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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

千早 零式勧請戦闘姫 2040・35『風の音にも驚かねぬる校外清掃』

2025-05-11 09:47:56 | 不思議の国のアリス
千早 零式勧請戦闘姫 2040  
35『風の音にも驚かねぬる校外清掃』




 今日は学期に一回の校外清掃の日だ。


 今でこそ準進学校として地域からも愛される九尾高校だが、開校した60年前は評判が悪かった。
 かつて市内唯一の市立女子高だった九尾高校を移転させて県立高校になった時、男子の入学を認めて共学校にしたのだ。校名こそ女子高時代のそれを引き継いでいるが、実質は新設校。新設校にありがちな混乱と無秩序に陥り、地元からは顰蹙を買い、女子高時代からの同窓会からは「栄えある九尾高等女学校の面汚し、校名を変えて!」と三下り半を突きつけられたほどだ。

 そこで、当時の生活指導部長の提案で、学期の初めに全校生徒で校外清掃をすることにしたのだ。

 日ごろ顰蹙を買っていた九尾の生徒だが、回を重ねるごとに地域の評判を取り戻して2040年の現在に至っている。

 今朝も、全校生徒がゴミ袋と金バサミを持って、学校の周囲や通学路のゴミ拾いをやっている。

 担当区域は学年の縦割りで、千早の一組は一二年の一組といっしょに学校の南側、三本松の手前までだ。

「太陽光パネル無くなったんだねえ……」

 相棒の重森歌子が金バサミ持つ手を休めて感心する。

「うん、ギラギラしてて鬱陶しかったからね」

 ここの太陽光パネルは妖化して、三月の蔵書点検の朝は数百枚のパネルが千早を襲った。アメノウズメを勧請して激闘の末にやっつけたのだが、今は残りのパネルも撤去されて昔の田んぼに戻りつつある。

「田植えができるといいね」

「そうだねぇ……」

 千早も歌子も岐阜県少女らしく、濃尾平野には田んぼが似合うと圃場整備に入った野原を眺めるのだった。

「あ、二人だとボーっとしてしまうね(^○^;)」

「右と左に分かれてやろうか」

「うんうん(^_^;)」

「じゃ、わたし東側」

 道路を挟んで東西に分かれた。

 用水路沿いにゴミを拾っていると、向こうのあぜ道から視線を感じて顔を上げる……見覚えのある女生徒が千春を睨んでいる。

「あ、黒ウサギ!?」

「…………」

「なんで学校の外に出てんのよ!?」

 黒ウサギは結界のため学校の外には出てこないと思っていた千早だ。勢い言葉が強くなる

「学校の行事だからよ、文句ある?」

 それだけ言うと、金バサミをカチャカチャ言わせながらあぜ道の向こう側に消えてしまった。

 ピシ

「あれ……時間が停まった?」

 三月からこっち、度々時間が停まるのでそれほどには驚かなくなってはいる。しかし、時間が停まると妖や化物が現れるので反射的に警戒する千早だが、今の時間停止の音には害意が無い。

 カチャカチャカチャ……ズチャ

「ご報告に参りました」

 風を切り鎧の音をさせて現れたのは道三の家来の十兵衛だ。

「え、なにか異変でも?」

「お屋形様に命ぜられ、糺の……バブルの森に物見にまいっておりました」

「バブルの森、また化物!?」

「いえ、それが一匹の妖も見えませぬ」

「やっぱり……」

 先日、貞治を連れて調べに行った千早だが、その時はアカリン市長に出会っただけで、土壌が軟弱になっていること以外に森に異変は無かった。

「お屋形様のお言葉に寄りますと、妖共は地脈を通じて美濃の各地に散っておるとのことでございます」

「え、岐阜県の各地に?」

「はい、このあたりの妖の首魁は九尾の狐にございます」

「うん、それは知ってる。玉藻の前でしょ」

「いかにも、本性は九尾丘。その尾は九つ纏めて糺の森に収まっておりましたが、先日の天宇受賣命様との戦い以来、美濃の各地に飛んだとのことにございます」

「えぇ……なんだか面倒そう……」

「お案じなさいますな。戦闘姫さまにはお屋形様初め、ご家老の斎藤利光さま、加えて、我ら家臣の者共が付いております」

「そ、そうね、頼りにしてるわ十兵衛」

「身に余るお言葉、それでは、これにて」

 颯爽と馬にまたがると三本松の道を南にフェードアウトしていく道三子飼の若武者十兵衛であった。

――いま、誰かと会っていた?――

 黒ウサギの思念が飛び込んできた。

「あ、ううん。いや、風よ風」

――風?――

「『夏きぬと目にはさやかに見えねども、風の音にも驚かねぬる』って古文で習うでしょ……あ、あんたまだ一年だったっけ( ´艸`)」

「フン、それは『夏』ではなくて『秋』よ。神社の娘なら、もうちょっと勉強するのね」

「ウ(;'∀')」

「じゃあね、がんばってぇ先輩! アハハハハ……」

 憎々しい笑い声を残して学校に戻っていく黒ウサギ。

 気づくと重森歌子も戻って来て、大慌てでゴミ拾いにかかる千早であった。

 

 
☆・主な登場人物
  • 八乙女千早           浦安八幡神社の侍女
  • 八乙女挿(かざし)         千早の姉
  • 八乙女介麻呂          千早の祖父
  • 神産巣日神          カミムスビノカミ
  • 天宇受賣命           ウズメ 千早に宿る神々のまとめ役
  • 来栖貞治(くるすじょーじ)  千早の幼なじみ 九尾教会牧師の息子
  • 天野明里            日本で最年少の九尾市市長
  • 天野太郎            明里の兄
  • 田中            農協の営業マン
  • 先生たち          宮本(図書館司書)
  • 千早を取り巻く人たち    武内(民俗資料館館長)
  • 神々たち          スクナヒコナ タヂカラオ 巴さん
  • 妖たち           道三と家来(利光、十兵衛)
  • 敵の妖           小鬼 黒ウサギ(ゴリウサギ)
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千早 零式勧請戦闘姫 2040・34『クロックの配達日記』

2025-05-07 08:33:53 | 不思議の国のアリス
千早 零式勧請戦闘姫 2040  
34『クロックの配達日記』




 市庁舎の上にゼロ戦が戻ってきた。


 先月は突如、市庁舎の上空で米軍機との空中戦になってしまった。

 ゼロ戦がバタバタと撃墜され、付近の建物や道路に墜落。リアルなホログラム映像なので一時はパニック状態になったが、九尾市を挙げての『ゼロ戦100周年』、コンピューターがハッキングされたが無事に復旧したということで再開されている。

「こっちは復旧したけど、バブルの森は振出しだなあ……」

 キュービック(最上階の展望レストラン)の窓際席、今日はランチの後、渋茶で粘っているアカリン市長だ。

 先日、自ら調査に入ってバブルの森が異常であることを確認してしまった。

 森の中心部分が熱を持って軟弱になっているのだ。堆積した腐葉土の異常発酵だとされているが、症状は地層の深いところまで及んで、現在は森への立ち入りは禁止されてしまっている。

 このままでは、誘致するはずだったロボット工場は進出を白紙に戻すだろう。

 地上に目を落とすと、宅配便の車が停まって配達の真っ最中。人が付き添っていたはずだったが、いつの間にかロボットが一人で仕事をこなしている。

「おやおや……」

 交差点で、ロボットは一旦停止し、左右を確認してから道を渡った。

 ロボットは衛星や監視カメラとリンクしているので、わざわざ立ち止まって視覚的な確認など必要ないのだが「危なく感じる」「子どもたちが真似をする」という苦情が出て、ギミックとして停止と左右の確認をやっているのだ。

「これからはロボットの時代なんだけどなあ……」

 宅配ロボットは一台で宅配トラック二台分の値段がする。大手のクロクマトヤマだから導入できているが、中小の業者に広がるのにはもう少し時間がかかるだろう。しかし、先進国では税制優遇などの措置が講ぜられて工場や研究施設が作られ始めている。

「なんとしてでも誘致しなくっちゃ……」

 ブゥゥゥゥーーーン

 抑制されたエフェクト音をさせて窓の外をゼロ戦が横切った。

「ゼロ戦は飛び立たせるだけだったけど、ロボットは九尾の基幹産業に育てなくっちゃねえ……」

 配達を終えたロボットが、交差点の向こうで左右を指さし確認。

「え?」

 その指が、自分を差した。

 コンニチハ アカリンシチョウ(^▽^)/

 目の前の窓ガラスにロボットらしい片仮名でメッセージが投影される。

 ロボットが指差し確認した指の先からレーザーで投影している。

 思わずアイドル時代のように笑顔で手を振り返す。


 市長室に戻ると、PCのネットニュースが新着のシグナル。


 クリックすると『配達の途中、市長さんにご挨拶したら笑顔が返ってきました』と、ついさっきのロボット。

 タイトルは『クロックの配達日記』とあって、クロクマのロボット配達開始のキャンペーンの一つだと知れた。



☆・主な登場人物
  • 八乙女千早           浦安八幡神社の侍女
  • 八乙女挿(かざし)         千早の姉
  • 八乙女介麻呂          千早の祖父
  • 神産巣日神          カミムスビノカミ
  • 天宇受賣命           ウズメ 千早に宿る神々のまとめ役
  • 来栖貞治(くるすじょーじ)  千早の幼なじみ 九尾教会牧師の息子
  • 天野明里            日本で最年少の九尾市市長
  • 天野太郎            明里の兄
  • 田中            農協の営業マン
  • 先生たち          宮本(図書館司書)
  • 千早を取り巻く人たち    武内(民俗資料館館長)
  • 神々たち          スクナヒコナ タヂカラオ 巴さん
  • 妖たち           道三と家来(利光、十兵衛)
  • 敵の妖           小鬼 黒ウサギ(ゴリウサギ)
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千早 零式勧請戦闘姫 2040・33『バブルの森と浦安の森と』

