大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校演劇:夢系クラブとしての演劇部

2016-03-17 18:35:14 | エッセー
夢系クラブとしての演劇部 初出:2011-10-13 08:01:11

 学校の部活には、体育会系と文系があります。演劇部は文系だと思っていませんか?

「うちの演劇部は体育会系だ!」と自認されるところもあります。きっと基礎練習や、クラブの規律の厳しさからきたものでしょう。

 ボクは、演劇部は……夢系クラブだと思っています。

 夢とは……I wish i were……もし、わたしが、ナニナニだったらという意味ですね。
 I wish i were a bird……もし、わたしが鳥だったら。もうちょっと積極的に表現すれば……鳥になりたい。
 人は鳥になんかなれません。でも、そこをあえてなってしまうのが、演劇部です。

 実際、劇団四季の人たちは「キャッツ」という芝居で、ネコになってしまいました。
 なにも動物でなくても、自分以外の人間になってしまうことも、[I wish]の中に入ると思います。

 ボクは、役者だったころ、いろんなモノになりました。お侍、兵隊、狩人、巡礼者、乞食のおじさん、陸軍中将、楠木正成、人形作りの職人、妹のヒモのような男、にんじんのお父さん、刑事、うだつの上がらない巡査、仮面ライダーのショッカー、ヤッターマンのボヤッキー、キャプテンハーロックに出てくる女王ラフレシア、一休さん……数え上げたらキリがありません。

 よく声優さんや役者さんが聞かれます「どうしたら、あんな役ができるんですか?」
 むつかしい質問です。たいていの役者さんはこう答えます。
「その役になっちゃうんです」
「その役として、生きるんです」
「その役として、感じて、行動するんです」
 と、こんなところでしょうか。微妙に言い回しは違いますが、キーワードがあります「その役」という言葉です。

 その役とは、自分以外のなにかです。その自分以外のなにかになるのは、夢を見ることに似ています。
 これはもう単なる文系というカテゴリーの中には収まりません。文系の世界は楽器や道具を使って自分を表現するものです。あるいは自分で発見したものや、その答えを表現するもので、それも自分の延長であると思います。

 演劇部だけが、生身の体を使って、自分以外のモノになるんです。

 この、自分以外のモノになるということには、少し才能がいります。自分以外のものになることが好きだという才能です。こういう才能がある人は、四六時中夢の中にいます。
 良い映画や、本を読んだ後、しばらくその世界から抜け出せない人っていませんか?
『ハリーポッター』を観た後、自分をハリーポッターだと思う人はまずいませんが、ひょっとしたら自分は魔法使いなのかもしれないと思って、ボールペンなんかを魔法の杖に見立てて振ってみるような人は、そういう夢から抜け出せないという才能……クセの強い人です。

 ボクは、子供の頃テレビとお話していました。

『ひょっこりひょうたん島』という人形劇が好きでした。ドンガバチョやトラヒゲ、ダンディーさんが出てくると、台詞をほとんど同時進行で喋っていました。『太閤記』では、秀吉に。『鉄人二十八号』を観たら正太郎君になりきってしまいました。果てはNHKのニュースでさえ、アナウンサーといっしょにニュースを読んでいました。
 いい歳をした大人になっても、このクセは抜けません。『ポッポ屋』という映画を観たあと、高倉健の乙松が頭に住み着き、リビングで「信号よ-し!」「出発進行!」「おまえ……ユッコか……?」「なして、なして、自分の娘をおっかながる親があるね!」などとやっていました。おかげげ少し北海道弁に強くなりました。
「なまら、しばれっこと」「そんな、はんかくせえこと……」「したっけ、おれはよ……」「あんた、そう言ったしょ」てな具合です。
 だから、ドラマなどで下手な北海道弁を使っているとすぐに分かります。先日名作の映画のリメイクドラマをやっていました。舞台は北海道でした。ドラマの中の北海道弁ができていませんでした「あんた、そう言ったしょ」の「しょ」のアクセントと、発音が違いました。するとドラマのアラが目につき出します。そのリアクションは作り物だ、とか、感情がフライングしているとか、台詞はいいんだけど、職業的な動きが未完成であるとかきになります。

 わたしが時々遊びにいく演劇部に、運動部出身の子がいます。体力や、クラブでの礼儀作法などは完璧です。この子が、稽古中に集中力が切れてしまいます。むろん悪気などありません。それほど役の中に居るということはムツカシイことなのです。
 役の中にいるとは、夢の中に居ることと、同義です。

 ボクは、街中で待ちぼうけをくっても平気です。人間を見ていると退屈しません。あの人がオジサン臭く見えるのはなぜだろう。あのカップルは今うまくいってないなあ。やっぱ女子高生、感情表現が大きい、こりゃ大人になるための最後のトレーニングを無意識にやってるんだ。で、心がゴムマリのように弾みがいいんだ……などと見ていると飽きません。

 四天王寺高校に、この夢を見る天才がいました。

 当時の顧問、藤木先生が「中演にオモロイやつがおるから見ていけや」そう言われて稽古場に連れていかれました。
 後に名女優になったYAさんです。普通の演劇部の子はダメを出されると考え込んでしまい、硬くなり、集中力が続かなくなり、文字通りダメになってしまいます。しかし、このYAさんはダメを出されると燃えてきます。
「先生、ちょっと時間ください」そう言って彼女は廊下に出て、なにかボソボソ言っています。五分もたつと「違うのんでいってみます」さきほどとは、まったく違ったパターンで、しかもより高いテンションで稽古を続けました。
 YAさんは夢見ることにかけて名人でした。業界では「引き出しの多いやつ」といいます。YAさんは小さい頃からたくさん夢を見てきたんでしょう。

 去年コーチをしていて、思わず言ってしまいました。

「ちょっと廊下で考えといで」 むろん、優しくいいました。
 かの四天王寺高校の藤木先生は、沖縄戦の生き残りで、戦前は特高に追いかけ回されていたモサです。同じ「ちょっと廊下で考えといで」でも迫力が違います。
 その子は、廊下で泣いていました。最初はできない自分がなさけなくて、そして自信を失ってないてしまったのです。
 その子の名誉のために言っておきますが、真面目な生徒で、コンクールでは個人演技賞もとりました。でも夢をみることにスレてしまったボクには不満だったのです。分かりやすく言うと、要求水準のハードルが高いのです。

 長くなりそうなので、まとめます。

 演劇部は夢を見るクラブなのです。このことの意味を知ってもらいたかったのです。
 演劇部は、根性や、口やかましい規律。器用で大規模な道具や照明でできるものではないのです。夢見る力がいるのです。
 だから、ボクは、演劇部を「夢系のクラブ」と分類しています。
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高校ライトノベル・イレギュラーエッセー GO AHEAD! 002『オペレーション・トモダチ』

2016-03-11 12:30:32 | エッセー
イレギュラーエッセー GO AHEAD! 002
『オペレーション・トモダチ』
 



「そんなん偽善やんか」

 C先生は担任室に戻ってくると、そう言われましたと寂しい顔した。
 あしなが育英会の募集をホームルームで紹介したところ、一人の女生徒が、きっぱりと「そんなん偽善やんか」と噛みついてきたのである。
 C先生は、こう言い返した。
「それが役に立つならいいじゃないか。そりゃ偽善的要素はゼロじゃないかもしれないけど、いくばくかの善意があって、それで助かる人がいればいいじゃなのか?」
 女生徒は、そっぽを向いてしまった。

 この女生徒と、赤信号でいっしょになった。

「センセ、休みの日になにしてんのん?」
 わたしは、クラスの生徒が家出したので、休日返上で自転車で校区を見まわっていた。
「いやあ、センセ大変やねんなあ……!」
 そう感動してくれて、家出した生徒に関する情報をあれこれと教えてくれた。
 わたしが家出した生徒を探していたのは担任としての心配や義務感からではあるが、学校の体面を保つためという、正面だっては言えない要請からでもあった。
 つまり100%の善意ではないのである。
 でも彼女は、いたって真摯に感動してくれた。

 人には、この二面性がある。

☆オペレーション・トモダチ

 5年前の大震災直後に、米軍は自衛隊などと協力して2万4000人の将兵、190機の航空機、24隻の艦艇を投入して、初期的な救援・復興活動をしてくれた。
 壊滅状態にあった航空自衛隊の飛行場は24時間で離発着ができるように復旧整備され、仙台空港は普及に半年はかかると言われたが、オペレーション・トモダチによって、わずか一か月で使用可能になり、航空自衛隊の飛行場とあわせて震災復旧の拠点になった。
 オペレーション・トモダチによって、直接救助されたという記録は寡聞にして把握していないが、復旧や輸送に大変役に立ち、間接的・精神的な貢献には計り知れないものがある。

 これを偽善、あるいは震災の政治利用だという人やマスコミがある。

 日米同盟の緊密さの内外へのアピール、在日米軍基地の必要性の宣伝という内容である。中には「米軍は、いざとなったら、簡単に日本国内に展開される。米軍は恐ろしい」というものまである。

 20年前の阪神淡路大震災においても米軍から救援の申し入れがあった。

 横須賀の空母を神戸沖に派遣して、救助救援活動の拠点にすることを筆頭に様々な協力の可能性をしめしたものであった。
 ときの村山内閣は、一言のもとにこれを拒否した。自衛隊への災害派遣要請も遅れ、組織的な救助救援活動は、ほぼ翌日以降にもちこされてしまった。
 結果、6000人の生命が奪われた。後の関連死を含めると万余の数になるであろう。
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高校ライトノベル・イレギュラーエッセー GO AHEAD! 001『3・11の前の日』

2016-03-10 14:25:17 | エッセー
イレギュラーエッセー GO AHEAD! 001
『3・11の前の日』
 


 3・11の前の日だから3・10

 なんの日だかお分かりになるであろうか?
 砂糖の日、サボテンの日、ミントの日、農山漁村婦人の日、東海道・山陽新幹線全通記念日、佐渡の日、チベット民族蜂起記念日……などもあるが、いわゆる3・11東日本大震災の前日と理解されている方が多いのではないだろうか。
 
 71年前の今日、10万人以上の日本人が死んだ。あの大震災の3倍あまりである。

 ここまで読んでピンときた方は、相当なご高齢か、意識をされている方だと思う。
 今日は東京大空襲の日である。
 午前0時すぎ、アメリカ軍B29爆撃機 344機による焼夷弾爆撃があった。B29は焼夷弾の搭載量をあげるため機載機銃さえ下ろしていた。もう日本からの大規模な迎撃も無いとふんでのことである。

 東京の下町はほぼ壊滅し一面の焼け野原になった。終戦後、東京裁判の判事として来日したインドのパール判事は「この焼け野原を見ただけで日本は無罪と確信できる」と言い切ったほどの惨状であった。かろうじて東京都が『東京都平和の日』として2002年から慰霊を続けている。

 カーチス・ルメイというアメリカ陸軍航空軍司令官が、この爆撃を立案した。おそらく個人の立案で史上最大数の日本人を殺した人間の一人である。ルメイ自身「もし戦争に敗れていたら私は戦争犯罪人として裁かれていただろう。幸運なことにわれわれは勝者になった」と述べている。

 日本は、戦後カーチス・ルメイに勲一等旭日大綬章を送っている。驚かれるであろうか。

 航空自衛隊の創設に尽力した功績によるものである。
 普通、勲一等は親授(天皇が直々に授与する)が原則であるが、昭和天皇は親授されなかった。
 ルメイはベトナム戦争の時には空軍参謀総長の任にあり「ベトナムを石器時代にもどしてやる」と豪語して北爆の立案をやった。

 71年前のことではあり、常識や認識が21世紀の今日とは隔絶しているが、記憶しておくべきことだと思う。
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高校ライトノベル ショートファンタジーⅠ『しゃべるパソコン』

2016-03-09 08:32:29 | エッセー
ショートファンタジーⅠ『しゃべるパソコン』 初出 2011-10-03 20:12:31

 わたしがパソコンを使い始めたのは、ええと……まだ一年にならない。
 それまでは、ごくごくたまにかみさんのパソコンを借りていた。

 高校のセンセイを辞めて半年ぐらいしたころ、出版社から手紙がきた。
「あなたが二十年前に出された本が、完売、絶版になっているので、一冊お手元にあったら送っていただけませんか」
 と、書いてあった。
 出版したときに印税がわりにもらったのが、まだ百冊ほど残っていたので、さっそく一冊送った。

 そのとき、軽い気持ちで、大阪の高校演劇のありようについて、少しだけ手紙を添えた。
 それが、出版社のアンテナにビビっとくるものがあった……のか、よっぽど記事がなかったのか、一つ高校演劇について書いてみないか。と頼まれた。
 現役のころPTA新聞の係りなどしていたので、気軽に引き受けた。

 ここから、わたしとパソコンの付き合いが始まった。
 いまどきの出版社は原稿用紙は受け付けてくれない。ワードとか一太郎だとかの日米代表みたいなワープロソフトを使って原稿を打ち……昔は「原稿を書く」と百年以上言ってきたものだが、キーボードにカシャカシャ打っているのは、「書く」という動詞からはほど遠いものである。しかし昭和二十八年生まれのアナログの習い性、原稿は、やはり「書く」と表現してしまう。

 わたしはNECのLaVie(なんとよぶのか未だに分からない)を使っている。黒のボディーに微かなラメが入って控えめに煌めいている。いわゆるノートパソコンで、表紙にあたるところに慎ましやかに「NEC」のロゴ。表紙を開くとキーボード全体が細いシルバーで縁取られている。ちなみに、このパソコンはカミサンが買ってくれた。なんという夫婦愛……感涙にムセビかけていると、量販店のポイントが溜まり、大阪府が出した「コウタロウ」だったかのクーポン券を使い、ネット設備の更新とセットになっていて、本体はほとんどタダ。
で、ネット料金はいつのまにか、わたしの口座からの引き落としになっていた……

