大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

かの世界この世界:173『アメノヌホコ・2』

2021-02-28 09:21:30 | 小説5

かの世界この世界:173

アメノヌホコ・2語り手:テル(光子)    

 

 

 ヒルデに従って飛んでいくと、出来損ないの綿アメのようにカオスが疎らになってきて、人の形をとった七つの澱がハッキリしてきた。

 澱たちはジェット気流に流される雲の切れ端のような速度で突き進んでいく。澱たちの中ほどには、アメノヌホコが見える。

「あいつら、アメノなんとかを盗むつもりだぞ」

「取り返さなくっちゃ!」

 シャリン! 

 ヒルデがエクスカリバーを抜く、さすがに異世界の名刀、冴えた鞘走りの音だ!

 チャリン

 わたしのはシケた音しかしない(^_^;)

「行くぞ!」

 ブワァアアアアアアアア!

 それだけで100メガバイトはかかっていそうなエフェクトを残してヒルデは突撃した。

「させるかあああああああ!」

 敵に言っているのか、ヒルデに怒っているのか分からない雄たけびを上げて、わたしもつき進む!

 ボン

 レンジの中で卵が弾けるような音をさせて、澱どもが散開する。

 チャリン チャリン

 アメノヌホコを持った澱に打ち込むと、寸前に別の澱がやってきてヌホコを取っていく。

 敵ながら連携の取れたラグビー選手のようだ。

「「くそ!」」

 ヌホコを持った澱に切りかかると、剣を振り下ろす直前にヌホコが消える。

 消えるのは錯覚で、目にもとまらぬ速さでかっさらわれているのだ。残された澱を切っても、煙を切ったように手ごたえがない。一瞬飛散したようになる澱だが、すぐにまとまってしまってキリがない。

 自分では分からないが、ヒルデが空振りした時のそれで分かる。わたしも、ヒルデから見ると、そう見えているに違いない。

 シュワン! ブワン!

 名刀とナマクラが空を切る音ばかりする。

「ラチが明かないわよ(;'∀')」

「澱とは言え形があるんだ、どこかに欠点がある!」

「欠点?」

「探すんだ!」

 ブワン! ブワン!

 言いながらも手を休めることなくエクスカリバーを振り回している。

 さすがはヴァルキリアの姫騎士、主神オーディンの娘だ、闘志がハンパない!

 接近すると、澱たちの中にボンヤリと神名が浮かび上がる。

 ☆クニノトコタチ ☆トヨクモノ ☆ウヒヂニ ☆スヒヂニ ☆ツノグヒ ☆イクグヒ ☆オホトノヂ ☆オホトノベ ☆オモダル ☆アヤカシコネ

 さっきよりも輝きが増して、存在感がハッキリしている。

 放っておいてはロクなことにならない気がする。

「その通りだ、とにかく切りまくれ!」

「分かった!」

 シュワン! ブワン!

 澱たちの神名は一定ではない、追い回しているうちにも、同一の澱の中で神名がコロコロ変わっていく。

「こいつら、まだ神名が定着しないんだ、定着する前に倒すぞ!」

「お、おう!」

 返答はするが、こっちはヴァルキリアの戦士じゃない、息切れがしてくる。

 そう言えば、ムヘンではレベル幾つだったか……

 HP:1500 MP:400 属性:テル=剣士

 忘れかけていたステータスが浮かび上がってくる。

 そうか、HP MPのレベル概念があるきりだったな。

 ん?

 待てよ、HPは20000はあったはずだぞ?

 そうか、スタミナを使い果たしかけている!

 ポーションを呼び出そうとしたが、ストックはゼロになってしまっている。

「白魔法をクリックしろ! テルにもケアルぐらいはあるだろ!」

「わたしが?」

 ケアルはケイトに任せていた、そんな白魔法が……あった!

 MPだけは400あったので、100を使って機関銃のように自分にケアルを掛ける。

 ピピピピピピピピピピピピピピピピピピ

「よし、HP10000にまで戻った!」

 気を取り直して再び澱たちに挑みかかる。

 ケアルを掛けるのに遠ざかってしまっていた。

 急いで戻ると、一つのことに気が付いた。

 エクスカリバーの斬撃にも暖簾に腕押しの澱たちだが、近くに居てあおりを受けた澱のHPは一瞬減っているのだ。HPが減ると、すぐに近くの澱が寄ってきてケアルをかけて回復させている。

 そうか、澱たちが無敵なのはヌホコを持っている間だけで、手放した瞬間から防御力は急速に落ちるんだ!

「ヒルデ、ヌホコを持っていない澱は防御力が低い! いや、無いも同然だ!」

「分かった!」

 矛先を変えて、ヒルデと二人で手ぶらの澱たちを切りまくる。

 数秒で六体の澱を打ち倒し、最後の一体は、ヌホコに手を伸ばす前にHPを使い果たして消えて行ってしまった。

「よし、ヌホコを返しに行くぞ!」

「こっちよ!」

 アメノヌホコを回収して、ヒルデと二人、イザナギ・イザナミの二神の元に駆けつけた……。

 

☆ 主な登場人物

―― この世界 ――

  •  寺井光子  二年生   この長い物語の主人公
  •  二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば逆に光子の命が無い
  •   中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  •   志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

―― かの世界 ――

  •   テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
  •  ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
  •  タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
  •  タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
  •  ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
  •  ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
  •  ペギー         荒れ地の万屋

 

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真凡プレジデント・7《姉妹でお料理》

2021-02-28 06:26:52 | 小説3

プレジデント・7

姉妹でお料理》       

 

 

 柳沢琢磨……サイコパスとの噂が高い。

 

 SNSでフォローしていた大臣経験もある有名弁護士に食いついたのが去年の夏。

 この有名弁護士をネット上の論戦で打ち負かしてしまったのだ。

 わたしには難しくて、よく分からないけど、憲法の有り方とか原発問題とか外国人参政権とか……他にもむつかしい問題でぶつかり合っていたらしい。

「柳沢君は、まだまだ若い、なんたって高校生だしね。現場にいる弁護士が非常に頑張っていることやらが感覚的に分かってないんだね。まあ、分かれという方が無茶なんだけどね、しかし前途有望な青年だ、司法試験に受かったら、また論戦しよう」

 週刊文秋が企画した論戦を新幹線の時間が迫っているとして打ち切り、弁護士は、さも残念そうに握手の手を差し出した。

「分かりました、では、同じ司法試験を受けて決着をつけましょう」

「それはいい(^▽^)! では、何年先になるか分からないが、柳沢君が司法試験を受けるまで健康に注意するよ」

 これで有名弁護士は幕を引いたつもりであった。

 

 しかし、この司法試験勝負は、わずか二か月で実現してしまった。

 

 週刊文秋は民放各社に企画を持ち込み、模擬司法試験勝負を実現してしまったのだ。

 放送局は、過去の司法試験を作成した学者や裁判官経験者を動員して、琢磨が提案した模擬司法試験を企画した。

 

 そうして三月にワイドショーのコーナーで特別企画が組まれ、SNSで公言した有名弁護士は受けて立たざるを得なくなった。

 

 結果、琢磨は勝利した。

 中学生の将棋名人が出現したことと合わせて世間の評判になったのは記憶にも新しい。

「いやあ、まいったまいった(*^▽^*)」

 有名弁護士は鷹揚な笑みで拓馬と握手したが、誰の目にも琢磨の余裕の勝利であることは明らかだった。有名弁護士は急きょ世界一周の船旅に出発し、ホトボリの冷めるまで日本から姿を消すことになった。

 その柳沢琢磨が生徒会長に立候補したのだ、わたしに勝ち目があるはずがない。

 

 そんなことを思いながらだったから、その日は、なつきとの試験勉強にも力が入らず、ため息一つつき、とろとろと家の玄関を開けた。

「見たよ、柳沢琢磨が立候補したんだって?」

 なんだか待ち伏せていたみたいにお姉ちゃん。

「うん、待ち伏せ。こんな面白い話、すぐに聞かなきゃでしょ」

 

 引きこもっていても、こういうところは以前のままだ。

 

