大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ 23『沈黙した蝉たちが集きはじめた』

2018-09-04 06:51:44 | 小説・2

 


メガ盛りマイマイ 
 23『沈黙した蝉たちが集きはじめた』




 先頭は生徒会長の貴崎真理だ。

 本来なら梶山氏が昨年後期に続いて会長をやり、彼女は副会長に収まっていたはずなのだが、梶山氏が俳優デビューして立候補しなかったので半年早く会長に飛び級した二年生女子の希望の星だ。
「生徒会の希望の星は二連星なのよ。この貴崎真理と芽刈舞が揃ってなきゃ回らないのよ、わたし一人ではどうにもならないの、お願いだから生徒会に戻ってきて」
 生徒会長の言葉に励まされ、舞が所属しているクラブの代表者がズイっと出てきた。

 美術部・漫研・ダンス部・放送部・演劇部・野球部・陸上部の代表者たちだ。

 代表者全員が女子というのも壮観だ。

 

「芽刈さんが居ないとまとまらないのよ」
「しまりがないの」
「向上心が湧かないの」
「部員のHPもMPもダダ下がり」
「スイッチが入らないの」
「廃部フラグがたってしまうのよ」
「がんばれないの」
 口々に舞の復帰を懇願している。なんだかジャンヌダルクに戦いの先頭に立つことを懇願するフランス人のようだ。
「わたしが二年生でなければ、芽刈さん、あなたが生徒会長になっていたでしょう」
 ちょっと待て、一年生の舞は学年代表以外の役員にはなれないはずだ。
「梶山さんの後任とあっては誰でも尻込みするわ。そして、だから会長不在のまま生徒会選挙は遅れに遅れて、芽刈さんが学年代表のまま会長になることを強いられたでしょう」
「その梶山さんをソデにしてまで……」
「それを言っちゃ……」
 貴崎が美術部長の発言を封じる。
 面と向かって言う者はいないが、舞が梶山氏をソデにしてハーレー野郎とくっ付いたのは評判になっている。

「ソデになんかしたんじゃない!」

 サイドカーのステップに載せた足を下ろし、無機質だが凛とした声で言い放った。
 ひどく傷ついた時、舞は、こういう物言いになる。女らしさが抜けて中性的というか無機質というか、そういう言い回しになる。
 企まない凄みがあって、周囲の人も動物も圧倒してしまう。
 かつて大財閥と言われた芽刈一族の長としての風格は、俺ではなく舞に色濃く受け継がれている。
 だけど、俺は知っている、こういう時の舞はいっぱいいっぱいになってしまっているんだ。

 校舎の外階段を二階の踊り場まで上がって口の形だけで叫んだ。

――今日は帰れーーーーーーーー!――

 通じたのか、舞はメットを被りサイドカーに収まってハーレーを発車させた。

 その鮮やかな迫力に圧倒され、貴崎たちだけじゃなく、その場に居た学校関係者は数秒フリーズしてしまった。
 そして、誰ともなくのため息が漏れて、いつの間にか沈黙した蝉たちが集きはじめた。
 

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高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ 22『乾坤一擲の一発勝負・2』

2018-09-03 06:56:30 | 小説・2

 


メガ盛りマイマイ 
 22『乾坤一擲の一発勝負・2』




 もはや形をとどめていなかった。

 スティーブが戦艦大和で、梶山氏がタイガー戦車。そんな妄想がググらせた。
 
 タイガー戦車というのは撃破されても形をとどめている。
 56トンという重量はM4シャーマンの倍近い重量で、M4の75ミリを至近距離で食らっても砲塔がぶっ飛んだり装甲板がめくれあがったりはしない。ビットマンが乗車のタイガーが撃破された時でも、乗員は悠々とエスケープできている。
 ところが、百枚ほどググった一枚の写真のタイガーはバラバラの鉄くずだった。
 説明によると、ノルマンディーの防衛に駆り出されたタイガーに戦艦の艦砲射撃が、まぐれで直撃したものらしい。乗員は逃げるヒマどころか、撃たれたという実感もなく即死したのだろう。戦艦に立ち向かっていこうというような無謀な戦車は有りえない。

 だから、梶山氏は正門を望む時計塔下のベンチにゆるりと座っている……ついでに俺も。

「何度見てもいい景色だね」
 正門の外側でスティーブのサイドカーに乗り組む舞と目が合う。
――ども――てな感じで目礼をしやがる。
――や!――てな感じで、缶コーヒーを目の高さまで上げて氏は返礼する。
 さすがは梶山氏、余裕だなあ。

 グシャ!

 梶山氏は空き缶を握りつぶした……って、スチール缶なんですけど。
「す、すごい握力っすね!」
「さて、これで四日だ。新藤君の健闘を祈って、僕は戦線離脱するよ」
「え、諦めるんですか?」
「けっこう忙しい身なんでね」
 氏は、今一度空き缶を圧潰し、握った右手から血がしたたり落ちた。
「あ……」
「我ながらバカ力を出したもんだ」
 怪我した右手を構いもせずに、ビンカン用のゴミ箱にシュート。

 スッコーーーーーーーーーーーーーーーーン

 空き缶を目で追っているうちに氏は消えてしまわれた。

 

 そして、あくる日から氏を学校で見かけることは無くなってしまった。

 

 乾坤一擲の勝負は舞の不戦勝のような形で終わった……はずだった。

「「「「「「「「待って芽刈さん」」」」」」」」

 あれからさらに三日、舞がサイドカーに乗ろうとしたら、正門前道路のあちこちに隠れていた女生徒八人が現れて舞をサイドカーごと取り囲んだ。
「な、なんの用かしら」
 不意を突かれ、不覚にも噛みながら返事をする舞。

「わたしたち、芽刈さんに乾坤一擲の勝負を挑みに来たの」

 代表格のポニーテールが宣言した。あ、この子は生徒会の……!

