大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル やくも・25『お爺ちゃんの探し物』

2019-01-22 12:10:05 | 小説・2

やくも・25『お爺ちゃんの探し物』

 

 

 女というのは身近なものの変化に敏感なんだ。

 

 離婚する前、お父さんが冷蔵庫の中身を探しあぐねて「~どこにあるんだあ?」と、冷蔵庫を開けっぱなしで探して呟く。

「開けっ放しにしないでよ」

「だって見当たらないよ」

「どこ探してんのよ、ここにあるでしょ!」

 目的のものを取り出して突き付けるお母さん。

 探し物は、からしのチューブだったりいかの塩辛だったり素麺だったりマーガリンだったり、いろいろなんだけど、子どものわたしが見ても――なんで見つけられないのかなあ――と思うくらいにドンクサイお父さんだった。

「女は身近なものには強いからなあ……」

 お父さんの負け惜しみかと思っていたんだけど、男女では空間認識の能力が違うというのを公民の授業で習った。

 授業なんて、大人しくノートをとるだけでほとんど聞いていないんだけど、この話題だけは先生の顔を見ながら頷いてしまった。

「人類が狩猟採集の生活をしていたころはな、男がかりに出て、女は竪穴住居とかで家事をやったり子どもの世話とかしてたんだ」

 いまだったら男女で仕事を分けるなんて差別だけど、原始時代とかならそうだろう。

「狩りをしている男たちは広い空間認識能力を持ってた。狩って集団でやるだろ、おまえはあっちから、おれたちはこっちからとか場所を決めるだろ、ちゃんとその場所に着けなきゃ狩できないからな。だから、男は地図なんか書かせると女よりも上手い。逆に女はテキパキと家事をこなさなきゃならなかったから、身の回りに何があるかという認識能力に優れていた。他にも子どもの顔色や息の仕方とか微妙なところにも敏感でな、病気なんかには早く気づいて手当てするとかな」

 そーか、だから女は男の嘘とか不注意とかを直ぐに見抜くんだ。

 

 そんなことを習ったからかもしれない。

 

 わたしはお爺ちゃんの探し物を簡単に見つけてしまった。

 それはクローゼット手前の紙袋や古新聞とか雑多な段ボールとか梱包材のところでひっそりとしていた。

――すみません、役立たずなもので……――

 無言で詫びているような感じのするそれは、現物として見るのは初めての黒電話だった。

 何に使うのかは分かるんだけど、使い方が分からない。

 

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高校ライトノベル やくも・24『体重大事件・4』

2019-01-19 12:08:36 | 小説・2

やくも・24『体重大事件・4』

 

 

 お守り石のお蔭か、妖怪メイドは付いてこなかった。

 

 家に帰ってお風呂掃除。

 いつもより念入りにやる。

 お爺ちゃんが町会の寄合で遅くなるってお婆ちゃんが言ったし、からだ使うことで妖怪メイドを頭から追放したかったし。

 そして……からだ使ったら少しでもダイエット……ちょっと頭をよぎっただけだからね、あくまで、お爺ちゃんにきれいな一番風呂に入ってもらいたいからなんだよ!

 額に汗するくらいにお風呂掃除して、廊下のハカリに片足を載せる。

 片足だけで、針が十キロを指す……グヌヌ……全身乗っかろうかと迷っていたら玄関が開く気配!

 慌てて足を下ろして玄関へ。

「おかえり、お爺ちゃん。きょうは念入りにお風呂掃除やっといたからね」

「ちょうどよかった、ホレ」

 お爺ちゃんは丈夫そうな紙袋を突き出した。

「なに?」

「田中さんからもらったんだ、プレステ4プロを買ったんで古いのが余ったって。やくもにあげよう」

「え、プレステ4!?」

 プレステ4は持っていたけど、引っ越しの荷造りの時に壊してしまってご無沙汰していたのだ。

「ありがとう、お爺ちゃん!」

 お守り石のご利益だろうか、さっそく部屋に戻ってプレステ4を据え付ける。お風呂の方からお爺ちゃんの鼻歌が聞こえる。陽気なお爺ちゃんは、よく鼻歌を歌ってるけど、今日はいつもより楽し気だ。わたしがむちゃくちゃ喜んだからだ。こんな喜び方、社交辞令ではできないもんね。タイミングがすごく良かった、思わずお地蔵さんの方角に手を合わせる。

 プレステ4ではゲームもするけど、DVDのプレイヤーとして使う方が多い。

 持ってるDVDとかブルーレイは欧米のが多い。日本のアニメソフトは何万円もするけど、欧米のは何千円で買える。字幕の処理とかの問題はあるんだけど、気にしなければ断然お得だ。

 でも、欧米のは普通のプレイヤーでは企画が合わなくて再生できない。そこへいくとプレステ4は欧米のソフトでも再生できる。棚の上に飾り物になっていたソフトから『俺の妹がこんなに可愛いわけがない!』を取り出して再生する。実に半年ぶりだ!

 メニューの中から2を選択する。桐乃が京介に付き添ってもらって、初めて『オタクっ娘集まれ』のオフ会に参加するところだ。桐乃は、ここで初めて黒猫に出会って仲良しになる。

 コミュ力に難ありの二人が仲良くなるには沙織バジーナや京介の尽力があるんだけど、お互いイキイキと罵りあえるほどの仲良しになる。いつも膝小僧を抱えながら観ていて気持ちがとても暖かくなる。

 とつぜんフリーズした。

 バジーナと黒猫が改札に向かって、桐乃と京介が手を振っているところ。

 あ、あれ💦

 中古だからかなあ……残念に思っていると、フリーズした高坂兄妹の前にメイドさんが現れた。

「お久しぶりです、お嬢様(o^―^o)」

 ……それは、オフ会が行われたツインテールのメイド喫茶のメイドさんだ……お嬢様って? え? わたしのこと?