「そもそも、どうして立候補しようと思ったわけ?」

 そのまま晩ご飯の手伝いをさせられながら、お姉ちゃんが聞いてくる。

「分かんないわよ本人に聞かなきゃ」

「だから聞いてんのよ、ほら、ハンバーグの生地はしっかりこねる」

「え、あ、うん……てか、わたし?」

「そうよ、強敵現るだから、対策うたないといけないでしょ」

 姉は、立候補辞退なんて毛ほども考えてはいないようだ。

「わたしって……」

 言葉を選んでしまう。お姉ちゃんの劣化コピー……というところからは話せない。

「わたしって……特徴ないでしょ。良くも悪くも目立つ子じゃないし、人間関係とかも……メンドイ方だしさ。いっぱつ生徒会とかに出てさ、しっかりとさ……その……慣れておきたかったのよ世の中とかにさ。進学にしろ就職にしろさ、あるでしょ。サークルとかゼミとか懇親会とか、将来は町内会とか地域とのかかわりとか、仕事始めたら、もう仕事そのものが人間関係じゃん。お姉ちゃんの結婚式とか……いろんな人生のイベントでさ……うまくやっていけるようにって思ったわけなのさ」

 とりあえず、当たり障りのない答えをしておく。

「そうじゃなくて、ちゃんと空気抜く!」

「え?」

「抜いとかないと、爆発する」

「あ、えと……」

「……ハンバーグ」

「あ、ああ」

「う~ん、だね、真凡自身の結婚とか家庭生活とかのほうが……先かも」

「え?」

「早いぞお、年とるのって」

 自分の結婚とか家庭とかは微塵も考えていなかったので電車が急停車したみたいになった。

 ペシペシ ペシペシ(わたしの音)

 ビシバシ ビシバシ(お姉ちゃんの音)

「よし、それくらいでいいから。小判型の形にして。要領は、こんな風ね」

 一時期料理番組も担当していたので、意外に料理には詳しい姉なのですよ。わたしは、自分の話にも形をつけなければと思う。

 藤田先生の困った顔が浮かんだが「なにそれ」と返されそうなので、締めくくりに相応しい方を話した。

「辞書で調べたらさ、生徒会長ってpresidentって言うんだよプレジデント! 大統領と同じなんだよ、なってみたいと思わない?」

「アハハハ」

 盛大に笑われる。そりゃ東大出の才媛だ、生徒会長がプレジデントだなんて先刻ご承知。

 でも、姉妹の会話って可愛く締めくくっておくのがデフォルトなんだと思う。

 

 それに、プレジデントという呼び方は本当に気に入ってるんだからね。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨    急に現れた対立候補
  •  橘 なつき    入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  橘 健二      なつきの弟
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問

 

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せやさかい・193『満開の梅にことよせて』

2021-02-27 13:24:20 | ノベル

・193

『満開の梅にことよせて』詩(ことは)          

 

 

 境内の梅が満開になった。

 

 写真を撮ろうかと提案したら、みんなが手を挙げて、けっきょく家族総出の記念写真になる。

 いちおうお寺なので、パイプ椅子三つ出して坊主席を最前列に。

「わしらは後ろでええで」

 そう言うと、お祖父ちゃんは留美ちゃんを手招きして、さっさと座らせてしまう。

「あ、わたし、立ってます(^_^;)」

「ええからええから( ^)o(^ )」

 愚兄に促されて、わたしとさくらが留美ちゃんを挟んで座る。

「留美ちゃん、こいつも頼むわ」

 愚兄がダミアを留美ちゃんの膝にのせて重しにして留美ちゃんの遠慮を封じてしまう。

 お父さんが愛用のカメラを出してきて、手際よくセッティング。

 檀家とか坊主仲間の集まりで慣れているので、こういうことをやらせると手際がいい。

 クンクン クンクン

「もう、女の子が前に座ってるからって、クンカクンカしないでよね」

「い、いや、ちゃうて! 花粉症や花粉症!」

「まあ、どうだかあ~」

「留美ちゃん、うちと替わりい」

 さくらが上手いことを言って、留美ちゃんを真ん中に据える。

 わずか三十秒で、留美ちゃんを真ん中にした記念写真のポジションが決まる。

 三枚撮って、みんなも自分のスマホを出して、同じものを何枚も撮る。

「う~ん、釣鐘堂の脇もええし、紅梅のとこもええし……」

 さくらもノッテきて、女子三人、境内のあちこちで続きを撮ってみる。

「あ、夕陽丘さんも呼んであげたらよかったね」

 分かっていながら、わざわざ苗字の方で言ってみる。

「あ、それはまた日を改めて……でも、なんで苗字で?」

「えへ、ちょっと実験」

 言いながら、お祖父ちゃんと山門の方へ歩いて行く愚兄を見る。愚兄には『頼子さん』でインプットされているので、とっさには反応しない。

「写真、頼子さんには、わたしから送っていいですか?」

 留美ちゃんの素直な反応に愚兄の耳がピクリと動いたような気がしたのは考えすぎ?

「ああ、それやったら俺から……」

 アハハハ

 アグレッシブな反応に、三人思わず笑ってしまう。

「ちょっと、みんな来てみい」

 お祖父ちゃんが、山門の前からオイデオイデしている。

「なあに?」「なになに?」「なんですか?」

 山門の脇をを見て新鮮な驚き。

「あ、あ、すみません((ノェ`*)っ))」

 留美ちゃんが表札を見て顔を赤くする。

 うちはお寺なので、表札が二つある。

 大きな『如来寺』という大きいのと、普通サイズの『酒井』の表札。

 ずっとお寺の看板だけやったんやけど、去年、さくらの担任の先生が迷われてから家の表札もかけるようになった。

 その『酒井』の表札が新しくなって『酒井』の横に小さく『榊原』と書き加えてある。

「郵便とか宅配さんとか困らんようにな」

 郵便と宅配のためだと言ってるけど、留美ちゃんを家族の一員として受け入れていることの意味の方が大きい。留美ちゃんの顔が、また赤くなった。

「ね、ここでも写真撮ろう!」

 お父さんとお母さんは抜けていたけど、再びの撮影会。

 これで最後の一枚……と思ったら、山門の前を真っ新な聖真理愛女学院高校の制服着た女の子が自転車で駆け抜けていった。

 そう言えば、今日あたりが合格者登校日。

 この近所にも聖真理愛の生徒がいるんだと、三年前の自分を見るようで、少し胸が熱くなった。

 

 

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誤訳怪訳日本の神話・27『生き返ったオオナムチ』

2021-02-27 09:24:29 | 評論

訳日本の神話・27
『生き返ったオオナムチ』    

 

 

 オオナムチと八十神の父親は共にアメノフユキヌですが、母親が違います。

 オオナムチの母はサシクニワカヒメですが、八十神たちの母は、父のアメノフユキヌがあちこちの女神と交わって生まれた神々です。上代や古代においては母親が違えばほとんど他人と変わりません。異母兄妹なら、平気で結婚もできました。

 兄の八十神たちはオオナムチの惨たらしい遺体をサシクニワカヒメに送りますが、そういう惨いことができたのも自分たちの母親ではなかったからでしょう。

 八十神たちに、どこか遠慮の有ったサシクニワカヒメは、息子の遺骸に涙して、ただただ祈る事しかありませんでした。

 どうか、どうか、息子の命を、オオナムチの命を戻してください、返してください……。

 祈った神は、彼女の父のサシクニオオカミかオオナムチの七代前のスサノオか、あるいは大元のイザナギであったのか……。

 やがて、その祈りの甲斐があって、キサガヒヒメ(赤貝の精)ウムギヒメ(蛤の精)がやってきてオオナムチの命を呼び戻してくれます。

 おそらくは、死んで黄泉の国へ行ったんでしょうが、イザナミのように黄泉戸喫(ヨモツヘグイ)をしていなかったのでしょう。黄泉戸喫、憶えておられるでしょうか、イザナギが亡くなったイザナミを連れ戻しに行った時、黄泉戸喫してしまったイザナミは「自分の意思では戻れないので、黄泉の神々と相談するので、けっして覗いてはいけません」と言われ、待ちきれないイザナギは覗いてしまって、えらい目に遭いました。

 オオナムチは、ご先祖のイザナミの失敗を知っていたのか、母親のサシクニワカヒメがなんとかしてくれると思っていたのか、とにかく蘇りました。

「おまえが生き返ったということは、すぐに八十神たちの知るところになるわ」

「どうしよう、せっかく生き返ったのに(;゚Д゚)」

「よく聞きなさい、木国(きのくに)のオホヤビコの神を頼っていきなさい、きっと助けてくれます!」

 オオナムチは木国を目指します。

 木国は、おそらく紀国のことでしょう、名前の通り日本有数の森林地帯で、江戸時代には幕府や紀州藩の御用林がありました。奈良と三重の間に和歌山県の飛び地がありますが、江戸時代の御用林の分布の名残だと言われています。

 しかし、敵は八十神、名前の通りでも八十人、実際はもっと多かったかもしれません。やがて居場所が知られてしまいます。

「どうも、ここでは匿いきれない。根の国堅州国(ねのくにかたすくに)に行って、スサノオ命に頼りなさい」

 なんとも運の無い男ですが、見ようによっては、どんな逆境に陥っても、必ず助けてくれる人が現れるという強運の持ち主であるとも言えます。

 この歳になって人生を振り返ると、ああ、こういうことってあるよなあと思います。

 まさに『捨てる神あれば拾う神あり』ですなあ……

 高校を四年通うハメになったわたしは、不器用な生徒で、アルバイトもろくに見つけることができませんでした。

「こんなバイトがあるでえ」

 友だちが落第した説教をする前にバイトを紹介してくれました。

 大学も五年通うハメになったのですが、その五年間も、いろんな人がバイトや人の繋がりを仲介してくれました。

 部活指導という名目でグズグズ母校の演劇部に顔を出していると、賃金職員や非常勤講師の口をかけていただきました。

 三十路を目前にして校長からはやんわりと「学校から出ていけ」と言われましたが、ほかの先生たちは、こんな道あんな道を示して、力も貸して下さり、いつの間にか採用試験に通って本職になってしまいました。

 あいつは、いつまで独り身でおるねん!?