 

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高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ 21『乾坤一擲の一発勝負・1』

2018-09-02 07:08:03 | 小説・2


メガ盛りマイマイ 
 21『乾坤一擲の一発勝負・1』




「あのハーレー野郎はだれだ!?」

 短パンにタンクトップという挑発的なユルさでソファーに寝っ転がってファッション誌読んでる妹にムカついて大きな声になった。

「ね、カッコいいっしょ!」
 腹這いから跳ねあがってビクターの犬みたいなお座りポーズになりやがる。
「な、なにがカッコいいだ! もうちょっとマシなナリしろ!」
 一瞬「え?」という顔になり、続いて胸元を押えて真っ赤になりやがる。
「ちょ、どこ見てんのよ! 変態!」
「カッコいいとかじゃなくて、慎み持てよ!」
「いいじゃん、家の中でどんなカッコしよーとさ。てか、妹見て欲情すんなよ! じゃなくて、今日の虫除けよ!」
「あ、あーーー」

 タンクトップの胸元から一瞬覗いた胸の谷間で頭の中身がぶっ飛んでしまう自分に自己嫌悪。

「さすがの梶山氏も言葉が無かったぜ」
「でしょー、メンズメカリの超新星新人モデルだもんね。この秋はハリウッド出演とかも決まってるんだって」
「おまえ、叔母さんとこから借りたのか?」
「なによ、いつでも力になるって、叔母さんも言ってたじゃん」
「高校の間は自分たちでやっていこうって決めたじゃねーか」
「ほんのしばらくの虫除けなんだからいいじゃんよ!」
「虫除けだったら俺でいいだろ、せっかく眼鏡とウィッグ替えたんだから」
「あんたバイクに乗れないじゃん」
「だけど、効果はあっただろーが」
「効果あっても、オーディエンスに『ダサい』とか言われるのってあり得ないっしょ、わたしは古今無双の芽刈舞さまなのよ!」
「おまえなー、フルにしても人を傷つけたくないってのがコンセプトじゃなかったのかよ」
「むろんそうよ、ウジウジ時間かけてフルよりも、乾坤一擲の一発勝負で決着させてあげたほうが人道的でしょう?」

 クソ虫見るような目で見ると「あー、また汗かいたじゃん!」と風呂に向かう妹だ。

 乾坤一擲の一発勝負には違いないんだろうけど、あれでは『牛刀をもって鶏を割く』やり方だ。たしかに梶山氏はカリスマ生徒会長からスカウトされてドラマのレギュラーを張ろうかというくらいのシンデレラボーイだ。名前はスティーブ・マクギャバン、ググってみると、ハリウッド大スターのヘンリー・マクギャバンの次男坊で、修行のため日本でモデルを始めたということらしかった。
 梶山氏が陸上戦王者のタイガー戦車だとしたら、スティーブは戦艦大和だ。
 大和の46サンチ砲で撃たれたら、タイガー戦車なんて、跡形も残さず粉みじんになってしまうだろう。

 

 

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高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ 20『俺はモブ夫だ!』

2018-09-01 07:14:34 | 小説・2

メガ盛りマイマイ 
 20『俺はモブ夫だ!』





 新藤君は芽刈さんの崇拝者なんだよね。

 梶山はかましてきやがった。
 かましてというのは俺の主観だ。

 雰囲気は、ドラマの主人公が台詞が三つくらいしかないモブキャラに憐憫の情を示しつつ自分こそがドラマの主人公であると宣言するのに似ている。

 宣言はするけども、けして奢らず、モブ夫を慰める。んでもって「憂さ晴らしに行こうぜ」とか言ってゲーセンとかにモブ夫を引っ張り出す。その前に「腹が減っては……」とか言って飯を奢ってくれる。ま、駅向こうの新装開店のラーメン屋とか。
 で、このラーメン屋が絶品で「う、美味いですね!」と感動の声を上げると「そーだろそーだろ(*^^)v」と歯磨きのCMみたいに健康的な歯を覗かせてガッツポーズ。
 あーやっぱ勝てねー……とか思っていると、思いのほかの猫舌で「アッチチチーーーーー!」とドジを踏む。
 カウンターの中のバイトのネーチャンが、それを見てクスっと笑ったりする。
 完璧なヒーローじゃなくて、どこかドジであることがトレンドだ。
 ゲーセンに行くと格ゲーだ。意外なことに奴は強い。
 ヒーローというのはオールマイティーだ、ウィークポイントは猫舌ぐらいのもんで、それも育ちの良さから「熱いものは苦手」ということだったりする。
「あ、すまん、つい熱くなっちまった」とか言うけど、ゲーセンのオーディエンスの視線は地味に落ち込むモブ夫には冷たい。
「得意なのやろうぜ!」
 奴は、あくまでもヒーロー的な気の良さからモブ夫の気を引きたてようとする。
「あれなら負けない」
 モブ夫が示すのはクレーンゲームだ。
 モブ夫は、いつの日か彼女を連れて、クレーンゲームで彼女が好きなプライズ品をゲットしてやろうと、腕に磨きをかけていた。
 だから、難易度の高い奥のぬいぐるみなんかを易々とゲット。
「スゴイよ、俺なんかじゃ半日やってもとれないよ!」
 自分のことのように喜ぶ奴は、一つ向こうの筐体で苦労している三人連れの女に子に声を掛ける。
「なんだったら俺たちにやらせてくれない? きっと獲ってあげるから」
 俺たちと言うところがミソだ、あいつが獲るからと言うと高い確率で断られる。奴は、そういう気配りが企まずに出来てしまう。
 で、じっさい自分がやって失敗を見せた上で、自然にモブ夫に晴れ舞台を用意する。
 でもって、モブ夫は一発で女の子の目当てのプライズ品をゲット。
「「「うわ、どーもありがとう!」」」
 女の子たちはお礼を言うけど「それじゃ!」と振り返っての二三歩先。

「やだ、モブ夫の手の汗が付いてる」
「あの人が獲ってくれたのだったら文句なしだったのに」
「シ、聞こえるよ」


 しっかり聞こえたモブ夫の肩を、奴は優しくポンと叩きやがる!


 俺の妄想は果てしない。


 しかし、梶山は俺を誘うこともしなくって、ポツリと言う。
「僕だってデートに誘っていなされてる、まあ、五十歩百歩だ。お互い励もうぜ」
 奴は、飲み終わった俺の空き缶も引き取って行儀よく空き缶用のゴミ箱に捨てに行く。

 実は、俺、あいつの兄貴だったりするんだぜ。

 けしてアドバンテージにならない現実を呟いてみたりする。
 

 放課後

 舞を迎えに来たヤローを目撃して、俺も梶山もブッタマゲタ。

 サイドカー付のハーレーに打ち跨ったハリウッドスターかというようなイケメンだったのだ!

