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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 30『剣術修業・3』

2021-09-10 13:51:37 | ノベル2

ら 信長転生記

30『剣術修業・3』  

 

 

 

 いくぞ!

 

 こちらが踏み出すと同時に武蔵は横に跳んだ。

 横跳びの姿勢のまま、走り出し、俺たちは自然と武蔵に追随する。

 足には自信があるのだが、武蔵の動きに追随して先頭を走るのは謙信だ。

 謙信は瞬発力と速さでは、俺を上回っている。

 信玄は俺の後ろを走っている。

 体格に恵まれている分、速度が出ないのだろうが、臆するところが無い。

 追随さえしていれば、いかようにも姿勢と立ち位置を変えて攻守いずれでもやってやろうと、やる気満々。

 

 しかし、謙信は武蔵の頭を押えきれてはいない。

 

 まったく同じ速度、いや、鼻の差、武蔵が前だ。

 踏み込めば、その分、遅れてしまい、振りかぶった剣先は空を切るだけだ。

 

 まずい!

 

 武蔵は、旧校舎と塀の間に入り込もうとしている。

 旧校舎裏の隘路(わいろ=狭い道)は人一人走るのが精いっぱいで、謙信が前に回らない限り、武蔵に対する者は一人になってしまい、各個に撃破されてしまう。

 トオーーー!

 バシ!

 わずかな段差を踏み台にして謙信が渾身の突きを入れるが、見切った武蔵は余裕で払う。

 バシ! タタタタタタタ…… ガシ! タタタタタタタ…… 

 刹那の打ち合いになりながら、二人とも速度が落ちない。

 フッと背中の圧が無くなる。

 幾多の戦場を駆けてきた勘で分かる。信玄が道を変えたのだ。

 旧校舎が途切れてグラウンドに抜ける!

 広いグラウンドに出てしまえば、最低でも二人は武蔵に向き合える。

 

 グオ!

 

 旧校舎が途切れた向こうから黒いものが飛び出した!

 ブン!

 裂ぱくの剣が空を切る。

 旧校舎の中を抜けて先回りをしたのだろう、信玄が行き脚を断ち切るように飛びかかったのだ。

 ガシ!

 信玄の剣はしたたかにブロック塀を叩いた。

 謙信の動きにも無駄は無い。

 トオオーーーー!!

 塀を叩いて中腰になった信玄の尻を蹴って跳躍、跳躍と同時に振りかぶった剣が武蔵の頭蓋を割った!

 バシ!

 背中に目があるのか、遮断機が下りるように頭上に剣を構えて謙信の太刀筋を躱す武蔵。

 グラウンドの前には緩い傾斜。

 セイ!

 傾斜の端を蹴って、一気に五メートルほどを跳躍。勢いのままグラウンドに突入。

 セイ!

 追手の我々も跳躍するが、武蔵ほどの飛距離を稼げず、少し距離が開いてしまう。

 しかし、我々にも利点がある。

 広いグラウンドなので、俺たちは信玄を真ん中に、横に広がって追いかける、追いかけることができる。

 たった三人だが期せずして鶴翼の構え。

 追い詰めることさえできれば、三方から打ちかかることができる。

 

 チャンス!

 

 目の前に朝礼台、武蔵の取るべき道は二つ。

 三人のうちの誰かに打ちかかり、隙を作って逃げる。

 朝礼台を飛び越えて、このままグラウンドを走り続け、新しい機会をうかがう。

 とにかく、三人から一度に打ちかかられるような状況は避けるはずだ。

 セイ!

 跳躍と同時に朝礼台を蹴る武蔵!

 グゥアラ!

 武蔵の蹴りで、朝礼台がひっくり返る!

 ブン!!

 空中で二回転した武蔵の剣が唸る!

 なんとか躱すが、跳躍した高さと剣の勢いを凌ぐのが精いっぱいで反撃に出られない。

 オリャアアアア!

 朝礼台を飛び越えられなかった信玄は、直立した朝礼台を投げ飛ばす!

 なんという馬鹿力。

 グゥアッシャン! ガラガラガラ……

 

 それまで!

