大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・244『お祖父ちゃんのキャベツ焼き』

2021-09-15 16:22:30 | ノベル

・244

『お祖父ちゃんのキャベツ焼き』さくら      

 

 

 キャベツ焼き

①:薄力粉を水溶きしたのを丸く焼いて、その上に千切りキャベツ、その上に水溶き薄力粉。

②:横っちょで卵焼いて、すぐに①を載せる。

➂:焼き上がったら、お好み焼きソース&マヨネーズ&削り節かけて出来上がり。

 お好み焼き

①:水溶き薄力粉+おろし山芋+出汁+卵+キャベツのみじん切りをカップかボールの中でかき混ぜる。

②:焼いて、その上に豚のバラ肉、イカなどをトッピング。

➂:二度ほどひっくり返して、焼けたら、お好み焼きソース&マヨネーズ&鰹節・青海苔をかける。

 

 両者の違いは歴然、お好み焼きはゴージャスや(〃艸〃)ムフッ。

 

「でも、広島のお好み焼きは、途中まではキャベツ焼きに似てるよ」

「え、ほんま?」

「うん、ほら、こんなだよ……」

 詩(ことは)ちゃんがタブレットを見せてくれる。

「うう、たしかに……」

 豚バラやら、イカやらエビやら、とろろ昆布やら、一杯乗せて、なんやら超ゴージャスなキャベツ焼きみたい。横っちょで焼きそば焼いて、卵も焼いて、最後に「エイヤ!」っと、ゴージャスキャベツ焼きを載せる。

「推測だけど、広島焼きをシンプルにして、子どものお小遣いでも気楽に食べられるようにしたのがキャベツ焼きじゃないかなあ?」

 食文化史的な考察を加える留美ちゃん。

「そうかもしれませんねえ、もんじゃ焼きだって、元々は駄菓子屋で子ども相手に作っていたのが原型だって言いますからね」

「もんじゃ焼きて、食べたことない」

「今度、東京に行く機会があったら食べよう!」

「「おお!」」

 女子三人、お台所で盛り上がる。

 その横で、お祖父ちゃんが不器用な手つきでキャベツを刻んで……やっと、必要量を切り終った。

 

「さて、ここからや!」

 

 常識では、ここで薄力粉を水溶きにする……お祖父ちゃんは、スーパーで「袋おくれぇ」と言ってもらった、なんちゅうのん? 魚やら肉やらを入れる半透明の袋、それにキャベツの刻んだんと、大サジ二杯の片栗粉ををぶち込んで、シャカシャカと振り出した。

 

 シャカシャカシャカ

 ちょっとボケてきた?

 

 これは唐揚げの作り方や。

 留美ちゃんも詩ちゃんも、同じ気持ちのようで、ちょっと言葉が無い。

「お祖父ちゃん、キャベツ焼きだよね?」

 詩ちゃんが、ちょっとビビりながら、でも、最年長者の責任をかみしめながら聞いた。

「せや、まあ、見とれ……」 

 キャベツがまんべんなく粉まみれになったことを確認すると、フライパンに油をひいて焼きだした。

 ちょっと、これは……。

 粉まみれの千切りキャベツ運命やいかに!?

 いちおう丸くまとめられてはいるけども、水分ゼロの千切りキャベツ。

 うちらは、真っ黒な針金の固まりみたいになったのを想像した。

 これがテイ兄ちゃんやったら、メチャクチャ言うてバカにしてる。

「よし!」

 お祖父ちゃんは、気合いを入れてフライ返し!

 息を飲む!

 生焼けの千切りキャベツが、フライパンの丸みに沿って一回転! 

 バラバラに飛び散ったらどないしょ……情けないけど、ちょっと腰がういてしもた。

 詩ちゃんは身をのけぞらし、留美ちゃんは、健気にも雑巾を手にした!

 ペシャ

 浄土真宗いうのは、比叡山のボンサンみたいな修業はせえへん。

 せやけど、いまのお祖父ちゃんは、武蔵坊弁慶というか、少林寺のカンフー坊主というか、修業を積んだえらい坊主に見えた!

 千切りキャベツは、バラバラに崩壊することもなく、裏返ってフライパンに収まった!

 ジュ~ジュ~……

 ちょこっと油を足すと、千切りキャベツは小気味いい音をさせて……美味しそうに焼けた!

 待つこと二分。

「よし、頃合いや!」

 へらで掬い取られて、お皿に乗せられた千切りキャベツは、見事にまとまって、立派なキャベツ焼きに変身してた!

