大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・イスカ 真説邪気眼電波伝・28「三宅先生の突然死」

2018-02-05 14:09:01 | エッセー

イスカ 真説邪気眼電波伝・28

『三宅先生の突然死』

 

 

 本館二階の職員室はこんな具合だ。

 

 独立した準備室を持たない、国語・英語・数学の三教科の先生たちと教務の先生たちの島が四つあり、真ん中に教頭先生のデスク。これが職員室の中核で、それを挟むようにしてパーテーションで区切られた情報処理のコーナーと、作業用の共同の長テーブルがある。

 長テーブルの向こうには隣接して放送室と印刷室と給湯室があって、長テーブルは印刷物の仕分けや小会議に使われるほかは、先生たちの休憩コーナーになっている。

 その長テーブルに突っ伏すようにして三宅先生は亡くなっていた。

 

「寝ていらっしゃるんだと思いました」

 

 第一発見者である数学の野崎先生の弁……て、おかしいだろ!?

 三宅先生は、佐伯さんが様子を見に行った直後に職員室に移動し、発見されるまでの四時間、ずっと職員室に居た。

 印刷室に入ろうとした野崎先生が突っ伏している三宅先生の椅子をひっかけ、先生は、そのまま床に倒れ伏してしまった。「こんなとこで寝てちゃ風邪ひきますよ……」と声をかけて、そのまま印刷室へ。

 いつまでたっても起き上がらない先生をおかしいと思った、わが担任の香奈ちゃんが起こしに行って「キャー!救急車!」ということになったらしい。

 警察が来て、死後四時間と判断された。

「わ、わたしじゃないですよ! わたしは引っかかっただけで、ちゃんと『こんなとこで寝てちゃ風邪ひきますよ』って声もかけたし!」

 野崎先生はブンブン手を振って、厄払いするように否定した。

「それは分かってます。でも、なぜ助け起こさなかったんですか? 居ねむっているのと亡くなっているのとでは違うと思うんですが」

「い、いや、だって、わたしが引っかけた時は、もう死後四時間だったんでしょうが!」

 警察の質問にワタワタするばかりの野崎先生だ。

「すみません、背中合わせだとは言え、すぐ近くに居たのに気付かなくって……」

 香奈ちゃん先生は、大変ショックを受けた様子で、消えてしまいそうに肩を震わせていた。

 

 この学校はおかしい! いかれてる! 

 

 オレと佐伯さんはため息をつきながら職員室を後にして階段を下りる。イスカは無言だ。

 同僚が、すぐ近くで突然死し、死後硬直が始まるまで気づかないって、この学校の先生たちはどんな神経してるんだ?

 こんなんじゃ、普段からの生徒の異変やらシグナルに気づけるわけないよ。イジメとか問題行動がほとんどない学校だけど、なんだか背筋が寒くなる。オレみたいな奴が、とりたてて文句言われたり指導されたりってことがないのは、寛容な学校だと思っていたけど、それは単なる鈍感とか無関心というカテゴリーの問題だったのか?

 いろいろ思いながら校門を出たところでイスカが言う。

「パラレルは三宅先生だったんだ」

「「え?」」

「意地悪な三宅先生はルシファーに浸食されてモンスターになって、わたしたちにやっつけられ、それを埋めるようにしてパラレルワールドから別の三宅先生が、本人も気づかないうちに移動したんだ」

「え? でも、パラレルから移動してきたとしても、なんで死んじゃうの?」

「空気が合わないのよ。こちらの世界では、先生というのは……」

 イスカは言葉を濁したけど、さっきの職員室の様子から察せられる。オレ一人だけだったら口汚く学校やら先生やらの悪口を言うところだろうが、すぐ横を歩いている佐伯さんは、そんな言葉を言わせない雰囲気がある。

「佐伯さん」

 三人が分かれる三叉路まで来たところで、イスカが声をかけた。

「はい?」

「あなたも清い人だから、魔法をかけておくわ」

「魔法?」

「うん、三宅先生みたいに突然死しない魔法……」

 

 イスカは、ごく小さな声で呪文を唱え始めた……。

 

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高校ライトノベル・乃木坂学院高校演劇部物語・102『第二十章 嗚呼荒川のロケーション・6』

2018-02-03 05:58:47 | エッセー

まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・102   



『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』姉妹版


 この話に出てくる個人、法人、団体名は全てフィクションです。

『第二十章 嗚呼荒川のロケーション・6』


 それは、ラストシーンの撮影が終わった直後におこった。

 監督さんがOKを出したあと、ディレクターとおぼしき(あとでNOZOMIプロの白羽さんだって分かる)人が、ADさんに軽くうなづくの。

 すると、ロケバスの上から花火があがって、カメラ載っけたクレーンから垂れ幕!

――『春の足音』ロケ開始! 主演坂東はるか!――

「え、ええ……ちょっと、これってCMのロケじゃないんですか!?」
 驚きと、喜びのあまり、はるかちゃんはその場に泣き崩れてしまいました。
「おどかしちゃって申し訳ない。むろんCMのロケだよ。でもカメラテストでもあったんだ。僕はせっかちでね、早くはるかちゃんのことを出したくってね。スポンサーと話して、CMそのものがドラマの冒頭になるようにしてもらったんだ。監督以下、スポンサーの方も文句なしだったんで、で、こういう次第。ほんと、おどかしてごめんね」
 白羽さんの、この言葉の間に高橋さんが、優しく抱き起こしていた。さすが名優、おいしいとこはご存じでありました。
「月に三回ほど東京に通ってもらわなきゃならないけど、学校を休むようなスケジュ-ルはたてないからね。それに相手役は堀西くんだ、きちんとサポートしてくれるよ」
「わたしも、この手で、この世界に入ったの。大丈夫よ。わたしも、きちんとプロになったのは高校出てからだったんだから」
 と、堀西さんから花束。うまいもんです、この業界は……と、思ったら、ほんとうに大した気配り。とてもこの物語には書ききれないけど。

 で、まだ、サプライズがあんの。

「分かりました、ありがとうございました。わたしみたいなハンチクな者を、そこまでかっていただいて。あの……」
「なんですか?」
 このプロデューサーさんは、とことん優しい人なのよね。
「周り中、偉い人だらけで、わたし見かけよりずっと気が小さいんです。人生で一等賞なんかとったことなんかありませんし。よかったら、交代でもいいですから、そこの仲間と先輩に、ロケのときなんか付いててもらっちゃいけませんか……?」
「いいよ……そうだ、そうだよ。ほんとうの仲間なんだからクラスメートの役で出てもらおう。きみたち、かまわないかな?」
「え、わたしたちが……!?」

