大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

まりあ戦記・047『ナユタといっしょにヽ(#`Д´#)ノ』

2020-11-30 13:32:56 | ボクの妹

・047

『ナユタといっしょにヽ(#`Д´#)ノ』   

 

 

 自転車の腕は、わたしよりも上のようだ。

 

 追いついてくるとニコニコしながら、ピッタリとわたしのオレンジの横に付けてきた。

 コノヤローと思って、グッとペダルを踏み込むと、ナユタも同時に加速して、十センチも引き離せない。

 ギュンとブレーキをかけても、ほんの五センチほど飛び出すだけで、一秒もかからずに横に並ぶ。

「アハハ、意地悪だなあ先輩!」

 先輩になった覚えは無いので、グイッと左に寄せてから急激に右に戻して右側の路側に寄せる。路側は崖っぷちになっていて、寄せすぎると落ちそうになる。

「おっと」

 さすがに後退……したかと思うと、グイッと加速してクイっとハンドルを操作して、わたしの左側にせり上がって並走。その勢いのままにわたしを路側に追い詰めてくる。

「フン」

 させてたまるか……ポーカーフェイスで減速してナユタのケツに回って、再びやつの左側に迫る。

「アハハ、二人で編隊組んだら、無敵になると思わないっすか!?」

「なんで四菱のソメティなんかと!」

「だって、ピッタリ呼吸合ってるしぃ!」

「もう、向こう行けよ! 今日は散歩で走ってるだけなんだから!」

「先輩、切り欠きの石英観に行くんでしょ?」

「だったら、どうなの!?」

「案内するしぃ! 初めてだと本命のは見つけられないっすよ!」

「なんでだ?」

「まあ、あたしに付いて来て!」

 言うと、グッとペダルを踏み込んで、あたしの前に出る。

 これをチャンスにオサラバしてもいいんだけど、ここでブレーキをかけては負けたことになるような気がした。

 

 え、谷底じゃないのか?

 

 谷底で自転車のスタンドを立てると、ナユタは、左側の岩場をヒョイヒョイと登っていく。

「物は谷底にあるんだけど、きれいに見えるのは、この上なんだ。あ、崖がきびしかったら、下からオケツ押すけど?」

「どうってことないわよ!」

「じゃ、この上五十メートルほど登ったとこだから、ほら、あの木が茂った岩のテラス!」

 目的地点を指さすと、おまえは猿か!? という素早さで登っていく。

 こいつ、ただのモテカワじゃないなあ、クソ!

 ナユタの尻を見ながら登っていくのは忌々しいけど、ここまで来たんだ、目的の石英、いや、石英の輝きは見て行こうと思う。

 頭上の岩を掴もうと手を伸ばすと胸に圧迫感を感じる。

 そうだ、お兄ちゃん(過去帳)を胸ポケットに入れてきたんだ。

 むむ……ここからだとテラスに着くまでナユタのオケツばかり見ることになる。

「せんぱーい! 早くう!」

「すぐに追いつく!」

 お兄ちゃんをボディバッグに入れ直して、テラスに着くころにはナユタと並ぶあたしだった。

 

 

 

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やくも・14『図書分室・3』

2020-11-30 05:53:08 | ライトノベルセレクト

・14『図書分室・3』   「謄写版印刷機」の画像検索結果

 

 

 小桜さんのスマホには卒業文集の目次が映っていた。

 

 下の方に―― 第二十一期卒業生 ――と書いてある。

「21期、いつだろ……ずいぶん昔のなんだろうね」

「そうだね」

 インクのにおいが鼻についてきたんで、引き出しをしまって蓋をした。

 もう一度『謄写版』という名称を記憶に留めて分室を出る。

 

 それじゃね。

 

 小桜さんとは方角が違うので、校門を出たところで別れた。

 歩きながら生徒手帳を出して、覚えた字をメモる。

 月へンに栄誉の誉で『謄写版』……よし、覚えた。

 二十一期生……生徒手帳には……あった。わたしたちは七十一期生だから、五十年前だ!

 不思議だよ……小桜さんには二十一期生の卒業文集の目次に見えていたんだ。

 わたしには、こないだ小桜さんが四連休した時の裏事情、それも杉村君と秘密めいたことを話した会話の記録に見えた。

 

 小桜さんが休んだ理由。

 杉野  : どうせ休むんだったら図書当番の日にして。

 小桜さん: なんで?

 杉野  : えと……転入生の小泉さんと話してみたいから。

 小桜さん: あからさま~!

 杉野  : 嫌か?

 小桜さん: え、あ……うん、いいよ。うまくやんなさいね(^^♪

 

 おかしいなあ……わたしの妄想?

 

 ハ!……んちは!

 

 思い切り至近距離! ペコリお化けのペコリで我に返って「んちは!」と挨拶までしてしまった。

 コンチハ

 はっきりとした返事が返ってくる。慌てて家路を急ぐ。

 わたしってば、考えすぎてつづら折りではなくて崖道を通って帰って来たんだ。

 

「お爺ちゃん、この字なんて読むの?」

 風呂上がりのお爺ちゃんに、忘れていたバスタオルを渡しながら聞いた。

 生徒手帳に一度書いたので『謄写版』の字を覚えてしまった。

「ああ、トウシャバンと読むんだ。普通にはガリ版と言ってね、学校の印刷は、これでやったもんだ」

「そうなんだ」

「やくもの学校にあったのかい?」

「うん!」

 謎が解けたことと、お爺ちゃんに挨拶以上の会話ができた興奮で元気のいい返事になった。

 興味を持ったお爺ちゃんに説明する。興が乗ったお爺ちゃんは冷蔵庫から缶ビールとコーラを出して、むろんコーラの方をわたしにくれて、話が続く。

「へえ、図書分室にねえ……でも、五十年前のインクで刷れたとはとはなあ……まあ、保存がよかったんだろう」

 お爺ちゃんは感心した。むろん、杉村君と小桜さんの会話が刷られたことは言わない。

 

「ごめん、まだ五十冊ほど残ってたの」

 

 あくる日、霊田先生に頼まれ、今度は一人で台車を押していく。

 そして、そっと謄写版を確認、一枚刷ってみる。

 あれえ?

 そこには……小桜さんが見たのと同じ卒業文集の目次しか刷られてはいなかった。

 

 

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かの世界この世界:148『ここはどこだ・1』

2020-11-30 05:42:34 | 小説5

かの世界この世界:148

『ここはどこだ・1』語り手:タングリス          

 

 

 ほんの0.1秒見えた気がする。

 

 視界の端から端までグレートウォールのように広がる樹皮、一枚一枚が神殿の絨毯ほどに大きな葉っぱ、それが幾重にも重なって陽の光をさえぎって……これが世界樹ユグドラシルか!?