 試食すると、縁のとこなんかパリパリの食感で、けっこうイケました。

 

 みんなで後片付けして、気が付くと、雨が台所の窓ガラスを叩きはじめる。

 今年は、夏の終わりごろから雨ばっかり。

 せやけど、その分、秋の訪れは駆け足かもね……。

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ライトノベルベスト『切れる音・2』

2021-09-15 06:46:57 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『切れる音・2』    

 




 人間とは可愛いものである。

 一度線が切れても、たいていの人間は、あくる日には元に戻っていて、また何かのきっかけでプツンと切れる。そうやって切れては繕いして心の平衡を保っているのが並の人間である。

 堪忍袋の緒が切れる。という言葉がある。

 切れる音が聞こえるようになってから、その意味が実感として分かる。実際堪忍袋の緒が切れる音も聞こえる。

 社会科のある教師が、こともあろうに授業の中身をメモリーカードに取り込み、小型のアンプとスピーカーでそれを再生して授業をした。

 板書はパソコンで打ち出したものを学校の大型プリンターで印刷したもので間に合わせ、自分は廊下でボンヤリとしている。普段から教師に期待などしていない生徒たちだが、これには切れた。むろん堪忍袋の緒である。

 ブツンという音がした。興味が切れた音よりも凄味がある。

 朽木は、最初は興味が切れた音の一種だと思ったが、違った。生徒の一部が保護者にこぼし、保護者は府教委に連絡、校長からの訓告処分になった。

 諦める音もある。フッっとため息をついたような音がする。

「佐伯君とは、いい友達でいようよ」

 中庭で、悦子という女子にコクった男子が体よく断られたときに、初めて、その音を聞きいた。珍しくホノボノした気持ちになった。

「佐伯君、エッチャンにフラれてしもた……」

 その昼休みに真子が秘密めかしく言ってきたのはおかしかった。

 でも、そのとき、真子と話が弾んで文芸部を作らされ、それ以来顧問と部員の関係である。真子は高校生にしては古典の素養もあり、また、流行りの小説もよく読んでいて、学校で話していて唯一楽しいと思える人間になっていた。

 文芸部の活動は気まぐれで、互いに気の向いたときに相談室などを使って本の感想や世間話に花を咲かせていた。

 むろん教師にも切れる音がする。職員会議などでは切れる音の連続であった。前の校長も、よく切れていた。興味が切れる時も堪忍袋が切れるときのもあった。

 それが、去年やってきた民間校長には感じたことがない。

 

 元金融関係の中間管理職であった校長は、しごく穏やかで、感情に走るということが無い。それが徴であろうか、この民間人校長から切れた音は聞こえたことが無かった。

 しかし評判が良いというわけではない。何事も自分で決済し、運営委員などは、あからさまにイエスマンでまとめていて、完全な自分の諮問機関にしてしまった。

 この春の人事異動では、自分に反対するものは全員転勤させてしまい、常勤講師である菅原先生などは三月の末に継続任用しないことを言い渡した。

 もう、どこの学校でも人事は確定しており、うちの学校での再任用がないということは、生活の道を断たれたことに等しく、菅原先生は府の人事委員会に不服申し立てをし、係争中である。

 朽木は、やっと気づいた。

 この校長は、民間に居た時にすでに切れ果てていた。だから府の民間人校長募集に応募し、それまで持てなかった権力を持ち、それを十二分に発揮しているのである。

「先生、やっと気ぃついたん?」
「うん、あんな人やとは思わなかったな」

 真子はコロコロと笑ったあと、一瞬真顔になり、こう言った。

「菅原先生は、あたしの遠い親類やねん」
「ほんとかよ!?」
「まあ、あとは本人の努力次第。完璧なパワハラやから、職場で何人かが協力したげたら、なんとかなるんとちう……」
「ああ、そうだよな」

 と言いながら、もう六月も半ばになってしまった。

 朽木は無為に、この二か月半を過ごした。佐伯が不登校になっていることにも気づかなかった。

「佐伯、このごろ見かけないけど、どうかしたのか?」

 授業の頭で聞いてみた。

「佐伯は、先月末で退学しましたよ」

 名前も憶えていない学級委員長の生徒が言った。顔には「もう何度も言った」という表情が浮かんでいた。悦子は俯き、真子はプイと窓から外を見ていた。真子が、こんな態度をとるのも初めてだ。

 その放課後のことである。

 ブッツン!!

 まるで綱引きの太いロープが何百人の力に耐えかねてブチ切れるような音がした。それは衝撃を伴って校舎を地震のように揺らした。朽木は慌てて廊下に出た。

 不思議だった。全てのものが止まり、動いているのは朽木一人……と。思ったら、渡り廊下を渡って、こちらに歩いてくる者がいる。

「真子……」
「先生、もう手遅れ。今のは学校の線が切れた音。学校の線は切れたら戻らへんよ……先生には期待してたんやけど」
「真子、お前……」
「あたしは、三年前の遠足から、先生に付いてきた。朽木先生には可能性があると思うて……不思議に思えへんかった、なんで、あたしが三年連続で三年生やってるか?」
「三年連続で三年生……?」
「あたしは、菅原真子。父は道真です……もう、どないなとおなりやす」

 そのとき、フッと音もなく切れる感覚がした。

 音はしなかったが胸の奥で痛みがした、大切なものを失った痛みが……。

 それ以来、真子は姿を現さない。

 朽木以外の人間から真子の記憶も記録も無くなってしまった。校長はパワハラを新聞にすっぱ抜かれクビになった。学校は坂道を転げ落ちるように悪くなり、伝統困難校とよばれるように成り果てた……。

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする