大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

乃木坂学院高校演劇部物語・31『ん……まだ違和感』

2019-11-10 06:30:22 | エッセー
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・31   

『ん……まだ違和感』 


 
 ……薄暗がりの中、ぼんやりと時計が見えてきた。

 リモコンで明かりをつける……まる三日眠っていたんだ。
 目覚めると自分の部屋。当たり前っちゃ当たり前なんだけど、なんだか違和感……。

「あ」

 小さな声が出た。目の前に倉庫から命がけで持ち出した衣装が掛けられている。
 わたしと潤香先輩の舞台衣装。セーラー服と花柄のワンピース。ベッドから見た限り、傷みや汚れはなかった。四日前の舞台が思い出された。なんだかとても昔のことのように思い出された。潤香先輩もこうやってベッドに寝ている。もう先輩は意識も戻って……何を考えているんだろう。わたしはもう起きられるだろう。二三日もしたら外出だってできるかもしれない。しかし先輩はもう少し時間がかかるんだろうなあ……よし、良くなったら、この衣装持ってお見舞いにいこう。そう思い定めて、少し楽になる。

 ん……まだ違和感。

 あ、パジャマが新しくなっている……新品の匂いがする。着替えさせてくれたんだ、お母さん。
 ……まだ違和感。ウ……下着も新しくなっている。これは、お母さんでも恥ずかしい。

「あら、目が覚めたの?」

 お母さんが、薬を持って入ってきた。
「ありがとう、お母さん。着替えさせてくれたんだね」
「二回ね、なんせひどい汗だったから。シーツも二回替えたんだよ。熱計ろうか」
「うん」
 体温計を脇に挟んだ。
「お腹空いてないかい」
「う、ううん」
「そう、寝付いてから水分しか採ってないからね……」
「飲ませてくれたの?」
「自分で飲んでたわよ。覚えてないの?」
「うん」
「薬だって自分で飲んでたんだよ」
「ほんと?」
「ハハ、じゃ、あれみんな眠りながらやってたんだ。ちゃんと返事もしてたよ」
「うそ」
「パジャマは、わたしが着替えさせたけど、『下着は?』って聞いたら『自分でやるから』って。器用にお布団の中で穿きかえてたわよ」
「そうなんだ……フフ、やっぱ、なんだかお腹空いてきた」
「そう、じゃあ、お粥でも作ったげよう」
「あの衣装、お母さん掛けてくれたの?」
「ああ、『衣装……衣装』ってうわごと言ってたから。目が覚めたら、すぐ分かるようにね。今まで気づかないと思ったら、そうなんだ眠っていたのよね」
「ありがとう、お母さん」
 ピピ、ピピ、と検温終了のシグナル。
「……七度二分。もうちょっとだね」
 そのとき、締め切った窓の外から明るいラジオ体操が流れてきた……ちょっと変だ。
「お母さん、カーテン開けてくれる」
「ああ、もう朝だものね」
「あ……朝?」
 カーテンが開け放たれると、朝日がサッと差し込んできた。

 わたしは三日ではなく、三日と半日眠っていたことに気がついた。
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高安女子高生物語・112『惜別 それはバンジージャンプから』

2019-10-09 06:22:33 | エッセー
高安女子高生物語・112
『惜別 それはバンジージャンプから』
   


 

 MNB47の母体はユニオシ興行。日本で一番人使いが荒い。

 当たるとなると、半日の休みもくれへん。これでは、先日の仲間美紀みたいな子も出てくる(リスカやったけど、命に別状は無し。せやけど、休んでる間に、ゴーストライター付きで手記を書かされてる。ほんまに無駄のない会社や)
 あたしらは、まだ売り出し中なんで、来た仕事はなんでもやる……やらされる……やらせていただく。

 今日は、わざわざ新幹線とバスを乗り継いで、バンジージャンプのメッカ岡山鷲尾ハイランドにまできた。

 あたしらはAKBみたいに自分の番組持てるとこまでいってないんで、ヒルバラ(お昼のバラエティー)に10分のコーナーをもろてて、メンバーが、とっかえひっかえ、いろんなことをやらされる。
「ええー、どうしてもMNBの明日香がやりたいというので(だれも言うてません!)この岡山鷲尾ハイランドのバンジージャンプにやってきました。ここはジャンプしながら願い事を叫ぶと叶うそうです。デビューからたった2カ月、どんな願いがあるのでしょうか(決まってるやん、ゆっくり寝かせて!)でも、ここの願い事は、ジャンプするまでは口にできません。しゃべってしまうと効果が無いそうです。で、明日香にはカメラ付きの……」

 ヘルメットを被せられた。顔の前には自撮り、メットの上には、あたしの視線とシンクロさせたチビカメラ。

 ホンマは、メンバー二人が飛ぶはずで、ジャンケンに負けたカヨさんも飛ぶはずやったんやけど、リハでちびってしまうぐらいの緊張なんで、急きょチームリーダーのうちが二人分の内容=おもろさを出して飛ぶことになった。
「なんで、明日香が選ばれたか分かる?」
 MCのタムリが聞いてくる(おまえやんけ、やれ言うたん!)
「え、あ、センターだから?」
「いや、明日香だけが、自分の部屋3階にあるから」
「ええ、マンションの五階とかに住んでるのもいますよ」
「戸建てで、三階は自分一人やから。で、準備は万端?」
「うん、トイレも二回もいってきたし……たぶん大丈夫」
「よし、絶対成功する御呪いしてあげる……」
 そう言うて、タムリはあたしのすぐ横に寄ってきた……と思たら、突き飛ばされた!

 ギャーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!

 そう叫んだとこまでは覚えてる。
 
 そのあと、あたしはモニターの中からも、みんなの視界からも一瞬で消えて……何かが抜けていったような気がした。
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真夏ダイアリー・29『終日ゴロゴロ』

2019-10-04 06:42:35 | エッセー
真夏ダイアリー・29 
『終日ゴロゴロ』         
 
 
 
 
 千通の年賀状は問題だった。
 
 嬉しかったことは確かだけれど、直ぐに問題に気が付いた。それだけ、わたしの住所、個人情報が漏れているということだ。 
「入りきらない分が、これね」
 千通の年賀状の上に、何通かの年賀状がポンと投げ出された。
  で、この何通かが本物で、段ボールの中味は古新聞だった……やられた、悪ノリのお母さんに。
「どう、目が覚めたでしょ」 
「冗談きついよ、お母さん」
 お雑煮と簡単なおせちをいただきながら、年賀状を見る……簡単なものから手の込んだのまで、いろいろだけれど、パソコンとプリンターで作ったものばかり。その中に、ただ一通手書きのがあった。
 
 あけまして、おめでとうございます。仲間になれてうれしかったです!
 