2025-05-04 14:45:48 | 不思議の国のアリス
千早 零式勧請戦闘姫 2040  
33『バブルの森と浦安の森と』




 ワチャワチャワチャ ワチャワチャワチャ ワチャワチャワチャ


 幽けき音がするたびに、余計な枝や葉っぱが落ちていく。

 ゴールデンウイークのど真ん中、さくらからもらった服の中からサロペットを選んで浦安の森の手入れをやっている千早だ。

 連休前に氏子の有志たちが入ってくれたのだが、年寄りたちばかりで手が回り切れていない。浦安の森と呼ばれる神社の森は小さな小学校ほどの広さがあるのだ。
 江戸時代以前は幕府や大名から社領を認められていて、領民が手入れをやり、終戦までは県社の社格が与えられてなんとか回ってきたが、令和も22年の今日、氏子の減少と高齢化でいささか苦しい。

「まあ、験担ぎの奉仕だから形だけでいいさ」

 祖父の介麻呂は鷹揚に言うが、父の一彦は――これでは秋に人を雇ってやらなきゃならないなあ――と気を落としていた。

「じゃあ、道三たちでやってちょうだいよ」

 居候の斎藤道三に命じたのだ。先日は鳥居を塞いだ大岩を除去できなかった斎藤軍団なので「これで埋め合わせ」と働かされている。千早はこういう点抜け目がないというか、人を使う(斎藤軍団は人ではないが)機微を心得ているところがある。

「急いてはいかんぞ、気取られてはならんからな」

 道三は嫌な顔もしないで家来どもに下知している。

「ああ、悪いわねえ、気を遣わせて(^_^;)」

「なあに、疾きこと風のごとしじゃ」

「殿、それは武田信玄の孫氏の兵法でござります」

 家老がピシリとたしなめる。

「読みが浅いぞ利光。ここで言う風とは自然な早やさと言う意味じゃ。やり過ぎを戒めておる」

「なるほど、あくまで、自然に枝葉が落ちたようにでござりますな」

「そうだ。我らの存在を人に気取らせてはならんからな」

「ハハッ、利光、気が及びませなんだ。家来どもにも念を押してまいりまする」

「うむ、頼んだぞ」

「ハッ」

「あのご家老様、利光さんて言うんだ」

「閃きはござらんが実直な男でござる、平時には頼りになりまする」

「そうなんだ」

「人を使うには気を遣わねばなりませんぞ」

「ああ、気をねえ……(^_^;)」

 勧請戦闘姫になったのかならされたのか、二月がたち――神さまを使っているのか使われているのか――どっちだろうと考えてしまう千早。

「昔は糺の森と申しましてなぁ」

「タダスノモリ?」

「バブルの森でござるよ」

「ああ……って、昔からあったの?」

「いかにも、後年信長が火をかけて野原に戻してしまいましたが、いまの樹相、森の佇まいは糺の森の頃に似ております」

「……なにか因縁のある場所なの?」

「その名の通り、人を糺します」

「人を正す?」

「『糺す』の方でござる。事の是非や真偽を糺すの『糺す』でござる」

「〇かXか、AかBか……的な?」

「左様……強い志と迷いのある者が踏み込むと、その者を糺してしまいます」

「ちょっと怖いわね……でも、こないだ行ったら穢れ的なものは感じなかったけど」

「熱を持っておったでござりましょう?」

「あ、うん……草や苔の下はグジュグジュになってたとこもあったし」

「さよう、そこでござりまするよ……お、戻ってまいりましたな」

 拝殿の向こう、鳥居の前で蹄の音がして、だれか鎧の音をさせてやって来る者がある。

 カチャカチャカチャ、ジャキ。

「調べて参りました」

 兜を背掛けにした若武者が蹲踞した。

「いかがであった十兵衛?」

「邪気は失せておりまするが、霊脈に繋がる熱を持っております」

「やはりな……ご苦労であった、暫時休息をとって、こちらの森を頼む」

「ハ」

 カチャカチャカチャ……

「念のため見届けさせました、土は軟弱にはなってはおりますが、当面の災いは無いようでござる」

「確認してくれたんだ」

「戦闘姫殿の御ため、しいては美濃の国のためでござる」

「あ、ありがとう!」

「信長のように焼き払えれば数百年はもつのでござるが、令和の御代、乱暴なことも出来ませんでなあ……どれ、この斎藤入道も枝払いいたしまするか。誰か枝切ばさみをもて!」

 斎藤道三も加わり、夕刻には浦安の森は夏の装いになった。


☆・主な登場人物
  • 八乙女千早           浦安八幡神社の侍女
  • 八乙女挿(かざし)         千早の姉
  • 八乙女介麻呂          千早の祖父
  • 神産巣日神          カミムスビノカミ
  • 天宇受賣命           ウズメ 千早に宿る神々のまとめ役
  • 来栖貞治(くるすじょーじ)  千早の幼なじみ 九尾教会牧師の息子
  • 天野明里            日本で最年少の九尾市市長
  • 天野太郎            明里の兄
  • 田中            農協の営業マン
  • 先生たち          宮本(図書館司書)
  • 千早を取り巻く人たち    武内(民俗資料館館長)
  • 神々たち          スクナヒコナ タヂカラオ 巴さん
  • 妖たち           道三と家来(利光、十兵衛)
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千早 零式勧請戦闘姫 2040・32『バブルの森で市長と出くわす』

2025-05-02 07:43:50 | 不思議の国のアリス
千早 零式勧請戦闘姫 2040  
32『バブルの森で市長と出くわす』




 森の中、逆鱗が現れた宅地に向かう千早と貞治。

「大丈夫かぁ、ズンズン進んでぇ?」

 鬱蒼とした森の中は20メートルも入り込むと方角も定かでなくなって、怖気を振るう牧師の息子だ。

「え、ああ、大丈夫よ。前にも来たし、どうってことないわよ」

「ウワ!」

「ちょ、しっかり歩きなさいよ」

「いや、葉っぱや苔やら……下は地面かと思ったら深くてさ」

 木に掴まって上げた貞治の右足は、ふくらはぎのところまで濡れ苔がまとわりついている。

「もう、わたしの後ろを踏みしめて歩きなさい」

「お、おう……千早、なんで、スルスル歩けるんだ?」

「え、ああ……巫女の勘よ」

「ええ、保育所や遠足じゃよく行方不明になってたくせに」

「もう、古い話を……あれだって、ちゃんと自分で戻ってきたじゃない」

 千早は、小さいころからあれこれ気を取られる性質で、最大で半日行方不明なることもあったが、いつも無事に戻ってきている。

「でもよ……苔の下とか、少し温い感じがするぞ」

「え、腐葉土とかじゃないの」

「おい、湯気が立ってるぞ」

 貞治が踏み抜いた穴からは、仄かに陽炎のような湯気が立っている。

 一瞬、妖かと思う千早だが――怪しの気配は無いぞよ――ポケットの姫鏡は特段の異常はないと呟いた。

「変だなあ……」

 学校にやってきた黒ウサギはフェイントで、バブルの森こそ元凶だとやってきた千早は肩すかしの感じがした。


「あ、あなたたち……」


 前の薮が揺れたかと思うと、九尾市の作業服を着たアカリン市長が役人を引き連れて現れた。

「あ、市長さん!?」

「クラブ活動かなんかなの?」

「あ、そんなとこです。こないだは資料館の方に行ったんで、今度はその周辺をと……市長さんは調査ですか?」

「まあね。近々公聴会があるから、念押しの予備調査って感じ」

「あ、それはご苦労さまです」

「慣れてはいるんでしょうけど、気を付けてね、足もと悪そうだから。あまり奥に入っちゃダメよ」

「ハイ」

「じゃ、助役さん、わたしたちも」

「はい、市長」

「失礼します(^_^;)」

 ペコリとお辞儀する千早だが、助役が手にしていた地図には、いろいろチェックされていて、書き込まれた数字は森の中の気温や土壌の温度なんだろうと見当をつけた。ほかにも地図記号みたいなものも書かれていて、興味津々の千早だ。

 それから少しだけ奥に踏み込み、土壌が異常に暖かいこと、にもかかわらず、妖の気配がしないことを確認して森の外に出た。

 駐車場まで戻ると、ちょうど農協の田中さんが車を出すところ。

 助手席の新人職員が畏まっているのを微笑ましく見送って家に帰る二人だった。



☆・主な登場人物
  • 八乙女千早           浦安八幡神社の侍女
  • 八乙女挿(かざし)         千早の姉
  • 八乙女介麻呂          千早の祖父
  • 神産巣日神          カミムスビノカミ
  • 天宇受賣命           ウズメ 千早に宿る神々のまとめ役
  • 来栖貞治(くるすじょーじ)  千早の幼なじみ 九尾教会牧師の息子
  • 天野明里            日本で最年少の九尾市市長
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千早 零式勧請戦闘姫 2040・31『「森に行くよ」「え、今から( ゚Д゚)?」』