 

 いつの間にか、織部を従えた利休が終了を示す赤旗を掲げている。

「今の勝負、武蔵の勝ち!」

「引き分けではないのか?」

 信玄が他人事のように聞く。

「織部さん、証拠を」

「はい……ご覧ください」

 集会用に設置されている200インチのモニターを指し示す。

 画面には、たった今の朝礼台を巡る戦いが、スローで再生される。

 朝礼台を蹴った武蔵は、思ったよりも高く跳躍して、三人の上で後方二回転。

 二回転の間に武蔵の袋竹刀は二閃、フワっと舞うものが見える。

「拡大します」

 それは、袋竹刀の旋風で断ち切られた三人の髪の毛だ。

「なるほど……」

「袋竹刀で、これほどの風をおこせるのか……」

「真剣であったなら、三人とも深手を負っていたな」

「「うむ」」

 信玄が締めくくり、俺と謙信が頷いて、勝敗は確定した。

 

「いや、見事だった武蔵。来世では武田の剣術指南役になってくれ」

「この謙信から一本とったのは武蔵が初めてだよ」

「またな、武蔵」

 

 三人それぞれ武蔵と握手して、今日の部活は終わった。

 

「武蔵の目は笑っていませんでしたね」

 スマホの画像を確認しながら、織部がこぼす。

「そりゃあ、剣術だからだ。そうだろ、謙信」

「ああ、所詮は得物を刀に限定した戦闘術に過ぎん。鉄砲の十丁もあれば、武蔵は簡単に討ち取られる」

 残酷なことを言っているのだが、信玄の目は暖かい。

「それを知っているんだ、あの三白眼は」

 余計なことだと思いながら、俺は付け足してしまう。

「なるほど……より高次な戦術、戦略の前には、個人の剣術など……」

「言ってやるな、そこを極めようとした武蔵は、それなりに見事だ」

 謙信がしめくくる。

 やっぱり信信はいいコンビだ。

「それなら、織部さん、あの武蔵さんを笑わせたら、次の茶道部の部長にしてあげるわ」

「本当ですか、師匠!?」

 

 さて、今日の部活、市に話してやったらどんな顔をするか。

 思いながらグラウンドを後にする頃には、晩飯のメニューを考える俺であった……。

 

☆ 主な登場人物

  •  織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
  •  熱田敦子(熱田大神)  信長担当の尾張の神さま
  •  織田 市        信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)
  •  平手 美姫       信長のクラス担任
  •  武田 信玄       同級生
  •  上杉 謙信       同級生
  •  古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ

  

 

 

 

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ライトノベルベスト『ハッピーウォッチ』

2021-09-10 06:22:36 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『ハッピーウォッチ』  





 ちょっと前のコマーシャルで、渡辺謙や桑田佳祐が人格化したスマホになって持ち主と会話するというのがあった。

 ほのぼのとしたコマーシャルで、続編がいろいろ作られている。

 アイデアとセンスのいいコマーシャルだと微笑んだ人が多いのではないだろうか。

 

 でも、あれは事実なんだ……と、言ったら驚くだろうか。

 

