊し」「蛍の光」が、大方の教育現場から消えて久しいが、消えたのは終戦直後からではない。昭和の四十年代から顕在化してきた現象で、わたしが小学生のころは卒業式で、平気で歌われていた。思うに戦後教育で育ってきた人たちが、現場で大きな力を持ち始めたころに、そうなったのだと感じる。
 人というのは流されやすい。十年もたてば、言葉に象徴される文化というのは変わってしまう。わたしはAKB48のファンであるが、どこか、いい歳をして公然とは言いにくかったが、田原総一朗さんが公然とファンになられてからは言いやすい。
 そのAKBの子たちの歌を聴いていて違和感があった。彼女たちは、濁音と鼻濁音を使い分けない。「ポップコーンが……」の「が」は本来鼻濁音でなければならないが、立派な濁音である。AKBの子たちだけかと思いきや、今の若い子たちは演歌歌手や、クラシック歌手を除いては、みなそうである。
プロダクション、プロディユーサーという言葉が平板になってきてアクセントがない。放送局のアナウンサーでさえ平板である。
事ほど左様に、慣れというものは怖ろしい。言葉ぐらいならとも思うが、いつか心までが平板になってしまうのではないかと、心配する。

 与太話を一つ。授業中居眠りをしている生徒を起こして、こう聞く。
「1+1はなんぼや!?」
「……1」と目をこすりながら、生徒が答える。
「え、ほんまにそうか!?」
 他の生徒が笑い出し、さらに念を押すと自信を失い答えなくなる。
 この段の象徴として、この真実の与太話を残す。


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大人ライトノベル・タキさんの押しつけ映画評『THE MASTER/相棒/ジャックと天空の巨人』

2013-03-24 15:30:45 | 映画評
タキさんの押しつけ映画評
『THE MASTER/相棒/ジャックと天空の巨人』


 これは、悪友の映画評論家・滝川浩一が身内に流している映画評ですが、もったいないので、本人の了解を得て転載したものです
☆THE MASTER
 これも 色んな顔を持った作品です、見る人によって全く違う感想が出てくる事と思います。「サイエントロジー」を研究して 下敷きにしてあるとか。「サイエントロジー」っつっても T・クルーズが信者……くらいしかしりませんが、まぁ 大体の想像はつきます。
 本作は 別段 アメリカの新興宗教のプロパでも糾弾でもありません。いうなれば 人間の存在の意味を問う作品です……と 言い切ってもいかんのでしょう。
 舞台は 先次大戦が終わって間無しの'50年、当時は戦争によるPTSDは隠されていた。病気隠蔽を告発する映画は有ったが、総て「お蔵入り」にされた。 朝鮮戦争に従軍した兵士は先次大戦従軍の兵士から「勝てなかった兵隊」と揶揄され、ベトナム従軍組は「勝てなかったばかりか、殆ど病気、しかも卑怯者」と罵られた……戦争の構造は全く同じだが、この間に情報の一般化が恐ろしく進み、今回の「アフガン・イラク」では 隠すのではなくコントロールしようと画策された。結果はご存知の通りです。
 フレディ(J・フェニックス)は太平洋で戦っていた海兵、帰国はしたものの深刻なPTSDで仕事が続かない、パーティーの行われている船に潜り込む。どうやら一悶着あって、翌日引き合わされたのはパーティーの主催者 新興宗教の”マスター”ランカスター(P・S・ホフマン)。彼はフレディを許したあげく、一行に加える。フレディはマスターに気を許した訳ではないが 強く惹かれる。マスターもフレディを相手に様々な精神的実験を繰り返すが 単なるモルモットとして扱わない。明らかに「自分には欠如した何かを持つ者」として遇する。 それを 横にいて冷静に見つめる マスターの妻(何度目かの)マギー/E・アダムスがいる。二人の男は保護・被保護/支配・被支配の立場を微妙に変化させながら同行するが、やがてフレディの方から別れて行く。数年して再度会うが、互いに同道できる存在では無くなっていた。
 さて、幾つもの解釈が出来る本作が私にはどのように見えたのか。マスターは言う“人間はマスター(自分の事と言うより、その人にとっての先導者)無くして一人では生きて行けないのだ”と 自分を破綻者だと気づき始めているフレディはマスターに付き従うかに見えて、幾分かの距離を保っている。マスターはそんなフレディを相手に様々な精神的実験を行うのだが、それを通してフレディのなかにマスターの占める面積が増えていく。フレディはマスターに依存しているかに見えて、決して帰依はしない。フレディは この「ザ・コーズ」と名乗る団体にあって マスターが行う様々なメソッドの最大の理解者=体現者と成っていく。本人にその自覚が有るか否かは明らかにされない、が しかし 袂をわかって再会した時に 互いに出会った時とは異質の相手を見いだしている。この結末から マスター・フレディの関係は“クリエーター(ゴッド)と人間”というより“クリエーターとサタン”ないし“デーモニッシュなる存在と人間”の関係に感じられる。ちょっと解りにくいですよねぇ。
 日本の場合、新興宗教というと、幾つかの例外を除いて 必ず「日本神道」が絡みます、同じくアメリカで起こるそれは殆どキリスト教からの発生か、それに別な宗教の絡んだ物です。キリスト教の一派に「グノーシス」があります。長らく悪魔的異端と呼ばれ誤解を受けていますが、元々はギリシャ哲学を基にした理性的思考に導かれる一派です。歴史はキリスト教とほぼ同じ、ところが 後に呪術的地域信仰やまさにデーモニッシュな教えを隠し持った信仰までもが「グノーシス」を隠れ蓑として名乗った為 十把一絡げに「悪魔教」の汚名を着る事となったのです。
 これと同じく 近年のアメリカカルトに仏教的世界観(輪廻転生)を持つものや、プレ仏教としてのインド哲学~果ては メソポタミアの原始宗教を含むもの。 更に、宇宙物理の進行に伴って「老子」に傾倒するものなど百花繚乱。中には 日本の「オーム」並みにむちゃくちゃなカルトもあり、これらが同一視されるためどうしても妖しげなムードを身にまとう事になる。
 さらには、これらの教団が そのメソッドの中に「マインドコントロール」の手法を持つので この点がまずクローズアップされる。「洗脳」は旧ソ連がトップで、それを輸入した中共が二番手ですが、アメリカだって手を染めていた分野、戦後 大量発生したカルトのトップは この研究に関わっていた者が多いと指摘されています。
 こういった背景から、従来の信仰からは大きく逸脱した世界観を持つ事となるのです。 ふう~、この辺で止めます。まぁ こういう事情が新興宗教にはつきまとい 本作の“ザ・コーズ”を率いるマスターも同じ臭いをまとっています。ただ、映画そのものは それを否定も肯定もしていないため、あくまで「人間対人間」の葛藤と捉えざる得ない。
 これが私には「デーモニッシュ」に見えてしまうのです。いずれにしても、ここまで互いに相手の内面に入り込む作業は見ていて極めて恐ろしくあり、本作終了後 なんだか人を避けて歩いていました……まぁ、エレベーターのドアを塞ぐように立っているアベックや 傍若無人に振る舞うジャリを叱りもしない馬鹿親には「どかんかい!!」てなもんで……ま、その程度です。

 ちなみに 今年のアカデミー無冠とは言えキャスト三部門ノミネートは当然の結果、だれも受賞できなかったのも これまた当然の結末と申しておきます。
 
☆相棒 X DAY
 良く出来ている。捜一の伊丹刑事、立派に堂々たる主役で有ります。“捜一/伊丹憲一”なんてなドラマが出来ても不思議ではない。所がです、実に意外なところから水がかかった。直前に放送された「相棒最終回」の出来があまりにも良すぎた、それと 物語の背骨に成っている「金融危機X DAY」なる物が……アカンアカン これにさわるとネタバレになりますわ。
 ご覧になろうとされる方々に申し上げます。この点のリアリティには拘らない方がよろしおます。そのまんま受け入れましょう。
 ここをクリアすれば組犯の角田課長も大河内監察官、内村刑事部長まで なかなか美味しい。今回シリーズの成宮と元シリーズの二人以外全員登場! しかし 決して某CXの踊る某のように同窓会に成っていないのが脚本の手柄。シリーズがこのまま続けば 強力巨大な杉下グループが出来上がる予感がします。
 まぁ、楽しんで下さいませ。

☆ジャックと天空の巨人
 よ~~お 出来とりますわ。あんまり童話の書き換えは歓迎しないのですが、同じやるなら こんな風にしなはれという見本みたいな作品です。 これが以外やアメリカで大苦戦…てか、興行的には失敗作 制作費2億$に対して3週で5千万に届かない、世界収入で格好は付くだろうが、コスト分は国内で賄うのが鉄則、「オズの~」が快調に飛ばしているのとは対照的。
 子供に知名度が無くなっちゃったんですかねぇ。キャストの知名度がE・マクレガー以外 今一低いのもマイナスだったかも知れません。さて、日本ではどうなんでしょうか。
 今回 例によって「2D字幕」で都合のいい時間の物を探すのに一苦労。ほんまに誠に3Dなんか やめんかい~~〓 評論家の中でも3Dに対する苦言は多いんどすけどねぇ。アニメ旧作品の3D化をしてもあまり客を呼べない現実もあり、勝手に断末魔だと思うとるんですがねぇ……まぁ よろしおます。童話を1シーンとすれば、優に4シーン分のストーリーが詰まっており しかも 無理がありません。
 これが何故アメリカでコケるのか? 全く持って????????です。


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高校ライトノベル・オレンジ色の自転車

2013-03-18 07:50:07 | エッセー
オレンジ色の自転車
  『はるか 真田山学院高校演劇部物語』第12章より    
     
ひとひらの雲の下、ふと目にとまった3000円……。
 
中古にしても安い。
オレンジ色の自転車。

「どうしてこんなに安いんですか?」
「ああ、名前がね、元の持ち主の名前が、特殊な塗料でとれないんだよ」
 見ると、うしろのフェンダーに「ハル」と書かれていた。
「これください」
「いいのかい?」
「いいんです、この下に(カ)を入れればわたしの名前だから」
「なるほど」
 おじさんは、サービスで(ハル)の下に(カ)の字を入れてくれた。

 ひとひらの雲といっしょにハルカに乗って帰った。
 ハルカを置いて、アパートの階段を駆け上がった。
 お母さんが、ドアに表札をつけているのが見えた。
「あ、そうだ」
 部屋から、油性ペンを取り出してハルカのお尻にまわる。
 一呼吸して、油性ペンをかまえる。
 あ……思わずGと書いてしまうところだった。
 ハルカの(カ)の下にBと書いた。
 ひとひらの雲がゆっくりと流れていく。
 Gの思い出といっしょに……。

「はるか、お使いお願い!」
「分かってるって!」
 オレンジ色の「ハルカB」にうちまたがって、お使いに……。
 ふと空を見上げる。
 ひとひらの雲は、もう流れていってしまった。
 そのあとには、一面、群青の空……。
 白いヒコーキ、ちょこんと、一つ浮かんでいた。


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大人ライトノベル・タキさんの押しつけ映画評『クラウド・アトラス/プラチナ・データ』

2013-03-17 07:09:34 | 映画評
タキさんの押しつけ映画評
『クラウド・アトラス/プラチナ・データ』


 これは、悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に身内に流している映画評ですが、もったいないので、本人の了解を得て転載したものです。



☆クラウド・アトラス
 全否定はしない、下らない訳ではない。原作未読なので 語る資格は無いのだけれど……本原作がブッカー賞候補ではあっても受賞作と成らなかったのは理解出来る。昨今の英米SFカテゴリーで種々試みられているのは、新約聖書の読み替えと黙示録の再構築なのだけれど、大概が自ら建てた志に押し潰されている。
 これは映画そのものにも言えるが“スローター・ハウス5”の登場人物を増やしてあるだけで、物語の完成度も テーマの伝わり方も“スローター・ハウス”の方が数倍上である。(ここで切れて、「プラチナ・データ」を見た。原作については前言撤回する。やはり読まずに批評するのはよろしくない。なぜ、こんな事を言うかは後程お分かりいただける) 本作の全米box成績は3週間チャートインで初登場2位ながら、初週960万$とお寒い。
「難解さが嫌気された」と評されるが…こんな程度の物を難解なんぞと言われたんじゃどうしようもない。本作は難解なのではなく「ややこしい」のである。
 主キャラクターが6人(一応 トム・ハンクスがメインキャラ)過去から未来へ500年の時間軸上の6ヶ所に次々に現れる。これを細切れにしてばらばらに映し出すので まず、この構成がうざったらしい。
 映画にせず、一時代を1時間×2回、六時代で12回ドラマにして 時間軸通りにオンエアすれば なんて事ぁないし、テーマもよく伝わっただろう。
 映像は比較的 良くできている方(殊に24世紀のシーンは良い)だと思う。伝えたいテーマも判るにゃあ判るが なんでこんなややこしい構成にしたんでっしゃろねぇ。いや、こんな風に作りたいイメージは理解できるが……それにしては編集が荒すぎる、編集のアレクサンダー・バーナーは過去に大した仕事がなく、この程度の人間に任せるには ちょっと山盛り過ぎたんじゃないんですかねぇ。 最終的に編集の責任と言い切ってもよいと思うが、全体に「意在って 力足らず」……これじゃカルトムービーにも成れないんじゃないですかねぇ。要するに……半端じゃい!


☆プラチナ・データ
 まず、二宮ファンは読まないで下さいよ! もし、読んだとしてもカミソリの刃なんぞ送って来ないでね。×:◇→〆々〃♂*#§☆ なんやねん〓〓このっ!駄作は……嗚呼~、ようもまあ 東野圭吾の小説をここまでズタズタにできるなぁ。この無神経さ加減はなんだんねん。原作を読んだ人は絶対近寄ってはいけません。監督の大友さん、信頼しとりましたのに“るろうに剣心”から ちょっとおかしいんとちゃいまっか?それとも、製作の横槍ですかい? 誰かが「原作とは一味違う映画にしようぜ」と囁いた訳ですか?  もう、ほんまに初っぱなからなんたる不手際、サッサと神楽(二宮)が犯人扱い、神楽君 走る走る! しゃあけど警官にあそこまで追いつかれて逃げられる筈がない。これが全編この調子だから イライラしてくる。神楽には“リュウ”と名乗る別人格を内包しているのだが……なんとした事か 名優のはずの二宮君、全く演じ分けが出来ていない。 全編 ドタバタガタガタ……東野原作のスマートさはどこにもない。さらに……嗚呼さらに、これで終わったかと思った後に 追い討ちをかけるのかのごとくに アッチョンブリケな新設定が飛び出して来る。まさに“龍頭蛇尾”(蛇頭蛇尾?)な付け足しに、もう脱力。 何回 席を蹴って出たろと思ったかしれんが、最後まで我慢していて…どんだけのダメージを負わされた事か…ウウウ そうそう、これも言うとかんと……原作では「水上医師」は男なのだが、何故か映画では女性に成っている。これを鈴木保奈美が演じているのだが、このキャスティング 誰が企画して誰が決定したんか知らんけど、こんな役立たずは追放しとけ! 芝居は諦めて 家で石橋をいたぶっとれよ。と いうのが 誰がやろうが惨い幕切れなのに、鈴木保奈美が下手過ぎて さらに酷い結果に成っている。今年2本目の“こんな映画は見ちゃいけない”作品!1本目は 勿論“ジャンゴ”! こんな脚色を認めた東野圭吾にも責任がおま!原作者が自分の作品守らんで 一体誰が護るんでっか?