 思った瞬間に衝撃がきて、気絶してしまった。

 数瞬か数時間かたって意識が戻る。

 おぼろに視界が戻ってくると、四号の車内は傾いでいる……いや、どこか傾いだところに着地したので、意識が四号の傾ぎと認識しているのだ。俊敏な意識と感覚の回復はトール元帥親衛隊の訓練の賜物か、姫をヴァルハラまでお連れしなければならない役目の自覚からなのか。いずれにしろ、他の乗員よりも早く意識が戻ったのは幸いだ。

 目視できる範囲で乗員を見渡す。

 ショックで気絶はしているが、重篤な怪我などはしていないようだ。とりあえず、すぐ横のユーリアを起こそうと手を掛けて、ハッとした。

 頭上ののキューポラハッチが開いているのだ。

 混乱した。車内には本来の乗員五人とヘルムからの仲間であるユーリア……全員そろっている。

 だのにハッチが開きっぱなし……締め忘れはあり得ない。軍に籍を置いてから配置の変わらぬ戦車兵だ。戦車の扱いは自分の体と変わらない。ハッチを閉め忘れるなど呼吸を忘れることに等しい。

 ならば、外敵によってこじ開けられたか!?

 思った瞬間、腰のモーゼルを引き抜いた。

 すぐにハッチから首を出すようなヘマはしない。一秒とかからずにキューポラ全周のペリスコープを確認する。

 一番のペリスコープ(正面)が真っ暗だ。なにかが視界を塞いでいる。

 車載機銃のカートリッジを掴んでハッチの外に放り出す。敵の注意がカートリッジに向いた瞬間、0.3秒でキューポラの外に飛び出しゲペックカステンの後ろに隠れるとともに両手でモーゼルを構える。

 敵は砲塔の上に居るはずなのに動きが無い。

 音を立てずに砲塔の側面にまわって、下方から、そいつに銃を構える!

「なにやってんの~?」

 間延びした声に記憶が戻って来る。

 砲塔の上でぼんやり体育座りしているのは小柄な少女……こいつは、ラタトスクのナフタリン。

「な、なんだナフタリンか」

「アハハハハハ……」

「なにが可笑しい?」

「だって、タングリス、あたしが乗ってたの忘れてただろ」

「そんなことはない(^_^;)」

「でもよ、そんなに怖い顔して銃を構えてるんだもん。ついさっき、やってきたばかりのあたしを忘れたんだ。だろ?」

「そういうナフタリンは何をしているんだ?」

「どうやら、巨人の国のヨトゥンヘイムに着いたような気がするんだけど、どうもおかしいんだ」

「ヨトゥンヘイム?」

 ヨトゥンヘイムと言えば巨人の国だ。ところが、目に入る家々は我々人間にとっての原寸大で、とても巨人族が使うようなものには見えないのだ。

「メッセンジャーで何度も来てるんだけど、街や家々には見覚えたヨトゥンヘイムなんだけど、スケールが小さすぎるんだ」

「これは、普通の人間の町だ。人間界であるミッドガルドではないのか?」

「ミッドガルドはありえない。だって、雲は流れてるし、鳥だって空を飛んでる」

 

 あ……時間が停まっていない!?

 

 人間界はヘルムの女神が力を失ったことで時間が停まっているはずだ……。

 

☆ ステータス

 HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・300 マップ:13 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)

 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)

 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)

 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 

 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)  思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

 

 

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やくも・13『図書分室・2』

2020-11-29 06:53:07 | ライトノベルセレクト

・13『図書分室・2』         「謄写版印刷機」の画像検索結果

 

 

 よく見るとひいお爺ちゃんの写真のよう。

 

 縁の細い額に入って、仏間の長押の上に賞状とかと並んで掛けてある。

 その黒褐色の額縁に似ている。

 ただ、縁の内側が真っ黒なんで、瞬間のイメージはでっかいスマホ。

「なんて読むんだろう?」

 小桜さんは、上の方に貼ってあるプレートの字を指した。

「う~ん……」

「二つ目は写真の写だよね、次が版画の版」

「ゴンベンに……栄誉の誉?」

 三つ繋げると『謄写版』という字になる。

 わたしたちの反応は、明治の人がスマホを見た時のようだと思う。

 電源が切ってあったら表面が真っ黒の手鏡だ。

 額縁のところを開けると、ホワっとインクのにおいが立ち込める。

「横が引き出しになってるよ……」

 机の引き出しほどのを開ける……枠付きのガラスの上に濃紺のインク……さらに開けるとローラーとインクの缶。それにヘラみたいなの。

「これ、コピー機じゃないかなあ?」

「コピー機……じゃ、このインクみたいなのがトナー? スイッチどこだろ?」

「アナログだよ、これ」

 推論した……たぶん、ローラーにインクを付けて、回しながら押し付けるんだ。

「なんか、半透明なのが貼ってあるよ」

 額縁にはガーゼみたいなのが張ってあって、その裏側にインクでベッチョリとトレーシングペーパみたいなのが貼り付いている。下にコピー用紙を置いて、上からインク付きのローラーを転がせば印刷できるのではないかと推理した。

「なんか書いてある……」

 神秘的だ……なんというか、文字の幽霊?

 濃紺のインクに濡れたところに、微かに白く浮き上がって文字らしいものがうかがえる……が、よく分からない。

「コピーしてみよっか」

 こういうのが好きなんだろう、ワクワクした声で小桜さんが言う。

 ローラーにインクを付けて、ゴロゴロとやってみる。

「あ、インクの付けすぎぃ~」

 ベッチョリして文字が潰れて読めたものじゃない。四回紙を替えて、なんとか読める。

「卒業文集……なるほど、ありがちなやつね。手書きだとなんか新鮮」

「そうね」

 相槌は打ったけど、わたしには卒業文集とは読めなかった。

 

 小桜さんが休んだ理由。

 杉野  : どうせ休むんだったら図書当番の日にして。

 小桜さん: なんで?

 杉野  : えと……転入生の小泉さんと話してみたいから。

 小桜さん: あからさま~!

 杉野  : 嫌か?

 小桜さん: え、あ……うん、いいよ。うまくやんなさいね(^^♪

 

 な、なにこれ!?

 

「読みにくいなあ……そだ、写真に撮っとこ」

 小桜さんは、スマホを出して楽しそうにアナログのインク文字を写した。

 

   

 

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かの世界この世界:147『ユグドラシルの時霧』

2020-11-29 06:38:48 | 小説5

かの世界この世界:147

『ユグドラシルの時霧』語り手:ケイト        

 
 
 ユグドラシルというのがよく分からない。
 
 その中に八つの世界があって、その中には我々の住む人間界も含まれているらしい。
 だったら、人間界の海に浮かぶユグドラシルってなんだ? ユグドラシルの中にユグドラシルがあるってことにならないか? そのユグドラシルの人間界の海にはまたユグドラシルがあって、その中にまた人間界があって、そのまた中に……ああ、もう分からん!
 
 ため息をつくとベンチで横になったナフタリンと目が合った。
 
「海に浮かんでいるユグドラシルはデバイス」
「デバイス?」
「ごめん、分からない言葉を使っちゃった」
 いや、一瞬パソコンとかスマホとかが頭に浮かんだけど、それが何なのかは分からない。
「たとえば、これ……」
 乗客の忘れ物だろうか、雑誌を手に持った。
「ここにヘルムの海や山のグラビアが載っている。これを見ると、人はヘルムの海や山を思うだろ。潮騒や山を吹き渡る風を感じる人もいるかもしれない。でも、このページにあるものは紙とインクだけなんだ。つまり、雑誌というデバイスを通して感じた世界さ」
「うーーーーーん」
「これなら、どう?」
 ナフタリンはページの端に100×35と書いた。
「3500」
「正解。つまり、そういうことさ。ページに書いた数字と記号で3500という世界に、ケイトは入ったんだ」
「あ、ああ……」
 分かったようで分からない。
 
「見えてきたよーー!」
 
 マストの上の方からポチの声がした。ポチは見張りの役をかってくれていたのだ。
 水平線の向こうだからデッキにいる我々にはなかなか見えない。ロキがスルスルとマストに上ってみるがまだ見えない。ポチはマストのさらに十メートルほどでホバリングしているのだ。
「見えた!」
 ロキが叫んだのは、さらに五分後で、もう十分もすればデッキのわたし達にも見えるだろう……と思っていたら、急に霧が湧いてきて視界を奪った。
「時間が停まっているのに」
「なんで霧……」
 時間が停まった海は、マーメイド号の周囲だけが液体で、その向こうは空の雲と共に3Dの写真のようにフリーズしいる。
「ユグドラシルの時霧(ときぎり)。ユグドラシルが、まだ生きている証拠」
「それで、ユグドラシルのどこの世界に向かっていくんだ?」
 タングリスが目を凝らしながら聞いた。
「それは近づいてみないと分からない、取りあえず引き寄せられたところから入ってみるしかない」
「そうか……」
「それじゃ、四号と装具の点検をして、乗り込んでおかないか? 着いた時にバラバラになったら困るぞ」
「姫のおっしゃる通りだ、今のうちにやってしまおう」
 姫が提案しタングリスが指示して作業に入った。
 
 慣れたもので、二分ほどで点検を済ませて全員四号に乗り込んだ。定員五人のところに七人が乗っているのでギュウギュウだ。
「ナフタリンはテルの背中に掴まって」
「うん」
 ナフタリンが車長のハッチから入って器用に砲手席に周ったところで衝撃が来た。
 
 ドーーーーーーーン
 
「ユグドラシルの重力場に捕まった!」
「みんな、しっかり掴まれ!」
 
 ゴーーっと風吹きすさぶ音がしてギシギシ揺れる。
 
 貼視孔(てんしこう=砲塔のスリット)から覗くと、四号を縛着していたフックやらワイヤーやらが外れてしまっている。
 マーメイド号のデッキが遠のいていき、すぐに船の全景が見えたかと思うと、グルグル回って急速に遠のき時霧に包まれて見えなくなった。
 
 ウワアアアアアアアアアアアアア!
 ギョエエエエエエエエエエエエエ!
 オワアアアアアアアアアアアアア!
 ウヒョオオオオオオオオオオオオ!
 グガガガガガガガガガガガガガガ!
 オオオオオオオオオオオオオオオ!
 アアアアアアアアアアアアアアア!
 
 七つの悲鳴が尾を引いて、四号はいずことも知れず吹き飛ばされていく……。
 
 グワァッシャーーン!!
 
 強い衝撃がやってきて、気が遠くなってしまった……。
 
 

☆ ステータス

 HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・300 マップ:13 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)

 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)

 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)

 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 

 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)  思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 
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ポナの季節・92『夏って名前・1』

2020-11-28 15:21:34 | 小説6

・92
『夏って名前・1』語り・夏
             

 

 

 夏に生まれたから夏ってつけたんだ。

 小学三年の時にお父さんに聞いた。

 知ってたんだけどね、その時は沈黙が嫌なんで聞いてみたんだ。

 

 そろそろ眠りに落ちるかなあ……と、思った時玄関のドアが開く音がして、その開け方でお父さんだと分かった。

 リビングで、ソファーがミシっと音を立てる……これはお母さん。

 ソファーに寝っ転がってタブレットでネットサーフィンしながら亭主の帰りを待っていたんだ。

 二人とも、音のたてかたで機嫌が分かる。

 二人とも機嫌が悪い……お父さん、リビングに入ってきて、冷蔵庫を開ける音。

 チ

 舌打ちの音がして冷蔵庫が閉まる。

 グラスを出す音がして、水道で水を汲む音。

 こないだは、ここでお母さんが寝室に行って、お父さんはお風呂に入って、それでお終いだった。

 今夜のお母さんは、まだリビングを出て行かない。

 

 やばいよ……お母さんは勝負に出る気だ。

 

 起き上がってリビングに向かう。

 コップを出して水道の蛇口をひねる。

「飲むんだったらお茶にしなさい」

「お水が飲みたかったの」

「あなたが水なんか飲むからよ」

「…………」

「自分が飲みたかったから」

「…………」

 めちゃくちゃ空気が悪い。

「おかえり、お父さん」

「お、おう」

「お水飲んだら、サッサと寝なさい」

「うん……」

 間が持たない……このままだったら、自分の部屋に戻って、お布団被って寝るしかない。

 でも、あたしが居なくなったら、今夜こそ破局になる。子どもでも、子どもだからこそ分かるよ。

「夏」

 お母さんが焦れる。

 それで、口をついて出た言葉が「なんで、夏って名前をつけたの?」だった。

「夏に生まれたからさ」

 お父さんが応えて、それが、ちょっと恥ずかしそうで。中年のオッサンが恥ずかしそうなのは、ちょっとかわいい。かわいさは空気を和ませてくれるんで、ここから解れるんじゃないかな……と、ちょっとだけ期待。

 テレビドラマとかで、こういうとこから、和んでいくってあるじゃん。

 子はカスガイとか言ってさ。

 

