幻想


 Hugo Pratt (1927-1995)の創造したキャラクター、Corto Malteseのシリーズはもともとイタリア語で出版されたものですが、もう作者が亡くなって12年もたつのにフランス語圏でいまだカリスマ的人気を誇ってますのでちょっと触れておきます。(ユゴー・プラットの本国イタリアでの人気はどんなもんなんでしょうね?)

 コルト・マルテーズの活躍するのは20世紀初頭、第一次大戦に至る帝国主義、植民地時代の革命運動や戦争の現場で、これはムッソリーニのイタリア軍で兵隊をやっていたユゴーの父や、世界を放浪したユゴー自身の体験が反映していると言います。
 だから歴史小説みたいに過去の出来事の勉強の材料にもなりますが、物語への「幻想」のうまい取り込み方も目を引きます。代表作のひとつ Les Celtiquesでは、第一次世界大戦の話にオベロンとかパックとか --- ご存知『夏の夜の夢』のキャラ --- をストーンヘンジの遺跡に登場させたりして、うまくケルトの地の雰囲気を出すんです。
 
 これも人によって好みはあるでしょうが、ユゴー・プラットの描く絵もなかなか面白く感じられます。マンガでなくて単独で描かれた水彩画などは、色彩感も確かだし(さすがヴェネチア人)、マンガと芸術絵画の接点みたいな感じですね。こんなページがありますね。
 おととしの年末に、CASTERMAN社がユゴー・プラットの水彩画のカレンダーを大々的に売り出してました。

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かわいそうならくださんたち


 わたしは商売柄(?)アルジェリアを愛するいろんな方々とおつきあいさせていただいておりますが、Alissaさんもそのひとり。彼女はアルジェリアの砂漠のらくださんのオーナーになってくれる人を探す人です(つまり、そうやって観光のシーズンオフの彼らのエサ代等を確保しようというわけ。日本円にすればそう高いものではないと思います)。
 ところが今、異常気象でらくださんたちの食べる物がなくなって困っているとのこと。詳細は:

SAHARA-ELIKI サハラ=エリキ

をご覧ください。(Alissaさんの撮ったこのページの砂漠の写真は素晴らしいですね)

 お志のある方はぜひ彼女に力を貸してあげてください。
 わたくしからもお願いいたします。 m(_ _)m



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ファブリスとサンせヴェリナ

 やっと行ってまいりました。「パルマ-- イタリア美術、もうひとつの都」展(於西洋美術館、8月26日まで)。

 たしかにパルマ画派はフィレンツェやヴェネチア画派とは違った独特の雰囲気を持ってます。
 コレッジオという画家の名前は小さい頃から例の角川の美術全集のおかげで知ってました。レオナルドのような深みのある崇高な表情というより、ある種清純な官能を思わせる顔立ちになんとなく注意を引かれていたかなと思います。彼はたしかにレオナルドやティツィアーノに十分対抗できる天才画家です。パルマ画派創始者の彼も、それから後継者のパルミジアニーノも短命だったのがいかにも惜しまれます。パルマは運がなかったですね・・・

 今回出品されている「幼児キリストを礼拝するマリア」は覚えがありますが、それよりカラッチ兄弟によるコレッジオの模写「聖母の戴冠」が、コレッジオ独特の女性美の表現を日本の人々に印象付けるのではないかと思います。

 ところでスタンダール『パルムの僧院』のファブリスの着想を与えた元の人物はアレッサンドロ・ファルネーゼ、のちの法王パウロ三世(1468-1549)のはずなのですが、同姓同名のアレッサンドロ・ファルネーゼ(1545-1592)という人がいたんですね。この人は武人ですが、この展覧会に出ている肖像画を見ると、なんだかすごくりりしいんですよ。だからマッツォーラの『アレッサンドロ・ファルネーゼを抱擁するパルマ』の絵が、わたしにはファブリスと彼をうっとり見つめるサンせヴェリナみたいに見えてちょっとあれっと思いました。こっちのアレッサンドロがスタンダールにインスピレーションを与えてる可能性はないかな?・・・

 というようなことを考えたときには昔はよく調べに入ったものでしたが、たいていはずれか、あるいはそうかもしれないけど決定的証拠がない、でおしまいになるんですね・・・
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フランス人のアメリカ幻想(2)


このエントリーから続く>

 これはLargo Winchシリーズの表紙の裏のページですね。輪のようになっているのはウィンチ財閥を構成している企業群の社長というかCEOというかの顔ですね。

 ところでこいつらはそれぞれが大企業のトップのくせにやばいことをやっていて、互いに殺し合いしてますから、どんどん死んでいきます。だから巻が変わるとどんどんトップの顔がすげ変わっていきます。 (^_^;)

