大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・072『大晦日の奇跡』

2023-12-31 11:29:31 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
072『大晦日の奇跡』   




 嫌々待っても同じなので家の前を掃除する。


 家の前は少しだけ世界が広い。

 道路を挟んで寿川があるから、そのぶん空間が広いんだ。川の向こう側を合わせると15メートルほど。15メートルというのは学校のプールの横幅と同じ。その少し広い空間に身を置いていると、家の中に居るよりも健康的。

 それに、掃除をしているとアグレッシブになれる。体を動かすから、それだけで元気になれる。

 元気になれば、クソババアが来てもポテンシャルが高くて耐性が高くなる。

 まあ、女子高生のチンケな耐性なんか、あのリベラルモンスターの前じゃ知れたものなんだけど、家の中でモンモンとしてるよりはマシ。

 宅配の車が二台通って、今度も宅配かと思ったらタクシー。

 で、タクシーから出てきたのが……クソババア……なんだけど、ちょっと様子が変。


「おや、メグリ、すっかり娘さんらしくなったじゃないのぉ(^□^)」

 品よく口元を綻ばせて、お世辞なんだろうけど、わたしを褒めたよ。

 記憶の中にあるクソババアは、いつも上から見下ろして――フン――と鼻であしらう感じ。機嫌のいい時でも「オッス」とか「ヨ」とかしか言わなかった。

 それに、取り巻きが一人もいない。

 いつもは、マスコミとか党関係者とかがくっ付いていていた、それがたった一人でやってきた。クソババアが家にやって来るのは、お祖母ちゃんを興奮させて、発散させた魔法少女オーラを自分にも取り巻きにも浴びさせるためだからね。

「ひ、一人なの?」

「うん、おねえちゃん居るよね?」

「え、あ、うん。お祖母ちゃーーん!」

 子どもみたいに箒を持ったまま玄関開けてお祖母ちゃんを呼ばわった。


 大人しめのコートを脱いだクソババアはいつもの白の立襟スーツじゃなかった。コートと同じくらい大人しい、でもセンスのいいセーターだ。

 お祖母ちゃんは、わたしみたいに驚いたりはしない。

 微妙に不機嫌だけど「そう、やっぱり行くのね」「水が変わるから気を付けてね」とか変なこと言ってる。

「どうぞ、ごゆっくり」

 いちおう社交辞令100%のお愛想を言ってお茶を出す。

「今川焼買ってきたの、メグリもいっしょに食べようよ」

 断るのも無用に角が立つので斜め横に腰掛ける。

「で、出発は?」

「四日の朝、それまでは新年のあいさつ兼ねてあちこち」

「そう、でも、よく決心したわねえ」

「うん、台湾に支店を置くなら今しかないって、旦那も言うし。あの人の事業の集大成でもあるし」

「社名は?」

「そのままよ、あ、これ、あっちで使う名詞」

 クソババアがテーブルに置いた名刺には『加藤物産公司 副社長 加藤徒』とプリントしてある。

 え、ずっと独身だったから時司徒のはずなのに。

 
「ちょっとね、歴史が変わったのよ」


 冷めた今川焼をレンジにかけながらお祖母ちゃん。

「歴史が?」

「うん……」

 少しの間沈黙して、もう一枚名刺を出すお祖母ちゃん。
 
「加藤物産公司 社長 加藤高明……え?」

「あとはネットで検索してごらん」


 チン!


 先にお食べと言われ、温め直した今川焼を持って自分の部屋へ。

 パソコンで『加藤貿易』をググってみる。

 1990年創設、資本金1000万円。

 社長・加藤高明

 そして、社長の写真は、ちょっと老けてはいるけども。

 クリスマスイブの集いで、嫌がらせにインターナショナルを合唱していた三年生をブチノメシてきた10円男そのものだった( ゚Д゚)!


☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
  
 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第36話《ボンヤリの功罪》

2023-12-31 08:57:41 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第36話《ボンヤリの功罪》さつき 




 後期試験も終わったせいか、学食で列に並んだり、駅のホームで電車を待ったり、横断歩道で信号待ちのほんの数十秒間でも、ついボンヤリしてしまう。


 去年は色々あった。


 バイト仲間の秋元君や聡子ちゃん、修学院演劇部OBの島田さん、作家の大橋さん、妹のさくら、年末のっそりと帰ってきたソーニィ……程度の差はあるけど、みんな人生の曲がり角、あるいはステップアップの位置に付いている。

 犬養のおいちゃんのお葬式では「自転車に乗ったら世界が変わる」というおいちゃんの言葉を思い出した。
 おいちゃんに稽古つけてもらって自転車に乗れるようになって、駅の向こう側にも行くようになった。豪徳寺に住みながら一度も行ったことが無かった豪徳寺にも行った。半径二キロくらいのところを探検しまくって、我が町世田谷の広さを知った。

 場所だけじゃない、自転車漕ぐと風を感じられた。普通の風じゃない、自分がペダルを漕いで、言ってみれば自分で稼いだ風。

 自転車に乗れるようになるまでは、風は向こうから吹いてくるものだったけど、自転車の風は、自分で稼いだ風だ。

 むろん、子どもの自転車、せいぜい速度は15キロぐらいのものだろうね。

 でも、自分の風だった。自分で稼いだ風だった。


 愚妹のさくらが、どういうわけか、一カ月足らずで女優兼モデルのハシクレになった。

 さくらは、女の子を10人集めたら5番目ぐらいの子。けして道行く人たちが、すれ違いざまに振り返るようなミテクレではない。それが渋谷でネーチャンとオッサンのケンカを見ているときのビックリ顔がスカウトの目に止まり、持ち前の「その場しのぎ根性」も幸いして、エキストラながら本番中にかましたアドリブが、主役や監督の目に新鮮に映り、にわかに、それらしくなってしまった。

 さくらは、一見、向こうから吹いてきた風に乗ってるようだけど、要所要所では自分でペダルを漕いでいる、自分で風を起こしている。無自覚だけどね。

 ああいう無自覚には思いもかけぬ天佑神助があるのかもしれない。


 そんなことをポワポワ考えている間に、信号を読み違えた。


 なんと、反対の道路の青信号を、こっちの青信号と見誤って渡ってしまった! 当然の如く、あたしは車に撥ねられた。

 撥ねた車が目の前に見えた。四駆の迷彩車体、バンパーに○○の文字。ああ、よりにもよって自衛隊員の妹が自衛隊の車に跳ねられるとは……。

 すると、車から外人さんが降りてきた。直感で、フランス人と思ったのは、第二外語がフランス語であることや、クレルモン大への留学を考えていたせいかもしれない。だって、ありえない、フランス人の自衛隊員なんて……。


「Vous est-ce qu'un Français est pourquoi? (なんで、フランス人が?)」

「Est-ce qu'il n'y a pas toute blessure? (怪我はしてませんか?)」


 そこで、意識が飛んだ。気が付いたら病院のベッドだった。


「Il est-ce qu'un hôpital français est ici?(ここは、フランスの病院?)」

「C'est un hôpital japonais. (日本の病院)Vous est-ce qu'une personne d'un pays est de cela qui? (君はどこの国の人?)」

「Il est un japonais.(日本人よ)」

「C'est vrai!?  ああ、なんだ、フランス語を喋るアジア系の外国人だと思ってた!」

 と、へんなフランス人が、日本人の表情で言った。


「おい、レオタード、ちょっと」


 三尉の階級章をつけた幹部が、彼を呼んだ。入れ替わりに一尉の幹部の人が入ってきた。


「部下の不始末、申し訳ありません」

「いいえ、あたしが赤信号で飛び出したのがいけないんです。あの人のせいじゃありません」

「いや、どんな場合でも自衛官たるもの即応できなければなりませんから」

 その時、彼が緊張した顔で入ってきた。

「これから現場検証に臨場いたします。お嬢さんには、改めて……」

「あ、あたしもいきます!」

「いけません。貴女は念のため二十四時間安静です!」

「じゃ、せめて名前を」

「……です。じゃ」

 早口で分からなかった、それを察して一尉の幹部の人がメモに書いてくれた。


――Claude Leotard ――


「クロード レオタール……?」

「あ、クロウドと発音します。感じでは蔵人。父がフランス人で、母が日本人です」

「あ、それで。あ、どうぞお楽にしてください。わたし自衛隊のことは理解しています。兄が海上自衛隊なんです」

「あ、そうなんですか」


 緊張は崩さなかったが、明らかに親近感が目に浮かぶのが分かった。


 これが、緊張一尉さんと(なんたって、下の名前言うの忘れてる)一等陸士クロウドとの出会いだった。


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・071『お祖母ちゃんの大掃除』

2023-12-30 12:00:51 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
071『お祖母ちゃんの大掃除』   




 ええ、なんでえ!?


 リビングに下りてびっくりした。

 お祖母ちゃんが大掃除をやっている!

 床やらテーブルやら棚やらにオキッパになっていたガラクタだか呪物だか分からないものやら、読みかけの雑誌や魔導書やら、畳んだだけでほったらかしのネット通販の段ボールやらがまとめられ、何カ月ぶり、何年かぶりで現れた床とかを。一生懸命掃除機かけてる!

「あ、遮音にしといたんだけど、二階にも聞こえた(^_^;)?」

「いま気づいたとこぉ」

 魔法少女は魔女とは違うけど、魔法を使うんで、いろんなアイテムやら呪物が家中にある。
 たまに片づけというか、アイテムの配置換えをやる。
 お客さま、特に人間のお客さまがある時は、掃除めいたこともやるんだけど、魔法を使って一瞬でやってしまう。

 それが、今朝のお祖母ちゃんは、まるで普通の人間みたいにアナログで大掃除をやっているんだ。

「徒(かける)が来るんだよっ」

「ゲ、あのクソババア( ゚Д゚)」

 オゾケが走った。

 徒っていうのはお祖母ちゃんの妹で、お母さん同様、魔法少女にはならなかったんだけど、化物になった。

 若いころに朝夕新聞に入って論説委員っていう偉いのか怪しいのか分からない役職を勤めて、わたしが生まれた年には労民党ってとこから立候補して政治家になった。
 憲法改正に反対したり、沖縄に座り込みにいったり、あちこち、デモやら講演会に呼ばれたり、左翼とかリベラルとかでは名前の売れたクソババア!

 お祖母ちゃんとは年子だとかで、魔法少女の血も流れてるから、実年齢よりはウント若く見えるし、じっさい若い。

 記者時代には彼女をモデルにした映画も出来て、なんと自分で主演した。その後も二三本映画に出たり情報番組のレギュラーになったり。

 そんなこんなで学生時代からファンが多くて、リベラルのジャンヌダルクとかローザルクセンブルクとか呼ばれて、カケリストって呼ばれてる男のファンからは女神さまのように崇められているんだそーよ。

 気まぐれにやって来ては、お祖母ちゃんを権力の犬とか言ってケンカをふっかけてた。たいていマスコミだか政治家だかの友だちも同伴。

 べつに姉のお祖母ちゃんが恋しいとか姪のお母さんを可愛がるとか、まして、その娘のわたしの成長を愛でようとかの可愛らしい理由じゃない。

 お祖母ちゃんを怒らせたり悲しませたりすると魔法少女のオーラが出るんだ。

 そのオーラが、自分にもお仲間にもいいらしい。「お日様にあたるとセロトニンが生成されるようなのだよ」とお祖母ちゃんは――ヤレヤレ――という顔で言う。

 お祖母ちゃんは、文句も言わず、魔法も使わずに、このクソ妹の相手をしてやってたけど、本心では持て余してる。

 日ごろは絶対に話題にしない。だから、わたしもめったに思い出さない。

 そのクソババアが、年の瀬の押し詰まった大晦日にやってくる!

 せっかく『クリスマスイブの集い』で気持ちよく令和5年を締めくくれたというのに!

「お祖母ちゃん、明日は出かけてていい!?」

「だめ、メグリも居なさい(ㅍ_ㅍ) 」

 ちょっと……かんべんして……ジト目で見るのやめて……

 

☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
  
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第35話《さくら女優になる》

2023-12-30 07:40:37 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第35話《さくら女優になる》さくら 





 一機のゼロ戦がグラマンに追いかけ回されている。


 そこに、お寺の鐘が一発ゴ~ンと鳴り、グラマンが墜ちていく。


 おお!


 お寺の鐘がグラマンを墜とした……みたいに見える。


 カットバックで、お寺の鐘が金属供出で運び出される供養。お寺の鐘は、その撞き収めだった。そして、上空では、グラマンを仕留めた別のゼロ戦が雲の中から出てきて、お寺の鐘が墜としたわけではないと知れる。墜としたゼロ戦は仲間を気遣って助けたゼロ戦に寄り添っていく。

 パチパチパチパチパチパチ!!

 供養に集まった村人や疎開児童たちは、引き下ろされる鐘よりもゼロ戦に目がいって、大拍手。

 一人涙にくれる住職の池島潤慶。その肩をそっと叩いて慰める池島潤子……つまり、わたし!


 エキストラの演技がよかったので、池島潤子はエキストラから一躍正規の役になった。


 追加場面は三つ。


 最初が、さっきの映画の冒頭、お寺の鐘でグラマンが墜ちたように見え、その鐘が金属供出に出されるシーン。


 二つ目は、川辺で坂井少尉のことを心配する幸子に潤子が話しかけるところ。


「この川、飛び込んでも死ねないわよ」

 もともと農業用水の小川は、ここのところの渇水でほとんど干上がっている。

「飛び込むときは、大川にするわ」

「迷惑よ、最近の坊主は忙しいんだからぁ」

 傍らの橋の上を戦死者の遺骨を弔う葬列。先頭に大汗かいた潤慶和尚。二人立ち上がって合掌。

「今日は、あれで三件目」

「大繁盛ね」

「不謹慎よ」

「ごめん」

「最近は、お布施も薩摩芋。それも、すぐに疎開児童のお腹におさまっちゃう」

「潤ちゃんも不謹慎」

「これは、功徳ってもんよ。ルリちゃん、坂井さんのこと心配なんでしょ?」

「知らない……!」

「人間は、誰でも、いつかは死んで極楽にいく。遅いか早いかだけ」

「簡単に言わないで。あたし極楽なんか信じていないから」

「極楽はパラダイスじゃないよ、ゼロの言い換え。親鸞さんは、そう言ってる……と、あたしは感じる」

「ゼロ?」

「ゼロって、見ることも触ることもできない。X=0 Y=0の点書ける?」

「う、うん……」

 幸子は、地面に十字を書き、横軸にX、縦軸にYと書いた。

「これはゼロじゃないよ。だって、目に見えるから面積持ってるじゃない。ゼロには面積も体積もない」

「どういうこと?」

「簡単に言うと、ゼロって全ての始まりでしょ。幾何で原点と言えばゼロのこと。そして終わりでもある。1-1=0。で、始まりにしろ終わりにしろ、見ることは出来ない。ただ感じることができるだけ。で、感じられるのは人間だけ。だから悩みもするけど、救いにもなる」

「なんだか屁理屈みたいだけど、潤ちゃんが言うと……」

「立派に聞こえるでしょ?」

「面白い!」

「「アハハハハ」」

 二人が笑って、カメラが振り仰ぐと入道雲と青空を背景にトンビがクルリと輪を描いた。


 そして、三つ目のシーンは、八月十四日の空襲。


 至近弾で、あたしの潤子は瀕死の重傷。

「潤ちゃん、しっかりして!」

「……いいよ……あたしはゼロになる……ちょっと痛いけどね……」

 で、あっさり死んじゃう。坂井少尉のゼロ戦も爆撃でやられ、出撃できなくなり、明くる日の終戦になる。


 時間にして、合計5分ほど。だけど、新人としては美味しい。


 かくして、あたしは自覚もないまま女優になってしまった。



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
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銀河太平記・197『お岩食堂のレトロテレビ』

2023-12-29 14:49:32 | 小説4
・197
『お岩食堂のレトロテレビ』お岩 




 中華メニューを始めたら妙なことになった。


 いや、なにね、漢明が占領を解いて、軍人を引き上げさせ、代わりに連絡員を置いて行った。ほんの10人前後なんで、食事とかはレプリケーターで済ませているんだ。

 レプリケーターは、メニューを選んでボタンを押したら10秒で大昔のレンジみたいな「チン」の音をさてご飯もおかずも出てくる。古い日本語では食餌合成機っていうんだよ。

「え、食事じゃねえのか?」

 最近漢字を覚え始めたハナが指を立てる。

「ううん、食餌さ」

「それって、大昔の病院のご飯のことだよね」

 さすがにメグミは知っている。

「ええ、餌(えさ)なのかよぉ(^_^;)」

「だからさ、中華メニューも作ったんじゃないか。あ、そっちのテーブルもカタしといて」

「ええ、もう巫女服着てんだけどぉ」

「エプロンすりゃあいいだろがぁ、あ、メグは、まだゆっくりしてるといいさ」

「いいわよ、本務以外の事やるのもいい休憩になるから」

「そうかい、済まないねえ」

 そう言って、メグとハナは、ついさっきまで漢明の連絡員たちが使っていた座敷を片付けに行く。

 座敷は六畳が二つ。ちゃぶ台が四つ置いてあって、レトロな茶の間の雰囲気にしてある。

 ちょっとした遊び心でやってみたんだけど、意外なことに漢明の子たちに人気で、いつも、ここで食事をしていく。
 で、お気に入りが日本の家庭料理というんだから恐れ入る。
 まあ、中華の方も島の人間やゲストには人気で、まあ、無駄にもなっていないからいいんだけどね。