 事務所から正式な契約書を出してほしいって言われた。

 SEN48のアシスタントは、ほんの見習いって感じだったんだけど、今度自衛隊の行事に参加するのをきっかけに、あたしみたいな者でも雇用関係をしっかりさせておきたいということなんだ。

 あたしって、十四歳の中学二年だけど、ただのお手伝いというわけにもいかないらしい。

 キチンとしてもらえるって、嬉しくて、ちょっと身の引き締まる感じ。

 それで、生まれて初めて履歴書を書いている。

 

 平沢 夏

 

 名前を書くと、五年前のことが思い出されてね。

 こないだまでだったら、ここで放り出して、お布団被って寝てしまう。

 今日のあたしは、もうちょっと思い出してみようと思っている。

 あのときの、お父さんと、お母さん……と、あたし。

 

 ポナの季節 第一期 完

 

※ ポナと周辺の人々

父      寺沢達孝(60歳)   定年間近の高校教師
母      寺沢豊子(50歳)   父の元教え子。五人の子どもを育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員、その後乃木坂の講師、現在行方不明
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長
浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊
吉岡先生  美術の常勤講師、演劇部をしたくて仕方がない。
佐伯美智  父の演劇部の部長
蟹江大輔  ポナを好きな修学院高校の生徒
谷口真奈美 ポナの実の母
平沢夏   未知数の中学二年生

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やくも・12『図書分室・1』

2020-11-28 06:45:12 | ライトノベルセレクト

・12『図書分室・1』    

 

 

 学校に図書分室というのがある。

 

 図書室と言うのは、本だけじゃなくて、いろんなものがある。

 視聴覚機材という括りになっていて、スライド映写機とかスクリーンとか、古いパソコンとかビデオカメラとか、なんだか分からない機材とか。そういうのを保管している倉庫みたいな部屋。

 その図書分室に古い本を持って行ってほしいと頼まれた。

 頼んだのは霊田(たまた)先生。

 頼まれて、やっと名前を覚えた。

 眼鏡のオールドミス。この先生は図書部長で、委員会で一度顔を見ただけ、一度見ただけで、あまり関わらない方がいいと思った。先生も必要最小限しか言わないタイプのようで、今日呼び出されるまでは口をきいたことがない。

「適当に片しといて。あの台車使って……」

 本の山と台車を指さしておしまい。泣きたくなるほど素っ気ない。

 泣かずに済んだのは相棒が居たから。

 相棒は小桜さん。先週、小桜さんは四日連続で休んでいた。四日の内三日が図書の当番に当たっていた。

 なんの因果か、三日間とも、わたしが小桜さんの穴埋めをやらされたんだよ。

 先週はごめんね……言うかと思ったけど言わない。

 ま、穴埋めやったのがわたしだってことも知らないのかも……霊田先生も言ってくれりゃいいのに「小泉さんが当番代わってくれたのよ」ってぐらいはね。

「とりあえず」 

「階段」 

「分室の前」 

「運んで……」

「から……」 

「入れる」

「うん」

「うん」

 散文的な会話して、いよいよカチャリ。分室の扉を開けて運び込む。

 

 かび臭ぁぁぁぁぁ

 

 かび臭さを共感して、それでも、それ以上の会話はしない。

 かび臭い上に散らかっている。どちらが言うともなく奥の方を片付けて百冊余りの本を積み上げる。

 これなんだろう……口に出したわけじゃないのに、同じものを見ている。

 ニス塗りの黒褐色の木の箱、大きさは給食のパンの箱を二つ重ねたぐらい。

 親しかったら「なんだろうね」くらいは言うんだけど、無言のまま。

 これが、他のみたいにホコリまみれなら、手を付けなかったけど、この箱だけが普通だ。何かが上に載っていて、片づける時にどけたのかもしれない。それに、長い方の端に掛け金があって、それを外したら簡単に開きそうだったし。

 カチャリ

 簡単に掛け金は外れて、上の蓋を開ける。

 

 なにこれ?

 

 二人の声が揃う。

 それは、一瞬だけど巨大なスマホに見えた。

 

 

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かの世界この世界:146『ケイトのケアルラ』

2020-11-28 06:29:52 | 小説5

かの世界この世界:146

『ケイトのケアルラ』語り手:ケイト        

 

 

 リスの化身だとは思えなかった。

 

 ロキが抱きとめた体は華奢だったけど、同性のあたしが見てもきれいだ。

 見たことは無いけど、月の女神アルテミスが居たとしたらこんな感じ。

 腕も脚も細いんだけど、駆けたり跳んだりする機能が集約された美しさはカモシカみたい。チュニックに包まれた胴はロキの腕の中でグッタリしているけど、かえってしなやかなで美しいラインを顕わにしてトールボウ(あたしの武器の弓)のしなりを思わせた。

 でも、感動したのは一瞬だ。

 みるみるナフタリンの体は、ロキが握っている手の先を除いて透け始めた。この世界の事には疎いあたしでも、ナフタリンに危機が迫っているのが分かった(;'∀')。

「ケイト、ケアルを!」

 テルが叫ぶのとケアルの呪を唱えるのと同時だった。

「……ブロンズケアル!」

 最弱の回復術しか使えないあたしは、せめて渾身の力を籠めた!

 ホワワワーーーーーーン!

「……ケアルラだ!」

 テルに言われるまでもなく、あたしの手から湧き出したオーラは赤みを帯びたブロンズケアルではなく。白光に近いシルバーケアルラのそれだった!

「すごい、いつの間にレベルアップしたのだ!?」

 姫が自分のスキルが上がったように感動してくれている。いろいろ我儘なお姫さまだけど、こういう時に素直に感嘆の声をあげられるのは、姫の魅力でもあるし、本人も自覚しない品性のようなものだと思う。むろん、ロキもテルも驚いているし、ユーリアは涙を流してさえいる。

 そして、いちばん驚いているにはナフタリンだ。

「回復した……こんな状態で回復するなんて……ありえねえ……やっぱりブリュンヒルデのお仲間……礼を言いうよ」

「それで、ナフタリン、ユグドラシルに行ってはならないと言うのはどういうことなのだ?」

「それは……ユグドラシルの八つの世界はバラバラなんだ。シナプスは大方断ち切れちまって、血管を失った臓器みたいに壊死していくのを待つばかりの状態なんだ」

「そんなに悪いの?」

 あたしが聞くと、タングリスとテルから――よせ――という空気を感じた。

「わたしに遠慮することは無い。心にあるままに言え」

 姫が促す。

「時の流れが滞っていんだ。先のラグナロクで燃えきれなくって……時の女神は新しいユグドラシルを芽吹かせるために地に潜っていやがる。地上の光を持ちこたえさせるためにヴェルサンディだけはヘルムに向かったんだけどな」