「そう、やくもお嬢様のことですよ! さっきは本題に入る前に走っていかれましたから(^▽^)」

 ゲ 妖怪メイド!? 

 なんだけど怖くない。アニメキャラだし、それも『オレイモ』のキャラだし。

「お話しておきたかったんです、太ってしまったとお悩みのようですが……」

「あ、その話題はなし!」

「いいえ、真実を知っていただかなければなりません。やくもお嬢様は、お太りになられたのではなく発育されたのです」

「同じことじゃ……」

「いいえ、出るところが出て、引っ込むところが引っ込んできたんです。ほら、ごらんください」

 高坂兄妹に変わって、リアルな体形のシルエットが出てきた。

「そちらが先月、で、こちらが現在。女性らしくなりましたでしょ、むろんお嬢様のシルエットでございますよ(⌒∇⌒)」

 

 そうだったんだ、親の離婚や引っ越しのドサクサで忘れていたけど、わたしってば十四歳になっていたんだ!

 

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高校ライトノベル やくも・23『体重大事件・3』

2019-01-17 14:09:29 | 小説・2

やくも・23『体重大事件・3』

 

 

 永遠の十七歳、アキバのメイドだよ……わたし。

 

 そいつはニッコリ笑って、人差し指で自分を指しながら言った。

 付喪神どころか、とんでもない妖怪!?

 一目散に逃げた。

 アキバのメイドなんてあり得ない。だってアキバに行ったことなんてないんだもん、アキバ関連のグッズだって持ってない。行ったこともグッズも持っていなくて、その付喪神が出るなんてあり得ない。きっと、ほかのアヤカシが図書室に現れたりペコリお化けの定位置を乗っ取って出てきたんだ。ああいうアヤカシは悪さをするんだ。

 体力ないから家までは走れない。

 途中の袋小路にお地蔵さんの祠があったことを思い出した。越してきて間が無いので、わざわざ袋小路に入って手を合わせたことは無いけど、そこしかないと思った。

 ほんとうは、祠の前できちんと手を合わせなきゃならないんだろうけど、そんなことをしていたら追いかけてくるあいつに見つかってしまう。

 わたしは祠の陰に隠れた、しゃがんで手を合わせた。

 お地蔵さんの功力だろうか、あいつが追いかけてくるような気配は無かった。

 五分……十分たっただろうか、祠の陰から、そっと顔を出す。あいつが追ってくる気配はしなかった。

 安心すると、目のピントが手元の祠にあう……小さな賽銭箱の横に『お守り石』と墨で書かれた箱がある。

 なんだろう?

 腰を上げて小さくひっくり返ってしまった。

 ダッシュしたせいか増えた体重のせいか、ぶざまに後ろに手を突く。

 ヨッコラショ、

 小箱の上に短冊大の張り紙。

――身を護って下さったり、願い事を叶えてくださいます。願い事が叶ったらお返しください――

 箱の中には親指の先ほどの大きさの真っ白い石が数十個入っている。祠のくたびれ方とは対照に、とても清げ、いかにも霊験あらたかな気がする。

 こういうのって、ただで持ってちゃうといけないよね。

 しかし、中坊の悲しさ、お財布には三十円しか入っていない。いくら気は心とは言え三十円はね……せめて百円はしなくっちゃ。

 閃いた!

 お財布の中にはスイカとテレホンカードが入っている。

 スイカは越してくる前に時々使っていた。テレホンカードは万一の時に使いなさいと離婚する前にお父さんがくれたものだ。

 どちらも、いまは使わない。

 ちょっと迷ってスイカを置いて手を合わせる。

――明日にでもお賽銭持ってきますから、スイカでお願いします――

『お守り石』を一つ、一番大きい奴……は置いといて、二番目に大きいのをハンカチに包んで、心を込めて手を合わせた。

 

 

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高校ライトノベル やくも・22『体重大事件・2』

2019-01-15 12:15:57 | 小説・2

やくも・22『体重大事件・2』

 

 

 挨拶と食事は人間関係の基本だ。

 

 おはよう さよなら ありがとう 行ってきます ただいま じゃ ども 失礼します おっす いただきます ごちそうさま

 相手や状況によって使い分けるけど、挨拶さえできていれば最低の人間関係は維持できると思う。

 学校でも家でも同じこと。

 わたしってコミュ力が乏しい。だからこその挨拶。挨拶さえできていればそのあとが寡黙でもなんとかなる。

 家では、挨拶プラス食事だ。

 家族と言うのは寝食を共にしているので、挨拶だけでは不十分だ。

 三度の食事は(学校に行ってる時は二食)必ず一緒に食べる。一緒に食べることで、とりあえずの一体感は維持できるんだよ。

 好きなラノベに『俺の妹がこんなに可愛いわけがない!』がある。

 オタク趣味をめぐっての高坂桐乃と京介兄妹のラブコメ。けして家族のコミニケーションが多いわけじゃない、いろいろ問題も起こるんだけど、挨拶と食事はきちんとしてるんだ。

 さっき書いたように挨拶してる。ケンカしてても「ごちそうさま」「いってきます」「ただいま」とかは欠かさない、食事は家族そろってるしね。そういうとこに親近感もって読み始めて、今は中古だけどDVDも持っている。

 わたしに桐乃みたいなルックスと才能と京介みたいな兄貴が居たらと思うんだ。

 思ってる間は幸せでいられるしね。

 

 で、食べ過ぎてしまう。

 

 残しちゃ悪いと思って食べてるうちに、それが普通になってしまった。

 お婆ちゃんが、なにくれとなく間食を勧める。お八つよ~ とか 羊羹切ったわよ~ とかね。

 さっきも言ったけど、わたしは口下手。だから、キチンと食べることで親愛の情を示すことになる。

 会話が1だとしたら、食べることが3とか5とかの感じ。

 

 で、前回の図書室のカウンターでの事件になったわけ。

 

 しょぼくれて崖道に差しかかる。

 下校はつづら折りの道と決めているんだけど、ウジウジ考えてトチ狂ってしまった。

 ペコリお化けにお辞儀だけの挨拶しなきゃ……え!?