2025-04-20 11:06:48 | 不思議の国のアリス
千早 零式勧請戦闘姫 2040  
31『「森に行くよ」「え、今から( ゚Д゚)?」』




 黒ウサギは学校に住み着いている。


 ウズメが張った結界に時間魔法をかけ、ウサギは一時間だった結界の効能を一年に伸ばしたのだ。伸ばしたうえで結界の中に潜り込んだ。ウズメは黒ウサギの魔法攻撃を学校に及ばせないために結界を張ったのだが、その中に飛び込んでしまえば、ウサギは攻撃魔法を使えない。生半なことでは結界の外にも出られず、ウサギは完全に封じられてしまうのだ。

 ――ゆっくり炙り出してやればいい――

 ウズメは思ったが、黒ウサギは、新一年生に化けたり操ったりして物理攻撃を加えてくる。一昨日はスクナヒコナを勧請して書架の隙間に落ちた図書カードを拾ってやった。すると隙間から出たところで危うく踏み潰されそうになった。女生徒の一人はウサギが化けた者だったのだ。

 依り代の千早は気が気ではない。

「ねえ、どうすんのよ……」

 カバンにぶら下げたマスコットに問いかける千早。日ごろのウズメは身の丈5センチあまりのマスコットに宿っている。

「こんな調子でやられたら、わたしはともかく、他の生徒に犠牲者が出るよ」

『知らないわよ。そんなことより、お昼ご飯をしっかり食べておきなさい』

「ウウ、食欲なんかないわよ……(-_-;)」

 そう答えた千早だが、お昼の学食では丼二杯とラーメンを平らげた。

「ウフフ、やけ食いかしら~」

 トレーにきつねうどんを載せてウサギが通り過ぎ、あやうくのどに詰まらせそうになった。

 
 放課後、図書館当番の貞治を置いて一人正門を出たところでウズメが話しかけてきた。

『桜の木を見てごらんなさい』

「え、もう葉桜だよぉ……」

 気乗り薄に振り返ると正門脇の桜だけが微妙に光っているように見える。

『この桜はモバイルバッテリーみたいなものよ』

「え?」

『ウサギに感づかれるから、歩きながら……』

「うん」

『あいつ、少し知恵が回るようだけど、所詮は二級の妖。外から充電してもらってる。あの桜は結界の外と内に半分半分枝を伸ばしてるから、あそこから妖力を補充してるのよ。そして……あの桜に補給をしてるやつが居る』

「そうなの!?」

『うん、十中八九ね。森に行くよ』

「え、今から( ゚Д゚)?」

『そうよ、千早が意外なんだから、他の者に知られることもないわ』

「あ、お昼をあんなに食べさせたのは、このためだったの!?」

『企んだわけじゃないけどね』

 エッチラオッチラ自転車を漕いでいくと、辺境伯の城(民俗資料館)の駐車場に農協の車が停まっているのが見えてきた。

「あ、田中さんの車だ!」

 仕事熱心な田中は、こんな辺境まで営業に来ているのだと感心する千早だ。

 なんだか懐かしく、駐車場にまわって覗き込むと、助手席に見慣れない女物のスプリングコートが畳んで置かれていた……。

『新入社員でしょ、研修兼ねて連れてるでしょうね』

「あ、うん、そうだろうねぇ(^○^)」

 中年の域に達しようとしている田中は未だに独身だ。こういう状況を目にすると幸多かれと祈ってしまう。やっぱり、神社の巫女だけのことはある。

『さ、それよりも森の妖。行くよ、自転車はここに停めて行こう』

「う、うん」

 自転車に鍵をかけると、千早は深呼吸をして森に向かうのだった。



 
☆・主な登場人物
  • 八乙女千早           浦安八幡神社の侍女
  • 八乙女挿(かざし)         千早の姉
  • 八乙女介麻呂          千早の祖父
  • 神産巣日神          カミムスビノカミ
  • 天宇受賣命           ウズメ 千早に宿る神々のまとめ役
  • 来栖貞治(くるすじょーじ)  千早の幼なじみ 九尾教会牧師の息子
  • 天野明里            日本で最年少の九尾市市長
  • 天野太郎            明里の兄
  • 田中            農協の営業マン
  • 先生たち          宮本(図書館司書)
  • 千早を取り巻く人たち    武内(民俗資料館館長)
  • 神々たち          スクナヒコナ タヂカラオ 巴さん
  • 妖たち           道三(金波)
  • 敵の妖           小鬼 黒ウサギ(ゴリウサギ)

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千早 零式勧請戦闘姫 2040・30『再びのスクナヒコナ』

2025-04-17 11:35:58 | 不思議の国のアリス
千早 零式勧請戦闘姫 2040  
30『再びのスクナヒコナ』




「あ、直ってる……」

 貞治と並んで校門をくぐると、薄く傷跡は残っているものの結界はきれいに修復されている。岐阜の街に出たときはハッチャけていただけのウズメだが、やることはやってるんだと少しだけ感心する千早だった。

「駐輪場いっぱいだなあ……」

「一年生の分増えたからね、まあ、活気が戻ってきたってことでいいんじゃない?」

「駐輪場は学年別にするべきだよなあ」

 いつも停めているスペースは真新しい自転車たちで塞がっている。

「そんなことしたら、駐輪場の管理や指導で先生も風紀委員も大変だよぉ」

「そういや、今日のHR、学級役員選挙だろ。今年も図書委員になれるといいな」

「うん、わたしもぉ」

「図書委員は人気だからなぁ、一応手は上げてみるけどな」

 牧師の息子だけあって、こういうところは微妙に諦観している貞治だ。

 学級役員で一番なり手のないのは委員長、副委員長、風紀委員、体育委員、保健委員、書記、会計、図書委員という順番。
 図書委員は、月に二三度のカウンター業務の他には学期に一度の図書便りの仕事、そして先日千早たちがやった蔵書点検ぐらいのもので――年間を通して一つは学級委員をやること――という九尾高校では人気がある。

 一年から連続で図書委員をやっている千早と貞治は外れる可能性が高い。

 と思ったら、千早はあっさりと図書委員に成れて、貞治はジャンケンで負けて風紀委員。

 その日の放課後には、さっそく第一回の図書委員会が開かれた。

 委員会が開かれる図書室に行くと、委員会まではまだ10分あるというのに、数人の一年生が来ていた。

――さすが一年生、初々しいほどに真面目なんだ――

 微笑ましく見ていると、大型書架の横で、三人の一年生がしゃがんで顔を寄せ合っている。

「どうかした?」

「あ、もらった図書カード見ていたら、この隙間に入り込んでしまったんです」

 人の良さそうな女子が、すまなさそうに、二人の仲間と千早の顔を交互に見る。

「ええと……うん、大丈夫。取れると思う」

 そう言うと千早は、書架の反対側に周った。

「だいじょうぶですか、先輩」

「うん、風の流れで、たまにこういうことがあるの。ちょっと待っててね」

 
 チロリン☆


 一瞬でスクナヒコナを勧請して、書架の隙間に潜り込む。

 蔵書点検の時は二回サイズを切り替えたが、今度は一発で決まった。

――ようし、あとは風で吹き飛ばしてぇ……ピューー!――

『うわあ、出てきた出てきた!』『すごい!』『すごいです、先輩!』

――よし、今度は一発で決まった(^▽^)――

 意気揚々と、しかし一年生たちには気取られないように、そのまま反対側から外に出る。

 隙間から出たとたんに殺気を感じて、横跳び!

 ズバン!

 女子用の上靴が踏み下ろされる! たった今いたところに埃がたつ!

 チ!

 舌打ちが聞こえて、元の千早に戻ると、三人の一年生の姿はすでに無かった。他の一年生たちが少し驚いた顔をするので、愛想笑いを返して、窓際の席につく千早だった。

 

☆・主な登場人物
  • 八乙女千早           浦安八幡神社の侍女
  • 八乙女挿(かざし)         千早の姉
  • 八乙女介麻呂          千早の祖父
  • 神産巣日神          カミムスビノカミ
  • 天宇受賣命           ウズメ 千早に宿る神々のまとめ役
  • 来栖貞治(くるすじょーじ)  千早の幼なじみ 九尾教会牧師の息子
  • 天野明里            日本で最年少の九尾市市長
  • 天野太郎            明里の兄
  • 田中            農協の営業マン
  • 先生たち          宮本(図書館司書)
  • 千早を取り巻く人たち    武内(民俗資料館館長)
  • 神々たち          スクナヒコナ タヂカラオ 巴さん
  • 妖たち           道三(金波)
  • 敵の妖           小鬼 黒ウサギ(ゴリウサギ)
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千早 零式勧請戦闘姫 2040・29『千早とウズメ お洒落して街を歩く』

2025-04-14 15:00:38 | 不思議の国のアリス
千早 零式勧請戦闘姫 2040  
29『千早とウズメ お洒落して街を歩く』




「ねえ、実体化できるんなら戦闘だって自分でやったらぁ」

 酒井さくらのお下がりを身につけて岐阜の街を練り歩く千早とウズメ。

 芸能の神さまだけあって、ウズメはめちゃくちゃ似合って、通りを行く人たちの大方が目を止める。信号待ちをしていると、横断歩道の向こう側ではハンス(ハンドスマホ)を構えて写真を撮っている者もチラホラ。千早もそれなりに似合ってはいるのだが、ウズメと並ぶと分が悪い。たった今すれ違ったアベックも男が見とれて彼女に張り倒され、その彼女は千早に――ごめんね――的な笑顔を残していった。