「お岩さん、カタしたら、ちょっと横になってていい?」

「いいよ、ランチまではヒマだしねえ」

 カタンカタン バサ バフ プチ

 ちゃぶ台の脚を畳む音、座布団を並べて横になる気配、テレビが点く音もして、あっぱれ日本のくつろぎタイムの雰囲気が出来あがる。テレビは、AIが生成しているということさえ忘れてしまえば、古典的なワイドショーのスタイルで周回遅れのニュースを流している。

 まあニュース性なんかは二の次、雰囲気を楽しむものだからねえ。でも、リアルタイムで見逃したトピックスなんかに、面白いのがあって、ちゃぶ台共々、食堂の人気アイテムなのさ。

 ええええ!?

 メグがワイドショーのゲストに贔屓のアイドルが出てきたような声を上げる。

「お岩さん、ちょ、スゴイよぉ!」

「え、なにぃ?」

 カウンターから首を出すと、テレビは漢明のトピックスを流している。


――昨年PI措置をして新ボディーになった劉宏大統領は、大連工業地帯の視察を行いましたが、視察先の工場でとても珍しいものを発見しました――

『いや、お恥ずかしい、なんだか昔の友だちに出会った感じです!』

 なんせ、新ボディーは大統領秘書だった王春華だ。王春華だったころは、秘書らしいショ-トボブの髪型に硬いスーツ姿だったけど、今は、ロングにしたりポニテにしたり、ファッションも軽やかで、フォーマルな時以外は活発な女子学生という雰囲気さ。

 その劉宏が、頬を染めて指さした先には、埃まみれのマイドがガラクタに混じって見えている。

『マイドは、漢明と日本が緊張状態になる前、日本の大阪で開発された超小型のパルスボートです。漢明や大陸では大型のピックアップボートが一般的だったんですが、このドアツードアをコンセプトに開発されたマイドは、積載量は一トンですが、静粛性、運動性能、航続距離に優れていて、なによりも可愛い!』

 埃がたつのも気にせずマイドを撫でまわす姿は、ちょっと反則なぐらいにチャーミングだ。

『ねえ、工場長、これ譲ってください。ちゃんと時価で買わせてもらいますからぁ!』

 工場長にカメラが振られると『いや、差し上げます(^_^;)』と言うのを『ダメです、ちょっとハンベで検索……こんなもので、どうですか?』とカメラにハンベを向ける。

 ハンベには、このお岩が見ても妥当な金額が示され……いや、エンジンやら、あちこちのオーバーホールを考えたら少し高い金額が示されている。


「いやあ、懐かしいなあ」

 
 いつの間にか、社長(睦仁親王殿下)が入り口に立っている。

「殿下、ひょっとして、今から朝ごはんかい?」

「あ、申しわけない。打合せを先に済ませたら、こんな時間になって(^_^;)」

「簡単なものしか作れないけど?」

「ああ、なんならご飯にカツ節かけたのでもいいよ」

「そんなネコマンマみたいなのは作らないさ、十分ほど待ってて」

「うん、じゃあ、座敷で待たせてもらう。メグミさん、お邪魔します」

 やっぱり畳敷きは人気だ。

「あ、殿下、いや社長、劉宏がこんな玩具を見つけましたよ!」

「あ、ああ……マイドじゃないですか! ボク、このプロトタイプの制作に関わってましたよ!」

「ええ!?」「そうなのか、社長!?」

「うん、金剛山に天狗……いや、東大阪工業組合の研究室があって、そこで居候している時に、マイドの試作機作っていてねぇ、ちょこっとだけ手伝いました。劉宏大統領も見かけは変わったけど、りっぱなオッサン趣味だねえ(^_^;)」

「こんなちっこい乗り物のどこがいいんだぁ」

「スピードは出ないけど燃費がいいから、衛星軌道からのシャトルにも使えるんだよぉ、そうだ、ちょっとハナに似てるかもよ」

「え、そうなのか(n*´ω`*n)」

「そうだね、ハナは整備助手もやるし、食堂の手伝いもやるし、神社の巫女もやるし、いざという時は立派に戦闘員の働きもしてくれるしねえ」

「アハハ、褒めてもなんにも出ねえぞ(^〇^;)」

「この映像は先週のだから、もうあちこちいじってるかも……さすがに、まだ無いか」

「さあ、そろそろ巫女さんの仕事すっかなあ……あれ、連絡所の方でジタバタやってんぞぉ……おおい! フーちゃん、なにやってんだあ!?」

 ハナが窓を開けて呼びかけると、フーちゃん(胡盛媛)が藁をもつかむって顔で駆けてきた。

「大変なんですぅ! うちの大統領が急に連絡所の視察に来るって! もう、どんな準備していいのか、みんな舞い上がってしまって(;゚Д゚;)」

「「「ええ( ゚Д゚)!」」」


 面白いけど、なんか大変なことになってきたみたいだよ。


☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
 



 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第34話《覚悟はできていますか!?》

2023-12-29 05:45:03 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第34話《覚悟はできていますか!?》さくら 




 次は映画の撮影だ!


 東京郊外の原っぱまで事務所の車はぶっ飛ばした。


「『蒼空のゼロ』って映画。主人公がゼロ戦に載って特攻に行くシーンだ。さくらはヒロインのクラスメートの女学生。飛行場で飛び立つ主人公を見送るモブシーン。さくらはヒロインの横で涙しながら見送るだけ。一応台本もらったから、シーンのとこ読んどけ」


 ヒロイン役の等々力あやめ(とどろき あやめ)さんの横だ。わたしは緊張して台本を読んだ。自分は台詞が無いので、人の台詞とト書きをきっちり読んだ。きっちり過ぎるほどに。

 ロケ現場は、R大学が手放した建設予定地。更地の半分に航空隊と滑走路のセット。ダミーのゼロ戦が三機停まっている。ロケバスの前が、エキストラのメイクと衣装のコーナーになっている。


「ああ、君だねオノダプロのサクラさん。バスの中で衣装に着替えてね、出てきたらメイク、簡単にね。言っとくけど、おもタンのプロモのナニで急遽出てもらうことになっただけだから。あんな感じで気持ち作って、見送るだけでいいから。あくまであやめちゃんの引き立て役。そこんとこよろしく」

「あなたがさくらさん? 実際お会いすると普通の女子高生なのにね。あのプロモはすごかったわよ。よろしく(^▽^)」

 あやめさんが自分からあいさつにきて声まで掛けてくれた( ゚Д゚)。


 が、がんばらなくっちゃ(,,•ω•,,)و !