 ペコリお化けの定位置に立っていたのは、図書室の窓際にいた女子の一人だ。

 

 図書室に居た時は分からなかったけど、こいつは付喪神(つくもがみ)だ。

 歳古びた道具や身の回りの品物に宿った神とか精霊、たいてい人に悪さをする。

 学校の図書室に出たということは、学校の付喪神? それとも、わたしが連れてきてしまった?

「まあ、そんなに警戒しないでよ」

 付喪神が、そのナリにふさわしいアニメ声で話しかけてきた……。

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高校ライトノベル やくも・21『体重大事件・1』

2019-01-13 12:51:28 | 小説・2

やくも・21『体重大事件・1』

 

 

 

 図書室当番でカウンターに座っている。

 

 溜まった返却本を戻すために、隣に座ってる杉野君が立ち上がって後ろを通る。いつものように少し椅子を引いて通してやる。

「狭っ」

 小さく言って抜け、背中に杉野君の体が擦れていく。気を使っているのは分かる。ちょうど腰のあたりが触れるからだ。

 電車の中で、こういう通り方したら痴漢かもしれない。

 窓際の席で、女子二人が笑ってる。

「ちょっと……」「ねえ……」「あの子……」「……ったんじゃない?」

 小さな声だけど聞こえてしまった。

 

 聞こえたのは自覚があるからかもしれない。

 

 きのう、お母さんが買ってきてくれたブラ、サイズがいっこ大きくなってた。

 制服は、転校した時に買ったものだからよく分からないんだ。

 うちの体重計は浴室の前にある。脱衣にあると量るんだけど廊下だとね……音がするのよ、カシャンカシャンと。

 年代物の体重計で『ハカリ』と言った方がしっくりくる。その音がリビングまで聞こえてくる。

 お爺ちゃんが出てくるときに量ってるから分かってる。

 昨日は、思い切って量ってみたんだ……ちょっとショックだった。

 だから、いま笑われたのはビビっとくる。

 

「席かわってくれる?」

 

 戻ってきた杉野君に提案、「あ、ああ」と顔を赤くして頷いてくれる。

「小泉さん、ょっと」

 霊田先生が呼んでいる。

「ハ、ハイ」

 杉野君の後ろを通る、今度はわたしの腰が杉野君の背中にあたる。

 バランスを崩して杉野君の背中に、もろに被さる。

「あ、あ、ごめんなさいごめんなさい!」

「う、ううん💦」

「なにやってんだ」

 もたもたしてると霊田先生が寄ってきた。

「ああ、そういうことか」

 そう言うと、先生はゴゴゴと音をさせてカウンターを動かした。

 目からウロコ!

 カウンターというものは、根が生えてるというか床に固定してあるものだと思っていた。

 プ

 少し遅れて窓際の女子がふいた。瞬間堪えてふいたものだから、プのあとがグフフアハハになって傷つくことおびただしい。

 杉野君も霊田先生も女子と女子の反応を無視してくれている……優しさなんだろうけど、いっそ明るく笑ってくれた方が気が楽だ。

 テンパってアタフタしているうちに二人の女子は居なくなった。やっぱ、ちょっと悪かったと思っているのかもしれない。

 

 で、これは、次に続く不思議な事件のイントロでしかなかった……。

 

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高校ライトノベル やくも・20『ミチビキ鉛筆』

2019-01-11 15:03:16 | 小説・2

やくも・20『ミチビキ鉛筆』

 

 

 夢だと分かってる。

 

 だって、焦ってるもん。

 お医者さんに注射をされた。

 風邪の注射だから眠くなるんだ。

 でも、自然な眠りじゃないから、少しだけ意識がある。

 その意識が、これは夢だと言っている。

 

 明日は試験があるんだ。転校して最初のテストだから欠点はとりたくない。

 

 注射のお蔭でだいぶ楽になった。だから、起きて少しでもノートとか見ておきたい。

 ノートは真面目にとってる。だから、ざっと見て、大事なとこを書くだけで平均点ぐらいはとれるんだ。

 だから目覚めなきゃ……目を……覚まさなきゃ……目を……

 

 しまった!

 

 NHKの朝八時のニュースが聞こえる。お爺ちゃんがダイニングで朝ごはん食べながら聞いてるんだ。それが、わたしの部屋まで聞こえてくる。いつもだったら玄関を出る時間だ。風邪ひきなもんだから、休ませようと思って、だれも声を掛けないんだ。

 一分で制服に着替えると階段を掛け下りる。

「だいじょうぶ、やくも?」

「あ、お母さん!?」

「休んでなさい、学校には電話しといてあげるから」

「だめ! 今日は試験だから休めない!」

「でも、やくも……」

 

 というわけで、ミチビキ鉛筆を前に置いて一時間目の試験が始まろうとしている。

 

 十秒で説明すると、お母さんがくれたミチビキ鉛筆。

 お尻のところの塗装を削って1~5の数字が書いてある。答えに詰まったら転がして出た数字が正解なんだそうだ。

 急いでいたから、そのまま胸ポケットに入れてきた。

 チャイムが鳴る前に練習問題で試してみた。五問やって全部正解が出た!

 これ、いけるじゃん!