「もう、気分わるいぃ」

 面白くない千早はウズメと距離をとって信号機のポールの横に移動。

 ハンスを構えていた者たちが戸惑う。画面からウズメの姿が消えてしまうのだ。 

「もう、勝手に動かないでよね、憑依せずに実体化できるのは5メートルが限度なんだからね」

「だってぇ」

「まあ、慣れだからぁ。ウズメのそばに付いていれば感化されて千早も変わっていくからさ」

「それって、今はぜんぜんだってことでしょーが」

「ハア……もう、仕方ないなあ」

「あれ?」

 一瞬でウズメが消えてしまって、それはそれでビックリする千早。

『ここよ、ここ』

 脇で声がすると思ったら、ウズメはポシェットにぶら下げたマスコットに変わっている。

「まあ、いいか。人が居ないとこに来たら実体化していいからね」

『千早の機嫌が直るまでよ、人が居ないところで実体化しても仕方ないでしょ』

「もう、我がままなんだから」

 そうやって歩いていると、通行人たちがハンスを向けてくることも少なく、ショーウィンドウに映る自分の姿に「わたしだって……」と呟いてみる千早だ。

「う~~ん、キュロットも良かったけど、スカートの方が良かったかなぁ……フワフワのワンピも可愛かったしぃ……いっそジーパンとかも……あれ!? え!?」

 シュ……シュ……シュ……シュ……シュ……シュ……

「ええ!?」

 ショーウィンドウの自分がリアルに衣装を替えていく。

『もう、ダメでしょ! エイ!』

 ウズメが一喝すると、やっと元のキュロットに戻った。

『千早も、それなりに力が付き始めてるのよ、気を付けなさい』

「う、うん……ねえ、入学式のあれ……あのきれいな女子」

『ああ、入学式の……』

「あれ、黒ウサギ?」

『憶えていたの?』

「うん、勧請が解けた時、余熱みたいなのが残っていて、それがバブルの森の時と似ていたからさ」

『心配ないわよ、自分から結界を張った学校に飛び込んでいったから、魔法とか妖の術は使えない』

「でも、なんで結界の中に飛び込めたの? 妖ならはじき返されてしまうでしょ?」

『穴が開いていたのよ……大丈夫よ。それよりも、やっぱ、ウズメも歩いてみたいよ、せっかくお洒落してんだから』

「もぉ」

『あ、このポシェットの中にマスクが入ってるでしょ。それかけるから、ねえ、いいでしょ?』

「あ、ちょっと!」

『これで、どうよ!』

 ウズメは千早が止めるのも聞かずにマスクをかけて現れた。

 たしかに、目から下を隠すとハンスを構えて動画や写真を撮る者は少なくなった。しかし、元来人の目を引き付けるようにできている神さまなので、顔を露出しない分、鼻歌交じりにステップを踏む。ついには岐阜駅前では黄金の織田信長像までが、ウズメに合わせてステップを踏み出した。

「もう帰る!」

 プリプリしてウズメを見限る千早だが、駅前を通り二つ行き過ぎるまでウズメの姿は消えることが無かった。

 ウズメも千早の力を離れ始めているのかもしれない。



☆・主な登場人物
  • 八乙女千早           浦安八幡神社の侍女
  • 八乙女挿(かざし)         千早の姉
  • 八乙女介麻呂          千早の祖父
  • 神産巣日神          カミムスビノカミ
  • 天宇受賣命           ウズメ 千早に宿る神々のまとめ役
  • 来栖貞治(くるすじょーじ)  千早の幼なじみ 九尾教会牧師の息子
  • 天野明里            日本で最年少の九尾市市長
  • 天野太郎            明里の兄
  • 田中            農協の営業マン
  • 先生たち          宮本(図書館司書)
  • 千早を取り巻く人たち    武内(民俗資料館館長)
  • 神々たち          スクナヒコナ タヂカラオ 巴さん
  • 妖たち           道三(金波)
  • 敵の妖           小鬼 黒ウサギ(ゴリウサギ)
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千早 零式勧請戦闘姫 2040・28『何ごとも馴染むまでは』

2025-04-11 09:35:37 | 不思議の国のアリス
千早 零式勧請戦闘姫 2040  
28『何ごとも馴染むまでは』




 家に帰ってから、千早はずっとトモエ(鏡の神さま)の姫鏡を睨みつけている。

 人が見たら、年頃の少女らしく、自分の姿に見惚れたり自己嫌悪に陥ったり、自意識の沼に嵌っているように見えるかもしれない。

 じっさい、前の廊下を通った父の一彦は「選ばれてあることの恍惚と不安、二つ我にありという様子だなぁ(^▽^)」と微笑ましく思った。

 一彦は高校大学と小説やライトノベルに嵌って、作家を目指していた時期がある。才能も根気も無く家業の神主に収まっているが、娘が鏡を睨みつけている姿に思わず太宰治の名言が浮かんで、青春時代の自分と娘を重ねてしまったのだ。

 ……しかし、当の千早は、そんな悠長で微笑ましい自意識の沼に嵌っているわけではない。 

 姫鏡に映し出されているのは、ついさっき、ウズメを勧請して黒ウサギと戦った時の様子なのだ。

「ああ……なんで、こんなにカタイのかなあ……なんか、これじゃ歌舞伎の立ち回りじゃん……よく言っても戦闘馬鹿の姫騎士だよ。もっと軽いノリっていうか、普通にやれないのかなあ……」

『仕方ないでしょ、普段の会話はともかく、戦闘はスピードと緊張感と力の籠め方。今みたいなJK語じゃあ、調子が出ない』

「それにさぁ、なんで、戦闘中の記憶がないのぉ……太陽光パネルの時はちゃんと覚えてる。市役所で戦った時も、バブルの森で戦った時も、でも、今度は完全にとんでしまったよ。それで、トモエの姫鏡で確認したらこれだもん、ちょっと凹むよ」

『それはね、勧請の深度が深くなったからよ。このウズメの力を100%発揮しようとすると、ウズメ本来の言葉でなきゃ十分に力を発揮できないのよ』

「じゃあ、あなたたち神さまは、わたしの体だけが目当てなのぉ?」

『ああ……その言い方、なんかヤラシイ』

「あ、もう、そういう意味じゃないわよ(''◇'')」

『まあ、慣れてくれば人神一如(じんしんいちじょ)って感じになれると思うよ。その時目指して、まあ、ボチボチやっていこう(^_^;)……あ、宅配便が来るわよ』

「え、あ、ひょっとして!?」

 ドタドタドタドタ!

 慌てて社務所まで出て見ると、玄関に立っているのは二人の配達員。神社には一般家庭より宅配が多いが、二人で来るのは初めてだ。

「ちわっす。今度からはこのロボットが配達に来ますんで、よろしくお願いします。ほれ、お渡しして」

『クロクマトヤマのクロックと申します。これからは、この地区を担当しますのでよろしくお願いいたします(^▽^)。はい、お荷物です』

「ありがと……なんか本職さんよりソフトねえ」

「センターの方にオペレーターがいて、半分遠隔操作なんす」

「え、人がオペレーターやってたら省力化にはならないでしょ?」

「あ、試運転期間だけっス。問題が無いようなら、順次AIだけでの運用になるっス」

「ああ、そうなんだ。どうもご苦労さま」

「ところで、お姉さんお嫁に行ったってほんとうっスか?」

「あ、うん。これからはあたしが、ここの看板巫女だから、よろしくね」

「あ、はい、それはもちろんっス。じゃあ、これからもクロクマトヤマよろしくお願いしまっス!」

『お願いいたします』

 元気にトラックに戻っていくクロクマの人とロボット。

『あの配達のニイチャン、挿がお気に入りだったみたいねぇ』

「フン、あたしは、まだ馴染みが無いからよ」

『そうねぇ……でも、これからは、あのロボットだよぉ』

「うっさい。あ、これ、さくらさんからだあ(^▽^)!」

『あ、結婚式で言ってたお下がりの服だ!』

「うんうん、さっそく……なんで、ウズメさんまで実体化するわけぇ?」

「もちろん、わたしも着てみるわけよ。サイズは千早といっしょにしといたし(^^♪」

「あ、でも、わたしが先だからねえ」

「うんうん、でも、ウズメの方がきっと良く似合う!」

「なんでよ」

「だって、ウズメは芸能の神さまでもあるんだからねえ(^▽^)」

「と、とにかく、あたしが先。あたし宛なんだからね!」

「まあ、そう言うな。十着は入ってるぽいから、とっかえひっかえじゃ(^▢^)!」

 
 それから晩ご飯の準備までファッションショーの神さまと巫女であった。


 で、どちらが似合っていたかというと、どちらも微妙。

 何事も馴染むには時間が必要と思われた。

 

☆・主な登場人物
  • 八乙女千早           浦安八幡神社の侍女
  • 八乙女挿(かざし)         千早の姉
  • 八乙女介麻呂          千早の祖父
  • 神産巣日神          カミムスビノカミ
  • 天宇受賣命           ウズメ 千早に宿る神々のまとめ役
  • 来栖貞治(くるすじょーじ)  千早の幼なじみ 九尾教会牧師の息子
  • 天野明里            日本で最年少の九尾市市長
  • 天野太郎            明里の兄
  • 田中            農協の営業マン
  • 先生たち          宮本(図書館司書)
  • 千早を取り巻く人たち    武内(民俗資料館館長)
  • 神々たち          スクナヒコナ タヂカラオ 巴さん
  • 妖たち           道三(金波)
  • 敵の妖           小鬼 黒ウサギ(ゴリウサギ)