 ロケバスの中でセーラー服のもんぺ姿になり、バスの前のテーブルを前にして座ると、ヘアーメイクのオネエサンが信じられない早さで三つ編みのお下げにし、メイクさんが三分ほどでファンデを塗って、眉を書き足していった。

 鏡の中には佐倉さくらではなく、ヒロインのクラスメートAが居た。あたしは池島潤子という名前を勝手に付けた。衣装の胸の縫い込みに、その名前が書いてあったから。


 最初は、出撃するゼロ戦を見送るシーンから。


 ダミーのゼロ戦はワイヤーでトラックに曳かれていく。あとでCG処理で、トラックとワイヤーは消すらしい。

 女学生のエキストラは十人ほど。ちょっとショボイけど、これも合成で倍くらいの人数にするんだろう。

 ゼロ戦のパイロットは、安全を考えてスタントマンが載っている。ダミーのエンジンが動き、唸りを上げてプロペラが回り出した。

 だんだん見送りの気分になってきた。

 わたしは、ソーニイが初めて護衛艦の乗り組みになって見送りに行ったときのことを思い出した。『しらくも』って、チャッチイ護衛艦。南西諸島方面に行くので心配だった。中国と緊張状態になり始めたころだったから。中学生になったばかりのあたしは、ソーニイが、このまま生きて帰らないんじゃないかと、胸に迫るものがあった。

「ソーニイーー!!」

 涙流しながら、大声で叫んだのを思い出した。兄ちゃんは登舷礼で固い顔をしていたけど、一瞬わたしの顔を見た。ソーニイも緊張し覚悟をしていた。その姿が頭に浮かんだ。むろん兄貴は無事にかえってきて、互いに、あの緊張感は笑い話になった。でも、あんなに兄妹の絆を感じたことは無かった。


「ヨーイ……スタート!」


 監督の声でゼロ戦が走り出す。あたしたちは千切れんばかりに手を振って、助監督の合図で、走るゼロ戦を追いかける。ソーニイの初出航と重なって涙がこぼれる。拭おうともせずに追いかける。主役のあやめさんも涙の笑顔で、あたしと抜きつ抜かれつになった。

 このシーンは、一発でOKになった。みんなあやめさんの演技に拍手した。あたしも拍手した。


 問題は次のシーンで起こった。


 順序が逆なんだけど、パイロットたちがゼロ戦に乗り組む前に見送りの女学生の前を通るシーン。

 主役の猪田史郎が、他のパイロットたちと、あたしたちの前に迫ってきた。

――違う―― 

 これでは、せいぜいサッカーの練習試合が始まる程度だ。目の緊張、笑顔が偽物だった。

「……覚悟はできてますか?」

 思わず言ってしまった。一瞬芝居が停まってしまった。

 すると、猪田史郎の顔が強ばり、赤くなったかと思うと、こう言った。

「もちろん……」

「坂井さん……!」

 あやめさんがアドリブをかます。猪田さんは、そのままの顔で、あやめさんの肩に手を置く。そして猪田さん演ずる坂井少尉は搭乗機へと駆け出した。


「カットォ!」


 監督の周りにスタッフが集まり、真剣な話し合いが始まった。


「すみません、へんなこと言っちゃって(;'∀')」

 ちょっと凹んだ。

「………」

 あやめさんは、返事もしないで監督たちの話し合いを見ていた。

 十分ほどして、監督が吾妻プロディユーサーを連れてやってきた。

「覚悟してくれ、いくつか撮り直す」

「え……」


 え、やっぱりマズかった……。


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
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RE・かの世界この世界:222『タングリス復活』

2023-12-28 09:44:58 | 時かける少女
RE・
222『タングリス復活』テル 




「ここではまずいぞ」


 ヒルデが眉を寄せた。

 もっともだ。イザナミさんが居る玄室は、まだ少し距離があるというものの、一本道の羨道を挟んでいるだけだ。

 カテンの森でトール元帥の非常食になってから、タングリスは骨と皮だけになってタングニョ-ストの背嚢に詰められたままだ。彼女の記憶はカテンの森で途切れている。

 ここは、カテンの森があった『かの世界』ではない。新旧入り混じりながら、新しく生まれた神話の日本、それも生者の立ち入りが許されない幽世。それも、イザナミさんを取り戻せるかどうかの瀬戸際なんだ。

 ここで、復活し終えたタングリスが出てきても事態を理解できずに混乱するだけだろう。

イザナギ:「いやあ、目出度いではありませんか。妻の玄室を目前にしてタングリスさんが蘇る、まさに吉兆ですよ(^▽^)」

 なんと良い神さまだろう、自分と国の大事を目の前にして、異世界の兵士の復活を寿いでくださる。

 ただし、めちゃくちゃ声を潜めてだけれど(^_^;)

ヒルデ:「すまない、イザナギ殿」

 ヒルデも声を潜めてお詫びを言う。

イザナギ:「ええと……タングリスさんは骨と皮に肉が付いて……つまり、裸で復活するんですよね」

 あ……男はイザナギさん一人だ。

「すこし戻ったところに小さな岩室がありました、そう、30mほど戻った左側です、こちらから向かって左側。全員で戻るわけにはいきませんが、テルさん、そこでタングリスさんの復活を見守ってあげてください」

 よく考えている……タングニョーストに付き添えと言っても、元来はヒルデのガード、ヒルデから離れることはしない。
 ヒルデが付き添えば、同じ理由でタングニョーストもイザナギさんの傍を離れざるを得ず、付き添いはわたし一人になる。ここに及んでヴァルキリーの者が付き添わないのはヒルデのプライドが許さない。
 控えのガードは人数から言っても実力から言っても、わたし一人よりは、ヒルデとタングニョ-ストがいいに決まっている。

 あれこれ勘案すると、わたしがタングリスに付き添うのがベストなんだ。イザナギさんは、迷いも見せずに一瞬で判断したんだ。

タングニョースト:「衣類や装備は背嚢の中に入っている。復活してしばらくは体を動かせないと思う、よろしく頼む」

テル:「分かった、間に合うようなら駆けつけます」

イザナギ:「ありがとう、では、お互いの無事と成功を祈って……」

 イザナギさんが出した手に三人の手を重ねて、わたしは背嚢を抱えて岩室のある場所まで戻った。

テル:「間に合えば、タングリス共々戻ってきます」

イザナギ:「ありがとう、でも、無理はしないでください」


 押し入れほどの岩室に身を寄せると、背嚢の動きはいっそう繁くなってきて、わたしは背嚢の口を緩めた。

 その直後、ニュルリと音がしたかと思うと、タングリスが出てきた。

 ハーハーハーハーハー(>口<)

 膝を丸めたタングリスは、思いのほかに息が荒い。

 ハーハーハーハーハー(>△<)

 そして、知っている彼女の姿よりも十歳近く若い。

 ハーハーハーハーハー(>ロ<)

 その、予想よりも若い姿と、思いのほかの苦し気な様子に狼狽えたわたしは、用意していた「おかえり」という言葉もかけてやることが出来なかった。

 
☆ ステータス

 HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・300 マップ:16 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト) 思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――
  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)
 日本神話の神と人物   イザナギ イザナミ 那須与一 桃太郎 因幡の白兎 雪舟ねずみ 櫛名田比売 ヨネコ
―― この世界 ――
 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第33話《事務所を通してください》

2023-12-28 06:18:50 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第33話《事務所を通してください》さくら 





「事務所を通してください」


 もう三度目。


 チュウクンに言われたように応えた。

 素人考えでスマホの番号は変えようと思っていたけど、変えてもすぐに分かってしまうと言われた。

 まあ、一過性のお祭りみたいなものだろうしね。

 学校や友だちの間でもプロモに出たことは話題にしなかった。まくさと恵里奈は黙っていてくれたし。

 鈴奈(りんな)先輩も事務所から、わたしのことは言ってはいけないと言われているようで、学校で顔を合わせても完全にシカトしてくれている。

 しかし、元々が渋谷での騒ぎにあたしがオッサンを応援したことが始まりなので、あの騒ぎ自体はスマホで撮った人が大勢いる。
 中にはSNSに投稿した人もいて、その中にハイテンションになっているあたしが写りこんでいるものもあり、年格好から女子高生であることは明白。

 で、渋谷の近隣の学校を当たれば帝都は直ぐに候補に挙がってくる。オタクが、その気で調べれば、そのネットワークで三日もあれば正体がバレる。


 でも、チュウクンの見通しは外れた。


 三日では無くて一日だった(>o<)!


 最初スマホにかかってきたものは、教えられたとおり「事務所を通して……」で撃退し、着信拒否にした。

 ブログなんかはしていなかったので安心していたけど、佐倉さくらで検索すると、五件も出ていた。ポータルサイトに通報すると、直ぐに削除されたけど、一時間もするとまた出てくるありさま。


「仕方がない、一つ二つ仕事として受けて、露出しよう」

 吾妻プロデユーサーは、ため息混じりに答えた。事務所にもかなりの問い合わせがある様子だった。


「いきなりだったね、さくらちゃん」

 タムリさんが、鈴奈たち『おもタン(おもいろタンポポ)』に聞いたあと、スタジオに招かれ、オーディエンスが「オオー」と上げた声を鎮めるように言った。

「インパクトあるよね佐倉さくら。苗字も名前も珍しくはないけど『サクラサクラ』って重ねると忘れないよね」

「ええ、小学校のときなんか、サクラ×2って書いてました」

「でも、すごいよねぇ。先週の木曜までは、ただの高校生だったのにね。まあ、問題のプロモ見てみようか」

 おもいろシャウトのプロモの、あたしの部分だけ抜かれて静止画になって映った。

「それにしても、すごいシャウトっぷりだね」

「はい、死ぬかと思いました」

「さくらちゃんは、普段はシャイな方なの?」

「はい、今も緊張してます」

「なんか、ネットの方じゃすごいことになってるらしいね。いっそ、このままデビューしちゃえば」

「とんでもないです(#゜Д゜#)!」

 パシャ!

