大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・234『大和ホテルから試合会場へ』

2021-09-20 14:18:57 | 小説

魔法少女マヂカ・234

『大和ホテルから試合会場へ語り手:マヂカ  

 

 

 高坂薫子ということにした。

 

 震災前の25日に飛ぶのだから本名の霧子でも構わない。まだ学校は夏休み中だしな。

 でも、あとあと調べられては面倒だ。

 じっさい霧子には夭折した薫子という姉がいた。

 ノンコは栗子。

 ――もし、妹ができたらどんな名前にするつもりだったの?――

 父の高坂侯爵に聞いた事があるそうだ。

 父は間を置かず「栗子」と応えた。

「え……薫子 霧子 栗子……お父様、それって『あいうえお順』じゃなくて?」

「憶えやすいだろ」

「まあ」

 呆れたが、あとで考えると、いずれも響きがよく、個性が立ち上がってくる名前だ。

 夭折した姉と、生まれてこなかった妹への想いがあったのか、単なる思い付きなのか。

 ブリンダは、そのまんま。元々が、でっちあげの大使令嬢だしな。

 で、わたしはメイドだ。

 べ、べつにメイド趣味というわけじゃないぞ。

 華族令嬢がお供も連れずに旅行しているのは不自然だからな。それに、低い身分で走り回れる者が一人ぐらいいた方がいいしな。

 

 大和ホテルのフロント。

 

「では、高坂薫子さまと栗子様は、一等のツイン。ミス・ブリンダ様には一等のシングル、真智香さんには三等のシングルをご用意させていただきます」

 恭しくカギを揃えるフロントのおっさん。

「真智香はメイドだけれども、旧家老の娘なので二等を用意していただけるかしら」

 霧子がフォローすると、おっさんは「かしこまりました」と二等の鍵を出した。

 

「なにか、損した気分だ」

 

 お嬢様方の荷物を整理するという名目で霧子とノンコの部屋に。

 入ったとたんに、我ながら愚痴になる。

「いいじゃないか、なんだったら、メイド服用意してやるぞ」

 お邪魔虫のブリンダが面白がる。

「試合までには五日もあるから、観光とかできそうやね(^^♪」

「そうね、わたしは明日が試合でも十分優勝できるわよ」

 確かに、霧子は武道に長けている。剣道や長刀が一流なのは、高坂家にやってきた日に思い知ったからな

「さて、試合の申し込みに行くか」

「締め切りにも間があるでえ」

 確かに受付は30日までだ。

「要項とか申込用紙もらわなきゃだめだろ。ま、これはメイドの仕事だな」

「うう、やむを得ない……」

「腐るな、オレもついて行ってやる」

「わたしも付いて行きたいなあ」

「いまのノンコは栗子だ。栗子は公爵令嬢だぞ!」

「そんな怒らんでもぉ」

「申し込みの時は、自分で行くから」

「そうだな、じゃ、ブリンダ」

「おう」

 

 日米二人の腐れ縁で大連の街に出る。

 大和ホテル前の大通りを東に進むと、学校の敷地ほどの大きなロータリーになっていて、そのロータリーの中央が公園になっている。

 中国と満州の入り口である大連港を抱える港町なので、その造りは、ヨーロッパの中堅国の首都並みの規模と質がある。

「ここが、試合会場になるのだな」

 公園の隅には、試合会場の資材が運び込まれて、公園の入り口には試合を予告する広告が出ている。

「マヂカ、早々と参加者の名前が出ているぞ」

 試合の雰囲気を盛り上げるためだろう、今日現在のエントリーメンバーが張り出されている。

 なんちゃら勇士  怪力なんとか  無双闘士なになに  剛力なにがし  なんとか烈女  ブゥオイナ~(ロシア語で~戦士)  デストロイヤーなんとか  

 まことに国際色豊かだが、ほとんどの出場者が偽名というかリングネームだ。

「なんだか、安物の無双ゲームのキャラみたいだなあ」

 ヤアー トーー トリャー

 エントリー表を見ていると、公園の奥の方から練習だかデモンストレーションだかをやっている声や歓声が聞こえてくる。

「ちょっと覗いてみるか」

「ああ」

 ちょっと楽しくなってきた。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査

 

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ライトノベルベスト『ああ、花の五重マル』

2021-09-20 06:31:48 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『ああ、花の五重マル』   

    


 夏休みの宿題が返ってきた。五重マル。これはいい。でも赤ペンの評でガックリきた……。

 戦争について調べ八百字程度で、作文を書きなさい。これが宿題のタイトル。

 戦争、それも夏というと、太平洋戦争の終戦、原爆……ぐらいしか、思い浮かばなかった。
 お父さんもお母さんも、昭和五十年代生まれなんで太平洋戦争のことは知らない。
 お爺ちゃん、お婆ちゃんも昭和二十年代生まれなんで、せいぜい、三丁目の夕日だ。