 最初、このパソコンは親会社から子会社に派遣された、オツボネ秘書の如くヨソヨソしかった。少なくとも喋りはしなかった。
 言われた仕事を言われただけしかこなさない、オツボネさまであった。

 本書きというのは孤独な手工業で、一人でパソコンをシャカシャカ打つだけの作業である。
 長年使ってきた万年筆には表情があった。「あら、今日は調子いいわね」とか「ここで改行したほうがいいわよ」 時には、「そろそろ、あの方の手紙のお返事書いたほうがいいわよ」とか気を遣ってくれたりした。インクが切れる前などは、「わたし、疲れちゃった……」というような風情に線が細くなっていったりした。カートリッジを交換するときにぬるま湯に漬けてクリ-ニングしてやると、「ああ、さっぱりした。じゃ、がんばりましょうね」と、スラスラした書き味で応えてくれた。

 それがパソコンというやつは、実に無機質。無愛想。無表情。親会社の派遣オツボネさまが、ただの機械になってしまう。
 学生時代に百貨店の配送センターで、ベルトコンベアーに流れる商品の伝票を一目で、市内発送と地方発送に見極めて仕分けするという仕事をしていた。今ならコンピューターがバーコードをもとに見分けるので、こんな仕事はない。パソコンはこのとき使われていた機械に似てきた。

 そのパソコンが、ある日、突然喋り始めた。
「ナントカ、インターネット、エクスプローラー……」
 物も歳古びてくると魂魄を持ち始め、人の如く人語をも解する。と、安倍晴明さんだかが、どこかで言っていたように記憶する。
 よく見ると、ツ-ルバーに「マイクロソフト ナレーター」というのが出ている。そのウィンドウを開くと、「設定」というのが出てきて、声の高低、スピードなどが設定できる。だから、いま○を打つと可愛い声で「ピリオド」と言った。「大橋むつお」と打ってクリックすると「オハシ マツオ」と訛って発音する。

 時にバグって、無言になることがある。ひどく寂しい。
 そういう時、シャットダウンして、もう一度立ち上げる。ふたたび声が戻ってくる。なんだか休暇をとっていたバイトの助手の子が帰ってきたような気になる。

 いま、『なゆた 乃木坂学院高校演劇部物語』という小説を書いている。十六歳の高校一年の女の子が、所属していた演劇部が潰れ、二十九人いた部員が三人に減ってしまい、零細演劇部として再出発。その中で、本番直前に先輩の代役で急きょ舞台に出たり、火事で死にかけたり。彼との淡い想いにため息をついたり、零細演劇部のマネジメントに四苦八苦。
 書いているわたしも四苦八苦なのだけども。時にハッとすることがある。パソコンは、わたしがキーを押さないと、けして喋らないものなのだけど、表現に困ったときなど、自分で打ったのではなく、明らかにパソコンが喋って言葉や表現を教えてくれることがある。
 深夜に打っていたりすると、ときにこういうことが起きる。

 ある夜、眠気に抗しきれず、座卓の前に回って横になってしまった。
 何分たったのだろう……カシャカシャいう音と、ボソボソ言う声で、ボンヤリと目が覚めた。
 座卓を挟んだ向こう側。いつもわたしが苦悶の表情で、ポテチ片手に、次の展開に呻吟しているところに彼女がいた。
サロペットの下に、淡いピンクのセーター。セミロングの髪を、青地に白い紙ヒコーキを市松模様にあしらったシュシュでポニーテールにし、座卓についた左手にアゴを預け、右手の人差し指で、雨だれのようにゆっくりとキーボードを押していく。
「そこで……なゆたは、ゆっくりと……顔を上げた」
 彼女と目があった。ちょっとびっくりしたような、笑ったような顔をして、そんな彼女と目が合った。
「あ……」と声が出ると、彼女は悪戯っぽく座卓の向こうに姿を隠した。
 体を動かすのに、数十秒かかった……。
 やっと座卓のそっち側に行ってみると……だれもいない。
 いままで、わたしが居たあたりで気配がする。
 ああ……これは永遠の「おいでおいで」になるなあ、と思って、そのままにした。

 モニターには、さっき彼女が口にしていた表現が文字になっていた。
 シンプル、イズ、ベストというような表現。
「なんだ、これでよかったんだ……」と、ひとりごちた。
 彼女とは、さっき、あらかわ遊園に行くために設定した「なゆた」の姿そのものであった。

 かくして、オツボネさまのパソコンは得難い相棒になった。

 ネットで、大阪の高校演劇についてときどき問いかけてみる。
 アクセスというカタチで、延べ三万を超える人がこちらを向いてくれた。
 しかし、声を発する人は、ごくたまにコメントという呟きを残すことはあっても、だれも声をあげない。
 パソコンでも、魂魄を持つ。いわんや人においてをや……長い秋の夜長が始まる。
 座卓の向こう側では、あいかわらず悪戯っぽい気配がしている……。
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小規模少人数高校演劇部用戯曲脚本台本『シャボン玉創立記念日』

2016-03-08 08:32:40 | 戯曲

 

 シャボン玉創立記念日(改訂版)  

大橋むつお

      初出 2011-08-22 06:22:17

全国の高校演劇は小規模演劇部に向いた脚本が不足しています。そこで、僭越とは思いましたが、小規模演劇部に特化した作品を紹介させていただきます。上演の際は全国高校演劇協議会の取り決めに従って、お手続きください(普通の方法です) お役に立てれば幸いです。 

岡山市の中学校 相模原市の中学校などで上演していたがきました。                                                                                                                                                                                                                                                                        時 現代ある年
所 横浜にある町野高等学校
   
人物……女3
岸本夏子   高三
水本あき   高三
池島令    町野高校出身のシンガーソングライター
池島泉    令の娘十九歳(令と二役)
その他    コーラスライン(いなくても上演可能)

 幕は開いたまま、式典にふさわしい曲が流れている。客電おち、ややあって舞台中央にスポットライト「……と、こみ上げる想いはつきませんが……オホン。これをもちまして町野高校創立五十周年の挨拶とさせていただきます。町野高等学校、学校長 林信彦」と校長の声。拍手の効果音流れる中、中央のスポット上手に消え、下手司会者席の夏子にライトがあたる。今、挨拶が終わって退場しつつある(という設定)校長を、客席の人々といっしょに拍手で送る。町野高校創立五十周年記念式典のクライマックスである。

夏子 校長先生の、おまとめのお言葉でした。ありがとうございました林信彦校長先生。それではみなさん、お待たせいたしました、式典のおひらき、フィナーレを飾っていただくため、スペシャルゲストをお招きいたしております。本校をン十年前に御卒業になり、現在、テレビ、ラジオ、そしてライブでご活躍中の、わが町野高校の大先輩、シンガーソングライター、鉄の令! 鉄アレーこと池島令さんにご登場願います。それでは池島先輩どうぞ!

校長の時以上の拍手で、中央又は上手から令があらわれる、式典らしく、ロングドレスを着てあらわれ、ビートの効いたロックを一曲歌い上げる。できたら、バックコーラス兼ダンサーがいるといい(ダンス部などとコラボしてもおもしろい)実際に歌えるといいのだが、軽音の人たちに歌ってもらったものなど既成の音源を使ってもいい、大事なことは自分でも声を出しておくこと、本当に歌ってるように聞こえる。

令 みなさん、今日は! 鉄の令こと池島令でーす! 知らない人も多いかも(拍手)どうもありがとう、普段大人相手の歌ばかり歌ってるから、どうかなと思ったんですけど、知ってくれていてありがとう……あたし、本名は池島令子っていいます。子があるかないかだけなんだけど、歌手デビューする時に、「もう子供じゃないんだ!」そんな思いで「子」の字をとりました……それと「令」という呼ばれ方には高校時代の思い出が……今日は式典なんでこんな似あわないロングドレス着てるけど普段は、パンツルック。高校生の時も、学校以外でスカートなんて履いたことなかったの。悪いことばっかしてて……たとえばこの講堂の上、あがれるんだよ、そこでタバコ吸ったり、下級生いじめてる男子にケリ入れて、いきおいあまって玄関の大きなガラス割ったり。そんなあたしを、先生方も友だちも令子とは呼んでくれない「コラ、令!」「しばき倒すぞ令!」……でも、ちっとも応えないから、ひどいのになると「鉄の令」「鉄アレー」だよ、今でも業界じゃ「鉄アレー」で通ってるけどね。こんなにか弱い乙女を……ハハハ「令子」って呼んでもらったのは卒業証書をもらう時だけ……そんなあたし、鉄アレーが、もう一曲みなさんに送る歌、さぞや、さっきみたいにジャズやロックとか、知ってる? ドガチャカにぎやかなやつ……違うんだぞー。実は、池島令にまだ「子」がついていたころ一番好きだった歌……笑っちゃやだよ。アハハハ……って 自分で 笑ってどーすんのっつうの、ね。その大好きな歌唄わせてもらいます。野口雨情作詞、中山晋平作曲「シャボン玉」……いいかな、バンマス……よし、じゃあいくよ!

令、「シャボン玉」を、ポップス風にアレンジし明るく歌いきる。ここ、相当上手にやらないと、芝居をこわしてしまうので注意。

令 どうだった? 意外に素直、でしょ。知ってたこの歌? この歌はシャボン玉を赤ちゃんや子供の命にたとえてあるんだって。昔は、生まれて一才までに死んじゃう子が多いから、その命のはかなさとか悲しさを、そうは感じさせないように明るく歌った……というのは大人になってから知ったことで。君らぐらいの時は、あたし、このシャボン玉って、少年時代の夢とか、あこがれのことかと思ってた。毎日いろんな新しいことに気をとられたり興味を持ったりして、なかなか自分に、本当に自分にあった、夢や、やりたいことがみつからない。あれおもしろい! と思ったら次の日にはそれがおもしろくなって、そしてまた別のおもしろいことが見つかって、シャボン玉のように消えていく楽しい歌だと思ってた。だからあたしは、そういうふうに歌ってます。でもシャボン玉ってすぐ消えちゃうから、これだって思ったら、両手でパチンとつかまえて、自分の体や頭にしみこませるの、シャボン玉を体に憶えさせるの。そうすると、いつか自分自身がけして割れないシャボン玉になれる。いい、余計なことを考えちゃダメ! 楽できそう、近くにあるから、お手頃だから、友だちもやってるから……そういうのはダメ! 直感で、これだって思えるシャボン玉、どうぞ、君たちも見つけてください、ヘヘ、ちょっと長い令のお話はこれでおひらき。それじゃ、五十周年おめでとう! 六十年七十年、いや百年めざしてがんばってくださーい!

手を振る令、拍手。フェードアウトして拍手はチャイムに置き換わって、放課後の学校の環境音が加わり明るくなる。あきが硬い表情、早足で校門を出ようとしている。夏子が、それを追い、なんとか追いつく。