 と、効果音付きで真顔で驚いた瞬間がアップになって、スタジオのオーディエンスからもドヨメキが起こった。

 オオ!

「こんな風に驚ける子いないよ」

「そんなそんな!」

 パシャ

 オオ!! 

「ん……なんかメモ来たよ。次の仕事が待ってるから局の玄関へ……だって」

「こ、困ります。事務所を通してください」

「って、これ事務所からなんだけど」


 タムリさんの目がグラサンの下で笑った……。


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
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くノ一その一今のうち・91『敵の心意気』

2023-12-27 10:25:34 | 小説3
くノ一その一今のうち
91『敵の心意気』そのいち 




 機甲部隊の生き残りを確認する。

 ほぼ壊滅させたと思うんだけど、実際にこの目で見ておきたい。

 敵味方にかかわらず、状況をハッキリつかんでおくことが忍びの基本だ。

 街の西部、皇居で言うと半蔵門あたり。城郭都市から張り出すような一画がある。半蔵門で例えれば警視庁、おそらくは外周警備本部。その車だまりの屋根裏に身を潜める。


『……銃撃の痕はわずかです、衝突やこすった傷ばかりですね』


 えいちゃんが先に分析。

 敵の混乱は、上空から投げつけられた風魔流癇癪玉(めちゃくちゃ煙が出る)と、ちょうどタイミングよくアデリヤ王女が逃走しながら車載機銃を撃ってくれた合わせ技によるものだ。

『僥倖だったようですね』

「ギョウコウ?」

『偶然が重なってうまくいったということです』

「あ、そか」

 えいちゃんは昭和五年ごろの女優の卵だ、ときどき言葉が難しい。

 しかし、意味は分かる。たまたま上手く行ったことでことで調子にのったら痛い目に遭うという戒めだ。


――車両の被害は大きいが、兵の損失はそれほどでもない――

 魔石がほんのりと熱を持って、敵の隊長の声が頭に飛び込んでくる。

――敵は調子づいて仕掛けてくるかもしれない。兵たちが戻って来るのは明日の昼頃になるだろう、それまでは警戒を厳にするように――

――了解しました、王子殿下に連絡します――

――いや、自分で進言する。貴様は警備司令として持ち場の警備に務めてくれ――

――イエッサー、非番の者に非常呼集をかけろ!――


 敵ながら対応が早い、いつもならこれから警戒が厳重になる敵の本拠地に飛び込んだりはしないけど、まだまだ危機が遠のいたわけではない。

 とっくに手足の指の先、下忍の分際を超えている。

 だけど、ここが高原の国と草原の国、二つ国の運命の分かれ道。そして、木下豊臣にとっても野望の胸突き八丁だろう。

 胸の魔石も熱を持ったままだ。

「行くよ!」

『承知!』

 えいちゃんも忍者風に返事をしてくれ、敵の本丸を目指すべく身を翻した。

 スタ……

 トラス(骨組み)の横桁に跳んだところで動けなくなった。

 幾重にもトラスが重なった向こうに……多田さんが蹲っていた。

 

☆彡 主な登場人物
  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
  • えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
  • 豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟
  • ミッヒ(ミヒャエル)   ドイツのランツクネヒト(傭兵)
  • アデリヤ         高原の国第一王女
  • サマル          B国皇太子 アデリヤの従兄
 
 

 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第32話《バレたプロモ》

2023-12-27 07:22:55 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第32話《バレたプロモ》さくら 




 豪徳寺の改札を出ると、デミーズの前にチュウクンが居る。視界の端っこに映ってるだけだからシカト。


 今月の五日に、チュウクンが元華族の四ノ宮忠八と分かってからは敬遠しているんだ。

 チュウクンとは、そもそもの出会いからして良くなかった。通学途中で、こともあろうに、この元華族の坊っちゃんは、水道工事のガードマン。電柱三本前ぐらいから目が合っちゃって、緊張したチュウクンの指示棒が、わたしのスカートをひっかけて、その姿を後ろを歩いていたニイチャンに撮られてネットで流されて以来の縁。

 盗撮の犯人を捕まえてくれて、少し仲良くなりかけたんだけど、シッカリしてるんだかボンヤリしてるんだか分からない性格。そこへもってきて元華族の坊っちゃんが、ガードマンのバイトやってて、女子高生盗撮犯を捕まえたこと。杓子稲荷……うちのすぐ近所のアパートに越してきて、で、なんだかんだあって、渋谷でいっしょにいるところをマスコミに掴まり「元華族の御曹司、下町で庶民の生活!」と書き立てられた。

 チュウクンも迷惑を掛けたと思って、見かけても声を掛けてこなくなった。

 それが、改札出てすぐのデミーズの前でニンマリ笑って目を合わせてきた。


 いつものようにシカト……と思ったら、声を掛けてきやがんの。

「さくら、ちょっと!」

 ウウ(-_-;)

 シカトはかえって目立つので、渋々誘われるまま、デミーズを避け、駅の反対側のマックの二階に収まる。

「もう気にしなくていいよ。元皇族・華族のボンボンなんて竹田さんを筆頭に全国に学校一つ分くらいはいるからね。ただガードマンのバイトやってるだけじゃ、そんなに人の話題はひきつけないよ。あの特集だって、結局竹田さんと織田信成クンの人気がトップだったからな」

「だったら、もういいじゃないよ」

「実は、これ……」


 チュウクンはスマホから動画を出して見せてくれた。


 あ……と思った。


 おもいろタンポポの新曲『おもいろシャウト』のプロモが、もう出ている。三分半のプロモの中に0・5秒づつ7回、瞬間的にあたしが罰ゲームみたく映っているのが分かる。でも合計3・5秒。

 意識しなきゃ分からない。

「……と、思うだろ」

 チュウクンは画面をスクロールした。で……タマゲタ!

 曲や、おもいろタンポポへのコメントに混ざり「この瞬間映像の子はだれだ!?」というような書き込みがいっぱいある!

「もう、こんなのも出てる」

 なんと、あたしのとこだけ抜き出してスローにして、一分ほどに編集したのがアップされていた!

 この子は誰だ!? オノダプロの隠し球か! キュート! 平凡の極致、それは非凡な萌!

 書き込みが、数十件入っている。

「やだ、どうしよう……」

「アップロードされて半日でこれだもん。まだまだ来るよ」

「脅かさないでよ(#゚Д゚) 」

「じつは、雑誌社からボクのとこに電話があったんだ――こないだ盗撮事件で、四ノ宮さんがかかわった子、プロモの子ですよね――って」

「え、もう、そんなのが!?」

「ネット社会は怖ろしいね……さくらも注意した方がいいよ」

「て、もうこんなになってちゃ、手遅れでしょ!」

「甘いなあ。これからなんだよ」


 そう言って、チュウクンはいくつかの注意をしてくれた……。


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
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鳴かぬなら 信長転生記 158『時間よ止れ君は美しい・2』

2023-12-26 09:36:52 | ノベル2
ら 信長転生記
158『時間よ止れ君は美しい・2』信長 




 西安の北を迂回する。


 兵馬俑の軍勢は西安の南をかすめて戻って来ると読んだ。

 兵馬俑の遺跡は西安の北東に位置するが、街道は西安の南を走っている。書籍範老人に聞いても「古来、中原の軍勢は西安の南を通ります」と言っていた。

 兵馬俑どもも我々に害意が無いことは分かっているだろうが、これ以上の接触は避けたい。

 始皇帝は、玉門関からこちらの騒動を敵認定して兵馬俑の軍勢と共に出撃したのだろうが、すでに騒動は収まっている。
 なにも無ければ、そのまま南の街道を通って戻って来る。北に迂回すれば出くわすことは無いはずだ。


 だが、出くわしてしまった。


「混乱してるっぽい、ブヒ!」「本陣ががら空きッパ!」

 鋭い戦術眼で、始皇帝は北に出てきている。

 しかし、どういうわけか孤軍だ、本陣だけが孤立している。

 兵馬俑の軍勢は本陣の馬車と、僅かな馬周りの騎兵を残しているのみだ。

「これは、仕掛けに乗ってしまったな……」

 悟空に化けているのも忘れて呟いてしまった。

 どうやら、俺は信長の本性に戻って興奮している。

 状況的には桶狭間に似ている。義元は行軍の途中の休憩であったが、始皇帝の本陣は違う。明らかに策に嵌められている。

 しかし、嵌めたのは俺ではない。始皇帝を討つ気もない。

 俺は、情報から義元の軍勢が桶狭間で休憩すると読んだ。始皇帝も自分の戦術眼で敵がここを通ると踏んでいる。その通り、俺はここに居るしな。

 しかし、始皇帝からは軍勢が引きはがされている。その意味で、始皇帝は策に嵌っている。

 これは、桶狭間では無くて川中島だ。

 始皇帝の状況は、川中島における武田信玄の位置だ! 立場だ!