 
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千早 零式勧請戦闘姫 2040・27『始業式の侵入者』

2025-04-08 10:47:23 | 不思議の国のアリス
千早 零式勧請戦闘姫 2040  
27『始業式の侵入者』




 今日から新学年、少しは期待して登校した千早だが、昇降口に張り出されたクラス表は変り映えがしなかった。千早は一組で担任もそのままの佐藤先生、貞治も隣の二組で担任は右田。

「とうとう同じクラスにならずじまいだね」

「まあ、家が筋向い、クラスは隣同士、こんなもんじゃねえか」

「まあねぇ、小中はずっと同じクラスだったしね」

 二人は小中の九年間同じクラスだったので、高校でも同じかと思ったが、これで三年間別クラスが確定した。
 まあ、いずれ卒業すれば進路は別々になるだろうから、こんなものだろうと三年生のロッカーの島に向かう。

「おお、隣同士だぞ!」

 ロッカーは学年ごとの島になっていて、二人のロッカーはピッタリの隣同士だった。

「フフ、嬉しい?」

「え、いや、単に隣同士だって事実を言ったまでだ(#'∀'#)」

「そう、めちゃ嬉しそうな声だったじゃ~ん」

「ウグ(-_-;)」

「うそうそ、まあ、今年も程よい距離で、よろ~」

「お、おう」


 小学校から数えて12回目の新学年、先日は図書委員の仕事で登校していたので、あまり新鮮な感動も無くあっさりと始業式のルーチンは終わってしまった。

 
「お、もう新入生来てるよぉ(^○^)」

 4月8日は、午前中に始業式、午後からが入学式なのだ。

「まだ一時間も前なのにな(^_^)」

「制服もダブダブで、なんかメチャ初々しいねえ」

「おお、新しい制服っていいよなあ……」

「貞治、女子ばっか見てるし」

「んなことねえよ」

「ま、いいさ。うちのセーラー服は可愛いからねえ……ウフフ(*´ω`*)」

「なんだよ、気持ち悪いなあ」

「え、あ、なんでもぉ」

 自分で言いながら、挿の結婚式で酒井さくらが同じことを言っていたのを思い出す千早。あの時は、いまの貞治以上に舞い上がったのだが、そんなことはおくびにも出さない。

「さぁ、式に出るわけでもないし、さっさと帰ろうか……ん?」

 返事をしない貞治に目を向けると、なにか、完全に心を奪われている。

「ちょ、瞳孔開きっぱなしなんですけどぉ……おい!」

 返事をしない貞治の目線を追うと、果たして、新入生の中に一人の美少女が正門脇の満開の桜を見上げている。

 その美少女は他の新入生のようではなくて、キチンと身に合った制服を身につけて春風に長い髪をなぶらせている。

「あの子……」

 疑問に思ったとたんに目が合って……時間が停まった。

 !?

 殺気を感じると同時にジャンプする千早!

 校舎の倍ほどの高さに至った時にはウズメを勧請していた。

「入学式の佳き日に侵入してくるとは不埒な黒ウサギめ」

 同時に上がってきた美少女、長い髪の四半分ほどが凝り固まってウサ耳に変じている。

「フフフ、気付くのが遅い。先日はよくも我が朋輩を屠ってくれたものじゃ。今日こそは、お前を倒し、九尾の前様ご支配の地固めを致すぞ。覚悟しや」

「なにを申す、我は天宇受賣命 なるぞ。我がひとたび舞えば、畏れ多くも天照大神さえ天岩戸をお開きになる。その舞を力に換えれば、その方ごとき獣神ひとたまりもないわ」

「フフ、大口をたたきおって、お前はほんの数瞬アマテラスの気を引いただけ、あの岩戸を開きしはタヂカラオの馬鹿力ではないか」

「あれは、知恵と共助によって大事を成せとの神の教え。いざとなれば天宇受賣命一人でも、その方ごとき……!」

 ピシ!

 ウズメが両手の人差し指と中指を立て、天冠にかざすや電光を発して黒ウサギに照射した!

 しかし、一刹那早く黒ウサギは飛びのき、電光は空しく空の高みに消えていった。

「おのれ!」

 ザザザザザザザザザザザザザザザ!

 それを見送ったわずかの隙に、無数のツブテがウズメを襲う!

 からくも躱しながらウズメは驚いた。そのツブテは植え込みの桜が身を震わせて飛ばした桜の花びら。黒ウサギの呪がかかって、枝を離れたとたんに鋭利なつぶてに変じているのだ。

「さすがは天宇受賣、桜鬼のつぶてを躱すか」

 ピシ! ピシ! ピシ! 三度電光を放つが、黒ウサギも巧みに躱して、制服の襟や裾に焼け焦げをつけただけに終わる。それに、黒ウサギはウズメの下に下にと位置を取るので、しばしばウズメをためらわせる。

「フフフ、下手に撃てば、学校を撃つものなあ……おお、新入生たちが可愛く屯しておるわ。どうじゃ、どうじゃ、どうじゃあ……」

 黒ウサギは挑発するように、地上スレスレや、新入生たちの間を縫って飛んでいく。

「させるかああああああ!」

 ウズメは倍ほどに増速すると、黒ウサギを校舎の正面に追い詰め、行き場を失った黒ウサギは、瞬間、空に舞い上がった。

 シャリン!

 氷が張ったような音がして、学校全体に膜が張った。

「結界を張ったな……」

「これで電撃は中には入らぬ。お前も下には下りられぬ。心おきなくおまえを撃てる」

「弾き返すというわけか……」

「いかにも、一刻ほどだが、それだけあればお前を倒せる」

 見れば、結界の端に59:15という数字が現れている。

「あの中の者たち、一時間は無事というわけだな」

「そうだ……内にあっては全ての電撃も呪も、逆に結界がアースして無効化する。おまえの眷属がいたとしてもなにもできん」

「……ならば、この黒ウサギも手伝ってやろう」

 シャリン!

「気が触れたか、それは、時間延長の呪」

 結界のタイマーは8759:59……つまり、一年を表示しいる。

「では、また中で会おう」

「バカな、中には……」

 見下ろすと、先ほどの正門脇の桜が消えて、そこだけ結界に綻びができている。

「しまった!」

 黒ウサギは一瞬で姿を消した。

 結界の中に潜って、誰かに憑りついたか、あるいは変化(へんげ)したか。

 ウズメは、上空に留まりながら臍をかんだ。



☆・主な登場人物
  • 八乙女千早           浦安八幡神社の侍女
  • 八乙女挿(かざし)         千早の姉
  • 八乙女介麻呂          千早の祖父
  • 神産巣日神          カミムスビノカミ
  • 天宇受賣命           ウズメ 千早に宿る神々のまとめ役
  • 来栖貞治(くるすじょーじ)  千早の幼なじみ 九尾教会牧師の息子
  • 天野明里            日本で最年少の九尾市市長
  • 天野太郎            明里の兄
  • 田中            農協の営業マン
  • 先生たち          宮本(図書館司書)
  • 千早を取り巻く人たち    武内(民俗資料館館長)
  • 神々たち          スクナヒコナ タヂカラオ 巴さん
  • 妖たち           道三(金波)
  • 敵の妖           小鬼 黒ウサギ(ゴリウサギ)

 

 

 

 
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千早 零式勧請戦闘姫 2040・26『ひとつ巴の姫鏡』

2025-04-05 09:42:29 | 不思議の国のアリス
千早 零式勧請戦闘姫 2040  
26『ひとつ巴の姫鏡』




 千早の部屋は倍の広さになった。


 姉の挿が嫁いだので、その襖で隔てられていた八畳間が丸々千早の部屋になったのだ。

「なんか偉くなったみたいだな(^_^;)」

 挿はもともと道具を多く持たなかったが、嫁ぐにあたって整理もしていたので、部屋に残っているものは机と本棚ぐらいのものでガランとしている。

「うん、友だちとか呼んだら、お泊り会ができるなあ……おお、こっちから見たら、あたしの部屋が上段の間っぽい。なんだかお姫さまだなあ」

『これ、ジイ。姫はこれより学校に参るゆえ、供の貞治を呼べ』

『ハハ、貞治ならば、これに控えておりまする』

『おお、そこに居ったっか。愛い奴じゃ。オホホ、八畳間は広いゆえ目に入らなかったぞよ』

『姫さまにおかれまして……は……今朝もご機嫌麗し……』

『話が遠いのぉ、近こう寄れ……もっと近こうじゃ……』

『ハハ』

「なんてね! と、いうぐらいに広いよなあ(^▽^) あれ?」

 浮かれてクルリと回ったところで小机の上に姫鏡が残されているのに気が付いた。

「おやおや、おねえちゃん、こんなの持ってたんだ……」

 姫鏡は伏せられていたが、朱の漆地に金泥でCの字が描かれている。

「え、C……?」

 神社には似つかわしくないアルファベットに惹かれて手に取る千早。

『Cではないぞよ』

「わ!?」

 ビックリして手を離してしまう千早だが、手鏡は、手放したままの状態で宙に浮き、ゆっくりと姿勢を正した。

『Cではなくて、一つ巴であるのじゃぞ』

「あ、ああ……」

 巴、あるいは巴紋は二つ巴や三つ巴が一般的で、多くの神社で神紋になっている。数は少ないが一つだけの巴紋があることを千早は思い出した。

「え、あなたも神さま?」

『そうじゃ、挿に憑いておったのだがな、いっこうに使わずじまいで嫁いでしまいおった。じゃによって、これからはそなたに憑いてやるから大事にいたせ』

「え、あ、はあ……」

『なんじゃ、不服か?』

「あ、いえいえ、そんなことは(^_^;)」

 先月からこっち、様々な神さまや妖が現われては事件が起こるので、少し身を引いてしまう千早であった。

『わしは、千早にとって大事大切を映す鏡である。ゆめゆめ疎かにするではないぞよ』

「は、はひ」

『そんなに緊張することは無い。まずは、これを見よ……』

「……あ、これは」

 鏡に映ったのは、先週、バブルの森で黒ウサギたちと戦った時の様子である。小さな鏡なのだが、カメラワークが良くてアクションRPGのプロモを見るように劇的で面白い。

「あ、わ! おお! すごい! カッコいい!」

 戦闘シーンはたちまちのうちに終わって、辺境伯の武内館長と喋っている場面に切り替わった。


『その方、妾の姿が見えておるのか?』
『いや、その……』
『いまの黒ウサギ……フフ、その方はゴリウサギと名付けたか』
『その、これはつまり……』
『よい、その方も、この事態を憂いてのことであろう。辺境伯の二つ名も床しいぞ。いずれまた会うこともあるかもしれぬが、構えて他言は無用である。よいな』
『は、はい』
『では、さらばじゃ』


「ああ……なんか偉そうにしてる……」

 神を勧請し憑依した時、千早の意識はほとんど眠っているので、こんなに横柄な口をきいていることに少しショックな千早である。

『神は尊く偉いものであるから仕方のないことじゃ、まあ、これからの神々との付き合い方次第。今は気に留めておく程度でよい』

「……そうなの?」

『うむ』

「じゃあ、あなたのことは、巴さんと呼ぶね」

『トモエさんじゃと!?』

「ああ、だってヒトツドモエノカミってのは長いでしょ」

『ウ……まあ、よいわ』


 コトリ


 巴さんは静かに小机に着地すると姫鏡に戻って静もった。

 

 
☆・主な登場人物
  • 八乙女千早           浦安八幡神社の侍女
  • 八乙女挿(かざし)         千早の姉
  • 八乙女介麻呂          千早の祖父
  • 神産巣日神          カミムスビノカミ
  • 天宇受賣命           ウズメ 千早に宿る神々のまとめ役
  • 来栖貞治(くるすじょーじ)  千早の幼なじみ 九尾教会牧師の息子
  • 天野明里            日本で最年少の九尾市市長
  • 天野太郎            明里の兄
  • 田中            農協の営業マン
  • 先生たち          宮本(図書館司書)
  • 千早を取り巻く人たち    武内(民俗資料館館長)
  • 神々たち          スクナヒコナ タヂカラオ 巴さん
  • 妖たち           道三(金波)
  • 敵の妖           小鬼 黒ウサギ(ゴリウサギ)

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千早 零式勧請戦闘姫 2040・25『挿の結婚式』

2025-04-02 11:57:56 | 不思議の国のアリス
千早 零式勧請戦闘姫 2040  
25『挿の結婚式』




 
 今日の千早は、挿(かざし)の結婚式で大阪のホテルに来ている。

 お寺の住職と神社の巫女の結婚なので、少しもめた。

 お寺なら仏式、神社なら神式で式を挙げるのだが、どちらにするかで微妙にもめたのだ。

 読者は、こう思われるだろう。

 新郎のお寺が仏式を主張し、新婦の神社が神式を主張して揉めたに違いない!

 事実は真逆で、お寺が神式、神社が仏式を主張していたのである。

 譲り合いというか謙譲の精神というか……新婦の父の一彦などは「じゃあ、間をとってキリスト教式で」などと提案する始末。

 さすがに「なにを考えとるか!」と祖父の介麻呂は息子を叱った。

「だって父さん、筋向いは来栖さんの教会なんだし、挿も千早も仲良くしてもらってるし(^▽^)」

 千早は――それもおもしろいかも――と思った。九尾市の市民憲章は『多様性の尊重、共に生きる喜び』なのだし、市民の人たちも筋向い同士に立っている神社と教会を千早と貞治の仲の良さにも重ね合わせて微笑ましく思っている。

 それで、介麻呂の一喝で神式に落ち着いたのが三週間前、妖たちが鳥居の前を大岩で塞いでしまった日(19『一人で掃除をしていると道三たちが戻ってきた』)だった。
 式をつかさどる神主は介麻呂の甥で岐阜八幡宮の良麻呂が、巫女は股従姉の二人がやることになって、めでたく今日の結婚式を迎えている。

 で、当の千早は悔しさ半分、安心半分で股従姉二人の巫女舞を見ている。

 二人とも挿にヒケをとらない優雅さで浦安を舞っている。ちょっと悔しくて視線を移した後姿にドキっとした。

――え、酒井さくら!?――

 新郎の従妹が声優の酒井さくらだということは知っていたが、まさか式に出ているとは思わなかった。


 正直、式場のホテルに来るまでは、先日の戦いのことで頭が一杯だった。

 
 なんとか黒ウサギをやっつけたが、まだ三匹残っている。

 ウズメもカミムスビも「しばらくは大丈夫」と言う。森の中に感じた逆鱗も戦いの後にはただの荒れた宅地に戻っているし、道三も「なんの二日や三日、道三とその郎党に任せておけ」と胸を叩いた。

 そして、式場で挿の白無垢姿にドキッとし、股従姉の神楽舞で巫女魂に火が付き、人気声優の酒井さくらに時めくとバブルの森のことはきれいに飛んでしまった千早だ。

「あの、声優の酒井さくらさんですよね」

「え?」

 思い切って声をかけた人気声優は、遠い異世界から召喚されたばかりという顔で振り返った。

「あ、あの、わたし新婦の妹で八乙女千早って言います(;'∀')」

「あ、妹さん! あ、はいぃ、人気はどうか分からへんけど、酒井さくら、新郎の出来過ぎた従妹です。この度はお姉さん、どうしようもないクソ坊主のとこにお嫁に来てもろて感謝してます。ほんまにありがとうございます。ほれ、テイ兄ちゃんもお礼言わんかいな!」

 おどけた言い回しになったかと思うと、後ろから介添えさんに付き添われて新郎新婦。

「だれが出来過ぎた従妹やねん」

「あ、アハハハ、いやあ、セーラー服のように合う妹さんや。気ぃつけなあかんよ、このクソ坊主、制服フェチやさかい」

「おいおい」

「せや、うちと千早ちゃんて似た背格好やと思わへん?」

「背格好は似てるけど、顔がぜんぜんちゃうがな。千早ちゃんは清楚系で神社の看板巫女さんやねんぞ」

「うっさい。せやぁ、これからは親戚同士。遊びに来てもらうこともあるやろし、うちの服とか送ってもらわしてええやろか、キャンペーンとかで一回袖通しただけみたいなんがけっこうあるさかい」

「ええ、いいんですか!?」

「いいわねえ、千早って私服って男の子みたいなかっこうしかしないから」

 白無垢の挿まで参加してきて盛り上がってきた。

「あのう、披露宴の方に……」

 介添えにソロリと言われ、ようやく披露宴が始まった。
 

 
☆・主な登場人物
  • 八乙女千早           浦安八幡神社の侍女
  • 八乙女挿(かざし)         千早の姉
  • 八乙女介麻呂          千早の祖父
  • 神産巣日神          カミムスビノカミ
  • 天宇受賣命           ウズメ 千早に宿る神々のまとめ役
  • 来栖貞治(くるすじょーじ)  千早の幼なじみ 九尾教会牧師の息子
  • 天野明里            日本で最年少の九尾市市長
  • 天野太郎            明里の兄
  • 田中            農協の営業マン
  • 先生たち          宮本(図書館司書)
  • 千早を取り巻く人たち    武内(民俗資料館館長)
  • 神々たち          スクナヒコナ タヂカラオ
  • 妖たち           道三(金波)
  • 敵の妖           小鬼 黒ウサギ(ゴリウサギ)
 
 
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千早 零式勧請戦闘姫 2040・24『森に踏み込む・3・辺境伯は見た』

2025-03-30 10:33:47 | 不思議の国のアリス
千早 零式勧請戦闘姫 2040  
24『森に踏み込む・3・辺境伯は見た』




 逆鱗の由来を考えていると、森の東の方で閃光が走って大小の爆裂音が轟いた。

 ピシ

 何かの破片を叩き落とす。いや、手に持った独鈷が勝手に動いて叩き落したのだ。

 独鈷のお蔭……それ以上は考えずに辺境伯は逆鱗の縁に身を伏せた。

「何かが戦っている、戻った方がいいか……ウワ!」

 ズガ! ドシュ! ズガガガガ! 

 破片が頭を掠め地面や木々に突き刺さっていく。戻るどころではない。

 ドババババ! ズチャ!

 逆鱗の向こう、木々が爆ぜたかと思うと、漆黒のゴリラが転がり込んできた!

