中島京子さん、『小さいおうち』

 素晴らしい読み応えだった。読み終えて顔を上げたら西日が射していたので、思わず窓辺で浴びたくなったほど。中島京子さんの『小さいおうち』を読んだ。

 年老いた一人の女性が、女中奉公をしていた昔日を振り返る手記。戦前から戦中にかけ濃い時間を共に過ごした、或る家族との懐かしい日々。赤い三角屋根に守られていた日々。
 “女中”…と呼ばれる人たちがいたのだ。“女中”と言う専門職が。当時はごくごく当たり前の存在だったのだろうけれど、今の感覚からしたら随分と不思議な職業だ。そもそもは赤の他人同士なのに、こんなにも一つの家庭の中に深く入り込んでいくものなのか…という驚きがあった。「ある種の頭の良さ」を持ちつつ情の深い人であれば、遣り甲斐のある仕事ではあったのだろう。だがそれでいて去らなければならない時が来たならば、潔く去るしかない。どんなに入り込んでもやはり本当の家族ではない…という線引きのきつさ。だからこその、凛とした姿勢か。

 女中タキが実際に目にし呼吸していた、当時の日本を取り巻いていた空気、熱気、雰囲気の変化…の描かれ方に、とても説得力がありよかった。同性として頷ける感覚とでも言おうか、どんなに情勢がきな臭かろうが戦争が始まろうが、確固たる現実として己の目の前にあるのは、変わらず繰り返さなければならない生活であり日常の喜怒哀楽なのだ…という感覚。暗雲が頭上にまで迫らなければ何処か遠いところの話のように思ってしまうその感じを、淡々と正直に語っているところに好感を持った。
 そして、そんなタキの感覚に対して「信じられない…」と非難の眼を向けるのが甥の息子だ。回想の記を綴っているタキがまずいて、戦争と言えば即悲惨さ残酷さに直結させてしか考えられない現代の若者代表みたいな甥の息子がいる。その掛け合いが時折挿入される構成も、とても素晴らしいと思った。

 好きだった場面の一つに、はからずも奥様の一人芝居を見てしまう…というのがあった。ちょっと浮かれ気味の奥様と、その様子に見惚れている女中。そこには気まずさを感じさせない微笑ましさがあり、それと同時に、「ああ、女中ってそういう存在なんだなー。誰もいないと思って油断している人の、独り言を聞いてしまったり一人芝居を見てしまったりするような存在だったんだ」と、くだくだしく説明されるよりも余程するっと得心させてくれる場面だったのだ。

 
 ぐいぐいと引き込まれて読んでいたのだが、時折ふっと頁を繰る手を止めさせるものがあった。はっと胸を突かれたり共感したり、何か…自分自身にも考えなければならないことがあるような気がして、ふっと目の前の虚空を見詰めさせるものがあった。
 最終章はもう圧巻としか言いようがなく、渦巻く思いで胸がいっぱいだった。タキのことも時子奥様のことも、私もとても好きだった。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

6月3日(木)のつぶやき(居酒屋、「友食亭 あいびす」)

06:30 from web
おはようございます。こーしーなう。過ごせばてきめんの頭痛…な朝。食べるの控えて呑み過ぎるって…もう!
07:03 from web
ハードボイルドですって。気になるタイトル。 @rinakkoにおすすめする海外SFは『ジョージ・アレック・エフィンジャー『重力が衰えるとき』です。気に入らなくてもわたしのせいじゃありません。』 http://shindanmaker.com/11178
07:22 from web
『パルムの僧院』は、岩波文庫に惹かれている。
07:25 from web (Re: @catscradle80
@catscradle80 おおお。ちらっと作品紹介を読んで、これは面白そう~と思っていたところです。多国籍で退廃的…って、涎がじゅるじゅる(ふきふき)。わあ、読みたい!
10:22 from web
フィッシュマンズ、聴いてるなう♪ 「悲しい時に 浮かぶのは いつでも君の 顔だったよ」「君は見えない魔法を投げた 僕の見えない所で投げた そんな 気がしたよ」(いかれたBaby)。泣く。ううう。
12:59 from web
除夜の鐘を聞きながら、お正月用の着物を仕上げたと言う件がしみじみと沁みる。慎ましさの中に女ごころ。華やいだ気持ちを前にして、一人もくもくと針を持つ姿。静かな情景が浮かんだ。昭和の女中の話。文章がとてもいい、凛としている。
16:04 from web (Re: @0wl_man
@0wl_man その作品すこぶる面白そう…!と喰いつき、作品紹介を斜め読みしてきました。本当にやばそう。読みたいです。てか読みますっ。
17:31 from web
西日が浴びたくて窓辺に立っていたら、旦那さんが帰ってきた。『小さいおうち』が素晴らしかったので、余韻に浸っていたのに…。あ、表紙の赤橙色が西日色に見える。涙で滲みます…(なんちて)。
17:35 from web (Re: @naoko_1999
@naoko_1999 読みたい本が増える苦悶、本当にねぇ…(笑)。 やー、素晴らしかったですよ。て、naokoさんの思った通りの作品でしたかしら?

 ☆    ☆    ☆    ☆

18:27 from Keitai Web
店主が岡村さん似の居酒屋なう。鰺の姿造り、どーんと来たっ。
 
 今夜はだーさんの慰労会という名目で、「友食亭 あいびす」で呑んだのであった。敦賀の人気店とのことで、とても流行っていた。私は以前お昼にらーめんをいただいたことはあるけれど、夜は初めてだった。
 ←ちと多かった…。
 甘海老の生春巻きとか串揚げ盛り合わせ、鶏パラとろろをいただいた。
 ←これ、ねっとりした甘海老にアボカドと長芋が合わせてあって美味しかった。
 メニューがとても豊富なので、是非また行きたい。しかも、ほとんどのお客さんが頼んでいたレバ刺しを食べ損なったので、次回こそ…! 

22:27 from API
【小さいおうち】を読んだ本に追加 http://book.akahoshitakuya.com/b/4163292306
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )