大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ライトノベル・ライトノベルベスト[茶色のローファー]

2019-12-09 06:20:01 | ライトノベルベスト
ライトノベルベスト
[茶色のローファー]
     「ローファー」の画像検索結果「スリッポン」の画像検索結果


 

 あたし、茶色のローファーです。

 知ってるわよね、主に女子高生が履く真面目印の靴です。一部男性用もあるけど、あたしたち靴仲間からは、少し異端視されてる。
 あたしは、いまどき珍しい日本生まれ。そこらへんの外国製とは違うの。そこんとこ、よろしく。

 あたしの履き主は、通称スリッポン、荻野趣里。名前のシュリがスリになって、それにポンがついたもんだけど、この子が日ごろ履いてるのがスリッポンて、ルーズなズックなんかで出来てる紐無し靴。もう二十年ほど前に流行った遅れた靴なんだけど、この二年ほどでまたギャルの中で流行りだしてる。

 スリッポン……趣里は、お祖母ちゃんの超裏技で某有名女子高に、この春入学。で、制服から持ち物小物にいたるまで、セレブリティーで統一され、その足元を最後に決めたのが、このあたし。仲間に店ざらし仲間の黒のローファーもいたけど、学校の指定が黒または茶色のローファーってことになってたから、ささやかな彩りとして、あたしが選ばれたわけ。

 馬子にも衣裳で、最初の一週間は、真面目にやってくれた。

 無遅刻無欠席。一週間だけだったけど。
 ノートだって、誤字脱字だらけだけど、キチンととってた。あたしは下靴なんで、お仲間の上履きから聞いた話なんだけど、五日目からは授業中に居眠りし始め、まさかと思ったら、六日目には狭いロッカーの中に教科書やらノートが混ざりはじめた。
 そう、鞄は持ってくるけど、中身はソイジョイと日によって替わるペットボトルのお茶。あとギャル用のファッション雑誌とスマホ。

 事件としては、山手線M駅での痴漢騒ぎ。

「誰の手よ! なにニイチャン気楽にお触りしてくれてんのよ、次の駅で降りな!」
 なんせ、お嬢様学校で知られてるA女学院だったもんだから、乗客も駅員さんも、その伝法な……今風に言えばギャル言葉でまくし立てるもんで、びっくり。でも、これは痴漢に対する毅然たる言動のひとつであろうと、世間も警察も、後から聞いた学校も好意的に解釈。
 ただ一人、呼ばれたお巡りさんの中に顔見知りがいたけど、あまりの外見的な変化に(希望も含めて)スリッポンではないと判断。

 あたしは、最初から違和感があった。

 立場上、あたしは、趣里のおパンツを毎日見て居る。A女学院らしい白を見たのは発育測定の日だけ。あとは色も柄も様々なものに変わってしまった。

 この連休に入ってからは、あたしは用無し。下駄箱……靴しか入ってないのに下駄箱とはいかに!? シャレでも飛ばしていなきゃ、これから先は語れない。

 連休前の金曜日に、趣里は真っ直ぐ家に帰るとさっさと私服に着替えて渋谷に、むろん足許は馴染みのスリッポン。
 そして中学時代のお仲間に再会。半月ちょっとぶりに趣里は自分のレーゾンデートルを発見。
 不覚にも涙が流れるところだったそうな。
 仲良く道玄坂を登って左に曲がったのが十一時過ぎ。ギャルのたまり場へのショートカットの途中、クラスで、ただ一人友だちがましく接してくれる美穂に出会った。
 美穂の家は、道玄坂では名の知れたラブホを経営しているが、美穂は、小さなころから両親の方針で当たり前以上の女の子として育てられてきた。しかし、親の会話や環境から、渋谷界隈や、そこに集まってくる人たちのことは感触で分かる。分かるということは、いいことも悪いことも分かるという意味である。だから、趣里に初めて接した時から分かっていた。そして、趣里を友達と感じ、なんとかA女学院に馴染めるように、なにくれとなく面倒を見てくれた。

 その美穂が二人のニイチャンに絡まれていた。

 こんな時間にA女学院の制服を着た女の子が歩いているのは、コスプレの一種だと思われたのだ。美穂は学校のレベルに着いていくために塾通いを始め、帰宅時間が遅れてしまったのである。
「あたしのダチに、なに絡んでんのよさ」
 これを第一声に、二分ほどで、二人をのしてしまった。

「趣里ちゃん、ありがとう」
「いいよ。あたしたち、こういうやつら嫌いだし。さ、もう行きなよ。あたしたちもずらかるからさ」

 美穂の後姿を見て、趣里は決心した。
「趣里なんか辞めてスリッポンにもどるか……」

 連休が明けたら、あたしは、しばらく履いてもらうことはないだろうけど、趣里のことは応援していくつもり。

 それまで、頼んだわよ、スリッポン!



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スーパソコン バグ・9・『昔の写真なんか見て』

2019-11-16 05:59:19 | ライトノベルベスト
スーパソコン バグ・9 
『昔の写真なんか見て』       

 
 麻衣子は、商店街の福引きで、パソコンを当てて大喜び。そこにゲリラ豪雨と共にやってきた雷が直撃。一時は死んだかと思われたが、奇跡的にケガ一つ無し。ダメとは思ったパソコンが喋り始め、実体化したパソコン「バグ」は、自分は、麻衣子の妹で琴子だと言い出した!

 
 
 部屋にもどってびっくりした。ベッドが二段ベッドになっている!

「なんか変だね、琴子のこと毎日見てるはずなんだけど、涙が出てきちゃう」
 お母さんが、実にらしくないことを言う。
「スライドショーやろうか?」
 なんと、お母さんの提案で、パソコンとテレビを繋いでスライドショーをやることになった。パソコンは、お母さんが昔から使っているノートパソコンで立ち上がりが遅い。
「昔の写真なんか見て、大丈夫?」
 バグに聞いた。バグは琴子の顔でコックリした。

 やがて、モニターにしたテレビに写真が写り始めた。どうやら、あたしの生まれたころからの写真集のようだ。
「どう、このお父さんの嬉しそうなこと」
「まだ、髪の毛一杯あるね」
「お姉ちゃん、赤ちゃんのころは可愛かったんだ!」
「赤ちゃんのころってのは、なによ!」
「まあ、今もそれなりにね」
「そりゃ、あんたは……(AKB選抜の合成)」
「麻衣子の名前は、ほんとうは、こう書くんだよ」
 お母さんは、メモに、こう書いた『舞子』
「あ、それいいよ。どうして麻の衣の子になっちゃったのよ!?」
「お父さんが、届けに行ったんだけどね、順番待ってる間に姓名判断に詳しい人に言われたんだってさ、画数とか、字の品格とかさ。で、受付の順番が回ってきて、画数だけあわせて麻衣子だって」
「だいたい主体性が無さ過ぎるんだよお父さんは、だから未だに、課長にしかなれないんだ」

「だれが、課長にしかなれないんだ?」

 気づくと、お父さんが帰ってきていた。お父さんも琴子のことを当たり前に見ている。
「ああ、これ、琴子が生まれたときだ!」
「なんだか、あたしの時より嬉しそうに見えるんだけど」
「そりゃあ、琴子は流産しかけたものなあ」
「だったわよね、洗濯物干して、転けちゃって、うまい具合に、お父さんに倒れかかったもんだから、あんまりお腹を圧迫せずにすんだのよね」
「おかげで、あれで首の骨がヘルニアになっちまって……まあ、いい思い出だな」

 それから、写真は、家族旅行や入学式、夏のプール、ディズニーランド、オヤジとアニキの趣味で付き合わされた阿佐ヶ谷のリックンランド。戦車をバックに、あたしも琴子も喜んでいる。

 なにか変だ、琴子はバグが作った、いわばアバターのはずなんだけど、写真を見てると、それぞれに具体的な思い出がある。スライドショ-が終わった頃は、バグではなくて、琴子であるという意識の方が強くなってきた。

