ら族の歳時記

「道が分かれていても人は幸せになる道を選ぶ能力がある。」
能力を信じ、心の安らぎの場を求めて、一歩一歩。

八日目の蝉

2011-05-29 17:16:25 | 本を読みました
最近、ドラマ化や映画化されたあれです。

中公文庫 角田光代著



本は3章からなっていて、
1章目(本文中では0章)不倫相手の子供を見に行き、そして連れ帰ってしまう
2章目(本文では1章)不倫相手の子供との逃亡
3章目(本文では2章)誘拐犯に育てられた恵理菜の回顧と今


この本は、母性とはなにかと、
違う体験をしたことは幸せか不幸かテーマです。





あとはネタばれです。





希和子は不倫相手の秋山の子供を中絶する。
「結婚したい。今は時期じゃない」の言葉を信じて。

実際は、同時期に秋山の妻が妊娠していた。

希和子は中絶の手術により、妊娠しにくい身体になっていた。
子供を中絶した罰だと思う。

秋山との仲を清算して、新しい人生を歩む前に
秋山の子をみたいと思う。
本当なら生まれてくる子供と数週間違いで生まれた子。
秋山夫妻が不在の間に秋山の家に忍び込む。
泣いていた子供が、希和子が抱いたとたん泣きやむ。
初めて会った気がせず、
「私がまもる。ずっと」
と思い、子供を連れ去ってしまう。


逃亡中、いろいろな母性に出会う。
その中で、だれもが実の親子と思うような
親子になる希和子と薫(恵理菜)。
薫にとって、やさしい大好きなお母さんだった。


結局、希和子が捕まる時が来た。
希和子は朝早く薫を起こし逃亡しようとしたときに
捕まる。
その時、「この子はまだ朝ご飯をたべていないんです」
とさけび、引き離されることよりも
薫の今を心配していた。



恵理菜は、本当の親の元に戻される。
今まであった青い空、光る海、緑の山、匂い。
すべてがないところでの生活。
朝起きると、あさごはんが用意されていた
生活から
用意されていない生活へ。
恵理菜は、「私はさらわれたのだと思った。
悪い人にさらわれてもどってきたのでなく、
今、悪い人にさらわれているのだと」思った。
そして、希和子のとの生活の日々の思い出を
封印した。
今を生きるために。

誘拐犯に育てられた子として奇異な目でみられ、
孤立する恵理菜。
また、週刊誌等に、
ダブル不倫をしてなおかつ不倫相手に
誘拐を決意させるような暴言を吐いたことを
書かれた両親。
被害者でなく事件のきっかけを産んだ加害者として
奇異な目で見られる。
両親は仕事を変え、住居を転々とする。

母親はスーパーの惣菜を1品2品をおいて
家によりつかない。
朝も起きない。
父親は夜遅く帰ってくる。
誕生日でもお祝いをしない。
家族で出かけることもない。
これは、私が誘拐されたせいなのか。
どうして私が誘拐されなくてはならなかったのか
と自分を責めながら大人になる恵理菜。

そんななか不倫をしてしまう恵理菜。
妻帯者と知らないで交際を始める。
不倫相手に誕生日会を開いてもらうなど
普通の幸せ・喜びを教えてもらう。
あの人も、この幸せ・喜びのため
父と不倫を続けたのか。。
希和子の不倫をしていた気持ちを察する恵理菜。

そして妊娠してしまう。
「もし私が妊娠していたらどうする?」
と聞く。
「今は無理。でもいずれ結婚したい」という
逃げぜりふ。
別れを決心する。

恵理菜は中絶を決心するが、
医師の「緑がきれいな頃に生まれるね」の一言で
封印していた希和子と生活した日々を思い出す。
「子供のあの景色を見せてあげよう。
 希和子にしてもらったことを子供にしてあげよう」
と思い、出産を決心するのであった。

そして、両親は、私が誘拐されたから、
家庭的でなくなったのでなく、
もともと家庭的でなかったことに気がつく。
私のせいじゃなかったと。



八日目の蝉の意味は
恵理菜の母に「からっぽ」とののしられた希和子と
また自分はからっぽではないかと悩む恵理菜と
蝉の抜け殻をかけていた。

また、蝉は土から出て7日で死ぬといわれているが
8日めを見た蝉は、周りが死んで一人残ったことに
絶望を感じるか、または、一人だけ違う世界を
見れたことにしあわせを感じるか。
恵理菜にとって誘拐は幸せだったのか、絶望だったのか。
そして誘拐した希和子にとっては。。。
という意味。

恵理菜にとってはあの日々はあるから、
今、母親になることができる。


夏樹静子さんの小説に
「見知らぬ我が子」という話があって、
不倫相手の子供を産院から連れ去る話しでした。
この場合は、中絶でなく事故によりおなかの子供を亡くして。
最初は、不倫相手とその妻への復讐で子供を奪った。
でも、育てているうちに子供に愛情が湧いて。。。。

現代、自分の子を虐待する親がいる。
でも、その反面、血はつながらなくても
実の親以上の愛情を注ぐ人もいる。

母性とはなにかを考えせられる一冊です。

淡々と読めてしまいます。
名作です。
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