 エヴァンゲリオン事件で、お仲間になった春野うららからだった。年末のゴタゴタで、クリスマスパーティー以来だったけど、仲間が増えたことは嬉しい。省吾とうまくいけばいいと思った。省吾のお父さんに事実を教えられて以来、省吾は友だちとか、それ以上の関係とかじゃなくて同志、バディーという言葉が相応しい関係になるんだろうなあ……という予感がしていた。
――初詣いこうよ~(^O^)~  と、省吾にメールを打った。 
――今、行って帰ってきたとこ。真夏忙しいんじゃね?  つれない返事が、すぐに返ってきた。
――四日まで、オフだからあ。  これへの返事は、すぐには返ってこなかった。
 で、年賀状の返事を三通ほど書いて、もう一度メール。 
――まあだ? 
――ちょっとタンマ。  と、返ってきた。
 
 書き終えた年賀状を近くのポストまで出しにいった。 
 
「紅白たいへんだったみたいね」 
 ポストに年賀状を入れた直後に、声をかけられた。しまった、変装用のメガネを忘れた。 
「いや、どーも(n*´ω`*n)」  
 振り返ると、わたしが急にアイドルになっちゃった、そもそもの原因である美容師の大谷さんが立っていた。 
「You Tubeで見たよ。クララちゃん大丈夫だった?」 「あ、はい。ただのお腹痛でしたから」 「そうか、わたし、応援してるからね」  
 それ以上カラまれてはかなわないので、そそくさと新年の挨拶して家に帰る。
 ――4日、昼から俺の家で。    
 省吾から、メールが返ってきていた。簡単な内容だったけど、その間に、いろいろ調整してくれたんだろうなあ、と感謝。
 
 で、新年二日目の今日は、梅と葉ボタンにお水をやって、終日ゴロゴロ……。
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真夏ダイアリー・26『時間よ止まれ!』

2019-10-01 07:04:49 | エッセー
真夏ダイアリー・26
『時間よ止まれ!』     




 それはサビの部分でおこった。

 ハッピー ハッピークローバー 奇跡のクローバー♪

 そこで、バーチャルアイドルの拓美が現れる寸前、頭の上がムズムズすると思ったら……なんとライトが落ちてきた!

 グワー!

 アイドルらしからぬ声を上げて、頭を抱えた……てっきり頭の上にライトが落ちてくる……と覚悟した。
 十秒……二十秒……何事もおこらない。
 おそるおそる目を開けると、ライトは空中で静止していた……だけじゃない。スタジオの全てがバグったように静止していた。知井子は、落ちてくるライトにいち早く反応し、椅子から転げ落ちる姿勢のまま固まり、萌と潤は気づかずに、「え?」という顔のまま。その視線の先にはADさん達が落ちてくるライトに気づき、みなライトの方角を見ていた。吉岡さんは、反射神経がよく、わたしたちを助けようとして、フライングした姿勢。
 ディレクターは「危ない!」の「ぶ」の口をして、唾が五十センチほどのところで、壊れたスプレーからふきだしたように、止まっていた。

「やっぱり、キミの力は本物だ」

 スタジオにだれかが入ってきた。
「……だれ!?」
「おどかして、すまん。わたしだよ、真夏さん」
 その人は、明かりの中に入ってきた……。
「……省吾のお父さん」
「最後に、もう一度、真夏さんの力を試すことを条件にしてもらったんだ」
「条件……わたしの力?」
「キミは、時間を止めたんだよ」
「わたしが……?」
 わたしは、世界中が静止してしまった中で、省吾のお父さんと向き合っていることが苦痛で、心臓がバクバクしてきた。
「無理もない、こんなことが起こっちゃ混乱するよね……」
 お父さんは、手のひらをヒラリとさせた。頭が一瞬グラリとしたが、全ての情報がいっぺんに頭の中に入ってきた……。
「……歴史を変えるんですか……このわたしが?」
「そう、わたしたちの時代の人間が遡れるのは、この時代が限界なんだよ。省吾の能力が高いので、しばらくやらせてみたが、あの子だけじゃ無理なんだ。もうバグが出始めている」
「省吾が過年度生だっていうのは、作った情報なんですね」
「ああ、何度か過去とこの時代を行き来させているうちにずれてきてしまってね。それに、なにより……」

「……もう省吾は限界なんですね」

「無理をして過去に行かせているうちに歳をくってしまった。省吾の実年齢は二十歳だ」
「で、自覚もないんですよね、過去に行ってるって」
「そう、任務を与えられ、過去にいっている間は分かっているが、この時代に戻ってきたら記憶は消えている。だから、任務の経験が積み重ならず成果ががあがらない」
「……ばかりか、省吾に障害が出てくるんですね」
「ああ、行ったきり戻ってこられなくなるか、精神に障害が出てくる」
「で、わたしに、これを渡したんですね」
「ああ、真夏さんは使いこなしている。異母姉妹の潤さんにソックリにもなれるし、こうやって時間を止めることもできる。あのライトをもとにもどしてごらん」
「そんなこと……」
「できるよ、キミなら」
 
 わたしは――ライトよもどれ――と念じた。ライトは静かにもとに戻った。

「真夏さん。キミにやってもらっても、遡れる過去には限界がある。我々も研究はしているが、今のところ八十年が限界だ。その限界の中で何ができるか、分かり次第伝えるよ。他の情報は圧縮してキミの頭脳にダウンロードしておいた。ゆっくり解凍して理解してほしい。さあ、もう時間をもどした方がいい。二秒前を念じて、時間を動かしてくれるかい」
「はい……」

 時間が戻り、スタジオの喧噪が蘇った。

「真夏、なに上見てんの。イケメンの照明さんでも見つけたか?」
 MCのユニオシが振ってきた。
「あ、棚からぼた餅!」
「だよな、お前、アイドルになったの、ほんの一週間前の棚ぼただもんな」
「はい、ラッキーガールなんです。ラッキービーム! ビビビビ!」
 みんなにウケた。
「じゃ、ラッキービームで厄落とし。潤と漫才やれ!」
 ユニオシがムチャブリ。

 しかし、めげることなく。潤と漫才をやってのけ、今年も、あと一日となった……。
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高校ライトノベル:連載戯曲:ユキとねねことルブランと…… 5

2019-08-28 05:49:53 | エッセー
 ユキとねねことルブランと…… 5
栄町犬猫騒動記
 
 大橋むつお
 
 ※ 無料上演の場合上演料は頂きませんが上演許可はとるようにしてください  最終回に連絡先を記します

時  ある春の日のある時

所  栄町の公園

人物

ユキ    犬(犬塚まどかの姿)
ねねこ    猫(三田村麻衣と二役)
ルブラン   猫(貴井幸子と二役)
 
 
携帯電話を奪って、もどってくるユキ。その後を血相を変えたルブランが追ってくる。
 
ルブラン: この泥棒犬! 今度邪魔をしたら、許さないって言ったでしょ!
ユキ: 血相変えて追いかけてきたわね。
ルブラン: 誰でも、大事なものをかっぱらわれたら、頭に血がのぼるわよ。さあ、返しなさい、わたしの携帯電話!
ユキ: よほど大事な携帯ね。でも、いまどき携帯をわざわざケースにしまってる人なんているかしら……
ルブラン: 出すな、ケースから!
麻衣: スンゲー! 見たこともない高級品!
ルブラン: いじくるんじゃない!
ユキ: ルブラン……あなた、幸子さんを携帯に変えたわね?
麻衣: え、その携帯が幸子!?
ユキ: そしてこのケースは、携帯にされた幸子さんが逃げ出さないためのイマシメ。
麻衣: そうか、万一ポロリと落っことして、人が拾っちゃったら……幸子って、携帯になっても、お嬢様なんだ……
ユキ: 考えたものよね、携帯に変えれば、肌身離さず持っていても怪しまれないし。そして、思う存分ネチネチ、ビシバシ言葉のパンチをあびせても自然だものね……ケースにもどしては……かわいそう、必要以上にしめあげたのね、皮ひものあとがこんなに……
ルブラン: なにをデタラメを……
 
麻衣、なにかひらめいたらしく、力いっぱい携帯電話に水をかける。携帯といっしょに、ビショビショになるユキ。
 
ユキ: 麻衣ちゃん……そういうことはヒトコト言ってからしてくれる。
麻衣: ごめん、携帯に薬かけたら、幸子にもどるかなって……だって化代にかけたらもどるって……
ユキ: わたしも、そう思ったんだけど……ハックション!
ルブラン: ハハハ……まるで水に落ちた犬だね。さあ返しな。それは高級品だけど、ただの携帯電話。化代なんかじゃないんだよ!
麻衣: くそ!
ルブラン: 知っているかい、こんな言葉……水に落ちた犬はたたけってね!
 