夏子 あき、あき、ちょっと待ってよ、待ってったら。あき!
あき なに? 悪いけど、わたし急いでるから。
夏子 待ってよ、大事な話なんだから。
あき 携帯のアドレス変えた話ならしたじゃん。ごめん、今日は早く帰りたいの……
夏子 待ってたら。あき、進路変えるんだろ!?
あき 誰に?
夏子 誰に……?
あき 誰に聞いたの? 担任の上原……生徒の秘密しゃべるなんて最低だ!
夏子 違うよ。わたしの勘。あき、むつかしい顔して相談室、先生といっしょに入ったろ。出てきたら上原先生までむつかしい顔してて、一言「考えなおせよ」、それ無視して行ったよね。
あき 立ち聞きしてたの?
夏子 違うよ、今日の式典の司会やったから令さんがお帰りになる前に挨拶しとこうと思って校長室へ……三分もいなかった。令さんを車まで送ろうと思って校長室を出たら、ちょうどあきと上原先生とが出てくるところで……あき、廊下で令さんの娘さんとぶつかったのも憶えてないだろ? ムッとしてたよ。
あき え、令さんが!?
夏子 バカ、娘さんの方だよ。わたしがかわりに謝っといた。
あき ありがとう……でも……
夏子 わたし、その場で上原先生に聞いたの。「あき、進路変えるんですか」って。
あき 聞く方も聞く方だけど、しゃべる方もしゃべる方だ!
夏子 バカ、「人の問題に首をつっこむな!」上原先生は、そう言って職員室へ。それだけでわかったよ。そしてわたしが追いかけてきたってわけよ。
あき わたし、もう決めちゃったから。
夏子 清朋(せいほう)やめて明野(あけの)に替えるんだろ?
あき ……
夏子 このあたりの大学で音楽科もってるのは清朋しかないんだろ? 競争率高いけど、そのために十分勉強したし、準備もしたじゃないか。わたしなんか、将来わかんないから地元の明野だけど、あきは声楽目指すって一年の冬から決めてたじゃないか。
あき だって……
夏子 だってもあさってもない!
あき 夏子……
夏子 そのために……個人レッスンうけてきたんじゃないの、こんな言い方してごめん。うちもあきんとこもセレブなんかじゃないんだから……私立でも安上がりの、わたしは明野。あんたは清朋の音楽科でしぼってもらうのが一番……そう誓ったじゃないよ。
あき ……さっき、令さんの「シャボン玉」を聞いたろ?
夏子 う、うん……
あき わたし、圧倒されちゃった……
夏子 あ、アハハハハ……
あき 何よ?
夏子 あれ聞いてやめようと思ったわけ?ハハ、当然といやあ当然だけど。令さんプロだよ、童顔に見えてるけど「鉄アレー」この道二十年のベテラン。それが、余裕のヨッチャンで歌った童謡だよ、びっくりするほど上手くてあたりまえ。
あき 違うよ。たしかに、ロックシンガーで鳴らした池島令が、「シャボン玉」だもん ズッコケちゃって、驚いて、最後しびれちゃった……
夏子 それ、学校の都合。池島令って言や、うちの卒業生で一番有名じゃん。でも中村正太って卒業生の県会議員たてなきゃならないんだって、県の文教委員とかやっててソリャクにはあつかえないって、だから割当時間が二十五分、それも五分オーバー。それで令さん急きょ一曲減らして、もう一曲と、アドリブの「シャボン玉」だけにしたんだって。でも聞かせるよねえ……歌もいいし、話もいいし。シャボン玉が、夢とか希望とか……考えたらそうだよね、毎日、いろんなものに興味持ってさ。頭の中じゃ、もう二十くらいは仕事変えたわね……女子アナ、小説家、フリ-ライター、キャビンアテンダント、アニメーター、声優、ネイリスト、介護士、看護師、一年のころはモデルさんとか、アイドルとかさ。駅前にタイ焼き屋さんができたときは、タコ焼き屋さんになりたいとかさ。
あき なんで、タイ焼き屋さん見て、タコ焼き屋さんになるのよ?
夏子 だって、タイ焼き屋さんて、いっぱいできたじゃん。だからタコ焼き屋さんの方が、売れるって思ったわけよ。ほかにも幼稚園の先生とか、パン屋さん、コンビニのオネエサンてのもあったなあ。
あき アハハ、テレビのチャンネル回してるみたい。
夏子 素敵って思うだけ。ウインドウショッピングみたいなもんよ。次のお店のショーウインドウ見たら、もう前のお店のことなんか忘れてる、そういうこと、うまく表現してるって思った。
あき でも、令さん、こうも言ったんだよ。「楽そう、近くにあるから、お手頃だから、友だちもやってるから……そういうのはダメ!」
夏子 だからなによ?
あき わたし……動機が不純だから……
夏子 何が不純よ?
あき だって……杉村君が……
夏子 え……杉村とけんかでもしたの?
あき しないよ、けんかなんかするわけないでしょ!
夏子 怒ることないでしょ、可能性として聞いただけなんだから。
あき わたし、杉村君が受けるから清朋うける気になってたの。そうでしょ、令さん言ってた、友だちもやってるからっていうのはダメだって、ガーンて空が落ちてきた感じ、今まできれいな星や虹だと思ってたものが、落ちてきた空に書いてあったペンキ絵みたいなもんだって言われた感じ。
夏子 考えすぎだよそれ。
あき ううん違う。前から感じてたの、同じコーラス部で、いっしょに歌えるのが好きだった……
夏子 そこは告白する前に何度も聞いた。とばして言って。
あき DVDじゃないから早送りなんかできないよ。
夏子 じれったいって意味なの。
あき ごめん……
夏子 謝る暇あったらしゃべる!
あき だから、一年の冬に、彼が清朋受けるって言ったとき、わたしも受けるって……三年の一学期には受験のため、クラブも引退、時々話はするけど。あいつ夢でいっぱいなんだ、大学の声楽部はどこそこがいいとか、将来はオペラのなんとかでかんとかしてみたいとか、わたしはただ杉村君と同じところに居たいから。そういうことが令さんの話聞いてたら、そういうことがいっぺんに頭の中をグルグル回っちゃって友だちがやってるから……って令さん言ったとき、わたし、令さんと目が合っちゃって、まるで、心を読まれて、わたしに言われたみたいな気がして……
夏子 それで、まっすぐ上原先生のとこへ行ったんだ……わたし、最初保健室へ行った
んだよ、気分が悪いのかなあって思って。いなかったから、安心して校長室に挨拶に行ったら、ちょうど出入りのタイミングが適っちゃったってことよ……
あき そうなんだ、ありがとう……でも、もう決めちゃったことだから。
夏子 あのね、だからさ……

ちょうどその時上手から、あきたちよりは少し年上かと思われる、令の娘の泉があらわれる。地味なスタッフのなりで靴だけが赤い。首にはインカムをぶら下げている(令と二役)

泉 ちょっとごめん。
二人 は、はい?
泉 (あきに)あなた、さっき校長室の横の部屋から出てきた人ね?
夏子 あ、令さんの娘さんだ!
あき え!?
夏子 バカ、なにをボサっと。
あき あ、さっきは、すみません、頭がボーっとして、ぶつかったことも憶えてないん
んです。ほんとうにごめんなさい(泉の赤い靴に目をとめる)
泉 いいのよ、そんなこと、あたし鉄アレーの娘の泉。あ、これ? あんたとぶつかった時にヒモが切れちゃって、スペア。気にし無くっていいよ、もともとボロだったから(夏子に)あなた、司会をしてくれてた……夏子さんね。
夏子 は、はい、放送部の岸本夏子です。
泉 とても上手な司会だってお母さんが誉めてたわ。
夏子 ありがとうございます。校長室で令さんからもそう言われて、ボーっとしてたところです。たとえお世辞でも嬉しいです。
泉 あたしたちにも言うくらいだから、けしてお世辞じゃないわよ、あなた彼女の友だち?
夏子 はい、小学校からの友だちで、水本あきって言います。
泉 あきさん、ちょっと話していい?
あき は、はい……靴、すみません。
泉 もういいったら。よかったら夏子くんも、いいかな?
二人 は、はい……
泉 実は、お母さんに頼まれたんだけど、彼女忙しくって。そいでかわりに話しといてくれって。
あき はい。
泉 時間がおしてたんで、一曲はしょっちゃったし、話も中途ハンパでさ、お母さん気にしてんの、歌ってる時からすごい引力を感じる視線があって……
あき そりゃ、プロの歌手なんて初めて見ちゃったから、おまけに先輩で、美人で……
夏子 そういうことじゃなくってでしょ、泉さん。
泉 うん、なんか思いつめたような……前列のほうだから、よくわかったって。歌っているときに感動してもらうのはミュージシャンとしてとっても嬉しいことだけど……話しているときに、こう……引力が強くなってきてさ、目線が合ったの覚えてる?
あき はい。それで決心したんですから……
泉 やっぱし……そうか? 校長室にいても聞こえてくるんだって……上原先生だっけ?                                   
あき はい。わたしの担任の先生です。
夏子 その分、校長先生、耳が遠いんです。
泉 ハハ、いいコンビだあんた達。でね、とぎれとぎれに話しの中味が聞こえて……お母さん、そういう耳と勘は鋭いの「あ、あたしのメッセージが間違って伝わってる」……決定的なのは部屋を出たとき、先生が大声で「考えなおせよ!」そして、あきちゃんが泣きそうな顔で、あたしにドシン!
あき すみません。 
泉 あきちゃん、コーラス部だよね? 歌うことそのものは好きでしょ?
あき はい……
泉 で、誰だかわかんないけど、同じコーラス部の男の子好きになって同じ学校へ行こうって決めていたんだよね。
あき ……(顔を赤くしてうつむいている)            
泉 「友だちがやってるからいっしょに……」は、だめなんだぞってとこらへんでドキッとしちゃったんでしょ?
夏子 すごい、そのとおりです。
泉 へへ、一応親子だからね。
あき わたし杉村君ほど上手くもないし、杉村君ほど大きな夢はないんです、ただ杉村君のそばにいて、好きな歌が一緒に歌えたら……
泉 それでいいんだよ。あきちゃんが歌と杉村君の両方が好きで!
あき でも……
泉 お母さんが言いたかったのは、ナンパや遊び友達とつるみたいだけの集まりは駄目
だって……ううん、それだってかまわない、男の子目的でクラブに入ってもいいの。
あき そんな……
泉 お母さんが言いたかったのは、ここ。いつまでもそれじゃだめだってこと! 彼と
いっしょにいたい、そこからでいいんだよ。それで歌が好きなら……あたしのお母さんね、ほんとは役者になりたかったの。
夏子 でも、時々ドラマとか出てるでしょ?
泉 それは副業。本業はあくまでロックズシンガー。
夏子 その役者志望がどうして……
泉 彼が役者だったの。ある時、デートしてて、会話が途切れちゃってさ。そう、横浜の山下公園、そこで彼が、不慣れな歌の話をしたの。男ってカッコつけたいときって、あるじゃん。「かもめの水兵さん」て知ってる?
あき 知ってます(歌う)かもめの水兵さん、ならんだ水兵さん(ここから泉も和して)白い帽子、白いシャツ、白い服、波にチャプチャプ浮かんでる。
三人 アハハハ……
泉 お互い古い歌知ってるね。
あき 泉さんも……
泉 お母さんとは、ちょっと趣味ちがうけどね。 
夏子 あたし、それ知らない。
泉 ちょうどいい、今の歌、どんなふうに聞こえた?
夏子 えと、カモメがチャプチャプ。無邪気に子供が水遊びしてるみたいな……
泉 楽しい歌でしょ?
夏子 はい、保育所の生活発表会みたいな。
泉 あたしも、いい童謡だと思う。この歌に関してはお母さんと趣味一致。それがね、その彼は反戦歌だって言うの。
二人 ハンセンカ?
泉 戦争に反対する暗い歌。昔いた高校の校歌と同じくらいあたしは嫌い。
夏子 どうして、そんな風に聞こえるんですか?
泉 この歌、ゆっくり歌うとね、特に最後のとこ(歌う)白い帽子、白いシャツ、白い服、波にチャプチャプうかんでる……
夏子 変なの……
泉 でしょ。母さんの彼は、戦争で死んだ水兵さんの死体が浮いている姿を歌い込んだもんだって、知ったかぶりするわけよ。
あき 嘘でしょ、この歌は絶対そんな歌じゃない。                
夏子 うん、わたしもそう思う。
泉 そう、お母さんもそう言った。昔、そういうひねくれた感覚で芝居すんのが流行ったんだって。彼も、ちょっと気の利いた話しをするつもりで、ついホラふいたんでしょうね。
あき それは歌を侮辱しています!
泉 そう怒るのは、あんたが歌を愛してるからよ! 広く言えば、お母さんや、あたしたちと同じ仲間だってこと。むろん、杉村君もね。
あき で、お母さんは、どうしたんですか? わたし、そっちの方も興味津々!?
泉 若かったのね、彼氏と別れたのはもちろんのこと、お芝居までやめちゃった……若い頃って、許せないとか悪いとか思っちゃうと、ハサミでものを切るように切っちゃう……と、うちのお母さんは言うわけ。でもこの彼氏って、けっきょくあたしのお父さんになるんだよ。
二人 え!?
泉 それから、切れた二人は方やジャズにロック、方やお芝居をグルグルっと遠回りして、三年後に出会ってくっつき直したってわけよ、おかげで娘のあたしは……どう、あき、ちっとは気が変わった?
あき はい、自信がわいてきました! 上原先生に、きちんと話してきます。
夏子 むろん、清朋だろ!?
あき もちろんよ! あ、泉さん、これからも手紙とか出していいですか?
泉 メールでいいよ、手紙書くの大変だろ?
あき わたしって、そういうとこ古風なんです。
泉 あたし筆不精だから三度に一回くらいしか出せない……メールでもいい?
あき もちろん!
夏子 住所とか電話は、わたしが伝えておくから、早く行かないと職会はじまって、清朋からはずされちゃうよ。今日は進路調整のための職会だから。
あき じゃ、またメール打ちます、ありがとうございました! じゃ夏子また明日!
夏子 さ、はやく行った行った!
あき うん、ごめん、じゃ、失礼します!(上手に退場)

しばらく見送ったあと泉は上手正面方向に、両手で大きな○を示す。

夏子 何してるんですか?
泉 杉村君に成果を報告してんのよ。(大声で)グッドラック!
夏子 あ。あいつあんなとこに。杉村……君、知ってたんですかこのこと?
泉 彼も、あの子に負けないくらい好きなのよあきのこと。青い顔して上原先生に……
夏子君と同じこと言われてた「人の問題に首を突っ込むな」それで、一肌脱いじゃったのよ。
夏子 じゃ、お母さんに頼まれたってのは?
泉 本当だよ、「正しく伝わるように話といて」そう言った。でも、お母さんは一枚上手……のつもり。
夏子 え? 
泉 これ、あたしの名刺、あきに渡しといて。
夏子 はい。これ、あきのアドレスとか住所とか……(携帯で送る)
泉 ほい、いただきました。
夏子 あの、泉さん?
泉 え?
夏子 この肩書きに書いてあるキャデットってなんですか? キャデット・池島泉……
泉 へへ、すねっかじりをキザに書いただけさ。意味はいちおう士官候補生……わからない? これといった仕事もしないでブラブラしてるんだもん、カッコだけつけてね。
夏子 だって、泉さんは、お母さんのアシスタントやスタッフのお仕事を……   
泉 何もしないで食わしてもらうわけにもいかないしさ……わたしに合うようなシャボ ン玉がまだ見つからないの。あたし高一で中退したから、資格は中卒……ほらほら、そういうめずらしい動物を見るような目で人を見ちゃいけません。     
夏子 ご、ごめんなさい、そんなつもりじゃ……
泉 何かさせたいことがあるみたいだけど、ぜったい言わない。あのクソババア。
夏子 クソババア!?
泉 自分のしたいことは自分で見つけるしかないから。クソババアもそうやって生きて きたからね、今さら娘には言えないんでしょ。だから、こうやって自分の仕事にひき まわしていろいろパシリをさせるわけ。その中からなにかをつかむだろうって……
夏子 わたしみたいに、なんとなく大学いっちゃうのは軽蔑します?
泉 しない、遅い早いの違いだけだから。ただ、こういうあたしを軽蔑する奴をあたしは軽蔑する。
夏子 あ……
泉 どうかした?
夏子 この名刺、手描きじゃないですか!?
泉 え、うそ……ほんとだ、原版だ。
夏子 原版?
泉 うん、五ヶ月くらいで新しい名刺に替えてるの。原版は、ここ一番大切な時とか人用に……
夏子 返しましょうか……?
泉 いいよ、無意識だったけど、今日は、とっても大切な出会いの日だったのかもしれない……だからひょいと手描きの原版を……ハハハ、今日は創立記念日だ、ひょっとして。
夏子 はい?
泉 新しいいろんなもの、目標とか、友情とか、勇気とか、愛情とか。
夏子 はい……(涙ぐんでいる)
泉 ハハ、涙もろいんだ、あんたって……ま、とにかく諸々の創立記念日(インカムから声がする)わかった今いく。撤収の準備ができたみたい。夏子、家はどこだ?
夏子 駅前東の団地です。
泉 よし、途中までのっけてやろう。ただし、ミニバスのぎゆーぎゆーだけどな。
夏子 ほんと? 嬉しい!
泉 じゃ、あたしは準備あるから、裏門のミニバスのところで落ち合おう。うーん……五分後。いいかな?                        
夏子 はい、じゃあ!(元気よく上手に去る)                  
泉 (携帯を取り出す)……オヤジ、来なかったね……いいよ、言い訳は。今日が最後のチャンス。わかってたんだろ、今日がどんな日か……創立記念日? ばかやろう!とぼけんじゃないよ。お母さんとヨリをもどした日。いわば二人の結婚記念日。だから今日は来てって言ったんじゃないか!……いいわけないだろ、このままなんて! 今日お母さん何歌ったか分かる……それは、お母さんのイメージソングだから当然。もう一曲歌ったんだよ……カモメの水兵さん? そこまでひねくれてないよお母さん……シャボン玉だよ……そう、生徒にはそう説明してた。でも我が家では違う意味……知ってんだよ、わたし。この歌がどんなシュチュエーションで、お母さんが歌ったか……お母さんが?……言うわけないだろわたしに。マネージャーの滝川さんから聞いたんだよ。わたしが高校に入ってグレかけてたころに……なんでって? 滝川さんはわたしのことを思って、滝川さんは、わたしの父親代わり。でも、本当のお父さんはオヤジなんだからね……わたし信じてたんだよ! とっても楽しみにしてたんだよ! 今日やっと三人の家族が回復できるって。オヤジに渡そうと思って、手書きの名詞まで用意してたんだよわたし……笑ったな!?……子供っぽい? あたりまえじゃんかよ。わたしには子供時代なんて無かったんだよ。二人が別れてから、うちの時計は止まったまんまなんだよ。だから、わたしは九歳から出直し……バカ、バカ、バカ、オヤジの大バカヤロー!                         

