大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・不思議の国のアリス番外・『レフトノベル』

2018-07-29 06:38:32 | 不思議の国のアリス

不思議の国のアリス
『レフトノベル』



 ライトノベルについてレポートを出すように言われた。

 アリスは、高校時代に日本に短期留学の経験もあり、また、大阪弁ではあるが日本語にも堪能だったので、「それ、なんですか?」とは質問できなかった。
 なんとなくサブカルチャーの匂いのする言葉だったので、そういうのに詳しい韓国からの留学生ソンファ・キムに聞いてみた。
「あんた、日本のサブカルチャー詳しいやろ。ライトノベル持ってたら貸してくれへん?」
 日本文化論の講座仲間であったので、日本語で聞いてみた。
「うん、何冊か持ってるよ」
「ほな、貸してえよ」
「そのかわり、これに署名してくれない?」
 差し出された署名は、『従軍慰安婦の少女像設置の嘆願書』と、書かれていた。
 この問題には異論のあるアリスだったので、きっぱり断ると竹島やら日本海を韓国名で言われ、その説明……というか演説を聞かされた。独島=竹島 東海=日本海と訂正してやったのが運の尽きだった、日帝三十年の話に及んだので、アリスは『ハンガンの奇跡』と呼ばれる韓国の経済成長は日本の経済援助や、円借款でできたことを『国際経済論』で学んだ知識を総動員して反論。
 互いにツバキの飛ばしあいになっただけで、けっきょくライトノベルは借りられなかった。

「なあ、オバアチャンとこにライトノベルあれへん?」
 うちに帰って、お隣のタナカさんのオバアチャンに聞いた。
「ライトノベル? 右翼の小説かいなあ……」
「右翼て、保守の過激なやつ?」
「せやな、パソコンで探したらええのん出てくるんちゃうか」
「ほんなら、リベラルなもん読も思うたら、『保守的小説』やな」
「そないなるかな。アリス、こういうもん読むときは、反対の立場から書いたもんも読んだ方がええで。せや、うちに短編であったなあ」

 タナカさんのオバアチャンは、古い『蟹工船』を貸してくれた。

 で、読んでみた。

 アホかいな。

 これが『蟹工船』の感想だった。

 この程度の過酷な労働現場のことを書いた小説なら、アメリカにも掃いて捨てるほどある。だいたい人物が類型的で、こんな小説1930年代のアメリカの出版社に持ち込んでもボツだろう。
 ラストで、同じような反乱が北洋の沢山の蟹工船で起こったとしているのに至っては、左翼的オプティミズムだと思った。
 ただ、作者の小林多喜二が、当時の警察でなぶり殺しの目にあったことだけは同情した。

 ひょっとして小林よしのりの親類か? ちょっと似ているなあ……検索したら関係なかった。

 で、いよいよライトノベルである。

 街の図書館に『日本の保守の本』で検索してみた。
 白州次郎がヒットした。マッカーサーをして「唯一、従順ならざる日本人」と言わしめた若者の話である。
 ダイジェスト版を読んでみた。

 感動した。

 サンフランシスコ講和条約で、時の首相吉田茂(このオッサンもたいがいで、アリスはファンになった)が国連……これも変な日本語で、ユナイテッドネーションなのだから、正確な訳は連合国である。国防軍を自衛隊と呼んでいるのと同種の日本独特のコンプレックスというかアレルギーを感じた。

 で、随行員である白州次郎は、吉田首相が国連において英語でスピーチしようとしているのを知り、猛然と反対する。
「じいさん、英語のスピーチなんて媚びだ。日本の独立宣言に等しいんだ。日本語でやれ!」
 それを理解した吉田首相は、秘書官に日本語でスピーチ原稿を書き直すように命じた。

 ただ、吉田は極度の老眼で、書かれた文字は一センチ四方ほどあり、巻くと直径十センチほどの巻紙になり、当時の欧米のマスコミから『吉田のトイレットペーパー』と呼ばれた。

 これを、レポートにして、提出すると、担当のハーミス先生は感動して、みんなの前で読むように言われた。
 緊張して読み上げると、みんなから笑い声がしはじめた。
「気にしない、続けて」
 ハーミス先生に励まされ、続きを読んだら、アジアの二カ国から来た留学生を除いて、好意的なシンパシーをもって聞いてくれ、最後は拍手のオベーションになった。

「これを、偉大で真摯な誤解というのです。ライトノベルの名称は日本人も考えたほうがいいかもしれませんね」

 ハーミス先生は、そう締めくくった。

 そのあと、アリスは改めて「ライトノベル」で検索した。

 それは、アリスが日本にいたころ、しょっちゅう読んでいた種類のものであることが分かった。
「なんや、これのことかいな!?」

 改めて、日本と日本語の難しさを実感したアリスであった……。


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高校ライトノベル・不思議の国のアリス・28『アリスのSO LONG!』

2018-07-22 06:38:52 | 不思議の国のアリス

 ※ これは取りこぼしていた本編の最終回で、番外編の前にくるものです。

不思議の国のアリス・28
『アリスのSO LONG!』
    


 アリスの目の前をウサギが小走りに通り過ぎた。「時間が、時間が……」と、銀時計を見て、呟きながら。

 よく見ると、それはウサギの耳が付いたフードをスッポリ被った女の子だった。
「なんか、アリスの旅立ちにぴったりやね」
 千代子ママが言った。
「シカゴの魚は不味いやろから、いつでも戻っといで。美味い魚やったらいつでも食わしたる」
 千代子パパが、泣き笑いしながら言った。
「それにしても、千代子は、どこ行ったんやろね……」
 千代子バアチャンが首を伸ばした。

 いよいよ、アリスの帰国が迫った、関空の出国ゲート前……。

「ごめん、アリス。待ち合わせ場所、間違うてしもて」
 千代子が、引きずるように連れてきたのは東クンだった。
「ボクが悪いねん。電車の出口間違うてしもて」
「そんなことないよ、ウチがちゃんと教えてなかったさかい」
「いや、関空来るのん初めてやさかい、ちゃんと事前に……」
「ちゃうて、うちが……」
「いえいえ、それで結構です。遅ればせやけど、やっとアリスのミッションバレンタインも実を結んだみたいやよってに」
「アハハ……」
 千代子と、東クンがいっしょに頭を掻いた。

 昨日、シカゴに送る荷物を整理しているうちに、ひょんなことで東クンのことが話題になった。別に意識してのことでは無かった。大阪で、一番印象に残ってるのは……と、千代子が切り出した。
「そら、なんちゅうても帝都ホテルの一晩やな……」
「そやな……」
「バレンタインの願い星、きれかったなあ」
「あのとき、なに願い事したん?」
「そんなこと言えるかいな。言うたら効き目ないようになる」
 そのとき、千代子のスマホが鳴った。

――明日、アリスの帰国。よろしく言っといて(^0^)――

 東クンからのメールだった。
「アホやな。アリスに直接メールしたらええのに」
 そう言いながら、千代子はスマホの画面をアリスに見せた。
「千代子、これは、indirect speech ……ええと、日本語で、間接話法やで!」
「え……?」
「鈍いオンナやなあ!」
 そして、アリスは半ば強制的に、千代子に電話させた。
「……あ、そう。ほんなら東クンも見送りに来る?」
 で、千代子は、時間と待ち合わせ場所だけを確認して、電話をきろうとした。
「アホか、肝心なこと言わな、あかんやろ!」
 アリスは、スマホを取り上げ、同じ内容のことを東クンにも、渾身の大阪弁で伝えた。それから、黙ってスマホを千代子に返して、自分は廊下に出た。
 結果は、今の二人を見ればよく分かる。

「さあ、そろそろ時間やで、アリス……」
「ほんまや……」
 みんなが、笑顔でアリスを見つめた。万感の思いのこもった笑顔で……。

 アリスは、自分が泣くなんて思ってもいなかった。笑顔で「SO LONG!」のつもりだった。
 結局、涙のうちにみんなとハグし、赤く目を腫らして、出国ゲートをくぐった。

「SO LONG! さいなら!」

 なんとかグチャグチャの笑顔で振り返って、手を振った。

 飛行機が離陸するとともに、この半年のホームステイのことが、ばらまいた写真のように頭の中を巡った。
 そして、気がつくとウサギが隣りで、懸命に、なんだかのパンフを読んでいた。
――あ、さっきのウサギオンナ!?
「おたく、シカゴ行かはりますのん?」
 意外な大阪弁に、ウサギ女はアリスを見つめた。
「う、うん。シカゴに留学」
「ひょっとして、シカゴ大学?」
「え、あ、うん。あたしって、数学しか取り柄ないよってに」
「ウチ、今から、シカゴの家にかえるとこ。アメリカも不思議の国やけど、よろしゅうに!」
「あ、こ、こっちこそ!」

 日本の領空を出たころ、アリスはウサギとお友だちになった……。

『不思議の国のアリス』  完

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高校ライトノベル・不思議の国のアリス・27『番外編1・天保山山岳救助隊・3』

2018-07-21 06:02:59 | 不思議の国のアリス

不思議の国のアリス
『番外編1・天保山山岳救助隊・3』
        


 市営地下鉄大阪港駅に降り立つ日米三人組は異様であった。

 チョモランマに登ったコスのクラーク先生は酸素ボンベまで持っていた。アリスはボンベこそ持っていないが、日本アルプスに相応しいナリで、千代子は金剛登山ぐらいのナリで、手にはストックを二本持っている。

 駅を出ると二つのモノが待ちかまえていた。

 一つは放送局のクルーで、レポーターは、お馴染みのアメリカ人落語家の桂米国とMNBのノンコだった。落語家らしく絽の一重(薄い着物)だったし、ノンコは短パンにタンクトップ。他のクルーはTシャツ一枚だった。
 もう一つは、九月といえど、大阪の蒸し暑さだった。さすがに事前に大阪の九月の気温と湿度、おまけに酸素濃度まで調べてきた一行であるが、駅前に出た暑さときたらなかった。