しばし、みつどもえの立回り。おされ気味のユキと麻衣(戦いを表す歌と、ダンスになってもいい)
 
麻衣: ユキ、もうだめだ。こいつにはかなわないよ。
ユキ: あきらめないで。ルブランのこの真剣さ、この携帯、化代に違いない!
麻衣: だって、いくらやっても効き目がないよ……(片隅に追い詰められる二人)
ルブラン: フフフ、バカの知恵もそこまでさ。覚悟をおし……
ユキ: この携帯、高級品……ひょっとして……(携帯の裏側をさわる)
ルブラン: やめろ、さわるな!
ユキ: この携帯は……高級品のウォータープルーフ。つまり防水仕様になっている。
麻衣: さすが、ゼネコン社長のお嬢様!
ユキ: でも、防水仕様は外側だけ、電池ボックスを開けて、内側に、その水鉄砲を……どうやら図星ね……麻衣ちゃん、もう一度この携帯を撃って!
麻衣: よっしゃ!
ルブラン: させるか!
 
ユキが素早く電池ボックスを開けた携帯に、あやまたず麻衣の水鉄砲が命中!
 
ルブラン: ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!
麻衣: やった!
ユキ: どうやら、正解だったようね。わたしの手の中で、幸子さんが、自分の鼓動をうちはじめている。
ルブラン: ……なんてこと……せっかく、せっかく、ルブランの夢がかなうところだったのに……(断末魔のBG、ルブラン倒れる)
 
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高校ライトノベル・連載戯曲『となりのトコロ・11』

2019-08-10 06:44:21 | エッセー
となりのトコロ・11 
大橋むつお
 
※ 無料上演の場合上演料は頂きませんが上演許可はとるようにしてください  最終回に連絡先を記します
時   現代
所   ある町
人物……女3  
のり子
ユキ
よしみ
 
 
のり子: おやじさん……こんなにボロボロになっていたんだね。こんなにくたびれてしまって……見られたくなかったんだよ。見られるくらいなら、常呂の森の一本の木になったほうがましだと思ったんだよ……おやじさん、きっとユキの知らないところで苦労したり、傷ついたり……おやじさん、そういう自分を子どもには見せたくなかったんだよ。
ユキ: わたし、もうちょっとでトドロのこと殺すところだった。
のり子: ユキを人殺しの鬼にしたくないから、おやじさん、恥を忍んで開いてみせたんだよ……ほら、こんなに恥ずかしそうにしている。
 
間。
 
ユキ: ……
のり子: さ、もうたたんでやんな。
ユキ: うん……(やさしく、捧げ持つように、ゆっくりとたたむ)
のり子: あ、姉さん起きてるよ。
ユキ: また、目を覚ましたの……じゃあ、子守歌……
のり子: 顔つきが……優しくなってる
ユキ: 姉さん……そう、姉さんも、やり直す気になってくれたの……常呂にもどったら人にもどれるかって?
のり子: もどれるんだろ?
ユキ: さあ、姉さんの心がけ次第ね。今までが今までだったから。
のり子: あ、ブヒブヒ言ってる。
ユキ: ハハ、まあ時間をかけてゆっくりやろうよ。ブタのままでも面倒みてあげるからさ、ね、あせんないで。
のり子: あ、なんか来る。
ユキ: バスだ……
のり子: どっち?
ユキ: こっち?
のり子: あっち?
ユキ: むこう、わからない?
のり子: 音……聞こえる。
ユキ: フフ、よかった。
のり子: え?
ユキ: ふつうの人には見ることも聞くこともできないの。
のり子: じゃ、あたしも、お仲間ってわけ?
ユキ: うん、友だちだもの。
のり子: え、友だち?
ユキ: いけない?
のり子: いけない……池ならあるよ。
ユキ: え?
のり子: 目の前に、ユキとあたしの友情の池。あ、魚がはねた! 見えない? 友だち同士なら見えるよ。だろ? ふつうの人には見ることも聞くこともできない池あるよ。いけないなんてことないヨ……なんてね。
 
二人、あたたかく笑う。二人の前をバスが通り、停まる気配。
 
ユキ: ついた。 
のり子: なに?
ユキ: ……コネバス。
のり子: え?
ユキ: トコロにコネをつけにいくバスだから、コネバス(目をこらしているのり子に)見えない?
のり子: うん、輪郭がぼやけちゃって……
ユキ: そのうち見えるようになるよ。
のり子: そうだね(振り返る。差し出されたユキの手に驚いて)ユキ……
ユキ: ありがとう。のり子のおかげで気持ちよく常呂に行ける(握手)
のり子: また、会える?
ユキ: たぶん、もう……
のり子: もう……?
ユキ: もう一度……会いたいね。
のり子: うん。
ユキ: 父さん、姉さん、行くよ……じゃあ!
 
退場。バスに乗る気配。
 
のり子: ユキ!
ユキ(声): さよならトドロ!(バスの発進音)
のり子: ユキ! さよなら、さよならユキ!
 