「そういう事情だったのか……」

「姫のせいではありません」

「いいんだタングリス。ナフタリン、続けてくれ」

「うん、ユグドラシルの八つの世界は、いまや骸に湧くウジ虫のようなクリーチャーだけが暴れまわる世界になり果てちまった。だから、次のユルドラシルが芽吹くまで待っておくれ」

「そうか、そういうことであるならば、いっそう行かなければな!」

「姫!」

「進路を指示してくれ。ラタトスクなら容易いことだろう。タングリス、操船を任せる」

 

 姫の決意にタングリスもテルも頷くしかなかった……。

 

☆ ステータス

 HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・300 マップ:13 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)

 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)

 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)

 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 

 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)  思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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せやさかい・180『代理でお見舞い・3』

2020-11-27 11:27:04 | ノベル

・180

『代理でお見舞い・3』さくら   

 

 

 信号を渡ったら駅のロータリーというとこで足が停まってしまう。

 

 追い抜いていくオバチャンが――なんや、この子は!?――いう顔して信号を渡っていく。

 うちの直ぐ後ろに居てはったんやろね、青になっても横断歩道を渡らへんうちが、ちょっと迷惑やったんや。

 阿弥陀さんの思し召し、回れ右して道を戻る。

 頭の中は車に跳ねられた母ネコと、道路の端っこで震えてる子ネコがバグった動画みたいにフラッシュバックしてる。

 うちが目ぇ合わさへんかったら、母ネコはたじろぐこともなく道路を渡ってた。子ネコはチョコチョコっと母ネコのあとを付いて、母子ネコの平和な一日が続いていたやろ。

 うちは、剣呑な顔をしてたんや。

 お見舞いに来たはずが、逆に入院してる専念寺のゴエンサンに気ぃ遣わしてしもて、花束を持って行ったのに花瓶にまで気ぃ回れへんで、鸞ちゃんの手ぇを煩わせてしもた。

 母ネコは、あらぬ角度にねじ曲がってしもて、血反吐を吐いて……九割九分死んでる。

 人間やったら、なにはさておいても救急車やけど、ネコはどないしたらええねんやろ?

 動物の死骸は保健所に連絡……回覧板で読んだような気がする。

 せやけど、ここは大阪市、やり方が違うかもしれへん。

 せや、花屋さんにでも聞こ。

 それよりも子ネコ。

 まだ、生後一か月くらい、まだ母ネコのお乳飲んでるんちゃうやろか。

 ダミアの事が思い出される。子ネコはお乳飲んだとはゲップさせならあかんし……トイレかて濡れティッシュとかで刺激してやらんと、自分ではでけへん。

 せや、子ネコは引き取ろ。

 ダミアは大人しいから、子ネコが来ても馴染んでくれるやろし……けど、うちは如来寺では居候のようなもんやし、まだ中学二年やし……子ネコ一匹飼うのんも、けっこうお金がかかる。

 ミルク、離乳食、餌代、動物病院にも連れていかならあかんやろし……一年前のダミアのことが頭に浮かんで来る。けっこうな費用や。

 連れて帰るにしてもケージとかいるし……花屋さんで段ボール箱でももらうか……。

 中学生でもできるアルバイトないやろか……頭の中をいろんなことがグルグル回る。

 

 事故現場に戻ると、道の真ん中は水を流した跡がある。

 誰かが始末して掃除したんや。

 子ネコの姿は……?

 キョロキョロしてたら声をかけられる。

 

「ネコを探してるのん?」

 

 アッと思って振り返ると花屋のオバチャン。

「は、はい、どないなりました!?」

「母ネコは商店会で片づけはったわよ」

 片づけるという言葉に――死んでしもた――という響きがある。

「子ネコはね、さっき花瓶買うてくれはった女の子が引き取っていったわ」

「え、そうなんですか( ゚Д゚)!」

「これも縁です言うてはった、母ネコにも手ぇ合わせて『ナマンダブナマンダブ……』って、なんや、お寺さんの娘さんて言うてたよ。うちに古いケージがあったんで間に合わせてね……」

「よかった……」

「ひょっとして、気にしてた?」

「はい、ちょっとばかし。母ネコが跳ねられる寸前に目が合ってしもて……」

「そう……そら、気持ち悪いやろけど、原因は当て逃げした車やさかい、気にせんとき」

「は、はい」

 ちょっとホッとしてる自分が胸の中におって自己嫌悪。

 小さく手を合わせてナマンダブを唱えて家に帰りました。

 

 

 

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やくも・11『ペコリお化け・2』

2020-11-27 07:02:56 | ライトノベルセレクト

・11『ペコリお化け・2』   

 

 

 ときどきRPGのように感じてしまう。

 

 なにがって……わたしの生活。越してきてからのわたしの毎日。

 お爺ちゃんとお婆ちゃんと、そしてお母さんとわたしの生活。

 一見家族なんだけど血のつながりは無い。

 お爺ちゃんとお婆ちゃんは夫婦だから、元々は他人。

 二人には子供が出来なかったから養女に迎えたのがお母さん。で、血のつながりは無い。

 お母さんとお父さんにも子どもはできなかった。だから、わたしが養女に迎えられた。これも血の繋がりは無い。

 

 理由は言えないってか、よく分からないうちにお母さんは離婚して、お母さんが親権をとった。

 それで、お母さんの実家であるお爺ちゃんお婆ちゃんの家に越してきたんだ。

 だから、四人とも、祖父母であるように、母親であるように、娘であるように、孫であるようにロールプレイしている。

 言ったよね、だから五分以上いっしょにいたら間が持たなくなる時があるって。

 

 えと……例のペコリお化け。

 

 こういうことにした。

 登校するときは崖道。下校の時はつづら折りを通る。

 ペコリお化けに会ったのは、登校の時だから、朝に崖道を通るのが自然だよね。

 朝に一度だけペコリとする。

 ペコリお化けが一度でもシカトしてくれたら、もうペコリしなくてすむ。

 だけど、角を曲がった時からペコリお化けの気配。別に工事現場からトラックが出てくるわけでもないのに、ペコリお化けは誘導灯を振って通行を促す。分かってるよ、わたしを促すだけじゃなくて、工事現場の人たちに――いま、前の道を人が歩いている――ということをアピールしてるんであって、そのことはガードマンの就業マニュアルとかにあって、ペコリお化けとしては守らざるを得ないんだって。

 だから、こちらもペコリとせざるを得ない。ペコリとするときペコリお化けはニコリとする。わたしも、ほんの微かにニコリと返す。何人何十人といっしょに通っているんだったらペコリだけですむ。いや、場合によっちゃペコリもしなくて済む。でしょ、他の通行人がペコリとしないんなら、ペコリする方がおかしいもん。

 でも、日に一度の事だからガマンして、皇族の人みたいに過不足のないニコリでペコリ。

 ところが、ニコリとし過ぎた! 目が合っちゃった!