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高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ 19『虫除けクビ!』

2018-08-31 06:57:19 | 小説・2

メガ盛りマイマイ 
 19『虫除けクビ!』





 イメチェンしてから噂は二種類になった。

 彼氏がかっこよくなったというものと、かっこいい別の彼氏ができたという二つだ。


 眼鏡とウィッグを替えただけなんだけど、恵美さんが連れて行ってくれたのは東京でも指折りの専門店。
「先々代様から御贔屓のお店で、戦前は宮内省御用達でございました」
 なるほど、実家の応接間に掛けてある先代と先々代の油絵が、両方とも眼鏡のフサフサ頭なのが納得できた。
 俺が五歳の時まで生きていた祖父さんはタレ目のハゲチャビンで、応接間の油絵は別人だと思っていたもんな。

 ま、噂は二種類とも『カッコいい』という形容詞はいっしょなので舞は満足していた。

「噂になるんだったら、これくらいでなくっちゃね」とご満悦であった。

 しかし、噂というのは本人に確認しない限り妄想だ。
 噂は妄想という圧搾空気を入れ続けているようなもんで、こんな風に膨らんだ。

――カッコは良いけど、自転車ってのはどーなんだ?――とグレードアップしてしまった。

「自転車というのはダサダサなんだ……やっぱ、バイクか車でなくっちゃね、わたしには釣り合わない」
 舞の欲望も当初の『虫除け』という目的を逸脱して天井知らずになってきた。
「原チャの免許しかねーぞ」
 簡単だけど、ど真ん中から欲望を潰す呪文を唱えてやった。

「いいわよ、あんたじゃ力不足だから」

 その一言で虫除け役から下ろされた。

 舞は克己心というか向上心が強いと言うか、兄の俺から見ても「そこまでやるか!?」というくらいの頑張り屋なんだけど、それが人に向けられると、とんでもなく不遜になって、ジェイソンがチェーンソーを振り回すようにして人の心をズタズタにする。
「虫除けを言い出したのはテメーの方だろ!」
「逆切れ? ウザったいわね。あんたも、もうちょっと自分を磨くってことに気を遣いなさいな。そんな次元の低いところでギャーギャー言うのは、とっても見っともないわよ、人間が小さいわよ」
「んだとー!」
「フン、こんなことでキレないでよ。そのこらえ性の無さで前の学校しくじったんでしょーが」
 俺の心を両断すると、舞は一人で帰っていった。

 それから二日ほど、舞は関根さんと下校している。

 学校で一二を争う美少女コンビ、おまけにどちらもモデルという天下無敵の華やかさ。
――最初から、そーやってりゃよかっただろー――
 俺は、ため息ついて腐るしかなかった。

「隣町の彼氏はフラれたようですね」

 食堂前のベンチででタソガレていると、爽やかな声が降って来た。
「あ、梶山さん」
 虫除けなんちゅうイベントをやらされた、そもそもの原因が俺の横に座った。
「勝手に買ったけど、カフェオレでよかった?」
 原因は冷え冷えの缶コーヒーをくれた。
「あ、すんません」
「食堂の利益は自販機が半分なんです。余裕のある時は協力しなくっちゃ」
 さすいが前生徒会長。気配りと余裕のかまし方がちがう。

 で……なんで俺に話しかけてくるんだ?

「新藤君は芽刈さんの……」

 そこまで言うと、ゆっくりと俺の方を向いて余裕の微笑みをかましてきやがった。

「えと……」
 ひょっとして、俺と舞の関係をみやぶられたか!?
「僕が、彼女に告白した時も、いっしょの屋上に居たよね?」
「え……それは」

 奴は、核心的な一言を言うために、ゆっくりと息を貯め始めた。

 なんだか、周囲の空気を吸いつくされるようで、とても息苦しくなってきた。
 
 

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高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ 18『虫除けなんだぜ』

2018-08-30 06:41:16 | 小説・2

メガ盛りマイマイ 
 18『虫除けなんだぜ』





 当然噂になる。

 毎日放課後になると隣町の有名私学の男子高校生が、それも某人気ラノベのモテ期主人公のようなイケメンが校門の脇で待っているのだ。
 むろん、虫除けに化けたコスプレだが、ちゃんと隣町の学校からの時間を計算して調整している。

 概ね四時前後。

 下校ラッシュが過ぎたころで、程よいオーディエンスが認知してくれるのには最適だ。
 自転車の後ろには、隣町の防犯登録証とその学校の自転車登録証が貼ってある。自転車そのものも隣町で買ったもので、隣町の自転車販売組合のシールも付いている。うちの物見高い生徒が写メっても簡単にはバレない偽装はしてある。

「ね、A組の芽刈さんよ」
「ここんとこ毎日ね」
「お巡りさんも、あの二人乗りだけはお目こぼしだそーよ」
「見とれちゃう~」
「だよね」
「写真とろーか」
「あたし昨日撮った!」


 信号待ちなんかしてると、そんな声が聞こえてくる。

 単なる虫除けなんだけど、舞はまんざらでもない……てか、ちょっと得意になっている。
 なにをやっても一番でなきゃ気の済まないやつなんで、こういう褒め言葉にはゾクゾクしている。
「ちょ、揺するのやめれ」
「だって、ウキウキするじゃん」
 運転中にしがみついたままウキウキされては危なくて仕方がない。

「ちょっと出来すぎてんよな」
「ちょっとな」


 そんな話が聞こえた時は、ちょっとギクっとした。バレたかと思ったからだ。
「やっかみよ」
 舞は気楽だ、自分のやることに間違いはないと思っている。
 
「なんだか昔の韓流ドラマみたくね」
「あ、男の方な」
「今の時代に有りえねー、ありゃポプラ並木とかねーとな」
「ちょっち芽刈さんとは合わねー」


 俺は安心した。こいつらの呟きはやっかみだ、バレてはいない。
 だが、舞は違った。

「ガレージに着いたら停めて」
「なんでだよ」
「いいから」

 俺たちは、学校と家との中間にあるガレージの中で偽装を解いている。
 俺は別の自転車に乗って裏口から出る、むろん変装は解いて一人で家に帰る。
 舞は、ガレージと棟続きになっている三階建てから出て行く、それがいつもの流れだ。
 それが、今日は停めろという。

「ウィッグと眼鏡変えよう」
「なんでだよ」
「有りえねーとかは有りえないのよ」
「あれはやっかみだろが、テスト前の部活禁止期間のサッカー部かなんかだぞ」
「野球部と軽音もいた」
「っても、同じだろが。バレてなきゃ、そいでいいじゃねーか」
「よくないわよ、フェイクでもわたしの彼なのよ。釣り合うものでなきゃなんないでしょーが」
「こんなとこで見え張ってもよ」
「見栄じゃない、プライドよ」
「いいか、これは単なる虫除けなんだから」
「そんないい加減だから、過年度生なんかになんじゃないのよ」
「ん、んだとー!」
「図星突かれて切れるなんてサイテーの屑よ」
「このアマーー!」

 手を上げた瞬間天地がひっくり返った。

「遅くなりました、ま、仲良く兄妹ゲンカですか」
 恵美さんが車のキーを回しながら入って来た。
「恵美さん、いまから原宿……渋谷お願いね」
「はい、承知しました」
「ほら、さっさと来る」
 痛む腰を摩りながらセダンに乗り込む。

 半日かけてウィッグと眼鏡を新調。
 あくる日からはイメチェンの二人乗りで、やっかみ的な呟きをするモブも居なくなり、三日目には俺たちの写真をマチウケにする女子まで現れた。