見送るのり子。下手から、よしみが駆けてくる。
 
 
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高校ライトノベル・連載戯曲『となりのトコロ・9』

2019-08-08 06:35:18 | エッセー
となりのトコロ・9 
大橋むつお
 
※ 無料上演の場合上演料は頂きませんが上演許可はとるようにしてください  最終回に連絡先を記します

時   現代
所   ある町
人物……女3  
のり子
ユキ
よしみ
 
 
のり子: おやじさん、一人暗いね。
ユキ: ……(泣いている)
のり子: 泣くなよ。気持ちはわかるけどさ、世の中には通じないものだってあるんだよ。
ユキ: 苦労したのは、父さんだけじゃないんだ。北海道から内地へ。内地へ渡ってからも、秋田、岩手、高知で二回、鹿児島で三回。そしてこの町で二回引っ越したわ。雪女の血をひいてるもんだから、高知や鹿児島では、いつも死んだみたいに元気が無くって、度重なる引っ越しで、友だちのできる間もなかった……だから、わたし、ずっと十歳の女の子……それでも掃除、洗濯、食事の用意に、ご近所の回覧板、朝夕は新聞とヤクルトの配達のアルバイト……姉さんはずるいから、七歳の姿に戻って自分の成長を止めてしまって、世間の人は、みんな姉さんのほうを妹だと思っていた。
のり子: 苦労したんだ……
ユキ: 父さんは、行く先々で、仕事かわって、外でお酒ばかり飲んで。家じゃヘドはいてクダまいて……ロクなもんじゃなかったんだよ。父さん、父さん、聞いてるの父さん? 聞いてるの父さん?
のり子: (何事かに気づいて、傘をつかんで下手へ)ダメだよ、ユキ! いくらダメなおやじだからって、おやじさんはおやじさんなんだからさ!
ユキ: わかっているわよ、そんなこと!
のり子: わかってないよ。あんたの心は憎しみでいっぱいだ!
ユキ: そんなこと……そんなことないわよ……
のり子: あるわよ! ユキ、あんた、この傘を、おやじさんをたたっこわそうと……
ユキ: 思ってないよ!
のり子: 思ってる!
ユキ: 思ってないよ。ないから父さんよこして!
のり子: ダメよ! そんなユキに渡せるわけないじゃんか!
ユキ: 心が通じるって、不便なこともあるのね(あふれるものを、こらえている)
のり子: ユキの心って、怖いものがいるんだね……
ユキ: わたしの心の底の底は雪女だもの……
のり子: ダメだよ、その心は!
ユキ: わかってるわよ。でも、あふれてくるのよ。いままでこらえていたものが。そう、わたしってこらえていたのよね。こらえるために、耐えるために十歳の子どもでいたのよね……きっとそう。ピーターパンも何かに耐えるために、ずっと子どもでいたのよね。だから、ピーターパンは人を殺さない。
のり子: そう、殺しちゃいけない! がんばって、あふれるものを飲み込んで!
ユキ: ごっくん! そうよね、ピーターパンみたいに。ああ、こんなとき、ピーターパンなら、きっと空を飛んでいたことでしょう、フライパンになって。それでもダメなら、アンコを飲んでアンパンマンに。でも、わたしは飛べない。雪見大福雪女……ああ、ダメ! 目から口から耳からあふれて、こぼれてくる……(ユキの身体のあちこちから、蒸気のように恨みや怒りがあふれ、ふきだしてくる)
のり子: ダメよ! それをあふれさせては……雪女になっちゃダメだ、ダメだよ、ユキ!
ユキ: ウーーーーーーーーーップ……ありがとう、のり子。なんとか、あふれないですんだみたい……
のり子: よかった、よかったね。
ユキ: うん、父さんを……(のり子、ためらう)もう、大丈夫。
のり子: そうだね(傘をもってくる)
ユキ: 父さん……父さん……ごめんね。ユキ、もうひい婆ちゃんみたいになったりしないからね。たとえ傘になっても、父さんは、父さんなんだもんね……ね、いっしょに常呂に帰ろ。常呂に帰れば常呂の森が、空が、海が、風が、そしてトコロが、わたしたちを迎えてくれるわ……ね。常呂に帰れば、仕事も世間も、態度の悪い高校生も、OLも、口やかましいだけで、コミュニケーションのないご近所も、なにも気にしなくていい。いいのよ。だから……(やにわに傘をかまえる。のり子もそれにならう)
二人: 開いてちょうだい、お願いだから!
ユキ: ウーン……ダメだ、ダメだ!
のり子: (傘を取りあげ、立ちふさがって)ダメよ!
ユキ: ありがと。大丈夫、大丈夫よ……
のり子: (傘に)ねえ、おやじさん。赤の他人のあたしが言うのもなんだけど。ね、ユキちゃん、あんなにしょげかえっちゃって。ね、お願いですから……これだけ言ってもダメ……ええい、このわからずや。こうしてくれるわ!(傘を振りあげる)
ユキ: (あわてて、止めに入る)やめてちょうだい。これじゃ立場が反対でしょ!
のり子: そ、そうよね。
ユキ: ありがとう……トドロの気持ち、とっても嬉しい……
のり子: そんなことはいいけど、どうするんのこれから?
ユキ: 開かなくても、父さんを常呂に連れて帰る……
のり子: でも、開かなきゃ……元にはもどれないんでしょ?
ユキ: 閉じたまま放っておくと、ほんとうの傘になってしまう。二度ともどれなくなってしまうわ……それでも連れて帰る……帰るしかないもの……
のり子: ユキ……
ユキ: 常呂の森に、傘の父さんをひっそりとさすの……そうすれば……
のり子: そうすれば……?
ユキ: いつか芽がでて、枝がのびて。そして、ゆっくりと森の中の一本の木になる……父さん、苦労知らずの気の弱い人だったから……人間でいるより、木になったほうが幸せかもしれない……
のり子: 木に……?
ユキ: 木になれば、だれとも会わず、わずらわしいことも何もわからなくなって……ただ風に枝をそよがせて、静かに幸せになれるわ……そして……わたしはひとりぼっち(膝に顔を埋めて泣く)
のり子: ユキ……かわいそうなユキ(母のように、肩を抱く)
ユキ: (はじけるように、身をそらせる)
のり子: (したたかに、ユキの頭で顔を打つ)ウーン……どうしたのよ、ユキ?
 
四方から蒸気のような「気」が湧きだしてくる。
 
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高校ライトノベル・連載戯曲『あすかのマンダラ池奮戦記⑧』

2019-06-23 06:48:35 | エッセー
連載戯曲
『あすかのマンダラ池奮戦記⑧』

※ 無料上演の場合上演料は頂きませんが上演許可はとるようにしてください  最終回に連絡先を記します 
 

 天王寺商業高校による、この部分からの上演 https://youtu.be/A9hf1vIXZFc?t=379


 上手の藪から、あすかが飛び出してくる。手には件のメモリーカードとコントローラーを握って。 

あすか: 言ったじゃないか、神を信じろって! 
イケスミ: あすか!?
フチスミ: あすかさん!?
あすか: 今のは威力偵察なんかじゃない。本格的な攻撃の陽動作戦に過ぎない。主力は南よ! 南に何か途方もなく禍々しい化け物が潜んでここを狙っている。獣道を通っても、ひしひしと感じた!
イケスミ: ほんとうか!?
フチスミ: 言うとおりよ。北に気をとられすぎていた……南に化け物が……動き始めた!
あすか: 話は聞いた。消えかかっているんでしょ、イケスミさん。もっかいやろうよ。ほら、コントローラーとメモリーカード!
イケスミ: いいのか? 今度は命にかかわるぞ……?
あすか: 賢くなったの。二人を見殺しにしても、あの南の化け物は、あたしを認識している。ここをあっさりかたずけたあと、きっとあたしを殺しに来る。知りすぎてしまったかから。そのためには、もっかい依代になって戦ったほうが生き残れる可能性が高い。そう計算できるほどにね……って理屈つけたら納得してくれる?
フチスミ: アスカさん……
あすか: さあ、コントローラーを持って! あたしはメモリーカードを……え!?
イケスミ: どうかしたのか?
あすか: これ、ドラクエⅧ「空と海と呪われし姫君」のメモリーカード……鞄の中でごちゃになったんだ……これは、ラチェットアンドクランクⅢ……ファイナルファンタジー……メタルギアソリッドスリー……おっかしいなあ……
イケスミ: 度はずれたゲーマーだな……
フチスミ: だめ、もう、間に合わない!

 ゴジラの咆哮のような禍つ神の叫び声が聞こえる。

あすか: あいつよ南側に潜んでいた奴!
フチスミ: 並みの禍つ神ではない……いずれの荒ぶる神か?
イケスミ: ……あれ、轟八幡だよ。ほら、あの頭の鳥居。
フチスミ: え、この国の二ノ宮の……(神の咆哮)なんとあさましいお姿に……
イケスミ: 人間が、よってたかっておもちゃにしちまったんだ。駐車場の経営から、貸しビル、株の売買にスーパーの経営、観光会社に、このごろじゃ専門学校から塾の経営まで手を出しているって話だよ。
あすか: お母さんの言ってた轟塾!?
イケスミ: この国の人間は、思いやるって心を失ってしまったんだ。人に対しても、神さまに対しても、自然や、何に対しても……祖先から受け継いだ夢も誇りも恐れも忘れ果てた、アホンダラに!
フチスミ: 感想言ってる場合じゃないわよ。
あすか: ね、あたしにもやらせて! こう持つの?(百連発の大筒を両脇に抱える)
フチスミ: だめ、普通の人間が持っていたって、ただの竹筒……
あすか: そんなのやってみなきゃ……(引き金を引いた気持ちになる。両脇から百発ずつの鬼の殺気のミサイルが飛び出す。反動でニ回転半ほどひっくりかえる)
イケスミ: あすか……おまえって……
フチスミ: 動きが止まった……
イケスミ: ちょっと驚いただけさ、じきに……ほら動き出した(神の咆哮と地響き)
あすか: くそ!
フチスミ: 撃つしかないわ、最後まで!
イケスミ: 撃て撃て撃て! 撃って撃って撃ちまくれ!