 朝になった。

 目が覚めると、琴子が制服を変な風に着ている。なんだか初めて着るようなぎこちなさ。
「琴子、セーラーの脇、閉まってないよ」
「ほんとだ」

 その日一日で、バグは、完全に琴子になってしまった。その日は、ナプキンの使い方なんか分からないのが不思議だったが、午後になって気が付いた。
 琴子ができることは、基本的にお母さんのお腹の中にいて、お母さんがしていたことや、知っていたことである。おぼろになってきた、あたしの記憶では、お母さんは洗濯物を干そうとして流産したことがある。お母さんは羊水検査でズルをして、あらかじめ性別も知っていて名前も考えていた。それが琴子である……。

 三日もすると、完全に違和感がなくなってしまった。
 そして、二人でアニキの見舞いに行ったときも、アニキに違和感はなかった。
「一週間ぶりに見ると、琴子のほうがカワイイな。オレに似たんだな」
 と、バカを言って優奈さんを笑わせた。

 秋になって、琴子はAKBを受けて、本当に通ってしまった。研究生として忙しい毎日を送っている。
 あたしは、元のようにソフトボールができるようになった。腕はちっとも上がらなかったけど、吉岡コーチが自分のことのように喜んでくれたことが、とても嬉しかった。

 去年と同じくインターハイ二回戦で負けた。でも、一発だけ三遊間にヒットを決めることが出来た。あたしにはこれで十分だ。琴子も忙しい中、後半だけ見に来てくれて、わがことのように喜んでくれた。

 そして、秋の半ば頃には、もう、琴子は完全に琴子になった。

 夏の日、落雷にあって、妙な夢を見たこと……のように思った。名前は……バが付いたような気がする。
 バカ……これは姉妹で、しょっちゅう言ってる。
 まあ、いいや。琴子は琴子。ニクソイこともあるけど、正直あたしよりもカワイイ。

 でも、琴子はソフトボールなんかは、ちっともできないんだよ。


 『スーパソコン バグ』  完


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スーパソコン バグ・8

2019-11-15 06:09:24 | ライトノベルベスト
スーパソコン バグ・8
『琴子』        

 
 麻衣子は、商店街の福引きで、パソコンを当てて大喜び。そこにゲリラ豪雨と共にやってきた雷が直撃。一時は死んだかと思われたが、奇跡的にケガ一つ無し。ダメとは思ったが、パソコンが喋り始め、実体化したパソコン「バグ」は、自分は、麻衣子の妹で琴子だと言い出した!


 琴子といっしょに晩ご飯の買い物に出かけた。

 時間も無いので、あり合わせの総菜で間に合わせたが、メンチカツだけは止めてトンカツとお刺身が夕方の特売シールが貼られたところだったので、五人前買った。
「ねえ、オネエチャン。シーザーサラダ作ろう!」
 バグは気安くオネエチャンと呼ぶ。
「じゃ、ドレッシングいるね」
「ううん、一から作んの!」
「え、できんの、そんなこと!?」
「まかしてよ。ニンニク、塩、コショウ、レモン汁、オリーブオイルでシーザードレッシングこさえて、削りおろしたパルメザンチーズとクルトンをトッピングして仕上げる……今日は、その上にトンカツのトッピングにしよう」
「いいけど、大丈夫かな……」

 心配は無用だった。あたしより上手い手際で、シーザーサラダを作り、冷蔵庫の買い置きのタマゴを発見。
「だし巻きタマゴ作るぞ!」
 お出汁こそ、インスタントだったけど、タマゴを割ってカラザを取るとこや、四回に分けてネタのタマゴ汁を入れて、返し焼きするところなんか見事だった。
「なんで、こんなにうまく作れんのよ!?」
「さあ……インスピレーション!」
 くったくなく笑うバグを見ていると、なんだか本当の妹のような気がしてきた。

「ただいま……」
「あ、お母さん帰ってきた、琴子、いやバグ、隠れなきゃ!」
「いいの……お帰り、お母さん!」
「ちょ、ちょっと!」

 かくして、玄関の狭いホールで、琴子、いや、バグとお母さんは鉢合わせしてしまった。

「あ……」

 バグを見て、お母さんは一瞬、まさにバグったようにフリーズした!

「アニキの具合どう?」
「ああ、病院の食事が不味いとか、文句ばっかしよ。家のこと任せて、ありがとうね、麻衣子も琴子も……」
「あ、お父さん、残業で遅くなるって」
「え、電話とかあったっけ……」
「琴子が聞いといた」
「ウワー、本格的なシーザーサラダじゃない。どれどれ……あ、むかしクッキングスクールで習ったのと同じ味! ドレッシングも作ったのね。お母さん、いまは、とても作れないなあ。これ、麻衣子? 琴子?」

 お母さんの対応にびっくりした麻衣子は、バグを連れて自分の部屋に行った。

「いったいどういうこと? バグのこと、本当の娘みたいに思ってるよ!?」
「本当の娘だもん」
 バグは、パソコンのキーを押した。
「なに?」
「お母さん、十五年前、パソコンの練習のために、日記つけてたのよ……ほら、ここ」
 麻衣子は、画面の文章を読んだ。字はパソコン文字だけど、文章は母のそれであった。

『今日、羊水検査の結果もらう。掛かり付けの下鳥先生に見せると言って、ドクター用ももらっちゃった! 思っていたとおりの女の子。生まれたら琴子にしよう。今度はしっかり紙に書いてパパにわたそ。麻衣子の時のようなドジやられちゃ、たまんない!』

「これ……」
「そう、琴子は、もともと生まれるはずの子だったんだよ……オネエチャン!」
 バグ、いや琴子の目は潤んで、涙が、かわいい頬の線を伝って落ちてきた。麻衣子も、涙で、目がぼやけてきた。
「琴子……て、そんなわけ!」
「目の前にあるじゃん……」

 麻衣子は、嬉しいのか怖ろしいのか分からない夢を見ている気になった……。
 
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スーパソコン バグ・7『できた……!』

2019-11-14 06:06:12 | ライトノベルベスト
スーパソコン バグ・7
『できた……!』       

 
 麻衣子は、商店街の福引きで、パソコンを当てて大喜び。そこにゲリラ豪雨と共にやってきた雷が直撃。一時は死んだかと思われたが、奇跡的にケガ一つ無し。ダメとは思ったが、パソコンが喋り始めた。不可抗力で、パソコンに「バグ」という名前を付けてしまう。そして生き甲斐のソフトボールができなくなった。でもって、アニキの龍太にもバグの存在を知られてしまい、そのアニキが事故で入院! バグの頼まれ物を持って帰る麻衣子であった。


 それを見るとバグは嬉しいようなホッとしたような、それでいて、なにか決心したような顔になった。

「これで、よかったのよね、この壊れたお掃除ロボットで?」
「……そう、この子よ」
「バグみたいに喋ったりするのかなあ?」
「もともと、その機能はついてるけど、この子のCPUは壊れてる」
「じゃ、なんに使うの?」
「わたしのスペック向上に使うの」
「バグ、あんた、まだ性能良くなるの!?」
「うん、自分でもよく分かんないけど、なんだか試さずにはいられないの。麻衣子手伝ってくれる?」
「いいわよ、難しいことはできないけど」

 それから麻衣子は、1/4サイズのバグに言われるままにUSBメモリーを差し込んで、バグから抜いた情報、主にCPUの部分的回復に関わることらしいのや、小学校の時作ったソーラーカーのオモチャの太陽電池を取り外してロボ掃除機に付けたり。あまり器用ではない麻衣子でも一時間ほどで、出来上がった。
「さあ、できたわよ」
「自分でもドキドキする。じゃ、いくわね……」 
 お掃除ロボのスイッチが入った。しかし、運転中のランプは点くけど、本体はウンともスンとも言わない。
「ねえ、なにも起こんないわよ」
「静かに。ロボの上を見ていて……」

 ラーメン一杯出来るほどの時間がして変化が現れた。ロボの上に、何やら白いモヤっとしたものが現れたかと思うと、それはしだいに女の子が、しゃがんだ姿になっていった。
 つまり、実物大のマユユが、そこに現れた!