 大満足の舞だったが、本当の目的である虫除けからほころびが出てきた……。
 

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高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ 17『グッときてしまったからなんだ』

2018-08-29 06:56:16 | 小説・2

 


メガ盛りマイマイ 
 17『グッときてしまったからなんだ』




 真空カマイタチキックをかまされたせいじゃない。

 グッときてしまったからなんだ。

 そりゃあ、真空カマイタチキックは恐ろしい。
 舞が本気で真空カマイタチキックをかましてきたら、ガチで首の一つや二つは飛んでしまう。
 それが耳たぶの端っこが切れただけで済んだのは、舞が手加減していたからだ。
 ブチギレながらもわきまえてやがる。
 
 俺がグッときてしまったのは、夕べの風呂だ。

 右足の靭帯を痛めていたので入浴の介助をやってやった。
 慣れないことというよりも、恥ずかしさからジタバタしやがるので、バランスを崩して兄妹揃って湯船に落ちてしまった。
 その時に見てしまったんだ。

 舞の右足の付け根に赤斑が出ているのを。

 この赤斑は、舞の心がいっぱいいっぱいになったときに現れる。
 ほんのガキだったころに庭の木に上ったことがある。
 舞は、まだ「オニイチャン」とあどけなく慕ってくれていて、なんでも俺のやることを真似していた。
 だから、俺が木に登れば舞も真似して登って来る。

 

 舞の真似は少し変わっている。

 

 普通は、兄貴が上ったあとを付いてくるものなんだけど、あいつは、俺が登っているのよりも大きな木を一人で登り始めた。
「それ以上登ると危ないぞ!」
「まだまだいけるもん!」
 意地を張った舞は、俺のことを見下ろせるところまで登っていきやがった。

 で、下りることが出来なくなってしまった。

 

「お、下ろられるもん!」
 強気で返事はするが、震えているのが俺からでも分かった。
「待ってろ! いま助けてやるから!」
 俺は急いで降りると、舞の木に取りついた。

 その時に見えてしまった、舞の右足の付け根に赤斑が出ているのを。

 いっしょに風呂にも入っていたし、犬ころのように転げまわっていたので、日ごろは出ないということは分かっていた。
 無事に下ろした時には、屋敷中騒ぎになって、そのままになってしまった。
 お婆ちゃんに聞いて分かった。
「あれは、舞がいっぱいいっぱいになると出てくるんだよ」
 赤ん坊のころに喉を詰まらせたときや、屋敷の中で迷ってビビりまくっていたときに(ふだん生活しているところは、屋敷のほんの一部だったので、マジで迷ってしまう)発見された時、風邪をこじらせて高熱を出したときなんかに出ていたらしい。

 だから、俺は引き受けてやった。

「おう、こっちこっち!」

 

 俺は校門を出て直ぐのところで待っていた。

 

 ちょうど下校のピークで、俺の姿はよく目立った。
 目立つはずだ、俺は隣町の有名私学の制服を着でウィッグを被り眼鏡をかけている。
 ほら、こないだモデルの面接を受けに行ったときの姿。舞が短時間で移動できるように俺がアッシーになってやっている。
 いつもは離れたところで待っているんだけど、今回は露出している。
「あ、お待たせーーーーー!」
 いそいそと、手を振りながら舞が駆けてくる。
 ラブコメだったら、完全にフラグが立つところだ。
 恋愛フラグで、みんなにバレバレフラグがさ。で、それを目にした友だちとかヒロインに心を寄せる男どもをヤキモキさせる虫除けフラグがさ。

 そう、俺は梶山に舞のことを諦めさせるために、一芝居を打っている最中なんだ。

 嫌々なんだけどな!
 

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高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ 16『洒落にならねーーー!』

2018-08-28 06:54:21 | 小説・2

 


メガ盛りマイマイ 
 16『洒落にならねーーー!』




 舞は救急車で病院に運ばれた。

 俺に真空カマイタチキックをかましたからだ。


 真空カマイタチキックは、去年、まだ中学生で東京ドームと同じ広さの実家に住んでいたときに身に着けた荒業なんだ。
 親父は健康のためにいろんなスポーツをやっているが、その一つが少林寺拳法だ。
 先生は中国人の孫悟海老師。
 二十代にしか見えない体の上に七十歳くらいのシワクチャ顔が載っている化け物爺さん。
「お父上よりも才能がある!」
 そう見込んで舞に稽古を付けようとした。

「それなら、一番の奥義を教えて!」

 孫老師は眉毛一つ動かして驚いた(孫老師は、けして驚いた顔をしないので、眉毛一つ動かしたというのは大変な驚きなんだそうだ)。
 そして舞の体を頭のてっぺんからつま先まで触って、奥義の伝授に耐えられるかどうかを確認した。
 舞が他人が体を触るのを許したのは後にも先にもこれっきりだったので、俺も親父もブッタマゲタ。

「よろしかろう」

 老師は一言呟くと、半日かけて孫流少林寺の奥義を教えた。
「優秀な弟子でも十年の経験が無ければ教えぬ技です、わずか半日で習得したのは驚異の極み。よろしいか、習得したとはいえ、どこかに無理がある。けして本気になって使ってはいけませんぞ」

 つまり、下手に使えば、自分の体も痛めてしまうという忠告だった。

 で、救急車を呼ぶくらい身体を痛めてしまったのだから、俺にかました真空カマイタチキックは、思い切りの本気だった!

 洒落にならねーーー!

「本気でやったら、あんたの首飛んでたよ。今度やったら、ほんと首飛ばしてしまうから」
 安静を条件に帰って来た舞は、シラっと恐ろしいことを言う。
「でも、結果的には自然な形でキャンセルできたじゃねーか」
「あ、うん……」
 梶山とのデートは救急車が学校にやってきたことでチャラになっていた。

「えと……お風呂に入りたいんだけど」
 晩飯後の洗い物をしていると、後ろから声が掛かった。
「あ、今から沸かすわ」
 シンクの上の湯沸かしボタンを押す。

 

――お風呂のお湯を沸かします――

 

 給湯システムが優しいオネエサンの声で反応する。
 考えたら、俺に優しく語り掛けてくれるのは、湯沸かしとパソコンのナレーターくらいかもしれない。

 

「じゃなくって」
「ん?」
「じん帯痛めてるから、湯船に浸かれないってか……」
「つ……だから恵美さんに来てもらおうかって言ったんだ」
 大げさにするのは嫌だと言って、実家の方には連絡していないのだ。
「わーった、一人でなんとかする!」
「待て!」
 
 この上怪我をひどくされてはかなわないので入浴の介添えをしてやることにした。

「水着とか着てりゃ済む話だろーが!」

 

 俺は安眠用のアイパッチをさせられた。汗まみれの体に水着を付けるのは気持ちが悪いということで、舞はいつもの通り。

 

「湯船に浸かるときだけだから……ヘリに腰掛けるから、首に掴まらせて……そいで、わたしの右足を持って」
「こうか……」
「ちょ、どこ触ってんのよ!」
「す、すまん」
 なんとか重心を確保して、ソロリと舞を湯船に誘導する。
「ちょ、胸押し付けないで!」
「だって、重心が……」
「「あ、ああーーーー!!」」

 ザッパーーーーン!!