 思ったけど、ポーカーフェイスで答案が配られるのを待っている。

 前の子が緊張した顔で問題用紙を送ってきた。一瞬目が合って――がんばろうね!――エールの交換やる余裕さえあった。

 なんたってミチビキ鉛筆が、わたしにはある!

 

 チャイムが鳴って「かかれ!」と先生の号令。

 

 問題用紙と解答用紙をひっくり返して、まずは名前を書く。

 第一問……ゲ!?

 選択肢がA~Gの七つもある! 目を下にやると、八つ。その下は九つ、その次は十個!?

 これではミチビキ鉛筆が役に立たない! タラ~っと汗が流れる。

 

 だんだん答案用紙がボヤケテきて焦る。

 こうなっては、勘を頼りに書くっきゃない!

 

 破れかぶれの決心したところで……目が覚めた。

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高校ライトノベル やくも・19『風邪とお爺ちゃんと……』

2019-01-09 15:24:20 | 小説・2

やくも・18『風邪とお爺ちゃんと……』

 

 

 けっきょく風邪をひいた。

 

 ほら、土砂降りの雨の日。

 もう、学校を休もうかと思ったら、お婆ちゃんがお母さんの赤い長靴出してきて、それ履いて学校に行った。

 いろいろあったけど、足は濡れずに済んだ。

 だけどね、足以外はビチャビチャの濡れネズミ。

 帰ってすぐに熱いお風呂にでも入れば良かったんだけど、図書室当番だったんだ。

 一度代わってあげたことのある小桜さんに頼もうかと、昼休みに小桜さんの教室に行った。

 すると、廊下で友達三人に囲まれて、帰ったらみんなで遊ぶ話をしていた。で、頼めずに、下校時間まで図書当番やって帰った。

 急いで家に帰って風呂掃除。

「お爺ちゃん、今日は先に入っていい?」

 掃除終わって、お爺ちゃんに頼んだら「ちょっと、待て」と言って、お爺ちゃんは、わたしのオデコに手を当てた。

「すごい熱だ、風呂どころじゃないよ!」

 そのまま抱きかかえられた。

「服が濡れてるじゃないか!?」

「あ、うん、着替えるの面倒で……」

 お爺ちゃんは、抱っこしてくれたままで部屋まで運んでくれて、ベッドに寝かせてくれた。

「やっぱり、着替えなきゃだめだ」

 そうだろ、このまま寝たらお布団まで湿ってしまう。

「うん、着替え……」

 ノロノロと体を起こし、ベストを脱いでリボンを外してスカートのホックに手を掛けたところで力尽きる。

「お爺ちゃん……着替えさせて……」

「あ、ああ……」

 着替えを出して枕もとに置いてくれたところで手が止まった。

「婆さんでも居ればなあ……」

 お爺ちゃんは、わたしの服を脱がせるのに迷っているんだ。

「……そだね……うん、自分でできる……えと……ちょっとの間出ててくれる?」

「あ、そうだな」

 アタフタと部屋を出ていくお爺ちゃんを精一杯の笑顔で送る……送ったところで部屋が横倒しになる……いや、わたしが倒れたんだ。

 早く着替えなきゃ、お爺ちゃんに心配かける。でも、目の前の着替えに手が届かない。

 意識が飛びそう……誰かが心配そうにのぞき込んでるような気がする。

 誰か……なにかが……うん、部屋……家全体が包み込むようにして見てるような……。

 

 気が付くと枕もとにお爺ちゃん。手探りすると、ちゃんと着替え終わってる。

 

 自分で着替えた記憶はない、お爺ちゃん? いや、この純情シニアは、さっきの様子からも、女子中学生を着替えさせて平然とはしていられないだろう。

 すると、さっきの何かが――よかったよかった――と呟いたような気がした。

 

 次に目が覚めると、お医者さんが来ていて、お婆ちゃんとお母さんが後ろで心配顔。

「いやあ、先輩に頼まれちゃ仕方がないですなあ」

 お医者さんが汗を拭いている。どうやらお爺ちゃんが無理を言って引っ張ってきたお医者さんのようだ。

 ぶっとい注射を一本打たれると、落ちるようにして眠ってしまった。

 

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高校ライトノベル やくも・18『赤い長靴・4』

2019-01-07 13:43:05 | 小説・2

やくも・18『赤い長靴・4』

 

 

 二問目を解き終って三問目にかかろうとしたら……真横に先生が立っているのに気が付いた。

 

 こういう時は気が付かないフリをしておくのに限る。

 下手に顔を上げて先生が話しかけでもして来たら目立ってしかたがない。黙々と問題やってたら――取り付く島もない――ということで、向こうに行ってくれるだろう。

「似合ってるよ、赤い長靴」

 ゲ!? 寄りにもよって長靴。それも若やいだ声で似合ってるよってゆった!

 ゲロが出そうで、先生とは反対側の床に目を向ける……え、床は?

 床はアスファルトになっていて、雨がビチャビチャと降っている……で、赤い長靴が見えて、長靴の上には形のいい脚が伸びていて制服のスカートに繋がって、濡れた通学カバンの上には三年生であることを示す紺のリボンが揺れていて、リボンが揺れるのは、その上の首が可愛く振られたからであって、その可愛い首は……中学生のお母さんだ。

 な、なにこれ?

 VRの画像が立ち上がっていくように周囲の景色が明らかになっていく。

 いつもの崖下の道で、お屋敷の庭からワッサカ伸びた桜の枝の下で雨宿りしてるんだ。

 小出先生も中坊で、大きめの傘をお母さんに差しかけている。桜の枝があるとはいえ雨は落ちてくるわけで、小出先生の左半身はけっこうビチャビチャ。

 状況から見て、お母さんが下校するのを見計らって、ここで待っていたか追いかけてきたか。

 どっちにしても女子の感性では『キモイ行為』なんだけど、お母さんは、こういう状況でのあしらい方が上手い。

 七三に体ごと向けて程良い好意を示している。お母さんは人の真摯な気持ちには、こういう感じで寄り添うんだ。それが、中学生のころからやってるんだから恐れ入る。こういう感じって誤解を与えると思う。中学生のお母さんは娘のわたしが見てもコケティッシュだ。

 えと……あんまし、こういうの見ていたくないんですけど……。

 小出先生がなにかゆった。お母さんがコロコロと笑う。笑って、ちょっと真面目な顔で小出くんにゆった。

 お母さんの形のいい眉毛がヘタレる。このヘタレ眉はクセモノなんだ。寅さんにシミジミ言って聞かすときの妹さくらの眉だよ。お母さんはクセモノなんだよ。

 小出クンが泣きそうな顔……お母さんたら、ヨイショっと可愛く掛け声をかけてカバンを持ち換え、右手を空けると小出クンの手を取って握手した。

「嬉しかった、いい友だちでいようね」

 残酷な一言を残して、お母さんは崖道の方へ駆けていく。赤い長靴がピョンピョン跳ねて、それだけでも可愛い小動物のようだ。

 小出クンかわいそう……思ったところで風景が戻ってきた。

 小出クンは小出先生に戻って、あいかわらず横に立っている。

「小泉、せっかくやってるとこ申し訳ないけど、おまえがやってるのは一つ前の単元だぞ」

「え? あ? えーー!?」

 

 無駄に三問を解いたところで、本来のページに戻って問題をやり直したのだった。

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高校ライトノベル やくも・17『赤い長靴・3』

2019-01-05 14:26:29 | 小説・2

やくも・17『赤い長靴・3』

 

 

 長靴は教室うしろのロッカーの上に置くことになった。

 

 最初は机の下に置こうかと思ったんだけど、足の置き場所がない。

 廊下の傘立ての横も考えたんだけど、これは目立つし、知らないうちに隠されたりイタズラされたりを気にしなけれなならない。

 男子が二人長靴の子が居て、うしろのロッカーに置いたのがとどめになった。わたし一人別の所に置いたんじゃ、長靴を履いてきたということ以上に変に思われる。

 でも、やっぱり目立つ。

 教室に入ってきた子の三人に二人ぐらいは見ている。男子二人は「ダッセー、長靴かよ!」と言われてるんだけど「うっせー!」とか言って反撃している。

 赤い長靴を冷やかす子はいない。赤は女子の色だし、なにより女子ロッカーの上に置いてあるからね。

 でも、ハハハとかフフフとかの笑い声が起こったり、なにか意味不の呟きやら嬌声がが起こると、自分の事じゃないかとヒヤヒヤする。

 授業がが始まると、今度は先生たちだ。

 みんなは前を向いているけど、先生だけが後ろを向いている。アイボリーの壁にグレーのロッカー、その色調の中で赤い長靴は、ゲームの中のキーアイテムが強調されているように目立つ。口に出して赤い長靴のことをどうこう言う先生は居ないが、なんだか、どの先生も一瞬見ているような気がする、いや、ぜったい見ている。

 二時間目の鈴木先生は「お、長靴の子がいるのね。いいわよ、こういうひどい雨の時はなりふりとか構わずに実用でいくのが一番よ」とフォローのつもりなんだろうけど「なりふり構わずに」ってフレーズでフォローになってない。わざわざ振り返って「ホー」とか「ヘー」とかゆう奴も出てくる。目線の向きでわたしのほうを見てることがわかる。

 三時間目の小出先生は、最初の起立礼が終わった後、明らかに赤い長靴に目を留めて「ホーー」って言った。自分でも分かるくらいに顔が赤くなっていく。お母さんも子どものころは直ぐに赤くなって困ったんだそうだ。むろん遺伝なんてことはあり得ないんだけど、十三年も親子やってたら、どこか伝染してしまうのかもしれない。

 練習問題をやらせてる間に、先生は机間巡視をする。先生は、うしろのロッカーの所で停まってしまった。

 なんで? やだよ、赤い長靴に注目なんかしないでよ!

 小出先生はお母さんと同窓なんだ。

 転校の手続きに来て、教頭先生を待って入り間に職員室の配置表を見ていた。

「あ、小出君がいる」

 その一言が聞こえたのか、小出先生がこちらを向いて、互いに「ア」「オ」って始まって、教頭先生が来るまで話していた。

 お母さんは、誰ともフランクに話ができるんだけど、あの時は小出先生の方が熱心だったような気がする。

 小出先生と何かあったの? なんて恐ろしくて聞けなかったけど、「あの先生はクラスメートだったのよ」と楽し気に言ってた。

 その小出先生が赤い長靴に注目してる……気持ちが悪い。

 練習問題に集中しよう!

 二問目を解き終って三問目にかかろうとしたら……真横に先生が立っているのに気が付いた。

 

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高校ライトノベル やくも・16『赤い長靴・2』

2018-12-31 12:32:10 | 小説・2

やくも・16『赤い長靴・2』

 

 

 川どころか滝だ。

 

 崖道そのものがラーメン鉢の底のようなところにあるので、平場じゃ、どうってことのない雨でもけっこうな流れになる。水嵩はしれてるけど、ほとんど激流。

 むろん、側溝やら下水道があるから吸収されるんだけど、今日は限界を超えている。

 子どものころに、お父さんとお母さんに連れられてハイキングに行った。途中に流れの速い小川があって、靴も靴下も脱いで親子三人中州を目指して歩いた。子ども一人だったら流されそうなんだけど、お父さんとお母さんがしっかり手を掴んでくれていたので、キャッキャ言いながら楽しかった。