「できた……!」

 等身大のマユユになったバグは、感激で涙を流していた。麻衣子もなんだか感動して涙が止まらなかった。

「でも、当面の問題が二つあるわ」
「え、なに?」
「まず、裸だってこと……」
「あ、ああ!」
 あまりの見事さに見とれていた麻衣子だが、落ち着いてみると、同性でもスッポンポンは恥ずかしい。麻衣子は、自分の服から適当に選んで渡した。
「あの、これ、どうやって身につけるのかなあ?」
 バグは、ブラの付け方もわからなかった。順番と身につけ方をいちいち教えるが、教えたことは、確実に、一発で学習した。
 もう一つの問題は、マユユそっくりということである。アニキが入院していて良かったと思った。
「ちょっと、インストールするわね……」
 バグの顔がぼかしが入ったようになり、やがて、全然違う顔になってきた。
 くやしいけど、麻衣子は「自分よりかわいい」と認めざるを得ないような顔だった。
「この顔は実在しないよね?」
「たぶん……AKBの選抜メンバーの顔集めて合成したから」
「声、なんとかならないかなあ」
「変なの?」
「うん、十何人がいっぺんに喋ってるみたい」
「あ、声は集めただけだから。合成するね……これでどう?」

――くそ、声だけ聞いても、確実にあたしよりカワイイ!――

「あ、まだ問題あるよ!?」
「え、なにが?」
「こんなに、実体化しちゃったら、今みたいにパソコンの中に入るってわけにいかないじゃないよ!」
「あ、それなら大丈夫」

 そういうと、バグは少し幼くなったような感じになった。

「今日から、あたし麻衣子の妹の琴子ってことでよろしく!」

 気軽に、嬉しそうに宣言するバグであった。

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スーパソコン バグ・6

2019-11-13 06:50:42 | ライトノベルベスト
スーパソコン バグ・6
『兄の病室』        

 
 
 
 麻衣子は、商店街の福引きで、パソコンを当てて大喜び。そこにゲリラ豪雨と共にやってきた雷が直撃。一時は死んだかと思われたが、奇跡的にケガ一つ無し。ダメと思ったパソコンが喋り始めた。不可抗力で、パソコンに「バグ」という名前を付けてしまう。そして生き甲斐のソフトボールができなくなった。でもって、アニキの龍太にもバグの存在を知られてしまい、そのアニキが事故で入院してしまった!


 なにか物言いたげな彼女の気配が気になり、麻衣子はもう一度部屋に戻った。

「なにか言い残してる?」
「あ……お願いしていいかな?」
 1/4サイズのバグは、本体であるパソコンの上に座ってモジモジしている。
「病院の行き帰りで、できることなら」
「病院の複雑ゴミのところに、壊れた『お掃除ロボット』が捨ててあるの。それを拾ってきてくれないかなあ……」
 恥ずかしそうにバグが言った。
「なんに使うの?」
「その子も、雷で故障して捨てられたんだけどね、あ、病院のコンピューターの記録から拾ったの……」
「ははあ……バグのお仲間なんだ。いいよ」
「あ、麻衣子が思ってるようなことじゃないから!」
「いいって、いいって、一人で居るときはバグだって寂しいだろうからね」
 気の良い麻衣子は、手のひらに、メモして忘れないようにした。

 病院は、バグがスマホにリンクしてナビしてくれるので、直ぐに分かった。

 そして、アニキの秘密も直ぐに分かった。
 病院に優奈さんが来てくれていたのである。ドアを開けて直ぐに分かった。明らかにお母さんがオジャマ虫であるが、お母さんは、そのことにちっとも気づいていない。そのもどかしさで、直ぐに優奈さんだと知れた。
「優奈さんですよね? 妹の麻衣子です。兄がお世話かけます。あ、お母さん頼まれた物、このバッグに一式入ってるから」
「ごくろうさん。でね……」
 お母さんの長話を、優奈さんはうまくかわした。
「噂はリョウタからも聞いてたわ。落雷じゃ大変だったのよね」
「奇跡的にピンピンしてます。まあ、普段のこころがけでしょうね、アニキ、どんなぶつかり方したのよ? 当てた車とか分かってるんでしょ、警察とかきてないの?」

「それがね」

 お母さんと優奈さんの言葉が重なった。一瞬間があって、年の功で、お母さんがしゃべり出した。
「停まってる車に自分でぶつかったのよ。スマホ見ながら、で、その拍子に十センチの路肩踏み外して、この通り」 
「アハハ、ばっかじゃネ。ふだん、あたしに歩きスマホ注意してるくせに」
 麻衣子は、つい数時間前オッサンに同じ注意をされたのを棚に上げて笑ってしまった。
「おまえが笑うんじゃねえよ!」
「それがね……こないだ、リョウタに冷たくして、それが気になってスマホとにらめっこしていたって。なんだか申し訳なくて」
「申し訳なんか悪くないですよ。だいたいアニキは、その……バカだから」
 さすがに、コンドームの件は口にはしなかった。龍太も、後ろめたさがあるのだろう、言い返してはこなかった。
 アニキの男としての値打ちはよく分かっているので、優奈の女の値打ちが際だって見えた。
 要するに釣り合わないのだ。
 優奈さんはちょっと崩したフェミニンボブで、細身のジーパンがよく似合う行動派に見えるが、話し方などから、落ち着いてオクユカシイ、イッパシの女性を感じさせた。
 麻衣子はちょこっとだけ雑談して失礼した。お母さんも入院の手続きのために、やっと腰を上げた。
「お母さん、手続き済んだら、さっさと帰るのよ」
「どうして?」
「オジャマ虫なの!」
「あ、そういうこと。じゃ、いっそう居なくっちゃ。ありゃ、基本的に龍太の片思いだからね。こんなことで負担に思ってもらっちゃ、気の毒だからね」
「まあ、そこは年の功に任せるけどね」
「ませたこと言ってんじゃないよ。これでも龍太の親なんだから、責任持たなくちゃね。あ、帰りに晩ご飯買っといて」
「へいへい、メンチカツはやめとくね。もう雷はこりごりだから」
 
 お母さんとは、一階のロビーで別れた。

 さあ、バグの頼まれごとやらなくっちゃ。と、ゴミ置き場に向かう麻衣子であった。




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スーパソコン バグ・5『兄貴の事故』

2019-11-12 06:30:52 | ライトノベルベスト
スーパソコン バグ・5
『兄貴の事故』       


 
 麻衣子は、商店街の福引きでパソコンを当てて大喜び。そこにゲリラ豪雨と共にやってきた雷が直撃。一時は死んだかと思われたが、奇跡的にケガ一つ無し。ダメと思ったパソコンが喋り始めた。不可抗力で、パソコンに「バグ」という名前を付けてしまう。そして生き甲斐のソフトボールができなくなった。でもって、アニキの龍太にもバグの存在を知られてしまった。


 しょんぼりと見学だけの部活の帰り道、珍しくお母さんからスマホがかかってきた。

――麻衣子大変よ、お兄ちゃんが入院しちゃった!――
「入院って、事故かなんか!?」
――くわしくは分からないけど交通事故。いま警察から連絡があったとこ――
「で、あたしは、どうしよう。病院行こうか!?」
――病院は、お母さんが行く。麻衣子はとりあえず帰ってきて待機してくれる?――

「あっぶねえ! 歩きながら、スマホ使うんじゃねえ!」

 通りすがりの自転車にぶつかりかけ、オッサンに怒られたが、麻衣子は意識もせずに家へ帰るため、駅へと急いだ。またスマホがかかってきた。
「お母さん!?」
――あたし、バグよ――
「なんだ、あんたか?」
――あんたかはないでしょ! 心配して電話したげたのに!――
「ごめん、で、なにか情報!?」
――病院のコンピューターとリンクしたの。右肩と右足の骨折。命に別状なし。詳しくは……――
「良かった、命には別状ないのね。じゃ、とりあえず家に帰るね」

 電車に乗って気づいた。バグの奴電話できるようになったんだ……それに、病院のコンピューターって、並以上のセキュリティーかかってるよね。あいつ、どうやって?