 周囲の人たちは、心配をして下さり、しばしばお見合いの機会を設けて下さり、四十路を前に、やっと所帯を持つことができました。

 四十路の結婚と言うのは、初婚でもきまりの悪いもので、カミさんとも相談して結婚式などはあげませんでした。

 それは、もったいない!

 ということで、先輩の先生たちがおぜん立てをして下さり、出席者100人を超える結婚披露パーティーを開いてくださいました。

 なんか、我田引水になってきましたが、こういう世話焼きが、日本の良き伝統であるような気がします。

 若いころから、日本神話には親しんできましたが、オオナムチの下りで、そういうことに思い至ったのは、いい意味で歳なのかもしれません。

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らいと古典・わたしの徒然草・16『第三十六段 さもあるべき事なり』

2021-02-27 06:43:44 | 自己紹介

わたしの徒然草・16

第三十六段 さもあるべき事なり』    

 

 

 さもあるべき事なり、つまり「そういうこともあるべきだ」という兼好のこだわりが書かれています。

「そういうこと」とは、以下の内容です。

 あるオッサンが、何かの事情というか、気が乗らなかったというか、今まで通っていた女のところへ、しばらく行けず(行かず)、少し敷居が高くなっちまったなあ……と思っていたら、彼女のほうから、こう言ってきました。

「今さ、使用人のニイチャンが一人足りないのよね、いい子がいたら紹介してよ」という便りです。

「ずいぶんご無沙汰じゃないのよさ」などと、アカラサマに責めるのではなく、人手が足りないことにこと寄せて、そのオッサンが自然に来やすいようにする便りでありました。

 で、オッサン……彼は、彼女のところに自然なカタチで行きやすくなりました。そういう彼女の機転の利いた心映えに「そういうこともあるべきだ」なのであります。

 日本人は一般に気の利いた言葉がヘタクソですね。国会中継などをみていてもセンセイがたのボキャ貧に、思わずチャンネルを変えてしまったりします。

 
 先年、オバマ大統領がスピーチ中に、演台のエンブレムがポロリと取れて、コロリンと落ちてしまうというハプニングがありました。気づいた大統領は、子どものように、エンブレムが取れたところを覗き込み。

「これが無くても、ボクが誰だかみんな分かってるよね?」

 これが日本なら、首相は無視し、係りの役人がコソっと落ちたエンブレムを拾い、NHKは、その部分のテープをカットするか、アングルを変える。で、あとで、営繕担当の役人が始末書を書かされますねえ。

 エンブレムで思い出しました。

 昨年アジアの某国高官が来日し、首相が使っている演台でスピーチをされて、その様子が某国で放送されると、こんなクレームがつきました。

「あのマーク(桐の紋所)は、わが国を侵略した豊臣秀吉のマークであり、侮辱である」というものであります。日本の総理大臣は「大いなる臣」であるので、皇室の副紋である桐の紋を使っているのです。また、戦後日本国の紋章も菊紋をやめて桐紋に切り替えているので、日本国の紋章でもあります。歴代功績のあった、臣にはこの紋の使用が許されてきました。だから江戸時代の小判にも桐紋の刻印があります。

 それに、総理大臣の桐紋は「五七の桐」で、秀吉の「五三の桐」とは違います。こういう一見ささいなことではありますが、政府はきちんと説明をすべきでしょうねえ。

 話がそれました。言葉の問題です。

 チャーチル首相が、二日酔いで、議会に出たとき、ある婦人議員から、こう言われました。
「神聖な議会にそんな(二日酔い)顔で来るとはなにごとですか!?」
 チャーチル首相は、こう答えました。
「どうも失礼、あなたのお顔はずっとそのままだが、わたしの顔は明日には元にもどりますんで、ご容赦を」
 日本で言えば、問責決議かもしれません。いまのイギリスでもこのジョークは言えないかもしれませんが、わたしは上手い返し方であったと思います。

 このチャーチルのエピソードを雑談の中で話した時、同年配のご婦人は『それは差別や』的な表情をされました。ジョークを言うのもむつかしい時代になりました。

 ケネディー大統領が、宇宙飛行士に勲章を授与するときに、ポロリと落としてしまったことがありました。テレビで全米中継の真っ最中(アメリカのテレビは、アングルを変えたりしない)なので全米が見ていました。 大統領はにこやかに落ちた勲章を拾い上げ、こう言続けました。

「地上の大統領より、宇宙の英雄の栄誉を讃えて!」

 ドゴールだったと思うのですが、ドイツがまだ東西に分裂していたころ、記者からこう質問された。
「東西ドイツの統一について、どうお考えでしょうか?」大統領はこう答えました。
「わたしはドイツが大好きです。そのドイツが二つある。それが一つになってしまうのは寂しいね」
 こういう政治家は日本にはいません。しかし、この言葉については、「もうちょっと、お勉強なさっては」と、いう程度の問題である。欧米は、国の中で人種や宗教、思想の違いが大きく、自然と言葉や、その言い回しが発達してきました。
 日本は、そういう問題が比較的に小さい。元来が人の和を尊ぶ農耕社会であるので、言葉には「推し量る」ということが尊ばれますかね……。

 

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真凡プレジデント・6《対立候補》

2021-02-27 06:12:05 | 小説3

プレジデント・6

《対立候補》       

 

 

 お姉ちゃんとコロッケで乾杯したあくる日の事。

 

 物理の教室移動で校舎を出たら、昇降口の方から藤田先生と中谷先生が出てくるのが見えた。

 模造紙丸めたのと画びょうのセットを持ってニコニコしている。心なし足取りも軽いように思えた。

――あ。立候補者が揃ったんだ!――

 持っているものと足どりの軽さで直感した。

 

「おう、真凡! おかげで出そろったよ!」

 

 藤田先生も気づいて模造紙を持ったままの手を振ってくれた。

「さっき出そろったんでポスターを貼って来たところだ」

「え、揃ったんですか!?」

 実直な藤田先生が嬉しそうにしているのは、見ていても気持ちがいい。

 先日、中庭で候補者の名前が埋まらない書類とにらめっこしていた時の消沈ぶりが嘘のようだ。

 やっぱり藤田先生はニコニコしている方がいい。

「よかったですね!」

「そうよ、会長候補は二人になったから、久々に面白い選挙になるわよ(^▽^)/」

 中谷先生も屈託がない。てか、なに、いまの?

「え、対立候補が出たんですか!?」

「ああ、真凡も頑張れよ!」

「さ、次はピロティーの掲示板です」

「じゃあな、真凡!」

 両先生は足取りも軽く行ってしまった。

 

 キンコーンカンコーン……キンコーンカンコーン……

 

 すぐにでも見にいきたかったけど、始業のチャイムが鳴ったので、あきらめて物理教室に急いだ。

 

 物理の授業は気もそぞろだった。

 だって対立候補だよ!

 どうしよう、生徒会選挙に落ちるなんてメチャクチャカッコ悪い。

 無風の信任投票になると見越して立候補したんだ。対立候補なんか居たんじゃ、ぜったい落選する。

「大丈夫だよ、真凡ならぜったい通るよ」

 並んで座っているなつきが密やかに言う。なんで分かったのよ?