 ゴリラは、すぐに身を立て直し、爆ぜて穴の開いた森を睨み据える。

 ゾワワワワ

 ゴリラが身震いすると漆黒の背中に垂れていた何かが二本、闘志を漲らせて立ち上がった。

――羽根……いや、耳? こいつ、兎なのか!?――

 中腰に立ち上がった姿は筋骨たくましく、キングコングを思わせる逆三角形の上半身にスケール感の合わないウサギの首が載っている。

 シュババババ ホワワン

 ウサギが穿ったトンネルを突き抜けて光をまとった何かが現れた。

 ゾワワワワ

 その瞬間、逆鱗は学校の校庭ほどの大きさに広がって、逆鱗の外側は闇になった。

 光をまとった者は巫女のようなナリをしているが、千早(巫女が舞う時に着る上着)も緋袴も何事か力を孕んで戦いでいる。天冠も挿(かざし)も電気を帯びたように震え輝き、その右手には古墳の副葬品のごとき両刃の剣を持している。

 そしてなによりも、その巫女は、ゴリラウサギと背丈を競って地上より三尺余りに浮いている。

 人ではあるまい……辺境伯は思った。

 ガオーーー!!  シャキーーン!!

 ゴリラウサギは吠え猛り、巫女は脇構えの剣に電光を走らせた。

――まるでダンジョンだ――

 子どもの頃に夢中になったRPGを思い出し、思わず両手をコントローラーを持つ構えにしてしまう辺境伯。

 グオーー! シャキ! ドッ! シャキキーーン! ドドッ! シュキーーン!

 三合打ち合うが、思った通りらちが明かない。

 シャキキーーン! ドドッ! シュキーーン! グオーー! シャキ!

 辺境伯は生きた心地も無く、独鈷を頭上に構え真言を唱えるばかリ。

 オンアビラウンケンソワカ オンアビラウンケンソワカ

 カチ カチカチカチ

 独鈷が結界を張って、土石やなにかの破片をはじき返す。

 並の老人なら、頭を抱えて震えるばかリであっただろうが、辺境伯と綽名される武内館長は独鈷を盾としながら、その様子を窺う。

 幼児の頃に見た古いアニメを思った。

 スサノオという少年がヤマタノオロチをやっつけてクシナダヒメを助けるアニメだ。オロチをやっつけるためには天翔けるアメノフチコマが必要で、そのフチコマは「瞬き一つもせずにわたしの動きを見定められるなら手伝ってやろう」と言って空を駆けた。そしてスサノオは言われた通り瞬きの一つもせずにその様を目に焼き付け、見事フチコマに跨ってオロチを退治した。

 ジャキキーーーーーーーーーン!!!

 雷が落ちたような光と轟音がしたかと思うと、ゴリウサギは漆黒の中心を断ち切られ、二つに断ち切られた体は、ほんの一秒ほど静止したあと、無数のポリゴンが結合を失ったように消滅してしまった。

 ホ

 小さな溜息をつくと、巫女はその輝きを減じ、剣は普通の剣鈴に戻っていった。

 その時、辺境伯は巫女と目が合ってしまった!

「その方、妾の姿が見えておるのか?」

「いや、その……」

「いまの黒ウサギ……フフ、その方はゴリウサギと名付けたか」

 心を読まれて、辺境伯は心臓が停まるかと思った。

「その、これはつまり……」

「よい、その方も、この事態を憂いてのことであろう。辺境伯の二つ名も床しいぞ。いずれまた会うこともあるかもしれぬが、構えて他言は無用である。よいな」

「は、はい」

「では、さらばじゃ」

 シュイン

 巫女が掻き消えると、校庭ほどに広がったダンジョンは元の逆鱗、いや、30坪の宅地に戻ってしまった。

 

 
☆・主な登場人物
  • 八乙女千早           浦安八幡神社の侍女
  • 八乙女挿(かざし)         千早の姉
  • 八乙女介麻呂          千早の祖父
  • 神産巣日神          カミムスビノカミ
  • 天宇受賣命           ウズメ 千早に宿る神々のまとめ役
  • 来栖貞治(くるすじょーじ)  千早の幼なじみ 九尾教会牧師の息子
  • 天野明里            日本で最年少の九尾市市長
  • 天野太郎            明里の兄
  • 田中            農協の営業マン
  • 先生たち          宮本(図書館司書)
  • 千早を取り巻く人たち    武内(民俗資料館館長)
  • 神々たち          スクナヒコナ タヂカラオ
  • 妖たち           道三(金波)
  • 敵の妖           小鬼 黒ウサギ(ゴリウサギ)
 
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千早 零式勧請戦闘姫 2040・23『森に踏み込む・2・黒ウサギ』

2025-03-27 16:10:45 | 不思議の国のアリス
千早 零式勧請戦闘姫 2040  
23『森に踏み込む・2・黒ウサギ』




 戦闘姫は勧請したウズメの姿で浮いている。

 これまでとは違って千早の意識は半ば眠っている。勧請の回数が増え神憑りが深くなってきているのだ。

 そして時間は停まっている。

 時間の停まった森を校舎の屋上ほどの高さで動くのだが、この高さで窺う限り森に異変は感じない。

「あの時は鬼退治にかまけて、ろくに見られていなかったが……外から見る限りは当たり前の森、妖気は隠しようもないが鬼も妖の姿も見えぬ……ならば潜ってみるか」

 ウズメは地上50センチほどに降りると、地表の凹凸をなぞるように進んでいく。草や蔦などはすり抜けていくが木々は躱して進む。木々は生き物としての密度が高く、すり抜けようとすると人が水の中を進むように抵抗が大きくなるのだ。

「……ン?」

 数分進むと、その草や蔦が微妙にまといつく。妖気が強くなり、それが草や蔦を強く(こわく)しているようだ。

「そろそろだな……」

 右手を脇構えに持っていくと、その手に巫女扇が現れた。

 シュリン

 一振りすると、前方5メートルほどの草がなぎ倒される。

 シュリン! シュリン!

 二振りすると草と共に「ギエ」っと鳥を締めたような声が上がる。

 扇の威力が遠巻きに様子を窺っていた小鬼たちにまで届き、首や手足を刈り取ってしまうのだ。

 グギギギ……グギギ……ググ…………グガァ!!

 堪りかねた小鬼たちが一斉に飛びかかってくる!

 シュワーーン

 放たれた風船ほどの速度で上昇するウズメ。それに釣られて小鬼たちも昇ってくる。しかし、その速度はウズメの速度には足らず、校舎の屋上ほどに上がった時には一階分の差が付いている。

 ブン!

 脇構えのまま旋回すると、小鬼たち数百匹の核が瞬時に両断された! 

 その瞬間、小鬼たちはスパークして、あたかもウズメの真下で光の傘を開いたように見えた。

「すこし零れたか……」

 わずかに残った小鬼たちは青い光の尾を曳きながら森の奥に逃げ散っていく。

「おお、見えるわ……」

 ついさっきまで、その高さからでは森の奥を見晴るかすことはできなかった。どうやら、森の様子を隠すのは子鬼どもの役割だったと見える。

 今の一撃で大半が討ち取られ、残った小鬼たちは肝をつぶして、森の様子を隠すどころでは無くなったのだ。

 数秒見ていると、その光は狼狽えて走りながらも森の四カ所に突き進んで消えた。

 チ

 微かな舌打ちが聞こえた。

「いや、何者かが隠したな」

 ウズメには分かった。小鬼たちを束ねる妖が四匹、それが、ウカウカと逃げ戻った小鬼たちの不手際に舌打ちしながらも隠したのだ。

 チ チ チ

 続いて舌打ちが三つ。

「小賢しい、それで、ウズメの注意を逸らしたつもりかあ!」

 ブリュン!

 上空で一旋すると扇は剣に変じ、その勢いのまま急降下して舌打ちの一つに切りかかる!

 セイッ! バビュッ!

 小気味いい手応えと共に芭蕉の葉ほどウサ耳が宙に舞った。

「くそ、大事なウサ耳を!」

 両耳の上半分を失った黒ウサギが舞い上がり、ブルンと両腕を振ると両手に剣を持った化物に変じた。

 グルリ……

 半円を描くようにして剣で失った両耳を補うように頭上に構えると、たちまち残った両耳は鋭い剣に変じた。双腕は頭上で交差したかと思うと、その双剣の輝きを増して、都合四つになった剣を構えて突きかかる勢いを見せた。

「なるほど……ッ!」

 黒ウサギがタメを構えた瞬間、ウズメは無言でトンボを切って背後に迫っていた別の黒ウサギを両断した!

 ピョーン!

 ウサギらしい悲鳴を上げてその黒ウサギが消滅。

 返す刀で正面の黒ウサギを仕留めようとするウズメ!