 というわけで、その場でカメラテスト。

 笑ったり、振り返ったり、反っくり返ったり……はなかったけど。歩いたり、走って振り返ったり。最後は音声さんが持っていたBKB47の音源で盛り上がったり。上野百合さんが――あんたたち、やりすぎ!――って顔してたので、BKB47は一曲の一番だけで終わりました。

「監督、変なものが写ってます!」

 編集のスタッフさんが叫んだ。みんなが小さなモニターに集中した。
 それは、わたしたちがBKB47をやっているところに写りこんでいた。
「兵隊ですかね……」
「兵隊に黒い服はないよ……これは、学生だな……たぶん旧制中学だ」
 と、衣装さん。
「この顔色は、メイクじゃ出ませんよ」
 と、メイクさん。
「今年も、そろそろ大空襲の日が近くなってきたからなあ……」
 と、白羽ディレクター。
「これ、夏の怪奇特集に使えるなあ」
 と、監督。
 わたしたちはカメラの反対方向を向いてゴメンナサイをしている乃木坂さんを睨みつけておりました。
「どうかした?」
 潤香先輩と、堀西さんが同時に聞くので、ごまかすのにアセアセの三人でした。

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高校ライトノベル・小悪魔マユの魔法日記・49『フェアリーテール・23』

2017-08-18 06:18:22 | エッセー

小悪魔マユの魔法日記・49
『フェアリーテール・23』
     




 声の主は、新聞配達の少年ジョルジュだった。

「どうしたの、ジョルジュ?」
「大変なものに出くわしてしまった……あ、こっちへ」
 そういうと、ジョルジュはミファとマユを道路脇の大きな岩陰に連れて行った。
「いったいなによ、なにがあったのよ!?」
「驚くなよ……」
「シッ……!」
 息を整えながら話を続けようとしたジョルジュを、マユは静止した。

 岩の向こうの道を町長が歩いていく。道は、岩のところで曲がっているので、後ろから来た町長は気がついていなかった。いつもなら、目の前を歩いていた二人の女の子の姿が見えなくなれば「おかしい」ぐらいは思うのだけれど、この時は気づきもしなかった。
 それほどサンチャゴのライオンのショックが大きかったのだ。

 町長の気配が完全に無くなっても息をひそめ、さらに三つ数えてからジョルジュは話し出した。

「さっき、ライオンに遭ってしまった……」

「「え!?」」

 ジョルジュは、二人を案内しながら、説明した。

「新聞を配達し終えて、家に……帰ろうとしたんだ、そして北……の、町はずれのイガイガ林の……ところまで来た……ら……オレの上……上を、大きな影がよぎった……んだ……」
「あの(……)のとこは、人目を気にしてるんだろうけど、分かりにくいから」
「とりあえず、イガイガ林まで行って話してくれる。ただでもお喋りなあたしたちが、人前で黙り込んじゃ、かえって怪しまれるわよ」
「それもそうだ」

 ということで、イガイガ林に着くまで、三人はバカ話ばかりした。おかげで、マユのこともジョルジュは自然に理解した。年頃の少年や少女は改まった話は苦手だ、バカ話の中で話したほうが、お互いに通じやすい。
 ジョルジュは、マユが小悪魔であることもミファと友だちであることも自然に理解……信じた。むろんサンチャゴじいちゃんのライオンのことは言わなかった。

 そういうオトモダチ的な話をしているうちに、三人はイガイガ林の前までやってきた。
 あたりをうかがい、イガイガ林の中に入ると、ジョルジュは一気にまくしたてた。

「でよ、大きな影がよぎったかと思うと、そいつはオレの目の前に降りてきて、オレをめがけて駆けてきたんだ。オレは、足がすくんで、動くことも声を出すこともできなかった。だって、そいつは……ライオンなんだ!」
「で、ライオンはどうしたの? どこにいるの?」
「林の、あるところに閉じこめてある……」
「ジョルジュが、閉じこめたの!?」
「あ、ああ、町に出られちゃ大騒ぎだからさ。オレだってやるときゃやるよ!」
「えらいんだ、ジョルジュって!」
 マユは、一応カワユゲな女の子らしく驚いてやった。なにかありそうな気はしたが、まあ若者同士の礼儀として……。
「で、ライオンは?」

「……ここ」

 ジョルジュは、体をカチコチにして、目の前の薮を指差した。
 一見薮に見えたが、それは木の枝を切り積み重ねたカモフラージュであることが分かった。三人でカモフラージュの薮をどけると、そこは岩肌で、人がやっと通れる割れ目が開いていた。

 割れ目の奥から気配がした……たぶんライオンの気配……でも、サンチャゴじいちゃんのライオンの気配とは違っていた。薄暗いので、マユは魔法で明るくしてみた。

 割れ目の中は意外と広く、奥の方で「く」の字に曲がっているようで、気配は曲がった「く」の字の奥の方からしてくる。
 マユを先頭に、ゆっくりと奥に進んでいくと、後ろの方で、ガラガラガラと大きな音がした。
 崩れてきた岩で、入り口がほとんどふさがれてしまった。
 ミファとジョルジュは思わず抱き合ってしまった。

「あなたたち、友だち以上なのね……」
「あ……思わずよ、思わず。手近にいたから」
「そ、そうだよ」
「ま、どうでもいいけど……フレンチキスまですることないと思うよ」

 マユは、今のが(二人が抱き合ったことじゃなく、岩が崩れたこと)ライオンの仕業であることに気づいていた。

 気配はいきなり「く」の字の角を曲がって現れた。
 それは身の丈二メートルは超えるライオンであった……身の丈?

 そう、ライオンは二本の足で立っていたのだ!

「やあ、わざわざすまないね」

 ライオンが口をきいた……!!?