「だって……」

 なつきは、わたしの手元を指さした。

「あ……」

 わたしってば、ノート一面に――対立候補――の四文字を呪文のように書き散らしていた。

 

 キンコーンカンコーン……キンコーンカンコーン……

 授業が終わるのももどかしく、なつきを連れて昇降口に向かった。

 

 令和二年度前期生徒会候補者と書かれた模造紙には、わたしの名前に並んで、もう一人の会長候補の名前が書かれていた。

 会長候補  三年六組 柳沢琢磨

 

「これって……あの柳沢琢磨だよね……」

 ついさっきまで、わたしの当選を請け負って止まなかったなつきの声があからさまに萎んでいった……。

 

☆ 主な登場人物

  •   田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •   田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •   橘 なつき    入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •   橘 健二      なつきの弟
  •   藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •   中谷先生     若い生徒会顧問
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魔法少女マヂカ・199『堀越を救う』

2021-02-26 09:19:05 | 小説

魔法少女マヂカ・199

『堀越を救う』語り手:マヂカ    

 

 ドコン!!

 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ……!!

 

 突き上げるような衝撃がきたかと思うと、車両は左に傾き振動したまま金属を捩るような音をさせて走った!

 キャーーー! ウワーーー!

 悲鳴と衝撃は永遠に続くのかと思ったが、実際には十秒そこそこのものだろう。

 車両は進行方向左側に傾いて停まった。

 わたしは手すりやフックに掴まって耐えた。

 ブリンダは正面の堀越に覆いかぶさるようになっていて、自分の上半身、主に胸でもって堀越と堀越の膝の上に倒れ込んできた霧子を庇っていた。

 ブリンダ……!?

 すまん、抜いてくれ。

 思念で会話した。

 後ろの網棚から飛び出したんだろう、植木鋏が二本突きたって、足もとには口の開いた鞄が、他の散乱物と一緒に転がっている。

「あ、商売道具が……」

 職人の親方風が鞄を拾って、わたしが抜いたばかりの植木鋏を仕舞っている。ブリンダが庇わなければ、堀越の胸に突き刺さっていただろう。

「ダイジョウブですか?」

「あ、ああ、これはすみませんでした! だ、大丈夫のようです」

「あ、わたしこそ……」

 ブリンダが声をかけると、堀越は状況を理解して、頬を赤らめて礼を言う。霧子は堀越に助けてもらったと思って、これはこれで赤くなっている。

「大丈夫?」

「気を付けろ、これだけじゃ済まない」

 小さく聞くと、恐ろしい返事を返す。気が付くと、禍々しい空気が密度を増している。地震による気の乱れ……だけではない剣呑なざらつきがある。

「地震の事じゃないな」

 小さく頷くと、ブリンダは進行方向の右側を目で示した。左側には出るなということだろう。

 通路を通ってデッキから外に出る。

「いやあ、これは……」

 堀越に、後の言葉は無かった。

 あちこちで家が倒れ、時間が昼前であったこともあって、数か所から火と煙が上がり始めている。

 ゲシュタルト崩壊だろう、軌道上に出た乗客たちは、呆然と震災直後の惨状に目を奪われるばかりだ。

「おい、手を貸してくれ!」

 車両の中から声が上がる。取り残された負傷者がいるようだ。

「おーーい、こっちにも来てくれ!」

 前の方からも声がかかる。

「機関士が閉じ込められてしまったぞ!」

 堀越は、瞬間悩んで機関車の方に向かおうとする。

「そっちは、向こう側に任せましょう」

「あ、ああ」

 ブリンダは、車内を促した。機関車の方には事情がありそうだ。

「医者か看護婦はいないか!?」

 車内から声がかかる。動かせないケガ人がいるようだ。

「わたしたち、心得があります」

 ブリンダが手を挙げる。魔法少女は白魔法だけでなく医療の心得もあるのだ。

「堀越さん、ここで救助の指揮を」

「心得た、とにかく怪我人を搬出して避難することだね」

「霧子さんも手伝って、真智香さんは堀越さんといっしょにいらして」

「了解」

 ブリンダが戻り、堀越が搬送の指揮を執ると、他の乗客も正気を取り戻して救助や避難が進んで行く。

 グワァッシャーン! 

 ウワアア!

 前方で衝撃と悲鳴が起こる。

 微妙な傾斜で停まっていた機関車が転覆したんだ。堀越が向かっていたら危なかったかもしれない。

 視界の端を、さっきの親方風、一瞥をくれたかと思うと、数人の男女と共に築堤の高架を下りていく。

 空気のざらつきが消えて、震災直後の疲弊と慄きに震える空気だけが残った。

 

 一通りの救助と避難を済ませると、わたしたちは凌雲閣の地下にテレポした。

 

 

※ 主な登場人物

渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員

要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 

野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長

来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令

渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る

ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員

ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 

春日         高坂家のメイド長

田中         高坂家の執事長

虎沢クマ       霧子お付きのメイド

松本         高坂家の運転手 

 

 

 

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真凡プレジデント・5《コロッケで乾杯》

2021-02-26 06:43:16 | 小説3

プレジデント・5

コロッケで乾杯》       

 

 

 ジャージ姿でコロッケを買いに来るようなお姉ちゃんじゃなかった。

 

 女子アナというのは半分タレントみたいまもので、いつもパリッとして、颯爽としていた。

 月に二度は美容院に通って磨きをかけ、そのグレードを維持していた。

 もともと磨きなんか掛けなくても――美姫ちゃんは違うねえ!――と、子供のころから評判だった。

 美姫って名前が凄いでしょ!?

 だって、美しい姫ですよ!

 栴檀は双葉より芳しの例えどおり、生まれた時からすごかったらしい。初孫というアドバンテージもあったんだろうけど、お爺ちゃんが新生児室での初対面で――この子は絶世の美人になる!――ことを見抜いて『美姫にせい!』と決めてしまった。

 所帯を持つにあたって経済的に絶大な支援を受けていた両親は、あっさりと承知した。

 結果的にお祖父ちゃんの予言通りの才色兼備が当たり前の女子アナになったので文句の有ろうはずもない。

 

 その十年後に、同じ新生児室で、わたしを見たお祖父ちゃんは、しばしの沈黙の後に、こう言った。

「人生平凡が何より、平凡の内に身を立てられる子になればいい」

 そうのたまわって真凡とつけた。

 まあ、事実だから仕様が無いんだけども、折に触れて言われるのは、ちょっと凹みますよ。

 読みこそ『まひろ』だけども、たいていの人は読めやしない。『マホ』とか『マフ』とかに読まれてしまう。

 でも、名前はともかく、事実その通りなんだから、わたしはお姉ちゃんを応援してきましたよ。ミテクレはともかく、人との接し方や、ものの考え方とかはお姉ちゃんの真似をしてきた。

 生徒会長に立候補したのも『キャパシティーの中なら人の為になる道を選ぶ』というお姉ちゃんのスタイル。

 じっさい、お姉ちゃんも生徒会長をやっていた。それも、女子高が共学になった年だったから注目もされたし、注目された分の仕事もしてきた。

 ワイドショー番組の学校訪問に名乗りを上げて注目された評判で特集番組を組まれ、学校の評判を上げるとともに、自分自身マスメディアで働く道を切り開いた。

 人のためにやることが自分を磨くことになる。

 むろん、わたしの場合、見た目の平凡さはどうにもならないでしょうけどね。

 

 そのお姉ちゃんの劣化ぶりは、ほんとうにムカつく!

 

「なんか無性にコロッケ食べたくなってさあ……ハムハム」

 玄関に入るなりマスクをとって食べ始める。

「もう、やめてよね!」

「あ、こら……」

 コロッケの袋をふんだくって、ズイズイリビングに向かう。

「ちょっと、そこに座って!」

「なんか怖いよ真凡~」

「たまには美容院行きなさいよヽ(`Д´)ノ」

 正面に座った自堕落オーラは凄まじく、一番目についた髪の毛を糾弾してやる。

 姉は学生時代からショートヘアだったけど、さっき言った通り、月に二回の美容院でベストの状態をキープしていた。

 それが三か月以上のホッタラカシ。

 毛先は肩に届いているのも見苦しく、元々の髪の豊かさが裏目に出て金太郎のごとき爆発頭。

「気は使ってんだよ、ちゃんとシャンプーしてフケなんか……ないよね?」

「あったらたまんないわよ」

「わたしはね、昔からお姉ちゃんの劣化コピー版て言われてきたけど平気だった。平気だって思えるくらいにお姉ちゃんは凄かったし、お姉ちゃんと血のつながりがあるってだけで、わたしにはアドバンテージだったよ」

「そんな大げさなあ……」

「貧乏臭く髪かき上げたりしないでよ!」

「あ、ああ……ハハハ」

 手を下ろすと気弱に愛想笑いする姉が、ひどく不潔なものに思えてきた。

 こういう時に不用意に発言すると取り返しのつかないことを言ってしまいそうで、わたしは息を呑んだ。

 呑んだ息というのは、なにか言葉にしないと、これはこれで空気を悪くする。

 