「アリスちゃん。ほんまに、このナリで、天保山目指すつもりなんか?」
 米国さんが、流ちょうな大阪弁で、アリスに聞いた。
「先生が、この格好やさかいに、ウチらとしてはね、やっぱりTシャツいうわけには、いかしまへんやろ」
 前の日はバリバリの英語だったので、米国さん以外のスタッフとノンコは驚いた。
 で、まず、アリスが大阪弁に堪能な理由を説明するのに五分、クラーク先生の天保山征服の意義について、さらに五分がたった。たまらずにアリスはヤッケを脱いだ。軽いどよめきが起こった。

 アリスはヤッケの下に真っ赤なビキニを着ていた。アワ善ければ、登頂後、大阪の海に飛び込むつもりでいたが、これは、あとで水質を見て諦めることになる。千代子も早々と、上半身はTシャツになった。ただ一人、クラーク先生はチョモランマで、日よけのゴーグルまでかけている。

「ゴー ア ヘッド!」

 クラーク先生の号令で、世にも珍妙な天保山登山チームの出発になった。

「ベースキャンプである市営地下鉄大阪港駅前を出発した登頂隊はゆっくりと山頂を目指しました。ああ、暑う……」
 MNBのノンコは、真夏の出で立ちで九月の残暑を呪った。
「うーん、これは思ったより難しい登頂になりそうだ……」
 クラーク先生は、2万5千分の1の地図を睨みながら呟いた。
「あたしたちは、天保山の山頂は知っていますが、クラーク登山隊は、あくまでも正攻法で山頂を目指すようであります」
「おんなじアメリカ人ですけど、なんちゅうか、アメリカ人らしい姿勢でんなあ」
 と、米国さん。
「これって、アメリカンジョークですか?」
「うまいことよう言わんけど、ヤンキー魂ではあるやろね」
 たまらずに、カメラが切り替わったところで、二人のリポーターは、スポーツドリンクを飲み干した。

「神は、わたしに試練を与えたもうた……」
 天保山の周辺には、似たような丘とも呼べない土盛がいくつもあって、地図ではなかなか分からない。スマホのナビを見れば一発なのだが、クラーク先生はかたくなに、それを拒んだ。
「山に対する礼儀に反する……」

 そして、45分38秒かけて、やっと天保山山頂に達した。

 そこは、最初に素通りした消防署の横にある、標高4・53メートルの地べたのニキビのようなもので、近くにある築山や、展望台よりも低いのである。

「先生、やりました。山頂を示す三角点です!」

 アゴから汗を滴らせながら、アリスが指差した。
「おお、神よ、我に恩寵をあたえたもうたか!」
 英語で、そう叫ぶと、クラーク先生は、三角点にキスし、そのまま倒れてしまった。
「先生! 千代子、酸素吸入!」
 アリスは、先生に酸素吸入をするとともに、ヤッケを脱がせた。下は、さすがにTシャツだったが、チョモランマ用のヤッケは、まるでサウナのようであった。

「先生、ご立派でした!」

 気が付くと数名のオッチャン達が立っていた。
「あなたたちは……?」
「我々はTENPOUZAN Mt Rescue Teamであります!」
「おお、山岳救助隊! 長い登山歴で初めてお世話になるよ!」
「あなたが、我が山岳救助隊の救助者、第一号です!」

 お祭り騒ぎで、クラーク先生は救助された。

 クラーク先生は、近所のドラッグストアーで休みながら気が付いた。
「天保山を征服して、初めて分かったよ。登山の本質は、口に出して言えるようなものじゃない。アリスが言ったゼロの概念と同じだ。たしかに存在するが、それは目に見えない、感じるものだと」

 アリスと千代子は、先生をテレビのクルーに任せて、近くのプールに寄って帰った。

 そして、収穫があった。クラーク先生が日本に興味を持ったのである。うまく乗せれば、大学の研究費で、時々日本にやってこれそうだと……。


※天保山山岳救助隊は実在しますが、遭難者は、今まで一人もいません。
 

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高校ライトノベル・不思議の国のアリス・26『番外編1・天保山山岳救助隊・2』

2018-07-20 06:09:29 | 不思議の国のアリス

不思議の国のアリス・26
『番外編1・天保山山岳救助隊・2』
            


「いやー、千代子、どえらいおとなになってしもてからに!」

「アリスこそ、アン・ハサウェイみたいになってしもて!」
 千代子との再会は、まるで、映画のワンシーンのようだった。じっさい関空を取材に来ていたテレビのクルーが、機転を利かして取材にきたものだから、周りの人たちは本当にスターが来たのかと思った。
 アリスも、大人の感覚が分かるようになっていたので、リポーターの顔を潰さないように、英語で喋り通した。
 しかし、これが、あとで大きな波紋を呼ぶとは思い至らなかった。

 半年ぶりで、クラーク先生ごと、千代子の家にお世話になった。
 クラーク先生は、オバアチャンの部屋の仏壇に興味を持った。
「これは、なんだい。お寺のミニチュアかい?」
 まるでドールハウスを見る感覚で言った。
「違いますよ、これはお仏壇です」
「OBUTSUDAN……?」
「ええと……The family Buddhist altar」
「ああ、そうかい。あの小さいのがブッダかな?」
「あれは、阿弥陀如来です」
「おお、大日如来の化身だね」
「いや、ここは浄土真宗で、大乗仏教ですから、世界そのものの象徴です」

 アリスは、ホームステイしていたころ、近所の住職から聞いた、浄土真宗の教義の説明をした。

「アリスちゃん、ちゃんと伝えられたん。先生、なんか難しい顔してはるで」
 オバアチャンが、心配顔で聞いてきた。

「解脱しなくても救済されるということなんだろうけど……どうも、それが世界の約束というのがわからないんだよ」
「あ、約束ちゃいます。真理です」
「真理!?」
 先生の目が険しくなった。
「ゼロは誰にも見えませんが、誰でも認識できる真理です。それと極楽往生は同じことなんです」
「しかし、極楽とはパラダイスのことだろう。だとしたら、存在、すなわち実存するものだ、実存には限界がある」
 なんだか、話が難しくなってきた。
「人間は、いや、万物は必ず死んだり、壊れたりします。この宇宙さえ膨張の果てにブラックホールとして消滅すると言われています。つまりゼロです。それを民衆に分かり易く表現したものが、極楽なんです」
「うーん……」
 クラーク先生は、ますます難しい顔になった。

 しかし、渡辺家ご自慢のヒノキ風呂に入り、商売モノの美味しい魚を食べ、剣菱のヒヤで上機嫌になった。

「お、クラーク先生とアリスちゃんのことテレビでやってるで!」
 お父さんが、マグロの刺身に箸を伸ばしながら言った。
「すごいやん、世界最高の山と、最低の山を征服する男と、助手のアメリカ女性やて」
「うわー、うちただの学生やのに、どないしょ!?」
「ハハハ、わたしのアタックに日本中が注目だ!」
 先生は上機嫌になり、2万5千分の1の登山地図を広げた。
「先生、天保山やったら、スマホのナビでいけまっせ」
 アリスが訳すと、先生は、こう答えた。

「山であるなら、それ相応の礼儀を持って接するのが、真の登山家です。アリス、君の装備はいいかね?」
 そういうと、クラーク先生は、山の装備点検を始めた。みんな驚いた、チョモランマに登ったときと同じ装備である。

 アリスは千代子に頼んで、近所のオネエサンから、登山用の装備を借りてもらった……。

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高校ライトノベル・不思議の国のアリス・25『番外編1・天保山山岳救助隊・1』

2018-07-19 06:54:54 | 不思議の国のアリス

不思議の国のアリス
『番外編1・天保山山岳救助隊・1』
        


 アリスは、この秋から大学生になった。そして早々に問題を抱えてしまった。

 期待して受けた哲学の先生が鬱病で講義に出てこられなくなったのである。最初の講義で女性のアシスタントが、事情だけ説明して「当分メドがたちません」と、お手上げのジェスチャーをして行ってしまった。

 このままでは、自分の大学生活の始まりにケチがつくと思い、憤慨半分、興味半分で、その哲学のクラーク先生の家を訪ねた。

「訪ねてきてくれたのは嬉しいが、君にはボクの悩みは解消できないよ」
「先生は、いったい何に悩んでいるんですか?」
 アリスは、ダージリンの紅茶を半分飲んだところで聞いてみた。
「……本質的には一つだが、具象的には二つある」
 さすがに哲学の先生だけあって、言うことが哲学的だった。

 クラーク先生の悩みを聞いて、さすがにアリスは、答が出なかった。

 先生は、その専門とする東洋哲学の本質はゼロにあると思っていた。そのゼロが宗教化したものが仏教であり、小乗仏教では大日如来をもって、その本質であるとし。大乗仏教では往生(死ぬこと)でゼロ、つまり西方浄土にいけるとしている。
 クラーク先生は、主に小乗仏教の研究をテーマとしてきた。その小乗仏教の最高の到達点である解脱が分からなくなってきた。これが一つ。

 もう一つは、趣味の登山である。昨年先生はチョモランマの征服に成功した。つまり、世界最高の山を登ってしまったのである。でも、思っていたような達成感は無かった。その時、先生は感じたのである。趣味と思っていたが、自分は山に登ることによって、解脱の境地に至ろうとしていた。
 そのことに気づいたとき、自信を喪失してしまった。けっきょく自分は、知識としてしか哲学を会得していない、初心者とも言えないニセモノ学者ではないかと。

