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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 32『孤高の剣聖・2』

2021-09-18 16:45:19 | ノベル2

ら 信長転生記

32『孤高の剣聖・2』  

 

 

 

 あいつ(兄の信長)には言わないけど、こちらには、けっこう長く居る。

 

 その長く居るわたしでも、ここは新鮮だ。

「こんなにいい風が吹いているとは思わなかった」

「うん、一年で十日ほど、とってもいい風が吹いてくる」

「不思議だね、麓の方じゃ南風なのに、途中からは北風になってる!」

「あ、またやるの(;'∀')?」

「アハハ、きっもちいい!」

 タタタタタタ…………御山の斜面ををかけ下る。

 フワァァァァ…………南の向かい風に体が持ち上げられるよう。

 クルリと向きを変え、風に背中を押れて斜面を駆け上がる!

 タタタタタタ……ここだ!

 ピョン! クルリン!

 ジャンプと同時に体を捻る、ほんの一瞬なんだけど体が持ち上げられて飛んで行きそうになる。

 フワリ…………ドテ!

 むろん、鳥や蝶々じゃないから、一瞬の浮遊感のあとは、そのまま落っこちる。

 でも、その一瞬の浮遊感が、とても爽快で嬉しくて、さっきから五回もやっている。

「ダメだよ、怪我したらどうするんだよ」

「大丈夫!」

「大丈夫じゃないよ、織田さんになにかあったら……」

「なにかあったら?」

「えと……信長さんに殺される」

「だったら、その前に、あたしが殺す」

「ええ!?」

「やだ、忠くん殺したりしないわよ。あたしが信長殺す!」

「そんなあ~(^_^;)」

「あいつ、信行兄ちゃん殺してるからね、一回くらい兄妹に殺されりゃいいんだ」

「あはは……」

「アハハ、忠くん真面目ぇ~、本気になんないでよ」

 実は本気さ。

 さっさと生まれかわって、もっとましな信長の人生歩んでくれなきゃ、血を分けた兄妹とか身内とか殺さなくていい信長の人生をさ……

「さ、そろそろ飛ばそうか」

「あ、そだね、紙飛行機飛ばす前に、あたしが飛んで行ったら困るもんね」

「いくよ」

「うん……あれ、ここでいいの?」

 二宮忠八なら、もうちょっとタイミングやらベストポイントを探るかと思った。わたしがジャンプした場所で、躊躇なく紙飛行機を構えた。

「うん、織田さんがジャンプしたところがベストだよ。織田さん、ポイント掴む勘が、とってもいい」

「アハ、そうなんだ!」

「はやく、すぐにいい風が来る!」

「うん!」

「待って、あと三秒…………今だ!」

 

 えい!

 フワワァ~

 

 二機の紙飛行機は生まれたばかりの上昇気流に持ち上げられ、斜面でクルリと巻き上げられた追い風を受けて、どんどんスピードを上げて飛んでいく。

 なんだかこみ上げてくるものがある。

 自分が生み出した紙飛行機、それが、わたしが選んだベストの条件で飛んでいくよ。

 いけえ! いけえ! 飛んでけええええええ!

「織田さん、視界没になるかも!」

「ほんと!?」

「追いかけるよ!」

「あ、待ってぇ!」

 日ごろ鈍重な忠八くんが、すごい身の軽さで斜面を駆け下りる。

 地面は、チラッと見たきり。

 上空の紙飛行機にピタリと目を付けて、バランスとるために、自分自身紙飛行機になったみたいに、両の手を横に伸ばして、切り株とか、まるでレーダーで見てるみたいに軽やかに走っていく!

 やっぱり二宮忠八は神さまだ。

 わたしも、視界の端に忠八くんをとらえ、自分の紙飛行機を追いかける。

 野を超え、小川を超えて、それでも紙飛行機は飛んで行き、ここを超えたら未知の領域的な森の手前で落ちた。

「すごいすごい! 国境まで飛んできちゃったよ!」

「ほんとだ!」

 紙飛行機を手に振り返ると、御山が、今まで見たこともないほど小さく見えている。

「『舐めんな、紙飛行機!』って、感じね!」

「うん、織田さんが、ベストのタイミングとポイント見つけてくれたからだよ!」

「エヘヘ、そうかな~(n*´ω`*n)」

 

 カサリ……背後の森で音がした。

 

 え?

