大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・066『西ノ島新島 着陸』

2021-09-13 14:58:12 | 小説4

・066

『西ノ島新島 着陸』 加藤 恵   

 

 

 火星を出る時には姿を変えようと思っていた。

 

 それが、何度やっても緒方未来の姿を解除できない。

「もう、元の人相忘れちまったっす」

 シキシマが憎まれ口を言う。

 天才ロボット学者の孫のわりに、なんの閃きもないシキシマがイッチョマエなことを言うが、こんなクソガキを言い負かしても憂さ晴らしにもならない。

 下手に興奮させて、着陸に失敗されては元も子もない。

「……絡んでくんなきゃつまんないんですけどぉ」

「操縦に集中して、アナログで飛んでるんだから」

「それ、正しくないっす。このマイドはアナログでしか飛べねえっす」

「家に帰るまでが遠足だって、小学校で習わなかった?」

「大丈夫っす、今年は、まだ事故ってないし、西ノ島は家じゃないし。恵さん送ったら、またムーンベースまで戻るから、道半ばだから……あ、よけい気を付けなきゃいけないのか」

「そうよ」

「しかし、緒方未来でしたっけ? そのアバターもなかなかっすね。恵さんて分かってなかったらアプローチしたかも」

「冗談でも言わないでよ。おかげで、火星からは正規の交通手段は全てNGで、ムーンベース経由で、月からまる二日もかけて飛んでくるハメになってるんだから」

「仕方ないっす、ステルスだけが取り柄のマイドなんすから」

「だぁかぁらぁ、慎重に着陸してよね。ここで事故っても救難信号も出せないんだからね」

「恵さん、トイレ行ったっすか?」

「さっき行った」

「ちがうっす、大の方」

「なに聞くのよ!?」

「トイレタイム短いから、大の方は我慢してんのかなって」

「答えられるか、そんなこと! あんただって、短いでしょ!」

「早メシ早グソは得意技で、じいちゃんも、これだけは褒めてくれたっす」

「ああ、そ……ね、着陸の座標は合ってるんでしょうね」

「だいじょ……あ、ズレてる……修正っと……」

「ちょ、もう、ギア出してるわよ!」

「あ、間に合わねえ!」

「おい!」

「どっか掴まって!」

 

 ガシャン! ギギギ……ギク……

 

 とても嫌な音をさせて、マイドは着地。

 案の定、ギヤを破損。

 さすがは東大阪の記念碑的パルス船なので、飛行することに問題は無かったが、このままではムーンベースに戻った時に着陸ができない。

「悪いけど、一人で直してね。こんなとこでグズグズしてるわけにはいかないから」

「大丈夫っす、エマージェンシーロボ積んでるっすから」

 言いながらトランクからロボを取り出すシキシマ。

 まあ、これでも敷島博士の孫なんだ、なんとかするだろ。

「じゃあね」

 

 岩場を抜けて、周回道を目指す。

 

 ピピ

 

 周回道に出たところで、ハンベが鳴る。

 シキシマからの、短距離通信だ。

 やっぱり、修理の手が足らない……だったら無視!

 画面を開くと、現在位置から最短で利用できるトイレが三つ点滅していた。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥              地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信

 

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やくもあやかし物語・99『時間待ち 拝殿の上で』

2021-09-13 08:52:47 | ライトノベルセレクト

やく物語・99

『時間待ち 拝殿の上で』   

 

 

 いざ出陣!