 アリスは、思いあまって隣のTANAKAさんのオバアチャンに相談しに行った。

「なんや、むつかしいことは、よう分からへんけど、その先生は、比叡山のぼんさんみたいなことをしてはったんやな。うちは浄土真宗やよってに、死んだら御浄土言うことで納得してるけどな。う~ん、これは。アリスが持ち込んできた問題で、いっちゃん難しいなあ」
 ちなみにTANAKAさんのオバアチャンは大阪出身の一世なので、オバアチャンから日本語を習ったアリスも、すごい大阪弁を喋る。
「オバアチャンでもあかんか……しゃあないなあ」

 半ばあきらめかけていたころに、オバアチャンが、こう言った。

「ウチが好きやった役者さんに森重久弥いう人がおってな」
「モリシゲヒサヤ?」
「ああ、アリスちゃんには分からんかいなあ」
「そのオジイサンやったら、とうに亡くなってはるけど、宮崎アニメの『もののけ姫』で、オオコトヌシの声やってはるよ」
 ひ孫のミリーが、リビングから声を掛けた。
「ああ、それ知ってるわ。イノシシの親分みたいな」
「せや、その森重はんが言うてた。役者はピンとキリだけ知ってたらええて」
「あ……」
「その先生、高い山ばっかり登ってはるみたいやけど、低い山登ってみたらええんちゃうかな!?」
「それ、ええかもしれへんな!」
「せやけど、世界でいっちゃん低い山て、どこやろ……」
 ミリーがパソコンで検索し始めた。
「そら、大阪の天保山やで!」
 ミリーが検索しおわる前にバアチャンが叫んだ。
「……ほんまや、パソコンでも、そない出てくる」

 で、アリスは、クラーク先生に電話をした。

「先生、世界一の山が残ってますよ!」
「山については、アリスには負けないよ。チョモランマが……」
「違いますよ。世界で一番低い山です!」
「おー、その発想はいい!」

 どうやら、先生の冷めた心に火が点いたようだ。

「で、その山は、どんな秘境なんだね!? どこの国にあるんだね!?」
「日本の大阪にあります。TENPOUZAN MT!」

 と、かくして、アリスは数か月ぶりに、大阪に行くことになった!

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高校ライトノベル・不思議の国のアリス・24『不思議の国のレリジョン』

2018-07-18 06:35:31 | 不思議の国のアリス

不思議の国のアリス・24
『不思議の国のレリジョン』
    


☆レリジョン(religion)=宗教

 だけど、日本とアメリカとでは感覚が違うので、アリスの感覚で英語のままとした。

 アリスは、TANAKAさんのオバアチャンから、こんな話を聞いていた。

 芥川龍之介が、なんとかという小説で書いている。

 ある日、日本の街角でキリストさんと、お釈迦さんが出会いました。キリストさんがため息をつきました。

「ハー……お釈迦はん、なんでやろ。わたし一生懸命にキリスト教広めてまんねんけどね」
「はいはい」
「学校作ったり、病人やら、貧しい人やら、困った人の面倒みてまんねんけど……」
「それが、キリストはんのとこの教えだしたな」
「さいでおます。せやけど、信者があんまり増えしまへんねん」
「そら、しゃあないわ。日本ちゅうのんは、そういう国なんですわ。せやけど、よその国みたいに虐められたりは、あんまりないよって、まあ、ボチボチやんなはれや」
 そう言って、お釈迦さんは涼しい顔をして、行ってしまった……。

 言葉で分かるように、TANAKAさんのオバアチャンが話してくれたもので、芥川龍之介の話そのままだとは思えないが、アリスは、日本に来て実感した。

 平均的な日本人は、子どもが生まれると近くの神社にお宮参りに行く。そこで赤ちゃんの健やかな成長を祈るだけで、信者になるわけではない。クリスチャンなら、牧師さんから洗礼を受け、洗礼名をいただく。アリスの場合バレンタイン・マリア・アリスなんてのになっている。そして信者になるが、お宮参りはそれっきり。クリスマスもやれば、ハローウィンも平気でやって、お正月には神社に初詣。で、結婚式はキリスト教でやってのけ、死んだらお寺さんの世話になる。
 信心深い外国人から見れば、宗教の冒涜なんだけど、日本は、これが、宗教の有りようなので、アリスはreligionと母国語で考える。

「ほう……ご奇特やなあ。ちゃんと水子さんの事も書いたある」
 和尚さんは、過去帳を開いて感心した。
「納めさせてもろて、よろしいやろか?」
 千代子パパは、真面目に聞いてくれた。
「かましません。同じお西さんや。それにこの田中さんは、どうやら元、うちの檀家らしい」
「え……?」 
 アリスと、千代子パパが、いっしょに驚いた。
「うちのジイサンが、マメな坊主で、戦後行方知れずになった檀家さんのこと記録してましてなあ。この田中はんの住所は、その記録の中におました」
「そら奇遇なこっちゃなあ」
「これも仏縁だっしゃろ……お嬢ちゃん、なんか聞きたそうやなあ」
「え、あ、はい……」
 とっさのことに、アリスはうろたえた。
「お嬢ちゃんとこは、プロテスタント?」
「はい、平凡なバプテストです」
「で、聞きたいことは?」
「なんで日本人は、いろんな宗教掛け持ちしますのん?」
「ううん……日本人は、なんやら清いとか、偉いとか思たら、もう、それが信仰ですねやわ。山がすごい思たら、そこに神さんが居てはる。岩がすごい思たら神さん。ああ、こんなんもあるなあ」
 和尚さんは、チョイチョイとパソコンを操作。出てきた映像を見て、どこかで見たことがあると思った。
「あ、エラスムス! これ、ハイスクールの教科書に載ってます」
「これは四百年前に日本で難破したリーフデ号いうオランダの船の飾りやった。なんか尊い言うんで、貨狄観音さんいうことで祀られた。これだけやない。人間も神さん仏さんになる」
「ああ、菅原道真が天神さん!」
 アリスは、天満のギャル御輿を思い浮かべた。
「そうそう。他にも、明治天皇さんとか乃木さんとか……おもろいとこでは、日本で初めて飛行機こさえた二宮忠八言う人は、飛行機の神さんになったはる」
「トイレの神様いう歌もありましたね」
「せや、わし、あの植村花菜いう子好きやねん」
 千代子パパが、お茶をすすりながら目を「へ」の字にした。
「けど、お寺は、それで、かましませんのん?」
「かめへん。最後は、阿弥陀さんがみんな極楽に往生させてくれはる」
 この理屈は、TANAKAさんのオバアチャンからも聞いた。アリスは、ここだと思った。
「それは、どない証明っちゅうか、説明でけますのん?」
「お釈迦さんが、そない言うたはる」

「……て、それだけですか?」

「はいな。最後の審判も、地獄もあらへん。人間は死んだらお浄土行き」
「せやから、その説明を……」
 千代子パパが、横でニヤニヤしている。
「うーん……数学に例えよか。X=1 Y=1の点は信じられるか?」
「はい」
「ほな、書いてみい」

 和尚さんは、新聞の広告の裏に、X軸とY軸のグラフを描き、目盛りをいれた。アリスはX=1 Y=1から線を延ばし、点を打った。

「はい、これです」
「……ちゃうなあ」
「どこが、ちゃうんですか!?」
「点というのは面積があらへん。あんたのは一ミリ平方ほどの面積がある」
「それは……」
「面積を持たへんもんは、存在の仕様がない。せやけど、ある思て信じてるやろ。ゼロもそうや。ゼロはなんにもなしいう意味や。せやけど今の人間は、だれでもゼロを有るもんやと思とる」
 アリスの頭の中で、ビビっとくるものがあったが、すぐにどこかに行ってしまった。
「ちょっと、分かりかけたみたいやな」
「あ……う」
「人間はみんな死ぬ。アリスちゃんは人間や。せやから、アリスちゃんもいずれ死ぬ……せやな」
「……はい」
「そこにお浄土行きを加えたらreligionとしての仏教が分かる……アハハ、もうこのくらいにしとこか」

 それから和尚さんは檀家周りに行くので、アリスと千代子パパもお寺をあとにした。
 外は晴れ渡っていたけど、風が強かった。

「春一番やなあ」
「春はライオンのようにやってきて羊のように去っていく……とも言いますね」
 日米それぞれの感想。
 見上げた空には、音もせずに(なんせ風の音がライオンなので)白いジェット機。

 明日、アリスは、それに乗ってアメリカに帰る……。

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高校ライトノベル・不思議の国のアリス・23『アリスの卒業式』

2018-07-17 07:12:39 | 不思議の国のアリス

不思議の国のアリス・23
『アリスの卒業式』
    


 日本とアメリカの卒業の意味のとらえ方

 日本…………お別れ=おしまい、だと思っている(良くも悪くも)

 アメリカ……出発=始まり、だとおもっている(良くも悪くも)

 共通点………良くも悪くも(中には、よくも卒業させやがって! させなかった! も、ある)


 宅配便は、シカゴのTANAKAさんのオバアチャンからだった。

 そして、中味を見ると過去帳が入っていた。アリスは過去帳の意味がよく分かっている。過去帳とは浄土真宗の家なら、どこにでもあるもので、小さな、でも分厚いノートのようなもので、365日にカレンダーのようになっている。日付の下が空欄になっている。別に「何時に、彼と待ち合わせ~♪」なんてスケジュールを書くのではない。
 その日に亡くなった家族の法名(戒名みたいなの)俗名、亡くなった年と享年(亡くなった時の年齢)を書く。いわば、その家のルーツのようなものだ。TANAKAさんのオバアチャンは、とっくにクリスチャンになっていたけど、田中という家のルーツの標(しるし)であることは確かだ。

 手紙が添えられていた。

「わたしも、もう歳なんで、ここらで、人生の整理をします。聞くところでは、アリスちゃんのホームステイ先の渡辺さんは、お西さん(浄土真宗西本願寺派)やそうな。お寺に納めてもらえませんか。記録としてはコピーを残しました。そろそろ、遅まきながら日本を卒業して、アメリカ人として出発したい思います。田中景子のグラディエーションです。供養料に1200ドル、アリスちゃんの口座に入れときました。どうぞよろしゅうに。アリス・バレンタイン様  田中景子かしこ」

 そうか、TANAKAさんのオバアチャンも卒業か……。

 その過去帳は、卒業式の明くる日に千代子パパが付き添って、お寺に持っていくことになった。

 さあ、卒業式の日になった!