 三人しばらく撃ちまくる、地響きしだいに近くなる

イケスミ: 弾が少なくなってきた……
フチスミ: そろそろ桔梗とあすかちゃんを解放してあげたほうが……
あすか: やだ! ここで逃げんのはやだ!
イケスミ: あたしたちは踏まれても死なないけど、あんたたちは死ぬんだよ!
フチスミ: 桔梗も離れようとしない!
あすか: やだ! もうわけわかんないけど、やだ!!

 この時、大きな白い矢がとんできて、轟八幡の胸板を射抜く(音と演技だけで表現)大音響とともに轟八幡が倒れる気配。

フチスミ: オオガミさまだ! オオガミさまがもどられた!
あすか: まぶしい!
イケスミ: 笠松山の向こうから矢を射られたんだ!
あすか: まぶしくて……
フチスミ: 間もなく笠松山を越えられる。それまでに、とどめをさそう!
イケスミ: ああ、残った雑魚の禍つ神どももな。
フチスミ: いくよ!
イケスミ: おお!  
あすか: あ、ちょっと待って、あたしも……!

 舞台前まで乗りだして、掃蕩戦にいどむ三人。笠松山からのオオガミを暗示する光などが戦斗音を残してフェードアウト(戦闘を表す歌とダンスになってもいい) 
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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・34』

2019-06-13 05:57:48 | エッセー
はるか 真田山学院高校演劇部物語・34 


『第四章 二転三転・5』

「ここには、何度もきてるんですね」

「ああ、サックスのレッスンに行く前とかね」

 先輩が豆粒ほどの小石を池に投げ込んだ。
 小さな波紋が大きく広がっていく。
 アマガエルが驚いて、池に飛び込んだ

「ねねちゃん……クラブには戻らないぜ」
「話してくれたんですね」
「ねねちゃんは、仲良しクラブがいいんだ」
「え?」
「あんな専門的にやられちゃうと、引いちゃうんだって。分かるよ、そういう気持ちは。しょせんクラブなんて、そんなもんだ」
「そんなもん?」
「そうだよ、放課後の二時間足らずで、なにができるってもんじゃない。しょせんは演劇ごっこ。あ、悪い意味じゃないぜ。学校のクラブってそれでいいと思う。前の学校じゃ、それ誤解して失敗したからな。で、分かったんだ。クラブは楽しむところだって。もし、本気でやりたかったら、外で専門的なレッスン受けた方がいい。だから、オレは外で専門にやっている。はるかだって本気じゃないんだろ?」
「え?」

「だって、まだ入部届も出してないんだろ」

「……それはね、説明できないけど、いろいろあるんです」

「はるかはさ、芝居よりも文学に向いてんじゃない?」
「文学?」
「うん、A書房のエッセー募集にノミネートされるんだもん。あれ、三千六百人が応募してたんだろ」
「三千六百人!?」
「なんだ、知らなかったのか」
「うん……」
「十人しかノミネートされてないから、三百六十分の一。これって才能だよ」

 言われて悪い気はしなかったけど、作品も読まずに、ただ数字だけで評価されるのは、違和感があった。

「作品読ませてくれよ」

「うん……賞がとれたら」

 タマちゃん先輩のときと同じ返事をした。
「オレ、大橋サンて人にはフェイクなとこを感じる」
「どうして?」
「検索したら、いろんなことが出てきたけど。売れない本と、中高生の上演記録がほとんど。受賞歴も見たとこ無いみたい。専門的な劇団とか、養成所出た形跡もないし、高校も早期退職。劇作家としても二線……三線級ってとこ」
「でも、熱心な先生ですよ」
「そこが曲者。オレは、教師時代の見果てぬち夢を、はるかたちを手足に使って『今度こそ!』って感じに見える」
「それって……」
「あの人、現役時代に近畿大会の二位までいってるんだ」
「へえ、そうなんだ!」
「おいおい、感心なんかすんなよ。言っちゃなんだけど、たかが高校演劇。その中で勝ったって……それも近畿で二位程度じゃな。それであの人は、真田山の演劇部を使って、あわよくば全国大会に出したい。ま、その程度のオタクだと思う」
「……オタク」
 頭の中が、スクランブルになってきた。

「オレたち、つき合わないか……」

「え……」
「お互い、東京と横浜から、大阪くんだりまでオチてきた身。なんか、支え合えるような気がしてサ」
 池の面をさざ波立てて、ザワっと風が吹いた。

 思いもかけず冷たいと感じた。

「わたし、東京のことはみんな捨ててきたから……」
「え?」
 わたしの心は、そのときの空模様のように曇り始めた。にわか雨の予感。
「ごめんなさい、わたし帰る。テスト前だし」
「おい……付き合ってくれるんだろ?」
「お付き合いは……ワンノブゼムってことで」
「ああ、もちろんそれで……」
 あとの言葉は、降り出した雨音と、早足で歩いた距離のために聞こえなかった。
 背後で、折りたたみ傘を広げて追いかけてくる先輩の気配がしたが、雨宿りのために出口に殺到した子供たち(さっきの)のためにさえぎられたようで、すぐに消えてしまった。

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高校ライトノベル・新 時かける少女・9〈S島決戦〉

2019-05-15 06:24:32 | エッセー
新 かける少女・9  〈S島決戦〉


「そんなバカな!」

 と、お父さんは言ったらしい。
 らしいというのは、遊撃特化連隊に連絡将校として派遣されている米軍将校からの連絡だ。
 素人で、まだ半分ガキンチョのあたしが聞いても分かる。

 敵の上陸部隊は一個中隊180名ほど。

 これに対し、政府の緊急安全保障会議では、同規模の一個中隊の派遣が認められただけだ。
 島は、城といっしょで、戦術的な常識では、敵の三倍の兵力でなければ潰せない。信長さんや秀吉さんの、もっと昔からの常識。
 近代戦では、その前に、戦闘攻撃機によって、徹底的にミサイル攻撃を加える。ナパーム弾やクラスター爆弾が効果的なのだが、日本政府は非人道的武器であるとして、対人地雷とともに破棄してしまった。

 弱腰で専門的知識がないものだから「侵犯国(敵とも呼ばない)と同規模同程度の実力部隊の派遣しかできないとの指令である。

「バカか!」

 日頃温厚な米軍の連絡将校も声を荒げたそうである。オスプレイ6機を護衛艦あかぎに載せて、敵を威嚇しつつ、戦闘は最終手段とするといった念のいったバカさかげんだ。これでは、敵に十分な防御対策をさせてしまう。このまま突っこんでは、上陸前にボ-トごと一個中隊は殲滅されてしまうだろう。
 民自党の防衛大臣は、空自による事前攻撃の直後、戦闘機による制空権を確保した上で、一個大隊(敵の三倍)で一斉攻撃をかけるべきであると主張したが、連立与党の公民党が「目的は島の奪還であり、殺戮が目的ではない。最小限度の攻撃に止めるべきである」と主張し、一個中隊の派遣になったわけである。