 振り返ると、とんでもないやつらが森から出てくるところだった。

 

☆ 主な登場人物

  •  織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
  •  熱田敦子(熱田大神)  信長担当の尾張の神さま
  •  織田 市        信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)
  •  平手 美姫       信長のクラス担任
  •  武田 信玄       同級生
  •  上杉 謙信       同級生
  •  古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  •  宮本武蔵        孤高の剣聖

 

 

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ライトノベルベスト『次の電柱まで』

2021-09-18 06:26:12 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『次の電柱まで』  



 

 今日も裕子と篤子が休んでる……もう三日になる。

 二人の欠席はプチ家出だって、噂が流れてきた。

 うちは、都立でも限りなく三流に近い二流半と言ったところ。二百四十人入学して、卒業するのは二百人そこそこ。つまり四十人近く、クラスにして一クラス分くらいは居なくなる。

 つまり続かなくなって退学していくのであって、けして……この世の中から消えて無くなるわけじゃない。

 この春の卒業式、いつものようにざわついた中で始まった。

 まあ、予想はしていたけど、来年あたしらの卒業式も、こうなるのかと思うと、気持ちはサゲサゲだった。

 ところが、在校生代表の送辞で、みんなシンとした。

「……ご卒業おめでとうございます(ここらへんまではザワっとしてた)。 僕は、ここにいない三十九人の先輩にも想いをいたします。テストの成績、出席日数、家庭事情、様々な理由はあるでしょう。でも、三年前の春、ここに座ったときは、今日のこの日。みんなといっしょに卒業式に出ることを夢見ておられたと思います。後輩の身として僭越ではありますが、同じ中学の、同じクラブの、同じバイトの後輩として、力になれなかったことが悔やまれます。少し人生を大回りされるかもしれませんが、たとえ周回遅れになっても、最後のゴールに到着されることを願って止みません。ここに卒業される二百一名の先輩の方々と同様に、この人生の門出を祝いたいと思います。在校生代表 市川宗司」

 終わりの方では、シンとして、いつになく真面目な式になったと、先生たちは喜び、あたしたちはシンミリ。

 この送辞は、むろん市川のボンクラが考えたんじゃない。生徒会顧問のヤッキーの手が入っている。

「ヤッキー、うまいこと考えたじゃん。あれなら、みんな大人しくなっちゃうよ」
「でもなあ、日本中一年で十万近い人が行方不明になってんだぞ。そのうち身元不明の仏さんは千体ちょっとなんだぜ。わかるだろ」
「じゃあ、ほとんど見つからないってことじゃん!?」
「さっき言ってた中退者も、五人……もう行方不明だ」
「そうなんだ……」

 だから、裕子と篤子の欠席が気になった。プチ家出ならいいんだけど……。

 学校の帰り道、小四ぐらいのガキンチョが七人ほどで遊んで帰るのに出くわした。

 どんな遊びかというと、電柱のとこでジャンケンし、負けた者が次の電柱まで全員のランドセルをしょったり持ったりして運ぶやつで、あたしにも思い出深い遊びだ。
 その時は、中肉中背の特徴のない子が七つのランドセルを運んでいた。顔を真っ赤にし、それでも「負けるもんか!」という勢いで、小走りで次の電柱へいく。で、みんなが囃し立てる。

――おかしい――

 そう思ったのは、二つ目の電柱だった。

 あいかわらずその子がジャンケンに負けて、もう顔なんか赤黒くしながら歯を食いしばっていた。
 あたしはイジメじゃないかと思った。中肉君はジャンケンに弱く、それを承知で、やらせてるんだ。
 もう少し続くようなら、一発カマしてやろうかと思った。高校生相手ならともかく、こんな小学生ぐらいなら、怖いオネエサンにはなれそうだ。

 でも、もう一つの異変に気づいた。

 数がおかしいのだ。最初は背中に二つ、お腹に二つ両手に一個ずつ、器用に頭の上に一個載せていたように思った。でも、今は、背中の一個と頭の上のランドセルが無い。すなわち、全部で五個っきゃ無い。
 そして、ガキンチョの人数も五人に減っている。

――数え間違えたかな――

 ジャンケンを観察した。あの子は、さっきと同じパーを出して負けていた。他の四人はいかにも「こいつバカ」というような笑い方をしている。

 でも、次の瞬間、その子がランドセルをかついだ拍子に一人消えた。

 だれが消えたかは分からないが、確かに一人消えて、ランドセルは四つに減った。この道は住宅街だけど、誰も家に入っていったところは見ていない。わたしは怖くなってきたけど、目が離せなかった。

 そして……最後の電柱になった。

 やはり、その子はパーで負け、勝ち誇った子のと自分のランドセルを振り分けにして担いだ。
 とたんに、最後の一人も消えて、その子だけになった。

 その子は、自分のランドセルだけになると立ち止まり、ため息一つついて笑い出した。

「アハハハ、見ろ、ボクの勝ちだ!」

 そして、その子は笑いながら、あたしの方を向いた。

「オネエチャン、ずっと見てたんだろ。もう誰も居なくなっちゃったから、いっしょにやろうよ……」

 そういうと、ガキンチョとは思えないスピードであたしを追いかけてきた。あたしは声も出なかった。

「なんだ、今日は刺原も休みか」
 
 そうぼやく担任の姿がリアルに、あたしの頭をよぎって、ガキンチョの手が届きそうになった……。

 

 

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