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高校ライトノベル・らいと古典・わたしの徒然草・76『法師は人にうとくてありなん』

2013-03-15 14:26:46 | エッセー
わたしの徒然草76
『法師は人にうとくてありなん』
    

   徒然草 第七十六段

 世の覚え花やかなるあたりに、嘆きも喜びもありて、人多く行きとぶらふ中に、聖法師の交じりて、言ひ入れ、たたずみたるこそ、さらずともと見ゆれ。
さるべき故ありとも、法師は人にうとくてありなん。


 徒然草は、あまり真面目に読んではいけない。最初に本人が言っている、「徒然なるままに=思いついたことを勝手に書き散らしてるだけだから、マジな顔して読まないでくれる!?
 実際、読んでみると矛盾したところがよく出てくる。この七十六段なんかは、その典型。
 この、たった三行のエッセーは「葬式なんかで、坊主が受付に並んでたりするのウザイよなあ、坊主ってのは、俗世間からは、離れてなくっちゃいけねえぜ」という気まぐれ。
 兼好自身が坊主で、世間の垢にまみれているのは、徒然草自体を読めばよく分かる。
 だから、わたしは、兼好のオッチャンの与太話に付き合うつもりぐらいの軽いノリで書いている。

 実は、わたしの親類は坊主だらけである。叔父と従兄弟二人が坊主である。五親等ぐらいたどればもっといる。
 昨年の2011年11月11日という分かり易い日に父が亡くなった。生前から、ある葬儀会社の積み立てに加入していたので、すぐそこに連絡して葬儀の準備にかかった。
「で……おかかりのお心づもりは(予算はどのくらいで、という意味)」と営業のオバサンがしめやかに聞いてきた。わたしは、黙って指一本を出した。これで通じる。葬儀が十万であがるわけでもなく、一千万もかけられるほどのブルジョアでないことは、わたしの風体・人相からでも明らかであり、百万であることはすぐにしれる。
 オバサンは、タブレットをチョイチョイと操作し、百三十万ほどの金額を提示してきた。その中に、坊主にかかる費用は入っていなかった。
「ボンサン呼んだら、いくらぐらいかかります?」
 オバサンは、黙って人差し指と中指を立てた。別にジャンケンのチョキを出したわけでも、ピースサインを出したわけでもない。相場が二十万ということである。葬儀費用と合算すれば百五十万を超え、予算を五十%もオーバーしてしまう。
 で、従兄弟の坊主を思い出し、気楽に電話した。商売慣れというのも変だが、二十分後には葬儀会館までやってきてくれた。
「直接言うてくれて正解。業者通したら四割ほどキックバックとられるとこや」
 わたしは、さらに値切って、相場の半額であげた。葬儀費用とつっこみで、百二十万ほどであげた。別になんでも値切り倒す大阪人根性からではない。父が残した僅かな貯えで、身の丈にあった、葬儀や、それから何年も続く法要の費用まかなおうという思いからである。死んでまで息子に借金するようでは、親父も後生が悪いだろうと思った。
 家は、代々浄土宗だが、従兄弟は仏光寺派の浄土真宗である。まあ親類のような宗旨でもあり、なにより気楽な宗派なので、あっさり改宗。法名(浄土真宗では戒名とは言わない)は釋善実と付けてもらった。
 ついでに自分の法名を自分で付けてみた、釋睦夫(シャクボクフ)という。本名を音読みしただけであるが、なんとも長閑な音の響きが気に入っている。これで、わたしの葬儀費用から法名代が節約できる。
 浄土真宗のお気楽さは、年号を使わないところにも現れている、寺から頂くカレンダーは西暦で、本堂に行くと「護ろう憲法九条!」などのポスターが平気で貼ってある。九条についての考え方は、わたしのそれとは大きく離れるが、そういうことを平気で貼ってあるところがいい。
 郷土の名士に今東光がいた。天台宗の坊主で瀬戸内寂聴の法名を付け、中尊寺のカシラを勤めたほどの偉い坊主で、文学者であった。死ぬまで世俗の中にいた人で、編集者が原稿をもらいにいくと、座卓に向かい呻吟している。編集者は、さぞかし難しい教典でも読んでいるのかと思えば、週刊誌のグラビアの女の子の見比べをやっていた。今でもネットで検索すると、今東光和尚の法話などが出てくるが、とてもNHKや、学校で生徒に言える内容のものではないが、面白くタメになる(ならないものもあるが)
 坊主というのは、かくも世俗にまみれてこそのものである。兼好のオッチャンの、この七十六段は、坊主として、いや大人として生きる人間へのパラドクス的な喝(かつ)であろうかと思う。

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小規模少人数高校演劇部用戯曲脚本台本『クララ』

2013-03-10 21:11:14 | 戯曲

クララ
ハイジを待ちながら
    

大橋むつお


全国の高校演劇は、小規模演劇部に適した脚本が不足しています。この作品は、小規模演劇部用に書いたわたしの戯曲、脚本群の最新作です。小規模演劇部用に向いていると思います。


もし、上演される場合は、全国高校演劇協議会の規定に従って、作品の最後に書かれているわたしの連絡先まで、ご連絡いただき上演許可をとってくださいますようお願いいたします。



時   ある日所 クララの部屋
人物  
 クララ(ゼーゼマンの一人娘)     
 シャルロッテ(新入りのメイド)     
 ロッテンマイヤー(声のみ)



ヨーデル明るく流れる中、幕が上がる。中央にクララの椅子。
 あとの道具は全て無対象。
 クララがヨーデルに合わせ鼻歌を口ずさみながら取り散らかした衣装を片づけている。
 やがてつけっぱなしにしていたパソコンのモニターの大画面(客席)に気づく。



クララ あ、つけっぱなし(スイッチをきろうとして)
 あ、そっちもつけてたのね。
 やだ、わたしってこんなに散らかしっぱなしで……え、アナタも似たようなものなの? 
 カメラ回してよ……ほんとだ、似たもの同士ね。もう一ヶ月……え、三週間? 
 まだそんなものかなあ……「ニコプンサイト」で知り合って、チャット始めて、すぐにボイチャ。
 カメラ付けたのは三日前……かな?(この間、ノックの音が数回するが、クララは気づかない)



このとき下手からメイドのシャルロッテがやってくる。



シャルロッテ 失礼します。お嬢様……お手伝いしましょうか?
クララ あ、いいのよ、いつもこうなんだから。
シャルロッテ でも……あ、チャットやってらしたんですか?
クララ あ、ナイショ、ナイショ!
シャルロッテ あ、はい。はいです……フフフ。
クララ フフフ……ま、見られたんじゃ、しようがないか。
 あ、この子、先週うちにやってきたばかりのシャルちゃん。
 メイドのコスがうらやましいほど初々しいでしょ!
シャルロッテ (モニターに)わたし、先週からここでお世話になっている新入りのメイドです。
 お嬢様はシャルって縮めておっしゃいますけど。いちおう、そういうことでご承知おきください。
クララ ほんとはシャルロッテさん。
シャルロッテ あ……
クララ で、シャルちゃん。わたし、ちゃんと人には敬称つけるんだから。
 よくお笑いタレントさんたちのことを呼び捨てにする人いるけど、わたしはキライ。
 人を粗末にすることは自分も粗末にすることなんですもんね。クララの生活信条!
シャルロッテ あ、あの、お嬢様、チャットでリアルネームは……。
クララ わたし、きちんとしたいの。むろん相手によりけりよ。
 この人は信じていい人。だから、リアルネーム。
 でもむろんファミリーネームは非公開。住所とかもね、わたし個人の信条でやってることだから。
シャルロッテ この方のハンドルネームは?
クララ アナタ。
シャルロッテ アナタ?
クララ 穴ぼこの穴に田んぼの田。
シャルロッテ アハハ、おもしろいハンドルネームですね。
クララ ウソウソ、普通の三人称のアナタ。わたしがそう決めたの。
 ほんとは別のハンドルネーム使ってらしたんだけど。わたしが、そう提案したの。
 もうもとのハンドルネーム忘れちゃった……いのよ。今さら言ってもらわなくても。
 もし、いつかリアルネーム教えてもらえたら、そのときはね。
ロッテンマイヤー(声) シャルロッテ、お嬢様のおじゃまをしてはいけません。
シャルロッテ はい、ロッテン……。
ロッテンマイヤー どうかしたの?
シャルロッテ いいえ、すぐにまいります。
ロッテンマイヤー そうしてちょうだい。
 今夜は旦那様がお客様をお連れになってこられるます。
 ゼーゼマン家として恥ずかしくない、準備をしなくてはいけないんですからね。
二人 あ……!
ロッテンマイヤー ゼーゼマン家は、由緒正しい……なにかございまして、お嬢様?
クララ ううん、なんでも(シャルロッテをインタホンから遠ざけて)
 チャイルドロック外して、チャットやってんのはロッテンマイヤーさんにはナイショだからね。
シャルロッテ はい、承知しました。
クララ あの人に知られたら、お父様には百倍くらいに誇張して言いつけられちゃう。
シャルロッテ はい、お嬢様。
ロッテンマイヤー シャルロッテ!
シャルロッテ はい。今まいります! じゃ、お嬢様。
 わたしで役に立つことがありましたら、いつでもどうぞ(モニターに)
 アナタ様も、お嬢様のことどうぞよろしく。
 で、さっきのおばさんの声は聞こえなかったってことで……(下手に去る)

クララ 聞こえちゃった……でしょうね。
 聞いちゃったもの仕方ないわよね……そう、わたしはクララ・ゼーゼマンよ……。
 え、知らない!?(ズッコケる) あなた、『アルプスの少女ハイジ』知らないの? 
 ハイジは知ってるけど、クララは知らない……って?
 ほら、ハイジがフランクフルトの街でゼーゼマンて、わたしんち。
 そこにわたしの話し相手にって連れてこられて……そうそう。
 ハイジが夢遊病になったり、ペーターのお祖母さんに白いパンを持って行こうとして叱られたり。
 わたしが『七匹の子ヤギ』の話で、ハイジを慰めたり……。
 そう、ハイジにアルムの山に連れて行ってもらって、歩けるようになった……。
 なんだ、知ってるんじゃないの。え……でも、その子がクララだってことは忘れてた? 
 ううん、いいのよ、わたしって脇役だものね……。
 でもね、あなたも引きこもってるんなら、もうちょっと勉強したほうがいいわよ。
 だって、時間は腐るほどあるけど、人生の長さってさ。
 引きこもっていようが、ハイジみたいに飛び回っていようが変わりはないんだからさ。
 本くらい読みなさいよ。図書館くらいいけるでしょ……。
 え、コンビニには行くけど図書館なんか行ったことない……。
 図書館って税金で出来てるんだから、行って少しは取り戻さなきゃ損よ……税金なんて払ってない? 
 そんなことないわよ。あなたが使ってるパソコンだとかネットの使用料。
 スマホとかパケットとか、それこそ着てる服とか、吸ってる空気にだって税金かかってるんだから……。
 ごめん、責めてるつもりじゃないのよ。わたしって銀行員の娘だから、そういうとこシビアなの。
 (本をとりにいく)ほら、これなんかいいわよ『西の魔女が死んだ』
 わたしたちと同じ引きこもりの子の本なんだけど、とても……なんてのかなぁ、ファンタジーなの。
 最後なんか泣けちゃって、ジーンときちゃって……だめだめ、中味は自分で読みなさい。
 検索しなさいよ、どこの図書館にもあるわよ(かすかに電話の鳴る音)
 あ、それから、赤川次郎。これもいいわよ。ちょっとブルーな時でも軽く読めちゃって元気でるから。
 『三毛猫ホームズシリーズ』とか『三姉妹探偵団シリーズ』とか。
 古いとこじゃ、『探偵物語』『セーラー服と機関銃』とかおすすめよ。
 『杉原爽香シリーズ』なんかもいいわよ。年に一回でるんだけど、主人公が毎年歳をとっていくの。
 爽香が十五歳で始まって、今は四十前後……え、電話? 
 ハハハ……あれ鳴りやまないの。ちょっとね……それからね……(本を探す)えーと……これこれ。
 谷崎潤一郎、ちょっとハマっちゃったけど、出てくる女の人みんなマゾなんだもんね。
 たまに行った学校で「好き」って言ったら、みんなにどん引きされちゃった。
 え、アナタも知らない……じゃあ、これなんかどう『魔女の宅急便』 
 ううん、アニメじゃないの、原作よ原作。角野栄子さんの本でね、全六巻あるの。
 キキが結婚して子供たちが、旅立つまで、二十四年もかかってんの。
 なんか、爽香シリーズに似てるでしょ。もっとすごいの、エド・マクベインの八十七分署シリーズ。
 五十年も続いたのよ……う~ん、イマイチ……じゃあ『ワンピース』のお話でも……。
ロッテンマイヤー お嬢様ですね、このいたずらは!?
クララ さすが、ロッテンマイヤーさん。もう気がついた!?
ロッテンマイヤー 二回もひっかかりませんよ!
クララ え、わたしって、もうやっちゃってたっけ?
ロッテンマイヤー ええ、三ヶ月と三日前。
クララ よく覚えてたわね?
ロッテンマイヤー ええ、わたしの誕生日でしたから。
クララ ああ、五十歳の……。
ロッテンマイヤー いいえ四十九歳でございます!
クララ 同じようなもんじゃない。
ロッテンマイヤー いいえ、ものごとは正確に記憶しなければなりません。
クララ はいはい。
ロッテンマイヤー 「はい」のお返事は一回でけっこうでございます。
クララ は~い。
ロッテンマイヤー お嬢様!
クララ はい!
ロッテンマイヤー あ、そうそう、今の電話、お父様からでございました。
クララ え、お父様!?
ロッテンマイヤー お客様がおいでになる。
 けれど、ハイジや、お友達が来られたら、遠慮せずに遊びにいきなさい。
 そうおっしゃっておいででした。
クララ はい。
ロッテンマイヤー わたしも、そう望んでおりますので、では。
クララ はい……はい(モニターに向かって)……。
 え、今のいたずらアナタも覚えてた?わたし、話したんだっけ?