 ヘルメットの下の目がニヤリと光った。

 ヤバイと思ったら、なんとペコリお化けが近づいてくるのが視界に入った。

 時計見るふりをして「ヤバイ」、用事を思い出したように早足になる。ペコリお化けも早足になる!

 小走りになる、ペコリお化けも小走りになる!

 80メートル先の角を曲がるところで肩を掴まれる! ウッ……叫びそうになるのをやっと堪える!

「逃げなくたっていいじゃないか、や~くもちゃ~ん……」

 ヘルメットの下の闇の中で二つの目が真っ赤に光って迫って来る!

 叫ぼうと思っても声が出ない。

 

 脂汗を流して……目が覚めたら、五時間目の数学の時間だった。

 

 RPGについて話したかったんだけど、また今度(;'∀')。

 

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かの世界この世界:145『ラタトスクのナフタリン』

2020-11-27 06:55:22 | 小説5

かの世界この世界:145

『ラタトスクのナフタリン』語り手:ロキ   

 

 

 舳先の下の隠れて瞬間見えなくなった……次の瞬間、舳先の上に躍り出たのは栗色のチュニックを着た女の子だった。

 

 トリャー!…………オットット(;^_^A

 威勢のいい声で決めポーズ。マーメイド号が帆船だったら、そのまま舳先のフィギュアヘッド(船首の飾り)にしてもいいくらいにカッコイイ。しかし、タタラを踏んでガニ股でふんばる姿はみっともない。

「おまえ、ユグドラシルのラタトスクだな?」

 タングリスさんが遅刻してきた生徒の名前を確認するように聞いた。

「知っていたんだ。見かけよりはかしこいのかもな」

「ユグドラシルのメッセンジャーは足が速いが口が悪い。予断と偏見に満ちたラタトスクに頼るくらいなら、自分で航路を切り開く」

「ラタトスクってなんだ?」

 予備知識のないテルさんが基本的な質問をする。オレもよく分かってないので耳を傾ける。

「ユグドラシルは八つの世界で出来ていて、その世界の連絡役がラタトスクと呼ばれるリスなんだ」

「だからメッセンジャー?」

「口が悪くて、用件の他に一言余計なことを言うので有名なんだ」

「でも、この子……虚勢は張ってるようだけど、なんか余裕のない感じ」

「さすがはオーディーンの姫だ、でも、むかつく……」

 腰に手を当てて胸をそらせたたかと思うと、踏ん張った形のいい足は、またタタラを踏んだ。

「あぶない!」

 おもわず駆け寄って落ちてくるラタトスクを抱きとめてしまった。なんだかやわらかくってドギマギしてしまう。

「おまえ、どこ触ってヽ(#`Д´#)ノ……おまえは時の女神ウルズのガキ?」

「ガキじゃねえ、ロキだ!」

「ああ、そうだったな、ガキ」

「ガキ言うな!」

「怒んな。おまえの誕生をユグドラシル中に触れ回ったのはあたしだ……ちょ、離せ! まだ話、あるから」

「わ、わ、ごめん!」

「ラタトスクと言うのは種族の名前で、あたし個人の名前はナフタリンだ、まちがえんな!」

「ラタトスクは複数いるのか?」

「いまは、あたし一人」

「どういうことだ?」

「ユグドラシルが漂流し始めた瞬間、シナプスに居たのはあたし一人だったんで助かった」

「シナプス?」

 みんな、わけわからないので、タングリスさんが前に出た。

「八つの世界を繋ぐユグドラシルの回廊のようなものです。ラタトスクは、ユグドラシルが根なしになって漂流すると生きてはいけません、神経伝達物質のドーパミンやセロトニンみたいなものです

「そんなミンとかニンとかじゃねえ、ナフタリンだつってるだろ!」

「物の例えだ」

「そうだったのか、概念以上の知識が無いのでな。ゆるせ」

「ちょうどいい、ナフタリン、わたしたちをユグドラシルに案内してくれ」

「フン、ナフタリンは案内の為に来たんじゃないし」

「案内でなければ、だれかの伝言か?」

「ちがう、自分の意思で、自分の言葉を伝えにき……」

「ナフタリン!」

 意識を失いかけたナフタリンを再び抱きとめる。背中を支えた手がちょっと胸に触ってるんだけど、今度は憎まれ口もきかない。

「ロキ、みんなに伝えろ……ユグドラシルに来ちゃダメ……だ……」

 それだけ呟くと、ふたたび意識を失うナフタリン。

 オレの襟首を掴んだ手は意識を失っても、強く握られたままだった……。

 

☆ ステータス

 HP:20000 MP:300 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・300 マップ:12 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)

 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)

 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)

 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 

 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)  思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 
 
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やくも・10『ペコリお化け』

2020-11-26 06:09:23 | ライトノベルセレクト

・10『ペコリお化け』   

 

 

 一昨日までは近道のつづら折りを通っていた。

 

 昨日、久しぶりに崖道を通って登校した。

 慣れてきたので、朝の支度も早くなってきて、家でグズグズしていると間が持たないんだよ。

 お母さんは早くに出ているし、お爺ちゃんお婆ちゃんとも、こっちに来てから暮らし始めて、五分以上一緒に居たら間が持たない。昨日なんかトイレで時間を潰していたら「お腹の具合でもわるいの?」と、お婆ちゃんにトイレの外から声を掛けられて気まずかった(;^_^A。

 学校に早くついても気まずい。

 早く登校している子と、教室で「おはよ」って挨拶して、あとが持たない。

 トイレに行ったりしたら……まさか「お腹の具合でもわるいの?」とは聞かれないけど、なんだか敬遠されてるとか思われるかもしれないじゃない。予鈴が鳴る五分くらい前にはいっぱい登校してくるんで、わたしもNPCってかその他大勢の中に溶け込める。だから、時間調整に崖道を行くんだよ。

 あの家は、しっかり工事用シートで囲われてしまった。看板が出ていて介護付き有料老人ホームができると書いてあった。

 もう、怖くもなんともない。たぶん、あのお厨子が無くなったせいだろう。

 老人ホームになったら、またショートカットできるのかなあ……そんな気持ちで、ついシートの隙間を窺ってしまう。

 視野の端に気配、ドキッと目をやると、紺の上着に黄色いヘルメット被ったガードマン。

 昨日、思わずペコリとしてしまったよ。

 するとガードマンもペコリ。若いのか中年なのか分からない笑顔。

 今朝も崖の坂道にさしかかる。下りながらシマッタと思う。

 ペコリとしなければ、互いにオブジェでいられた。

 ペコリなんかしたら、工事が終わるまで毎日ペコリだよ(;゚Д゚)!