 あの小川の流れほどの水量ではないんだけど、ハイキングじゃないので、この雨のなか学校に行かなければならないという理不尽に、気持ちは斜め下に落ち込んでしまう。

 流されることは無くても、滑ってひっくり返るかもしれない。ひっくり返ったら、きっと下着までビチャビチャになる。

 折り返しを曲がって崖下の道に差しかかる。ほとんど傾斜は無いのでマシになるかと思ったら、あちこちからの流れが合流して、あんまし変わらない。

 気を付けなくっちゃ。

 一歩一歩、長靴の脚を置くようにして進む。踏み出した足に、きちんと重心を載せるまでは、次の一歩を踏み出さないのだ。

 めっちゃ時間がかかる。

 学校への直線道に入ったところで、追い越していった男子が、見事にお尻からひっくり返る。

 立ち上がると、気持ち悪そうにしているけど、そのまま校門に向かって走っていった。

 

 やっと、昇降口にたどり着く。

 

 いつもより時間がかかったので、下足室は登校してきた生徒でごった返している。

 ハンカチやタオルを出して拭いたり、靴の中に溜まった水を出したり、靴下脱いだり、いつもだったら掛からない手間で人が溜まってしまうんだ。

 少々時間待ち。通学カバンと上着の右側、スカートの下半分がベチョベチョで気持ちが悪い。長靴のお蔭で、足だけはサラサラだ。でも、みんなが赤い長靴に注目しているような気がする。

「お早う、よく振るねえ」

 声に振り返ると小桜さんだ。

「おは……あ、かしこ~い!」

 小桜さんは、スカートと足首にビニールを巻き付けていた。それをさっさと外すとゴミ箱へ。これならあとくされがない。

「かわいい長靴じゃない!」

 大きな声で、長靴に注目する。

「え、あ、お、お母さんのお下がりだから」

 自分の意思で履いてきたんじゃないを言いたかったんだけど、なんかマザコン的でヤな感じだ。

「ふ~ん、いいと思うわよ、そういうのって。あたしなんか、まるっきりオッサンだもん」

「そんなことないわよ」

 お下がりっていうよりも、オッサンと言った方が何十倍もマシ、いや、むしろカッコよくさえある。

 

 やっと下足箱の順番がまわって来る。

 

 上履きに履き替えて困った。

 なんと、長靴がロッカーに入らないのだ。ロッカーの上に置こうか……ダメダメ、目立ちすぎる。後ろがつかえているし。

「持って上がればいいじゃん」

 小桜さんの一言で、長靴を持ったまま教室に向かうことになった……。

 

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高校ライトノベル やくも・15『赤い長靴・1』

2018-12-29 14:02:37 | 小説・2

やくも・15『赤い長靴・1』

 

 

 長靴を履いていったら?

 

 お婆ちゃんが言う。

 モソモソと朝ごはんを食べていたら、リビングのサッシガラスを溶かしてしまうんじゃないってくらいに雨がひどいのだ。

 起きた時から本降りの雨だった。正直うっとしい。

 学校までの道は、全部舗装道路なんだけど、崖道が曲者なんだ。

 ちょっとした雨でも、川かってくらいの水が流れる。今日の雨で、崖道はとんでもないことになっているに違いない。

 お婆ちゃんは昔人間だから、簡単に「長靴を履いていったら?」って言うけど、今どきの中学生は長靴なんか履かないよ。

「これ、直子が履いてたやつなんだけど、あんまり履いてないから……」

 お婆ちゃんの言葉を聞いていたんだろう、お爺ちゃんが真っ赤な長靴を持ってきた。

 

 ウーーーーーー

 

 ほんと言うと、学校休みたかった。

 自分で言うのもなんだけど、わたしは不登校になるような子じゃない。

 親の離婚というアクシデントで転校するハメになったけど、文句ひとつ言わなかった。

 不用意に文句とか不満とか言ったら、血の繋がりがない家族関係が崩れてしまう不安があるから。

 なにも一生、文句や不満を言わないで通そうとは思っていない。高校にいって、できたら大学とかもいって、就職して独立したら気ままに生きていこうと思ってるんだよ。

 だからさ、大雨の日くらい休んだっていいじゃん。

 お爺ちゃんが、さも――いいもの見つけた!――って感じで長靴を差し出してる。おばあちゃんも――――ああ、それそれ!――てな顔してて、学校休みたいは言い出しにくい。

 0.8秒くらいたったところで「ありがとう、お爺ちゃん」と返事する。1秒以上開いたら気まずくなるもんね。

 

 それでも、じっさい履いてみるまではサイズが合わないことを期待する。

 

「ああ、やっぱり親子ねえ!」

 お婆ちゃんが感激、長靴はあつらえたようにピッタリだった。

「じゃ、行ってきまーす!」

 普段よりも明るい声で言って玄関を出る。気配で玄関の戸が閉まっていないことを感じる。お婆ちゃんが腕組みして雨模様を見てるんだ。雨で変更しなくちゃならない家事を考えてるんだろうけど、孫としては「やっぱり休む?」という一言を期待する。

 玄関から門までは八歩……あっと言う間……九歩目には、頭を切り替えて、大雨の中、一歩を踏み出した。

 

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高校ライトノベル やくも・14『図書分室・3』

2018-12-27 15:16:28 | 小説・2

やくも・14『図書分室・3』  「謄写版印刷機」の画像検索結果

 

 

 小桜さんのスマホには卒業文集の目次が映っていた。

 

 下の方に―― 第二十一期卒業生 ――と書いてある。

「21期、いつだろ……ま、ずいぶん昔のなんだろうね」

「そうだね」

 インクのにおいが鼻についてきたんで、引き出しをしまって蓋をした。

 もう一度『謄写版』という名称を記憶に留めて分室を出る。

 

 それじゃね。

 

 小桜さんとは方角が違うので、校門を出たところで別れた。

 歩きながら生徒手帳を出して、覚えた字をメモる。

 月へンに栄誉の誉で『謄写版』……よし、覚えた。

 二十一期生……生徒手帳には……あった。わたしたちは七十一期生だから、五十年前だ!