 バランスを崩して、兄妹そろって湯船に落ちてしまった。

 アイパッチが外れてしまって十年ぶりに一緒に湯船に浸かってしまった。

「コラー、目ぇつぶれーーー!」

 舞の注文は、ちょっと手遅れだった……。
 

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高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ 15『真空カマイタチキック!』

2018-08-27 07:12:05 | 小説・2

 高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ 
 15『真空カマイタチキック!』




 気楽にやればいいじゃないか

 アドバイスとしては間違っていないと思う。

 お友だちとして付き合う。
 そういう括り方で付き合いを承知したんだ。
 だからデートという誘い方をされたら、ちょっと引いてしまうのは理解できる。
 
「でもなあ、男と女が付き合うってのは恋愛フラグが立ったってことことなんだぜ。看板はどうあれ誘われて当たり前じゃねえか」

「だって……」

「嫌ならOKしなきゃよかったんだ。もともと断ること前提だったろ、コクられそうになったら、俺が電話して中断させるって段取りだったじゃねえか」
「だって、断ったら傷つけちゃうじゃんか。同じ学校に居て傷つける傷つけられたなんて嫌じゃん」
「難しく考えすぎなんだよ。何度かデート……いっしょに出かけてさ、やっぱピンとこないってことで自然に解消しちまえばいいことじゃねーか」
「そんなのできないよ、相手が気持ち持ってくれて、いっしょに出かけて退屈とかのフリできないよ、ピンとこない真似なんてできないよ」
「それって、梶山とデートしたら面白いってか、舞自身も乗り気の予感ってことじゃねーのか?」
「え、あ、うん……梶山さんのSNSとかネットに流れてる評判とか、すごくイイってか、素敵だとか思うよ」
「だったら付き合っちゃえばいいじゃねーか」
「ダメなんだよ、最初は、時々の学校の帰りとか月一の休日デートとか……でも、時々が毎日になり月一が毎週とかになっていくの目に見えてる」
「付き合うって、そういうことだろ」
「他のことができなくなってしまう、いまやってることってどれも止めるわけにはいかないから」
「ま、そーだろーけど、この際、整理したらどうなんだ。七つも部活やった上に生徒会に、こないだからはモデルの仕事もだろ」
「それは、わたしの今のキャパでやっていける。どれも、自分自身が努力すればいいことだから。でも、付き合うってのは人間相手なわけだから、予定とかマニュアル通りにはいかない……それに、わたしブキッチョだし」
「あーーーーーーー」
 それは分からんでもない。メールの返事を打つだけでも一晩掛かる奴だ。
「ま、とりあえずは用事があるってことにしとけ」

 もう朝礼のチャイムが鳴りそうなので暫定的な結論にしておいた。

 朝礼が終わると、舞は机の下で隠すようにしてメールを打っていた。目が合うと真っ赤な顔で睨まれたが、とりあえずは解決したようだ。

 手術に臨む前の外科医のような手洗いを廊下で待っていると、舞からメールが来た。
「んだよ……」
 今日の舞はしつこすぎる。
 学校では、俺と舞はただのクラスメート。兄妹だってバレるようなことはするなというのは、そもそも舞が言いだしたことなんだぞ。
「え……うそだろ?」
 メールには突拍子もない提案が書かれていた。

――んなこたーお断りだ!――

 返事を打つと、斜め後ろの女子トイレから殺気を感じた。
 ヤバいと思った時には、後頭部に風が吹き、見慣れた足先がマッハ2の速度で視界の隅を横切った。
「次はまともにヒットさせる」
 必殺仕掛人の脅し文句のようなことを言って舞は遠ざかっていく。

「すまん待たせた……新介、その耳どうした?」
「ん?」

 触ってみると左の耳たぶから血が流れている。

 くそ、舞のやつ、真空カマイタチキックを仕掛けてきやがった!

 

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高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ 14『舞は両手で顔を覆って泣き出した』

2018-08-26 07:00:10 | 小説・2

高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ 
 14『舞は両手で顔を覆って泣き出した』

 


 俺に聞くなよ

 目を合わさずに呟くように返事した。


 はた目には、すれ違っただけにしか見えなかっただろう。
 俺は振り返ることなく階段を下りて食堂に向かった。俺の数歩後ろには、トイレから出てきて追いつこうとしている武藤が居る。
 武藤はイカツイ柔道部だが、保健衛生的な潔癖症がある奴で、トイレを出る時には手術前の医者かというくらいきっちりと手を洗う。だから、昼飯前の連れションでも俺に後れを取る(あ、俺が全然手を洗わないってことじゃないからな)
 昼飯前がいつも連れションというわけでもないしな。
「柔道部の今後についてアドバイスが欲しい」
 俺を勧誘したいという下心見え見えのフリなんだけど、逃げてばかりでは友人関係にヒビが入る。
 俺は、なにごとも波風立てず平穏無事に生きて行こうという模範的高校生なんだ。

「おい、芽刈さん、なにか言ってなかったか?」

 廊下で追いついた武藤が横並びになりつつ聞いてくる。

「え、あ、歌でも口ずさんでたんじゃねーか」
「にしては真剣そうだったけど」
「芽刈さんは多忙だからな、関根さんに誘われてモデル業も始めたって噂だし」
「ああ」

 舞がモデルになったというのはバレている。

 だれかがネットで見つけたらしいんだけど、舞自身のイカシタ雰囲気が、学校関係者をして大いに首肯せしめた。担任のみくるちゃんなどは「えー、今まではモデルじゃなかったの!?」とラブライブサンシャインのキャラみたく目をきらめかせて驚いていた。

 俺は、こういう驚き方をするみくるちゃんを不覚にも可愛いと思ってしまった。

「でもモデルだったら歌か?」
「声優とモデルってのはオールマイティーでなきゃやってけないんだぞ、お前の筋肉脳みそじゃ理解できないかもしれないけどな」
「はー、そういうもんか……」
 武藤は無邪気に感心した。潔癖症はともかく、こういう無邪気なところは好ましい。