 アリスと千代子は、前の晩にアイロンをあてた制服。その袖に最後になる手を通した。
 式場に入るまでに、アリスは違和感を感じていた。まわりが、なんともオセンチなのである。卒業とは出発(たびだち)で、基本的には目出度い。先生たちも、お祝いの日らしくドレスアップし、式場も喜びの場であることを示す紅白幕で飾られている。アリスは、一人ウキウキしているのが場違いのような気がしてきた。

「平成二十四年度、府立真田山高等学校の卒業証書授与式を始めます」
 教頭先生の開式の辞から始まった。
「国歌斉唱、一同起立!」
 ザザっとみんなが起立する気配がした。アリスも気合いが入った。「君が代」はTANAKAさんのオバアチャンにガキンチョのころから教えてもらい、カンペキに歌える。それに、つい最近「さざれ石」の現物にもお目にかかり、異国の国歌とはいえ畏敬の念はマックスだった。
 ところが、始まってみると声を張り上げているのはアリスと、流れてくる録音の音源だけ。アリスは目だけ動かして、あたりを見た。みんな口を死にかけたアヒルのように動かしているだけで、声が出ていない。

 アリスは、思いこんでいた。「君が代」は国歌なので、みんな知り尽くしている。だから式の前にも練習しなかった……んだろうと。

 アメリカの卒業式も国歌で始まる。

 みんなガキンチョのころから知っているんで、特段レッスンなんかはしない。歌えて当たり前。そして、たいがいのヤンチャクレや、気難しいオッサンでも、この時ばかりは、朗々と歌うものである。歌の終わりのほうで口笛やキャーキャーいうこともあるが、気合いのようなものである。

 今、アリスの周囲は、日本人であることが申し訳ないような感じで溢れている。

 職員席を見ると、口さえ動いていない先生が何人かいた。信じられない、公務員である先生が国歌を歌わないなんて!
 しかし、「君が代」は短いので、そのショックは、あっという間に終わり、続いて校歌斉唱になった。さすがに練習もしていたので、みんな元気に歌った。「君が代」で口をつぐんでいた先生も、まるで伝説の阪神タイガース優勝のときのように胸を張っていた。
 知ってはいたが、卒業証書が代表の子にだけ渡して、以下省略は馴染めなかった。やっぱ、時間がかかっても、これは一人一人に渡すべきだろう。アメリカじゃ、ここが一番盛り上がるとこなのに!

 あとは、つまらないスピーチが延々続いた。

 どうして、日本人は、こうもプレゼンテーションがヘタッピーなんだろう。アリスは二学期からの留学生なので、面接の練習というのを受けてみたことがある。留学生なんで受けなくてもいいんだけど、なんでも体験しておきたいアリスは積極的に参加した、そして、絶望的に失望した。型を教えるだけで、中味がない。「好きなことはなんですか?」と聞かれ「どんな局面での好きなことです ? 友人関係? 趣味? 文学? 映画? ボーイフレンドのタイプ? 生活信条? 仕事上の得意分野?」「もう、けっこうです、次の質問。仕事をしていく上で一番大事だと思うことは?」「OH もっとコンクリートに聞いてください」「コンクリート?」「OH YES、具体的に。仕事をやるいうことは、仕事への適性、職種へのインタレスト、ヒューマンリレーション、それも、同僚、上司、お得意さんでは、心の持ちようがちゃいまっしゃろ。あとチームワークの上において、いかに個人として、チームとしてモチベーションの維持を計るかとか。なんでも聞いとくれやす!」そこでファイティングポーズをとったところで、退室を言い渡された。日本という国の外交ベタは、こういうところに原因ありす! とアリスは思った。

 最後に卒業生の歌になった。AKR47の「ニホンの桜」という歌だった。日本と二本をうまく掛けた歌で、アリスも好きだった。この歌が決まったとき、アリスは「卒業ソング」を調べてみた。特徴的なことがいくつかあった。
 別れ、桜、友だち、道、はるか、夢、去る、あなた、思い出、涙、頬笑み、希望、明日……というような言葉がよく出てくる。
 逆に、ほとんど出てこない言葉。先生、師、恩、父、母……五つともTANAKAさんのオバアチャンがよく口にしていた言葉。アリスは日本人の精神に染みこんだ言葉だと思っていた。『仰げば尊し』を聞いたとき、ちょっとセンチメンタルだとは思ったが、いい曲だと思った。二年前に原曲がアメリカの曲であることを知って嬉しくなった。凝り性のアリスは原詩までつきとめた。

We part today to meet, perchance, Till God shall call us home;
And from this room we wander forth, Alone, alone to roam.
And friends we've known in childhood's days May live but in the past,
But in the realms of light and love May we all meet at last.


 TANAKAさんのオバアチャンの感覚で来た日本は、アリスには不思議の国だった。でも、その不思議さにも少しは慣れた。でも、今日は納得がいかない。
 なんで、オセンチ!? オセンチでもいいとしても、なんで感覚的にデコボコなの?
 自分たちでやりたい卒業のあり方があるのなら、流行の卒業ソングなんかで満足しないで、プロムみたいに自分たちで企画して別のイベントすればいいのに。そして、やっぱり日本人としてトラディッショナルなものを大事にして……いる日本人が見たかった。

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高校ライトノベル・不思議の国のアリス・22『アリスと不発弾処理』

2018-07-16 06:16:22 | 不思議の国のアリス

不思議の国のアリス・22
『アリスと不発弾処理』
    


 今日は、不発弾処理の日だ。

 千代子パパは気を利かしてくれた。
「どや、店も休みやさかい、温泉でも行かへんか。河内長野にええ温泉あるで」
 でも、オバアチャンが、こう言った。
「アリスちゃん。避難の体験してみよか?」
 これで、迷っていた気持ちが落ち着いた。近所の小学校の避難所にいくことにした。
 アメリカ人として、一度は向き合っておきたかったのだ。

 日本とアメリカは、昔、ばかな戦争をやった。

 アリスのパパも、伯父さんのカーネル・サンダースも、あの戦争は日米双方に問題があった。と言っている。在郷軍人で、元市会議員をやっていたゲイルのジイチャンは「リメンバー・パールハーバー!」と、今でも言っている。ジイチャンはパパブッシュと同い年。硫黄島と沖縄戦を経験した筋金入りのベテラン(退役軍人)ジジイ。
 アリスは、お隣のTANAKAさんのオバアチャンが一番間近な戦争体験者。オバアチャンは戦争で最初の旦那さんに死なれ、戦後は進駐軍としてやってきた、二番目の旦那さんのオンリーさんになり、本人は「神さんの思し召し」と遠い眼差しになるだけで、戦争についてはなにも言わない。
 アリスは、日本に来るについて覚悟はしていた。半年もいれば、どこかでこの問題にぶつかるだろうと。

 でも、この半年、そのことで、日本人と問題……いや、話題にさえなった事がない。
 一度、社会科の先生に聞いたことがある。その先生は、言葉少なに資料集のページを示した。

――安らかに眠って下さい 過ちは 繰返しませぬから――

 そこには、広島の原爆碑の碑文が書かれていた。
「先生、これには主語があれへんのんとちゃいますか?」
「主語は……人類や。書いてないとこに意味がある」
 先生はすまし顔で言ったが、アリスは、なにかはぐらかされたような気がした。

 やはり、避難所の小学校の体育館に入るときは緊張した。

 きっと今まで経験したことがないような視線に晒される。なんといってもアメリカの置き土産の一トン爆弾のせいで避難してるんだから……。
 暖房が効いた体育館は穏やかだった。ご近所同士で世間話をしたり、ゲームをしたり。中には、この小学校の卒業生なんだろう、十数人のオッチャン、オバチャンたちで、同窓会を始めたところもあった。
「なにか、ご不自由なことがありましたら、ど~ぞ、お申し付けください」
 区役所のオッチャンが、丸腰の自衛隊の兵隊さんをはべらせてハンドマイクでハンナリと言った。アメリカで、こんな事態がおこったら、州兵が完全武装で立っているだろう。
 正直、拍子抜けだった。どこかのアジアの国の留学生かなんかだろう。英語で、日本の悪口を言いまくっていた。中にはアリスのように英語が分かる者もいるだろうに、無神経なやつらだと思った。