携帯を乱暴に切り、溢れる涙をぬぐう泉。そこに夏子が駆け込んでくる。                                  
夏子 泉さん……                              
泉 あ、やばいとこ見られちゃったね。                    
夏子 どうかしたんですか?                         
泉 ハハ、ちょっと携帯で友達とケンカしちゃって。夏子こそどうしたの?     
夏子 あ、あきのアドレス古いの教えちゃったから。                
泉 そっか、じゃあ新しいの教えて。                       
夏子 はい、これです……                           
泉 ほい……と。                           
夏子 泉さん……「オヤジの大バカヤロー」って言ってませんでした……?         泉 フフ……聞こえちゃったんだね。                         
夏子 ごめんなさい。                              
泉 いいよ聞こえちゃったんなら。                                                              泉、携帯の父のアドレスを消去しようとする。とっさに携帯をひったくる夏子                                      
夏子 ごめんなさい。でも、今、お父さんのアドレスを消去しようとしたでしょ?    
泉 いい勘してんだね。                            
夏子 すみません。出過ぎたことしました(携帯を返す)              
泉 いいよ、わたしも早まったことするとこだった。                  
夏子 泉さんも苦しいことってあるんですね。                     
泉 当たり前だよ、人間なんだから。                     
夏子 お父さんとうまくいってないんですか?                   
泉 シャボン玉とんだ。屋根までとんだ。屋根までとんで、こわれて消えた……(歌う)   
夏子 ……?                                  
泉 わたしがお母さんのおなかの中にできたとき、オヤジと二人で「港の見える丘公園」に散歩に行ってね。お母さん歌ったんだよ。さりげにオヤジの横で。          
夏子 それって……                              
泉 うん、今日みんなの前で言った夢がどうのこうのって、そんなきれいごとじゃなくってね。   夏子 赤ちゃんが、どうのこうのってほうなんですね?                
泉 オヤジはね、子供なんて欲しくなかったんだ。だから、さりげにお母さんを散歩なんかに連れ出して悟らせるつもりだったんだ。最初は中華街でも行って食事でもしてさ、切り出すつもりだったみたい。それが、お母さんが「港の見える丘公園」に行こうって……あの公園ね絶好のデートコース。普通の恋人同士でいたいってサイン。それにね、大昔はフランスとイギリスの軍隊が占領してたんだ。明治の初め頃ね。戦後はアメリカ軍に接収されて、日本人は入れなかったんだ。               
夏子 そこにわざわざ行ったっていうのは……                    
泉 そう、オヤジ、大学じゃ日本近代史なんかやってたから、そのへんの事情はよく知ってる。あの公園は横浜の人間が二度外国から取り返したとこなんだ。そこで「シャボン玉」歌ったの。わかる?                              
夏子 泉さんのこと産むって決意だったんですね。                  
泉 うん。それを高一のとき、マネージャーの滝川さんに聞かされて。わたしグレかけてたからね。                                  
夏子 泉さんがですか?                             
泉 そりゃあ九つで親が離婚して。母親は仕事ばっか、保育所の送り迎えなんかも、マネージャーさん。長いときは一ヶ月くらいお母さんにも会えなかった。グレもするわよ。  
夏子 そうなんだ……                              
泉 わたし高一の時に援交やっててね。                      
夏子 エンコウって……援助交際ですか!? 
泉 ほらほら、また、珍しい動物見てる顔になってるよ。               
夏子 ごめんなさい。                              
泉 まあ、無理もないよね。天下のシンガーソングライター池島令の娘が援交やってんだもんね。でもね身体売ったりはしなかったんだよ。出会い系でオッサン呼び出してね、待たせとくの。で、それを陰から見ててね、目印にいろんなことやらせんの。歌唄えとか、鼻くそほじれとか。猿のマネさせたこともあったなあ。             
夏子 ハハハ……                                
泉 オバサン呼び出したこともあるんだよ。男の声色つかって。             
夏子 女の人でもやるんですか、そんなこと?                    
泉 いろんな人がいるからね、世の中。でね、やりすぎちゃってお巡りさんに捕まったってわけ。三十回目くらいのときかなあ。                       
夏子 マスコミとかに騒がれませんでした?                     
泉 マネージャーの滝川さんがもみ消してくれたんだ。その時にね「港の見える丘公園」の話聞かされたんだ。       
夏子 それで……                               
泉 改心するほどアマチャンじゃないわよ。そのときはフンてなもんよ。いまさらなにを「お涙ちょうだい」なんちゃって。ただね……               
夏子 ただ……?                                
泉 そのとき滝川さんに、思い切りしばかれてね。そのとき思わず口をついて出た言葉がね「親みたいなマネしないでよ!」                        
夏子 親みたいなマネ……                            
泉 自分でもびっくりした。そんな言葉がわたしの口からでてくるなんて。親みたいなマネ……親を欲しがってんだ、あたし……そう気づいたら、気持ちが整理できなくなっちゃって三日間、横浜の街をほっつき歩いてた。          
夏子 捜索願とか出されなかったんですか?                    
泉 出せるわけないじゃん。スキャンダルでしょうが。でもね、お母さん自分で捜して歩いたんだ。病院にちょこっと入院したってことにして。                  
夏子 あ、鉄アレー入院って、昔ニュースになりましたよね?              
泉 よく覚えてんね。                              
夏子 いちおう放送部ですから。 
泉 なーる。  
夏子 で、お母さんには会えたんですか? 
泉 鉄アレーだからね、最初はトンチンカン。でも、三日目にはドンピシャ。

このとき、泉のインカムに連絡が入る

泉 はい、わたし……え、鍵が見つかんない?……うん、わかった待ってる。裏門の鍵が見つかんないんだって。ま、ちょうどいいや。話の途中だし。どこまで話したっけ?
夏子 三日目にドンピシャです。 
泉 あ、そうそう。最初は山下公園に行ったんだよ。小さい頃、親子三人で行った数少ない思い出の場所。「赤い靴はいてた女の子の像」あれが一番好きだった。知ってる、あの話?
夏子 えーと……異人さんに連れられて……行っちゃうんですよね、アメリカかどこかに?
泉 ううん。 アメリカに行けずに病気で死んじゃったんだよ。
夏子 え、 そうなんですか!?
泉 あの子ね、岩崎きみちゃんていうの。
夏子 実在の人物なんですか?
泉 お父さんがだらしない人でね、お母さんは、きみちゃんを一人で育てたんだ。お母さんが別の男の人と再婚して北海道の開拓村に行くんだけどね、あまりに過酷な環境に耐えられなくなって、きみちゃんをアメリカ人の宣教師夫婦の養女にしちゃってね。そのアメリカ人宣教師がアメリカに帰るときに、きみちゃん病気になっちゃって。横浜の孤児院に預けられて九つで死んじゃったんだ。 
夏子 ほんとですか!?  
泉 わたしは、ほんとだと思ってる。お母さんがそう説明してくれたから。んで、ネットとかで調べても、この説が一番多いしね。
夏子 失礼なこと聞きますけど、泉さんのお家ってうまくいってなかったんですか? 
泉 きみちゃんてね、ちょこんと体育座りしてね、目の右端に氷川丸を入れてずっと海のほう見てんだよ……あ、うちのことね?
夏子 すみません、立ち入ったこと聞いちゃって。
泉 わたしが九つのときに家庭崩壊。お母さんは稼ぐけど、家にはほとんどいなかったし。オヤジは家にはいたけど売れない脇役。なんとなく、物心ついたころから感じてたんだけどね。でも二人とも口に出しては言い合わなかった。独身のころ、それで失敗してるからね。でもね言い合ったほうがよかったんだよ。わたし、ちっこいころはいい子ぶってた。いい子でいたら、お母さんもオヤジも平和共存してくれるって無意識に思ってた。それが「赤い靴はいてた女の子」なんかで言い合いするんだもん。
夏子 きみちゃんのことで? 
泉 さっきの、きみちゃんの話って、お母さんがしてくれたんだよ。それがオヤジには甲斐性のない亭主への当てこすりに聞こえんの。
夏子 ああ、取りようによってはそうなるか……
泉 で、オヤジもね、はっきり言やあよかったのよ「あてこすりか!?」って。そうしたら、平和な夫婦げんかで終われたのにね。それがオヤジの悪いとこなんだけどね、きみちゃんの解釈で反撃してくんの。赤い靴は、ある特定の思想のシンボルで、その思想への弾圧と挫折を野口雨情、あ、作詞した人ね。その野口さんが自嘲をこめて書いたものだって。
夏子 それって「カモメの水兵さん」と同じこじつけなんですか?    
泉 ううん、オヤジもいつまでもバカじゃないからね。そういう説もあるにはあるんだ。けっこう有名な文化人がそう言ってたりする。でもね、そういう言い合いって、すごく陰湿。一事が万事で、けっきょく性格の不一致で離婚しちゃうんだもん。
夏子 子供には辛い話ですね。 
泉 しばらくは、きみちゃんの横でおんなじように体育座りしてた。自分は何をしたいんだろう?なんのために生まれてきたんだろうって……そしたらね、きみちゃんがしゃべったんだよ。
夏子 え……?  
泉 「困ったことだね」って。
夏子 困ったこと…… 
泉 うん、たしかにそう言った。一瞬生きてる人間みたいに「困ったことだね」……でも、その一言だけだった。びっくりしてきみちゃんのほうを見たら、気弱げに微笑んで海を見ているブロンズ像だった。あたりまえっちゃ、あたりまえなんだけどね。でも、きみちゃんはたしかにそう言った。九歳の女の子が、確かにそこでわたしに寄り添っていてくれた。ハハハ笑っちゃうよね、なんか安できの都市伝説みたいでさ。でもね、そのときは九歳の女の子なら、そうだろうって、ぬくもりながら納得しちゃった。もしね……
夏子 もし……? 
泉 あの子の一言がなかったら、わたし前の海にとびこんでいたかもしれない…… 
夏子 泉さん…… 
泉 それからね。
夏子 それから?  
泉 横浜の街をうろうろ。夜はツレのお姉さんのアパートに泊めてもらって、気が付いたら「港の見える丘公園」に来ていた。そこでお母さんとドンピシャ。で、それ以来お母さんのパシリをやってるというか、やらされてるというか。
夏子 今日、お父さんと会うことになってたんですか? 
泉 うん。オヤジのほうからね言ってきたんだ。それまでは、わたしの方からたまにね。で、余計なことだったんだけど、お母さんにも言っちゃたんだ。なんせオヤジからのはじめてのアプローチだったから。
夏子 そうだったんですか。
泉 お母さん、なにも言わなかったけど、期待はしてたみたい。「シャボン玉」ただのアドリブじゃなかったんだよ。アドリブはやるにしても、あらかじめスタッフには、言っとくもんもんだから。
夏子 じゃあ、あれってお父さんへのメッセージだったんですか?
泉 そうだよ。だからわたしもPAやりながら、必死こいてオヤジ捜したもん。終わったあとでも、学校のどこかにいるんじゃないかって。だから、あきとぶつかたのも半分はわたしの責任(このとき、メールの着信音)あ、オヤジからだ……すまん、二度とおまえ達の目の前には現れない。母さんによろしく……ざけんじゃねーよ。この、くそオヤジ!
夏子 泉さん、おちついて。 
泉 ごめん、つい地が出ちゃったね(父に電話をしている)オヤジ、なんだよこのメールは!?……そのとおり? これが結論? わかんないよ、これじゃあ! 再会のつもりがいきなりの縁切りだなんて、まったくも、納得もいかないよ! お母さんになんて言えば……適当に? テキトーなのはオヤジのほうじゃんかよ! どうして急に……え、オヤジの彼女が妊娠したぁ……いまさらこの歳でお姉ちゃんかよ、わたし……え、堕ろす!? どうして!?……高齢出産? そんなの言い訳だよ。今時四十代の初産だってめずらしくないんだよ。ちゃんと羊水検査とかしてもらって……このわからずや! わたしが直接豊子さんに電話して会いに行くよ……どうして知ってるかって?……オヤジ隙だらけだから、とっくに携帯の情報いただいてるわよ。そんなこと全部承知でオヤジには来て欲しかったんだよ。わたしも、お母さんも。豊子さんの妊娠は、想定外だったけどね……大丈夫。豊子さんには二度ほど会ってるから。じゃあ切るよ。
夏子 困ったことですね…… 
泉 ハハハ、きみちゃんと同じこと言うんだね。
夏子 すみません。 
泉 いいんだよ、それで……それって、せいいっぱい人に寄り添って出てくる言葉なんだから。