「わ……わたし、生徒会長に立候補するんだ!」

 

 考えも無しに言葉が出てしまった。

 対立候補が出ない限り当選は間違いないんだけど、それでも当選もしないうちに言うのは、とても浅はかな気がする。

 頑張れよお姉ちゃん! という気持ちが屈折して出てきたのかもしれない。けど、やっぱ自己嫌悪。

「凄いよ真凡! わたし、ぜったい応援するからね! そうだ乾杯しよ乾杯!」

 お姉ちゃんはイソイソと冷蔵庫を開けビールとジンジャエールを持ち出しグラスになみなみと注ぎ、ジンジャエールの方を私の前に置いた。

「真凡の生徒会長就任を祝って……」

「ちょ、立候補だって!」

「通ったようなもんでしょ、対立候補出なきゃ」

「ま、まあ」

「ほんじゃカンパーイ(´∀`)!!」

 すかさずコロッケに飛びつくお姉ちゃん。

 ひょっとしたら、コロッケ食べたさだけだったのかも……でもいいや、あれ以上言っても実りがあるようには思えなかったし。

 それにしても、おいしそうに食べるわよね……。

 

☆ 主な登場人物

  •   田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •   田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •   橘 なつき    入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •   橘 健二      なつきの弟
  •   藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •   中谷先生     若い生徒会顧問
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銀河太平記・032『ヤバい話』

2021-02-25 09:45:27 | 小説4

・032

『ヤバい話』ダッシュ   

 

 

 そこまでしなくても……

 

 マーク船長の言葉は途中で止まってしまった。

 怪しげな交易船の船長だけど、相手が宮さまとなると奥ゆかしいのか、宮さまの柳に風を思わせる風格のせいかは分からないけども、その中断が、会話の内容の重大さを感じさせる。

 四人ともダクトの真下に場所を移した。

「隠遁するんだったら田舎でしょう」

「火星なら、どこに行っても田舎だと思いますよ」

「でもね、扶桑の領域の内じゃ、いざという時に幕府に迷惑をかけてしまう」

「ザックリ言って、火星は西部劇の世界ですよ。比較的治安のいい扶桑でも、地方の町に行けば所属・国籍不明のやつらが自由にやってます。お奉行所も、その辺の力加減は分かっていて、無用の干渉はしてこない。宮様お一人、いくらでも身を忍ばせられます。火星の辺境で暮らすなら、水や空気の心配からしなくちゃなりませんよ。地方の町なら、最低、空気と水は保証されてますから」

「ありがとう船長。でもね、やるなら中途半端はいけないと思うんだ。やっぱり……少なくても二三年は姿をくらましていたいんだ」

「しかし、なんでそこまでなさるんですか?」

「それは……」

 間が空いたと思ったら、今度は元帥が語り始めた。

「実は……謀反の兆候があるんだ」

 謀反? なんか超時代劇みたいなことを言ってる。

「クーデターですか?」

「いや、謀反だ。クーデターなら政府が倒れて、軍部なり野党なりが政権を握ってメデタシメデタシだ」

「え? どこが違うんですか? ポリティカルなことは、とんと苦手で……」

「謀反は、皇室そのものをひっくり返すことさ」

「え、皇室を!?」

 え!?

 俺たちも、ダクトの下で息が止まりそうになった。

「こないだ、靖国の前で陛下の車列を襲った奴らがいただろう」

「ヤタガラスだな」

「たぶん、悪だくみしているのはヤタガラスだけじゃないから確証はないがな」

「でも、あれは騒ぎを起こして、政府を倒すことが狙いなんだろう?」

「そうとばかりは言えんのだ、今上陛下は満州戦争の折に女性天皇を認めることになって即位された、その正閏を言い立てる勢力が出てきているんだ」

「ええ、今更か!?」

「ああ、それ以前の皇統でいけば、畏れ多いことだが森ノ宮さまだからな」

「そんなことが……」

「下手をすれば、南北朝の争乱になりかねない……そのために、殿下には、しばらく息を潜めていただく」

「アハハ、いやいや、僕は、そういうことは大の苦手なんでね、さっさ逃げちまおうって、そういうことなんだ。なに、僕が臆病なだけさ。ほとぼりが冷めたら、こっそり戻って『ボンヤリ宮様遁走記』でも書いて小銭を稼ごうと思ってる」

「ついては、火星で頃合いの隠棲地とかないだろうか、船長」

「本格的に身を隠したいと……」

「ロシア革命で、レーニンが身を隠したフィンランドの沼沢地みたいな……」

「火星に沼沢地はないからな……そうだ、扶桑の辺境に一つあることにはある……持ち主にことわらなきゃならんがな」

「どこだ?」

「カサギ、ちょっとした山だ」

「持ち主とは?」

「アルルカン」

 ダクトの下で息が止まりそうになった。

 アルルカンと言えば、太陽系を股にかけて暴れまわっていると言う賞金首の空賊。奉行所の指名手配のトップに、この十年不動の一位のポジションを確保している悪党だぞ。

「オラア! いつまで起きとる!!」

 不意を突かれてビックリした、すみれ先生が仁王立ちで、俺たちの後ろに立っていたぞ!

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 児玉元帥
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首

 ※ 事項

  • 扶桑政府   火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ    扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
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らいと古典・わたしの徒然草・15『第三十五段 手のわろき人の』

2021-02-25 06:52:05 | 自己紹介

わたしの徒然草・15

『第三十五段 手のわろき人の』    

 


 ありがたい段です。

 字や文章のヘタクソなやつが、ばんばん書きちらしているのはいい! と言ってくれています。まるで、悪筆、乱筆、支離滅裂な戯曲や駄文を書いているわたしに対して、七百年の時空を超えて兼好が励ましてくれているようです。

 わたしはパソコンに馴染むまでは手紙魔でありました。常に定形最大の封筒と、便せん代わりの原稿用紙、それに八十円と十円の切手(よく、二十五グラムを超えて九十円になったので)と、万年筆のインクカートリッジは座卓横の小引出や、棚の上に常備していました。
 たいがいの人は返事をくださる。封筒で返事がくるときは、迷惑がらず「また、お便りちょうだいね」であり、葉書ですます人は「もう、しばらくよこさんといて、邪魔くさいよってに!」という気持ちがこめられている。
 勢い、封筒でくれる人には沢山送ることになる。たいてい四五通やりとりすると葉書になる。
 そんな中で、わたしの手紙にめげず、それどころか倍の量にして送り返してくるやつがいた!
 わたしの駄文の中にたびたび登場する、映画評論家のタキガワである。こいつとは二十歳ごろからの付き合いなのですが、仕事を辞めてから、付き合いが濃厚になりました。

 昼は自分のパスタ屋でコックをやり、土日に映画を観て、評論の下書きを兼ねて手紙をよこしてくる。ときに、便せんに性格とは真逆の小さな字で四十枚を超えることもありました。いただいた手紙は、どなた様に関わらず、五年間は保存しています。このタキガワの手紙だけで、茶箱一杯分になり、溢れそうで広辞苑で蓋をしております。
 
 現役のだったころ、定期考査の問題は、退職するまで手書きでやっていました。悪筆なのですが、ガリ版時代からの手書きで、芝居の台本のガリ切りなどやっていたので、「読みやすさ」には自信がありました。ところが、ある日、生徒にこう言われました。
「今時、手書きの問題出すのん、センセだけやで」
 調べてみると、職員全員が、いわゆる「ワープロ」で問題を作っておられました。公文書も手書きで書いていましたが、わたしにとって最後の教頭が赴任してきたときに宣告されました。
「大橋センセ、公文書は、パソコンでやってください」
「そやかて、こないだまでは手書きでやってましたけど」
「あれ、前の教頭さん、パソコンで打ち直してはったんですよ」
 と、あわれむように言われました。

 駄洒落でもうしわけないのですが「ワープロ」では「わー、プロや」とは思えないのです。手書きの字には、人格や、その人の、そのときの気分が反映されます。わたしもパソコンに毒され、たいがいの便りはパソコンを使うようになりましたが、それでも手紙にしなければならないとき(上演許可の返事などは、手書きです。くだんのタキガワには、もちろん手書きで)。
 逆に、わたしにくる手紙のほとんどがワープロであります。ワープロの文章は、いくら名文で書かれていても、見たとたんに、心が萎えます。

 われながら前世紀の遺物です。ちなみに、わたしは携帯電話を持っていません。家人には「原始人!」といわれております。電話そのものを、ほとんどかけません。相手の状況や気持ちも分からぬまま、脳天気に「もしもし元気~!?」などとは、気の弱いわたしにはできかねます。ケータイに関しては、また別の駄文で書きたいと思います。

 後半の「見ぐるしとて、人に書かするは、うるさし」であります。
「字も文章もヘタッピーなんで、人に代筆してもらうのはウザイんだよな」という意味で、ここでいう代筆とは、恋文のことなのですが、恋文について書くと、これも長くなるので別の機会に。
 

 代筆について。

 卒業式の、送辞や、答辞は、たいがい教師の加筆訂正が入っていて、ほとんど教師の文章であります。
「梅の香匂い、桜も硬い蕾を付け始めた今日の良き日。先輩方をお送りするのは、嬉しくもありますが、後輩としては、一抹の寂しさを禁じ得ません。思い起こせば……」などと始まったら、まず間違いなく教師の代筆です。

 生徒会の担当で、思いがけず送辞の監修係りにあたったわたしは、どうせ代筆になるなら、思い切り大橋色にしてやろうと思いました。
「梅の香匂い……」の慣用句の後、こうつづけさせました。
「ここには、百十二名の先輩方がいらっしゃいますが、三年前、同じ席に新入生として座られていたときは、二百四十名の先輩方がいらっしゃいました。ぼくは、今ここにいない百二十八人の先輩に想いをいたします。心ならず、中退し、別の道を歩まれている、その先輩方にもエールを送りたいと思います……」という意味のことに向けて行きます。

 式場が少しずつ静かになっていきます。
 近所や世間からは、「あかん学校」と、言われてきました。たしかに行儀も成績も良くありません。
 しかし、あの子達は、中途で辞めていった仲間たちへの気がねがあったのです。事故に遭ったとき、自分だけが生き残った人が持つ心の痛みに似ていると思いました。代筆したわたしも、この反応には驚きました。アクタレに見える子供たちの心の中にも、ヒトガマシイ心がちゃんとあるのです。

 しかし、そのくだりが終わると、また式場の空気が緩み始めます。

 それでも、送辞担当の生徒は、間違えないよう、声が小さくならないよう、走らないよう気を付けながら最後まで読み通して、盛大に安堵のため息をつきました。

 ハアアアアアアアアアアアア……

 式場は暖かい拍手と微笑ましい笑い声が湧いてきました。溜息、グッジョブでありました。



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真凡プレジデント・4《なつきと勉強》

2021-02-25 06:07:15 | 小説3

プレジデント・4

なつきと勉強》       

 

 

 それほど勉強のできる方じゃない……わたしもね。

 

 だから、なつきの勉強をみてやるといっても大層なことはやらない。

「憶えたあ?」

「う、うん……自信ないけど」

「無くっていいよ、じゃ、問題五つほどやってみよう」

 シャーペンのお尻で例題と練習問題を示す。

 なつきが公式を暗記している間に、わたしはページを二枚めくって、次の公式を確認する。

 一枚めくったところには応用問題があるんだけど、それはパス。

 テストの2/3は基本問題だ。

 うちは上から数えて2/3くらいの偏差値。むつかしい問題はそんなに出ない。

 評定の5だとか4だとかを目指すんなら応用問題もやらなきゃならないけど、普通の3を目指すんだったら基本だけでいい。

 3というのは点数で50点から69点。実に20点の幅がある。

 進学や就職に向けての成績は評定で表される。だから、50点でも69点でも同じ3がつく。だから60点くらいのところを狙っていればいい。60点を狙えば55点くらいに落ち付く。

 だってそうでしょ、評定4を目指そうと思えば70点は取らなきゃならない。湯気が出るほど頑張って69点だったら、適当にやって取った69点と同じ評定3になる。

 そりゃ、うちのお姉ちゃんみたくスイスイ100点取っちゃう奴もいるけど、そんなの真似したら息苦しくってかなわない。

 まして、わたしの横で基本問題をやってるなつき……

 

「コラーーー!」

 

 なつきはコタツの下で可動式のフィギュアをいじっている。シャーペンのお尻でオデコを叩いてやる。

「イテ!」

「サッサとやる!」

「はーい(^#▽#^)」

 甘えた声を出して、渋々という感じで練習問題に取り掛かる。

「それやったら、次の公式ニ十回、例題二問やっておしまいだから」

「う、うん」

 

 わたしは、公式の確認を終えて世界史のノートを出す。ざっと読み直してポイントを絞りなおす。

 アンダーライン引いたところを全部なんてやれやしない。絞って外れるところも出てくるけど、ま、目標は評定3だ。

 なんとか終わって顔を上げるとフィギュアがアラレモナイポーズをとっている。

「もー、ちゃんとやれたの?」

「ほら」

 一応見てやる、五問の内の二つを間違えている。

「だめでしょ、単純な代入ミスなんかしちゃあ、ダラダラやってたら時間かかって嫌になるだけなんだから!」

「ちゃ、ちゃんとやるわよ(^_^;)」

 なつきが勉強できないのは能力じゃなくて、やる気だ。一時間ちょっとの勉強でフィギュアのポーズが三回も変わるようじゃね。

 なんとかノルマを果たすと階段をドスドス上がってくる音がする。

 

「コラ、健二!」

 

 ノラクラしていたなつきがスイッチが入ったように飛び出る。

――もう、靴下脱いでから上がれって、何度も言ってだろ! おまえ、汚ねーんだからさ!――

――ちょ、階段で怒るなよ、あぶねーからさ、け、蹴るなよ!――

 ドシンバタンと追いやる音と声が続く、弟の健二が帰って来たようだ。家と弟のことになれば、やっぱ立派にお姉ちゃんをやっている。

「健二、あんまりお姉ちゃん困らせんじゃないよ」

「あ、もう帰る?」

「送ってこうか!」

「ハハ、女の子をエスコートするには十年早いわよ。じゃ、また明日ね」

 框を下りると――ありがとうね、真凡(まひろ)ちゃん!――おばさんの声がお好み焼きのいい匂いと共に響く。

 営業中の時はお店を通れないので路地に面した玄関の方から出ていくんだ。

 

 路地を抜けると商店街。

 

 お肉屋さんの方から揚げ物のいい匂い。コロッケなんか買って食べたくなるけどガマンガマン。

 ナイスバディーじゃないけどブサイクというほどでもない。生徒会長に立候補するんだ、せめて普通はキープしておきたい。

 コロッケを我慢して少し行くと電気屋さん。店の中の4Kテレビが夕方のニュースをやっている。

 おすましした女子アナが首相の悪口同然のニュースを流している。ほんの三月まではお姉ちゃんがやっていた……こんどの女子アナはお姉ちゃんほどにはイケてない。

 すると、濃厚なコロッケの香りが後ろの方から。

 

 振り返ると、ジャージ姿にマスクした自堕落お姉が立っていた……。

 たった今の感想返してよ。

 

☆ 主な登場人物

  •   田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •   田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •   橘 なつき    入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  橘 健二     なつきの弟
  •   藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •   中谷先生     若い生徒会顧問

 

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RE滅鬼の刃・15『横並び』

2021-02-24 14:37:11 | エッセー

RE滅 エッセーノベル    

15・『横並び』       

 

 

 日本人て横並びですよね。

 

 いいか悪いかは別にして、周りの人と同じであることで精神の安定を保っていると思うんです。

 お祖父ちゃんは、1953年生まれですから、団塊の世代の尻尾の先だと思います。

 職場は公立の学校でしたから、同僚の先生たちは日教組です。

 あ、日教組という括り方をすると「それは違う」とお祖父ちゃんは言います。

 お祖父ちゃんは府の教職員組合が分裂してゼンキョウというのが出来た時に組合を辞めています。

 ゼンキョウ……全日本教職員組合? よく分かりませんが、1991年に日教組から分離した組合組織で、日教組とは一線をひいている……だそうです。

 日教組も全教も、まあ左派の組合です。高校生のわたしには、違いがよく分かりません。

 立憲民主党系と共産党系? アハハ、立憲民主と共産党の区別もついていません(*ノωノ)。

 その中で日の丸賛成! 卒業ソングは『蛍の光』と『仰げば尊し』を叫ぶんですから勇気があります。

 お祖父ちゃんも最初は組合には入っていたようです。

 最初の学校に新任で入った時、諸手続きの中に組合加盟の用紙があるし、説明してる人は一緒だし、なんか「皆さんそうなさってます」的な空気の中で入ってしまったんだそうです。