 右に折れてつづら折りを下ったら不自然。崖道への三叉路に差し掛かったら、すぐ左が工事現場。

 さっきはボンヤリしてたけど、一度ペコリしあったんだ、右に折れたら不自然だし、どうかしたらシカトしてるみたいだ。

 ガードマンがペコリお化けみたく思えてきてしまった。

 昨日出会ったのはたまたまで、今日は居ないかも……儚く願ったけども、視野の端に黄色いヘルメットと赤い誘導灯持ったガードマンが見えてくる!

 ペコリ!

 視野の端に留めたままペコリする。ペコリお化けは『また会ったな』って感じでペコリを返した(;゚Д゚)

 どうしよ、日を重ねるにしたがってペコリ近づいてきたらあ(;'∀')(-_-;)

 よお、お茶でもどうだい(^▽^)/ ほんの一分ほど、なんなら崖下まで近道させてやるからよお……とか言われて、近道誘われて、うっかり通ったら異世界とか次元の狭間で、暗黒面に呑み込まれたりしてえ……。

 ウジウジ思っているうちに学校に着いてしまった。

 朝から校門のところで担任に出くわし「お腹の具合でもわるいの?」と言われてしまった。

 

 

 

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かの世界この世界:144『ユグドラシルを目指して・2』

2020-11-26 05:37:06 | 小説5

かの世界この世界:144

『ユグドラシルを目指して・2』タングリス      

 

 

 

 最後にユグドラシルが確認された海域を目指すことにした。

 

 巨大な世界樹ユグドラシルを目指しているとは言え、闇雲に海を突き進んでも見つけられる可能性は低い。

 いつ巡り合えるとも知れないユグドラシルを追っていては気持ちが萎える。

 まして、時間が停まってしまった世界で出くわすのはクリーチャーか精霊に属する者だけだ。人や自然に属する者は。ことごとくフリーズしている。夜がやってこないので熟睡することも難しく、このまま当てのない航海を続けていては身も心もボロボロになってしまうだろう。
 
 とにかく、行けば、痕跡なりと見つけられるかもしれない。
 
「ただの言い伝えだから、がっかりしないでくださいね💦」
 
 情報提供者であるユーリアは、顔を赤くしてワイパーのように手を振った。
 
「港のクィーンに選ばれた時に覚えさせられた詩の中に入っていたってだけですから」
 
 ヘルム港のクィーンに選ばれると、伝統的に決められた就任の挨拶をしなければならず、その中に――ヘルムの東2:10分より来たりし客人(まろうど)が――という一節があり、その客人というのはユグドラシルから来たということだった。
 
 それがヘルム暦三百年で、いまから五百年前の話。わたしたちが知っているのはさらに昔の神話時代の話だから、五百年前でも、ついこないだの感じなのだ。
 現実的にはロキが一番新しいのだが、戦災孤児として発見されたのがムヘンの地であり、それ以前の記憶は断片的で、所在に関するものではないので、ユーリアの詩の記憶に頼らざるを得ないのだ。
 
 しかし、方角は決められたが、距離が分からない。
 
「よし、行ってみよう」
 
 姫の決断には――四の五の言うな――という響きがあった。主神オーディンの姫としての矜持が言わせた決断だ。わたしは静かに頷いて舵輪を回したのだった。
 
「姫、当直を代わります」
「いいよ、まだまだ余裕だ」
「しかし、もう三十六時間になります」
「大丈夫、主神オーディンの娘にして堕天使の宿命を背負いし漆黒の姫騎士ブリュンヒルだぞ、見よ、我が頭頂のアホ毛を!」
「ん?」
 
 三十六時間にわたる当直で姫の髪はボサボサになっていて、頭頂の一房が、ゆらゆら揺れながらも一定の方角を指している。要は汗と潮風でゴワゴワになっているだけで、臣下たる身としては一刻も早くシャワーを浴びてお休みいただきたいのだが、神意の宿るアホ毛と言われては注目せざるを得ない。
 
「お、アホ毛が立ち上がりました!」
 アホ毛が何かを探知した!
「非常呼集!哨戒を厳となせ!」
 伝声管に向かって非常呼集をかける。みながラッタルを駆けあがってくる音がして、前方に目を据える。
 
 マーメイド号の前方二百メートルほどの海面……ピョンピョン跳ねるものが現れた。
 
 

☆ ステータス

 HP:20000 MP:300 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・300 マップ:12 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)

 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)

 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)

 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 

 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)  思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 
 
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魔法少女マヂカ・186『呪をかける』

2020-11-25 14:14:10 | 小説

魔法少女マヂカ・186

『呪をかける』語り手:マヂカ    

 

 

 階段を上がってきたあたりから古典の先生の様子が分かってきた。

 

 卜部兼近(うらべかねちか)という先生で京都にある大きな神社の三男坊。社格の高い神社で、卜部家は男爵に列せられている。男爵家と言っても三男坊なので男爵家の家督は継ぐことができず、古典や神道の歴史を研究して身を立てようとしている実直な人らしい。

 この先生を刺激しよう。

 ノートの端っこに『卜部兼近』『野々村典子』と書いて、そっと息を吹きかける。

 もう百年以上使っていない呪をかける作法だ。

 

「転校生は、このクラスだったんだねえ……渡辺真智香さんと野々村典子さん」

 出欠点呼が終わって、先生は、わたしの顔はあっさりと、ノンコの顔をしみじみと見た。

 もう、呪が効いている。

「えと……野々村さんのお家はご維新までは嵯峨野にあったのですよね?」

「え?」

 驚いてはいるが、呪が効いているので余計なことは言わないノンコ。

「奇遇です、卜部家も京都で、野々村家とは親交がありました」

 級友たちが「え?」という顔をする。卜部先生が知っていて、それも親交のある家ならば、それなりの由緒のある家格に違いないからだ。

「もう大正の御代です。昨年の震災で、世の中も元気がありません。夢のあるお話なので、野々村さんについてお話してもいいですか?」

「あ、はい」

 呪が効いている間、ノンコは余計なことは喋らない。

「みなさん、京都の嵯峨野に『野宮神社(ののみやじんじゃ)』があることは御存じですね?」

 みながコクコク頷き、松平さんが手を挙げた。

「はい、松平さん」

「伊勢神宮に仕える斎王が身を清められる由緒ある神社です。古くは源氏物語の『賢木の巻』にも出てまいります」

「そうですね、斎王とは未婚の内親王がお勤めになる、伊勢神宮でも、とても大事なお務めです。最年少は二歳、最年長は二十八歳までの内親王方がお勤めになられました」

 まあ二歳で!? 二十八歳!