このとき、あきが息をきらせてやってくる。

泉 オッス!
あき ども……
夏子 どうしたの、あき? ちゃんと先生には言ってきた?
あき うん。先生に報告して、職員室出たら、そこに杉村君がいて、で、舞い上がっちゃって、いっしょにそこまで帰る途中だったの。
泉 ヘヘヘ、やるね、杉村君も。
あき え?
泉 いや、べつに(携帯を出して、どう打ち込むか考える)
夏子 それがどうして、あき一人、息せき切ってもどってくんのよ?
あき 杉村君のロッカーに、絶交状入れてたの思い出して。
夏子 もう読んじゃったかもよ。
あき ううん、そんな様子は無かった。だから急いで、ごめん。ちょっと見てくる……あ、ありがとうございました、泉さん(上手に駆け去る)
夏子 ああ見えて、抜けてんですよね、あの子。
泉 ホレホレ(あきの絶交状をヒラヒラさせる)
夏子 あ、それ!?
泉 だてに歳くってないわよ……と言うほど開いてないけどね。あんたたちのやりそうなことって予想ついちゃう。
夏子 まあ、泉さん……
泉 待って、このメール打ち終わったら、あきに知らせるから。
夏子 案外、意地悪なんですね。
泉 これくらいあせっといたほうが、青春のいい思い出になるでしょ……よしっと!
夏子  豊子さんに打ったんですか?
泉 ホレ(携帯を見せる)
夏子 いいんですか見ても……「困ったことだね、今から行きます」
泉  いろいろ考えたけど、結局きみちゃんのパクリ(インカムがしゃべり出す)……わかった、今から行く。裏門の鍵見つかったって。
夏子 やりー!
泉 じゃ、行こうか。カバンとかとっといでよ。
夏子 はい、直接裏門のほうに行ってます。
                                    夏子上手に駆け去る。見送る泉。

泉 ……今度は我が家の裏門の鍵か。かなりむつかしい鍵だなあ……
校内放送 ただ今から会場の後かたづけを始めますので、運動部のみなさんは体育館に集合してください。繰り返します……(フェードダウンしてつづく)
泉 そうか、今日は創立記念日だったんだ…(インカムに)わるい、もう四五分待ってて。うん、分かってる……分かってるって。裏門の鍵はしっかり開けといてね。なぜって? そりゃあ……そりゃあ、今日はシャボン玉創立記念日。困ったことも少しはあるけど……うん、なんでもない……そう。シャボン玉創立記念日なんだよ、シャボン玉創立記念日!

        あふれる涙をグイっとぬぐい「シャボン玉」を辛さこらえて、しかし明るく口唄う泉。登場人物全員とコーラスラインが、それに和して現れ、全員でテーマ曲に昇華していく(シャボン玉や赤い靴はいてた女の子をモチーフにしたオリジナルがいい)BGMだけになって、登場人物、コーラスライン、スタッフの紹介。時間が押していたら、割愛。

全員 本日はありがとうございました!


  

大橋むつお《住所》〒581-0866 大阪府八尾市東山本新町6-5-2 

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高校ライトノベル・ライトノベルセレクト・〔死にぞこない・2〕

2016-03-08 07:22:20 | ライトノベルセレクト
ライトノベルセレクト
〔死にぞこない・2〕



 泰三が、そう言うと、体育館の外は闇につつまれ、サイレンの音と、地響きがするような多数の爆音がし始めた……。

「貴様ら、なにしとるか、さっさと消灯非難しろ!」
 体育館の扉を開けて、黒襟に鉄兜の警防団の男が三人入ってきて、口々に怒鳴った。
「みんな、頭から上着をかぶれ!」
 泰三は大声で怒鳴り、生徒の中に入って、かたっぱしから頭を叩き、上着を被らせた。
「え、これ、なんかのドッキリ?」
 一人の生徒がウケ狙いを言った直後、体育館の東側に焼夷弾が多数着弾、窓を真っ赤に染めたかと思うと、一発の焼夷弾がガラスを突き破り、バスケットゴールに突き刺さった。ウケ狙いの生徒が傍に寄ろうとした。
「バカ者!」
 警防団の男と、泰三の声が重なった。
「だって、これ不発……」
 そこまで言ったあと、大量に火のついた油脂が降り注ぎ、ウケ狙いは火だるまになった。
「ギャー!」
「消火器を! バカ!横になって転がるんだ!」
 周りの生徒たちが悲鳴を上げる中、ウケ狙いは転げまわった。飯島は消火器で素早くウケ狙いの火を消してやった。ウケ狙いはピンク色の消火剤まみれになってぐったりした。
「気絶しとるだけだ、水をかけてやりなさい。他の者は、隅田川方面に避難せよ!」
 警防団の班長が、メガホンの胴間声で怒鳴った。
「班長さん、隅田川は危険だ。浅草方面から東武伊勢崎線の方角に避難した方がいい!」
「バカ、浅草は火の海だ。川の方角がいい。みんな急いで!」
「とにかく、ここに居ちゃだめだ。体育館を出なさい! 上履きは履いたままで!」
 班長と、泰三はとりあえず共通する行動目標をみんなに、伝えた。
 半分ほどが体育館を出たところで、数十発の焼夷弾が薄い屋根を突き破って、体育館の床に降り注いだ。一人の生徒は肩に焼夷弾が刺さり火の柱になって二三秒のたうち回って昏倒した。ほかにも、三十人ほどの生徒が炎にまみれてもがいている。女性教諭が消火器を持って走ったが、泰三は抱き留めた。
「間に合わない、油脂が床を焼いている!」
「だって、生徒が!」
「逃がさなきゃならない生徒は他にいっぱいいる」
 出口は大混雑していたが、警防団の男たちが手際よく逃がしてくれていた。泰三はフロアを見渡した。ショックで腰の立たない生徒が何人かいた。泰三はその生徒たちの頬をシバキながら、出口に向かわせた。
「男のくせに泣くな! これが空襲だ、さっさと逃げろ!」
 その生徒は股間を濡らしていた。顔を見ると悪態をついた大沢だった。
「いいか、みんなに声を掛けて伊勢崎線沿いに逃げるんだ。警防団のオッサンのあとは着いていくな! 聞け! 一人でも友達に声を掛けて逃げるんだ!」
 その時、焼かれた生徒の腹が弾けて内臓が血まみれで飛んできた。大沢はそれをまともに被り白目をむいた。たちまち、泰三にはり倒された。
「さっさとしろ、この玉無し!」
 大沢は、尻を蹴飛ばされながら体育館を出た。
「しまった、みんな隅田川の方にいく……!」
 泰三は逃げる集団の最前列に駆けて、家の軒下に立てかけてあった梯子を振り回して生徒たちに投げた。二三人の生徒に当たり、一人の女生徒は額を切ってしまった。
「こっちはダメだ! 北に逃げろ! 伊勢崎線だ!!」
 泰三の迫力に額を切った女生徒のほか十数名が付いてきた。

「みんな、防火用水に上着を漬けてかぶれ!」
 目の前には、両側の家が燃えて炎を吹き出している。しかし、この道を抜けなければ伊勢崎線の方にはいけない。
「いいか、背を低くして、息をしないで突き抜けるんだ! 早く行け!」
 しり込みする生徒たち、泰三はバケツで水をかぶり、大沢にも浴びせると、腕を掴んで走り出した。やっと生徒たちが付いてきた。
「敦子!」
 火の通りを駆け抜けたところで、大沢は炎に包まれた道に向かって叫んだ。火明かりに照らされて何人かの生徒が倒れているのが分かった。「逃げて……」かすかに女の子の声が聞こえた。
「オッサン、放せよ、敦子が、敦子が……」
「お前だけでも生き延びるんだ!」
 泰三は何度目かの鉄拳を食らわせた。

 気づくと、半分以下に減った生徒や先生たちが体育館のフロアに横になっていた。

「た……田中さん、いったい何が……いてて……」
 大沢は、初めて泰三をまともに呼んだ。
「僕にも訳が分からん……ただ69年前の大空襲を呼び戻してしまったことは確かなようだな……」
 肘から先のない左腕を押さえながら泰三は言った。
「みんなは……」
「死んだんだろう。ここにいる者だけが……死にぞこないだ」
「そ、そんな言い方……」
「背負って生きてきたんだ……おまえも背負って生きていけ……」

 そばに全身大やけどの敦子がいた。やけどで引きつった腕を伸ばしてくる。
「あ、敦子か……!?」
 大沢は、敦子を抱きしめようとした。敦子は急速に腕の中で虚しくなって消えてしまった。
「敦子……」
「いま、向こうの世界にいったんだ」
「……オレは……」
「おまえは……」
 泰三は、あとの言葉を飲み込んだ。もう十分分かっただろうから……。

 窓枠の形に降り注ぐ朝日が、とても愛おしかった。

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高校演劇の基礎2ー演出

2016-03-07 12:05:20 | 高校演劇基礎練習
高校演劇の基礎2-演出      初出 2011-07-01 11:55:50

【演出】演出の仕事は、演劇を上演するにあたり、まず台本を研究し、演出プランを作り、配役を行い、舞台装置・照明・小道具・衣装・効果・音楽・舞台監督・などの演出スタッフを編成し、上演のための全参加者に演出方針を伝え、一つの芸術的目標に向かって協力させていくかとである……と、演劇辞典(演劇小辞典抜粋)には書いてあります。その通りだと思うのですが、小規模演劇部にはむつかしいですね。

【実際的な演出の問題】創作、既成に関わらず、本が決まったら、台本に穴が開くほど読んでください。できることなら普段から本を読み、プランを持っていて欲しいものです。  蜷川幸夫という名演出家は、世間の注目を浴びる前に、何本もの本の演出プランを持っていました。蜷川さんは知らない人が多いですね。 ジブリの宮崎駿を始め、監督をつとめた人は、日頃から、何本もプランを持っています。「紅の豚」というアニメをご存じでしょうか? 「カッコイイとはこういうことさ」がテーマでした。この本のアイデアが決まるまでに数年を要しています。マニアならご存じでしょうが「豚の虎」というアイデアもありました。宮崎さんは、モデルになるドイツの老人にも会ってこられました。でも、これはダメだと思うとあっさり捨てました。監督=演出というのは、かほどに難しいものなのです。

 なんだか脅かしのようですね、気楽にいきましょう。とにかく読み込んで、今読んでいるところが全体では、どこにあたるのか、どんな意味があるのかまで分かるように読み込んでください。 例えて言うと、今の学校に入学したときの頃を思い出してください。右も左も分かりませんよね。それがどうですか、三年生にもなると学校の様子はほとんど分かっていますね。中には、先生の目をかすめて校外に抜けられる抜け道まで知っている人もいます。 そこまでいかずとも、この先生は「こういう人だ」と知っていますよね。この先生は、静かにさえしていればいい。また、ある先生は、こそっと携帯をいじっていても気づかないフリをしてくれるとか、あの非常階段は、ワルのたまり場になっっていて寄りつかないほうがいいとか、食堂のメニューは何がイチオシだとか……そういうレベルまで本を読み込んでください。 例えを続けます。転任の先生が「今度の耐寒訓練にはフルマラソンをやろう!」などと言い出したら、どうでしょう? 「そんなのムリ~!」と、思うでしょ。自分の学校をよく知っているから判断がつくんです。台本も同じです。「この表現は、うちの演劇部にはムリ~!」と、分かったら、他の表現にかえればいいんです。「フルマラソンは無理です。せめて、学校の外を10周にしましょう」という提案をするようなものです。「そのかわりショボクレちゃいけないので、スタートの時は花火をあげましょう! ゴールした子には食堂のうどんの券をあげましょう!」……これ、わたしが現役の教師だったころ、耐寒訓練を縮小したときに実際やったことです。大いに盛り上がりました。 これが演出なんです。少し分かってもらえたでしょうか。

 自分たちの力、個性をよくつかんで、力の中で、個性の範囲で一番光るように持っていくのです。たとえ話を続けます。学校でこれは無駄、または無理と思っていることはありませんか? 使いもしない守衛室。だれもこない同窓会館。なにやってんだかよく分からない総合学習の時間。などなど……そういうものは、廃止するか、縮小すればいいんです。具体例を二つほど……かつて学校では宿泊学習が流行った時期がありました。一年の四月の終わり頃にやっていました。あれ、準備と、お金が大変なんです。延べ二十人くらいの先生達が、延べ何千時間という時間を、忙しく大事な学年始めにとられます「そんなことをやる暇があったら、もっと生徒と接触してやろう」と、主張して、三年がかりで廃止にしました。今、やっている学校はほとんどありません。また女子の体育の時間のブルマ、今はほとんど絶滅してハーパンに替わっています。これも現職時代に、女子から「せめて、体育祭の時ぐらいジャージにして欲しい」という声がもとで変わりました。 演出も同じです。これは「うちのクラブでは無理」と分かったら、止めるか、他のものに置き換えます。