 

 と思ったら「明るいうちは出てこないから」ということで、玉祖(たまおや)神社のお社で休憩。

 どいう仕掛けになっているのか、拝殿の裏にドアがあって、そこを開けると真ん中に囲炉裏のある広間になっている。

「高安の妖たちが昼寝したり集会に使ったり、まあ、公民館だね」

 そう言って、俊徳丸は囲炉裏の席を勧める。

「まあ、くつろいでおくれ。ぼくの顔ばかり観ていても退屈だろうから……」

 パンパン

 俊徳丸が手を叩くと、西半分の壁が素通しになって外の景色が見えるようになった。

「微妙に高いわね」

 チカコがポケットからノソノソ這い出でながら言う。

「ほんとだ、麓の景色が丸見えだ」

「うん、拝殿の上だからね」

「二階なの?」

「三階ぐらいかな、もっと高くもできるよ」

 パンパン

「おお!」

 音に合わせて、もう二階分高くなった。

「これって、単に展望を良くするためじゃないでしょ?」

 チカコが上目遣いで指摘する。

「さすが、チカコだね」

「どういうわけなんですか?」

「高くすれば、それだけ広い視野で考えることができるだろう」

 パンパン

「ほら、これで大阪の全貌が見えるようになった」

「ほんとだ、海が見える」

「もっと高くすれば、唐土(もろこし)や天竺まで見えるよ」

 パンパン

 

「ちょっと、いい加減にしてください」

 

 後ろから声がして、ビックリして振り返ると、中学生らしい女の子が二人、目を三角にしている。

「お茶をもって上がろうとしたら、どんどん高くなっていって……ハーハー……息が切れます」

「ああ、すまんすまん」

 二人は、丸顔と面長で、とってもかわいい。

「丸いのがタヌキ、面長ちゃんがキツネだよ」

「え、そうなの?」

「もう、正体ばらさなくってもいいでしょ、俊徳丸」

「いいじゃないか、やくもは、正体分かっても、怖がったり偏見持ったりする子じゃないから」

「はい、お茶とお菓子、置いておきますからね」

「時間になったら、声かけましょうか?」

 キツネが目だけ笑わない笑顔で小首をかしげる。

「大丈夫だよ、お姉ちゃんは、必ず取り返してあげるから」

「きっとですよ、あんまり遅いと、お姉ちゃん、消化されてしまうから」

「任せておけ」

 

 それ以上言うことはなく、二人は、キチンとしたお作法でお茶とお菓子を置いて下がった。

 

「キツネのお姉さん、食べられちゃったの?」

「うん、キツネは半妖だから、時間がたつと消化されてしまう」

 カサカサ カサカサ

「あら、ニワトリが居るの?」

 チカコがお茶をフーフーしながら振り返る。

 耳を澄ますと、たしかに クック ククク と密やかな鳴き声。

「長鳴き鳥を飼ってるんだよ」

「ニワトリじゃないの?」

「ニワトリでも偉いやつだよ。ほら、天照大神が岩戸に籠った時、神さまたちが賑やかに宴会やって天照大神を引っ張り出しただろ」

「ああ、聞いたことある」

「ひょっとして、あの時『朝が来た!』って天照大神を……あの時、コケコッコーってゆったニワトリ!?」

「そうだよ、さすが、チカコは詳しいね」

「でも、たくさんいるみたいよ」

「十羽ほどかな、ここでは、長鳴き鳥も神さまだからね」

 中学生にしては、古いことを知ってるわたしだけども、知らないことが一杯ある。

 そういうのって、やっぱり顔に出るんで、俊徳丸は高安や、大阪の面白い話をいろいろしてくれる。

 

 コケコッコー!

 

 長鳴き鳥が鳴いた。

 見渡すと、河内野の向こう、大阪湾に陽が沈もうとしている。

「さ、行こうか!」

 スックと立った俊徳丸は『鬼滅の刃』に出てくるキャラのように絵になっていた。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸
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ライトノベルベスト『憲法第九条改正』

2021-09-13 06:31:01 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『憲法第九条改正』  




 20××年、絶対多数を握った与党は国民投票法に基づき、宿願の憲法九条を改正した。

改正前)

1.日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2.前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

(改正後)

1.日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。ただし自衛権はこの限りではない。
2.前項の目的を達するため、陸海空軍、その他の国軍を保持する。国の交戦権は、自衛と国際貢献に限り、これを認める。