「あ、新藤君、先生が呼んでる!」

 角を曲がったら食堂というところで舞と鉢合わせ。
 こいつ、校舎をぐるっと回って待ち伏せしてやがった。額に汗を浮かべ息を切らしてやがる。

「え、すぐに?」
「うん、わたしも付いていくから、ね」
 
 ウ……とちくるって俺の手を握りやがった。

「すまん、ちょっと行ってくる」

 羨ましそうな武藤の視線を感じながら俺はひかれるまま職員室への階段を上がった。
 で、職員室の前は素通り……予感した通り生徒会室に拉致られた。

「こんなことしたら、目立っちまう……」

 意見しようとしたら、舞の目は涙に潤んでいた。
 生徒会室に連れ込まれたらローキックかハイキックかと覚悟していた俺は戸惑ってしまう。
「どうしよう、どうしたらいい?」
 この狼狽え方から、梶山のことだと見当がついた。
「落ち着け、落ち着いて問題を整理しろ」
「だって、デートしてくれって言われちゃったよ!」
「デート?」
「困るよ困るよ!」

 そう言うと、舞は両手で顔を覆って泣き出した。

 この狼狽えぶり、兄の俺でも半分分かって半分は分からない。

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高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ 13『バッカじゃないの』

2018-08-25 06:48:18 | 小説・2

 


 高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ 
 13『バッカじゃないの』



 バッカじゃないの

 三流芸人のすべったギャグに思わずツッコミを入れるように、舞は鼻を鳴らした。


 兄妹そろって遅刻しないように、朝の七時になるとテレビが点く。
 時計代わりに点いているテレビなので、俺も舞も真剣には観ない。

 それでもニュースとかバラエティーで人の声が聞こえると、知らずに耳を傾けている。
 特に舞は敏感で、ジュースを飲んだり、トーストを焼きながら反応している。
 反応しているのは瞬間だけで、トーストに乗っけたスクランブルエッグが落ちでもしたら「フギャー!」とネコ科の悲鳴を上げて、次の瞬間には忘れている。
 
 都議選が終わった時も「バッカじゃないの」だった。

 ちょっと興味が湧いたので「なんでバカなんだ?」と聞いてみた。
「この厚化粧、豊洲はバイオハザードみたく言ってたんだよ、それが豊洲移転だよ。東京都民もバッカじゃん」
 むつかしいことは分からない俺だが、女性都知事をスゴイと思っていたので凹んでしまう。
「こいつ、もっとバカ!」
 開票終了後の記者会見に出てこない蓮舫にはニベも無かった。
 小池都知事の会見がダラダラ続いていると、もう意欲を失った。連呼される小池というワードは舞の脳みその別のところを刺激した。
「あーー小池屋のポテチ……」
 そう呟くと、財布を掴んでコンビニに突撃した。

 で、今朝の「バッカじゃないの」である。

 ワイドショーのMCは夕べ観ていた『メガ盛り早食い女子選手権!!』に出ていた女子高生が急死したことを伝えていた。
 急性ナンチャラ症という病名は付いていたが、要は大食いがたたっての突然死だ。
 テレビ画面の中の女子高生の姿がフラッシュバックする。
 スカートのホックはおろかファスナーまで下ろし、限界が近くなるとOLチャレンジャーの真似をしてピョンピョンジャンプ。
 その衝撃で落ちそうになったたスカートを、大股開きでつっぱりながら食い続けた。
 壮絶な挑戦だった。最後の方は観ているだけで気分が悪くなった。
 でも、俺は「バッカじゃないの」にはならない。
 いま思うと、あの女子高生は美人とか可愛いという範疇の子ではなかった。崩しようのないブスというわけじゃないが、そういうカテゴリーは中学の時に諦めて、お調子者とかファニーとかいうカテゴリーの中にレーゾンデートルを求めていたように思う。

 

 学校という村に溶け込むのは、大人が思っているよりは何倍も難しい。
 死ぬ思いまでして、いや、事実死んでしまったんだけど、明るくひょうきんにメガ盛りに挑戦していた彼女には、言い知れぬ闇とか黒歴史があったんだろう。
 俺自身、前の学校をしくじって過年度生として高校をやりなおしているので分かってしまう。

「遅刻するよ!」

 蔑んだような目で急き立てる。もう慣れっこだけど嬉しくもない。
「わーってる」
 我ながら不機嫌な返事をして、食器を重ねて流しへもっていく。
 ザッと水で流してビルトインの食洗機へ収める。流しに放置していては、帰宅して台所に入った時に鬱になる。

「待たせたな」

 リビングへ戻ると、玄関に向かったはずの舞がソファーに胡座くんでスマホと格闘している。
「んだよ」
 敵はムスッと顔を上げる。
「どーしよ、また梶山のメール!」
 不機嫌そうな顔は、声とは裏腹に上気している。
「おはよう、今日も元気で! とか返事しとけ」
「え、あ、うん」
 意外に素直に従う。
「適当にニコニコを変換して打っとけ」
「え、あ……(*^▽^*)でいいかな?」
 
 ディスプレーをズズイっと見せる舞は、ちょっとだけだが可愛いかった。
 

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高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ 12『メガ盛り早食い女子選手権!!』

2018-08-24 06:35:30 | 小説・2


 高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ 
 12『メガ盛り早食い女子選手権!!』




 観ているだけで気持ちがわるい。

 総重量五キロのカレーライスとチャーハンとカツ丼。
 カメラが切り替わると保健室にある特大洗面器みたいな鉢にてんこ盛りのチャーシュー麺、天ぷらそば、カレーうどん。
 他にもパスタやハンバーグ、たこ焼にお好み焼きにフルーツパフェ等々。
 テーブルに載っている食い物がことごとくメガ盛りだ。

 それを五人一組、それが十組五十人の女の子で早食い競争をやろうという、とんでもない番組だ。

『メガ盛り早食い女子選手権!!』

 五十人の女の子は、いずれも可愛く、とても大食いをするようには見えない。
 それがMCが打ち鳴らしたゴングを合図に食いだしたのが十分前。途中を編集しているので、実際には三十分が経過している。
 大汗をかき目を白黒させながらもパッカー車みたいに掻っ込んでいる女子大生。
 スカートのホックどころかファスナーまでくつろげている女子高生。
 二分おきにジャンプして、少しでも胃の中身を落とし込んでいるOL。
 OLが巻き返してきたので、女子高生が真似してジャンプ。するとくつろげていたスカートが落ちてしまうが、反射的に股を開いて落下を防ぎ、左手で庇いながら右手で食べ続ける。
 中には真っ青になって足を投げ出し、あえいでいる子もいる。これはドロップアウトかと思いきや、がぜん復活して食べ始める。
「いやぁ……すごいっすね……」
 ゲストの関取が――すごいものを見てしまった――てな感じでため息をついている。関取が観ていても、女子のメガ盛り早食いは凄まじいようだ。
 