 わたしが使っている腕時計は二代目である。

 初代はSEIKO5という自動巻で、高校入学の時に叔父からもらったもので、32歳のときまで健在だった……。

 と、書き出したら、本箱の隅に置いていたSEIKO5が、こう言った。

「まだ現役だわよ」

「ちょっと待ってね」と、ボクは本棚に目をやる。

 名前の通りSEIKO5は女の子である。読めば分かると思うがSEIKO=セイコである。

 自意識の強い子で、動いている間はチ、チ、チ……と、絶えずボクの行動に舌打ちしている。

 セイコは本体は健在なのだけど、ステンレスのベルトが16年間の使用でだめになった。

 ベルトを交換しようと思って時計屋さんのウィンドを覗くと、3600円と正札が掛かっていた。

 当時のわたしの給料は16万円。小遣いは3万円だった。

 で、考えた。

 セイコというのは几帳面な子なんだけど、絶えず腕にはめて構ってやらないとスネて、すぐに止まってしまう。

 ひらめいて、家電の量販店に行った。

 ショーケースに並んでいるのはどれも電池式多機能のデジタル時計ばかりだった。

「浮気するのぉ?」

 セイコが口をとがらせた。

「ちがうよ、スペアの時計にするんだ。セイコのボーイフレンドになるようなさ」

「え、ホント!?」

 セイコがときめいた。

 セイコといっしょにショーケースを覗いた。

「女の子はだめよ。かっこいい男の子にしてね」

 セイコのきびしい面接に合格したのはカシオ君という多機能時計だった。

 時間はもちろん、ストップウォッチ、万歩計、消費カロリーまで計算してくれる。

 マイナーチェンジした二代目なんだそうだが、不器用なボクは時計としての機能しか使えていない。

「フフ、使いこなせないんじゃない」

 セイコはボクのことをよく知っている。なんせ高校一年からの付き合いである。

 カシオ君はセイコのように舌打ちすることもなく、ボクの腕で時を刻んでいた。

 冠婚葬祭の時はセイコにした。

 カシオ君のボディーはブラックだけれど、ついている四つのボタンは鮮やかなオレンジ色で、式服を着ると、いささか目立ってしまう。

 で、この二つの時計は平和に共存していた。

 このカシオ君は優れもので、25年間も電池を交換せずにすんだ。ちょっと信じがたいことだけど、ある日液晶の文字盤が息絶えそうに薄くなったとき「えーと……」と考えると25年であった。考えているうちに、文字盤が消えてしまった。

「ほんと、あなたって無神経なんだから」

 セイコの蔑む声がした。付け替えたベルトが黒の合皮の安物なので、機嫌が悪い。

「ごめんね」

 一言応えてやると、シルバーのミニのワンピースに黒のベルトをルーズに締めていた彼女は、ボクの腕に絡みついてきた。

 時計屋さんに行った。

 すぐに見つかるだろうと思ったら、なかなか見つからない。やっと、商店街の外れに見つけた。

「すみません、電池の交換してもらえますか……」

「これは……年代物ですなあ」

 時計屋さんは、そうつぶやいてカシオ君の裏蓋を外そうとした。

「なかなか外れませんなあ……」

 思いのほか、時計屋さんは難渋した。

 そこに電話がかかってきた、年代物の黒電話を持ってオカミサンが出てきた。

「お父さん、電話」

「すんません、ちょっと家内にやらせますわ」

 奥さんが代わって、裏蓋を外す……四つのネジの二つまで外したとき、セイコが舌打ちしながら言った。

「恥ずかしいのよ、ちょっと横向いていてあげて」

 わたしは、店の奥の棚に並んだ時計たちに目をやった。左手に絡みついたセイコは、いたわるように中身をむき出しにされ、電池を交換されているカシオ君を見つめていた。

「はい、直りましたよ。元気な娘(こ)だけど、大事にしてあげてくださいね」

 奥さんは自然にそう言って、クリーニングスプレーをかけた。

「え、これって、女の子なんですか……?」

「ですよ、セイコとペアのカシオでしょ」

「え、まあ……」

「カシオでペアだから、カシオペア。ギリシア神話に出てくるエチオピアのお妃さま。で、マイナーチェンジの二代目だからアンドロメダ。ギリシア神話の中でも、トップクラスの可愛い娘さんですよ」

「はあ、……」

 ハンチクな返事をしていると、奥から、ご主人の声。

「おーい、電話かわってくれって」

「え、クロノスさんじゃなかったの?」

「アルテミスちゃんにかわっちゃった」

「やれやれ、あの娘、長話だから……」

 一瞬目が回った。

 気づくと、そこは、商店街のはずれの空き地だった……。

 今は、座卓の上に二つの腕時計は仲良く並んでいる。

 油断すると直ぐに人の姿になり、妹の栞(しおり)と、お喋りなんかしている。

 女という字を三つ重ねると、どうしてもそうなってしまう。

 ファンタジーの世界も例外ではないようだ……。

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