「我々は全滅してきます。それで政府の目を覚まさせてください」

 中隊長は、そう言い残し、出撃していったそうだ。こんな覚悟で出て行くのは、お父さんがもっとも信頼している牛島一尉だろうと思った。

 お父さんは、一部政府の指示を拡大解釈した。

 上陸部隊は一個中隊だが、後方支援の部隊については指示がない。そこで、遊撃特化連隊に許されている最大の権限を行使した。
「必要に応じ、連隊長は、陸海空自衛隊に支援を要請することができる」という条項である。
 ただし、要員の輸送に関してのみという条件がついていたが。
「輸送というのは、部隊を確実に作戦地域まで送り届けることである。そのためには、なにをしてもいい」
 そう解釈し、空自のP3Cを飛ばし、敵の衛星や、侵攻部隊のレーダーにジャミングをかけた。
 つまり、敵が目視できるところまで来なければ、味方の部隊は発見されない。

 そして、上陸寸前に限定的ではあるが上陸地点の爆撃を依頼した。

 攻撃は、セオリー通り夜間に行われた。ただ、政府が予想していたのより一晩早く。
 オスプレイ6機が、石垣島を離陸したのと同時に、ジャミングが始まった。敵は若干慌てた。攻撃は、政府の指示通り、明くる日だと思っていたからだ。

 S島の東海岸線が空自により、徹底的に爆撃され、敵の本拠地であると思われる山頂を30発のミサイルで潰した。中隊は無事に東海岸には到達できた。一個分隊を除いて……。

 牛島中尉は、自ら一個分隊を指揮して島の一番急峻な西の崖をよじ登った。

 東海岸に上陸した中隊の主力は、よく頑張った。上陸直後から、三個小隊に分かれ、小隊は、さらに分隊に分かれ、牛島一尉が見抜いていた敵指揮官がいる中腹を目指した。

 夜明け前には、敵部隊の半数を撃破。しかし、中隊は2/3の兵力を失っていた。

 西側の崖をよじ登った牛島一尉の分隊は夜明け前には、敵の指揮官の分隊の背後に回った。東側の中腹で中隊が全滅したころ、牛島一尉は敵の指揮官の首にサバイバルナイフを突き立てた。

「一尉、後ろ!」

 分隊長が、自分の命と引き替えに牛島を助けた。しかし、そこまでだった。中隊を全滅させた敵の部隊が集まり始めた。

 牛島の撤退の合図に応じたのは三名に過ぎなかった。

 ボートで沖に全速力で三十分走った。そこを海自の潜水艦に救助された。

 180人の中隊で生き残ったのは、たったの4人だった。で、島は奪還できなかった。
 政府の反応は早かった。命令違反と作戦失敗の責任をとらされ、お父さんは即日解任された。

「バカな政府を持ったもんだね日本は……」
 エミーが無表情に言った。
「S諸島は日本の領土だから、アメリカ軍が助けてくれるんじゃないの……?」
「世の中、そんなに甘くないのよ」
「そんな……!」
「でも、愛のガードは続けるよ」
「……どうして、お父さん解任されちゃったのに」
「世の中、甘くもないけど単純でもないの」

 スイッチを切り替えたように、エミーは涙目の笑顔になった。
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高校ライトノベル・時かける少女・89・スタートラック『ミナコ コンプリート・1』

2019-05-05 06:00:31 | エッセー
時かける少女・89スタートラック 
『ミナコ コンプリート・1』  
 





 第3惑星にみとれて、気づくとコクピットのみんなが静止していた。

 バルスは、反重力エンジンのモニターを見つめたまま。
 コスモスは、第3惑星をアナライズしようと、アナライザーを起動させようとしたまま。
 ポチは、第3惑星の姿を見ようとして、背が足りない分、ジャンプしたまま。
 船長は、驚愕の眼差しで第3惑星を見つめたまま。
 ミナホは……立ったまま。だけど、呼吸はしていた。ガイノイドの擬似呼吸ではない自然な呼吸に見えた。

「ミナホ、あなた意識があるの……?」

 数秒遅れて、ミナホは小さく頷いた。
「でも、体が動かない……こんなの初めて」
「他のみんなは、人形みたいにフリーズしている。まともに動けるのは、あたしだけ……?」
「そうみたい。わたしは……」
「動き出した、どこへ行くの?」
「分からない。自分の意志じゃないわ……」

 ミナホは、中央のエレベーターに向かった。

「ミナホ……!」
「ミナコ、あなたも付いてきて……」
「待って、行っちゃだめよ!」
 ミナコは、ミナホの腕を掴もうとしたが、逆に腕を掴まれてしまった。
「ミナホ、どこに行くつもり!?」
「分からない……貨物室のよう……」
 ミナホは、第一層の貨物室のボタンを押した。
「ミナホ、いったい……」
 ミナホは、なにか言おうと唇を動かすが、もう声にはなっていなかった。

 貨物室につくと、驚いた。ハッチが開いている。開いたハッチからは第3惑星が大きく、いっぱいに見えた。船は、惑星の周回軌道を回っているようだった。

「うそ……成層圏なのに空気が漏れない」
 その信じられない状況に驚いている暇は無かった。ミナホがミナコの腕を掴んだまま、ハッチから船外に身を躍らせた。
「ミナホ、死んじゃうよ!」

 二人は手を繋いだムササビのように、成層圏を滑空し、やがて大気圏に突入。当たり前だが、空気との摩擦で熱くなりはじめた。
「あ、熱い……!」

 二人は隕石のように燃えながら、地上に落下していき、地上5000メートルあたりで燃え尽きて消えてしまった。

 あたし流れ星……それがミナコの最後の意識だった。

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高校ライトノベル・時かける少女・85・スタートラック『さよならアルルカン・1』

2019-05-01 06:31:23 | エッセー
時かける少女・85スタートラック
『さよならアルルカン・1』     




 ターベの反乱は四:六で、反星府軍の旗色が悪くなったところで終わった。

 ベータ星内のもめごとは、ある程度のところまでいくと国王がタオルを投げる。けして片方を殲滅するところまではやらない。
 長年のベータ星の歴史の中で、ベータ星人が身につけた知恵である。
 最初は、母星のガンマ星と同じく共和制をとっていたが、争い事が絶えず、その度に多くの犠牲者を出し、星府の方針もコロコロ変わり、ガンマ星につけいる隙を与えてしまった。それが今のガンマ星との戦争になっている。

「ラムダ将軍。あなたが、このベータ星を思う気持ちは、わたしも、星府も同じなのです。ただ、やり方が違うのです。わたしたちは、あくまでベータ星とガンマ星の共存を……将軍は、禍根を断つためにガンマ星との決戦を主張しています。そこだけが違うのです」
「わたくしは……」
「ベータ星を繁栄させることで、手を取り合いましょう。ベータ星人同士が戦って、ただでも少なくなってきているベータ星の若者の命を危険に晒すことは避けましょう」
「殿下……」

 これで一件落着である。王室という権威が間に入ることによって、敗北した者も誇りを失わずに済む。そして、いくらかの意見を勝った方が飲み、丸くおさめるのである。
 こういう権威のあり方が優れていることは、地球でも、タイや日本で立証されている。

 今回の場合、問題は、ガンマ星であった。

 どうやら、ガンマ星は、ベータ星の水銀還元プラントに興味があるようだった。副産物としてできる金のことを嗅ぎつけ、それを我がモノにせんと虎視眈々の様子である。

「先帝ご葬儀に臨席した地球の大使が……」
「承知しています、将軍。手は打ちつつあります。ほんのしばらくわたしに任せてください。そして、それがダメなら、星府と話し合い、必要な処置を講じてください」
「しばらくとは……?」
「僭越であるぞ、ラムダ」
「よいのです、ゼムラ大臣。一週間と思ってください。おそらくうまくいくと思います。成否いずれにせよ、これは国王としては越権になります。記録には残さないでください」
「殿下は、まだ女王に即位されておられません。王女の行動記録は、今までとったことがございません」
「ありがとうゼムラ大臣。では、三日は連絡をとりません。万一のときには帝室典範にのっとり妹のアンに皇位を」
「殿下……!」
 大臣と将軍が同時に声と腰を上げたが、王女は笑顔で、それを制した。