 不思議だよ……小桜さんには二十一期生の卒業文集の目次に見えていたんだ。

 わたしには、こないだ小桜さんが四連休した時の裏事情、それも杉村君と秘密めいたことを話した会話の記録に見えた。

 

 小桜さんが休んだ理由。

 杉野  : どうせ休むんだったら図書当番の日にして。

 小桜さん: なんで?

 杉野  : えと……転入生の小泉さんと話してみたいから。

 小桜さん: あからさま~!

 杉野  : 嫌か?

 小桜さん: え、あ……うん、いいよ。うまくやんなさいね(^^♪

 

 おかしいなあ……わたしの妄想?

 

 ハ!……んちは!

 

 思い切り至近距離! ペコリお化けのペコリで我に返って「んちは!」と挨拶までしてしまった。

 コンチハ

 はっきりとした返事が返ってくる。慌てて家路を急ぐ。

 わたしってば、考えすぎてつづら折りではなくて崖道を通って帰って来たんだ💦

 

「お爺ちゃん、この字なんて読むの?」

 風呂上がりのお爺ちゃんに、忘れていたバスタオルをわたしながら聞いた。

 生徒手帳に一度書いたので『謄写版』の字を覚えてしまった。

「ああ、トウシャバンと読むんだ。普通にはガリ版と言ってね、学校の印刷は、これでやったもんだ」

「そうなんだ」

「やくもの学校にあったのかい?」

「うん!」

 謎が解けたことと、お爺ちゃんに挨拶以上の会話ができた興奮で元気のいい返事になった。

 興味を持ったお爺ちゃんに説明する。興が乗ったお爺ちゃんは冷蔵庫から缶ビールとコーラを出して、むろんコーラの方をわたしにくれて、話が続く。

「へえ、図書分室にねえ……でも、五十年前のインクで刷れたとはとはなあ……まあ、保存がよかったんだろう」

 お爺ちゃんは感心した。むろん、杉村君と小桜さんの会話が刷られたことは言わない。

 

「ごめん、まだ五十冊ほど残ってたの」

 

 あくる日、霊田先生に頼まれ、今度は一人で台車を押していく。

 そして、そっと謄写版を確認、一枚刷ってみる。

 そこには……卒業文集の目次しか刷られてはいなかった。

 

 

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高校ライトノベル やくも・13『図書分室・2』

2018-12-25 16:08:38 | 小説・2

やくも・13『図書分室・2』  「謄写版印刷機」の画像検索結果

 

 

 よく見るとひいお爺ちゃんの写真のよう。

 

 仏間の長押の上に掛けてあって、縁の細い額に入れてある。

 その黒褐色の額縁に似ている。

 ただ、縁の内側が真っ黒なんで、瞬間のイメージはでっかいスマホ。

「なんて読むんだろう?」

 小桜さんは、上の方に貼ってあるプレートの字を指した。

「う~ん……」

「二つ目は写真の写だよね、次が版画の版」

「ゴンベンに……栄誉の誉?」

 三つ繋げると『謄写版』という字になる。

 わたしたちの反応は、明治の人がスマホを見た時のようだと思う。

 電源が切ってあったら表面が真っ黒の手鏡だ。

 ホワっとインクのにおいが立ち込める。

「横が引き出しになってるよ……」

 机の引き出しほどのを開ける……枠付きのガラスの上に濃紺のインク……さらに開けるとローラーとインクの缶。それにヘラみたいなの。

「これ、コピー機じゃないかなあ?」

「コピー機……じゃ、このインクみたいなのがトナー? スイッチどこだろ?」

「アナログだよ、これ」

 推論した……たぶん、ローラーにインクを付けて、回しながら押し付けるんだ。

「なんか、半透明なのが貼ってあるよ」

 額縁にはガーゼみたいなのが張ってあって、その裏側にインクでベッチョリとトレーシングペーパみたいなのが貼り付いている。下にコピー用紙を置いて、上からインク付きのローラーを転がせば印刷できるのではないかと推理した。

「なんか書いてある……」

 神秘的だ……なんというか、文字の幽霊。

 濃紺のインクに濡れたところに、微かに白く浮き上がって文字らしいものがうかがえる……が、よく分からない。

「コピーしてみよっか」

 こういうのが好きなんだろう、ワクワクした声で小桜さんが言う。

 ローラーにインクを付けて、ゴロゴロとやってみる。

「あ、インクの付けすぎぃ~」

 ベッチョリして文字が潰れて読めたものじゃない。四回紙を替えて、なんとか読める。

「卒業文集……なるほど、ありがちなやつね。手書きだとなんか新鮮」

「そうね」

 相槌は打ったが、わたしには卒業文集とは読めなかった。

 

 小桜さんが休んだ理由。

 杉野  : どうせ休むんだったら図書当番の日にして。

 小桜さん: なんで?

 杉野  : えと……転入生の小泉さんと話してみたいから。

 小桜さん: あからさま~!

 杉野  : 嫌か?

 小桜さん: え、あ……うん、いいよ。うまくやんなさいね(^^♪

 

 な、なにこれ!?