 なんで辞めたのかを面と向かって聞いたことはありません。なんか古傷っぽいですしね。

 お祖父ちゃんはFacebookをやっています。

 毎日、お友だちの投稿を見ては「ほう」とか「へえ」とか言ってます。

 友だちの友だちは、みんな友だちだ! という感覚でフレ承認していたら、いつのまにか300人ほどお友だちができたようです。

 リアルのお付き合いは、ほとんど無くなったお祖父ちゃんですので、たとえSNSでも人の繋がりがあるのはいいことだと思います。

 ただ、歳の割には左翼っぽくないお祖父ちゃんなので、お友だちの投稿が間違っていたり見当違いだったりすると、きっちりと反論を書きます。

 たとえば――総理は記者たちの呼びかけを無視して去っていきました――という書き込みがあったとします。

 お祖父ちゃんは、色々調べてファクトチェックします。確認の結果以下のようなことを知ります。

 総理は、記者たちに呼び止められて振り返りましたが呼び止めた記者は手を挙げません。それで、総理は再び去ろうとしますが、再び「総理!」と声が掛かり、再び振り返りましたが、やっぱり名乗り出る記者はいませんので、三度立ち去ろうとします。すると、三度目の「総理!」の声が上がりますが、三度目は振り返らずに、そのまま立ち去りました。

 この三度目の時だけを取り上げて――総理は記者たちの呼びかけを無視して去っていきました――と非難するのです。

 そこまで調べて反論するのですが、反論された方は、やっぱり不愉快ですよね。

 たいていの人は反論された中身が問題ではなく、反論されたということに戸惑いと反感を持つんですよね。

 もう、現役のころのしがらみも無いのですから、思い切りやればいいと思います。

 でも、健康にだけは気を付けてくださいね。このごろ血圧も血糖値も高いんですからね。

 

http://wwc:sumire:shiori○○//do.com

 Sのドクロブログ☠!

 

 開き直るんじゃねえよ。

 人生100年とかいう時代だぜ、友だちがいねえことを自慢すんじゃねえよ!

 夜中にひっくり返ったって、あたししかいないんだぞ。

 クソジジイだから長生きだと思うけどさ、死ぬまで無事でさ、なんも患うこともなしにポックリいってくれたらいいよ。

 何回もひっくり返って、救急車呼んだり、度重なる入院とかで付き添いだとか看病だとか介護とか勘弁してよ!

 あたしだって、自分の人生あるんだからね。クソジジイのことで青春台無しにしたくねえよ。

 なんか、そういう予感がするからさ、頼むよ、ちゃんと、これからのこと準備しといてくれよ( ノД`)!!

 年末の事だったよな。

「しおり、もう年賀状やめようか」

 ミカンの皮剥きながら背中で聞いたよな。

「好きにすればあ……」

 そう言ったけど、本心は――クソジジイ、とうとう来やがった――て思った。

 年賀状たって、50枚無いじゃん。

 みんな義理で出してくれてる年賀状だけどさ、それでも、やっと残ってる人間関係じゃん。

 SNSだってさ、いちち反論とかみっともないよ。適当に『いいね!』押しまくって、かわいらしくしときゃいいんだよ。ひまでYouTube観まくりなんだろうけど、安倍さんとかトランプを贔屓にすんじゃねえよ、年寄りのトレンドは『安倍政治を許さない!』だからな。世間の年寄りは、総理辞めたって安倍総理許さねえんだからな! 右に、いや、左に倣っとけよ。

 失った人間関係は、取り戻せないんだからさ。

 だいたいさ、適当に世間に合わせときゃよかったんだよ。

 学校に勤めていてさ、日の丸とか君が代とか言ってんじゃねえよ!

 はいはい言って付き合っとけば、ここまで孤立してねえと思うよ。

 あたしだって、家の外じゃイイコしてるよ。

 ご近所の人に遭ったらきちんと挨拶するしさ、ゴミ出しだってやるよ。

 回覧板回すときだって、時候の挨拶だけじゃなくってさ、「腰の具合どうですか?」とか「夕べの地震びっくりしました!」とか「つまらないものですが」とか言って年に一回くらいは出かけた時のお土産添えたり、町会の運動会にも進んで出たりとか、クソジジイに万一のことがあった場合のセーフティーネットの構築に勤しんでるよ。

 学校じゃ『着かず離れず深入りせずに』をモットーにしてさ、クラスのどのカーストからも「おはよう」とか「オッス」を言い合えるような関係保ってるよ。

 制服の改造とかはしないけど、ブラウスの第一ボタンは外してリボンはルーズを心がけてるよ。

 ローファーの踵は踏みつぶさないけど、スカートは校則よりも三センチ上にして、アクセとかはしないけど、左手のミサンガは外したことがない。

 しおりは緩め方がうまいよなって、生活指導の竜崎に言われた時はギクってしたけどさ、まあ、生活指導部長に、そう言わせるくらいには気い配ってる。

 ジイチャンも、頼むよ。

 元気でいてよ、あたしが玉の輿に乗るまではさ。

 

 

 

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やくもあやかし物語・65『二丁目の土の道』

2021-02-24 09:13:20 | ライトノベルセレクト

物語・65

『二丁目の土の道』    

 

 

 最寄りのコンビニは一丁目の端と二丁目の真ん中にある。

 

 二丁目のは学校と家の間なんで、学校への行き帰りにかならず目にする。

 だけども、利用率の高いのは一丁目のコンビニ。

 だってさ、制服のまんまコンビニに入るのは気が進まない。

 近所の中学校だって丸わかりでしょ。近所の人だったらネクタイの色で学年まで分かってしまうし、ボーっとしてるわたしは名札を仕舞っておくのを忘れたり(校外ではポケットの表に付けた名札はポケットに仕舞うように言われてるんだけど、よく忘れて歩いている)するからね。

 そのわたしが、わざわざ一丁目のコンビニを目指している。

 それも自転車に乗ってさ!

 二丁目から学校の方に向かって自転車の乗るのは億劫なんだ。

 だって、坂道があるでしょ。

 下りはいいのよ、下りは漕がなくてもいいしね。でも、帰りは坂道を漕いで上がらなくちゃいけないからね。

 それを、いったん家に帰って、それもわざわざ自転車で出かけたのには、こんな事情があるんだよ。

 

「崖下の一つ西の道、土の道になっちゃったよ、年度末事業みたいだ」

 お爺ちゃんが言った。

 自治会の用事で二丁目に出かけたら、百メートルくらいの舗装が剝がされて土の道が露出してるって言うのよ。年度末に使い残した予算を使うために、お役所が舗装のやり直しを始めたらしいんだけど、舗装を剥がしたところで、一時的にストップしているらしい。

「いやあ、昔は、ここいら舗装道路なんて無かったから、土の感触が懐かしくってさ、コンビニに寄って来るの忘れてしまった」

 お爺ちゃんは胡桃の食パンが好きで、胡桃の食パンは二丁目のコンビニしか売ってない。

「あたし、行ってくる!」

 それで、自転車をかっ飛ばしているというわけ。

 お爺ちゃんの役に立ちたいという気持ちも無くはないんだけど、ビビっときたのは百メートルの土の道。

 土の道を自転車で走ってみたいわけです!

 たまにね、下水工事なんかで土が露出してることってあるけどさ、ほんの何メートルかでしょ。

 百メートルもの土の道って、そうそうあるもんじゃない。

 だから、コンビニで胡桃の食パン買った後、わざわざ回り道してみたわけですよ。

 

 ワシャワシャ シャリシャリシャリ

 

 陽気な土やら砂の感触を楽しんでいると、あっという間の百メートル。

 そのまま舗装道路に進んで回り込めば崖下の道に出るんだけど、もう一回走ってみたくって回れ右。

 三十メートルも走っただろうか、急に自転車のペダルが重くなってきた。

 え、土の道だから? さっきは普通だったのに?

 置いてけ……置いてけ……

 変な声がしたかと思うと、完全に自転車が停まってしまった!

 恐るおそる振り返ると、いま通った三十メートルあまりに黒い影が三つ浮かび上がっている。

 黒い影は、地面から湧き出た煙みたいなものが人の形になった感じで、足の先が地面と同化している。

 何を置いてけか、最初は分からなかったけど、影の視線が自転車の前カゴに突き刺さっている感じで、胡桃の食パンを狙っているんだと分かる。

「ダ、ダメよ、これはお爺ちゃんのなんだから」

 影たちは、聞こえないと言うよりは無視して、置いてけを繰り返す。

 どうしようと思っているうちに、置いてけは後ろの方からも聞こえだして、前後を固められてしまう。

 や、やばいよこれは……(;゚Д゚)

 お地蔵さんの勾玉を思い出す……制服のポケットの中だ。で、今は私服だ……。

 ジワジワと黒い影は前後から迫って来る。

 もうお終い! 