 国籍はいろいろです。第一巻の時点ではアメリカ人5人、イギリス、ドイツ、イタリア、オランダ、南アフリカ、メキシコが1人づつ。フランスがあつかましく(?)2人入ってますがそのうち一人(本社ChicagoのAERONAUTICS社のアンドレ・ベルクールってやつ)は最新巻まで生き残っていたような気がします。いま手元にないんで記憶が不確かですが・・・  
 なお作者たちはベルギー人ですが、ベルギーは入れてません。
 世界とは、そういうもんです。

 四隅の囲みには、ウィンチグループの総売り上げ高とか従業員数(全世界で39万7680人いるそうです。ちなみにこの第一巻は1990年に出てますね)とかが英語で書いてあります。たとえば:

CONSOLIDATED CAPITAL STRUCTURE in USS mill.
TOTAL DEBIT 7.990.2
LT DEBT. 3.004.1    LT INTERSET 285.4
Lease uncapitalized - Annual Rentals 80.1
Pension Liability not available
PREFERRED STOCK none
COMMON STOCK 510.545.455 [per value 8.25]

という具合に。わたし経済学って全然知らないので、なんのことやらさっぱりわからないんですが(どなたか教えてください!)、とにかくなんか凄いんだという雰囲気を出すためというのは分ります(まあ結局子供だましですけど。 (^_^;) )。

 とにかく、こういうのはフランスでも当然ながらに英語の世界なんです。それでなければならない。
 フランス人にはアメリカンドリームが可能ですが(日本人には可能なのかな? アラブ人には?・・・)、それをつかむためには当然英語を経由するわけで、それは幻想の一部をなしている肯定的要素のはずなのです。

 ・・・しかしそれでもラルゴウィンチ・サイトはフランス語とオランダ語の二本立てで、英語がないんですね。読者層から考えたら、これでいいんでしょう。いろいろ考えさせられて面白いですね。

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アズールとアスマール

 『キリク』の作者、ミシェル・オスロMichel Oselot監督の『アズールとアスマール』Azur et Asmar が東京で公開されてますね。中世のアラブ世界を舞台にしたアニメです。人種の違いというものをテーマにしているようですね。これは見にいかなくちゃ。ガブリエル・ヤレドという音楽家にも注目です。
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国際協力師


 面白い本、というか画期的な本が最近出版されました。
 山本敏晴著『国際協力師になるために』(白水社)です。

 かなり率直な書き方です。国際協力というものをめぐる問題点が現場の目で総ざらえしてある観があります。これは勉強になりますね。そうそう、こういう本が前から欲しかったのです。

 青年海外協力隊やNGOみたいなもののメリットもデメリットもちゃんと書いてあります(と思います。わたしの見方にまだ甘いところはあるかもしれませんけど)。だいたい「国際協力」みたいなものは、公に語られるときには理想主義的で、いいとこずくめみたいになることが多くて、多くの人は「たぶん、いろいろ悪弊、困ったところもあるだろう」と考えて引いてしまうように思います。デメリットがはっきり分からなければ安心してその世界に入ることはできないです。

 わたしは例によって語学が気になるんですが、「学生時代にやっておくこと」として英語、インターン、スタディーツアー、ボランティアときて「第二外国語」もあげてあります。「今の時代、英語は話せて当たり前である。もう一つの国連公用語が話せたほうがよい。フランス語、スペイン語、ロシア語、中国語、アラビア語のいずれか。これがあると「売り」になる」とあります。これは当然のことなのですが、日本でそれがはっきり書いてある本はなかなかないのが現状です。
 ところでこれらは「国連公用語」という概念のくくりでいいのかな? そのあたりおたずねしてみたいですね。
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「国立移民史館」開館


Cite nationale de l'histoire de l'immigrationというのがこの夏パリの十二区に開館するんですね。知りませんでした。面白そうですね。行ってみたいですね。(^_^)

 これ、仮に「国立移民史館」と訳しておきましたが、"cite"ですからかなり大きなものでしょうね。

[追記]9月16日に特別公開、とか言ってる段階ですから、夏休み中には開かないみたいですね。やれやれ。 (X_X)
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フランス人のアメリカ幻想


 フランス人にとってのアメリカということに関して言えば、ラルゴ・ウィンチ Largo Winch シリーズも面白いですよ。
 これ、ジャン=イヴが好きなんですね。これのキャラが文字盤に入った時計を僕にくれました。(^_^)  ありがとう・・・

 モンテネグロ系アメリカ人で全世界に展開する大財閥の総帥ネリオ・ウィンチが、自らの出自の地で同族の唯一人の末裔と思われる子供を見つけひそかに養子とするんですが、手元には引き取りません。それでネリオ・ウィンチが死んだとき、遺言でこの養子、青年となっていたラルゴ・ウィンチが突然呼び出され、財閥の総帥の座を相続することになる、という設定です。