シャルロッテが吹きだしながらやってくる。



シャルロッテ お嬢様、今の最高でしたよ。
クララ シャルロッテ、あなた見てたの?
シャルロッテ ええ、おっかしくって。ここまで来るのに、笑いこらえるの必死で。
クララ でも二度目じゃね、インパクトないわよ。
シャルロッテ いいえ、ロッテンマイヤーさん、三十秒はオロオロなさってましたわ。
クララ え、すぐに気づいたんじゃないの?
シャルロッテ いいえ、受話器たたいたり、電話線ひっぱったり。
 わたしはなんのことやら……でも受話器のポッチのとこにセロテープ貼ったり。
 よく考えつきましたわね。あれじゃ、いくら受話器とっても鳴りやみませんものね。
クララ ハハ、そうなんだ。シャルロッテ、今度はもっとすごいこと考えてんのよ。
シャルロッテ どんなことなんですか?
クララ 新案特許よ。トイレの便座の一番下のとこにね、ラップを張っておくの。
 わかる?トイレで用を足そうとして一番上のフタを上げるでしょ。
 そして座って、なにをね、しようとしたら……。
シャルロッテ まあ、それって……
クララ シャルちゃんが最初にひっかかったら、かわいそうだから言っとくね。 あ、まだ実行するってとこまでは思い切ってないから。
 (モニターに)アナタも、そう思う「やりすぎ」だって……。
 う~ん……わたしの心の中にも、そう、心理的にね「いたずら倫理規定」ってのがあってね。
 今、審理中なのよね、ただ単なるドッキリの追求でもだめだしね。
 そこには審美的な要素もね、だから審理中……。
シャルロッテ ウフフ……。
クララ え、なにかおかしい?
シャルロッテ だって、心理と審理と審美をかけたシャレでございましょう?
クララ アハハ、あのね……。
シャルロッテ わたし、もう行かなくっちゃ。
 ロッテンマイヤーさんに叱られます。おトイレ入るときには気をつけますね(去る)

クララ ああいう子なの。フィーリングはいいんだけど、わたしのことソンケーしすぎ。
 偶然にゴロが合っても、わたしのウィットだと思ってくれちゃうの。
 あ、こないだのアナタのホメゴロシ、ちょっとムズイよ……え、相手には通じた?
 そりゃ、相手は専門のローリング族だもん「さすがはセダン。ゆっくり走ってもサマになる」
 通じて大爆笑でしょうけど、車のこと知らないと、ちょっとね……。
 なによ、ちょっと顔がたそがれてるわよ……え、「なんでもない」フフ……。
 こんなことばっかやってる自分が、ちょっと虚しくなってきたんでしょ。
 だめだよ。引きこもっててもハートのサスペンションは、ちゃんとチューンしとかなきゃ。
 いつかは、外へ出なくっちゃいけないんだから……そうね、今日はわたしがお話する番だったわね。
 (パソコンを操作する。ホリゾントに映像が出るといい)これがアルムのオンジのお家。
 後ろにあるのがモミの木。そう、「アルムのモミの木」よ。
 ここでわたし歩けるようになったの……すてきなわたしの思いで……いいえ、曲がり角。
 ジャンプ台……わたし、自分が歩けるようになるなんて思いもしなかった、ほんとよ。
 自分の足で立てることさえ夢だと思っていた……そう、みんなハイジのおかげよ。
 そこまではアナタも普通の人でも知ってるでしょ……。
 え……ハハハ、そんな学校の読書感想文みたいなこと言わないでよ。
 ハイジを育てたのはスイスアルプスの豊かな自然だった。
 その自然とそこに育つ心こそがクララを立たせ、歩かせた!
 そりゃそのとおりだけどね。あなたの国の憲法の前文みたいなものよそれって。
 平和を愛する諸国民の公正と真義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した……。
 で、国際社会に名誉ある地位を占めたい。アナタも覚えてんだここ……。
 え、ハハハ……停学になったとき課題で十回も書かされた。で、覚えちゃったんだ。
 なんで停学になったの……え、先生に「こんにちは」って挨拶しただけ……。
 なんで……側にいた友だちがタバコ喫ってた……それで、ソバテイ? おソバの定食? 
 おソバと五目ご飯がいっしょになってるような……え……同席規定……。
 タバコ喫ってる友だちの側にいただけで停学に。そうなんだ……。
 「喫うな、喫わすな、喫ったら離れろ」……なんだか火の用心の標語みたいね。
 あ、あのね、アルプスの自然は豊かじゃないの。ゆうたかないけど……わかる、これ? 
 あ、笑った! おやじギャグなんかじゃないのよ、韻を踏んだのよ韻を……。
 あのね、同じ音を重ねることによって、言葉や、文章にリズムが出てくるって、格調高い表現なのよ。
 さっきの偶然のゴロ合わせのほうがおもしろい? ええと、なんだっけ……。
 そうそう、アルプスの自然はゆうたかないけど、豊かじゃないの。
 つまり食えない国だったのよ……その「くえない」じゃないわよ。
 スイスって、したたかでくえない国だけど、それは食えない国だったから……。
 つまりね、昔は貧しくって食べていけない国だったの。そう文字通りよ。
 だから昔から男が体を売って……って、へんな想像しないでよね……。
 そう、一種の出稼ぎ。土木作業なんかじゃないわよ。傭兵よ、傭兵。外国に雇われて、兵隊になること。
 アナタの国にもいるでしょ、外国から来た人が介護士やら、看護師やってんの。あれの兵隊版。
 そう、かっこよく言えば外人部隊。時によっちゃスイス人同士が敵味方に分かれて戦うこともあったの。
 フランス革命にバスティーユ牢獄が襲撃されたとき、バスティーユを守っていたのもスイス人の傭兵たち。 え、世界史の授業みたい? 
 がまんして聞きなさい。この傭兵制度は千八百七十四年の憲法改正で、禁止されたんだけどね。
 あ、バチカンだけは例外。バカチンじゃないわよバチカン。
 ローマ法王がいらっしゃる世界最小の国。
 サンピエトロ大聖堂ってのがあって。
 今でもここの兵隊さんだけ、例外的にスイス人のオニイサンがやってるんだけどね。
 まあ、それだけスイス人傭兵って信用があったのね。
 で、ハイジんとこのオンジがね若い頃やってたらしいの。オンジって分かるわよね。ハイジのおじいさん。 へんくつモノで通ってたけど、オンジには、そういう背景があるのよ。
 でも、その心の奥には責任感と、人と自然に対する豊かな愛情があるの。
 ハイジにはそのオンジの血が流れてる……その心に支えられて、このクララは立って歩けるようになった。 ちょっとお茶を入れるわね……スイスの紅茶って、正直いってまずいわ……。
 ウェー(まずそうに舌を出す)……でもね、アルムの紅茶は別よ。なぜだか解る? 
 ミルクティーだからよ。アルムのヤギさんのミルクが入るとね……ガゼン別物になっちゃう。
 あまりの美味しさにうなっ茶う……ウウウ(幸せそうに、うなる)……分かる、今の?
 ……うなる前 よ。「なっちゃう」と「うなっちゃう」……そう、今のが韻を踏むってこと。
 あ、また笑った。アナタって、いつから引きこもってるの……ちがうよ、それは聞いたわよ。
 外に出なくなるのは結果にすぎないの。実際の引きこもりは、もっと前から始まってるのよ。
 人の話が心に響かなくなったとか……うん、そう。
 ひとの声がなんだかテレビから流れてくる声みたいによそよそしく聞こえちゃったりするの。
 あなたは……そう、よくわかんないか……いいわよ、思い出したら教えて。
 わたしはね学校から行った職業体験学習……うん、介護付き老人ホームに行ったの。
 たいしたことやってないのよ、お掃除したり、食事のトレーを運んだり……。
 うん、直接介護に関わることはやらせてもらえない、見学だけ。お話はさせてもらえたわ。
 でもね、通じないのよね……「おじいちゃん、おいしい?」とか「若い頃はなにやってたんですか?」
 精いっぱいの笑顔で聞いてもね、無視する人とか……むろん認知症の人もいるから仕方ないる。
 でも「おいしいよ」って笑顔で応えてくれたおばあちゃんの目の中にわたしが映ってないの。
 ペーターのお祖母さんの時みたいには心が通じないの。
 なんだかマニュアルどおりの笑顔で「おいしいわよ」そのおばあちゃん、三分の一も食べてないの。
 ソーセージなんか、いやな顔してた。
 でも、わたしったら、もらったマニュアルどおり「おいしいですか?」って。
 バカみたい……おばあちゃんは毎年のことだから、マニュアルどおり「おいしいわよ」
 ……え、そうよ三日間。うん、三日間でどれだけのことが分かるってもんじゃないんだけどね。
 ……ハイジならもっと……ううん、なんでもない。わたし、そこで見ちゃったの。
 そのおばあちゃん、トイレの帰りにこけちゃって、骨折したの。大騒ぎだった……。
 比較的しっかりしてそうなおばあちゃんだったから、ヘルパーさんたちにも油断があったんでしょうね。
 娘さんがとんできてね、娘さんたって、もう六十を過ぎてらっしゃるんだけどね。
 その娘さんが、言うの。
 要介護三の母なんです。一見しっかりしてるように見えてるけども。統合的な行動はできないんです。
 トイレに行って、パンツをおろして、そして座って、用を足したらウォシュレットのボタンおして、
 パンツをあげて、手すりにつかまって立ち上がってとか、いちいち言わなきゃわかんないんです。
 入所のときにそう申し上げたはずです。
 穏やかにはおっしゃってたけど、目は怒ってた。
 ケアマネさんやヘルパーさんはむつかしい専門用語つかって説明してた。
 でも、言い訳してんのはわたしにも解った……。
 娘さんは、おばあちゃんを後ろから抱きしめて「お母さん、ごめんね……」って、泣いてらっしゃった。
 そして一言「安心してください。訴えたりはしませんから」
 ……施設の人たちは、その一言でほっとしたのが、イヤなくらいわたしにも分かった。
 気がついたらわたし、娘さんを追いかけて「ごめんなさい、ごめんなさい……」って謝ってた。
 わたしって関係ないんだけどね、謝らなきゃって、居ても立ってもいられなくなったの。
 そしたら所長のオッサンに……おじさまに「余計なことは言うな!」って腕をひっぱられて
 ……で、そのことを感想文にそのまんま書いたら担任の先生に書き直ししなさいって。
 ……で、わたし、頭にきちゃって……これ見て! 
 ジャ~ン「体験学習感想文最優秀賞!」 うん、うそ八百のお涙頂戴の完全フィクション。
 笑っちゃうよね。
 そこからなんだか、大人と話すのがイヤになっちゃって、友だちにも谷崎潤一郎でどん引きされちゃった。 でも、不思議ね、こうやって話してみるとやっぱ違う。スルっと手からこぼれ落ちちゃうのよね。
 ……結局はアナタと同じかな……タワリシチ・アナタ……え、タワシじゃない? 
 ロシア語で「同士」……つまり、「お友だち」って意味。
 「タワリシチ」ちょっと時代錯誤だけど教養がね……ごめんあさ~っせ。
 ギャグよ、ギャグ。窓開けるわね、空気入れ替えなくっちゃ……。
 え……いいわよ、アナタのお話聞いてからでも……え、首を吊ったこと? 
 ないない、ないよそんなこと……アナタ……やったの?
 ……失敗……でしょうね、成功してたら、わたし、幽霊とチャットやってることになるものね。
 ……え、最初は肩が痛くなるの? 首じゃなくって……上からひっぱられてちぎられるみたいに……。   で……目の前が一瞬で真っ暗に……そこで怖くなって……そうなんだ……うん、いいわよ。聞く聞く。
 ……え、あなたって演劇部だったの。ステキじゃない!
 ……そっか、居場所が無かったのね、学校とかで、友だちとかも……それで演劇部でやっと
 ……え、予選で最優秀。やったー! で、本選は……そっか、残念だったわね。
 ……あ、井上むさしさんの本をやったの……そう、あれ、いい本だもんね。
 ……お客さんの反応は……そうよかったじゃないの……で、そっか、納得いかなかったのね。
 ……合評会でそんなこと言ったの……あの、順序立てて言ってもらえる。
 ……え、「作品に血が通っていない」「行動原理、思考回路が高校生のそれとちがう」なにそれ!?
 ……で、それを合評会でぶつけたの……え、「ここは、君が演説する場所じゃない」
 そんなこと言われたの!?……え、高校演劇って審査基準がないんだ。
 信じられないわ、それなら、まったく審査員の趣味とか傾向できまっちゃうわけじゃない。
 ……それも言ったの……そう、そしたら、ネットでそんなこと書き込まれたの!? 
 ひどい目にあったのね……それはもういい……そうよね、また来年がんばればいいんだもんね。
 ……ただ……ただ、なに?……そっか、人には言えなかったのね。少しはすっきりした。
 ……そう、うれしいわ、そう言ってもらえると……ハハハ。
 ……演劇部の後、ほかのクラブに……体育会系でクリエィティブ? それは、まだナイショ? 
 いいわよ……え、自殺防止の授業。そんなのがあるんだ!?
 アナタの国の学校でも、そんなアリバイづくりの授業があるんだね……で、お決まりは「命の大切さ」
 ハハハ、ハモちゃったね。それって「平和の大切さ」と同じくらい無責任でナンセンスよね。
 だって、目の前に首くくろうとしたアナタがいるのにね。
 アハハハ……それに気づかずに「命の大切さ」笑っちゃうわよね、そして……。
 空気入れ替えるね(窓を開ける。鳥の声)あ、ピーちゃんだ! あれ、見える!? 
 時々この窓辺にもやってくるのよ。鳥のことはよくわかんないけど多分インコ……。
 おいでピーちゃん、こっちだよこっち。ほら、エサあげるから、ピーちゃん!
 ……あ、行っちゃった。
 ……アルムのハイジのとこじゃ、牧場で、手をのばすだけで小鳥がやってきたものよ。
 ……うん、分かってるわ。あのピーちゃんは「あなたのほうこそ外に出てらっしゃい」って言ってるの。
 わたし、ハイジとアルムの自然のおかげで、こうやって歩けるようになった。
 ほら、もうスキップだってできるわ。去年の体育祭じゃリレーだって出たのよ。
 フフ、信じられないでしょ。
 人をを抜くことは、さすがにできなかったけど、順位をおとすようなことはなかったわ。
 持久走だって。ランナーズハイてのも体験したわ。
 ……あれって、走り始めて三十分くらいたたないとやってこないのよね。
 最初の三十分までは「なんで……」ってくらいきついんだ。
 それ過ぎると、どこまでも、いつまでも走っていけそうな爽快感!
 ……そのくらいに、このクララは回復したの……人生も同じよね、ランナーズハイがある。
 アルムから帰って、三年くらいはそうだった……。
 でも気づいたの。リレーとかで走るのは、目的のゴールがはっきりしている。
 でも……でも、人生のゴールって自分で見つけなくっちゃいけないのよね。
 私たちにはそれが無いのよね……こないだね、アンがやってきたの。
 知ってる? アン・バーリー……あ、結婚する前はアン・シャーリー。
 そう『赤毛のアン』のアン。もう歳だけどね。わたし、娘さんのリラのほうが仲がいいの。
 ほら、この写真。こっちの娘さんのほうがリラ、かわいいでしょ。
 こっちのキリっとしてるおばさんがアン。長いこと学校の先生をやってたの。
 わたしもね、一時(いっとき)学校の先生になろうって思ったことがあるのよ。
 ……だってステキじゃない。でしょ。
 いつまでも若い子達の弾むような感性の中で泣いたり笑ったりできるなんて、それこそ永遠の青春! 
 わたしはハイジじゃないから、アルプスの自然から、自分で立ち上がる力は、もらえたけど。
 あそこはハイジの世界。わたしのゴール、わたしの世界は自分で見つけなくっちゃ。
 アンが言ってた……「今の学校はもう学校じゃない」って。
 ……先生は、授業と会議とパソコンばかりが相手。
 子供たちの相手をしている時間はほとんどないんだって。
 子どもの相手をしないっていうか、できない先生って、先生ってよべないわ。
 アンは言ってた「わたしは、いい時代に先生ができて幸せだったって……雲が流れていくわ……。
 アルムじゃね、あの雲はハイジを待ってくれるの……この街じゃ、あの雲はわたしを待ってはくれない。
 知らん顔して、流れていくだけ……え、あのハイジのブランコはどれくらいの長さがあるかしらって?
 フフフ、わたしも考えたわ。うん、ハイジの真似をしてみたの。
 ……ハイジって、なんでも知りたがって、くちぐせは「おしえて」だったものね……。
 で、わたし、計算したの。振り子の周期から、あのブランコの長さは三十七・八メートルだって。
 で、ハイジに教えてあげたの。きっと驚くだろうって思って。
 「わー、クララってすごい!」って、言ってくれるだろうって……ハイジはなんて言ったと思う?
 ……不思議そうな顔をしてね「なんで、そんなこと計算するの?」……ハハハ。
 ……ハイジはね、ただブランコに乗ってみたかっただけなの、流れる雲の上に寝そべってみたかっただけ。 雲がハイジを待ってくれている。その感動を表したのが「おしえて」だったの。
 わたしは、その「おしえて」を勘違いしていたの。
 だから、いっそうハイジの「おしえて」がうらやましい……え……うん、大丈夫。
 なんでも聞いて……アハハ、遠慮してたの?……アナタって、デリカシーありすぎ。
 気疲れするでしょ、いつもそんなじゃ……ああ、イジメにあったことがあるかって? 
 あなたは……あ、わたしから話さなくっちゃいけないわよね。
 結論から言うとね。いじめられたことはないわ。ハイジに会うまでは学校にもいけなかったし。
 ウフフ、ロッテンマイヤーさんにはしょっちゅう叱られてたけどね。
 あの人はただ注意してるつもりなんだけど、口調がきついのね(かすかにクシャミ聞こえる)
 ウフフ、根はいい人よ……学校に行ってからは……うん、あんまりお友達はできなかったな。
 だれもがハイジみたいに心を開いてくれるわけじゃない。
 だれにもハイジに対するみたいに心を開けるわけじゃない。
 でも、その代わりいじめられるようなこともなかった。
 こんな言い方ダメかもしれないけど、いじめって、根本のとこでは、相手に対する興味の現れだと思うの。 ただ、興味の表し方わかんないから……ね、わたしのいたずらも同じよ。
 ロッテンマイヤーさんとかが反応してくれるからやってんの……アナタは?
 ……いいのよ、言いたくなった時に聞かせてくれたら……あ、もう雲流れていっちゃった。
 さっきヒツジさんみたいな雲があったんだけどね……あれかなあ……。
 トドみたいになっちゃってしまったけど……わたしたちの心も雲みたいね。
 あっという間に流れて変わっちゃう。
 アルムの雲だって流れるんだけどね、ハイジは、雲がハイジを待ってくれてるように思えるわけ……。
 あの感性にはまいっちゃう。なかなかあんなふうにはね……。
 フフ、おちこんでなんかいないわよ。ただ、「ちがうんだ」って思っただけ。
 で、わたしは、わたし自身の「おしえて」を持てばいい。そう思い直したの。
 だからこれ……この本たち。まあ、大半は図書館から借りてくるんだけどね……。
 それにしてもすごい量? う~ん……でも二千冊くらいよ。服とかも多いから。
 あんまり、お部屋の中ゴチャゴチャにしときたくないの。ゴチャゴチャは、頭の中だけで十分。
 ……アナタの部屋って、よく見るとステキじゃない……ううん、そんなことない。
 ベッドの枕のほうに机があって、パソコンとかモニターとかすぐ側なんでしょ。
 床に一見散らかってるように見えてる服も、ベッドの足下から、キャミとか下着、ブラウスにベスト。
 ……で、ドアの横の壁に上着とかキャップとか。あ、そのジャケットとると鏡なんだ。
 起きたら順番に着て、最後は鏡で確認して出かけられる。機能的じゃない! 
 あなたって、印象よりも合理的な人なんだ……あ、今なに隠したの!?
 だめ、見ちゃったんだから、ちゃんと見せなさいよ……ステキ……それってダンスかなにかの衣装?
 ……そうか、さっき言ってたの、そうなんだ! 言ってたじゃない、演劇部の後入ったクラブがあるって。 体育会系だけど、クリエイティブなクラブだって……そうなんだ、ダンス部だったんだ!
 ……え、部員がみんなやめちゃってアナタ一人に……そう、それでもがんばろうとしたんだ。
 ……先生も忙しいもんね……授業と会議とパソコンだもんね。
 ……え、IDカード……先生が首からぶらさげてる……わたしも、あれキライよ。
 なんだかスーパーとかコンビニの商品の品質表示みたいでしょ……え、バーコード? 
 ナイショだけど、ロッテンマイヤーさんの彼もバーコードよ(ロッテンマイヤーのくしゃみ)
 ……頭じゃなくって、IDカードに……え、時々産地偽装してるみたいな先生も……。
 アナタってウィットの感覚いいわよ。もっと本とか読んで感覚みがくと……。
 アハハハ、わかった、わかったって。もうお説教みたいなこと言わないからさ。
 ……え、説教じゃなくって、新興宗教の勧誘みたい? はいはい、もう言いません。
 ね、ダンスのレパートリーどんなのがあるの?……あ、それわたしも知ってる。ユーチューブで覚えた!  ね、いっしょに踊ってみようよ……すごいもう、コスチュームに着替えたの!?
 ……うん、とてもステキよ。待って、サウンド、シンクロさせるから……よし、いいわよ!