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高校ライトノベル・時かける少女BETA・8《アナスタシア・4》

2017-07-09 06:26:25 | エッセー
時かける少女BETA・8
《アナスタシア・4》
          


「さあ、何からやったらいいのかしら!?」

 アナは張り切っていたが、大使館のキッチンでやることは「お湯を沸かすこと」だけだった。
「で、あとは?」
 当然な質問だった。しかし、アリサの答えは「段ボールの箱を運ぶ」ことだけだった。
 それは、アリサが個人的に大使館から借りている物置で、部屋の中は、その50センチ四方ほどの箱で一杯だった。
「日本で一番簡単で、栄養も温かさも摂れる新開発の非常食です。まずは大使館のみんなと試食です」

 とりあえず運び出した。

「アリサ、力持ち!」
「見かけより軽いんです。アーニャ(大使館ではアーニャで通すことにした)も持ってごらんなさい。5箱は軽いですよ」
「そんな、あたしは……あ、持てた!」
 その箱は大きさの割には軽く、ひと箱1キロ程でしかなかった。
「さあ、手すきの大使館員のみなさん、ちょっと試食に付き合ってくださいな!」
 なんだなんだと、警備以外の大使館員が、ホールに集まった。
「アーニャ、その箱開けて、中身を人数分出して」
「はい……なんだろ、これ」
 中からは紙でできたカップが30個ほど入っていた。日本語で書いてあるのでよくわからないが、カップの中はカサコソ音がして、何か入っていることは確かだが、食べ物にしては、あまりにも軽い。
「カップの蓋を1/3ほど開けてください」
 この段階で、皆がざわついた。良い匂いはするが、中はカチカチにこんぐらがってプレスされた針金の塊のようなもの。そこに、エビや野菜、小さな肉のようなものがミイラのようになって入っていた。
「台所のお湯は沸くのに時間がかかります。サモワールのお湯を中に注いで、もう一度蓋をして3分待つ。3分経ったら、蓋を開けて、カップに貼りついているセルロイドのフォークで食べてください。

 いい匂いがして、3分間の沈黙になった。

 あちこちで、蓋を開けてカップラーメンをすする音がした。
「美味しい! でも日本人て、食べるとき行儀が悪いわね」
「それは違うの。アーニャ、これは『すする』という食べ方で、麺状の食べ物を食べる時には一番早く食べられるし、のど越しって感覚が、とってもいいの……ズルズル」
 アナは吹き出しかけたが、たしかに日本人たちは美味しそうに、そして早く食べている。
「有紗さん。これ美味いけど、新製品かね?」
 一等書記官の水野が聞いてきた。
「はい、これで一儲けしようと思っております。なんたって、お湯さえあれば、このロシアの真冬だって温かいものが食べられます。軍の携帯糧秣なんかにいいんじゃないかと思っています」
「さすが大黒屋光太夫の末ではあるなあ」
「え、アリサって、コーダユーの子孫なの?」
「はい、玄孫(やしゃご)のひ孫になります。縁あってロシア人みたいな顔になっておりますけど」
「すごい! エカチェリーナひいひいひいひいお祖母さまから尊敬された日本人よ。歴史のセミョーノフ先生からも聞いたことあるわ!」
「しかし有紗さん。これでは男の腹はくちくならないね」
「それは試食用。炊き出しに使うのは……こちらの方です!」
 アリサはスーパーカップを取り出した。
「おお、デカイ。それにみそ味って書いてあるじゃないか!」
 一等書記官は素直に喜んだ。さすがに迫水大使が心配げにアリサの肩を叩いた。

「炊き出しは無理だ。君の部屋にあるものじゃ5分ともたない。足りなければ騒ぎになる。ペトログラードは革命の寸前だよ、大使館が無事で済まなくなる」
「大丈夫です。仕掛けは申せませんが、この携帯食料は無尽蔵です。お湯をかけてあげるのは最初の百人ほど。あとは箱ごと渡します。食べ方も箱とカップの両方に絵文字で印刷してあります。それよりもお話が……」
 アリサは、大使にだけはアーニャの身分と処遇について話をしておいた。

 アーニャは、楽しげに炊き出しの手伝いをやり始めていた……。

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高校ライトノベル・上からアリコ(^&^)!その17『千尋、あぶない!』

2017-06-09 06:26:20 | エッセー
上からアリコ(^&^)!その17
『千尋、あぶない!』


 千尋には、なにが起こっているのかまるで分からなかった。
 
 校舎やグラウンドは、バグったCGのように歪み、ねじれ、明滅しながら姿を消していく。残ったのはカフェラテのマーブル模様を千倍にこねくり回したような空間だった。そのこねくり回したものは、あらゆるところで刹那カタチになる。B29の大きな背中を零戦が機銃を撃ちながらかすめていった。思わず身をかがめたら、目の下に東京タワーの先端。そいつがグルーっと百八十度回転する。一瞬落ちたような気がして、ジェットコースターに酔ったような気になった。東京タワーの脚は何百台という戦車に変わって、それぞれ勝手な方角に走り去っていった。突然の炎、それが旋風となって、周りを真っ赤にした。熱いとは感じなかった。まるで、無重力の中で3Dの映画を観ているような……と思ったら、真っ赤な中から、炎の中心のような白熱したものが現れ、それが炎を吐き出している竜の口。アっと思ったら、千尋はその竜の口の中に飲み込まれてしまった。一瞬気を失った。

「起きて、眠っちゃだめ!」

 アリコ先生が、襟首をつかんで千尋を放り投げた。今まで千尋がいたところに大きな手が虚空をつかんでいた。手の先を見上げると、彼方に稲井豊子の憎々しげな顔が見えた。
 そして、世界は再びカフェラテのマーブル模様のこねくり回しになり、いろんなものが刹那カタチをしては消えていった。カタチの大半は、歴史の授業で見たような風景や事物であった。ダンスパーティー……入り口に「鹿鳴館」の文字。ニッコリ笑った笑顔が、なにか思いついたように、片肘ついて横顔に……太宰治……正岡子規……アリコ先生に見せてもらった肖像……が、動いている。と、思ったらその向こうに日本橋の浮世絵……いや、リアルに動いている。かなたの赤富士が迫ってきたと思ったら、その裾野を、騎馬武者たちが駆けている。