【実例】一昨年から去年、わたしは、ある高校の演劇部のコーチをやっていました。たまたまそのクラブがわたしの本を演ってくれることと、顧問の先生とのクサレエンで、そういうことになりました。「パリーホッタと賢者の石」という芝居で、コメディーです。なかなかコメディーにはなりませんでした。なんとか芝居らしくしてコンクールに臨みました。案の定、予選落ちでした。で、次の年は「ノラ」というSFロボットコメディーを演りはじめました。途中から、「これは無理だ」と思いました。6人という大人数の芝居にクラブが慣れていないのです。また、ロボット的コミカルさが出てきません。そのうち欠席者が増え、主役級の役者が、役が出来ずに落ち込んでしまいました。 そこで景気づけに名古屋音大のミュージカルコースの学生さんたちが演ってくれた「すみれの花さくころ」という芝居のDVDを見せました。「こんなんできたら、ええやろなあ~」と、ため息と憧れの両方を見せてくれました。 「ほんなら、これでいこか!?」ということで「すみれの花さくころ」をやることになりました。登場人物はほとんど2人、女子高生役で一人出ますが男に書き換え、3週間ほどで仕上げました。ロボット的コミカルさで悩んでいた男子は吉本的気楽な役で、いわばハマリ役でした。三人とも唄うことがすきだったので、気づけば挿入曲が6曲にまで増えていました。あとは、舞台上でのリアリティーにこだわって(あとで述べます) 部分によっては状況だけ説明して、役者たちに自由にさせたところもあります。バイトがあったり、兼業部員が多いこともあって、道具は大幅に簡略化しました。そしてコンクール。予選では全員個人演技賞と最優秀賞をいただきました。アマチュアやプロの人相手に芝居を作ってきたので、我ながら、うまく欠点を隠し、長所を引き出せ、高校演劇としては一級品に仕上がったと思いました。本選では、審査員の演劇的主観に合わず選外になりましたが。作品としては一級で、協力いただいた大学の先生も喜んで下さいました。本論に戻ります。演出とは、自分のクラブの個性を知り、本の個性を知り、マッチさせていく仕事で、ザックリ言って、出来ないもの、苦手なものを見極め、理想と現実の間に折り合いをつける仕事です。

 お気づきの方もいるかもしれませんが、わたしは演出とプロディユーサー、舞台監督の仕事をごっちゃにしています。少人数のクラブでは、それらを分けることは、無理だし、無意味でもあります。当然顧問の先生のアドバイス(主に励ますこと、今の子はノルのも早いですが、落ち込むのも早いです)が必要なことは当然です。

【高校演劇の基礎練習としての演出】役者に必要なように、演出にも基礎練習が必要です。沢山書いては混乱するだけなので、少なくまとめます。静物画の用意をするように、物を並べます。お店のショ-ウィンドウの飾り付けをやっているつもりでやればいいでしょう。それをシャメに撮って品評会をやりましょう。役者は商品です。いかにお店のコンセプトに合わせてきれいに見せるかが大事です。この舞台上での役者の配置をミザンセーネといいます。一番になったシャメを今度は絵にしましょう。演出とは舞台という額縁(本当にそうよびます)に絵を描く仕事なんです。出来た絵をさらに品評会にかけましょう。同じシャメを見ても、描く絵は様々です。 役者を花に見立てて、人間生け花をやってみましょう。これは役者の訓練にもなります。最近の子は、あまり花の名前を知りません。具体的な花でなくてもかまいません。「赤くて、大きくてゴージャスな花」ぐらいでけっこうです。むろん図書室へいき、植物図鑑を見て決めてもかまいません。 部員全員を使って飛行機をつくってみましょう。むろん役者の体を使ってです。役者には、飛行機のどの部分をやっているか自覚させて、できるだけ大きな飛行機にします。できたら、離陸から着陸までやってみましょう。

 演出は、各場面ごとに絵コンテを描きましょう。稽古場に臨むまえに描いておき自分の中に明確なイメージを持っておきましょう。むろんそれは固定されたものではありません。稽古では何が飛び出してくるか分かりません。いいと思ったら、こだわらずに替えればいいのです。ただ、演出が最初からイメージを持っていないことはいけません。

 稽古場のモチベーションの源になるのは演出です。絶えず前向きに明るくあってください。むろん他の役者やスタッフもそうでなければなりませんが。中心は演出です。

 あと、できたら、いろんな芝居を観て目を肥やしていてください。芝居が無理なら、映画、DVD,小説、マンガでもかまいません。物を見る目を研ぎ澄ませてください。

【次回予告】道具と照明につぃて語りたいと思います。おそらく、みなさんの常識を外れたものになると思います。

          大橋 むつお(劇作家、劇団大阪小劇場代表)

『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』          青雲書房より発売中。大橋むつおの最新小説!  お申込は、最寄書店などでお取り寄せいただくか、下記の出版社に直接ご連絡いただくのが、一番早いようです。ネット通販ではアマゾンや楽天があります。青雲に直接ご注文頂ければ下記の定価でお求めいただけます。 青雲書房直接お申し込みは、定価本体1200円+税=1260円。送料無料。 送金は着荷後、同封の〒振替え用紙をご利用ください。 大橋むつお戯曲集『わたし 今日から魔女!?』  高校演劇に適した少人数戯曲集です。神奈川など関東の高校で人気があります。  60分劇5編入り 定価1365円(本体1300円+税)送料無料。 お申込の際は住所・お名前・電話番号をお忘れなく。 青雲書房。 mail:seiun39@k5.dion.ne.jp ℡:03-6677-4351 大橋むつお戯曲集『自由の翼』戯曲5本入り 1050円(税込み)  門土社 横浜市南区宮元町3-44 ℡045-714-1471   
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高校ライトノベル・ライトノベルセレクト・〔死にぞこない・1〕

2016-03-07 07:27:02 | ライトノベルセレクト
ライトノベルセレクト
〔死にぞこない・1〕



 会場は一瞬で、落ちてきたような静けさになった。

「いま、死にぞこない……と言ったのはだれですか?」
 泰三が、マイクも通さず静かに言った。言葉は意外なほど、会場の体育館に染みわたった。
「なるほど、僕は死にぞこないだ。でも今の言葉は、死にぞこないの重さも意味も理解していない。単なる揶揄にすぎない。分かるように説明したいから、口にした人は名乗りなさい」

 一分待った。会場の生徒たちは、またざわつき始め、平和学習主担の飯島は、生徒たちを一喝しようと息を吸い込んだ。

「先生、お気持ちは分かりますが、言葉は私に向けられたものです。私が始末をつけます。4組の前から15番目の君、立ちなさい」
「お、オレじゃねえよ!」
 15番目は、座ったままふてくされて言った。
「嘘だ。大沢君」
 15番目は、慌てて名札を隠した。この距離でちっぽけな名札の名前が読めることは脅威だった。それに……大沢は「大」の字に点を打って犬沢としていたのである。泰三老人は、それさえ見抜いていた。
「もう一度聞く、死にぞこないと言ったのは君だね?」
「ち、違うってんだろ!」
「卑怯者!」
 泰三の鋭い声は、再び生徒たちを黙らせた。
「僕は、これでも昔は音響技師をやっていてね、声や音には敏感なんだ。いま証拠を見せよう……これは、僕が講演をするたびに録っている音声記録なんだ……むろん僕自身の勉強のためだがね……あった、これだ」
 泰三がパソコンをタッチすると、鮮明に「死にぞこない」という声が増幅されて館内に響いた。
「オ、オレじゃねえってんだろうが!」
 泰三は、無視して続けた。
「そして、たった今、君が言った言葉がこれだ」
 大沢がみんなの前で言った三つの言葉が再生された。
「田中さん、あとは自分たちが指導しますから」
 飯島が間に入ろうとした。泰三は受合わず続けた。
「これが、それぞれの言葉の声紋……どう、ぴったり重なるだろう。言ったのは大沢、君だ」
 スクリーンに、四つの声紋がグラフになって出てきた。完全に一致する。
「……大沢君」
「うっせー、敦子」
 女生徒の言葉で、大沢はさらに意地になった。
「大沢、あとで生活指導まで来い!」
「いえいえ先生。この時間は、私が戦争体験を君たちに伝える時間です。それに口にこそ出さないが、大半の生徒が、真面目に聞こうとはしていない。これを見たまえ」
 体育館を俯瞰した映像が出てきた。50名ほどの生徒の上に赤いドットが点滅していた。
「これは、現在スマホをいじっている者たちだ」
 とたんに、ドットが次々と消えていった。
「君たちの姿勢はこれだ。僕が何を語っても空念仏にしか聞こえないだろう。空念仏で通してもいいんだが、それでは死にぞこないの意味が無い。君たちも高校生だ、責任をもって戦争を体験してもらおう……」

 泰三が、そう言うと、体育館の外は闇につつまれ、サイレンの音と、地響きがするような多数の爆音がし始めた……。

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高校ライトノベル・ライトノベルベスト『さよならバタフライ』

2016-03-02 07:10:06 | ライトノベルベスト
ライトノベルベスト
『さよならバタフライ』
         


 無数のチョウチョが、空中を舞って飛び去っていくようなイメージだった。

「金床、○分○○秒!」
 コーチの金丸さんの声が頭上でした。とても他人様に言える記録じゃないので、タイムは秘密。
 だけど、ぼくが水泳部に入って、バタフライでは最速の記録だ。

 今日は、ぼくの水泳部最後の日だった。三年生の引退は早い。一応進学校であるうちの高校は二年生がピークだ。朝から夕方遅くまで一万メートルも泳ぐことは、時間的にも体力的にも、受験を控えた三年生には無理だからだ。
 ボクは、去年の地区大会自由形で二位にまでいけた。それで十分だった。
 もともと名前がいけない。金床碇(かなとこいかり)どう見ても水泳部向きの名前じゃない。ボクの家は祖父ちゃんの代まで、近くの漁師さんやお百姓さん相手に、漁具や農具を作ってきた野鍛冶屋だった。お祖父ちゃんは、特に漁具、その中でも碇を作らせたら県の中じゃ一番だった。特徴は長持ち、金床の碇は一生物とか言われ、沿岸漁業がアゲアゲのころは大した羽振りで、女の人に入れあげては婆ちゃんを泣かせていたらしい。それでもアゲアゲだったから、親類も世間も、男の甲斐性だ。くらいに見てくれた。
 でも、地域の漁業が廃れる……とは言わないが、横ばい状態になるといけなかった。なまじ一生物なんてものを作る物だから、注文がほとんど来なくなった。で、昭和ヒトケタの祖父ちゃんは、生まれた初孫に「碇」という迷惑な名前をつけて、ボクが三歳のときに、あっさり死んだ。最後にお父さんに残した言葉が振るっている。
「腹上死がしてえなあ……!」
 病院のベッドで大声で叫んで逝ってしまった。狭い町なので、噂はパッと広がり腹上死の金床と、しばらく言われた。お父さんもお母さんも、婆ちゃんも恥ずかしそうにしていたけど、ボクは平気だった。だって、みんな明るく腹上死の金床と言うもんで、ボクは誉め言葉だろうと思った。事実お祖父ちゃんは町のみんなから愛されていたことは確かだった。

 しかし、ボクも小五で腹上死の意味を知ると、やっぱ恥ずかしかった。

 水泳部に入ったのは事故のようなものだった。教室のある三階の廊下からプールは丸見えで、水泳部の女の子たちが泳いでいるのを、一年のときニンマリ見ていた。すると、同じクラスのダボハゼみたいな野島春奈ってのに言われてしまった。
「さすが、腹上死の孫ね。あんなの見てニヤニヤ、ガチスケベ!」
 で、
「ちがわい、オレは水泳部に入りたいんだ!」
 ダボハゼが犬の糞を飲み込んだような顔をした。ダボハゼは幼稚園から高校まで同じという、どちらにとっても有り難くない存在だった。ダボハゼは、腹上死の金床を知っている珍しいガキだったし。ボクはボクで、小六のとき、ダボハゼが廊下を掃除していて、しゃがんでちり取りを使ったところで、派手にオナラをしたのを聞いてしまっている。

 で、とにかく水泳部に入った。
「おまえ、よくそれで水泳部入ったな」
 と、先輩にも仲間にも言われたが、コーチ一人が庇ってくれた。
「オレだって金丸。同じ金付きだ。オレが泳げるようにしてやる」
 で、ほんとうに、ある程度は泳げるようになった、クロ-ルでは、部内でトップクラスになった。でも、他の泳法はさんざんだった。特にバタフライがいけない。
「金床のは、テンプラ鍋に飛び込んだアマガエルみたいだ!」
 と、言われた。やたらに水しぶきは上がるけど、前に進まない。コーチには「腰が定まっていないからだ」と技術的に指導を受けた。
 しかし、今日で引退。もうみっともないバタフライを人に見られずに済む。

 でも……信じがたいだろうが、ぼくのバタフライを誉めてくれたやつがいる。それもとても可愛い子に。

 あれは、二年の一学期の中間明けだった。水島洋子という、なんだか水泳部向きの名前をした一年生が見学に来た。
「金床さんですね。いつも三階の窓から見てたんです。先輩のバタフライいいですよ」
「ええ、どこが!?」
 同輩たちが一斉に叫んだ。
「あ、あの力強さが、なんだかタグボートみたいに元気いっぱいで」
「アハハ、タグボートはよかったな!」
 洋子は、瞬間怒ったような目になったが、すぐに元の穏やかな目になった。

 二日目には水着を持ってきて、自分から泳ぎだした。名前に負けずきれいなフォームだった……え、あ、正直に言うと体のフォームも泳ぎのフォームも。ね、正直だろ!