明るい曲が流れ、クララはモニターのアナタとともに踊る。
 ダンス部に入ってもらってバックダンスをやってもらってもいい。
 歌って踊り終えて、なぜか涙ぐむアナタとクララ。



クララ ああ、おもしろかった。またやりましょうね。どうしたの、どうして泣いてるの?
 ……え、わたしも……ほんと変ね、こんなに楽しいのに、こんなに友だちなのに……。  
 ちょっと暑い。こっちの窓も開けるわね……。
 トドの雲もどこかにいっちゃったんでしょうね、方角から言えばこっちのほうなんだけど……あ、飛行船! わあ、あんなに低くゆっくりと……。
 シャルちゃん。ロッテンマイヤーさん。飛行船よ、飛行船! テラスから、お庭に出てみて。
 今、教会の上のあたりだから……あ、アナタには見えないわね(カメラの向きを変える)
 ……どう、見えた? ツェッペリンね……昔はもっと大きいのがあったそうよ……。
 あれの何倍も大きいのが……追いかけてみたらって……うん、いつかはね……。
 追いかけていって、きっと乗せてもらうわ。
 雲は流れて行ってカタチを変えてしまうけど、飛行船はカタチを変えないわ。
 検索したら、乗り方だってわかるし……それに、今日は大事なお友達が来るんだもん。
 ……え、なんか言った?……なんでもない……へんなの。
 飛行船、グルーっと、この街を一回りするのね。まるで、わたしのことを待ってくれているみたい……



このとき口笛が聞こえる。



クララ あの口笛……ハイジだわ……ハイジが、ハイジが……。
 カメラもどすわね、わたし着替えなくっちゃならないから。
 だって、この服はアルムで初めて立てたときに、ハイジとお揃え。
 お父さんに買ってもらったままだもの。なにか新しい服でなくっちゃ……。
 ハイジは、昔のままよ。あの「わたしはアルプスの子です」って、全身で自己主張してるみたいな。
 ハイジは完成された子だもの……わたしは……。
ロッテンマイヤー お嬢様。ハイジが、ハイジが来ましたよ!
クララ わかってる、さっき口笛が聞こえたから。
ロッテンマイヤー じゃ、お早く。
クララ 今、服を探してんの……
ロッテンマイヤー ハイジは忙しい子ですから、お早く!
クララ 分かってるわ、ロッテンマイヤーさん……



シャルロッテがやってくる。



シャルロッテ お嬢様、お手伝いいたしましょうか?
クララ ありがとう、適当にひっぱりだして見せてくれる。
シャルロッテ ……これなんか、いかがでしょ、シックなブルーでお嬢様にぴったりかと。
クララ ありがとう。でも、もすこし明るいものでなくっちゃ、ハイジに負けちゃうわ。
シャルロッテ ……じゃ、これは?
クララ それじゃまるで郵便ポスト。
シャルロッテ じゃ、こっち。
クララ わたし、サンタクロースの孫じゃないのよ。
シャルロッテ ……じゃ、思い切って、こんなのは?
クララ いいけどナントカ48(フォーティーエイト)みたい。
 ちょっとセンスがね、わたし的じゃない。
シャルロッテ じゃ、こっち!
クララ もっとズレてる、それじゃおみゃんこクラブじゃないよ。
シャルロッテ じゃ……思い切って、こんなの!
クララ あら、ミリタリーね。   
シャルロッテ お気に召しまして?
クララ ……あ、それって日本の陸上自衛隊。
 専守防衛ってなんだか引きこもりのイメージ。
ロッテンマイヤー お嬢様、ハイジ先に行きましたわよ。
シャルロッテ お嬢様……
クララ 大丈夫。わたしの家の前の道って一本道だから、交差点につくまでに間に合えばいい。
シャルロッテ そう、じゃ急ぎましょ!
クララ うん!シャルロッテ ……これなんか……お嬢様……?
クララ ……シャルちゃん、それ脱いで。
シャルロッテ え?
クララ わたしの新しい人生の再出発。
 一からやり直しますって気持ちでメイドのコスなんかいいと……思っちゃった!
シャルロッテ こんなの、まるで一頃のアキバですよ。
クララ あんなマガイモノじゃない。だって、シャルちゃんは本物のメイドなんだもの。
 わたしメイドインクララになる。お脱ぎなさい!
シャルロッテ お嬢様……。
クララ 脱げ!
シャルロッテ きゃー!



クララ、シャルロッテを追いかけ回す。やがて捕まえて、シャルロッテに馬乗りになり、服をぬがせようとする。



シャルロッテ や、やめてください。
 ……お嬢様は、お嬢様は、シャルロッテでもなく。ハイジ様でもなく。お嬢様なんですから。
 クララ・ゼーゼマンでいらっしゃるんですから……クララ……。
クララ わたしは、わたし……クララ・ゼーゼマン……。
シャルロッテ はい、クララ……で、いらっしゃいます。
 なにもコスチュームなんかでごまかすことなんかありません!
クララ そう、そうよね……クララはクララのままで……。
シャルロッテ はい、さようでございます。お嬢様はお嬢様であるままで……。
クララ ありがとうシャルちゃん。そうなんだ、簡単なことだったんだ。
 わたしはわたしのまんまで……ありがとう、このままで、あるがままのクララでいくわね!



駆け去るクララ。ほっと胸をなで下ろすシャルロッテ。



シャルロッテ お嬢様……



クララ、駆け戻ってくる。



シャルロッテ お嬢様……
クララ 髪の毛ぐらい梳(と)かしていかなくっちゃね。
 (鏡に向かい、髪を梳かす。まわりを見渡して)ごめん。後のことはお願いね。
シャルロッテ はい、お嬢様!
クララ じゃ、行ってくるね、シャルちゃん。
 ロッテンマイヤーさんも、バーコードの彼氏によろしく!



駆け去るクララ。しばし呆然のシャルロッテ。



ロッテンマイヤー シャルロッテ!
シャルロッテ 行かれましたよ、今度こそ、今度こそ……。
ロッテンマイヤー ああやって、時間をかせいでいらっしゃるのよ。
 ハイジが交差点まで行って行方が分からなくなるまで……。
 そして「間に合わなかったわ」って戻ってきては、この繰り返し。
シャルロッテ そんなことありません。
 さっきはセーラー服でしたけど、今度は……今度は、ご自分のまんまででかけられましたから。
 ね、そう思われるでしょアナタ様も(片づけようとする)
ロッテンマイヤー 放っておきなさい、それくらいご自分でできるようにしていただきます!
シャルロッテ だって(アナタにむかって)ねえ……。
ロッテンマイヤー それに言っとくけど、わたしがお付き合いしている方はバーコードなんかじゃありません。
 あるがままに堂々と禿げていらっしゃいます。わたしがご意見申し上げてね!
シャルロッテ プフフ……
ロッテンマイヤー シャルロッテ!
シャルロッテ はい!



祈るようなまなざしで、クララの椅子を見つめ、気持ちをふりきるようにして、シャルロッテ退場。
 開幕の時のヨーデル急速にフェードイン。その高まりに比例して、クララの椅子きわだつうちに幕。

【作者情報】《作者名》大橋むつお《住所》〒581-0866 大阪府八尾市東山本新町6-5-2
《電算通信》oh-kyoko@mercury.sannet.ne.jp


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高校ライトノベル・らいと古典・わたしの徒然草75『つれづれわぶる人は、いかなる心ならん』

2013-03-10 20:14:37 | エッセー
わたしの徒然草75
第七十五段『つれづれわぶる人は、いかなる心ならん』

  

つれづれわぶる人は、いかなる心ならん。まぎるる方なく、ただひとりあるのみこそよけれ。

 智に働けば角が立つ情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい。
 夏目漱石『草枕』冒頭の言葉である。
 簡単に言えば「世の中、人と交わって生きるのは、ウザったくてむつかしいもんだ」ということであり、この七十五段は「だから一人で、居ようぜ!」という孤独の勧めである。

 わたしは、五十五歳で早期退職するまで、いちおう人と互して生きてきた。つまり友だちなり、上司なり同僚、生徒、保護者などの人たちとの関わりの中で生きてきた。
 同僚や先輩とは、よくぶつかった。生徒の指導について、学校の運営について。
 具体的な例を挙げれば、わたしは生徒に「おまえは、もうあかん」と言ったことがない。保護者に「お子さんは、もうあきまへん」と言ったことがない。ただし、数字としての結果が出るまでは……。
 三学期に成績や、出席日数で物理的に見込みが無くなって、初めて「もうあかん。もうあきまへん」と言った。ハンパに賢い先生は、この物理的な結果が出る前に「もう、見込みありません」と宣告し、時に保護者の不審を買い、生徒に反発される。わたしは、経験から二学期の始めには、進級や卒業ができるかどうかが分かってしまう。しかし言わない。言えば角が立つ。角が立つとは、相手の希望を失わせることであり、不審を買うことである。これで学年末に退学ということになっても、恨みが残る。地域で学校の悪口を言われ、結果的に自分と学校の評判を落とす。

 だから、わたしは、学校と自分の保身のために嘘をつく。
「まだ、僅かやけど希望はあります。がんばれ、がんばらしてください!」
 そして、数字として結果が出たときは、生徒自身や保護者が悪くて、そうなったことになる。
 別の面から言えば、人間として自信を失うところまでは相手を追い込まない。「あきまへん」と言うまでには「万一の場合は、こういう選択肢があります」と伏線は張ってある。だから、生徒も保護者も絶望することは無い。
 カッコヨク言えば「生きる道」は必ず付けてやる。この面から見れば、あっぱれ教師の鑑である。実際、定時制や単位制の高校の説明会にいっしょに行き、ハローワークに連れて行き、鑑別所や家裁へも足を運んだり、物理的には、かなりしんどい。べつに府教委の言うままにやったわけではないが、「生きる力をつける教育」というのを実践したら、このカタチしか無かったであろう。

 わたしは、大方の教師とは違って、かなり昔から、国旗の掲揚と国歌の斉唱を言ってきた。当然、他の教師とはぶつかった。しかし、ぶつかりきらず妥協した。
 職員会議で「本校教職員の総意として、日の丸の掲揚、君が代の斉唱に反対決議」されようとしたとき、「有志教職員にしてください」と言う程度。たまに組合の分会長がしつこく反対を唱えると、他に戦時法がそのまま残っていることなどを述べて反証するぐらいまで。
 行きたくない時でも、職員旅行や宴会は進んで行った。そういうことは人交わりの基本だと思っていた。
 平成二十五年には六十歳になる。昔風に言えば、白秋になる。残りの人生は二十年ほどであろうか。もう好きなように生きて良いと自分に許した。それが四年前の早期退職であった。教師であることは生き甲斐でもあったが、ずいぶん自分を殺さなければやっていけなくなり、もう一つの生き甲斐である物書きに専念することにした。

 物書きというのは、自由業であり、毎日のスケジュールから、書いた作品まで、全て自己責任である。教師の頃のように、学校や府教委に責任転嫁はできない。書いたものが必ず本になるとは限らない。しかし、何十本送っても出版に至らないのはコタエる。また、出版された本が、思うように売れなくとも、編集さんや営業さんの責任にはできない。中味が弱く、面白みに欠けるものは売れないのが道理で、完全に自分のせいである。
 つれづれなる生き方というのは、そうなる前に想像していたより、はるかに厳しい。
 つれづれわぶる人は、いかなる心ならん。と聞かれれば、こういうことになる。

 グラスの中の酒が1/3になった状態を、どう評価するか。

 もう、1/3しか残っていない。
 まだ、1/3も残っている。

 わたしは1/3残っている。と思うようにしている。「しか」でもなく「も」でもなく、ただの1/3。
 夏休みに例えれば、盆すぎ。もう大旅行はできない。でも、残った宿題をやり、気ままな小旅行ぐらいはできる。それも現職の頃のようなお義理ではない。言いたいことも言える、所属する所や背景がないから。
 でも、やったこと、言ったこと、行く場所は全部自分の責任……また繰り返しになりそうなので、このへんで。

つれづれわぶる人生は、言われるまでもなく……むつかしい。兼好さんはエライです。


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シニアライトノベル・タキさんの押しつけ映画評『日本アカデミー賞』

2013-03-09 07:11:47 | 映画評
タキさんの押しつけ映画評
『日本アカデミー賞』


これは、悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に流している、『日本アカデミー賞』の評ですが、いろいろ示唆に富み、参考になるため転載したものです