「千尋、あぶない!」

 オジイチャンの声が切れ切れに聞こえてきた。騎馬武者たちは千尋のからだをすり抜けていく。怖くて目をつぶってしまう。
 でも、目をつぶっていても、幾百、幾千の歴史の断片が、三百六十度、千尋のまわりでチョー早回しの3D映像で流れていく。
「じっとしてちゃダメ、動き回って!」
 アリコ先生の声。上下の感覚は無い、無重力。夢の中のようでもあるが、そんなお気楽なものではない。三半器官がおかしくなって、気持ちが悪い。
 時々、何者かの手に捕まえられそうな感覚。それは直前に分かって身をかわせるようになってきた。何者かの気配……それは、稲井豊子のそれ。稲井豊子の下僕となった人たちのそれ、もう、振り返っている余裕なんかない。
 無重力の混沌の中を逃げ回る。関根が笑顔で手を差しのべてきたときは一瞬油断。しかし関根もさっき稲井豊子の下僕となってしまったことに気づき、慌てて身を翻す。

 洞穴が見えた。

 慌てて隠れる。同居人がいた……これは石橋山の合戦に敗れて、源頼朝の主従……これもアリコ先生に見せてもらった前田青邨の絵。頼朝と一瞬目があった。と、すぐに頼朝主従の姿は消えて、千尋一人になってしまった。
 外では、あいかわらずアリコ先生と稲井豊子とその下僕たちがぶつかる気配。もう、千尋は逃げ回る気力を失っていた。ほんの何秒か、千尋は、魂が抜けたようになってしまった。
 気づくと、外の気配が静かに……そっと、千尋は外を覗いた。
 外は、起伏の多い野原になっていて、一つの高みにはアリコ先生が。もう一つの高みにはチマちゃんの姿に戻った、稲井豊子が肩で息をしてあえいでいた。アリコ先生が気を放った。チマちゃんは悲鳴をあげて吹き飛び。草原に叩きつけられた。
「チマちゃん!」
 思わず、千尋は叫んでしまった。アリコ先生が、そしてチマちゃんがゆっくりとこちらを見た。
「千尋、こいつの目を見るんじゃない!」
 アリコ先生の注意は一瞬遅れた。千尋はチマちゃんの息絶え絶えの目を見て、思ってしまった。
――かわいそう……。
「千尋!」
 アリコ先生が叫んだと同時に、千尋は数十メートル離れたチマちゃんの足許にワープさせられてしまった。
「これで、勝負は逆転ね」
 チマちゃん。いやチマちゃんの姿をしたそいつの声が耳元でした……。

   つづく

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高校ライトノベル・学校時代 15『あんまり聞かん説やなあ』

2017-05-13 23:20:19 | エッセー
学校時代 15『あんまり聞かん説やなあ』




 国語を日本語という教科名でやっていた学校が有りました。

 不適切ということで保護者や生徒から非難され、教委の指導もあって是正されました。

 でも、国史を日本史と呼ぶのは一向に是正されません。

 昔は、どこでも国史と呼んでいました。
 なぜ国史にもどさないのでしょう。
 日本史という名称では化学変化を観察するように無味乾燥です。

 自分の国の言葉と言葉で表される文化に愛情があるから国語なのです。

 自分の国の歴史にも愛情を持って国史と呼んでみませんか。



 高校生のころ、先生に、この質問をしました。
「あんまり聞かん説やなあ」
 なんだかひどく冷たい十一文字で返されました。

 わたしが学校が嫌いになった数ある原因の一つです。

 
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高校ライトノベル・学校時代・14『イジメの一考察』

2017-05-08 19:50:38 | エッセー
学校時代 14『イジメの一考察』

 四半世紀の教師時代、自殺した生徒は一人も居なかった。

 賃金職員、非常勤講師の四年間で三人の生徒が自殺していることと、極めて対照的だ。

 教壇に立って授業なりホームルームを、一度やると分かってくることがある。
 聞く耳を持っているかいないかがである。
 先般の都知事選挙で「わたしは聞く耳を持っている」と言った候補者がいたが、わざわざ言わなくても、佇まいで分かってしまう。
 ちなみに、聞く耳と言うのは、お行儀の良さとは関係が無い。
 大人しく座っていて、教師が指導する必要が無いような生徒でも、聞く耳を持っていない者がいる。逆にガサツで切れやすく落ち着きのない者でも聞く耳を持っている者も居る。

「すまん、ちょっと話があるねん」

 最初の授業を終えて、一人の男子生徒を廊下に呼び出した。
 友だち同士のように、廊下の窓枠に肘を預け、少しばかり大事な話をする感じで切り出す。
「二列目の一番前に座ってるやつなあ」
「え、うん?」
「去年、おれのクラスでダブリやねん。悪い奴やないねんけど、めっちゃ愛想悪いねん。声かけても返事返ってけえへんことも多い奴や」
 男子生徒は振り返って、その生徒を一瞥した。
「……そんな感じやなあ」
「おまえみたいな奴からしたらムカつくようなことがあるかもしれんけど、まあ、覚えといたってくれや」
「お、おう」
「ほならな」

 これだけを言っておく。

 ちなみに、この男子生徒はクラスの顔の一人で、ヤンチャクレで、辛気臭い奴は、遠慮なくハブったり、張り倒したりする奴である。
 その後、二三度「あいつ、どないや?」と、ヤンチャクレに聞く。
 これで、イジメのタネは芽を吹かなくなる。

 生徒個人の中には天使と小悪魔が住んでいる。天使も小悪魔も生徒自身には制御できない。
 早めに天使が動きやすいように道を付けてやることが肝要だと思う。
 前述の件の場合、ダブリの生徒の評判が立ってからでは手遅れになる。
「そやかて、あいつムカつくで!」「あの暗さはゴミやで!」
 そう言わせてからでは、教師が何を言ってもオタメゴカシにしか聞こえない。

 それでも、全てのイジメの芽は摘めない。

 生徒が三日も休むと「あれ?」と思う。
 五日も休むと家まで押しかける。
 そこで話をすれば、その屈託ぶりで、事の有無が推し量れる。
 時に、深刻なイジメがあることが分かることがある。
 いろいろやって、イジメている生徒が分かったときは、時に荒事に及ぶ。
「イジメられてた奴はなあ、これよりも痛かったんじゃ!!」
 本気で怒って張り倒していた。
 張り倒したことは、保護者や生徒の間にも、言わずもがな式に広まっていく。
 イジメの重大さと学校の本気度が、生徒にも保護者にも伝わる。
 稀にこじれて、保護者が弁護士を連れてくることがあった。記録と実績で、なんとか乗り切れた。