 と、あれこれ考えているうちに家に着いた。

「おかえりー!」
 バグがマユユの姿で声をかけてきた……ん?
「バグ、あんた3Dになってんじゃん……いや、それ以上だよ」
「ああ、ホログラムって言うの。3Dの究極進化系よ」
「それはいいんだけどさ、首だけってのは……」
「あ、ごめん気持ち悪いよね。じゃ、こんくらいで……」
 バグは、実物の1/4ぐらいの全身像になった。
「バグ、電話もできるようになったのね」
「うん、軽いもんよ。それより病院のコンピューターのセキュリティーの方が大変だった。がんこなコンピューターでね」
「で、どうやって?」
「病院の経理上のミスを見つけてね、税務署のコンピューターに言いつけるわよ、って言ったら教えてくれちゃった。アハハハ」
 
 少しバグが怖ろしく感じられた。まさにカワイイ顔してやるもんである。

「あ、もうじきお母さんから連絡有るだろうけど、これだけのもの用意しといて」
 バグは、入院について必要なものの一覧表を出してくれた。で、家のあちこちから用意したところでお母さんから電話があった。
「必要なもの言うからメモしてね」
「うん」
 麻衣子は、目の前にある用意のモノを見ながら、チェックした。
「以上、よろしく」
「あ、お母さん、印鑑ぬけてるよ」
「あ、ほんとだ。でも麻衣子、よく気がついたわね!?」
「あ、なんとなくいるんじゃないかなって……」
「ハハハ、麻衣子、案外いいお嫁さんになれるかもね。じゃ」
 電話の様子からも、アニキは大したことはないだろうと感じられた。
「じゃ、ちょっと行ってくるわね」
「うん、また、なんかあったら連絡するからね。あ、歩きスマホはするんじゃないわよ」

 なんだか、バグには見透かされているような気がする麻衣子であった。


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スーパソコン バグ・4

2019-11-11 05:57:42 | ライトノベルベスト
スーパソコン バグ・4  
治療に専念しろ       


 
 麻衣子は、商店街の福引きでパソコンを当てて大喜び。そこにゲリラ豪雨と共にやってきた雷が直撃。一時は死んだかと思われたが、奇跡的にケガ一つ無し。ダメとは思ったパソコンが喋り始めた。不可抗力で、パソコンに「バグ」という名前を付けてしまう。そして生き甲斐のソフトボールができなくなった。

 麻衣子は、ショックのあまりしばらく口がきけなくなってしまった……。

「麻衣子、しばらく部活休んで、治療に専念しろ」
 憧れのコーチである吉岡さんに、そう言われてしまったのだ。

 麻衣子の、ソフトの腕は、潜水艦(ナミの下)であった。それも高性能の原子力潜水艦。三年ぐらい一度もナミの上に姿を現さなくても潜っていられる……うまいことを言うもんだ。

 そのナミの下でも頑張れたのは、卒業生でもあり、野球部のエースでもあった吉岡コーチの存在があったればこそであった。雷に撃たれたときも、学校に連絡が来るや、担任よりも、顧問よりも、一番に駆けつけてくれたのも吉岡コーチだった。

「無事で良かった!」

 吉岡コーチの声は、神さまの声であった。
 
 その神さまが「しばらく部活休んで、治療に専念しろ」と言うのである。
「オレも、高二の時に肩を痛めて、二か月ほど野球が出来なくなったことがある。そういうときは普段できなかったことをやればいい。オレは、しばらく家の仕事を手伝って、家族の絆とチームプレーのなんたるかを学んだぞ」
 こんなスポコンマンガみたいな台詞を、他の人間が言ったら、そのキザさというか自己陶酔に呆れるか笑うかだが、吉岡コーチならばこそ真剣に聞けたし、ショックも大きかった。

「元気出しなよ。未来永劫会えなくなるってわけでもないんだし」
 
 家に帰るなり、バグは、顔色、表情、姿勢、ため息などから、麻衣子の心の中を読み取ってしまった。
「ありきたりに慰めないでよ、ありきたりのショックじゃないんだから」
「着替える前に、カーテンちゃんと閉めよう。斜め向かいのオッサンが見てるよ」
 麻衣子は、あやうくキャミを脱ぐとこだった。
「もう、変態オヤジ!」
 カーテンをピッチリ閉めると、下着まで着替えてTシャツと短パンになって、ベッドにひっくり返った。
「シャワーぐらい浴びてきたら」
「……そんな元気ないもん」
 壁際に寝返りうって、ブツブツ言った。

「元気出せ、峯岸麻衣子!」

「え……!?」
 吉岡コーチの声がしたのだ。
「こんな言葉でいいんなら、いつでも声かけてやるぞ」
「もう、マユユの顔で、吉岡コーチの声なんか出さないでよね!」
 モニターのマユユは、笑顔を崩して、ゆっくりとため息をついた。ため息はマユユだった。
「そう、その顔には、ため息が相応しいの……ってか、あんた、動画になってんじゃん!」
「え……あ、ほんとだ。気がつかなかった!」
「あんた、進化したのね……」
 バグは、嬉しいのかマユユの姿のまま、モニターの中ではしゃぎまくったり、ヘン顔したりした。
「それは、よした方がいいよ……マユユにヘン顔似合わないし、バク転するときはさ、スパッツ穿かなきゃダメだと思うよ」

「麻衣子、その動画どこからコピーしたんだ、YOU TUBEかニコ動か!?」

 アニキにも見えてしまったのだ!

「え、見えてんの?」
「うん、マユユのバク転なんか、めったに見られないもんな!」
「キャー、恥ずかしい!」
 バグが、両手で顔を隠した。
「わー、ちゃんと反応するんだ。まさか、本物とビデチャやってんじゃないだろうな!?」
「あ、これは……」
「こんにちはお兄さん。わたし期間限定のAKBのアバターなんです。ベータ版で、麻衣子さんにモニターになってもらってるだけで、あ、もう制限時間。じゃ、またね麻衣子!」
 バグは、それで電源を落としてしまった。

 進化するパソコン……てか。

 これも麻衣子の大きな悩みになりそうであった……。




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スーパソコン バグ・3

2019-11-10 06:13:24 | ライトノベルベスト
スーパソコン バグ・3
『進化系共同生活』       


 
 麻衣子は、商店街の福引きで、パソコンを当てて大喜び。そこにゲリラ豪雨と共にやってきた雷が直撃。一時は死んだかと思われたが、奇跡的にケガ一つ無し。ダメとは思ったが、麻衣子はパソコンに未練たっぷり……で、電源を入れたら、なんとパソコンがしゃべり出した!

 
 ええー、なんでソフトボールができなくなったの!?

 麻衣子は、思わず叫んだ。落雷の明くる日は念のため学校を休んだが、二日目には登校した。
 で、ソフトボールができなくなってしまった。

 ボールやバットを持つと手がしびれるのである。我慢してボールを投げると激痛が走り、ボールは五メートルも飛ばない。

 他のスポーツはなんでもない。サッカーボールでも、バレーボールでも平気で、体育の授業に差し障るようなことはなかった。ただ、ソフトの親類である、野球をしても、同じ症状が出る。
「こりゃ、落雷に遭った精神的なショックがもたらした一時的なアレルギー症状でしょう」
 市民病院の医者は、気楽に決めつけた。

 麻衣子は、違うと思った。

 そりゃあ、落雷したのがソフトボールの最中なら納得もできるが、麻衣子が落雷したのは、パソコンを福引きで当てて、ルンルンのときである。ショックでアレルギーになるのなら、パソコンでなければ理屈が合わない。
 で、パソコンは、女の子のお友だち風にしゃべり出すし、もう麻衣子の頭は、スクランブルエッグであった。