 

「読みにくいなあ……そだ、写真に撮っとこ」

 小桜さんは、スマホを出して楽しそうにアナログのインク文字を写していった。

 

   

 

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高校ライトノベル やくも・12『図書分室・1』

2018-12-24 15:35:25 | 小説・2

やくも・12『図書分室・1』

 

 

 学校に図書分室というのがあるんだ。

 

 図書室と言うのは、本だけじゃなくて、いろんなものがある。

 視聴覚機材という括りになっていて、スライド映写機とかスクリーンとか、古いパソコンとかビデオカメラとか、なんだか分からない機材とか。そういうのを保管している倉庫みたいな部屋。

 その図書分室に古い本を持って行ってほしいと頼まれた。

 頼んだのは霊田(たまた)先生。

 頼まれて、やっと名前を覚えた。

 眼鏡のオールドミス。この先生は図書部長で、委員会で一度顔を見ただけ、一度見ただけで、あまり関わらない方がいいと思った。先生も必要最小限しか言わないタイプのようで、今日呼び出されるまでは口をきいたことがない。

「散らかってるかもしれない、適当に片しといて。あの台車使っていいから」

 本の山と台車を指さしておしまい。泣きたくなるほど素っ気ない。

 泣かずに済んだのは相棒が居たから。

 相棒は小桜さん。先週、小桜さんは四日連続で休んでいた。四日の内三日が図書の当番に当たっていた。

 なんの因果か、三日間とも、わたしが小桜さんの穴埋めをやらされたんだよ。

 先週はごめんねえ……言うかと思ったけど言わない。

 ま、穴埋めやったのがわたしだってことも知らないのかも……霊田先生も言ってくれりゃいいのに「小泉さんが当番代わってくれたのよ」ってぐらいはね。

 とりあえず 階段まで 分室の前 運んでから 入れる

 散文的な会話して、いよいよカチャリ。分室の扉を開けて運び込む。

 

 かび臭ぁぁぁぁぁ

 

 かび臭さを共感して、それでも、それ以上の会話はしない。

 かび臭い上に散らかっている。どちらが言うともなく奥の方を片付けて百冊余りの本を積み上げる。

 これなんだろう……口に出したわけじゃないのに、同じものを見ている。

 ニス塗りの黒褐色の木の箱、大きさは給食のパンの箱を二つ重ねたぐらい。

 親しかったら「なんだろうね」くらいは言うんだけど、無言のまま。

 これが、他のみたいにホコリまみれなら、手を付けなかったけど、この箱だけが普通だ。何かが上に載っていて、片づける時にどけたのかもしれない。それに、長い方の端に掛け金があって、それを外したら簡単に開きそうだったし。

 カチャリ

 簡単に掛け金は外れて、上の蓋を開ける。

 

 なにこれ?

 

 二人の声が揃う。

 それは、一瞬だけど巨大なスマホに見えた。

 

 

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高校ライトノベル やくも・11『ペコリお化け・2』

2018-12-23 15:26:12 | 小説・2

やくも・11『ペコリお化け・2』

 

 

 ときどきRPGのように感じてしまう。

 

 なにがって……わたしの生活。越してきてからのわたしの毎日。

 お爺ちゃんとお婆ちゃんと、そしてお母さんとわたしの生活。

 一見家族なんだけど血のつながりは無い。

 お爺ちゃんとお婆ちゃんは夫婦だから、元々は他人。

 二人には子供が出来なかったから養女に迎えたのがお母さん。で、血のつながりは無い。

 お母さんとお父さんにも子どもはできなかった。だから、わたしが養女に迎えられた。これも血の繋がりは無い。

 

 理由は言えないってか、よく分からないうちにお母さんは離婚して、お母さんが親権をとった。

 それで、お母さんの実家であるお爺ちゃんお婆ちゃんの家に越してきたんだ。

 だから、四人とも、祖父母であるように、母親であるように、娘であるように、孫であるようにロールプレイしている。

 言ったよね、だから五分以上いっしょにいたら間が持たなくなる時があるって。

 

 えと……例のペコリお化け。

 

 こういうことにした。

 登校するときは崖道。下校の時はつづら折りを通る。

 ペコリお化けに会ったのは、登校の時だから、朝に崖道を通るのが自然だよね。

 朝に一度だけペコリとする。

 ペコリお化けが一度でもシカトしてくれたら、もうペコリしなくてすむ。

 だけど、角を曲がった時からペコリお化けの気配。別に工事現場からトラックが出てくるわけでもないのに、ペコリお化けは誘導灯を振って通行を促す。分かってるよ、わたしを促すだけじゃなくて、工事現場の人たちに――いま、前の道を人が歩いている――ということをアピールしてるんであって、そのことはガードマンの就業マニュアルとかにあって、ペコリお化けとしては守らざるを得ないんだって。

 だから、こちらもペコリとせざるを得ない。ペコリとするときペコリお化けはニコリとする。わたしも、ほんの微かにニコリと返す。何人何十人といっしょに通っているんだったらペコリだけですむ。いや、場合によっちゃペコリもしなくて済む。でしょ、他の通行人がペコリとしないんなら、ペコリする方がおかしいもん。

 でも、日に一度の事だからガマンして、皇族の人みたいに過不足のないニコリでペコリ。

 ところが、ニコリとし過ぎた! 目が合っちゃった!

 ヘルメットの下の目がニヤリと光った。

 ヤバイと思ったら、なんとペコリお化けが近づいてくるのが視界に入った。

 時計見るふりをして「ヤバイ」、用事を思い出したように早足になる。ペコリお化けも早足になる!

 小走りになる、ペコリお化けも小走りになる!

 80メートル先の角を曲がるところで肩を掴まれる! ウッ……叫びそうになるのをやっと堪える!

「逃げなくたっていいじゃないか、や~くもちゃ~ん……」

 ヘルメットの下の闇の中で二つの目が真っ赤に光って迫って来る!

 叫ぼうと思っても声が出ない。

 

 脂汗を流して……目が覚めたら、五時間目の数学の時間だった。

 

 RPGについて話したかったんだけど、また今度。

 

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