 むろん、今の時代、張り倒しは、張り倒したという一点だけで糾弾される。
 
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高校ライトノベル・学校時代・13『寸止めの勇気』

2017-05-07 18:49:38 | エッセー
学校時代 13『寸止めの勇気』


 返事が返ってけえへん……。

 と、食堂のオッチャンがぼやいた。
「オッチャンも、そない思わはりますか?」
 うどんをすするのを中断してオッチャンの顔を見た。
 
 オッチャンの視線の先には、トレーの始末をして食堂を出て行こうとしている、新任の女先生二人の後姿があった。

 わたしはバイト歴が長いせいもあって、挨拶はきちんとする方だった。
「伝わらんのは挨拶とは言わない」「挨拶は返すものじゃなくて、するものだ」というようなことが身についていた。
 職場は人間関係の円滑が重要で、バイトの職場でも朝礼などがあるところがあった。
 別に強制されたわけではないが、挨拶をキチンとする職場にいれば普通に身に着くことが多く。舞台やテレビの仕事をすると、普通では間に合わず、先輩からいろいろと叱られた。

 その年の新転任は女性が多く、それも「美人」や「可愛い」という範疇に入る人ばかりだった。

 その美人で可愛い先生が、食堂を出て校舎の外を歩いていると、校舎の三階あたりから声がかかる。

 ブスーーー!!  オバハン!!

 女先生は、ピクリとするが、声は無視する。
 この女先生が、授業の始めには、こう言う。
「ちゃんと挨拶しなさい!」
 クラス全員が起立礼をしないと機嫌が悪いのだ。
 女先生の意識では「けじめをつけさせる教育」である。この局面だけをとらえると間違ってはいない。
 教室の外で出会った時の素っ気なさが、食堂のオッチャンのボヤキになり、生徒の「ブスーーー!!」「オバハン!!」になる。

「寸止めされました!」

 生活指導室で部屋番をしているとき、女先生が男子の手首を引っぱりながら連行してきた。
「どないしはったんですか?」
 聞くと、授業に遅刻してきた男子を注意したところ、顔面パンチの寸止めをされたということであった。

 寸止めは威嚇行為であり、十分に指導の対象になる行為である。

「おまえは、アホか」
 そう言って、横の指導室で反省文を書かせて、指導した。

 被害者の先生は授業があるので、帰ってしまわれたが、授業後も生徒指導室に顔は出されなかった。

 ブスーーー!!も、オバハン!!も、寸止めも生徒に非があることはたしかではある……。

 わたしは「おおはっさん」と職場で呼ばれることが多かった。これがつづまると「おっさん」になる。
 だが、つづまった「おっさん」と、ハナからの「オッサン」は確実に違う。
 学年の初めごろ、生徒が、この「オッサン」の方で声を掛けてくることがある。
 けして聞こえないフリはしない。元気がある時は「いま、なんちゅうーた!」「もっかい言うてみいー!」と追い掛け回す。
 時にヘッドロックをかけたりする。非力なわたしのヘッドロックなどかかるわけがないのだが「わー、ごめんごめん」と笑いながらかかってくれる。

 わたしの対応が全て成功したわけではないが、ま、こんなこともあったのである。

 いま家庭で「おはよう運動」を一人でやっている。二十歳の息子は三回に一度くらいしか返事をしない。それもひどくめんどくさい様子である。今朝はカミさんからも返事が返ってこなかった。

 寸止めをかます勇気が、わたしには無い。
 
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高校ライトノベル・学校時代・12『生徒の正義』

2017-05-06 16:24:04 | エッセー
学校時代 12『生徒の正義』


 A君は激怒した!

 キミの学校、いい噂聞かないねえ。通行の邪魔になるし、あっちこっちでタバコ吸うし……そうそう、こないだは小学生どついたいうて問題になってたなあ。

 K大学の面接に行って、書類を見た面接官が、のっけに学校の悪口を言ったからである。

「そんな悪い学校とちがいます!」
「そやけど、ねえ……(ここで、鼻で笑った)」
「1200人も居るんです。ちょっとはトラブルもあるけど、いい生徒が多いんです!」
 このあとのA君の記憶は途切れている。
「こんな大学は、こっちから願い下げじゃ!」

 A君は、椅子を蹴飛ばして面接会場を飛び出してしまった。

 廊下で面接の順番を待っていた仲間は真っ青になった。

「お前は、なんちゅうことを……」
 A君本人から報告を受けた担任と進路の教師は頭を抱えた。
「ごめん先生、ついカッとしてしもて……」
 いつもの元気はどこへやら、A君は、悄然とうなだれてしまった。
「謝りに行かならあきませんね……」
 進路部長は、ロッカーからネクタイと上着を取り出した。

 A君は、業界用語では「明るく元気な生徒」だった。校内の言葉では「やんちゃな生徒」。 有り体に言えば「問題ばかり起こしている生徒」だった。
 生活指導でお世話になることも一度や二度ではなく「このクソ学校!」と言うのが彼の口癖であった。
 本人も、周囲の生徒や教師も「Aは、うちの学校を嫌っている」と思っていたし、本人もそうだった。

 進路指導部長がネクタイを締め終わったころに、大学から電話があった。

――いやあ、感服しました! A君は、近頃珍しい愛校心に溢れた生徒です! どうかお叱りにならないように――

 さすがに合否までは言わなかったが、その後A君は無事に大学に合格した。

「ええか、真似すんなよ。Aは、企まずにやったから評価されたんや。わざとやったら、絶対逆効果やからな!」
 あくる年からは「受験の心得」でA君の話をしたが、模倣することは現に戒めた。
 
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高校ライトノベル・学校時代・11『教師の正義』

2017-05-04 16:14:28 | エッセー
学校時代 11『教師の正義』


 安保法案が、予算委員会で可決された時のこと。

 与野党の議員が委員長席に押し寄せ猿山のように大騒ぎになった。
 野党議員は、採決をさせないために議長から裁決に必要な書類をふんだくろうとした。
 与党議員は、委員長を守ろうとして身を楯にしていた。

「与党議員に殴られた!」

 野党議員の一人がいきまいた。
 その様子は、新聞やテレビやネットに出回っている。一見与党議員の拳が、野党議員の顎にさく裂しているように見える。

 動画で見れば明らかに分かる。与党議員は委員長に襲いかかる野党議員を手を伸ばして制止しているのである。
「拳にしたのは安全のためです。指を広げていると目や口や鼻の穴に入って怪我をさせることが多いんです」
 この与党議員さんは、元幹部自衛官でPKOにも派遣され、修羅場での対応はプロである。なにより動画を見れば殴ってなどいないことは一目瞭然である。
 それでも、この野党議員は「殴られました」と、ことあるごとに発言している。