「これって、どーいうわけよ!?」  

 病院から帰るなり、パソコンにぶつけた。
「声大きい! あたしにも、分かんないわよ。なんでしゃべれるのか? 自分で考えるのか? 麻衣子がおかしくなっちゃったのか!?」
 パソコン自身も訳が分からず、ご機嫌が悪い。
「あんた、お婆ちゃんのお年玉だって見つけたじゃん。特殊な能力だよ。ちょっとは、あたしのために考えなさいよ!」
「考えてるわよ。もう三億二千十一万回も演算してみたわよ」
「もう、そんなにやって分からないなんて、あんたパチモンじゃないの!?」
「言ってくれるじゃない。じゃあ、暫定的な結論言ってやるわよ!」
「なんだ、一応の答はあるんじゃないよ。で、その暫定的結論って、なんなのよさ?」
「バグよ、バグ。雷によるショックで、あたしと麻衣子の両方に起こったバグよ!」
「なによ、それ。まるで病院のお医者さんが言うみたいに曖昧じゃんよ」
「少しはポジティブに考えてもいいと思うの。このバグって、けっこうクールだと思うんだけど!」
「いったい、どこがクールなのよ?」
 麻衣子は、無意識にキーをいくつか押した。
「ああ……」
「なによ!?」
「こうやって、お互い話ができるじゃん」
「はあ、これがいいこと。今時スマホでも喋るじゃん!」
「でもさ、あたしみたいに主体的にお喋りするって、ドコモのCMのスマホぐらいだよ……ちょっと、そんなにフテってないで、話聞きなよ」
 パソコンは麻衣子の関心を引くように点滅した。
「勝手に、しゃべってろ!」
「もう!」
「もうやだ、お兄ちゃんとでも話してなよ!」
 そう捨てぜりふを残して、ドアを開けようとすると、アニキが立っていた。

「お前、さっきから、なに独り言言ってんだよ。やっぱ、市民病院なんかじゃなくて、専門の先生に診てもらった方がいいぞ……」
 麻衣子は、アニキとパソコンを交互に見つめた。パソコンは渡辺真由のドアップの壁紙になってウインクしていた。
「おまえ、マユユなんか壁紙にすんなよ。おれのオシメンなんだからさ」
「だったらいいじゃん。少しは親近感湧くでしょ?」
「ドコモほどとは言わないけど、せめてお話でもできりゃな」

「オニイサマには、聞こえてないの……」

「あ、あの、少しストレス溜まってんの。アニキはそれより優奈さんのこと考えてて。ただし、ヤラシイコト抜きでね!」
「そんなこと、考えてねーよ!」
 アニキが閉めかけたドアを止めて麻衣子は続けた。
「優奈さんとマユユって、若い女の子って以外共通点ないね?」
「ウッセー、アイドルとリアルじゃ理想が違うんだよ!」
 そう言って、強引にドアを閉めた。

「あんた、喋れるのは……あたしだけ?」
「みたいね、アニキやお母さんとかに話しかけても通じないもん」
「これって、すてきなバグかもね……!」
「でしょ!?」

 お気楽な麻衣子は、やっとパソコンと意気投合した。

「じゃ、あんたに名前つけなきゃ!」
「もう、付いてるわよ」
 嫌そうな声で、パソコンが言った。
「え……?」
「さっき無意識に『BAGU』って打ったでしょ!?」
「あ、ああ……」

 バグと麻衣子の、おかしな進化系共同生活が始まってしまった……。


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スーパソコン バグ・2『雷模様の傷』

2019-11-09 06:46:18 | ライトノベルベスト
スーパソコン バグ・2
『雷模様の傷』       
 
 
 
 麻衣子は商店街の福引きでパソコンを当てて大喜び。そこにゲリラ豪雨と共にやってきた雷が直撃。一時は死んだかと思われたが、奇跡的にケガ一つ無し。ダメとは思ったが、麻衣子はパソコンに未練たっぷり。


 アニキは箱から出したパソコンとアクセサリー、取説を前にしてため息をついた。

「やっぱ、だめ……?」
「落雷に遭っちゃなあ……」

 外箱は、シルバーのロゴが黒くなっていただけだったけど、ボディーには雷模様の傷が入っていた。
「まあ、麻衣子の命の代わりになってくれたんだ。それだけでも感謝だな。とにかく危険だから電源絶対に入れんじゃねえぞ。じゃ、オレ出かけっから」
「優奈さんなら、もう絶望的だよ」
「なんで、優奈のこと知ってんだよ」
「ニイチャン、呟きながらメール打つのは、どうかと思うよ。三回メール打って返事返ってこなかったら脈無しだよ」
「うっせえ! 男は押しなんだよ!」

 そう言うと、アニキは汗を拭こうとポケットからハンカチを出した。同時に何かが落ちた。
「え……コンドーム。信じらんない!?」
「男のたしなみだ!」
「優奈さんに無理なことしないでよね。てか変なこと!『落雷命拾い少女、兄には法の裁きが落ちる!』なんて洒落にならないからね!」
 アニキは、もう相手にもならず、階段を降りていった。

 麻衣子も、パソコンに未練たっぷりだった。

「このギザギザ……なんとなくBUGに読める……けど、ダメモト……」
 麻衣子は、まずタップに電源コードを差し込んでみた。パソコンもアダプターも、家のブレーカーも、なんとも言わない。
 電源を入れるなと言われてるけど、ちょっと、いや、かなり未練……麻衣子は、生唾を飲み込み、汗を垂らし、震える指でパソコンのスイッチをいれ、反射的に部屋の外の階段まで逃げた。
 恐る恐る階段から顔を上げて、パソコンを見ると、モニターが青く光っていた。

「い、生きてんの……?」

『Im Fine!』
 とモニターに現れた。
『Where is here?』
「ヘアー?」
 麻衣子は、とっさのことで、英語の意味が分からない
『Japanese OK?』と打ってみた。
『日本語入力できます』
 と、答えてきた。
『音声入力とかできる?』

「モ・チ・ロ・ン!」

 パソコンが元気に答えた。ただし、いかにも人工音声。
「オプション・ヲ・エランデ・クダサイ」
 と、返してきた。
 速度や、音の高さの設定などがあったが、いろいろ煩わしそうなので、簡易設定で、「友だち」というのを選んだ。
「設定ありがとう。私の名前は『バグ』 あなたのことは麻衣子でいいわね!?」
「う、うん……」

 そう言ったきり、麻衣子は言葉が出てこなかった。

「麻衣子って、シャイなの?」
「あ……ちょっと驚いているだけ……かな?」
「ウフフ、可愛くっていいわよ。仲良くやりましょうね!」

 バグは、どうも元気ハツラツな性格のようだ。

「バグは、こんなにハイスペックなの?」
「とんでもない、テキチャしかできないフツーのパソコンだったわよさ。あたしも、よく分かんないけど、落雷の影響かな?」
「なんか、特殊な能力でも、あるの?」
「分かんないな。まだ、目が覚めたとこだし。挨拶代わりに、イッコ教えてあげるね。ハイ!」
 バグの画面に部屋の平面図が浮かび上がり、机の裏の下あたりで、ドットが点滅した。
「え、なんかあるの?」
「いいから、探してごらん」

 そこからは、なんと、正月にお婆ちゃんからもらって無くしたと思ったお年玉が出てきた……!




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スーパソコン バグ・1 『運命の雷』

2019-11-08 05:57:28 | ライトノベルベスト
スーパソコン バグ・1
『運命の雷』      



 また雨かよ……オデコに感じた雨粒を疎ましく思った。
 
 次の瞬間、突然の閃光があたしを貫いた……そして、気づいたのはベッドの上だった。

 最初はなにがなにか分からなかった。なんで病院のベッドにいるのか、自分になにがおこったのか……。

「ま、麻衣子!」
「あ、峯岸さん!」
 お母さんの声がひっくり返り、ナースのオネエサンはびっくりすると、二人同時にナースコールを力一杯押してドクターを呼んだ。そして、外したばかりのセンサーの端子やら、点滴やら、酸素吸入マスクをされた。
「そんなバカな、いま死亡診断書……ほんとだ!?」

 気づくと、わたしの両手は胸の上で組まれ、顔の横にはハンカチを少し大きくしたような白い布がずり落ちていた。その様子と、みんなの騒ぎよう、言うことを聞かない体……あたしはいったん死んだんじゃないかと思った。

 検査の結果、どこにも異常がないことが分かった。
 
 ただ、救急車で運ばれた時に心肺停止状態だったので、身ぐるみ剥がれて、AEDを何度もかけられ、人工呼吸のため肋骨を圧迫されて、あちこち痛かったことは確か。で、当然恥ずかしかった。

 だって、素っ裸だったんだよ! 大勢のドクターとナースの前で!

