大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・069『B鉱区 辰巳海岸』

2021-09-26 11:20:34 | 小説4

・069

『B鉱区 辰巳海岸』 加藤 恵  

 

 

 24世紀の今日、動力の大半がパルス動力だ。

 

 小は医療用ナノマシンから惑星間宇宙船に至るまでパルスを動力にしていないものを見つける方がむつかしい。

 動力源はパルス鉱石だ。

 純度の順に並べると、こうなる。

 パルス鉱  パルスラ鉱  パルスダ鉱  パルスガ鉱

 パルスガ鉱は発するパルス波が安定しているのみならず単体でパルスダの十倍の出力があり、二つ直列すると倍の力を発揮する。三つにすると三倍、四つなら四倍の力を発揮し、出力調整は原理的には直列数の切り替えでできるというスグレモノだ。

 原理的には半永久的に振動波を出すパルス鉱だが、熱や動力に変換するときに微細な傷がつき、その傷が鉱石の全てに及ぶとパルスを発しなくなってお仕舞になる。

 その変換技術は日本が一番優れている。

 令和の昔、潜水艦のキャビテーションノイズを世界一小さくしたり、量子コンピューターの小型化に成功した流れと関係があるのかもしれない。

 しかし、有数のパルス技術を持ちながら、日本はパルス鉱石の産出量は知れていた。

 小笠原諸島と、その海底からパルス鉱石が採れてはいたが、大半がパルスラレベルまで。硫黄島の海底からパルスダ鉱石も採れてはいたが、世界有数の火山帯でもあり、採掘には世界標準の倍近い経費が掛かるので、商業ベースに乗るのには時間がかかると言われている。

 そのパルスダを超える、最高純度のパルスガ鉱石が見つかったというのだから、世界的、歴史的発見と言っていい。

 

「ザクザク採れるといいんだけどね」

 

 眩しそうな表情で頬を掻くハナ。

 採掘現場である辰巳の岩場。

 酒盛りのあくる日、酔っ払いたちは放っておいて、氷室とハナとニッパチとで出張ってきた。

 ニッパチは夕べのうちに完ぺきに修理してやって、見違えるほど逞しいロボット(作業機械?)にしてやった。

『辰巳は広いよ、懲りずに探したら、またきっと出てくる』

「ちょ、くすぐったい」

『そう、シリコンの手だから人と同じ感触だぞ』

「いや、そーじゃなくて……」

 見かけの割には優しい性格らしく、後の言葉は呑み込むハナ。

「アハハ、やっぱ、シュールだったかなあ」

『ニッパチは気に入ってる』

 土木工事に適したアームハンドの第二指に格納式の手首を付けてやったんだ。

 これなら、将棋やカードゲームもできるし、この図体を収める空間さえあれば事務仕事もこなせるし、今のように落ち込んだハナの頭をなでてやることもできる。

「うんうん、これは新しいメカの有り方かもしれない」

 鉱床を調べていた氷室も顔をあげて、写真を撮り始める。

 パシャ パシャパシャ

「ちょ、ヒムロ!」

「うん、照れたとこいいよ」

 パシャパシャ

「勝手に撮んな!」

「いや、すまんすまん。つい、可愛いもんだから」

「か、可愛い言うな(#'0'#)!」

「ハハ、じゃ、また今度な(^▽^)」

 ハンベをCPモードに戻して、モニターを展開させる氷室。

「令和の大噴火で深層の鉱床が部分的に吹き飛ばされてきたものだろうね……微細な粒子の他には見当たらないよ」

『10ナノメートル以上のものは50%採取しておきました』

 ニッパチがVサインする。トラックが直立して、フレームから人の手首が出ているようで、やっぱりシュールかな?

「うん、それだけでも二年分の酒盛り代にはなるだろ。シゲたちは喜ぶと思うよ」

「ちょっと見せて」

 諦めきれないようで、ハンベに食らいつくハナ。

「ねえ、粒子の流れが海岸に寄ってるような気がする……これは、鉱床が海の方に続いてるってことじゃないかなあ」

「メグミは、どう思う?」

「わたしが言っていいの?」

「うん、メグミはニッパチも直してくれたし」

「粒子に横方向の広がりが無いわ、これは氷室が言う通り、部分的に噴き出してきたものがドシャって感じで落ちてきたものでしょ。ひょっとしたらこの塊だけじゃなくて、南の海底には、他に噴き出したものがあるかもしれないけど、ちょっと待ってね……」