 一種のイチャモンである。イチャモンも繰り返し言えば、正しく聞こえてしまうことが、往々にしてある。

 入学式卒業式での日の丸の掲揚、君が代の斉唱が問題になっていたころ、こんなことがあった。
「日の丸君が代は軍国日本の象徴です。学校で掲揚することは馴染みません」
 この見解が、職員会議では圧倒的多数であった。

 わたしは昭和28年の生まれで、子どものころ正月などでは、大方の近所の家々では日の丸が掲揚されていた。
 掲揚されなくなったのは、左翼やマスコミが軍国主義の象徴と言いだしてからである。

「軍国主義の象徴どころか、戦争遂行のための法律や通達が、そのまま残っている。それは問題にしないのですか?」

 具体的に例を挙げて説明した。酒税・たばこ税を始め、私鉄や電力会社などが戦時法で統合されたままなこと、横書きの場合日本語を左から書くことなど、数え上げれば勉強不足のわたしでも、いくつも数えることができる。

「それは嘘や」「牽強付会や」という声ばかりだった。繰り返すと黙殺された。

「うちの学校は外国籍の生徒が多いんです。日の丸は馴染みません」
 今なら「アホかいな」と思われる言い回しに、多くの先生は頷いた。
 これは上意下達の組合と党の方針そのまま。
 ドグマと言うものは人も組織もダメにすることの見本である。
 そのことを指摘すると、こう弾劾された。

「裏切者!」「破壊分子!」

 ちなみに管理職は「そう言う話は組合でやってくれ」と言ったきりダンマリを決め込む。

 主題は、ここからである。
「先生、夏休みのプール使用計画をたてたいんですけど」
 7月の頭に、水泳部の生徒が顧問に相談に行った。
「あかん、夏休みのスケジュ-るは組んでしもたから、練習には付き合われへん」
 繰り返すが、水泳部の顧問の発言である。プールは教師の付き添いが無ければ、水泳部と言えど使用できない。
「なんでですか」
 生徒は食い下がった。
「いろいろ会議やら研修があるねん」
 その会議と研修は組合のそれであった。
「先生らは、君ら生徒の教育を守るためにやってんねん。理解してくれ」
 という意味のことを言った。この先生の意識では正義であった。

 このことは、介護休暇明けの三者懇談で、生徒本人と保護者から抗議されて知った。

 この生徒は水泳部を辞め、年度の終わりまで心を開くことはなかった。

 
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高校ライトノベル・学校時代・10『コミニケーション論・2』

2017-05-03 09:44:41 | エッセー
学校時代 10『コミニケーション論・2』


 スキンシップは、人間関係において重要なファクターだと思う。

 保育所や幼稚園では、当たり前に実践されている。
 お遊戯で手を繋いだり、落ち込んでいる時にはハグしたりされている。幼児は、この肌感覚で、相手への信頼感を育んでいる。

 中学高校と進むに従って、スキンシップが無くなっていく。

 このご時世、教師が下手にやったらセクハラを取られる。
 遠足などで盛り上がり、生徒と一緒に写真を撮ることがある。盛り上がり方によっては肩を組んだりすることもある。
 某先生は、女生徒の肩に手を回して、数名でにこやかにスナップ写真を撮った。
 で、この行為がセクハラにとられた。
 ある先生は、教科指導をしていて「この問題はやなあ……そうそう、そうやるんや。がんばれよ」と肩を叩いてセクハラをとられた。

 一つのスキンシップが問題になると、尾ひれが付く。こんなこともあった、あんなこともあったとあげつらわれる。
 あたかも魔女裁判のようになり、この二人の先生は退職に追い込まれた。

 わたしの経験上、スキンシップはあったほうがいいと思っている。

 弟に自殺された生徒がいた。
 真っ先に、担任のわたしに電話してきた。
「直ぐに学校に来い!」と返事した。
――大橋先生、〇〇君が来ました――
 校内電話で聞いて、相談室に直行。
「〇〇!」
 とだけ言って、椅子に座っていた〇〇を後ろからハグしてやった。

 指導の局面において、生徒の体に触れることは有ってもいいと思っている。

 父子家庭の三人姉弟で、お母さん代わりをやっている女生徒がいた。
 あちこちへの支払いのために10万余りの現金を持ってきていて、それを盗まれた。二クラス合同の授業の後だったので、二クラスの生徒を会議室に集め「知っていることがあったら、無記名で良いから書いてほしい」と紙に書かせた。何人かの生徒には質問もして、学校としてはできうる限りの調査をやった。
 
 結果何も出てこなかった。
 会議室前の廊下では、先生たちに見守られるようにして本人が待っている。
 
「すまん、学校としては、やれることは全部やった。分からへん」

 女生徒は目に一杯涙を溢れさせ、わたしに突進するそぶりを見せた。すがり付いて泣きたかったのが痛いほど分かった。

 わたしは、ハグしてやるために手を差し伸べるべきでああった。が、ためらわれてしまった。
 つい先月、セクハラをとられた同僚のことが頭に浮かんだからだ。
 女生徒は瞬時に悟って、身を引いた。

 ためらった自分も情けなかったが、そういう空気を作った学校も恨めしかった。

 手相を見るというささやかなスキンシップで、必要な時には触れ合いができるように。ぼんやりと、そんな思いがあったのだが、わたしに度胸がなかったこともあり、それ以上のことはできなかった。

「センセの手相、よう当たったよ! で、センセ、なんの教科のセンセやったっけ?」

 ン十年ぶりの卒業生の弁。ま、いっか……。
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高校ライトノベル・学校時代・09『コミニケーション論』

2017-05-01 16:47:08 | エッセー
学校時代 09『コミニケーション論』


 どうにも授業にならない時がある。

 プールの後、試験範囲まで行ってしまった後、時間割変更で二時間連続で授業をしなくてはならなくなった時など。
「ほんなら、あとは、静かに自習しておきなさい」
 そう言って、先生は引き上げてしまい、生徒は穏やかに自習していた……私たちが生徒だった半世紀前の話。
 今は、時間いっぱい教室に張りついて監督していなくてはならない。