 検査が終わるころになって、いろんなことを思い出した。
 あたしは、部活が終わると、チャッチャと着替えて晩ご飯を買いに栄商店街に向かった。出来合いのトンカツなんかの総菜を買うと、ちょうど商店街のクーポンカードが満タンになった。

「オーシ、これで福引き一回!」

 くじ引きには弱い。ジュ-スの自販機のスロットルも当たったことがないし、年賀状のクジもサイテーの切手しか当たったことが無かった。
 でも、今日の部活はついていた。フェリペのソフボ部との練習試合。七回裏、わが神楽坂高の攻撃、4:1満塁のチャンスというか、サディスティックな神さまのイタズラか、惨敗とさよならホームランの境目……境目と思っているのは、この小説を読み始めたあなただけ。
 あたしを含め、メンバー、いや、試合会場にいたみんなが、この世の終わりと感じていた。

 なんせ、バッターボックスに入ったのは、入部以来、守備だけ人並み。試合と名の付くものでヒットを一本も打ったことがない、峯岸麻衣子……つまり、あたし。

 フェリペの守備も、キンチョーしまくりだったピッチャーも、明らかにリラックス。まあ、打順は運命……ってか、他の子が三振なんかしたら、もう傷ついちゃって、クラブどころか学校さえ辞めかねない状況だけど、あたしが討ち取られるのは、リンゴが木から落ちるように当然、あたしも含め誰も傷つかずに済む。
 ちょっちシニカルだけど、それが現実。

 しかし、ここで奇跡が起こった。

 フェリペのピッチャーが投球姿勢に入ったとたんに、とんでもない雷の音がした。ピッチャーは調子を崩され、そのまま力の入らないボールを、ストライクゾーンの真ん中に投げてきた。「しまった!」という顔と「しめた!」という顔が18.29m離れて交わされた。

 カキーン!

 バットは、ボールのど真ん中に当たり、セカンドをはるかに越えて、ホームランになった……!

 直後、三十分ほどのゲリラ豪雨。あたしは、人生で初めて「ツイテイル!」と、感じた。

 で、さっきの福引き。なんとあたしは一等賞を当ててしまった。一等の上に特等ってのがあって、バリ島旅行なんだけど、あたしは一等がよかった。
 一等は、最新型のパソコンだった。あたしは専用のパソコンを持っていない。

 福引きのオジサンに鐘を鳴らしてもらって、少々テレテレだったけど、チョー嬉しかった。で、そのあと、なんの前触れもなく太平洋ををひっくり返したような雨になった。あたしは、大きいレジ袋に入れてもらったパソコンを頭に載っけ、家まで100メートルあまりの道を急いだ。

 そして、運命の雷の直撃を受けてしまったのだった……。


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音に聞く高師浜のあだ波は・28『高師浜の潮騒が聞こえたような気がした……』

2019-10-19 06:30:10 | ライトノベルベスト
音に聞く高師浜のあだ波は・28
『高師浜の潮騒が聞こえたような気がした……』    高師浜駅


 
 ニコニコ運動が本来の目的を果たすことは無かった。

 姫乃は、挨拶されたり話しかけられたりすると分け隔てなく相手をする。
 相手はするけども、そこから先には進まない。
 姫乃にバリアーがあるわけやない。

「お、おはよう、阿田波さん」
「おはよう、〇〇君」
「え、えと、ええ天気やねえ」
「うん、今日の雪を『いい天気』と言える感性は素敵だと思うわ」
「え、あ、あ雪?」
 うろたえた男子は、あとが続かへん。

「おはよう姫乃さん!」
「うわー、男子から名前で挨拶されるの初めてよ!」
「お、おー、そうやったんか!」
「もう一回言ってもらえる」
 姫乃はサービスのつもりで、一歩前に出て、真っ直ぐ男子に向き合う。
「あ、えと……阿田波……姫乃さん……」
 まともに目の合った男子は、真っ赤な顔になるって、これも続かへん。

 二日目になると、挨拶する男子は半分に。三日目になると、いつものように目ぇそらして敬遠しよる。
 なんとも根性無しばっかし。

 そやけど、副産物があった。

 建て前は、クラス全員に向けての挨拶運動なんで、男子は、他の女子にもお義理で声を掛ける。
 声を掛けられた女子は、当たり前やけど、キチンと挨拶を返す。
 姫乃を相手の時とちがって、十回に一回くらいは会話が成立する。
 その会話が元になって、なんとカップルになりかけが三組もできた!

 念のため、あたしとすみれは外れてますねんけども……。

「ま、これでいいんでしょうね」
 姫乃は、なにやら悟った顔でニコニコしてる。

 四日目の今日も朝からの雪。

 古文の授業、カサカサと先生が黒板に字を書く音だけがしてる。
 窓は半分がた曇って、降りしきる雪だけが視界に入る。
「なんか、自分が空に昇っていくみたいやなあ~」
 視界一杯の雪、それが音もなく降り注いでくるので、そんな錯覚に陥る。
 大阪の雪は珍しいせいか、とってもふんわかした気分になる。
「ねえ、姫乃」
 一つ横の姫乃に声を掛ける。
 授業中になにしてんねんやろいう気持ちはあるねんけど、姫乃と、このふんわかを共有したくなった。
「そうね……ちょうどいい高さになってきたかな」
「高さ?」
 思わず窓から下を見た。
「あ、あれ?」
 いくら雪だと言っても、教室は、ただの四階。眼下ににはお気に入りの中庭が見えるはず……なんだけど。
 雪は、はるか下に向かって降って行くばかりで中庭はおろか、地上の気配がなにもない。

 え…………………………?

 不思議な気持ちいっぱいで横を向く。
 あたしの横には空いた席があるだけで、だれも座っていない。
 
 え、姫乃……ひめ……ひ……誰が座ってたんやろ?

 なにぼんやりしてんのん?

 もう一つ向こうのすみれが口の形だけで言う。

「畑中さん、34ページ読んで」
 先生に指名されて、おたおたと教科書を開く。

 高師浜の潮騒が聞こえたような気がした……。


 音に聞く高師浜のあだ波は・第一期 おしまい
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音に聞く高師浜のあだ波は・27『二月五日はニコニコの日』

2019-10-18 06:07:30 | ライトノベルベスト
音に聞く高師浜のあだ波は・27
『二月五日はニコニコの日』
      高師浜駅



 お医者さんに行こうと思ってた。

 トレーにラーメンとランチという女の子らしからぬ取り合わせを載せながら、姫乃が言う。
 姫乃は基本的には小食で、多い時でもランチ。たいていは麺類一つだけで、調子悪い時はサンドイッチに牛乳だけということもある。
 それが、まるで男子の昼ご飯。

「今までは調子悪かったん?」
 テーブルに着きながらすみれが聞く。ちなみに、すみれは大盛りカツ丼。弓道部やからこんなもん。
「う~ん、やっぱ、ボリュ-ムあったほうが美味しいわね」
 姫乃らしからぬ大口で、ラーメンをかっ込み、目を幸せのカマボコ形にした。

 一昨日で三年生の授業が終わって、食堂はゆったりしている。

 あたしらは、いつも三人揃って座りたいので座席の確保には苦労するんやけど、一昨日からは楽に座れてる。
「ねえ、思うんやけど……」
「「なに?」」
「三年生は姫乃に注目してたんとちゃう?」
「「え……?」」
「昼の食堂の暑苦しさて、ただの混雑やと思てたけど、このゆったり感は、それだけやないと思うわ」

 確かに、食堂は劇的に空いたというわけやない。

 それまで食堂を利用してなかったり時間帯をずらしてた一二年生が来るようになったので、実際に減った利用者は二割程度だろう。
「その三年の男子が姫乃のこと意識してたんとちゃうかなあ、なんとなく感じる圧が違う」
「そ、そんなことないよ~」
 姫乃が赤くなる。赤くなりながらもランチをかっ込んでる。
「そやかて、その食欲……」
「で、でもさ、そうだったとしても、ホッチとすみれにかもしれないじゃん」
「「それはない」」
 二人の声が揃た。

 あたしもすみれもブスではないけど、姫乃みたいな華がないのは十分承知してる。

 その日のホームルームで、男子が妙な提案をした。
「二月五日はニコニコの日なんやねんけど」
「え、ニコ動の日?」
「ちゃう、笑顔のニコニコや」
「なんやねん」
「二月五日でニコニコや」
「なんや語呂合わせか」
「それでもニコニコや」
「ほんまや、検索したら出てきたで!」
「それで、一日笑顔を心がけて、挨拶とかもキチンとしたらと思うねんけど」
 この掛け合いは、壁際男子の木村と滝川。
「ということで、とりあえず笑顔でやっていこうぜ!」
 ま、悪いことではないので、男子の勢いで決まりかけた。
「そんでも、五日は日曜やけど」
 すみれがニヤニヤしながら指摘した。
「ほ、ほんなら雨天順延や!」
 わけのわからん提案やけども、アハハハとクラス中が笑いに包まれて決定した。

 で、今朝から気色悪い!