 やっぱりあかん…全員優秀賞でいったんステージに上げてインタビューして、席に戻して最優秀をまた呼び出すやり方はウザイ。ええ加減やり方変えたらどないよ…まぁ、岡田祐介なんかが会長じゃのぞんでも無駄ですかねぇ ハァ~
 意外だったのが「外事警察」が全く無視された事、昔からっちゅか、第一回の授賞式の演出も受賞作の顔ぶれも「なんじゃコレェ!」だったし、長らく邦画には全く興味がなかったので、日本アカデミー賞の内幕は殆ど判らんのですが、今年の受賞作を見ていると 演技・演出・編集以外にナンジャカンジャ余計な判断が働くようでんなぁ。
 ノミネートされた作品のちょうど半分位をみてないんであんまりえらそうにはいえませんが、本能的に胡散臭く感じますなぁ。  

 主演女優の樹木希林と助演男優賞の大滝秀次は絶対的な存在感と功労者であるとの観点からまだわかるのだが、主演男優賞が野村萬斎を抑えて阿部寛だってのが理解不能。
 ベストアニメが「エヴァ」「ワンピ」を蹴飛ばして「おおかみこどもの雨と雪」だってのも理解不能。
 新人賞がノミネート(優秀)だけで一等を決めないのにも違和感がある。
 一番頭にきたのが、功労賞が「踊る~」シリーズゥ?アホな……絶句ですわ、誰がみたって、長期に渡る評価にしたって 「エヴァ」か「ワンピ」のチームでしょうが。
 そうそう、新人賞の出演作品に「愛と誠」が入るかい? 冗談キツ過ぎですわ。これ見に行ってないんで断定できませんが、今年の一等賞は新人賞二人ノミネート、監督賞、作品賞、編集賞受賞の「桐島、部活やめるってよ」になるんでしょう。同作が話題賞の作品賞ってのはなんなんやろね?なんぼなんでもこれは蛇足でっしゃろ。同じく話題賞の俳優賞が「闇金 ウシジマくん」の大島優子ってのもどないよ、審査基準どないなっとん? 去年「もしドラ」の前田敦子やったから……位しか考えられませんわい。「のぼうの城」が美術賞だけってのもナンダカナァ~~ 結局 誰の…しかも訳の判らん思惑と「桐島~」の間で割を食ったのが「のぼうの城」ってのが今年の総てなんでしょう。
 ああっと外国映画賞が、アルゴ・ダークナイト・スカイフォール・ドラゴンタトゥーを抑えて「最強のふたり」ってのも解らん? 素敵な作品だからイチャモン付けたかぁ~ねえんですが、選定基準が全く解らん…あえて フランスで日本映画が評価されるんでバーターじゃないんかい?と邪推いたします。
 邦画の質は間違いなく高くなっていると確信しますが、配給会社のセンスや アカデミー賞の在りようはまだまだ三流の下の下であります。私の見立てが間違っているなら ご教示願いたい。いや、マジであります。


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シニアライトノベル・タキさんの押しつけ読書感想『岳飛伝-4-』

2013-03-08 19:48:39 | 読書感想
タキさんの押しつけ読書感想
『岳飛伝-4-』



これは悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に流している読書感想で、北方謙三などの水滸伝などに興味のない方にはチンプンカンプンですが、マニアの方には、面白い書評だと思いますので転載いたしました



 北方謙三 水滸伝サガ 第三部 岳飛伝の第四巻であります。
 さぞかし女性各位におかれては 何の興味もわかないかもしれませんが、そこはご勘弁。
 さて、シリーズは殆ど時間の経過もなく、金国のウジュと、立場上南宋軍を預かった形になってしまった岳飛の会戦が本格化します。岳飛は金に占領されている淮河(黄河と長江の間)以北を奪回することが大義となっており、この思いは南宋の政治とは関わりが無い、元々 軍閥としてはじめた戦いだという思いが強い。
 しかし、南宋軍を押し付けられた段階で、いつか政治的に中止の指図が来るかもしれないくらいには感じている。榛檜は榛檜で そろそろ岳飛が邪魔(金との停戦交渉するにあたって)になるだろうと思い始めている。
 ここで、今回から官僚の許礼がいきなりクローズアップになってくる。なんでか解らんが この許礼がやたらと戦の情勢や岳飛の心中について核心を突いている。軍事担当で 短期間の間に南宋軍がまがりながらも使える軍勢になったについては許礼の功績なのだが、何かいきなり洞察力が120%ア~ップしとります。

 史実として岳飛は榛檜に毒殺されるのですが、まさか榛檜が直接手を下した訳ではないだろうから この許礼がやっぱり実在の人物で主犯って事なんですかねぇ。この辺りの史実は何を読みゃあええんですかねぇ、まだそこまでは追っかけていません。
 岳飛と梁山泊の間に、本人達の自覚の有る無しない交ぜにして紐帯が深まりつつあります、物語として今後そこまで突っ込んで行くのか否か、興味を引いていきそうであります。  
梁山泊メンバーの考え方にも変化が現れ、己のレーゾンデートルを語るのに“夢”という言葉が使われ始めている。思えば楊令も心中を語るに「追えぬもの梁山泊の将来に見ているのかもしれない」なんぞと言うとりましたなぁ……これって「夢を見ている」と同義語ですよね、楊令の死後 漸く彼と同じ視線を持つ者が現れ出したという事です。 また 誰かサンに笑われそうですが、どこを読んでも涙腺にジンワリ来ます。
 後数年で総てがモンゴルに蹂躙されて跡形も無くなる。しかし、人々は今日一日を必死に生きている。物語を鳥瞰している者の傲慢な思いであるとは自覚しているが…一人一人が愛おしくって仕方がない。 う~~ん、やめられまへんなぁ〓


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シニアライトノベル・タキさんの押しつけ映画評『OZ』

2013-03-08 16:22:26 | 映画評
タキさんの押しつけ映画評『OZ』

これは、悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に流している映画評ですが、もったいないので本人の了解を得て転載したものです


今回も八尾で…と思うたのですが、八尾では吹き替えしか上映しておらず、梅田に出てきました。
子供しか来ないと思うとるんでしょうね……気持ちは判らんでもないんですが、近頃の日本のガ……子供は“オズの魔法使い”なんて知ってるんですかねぇ。最近、贈り物にするんで良く絵本を探しにいきますが“OZ”のシリーズはあんまり見かけないんですよね、映画をやっている今行けば色々有るんですかねぇ?
 てな訳で、本作の主たる観客は ええ歳した大人やと思うんですがねぇ(今日もオッチャンオバチャンが多くって アベック少々くらいのバランスでした。) ところで“OZ”を読んでる人って どれくらいいたはるんでっしゃろか、私もジュディー・ガーランドの映画('39年)しか知らず 古本屋でシリーズ文庫を見つけて初めて続きがある事を知りました。
 ライマン・フランク・ボームが“THE WONDERFUL WIZARD OF OZ”を出版したのが1900年、なんと113年前!
 元々単発物のつもりだったようですが、それこそ山のような続編を要求する子供たちからの手紙に埋もれて ボームは死ぬまでの19年間に14冊のシリーズを発表しています。(私が読んだのは3冊だけですが) アメリカではボームの死後も その孫や曾孫、その他いろんな人々によって書き継がれ 現在非公式(???)な物も含めると70冊以上有るらしいです、いかに愛されたシリーズなのか よくわかるエピソードですなぁ。
 さて、その第一巻で 竜巻に呑み込まれたドロシーが何とか故郷に帰ろうと「オズの魔法使い」を訪ねてみたら、なんとペテン師の爺さんでしたってのはご存知の通り。原作シリーズの中で、このインチキ魔法使いの出自は詳しく語られてはいないようですが、断片的に語られる物から本作はスタートしています。
 ここでトリビア、OZのフルネームをご存知だしょうか? 彼の名前は“オスカー・ゾロアスター・ファドリグ・アイザック・ノーマン・ヘンクル・エマニュエル・アンブロイズ・ディグス”と申します。
 最初の二つの頭文字を取って“OZ”と名乗っているんですねぇ、向こうの小説にこういう長い名前の設定の人物ってのがたまに出てくる事がありますが、大概がペテン師です。本作のOZ君も若い奇術師で、女たらしのペテン師です。この半端なアンチャンがいかにしてホンマモンの魔女を相手にして、身に降りかかる難問を切り抜け『彼は如何にして大魔法使いとなりしか』ってえお話し……映像は素晴らしく美しい。これを“死霊のはらわた~EVIL DEAD”なぁんてなドロドロ映画を撮っていたサム・ライミが撮っているのかと思うと 何かしら笑いがこみ上げてくるのは……アタイの根性がねじ曲がっているからなんでしょうかねぇ。  作品その物は良く出来ていて、元作品を知らずとも楽しめますが、ここは もしJ・ガーランド版の映画をご存知なければ、ええ機会ですから 是非ご覧になってから本作に行かれる事をお勧めします。その方が10倍楽しめる事 保証いたします。M・ウィリアムス、R・ワイズ、M・クニスの三人の魔女も見ものですし、J・フランコのダメ男ぶりも 実に堂々(??)としとります。ストーリー展開に「むぅ??」と思う所が有ると思いますが、それは この作品ではグッと飲み込んで素直に世界にのめり込んじゃって下さい。いらん事は一切考えない事!老婆心ながらご忠告致します。


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おとなライトノベル・『蜘蛛の糸』

2013-03-06 21:40:24 | 小説
シニアライトノベル
『蜘蛛の糸』
    


 ある日の事でございます。御釈迦様は極楽の蓮池のふちを、独りでごしごし掃除なさっていました。
 
 極楽も、経費節減のため、人件費を削らざるをえなくなりました。お釈迦様は率先垂範(そっせんすいはん)のため、ご自分の散歩道は、ご自分で掃除されることになりました。
 昨日は、沙羅双樹(さらそうじゅ)の林の落ち葉を掃き集め須弥山(しゅみせん)のふもとでお焼きになられました。そのとき、須弥山の荒れようも気になられたのですが、須弥山はとてつもなく大きな山だったので、こう呟かれました。

「まあ、あれは趣味の問題だから、後回しにしよう……ちと、おやじギャグであったか……」

 寒いギャグに、お仕えの天人がクシャミをしました。
 そこで、今日は、おやじギャグをとばしても、誰の迷惑にもならぬように、独り極楽の蓮池のふちを掃除なさっていたのです。
 池のふちを掃除し終えると、ワッサカと茂りすぎた蓮を間引きにかかられました。
「うんしょ……!」
 一抱えの蓮の葉の固まりを取り除くと、そこに開いた水面から地獄の様子が見えます。
「そうだ、この池は、地獄に通じていたんだった……」
 お釈迦様は、百年ほど前にカンダタという男を蜘蛛の糸で救おうとしたことを思い出されました。
「あの時は、意地悪をして、助けてやらなかったなあ……」
 そうお思いになって、百年ぶりに池の底を覗いてごらんになられました。

 極楽の池は、今では教員地獄というところに繋がっておりました。

 教員地獄には、現役の教師であったころ、ろくな事をしなかった者達が、地獄の年季が明けるまで出ることができない学校に閉じこめられています。
 地獄そのものも、廃校になった学校が使われています。その地獄の学校は、夜になることも、昼になることもなく、永遠のたそがれ時でした。
 チャラ~ンポラ~ン、チャランポラ~ン……と、チャイムが鳴るたびに、教師の亡者たちは、教室に行っては授業をします。
 教室は様々ですが、鬼の子達が生徒に化けて授業を受けています。その教室の様子は筆舌に尽くせません。お読みになっている貴方が、ご自身の学校を思い出して想像してみてください。
 授業が終わると、教師の亡者たちは職員室にもどり、吹き出した汗のような血や、血のような涙で、えんま帳の整理をやります。席に戻れば、パソコンに終わりのない書類の打ち込みをやりながら、聞き取れないような声で、だれに言うでもない不満を呟き、他の亡者たちは、みんな自分の悪口を言われているのではないかと思い、疑心暗鬼地獄になります。
 少し離れた会議室では、職員会議地獄があります。そこは、主に管理職だった亡者が、永遠に終わらない職員会議に出ています。平の亡者たちが、ときどき、ここに来ては、喧噪の中、しかめっ面をして息を抜いています。
 でも、本当に息を抜くと、議長に指名され、発言を求められ、質問地獄になります。
 そして、チャランポラ~ン……と、チャイムが鳴ると、授業地獄に行かなければなりません。
 そして、管理職だった亡者は、永遠に職員会議地獄からは抜けられません。

 神田という亡者が、職員会議を終えて、授業地獄にいくところが、お釈迦様の目に留まりました。
「ああ、これも何かの縁だろう……」
 お釈迦様は、思い出されました。
 この神田という亡者は、現職のころ「蜘蛛の糸」と呼ばれていました。神田は困難校ばかり渡り歩いてきた教師で、退学の名人でした。担任になると、めぼしい生徒に目を付けます。
 めぼしいとは、成績や出席状況から進級、卒業ができそうにないもの。問題行動が多く、懲戒を繰り返し、いずれは辞めさせなければならない者。
 そういう生徒には、四月から家庭訪問や面談をくりかえし、生徒や保護者と人間関係を作り、その「信頼関係」を作った上で、学年途中や、学年末に自主退学させていました。
 学校では、この退学のことを「進路変更」という言葉で呼んでいました。なんとなく美しい響きでしたが、要は首切りで、たいがいの教師は退学届をもらえば、それでしまいでした。
 多田は、本当に変更先の学校や、職場、ハローワークまで付いていってやりました。だから、大方の退学生は「ありがとうございました」と言って去っていきました。

 でも、神田は思っていました。これは学校のため……自分のためであることを。
 退学は、いざ、その場になればもめることが多くありました。こじれたときは弁護士が来ることも、裁判になったことさえありました。神田は、それが嫌だったのです。ただでも忙しい学年末に、そんなことに時間を取られることも、神経がささくれ立つのもごめんでした。
 でも、神田の蜘蛛の糸ぶりは徹底していました。
 保護者が来校したときは、玄関まで迎えに行って、スリッパを揃えました。退学が決まって、親子が学校を去るときは、玄関に立ち、親子が校門を出て、姿が見えなくなるまで見送りました。二分の一の確率で、校門を出るときに、親子は学校を振り返ります。その時には、深々と頭を下げてやります。そうすれば、親子が地元に戻ったとき、学校や担任の悪口を言いません。
 
 これは偽善です。だから神田は地獄に墜ちたのです。

「神田の心には、僅かだが、善意があった……」
 神田自身、高校生のとき、不登校になったり落第した経験があります。そして、何度か退学を勧められたことがあります。
「その孤独さは、分かっていたんだね……」
 そう呟くと、お釈迦様は、百年前と同じように蜘蛛の糸を一本垂らしてやりました。
「今度は、意地悪しないからね……」

「あ……これは?」
 神田は、一本の糸に気づきました。
 雲の先は、永遠のタソガレの空に、一点だけ青空になっていました。
「これは……蜘蛛の糸だ!」
 神田は、えんま帳も教材もみんな放り出して、蜘蛛の糸を昇り始めました。

「あの時といっしょだな……」
 
 お釈迦様は、呟きは続きました。
「わたしの悲願は……衆生済度なんだからね……」

 神田は、自分のあとから沢山の亡者たちが続いて糸をよじ登ってくるのが見え戦慄しました。

――来るな。これは、オレの糸だ。オレが救われるための糸だ――

 そう、思いましたが、国語の教師であった神田は思い直しました。
――カンダタはこれで失敗したんだ。みんな登ってくればいい。みんなで極楽に行こう……そうだ、おれんちは浄土真宗だ「善人なおもて往生す、いわんや悪人をおいてをや」だ……でも、組合の奴らが真っ先てのはムカツクなあ……まあ、いいか。
 神田が、目をこらして下の方を見ると、糸を登らずに、ぼんやり見上げている一群がいました。
「おーい、お前らも来いよ!……え、意味わかんねえだと……そうか、あんたら再任用で、定年超えてもやってたんだ……そこが地獄だってことも分からないか……いいようにしな……」
 そう言って、手を伸ばした先に糸がありません。
「え……うそだろ!?」
 極楽の池の水面は、もう、そこまで見えていました。あと五寸というところで、蜘蛛の糸は切れています。それでも、お釈迦様の悲願なのでしょう、糸は直立しています。
「なんで、五寸なんだ……そうか、オレって演劇部の顧問だったから尺貫法なんだ!」
 妙なところで納得しかけた神田でした。
「でも、なんで、あと五寸……!」
 神田の手は、虚しく空を掴むばかりでした。
 やがて、亡者たちは力尽き、ハラハラと学校地獄に墜ちていきます。
 神田は、最後までがんばりました。もう慈悲深いお釈迦様のお顔さえ見えます。