 ほとんど強行採決のようにして衆参両院で発議され、18歳以上の国民により投票され過半数を獲得し改正された。

 ただ、すんなりと憲法の改正がなされたわけではない。泥沼のような与野党の駆け引きと妥協の結果、以下のような法律が出来た。

 《アイドル軍法》

 憲法九条一項二項を完全なものにするために、アイドル軍を保持する。アイドル軍は旧大日本帝国憲法の反省の上に立ち、アイドル軍は女性のみの徴兵によって構成される。日本国籍を有する女性は、満13歳に達した年度内に徴兵検査を受け、選抜の結果によりアイドル軍に就くものとする。


 初代アイドル軍総司令官には某アイドルグループのプロディユーサーが任ぜられ、8個師団の師団長と24個の連隊長はAKBや乃木坂の卒業生がこれにあたった。

 アイドル軍の徴兵検査は年度末の三月に、オーディションの形で行われ、合格者は甲乙丙に三分類され、実際に徴兵されるのは、ごくわずかの甲種合格者のみで、合格者は1/1000という難関であった。

 アイドル軍は兵器を持たない、持つのはマイクである。

 兵役は三年間。中等教育も同時に受けられ、歌やダンスの訓練にいそしみ、国内や海外においてライブを行い、軍の最大の任務である「抑止力」を発揮することにあった。陸海空軍と異なり、兵員は総数で一万数千。
 この兵役を終えた者は、そのままアイドルになる者、幹部になる者、大企業や高校大学から勧誘を受けるものばかりで、男にとっても、アイドル軍除隊者を恋人や結婚相手に向かえることは夢であり、高嶺の花であった。

「優香、いくよ」

 そう言った芹香の声は含み綿のためにくぐもっていた。メイクと肉襦袢で体形を変えた二人のことを、アイドル軍の幹部候補生と気づくものはいなかった。
 二人は三年の兵役を終えたあと、連隊長の推薦で幹部候補生学校に進むことに決まっていた。

 でも、優香も芹香も、こういうアイドル軍の有り方に疑問を持っていた。

 どんな疑問かは、国軍の軍機に関わることなので伏字とする。

 アイドルが○○と共に○○○○してもいいのか?

 アイドル軍の存在は、日本のイメージを引き上げることにかなり貢献していた。日本は憲法を改正し、堂々と三軍を持ったが、非難するのはアジアの二か国に限られ、その二か国も国民個々に調査すると、好感を持つ者が七割を超えていた。

「でも、アイドルって、成りたい者が切磋琢磨し、オーディションで選ばれ、芸能活動を通して磨かれ淘汰されていくものよ」

 芹香も優香も、そう思っていた。だから二人は脱走し、羽田から偽装パスポートで国外脱出を図ろうとした。
 準備は完璧なはずだった。

 それが、出国ゲートで引っかかった。逃げても無駄だった。空港職員に化けた軍の保安隊によって、たちまち身柄を拘束された。

「君たち幹部候補生は、視力検査のときに光彩登録もしてあるからね、逃げることはできないわよ」

 保安隊長は勝ち誇ったように言った。

「くそ!」

 二人は、そのまま軍拘置所に移送され、軍法会議にかけられた。

「不名誉除隊に処する」が軍法会議の結論であった。

 二人は、除隊後、時の人になった。世界中が羨むアイドル軍からの初脱走者、それも成績優秀、容姿端麗な芹香と優香である。芸能プロとファンが放っておかなかった。

 二か月後、二人はユニットとしてカマプロからデビュー、ヒットチャートをロケットのように駆け上り、その年の末には紅白にも出場した。

 紅白で出番が終わった二人が「やったね……」とほくそ笑んだ姿を見た者がいたが、その真偽は明らかではない。

 以後、アイドルは○○と共に○○○○してもいいという解釈が一般的になり、令和30年の今日に至っている。

 

 

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