「やあ、おはよう」「今日もええ天気」「オッス!」「メッス!」「今日も一日がんばろー!」
 とって付けたみたいな挨拶が飛び交う。壁際男子には似合わん笑顔。

 で、気ぃついた。

 男子の笑顔の半分は姫乃に向けられてるんやけど!
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音に聞く高師浜のあだ波は・26『十七日? 震災? あれから二十年?』

2019-10-17 06:50:50 | ライトノベルベスト
音に聞く高師浜のあだ波は・26
『十七日? 震災? あれから二十年?』
         高師浜駅


 

 

 阿倍野ホテルの最上階に着くと、エレベーター降りたとこから、あちこちにダークスーツのおじさんやらお兄さん。
 で、この部屋に案内されると、このおばさんがダークスーツ二人を従えて、ソファーに収まっていた。
「なるほど、あの子らによう似た雰囲気のお嬢さんたちですね……」
 あたしらについては、その一言があっただけ。あとは、先代と呼ばれるお爺さんの話が続く。
「あの子らの送り迎えが、唯一の楽しみやったんですわ」
 どうやら、先代と呼ばれるお爺さんは、孫らしい三人のお嬢さんの送り迎えを生き甲斐にしていたらしい。
「結果的には二人のお友だちを巻き添えに……」
 三人の内二人はお嬢さんのお友だち……あ、あたしらの関係といっしょや。
「あの日は、早朝練習の、そのまた準備のためにむちゃくちゃ早く出たんですわ……」
「その朝に限って、為三さんは運転できなかったんですねえ」
「ええ、家業ののっぴきならない事情でね……あの子たちも先代の車に乗るのを楽しみにしてましたからね……」
「送れないけど、迎えに行ってドライブする約束をしてらしたんですね……」
「俺が死なせたんやと、それは……」
「ま、これで、少しでも為三さんが浮かばれるんでしたら、このあたしも満足です」
「これで先代も成仏したことでしょう……」
 デヴィ夫人に似たおばさんは、浅く座ったソファーで背筋を伸ばしたまま話を閉じた。
 そのとたん、フリーズが解けたようにため息をついてしまった。すみれも姫乃もため息ついた感じで、普段ならコロコロと笑い出すシュチエーションやねんけど、三人ともかしこまったまま座っている。
 どうやら、為三さんという先代さんが、亡くなっているらしいけど、娘さんと、その友だちの送り迎えをしてあげるのが生き甲斐やったみたい。その車を、お祖母ちゃんが運転して、境遇の似たあたしらを乗せることで為三さんの供養にした。そんな感じ。
 でも、娘さんらは、なんで死んだ? 交通事故?
「震災から二十年、ちょうどいい区切りで往生したと思います。十七日に乙女さんに会えて、ほんまによかったです……」

 十七日? 震災? あれから二十年? それて阪神大震災? なんや、微妙に合わへん。
 阿倍野ホテル最上階の部屋は、お祖母ちゃんと、そのおばさんが主役やった。
 あれからも、お祖母ちゃんのお迎えは続いている。あいかわらず南海特急のような乗り心地のワンボックスカー。 「お祖母ちゃんも懲りひんねえ……」  今日からはもういいよ。そう言って家を出たので、もう来ないと思てた。  白のワンボックスに絡まれて、三人ともビビってしもたんで、お祖母ちゃんには断った。 「え、あ、そうやったかいなあ」  ボケたふりして、お祖母ちゃんは楽しそうに、あたしらを連れまわした。
 あれから四日。
 もうワンボックスに絡まれることもないので平和なドライブ、あたしらも、再び快適なドライブに慣れてきた。 ホテルに着くまでは、いつものドライブやと思てた。
 お祖母ちゃんは、車のキーを返そうとしたが「どうぞ、供養だと思って、これからも乗り続けてくださいな」
 そう言われて……再びワンボックスに収まっている。
「お祖母ちゃん、阪神大震災やったら、なんやおかしいよ。このワンボックス、どう見ても新車やで」
「トヨタの最新型で、年末に発売されたばかりです」
「フル装備で350万円やと思います」
 親友二人が、いつ調べたんか、つっこんでくる。
「そらそや、年の初めに納車されたとこやからなあ」
「おかしいやろ、お祖母ちゃん」
「為三さんは、この半年ほどはボケちゃっててね、娘さん三人は、まだ高校生で生きてると思てたんやねえ。それで、ちょうど送り迎えに最適な、この車を知って、納車された日に亡くなってしもた」

「「そうなんですか」」

「最後の言葉が『はよ迎えに行ってやらなら』やったそうや」
「そうなんや」
 あたしらはしみじみとしてしもた。
「じつは、去年、高石まで来たんよ、為三」
「え、なんで?」
「為やんは、むかしから、あたしの……」
「あ、読者やったん?」
「ホホ、あたしはモテたからなあ……その時に高師浜高校の近所で、あんたらを見かけたんや『乙女さん、さっき、かいらしい女学生見かけてなあ』嬉しそうに写メ見せてくれたら、あんたらや」
「そうやったん……」
「帰り際に、また同じ写メ見せよってな……『ほら、これが孫とそのお友だちや』て……」

 そこで話が途切れた。

 ルームミラとバックミラーを合わせ鏡にしてお祖母ちゃんの顔が見えた、お祖母ちゃんが泣いてるのを初めて見てしもた……。
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音に聞く高師浜のあだ波は・25『あたしらは目を背けた』

2019-10-16 06:39:21 | ライトノベルベスト
音に聞く高師浜のあだ波は・25
『あたしらは目を背けた』         高師浜駅


 
 
 ワンルームアパートがお屋敷になったみたいだ。

 お祖母ちゃんの新しい車は、そんな感じ。

 今までの軽自動車は四人乗りで、事実上は二人乗りやった。
 ま、うちがお祖母ちゃんとの二人暮らしやということもあるんやけど、四人乗るとすっごく窮屈。
 
 今度のワンボックスは、三列シートで、なんと九人まで乗れてしまう。
 もちろん、ゆったり乗るには六人くらいなんやけど、前の車の三倍の感じ。
 後ろの二列は対面式に出来て、感覚的には南海の特急電車。
 南海の特急は高石市にも羽衣にも停車せえへん。いっつも、ホームで電車待ちしてるあたしらを暴力的な速さでいたぶっていきよる。
 一瞬見える特急の乗客が「下がりおれ、下郎どもめ!」といういような目をしてるように思えてしまう。
 その特急感覚やから、もう、ザーマス言葉でオホホホてな感じで笑い出しそう。

「でも、毎日迎えに来ていただいて、なんだか申し訳ないです~」

 姫乃がヘタレ眉になって恐縮する。

 五日前、不慮の事故で三人揃ってジャージで帰らなくてはならなくなり、寒さに震えていると、ちょうど後ろにお祖母ちゃんがいて、乗っけてもらった。
 それからお祖母ちゃんは、下校時間になると、学校の角を一つ曲がった道路で待ってくれるようになった。
 この車のことは、何度も聞いたけど、ニコニコするばかりで、お祖母ちゃんは答えてはくれない。
 