「残念だ……神田。お前は五年早く早期退職した。その分、糸の長さが足りないんだよ」
 
 お釈迦様は、涙を浮かべて、そうおっしゃいました。
「そうか……おれって、堪え性がないもんで……」
 神田は、悲しそうに……でも、納得して墜ちていきました。

「南無阿弥陀仏……」

 最後の、神田の一言が、お釈迦様の耳に残りました。
「これは、阿弥陀さんの仕事……だな」
 そう呟くと、お釈迦様は、たすきを外して、歩いていかれました。

 極楽には、何事もなかったように、かぐわしい風が吹き渡っていきました……。

『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』        

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小規模少人数高校演劇部用戯曲脚本台本『すみれの花さくころ』

2013-03-06 17:32:49 | 戯曲


すみれの花さくころ


宝塚に入りたい物語                     


大橋むつお 
〒581-0866 八尾市東山本新町6-5-2《電算通信》oh-kyoko@mercury.sannet.ne.jp

(上演されるときは、全国高等学校演劇協議会の規約にのっとり、この住所で手続きください)



全国の高校演劇は小規模演劇部に適した脚本が不足しています。この作品は、2010年大阪府高等学校演劇連盟のコンクールで天王寺商業高校演 劇部が上演。惜しくも本選で選外になりましたが、名古屋の音楽大学、北陸の劇団、名古屋の歌劇団、相模原市の中学(3校)、千葉市の中学、新潟の劇団、大阪市立の高校、神奈川県の高校などで上演していただきました。拙い作品ですが、自分で も好きな戯曲、脚本の一つです。ブログに不慣れなので読みにくいところがあります。申し訳ありません。

時  ある年のすみれの花のさくころ所  新川町のあたり


登場人物……女3~4                                     

すみれ  高校生                                         かおる  すみれと同年輩の幽霊
ユカ   高校生、すみれの友人
看護師  ユカと二役でもよい
赤ちゃん かおると二役



人との出会いを思わせるようなテーマ曲が、うららかに聞こえる。すみれが一冊の本をかかえて、光の中にうかびあがる。


すみれ: こんちは。わたし畑中すみれです。これから始まるお話は、去年の春、わたしが、自分で体験した不思議な……ちょっとせつなく、ちょっとおかしな物語です。少しうつむいて歩くくせのあるわたしは、目の高さより上で咲く梅とか桜より。地面にちょこんと小さく咲いている、すみれとかれんげの花に目がいってしまいます。その日、わたしは春休みの宿題をやるぞ! というあっぱれな意気込みで図書館に行き、結局宿題なんかちっともやらないで、こんな本を一冊借りて帰っていくところでした。あーあ、机の前に座ってすぐに宿題はじめりゃよかったのに。つい、なにげに本たちの背中を見てしまったのが運のつき。だから、この日、うつむいて歩いていたのは、いつものくせというよりは、自己嫌悪。だから、いつもの大通りをさけて、ひさかたぶりで図書館裏。新川の土手道をトボトボうつむいて歩いておったのです……ところが、そこは春! 泣く子もだまって笑っちゃう春! そのうららかな春の日ざしをあび、土手のあちこちに咲きはじめた自分と同じ名前の花をながめていると、不覚にも、母親譲りの鼻歌などが口をついて出てくるのであります。新川橋の手前三百メートルくらいにさしかかった時、保育所脇の道から土手道にあがってくる、わたしと同い年くらいの女の子が目に入りました。セーラー服に、だぶっとしたズボン……モンペとかいうんですかね。胸には、なんだか大きな名札がぬいつけて、肩から斜めのズタブクロ。平和学習で見た映画の人物みたいで、一見して変でした。近づいてくると、もっと変……わたしと同じ鼻歌を口ずさんでいるじゃないですか! まるで学校の廊下でスケバンのキシモトに出くわした時みたいな気になり。目線をあわさぬよう、また、不自然にそらせすぎぬよう、なにげに通りすぎようとした、その時……


舞台全体が明るくなり、ちょうど通りすぎようとしている少女、かおるの姿もあらわれる。すれ違った瞬間かおるが知り合いのように声をかける。


かおる: こんにちは……。
すみれ: え……。
かおる: こんにちは……!
すみれ: こ、こんちは……。
かおる: 嬉しい、通じた!……わたしのことがわかるんだ!
すみれ: あ、あの……。
かおる: ア、アハハ、ごめんなさいね。多分通じないだろうと思ったから。いつもそうなの……だから、いつもの調子でひょいと声をかけちゃって。ごめんなさい、驚かしちゃったわね。
すみれ: あ、あの……。
かおる: わたし、咲花かおると申します。よろしく。わたし、ずっとあなたみたいな人があらわれるのを待っていたのよ。急にこんなこと言われたって信じられないかもしれないけど。わたし幽霊なんです。
すみれ: ゆ、ゆうれい!?
かおる: 驚かないでね。あの、人にも幽霊にも、霊波動ってものがあってね、血液型みたいに型があるの。わたしの霊波動はめったにない型でね、RHのマイナス型。百万人に一人ぐらいかな。この型に適う人でないと、わたしの姿も見えないし、声も聞こえないの。人によって幽霊が見えたり見えなかったり、霊感があったりなかったりっていうのは、つまり、そういうことなの。そうなの、あなたの霊波動もRHのマイナスで、しっかりわたしのことが見えて、聞こえるわけなの……わかってもらえた……やっぱり驚かしちゃった?
すみれ: あ、あの、わたし急いでいるから!
かおる: あ、あの……


すみれ駆け出し。かおる消える。


すみれ: わたし、気味が悪くなったんです。新手のキャッチセールスかオタクか、変質者か……それで、夢中で土手を駆け下りて。三つほど角を曲がった、自販機の横で、やっと息をついて(ぜーぜー言う)思わず百二十円でジュースを買って……ふりかえったら……いたんです、また!
かおる: (首から下げた自販機のダミーを外して)アハハ、ごめんね。わたし慣れないものだから、やっぱり驚かしちゃったのよね。
すみれ: あ、あなた、いったいなんなのよ!?
かおる: だから、幽霊。
すみれ: うそよ。こんなまっ昼間に出る幽霊なんか……。
かおる: わたし、暗いとこ嫌いなの。生きてたころから……。
すみれ: そんなズッコケ言ったって信じらんないよ。
かおる: ほんとうだってば……そうだ、ちょっと見ててね。


自販機をソデに放り込み、交差点の真ん中に出て、大きく手をひろげる。


すみれ: あ、赤信号……あ、あぶない。ダンプが……キャー!!


ブレーキもかけず、クラクションも鳴らさず、ダンプはかおるの体をすりぬけ何事もなかったように走り去る(クルクル竹とんぼのように旋回することで表現)


かおる: わかった?
すみれ: な、なんなの、今の?
かおる: だから幽霊なの。一度死んじゃってるから死なないの。実体がないから、すりぬけちゃうし、運転手の人からも見えないの。
すみれ: うそ……。
かおる: なんなら、今度は電車にでも飛び込んでみせようか?
すみれ: だって……かおる あなとは霊波動が適うから見えるの……わかった?
すみれ: ……い、いちおう。
かおる: よしよし。
すみれ: で、でもさ……わたし、小さいころからあの土手道は通っているけど。会ったことないよ……あなたって、浮遊霊?
かおる: んー……地縛霊かな、どっちかっていうと……その本のおかげなのよ、こうやってお話できるの。すみれ: この本?
かおる: うん。本とか物体にも霊波動があるの。人とは違うけどね。それが鍵になって、二人をこうして結びつけてくれるの。それも、もともと二人の霊波動が適うからだけどね。他の人がこの本を持っていても何にもならないわ。ほら、占いとかで、ラッキーアイテムってあるでしょ。何月生まれの人は何々を持っていると幸運がやってくるとか。


すみれ、まがまがしいもののように、本を投げ捨てる。


かおる: ……それはないでしょ! 本には罪はないのよ。それに、今さらこれを捨ててもわたしは消えたりしないわよ。もう鍵は開けられたんだから(本を拾って、すみれに返す)
すみれ: その幽霊さんが何の用?
かおる: かおるって呼んでくれない。わたし、あなたのこと、すみれちゃんて呼ぶから。
すみれ: どうしてわたしの名前?
かおる: アハハ、小さい時から知ってるもの、すみれちゃんのこと。あなたも言ってたでしょ。あの土手道は、しょっちゅう通っていたって。ほら、五年生の夏。あの新川の土手で昆虫採集やったでしょ。若い担任の先生がはりきっちゃって、昆虫採集しろって。こんな都会の真ん中で……。
すみれ: うん。でも、たくさんとれたよ。カブトやチョウチョ。あの夏だけは鼻が高かった……あ!?
かおる: わかった?
すみれ: あれって……。
かおる: そう、わたしが手伝ったの。ひょっとしたら通じるんじゃないかと思って。
すみれ: ありがとう……。
かおる: いいのよ。あれって、わたしのあせりみたいなもんだったんだから、アハハ、タラララッタラー(思わずタップを踏んだりする)
すみれ: 明るいのね、かおるちゃんて。
かおる: 幽霊が暗いなんていうのは、生きてるやつらの偏見です! ちゃんと二本の足もあるし、昼日中でも出てくるし……そうだ、携帯電話だって持ってるんだよ。ほら!
すみれ: え……?
かおる: あ……見えないんだ、すみれちゃんには……買って間がないから、まだ持ち主になじんでないんだね……いろいろできるんだよ。情報の端末になってて、買い物したり、占いしたり、好きな場所の映像とりこんだり。これで宝くじ買ったんだよ、ゴーストジャンボ!
すみれ: え、幽霊にも宝くじがあるの?
かおる: もちろんよ。生きてる人の世界にあるものはたいていあるわよ。だって、もとはみんな生きてる人間だったんだからね。
すみれ: 一等は、やっぱ三億円?
かおる: ううん、生まれかわり!すみれ 生まれかわり?
かおる: 幽霊って、めったに生まれかわれないんだよ。だって、死んだ人って、生きてる人の何千倍、何万倍もいるんだからね。
すみれ: そうなんだ。
かおる: そうだよ。特にこのごろは少子化の影響で、めったに生まれかわったりできないんだよ……見て、今日の占い! あ、見えないんだ……。
すみれ: なんて出てるの?
かおる: 今日は、あなたの死後で一番のラッキーデーでしょう。運命の人との出会いがあります……すみれちゃんのことだよ!
すみれ: わたしが!? ちがうちがう、わたしそんな運命的な人なんかじゃないよ。
かおる: ううん、絶対そうよ! この占いは絶対だよ。だって、阿倍野晴明さんが占ってるんだよ、本物の。
すみれ: アハハ……本物か。そうだよね……。
かおる: あ、メールが入ってる。
すみれ: 阿倍野晴明さん!?
かおる: まさか、そんな偉い人が……お友だちよ……え……アハハ(道路の電柱一本分むこうに声をかける)そんな近いところからメールうつことないでしょ。直接声をかけてくれればいいのに……え……もう石田さんたらテレ屋さんなんだから!
すみれ: 誰と話してるの?
かおる: 石田さん。わたしの友だち。メールうったり、いっしょに宝くじ買ったり。
すみれ: あ、かおるちゃんのカレ氏!?
かおる: 違うよ、女の人だよ。婦人……女性警官。ほら、去年パトロール中に死んじゃった女性警官の人、いたでしょ?
すみれ: ああ、暴漢におそわれた子供をたすけようとして、刺された……気の毒に亡くなったんだよね、お母さんなんかウルウルだったよ。
かおる: あはは、照れてる……行っちゃった……今でも、ああしてパトロールやってんの。
すみれ: 一人で?
かおる: うん。今日は迷子の男の子の手をひいてる。
すみれ: 迷子……幽霊の?
かおる: けんちゃん。二日前に死んだばかりで、まだ自分が死んだってことがわかってないんだ……お母さんがわりかな、しばらくは……わたしもね、宝くじ預けてるの。わたしって忘れ物の名人だから。今まで三枚もなくしちゃったのよね。
すみれ: あは、そそっかしいんだ。
かおる: 失礼ね、大らかなのよ、人がらが。
すみれ: そうなんだ。でもさ、だいじょうぶ人にあずけたりして?
かおる: どういうこと?
すみれ: だって、万一あたりくじだった時にさ。すりかえられちゃったりしたら、わかんないじゃない。どうせ自分のくじの番号なんかおぼえてないんでしょ?
かおる: そりゃ……おぼえてないけど……失礼だよ、そんなふうに考えるのは。
すみれ: ちがうよ。そういう貴重品はちゃんと自己管理しなくちゃ。
かおる: 自己管理!?
すみれ: そう、自分の物は自分で責任持たなくちや。
かおる: それって、人を見たら泥棒と思えってこと?
すみれ: まあね、学校でも自分の物には自分で責任もてって言ってるよ。
かおる: 学校で!?
すみれ: 常識だよそんなこと。
かおる: 常識って、教育勅語習ってないの?
すみれ: キョウイクチョ……。
かおる: 教育勅語! 兄弟ニ友ニ夫婦相和シ朋友相信ジって!
すみれ: なに、そのおまじない?
かおる: おまじない? 友達同士信じ合いなさいってことよ。友達って、信じ合ってこその友達でしょ!?すみれ: それとこれは別よ! 自分のことは自分で責任もたなきゃ!
かおる: すみれちゃん、あんたって、そんな、そんなひどいこと、そんな……。
すみれ: そんなもとくなもないよ。頼みもしないのに昼日中から幽霊なんか出てきちゃって、いったいあなったって何様のつもりよ!
かおる: 何様のつもりって、あなた……すみれ なんだってのよ! 
かおる: なんだってねって、人が真剣に……。
すみれ: 勝手に真剣になられてもね!
かおる: ……ね、そこの公園にでも行こう。通行人の人達が変な目で見てるよ。
すみれ: 独り言言ってる変な子だと思われてる……アハ、アハハハ(あいそ笑い)
かおる: やめなさいよ、余計変な子だと思われるよ。
すみれ: う、うん、行こう……