「本気ですか、王女!?」

 マーク船長が悲鳴のように言った。
「この三日間は、ただのマリアと思って。あなたたちと力を合わせなければ、この銀河の危機は救えません。そう、たった今から、わたしは予備役のマリア中尉です」
「中尉? 王族の人間なら、訓練中に大尉にはなっているんじゃ……」
「内緒だけど、シュミレーション戦闘で、間違えて味方の一個大隊を全滅させちゃったの。で、頑固なラムダ将軍が、大尉にしてくれなかったのよね。成功したら大尉にしてもらうわ。みなさんよろしく!」
 ミナコたち、クルーは驚いたが、マリア王女……マリア近衛中尉は、さっさと自分の荷物をキャビンに運び入れた。

 さよならアルルカン作戦が始まった……。

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高校ライトノベル・ライトノベルセレクト№79『ホームラン王 残念さん』

2019-02-20 11:26:17 | エッセー

ライトノベルセレクト
『ホームラン王 残念さん』


 

 三郎は今日も不採用通知を受け取った。これで59社目である。

 最初のころは封筒を開けるまでドキドキした。「ひょっとしたら!?」という気持ちがあったからである。
 友だちが合格通知を封筒ごと見せてくれて分かった。

 合格通知はその後に必要な書類や注意書きが入っていて分厚いのである。友だちのそれは80円で足りず90円切手が貼ってあった。
 それから、三郎は封筒を持っただけで分かるようになった。定形最大は25グラムまでである。不採用通知はA4の紙切れ一枚。10グラムもない。持てばすぐに分かる。
 次ぎに、三郎はポストの中のそれを見ただけで分かるようになった。二枚以上の書類が入っているものは、微妙に膨らみ方が違う。
 次ぎに、三郎はポストに入る封筒の音で分かるようになった。A4一枚の封筒が郵便受けに入る音は、ハカナイほどに軽い。

 三郎は、名前の通り三男ではない。単に父が二郎であったことから付けられた名前である。しいて理由を探すと三人姉弟で、上二人が女で、男女雇用機会均等法の精神からすれば不思議ではない。これを思いついたときは、自分でおかしくなり、だらしなく、ヤケクソ気味に笑った。

 運動不足で、緩んだ体から緩んだ屁がでた。まるで老人のアクビのように締まり無く、長ったらしい屁で、自分でもイヤになった。

 ヤケクソ半分でバットを持ち出して銀行強盗……などは思いもせずに、淀川の河川敷に行った。
 河川敷の石ころを拾っては、川に向かっていい音をさせてバットで打ち込んだ。高校時代から使っている金属バットで、それなりに大事にしていたが、万年一回戦敗退の4番バッターでは、煩わしいだけのシロモノに成り果てていた。

 カキーン…………!

 ええなあ……音だけは。

 そのささやかな、ウサバラシも、心ないお巡りの一言ですっとんだ。
「ニイチャン、ここでバット振ったらあかん。そこの看板に書いたあるやろ」
「野球はアカンとは、書いたあるけど……」
「バット振るのも野球のうちや」
「あの……」
「なんや……」
 また緩んだ屁が出た。偶然お巡りは風下に居た。
「わ、く、臭い! イヤガラセのつもりか!」
「そんなん、ちゃいます……」

 お巡りが行ったあと、三郎は、つくづく情けなく、落ち武者のように河原に座り込んでしまった。
「懐かしい臭いであったのう……」
 気づくと、三郎の横に本物の落ち武者が座り込んでいた。
「あ、あんたは……!?」
「素直な性格をしておるの。お察しの通り、わしは落ち武者じゃ。もう、かれこれ四百年ほど、ここにおる」
 落ち武者は、槍の穂先で大きな頭ほどの石を示した。
「墓……ですか?」
「土地の者は『残年さん』と呼んでおる。少しは御利益のある、まあ、神さまのなり損ない、成仏のし損ないじゃ」
「はあ……」
「慶長二十年、わしは、ここで討ち死にした。徳川方二十余名に囲まれてのう。名乗りをあげようとすると、さっきのおぬしのように長い締まりのない屁が出てな。臭いはおぬしそっくりであった。臭いにひるんだ三人ほどは槍先にかけたが、所詮多勢に無勢。ここで朽ち果てることになったのよ」
「はあ……」
「同じ臭いの縁じゃ。なにか一つだけ願いを叶えてやろう。ただし、残念さんゆえ、大した願いは叶えてやれんがな」
「就職とか……」
「無理無理、ワシ自身が仕官の道が無いゆえ大坂方についたんじゃからの」
「じゃ、彼女とか……」
「……無理じゃのう、その面体では」
「じゃ、じゃあ、ホームラン打たせてくださいよ!」
「ほ、ほーむらん?」
「あ、このバットで、このボールを向こう岸まで打ち込みたいんです!」
「おお、武芸の類じゃのう。それなら容易い。今ここで打ってみるがよい」
 
 三郎は、高校時代の思い出のボールを思い切り打ち込んだ。

 カキーン…………!

「また、おまえか!?」
 さっきのお巡りが、本気で怒ってやってきた。落ち武者の姿はすでになかった。

 偶然だが、このボールは、向こう岸で女の人を刺し殺そうとしていたオッサンの頭に当たって気絶せしめた。あとで、そのことが分かり、府警本部長から表彰状をもらった。

 その後、三郎は阪神タイガースのテスト生の試験を受けて合格した。バッターとしての腕を買われたのである。
 半年後、目出度く一軍入り。代打者として、またたくうちに名を馳せた。満塁ツーアウトなどで代打に出ると、必ずホームランをうち逆転優勝に持ち込んだ。

 そして、その年、タイガースはリーグ優勝してしまった。
 三郎はめでたくベンチ入り、日本シリーズも優勝し、いちやく時の人になった。

『イチローより三倍強いサブロー』がキャッチフレーズになった。『神さま、仏さま、サブローさま』ともよばれた。

 そして、これが三年続いた。

 なぜか、タイガースの人気が落ちてきた。必ず勝つタイガースは関西人の趣味に合わなかったのだ。
 阪神は、三郎を自由契約として、事実上首にし、ほどよく負けるようになって、チームの人気が戻ってきた。

 その後の三郎が、どうなったか、3年もするとだれも分からなくなり、甲子園球場の脇に石ころがおかれ、誰言うともなく、サブローの残念塚と呼ばれるようになった……とさ。

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高校ライトノベル・大橋誤訳 日本の神話・24『因幡の白兎・2』

2019-02-16 11:41:11 | エッセー

大橋誤訳 日本の神話・24

『因幡の白兎・2』

 

 

 意地悪された腹いせで言うんじゃないけど、八十神たちは全員ヤガミヒメにふられっちまうよ。

 

 傷の癒えたウサギは真顔で言いました。

「そうなのか?」

「そうだよ、通りすがりウサギをこんな目にあわせるなんて根性が歪んでる証拠だよ。そんな根性悪にヤガミヒメが『うん』と言うわけないじゃないか」

「じゃ、ヤガミヒメは誰とだったら『うん』と言うんだい?」

「それは、オオナムチ、君だよ」

「え、ぼくが!?」

「さあ、ウサギはもう大丈夫だから、ヤガミヒメのところに行きなよ!」

 ウサギに背中を押され、先を急ぎ、総スカンをくった兄たちを尻目に告白して、目出度くオオナムチはヤガミヒメと結ばれました。

 めでたしめでたし……。

 これが記紀神話の『因幡の白兎』に関わる凡その記述です。

 