 いきおい、つまらないことを注意しなければならなくなる。

「静かにしなさい!」「脱走するんやない!」「飯くうな!」「トランプするな!」「競馬新聞はしまえ!」「マージャン始めるんやない!」などなど……。

 注意される方も不愉快だし、する方も面白いはずもない。
 以前にも書いたが、対教師暴力などのトラブルは自習時間中に起こっていた。
 だから、不器用なわたしは、授業内容をコントロールして、自分の授業時間では極力自習にならないようにしていた。
 しかし、自習監督があたったり、プールの後の6時間目など、どうしても自習にならざるを得ない時がある。

 押し出しの強い先生は、制圧して静かにさせておられた。

 押し出しが強くないわたしは、いろんな話をしてやった。いわゆる余談というやつで、生徒は一般的に余談を聞くのは好きだ。
 両手の指ほどに余談のネタは持っていたが、持ち上がりで三年生にもなってしまえばネタ切れになる。

 そこで編み出したのが占いの時間だった。

 主に手相をやった。いちばん生徒の食いつきが良いからである。
 手相の基本は、大学の心理学で習った。あとは二三冊の手相の本を読んでインプットしておく。

 最初に黒板に大きな手のひらを描いて、手相の基本である生命線・運命線・頭脳線・感情線などを確認し、それぞれの線の意味を教える。
 たとえば、頭脳線と感情線のバランス。頭脳線が際立っていれば「考えてから行動するタイプ」。感情線が際立っていれば「直感で行動するタイプ」という具合。
 生徒の集中力は教科授業の10倍くらいに良くなる。
 ふつう教師のオタメゴカシ(「やれば出来る!」というような)は一年の一学期ぐらいしか効果が無い。
 だが手相の結果であれば「おまえは20代で運が開ける」とか「人知れず見てくれている人がいる」とか「あんたは、他人に使われるより自営業が向いてる」など、素直に聞いてくれる。
 
 そして、簡単にスキンシップがとれる。

 長くなりそうなので、この項、次号につづく。 
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高校ライトノベル・学校時代・09『不法投棄を見つけてしまった』

2017-04-29 18:06:17 | エッセー
学校時代 09『不法投棄を見つけてしまった』


 昔のゴミ捨てはゴミ箱ごと集積場に持って行った。

 ちなみに学校の話である。

 取っ手が付いていたように思うのだが、木製だったか金属製だったか、記憶は定かではない。
 とにかく、ゴミ箱を集積場まで持っていき、ゴミを捨てた後、ゴミ箱は教室に持って帰った。
 労力という点では、その後のゴミ袋時代の倍はかかった。
 
 このゴミ捨てを嫌がるものはいたが、無精をかましてゴミ箱を放置してくる者は居なかった。

 教師になった昭和の50年代、ゴミ捨ては黒いビニール袋になっていた。
 ゴミ箱を教室に持って帰る手間がいらず、労力としては半分になった。
 またビニール袋なので、ゴミ箱そのものに触ることが無いので、かなり清潔になった。

「必ず、ゴミ捨て場(集積場)まで持って行けよ」

 学年はじめのゴミ捨てには、この注意をした。
 気を抜くと、すぐに不法投棄をされる。
 空き教室や、階段のゴミ箱、植え込みなどに不法投棄される。

 不法投棄を見つけた場合。

 事を荒立てずに、自分で捨てに行く先生と、不法投棄したクラスを突き止め、そのクラスの担任に返す先生とが居た。
 クラスを突き止めるには、ゴミ袋の中身を調べる。
 ゴミの中には、小テストや返却プリントが入っていることが多い、それが無い場合でもクラスを特定できるものは大抵入っていて、その証拠を二つ以上見つけてゴミ袋に貼りつけておく。
 で、たいていの担任は、あくる日に不法投棄した生徒に捨て直させる。

 正直手間ではあるが、こういうことをやっておくことが学校の秩序維持に繋がってくる。

「やー、やっぱりセンセのクラスきれいなあ」
 去年担任していたヤンチャクレが、教室を覗き込んで呟いた。
 ガサツでアナーキーな学校だったけれど、生徒は秩序と平和を望んでいる。
 迫り方はいろいろだし、迫るレベルもまちまちだけど、担任が自分の力量いっぱいにやっていれば、いつの間にか納得している。

「こら、また不法投棄したやろ!」とゴミ袋を突き付ける。

「俺とちゃうわ!」
 開き直られるのは、気分で怒ったり、それまでの指導にムラがあったりした場合だ。
「あ、バレてしもた?」
「バレバレじゃ!」
「しゃーないなあ((n*´ω`*n)」

 こういう風にいけば、入院しない程度のストレスで一年が過ごせた……。

 ちなみに、教師一年目は、新任三月目で入院し夏休みいっぱいベッドの上で過ごすハメになった。
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高校ライトノベル・学校時代・08 制服 プール 掃除当番

2017-04-28 20:12:37 | エッセー
学校時代 08 制服 プール 掃除当番 

 制服 プール 掃除当番


 日本の学校の特徴をあげたら、この三つになる。

 むろん、他にもある。入学式をやることや、学年の始まりが4月であること、ディベートの授業が無いことなど。
 だが、概ね外国から「クールだ!」「うらやましい!」「いいことだ!」と思われているのは、この三点であるように思う。

 わたしたちの時代には「画一主義」「没個性」「おしつけ」などと評判が悪く、中には学園紛争のころにやり玉にあがって制服を廃止してしまった学校もあるが、日本のほとんどの学校には制服がある。
「わたしたちは、こんなものを着せられて個性を奪われている」と、国連の子ども会議だったかで、日本の高校生が訴えたことがあった。
「うらやましい! 制服が着られるなんて恵まれているじゃないか、なんで不満なんだ?」
 外国の子どもたちの反応は、おおむねこれであった。
 制服があれば、毎朝着る服に悩まなくて済む。同じ学校の生徒として一体感が持てる。服のセンスにとやかく言われない。などが「うらやましい!」の理由であったようだ。
 今は、これに加えて「日本の制服はカッコいい!」が加わっているようだ。
 前世期の終わりごろから、日本は高校を中心として制服のモデルチェンジを行ってきた。
 火付け役は『東京女子高制服図鑑』であったように思う。リセウォッチングと言って、女子高生の制服を観察してイラストに起こし、寸評を書いた本である。一見アブナソウであるが、観察についてのルールが厳格であり、イラストも文章もいたって真面目であることから、大げさに言うと、制服改訂のバイブルのようになった。
 多い学校では5回以上改訂された学校もあり、日本の学校の制服はかなり洗練されたものになってきた。