舞台を移動し、近くの公園に行く。 


かおる: すみれちゃん、自分のことは自分で決める人なんだよね……。     
すみれ: そうだよ。見かけによらず、ガンコなの、わたしって!
かおる: そうだよね、わたしもそうだったから(モジモジしてる)
すみれ: おトイレだったら、あっちにあるよ。
かおる: 幽霊はお便所なんかいかないの!
すみれ: 何が言いたいのよ!?
かおる: すみれちゃん、宝塚って知ってる?
すみれ: うん、ベルバラとかやってる歌劇団?
かおる: 興味ある!?
すみれ: うん、お母さんとかは……若い頃はなんとかっていう宝塚の女優さんのおっかけとかしてたらしいけどね。
かおる: そうだろうね。すみれって名前も宝塚にちなんでるんじゃない?
すみれ: うん、かな?
かおる: すみれちゃんは?
すみれ: ……わかんないよ。
かおる: わたし、宝塚に入りたかったんだ。
すみれ: かおるちゃんが?
かおる: うん、何十年も昔のことだけどね。  
すみれ: 試験おっこっちゃったの?
かおる: 試験の十日前に死んじゃったの。
すみれ: え!?
かおる: すみれの花の咲くころ……ちょうど今じぶん。
すみれ: なんで、なんで死んじゃったの?
かおる: え……まあ、それでさ。宝塚うける気ない!?(おもいきり顔を近づける)
すみれ: かおるちゃん……。
かおる: もし、少しでもその気があったら、わたしがすみれちゃんにのりうつってさ、試験にも合格させて、宝塚のスターにしてあげる! のりうつるっていっても、すみれちゃんは、ちゃんとすみれちゃんなんだよ。ただ、試験とか、ここ一番という時にたすけてあげるの!
すみれ: それって……。
かおる: そんなばい菌みるような目で見ないでよ。
すみれ: ごめん……。
かおる: ほら、電動自転車ってあるでしょ。自転車だから自分でこぐんだけど。坂道とか、苦しい道になったら、モーターが働いてたすけてくれるやつ。アシスト機能っていうのかな……あれに近い! あくまですみれちゃんの人生だから、すみれちゃんが、その気になってペダルをこいでくれなきゃ、このかおるモーターも力のふるいようがないんだけどね。
すみれ: うん……。
かおる: ……これって霊波動が合ってないとできないんだよ。わたしとすみれちゃんて、RHマイナスの霊波動……百万人に一人くらいしかないのよって……さっきも言ったっけ?
すみれ: うん……でも、急な話だから……。
かおる: わたしは、ずっとずっとずっとずーっと思っていたんだけどね。
すみれ: わたしには急なの!
かおる: ごもっとも……わたしの勝手な思い入れだから、ことわってくれてもいいのよ。自転車が乗る人を選んじゃいけないものね。しょんぼり。
すみれ: どうするの……わたしが断ったら?
かおる: その時はその時。また別の人をさがす。ああ、しょんぼり。
すみれ: 見つかる……?
かおる: むつかしいでしょうけど、確率の問題だから……(燃えるような目で)でも、いま目の前にいるのはすみれちゃんだからね。真剣にお願いする……おねがい、わたしにのりうつらせて!
すみれ: うん……かおる わたし、いつも目の前の可能性に全力をつくす人間でいたいの、幽霊だけどね。あとでうじうじ後悔しないために……すみれちゃん、どうだろ、やっぱしだめかな……ごめんね、しつこい幽霊で……。
すみれ: わたし、この四月で三年生……夏ごろには進路を決めようかなって思って……今はまだ心の準備ができていないの。ごめんなさい。
かおる: ううん……でも、友達って思っててもいい? 
すみれ: うん、それくらいなら。でもさっきのキョウイクなんとかっておまじないはやだよ。
かおる: わたしも好きじゃなかった教育勅語なんて。式の日なんかに校庭に並ばされて、最敬礼で校長先生が奉読するの聞かなきゃなんないの。
すみれ: サイケイレイ……?
かおる: う、うん、こんなの(やってみせる)
すみれ: ハハハ、こんな感じ?(真似してみる)
かおる: だめだめ、腰から上はまっすぐに、角度は六十度以上!
すみれ: ……うーん……きついなあ(がまんできなく、体を起こす)
かおる: だめだよ、そのまんま十分はがまんしなくっちゃ。ほれ(すみれの上半身を倒す)
すみれ: あ、十分も!?
かおる: 最敬礼!(二人して最敬礼)……朕惟フニ我カ皇祖皇宗國ヲ肇ムルコト宏遠ニ、徳ヲ樹ツリコト深厚ナリ。我カ臣民克ク忠ニ克ク孝ニ、億兆心ヲ一ニシテ世世厥ノ美ヲ濟セルハ此レ我カ國體ノ精華ニシテ教育ノ淵源亦實ニ此ニ存ス。爾臣民父母ニ孝ニ兄弟ニ友ニ夫婦相和シ朋友相信ジ恭儉己レヲ持シ博愛衆ニ及ボシ……(チンおもうにワガコウソ、コウソウ国を始むることコウエンに、徳をタツルことシンコウなり。ワガ臣民ヨクチュウニ、ヨク孝に、オクチョウ心をイツニシテ、ヨヨその美をなせるは、これワガ国体のセイカにして教育のエンゲンマタ実にココニソンス。ナンジ臣民父母に孝ニケイテイニユウニ夫婦アイワシ、ホウユウアイ信じキョウケンオノレヲジシ、博愛衆ニオヨボシ……)
すみれ: ……鼻水が……ズズー(鼻をすする)ああ、やってらんないよ。
かおる: ハハハ、でしょ。ニ三分もすると、あちこちで鼻をすする音がズズー、ズズーって。まるで壊れた水道管。
すみれ: ハハハ……(かおるも、のどかに笑う)
かおる: でもね朋友相信ジって言葉は好きだった。
すみれ: ほーゆー?
かおる: 相信じ。友達同士信じ合いって意味。
すみれ: 英語のFOR YOUかと思った。
かおる: わたしもよ。FOR YOU……君のために愛を信じて! 
すみれ: FOR YOU……君のために愛を信じて。いい言葉だね。
かおる: でしょ!?   


すみれの友だちのユカがカバンをぶらさげてやってくる。


ユカ: 一人でなにブツブツ言ってんの? あぶないよ。だいじょうぶ? 二時からの約束おぼえてる?すみれ: え……うん……(かおるを見る)でも、気がむいたらって言ったんだよ。
ユカ: まただ、すみれの気まぐれ。言いたかないけどね……。
すみれ: だったら言わないで。
ユカ: 言うよ。言わせてもらいますよ。今の放送部始めたのだって、すみれの付き合いだったんだからね。その前はソフトボール。そのまた前は演劇部。そして今は帰宅部。
すみれ: ちがうよ、文芸部。
ユカ: 文芸部!?
すみれ: うん、こないだから。
ユカ: 文芸部なんてあったっけ?
すみれ: わたしが作ったの、部員わたし一人……ハハハ……。
ユカ: いいかげんにしてよね。わたしも付き合いいいほうだけどね、気まぐれもたいがいにしてちょうだいよね。
すみれ: でも、今部長なんでしょ、放送部?
ユカ: あのね、うちの放送部三人しかいないんだよ。田中、鈴木、佐藤。で、全員が三年生、だから、今度の新入生5人は入れないと引退もできないだよ。受験をひかえてるってのに。すみれ、進路のこと、なんか考えてる?
すみれ: うん、少しはね……。
ユカ: だめよ。今から決めておかないと、進学なんて間にあわないわよ……あ、また決心遅らせようなんて……すみれの悪いくせだよ。移り気なわりにはぼんやりで。
すみれ: ぼんやりなんかしてないよ。春休みの宿題をやろうと思って図書館に行ってたんだよ(本を示す)ユカ: 「この町の女たち」……かたそうな本。
すみれ: この町に関係のあった女性のことを歴史的に書いてあるの、弥生時代から現代まで。知ってた? ヤマタイ国のヒミコって、この町にいたんだよ。
ユカ: うそ!? ヤマタイ国って九州とか奈良とか……。
すみれ: この本にはそう書いてあるの。水戸黄門の彼女が、この町の出身でさ。旅芸人とかしてて、黄門様は、そのおっかけをするために、全国漫遊とかしてたんだよ……。


ユカとかおる、のどかに笑う。かおるの笑い声の方が大きい。


すみれ: ほんとうだってば!
ユカ: どっち向いて言ってんの?
すみれ: 樋口一葉がね……。
ユカ: 五千円札の女の人?
すみれ: 頭痛と肩こりがひどくって、この町のこう薬とか薬とか、よく買いにきたんだって。それを売っていたのが新撰組の土方歳三の姉さんでさ。一葉が薬を買いにくるたんびに、日頃のうっぷんしゃべりまくってさ。つまり思いのたけをね、ぶつけあって、それがもとで「たけくらべ」とか名作が生まれたんだって(二人ずっこける)
ユカ: オヤジギャグじゃん……。 
すみれ: だって、そう書いてあるもの!
ユカ: わかったわかった。でもさ、読書感想文の宿題なんてあったっけ?
すみれ: ……ううん。
ユカ: え……宿題やりに図書館に行ったんでしょ?
すみれ: しようと思ったんだよ。そしたら、この本がおもしろくって……。
ユカ: すみれらしいわ。
すみれ: ……わたし、宝塚歌劇団うける!
ユカ: え!?
かおる: え……!?
すみれ: アハハ、やっぱりおかしいよね。
ユカ: なによ?
すみれ: 言ってみただけ。口に出してみればなにか響くものがあるんじゃないかなって思ったの……。
ユカ: それがどうして宝塚?
すみれ: あ……


この時、上空を多数の飛行機が通過する音がする。


すみれ: となり町の基地からだね……。
かおる: ……。
すみれ: 戦争でもおこるのかなあ……。
ユカ: まさか……まさか、本気で宝塚考えてんじゃないでしょうね。だったら親友として忠告しとくけど。あんたにその才能はないよ。
すみれ: わかってるよ。言ってみただけだって。
ユカ: にげ口上言ってる場合じゃないわよ。真剣に考えて準備しておかないと、受験なんてあっという間にくるんだからね。下らない本とか、飛行機に気をまわしてるヒマないの。
すみれ: うん、わかってるよ……。
ユカ: じゃ、わたし一人で行くよ、たった一人の文芸部さん。バイバイ。
すみれ: イーだ!
ユカ: ウーだ!
すみれ: せっきょう屋!
ユカ: 気まぐれ屋!
二人: ふん!(ユカ去る) 
かおる: アハハ。
すみれ: ごめんね。やっぱり宝塚はピンとこない……。
かおる: うん……いいよ(去りゆく飛行機から、すみれに視線をうつす)その本ね、わたしのことものってるんだよ。
すみれ: え、ほんと?
かおる: 戦争中のところを見て。「戦時下の女性たち」ってとこ。
すみれ: ええと……ここ? 「……戦争で沢山の女性が犠牲になりました……特に三月十日の空襲では……」
かおる: ほら、この写真。
すみれ: なに、これ……?
かおる: このまっ黒にこげてつっぱらかってる……たぶん右から三番目がわたし。
すみれ: うそ!?
かおる: 死んでしばらくはね、納得がいかなくって、このまっ黒のやけこげが自分だって信じられなかった。でも、さっきの石田さんみたいな幽霊さんがいらっしゃって、時間をかけてわからせてくださったの。 すみれ: この黒こげが……。
かおる: わたしね、最初はちゃんと避難したんだよ。でもね、宝塚の譜面を忘れちゃって、とりにもどったのが運のつきだった。
すみれ: そうなんだ……。
かおる: わたしって忘れものの名人だから。
すみれ: ごめんなさい、力になれなくて。
かおる: いいよ、きっとまたいいことが……ほら。
すみれ: メール?
かおる: 小林さんからだ……霊波動の適う人が見つかったって!
すみれ: それそれ、それこそが運命の人よ!
かおる: 「適合者の氏名は八千草ひとみ。詳細は不明なるも、宝塚ファンでRHマイナスの霊波動。至急こられたし、霊界宝塚ファンクラブ会長小林一三」
すみれ: やったー!
かおる: やったー、やったー、やったー! ちょっと行ってくる。ちゃんともどって報告するからね。
すみれ: うん。友だちだもんね。
かおる: そのあいだ退屈だろうから、宝塚の体験版でもやってて。一曲だけだけど、わたしがアシストしてるみたいに歌えるわ。


すみれに向けて、携帯のスイッチを入れ、かおるは消える。


すみれ: かおるちゃん!……え、なにこの音楽……勝手に体が……


宝塚風の歌を一曲、明るく元気に歌いあげる(できれば、コーラスラインなど入り宝塚風になるといい)歌い終わって呆然とするすみれ。ユカが拍手しながらもどってくる。


ユカ: すみれ、すごいよ! さっきは照れてあんな言い方したのね……しぶいよ。 いつの間に練習したのさ!?
すみれ: これはね、つまり……ユカこそどうしたの、学校行ったんじゃないの?
ユカ: うん、表通りまで行ったら号外配っててさ。なんかわかんないけど、アラブとかの方で戦争はじまっちゃったみたい。日本のタンカーが巻き添えくって燃えてるらしいよ(無対象の号外を渡す)
すみれ: さっきの……(飛行機が去った方を見る)
ユカ: かもね(すみれにならう)すみれの歌といい、戦争といい、世の中何がおこるかわかんないね。
すみれ: 学校行く?
ユカ: ううん。きっとうちの担任まいあがっちゃってるよ。あの先生、口では平和とか命の大切さとか言ってるけど、人の不幸にはワクワクしちゃうほうだから、今は進路相談どころじゃないよ。駅前の本屋さんでも行ってくるわ、志望校の本とか見に。
すみれ: とかなんとか言って映画とか行っちゃうんじゃない?ジブリの新作やってるから。
ユカ: かもね、アハハ……すみれも、宝塚とか、本気で考えていいんじゃない? ほんといいセンいってると思うよ!(去る)
すみれ: そんなんじゃないってば! そうじゃないんだから。


かおるがもどってきている。


かおる: ほんと、いいセンいってるかもしれないわよ。
すみれ: かおるちゃん。
かおる: 本人に素質がなければ、体験版でもぎこちなくなるものよ。
すみれ: もう! で、八千草ひとみさんは?
かおる: ……九十五才のおばあちゃんだった。
すみれ: ……やっぱ、むつかしいのね。
かおる: プレッシャーかけるつもりじゃないけど。ほんと、すみれちゃん素質あるわよ。
すみれ: ありがとう……。
かおる: やっぱ宝塚は……だめ?
すみれ: ごめんね。
かおる: そうよ、そうだよね。でも、宝塚はともかく、なにか、その素質生かせる、音楽の先生とか……。
すみれ: うん……わたし、進路のこと思うと考えがまとまらなくなる。これかな……と思った尻から違うって気持ちになってしまう。苦手なモグラたたきみたいで、ゲームそのものから逃げ出したくなる。そのくせ夏の夕立みたいに突然やってくるおもしろいことには、後先考えずにとびついて……。
かおる: 放送部とか、ソフトボールとか、演劇部とか、一人文芸部とか?
すみれ: 言わないでよ。これでも自己嫌悪。それって進路と何の関係もなくって、人生の無駄になっちゃうんだよね。ユカなんか、うらやましい。さっさと、志望校とか決めちゃって。
かおる: わたしもね、無駄って言われたんだよ、宝塚うけたいって言ったとき。その宝塚の譜面とりにもどって死んじゃったから……親にとっちゃ無駄中の無駄だったんだろうね宝塚なんて……あ、これってよかった?(無対象の号外で紙飛行機を折っていた)
すみれ: え、いいんじゃない。ユカが持ってきた号外だから。
かおる: 号外……(紙面を見て)どこかで戦争がおこったのね。
すみれ: 関係ないよ、そんな戦争。
かおる: アハハハ……。
すみれ: なに?
かおる: わたし、大東亜戦争の号外も紙飛行機にして叱られたんだ。宝塚のことばっかり考えていて、お父さんが持って帰ってきた号外。叱られながら思った「関係ないよ、そんな戦争」エヘヘ、でも、その関係ない戦争で死んでちゃ世話ないけどね……すみれちゃんもやってみな。号外の紙飛行機って、よく飛ぶんだよ。
すみれ: うん。
かおる: ……無駄って大事だと思うんだ。無駄の中から本物があらわれる。無駄かなって思う気持ちが、いつか自分にとっての本物を生むんだ。気にすることないよ。
すみれ: ありがとう……。
かおる: わたしもね、最初から宝塚だったんじゃないんだよ。
すみれ: え?
かおる: 最初は看護婦さん。あ、今は看護師さんて言うんだっけ。盲腸で入院したときに憧れちゃって。
すみれ: それがどうして?
かおる: ちがう。ここはこう折るんだよ……よし! 飛ばしに行こう、新川の土手に!
すみれ: うん。


二人、無対象の紙飛行機を持って、新川の土手へ。


すみれ: 看護師さんが、どうして宝塚に?
かおる: 昭和十六年に東京にオリンピックがくるはずだったんだよ。
すみれ: ほんと?
かおる: うん。で、わたし、陸上の選手に憧れたんだ。でもね、戦争でオリンピックが中止になって、むくれてたらね、叔父さんがかわいそうに思って、帝国劇場に連れて行ってくれたの。
すみれ: 帝国劇場?
かおる: あのころは、宝塚の大劇場は閉鎖されてたから、そんなとこでやってたの。
すみれ: そこで宝塚に出くわしたんだ!?
かおる: うん、そこでビビっときたの。わたしの人生はこれだって!
すみれ: 運命の出会いだったのね!  
かおる: うん。いくよ。いち、に、さん!
すみれ: えい!