 二十分もたったころだったろうか、洋子が溺れた。コーチや女子部員が飛び込んで助けた。
「水島。おまえ、股関節……だろ」
 コーチが難しい病気の名前を言った。
「もう治ったと思っていたんです……」
 洋子は悔しそうにしていた。水から上がったばかりなのでよく分からなかったけど、あの子の頬をつたっていたのは水では無かったと思う。
 その日は、洋子のお父さんが職場から、そのまま駆けつけてきた。その時の制服で、この町の近くにある海上自衛隊の幹部だということが分かった。

 洋子は、それ以来水泳部には顔を見せない。もう泳ぐのを諦めたんだろう。

 どうしてか、水泳部最後の日に洋子のことを思い出した。きっと、最後という言葉のせいだ。
 コーチや、みんなに挨拶して、その日は早めに自転車で家に帰った。海岸通りに出ると、ときどき横殴りの風が吹いてきて、体をもっていかれそうになる。前線が近づいているようだった。

 日の出橋まできて、異変に気がついた。橋の真ん中に自転車が倒れ、小学校の低学年とおぼしきガキが泣き叫んでいた。
「どうした、おまえら?」
「お、おねえちゃんが海に。あたしたちを除けようとして……」
 その時、また突風が吹いてきた。ガキの目線の先には……洋子が、ぐったりして浮き沈みしている。
「この風にさらわれたんだな!」
 橋は、船を通すために十メートル近い高さがある。一瞬ビビッタけれど、体の方が先に動いた。

 我ながらきれいなダイビングだったと思う。海に飛び込むと、数メートル潜った。そして水を蹴って水面に顔を出すと方角を確認。しかし、橋の上とは違い、沈みかけた洋子は見つからない。
「水島! 洋子!」
 すると、橋の上のガキたちが方角を示した。いったん潜って洋子を確認し、ボクは泳いだ、それも、こともあろうにバタフライで。
 クロール! と頭の誰かが叫ぶんだけど、体は拒否してバタフライになる。そして、それは今まで体験したことがないほどの速さだった。
 水面下二メートルほどのところで、洋子を掴まえた。浮上して洋子の体を確保しながら背泳ぎで岸にたどりついた。
 脈はあるが、呼吸をしていない。ボクは洋子に水を吐かせてから、人工呼吸をした。そのときは必死だったけど、マウストゥーマウスだった。

 病院で、うっすら意識が戻ったとき、洋子が言った。

「先輩のバタフライ……やっぱ、かっこいいです」

 洋子は、その秋に転校した。お父さんの転勤……お父さんは鈍足のタグボートの艇長だった。洋子の病気のために、移動の少ない船を選んだようだが、時代が、お父さんを必要としはじめていた。それに東京の親類に預け、治療に専念できる体制もできたようだ。

 ボクはというと、身の程知らずにも推薦をみんなけ飛ばし、センター試験をうけ某公立大学に入った。
 入学して半月、学食でランチを食っていたら、後ろから懐かしい声で、懐かしい言葉をなげかけられた。
「お、腹上死!」
 ダボハゼの春奈がランチのトレーを持ってニンマリしていた。

 春奈は、忘れていたが、高校でダンス部に入った。で、大学でも続けているようで、もうダボハゼの面影はニクソゲな言葉にしか残っていなかった。まあ、人魚姫の侍女ぐらいは勤まりそうだ。

 金床の青春て、こんなもんだろう。まだ碇を降ろすには時間がありそう。

 とりあえず、さよならバタフライ……。
 

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高校演劇・夏期講習会(2)劇作

2016-03-01 07:30:59 | 演劇作法
高校演劇・夏期講習会(2)劇作

1・ドラマの構造を知ろう!
 わたしの居る大阪は、異常に創作劇が多いところです。コンクール出場校の90%以上が創作劇です。
 演劇の基本は「観客・役者・戯曲」の三つです。高校演劇でもっとも弱いのが、この戯曲、劇作であると思っています。高校演劇は簡単に創作劇を書きすぎます。ハッキリ言って粗製濫造です。だから身内には面白くても、多くの観客にはつまらないものになってしまいます。
「創作劇が多いことが誇りである」と誤解している顧問の先生もいます。そんなにいい創作劇なら、なぜ他校によって再演されないのでしょうか。いえ、自分のクラブにおいてさえ創作劇は使い捨てです。
 そして、創作にかける時間が短い。夏の講習で、コンクールの創作は間に合いません。創作劇の完成には季節が一つ変わるぐらいの期間が必要だと、先輩に教えられました。わたしは、アイデアからプロット、完成までに三月はかけます。ですから、夏期講習と題して書いていますが、来年の創作にむけてのアドバイスと思って読んでください。どうしても、この秋に「創作劇」で勝負したいのなら、部室にある過去の上演台本に手を加えましょう。基本、本は粗末にしないことです。

まず本を読もう!

 野球を観たことも無い人は野球はできません。ちなみに、わたしは未だに野球のルールが分かりません。それと同じ事で、戯曲(脚本)を読んだことの無い人が、本を書くのは、わたしが野球をやるようなものです……でも、戯曲というのは、小説などと違って、基本的に台詞だけで出来ています。読むのが辛いですよね。そこで代案を考えました。

映画を観よう!

 DVDでけっこうです。ドラマの構造を、これで勉強しましょう。
 お勧めの映画を紹介しておきます。『スウィングガールズ』『三丁目の夕日』です。『三丁目の夕日』は1~3まであります。できたら、3本とも観た方がいいのですが、第一作だけでもけっこうです。
 ドラマというものは、起承転結でできています。例えば以下のようです。

 起――サザエさんがお風呂に入っています。
 承――母親のフネさんの「お風呂に指輪落っことしたから探して」という声。
 転――「しかたないなあ」と、サザエさん。「ん、これかな?」と風呂の底で何かを発見、引き上げます。
 結――指輪と思ったものは、指輪ではなく湯船の栓に付いているリングで、お湯が流れ出し裸のサザエさんが真っ赤になって、チャンチャン!

 この構造を、作品から読み取って下さい。『スウィングガールズ』の場合、上野樹里の鈴木友子が、夏休みに数学の補習を受けているところから始まります。
 退屈していると、グラウンドにバス。吹奏楽部員達が野球部の応援に行きます。補習がイヤでたまらない友子は、そんな吹奏楽のバスを見て、ため息。
「いいよなあ、吹奏楽は……」
 バスが出た直後、お弁当屋さんが、遅れて吹奏楽のお弁当を持ってきます。
 バスは出た後なので、お弁当屋のオジサンは困ってしまいます。そこで、友子は思いつきます。お弁当を弁当屋さんに代わって届けてやれば、補習をサボレます。
 で、「先生、お弁当屋さん困ってますよ」と、提案、見事に、補習をサボルことに成功します。

 この中に、起承転結の構造があることが分かると思います。そして、この部分が、この映画の前半の起に当たります。で、ここで工夫があります。友子たちが、お弁当屋さんの代わりにお弁当を届ける必然性がいります。作者は、ここで、お弁当屋さんが、お通夜の仕出しの配達が入っていて、自分では届けられないという状況を用意しています。
 そして、竹中直人が演ずる補習の先生も、補習するのがイヤで、その話にのってしまうことになっています。

 このように、ドラマというのは、小さな起承転結があり、それが全体の起になり、承に、転に、結になっているものなのです。まず、その構造を頭に入れてください。

2・アイデア帳をつけよう
 無から有は生まれません。
――さあ、ドラマを書くぞ! という段階で、頭の中がカラッポでは、芝居は書けません。書いたとしても、ひどくウスッペラでご都合主義で、むりやりツジツマをあわせたものしか書けません。
 審査員は、こういうとき、こう言います。
「言いたいことは分かるんだけど……」という枕詞を付けて、「あそこは、あーで、こーで、惜しかった」で、創作脚本賞など出してお茶を濁します。高校演劇の審査というのは相対評価で、必ず最優秀と創作脚本賞、個人演技賞などを一定の割合で出さなければならないのです。だから、もらった方は「やったー!」という気になるし、観ているほうは「ああいうのが良いんだ!」と、未熟なものをサクセススタイルと思いこんでしまいます。これが、高校演劇の凋落に拍車をかけています。その証拠に全国大会でも観客席は満席になることがありません。
 
 演説はこれくらいにして本題に。
 アイデア帳というのは大したものじゃないんです。面白いと思ったことは、その場でメモをとるようにしましょう。
 わたしのアイデア帳の一部を紹介します。ほんとは企業秘密なんですが、もう使用済みのものや、だれでも思いつきそうなものを列挙していきます。
 最近は、歌手もアナウンサーさえも鼻濁音に無頓着『鼻濁音殺人事件』 
 警察では人相着衣のことを「人着にあっては、どうのこうの」という専門用語を使う。 
「ここではきものを脱ぐ」履き物を脱ぐやつと、着物を脱ぐやつが現れるなあ。 
「わたし、自分の名前嫌いなんです」「なんで?」「だって、イニシャルHGですよ」「それがどないしたん?」「だって、HGはハードゲイでしょ」 よく聞くと、親の離婚でHGになってしまったようだ。 
 いつも7階までエレベーターで上がってきて、一階分だけ階段を使っている子がいる。まだ、子どもなので、8階のボタンに手が届かない。
 海上自衛隊では毎週金曜日にはカレーライスを食べる。なぜか? 海の上にいると曜日感覚がなくなるから。 
 なぜ、横書きの日本語は左から右に書くのか。戦前は右から左が原則。だけど歓楽街にいくと左から右もあった。なぜか? 戦時中、南洋庁という植民地支配のための役所が、植民地の人たちが日本語を覚えやすくするために、通達を出して、戦後の閣議で追認した。だから日の丸なんかよりずっと軍国主義の遺産。でも、だれも何も言わない。どうして? ちなみに「大阪府庁」の看板は、いまだに左から右だ。
 スクランブル交差点、国防婦人会、ノーパン喫茶、こういうものは大阪で始まったものが多い。
 東京では、エスカレーターの右側を開ける。大阪は左側。境目は名古屋あたりか?
「山手線」を「やまてせん」とよぶのは地方出身者。江戸っ子は「やまのてせん」と言う。
 大阪でいう「レーコ」は東京では通じない。アイスコーヒーのこと。
 冷たいものを口にして頭が痛くなることを「アイスクリーム頭痛」という。これ、れっきとした専門用語。 最近の、大阪の女子高生は、自分のことを「オレ」という。東京では「ボク少女」と言うそうな。
 AKB48のタカミナの家に泊まった、あるメンバーはタカミナのパンツを借りて返さない、と、テレビでタカミナがぼやいていた。
 ヘビーローテーション、フライングゲット、みなネーミングがいい。両方とも放送局や、ダクショの専門用語。秋元康のアイデア帳もたいしたもの。
 校内で10万円のお金を盗まれた子がいたっけ。クラス全員拘束して調べたけど、今の学校は持ち物検査も出来ない。「ごめん。学校は警察ちゃうから、これ以上は調べられへん……」「……先生、ありがとう」その子は無言で涙目になって礼を言う。「警察に被害届出してもええねんで」言いながら冷や冷やもの。「うん」と言われれば、警察が捜査に乗り出す。学校としては困る……それを察したのか「もういい」と、彼女。10万円は、その子の家の、家賃やら、水道代やら、その子が、学校の帰りに振り込むことになっていた。学校で盗難は多いが、金額的にも内容的にも許せない。もう一度「ごめんな」と言う。彼女の目が涙で溢れる。衝動的に俺に抱きつこうとする。ここは素直にハグしてやるべきだ! しかし、先月、似たようなことでセクハラを取られ、戒告になった同僚のことが頭に浮かび、一瞬の逡巡。彼女はすぐに、それを察し、身をひいた。寂しいことだった。 
「でんでれりゅば、出てくるばってん。でんでられんけん出てこんけん、出てこられんけん、こん。こん」パッソという車のCM。「でんでれりゅうば」は長崎の手遊び。大阪には「ちゃちゃ壺、ちゃ壺、ちゃ壺にゃ蓋がない」というのがある。それよりも難しい。でも無邪気で、リズムがいい。調べてみると、長崎の遊郭のお女郎さんの話しがもとだとか「出られるものなら出ていくんだけど、出られないから、出て行かない。来ないよ、来ないよ」になる。
 名古屋では、自転車のことを「ケッタ」という。ケッタイな話し、ちなみに、大阪の「チャリンコ」は東京では通用しない。ただの「チャリ」である。
 『上からマリコ』というAKBの曲が、ちょっとヒット。これ少しひねったら『上からアリコ』いけるかも。
 並べあげるとキリはない。それに、未使用のアイデアは書けません。

3・本書きは失恋しよう

 世の中には、モテるやつと、モテないやつがいます。作家はモテないほうがよろしい。
 モテないやつは失恋の連続です。自然とモテない人の話や、失恋に敏感になります。
 わたしは失恋の連続の人生でした。そういう人間が『ロミオとジュリエット』を読むと、あることに気づきます。台詞の中だけですが、ロミオはジュリエットを好きになったとき、ロザライン(ロザリンドの訳もあり)という、恋人がいました。どの程度の仲かは、わかりませんが、ロミオはかなり彼女の店に通ったようです。ロザラインは、なかなか良い返事をしてくれません。そこで出会ったのがジュリエットなのです。
 女の子の心理としては分かりますよね。「好きだ」と言われて、簡単に「わたしも」とは、なかなか言えません。ロミオはジュリエットが一目惚れするような、イケメンです。ロザラインも憎からず思っていたはずです。しかし、シェ-クスピアのオッサンは、彼女については、その後、一言もかたりません。わたしは、このロザラインにひどく同情しました。そして『ロミオにフラレたロザライン』という本ができあがりました。
 