 すると残った二匹が正面のウサギを庇うようにして森の中をジグザグに飛んで逃げていく。

「逃がすか!」

 剣を構え直すと、ウズメは全速力で三匹の黒ウサギを追った……。

 

 
☆・主な登場人物
  • 八乙女千早           浦安八幡神社の侍女
  • 八乙女挿(かざし)         千早の姉
  • 八乙女介麻呂          千早の祖父
  • 神産巣日神          カミムスビノカミ
  • 天宇受賣命           ウズメ 千早に宿る神々のまとめ役
  • 来栖貞治(くるすじょーじ)  千早の幼なじみ 九尾教会牧師の息子
  • 天野明里            日本で最年少の九尾市市長
  • 天野太郎            明里の兄
  • 田中            農協の営業マン
  • 先生たち          宮本(図書館司書)
  • 千早を取り巻く人たち    武内(民俗資料館館長)
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千早 零式勧請戦闘姫 2040・22『森に踏み込む・1・逆鱗』

2025-03-24 11:23:34 | 不思議の国のアリス
千早 零式勧請戦闘姫 2040  
22『森に踏み込む・1・逆鱗』




 宅地として造成されて半世紀、時おりの調査以外、ほとんど人の手が入ったことがない森は不気味だ。

 区画ごとに造成された宅地はそれぞれ30坪ほどで、均等に並んだ風景は昭和の時代にあってこそ夢と希望の苗床だった。
 しかし、それから半世紀以上も風雪に晒され、幾度かの地震や嵐によって、区画は歪み、あるいは崩れ果て。その上には蔦や草木が繁茂して、あたかも勇者によって倒されたまま放置されたドラゴンの皮膚のように醜悪だ。

「オンアビラウンケンソワカ」

 お守りの独鈷を構え、曾祖父以来伝えられてきた真言を唱える。

 辺境伯の曽祖父は満洲各地で交易や資源開発の為に駆けまわっていた男で、各地で難儀や怪異に出会う度に唱えていたのがこの真言。
 特に山伏や真言密教の徒ではないのだが、大人たちが役小角以来の真言だと言い伝え、怪我や病気の時に唱えてくれた、いわばお呪い。
 家の宗旨に合わせれば「南無阿弥陀仏」なのだが、どうも念仏は陰気で、これから難儀に立ち向かうという気分にはならず、このお呪いを唱えることにしている。

 手に構えた独鈷は、曾祖父が臨時招集を受けた時、今生の思い出に訪れた大興安嶺山脈の一峰で助けた老人からもらったものだ。
 老人は「もう御山に登ることもあるまい。あんたは、これから応召の様子。これを持っていきなさい」と言って譲ってくれたのが、この二寸余りの独鈷なのだ。
 以来、祖父、父、そして辺境伯へと受け継がれた家宝と言うべき独鈷である。実際に曽祖父は「これのお蔭で、仕事でも軍隊でも危機を乗り越えられた」と子や孫に語り辺境伯に至っている。

「さて、あの奥が土器片を見つけたところだが……」

 半年ぶりのそこは、身の丈ほどに草が茂ってろくに地面も見えない。

「さて、かかるか!」

 気合いを入れた。

 市長がやってきて――もう後がない――的なことを言わなければ、あえて踏み入ろうとは思わないところだ。

 シュィーーーン シュィーーーン

 電動草刈り機で半分ほどの草を刈り倒す。

 ザク ザク

 シャベルで掘ると、あっさり土器片が見えてくる。

「少し見れば分かりそうなものなのに……」

 昭和のバブルのころ、開発を急ぐあまり、質の悪い業者は土器片程度の遺物が出ても無視してきた。濃尾平野は豊かな土地で、平野全域が遺跡と言っていいほどで、その密度と分布は奈良盆地と変わらないだろう。
 さすがに古墳や人骨が出てくれば届け出るだろうが、土器片や矢じり程度は保存されることもない。それが、このバブルの森の造成地跡なのだ。

「……弥生後期……須恵器との境目あたりか……」

 出てくるものは資料館の倉庫に百箱以上も未整理のまま溜まっている土器片と同じだが、出土する数が夥しければ教育委員会も予備調査ぐらいはしてくれるかもしれない。

「さて、もう少し奥に進んでみるか」

 汗を拭くと、鉈を振るって前に進む。

 10分ほど鉈を振るっていると、急に一区画ほどの開けたところに出て来た。

「おお……」

 そこは、草もまばらで、一見誰かが先にやってきたようにも見えるが――人が切り開いたものではない――と辺境伯の経験は結論付けた。

 よく見ると、そこだけが独立した区画で、区割りもコンクリートのそれではなく城の基礎のように石垣で組まれている。

「もともとあった、地蔵かなにかの祠あとか……」

 辺境伯はハンス(ハンドスマホ)をGPSモードにして森全体の3Dマップを立ち上げた。

「……何度か来てるところだが……雨か何かで露出したものか?」

 マップを確認済みの調査図と重ねてみる。

「ここは、以前には無かったものだなぁ……」

 調査済みのそれには、ただの茂みとしか表示されていない。

「取りあえず、現状を上書きしておこう……」

 ハンスをカメラにしてサーチして、辺境伯は気が付いた。

 そこだけ区画の向きが真逆なのだ。

「まるで、竜の逆鱗だなぁ……」

 
 辺境伯が異変に気付いたころ、千早は真逆の東側から森に踏み込んだところだった……。

 
☆・主な登場人物
  • 八乙女千早           浦安八幡神社の侍女
  • 八乙女挿(かざし)         千早の姉
  • 八乙女介麻呂          千早の祖父
  • 神産巣日神          カミムスビノカミ
  • 天宇受賣命           ウズメ 千早に宿る神々のまとめ役
  • 来栖貞治(くるすじょーじ)  千早の幼なじみ 九尾教会牧師の息子
  • 天野明里            日本で最年少の九尾市市長
  • 天野太郎            明里の兄
  • 田中            農協の営業マン
  • 先生たち          宮本(図書館司書)
  • 千早を取り巻く人たち    武内(民俗資料館館長)
  • 神々たち          スクナヒコナ タヂカラオ
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千早 零式勧請戦闘姫 2040・21『バブルの森の辺境伯』

2025-03-21 15:08:51 | 不思議の国のアリス
千早 零式勧請戦闘姫 2040  
21『バブルの森の辺境伯』




 むさくるしい男神タヂカラオに変身し、やっとのことで大岩を押しのけて千早も学習した。

 尾畠のバブルの森、空腹で調べそこなった残り半分に踏み込まなければらちが明かない。

 今までの変異の大元があるような気がするのだ。これまでは、出くわした妖を正面から受け止めて戦ってきたが、今度はそうはいかないだろう。おそらく、何倍何十倍もの妖が息つく暇もないほどに現れて返り討ちにあってしまう。軽々しくは動けない。
 

 そのころ、資料館の武内館長も別の立場から同じことを思っていた。


 バブルの森は前世紀のバブル崩壊で開発が中断され、九尾の街にとっては鬼門の忌み地に成り果てている。資料館が立ち退けば人の気配が途絶えてしまい、要らざるものがはびこり跋扈するように思えてしまう。

「やれやれ、もう少し資料を補強しておこうか……」

 館長は作業着に着替えると、曾祖父の代から受け継がれているお守りを確かめて森に向かった。

 バブルの森の辺境伯か……上手いことを言う。

 森との境目の橋に立ち、双方を見比べて独りごつ。

 東欧の城に模して造られた資料館は、あたかも辺境の森の蛮族から王国を護るために建てられた城のように見える。

 市は採算の取れない資料館を駅前再開発に合わせて駅前の総合ビルに移転させる方針なのだ。『辺境伯領廃止!』と同人誌同然になり果てた新聞が書き立て、その号だけは売り上げが倍になった。

 先日は市長自らがやってきた。

 露骨に移転しろと口説くようなことはしなかったが、行政的には大きなアリバイになる。あとは市議会の公聴会に呼ばれ、通り一遍の事情を聴かれた後、夏の市議会で決定されて、おそらくは次の年度末で閉館。そして取り壊しになる。

 その後は、財界の肝いりで世界的なロボット企業が進出してくるという。

 これは忌み地として放棄されるよりも問題がある。

 二十年前に電気自動車で成功した企業は、その後、世界初の民生用ロボットの開発に成功して、その製造拠点をバブルの森に持ってこようとしているのだ。

 けして人には言わない館長だが、物には魂が宿ると考えている。

 かつて学校に勤めていたころから子どもたちにも「物を大切にしなさい」と教えていた。
 昔から人に使われて古びた物は付喪神になると言われてきたが。それとは微妙に違う。

 辺境伯はこう思う。

 器として成長した物には魂が宿ると考えるのだ。学天則を引き取って受付ロボットにしたのも、その心情の表れであると言える。

 まして世界最高水準のロボット工場、そこで作られるロボットに、バブルの森に纏ろう悪霊が憑りついては一大事と心を砕いているのだ。

 人に言うことは無いが、辺境伯はそう考える。

 この点は千早に似ているが、彼は宗教家の出自ではない。明治以来の家系に因があるのだが、ここでは触れない。

 21世紀も中葉の今日「霊的に障りがある」とは言えない。

 そこで、空き時間を利用しては森に入り、散在している縄文・弥生時代からの遺物を調査するのだ。考古学的、歴史学的に貴重であると実証されれば、議会はロボット工場の誘致も資料館の移転も思い直してくれるだろう。


 内に聖なる神を宿す戦闘姫と孤高の辺境伯は、それぞれ別の口から運命の森に入ろうとしていた。

 

☆・主な登場人物
  • 八乙女千早           浦安八幡神社の侍女
  • 八乙女挿(かざし)         千早の姉
  • 八乙女介麻呂          千早の祖父
  • 神産巣日神          カミムスビノカミ
  • 天宇受賣命           ウズメ 千早に宿る神々のまとめ役
  • 来栖貞治(くるすじょーじ)  千早の幼なじみ 九尾教会牧師の息子
  • 天野明里            日本で最年少の九尾市市長
  • 天野太郎            明里の兄
  • 田中            農協の営業マン
  • 先生たち          宮本(図書館司書)
  • 千早を取り巻く人たち    武内(民俗資料館館長)
  • 神々たち          スクナヒコナ タヂカラオ
  • 妖たち           道三(金波)
  • 敵の妖           小鬼
  
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