 日本の学校では当たり前に存在しているプール。外国にはほとんどない。
 日本の学校の設置基準は、諸外国に比べ要求している水準が高い。その象徴的なものがプールであろう。小学校から大学まで、25メートルプールは当たり前で、中には温水プール完備の学校まで存在する。
 この高いプールの普及率は、日本の教育投資のレベルの高さの現れではあるのだろうけど、一つには水資源の豊かさが背景にあると思うのだが、どうだろう。
 25メートルプールに入っている水はたいそうなものである。
 勤めていた学校のプールが悪戯され、一晩で水を抜かれたことがあった。新しく水を入れ直したが、その料金はウン十万円であったと聞いている。
 こんなプールが、大阪府だけでも数千校に及ぶ。やはり水が豊かなのであろう。学校のプールについては、項をあらためて書きたいと思う。

 掃除当番。

 外国には、あまり無いようだ。
「これはいいことですね」
 ケント・ギルバードさんだったかがおっしゃっていた。自分で使う学校の施設は自分たちできれいにする。だから学校を大事にするという気持ちも出てくる……そうおっしゃっていたが、それほど簡単なものではない。

 前号で書いたが、生徒を掌握するポイントは、出欠点呼と掃除当番をキッチリやらせることである。

「今日の掃除当番は〇班、しっかりやれよ」という言い方はしなかった。これでは全員に逃げられる。
「今日の掃除当番は、赤井! 井上! 上田! 江本! 大崎!」と言う具合に、本人の目を見ながら終礼で叫んでおく。
 聞こえへんかった。忘れてた。を言わせないためである。
 終礼が終わったら、直ちに箒と塵取りをロッカーから出して、掃除当番全員に渡す。雲隠れして掃除が終わったころに現れるズルをさせないためである。担任自身も箒を持って掃除をする。まちがっても「やっておけよ」はやらない。
 掃除当番監督の最大の要諦は『ごみほり』をキチンとやらせるいことである。ごみほりの順番はジャンケンで決めさせることが多かった。若干のギャンブル性と公平さを担保するためであった。

 いささか長くなってきたので、以下は次号で。
 
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高校ライトノベル・学校時代・07 出欠点呼

2017-04-27 19:50:03 | エッセー
学校時代 07 出欠点呼


 出欠点呼を覚えておられるであろうか?

 学校の朝は出欠点呼から始まる……わりには憶えていない。
 小学校は、朝から担任がいるので担任の先生が取っていた……と思う。
 たぶん、クラスの座席が頭に入っているので、一瞬で確認して出席簿に付けていたのではないかと思う。
 クラスには50人近い児童がいたけれど、呼名確認はしていなかったように思う。先生の目に狂いはないと児童も保護者も思っていた。

 中学は、一時間目の先生がチェックしていたように記憶している。

 まず自分の閻魔帳に付けて、出席簿に転記していたようだ。
 クラスの出席簿は日直が職員室から学級日誌といっしょに持ち出していた……記憶が蘇って来た。
「おはようございます、1年5組の日直です。出席簿と学級日誌とりにきました」
 そう言って持って行った。持っていくについてのお作法は、上級生がやっているのを見て覚えたような気がする。
 今のように、職員室のドアに「失礼します~失礼しました」までのマニュアルは貼られてはいなかった。だから、生徒によってバラつきがあり、きちんと挨拶する者も何も言わない者も居た。わたしはクラスまでは言わずに「1年5組です」くらいで済ませていたようだ。
 職員室の先生たちが、この生徒の声に応えることはほとんどなかった。今の学校なら「はい」とか「ごくろうさん」ぐらいは返していると思うのだけれど、どうだろう。

 出席簿に付け間違いがあると、生徒は自分で申し出た。

「すみません、この時間居てたんですけど」
「あ、そうか、すまんすまん」
 これで済んでいた。相互に信頼関係があったというか、いい加減と言うか、出席簿というのはその程度のものだった。
 先生たちが真剣に点呼したのは、遠足や修学旅行の時ぐらいであった。校外学習でミスをすると置き去りとか、洒落にならない事態になるからであろう。

 高校では、朝の出席点呼はしなかった。

 建前は、一時間目の教師が点けることになっていたが、ろくに点けていない先生も多かった。一時間目の自習(つまり先生が休んでいる)も多く、遅刻に関しては、正確な把握はされていなかった。
 そうそう、程度の差はあるけれど、出席簿の管理は日直、または学級委員の書記であった。午前中に職員室前の黒板にクラスごとの出欠を書きに行ったことを覚えている。書き洩らしがあると「〇年〇組出欠が書かれていません、早く書きに来てください」と教務の先生に校内放送された。それでも書きに来ないと「日直(または書記)しっかりせえ!」と担任に怒られる。

 自分が教師になったときは、完全に教師が点けていた。

 きちんと点けないとトラブルになる。
「〇〇、今朝は遅刻やったな」
 終礼で宣告すると。
「おったわ、ボケ!」
 と返される。

 試行錯誤の結果、以下のように定着した。

 予鈴3分前に教室の前に行き、窓から「もう鐘鳴るぞ! 急げ!」と大音声で叫ぶ。1分前からカウントダウンし、予鈴が鳴ると共に教室に入る。
「座れ! 自分の席に着いてないやつは欠席やぞ!」
 そしてバインダーに挟んだ座席表を見ながら呼名点呼をやる。ここで大事なことは、必ず生徒の目を見ながら確認することである。
 目を見ておかないと「おったわ、ボケ!」をかまされる。
 クラス35人余り、全員が居ると20秒ほどである。たいてい20人もいないので10秒余りで終わる。
 ただ、この10秒の間にも入ってくる生徒がいるので、もう一度欠席者の名前を叫んでおく。二回目の点呼で確認できればセーフにしてやる。

 これを続けていると「おったわ、ボケ!」をくらわなくなる。

 うちの担任は出欠に関してはシビアや。ということになる。

 出欠点呼をきちんと取ることと、掃除当番をサボらせないことが、生徒との信頼関係の基礎であった。

 
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