 作家は、弱い心、弱い立場に敏感であったほうがいいようです。
 太宰治。名前ぐらいは知ってますよね、『走れメロス』で有名です。友人セリヌンティウスを助けるために、メロスはひたすら走ります。ときに気持ちがくじけそうになりますが、見事に完走して、処刑される寸前のセリヌンティウスを助けます。
 この作品は、友情、約束の大切さという間違ったテーマで、教科書に載せられていました。太宰が書きたかったのは「待たせる者の苦悩」なのです。
 このメロスの話には、裏話があります。太宰が友人たちを連れて、旅館に連泊して遊び倒します。ある日オカミから「とりあえず、昨日までの料金を支払って欲しい」と、言われます。しかし、だれもお金を持っていません。そこで太宰は、友人たちに宣言します。
「ぼくが、一足さきに東京へ帰って、お金を都合しよう。みんな、ボクを信じて待っていてくれ!」
 で、太宰は、それっきりドロン。友人たちは非常な苦労をし恥をかいて東京に戻ってきます。
「太宰、おまえは、ひどい奴だ!」と、罵られます。
「君らに、待たせる者の苦悩が分かってたまるか!」これが太宰の返事でした。
 その気持ちを正当化するために(と、わたしは思っています)書かれたのが『走れメロス』なのです。
 戦時中、空襲警報が鳴って、太宰は家族といっしょに防空壕に非難します。幼い娘さんがグズるので、太宰は『カチカチ山』の絵本を読んでやります。『カチカチ山』では、タヌキが悪者で、田畑を荒らすので捕まえられ、タヌキ汁にされかけます。それを助けてくれたオバアサンをだまして怪我をさせて逃げたことになっています。で、ウサギさんが義侠心から、正義の味方になってタヌキを泥船に乗せて、溺れ死にさせてしまいます。ところが、太宰の娘さんは、こう言いました。
「タヌキさん、かわいそう……」
「どうして?」太宰は聞きました。
「敵討ちはいいけど、ウサギさん、やりすぎ」
 タヌキは、カチカチ山で、背中に大やけどをさせられ、そのあとはヤケドの薬とウサギに騙されて、カラシをヤケドに塗りつけられます。そして、お馴染みの泥船に乗せられて殺されてしまいます。敵討ちにしては、ウサギのやりようは執拗で残酷です。で、太宰は思い至ります。
「この執拗さと残酷さは、ティーンの女性特有のものだ!」
 わたしも、この太宰の説には大いにうなづけます。そういう経験は豊富ですから。
 そうして太宰は『お伽草子』の一つとして『カチカチ山』を書きます。ウサギはティーンの女の子。タヌキは中年のオッサン。このオッサンタヌキが、美少女ウサギに惚れます。タヌキはウサギの気持ちを引こうと涙ぐましい努力をします。ウサギはただウザイだけ。で、さまざまな意地悪をし、最後に泥船に乗せます。溺れるタヌキに、ウサギは船の櫨(オールのようなもの)で、タヌキにトドメをさします。タヌキは最後に叫びます。
「惚れたが悪いか……!」
 ウサギは、額の汗をぬぐい。
「ほ、ひどい汗」
 こういう視点が作品を生みます。

4・シンデレラと白雪姫

 作家の目の話しの続きです。『シンデレラ』は比較的に素直に喜んでハッピーエンドを受け入れられます。
『白雪姫』は、そうはいきません。白雪姫は悪い后によって、毒リンゴを食べて仮死状態になります。で、白馬の王子さまが現れて、白雪姫にキスをして、姫を助け、メデタシメデタシになります。
 しかし、(ひねくれた)大人の目から見れば、王子さまの、この行為は大変なことなのです。姫を助けたということは、姫の味方となり、悪い后の国と戦争をやらなければならず、始めた戦争には勝たねばならず、勝ったからには、新しい領土を平穏に統治せねばならず、当然まわりの国々は、大きくなった王子さまの国を警戒します。地域の政治的、軍事的バランスが崩れるからです。そんなことをなにも考えずに白雪姫にキスをするのは、あまりに軽率です。だから、王子さまは苦悩するはずなのです。白雪姫はクチビル一センチまで近づきながらキスをしてくれない王子さまに焦れる(じれる)はずです。ここにドラマが始まります。わたしは、ここに赤ずきんちゃんをとうじょうさせ、『ステルスドラゴンとグリムの森』という話を書きました。
 一言で言えば、人とは違う視点でモノを見ることが大切ということです。

5・気持ちや状況を説明してはいけない

 時々芝居に語り手を置く場合があります。ナレーター、狂言回し、MCなどと言い方やスタイルは様々ですが、要は説明役です。
 
 昔々、あるところにオジイサンとオバアサンがいました……という類の説明をします。はなはだしいときは、影マイクで済ますときもあります。語り手を置く場合は、かなり語り手に力がなければできません。
 だって、そうでしょう。授業中どれだけ先生の話を聞いていますか? 全校集会で、校長先生や、生活指導の先生がいくら喋っても、ほとんど聞いていませんね。

 舞台も同じです。オジイサンとオバアサンは説明しなくても登場すれば分かります。モンタギュー家とキャピュレット家が対立していることは、説明しなくとも、両家の若者たちにケンカをさせればすぐに分かります。だから、『ロミオとジュリエット』の芝居は、このケンカから始まります。冒頭にちょっとした説明役が出てきますが、これはシェ-クスピアの時代の芝居の約束事のようなものです。マイクも照明設備も無い時代です。
「さあ、これからお芝居を始めますよ。みなさんお静かに」
 この程度の意味しかありません。これ無しで芝居を始めたら、ざわついている観客席は静まらず、いきなりケンカのシーンなど始めたら、観客はほんとうにケンカが始まってしまったと思いかねません。そのためで、語る内容も、原稿用紙で一枚分ぐらいしかありません。
 まずは、語り手を置くのは、あまりいい方法では無いと申し上げておきます。

 役者にも、あまり説明的な台詞を喋らせてはいけません。あくまでも人間の葛藤として描かなければなりません。
 有名な『ロミオとジュリエット』の第二幕、第一場、キャピュレット家の庭園。バルコニーと庭に別れて、ロミオとジュリエットが、互いの思いを語るシーンがあります。原稿用紙で八枚ほどあります。
 この場の主題は「愛しています」なのですが、6000字あまりのこのシーンに「愛しています」は一度も出てきません。どうして愛する相手がカタキの家の人間なのか、という嘆き。それを超えても愛したい! 愛している! ということを言葉を尽くして語らせあいます。互いの言葉が、互いの恋心を高めるしかけになっています。そして、愛の語らいの場は、キャピュレット家の庭なのです。ロミオは、そのカタキのモンタギュー家の若様なのです。見つかればただでは済みません。その状況への気遣いと、一瞬でも長く二人で居たい気持ちの葛藤に満ちています。で、このシーンの主題は「愛しています」の、六文字なのです。シェ-クスピアは、それを字数にして千倍にして、しかも飽きさせません。本屋さんで、このシーンだけでいいですから立ち読みしてください。シェ-クスピアのスゴミを分かるのには一番いいシーンです。

6・特殊をもって普遍とするなかれ
 
ちょっと難しいタイトルなので、例をもって説明な替えたいと思います。
 なんだか、対立していた者たちが、最後に和解して互いのいたらなっかったことや、間違っていたことを理解するカタルシス(心的浄化)を描きたいとします。そのために特殊な状況を作り出す手法です。
 イジメのために生徒が自殺します。遺書が残されました。加害者と思われる生徒たちの名前が書いてあります。そして、その親たちが学校に呼ばれ、事情を聞かれます。死んだ子の遺書も見せられます。
「うちの子が、そんなイジメをする側にまわることなんて、あり得ない!」
 親たちは、そう信じようとして、集められた他の親たちの子どものせいだと言い合います。
 次に、死んだ子が弱かったんだ、死ぬなんて当てつけがましい。とまで言い出します。しかし、しだいに真相が明らかになり、自分たちの子が死んだ子を追いつめたことを悟ります。そして、死んだ子に申し訳ない気持ちで一杯になり、自分たちこそ、子供たちに向き合っていなかったことに気づき、互いに和解し、死んだ子のの冥福を祈ります。
 わたしは、こういう芝居の書き方は「演劇的な殺人」だと思い、そういう書き方をしないことを戒めとしております。
 こういう本を書く人は、最初に和解などのカタルシスが書きたいのです。そのために現実的ではない状況を作り出してしまいます。
 イジメが原因で自殺にいたることは、ごくまれです。まれであるからこそ、マスコミは取り上げます。わたしは三十年教師をやって、六人の生徒の死に出くわしました。全員が交通事故です。高校生の死因で一番多いのは交通事故なんです。ありふれているので、マスコミはほとんど取り上げません。しかし、肉親にしてみれば、自分の子どもの死に違いはありません。
 わたしも、イジメや不登校を題材にして二本ほど書きましたが、子どもは死なせていません。死なずに耐えているのが普通なのです。中には、去年までイジメられていたのが、今年になるとイジメる側にまわることもあります。これは難しくいうと、集団の中で生きていくための人間関係の持ち方のネガとポジの関係なのです。
 もし、かりに、本当にイジメのための自殺があり、そのことを芝居にしたいことがあったとしましょう。実際数は少ないですが、存在することです。
 現実に起こった出来事を素材にする場合は、かなり厳密なフィールドワークが必要です。自分が作家としてカタルシスを描きたい。作家として賞賛されたい。そういう気持ちで、現実に起こった出来事を素材にするのは、その出来事の関係者、当事者の方々への冒涜になります。
 現実の出来事を扱う場合、当事者、特に被害に遭われた方々への深いシンパシー(共感。同情ではありません)を持たなければなりません。シンパシーの無い作品は、観れば分かります。シンパシーを持っている作品も分かります。井上ひさしさんの『父と暮らせば』 村上春樹さんの『アンダーグラウンド』など、その典型です。

7・とりあえずのまとめ

 本の書き方を述べるというのは、「どうやったらカレやカノジョを口説けるか」を、相談相手の顔を見ないで、答をいうようなものです。カレやカノジョへの告白の仕方というのは、誰が、誰に、どんな状況で告白するのかで千差万別です。
 芝居も、誰が、どんな役者を使って、誰に観せるのか、どんな上演目的か、そして何を書きたいのか、どこで上演するのかなどで、書き方は変わってきます。
 もし、コンクールで優勝を勝ち取りたいなら。あ、べつに皮肉じゃありません。コンクールは競技会です。優勝を目指してあたりまえです。わたしは、この姿勢を積極的に支持します。
 等身大の高校生の生活を描いてみましょう。テーマは「友情」ぐらいがいいでしょう。他に「友だち以上、恋人未満」「進路、正直実感湧きません。不安はあるけど」「約束」「先輩の心から見える高校生活」「これってイジメ?」「女子高生にとってのイケメンとは!?」「男子高校生にとってイケテル彼女とは!?」この逆もいいですね。「男子高校生にとってイケメンとは?」「女子高生にとってイケテル彼女とは!?」「ウザイ先生との距離の取り方、そこから見えてくる高校の現状(今またはNOW)」ちょっと考えただけで、これくらいのものがすぐに出てきます。審査員うけ……これも悪い意味じゃありません。審査や、審査員の傾向を知って作戦を練ることは、他のジャンルでは、ほとんど当たり前です。
 では、どうやったら、等身大の高校生が書けるのでしょうか?
 簡単です。ネットで、上に書いたテーマ、むろん他のことでもけっこうです。検索してみてください。ヒントや情報は山ほどあります。審査員は基本的に、現場の高校生を知りません。自分自身のフィルターがかかっています。マスコミのそれであったり、観客として見ている高校生です。そこに照準をあてましょう。
 もし、もう一歩踏み込んで、借り物ではない感性で本を書きたいのなら、自分で調べましょう。生活指導や進路指導、保健室の先生に「うちの生徒の特徴とか、問題はなんでしょう?」と聞いてみてください。普段君たちが思いもしなかった自分たちの姿を教えてもらえます。

 わたしが、コーチをしていた学校で、生徒が、こんな叱られ方をしていました。
「分かってもいてへんのに、すぐに『はい』ていうな!」
「はい!」と、生徒の返事。
「それや、それが、あかんのや!」
「は、はい……」
 まるで漫才でした。ここからドラマが書けるなあと思いました。

8・最後に、やっぱり……

 本当に、アンチョコではなく本を書きたい人は、戯曲を50本、自分たちより上手いお芝居を10本は見てください。他のブログでも書きましたが、藤本義一という、大阪を代表する作家の方は、「先生、芝居を一本書いてもらえませんか」と、頼まれ、こう言いました。
「ちょっと待ってください。勉強してから書きます」
 そう言って、藤本さんは100本の戯曲を読んでから、書くことを始めました。
 充電しない電池は放電できない。当たり前の話です。

 司馬遼太郎という偉い作家がいらっしゃいました。ご生前、東京の劇団から戯曲を依頼され、二本だけ書かれました。それ以後は一本もお書きになっていません。
 太宰治も「演劇界に原爆を落としてやる!」という意気込みで戯曲を書きましたが、やはり二本です。
 さほどに、本気で取り組むと、ムツカシイものなのです。それを承知の上で、戯曲を書く人が現れるのを待っております。
 ちなみに、わたしは20歳から書き始め、延べ150本ほどの作品があります。
「大橋さん。代表作とか自信作はなんですか?」
 そう聞かれたら、こう答えます。
「次に書く本」

後書き

 一応、これでおしまいです。あんまりゴチャゴチャ書いては、かえって分からなくなります。後日、書き足したほうがいい、書き直した方がいいということが出てきたら、手を加えます。では、腰を据えていい本を書いてください。
 もし、4月以降にこのブログを読んだ人は、今年度の創作は断念したほうがいいと、思います。台詞を並べただけでは戯曲ではありません。ただのプロットです。自分で読み、みんなで読み、実際演技として立体化して、何度も手を加えなければなりません。慣れていても、本書きに3ヶ月。稽古も最低3ヶ月はかかります。
 コンクールには、少し間に合いません。そういう人は来年のコンクールを目標に勉強してください。
「そんなあ~」
 という人は、部室の中から先輩たちが演った本を引っぱり出してください。一度は観客や、審査員の目をくぐっています。むろん、そのときの記録や改稿した分が残っていなければ意味がありませんが。一度探してみてはどうでしょう。

観客

 良い芝居を演れば、自然に観客はついてきます。畑は違いますが「おにゃんこクラブ」と「AKB48」の違いです。AKBの成功は(おにゃんこも、成功はしていますが、比較として)秋元康という人が、舞台という本に上手く「お話」が書けるようになったからだと思います。あと、見せ方がうまいですね。総選挙やジャンケン大会という企画も素晴らしいと思います。しかし、基本は舞台の上のエンタメという本であることに間違いはありません。
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