「今日は、ちょっと高速にのるけど、ええかな」
 三人が頷くと、お祖母ちゃんは泉北高速への道へとハンドルをきった、
 お祖母ちゃんのお迎えは、寄り道をする。
 ほんのニ十分ほどやねんけど、高石の街中をゆったり走ってから、すみれと姫乃を送っていく。
 あたしらも乗り心地が特急電車なんで、放課後ひとときのドライブを楽しむってか、お喋りに興じる。
 もう少しで高速に乗ろうかという時に、シャコタンの白いボックスカーが並んできた。
 
「感じわる~」
 すみれが眉を顰める。
「スモークガラスで、中見えないね……」
 姫乃が気弱そうにつぶやく。
 お祖母ちゃんは、やり過ごそうと速度を落とした。
 すると、白は、スーッと前に出たかと思うと、あたしらの前に出て停めよった。
「年寄りと女子高生だけや思て舐めとるなあ、あんたら出たらあかんで……」
 そういうと、お祖母ちゃんはシートベルトを外してドアを開けた。
「お、お祖母ちゃん!」
 お祖母ちゃんは、ゆっくりと白に近寄って行く。白のドアが開いて人相の悪いニイチャンが二人出てきた。
 お祖母ちゃんは腕を組んで二人を睨みつけてる。二人組がカサにかかって喚いてるけど、車の遮音が効いてるので言葉の内容までは分からへん。しかし、かなりヤバイというのは見てるだけで分かる。
「こ、これヤバいよ……」
「つ、通報しようか……」

 すると、あたしらの車の後方からダークスーツの男の人が現れて、あっという間に二人組をノシテしまった!

 白の車は、二人を残したまま急発進、二つ向こうの交差点を曲がり損ねた。

 ドッカーン!

 信号機のポールにぶつかってひっくり返った。
「「「うわーーー!」」」
 あたしらは目を背けた。
 目を開けると、お祖母ちゃんが戻ってくるとこで、ダークスーツも二人組の姿も無かった。
「ほんなら、いこか」
 そう言いながら、いつのまに買ったのか温かい缶コーヒーを配ってくれて、今までで一番長いドライブに発進した……。
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音に聞く高師浜のあだ波は・24『視聴覚教室の掃除当番・2』

2019-10-15 06:23:38 | ライトノベルベスト
音に聞く高師浜のあだ波は・24
『視聴覚教室の掃除当番・2』
         高師浜駅



 

 スカートが短いからや!

 こういう怒り方は理不尽やと思う。でも、あたしが地雷を踏んだからや。


 今日は、今学期二回目の視聴覚教室の掃除当番。
 で、今日は午後から使った授業も無くて、前回と違って冷蔵庫の中のように冷え切っておりました。
 で、こんな日に限って、視聴覚教室は汚れまくり。
「もー、なんで視聴覚教室にジュースのこぼれたあとがあるんよ!」 
 
 ゴシゴシ ゴシゴシ ゴシゴシ ゴシゴシ

 すみれがむくれながらモップをかけてる。
 ジュースだけやない、視聴覚教室の床は紙屑やら花吹雪のカスやらクラッカーのカスやら花びらやらでゴミ箱をぶちまけたみたいになってる。
「これは三年生やなあ」
 あたしは推論を述べる。
「え、なんで三年生なんですか?」
 姫乃が丁寧な言葉で聞いてくる。姫乃が怒ったら言葉遣いが丁寧になるのを発見したけど、今の事態には関係ないのでスルー。
「三年生て、もうほとんど授業終わりやんか。授業によっては、お別れパーティーみたいになってるのもあるらしいよ」
「そうなんですか、でも、一応は授業なんだから、宴会グッズやら飲食物の持ち込みはいかがなものなんでしょうね……」

 ボキ!

 姫乃のモップの柄が折れた。御立腹マックスの様子。
「ジュース汚れは、コツがあるんよ」
 すみれは、モップをボトボトに濡らして駆けつけた。
「そんなに濡らして大丈夫?」
「こうやってね、とりあえずは汚れをビチャビチャにしとく」
 なんや見てると、すみれも頭にきてるように見える。汚れを拭いてるんやなくて、やけくそで水浸しにしてるだけに見えるねんもん。
「ほんなら、端の方から堅絞りのモップで拭いていって!」
 視聴覚教室の最前列で、すみれが叫ぶ。
「こんなんで……」
「あ、嘘みたい!」
 姫乃の声のトーンが変わった。コテコテやったジュース汚れが一拭きできれいになっていくではないか!
「ジュースは水溶性やから、水でふやかしてからやると楽にやれるんよ」
「なんで、こんな賢いこと知ってるんよさ!」
「弓道部やってると、いろんなことが身に付くんよ」

 すみれのお蔭で、なんとか十五分ほどで掃除は終わった。
 
 で、事件はここから。

 掃除を終えて、三人で下足室に向かった。
 下足室へは五十メートルほどの直線の廊下。
 ここは、隣のクラスが掃除の担当で、まだ掃除の真っ最中。四人の生徒がモップがけをしている。
 やっぱり汚れがひどいようで悪戦苦闘してる。あたしらは、邪魔にならないように、そろりと歩く。

「「「キャー!」」」

 三人仲良く悲鳴を上げてひっくり返る。
 普通に歩いていた廊下が急にヌルヌルになって、スッテンコロリンになってしもた。
 悲劇はそれだけでは無かった。
「ウワーー!」
 すみれがバケツを蹴倒してしまい、あたしらが転んだところを中心に水浸しになってしまった。
「わーー、ごめんなさい!」
 掃除してた子らは謝ってくれたけど、あたしら三人はお尻を中心としてビッチャビチャ。
 普通やったら怒るんやけど、あたしらもジュース汚れで苦労してきたところなんで「ドンマイドンマイ」と引きつりながら下足室へ。

「ちょっと、これは風邪ひくでえ、クシュン!」

 校舎の中にいてもこの寒さ。濡れたままで帰ったら、確実に肺炎や。
「これは体操服にでも着替えて帰るしかないなあ」
「でも、それだと異装になるから怒られるんじゃない?」
 うちの学校、制服の着こなしには、あまりうるさいことは言わないけど、制服ではないものを着用していることにはうるさい。たとえ校門を無事に出ても、駅とかでは下校指導の先生がいたりする。あんな一般ピープルが大勢いてる中で怒られるのは願い下げや。
「事情言うて異装許可もらおか」
 
 で、三人揃って生活指導室へ向かった。

「スカートが短いからじゃ!」
 生活指導部長の真田先生に怒鳴られた。
 状況を的確に表現しよと思て「パンツまでビショビショなんです」と言うたことへのご返答。
 どうやら真田先生は、制服の乱れに思うところがあったようで、あたしは地雷を踏んでしもたみたいや。
「でも、ふざけたわけやなし、この子らも災難やったんですから……」
 居合わせた学年主任の畑中先生がとりなしてくれる。

「ジャージ一枚いうのは、スースーするなあ」

 とりあえず異装許可をもらって家路につく。
 ジャージ姿というのは目立つ上に寒い。いちおうマフラーやら手袋の装備は身に付けてるんやけど、この季節にはどうもね。
「ね、いっそランニングしよか」
 すみれが提案。
「ジャージ姿やねんから、元気に走った方が目立てへんで」
 さすがは弓道部、日ごろの部活から出たアイデアや。

 いち、いちに、そーれ!

 掛け声も勇ましく三人は走り出した。
 しかし、五百メートルほどは景気がええねんけど、運動部ではない姫乃とあたしはアゴが出てくる。
 へたりながら走ってると、これまた目立つ。
「ジャージにローファーいうのんもなあ……」
 足まで痛くなってきた。

 プップー

 横一列やったのが迷惑やったのか、後ろでクラクションを鳴らされた。
「「「すみなせーん」」」
 と、恭順の意を示すと「「「あ?」」」という声になった。

「お祖母ちゃん!?」

 なんと、見たこともないワンボックスカーの運転席でお祖母ちゃんがニコニコしてるやおまへんか!
「いやーー助かったわ!」
 いそいそと三人で三列シートに収まって安堵のため息。
「えと、そやけど、この車どないしたん?」
 いつもの軽ではないことの疑問をぶつける。

「アハハ、ちょっとワケありでなあ~」

 お祖母ちゃんは不敵に笑うのでありました……。

 
  
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