 なんで気持ち悪くなりながら観ているかというと時間待ちなんだ。

 梶山の「友だちになろう」という申し出に「うん」と返事をしてしまって、舞は機嫌が悪い。
 傾いた機嫌を戻すため、美術部で自画像の傑作をものし、漫研では滞っていたテキストの打ち込みをやっつけ、グラウンドでは制服のまま100メートルを12.3秒の記録を出した。いらついた気持ちをなだめる為だけに。

 で、なだめきれずに――今日はありがと 今夜話がしたい 舞――なんてメールを寄越してきやがった。

 言っちゃあなんだが、妹から真剣な相談なんかされたことがない。
 だから、妙に緊張してしまって「お風呂あがったら話聞いて」の言葉に「お、おう」と返事して、時間待ちにテレビを点けたら『メガ盛り早食い女子選手権!!』をやっていたというわけだ。

 ……にしても長い風呂だな。

 俺たちが住んでいる別宅は無駄に広い。延べ床面積が二百平米以上と、並の住宅の四軒分ほどもある。
 離れたところに居ると、丸で気配を感じない。
 四十人のメガ食い女子が脱落したところでリビングに向かった。しびれが切れたというやつだ。

 舞はロングの髪をターバンみたいなタオルで包んで、ソファーの上で腹這いになっていた。

「上がったんなら、上がったって言えよ」
「うっさい……」
「うっさい?」
 俺はソファーを迂回するようにして舞の顔が見えるところまで移動した。
 舞は腹ばいでスマホを睨んでいる。
「俺を待たして、なにやってんだ」
「梶山からメール」
 風呂上りだけでは説明できないほど顔を赤くして返事を打っている。打ったと思ったら削除して打ち直し……その繰り返しをやっている。

「あーーーもーなんて返事したらいいのか分かんないよーーーーー!」

 もんどりうって舞はソファーから落ちてしまう。
 パジャマの上がめくれ、タオルのターバンがほぐれる。

 フワーっと風呂上がりの匂いがして、俺は、そのまま自分の部屋に引き上げた。
 

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高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ 11『舞の熱を冷ますように雨が降っきた』

2018-08-23 06:27:49 | 小説・2

 


高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ 
 11『舞の熱を冷ますように雨が降っきた』




 さすがに文句は言わない。

 だって自分から付き合うことをOKしてしまったんだから。


 相手がだれであろうと、舞は付き合うつもりなんかなかった。
 だから、一足早く南館の屋上に向かった俺は離れたベンチに席を占め、梶山がモーションを掛けてきた時に電話した。
 電話を受けた舞は「すみません、先生から……」ということで梶山の告白を中断させる段取りになっていた。
 それをダメ押しの「芽刈くん!」で、あっさり陥落してしまった。

「仕方ないじゃん! 仕方ないじゃん! 仕方ないじゃん! 仕方ないじゃん!……」

 呪文のように「仕方ないじゃん!」を繰り返し、足早に階段を下り廊下を行く舞。

 

 その斜め後ろに付き添った。   「ネコだらけ」の画像検索結果

 

 ほっときゃいいんだけど、家以外の舞は何枚何十枚も猫を被っている。
 その猫がヘロヘロと剥がれて行くのが俺には分かる。
 もし、この猫が目に見えたとしたら、学校は瀬戸内海かどこかにあった猫島のようになってしまっただろう。
 たった一枚でも猫を被っているうちはいいが、全てのネコが剥がれ落ちたら……。

 考えただけでも身の毛がよだつぜ。

 舞にとっても学校にとってもハルマゲドンにならないために、俺は付き添っている。
 渡り廊下を過ぎたところで舞を左に誘導する。
 廊下の左詰めは美術室だ。美術部員たちが短い昼休みを利用してデッサンやら油絵やらの手直しをやっている。

「「「「芽刈さん!」」」」

 美術部員たちが畏敬のまなざしで挨拶する。
 中までは入らないが、美術部員たちは一人の女生徒を囲んでデッサンの練習をやっているのが分かる。
 舞はスケッチブックを手に取ると鏡の前に陣取り、一心不乱に自画像を描き始めた。
 早回しのオートマタのように鉛筆を走らせる舞は自殺直前のゴッホのようだ。   「自殺直前のゴッ...」の画像検索結果

 

 目は鏡とスケッチブックを毎秒十回くらい往復し、瞬くうちに『狂気の青春』とでも付けたらピッタリの自画像を描き上げていく。
「「「「ほーーー!」」」」
 自分たちの作業を中断し、舞の作品に見惚れる部員たち。
「だめだ!」
 スケッチブックを閉じると舞は再び廊下へ。

 階段を下りると漫研の部室だ。

 漫研は自主製作のPCゲームを作っている。
 舞は入部して「ペンタブで絵を描くなら、いっそゲームを作りませんか」という提案を持ち前の押し出しと器用さで押し通し、七割がた完成させている。

 

「わたしがやります」

 

 パソコン相手に文字入力を手間取っている部員の肩を叩いた。
 セットされたテキストを一瞥すると驀進するオーム(風に谷のナウシカに出てくる巨大なダンゴムシみたいなの)の脚のように指を動かし瞬くうちに打ち終えた。
「すごい……一時間換算で8キロバイトの速度だ」
 前任者の眼鏡っ子が目をまん丸くする。
「次のテキストは?」
「すまん、まだ書けてない」
「ですか……」
 目尻と指先がヒクついている、まだ嵐が収まらないようだ。

 当てがあったわけではないだろうけど、舞の進んだ先はグラウンドだ。

「芽刈、来週あたりから記録に挑戦してみないか」

 

 石灰マーカーでコースの補修をしていた横山先生(陸上部顧問)が声を掛けた。
「走ってみます」
「じゃ、放課後の部活ででも」
 横山先生はマーカーを転がしていく。
「いま走ります」
 そう言うと、靴を脱いで素足になった。
「その格好で?」
 素足になったとはいえ、舞は制服のままだ。
「走ります」 
 スターティングブロックに足を掛けたので、勢いに押された先生はホイッスルを咥えた。

「セット……オンユアマーク……ピーー!」

 スタートダッシュから違った、横山先生の目が点になった。
 ゴールするまで、俺は息をするのを忘れてしまった。
「ゴール!」
 先生は叫んだが、ストップウォッチを何度も見直した。
「12.3秒……すごいよ!」
 数字は分からないが、素人目にも、今の走りはすごかった。
「もう一度やります」
 次は12.8秒。
 さらに二本走ったが13秒台に落ちた……というか落ち着いた。
「これ以上は足を痛める、部活の時にきちんとやり直そう」
「……はい」