 三十分ほどして、緊張感も緩み始めたころ、アリスは、強い視線を感じた。

 視線の先には、家族らしい人たちに囲まれて、二人のオジイサンがいた。チラ見などというものではなかった。あきらかに、なにかの意志を持ってアリスを見つめている。
「ちょっと、止めときいや!」
 千代子の注意も無視して、アリスは、オジイサンのところに行った。
「ウチに、なにかご用でしょうか?」
 アリスは、緊張しながらも、丁寧に言葉をかけた。
「あんたさん、アメリカの人か?」
「はい、シカゴから来た交換留学生で、アリスて言います」
「お嬢ちゃん、大阪弁上手やなあ」
 もう一人のオジイサンがにこやかに言った。アリスは、自分にとっての日本語は大阪弁であることをTANAKAさんのオバアチャンの話を交えて説明した。
「そうか、田中さんいうお人はオンリーさんやってはったんか……」
「で、ウチに、なにか……?」
「ハハ、いや、かいらしい子ぉがおるなあ思て。堪忍やで、わしら目ぇが悪いよって、つい睨みつけるような目ぇになってしもてな」
 二人のオジイサンは、それで終わりにしようとした。
「オジイチャンら、戦争に行ってはったんとちゃいます」
「ああ、大昔の、しょうもない話や」
 オジイサンは、蚊でも追うように手のひらをヒラヒラさせた。
「ひょっとして、第八連隊とちゃいます?」
 オジイサンの手が止まった。
「……よう知ってんなあ」
「またも負けたか八連隊。それでは勲章九連隊……」
「「あ……アハハハ」」
 ジイサン二人は、あっけにとられ、そして爆笑した。
「あんた、ほんまによう知ってんなあ!?」
「それも田中のバアサンに教せてもろたんか?」
「はい」
「八連隊は、必ずしも負けっぱなしやなかったけどな、占領したあとの軍政はうまかった。よその地方の部隊はカチコチ。大阪の人間はドガチャガやさかいな」
 なつかしい言葉にアリスは、思わず笑った。
「ドガチャガてなに?」
 ひ孫らしい、女の子が聞いた。
「ミイちゃん、あとで教せたる。ジイチャン、このアメリカの嬢ちゃんと話ししたいねん」
「八連隊が弱いいう噂は、ホンマにあった。せやさかい、この真ちゃんなんか、一生懸命やった。覚えてるか、奉天のねきの戦闘。真ちゃん、ションベンちびりながら、突撃言うてききよらへん」
「あれなあ……このタケヤンと、セイヤンが足引っ張って止めよった『真ちゃん、あかん。ここで突撃したら死ぬだけや。オカンからもくれぐれ言われてんのや、一人息子やさかい死なさんとって!』あれ、こたえたなあ」
「たまたま配属された小隊の隊長が真ちゃんやねんもんなあ、セイヤンと『ぜったい、真ちゃん戦死させたらあかん』て誓うたんや」
「まあ、あとで砲兵隊が援護してくれて、なんとか命は助かった」
「それで、ずっと戦地にいてはったんですか?」
「いや、終戦の春に、師団本部付きになってしもて」
「真ちゃんは、優秀やったさかい、本土決戦要員にもどされたんや」
「ほんなら、六月の大空襲の時は……?」
「あんた、ほんまに、よう知ってんなあ。そんなこと、よっぽどの年寄りやないと覚えてへんで」
「TANAKAさんのオバアチャン、日記つけてはりましたよって」
「しっかりした人やってんなあ、田中はんのおばあちゃんは」
「過去形で言わんといてください。まだ生きてはります」
「堪忍、堪忍。わしら、仲間内は、みんないてもうたさかいなあ……」
「あの、大空襲は、事前に分かってたんや。せやけど、大本営から来よったエライやつらが、市民には秘密にせえ言うてきよった。師団の幹部とケンカしてたなあ」
「真ちゃん、あのときは、どないしてたんや」
「部隊で所帯持ちの兵隊は、病気いうことで、家に帰したった……」
「それて、軍律違反やで」
「おまえが、奉天でセイヤンとワシの足引っ張って止めたんも軍律違反やで」
「それとこれとは……」
「まあ、ドガチャガや」
「アハハ」
 まるで落語のやりとり、アリスは、思わず笑ってしまった。
「で、真ちゃん、空襲の最中は……?」
「それはな……言いたない」
「教せてくださいよ。ウチ月末にはシカゴ帰りますよってに」
「田中のオバアチャンは、空襲の晩、どないしてはったんや?」
「いつもは閉まってる地下鉄のシャッターが開いてたさかい、逃げ込んで九死に一生やった言うてはります」
「そうか……そらよかったなあ!」
 オジイサンの目から涙が一筋こぼれた。
「真ちゃん。ひょっとして、シャッター開けさせたんは、お前ちゃうか。あれについては、いろんな噂があったんやで」
「知らん、わしゃ知らん」
「……そうやな、こういうことは永遠の謎のほうがええもんなあ」
「せや……なんや、不発弾の処理されたみたいな感じやな」
「おじいちゃん、ボケたらあかんで、まだ不発弾処理終わってへんで」
 ひ孫のミイちゃんが言って、爆笑になった。
「せやけどな、アメリカの嬢ちゃん。ワシら、他の年よりみたいに『あの戦争は悪かった』とは言わへんで」
「タケヤン……」
「そんなん言うたら、セイヤンやら死んだ三百万の日本人は犬死にになる……」
「ウチ、言葉もありません……」
「気ぃにせんといてな。あんたが、えらい聞き上手やよって、ワシらいらんこと言うてしもた」
「せや、せや。お嬢ちゃん、シカゴ帰ったら田中さんに、よろしゅう言うといて」

 それから、ひとしきり昔話を聞いて三人でシャメったころ、市役所のオッチャンが丸腰の自衛隊員とともにやってきて、ハンドマイクで言った。

「ご迷惑おかけしました。ただ今、無事に不発弾の処理が終わりました」

 アリスの日本滞在は、あと四日になってしまった……。

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高校ライトノベル・不思議の国のアリス・21『本番はアミダラ女王で』

2018-07-15 06:15:07 | 不思議の国のアリス

不思議の国のアリス・21
『本番はアミダラ女王で』
    


 モニターに自分の姿が映る度にアリスは驚いた。

 そのアリスの表情や仕草がおもしろく、アイドルの子たちが反応「かわいい!」「いけてる!」「キャハハ!」で、カットバック(交互)でアイドルの子たちと写る。席も、アイドル賛成派と反対派の真ん中なので、余計に目立つ。自分が、こんなにアガリ性なのに戸惑った。

 アイドルについて賛否両論の意見が出され、それにアイドルたちが反論したり解説を加えたり。アリスも一度意見を求められたが、「考え中ですよってに」と、正直に大阪弁で答えただけである。大阪弁は大いにうけた。
 CMを挟んで、シンキングタイムがあり、賛否両論それぞれから、席をかわる者も居たが、アリスは、正直に真ん中に居続けた。
「では、賛否両論出尽くしました。まだ中間派のアリスさんの意見を頂戴しておりませんので、アリス、中間派のラストオピニオンを!」

 深呼吸一つして、アリスが切り出した。

「ウチは、アイドルグループ言うのんは、みなさんおっしゃるように日本独特のもんやと思います。で、日本人を一言で言うたら『倭』やと思うんです」
「ワ?」
 AKRのホープである矢頭萌が頭のテッペンから声を出した。
「はい、魏志倭人伝なんかに出てくる、日本の古い言い方。人偏に委員会の委て書きます」
 フランス人形みたいなアリスから、魏志倭人伝が飛び出してきたので、みんな驚いた。
「倭って、どういう意味なんですか?」
「チビです」
「チ、チビ!?」
 メンバーで一番背の低い萌がリアクションをおこす。スタジオが笑いに包まれた。
「昔の中国が、そない言うたんです」
「でも、それって日本の蔑称だよ。今でも中国人頭に来たら、日本のこと、そう言うよ」
 賛成派の中国人が言った。
「別の意味があります。リーダーの指示に、よう従い、礼儀やら秩序を重んじるいう意味です。昔から中国は異民族にろくな名前つけません。北狄 東夷 南蛮 西戎とか言うて、獣偏やら虫やら付けて見下してました。その中で、人偏が付いてるんやさかい、中国でも一目おかれた感じがあります」

 へー

 感嘆の声が上がった。

「東日本大震災のときの、日本人の我慢強さやら、秩序正しさが、一目置かれたとこやと思うんです。アイドルグループには、この日本人の資質がよう現れてると思います。そやから、フランスの人が言わはったみたいな、ピンで売れへんさかいに、集団で居てるんやないと思います。集団で居てるとこに日本人らしい特徴が美質となって現れてるんやと思います。そやさかい、日本人も、世界の人もええなあて思てくれるんやと思います」
「でも、主体性がないのは、どうかと思うけどね」
 フランス人が反論しかけ、オランダ人が同調した。
「そこですねん。倭いう字には『口うるさい』とか『したたか』いうニュアンスもあります。昔の本にもありますけど、ある年、中国の皇帝が外国の使いの人ら集めて宴会したことがあるんです。そのとき倭人の代表が『席次が違う!』て文句言うたんですわ。で、中国の役人が昔の記録見たら倭人の言う通りやったいうことがあります。そういうしたたかさが、アイドルグループには欲しいと思います。ねえ、篠原さん!?」
 去年スキャンダルで、AKRからMNBに移籍された篠原利恵に振った。
「え、あ、はい。よい子、強い子、元気な子、篠原利恵で~す!」

 思いもかけず、アリスの言葉で締めくくられ、最後はAKRのヒット曲でエンディング。先ほどの矢頭萌に引っぱり出され、アリスもその中に入った。昨日カラオケでさんざん練習した曲なので、アリスは素人とは思えない器用さで、歌って踊った。
 ただメンバーのみんなはスカートの下は見せパンを穿いていたが、アリスはアミダラ女王のプリントがされた生パン。

 編集で、アミダラ女王にモザイクがかけられたのは言うまでもない……。
 

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高校ライトノベル・不思議の国のアリス・20『アリスの本番前』

2018-07-14 06:19:36 | 不思議の国のアリス

不思議の国のアリス・20
『アリスの本番前』
   


 本格的な放送局は初めてだった。

 子どもの頃に、地元のケーブルテレビに出たことはある。それは放送部に入っていていれば誰でも出られるというか、ケーブルテレビの放送時間を消化するためと、地元のPTAから資金援助を放送局が獲得するためのノルマのようなもの。出演した子は、自分の学校の近況報告などをする。
 アリスは、校長先生が近々痔の手術をすることをバラしてしまった。だって、椅子に座るときなどに大変辛そうな校長先生を見ていたので、PTAの聞き耳ずきんと言われていたママから聞いていた真実を伝えなければならないと思った。この放送のお陰で、校長先生は、ボランティアの団体から日本製の「痔」患者専用のドーナツ型のクッションを送られた。
 アリスは一応、校長先生からお礼を言われたが、校長先生の目が笑っていなかったことで、そのときはショックだったけど、校長先生の奥さんから「これで、うちの主人が、座るたんびに当たり散らされることがなくなったわ」という感謝の手紙をもらった。だから、今日も、自分が思う真実のみを語ろうと思った。