 四方に馬蹄が轟き砂煙があがっている。


「巧みに軍勢を引きはがされているッパ!」

「ブヒブヒ!」

 茶姫も市も興奮してはいるが、沙悟浄と猪八戒を崩さずに拳を上げている。

「あの始皇帝が……策に嵌っているのですか?」

 書籍範老人も長年、古書の軍記物や古文書に触れて、戦の機微が分かるのだろう、三蔵法師の馬に寄り添って慄いている。

「いったい、何者が……」

 女ながらも魏の将軍である茶姫は脅威の眼差しで目に見えぬ何者かに圧倒されている。
 土人形の俑とは言え始皇帝と言えば史上最大最優秀の大将軍、それが後れを取って孤立している状況を、同じ中華の武人としては尋常の神経では見ていられないのだ。

 ナ~マンダ~ブ ナ~マンダ~ブ……

 三蔵の念仏が始まったかと思うと、俄かに丑寅の方角から騎馬が駆けてきた。

 丑寅は、扶桑においても三国においても不吉な鬼門の方角。そこから現れたのだから、それだけで馬周りの騎兵共は浮足立っている。

 シャリン!

 太刀を抜くのと馬腹を蹴るのが同時だった。

 色々縅の腹巻鎧に毘沙門天の前立て打った筋兜は、平手の爺から宿敵信玄の出で立ちと共に繰り返し聞かされてきた……越後の雄、上杉謙信だ!

 転生学院では天下布部の先輩。豊満な武田信玄と対照的な細身の美少女だったが、見事始皇帝を策にかけ、乾坤一擲の突撃を仕掛ける姿は、まさに――時間よ止れ! 君は美しい!――の一言に尽きる。

 だがしかし、

 これは古田織部の名文句(103『時間よ停まれ! 君は美しい!』)だ。

 是非も無し。

 オリジナルの決め台詞を呟いた時、謙信は一騎だけ間に合った馬周りの首を撥ねると、同時に矛を奪って馬車のど真ん中に突き入れた!

 ズサ!

 同乗の兵が回り込んで矢をつがえるが、二呼吸も遅れて、車上の武者走というかキャッツウォークを無様に周るばかり。

 二騎の馬周りが謙信を追う。振り返った謙信は同時に一騎を倒し、二騎目が交差する刹那、馬車の兵の矢が誤って二騎目の首を貫いた。

 再び太刀を構え馬車に突進する謙信。残り三騎が立ちはだかる。

 グイッと手綱を回すと、馬車を曳く先頭の馬に一太刀。

 驚いた馬は、他の馬も巻き込み、明後日の方角に急発進!

 グァッシャーーン!!

 馬車は遠心力に抗しきれずに横倒しになる!

 さすがに、始皇帝は車外に飛び出るが、冠は飛んでしまい、両手でわき腹を押えている。

 謙信は、二町ほど離れたところで兜を脱いで、風に黒髪を靡かせる。


 悔しいがカッコいい。カッコよすぎるぞ!


 それが通じたのか、謙信は高く拳を上げると、空気をかき回すように大きく振って、そのまま丑寅の方角に走り去っていった。

「では、行きましょうか……孫悟空」

 三蔵がNPCとは思えない余裕の声で俺に命じた。

 
☆彡 主な登場人物
  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主

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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第31話《プロモデビュー》

2023-12-26 04:35:29 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第31話《プロモデビュー》さくら 




 降って湧いたとは、このことだ!


「プロモのモデルになって欲しいんだけど」

 オノダプロの吾妻という名刺を出しながら、そのオジサンが言った。まくさと恵里奈は、下の部屋で待ってくれている。

「今度、あたしたち『おもいろシャウト』って曲出すんだけどね、そのプロモに出て欲しいの。さっき駅前でオジサンとオネエサンがもめてたでしょ。それを吾妻さんが見てて、あの子いいねえってことになったの。で、見たら去年、学校で飛び降りようとした子(白石優奈)を助けた子じゃん。それで、同学のよしみで、あたしが声をかけに行ったの」

「むろんメインは、鈴奈たち『おもいろタンポポ』だけど、カットバックで、君がシャウトしてるところを入れたいんだ。まあ、アクセントのカットバックなんだけどね」

「あの…………」

「はい?」

「なんで、なんの取り柄もないわたしが?」

「案外いないんだよ、普通そうな女子高生って。それが、さっきシャウトしてる姿見て、この子だって思ったんだ。あ、これ絵コンテ」

 見せてもらった絵コンテには『おもいろタンポポ』が歌っているコマの間に『普通の女子高生のシャウト』というコマが、全部で8コマ入っていた。時間は0・5ずつ7回で、3・5秒だった。

 3・5秒とは言え、プロモ、SNSやテレビでも使われるかも知れない。

「あたし未成年だから、ここでお答えはできません」

「むろん、こちらから保護者の方には連絡して許可をいただくよ」

「学校の方は大丈夫。あたしたちがやってるんだから問題ないわよ」

「はあ……」

「ギャラは、あんまり出せないけど。手取り十万でどうだろ?」

「十万!?」


 わたしは、この十万で決意してしまった!

 そして、

 たった一日の撮影と、3・5秒という時間に騙された(≧△≦) 。


 二三時間あれば終わると思っていたけど、スタジオでの撮影は、まるまる一日かかった。

 緑色のセットだったので、背景とかはCGのはめ込みかと安心していたが……。

 衣装の制服に水はかけられるわ、送風機にあおられるわ、人工雪まみれになるわ、機関銃を撃って熱々の薬莢が顔に当たるわ、極めつけは宙づりにされ空中で回転するわ、もうバラエティーの罰ゲームを一日やったようなものだった。

 シャウトする言葉は「お・も・い・ろ・シャ・ウ・ト」この7文字をブツブツに百回ぐらいいろんなものにまみれながらやらされた。

 十万のギャラは、そんなに割がいいとは思わなくなっていた(^_^;)。

 全部のOKが出た後、ラッシュっていう撮ったまんまの映像を見せられた。

 我ながらすごい形相。送風機にあおられたやつなんか、スカートが捲れ上がり目も当てられない。

 でもスタッフは真剣そのもの。

「この捲れ上がる寸前の0・5秒をどこで切るかだな……」

 むろんミセパン穿いてるとは言え、このシーンをなんどもくり返されるのにはまいった。

「どうもありがとうね(^_^;)」

 ラッシュの終わり頃に鈴奈がやってきて労をねぎらってくれた……でも、正直ボロボロになっていて、鈴奈が小悪魔に見えた。


「どうだ、さくらプロモの撮影は(^▭^)!?」
「さくらぁ(^〇^)!?」


 家に帰ると、お父さんもお母さんも、まるであたしがアイドルにでもなったような気でいた。

 十枚の福沢諭吉……近い将来渋沢栄一に替わるそうだけど、わたしはお婆ちゃんになっても、一万円札は諭吉の肖像で思い出すだろうね。


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
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魔法少女なんかじゃないぞ これでも悪魔だ こ 小悪魔だけどな(≧ヘ≦)!3『知井子の悩み』

2023-12-25 13:46:26 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃないぞ これでも悪魔だ こ 悪魔だけどな(≧ヘ≦)!