 一日延ばしにしているうちに、お盆になった。お盆に施設に入っている大爺ちゃんの、お見舞いに行った。

「太平洋戦争……シュコー……大東亜戦争やな」
「ダイトウワセンソー?」
「シュコー……ダイトウアセンソウや」
「大爺ちゃんは、戦争いってたの?」
「いきそこないや。シュコー……飛行時間二十時間で終戦や。あと十時間も乗ってたら特攻にいってたやろな」
「特攻……?」

 大爺ちゃんは、頭はしっかりしてるけど、体力がない。ダースベーダーみたいな酸素吸入をしながらの話は、それでおしまいだった。
 ただ、あたしに何かを伝えようとして、目の前で、しばらく両手を動かしていた。意味は分からない。

 マユは、パソコンで『戦争に関する感想文』というのをまんまコピーして、ちょこっと言葉を変えるだけで出すといってた。
 あたしは、ダイトウアセンソウと特攻がキーワードだった。で、そこからアクセスしてみた。

 びっくりした。

 はじめて大爺ちゃんの口から聞いた大東亜戦争が正解だった。太平洋戦争というのは戦後アメリカが強制的に呼ばせた言い方で、日本では、戦争に負けるまで大東亜戦争だった。それに、アメリカと戦争をする何年も前から中国と戦争をしていて、それも含めての言い方だと知った。

 特攻は、サイトのどの文章も難しいんで、ユーチュ-ブを見て、そのまま感じたとおり書こうと思った。

 日本の飛行機がアメリカの船につっこんで爆発するのや、飛び交う弾丸の中で空中分解するのや、海につっこむの、なんだか、杯でお酒飲み合って、飛行機に乗っていくとこ。なんだか、画質は悪いけど、ゲームのCGの感覚だった。

 そんな中、二つのショッキングな特攻の動画を見た。

 共通点は、どちらも積んでた爆弾が不発だったこと。でも、結果がまるでちがう。死ぬってとこではおなじなんだけど、違う。そして同じなんだと思った。

 一つは、戦艦に見事に体当たり。でも爆弾は不発で、戦艦の甲板で、飛行機はバラバラになり燃え上がった、積んでいた飛行機の燃料に引火したんだ。そして、かたわらには、飛行機から投げ出された、日本のパイロットの亡骸。乗組員は蹴って海に落とそうとするが、艦長が、それを止めた。
「彼は命をかけて、この船につっこんできて、いま神に召されたんだ。見事な軍人だ、礼節をもって弔え」
 それで、その戦艦では、アメリカ式に乗組員が並び、弔いのため弔砲(ムツカシイ言葉だけど調べた)を撃ち、シーツで作った日の丸に包まれた遺体を丁重に水葬にし、みんなが敬礼で見送った。

 もう一つは、航空母艦に突っこんで不発。飛行機は甲板を滑って海に落ちた。そしてパイロットが生きたまま浮かび上がり、乗組員に手を振って救助を願った。
 で、次の瞬間、そのパイロットは、航空母艦の機銃で撃ち殺された……。
 ライフジャケットを着ているので、遺体は沈まない。ぐったりのけ反ったまま、自分の周りの海面を真っ赤に染めて、遺体は流れ去って行った。

 ショックだった。

 同じアメリカ人が、こんなに違うことをすることを。大爺ちゃんが、当時は同じような若者で、一つタイミングが違えば、同じように死んで、今のあたしたちが存在しなかったであろうことが。

 落ち着いて、もう一度ずつ見た。両方とも同じだということに気がついた。 方や、騎士道精神に則った美しい行為。方や、復讐心がさせた無防備な者の虐殺。

 これは、戦争という異常事態での、異常心理の表と裏だ。わたしは、こんなことが戦場のあちこちで、それぞれの国の中でも、様々な異常心理があったんだろうなと想像した。幼いながら、なにかとんでもないものが背景にあるような気がした。もっと勉強しなければと思った。


 先生の評は、こうだった。

 この悲劇を起こしたのは、当時の日本です。そこを見据えて、戦争の真実をとらえ、勉強しようという思いは立派です。がんばろう!  大東亜戦争は間違いです、太平洋戦争。言葉は正しくおぼえよう。

 延期されてた東京オリンピックが終わって一年がたつ。

 さしものコロナも落ち着いてきたけど、少し日本の経済は冷え込んだ、しかし内戦が起こったり、餓死者がでたりということは、笑っちゃうけど、ありません。今期に入った経済の短観でも、失業率も回復の傾向だ。

 あたしは、W大学のマスターになり、アメリカの留学生といっしょに、大東亜戦争の経済的背景と民族的問題に頭を捻っている。アメリカ人の相棒の口癖は「トルーマンのクソ野郎」である。あたしは、あの夏の日、大爺ちゃんが苦しい息の中、両手で表現しようとした何事かを、時々手だけ真似てみる。分かるのは何十年も先かもしれない。

 電子新聞の片隅に『オリンピックをごり押しし、コロナ不況を呼んだ政府を糾弾!』という前時代的な集会の記事が出ていた。壇上のオッサンが気になって、指で拡大、九秒の動画にして分かった。

 あの、東京オリンピックが決まった秋に、五重マルをくれた中学の先生だった……。

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