 驚きの声が上がる。

 二歳は若いと言うよりも幼すぎ、二十八歳と言うのは歳が行き過ぎている。多感な少女である級友たちは、それを聞いただけで、想像力を刺激されるのだ。

「そう、みなさんが驚いたように、斎王におなりになる内親王様片にはさまざまな事情や背景があります。中には、すでに心に決めたお方のいる内親王様もおいでになりました。典子内親王というお方が居られましたが、この内親王様は、その想い人がおられ、斎王に選ばれたことを光栄に思いながらも悲しんでおられました。それをお知りになった時の帝は内親王様を憐れに思し召し、野宮神社に着いたところでお隠れになったということにされたのです。お隠れになったとあれば斎宮にならずとも良いのですが、人としては存在しないことになります。帝は、人をお遣わしになって想い人である公卿にお知らせになりましたが、公卿は典子さまにお会いになれないことをはかなんで、前の日に亡くなっておられました。典子さまは、斎王になることも、生きた人間に戻ることもできません。こんな儚いことは無いとご落胆になられましたが、それからは、嵯峨野で亡き公卿を回向しながら野宮神社にお仕えしてお過ごしになられました。典子さまのお世話は腹違いの妹君である何某の君がみられ、典子さまの没後に帝は野々村姓をお与えになって、代々の東宮様にもお伝えになっていかれました……ここまでご披露すれば、みなさんお分かりになると思います」

「野々村さんは……では、典子内親王様の裔でいらっしゃいますのね(´;ω;`)ウッ…」

 浅野さんが素っ頓狂なことを言う。

「典子さまは、独身をとおされましたよ」

「あ、あ、そうでございますわね(;゚Д゚)、失礼なことを申し上げました」

 早とちりなんだけど、教室には暖かな笑いが満ちた。

「腹違いの妹君の御子孫なのですよ」

 まあ…………( ゚Д゚)!

 感嘆の声が上がり、ノンコは顔を真っ赤にして俯いてしまった。

「野々村の人たちは、以来、野宮神社を守ってこられ、ご維新で男爵位を得られたのです。お仕事が神社のお世話なので、やっと近年になって東京にもお住まいを持たれたと承っております。なにか付け加えることはありますか?」

 先生は、ニッコリと笑顔を向けられる。

 ノンコは頬っぺたを真っ赤にしてコクコクと頷いて、その姿が、とても可愛いと評判になった。

 ちょっと、呪が効きすぎたか(;^_^A

 

※ 主な登場人物

渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員

要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 

野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長

来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令

渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る

ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員

ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 

春日         高坂家のメイド長

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やくも・09『不〇投棄禁止』

2020-11-25 05:57:04 | ライトノベルセレクト

・09『不〇投棄禁止』   

 

 

 学校をちょっと出たところに不〇投棄禁止の札がある。

 

 なんで不〇投棄禁止なのかというと、通学路の立て札なんて、そんなにきっちり見たりはしないもんね。

 不〇投棄禁止なんだから、常識で考えれば不法投棄禁止だ。

 

 あることで、その不〇投棄禁止の札をまじまじ見ることになったというお話……。

 

 ちょっとだけ学校に慣れてきた、ちょっとだけね。

 クラスで喋れる子も二三人……まだ紹介はしないけどね。だって、友だちになり損ねて挨拶もしなくなったら見っともないじゃやん。

 あ、あの時は友だちだって言ったじゃん。なんて目で見られるのやだもん。

 先生も覚えた。覚えたというのは、授業以外で出会っても――あ、数学の先生だ――ぐらいに分かったということよ。

 まだ名前は憶えていない。だって、ほんの二週間前に転校してきたばかりだしね。

 そんな先生の中に、一人だけ名前を覚えた、ちょっと雰囲気のいい先生がいる。いつも幸せそうなオーラを発散している。

 幸田幸子って、名前からして幸せいっぱいな人だ。

 はつらつポニテを高々と結って、ポニテのせいか、目尻がほどよくキリリとしている。

 ほら、ポニテって、髪をまとめて耳より上の所でくくるじゃない。ポニテにすると顔の皮膚がリフトアップされて元気に見えるのよ。

 一度、トイレで出会った。

 階段の手すりが汚れていて、気持ち悪いんで手を洗いに行ったんだ。

 すると、幸田先生が鏡の前で髪をとかしていた。

「オッス、ごみほりにいったら、チョークの粉とか入ってて、髪に付いたみたいでさ……」

 さすがに髪を下ろしていた。ポニテを解くとロングでしょ。

 ロングなんだけど、やっぱはつらつ美人なんだ。

 

 ひょっとしたら、いろいろ理由を付けて生徒のトイレに来るのかも。

 そんで、偶然を装ってコミニュケーションとったり、生徒を観察したり。

 怖い顔して張り番されるよりは、ずっといいよね。

 

 その幸田先生が不法投棄をしているのを見てしまった。

 

 ほら、例の不〇投棄禁止のとこ。

 なんかレジ袋みたいなのをぶら下げていて、不〇投棄禁止のとこでポイと捨てちゃった。

 見てはいけないものを見てしまった……そんな気がして、目線をそらすと、そそくさと現場を離れた。

 それが、昨日、また見てしまった。

 

「困るんですよ、そんなの捨てられちゃ」

 

 オバサンの声がしたんで不可抗力で目が行ってしまう。思わず自販機の陰に隠れる。

「いくら先生でも、こういうことは困るんです。ほら、今までの分も持ってってくださいな!」

 オバサンは特大のゴミ袋みたいなのに入ったのを幸田先生に付き返した。

 チ!

 先生の舌打ちがここまで聞こえてきた。

「いいですね、不〇投棄禁止!」

「わーったよ、くそババア!」

 憎たらしい捨て台詞吐いて、先生がこっちにやって来る。

 わたしは、自販機の陰で小さくなって息をひそめる。

 前を通る。

 横顔なんだけど、見たこともない不貞腐れて土気色の顔で通り過ぎて行った。

 

 オバチャンの気配もなくなったんで、不〇投棄禁止の札の所まで行ってみる。

 札と注意書きがハッキリ見える。

 

 不幸投機禁止! ここは町内の、ちょっとした煩わしさや憂さの捨て場所です。不幸そのものを捨てないでください、処理できませんので。

 それから、幸田先生を見かけない。もう自習が三回も続いている。

 

 

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