3『知井子の悩み』 
 
 これは旧作『小悪魔マユ』を改作したものです




 黒板の前、知井子が頬を赤く染めてピョンピョン跳びはねてやがる。

 べつに、嬉しいことがあってハイテンションになっているわけじゃねえ。


 今日の知井子は日直で、授業が終わったあとの黒板を消してるんだ。と言っても黒板が消えるわけじゃねえ。正確には、黒板にチョークで書かれた文字や図を消してるんだ。

 英語ではerase the blackboardっていう。eraseという言葉そのものが「文字などを拭い消す」っていう意味。黒板そのものを消すという魔法のような意味はねえ。カタカナで書くとイレイズな。消しゴムなんかイレイザーだからな。イギリスじゃイレイザ。なんか魔女の名前みてえでかっこいいと思うぞ。

「あら、かわいい。ウサギさんみたいじゃん」

 アハハハハハハハハハ(ᵔᗜᵔ*) (ᵔᗜᵔ*) (ᵔᗜᵔ*) 

 ルリ子が言うと、取り巻きたちがいっせいに笑う。

 ルリ子たちはスマホ事件以来、それまでにもまして人をイジルようになった。つくづくひねくれた女どもだとマユも思うぜ。

「知井子、代わろうか?」

 里依紗が、見かねて声をかけた。

「いいよ、わたしの仕事だから!」

 知井子が、かわいい意地を張った。

 知井子は背が低い。同年齢の女子の平均より10センチは低い。また、彼女の名前も背の低さを連想させる。バラエティーなどで大阪弁が流行っているんで――ちいーこ( ´艸`)――中学では名前にひっかけてイジられてやがった。

「わあ、小ぃーこ!」

 別に知井子の両親は、娘のコンプレックスになると思って付けた名前じゃねえ。知恵が井戸から湧き出るような子になって欲しいと思ってつけたし、「チイチャン」という愛称も、小学生のころまではカワイイ響きで、本人も気に入っていたんだ。中学に入ってからは、「チイチャン」という子どもっぽい愛称は、本人の意志で禁止になった。それからは「チーコ」と呼ばれるようになったが「小ぃーこ」の意味が付くとは思わなかったらしい。

 知井子はよく耐えてきたぜ。褒めてやってもいい。

 でもな、知井子は自分のダメなところは、みんな自分の身長のせいにしている。

 体育の成績が悪いのも、男の子にモテないのも、ちょっぴり根性が悪いのも背が低いからってな……。

 知井子のために言っておくけど、本人が気にするほど知井子は根性ワルじゃねえ。

 中学のとき、友だちとディズニーランドに行ってよ、自分一人子ども料金で入れたことに罪悪感を感じていたくらいだからな。

 マユは、小はつくけど悪魔だからな、あくまでも悪魔的には理解は出来る。

 あ、今のはシャレじゃねえからな!

 悪魔ってのは、元々は天使だった。知ってっか?

 ルシファーとかサタンとかデーモンとかな。みんな元々は天使だ。

 みんな真面目に天使やってたんだけどよ、なんか違うなあって感じてよ、意見言ったら「天使のくせに生意気だあ!」「神に逆らいやがって!」とか言われてよ、天国から蹴落とされたんよ。

 だからな、堕天使とか言うわけよ、世間はな。

 どう意見が合わなかったとかのイキサツ言ってると、それだけで、文庫一冊分くらいにはなっちまって話が進まねえから、おいおいとな。

 いろいろ魔法は使うけどよ(A級魔法は禁止されてっけどな)魔法少女じゃねえからな。魔法少女はよ、カッコつけて、すぐに月とか神さまとかに代わってお仕置きとかするけどさ、思い違いとかミスとか多くってよ、けっこう尻ぬぐいとか大変なんだぜ。

 だからな、魔法少女じゃねえから、そこんとこよろしくな。

 知井子が「アレも出来ない、コレも出来ない」と思っているのは身長のせいなんかじゃねえ。全てのことに消極的で、やる前から諦めてしまうからだ。

 友だちとしてマユは、知井子の背を高くしてやりてえよ。そして人並みに、いろんなことにアタックして欲しいよ。こんな黒板消しで意地を張ったり、身体測定のときに、人知れず5ミリほど背伸びしたりしないでさ。

 単に背を伸ばしてやって済む話じゃねえと思う。

 それにだいいち、マユは、人の背を適度に伸ばせるほど魔力をコントロールできねえ。へたに魔法をかけたら、知井子をスカイツリーと同じ身長にしてしまいかねねえしな。


 知井子は、次の時間、ずっと授業を聞くふりをして、白紙のノートをじっと見つめてやがった。もし、知井子にマユほどの魔力があればノートに穴が開くくれえに……。

 強い集中力だったんで、マユはちょっとだけ知井子に魔法をかけてやったぜ。

 自分の願いが、はっきりした夢として見られるような一種のバーチャルリアリティーの催眠術だ。バーチャルだけどよ、この魔法で見られる夢は、自分の実力や、道徳観を超えて見られるようなものじゃねえんだ。

 たとえば、ルリ子たちをブタにしてやりたくてもできないようになっている。あくまでも本人の潜在能力の範囲でしか見ることのない夢なんだ。


 ……気づくと、知井子は交差点に立っていた。


 こころなし目の前の信号機が低く見える。あたりを見渡すと、たいていの人の頭が、自分と同じ高さにある。

 いや、知井子の頭が人と同じ高さになっている。

「世間って、こんなに見晴らしのいいものなんだ!」
 
 知井子は、交差点を渡ってケンタの前のカーネルおじさんの人形と背ぇ比べをやってみた。ちょうどいいバランスだ。ついこないだまでは見上げていたカーネルおじさんの口元が、自分の目の高さぐらいにある。

 知井子は、スマホを出してカーネルおじさんの身長を調べてみた。

 身長173センチ……と、いうことは……。

「うそ、165はあるってことじゃん( ゚Д゚)!?」

 ショ-ウィンドウに映る自分は、ディズニーランドを大人料金を払わなければならないスガタカタチだった。

「そうだ!」

 知井子は、あたりを見渡した。どうやらアキバのあたり。以前ため息ついてあきらめた店に直行した。そこは、ちょっと高級なゴスロリの店。以前きたときにも見たけど、ショ-ウィンドウに飾ってあるそれは、自分が着ると「まるで、小学校の学芸会」だった。

 でも、今見たら、ガチイケそう。値段は並のゴスロリよりもヒトケタ高かったけど、財布の中身を見ると、それを買っても、半分残るくらいのお金が入ってる!

――もう、買うしかないっしょ(^▢^)!

 ノースリーブのワンピとブラウスのセットを買った。

 店の試着室で着替えると、店員さんも驚いて宣伝用にと写真を撮ってくれた。スマホにそのまま送ってもらって自分で確認。

 ホオオオオ(・o・*) 

 ため息ついて、そのまま街に出た。

 あたりを歩いているヒラヒラのゴスロリじゃなくって、シックって言うのかなぁ、二十世紀初頭のイギリスのお嬢さんのように見えたぜ。髪も気づくと、それに相応しいウィッグ……じゃなくて自分の髪の毛で、緩やかにカールしてて、子どもの頃あこがれたドールみたいだったぜ。

「ねえ、キミお茶しない?」

 イケメンくずれのお笑いタレントのようなオニイサンが声をかけてきた。

 多少くずれていてもイケメン。知井子は人生で初めて、男に声をかけられた。ディズニーランドでスタッフのオニイサンが「迷子になったの?」と声をかけてくれたのを例外としてな。

 しかし、本能的に「こいつはダメだ」と思った。

「いいえ、けっこうです」

 知井子は、『プリティープリンセス』のアン・ハサウェーのアミリア王女のように断った。しかしオニイサンはしつこく付いてきた。いいかげんウンザリしたところで声がかかった。

「きみ、ちょっとしつこいんじゃないか」

 え?

 三十分後、知井子は声の主の事務所にいたぞ。プロダクション小城といって、AKRのメンバーの何人かが所属している、業界でも新人発掘に成果をあげているところだ。

 そして、数ヶ月後、知井子はAKRとよく似たユニットの結成メンバーのセンターになって、ユニットごと、その年の新人賞に選ばれた!

「どうですか知井子さん。デビューわずか五ヶ月で新人賞をとった感想は!?」

「ハ? え、えと、えと……(;'∀')」

 MCにそうふられ、答えようとして過呼吸になりかけたときに目が覚めた。

 知井子が、夢を見ながら本当に過呼吸になりそうになったので、マユは魔法を解いてやったぜ。


 そんで、ビックリしたぜ!


 知井子にこんな潜在能力があるとは思っていなかった。

 言ったろ、この夢の魔法は潜在能力の範囲でしか見れねえってよ。

 キリリ

 少しカチューシャが締まって、声が出そうになった。どうやら小悪魔としては道を踏み外しかけている。でも、またカチューシャは緩んだ。

 あれ?

 グラウンドで体育をやっている中から、誰とまでは分からないオーラを感じたぜ。錯覚……錯覚とか思い込みが多いってデーモン先生に怒られたのを思い出す(-_-;)。
 
 次の休み時間、知井子は黒板の上の方は素直に里依紗に頼んで消してもらった。ルリ子たちは少し囃し立てたけど、里依紗と沙耶に睨まれて口をつぐんじまった。

 窓辺に寄ってグラウンドを見ると、とっくに体育は終わってて誰も居なかったぜ。


 
☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
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やくもあやかし物語2・022『戦い済んで・2』

2023-12-25 09:46:15 | カントリーロード
くもやかし物語 2
022『戦い済んで・2』 




 森の女王ティターニアは、ゆっくりと羽をはためかせ、地上50センチくらいのところでホバリングしている。50センチなら、地面に下りて来ればいいと思うんだけど、この50センチは、女王としての威厳を示すものかもしれない。

 それに、森林浴をしてるみたいにリラックスのオーラが、その羽ばたきで出てるような気もする。

「デラシネの件ではお世話になった。お礼を言うわ」

「い、いえ、お役に立ったのなら幸いです(^_^;)」

 50センチの威力に、神社にお参りした時の感覚でお辞儀してしまう。

「フフフ……さすが極東の島国の子ねぇ、奥ゆかしいわ」

「ハイジはちがうぞ」

「そうね、アーデルハイドとコーネリアは、わたしたちに似た感じね」

「あ、申し遅れました。プロイセンの森の住人コーネリア・ナサニエルです(-_-)」

 ネルは、王女に対した時と同じように慇懃にあいさつ。腰をかがめる時に、ハイジの頭を押さえつけ「ムギュ」って言いながら、ハイジもあいさつした。

「ハイジはハイジでいいよ、ちゃんと呼ばれると、教会に行った時みたいに緊張すっから、あ、しますから(;'∀')」

「はい、それでは……」

 25センチくらいに下りてきた。

「デラシネは、元々は森の住人なのだけれど、いろいろあって、森の仲間たちから離れてしまったの。いろいろはデラシネの親の代からあったのだけれどね。デラシネ自身は、ほんとうは人恋しい子なの。それで、魔法学校ができてからは気になって仕方がないの」

「ああ……」

「うん……なにか思い当たったのかしら?」

「日本にいた時も、デラシネみたいなのは居ました」

「そうなのね……それで、学校やあなたたちにチョッカイを出すのね」

「ええと……」

「そうね、ヤクモから言い出したら言霊になってしまうわね」

「コトダマってなんだ?」

「黙ってろ!」

 ポコン

「ムギュ」

 言霊……口にした言葉にエネルギーが籠って力を現したり、災いをもたらすことを言うんだよ。

「もうあれほどの悪さをすることは無いと思うのだけど、また、あなたたちの前に現れると思うの」

「え、また来んのか!?」

「うん、少しずつでいいから……」

「相手にしろってか!? ムギュ!」

 ネルが口を押えたけど「相手にしろ」って言葉が漏れた。

「年が明けたら、お風呂屋さんの方も使えるみたいね……」

 シャラララ~~ン……☆ シャラララ~~ン……☆

 ロッドを振るティターニア。

「森の祝福……きっといいお風呂になるわ」

「お礼とかくれるんじゃ……ムグ!」

「しておいたわよ、ちゃんと振ったでしょ、ロッドを二回(^▽^)。それじゃあねぇ~~」

 ピュゥ~~~

 風が吹いたかと思うと、来た時とはぜんぜん違うスピードで森の方へ飛んで行ってしまった。あとには、しばらく木の葉が舞い散ったままになった。

「オーベロンのやつが隠れていたな」

「よく分からない夫婦ねぇ(^_^;)」

「で、御褒美は!?」


 そして、宿舎に帰ると雪が降り出して、夜中には、もう積もっていた。

 今年は暖冬で雪は降らないと言われていたけど、予想はずれの大雪で、クリスマスイブも、今日のクリスマスもとてもいい雰囲気だった。

「ええ、御褒美って、この雪のことだったのかあ!?」

 ハイジ一人だけ不機嫌で今年も押し詰まってきたよ。

 
☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン

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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第30話《これでいいのか あたしの青春?》

2023-12-25 06:51:39 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第30話《これでいいのか あたしの青春?》さくら 




 その項目でシャーペンが止まってしまった。


 今日のホームルームは高校の一年間を振り返っての意識調査だ。授業内容、好きな教科、食堂のメニューで好きなもの。盛りだくさんの項目があって、最後の項目でシャーペンが止まってしまったのだ。


 ☆ あるとしたら、あなたの生き甲斐・目標はなんですか(例:部活とか)


 人生の目標……(;-ω-)ウーン ?


 十六歳までは帝都女学院に入ることだったし、入ったことで満足していた。


 でも、学校生活に満足してしまうと……何もない(-△-)。


 親友の佐久間まくさは茶道部。うちの茶道部は裏千家と表千家の両方がある。まくさは裏千家の方だ。カンニングすると「お茶の師範になること」と書いている。根性入ってるなあ……。

 山口恵里奈は、バレ-ボール一直線。将来は女子バレーの日本代表に選ばれてパリオリンピックに出たいというのだから恐れ入る。

 帝都は部活が盛んな学校で、なんの部活もしていないのは、一部の進学特推コースの子たちぐらいのもの。

 わたしも、入学当初はあっちこっちの部活に体験入部してみたけど、どれも性が合わない。
 茶道部は足が痺れただけ。軽音は150人という部員数に圧倒されただけで帰ってきた。引っ込み思案の性格を直すために演劇部にも足を運んだが、こちらは部員がたった4人で、あまりのショボさにガックリした。

 そんなこんなで、一年の三学期まで、帝都では珍しい帰宅部になり果てている。

 なんか趣味を生かしたことないかなあ……。

 兄貴は海上自衛隊に入って、ドップリと生き甲斐に浸っている。
 姉貴のさつきは、大学に入って文学と映画に没頭。他にも大学で世界が広がって楽しそう。

 過渡期とか、モラトリアムとか開き直ってもいいんだけど、姿勢として逃げているようでイヤだ。
 イヤだと言っても、生き甲斐なんて学校の購買部でも売ってないし、なんでも手に入るネット通販でも、こればかりは無い。


「ねぇ」「今日はどうよ?」


 しょぼくれていると、まくさと恵里奈がカラオケに誘ってくれた。

 好きと言うほどじゃないけど、年に何度か発作的にカラオケにいく。

 半分ぐらいは一人カラオケ。喉が潰れるくらいに歌いまくって十六歳のウップンを晴らしている。あとの半分は、今日みたく人に誘われて歌いまくる。人というのは、たいがいまくさと恵里奈。ただ二人とも部活があるので、なかなかいっしょに行く機会がない。


 で、今日は放課後電気工事のため全校停電なので部活もない。


 停電するんなら充電だ!


 ということで、学校から徒歩圏内のまくさの家で着替えて渋谷を目指した。

 なじみのSカラというカラオケ屋で二時間歌いまくった。AKB、乃木坂、ももクロに集中した。なんたって三人いっしょに歌える。以前から三人の課題であった『恋するフォーチュンクッキー』のフリもカンコピして、意気揚々と渋谷の街に。


 店を出て二分ほどで事件に出くわした。


 ガッシャーン


 歩きスマホのオッサンと、自転車スマホのネエチャンが衝突。双方怪我はしてないようだけど、悪いのは相手だと言いつのっている。

 人のケンカが楽しいのは江戸っ子のサガ。私服だしカラオケの直後だし、後ろで見ているなんて出来ずに最前列に。野次馬は両者に別れて応援したりやじったり。お巡りさんが仲裁に入っているが、ラチがあかない。

「がんばれオジサン!」

 わたしは、カラオケの高揚感を引きずったまま、オネーチャンが気にくわないという理由だけで、オッサンを応援した。

「あなたたち帝都の子ね」

 え?

 横から声をかけられた。いっしゅん学校の生指の先生かと思ったけど、すぐに分かった。
 うちの二年生で、おもいろタンポポのユニット名でアイドルをやってる原鈴奈だった。

「うちの事務所の人が、あなたと話したいって」

 え?

 鈴奈の目線は、まくさでも恵里奈でもなく、わたしに向けられていた……。


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査

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