 しかし、その大きさと、廊下の複雑さには圧倒された。ADさんに案内されて、楽屋に行ったが、直前に二点確認した。
「お便所と非常口はどこですか?」

「こんにちは」と言って入ると、もう十人ぐらいの外人さんがいた。「おはようございます」と返す業界に慣れてしまった外人さんもいた。直ぐ後に、桂米国さんがディレクターの人といっしょに入ってきた。
「おはようございます。お揃いのようなんで、ざっくり説明させてもらいます。アイドルグループに賛成や言う人は、あっち側の化粧前に、反対や言う人はこっち側の化粧前に座ってください……」
 あとは、どの程度日本語が分かるのかとか、使ってはいけない言葉とか説明された。
「ほんなら、別れて座ってください……あ、あなたらはどっち側?」
 アリスは、反対でも賛成でもなかったので、真ん中に残った。
「ウチ、どっちゃ側でもないんですわ……」
「え……」
「ほら、面白いわ。前田さん、真ん中席いうのん作りましょ!」
 米国さんが、おもしろがって提案したのが、直ぐに採用された。
「ところで、あんた、どこの国の人」と、千代子を見てディレクター。
「この子、河内の国」と、千代子を指して、アリスがかえす。

「大阪の放送局は、台本ザックリやからな。気軽に言いたいこと言うたらええで」
「ウチ、言いたいことまとめてきたんですわ!」
 アリスがA4で30枚の原稿を出すと、ディレクターも米国さんも、驚いたり、面白がったり。

 それから、なんとメイクさんがやってきて、メイクと髪のセットをしてくれた。千代子は正直に付き添いであると言ったので、なんにもなし。
「千代子、黙ってたらメイクしてもらえたのに」
「ウチは、そんな……」
「河内の国で通したら、面白かったのに……」
 そんなバカなことを言っていたアリスだが、ADさんが「あと、三十分でスタジオ入りです」と告げにきてから、心臓が踊り出した。
「アリス、緊張したら、可愛いなあ……!」
 確かに、ブロンドの色白。それが、緊張のあまり頬を赤く染め、目が潤んでくると、たしかに可愛い。しかし、本人はそれどころではない。さっきから、千代子やアジア系らしい外人さんがシャメを撮りまくっていることにも気づかない。
「うち、もっかい、お便所行ってくるわ」
「アリス、三回目やで」
「こればっかりは、代わりに行ってもらうわけにはいかへんさかい」

 廊下に出てびっくりした。廊下をAKR47のメンバーが、こっちにやってくる。

「ウワー、ほんまもんのAKRや……!」
 AKRもビックリした。廊下の真ん中に、可愛い(半分、緊張のあまりだが)制服姿のフランス人形のような外人の女の子が突っ立っているのである。
「わー、カワイイ!」
「どこの、国の人?」
「同じ番組に出るの?」
「制服、自前?」
「日本語、分かります?」
 質問攻めになった。
「ウチ、シカゴから来たアリス・バレンタインていいます。アハハ……かんにん、お便所いくとこやさかい!」
 アリスは、トイレに向かって突進した。
 背後でAKRの子たちの明るい笑い声。フランス人形のようで、女子高生の制服。それがカンペキな大阪弁で、お便所に突撃。このギャップは、笑ってしまう。

 しかし、そのアリスが、一時間後に、大演説をするとは、本人も含めて、だれにも分からなかった……。

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高校ライトノベル・不思議の国のアリス・19『アリスのアイドル大研究』

2018-07-13 06:15:21 | 不思議の国のアリス

不思議の国のアリス・19
『アリスのアイドル大研究』
    


 桂米国さんとメルアドの交換をやった。

 軽い気持ちだったんだけど、それは、すぐアリスにめったにできない体験をさせてくれることになった。
 志忠屋さんに『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』を返しにいった、帰り道、地下鉄の入り口でかかってきた。
「アリス、テレビに出えへんか?」
「え……!?」
 という展開になった。

 Kテレビの企画で、「外国人VSアイドルグル-プ」というバラエティーがあるのだけど、その収録の外国人の中心メンバーであるシカルド・キーンさんが体調を崩して出演できなくなり、プロデューサーが困り果て、米国さんに相談。で、米国さんは「あ、あの子や!」ということで、アリスに白羽の矢を立てたのである。
「なんで、ウチに!?」
「あんたやったら、なんか面白そうなこと言うてくれそうやし。なによりテレビ映えしそうやし」
「そうかな……」
「うん、そうや。ほな、そういうことで」
「もしもし……」
 もうスマホは切れていた。
「なんの電話?」
 千代子が聞いてきた。
「なんか、ウチ、テレビに出ならあかんようになったみたい……」
「ええ!?」

 アイドルグループというのは日本独特のプロモートのやり方で、アリスも常々「かわいいなあ!」とか「オー、クール!」と思わず母国語で言って感心してしまう。しかし、いざ、テレビに出て彼女たちと話すとなると勉強が必要だ。
 米国さんは、あとからメールで詳しい内容を伝えてくれた。東京からAKR47の選抜メンバーと、おもクロ。大阪からは地元のMNB47から選抜メンバーが出るとのことであった。本番は明後日である。
 
 その夜から、アリスはネットで検索しまくり、グル-プの成り立ちから、メンバー一人一人の情報まで仕入れた。

 卒業ソングの中に「卒業とは、お別れじゃなく出発なんだ」というフレーズを発見。うちらと一緒やと思った。アメリカの卒業式は、式の始めに国歌を歌うことが共通なだけで、あとは全然ちがう。卒業証書だって、日本じゃ代表が一人もらっておしまいだけど、アメリカは、たとえ生徒が千人いても、校長は一人一人に渡す。これが一番時間がかかるんだけど、文句は言わない。しかし賑やかなことは、この上ない。自分の子どもが名前を呼ばれ壇上に立つと「やったぜアリス!」「ヘイ、アリス!」などと親は、ここ一番と張り切って、騒ぎ倒す。日本なら、式場からつまみ出されるだろう。

 それに、ここが肝心なんだけど、誰も「お別れ」なんて思っていない。「出発」だと思っている。だからギブミーファイブのハイタッチにもなる。

 アリスは研究熱心な子である。なんせホンマモンの大阪を体験したいために、半年も交換留学生で大阪にいる。
 TANAKAさんのオバアチャンが言っていた伝説の霊柩車が見たいために近所の葬式に参列し、焼香までして、出棺で霊柩車が来たときには泣けてしまった。伝説の御殿のようなそれではなく、アメリカと変わらないステーションワゴンだった。期待が大きかった分、悲しみになり、それが参列者の人たちには、遠い異国の少女が故人のために涙してくれていると思われ、感謝の目でみられた。
『君が代』の中に出てくる「さざれ石」が、実在のものであると聞くと、S駐屯地まで見に行き、その荘厳さに胸が打たれた(いっしょに行った千代子は、ただの石ころのかたまりとしか思えなかった)
 勘違いではあるが、千代子が東クンに「女の子の大事なもの」を捧げようと悩んでいると思いこみミッション・バレンタインも計画した。

 で、今度は、アイドルグル-プである。たった一日半であるが、アリスは研究しまくった。半分徹夜で検索した資料はプリントアウトして、綴じると、A4で30枚ほどのレポートのようになった。

 そして、今日は、千代子以下、クラスの女の子五人を集め、近所のカラオケに突撃。七時間かけて、アイドルグループのヒット曲をマスター、うち五曲は振りまで覚えてしまった。
 
 千代子は、ノーベル賞にアイドル部門があるなら、アリスは受賞間違いなしだと思った……。

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高校ライトノベル・不思議の国のアリス・19『アリスの落語観賞 胸ラブラブ』

2018-07-12 06:55:46 | 不思議の国のアリス

不思議の国のアリス・19
『アリスの落語観賞 胸ラブラブ』
   


 その夜、学校のロッカー整理で得たお宝はバックパックのまま置いておき、本を読んだ。

 志忠屋で借りてきた『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』である。
 難しい漢字は読めないので、千代子のオバアチャンに頼んだが、ものの十分で眠ってしまいアウト。
 困っていると、千代子が助けてくれた。
「ウチ、テレビ見てるよって、分からんとこあったら聞いて」
 そう言って千代子は、テレビの歌謡番組に集中した。アリスは器用な子で、人が話していようと、テレビが点いていようが、読書に集中できる。ただ一度アリスの集中を破ったのは、来日して間もなく頃の地震だけであった。それと可能性としては、ロシアに落ちたような隕石がきたらだめだろうなあと思った。

 序章と第一章では、何度も千代子に聞かなければ分からなかったが、二章以降は、覚えた字が多く、わりにスラスラ読めた。
 アリスは、主人公のまどかに共感した。
 コンクールの本選直前、作品が上演できなくなる。主役を務める先輩が倒れたのだ。


「選択肢一、残念だけど今年は棄権する」
 そりゃそうでしょうね。みんなうつむいた……そして、先生の次の言葉に驚いた。
「選択肢二、誰かが潤香の代役をやる」
 みんなは息を呑んだ……わたし(まどか)はカッと体が熱くなった。
「ハハ、無理よね。ごめん、変なこと言っちゃって。ヤマちゃん、地区代表の福井先生に棄権するって、言っといて。トラックは定刻に来るから、段取り通り。戻れたら戻ってくるけど、柚木先生、あとをお願いします」
「はい、分かりました」
 副顧問の柚木先生の言葉でスイッチが入ったように、山埼先輩とマリ先生が動き出し、ほかのみんなは肩を落とした……で。