 自分のハンベで調べてみる。

「……一キロ沖まで見てもパルス鉱床らしきものは見えないわね……ん?」

『どうかしましたか?』

「沖の地形が、ちょっと人工的な……」

「ああ、令和のころに港を作ろうということで浚渫した跡だよ。その後の噴火で放棄されて、そのままになってる」

「あるとしたら、その浚渫した時の岩石に含まれていたかも……」

「それはあるかもしれない」

「ヒムロ、その時の岩石とかは!?」

「はるか沖の方に捨てただろうね、あのころはパルス鉱石なんて認識もされてなかったからね」

「ウウ……令和時代人のバカヤロー!」

 地団駄踏んで悔しがるハナも可愛いが、氷室がウインクするので、そっとしておくことにする

『あ、シゲさんたちが来ますよ』

 西の岩場からベースの男たちが手に手に掘削機を持って、ふらつきながらもやってくる。

「言ってやった方がよくない?」

「言っても無駄」

『シゲさんたち、自分でやらないと気のすまない人たちばかり』

 う~ん、今夜も酒盛りの予感……ただし、やけ酒の(^_^;)

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥              地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信

 

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ライトノベルベスト『夏のおわり・1』

2021-09-26 06:14:54 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

のおわり・1』 



 

「今年の夏もおわりが近いでしょう」 

 この時期の天気予報の決まり文句に毎年うんざりしていた。

 だって、あたしは吉田夏。

 この言葉を聞くと、自分の人生の終わりが来たような気になる。

 あたりまえだけど、夏が終わると二学期がやってくる。小学校のころ、このオヤジギャグのような常套句で、あたしをいじろうとしたバカがいた。加藤というオチョケた男子で、つまらないことで、人をイジっては喜んでいた。

 雅美って、大人しめの女の子が6年のときいたんだけど、そのこのことを「八重桜」と呼んだときには、あたしも本人も含めてキョトンとしていた。
「わかんねえかなあ、おまえのことだよ長澤まさみ!」
 と言ったが、そのとき教室に居た誰もが分からなかったので、加藤はじれてきた。雅美は国語が良くできる子なんで(なんたって、高校三年の時にはラノベの新人賞を獲ったぐらい)どうやら気が付いたよう。
「あ~」と一言言ったところで先生が入ってきた。で、加藤のやつ「八重桜~」と、またやらかした。さすがに雅美はムッとした顔になった。
「加藤、おまえ意味が分かって、長澤に言ってんのか?」
 先生に言われて、加藤は真っ赤な顔をして立ちつくした。
「先生、わたしが答えます」
「いいのか?」
「はい。これで加藤君の国語能力が高いことを証明してあげます。本人も、それが狙いでしょうから」
「じゃ、長澤、言ってみろ」
「八重桜というのは、遅咲きで、花が咲くよりも先に葉っぱが出ちゃうんです。で、ハナより前にハが出るってことで、わたしが出っ歯だってことを冷やかしてるんです。たしか遠藤周作のエッセーかなんだかに出てるんだよね。で、それと久本雅美の出っ歯とひっかけたかな。同じ雅美だから」
「そうなのか、加藤!?」
「え、ま……」

 涼しい顔で認めたので、先生は、加藤の頭をゴツンとやった。

「イテ!」
 ほんとに痛かったようで、加藤は涙目になった。今みたいに「あ、体罰だ!」なんぞは言わない良き時代だった。
「でも、先生。長澤まさみって、東方シンデレラで選ばれたアイドルもいるよ。NHKの大河ドラマにも出てた」
 雅美も知っていたんだろう。今度は雅美が、赤い顔をしてうつむいてしまった。ちなみに、雅美は、そのころ歯の矯正をやっていて、中学に入った頃は矯正も終わり、けっこうカワイイ子になった。

 その加藤は、三年生の時から同じクラスで、あたしには、最初の頃「夏も終わりだな」と、二学期の最初には決まり文句のように言っていた。

 あたしは、一見大人しそうな優等生に見える。でも実は逆なのだ。

 けっして大人しくない劣等生なのだ。

「っるせえ! 売れない芸人みたく、ずっと同じイヤミなギャグとばすんじゃねえよ!」

 バチコーーン!

 と、五年生の二学期に張り倒してやったら、それ以来、あたしには言わなくなった。

 でも、

 高校三年の二学期には、本当に「夏のおわり」がやってきた……。

 

 つづく

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