手をかざし、紙飛行機の行方を追う二人。


すみれ: すごい、あんなに遠くまで……!
かおる: まぶしい……。
すみれ: 幽霊さんでもまぶしいんだ。
かおる: ……。
すみれ: かおるちゃん、色が白ーい……手なんか透けて見えそうだ(歌う)手のひらを太陽に、すかして見ればー……どうかした?
かおる: ……始まっちゃった。
すみれ: え?
かおる: 消え始めてる……。
すみれ: 消える……!?
かおる: 幽霊はね、生まれかわるか、人に憑くかしないかぎり……やがては消えてしまうの……早い人で死後数年、遅い人で千年……思ったより早くきたな……。
すみれ: かおるちゃん……。
かおる: これって、成仏するともいうのよ。だから、そんなに悲しむようなことじゃない……。
すみれ: いやだよそんなの。かおるちゃんがこのまま消えてしまうなんて!
かおる: 大丈夫だよ、すみれちゃんにも会えたし……。
すみれ: いや! そんなのいやだ! ぜったいいやだ!
かおる: すみれちゃん……。
すみれ: ね、わたしにのりうつって! わたしに取り憑いて!わたし宝塚うけるからさ!
かおる: だめだよそれは。そうしないって決めたんだから。
すみれ: わたし、素質あるんでしょ? わたし宝塚に入りたいんだからさ。ね、おねがい!
かおる: 自分のことは自分で決める。そう言ったじゃない。すみれちゃんは、まだ運命の出会いをしてないんだから、本心から望んでるわけじゃないんだから、そんなことするべきじゃないよ。
すみれ: おねがい、わたしに取り憑いて! FOR YOU 愛信じて……。
かおる: ありがとう、そこまで思ってくれて。温かい気持ちのまま消えていけるわ……動かないで! 消えていく幽霊のそばにいちゃあ、すみれちゃんまで影響をうけてしまう。
すみれ: かおるちゃん……。
かおる: わたし、川の中で消えていく……そうしたら海に流れて、いつか雨か風になってもどってこられるかもしれないから……さようならすみれちゃん。あなたに会えてよかった……嬉しかったよ。
すみれ: かおるちゃん、かおるちゃん……!   

かおるの携帯が鳴る。


かおる: ……石田さんだ。
すみれ: ……?
かおる: ……あたったんだ!
すみれ: え?
かおる: 宝くじが当たったって、石田さんが……ほら、さっきの女性警官の人が、メールで教えてくれたの、一等賞の生まれかわりが当たったって。
すみれ: かおるちゃん!  
かおる: ……どうしよう、生まれかわりは今すぐだ……でも、そうだよね。消えかかってるんだもんね


生まれる寸前の早鐘をうつような胎児の心音が聞こえてくる。


すみれ: 赤ちゃんの心臓……これで消えなくてもすむのね!?
かおる: うん、そう……でも、どうしよう心の準備が……。
すみれ: これでまた宝塚をうけることができるじゃない!
かおる: そうね、そうよね。今度こそ、今度こそ……ね、戦争だいじょうぶだよね。さっきの戦争が日本にくることなんかないでしょうね。もう受験寸前にまっ黒こげなんてやだからね。 
すみれ: うん、大丈夫だよ。ずっと平和が続いてきたんだから。
かおる: ありがと……この携帯あげる。
すみれ: え?
かおる: これで、わたしの生まれかわる瞬間がわかる。生まれかわって、わたしが生前の記憶をなくすまでは、わたしのこと、この携帯でわかるから。わたしのことをたずねてきて……すみれちゃんには見えない携帯だから、なくさないようにね……
すみれ: うん、かならず会いに行くからね。
かおる: FOR YOU……。
すみれ: 愛……。
二人: 信じて……!


心臓の音、力強く大きくなる。


すみれ いよいよ……かおる いよいよね……じゃ、行くわ。必ず、必ずね……


かおる消える。同時に赤ちゃんの産声。


すみれ: 生まれた……生まれかわった!


看護師(ユカと二役でもよい)が赤ちゃん(かおる)を連れて、うかびあがる。嬉しそうなすみれ。


看護師: 北野さん、無事に生まれましたよ! 三千六百五十グラム。元気な赤ちゃん! ハハハ、だいじょうぶ、五体満足。お母さん似のお目め。お父さん似の口もと。利発そうなはり出したおデコ。きっと立派な子に育ちますよ。ね、レロレロバー……さ、それじゃお母さんのところにもどりましょうね……え? ああ、ごめんなさい。とっても元気な男の赤ちゃんですよ! 男の子!
すみれ: 男の子!?
赤ちゃん: 男の子!?(目をまんまるくしてひっくりかえり、くやしそうに泣く)
看護師: おーよしよし……(去る)
すみれ: 男の子じゃ、宝塚に入れないよ……


暗転。保育所のさまざまな音がして明るくなる。数ヶ月後のすみれがあらわれる。


すみれ: あれから数ヶ月。アラブでおこった戦争はまだ続いていますが、今のとこ日本は平和です。わたしはとりあえず大学生になりました。運命的な出会いはまだ。情けないけど、今は、とりあえずユカにぶら下がってます。かおるちゃんが心配していたとおり、あの見えない携帯はなくしてしまい、手がかりは北野という苗字、誕生日、そして三千六百五十グラムという体重だけ。秋の奉仕活動の実習に、ユカといっしょにこの新川保育所にやってきました……そして、この子を見つけました(無対象の赤ちゃんを抱き上げる)北野たけしちゃんといいます。手がかりの三条件にピッタリ。鼻すじが通って、ちょっとしぶい顔をしてるところなんか、かおるちゃんに似ています。保育所の先生たちはジャニーズ系だって言いますが……わたしはひそかに決心しました……男でも宝塚に入れる運動をおこそうと思います! おかしいですか? おかしいっていえば……あの一等の宝くじ、女性警官の石田さんが、自分のあたりくじをかおるちゃんにまわしてくれたんじゃないかなって、今は、そんな気がします……あ、やってくれちゃった……ユカ! かおる……たけしちゃんおしっこ! え、わたしが!? はいはい、おしめかえまちょうね(おしめをはずす)ああ、出てる最中!(おしっこが顔のあたりまでふきあがる)ええと、おしめのかえ方は……ええと……ちょっとユカ!


テーマ曲流れ、すみれが不器用におしめをかえるうちに(登場人物全員が出てきて、宝塚風のフィナーレになったら、いっそういい)


――幕――


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高校ライトノベル・らいと古典・わたしの徒然草・74『蟻の如くに集まりて』

2013-03-04 17:15:01 | エッセー
わたしの徒然草74
『蟻の如くに集まりて』
    

徒然草 第七十四段

 蟻の如くに集まりて、東西に急ぎ、南北に走る人、高きあり、賤しきあり。老いたるあり、若きあり。行く所あり、帰る家あり。夕に寝ねて、朝に起る。いとなむ所何事ぞや。生を貪り、利を求めて、止む時なし。
身を養ひて、何事をか待つ。期する処、ただ、老と死とにあり。その来る事速やかにして、念々間に止らず。これを待つ間、何の楽しびかあらん。惑へる者は、これを恐れず。名利に溺れて、先途の近き事を顧みねばなり。愚かなる人は、また、これを悲しぶ。常住ならんことを思ひて、変化の理を知らねばなり。


 これは、兼好のオッチャンが、時々触れている。というか、落ち込んでいる無常観で、いささか始末が悪い。
 蟻のように生きたって、けっきょく死んじまうんだから、あくせくしたってしかたねえ。と、開き直っている。「生を貪り、利を求めて、止む時なし」そいでも、けっきょくは、老いと死がまっているだけなんだぜ。というデカダンスと紙一重。

 人生およそ八十年。
 だから、80-80=0
 この0の意味の取り方である。お金に例えてみよう。八十円を落っことせば0になる。インスタントラーメンを八十円で買えば、しばらく腹が持つ。八十円で切手をかえば、二十五グラム以内の重さの便りを誰かに送ることができる。
 落っことした八十円は意味がないが、例えインスタントラーメンであっても、食べれば、一時お腹と心が暖まる。
 二十五グラムの便り、書く内容によっては、プロポーズが成功するかもしれず。エッセーの懸賞募集ならば、一等賞になって賞金五十万円ぐらいが手に入るかもしれない。
 要は、-80で何をしておくかによって答の0の意味が異なってくる。

 わたしの友人で、雅号というかハンドルネームというかを「朱夏」としている人がいる。朱夏とは人生の中年を指し、天命を知り、身を立て惑わずの時代である。
 くだいて言うと、自分の人生のテーマを知り、モラトリアムの時代、すなわち親のスネかじりを止め、経済的にも精神的にも独立し「わたしの人生はコレデイイノダ!」と、惑わないことを表す。
 この伝でいくと、わたしは朱夏の最後期で、惑っていてはいけない。おのが人生を顧みて、「コレデイイノダ!」と胸を張り、耳に従い、すなわち他人様のご意見に素直に聞く白秋の準備ができていなければならない。
 ところが、わたしは天命と心得た教職を五十五で辞し、かろうじて出した過去の著作や、出版社が拾ってくださる駄文をもって、「嗚呼、我は、作家哉!」とやせ我慢の胸も張りかねている。戯曲、小説、エッセーと書くものも尻が定まらず。時たま「これを書こう!」と一念発起しても、「ああ、あれが分からん。これも知らんかった」と、ネットで検索したり、広辞苑を引いてみたり。朱夏はおろか「学を志す=青春」の先っちょにいるような気さえしている。
 惑わず=独立も怪しいもので、退職金の食いつぶしとカミサンの嘱託職員としての収入が頼りの毎日。実際、健康保険などはカミサンの扶養家族としてのそれである。
 白秋の準備としての「耳に従い」は、さらにほど遠く、高校演劇を始めとする演劇や、他人様が天命と心得てやっておられることに文を付ける(文句を言う)ことおびただしく。時に「どこまで敵を作ったら気が済むんですか!」「歳を考えておっしゃい!」などと匿名のコメントというお叱りを受けたりする。

 わたしの宗旨は仏光寺派の浄土真宗である。この我が宗旨では開祖親鸞上人以来、人は死ねば、善人悪人にかかわらず、等しく御浄土に逝くことになっている。法名も勝手に決めて「釋睦夫(シャクボクフ)」と決めている。
 御浄土に逝くことは決まっているので、朱夏や白秋などと取り澄ますのは止しにしようと思う。分からんものは分からんと言い、嫌なものは嫌と言って残りの二十年を、生き恥と言われながら生きていこうと思う……と、思うところまでは開き直れない。
 毎日、ブログのアクセスを気にし、コメントやトラックバックにヒヤヒヤ。

 どうやら、わたしの人生には、人並みな朱夏や、白秋、玄冬は来ないようである。十年ほど前なら朱夏と、汗水垂らしながら言えたが。今は鼻水垂らしながら、こう言う。
「一生、青春です!」
 で、青春が、そんなに美しく素晴らしくもなく、神田川のようにナルシスティックにナケナシの傷を舐め合うことでもないことを知っているアラ還男には、着古したジーパンのように肌になじみ、わずらわしいものでもある。
 始末の悪さは、兼好のオッチャンが言うところと変わりがない。せめて、インスタントラーメン一杯分ぐらい0に意味があれば上出来。

 愚禿釋睦夫

(注)愚禿とは、親鸞上人を気取っているのではなく、見た目の通り。


『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』        

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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ映画評『フライト/ジャンゴ』

2013-03-01 21:37:27 | 映画評
タキさんの押しつけ映画評
『フライト/ジャンゴ』



これは悪友の映画評論家・滝川浩一が仲間内に流している映画評ですが、もったいないので、本人の了解を得て転載したものです


フライト
 
 いつもながらにデンゼル・ワシントンは巧い。脇のジョン・グッドマン/ドン・チードルもナイス!

しかし、本作の幕切れはハッキリ言って嫌だ!
 以下、ネタパレを含むので 見に行く予定の方は読まないで下さい。

 コントロールを失ったジェット機が奇跡的な操縦で最小限ダメージの不時着を果たすが、他方 機長の血液からアルコールが検出される(飲酒の上の旅客機操縦は極刑、但し 機乗前チェックがあるので有り得ない筈)。弁護士は事故後の検査結果を潰し、審問は機長有利で進み、後は最終審問さえ通ればメデタシで終わる……委員長の最後の質問に対して機長は……と言うストーリー。
 さて、この設定は前述の通り有り得ない。アメリカの航空会社の現状がこの通りだとするなら飛行機なんか絶対に乗れない、いわば日本のタクシーに一定割合でアル中ドライバーがいると考えれば良い、皆無とは言わないが まずいない筈だ。
 ネタは もうお分かりだと思うが機長はアル中である上に 搭乗前にコークを吸引して目覚ましにしている。3日で1時間のフライトを10往復なんぞという 過剰勤務を口にしているが、それにもまして機長の複雑な家庭環境も語られる。まるでストレスだらけで逃げ場所が全く無い毎日、結果 パイロットとしては許されざる生活を送っている事が語られる。
 まず、本作はジェット機の墜落を救うスペクタクルを冒頭に持ちながら、その内容はアル中が主人公の単なる私小説である。
 最後に機長がする証言は全く正しい、異論の余地は無い。しかし、大声で“アメリカの正義”を叫んでいるに過ぎない、然も 有り得ない前提の元で……コパイロットが何だか変な奴だと思っていたら、ヤッパリ 彼は宗教原理主義者だった。不気味な事この上ない。
 監督ゼメキスはジェット機の急降下と同じく 機長の人生も墜落寸前だったと言いたいらしい。事故以来 機長が出会う人々が天の配剤であり、彼はその導きに従い 正しい選択をする……臭い!あまりにキリスト教臭い! こんなストーリーは無理苦理じゃないか。
 いかにデンゼル・ワシントンが天才俳優であろうがここまで破綻した話を演じ切るのは不可能だ。 航空会社に対する遠慮なのか、ハッキリ企業に対する批判が無く 粗方の原因は機長の個人的事情に押し込めてある。その上でのこの選択は“宗教”の導きに拠る“アメリカの正義”でしかない。これで証言後の機長が解放された表情をしているのが気色悪い。私小説好きにはこれで満足かもしれないが、私にはこんな映画で満足する感性はないし、これを見て感動する義理の持ち合わせも無い!


ジャンゴ

 ふざけとるんかい〓〓〓何なんやこのストーリーは、タランティーノファンもいてはりまっしゃろと「イングロリアス・バスターズ」さえ何がしかは認めたが……も~~うアカン! こいつを評価するってなら どのシーンの何が どのように評価出来るのか はっきり納得行くように説明してくれ!
 マカロニウエスタン(正しくはスパゲティウエスタン)に対するオマージュだとか、アクションがスゲェだとかは一切受け付けない! これが単なるアクション映画だってなら聞いても良いが、アカデミー賞助演男優賞と脚本賞だっせ! 納得いく説明してもラおやないかい!
 助演男優賞については、F・S・ホフマン(マスター)とT・L・ジョーンズ(リンカーン)を見ていないので即断しないまでも、これに比べてR・デ・ニーロの何が劣っているのか? これが脚本賞だってのなら“0dark30”の何が劣っていたのか説明してくれ! 絶対納得行かない。
“イングロリアス・バスターズ”が恥も外聞もなくユダヤにおもねた作品なら、本作はニガー(黒人に対する蔑称、敢えてこの言葉を使う)におもねた作品である以外 いいようが無い。違うというならきっちり反証をそえて反論いただきたい。いつ、誰からの反論にも受けて立ちます。但し、タランティーノが大好きってな感情論は一切相手にしない。“好き”なのはあんたの勝手ですわ、俺は感情論からいっても大嫌いとだけは言っときます。 久しぶりに二本二敗、さあ、今からゲン直しに飲むぞぉ~!
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