「わたし、やります!」クチバシッテしまった……。

 
 アリスも息を呑んだ。こういう軽はずみな「ヤリマス精神」はアリスの中にもある。日本への交換留学生もそうだ。たいてい一カ月程度の短期留学で、実質観光にくるような者がほとんどだけど、アリスは本腰を入れて、半年の本格的な留学にきている。大阪の知識は大阪弁といっしょに、お隣のTANAKAさんのオバアチャンに習ってきたが、聞くと見るとでは大違い。なんせ、アリスがTANAKAさんのオバアチャンから教えられた大阪は半世紀以上昔のそれであった。

「その後ね、コンクールで惜しくも二等賞、ほんで、クラブの倉庫が焼けたり、潤香先輩が倒れた責任とって貴崎先生が……」
「なんで、千代子が知ってんのんよ!?」
「あ……ゆうべ、こそっと読んでしもた」
「もう、あとストーリーは言うたらあかんよってにな!」
 ハラハラドキドキの二時間半で読み切った。ラストは、アメリカ人でも大納得のミッションコンプリート。でも、主人公まどかと、BFの忠友クンのラブロマンスは、千代子と東クンのそれのようにまどろっこしかった。しかし、この本に触発されたら、千代子のそれもハッピーエンドになるに違いない。
 文節が短く、文章のテンポもいいので、楽しく読むことができた。

 で、いよいよ明くる日の天満天神繁盛亭の落語観賞の日がやってきた。

 ちょっと残念だったのは、パンフを読み違えていたこと。
 演目の『七度狐』と『地獄八景亡者戯』は日替わりで、その日は『七度狐』であった。前座に桂小文演ずる短編の『世帯念佛』が入る。
『世帯念佛』は長屋のオッサンが、習慣化したお念仏を唱えながら、カミサンなどにグチを言ったり叱ったり。アメリカでも居るよな、こんなオッチャンと思った。
 二つ目の桂米国にはびっくりした。名前の通りのアメリカ人であった。枕の話で自己紹介していたが、カンザス出身のニイチャンだった。小津安二郎監督の映画が好きで、日本に居つき、どこをどう間違ったか落語家になってしまった。
「カンザスからオズの魔法使いを追いかけてきたら、こないなってしまいました」
 アリスには分かり易い大阪弁で語ってくれた。『七度狐』はTANAKAさんのオバアチャンの家でCDで聞かせてもらっていたので、内容は知っていたが、喜六と清八が七度も狐に騙されるところは、やっぱライブで聞かなければ面白さは分からない。
「ベチョタレ雑炊サイコー!」だった。
 ダメモトで米国さんに会えないか受付で聞いてみたら、こころよく楽屋に通された。

「あんた、ほんまにケッタイなアメリカ人やなあ!」
 と、もっとケッタイなアメリカ人である米国さんに言われた。
「ウチ、やっと自分と同じ大阪弁喋る人に会えました」
「それがアメリカ人同士いうのもおもしろいなあ」
 千代子がおもしろがった。
「大阪弁は、大事にせんと、無くなりまっせ」
 米国さんが、真顔で言った。
「大阪弁は、今や全国区とちがいますのん?」
「あんなテレビで流れてるような大阪弁は、大阪弁のほん一部」
「ほん……?」
「ほんまと、ほんのの両方の意味」
 アリスには理解できたが、千代子は今イチな顔をしていた。

 それから、米国さんは、大阪弁と落語について熱く面白く語ってくれた。
「ほん、ちょっと昔、河内のオッチャンらは、淀川の水飲んで腹だぶだぶは、よろがわのみる飲んで腹らぶらぶ。て言うてましてんでえ」
 この話に、アリスはビビっときた。

――胸ラブラブ……ええ表現やなあ――

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高校ライトノベル・不思議の国のアリス・18『世界の中心で I を叫ぶ!』

2018-07-11 06:42:55 | 不思議の国のアリス

不思議の国のアリス・18
『世界の中心で I を叫ぶ!』
    


 ☆日本で奇妙なこと

 世界地図で、日本が中心になっていること。でも、日本人は、それだけ。

 ☆アメリカで奇妙なこと

 世界地図で、アメリカが中心になっていること。現実的にも、アメリカ人は、そう思っている。

 
 千代子の家に帰ると、ちょうど隣りのオバチャンが回覧板を持ってくるところだった。

――24日、不発弾処理のため、緊急避難予告――

 びっくりするような文字が飛び込んできた……。

 アリスは、一瞬心臓が潰れそうになった。爆弾の写真が載っており、千代子に説明されるまでもなく、それがアメリカの1トン爆弾であることが分かった。伯父さんのカーネル・サンダースが軍人なので、アリスは、並のアメリカ人の高校生よりは、こういうことに詳しいのだ。

 二百メートルほど離れた工事現場で発見され、24日、自衛隊が来て処理をするため、近くの小学校に避難しなければならないようだ。近くの幹線道路も封鎖され、半径三百メートルの地域が避難地区に指定されている。
「いやあ、ウチも避難せなあかんねんやろか……?」
「ええやんか、ほんの三時間ほど、小学校で遊んでたらええねん……なんか気になる、アリス?」
「せやかて、これアメリカの1トン爆弾やで……」
「それが、どないかした?」
「ウチ、アメリカ人やで……」
「ハハハ、そんなこと気にしてたん。だーれもそんなこと思てへんわ」
「そやけど、アメリカのオッチャンらは、いまだにリメンバーパールハーバーやで」
「日本人は、戦争は嫌いやけど、どこそこの国が嫌いとは言えへんで」
「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う……」
 千代子のオバアチャンが割り込んできて、呟いた。
「オバアチャン、なに、それ?」
 難しい標準語は、アリスには分からない。
「憲法の前文やなあ」
 千代子にも、その程度には分かる。
「せやから、アリスも安心して避難したらええねん」

 アリスは、あとで、英訳の日本国憲法をかいつまんで検索した。そして、こう思った。
――憲法で戦争が回避できるんやったら、台風も地震も放棄でけたらええのに……。

 明くる日は、登校日だった。26日の卒業式を前にしての最後の登校日。

――この制服着るのんも、あと二日やねんなあ……。

 その思いのせいか、学校に行くと、やたらと友だちからシャメを撮ってくれとせがまれ、アリスは機嫌よくそれに応えた。合計で40回も撮ったころ、AETのジミーが、やってきた。

「やあ、アリス。もうお別れだね」
「そうね、先生」
「先生なんてよしてくれよ。君とは五つしか違わないんだぜ。ジミー、アリスでいこうぜ」
 アリスは、ジミーが三つは歳をごまかしていると思っている。で、名前のように地味ーではないのもよく分かっている。
「そうね、ジミーって素敵な名前だわ。名前に恥じない地味ー……であることを願ってる」
 どうも、この洒落のめした警告は通じなかったようである。シャメをとるとき、ジミーは派手に体をすり寄せてきた。アリスはシャッターを切るとき、思い切り叫んでやった。
「コノ、ド、スケベー!!」
「今の、なんて日本語?」
「ノンノン、フランス語で、素敵な紳士って意味」
「オー、レッツゴー、ワンスモア!」
 今度はジミーも声を揃えてシャメった。
「コノ、ド、スケベー!!」
 校庭中に響き渡る声だったので、あちこちで笑い声が起こった。
 ジミーは、何を勘違いしたのか、それにガッツポーズで応えていた。シカゴのアドレスを、しつこく知りたがったので、虫除けのアドレスを教えておいた。カーネル・サンダースの伯父さんのアドレスを……。

 卒業式のリハのあと、ロッカールームの整理にかかった。

 アリスは驚いた。先生達が、大きな段ボール箱をいくつも用意してくれていて、いらないものはその中に入れるように声をからしていた。みんな、ジャージや教科書などを惜しげもなく捨てていく。
 アリスは、みんな持って帰るつもりで、大きなバックパックを持ってきていた。

「やあ、先生。これ、ウチがもろてもよろしい?」
「ああ、どうせゴミや。好きなん持っていき」

 アリスの地図帳や、国語便覧は書き込みでいっぱい。地図帳はちょっとしたアトラスで、市販の同様なものは十倍近い値段がする。国語便覧は、日本文学や風俗がよく分かり貴重な日本の資料である。驚いたことに、半分以上が新品同然だった。名前が書かれていないものを五冊ずつ選び、自分の教科書などといっしょにバックパックに詰めた。モノを大事にしない日本人……TANAKAさんのオバアチャンが知ったら嘆くだろうなあ……と、思った。

 最後にアリスは思いついた。棒きれを持ってきて、グラウンドになにやら描き始めた。

「なに描いてんのん?」
 千代子が不思議そうに聞く。
「へへ、ちょっとしたナスカの地上絵や」
 そのうち、四階の社会科準備室の窓が開き、先生たちが顔を出した。
「アリス、えらいうまいこと世界地図描くやんけ!」
「そうやろ!」
 アリスはとびきりの笑顔でピースサインをした。
「千代子、世界の真ん中で叫ぼ!」
「何を!?」
「I will be なんとかで、ええねん。または I whish i were なんとか!」
「なんで英語?」
「日本語やと照れくさいやろ」
「そやなあ……」
 千代子が悩んでいるうちに、ギャラリーが賑やかになってきた。
 発作的にアリスは世界地図の真ん中に立った。
「この洒落、分かる人おったら偉い!」
 アリスは、大きく息を吸い込むと、思い切り叫んだ。

「I will be the I……!!」

 一瞬、ギャラリーがシ-ンとした。
「I mean japanese 愛や!」
 なんと三階の窓から、東クンが叫んだ。
「Oh yes, its mean LOVE!!」
 アリスが応えると、気を利かした放送部が『L-O-V-E』をかけ始めた。
「L is for the way you look at me……♪」
 さらに練習中の軽音楽部が、ピロティーから出てきて、即興で『L-O-V-E』を演奏し合唱になってきた。
 そして、次々に生徒が集まり、いろんな歌を唄い、期せずしてアリス待望のプロムになった!