 ここから筆者の妄想であります。

 

 白兎は、ちょっと小悪魔的なツンデレ美少女に違いありません。

 そもそもウサギがサメたちに赤裸にされたのには理由があります。

 元は隠岐の島にいたウサギなのですが、対岸の島根鳥取の方に行きたくて仕方がなかったのです。

 そこで、サメたちに提案します。

「あたし、身内ってか親族がすっごく多いのよ。親族の多い動物って優秀だって言うわよね。あんたたちサメはどうなのよ?」

「俺たちだって、親族は多いぜ! 優秀なんだぜ! ウサギの何倍も優秀なんだぜ!」

「へー、そうなんだ。だったら、いつか比べっこしようじゃないか」

「いつなんて言ってちゃダメよ。本当に多いんなら、いま集めてみなさいよ」

「おう。じゃ集合かけてやらあ。みんな集まれえ!」

 呼びかけに応じて、隠岐の海辺にたくさんのサメが集まります。

「おお、たくさん集まったね!」

「どうだ、おどろいたか?」

「う~ん、でもさ、国会前に集まるデモも『主催者発表』で何万人とか言うけど、実際は三千人ほどだったりするのよね……」

「だったら数えてみろよ!」

「そっか、だよね。だったら、向こう岸の因幡の方に向かって並んでみてよ、数えてあげるから」

「よし分かった!」

 サメたちは横一列に並んで、ウサギが、その上をピョンピョン跳んで数えます。

 あと何匹かで因幡の岸に着くところで、ウサギは呟いてしまいます。

「サメってバカだよね。あたしは、向こう岸の因幡に行きたかっただけなんだよね。それをまんまと騙されてやんの」 

「テメー、俺たちのこと騙しやがったなあ!」

 うっかり呟いたのが聞こえてしまい。ウサギは怒りまくったサメたちによって皮を剥がれて赤裸になってしまったのです。

 

 この部分を前説に書いておくと、八十神たちの意地悪は因果応報ということになって、納得のおとぎ話になります。

 たぶん、独立した教訓的な話だったのでしょう。

 そんな小悪魔的なウサギでも治療法を教えてオオナムチは助けてやり、その優しさがあるのでヤガミヒメを獲得することに読者はめでたしめでたしと頷くのでしょう。

 

 高校生になって太宰治の『カチカチ山』を読みました。

 ウサギは、突きの女神アルテミスにも比肩される美少女で。中年のオッサンタヌキが無謀にも惚れてしまいます。

 ウサギは、タヌキごときが自分に惚れるのが許せなくて、さんざん意地悪をします。

 タヌキに薪を背負わせてカチカチ山に差しかかったところで、タヌキの薪に火をつけて大やけどを負わせます。

 洞穴の巣でウンウン唸っているタヌキに薬売りに化けて「火傷によく効くから」ということでカラシを渡します。

 カラシを火傷に刷り込まれたタヌキは、また死ぬような苦痛を味わいます。

 そして、最後はタヌキを騙して泥の船に乗せて川に沈めて殺してしまいます。

 泥が溶けて水中に投げ出されたタヌキは泳げません。「た、助けてくれえ!」 溺れるタヌキをウサギは櫂を何度も振り下ろしてブチ殺してしまうのです。

 断末魔のタヌキは叫びます「惚れたが悪いかあ!」。 最後の一撃でタヌキが沈んでしまうと、ウサギは額の汗を拭って一言「ほ、ひどい汗……」

 このウサギと共通する小悪魔性というか底意地の悪さを感じるのは、過去に何度もタヌキと同類の経験があるからかもしれません。

 太宰の『カチカチ山』を読んだ後、久しぶりに『因幡の白兎』を読んで溜飲が下がった昔を懐かしく思い出すのであります。

 

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高校ライトノベル・大橋誤訳 日本の神話・23『因幡の白兎・1』

2019-02-14 15:32:20 | エッセー

大橋誤訳 日本の神話・23
『因幡の白兎・1』

 

 

 八十神(やそがみ)と言っても八十人の神さまというわけではありません。たくさんの神さまという意味です。

 

 で、八十神はオオナムチ(オオクニヌシ)の兄たちです。

 悪い神さまたちで、末っ子のオオナムチに大きな袋(自分たちの荷物)を持たせて因幡の海岸を急いでおりました。

 なんで急いでいたかと言うと、因幡のヤガミヒメという女の子を口説きにいくためです。

 

「アニキ、因幡にヤガミって可愛い子がいるってさ、いっちょ突撃してみねーか?」

「お、まぶい女の話か! よし、そーいうのは機会均等の精神だぜ、兄弟くり出して行こうじゃねーか!」

「じゃ、手荷物はオオナムチに持たせてやろーぜ!」

 こんな感じですなあ、

 

 八十神たちが因幡の海岸にさしかかると、皮を剥かれて赤裸になった兎がウンウン唸って転がっておりました。

 

「なんで、こいつ赤裸?」

「いっちょ、からかってやろーぜ」

「おい、ウサギ、その赤裸は辛いだろ。俺たちゃ心優しい八十神さまたちだ。治療法を教えてやるぜ」

「あ、ありがとう、このままじゃ身動きもできず、この海岸で衰弱死するところでした。その、治療法とは?」

「それは簡単なことだ」

「「「「「「「「「「「「「「「「そーそー」」」」」」」」」」」」」」」」」」

「海水に浸かってな、寝っ転がってお日様で乾かせば元にもどるぜ」

「「「「「「「「「「「「「「「「そーだそーだ」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

 ウサギは言われた通りに海に浸かって、八十神たちは笑いをこらえながらヤガミヒメの家を目指します。

「こ。これは……図られたか!?」

 海水に浸かってお日様で乾かしたウサギは地獄の苦しみです。

 日光で乾いた皮はツッパラかって、あちこちで裂けてしまいます。そこに海水の塩分が浸みこみます。

「く、くそー! い、痛い~痛いよー! いっそ殺せえええ!」

 

 そこにオオクニヌシが大きな袋を背負って現れます。

 

「どうしたんだ!?」

「は、はい……じつはかくかくしかじか……なんですよ~」

「……それは可哀そうに、わたしが、本当の治し方を教えてあげよう」

「そういう、あなたは?」

「オオナムチっていうんだ」

「オオナムチ…………」

「あ、おまえ、いま漢字に変換しただろ!?」

「え、あ、いえいえ、とんでもない!」

 ウサギの顔には「大な無知」の四文字が点滅している。

「まあ、いい。いいかい、急いできれいな水で洗って蒲の穂を敷き散らした上でゴロゴロ転がって花粉を身にまぶすんだ」

「えと……なんか、そのまま油で揚げたらウサギのフライになりそうな」

「大丈夫だって。おまえ……やっぱり漢字に変換しただろ?」

「いえいえ」

「仕方のない奴だ、治るまで付き合ってやるから、それでいいか?」

「あ、ま、それなら」

 

 かくして、オオナムチ付き添いのもとで言われた通りにやってみると、完全に元の白兎に回復したのでした!

 

 

「ありがとうございます、やっぱ、オオナムチさんの言うことは正しかったです! 感謝感激ですううう!!」

「それは、よかった。じゃ、そろそろ行くよ」

「あ、いましばらくお待ちください!」

 

 オオナムチを引き留めたウサギは、ある予言をするのでした……。

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