 簡単に言えば、007の大金持ち版、です。大金持ちになったくせにラルゴは実にやばい冒険を繰り返します。彼は敵が大変多いので、命を守るために必死で戦わざるをえないんです。彼の周りに悪人、善人、美女、悪女、たくさんでてきて、三つ巴、四つ巴の抗争のなかでどんどん殺されていきます。ちょっと目を離すともう死んでます。 (^_^;) ジャパニーズスマイルの日本人ビジネスマンが商談をもってくるシーンもありましたが、なんも悪いことしてないのにゴルゴ十三流に眉間を撃ち抜かれてあっというまに死んじゃいました。 (^_^;;)

 でも、たしかに面白いです。
 やばいですけど、話のスケールがでかくて、華麗な世界です。
 こういうの、フランス人のアメリカ・イメージのひとつの典型のように思います。

 それからこのマンガの売りは「美しい絵」なんだと思います。細かくすっきりした描線に、繊細であざやかな色づけがなされています。これ見てるだけで楽しい。実写の映画ではこんなにきれいには絶対ならないし、アニメでこんな複雑な線や色は難しいんじゃないでしょうか。

 シナリオはPhilippe Francq、絵はJean Van Hamme。両人ともベルギー出身。第一巻の色つけは Marie-Paule Alluard とクレジットされてます。フランス語圏マンガでは色づけの役割はかなり重要だと思います。

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フランス語圏マンガのまとめ方

 先のエントリーでアメリカ・コミックが「外国の悪いもの」とみなされているだろうという認識を書きましたが、ここはちょっと議論の余地があります。
 なぜなら、フランス語圏マンガ自体、原点はやっぱりアメリカにあると思われるからです。十九世紀にフランスでは数多くの挿絵入り雑誌が出ていましたが、マンガの祖国はやはりアメリカです。ディズニーのミッキーは世界を席巻したわけで、フランスもその例外ではないです。公式的にはジャンルとしての「マンガ」は「吹き出しの組織的使用」によって成立した、という認識になっているようです。だからマンガ生誕の年はアメリカで Yellow Kidが登場した1896年です。アングレーム世界漫画祭でも1996年にマンガ誕生百周年を祝っています。

 シュぺールデュポンがアメリカで活躍する巻もあるんですが(レーガン大統領御用達のワインがひどい味になった。何かの陰謀だ。ワインならフランス人だ・・・てんでシュぺールデュポンが呼ばれるんです)、彼とアメリカン・ヒーローたちは実に友好的です。

 ちなみに現時点でフランス語圏マンガの全体像を考えるときの総括の仕方について考えるなら、四つの国の影響がその成立を支えているという考え方でそれができないかなと思うのですが、いかがでしょうか。
 四つとはつまりアメリカ、ベルギー、フランス、日本です。
 圧倒的なアメリカ・マンガの影響の下からはじめてフランス語圏マンガの独自性をうちたてたのはエルジェHerge'をはじめとするベルギーの人たちだったと思います。それにフランス共和国籍の人たちが刺激されるわけですが、例によって移民系の活躍する部分は大きいです。Superdupontを着想したゴットリブGotlib(1934年生)も両親はユダヤ系ハンガリー人で、父親は強制収容所に入れられている、という人ですね・・・
 そこに今、日本マンガ(+韓国manhwa)が洪水の如く入って既にいろんな影響を与えているわけです。これはたとえそのうちブームが去ったとしても疑いなくフランス語圏マンガの上になんらかの痕跡を残すでしょう。浮世絵がジャンルとしては滅びてしまってもフランス絵画に多大な影響を残したように。

 日本ではどうも、フランス人のアメリカ嫌い神話を誇張して面白がろうとする傾向がありますが、そういうのがなくはないにしても、今の世界のありのままの現実を知ろうとするなら、むしろ調査・勉強しなければならないのはフランス人の大きな「アメリカ好き」のあり方なんだと思いますよ。
 これは、別にサルコジ大統領誕生を待つまでもなく、ずっと前から存在している傾向です。
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rai infos/ライ・ニュース 102

REVENCHE DE FAUDEL !

 このところライはマミかフォーデルしかニュースがありません。ほかの連中は何をやってるんだろう? そろそろ夏の稼ぎ時だと思うんですけどね・・・

 そのマミもフォーデルもいいニュースじゃない・・・状態だったんですが、少なくともフォーデルの方は上昇気流に乗ってきた感じです。(^_^)v

 業界誌 Musique info hebdo 7月13日号によれば、フォーデルの前作 Mundial Corridaは好評で20万枚売れ、シングル Mon Paysは35万枚売れたそうです。政治的になんのかの言われていた割にはCDは着実に売れてたんですね。「僕を非難しているのは少数派だ」と彼が強気に出ていたのも理解できました。

 それでこの16日にベスト盤L'Essentiel Faudelをリリースしてます。未発表曲の Encore une fois, J'ai chaudの他に彼のデビューヒット Tellement je t'aime 新バージョンが収録されているそうですよ。早速聞いてみなくちゃ。 (^_^)v
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