 そう絶望しかけた時に、勾玉は紐を付けて首からぶら下げていることを思いだす。

――おねがい、勾玉!――

 そう思って、フリースの上から勾玉を掴む。

 ギュウウウウ……

 すると、胸の所が暖かくなってきたかと思うと、勾玉はラピュタの飛行石みたいに光り出し、前後の黒い影たちは『ヒョオオオオ』と悲鳴なのか歓声なのか分からない声をあげたかと思うと、わたしの近くの奴から消滅し始め、離れている影たちは、地面に潜って消えて行った。

 勾玉のお蔭だし、わたしもあやかし慣れしたのか、家に帰るころは平気になっていて、無事にお使いを果たすことができた。

 どうも、お地蔵さんが依頼してきた妖退治は一度や二度ではお仕舞になりそうにない。

 今年の春は、まだやっと梅が綻び始めたばかりです。

 

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け
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らいと古典・わたしの徒然草・14 『第三十四段 甲香は、ほら貝のようなるが……』

2021-02-24 06:41:06 | 自己紹介

わたしの徒然草・14

『第三十四段 甲香は、ほら貝のようなるが……』   



 たった二行の短い段です。

 金沢文庫の近くの入り江に甲香(かひこう)という小さな貝が転がっていて、地元の者は、その蓋のとこを「へなだり」というんだって。

 それだけのウンチクとも言えないメモのようなものです。

「へなだり」というのは小型のホラ貝みたいで、広島の一部で食用になっているようですが、全国的にはあまり知られておらず。どうということのない貝です。
 しかし、よくよく調べると、この「へなだり」というのは香の原料になるんですねえ。
 昔は「聞き香」という遊びがあって、いろんな香を焚きしめては、その香りを言い当てる遊び……というか、貴族や上流武家にとっては「たしなみ」の一つであったようです。
 織田信長が、皇室の持ち物で、正倉院に所蔵されていた蘭奢待(らんじゃたい)という香木を削って楽しんだことは有名で、信長が出てくる大河ドラマに、信長のエピソードとして出てくることが多いですね。

 日本人の風呂好きは、わたしの知識では江戸時代に入ってからで、それまではあまり入浴の習慣がなかったように思います。

 江戸期でも女性が髪を洗うのは大変なので、今のご時世のように、朝シャンなどという習慣はありません。当然臭いが気になり、香でごまかしていました。また身分の高い貴族などは自分の香りというものを持っており、外出の折りなどは、衣に香を焚きしめたりしました。『源氏物語』などには、夜に忍んできた男が、この香でだれであるか分かる仕組みになっていたりします。

 ひるがえって、今のご時世はどうでしょう。

 分けて二種類あるように思えます。洗剤などに香りの粒が含まれていて、軽く、服をポンと叩くとホワーンといい香りがするもの、という積極派。
 なにかにつけて臭いを消してしまう、消臭派。
 両極に見えるこの臭い(匂い)に対する対応は同根であるように思うのですが、いかがでしょう。

 わたしが幼かったころ、街も人もニオイで満ちていました。

 トイレが汲み取り式であったっため、どこの街も、そこはかとなくカグワシイ香りがしました。田舎にいくと、これを熟成させて肥料にしていたので、なんとも弥生の昔から、わが遺伝子に組み込まれた魂の奥底が平らかになっていくような心地がしたものです。

 もっとも都会育ちのわたしは、田舎の便所(トイレなどというヤワなものではありません)に、戦時中の米機の大編隊に囲まれた、戦艦大和のような心境でありました。ハエやカの数が半端ではなく、用を足したあとは、露出した身体のあちこちに銃爆撃の跡がのこったものです。

 また、子供たちは(わたしもそうでしたが)日向くさい匂いがしたものです。街のお母ちゃんたちは、洗剤やら、お総菜やらの入り交じった匂いが、じいちゃん、ばあちゃん達は、なんというか番茶に通じるような匂いがしました。あのころは加齢臭などという言語明瞭、意味明瞭、人間性皆無な言い方は無かったように思います。

 匂いには、もう一つ意味があります。


「らしさ」を例えた匂いです。たとえば「学生服に、染みついたオトコの匂いがやってくる~♪」と歌にあるようなラシサ。

 以前、タクシーなどに乗ると「学校の先生だっしゃろ」と、言われて慌てることがありました。タクシーに乗る時は、終電の後とか、よんどころなく時間に間に合わせる時で、やっと掴まえたタクシーに乗り込んだ時は『ああ、ヤレヤレ……』と気の抜けた顔をしていますからね。
 今でも街で「ああ、こいつは学校の教師(先生ではない)やろなあ」という人を見かけることがあります。演劇部の指導員をやっていたころは「この人は組合のバリバリやねんやろなあ」というところまで分かりました。
 昔の先生はコンセントの多い顔をした人が、わりといたように思います。コンセントとは生徒とのコンセントのことです。
 今の教師にはあまりコンセントを感じません。USB端子とでも言おうか、マウスでもコントローラーでも大容量記憶装置でも接続できそうな……何を象徴しているかは、読者のみなさんのご想像におまかせします。

 

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真凡プレジデント・3《とてもキュート》

2021-02-24 06:17:11 | 小説3

プレジデント・3

とてもキュート》       

 

 

 お好み焼き『たちばな』は少し広い。

 

 四人掛けのテーブルが四つに最大十人が掛けられるカウンター、そして奥に小座敷がある。

 三時から五時までがアイドルタイムなので、小座敷で試作品を頂く。

 

 オーーーーー!

 

 遠慮のない歓声を上げるわたし。

 二口目でコンニャクに行きついて、その意外な食感と味に驚いた。

「こんどのコンニャクは違いますね!」

「でしょ、去年はただのコンニャクだったけど、今度のは刻みを入れてマル秘の下味が付いてんの」

「これ、絶対売れますよ(^▽^)/」

「うん、真凡ちゃんのお墨付きなら間違いないわね」

 おばさんは自信たっぷりだが娘のなつきは苦笑い。

「美味しいけど、下ごしらえ……」

「慣れたら半分の時間でできるから大丈夫」

 

 お店はおばさんとパートのおばちゃんとで切り盛りしているが、ピークになるとちょっとキビシイ。

 しかし、根っから楽天家のおばさんは意にも介さず、やる気満々。

 

「ここに行きつくまでにはね……」

 おばさんの苦労話は、いつも面白い。喜怒哀楽をうまく表せず「興味の薄い奴」とお姉ちゃんには言われる、意識すれば、それなりのリアクションもできるんだけど、それは気疲れのする演技なんだ。おばさんの話にはいつも気楽にケラケラ笑える。なつきにこの半分もあればと思うんだけど、言って身に付くもんでもないから言わない。

「おかみさん、時間ですよ!」

 パートの篠田さんがエプロンを掛けながら声を掛ける。

「あ、あらやだ、いつの間に!?」

「真凡、二階いこ」

「うん、急ご」

 当たり前だけど、勉強はなつきの部屋でやる。立ち上がった拍子に口の開いたままのカバンを蹴飛ばして中身をぶちまけてしまった!

「アチャーー」

 オッサンみたいな声が出て、拾おうとしたら、おばさんが機先を制する。

「あら、生徒会長に立候補!?」

 おばさんは目ざとく会長候補用とスタンプの押された『立候補者心得』の書類を発見したのだ。

「それはお祝いしなくっちゃ!」

 篠田さんまでハッチャケそうになるが「当選したわけじゃありませんから」と固辞して二階への階段を上がる。

 

「応援するからね真凡!」

 

 階段を上がりながら頬を染めてなつきが拳を握る。

 なつきのガッツポーズ、とてもキュートだ。

 このキュートさは自覚が無くって、気心の知れた人にしか見せない。意識してやったら、ちょっと嫌味になるから、本人にも言わない。たまに出た時に――オオ( ゚Д゚)!――と、わたし一人、密かに喜んでいる。

 いつか偶然にでも写真に撮れればいいくらいに思っている。

 と言いながら、バシャバシャ写真を撮るような趣味はないんだけどね。

 スマホの写真を撮る時って、無神経な感じになる人が多いと思うんだ。

 たまに撮ったりすると「なんだか鑑識のオジサンが証拠写真撮ってるみたい」と姉に言われてしまうしね

 

☆ 主な登場人物

  •   田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •   田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •   橘 なつき    入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •   藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •   中谷先生     若い生徒会顧問
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