※プロム――アメリカの高校などの卒業式のあとに行われるパーティー。ここで正式なカップルができることも多い。
  

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高校ライトノベル・不思議の国のアリス・17『天六界隈探索記』

2018-07-10 06:43:22 | 不思議の国のアリス

不思議の国のアリス・16
『天六界隈探索記』
      


 アリスは下見をすることにした。

 千代子のオバアチャンから、天満天神繁盛亭のチケをもらったんだけど、今月いっぱい有効。

 演目を見ると、明後日に「七度狐」と「地獄八景亡者戯(じごくばっけいもうじゃのたわむれ)」という大ネタをやることを知り、とりあえず下見をしようと思い立った。
 正確には、繁盛亭の近辺を検索してみると、いろいろおもしろいモノがあり、二度に分けないと、繁盛亭の落語観賞とは両立しないと分かったからだ。

 地下鉄の天六(天神橋筋六丁目)で降りた。

「ウワー、千代子、見てみい。めっちゃくちゃ長い商店街!」
 ちなみにアリスは「めちゃ」という副詞は使わない。大阪に来て「めちゃ」を知るが、どうも気合いが入らないのでTANAKAさんのオバアチャンに習ったとおり「めちゃくちゃ」。感動のはなはだしい場合は「めちゃ」を促音化させ「めっちゃくちゃ」という。
「この天神橋筋商店街は、日本でイッチャン長い商店街やねんで!」
「どのくらいあるのん?」
「2・6キロ。1・8マイルっちゅうとこやな。世界でも、こんな長いバザールはそんなに無いで。千代子パパの黒門市場よりも長い……」

 千代子は、悪い予感がした。

「で……」
「歩く!」

 予感は的中した。

「ちょっと、商店街こっちやし!」
 交差点の方に行ったアリスに叫んだ。気づくと、アリスはお巡りさんに何か聞いていた。
「ポリさんに、何聞いてたん?」
「うん『天六ゴーストップ事件』と『天六ガス爆発事件』のこと聞いてたんやけど、あのポリさん、何にも知らんかった」
「なに、その二つの事件?」
「1933年にな、ここの横断歩道で、ポリさんと兵隊さんが、信号守れ、守らへんでケンカになってな。それが陸軍と内務省のケンカになって、天皇陛下が『いつまで、しょうもないことやってんねん』言わはって、やっと決着した事件」
「アリス、よう知ってんなあ。感心するわ」
「TANAKAさんのオバアチャン、ここで見てたんやて」
「え、あのシカゴの!?」
「はいな。歴史の生き証人。そやけど、大阪でポリさんやってんねんやったら、それぐらい知っとかなあかんわ」
「声大きい、聞こえるで。で、ガス爆発は?」
「1970年に、この下で地下鉄工事やってて、ガス漏れしてなあ、直しに来たガス会社の車のセルモーターの火花に引火してしもて、七十人以上人が死んだ、日本最大級のガス事故や。ほんでからに……」
「ま、とりあえず歩こか」

 アリスのウンチクが長くなりそうなので、千代子は、アリスをうながした。

「しかし、食べ物屋さん多いなあ……」
「どこかで、お昼にしよか」
「店は、もう検索して決めたある」
 さすがはアリスである。
 あれこれ見ているうちに繁盛亭の場所も分かり、その前を横切って、天神さんにお参りした。
「アリス、なんのお願いしたん?」
「アホやな。天神さん言うたら学問の神さんやで、勉強のことに決まってるやろ」
「えらいなあ。こんなとこまで来て、勉強のことか!?」
「勉強がんばったら、また日本に来られるやんか」

「……あ、そやな。アリス、もうちょっとで、シカゴ帰らなあかんねんもんなあ」

「今度来たら、天神祭のギャル御輿かつぎたいなあ……」
「あんた、どこまで詳しいんや!」
 お守りを買って、商店街に戻った二人は、南森町に着いた。
「粉モンは飽きたよって、今日はちょっとイタリアンで……」
 そういうと、アリスはMS銀行の横を曲がり、「志忠屋」という小さな店に入った。
「二人、テーブルよろしい?」
 ブロンドのアリスが、流ちょうな大阪弁で聞くので、バイトのオネエチャン(?)が少し驚いたような顔になった。
「ここ、シチューがメインみたいやけど、パスタがイケてんねんで」
「ほな……」
 それぞれ、違うパスタをオーダーし、食べっこをすることにした。オーダーするとマスターの姿に気が付いた。
「マスター、ロバート・ミッチャムに似てますねえ」
「中年以降のポッチャリしたころのね……お若いのに、古い映画スター知ってはりますね」
「この子、変なアメリカ人ですねん」
 千代子が前置きをする。
「わたい、変な日本人ですねん」
 マスターが絶妙な呼吸で返してきた。

「ところで……」

 アリスは、ダメモトで、さっきの話題などを投げかけてみた。驚いたことに、マスターは全ての質問に的確な答えをしてくれた。あげくに民主党(念のためアメリカの)の悪口になると、このミッチャムのオッサンはひどく詳しかった。ニューディールの失敗、リメンバーパールハーバーから原爆投下、ベトナム戦争、オバマのTPPにいたるまでの民主党には手厳しく、これは共和党ファンかと思うと、そちらも手厳しく、小林イッサとは違う意味で、したたかな日本人に出会った気がした。

「あ、この壁のサインすごい!」

 二人の話について行けない千代子は、店の壁に書かれたアーティストたちのサインに驚いた。
「ウチ、知ってる人もいてるなあ」
 アリスの芸能関係の知識は狭いが、そのアリスでも知っているものもあった。元ちさと、BOOM、プリプリにリンドバーグ、ミスチル……千代子は、侮れないなあと、いつの間にかカウンターに移動して口角泡を飛ばしている日米のケッタイな二人を見つめた。
「あ……」
 テーブルにドリンクを取りに行ったアリスが、出窓に並べられた本の一冊を見つけて声をあげた。
「これ、アマゾンで、えらいプレミアム付いてる本ですやんか!?」
「ああ、大橋の本か……」

『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』の初版本である。

「これ、競り落としはったんですか!?」
「いや、大橋は、古い連れやさかいに」
 アリスの頭には、アマゾンで最高53000円のプレミア価格が点滅した。
「ヘヘ、持って帰ったらあかんで」
 マスターのフライングした言葉に、苦笑いのアリス。
「あさって、もっかい来るさかい、借りたらあきません?」
 という線で手を打った。

 千代子の家に帰ると、ちょうど隣りのオバチャンが回覧板を持ってくるところだった。

――24日、不発弾処理のため、緊急避難予告――

 びっくりするような文字が飛び込んできた……。

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高校ライトノベル・不思議の国のアリス・16『カーネル・サンダースの謎々・2』

2018-07-09 06:47:44 | 不思議の国のアリス

不思議の国のアリス・16
『カーネル・サンダースの謎々・2』
    


 謎々の中味は、ちょっとした短編小説だった。

――江戸時代の終わり頃、大阪の堺で殺人事件が起こった。殺されたのは、堺の唐物商、和泉屋の主人であった。袈裟懸けにバッサリと切られ、店の前に倒れていたのを、店を開けた丁稚に発見された。
 そのころ和泉屋は新撰組から、押し借り(無理矢理借金を申込み、踏み倒す)をせまられていた。京、大坂、堺の商人たちが、この被害に遭い、かなりの損害を被っていた。てっきり下手人は新撰組であろうと、奉行所も手をこまねいた。泣く子と新撰組には勝たれぬご時世で、この事件は不問に付されようとした。今で言えば「お宮入り」である。

 ところが、数日後、奉行所の壁に張り紙がされた。

『下手人は、堺より紀州の内にあり』

 堺より紀州(和歌山)よりということは、堺の南側で、新撰組という線は薄くなる。そこで、奉行所の役人達は、堺から紀州までの間の、主に商人で、和泉屋といさかいのあったものたちを調べ始めた。奉行は、その張り紙をよく見て、奉行所の幹部を集め、問いただした。
「下手人は、その方たちの中におる。吟味(捜査)してもよいが、武士なら潔く申し出よ」
 結果、一人の幹部役人が進み出て、白状した。その役人は、和泉屋が尊皇攘夷派の武士たちに倒幕の資金提供をしていたのに腹を据えかね、犯行に及んだ。
 なぜ、奉行は、奉行所の幹部役人の中に犯人がいることが分かったのか?――

 この答が分かったら、夕べの帝都ホテルの宿泊代はカーネル・サンダースの伯父さんが持つと書かれていた。
 これは挑戦しなければ損だと、梅林の見学もそこそこに、千代子の家に帰って、アリスは頭を絞った。

 アリスは考えた。英語ではなく、わざと漢字交じりのむつかしい日本語で打ってきた。千代子もいっしょに考えてくれたが、千代子にはまるで分からなかった。アリスは文章をヒラガナにしてもらい、むつかしい単語は千代子に聞いた。千代子にも分からないものは、検索してみた。

○ 堺は、当時有力な商業都市であった。

○ 奉行所というのは、今の警察である。

○ 新撰組、幕府が雇った京都や大阪の治安維持部隊で、傭兵部隊のようなもの。

○ 紀州=和歌山と紀州の間の地図とにらめっこ。

○ 奉行所の幹部は、同心とか与力とかがあった。

 千代子は、三時のお八つどきには降参した。それから三十分ほどして、アリスは叫んだ。

「分かった、ウチ分かったで!!」

 さっそくアリスは、答を伯父さんに送った。折り返し「ご名答!」のメールが返ってきた。

 さて、読者のみなさんは、お分かりであろうか?

 答は、次号で発表……!
 

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