 水道で足を洗うと、舞はスマホを取り出した。

――今日はありがと 今夜話がしたい 舞――

 グラウンドの校舎側の隅でメールを受け取り――分かった――とだけ返事を打った。

 見上げると、舞の熱を冷ますように雨が降っきた。
 

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高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ 10『雰囲気に弱い妹ではある』

2018-08-22 06:39:28 | 小説・2

 


高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ 
 10『雰囲気に弱い妹ではある』



 生徒会長は二期連続で務めるのが普通なんだ。

 例外は三年生で前期の会長を務めた時。
 後期の会長は任期が、あくる年の五月に跨るために、二月に卒業してしまうと任期が全うできず、会長のポストに空白期間が出来てしまう。
 だから会長は二年生の後期に立候補し、前期の生徒会長から時間をかけて仕事を引き継ぎ、あくる年の前期いっぱい職にとどまる。

 梶川俊也は二年の後期に生徒会長になり、一期半年を務め今年の前期選挙には立候補しなかった。

 そつなく任務をこなしていて、教職員にも生徒にも「まあ、よくやっている」と評判をとっていたので、五月の選挙に立候補しないと知れた時には、ちょっと話題になった。

 
「一期で辞めたこと、ちょっと後悔してるんだ」
 南館屋上、南向きのベンチに舞が座ると、こう切り出した。
「あ……普通は、もう一期やりますよね。でも、梶川さんの場合、あれと両立はむつかしい、でしょ?」

 並んで座った舞はしおらしい。
 ま、あいつは俺以外の人間には丁寧だし気配りもする。
 あんなタメ口で乱暴なのは俺に対してだけだ。ほんと、損な役回りではある。

「もう一期やっていたら、生徒会で君と一緒になれた」
「え、あ……」
「そうしたら、もっと自然なかたちで気持ちを伝えることができたのにね。呼び出してすまない、そしてきちんと応じてくれてありがとう」
 わずかに頬を染め、きちんと話す梶川は昔の青春ドラマの主人公のように清々しい。

 じっさい、梶川はテレビドラマに出ている。

 そう、あいつが会長職を一期半年で辞めたのは、某プロダクションの目に留まり、俳優業を始めたからだ。

 

「えと……去年の舞台素敵だったそうですね」
「あ、記録のDVDを見れば……あ、僕のことじゃなくてね、文化祭の企画や運営の参考になると思うよ」
「観せていただきました、先月生徒会の文化祭企画会議で」
「あ、観てるんだ」
 観ているのに、推量の「そうですね」を使っている。
「舞台は生で観ないと、映像の二次資料では正確なことは……あ、なんか生意気なことを言ってすみません!」

 

 両手をパーにして、胸の前でハタハタ振る舞は、正直可憐でため息が出る。ギャップの凄さにだけどな。

 

「生意気なんかじゃないよ、高校一年で、そんなに正確な物言いをしようとするのは立派なことだよ」
「でも、あの舞台がプロダクションの目に留まって俳優になられたんですから、先輩こそ立派な方です」
「それはどうも……あ、なんか照れるなあ」
 手の甲で額の汗を拭う梶川、くそ、サマになってやがる!
「ハンカチどうぞ」
「え、あ、すまない」
 あ、そういのは誤解を与えるぞ!
 あ、一瞬ハンカチの匂いを嗅ぎやがった、くーー、驚き方までサマになって!
「えと……僕は、その、まだまだなんだけど……そのよかったら、友だちからというぐらいから付き合ってもらえないかな、君の友だちの一人として」
 
 ちょっと予想から外れてしまった。

 

 度重なる投げ文、爽やかなルックスとビヘイビア、文武両道で前途有望な俳優の玉子、その熱意とグレードの高さから、もっとストレートで、高めの直球を放ってくると、俺も舞も思っていた。

「あ、えと……」
「どうだろ」
「えと、友だちなんですよね……」
 
 いかん、舞が陥落してしまう!
 俺は、スマホの☏マークにタッチした!

「すみません、電話」
「あ、どうぞ」
「はい、もしもし……あ、はい、直ぐにいきます」
「用事が出来たかな?」
「すみません、先生から……」

 舞は階段に急ごうとしたが、慌ててていたんだ、ベンチの脚を引っかけてしまった。

「キャ!」
「危ない!」

 奴の反射神経は見事で、転倒寸前の舞を腰抱きにして転倒を防いだ。

「あ、す、すみませんでした」
「転ばなくってよかった」
「ありがとうございます、じゃ」
 ぺこり頭を下げると、階段に向かう舞。
 どうやら、ギリギリのところで踏ん張れたようだ。

「芽刈くん!」

 く、ダメ押しの一声。

「はい、お友だちということで!」

 あーーー雰囲気に弱い妹ではある……。
 

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高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ 09『ちょっと難儀な相手だ』

2018-08-21 06:16:49 | 小説・2


 高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ 
 09『ちょっと難儀な相手だ』




 あんな妹だけど仁義はわきまえている。

 俺にラブレターを見せないのだ。


「読まなきゃアドバイスもできないぞ」
「キモイ、妹に来たラブレター読もうなんて!」
「おまえ、さっきは俺に恋文男と対決しろって言ってたじゃねーか、ラブレター読まなきゃ対決のしようもねーだろが」
「それはもう止めたんだから、とやかく言うな!」
「矛盾だらけじゃねーか、俺は、もう知らん!」

 回れ右をすると、三歩で到達して、ドアに手を掛けた。

「待ってよ!」
 反射神経をいかんなく発揮して、俺のシャツをムンズと掴みやがった。

 ブチ!

 俺の堪忍袋が破れたと一瞬思ったが、シャツの前ボタン二つがブッチギレル音だった。
「……ひと傷つけるのやだもん」
 実の兄を虫けらほどにも思っていないくせに、他人への気配りは人並み以上だ。

 七つも部活を掛け持ちし、生徒会の学年代表を務め、こないだは関根さんの勧めるままにモデルになったのも気配りのしすぎという側面がある。この1%も俺に気配りすれば、俺の生傷も半分以下になるだろう。

「概略を言えよ」
「えと……」
「その感じじゃ、昼休みか放課後に呼ばれて、コクられる予感なんだろ」
「う、うん……昼休みに屋上」
「どっちの?」
「南館」

 うちの学校は、南館と新館の屋上が解放されている。広い方が南館で、昼休みは生徒の憩いの場所になっている。
 新館は狭いうえに階段室と給水タンクが邪魔で、部活に使われる以外は、あまり生徒は寄り付かない。
 ま、南館の方が健康的ではある。

「相手は?」

「三年の梶川さん」
「カジカワ……それって、先代の生徒会長の?」
「え、あ、うん」

 梶川俊也……ちょっと難儀な相手だ。

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